2003年 二月の作品たち
僕の箱 2003年2月1日 伝えた言葉で誰かを傷つけるたびに 僕は傷つけた言葉を箱に閉まってきた 言葉しまうたびに僕は徐々に臆病になって いつの間にか 僕を覆っていた何かは剥がれ落ちた みすぼらしい自分だけが 箱の上に立っている 口を開かなければ傷つけあうこともないから 両手でしっかりと覆い隠して 君はそんな僕に話しかけたね 「悩みがあるの?」 僕は何も言えずに首を振った 君を傷つけるのが怖くて 君の傷ついた顔を見るのが怖くて そして気づいた 僕が箱に入ればいいんだ そんな単純なことに気づかせたのは 何も言わない僕に見せた 君の これまでで一番傷ついた顔 言葉探し 2003年2月4日 君に過去の誰かを重ねたんじゃないってことを どうしたら君に信じさせられるんだろう 言葉は純粋であるほど 使い古されたテープみたいに冗漫で 悩み続ける今でさえ 単調なリピートで心の中をかき乱す 君は君だから 君でしかないんだからと どうしたら君に信じさせれるんだろう 悩みながら でも悩むことも楽しいんだって気づかせてくれた 君のために 僕は言葉を探している 心からこぼれた炎 2003年2月5日 心の中を灯す炎が 仄かに揺らめく 生まれたばかりの想いを今 照れながら暖めている 気恥ずかしくて 想いは歌のようには口を出ては来ないけど 胸の炉から 今こぼれていく 想いが 君の体を温める 信じて僕は隣にいるよ 君のメール 2003年2月8日 君からのメール待つまでに 僕は指折り君への言葉を考えていた 伝えたいことはいくつでもあるのに 言葉にならないことが多すぎるね 君の前に出るたびに なぜか心の中に閉じこもってしまう 携帯の無機質な文字では 君へ届けきれない言葉の束を いつか そういつかと願ってはいるけれど…… 今日はまだ 君からのメールが来ない たぶんまだ寝ているんだろう? 僕の悩みも知らない君の可愛さ 獣を育てて 2003年2月8日 生まれてしまった黒い獣は 今日も爪を研いでいる 振り上げた殺意が確実に胸を引き裂けるよう ゆっくりと爪を研ぎ続ける 心の中で誰もがいつも 肥満児のように餌を与え続けている 黒い殺意に 笑みを浮かべるその陰でゆっくりと でも確実に 黒い獣がほしがる糧は憎しみ 黒い感情を厭うフリをして舐め尽くす そして爪をとがらせる いつかその殺意がほとばしる時をただ待ちながら 憎しみを込めた長き爪を 目の前の相手の胸へと深々と 流れ落ちる血と 驚愕に染まる信頼を握りつぶすため 黒い獣は今日も 胸の中で育ち続ける さあ今日も餌を与えるがいい 育ちすぎた感情に 己の胸が引き裂かれないことを願いながら 正直 2003年2月9日 「嫌いだ」と正直に言えないせいで 笑顔を向けてくれるあなたに私は傷つけられる 傷つけてしまえば楽になれるのに あなたの顔が悲しみに歪むのを見たくなくて 私は 「嫌いだ」と呟く言葉を飲み込んでいる 「好きだ」と正直に言えないせいで 一緒にいてくれる君を私は傷つけている 言葉に出来たら楽にできるのに 君の顔が不思議そうに傾くことを畏れて 私は 「好きだ」と呟く言葉を飲み込んでいる 「側にいて」 そんな言葉は冗談のように口から出るのに 冗談のようにしか言えないせいで いつだって一緒にいてくれる人を私は傷つける 本気で言葉に出来れば楽になれるのに あまりにも冗談で言葉に出しすぎて 私は本気になるほど 「側にいて」と呟く言葉を飲み込んでいる なんて つまらないことで悩んでいる私 そんな私でも笑ってくれるみんなに 私は今日もただ罪悪感を胸に抱くのです あなたを厭う自分を抑えられない 2003年2月10日 あなたが私に話しかけるたび 背中に走る不快感 胸にわき上がる嫌悪感 まるで あなたが人では無いかのように 私はあなたが嫌いです 「誰かを嫌うのはその人の 嫌いな部分を君が持っているからなんだ」 したり顔して教えてくれた友人に 思わずチョップしたほどに あなたを憎む私がいます あなたと同じ部分があるなんて 想像するだけで自分を棄てたくなるほどに 私はあなたが嫌いです けれど何より嫌なのは そんなあなたに会う度に 笑顔を返す 弱い自分 温もり 2003年2月12日 君がくれたぬくもりに 目を閉じて包まれている 君が僕を想うよりもっと暖かく 僕が君を包めればいいのに 広げた両手の先に君を思い浮かべながら 君のくれたぬくもりに 目を閉じて包まれている 