2003年 三月の作品たち
「辛い」て言えずに頑張っている君に 2003年3月5日 俯いたまま君は必死に流れる汗を拭っていたね 車の油にまみれた君は 煤に汚れて 可笑しいぐらい滑稽な顔をしていた 「冬の太陽は夏よりはましだから」 そう言って笑ってくれた君 好きだからって就いた仕事に 大丈夫だからって続ける激務に 君の笑顔はすり切れていって なんだか 泣いているみたいに見えたよ 「辛い」って口に出してくれていいのに 僕も君に「友達だから」なんて 照れくさくって言えずにいるけど 笑顔を向けてくれる君に 笑顔を返すことしかできないことがもどかしいから 今度君が「大丈夫」って言ったときは 僕は「うそつけよ」って怒るから ろくに会えないからこそ 大切な君のために 春の雨 2003年3月17日 降り注ぐこの柔らかい雨は誰かの想いなのだと そう傲慢にも信じていてもいいでしょうか? 僕らは常に見守られているのだと 目に見えぬものから 日の当たるように 雨が包むように だから 人は独りでも生きていけるのだと そう 子供のようにただ信じていてもいいでしょうか? 降り続ける春雨 応えもしない濡れる大地 一人きり 膝を抱える今日の僕―― あいさつ 2003年3月17日 知らない場所で見かけた知らない人が 軽く会釈して通り過ぎた 40代過ぎの身軽なおばさん 買い物袋をバッグのように 腕にぶら下げ歩いてた どうしてこんなにも くすぐったい気持ちになるのだろう? 僕とあの人は今日出会い今日別れもう会わない それなのに たった一つの短い会釈が 顔中に浮かべた曖昧な笑みが 僕の心の中で淡くにじむ その不思議な気持ちに理由は思い浮かばないけど せめて今度は僕が 僕の知らない誰かを 同じ気持ちにしてやりたい 駄目駄目人間 2003年3月17日 「人は独りでは生きられない」 そう言って君は 仮面かぶっていた僕に抱きついた 僕の仮面はその時きっと 派手な音立てて剥がれちまったんだろう だから僕は 素直すぎる駄目な男になったんだ 「……そうだね」 って抱き返した僕に 「わかってない」 って怒った君を 抱いていたいと素直にただ 強く腕に力を込めた だけど本当に僕を駄目にしたのは 悟りきった事を並べ立てた僕に向かって 「分からない」 って首傾けた君の 不思議そうな その表情 ほのか 2003年3月17日 子供のように 頭を撫でられるまま瞳を閉じた 「年下扱いしないでくれよ」 すねたフリして言った言葉は 母親のような微笑みに溶かされた 無抵抗な撫でられるまま いつの間にかいなくなる 二人だった心は鼓動と供に一つになって そして若い二人は互いに気づく 心の中にゆれる炎に 二人を包む見えない祝福に ピエロソング フォー ユウ2003年3月19日 もしも君が 僕の元に帰るって言ったら きっと冗談でも 僕は泣いてしまうんだろう だけどその言葉が弱音なら 哀しいけれど きっと僕は首を横に振るよ 僕が想うのは君だけど 今君を抱けるのは僕じゃない 強さならいくらでも上げる 君が想う人に微笑めるように ピエロだねって笑われても いいよ ただ一人 君のためなら 誓い 2003年3月19日 どれほどの重荷背負えば 辛いなんて正直に言えるんだろう? 僕も同じと言われるたびに 苦笑いばかりが増えていく 分かっている 辛いのは誰だって一緒だって 分かっている 僕だけが弱いんじゃないって 分かっている 誰もが我慢していること だけど時には子供のように 泣いて誰かに甘えたい 気持ち抑えて今日も 誰かのために僕は生きている せめて僕の近くにいる人は 「辛い」って言葉に出せるように 僕に寄りかかって甘えれるように 小さな誓い 胸に抱いて生きている 旅人 2003年3月19日 僕らはいつも何かを探して さまよっている旅人なんだ 疲れたフリして立ち止まっては スニーカーのヒモ直して 苦笑いしている 「がんばれ」も聞き飽きて 意味さえ風にかき消えている 時には誰でもいいから愛が欲しくて 幻のオアシスに夢を馳せる 見えない明日をいくつまたげば 手に入るんだろう答えって奴は 旅をあきらめたモノ達は 答えなんて無いと口をそろえる あきらめずにくさらずに 泥にまみれて僕らは進む 時に 旅の終わりに死の陰が訪れても その時は大笑いしていられるように 未来へ走るために 2003年3月28日 暗闇の中をかける僕にとって 君はたった一つの光だった 強烈に輝き続ける光に 見えなくなる 未来への道が 君へと逃げるたびに 僕の意志は一つ一つ醜く朽ちた 光の中で安堵しながら 闇の中を走れと 叱咤する声を感じていた だから行くよ僕は 闇の中へ 光の中で生きているだけの僕にはなにもないから せめて今度は僕自身が輝けるよう 今は君から離れて ただこの不安定な闇の中を 愚かだって笑われてもいい ただほんの少しでも何かある僕になるために 君から離れるこの一歩が いつか君へと微笑むため役に立つように 大人 2003年3月30日 つまらないと何度となく繰り返しているうちに 少年はつまらない大人になっていく やがて彼を見つめた誰かに言われるのだろう 「つまらない」と そして気づく 自分が繰り返していた言葉の痛みに でも もう遅いのだ…… 孤独を望めば 2003年3月30日 誰かを想う資格なんて僕にはない 穴の中でもがきながら 日々かけられる土に埋められぬよう ただただ必死に生きる無力な僕には だから 誰もいなければいい そう呟いてみたら少し楽になれた 誰にも思われなくていい 叫んだら肩の荷が取れた気がした たった独り その意味を噛みしめて ただ撲は今 周りを囲むこの穴から抜け出そうと思う 小さくしか見えない空を いつか両手一杯に抱くために それまではたった一人のままで 縛り付けるようにきしむ孤独の痛みに 慣れることをただ切に祈った |