2001年 八月の作品たち

怖がらなくっていいからね 楽静 2001/08/07(火) 18:15:42


怖がらなくていいよ
この時を
いくつもの瞬間を
君が
“大人”になっていくのを

誰もがはじめから
大きな輝きを持っていたわけじゃないんだ
僕らは小さな塊から
くすみながら
輝きながら
徐々に大きくなっていった
時にその輝きから何かをなくして
時にくすんだ色の中かから何かを見つけて
そうやって僕らは“大人”になり始める

それがどんな意味を持つのか
まだ僕だって分からないけど

怖がらなくていいよ
育つことを
君の手足が徐々に子供の部分を忘れることを

だっていくら君が変わっても
僕は君の傍にいる







瞬間 楽静 2001/08/08(水) 23:01:20


歩く
例え踏み出した足が砂中に埋ろうとも

進む
例え朽ち落ちた屍に笑われようとも

そして私は
長く続くようなこの道で
瞬間の絶望に包まれる

全てのことは永久ではなく
瞬間の表裏に過ぎないのだと

踏み出した足の裏で生命を感じながら
また私は歩を進めるだろう

瞬間を恐れながら
瞬間に生きていく為に





朝を待つのは 楽静 2001/08/15(水) 01:56:21


朝を待つ
夜の長さに脅えながら


何を脅えているの?


暗闇を
暗闇の中にある静寂を
静寂の中にある吐息を
吐息の中にある双方を


そしてあなたはなにを待つ?


明るさを
明るさの中の日差しを
日差しの中の喜びを


それは本当に
待ち伸びていることかしら?


明るさの中にも決して
安息などはないことは私は良く知っている
それでも
暗闇の中の双方に魅入らぬように
私は朝を待つ

朝はまた夜になると知っているのに






私を抱くなら 楽静 2001/08/19(日) 00:24:46


私を抱きしめないで

あなたのその手は
いつも私を優しく抱いてる

だけど知っているの?

肩にかけたあなたの手は暖かくても
私を見つめるあなたの瞳は優しくても

その胸に顔をうずめるたび
あなたの穏やか過ぎる鼓動にいつも私は寂しくなる

私を抱きしめないで

あなたに抱かれるといつも私の鼓動は早くなる
息遣いは熱くなって
あなたの事なんて真っ直ぐみてもいられない

なのにあなたはただ静か
抱きしめられるたび
本当の気持ちなんて分からなくなる

あなたの言葉はリアルな嘘
そんな気持ちにさせられるの

だからお願い
せめて 私を抱くのなら
「愛している」と
囁く言葉で抱きしめて





『安全』の瓶 楽静 2001/08/21(火) 23:45:21



間違ったラベルをつけた瓶を僕は持っている
『安全』とか書かれたラベル
だけど中身は
味見をしたくないほど濁った色をしてる

でもね不思議なんだ
瓶を見て誰もが言う
「安全なんでしょ」

「この色見てよ」
そう僕がいっても
誰もがラベルを指さして言う
「だって『安全』って書いてあるでしょう?」

『安全』
そんなたった二字の言葉に
なぜこれほどに人を安心させる力があるというのか

「だったら味を確かめてよ」
僕の言葉に誰もがみな苦笑しながら首を振る
「大丈夫だって」
「『安全』だよ」
それでも誰も手を出さない


ああそうか
みんなわかっているんだね
わかっていても
知らないふりをしているんだ

『安全』って言う言葉の中に隠れたものを見たくないから






real woman      楽静 8/22


「本当の私を探しにいくの」
そう言って旅立ったあの子は
まだここには戻らない

where are you?

