2002年 12月の作品たち
孤独 2002年12月6日 誰にもわかりはしないと膝を抱えた日から 僕はほんの数ミリも成長していなかった 精神的な弱さを虚構で覆い尽くして 詭弁を繰り返すことで己を殻の中にとどめ続ける そんな技ばかりがいつの間にか上手くなっていた 誰か気づいて欲しい 本当の僕はあまりにも脆弱で つま先立ちの高さにも目を上げる自信がない 願いばかりはいつも膨らんで それでも 弱さを見られるのが怖くて また鎧ばかりを磨き続ける ひとりぼっちでついたため息は 白く空を濁して消えた 僕を震わせる怯えは いつも消えずに僕の心を濁し続ける 真実を探す君へ 2002年12月7日 何が欲しくっていつも 暗がりを手探りで歩いているの? 真実の灯りをいくら捜したって まやかしばかりが輝いている かわいそうなほど闇に怯えながら いつかは そういつかは真実を見つけられるんだと 君は信じて進んでいる 壁にもたれたまま僕は そんな君へ羨望の眼差しを送っている あきらめないことは確かに大切 努力は 揺るがない決心は きっと君の希望を照らし出すことだろう だけど 真実は甘い果実じゃない 触れてしまった光の強さに 君は心を痛めるかもしれない 何が欲しくっていつも 暗がりを手探りで歩いているの? 分からないまま掴んだ真実の実は ただ君の心を熱く溶かすだけだろう そうしたら君はかつての僕のように 真実を厭うあまり両目を潰すのだろうか? 自己解決の生んだピエロ 2002年12月9日 一回りも年の少ない者に 酒を飲みながら己を語るおじさんがいる 泣きそうな顔で怒りながら 「分かるか?」 「分かるか?」 繰り返す言葉 呂律回らず心は宙に投げ出される そんなおじさんはいつもは 「最近の若い者は」とくり返している 自分の分からない者になぜ 自分が分かるというのだろう? 若者の胸に生まれる問いかけに 赤ら顔のおじさんは答えない 「あなたのことが好きだから」 潤んだ顔で語り出す彼女がいる 自分の想いを 自分の心を 熱を込めて けれど若者が口を開けば 「あなたは分かっていない」と 哀しそうに彼女は俯く 若者の言葉の意味が分からぬ彼女は なぜ自分の言葉の意味は分かると思うのだろう? 若者の胸に生まれる問いかけに 哀しい顔の彼女は答えない 誰も自分を理解しないって 何度言い聞かせれば人は救われるんだろう? 自分が他人を分からないくせに 浅ましいほど求めている 理解される自分を 若者は口を閉ざしている 語り出さず膝を抱えて 誰もが言う 「黙っていては分からないよ」 無言の若者が心配だから けれど本当に聞こうともせず ただ、誰もが言う 「黙っていては分からないよ」 だから若者は 誰にも声を掛けらぬよう いつも笑っていることにした 君といる理由(わけ) 2002年12月9日 僕には君が分からない だけど側にいたいんだ 君には僕が分からない だったら何で側にいるの? 分かりたくないわけじゃない だけど 理解なんて妄想で 本音なんて幻想で いつまでたっても 心と言葉は空回りする 本当は 君の悲しみだって少しも 僕には分かってやれやしない 君が喜ぶ時には時々 ついていけなくて戸惑うんだ それでも 僕は君の側にいたくて 君は僕の側にいてくれて だから なんでなのって聞いたら 君は 照れくさそうに笑って 単純な答えをくれたんだ 「好きだから」 僕は本当は詩人じゃない 2002年12月10日 壁に首すじを押しつけたときの安堵感を 僕は言葉には表せない 君を愛している単純な感情さえも 僕は言葉に起こせない 誰もがきっと僕よりは 上手く詩を作れるんだろう 感情が先走りすぎた僕の詞は 生々しいだけで 心を上手く伝えられない 詩ではなくてこれではただの吐露で けれども僕には 僕を伝えるやり方はこれが一番簡単で だから今日も 詞(うた)を無為に積み重ねていく 遅れる君に 2002年12月10日 白く吐息が闇へと溶ける 君を待つ寂しさにいつの間にか ガラスの水滴を指で追っていた 待ち合わせよりも僕はいつも先について 待ち合わせよりも君はいつも遅れるんだね 震えながら両手組んで待つ僕は もしかしたら滑稽で だから誰より幸せなのかもしれないよ 君が来るって信じられる自分が好きで その何倍も君が好きだっていつも感じている