2002年 六月の作品たち

吐き出された命を    2002年6月12日


私の家の庭には幼子の死体が埋まっている

夏が近づけば腐臭が漂う
カラスたちは毎朝現れては稚児への餌のため
 土に埋まった肢体を掘り出す
私は溜まらず石を投げる

爆ぜたカラスが幼子に雨を降らせる

幼子は笑う
喜んでいるのだ
私が苦しむさまを見て
指を指して笑っている
私は悲鳴を抑え
庭を見ないように頭を抱える

「カァ
 カァ
 カァサン

 ナゼ ワタシヲハキダシタノ?」


それはすべて夢だよと
教えたのは男だった
だから一緒に病院へ行こう
男の言葉は隣の部屋で彷徨っている

なぜ男は慰めに
温もりがいるのだと思うのだろう
抱きしめたその手が
次に私の体のどこに触れるのかわからないから私はおびえる
庭ではカラスが幼子の
首をああもぎ始めているというのに
男は私の肩から腰へと手を下げ
さするように両手が動く

君はただ病気なんだ
君の病気は治るのだよと
男の口からこぼれる言葉
私はただ不快で不快で
カラスの声を聞いている

幼子よ
私があなたを身篭らなければ
あなたは幸せに生まれたのだろう
カトリックでもない倫理観のかけた私は
残りの人生の代価としてお前をこの庭へと埋めた
だからお前は今もその眼窩で
私を見つめる
狂おしいほど愛しいお前

男の言葉を振り切って
私はお前のところへ走る
崩れ落ちたお前の骸
今はカラスの血に濡れて赤くなり
嘲るように私を見上げる

男は言う
そこには何もないんだ
私は答える
それはあなたが男だから
放つばかりで受け止めはしない男だから
受け止めたものを捨てる悲しみを知らない男だから

私は涙を流しながら
幼子に口づけた

口の中に一杯に広がる血に濡れた泥
口づけを嫌がる幼子は
私の手から崩れ落ちる
私は幼子をかき集めようと
庭へと這いつくばる

男の声はいつのまにかしなくなっていた

庭には幼子が埋まっている
いつも私とともに在る




灯火が消える前 楽静 2002/06/14(金) 03:10:16


灯火が消える前に
君よ僕のところへ戻って来い

闇になると不安で
膝を抱えたまま僕は一人で
何も出来ない町は孤独で
けれど君が来るから耐えている

飾り下の無い言葉の羅列
僕は僕で僕の僕が
言葉ばかりが思考をかき乱している
溢れる想像で僕は崩れる

そして
ああ
明日がまたやってくる
けれど闇色
君が来なければ
朝日は僕の目を刺さない

灯火が消える前にどうか君よ
僕のところへ戻って来い




迷える携帯メール    2002年6月20日


君を起こしたくなくて
携帯のメールを送るのを止めた
いつだって君は身勝手でわがままで
そんな君に振り回される
せめて
「おやすみなさい」を伝えたいのに

君を起こしたくなくて
携帯のメールを送れない
そんな僕に無邪気な君は
「何でメールくれないの?」
って小首傾げる――




孤独のボール使い  2002年6月25日


ボールをもったまま固まっている
誰も僕とは遊ばずにいる
いくつモノ背中
拒絶は笑いとなって口から漏れる
ひびくいくつモノ声がやがて醜くツルを張る
僕はからめとられ
いつのまにか皆の姿は見えなくなる
つたをよじ登る
ボールを小脇に抱えたまま
僕の目の前に広がった空は
いつも見ているような気がした