2002年 10月の作品たち
さようならの時 2002年10月1日 君にさよなら告げる覚悟が出来た夜 僕は泣かなかった だけど 思い出そうとして浮かんだ君の顔は 今にも泣き出しそうな赤い目だった 僕に足りなかった力を 君に会う誰かが持っているといいな 泣かせてばかりいた僕の代わりに君が 晴れ渡った笑み浮かべ続けられるように 「さようなら」 何度も離れるたびに言った言葉を 今度は最後のつもりで君に告げるよ 「好き」って言ってくれた君にできる これが僕の最後のプレゼントだから 月の無い空にタバコの煙が伸びていく 明日からは雨 想いを海へと流し続ける強い雨が降る だから きっともう泣かないですむから 腕の痛み 2002年10月2日 誰も要らない 僕だけでいい 意地っ張りな気持ちが生んだ言葉は 壁に跳ね返って地面に冷たく転がった 求めなければさし伸ばされない手ならいらない 同情を浴びれば浴びるほど 冷たい砂漠じゃ生きられなくなる 僕だけでいい たった一人きりで何もかもを抱え込んだ 重たくて投げ出したくて それでも 誰にも救いを請えずに俯いていた あの時無理して腫れあがった両腕は 今も 醜く僕の肩にぶら下がっている この僕の青さが 2002年10月2日 哀しいことを集めすぎて 喜びが小さく小さく萎んでいった 情けないくらいに僕という存在が真っ白で 青く 青く 染められていく 哀しみの色に 両手を見ても僕自身を救う力さえなくて 青の寒さに震えながら 誰かが助けてくれることを信じて待っていた 青ざめた唇を暖める人はもういない 冷え切った身体を自分自身で抱きしめた秋の日 あの日 2002年10月6日 錆びた匂いのする校庭で 徐々に形を変えていく今日をぼんやりと見ていた 足早に歩いていく同じ格好 疎ましいよりも先に哀れで だけど そんなことを思う自分の方が愚かだって気づいてた 今日も何も出来ないことをただ思い知らされるだけ そんなあの日 あれから年を重ねて いつのまにかあの頃の僕らを笑うようになっている 今だからこそできることは確かにあるけれど あのときだから出来なかったことを 何で僕は酒の席で笑い飛ばすのだろう? 自分でもわからない罪悪感 風の行く道とともに消えてしまったあの時 ああそう 僕はただ僕でしかいられないのになぜか 僕の昔を嘆いているんだ 駆ける 2002年10月6日 闇の中を駆けていく 焦りながら 喘ぎながら 駆けるための理由があるのではなく 駆けて行く先に誰かが待つのでもない ただ駆ける 息を切らし闇の中を 喉から滑り落ちそうな心臓を どうにか片手で押さえつけて 風は鼓膜を押し破る 闇は目を熱く圧する 心臓が叫びをあげる 「不安、私は不安だ」 足が泣き喚き始める 「不穏、私は不穏だ」 体の脇で降られる腕は 静かに語る言葉少なく 「不変、私は不変だ」 否 否 否! 言葉遊びに終始する幼き思考などいらない 闇の中をただひたすらに 体朽ちるまで駆けるのみ 不安 不穏 不変 否定された言葉の裏には 弱りきった我侭が口を開いている 私は囚われないように 見えない先を駆けていく 振り向けない 立ち止まれない 先に何があるとしても 「もし、目の前に道がなかったら?」 ふと問い掛けられた友人の言葉に 私は足元を見た ここがどこかはわからなかった 孤独の自問自答 2002年10月11日 何もしなければ傷つかないのかなぁ? 誰に言うこともなく呟いてみた 答えることのない空の沈黙が 雨になって突き刺さった 一人だ 噛みしめるほどに孤独は苦みを増していく だけど人は皆「傷ついた」と僕を責める 何もいなければよかったのかなぁ? 耐えられないくせに強がって他人の鎖から逃れた 一人だ あきれるほどちっぽけな思想 悔しいけれど僕は弱者だ 手を差しのばされずに空に喘いで 初めから決まっていた答えを掴む 僕は 一人だ 一人嫌いの狼 2002年10月14日 否定されることを畏れすぎて 刃向かえない僕がいる 口を閉ざすことに慣れすぎて いつのまにか牙が腐っていた 口の中に漂う敗北の臭い 誰も傷つけたくないなんて虫のいい言葉を吐いて 結局一番傷つくのを怖がるのは僕 何もかもを断ち切ってしまえば 畏れることもなくなるんだろうか? 孤独の中で膝を抱えれば 失うものもなくなるんだろうか? 