「本当」なんて見つかったのかい?
現実から逃げ出すために
realな彼女は
幻想の真実にとり憑かれた

もうここには戻らない

君がここで見せる顔は
君が虚偽だって思うものも全て
いつだってrealなはずだったのに





ホタル 楽静 2001/08/23(木) 00:06:39


密かな光 窓際の蛍
移ろうように 時は流れて

やがて 光は失せて

その体は ただの抜け殻となる
重さない形 移ろうのは空に

見えない光

きっと
また新たなる命を導く光になる





Words    楽静 8/23

君が心に思うこと
伝えたいと思ったときから言葉は生まれた
始めはきっと
単純な思いと短い言葉だけ

やがて思いは複雑になり
いつしか言葉も
飾りばかりを増やしていった

伝えたい事
伝えるために言葉があるのに
言葉だけでは決して誰かに届かない

表情(かお)を見せて
心を開いて

そして声を逃がしてあげて

その時言葉達は
飾られた言葉達ははじめて
原始生まれた思いへ戻る





月の光 楽静 2001/08/23(木) 23:16:40


月の下で口づけをしよう
癒されぬ胸の疼きを隠しながら

触れ合う唇と唇
互いに隠す鉛色の感情

オレンジ色の輝きに恐れを抱きながらも
恋人たちは肩を抱く 満ちきった月の下で

全てを見透かすように月は輝きを強める
何者をも抱く光
優しくほのかにあたりを照らす慈愛の明り

けれど恋人たちのその胸に
宿る痛みは癒されない

……けっして疼きは止まらない





仮面   楽静 8/24

見えない仮面をつけながら
仮の人生(たび)を踊りなさい

仮面がなければ
君はここでは踊れない

まばゆい光は
君の素顔を惑わして
数えきれない多くの瞳は
きっと
君へ侮蔑を与えるだろう

だから

見えもせず
重さも無いけど
君ではない誰かの

見えない仮面をつけながら
仮の人生(たび)を踊りなさい

君ではない違う君で踊れるように








時計  楽静 8/25

僕らは誰も
自分だけの懐中時計を持っている

君の背に似合わぬその時計は
決して止まることなど知らないかのように
喜び 怒り 悲しみまでも
時という残酷なる審判の前に投げ捨てていく

焦ってはならない 
全てはこれからだから
けれど
のんびりしていてはいけない
時はすでに刻まれている

心に眠る時計の針が
この町の時間とあっていること願いつつ

僕らは進む
時に半身を捕らわれながら

君は進む
流れる時を受け入れて







忘れない事   楽静 8/26


君が笑みを見せるその裏で
誰かが君の微笑みを支えている
それを忘れちゃいけないよ

例えば君が宙に踊る時
君を支える見えない糸を一体誰がひいているか
些細と思える一瞬の努力
それを忘れちゃいけないよ

時に君は彼らに必要とされるかも知れない
だけど彼らは君を必要としないかも知れない

それでも

彼らが君を支えている事
それを忘れちゃいけないよ

たまには
表で仮面をつける事を止め
裏に素顔を見せる事もいいかもしれない
「can I help you?」
ぎこちない笑みそれもいいかもしれない

だから忘れちゃいけないよ?

君が笑みを見せるその裏で
誰かが君の微笑みを支えている
それを忘れちゃいけないよ






サーカスであったピエロ 楽静 2001/08/27(月) 00:08:39


内からこみ上がる腐臭を隠すように
彼はピエロとなっている

嘲笑への憎しみ
侮蔑への怒り

心の腐敗は次第に進み
彼の手は眠りのとこで震えだし
見えない首をしめはじめる

自分の腐臭を嗅ぎたくなくて
彼はタバコの匂いをまとわせる
震える手をごまかすために
彼は酒に体を任せる

観衆たちの前に立ち
まばゆい光にあたりながら
彼は
ただ
流せぬ涙を抑えている

いつか
心のうちの狂気に負けぬよう
そっと片手を握り締めて






眠りし者  楽静 8/27


君の中に眠る君を呼び覚ましてごらん
君はいつまで己自身を
その温かすぎる胸の中にしまい隠しているの?