次会うときは何より先に 君の凍えた手のひらを僕で包もう 「何で私なの」っていってくれた君のために 2003年2月16日 君の肩を抱きながら 君を好きな理由を考えていた 理由なんて浮かべなくても君に笑いかけられるほど 心の中に暖かいものがあふれている ふららと ゆららと 絶え間なく心の炉を暖めて 君の手を握るこの手のひらに 汗にじむほど 熱をくれる そんな僕に君が笑って 「暖かいね」って微笑んで その微笑みに僕は打たれて また君を強く抱きたくなる だから 僕は君の側にいたいんだけど そんな気持ちを君に上手く言えなくて 僕は こんな詩(うた)を作ったりするのです 誰そ彼(たそがれ)の中 楽静 2003/02/20(木) 14:18:34 黄昏の中に一人たたずめば 忘れていたはずのあなたが 忘れられない笑顔を浮かべて立っている 手を伸ばしたら届きそうで 触れてしまえば消えそうで 動けないまま 微笑みに縛られたまま 私はあなたを見つめて ただ見つめて 過ぎ去る黄昏の中に 閉じこめていたはずの涙を流す いつになれば私は あなたを忘れられるのだろう いつになれば私は あなたを忘れてしまうのだろう 繰り返す問いかけに闇は答えず 消え去った影をただ見つめて 黄昏を 今日も私は待っている 時には生きるための詩を歌おう 楽静 2003/02/20(木) 14:35:27 僕らがかつて失ったものを取り戻すために 僕らは生きているんじゃない だからもう止めよう? 「あの時は良かった」なんて そんな昔を懐かしむ言葉を吐くのは 生きてきたことを無に返したくて 僕らは明日へと夢見るんじゃない だからもう止めよう? 「何で生きているの?」なんて そんな哀しい目をするのは 哀しくても 辛くても 嘆いても 愚かでも 僕らはただ僕らとして生きるしかないのだから 時にはのんびりと空を長めながら 明日をただ明日のために生きていく そして時には呟くのだろう 「生きている 僕は生きている ただ生きている」 そう それだけでいい シナプス 2003年2月22日 繋がりを求めては 僕らは独りを思い知らされる 時に涙し時に憎んで それでも繋がりを求めるあまり 傷つけられ傷つけて 独りの方がましだと思い知らされて いつの間にか また繋がりを求めている それはまるで木のように 雨に打たれ雪に包まれても 春には花を咲かせ子を為す木のように 独りを思い知らされても それでも繋がりを愛するあまりに 僕らは繋がりを求め増え続ける 冬の後には春があると信じて 仕事の朝に 2003年2月23日 信号を待ちながら 君に会ったときの言葉を探していた 言いたいことはたくさん浮かんでいたはずなのに 君の笑顔を見た瞬間 言葉なんて飾りは 僕から剥がれ落ちてしまった ただ君がやけに綺麗で 近寄った途端鼻をくすぐった香りに 愛しさばかりが芽吹いていった 冷たい君の手を握ったら 僕の手の方が冷たかった冬の休日 いつだって君は僕を暖めてくれる そんな君の側にいたいといつも思うのだけれど 今日は僕の仕事の日 君のメールにただ溜息をつく冷たい朝 人として 2003年2月25日 新しいことを始めようとするたび そんな自分を笑う自分を見つけることでしょう 例えば自転車に初めて乗ろうとしたときに 転ぶたび 怪我するたびに 冷笑する自分をどこかで感じたことでしょう 自分を止めるのは結局は自分なのだから 自分を動かすものも 結局は自分でしかないのです 励ます言葉に頷きながら 真剣な表情の誰かを笑ったことのある私たちは 自分でしか動かされない自分を いつの間にか人のせいにして 生きているのかもしれません 自分を自分で励ますために 今日も誰かの言葉を借りたりして 時には誰かへ言葉をかけたりして 日々を生きて 自分をだんだんと愛せる自分になるのでしょう 時に自分を厭う夜には 誰か座っていて欲しいと 切に切に願いながら 自分自身に負けないように 日々ただひたすらに生きています 自分自身を愛するために 日々ただひたすらに願っています 山の上 PM4:00 2003年2月28日 冷たい風が踊る町の中で 町一番の場所へ今日登ってみた 見下ろした小さい塊達は 僕の悩みなどまるで知らない 幼い子供の歯のように こぢんまりといびつに並んでいた 醜くも 美しくもないこの街に 人は 人であることで毒をばらまいている 泣きながら 怒りながら 誰かが誰かを愛することで この 小さいモノ達は時を過ごし続けている |