一人が怖いから今日も僕は群れている 傷つくのが怖いから笑みを浮かべて いつか一人で胸を張れる自分でいたい いつか傷ついても笑える自分でいたい いつか いつか ……なんて夢見るだけで動けない日々 箱 2002年10月23日 暗い箱の中に僕は寝そべっている 誰の息すらかからない冷たさ 孤独さを感じすぎて膝を抱えた 僕の息でしか僕は暖められない 何で僕は一人なんだろう? 見えない場所に疑問を放ったら 答えのない嘲笑だけが頭に響いた 逃げたくて箱の中にいるはずなのに 一人が怖くて出たがる僕 どうせ一人なら 何もいない冷たさの方がいいはずなのに…… 開けはなった箱から見上げたソラは 箱の内側だった 君と会った日 2002年10月25日 生きることに下手くそで 失敗にくよくよしてばかりの僕は 常に焦っていて でも不器用で 傷つけるつもりもないのに誰かを傷つけている そんな 自分に自信が無くなるばかりの毎日に 笑顔を忘れて生きていた でもあの日 君が僕に話しかけて 僕はぎこちない返事を返した 君は笑って話を続けた 僕はとまどい言葉を返した 君と僕とのキャッチボール 言葉だけで続いていくダンス なんて素敵なんだろう いつの間にか僕は 自分が笑っていることに気づいたんだ 君のちょっとした言葉がなぜこんなに嬉しいんだろう? 君と話をするたびに救われていく僕がいる ありがとう 心から君に伝えたい 今の僕を造ってくれたお礼を 大人 2002年10月25日 思い切り大人を嫌っていた 大人というなのレッテルを レッテルが貼り付けられた人々を 自分以外の大人達を 何が違うというのだろう? 僕と彼ら 彼らと僕 社会的に見れば僕は大人で ある程度の常識は知っていて 少しの非常識にも平気な顔ができるようになっている もしかしたら 違いなんて一つもないのかもしれない そう思った途端 僕は背中を鏡で確かめられなくなっていた ふといた僕の背中に しっかりと張られた 「大人」の二文字を見るのが怖くて 君に振られる夜 楽静 2002/10/27(日) 23:33:56 泣きながら君が言った「ごめんなさい」 そんな言葉を聞きたかった訳じゃないのに 僕は いつの間にか笑顔浮かべてた 「ごめんなさい」 君が言って 「いいんだよ」 僕が答える 「ごめんなさい」 君が泣く 「もういいよ」 僕は笑う 何度言葉を繰り返しても 君は笑顔を浮かべてくれない 僕は泣いた君を見るのが嫌で笑みをつくる そして繰り返し このまま時が無くなってしまえばいいのに 君と僕の二人だけの空間が いつまでもいつまでも繰り返す でも君は決して笑顔にならない 抱き寄せようとした手を 振り払った君の泣き顔を 僕は これから忘れようとしなくちゃいけないんだね 「ごめんなさい」 君が言って 「もういいよ」 僕が答える 本当にもういいんだ だから 今度は笑顔で僕と話そう? 君へ 2002年10月28日 星の瞬きが見えない空の下 じっと耳を澄ませていた 携帯から流れてくる君の声 鼻をすする音がした 振られたのは僕のはずなのに泣くのは君なんだね? 「嫌いになったわけじゃない」 そんな卑怯な台詞に思わず苦笑してみたら にじんだ空にやっぱり星は見えなかった 「さよなら」なんて言葉じゃ感情は切れない 何度も繰り返す君の言葉に頷きを返しても 気がついたら「好き」って言ってしまいそうなんだ この携帯を畳んだら君が遠くなる そう思ったら無駄な言葉ばかりが口から流れ出た 星の輝きが見えない空 暗闇に思わず目を閉じたら 声だけの君をやけに近くに感じた 友愛という名の蜘蛛 2002年10月28日 友達になって僕らは 遠かった場所から近くになる それはまやかし? 心の通わなかった冷たい時間を通り越して 友達に戻る 「友達」という名の魔法にからめ取られる 「男の女の友情なんて そんなの本当にあり得るんですか?」 手の届かないほど遠い過去に そう呟いて涙した君に 僕は言う 残酷なほど笑みを浮かべて 「友達に戻ろう?」 からめ取られる僕ら この糸は運命なんて言葉で繰られているのではなく 狡猾に目を光らす 蜘蛛 の糸 つまらない一日の終わり 楽静 2002/10/31(木) 03:32:53 ひっそりとした部屋の中で 息をしている 今生きている 暗闇を見つめながら 明日が来ること 明日終わること 夢見ている 見続けている 何かが始まるときはいつも突然で 始まりさえも気づけなくて ああ だから今は 暖かい毛布に包まれながら ただ願っている 願いごとが見つかるように |