敵対心
猜疑心
羞恥心

君の周りをめぐる負の感情の多くを
君の仲間は取り除いてくれること
もう気づいているのだろう?

だったら皆にそして自身に
君の 君の中に眠る君を見せてやるんだ

それが正しいと言うわけではなく
それがリアルというわけでもない

けれど

君の中で眠っていた君が起きる時
君は今まで以上に輝く瞳を見せている






自然   楽静 8/28


「自然に笑えば良いんだよ」
気楽に言った言葉に君が見せたのは
ぎこちない当惑だけの笑みだった

時々わからなくなるね
眠る時の息の仕方
怒るときの眉毛の位置
そして
嬉しい時の笑い声

何もかもが自然だったはずなのに
ふとボタンの掛け違いに気づいたような
シャーペンを持ちそこなったような
一瞬
それだけで明るい笑みは暗く濁る

だけど
当惑に彩られた顔俯いても
思い出せぬ表情に胸重くなっても
忘れないでいてほしい

君はいつでも微笑みを
決して消えない不屈の笑みを
胸の中に宿してる

そしてそれがわかっていれば
君は
自然に素敵な笑みを浮かべれる







死への 楽静 2001/08/29(水) 01:51:40


君は生きているか?
私は生きているか?

死はどこにあるか?
死はいつ現れるか?

死を待つのは誰か?
死に抗うのは誰か?

死は何になるか?
死を超えれるのか?

これは誰の叫びか?

これは私の叫び
見えない敵を見えない瞳で追いながら
近づく足音に耳を閉じる私の

死への恐怖






鳥のように   楽静  8/29


地上に落ちた一羽の鳥
彼女の体は長き旅に傷ついていた

弱々しく開かれたその目の上を
置いていくように他の鳥たちが飛ぶ

決して黒雲は彼女のためにあったわけではなく
決して雷雨は彼女だけが浴びたわけではなかった

落ちたのは彼女の弱さ
見上げた瞳は力強きものたちを
羨望し、嫉妬し、憎み、そしてただ愛すのみ

やがて傷ついた体癒えぬうち
また彼女は飛ぶのだろう
翼広げ
もとは白かったその紅き翼で空を捕らえ
何かを追って
何かを見つけるため
彼女は空に飛び立つだろう

自然からの強制?
いや彼女は抗いすらせず

ただ琥珀の瞳に映った未来を渇望する

海色の空
それはきっと
彼女自身の何かのために







炎     楽静 8/30


君の心に眠る炎は
紅く燃えているのだろうか?
それとも
燃えているように見えるのに
何ら熱など感じない
イルミネーションなのだろうか?

見せかけだけの炎では
辛すぎる現実を灯せはしない
闇の中で飾りだけの炎照らして
虚しい虚勢が響くのみ

そんな
勢いだけで熱さの無い炎はいらないこと
君だってわかっているだろう?

小さくても
確かな熱
本当の輝き
そんな炎を燈したい

心の中に宿る熱 それさえあれば
きっと
見えない明日だって照らせるから





葉        楽静 2001/08/31(金) 00:47:21


ヒラリ
ヒラリ

舞い落ちる葉

夏の終わり
秋の始まり

どんな思いをかけても
動かしきれない時の流れ

ヒラリ
ヒラリ

やがて地に落ち葉は腐り
訪れる秋
全てを寒さに閉じ込めるため





ずれた仮面       楽静 8/31


時折感じないか?
かけそこなった仮面の苦しさ
なりそこなった誰かの笑みが
歪んでる
人になりきれずに仮面のままで

所詮仮面は仮面
君ではない誰かになるための
言わば道具
見えもしない感情のオブジェ

けれど仮面は

かけそこなった仮面はいつも
仮面のままで復讐する
誰かになれない君を嘲笑(わら)って
いつのまにか地へと落ちてる

あとには
ただ何もできなくなった君が残るだけ
まぶしすぎる光の下で
百の瞳に射ぬかれるだけ