ほら君からのメールが来た 「ごめん五分遅れる」 分かり切ったメールにいつも苦笑して だけど僕は 少しすねたメールを送るんだ 孤独の冷たさ 2002年12月15日 「一人だ」 自分自身に言い聞かせて やっと僕は眠りにつく 暗闇の中で押しつけてくる冷たさを ふり払わずに抱きとめる そして僕は冷たくなる 震えながら あきらめながら 縮こまって闇を見ている 熱を感じなくなってしまえばきっと 暖かさを請いはしないのだろう それは小さな願いで 本心からではないけれど そう思わなければ生きられないから 「一人だ」 自分自身に言い聞かせている この冷たさもきっと 何でもないと思うようになる いつか カテゴリー 2002年12月15日 道路にガムを吐き捨てる若者 どうでもいい顔でタバコ棄てていく老人 町中でしなだれかかる乙女 短いスカートで座り込んだ少女達 言葉がだれもを一括りにする 若者 老人 乙女 少女 全体ではないはずの一部が カテゴリーの顔になっていく 出しゃばって いきがって それすらもまるで皆がそうであるかのように 語る誰もに思わせていく 若者すべてがガムを吐き捨てるわけではないし 少女のすべては短いスカートをはくわけじゃない 分かっているはずなのに 語る誰もが知っているはずなのに 少女が若者が老人が乙女がと 口をとがらす誰もがいつの間にか 一部を全体の顔に代えている なんて事を憂う僕は いつの間にか「誰もが」なんて 知ったかぶりの言葉を使っている 寂しいときの淡い思い出 2002年12月15日 時々作る甘い言葉に 僕は一人苦笑している 「好き」だとか 「愛している」だとか 自分がかつて言われた言葉を思い出しては 心の中で言葉を作って返している 「僕も好きだよ」 「僕も愛している」 「僕も」 そう僕も あの時あの子に言われた言葉に 返す言葉は見つからなかった 戸惑う僕にいつもあの子は 寂しそうに笑っていた なのに今では簡単に 甘い言葉が浮かんでくる でも もうあの子はいない 今も抜けない痛み 2002年12月15日 言葉じゃなくても 想いは伝わるって思っていた 抱きしめれば 口づければ 君の側に座っていれば 言葉なんか無くても 想いは伝わるんだと思ってた 君が寂しがっていたこと 何で気づかなかったんだろう? 君が泣き出したあの夜 「言わなきゃ分からない」 そう言った僕を君はただ黙ってにらんでいたね 言葉は跳ね返って僕に刺さって 僕は今も その刺を抜けずに一人立っている 罪悪感を伴った祈り 2002年12月28日 一体何をやるために生きているんだろう? そんな疑問を胸に抱えて毎日を生きている 子を為すために生まれたモノを食い散らかし 限りある緑に毒を振りまきながら 生きていたって何の役にも立たないのに 生きているだけでいつも誰かを傷つけるのに ほら今胸にナイフを突き立てればいい あふれる鮮血と供に僕の生は無へと還るから 切っ先が胸に触れる ほんの一押し たった数秒の痛みの我慢…… 死ぬことさえできないから ただ日々を過ごし続けている 僕という人間が何かの役に立つ日を 切に 切に祈りながら 僕とタバコと君と 2002年12月28日 タバコの煙をくゆらす横で 君がカッコつけて息を吐いた 寒さに凍えた空の下で 白く君の口から息が漏れていく 「ほら、一緒だよ」 微笑んで君は僕を見つめる タバコを持ったままじゃ 君の右手を握れないね 君が愛しくて 思わずタバコを踏み消した そしたら君はいつものように怒った顔で 「ポイ捨て禁止」 僕の手をつねってくるんだ 愚かな僕ら 漂う白と 君の息の純粋さ 「何もいらない」君のために 楽静 2002/12/31(火) 11:53:03 「何もいらない」って言った君のために 出来ることを今も僕は探している 夕日見上げながら呟いた君の 横顔はあんまりにも哀しく綺麗だった 透明な瞳には何も写っていなくて 僕さえも遠い情景の中の幻 初めて気づかされた 君は本当は一人でも生きていけるんだって そして初めて気づいたんだ 僕は君がいなければ生きられない 「何もいらない」 そう何度も繰り返して君は言う 君のために何もできない僕は 本当に君の側にいても良いのかな? 怖くて聞けない問いを抱きしめたまま 僕はまだ 君のために出来ることを探している |