2004年 10月の作品たち




懐古   2004年10月1日

公演の風は少し寂しく
雨上がりのアスファルト
水たまりが淡く広がる
聞こえてくる子ども達の喧噪
聞こうとしなくても
自然に頬をゆるませる
かつての自分思い出して
僕は
ありきたりな後悔という奴に俯いた

時は繰り返さない
今の幸せは昔のおかげ

分かっているはずなのに
無邪気な子どもの笑い声が
切なくて仕方がなかった





暗闇の世界  2004年10月2日

秋の太陽は心の闇に届かない
晴れ渡る空を眺めても
瞳に映る青は心に移らない
目を閉じればなじみの深い黒
心の中まで染み込んでいる
何色をくわえたとしても
この黒はあせないから

誰も救えない
だから救われない
当たり前だけど寂しい事実抱え
それでも救いたい
たった独りでもいい
そう思って生きてきたはずなのに

秋の太陽が心の闇を思い出させ
そのあまりの黒の濃さに
一人立ちつくしている





人   2004年10月3日

地を這いながら
どこまでも這いながら
進んでいく虫を潰しながら
ビルに見下ろされて
どこまでも見下されて
人は何かを探しに街に生きる

木々を潰し
川をせき止め
自然を忘れ火を操り
何をこれから求めていくのか
溢れていく
ただ溢れていく我らを

一体何時何が

これから踏みつぶしに来るのだろう





駅で見かけた見知らぬ人へ  2004年10月10日

「悲しい」と言えたらどれだけ楽だろう
誰に言えばいいのか分からず
たたずむ人の背に思う

駅のホームで一人たそがれ
何を乞うのか
何を厭うのか
走る鉄の塊に目を送り
伏せては紙コップ握りしめてる
胸の奥にある寂しさを
一体誰のせいに出来るか
何も感じずにいられれば
肩を落とすその後ろ姿に叫びたくなる

あなたを私は救えないけど
私をあなたは救えないけど
きっとそれが人だから
救われようと思わないで
「悲しい」と言葉にすればそれだけで
誰かに重みを背負わせるだけ
だから今日も胸の中に痛さを一つ
飲み込んだまま
抱き締めたまま
一人駅でたたずむあなたを
私はじっと見つめてる





誰かのために  2004年10月11日

誰かの笑顔が見たくて
誰かの寂しさ癒したくて
歩いてきた
ただそれだけだったはずなのに
いつの間にか
大切な何か忘れ
僕は誰も笑わせられなくなってた

笑えないことばかり多すぎる世界
毎日のように
誰かが誰かの死に泣いている
怒りが常に溢れていて
嫌なことばかり日々を支配している

それでも
僕は誰かのために
そう例え壊れそうでも
生きたいと決めたはずだから
こんな毎日でも
たった一瞬でも
僕の言葉で誰か笑わせられるよう

願った時を忘れないよう
これからもずっと心に刻もう





コトバ 尽くして  2004年10月14日

どうしたらあなたに届く言葉を見つけられるだろう
どうしたらあなたの心をつかめるだろう
言葉で
言葉だけで

言葉なんかになんの力があるというのか
人は温もりで生きているはずなのに
その温もりをあなたにあげることが出来ずに
私はただ
あなたに届く言葉を探している

どうしたらあなたの笑顔を引き出す言葉を言えるだろう
どうしたらあなたの泣き顔を止められるだろう
言葉で
言葉だけで

言葉なんかになんの力があるというのか
抱き締めることさえ出来ないあなたに
出来ることは言葉をかけるだけだから
私はただ
あなたを笑わせる言葉を探している

どうしたらあなたを救う言葉を見つけられるだろう
どうしたらあなたを幸せに出来るだろう
言葉で
言葉だけで

言葉なんかになんの力があるというのか
世界は金や宝石で廻っているのに
あなたにあげられる物が何もないから
私はただ
あなたを救う言葉を探している

そして今日も一人あなたのために
あなたのための言葉を探している
あなたが居ないこの世界で





からっぽ   2004年10月15日

何もいらないほど
思い続けて
何もいらなくなって
空っぽになる
何もできなくて
思い届かなくて
空っぽのまま
何を出来るのかと
思い馳せて
今はただの
空っぽ





鳥の気持ち   2004年10月16日

歌おうと思わなければ
苦しむことさえなかったのに
カゴに収まった若き鳥は
悲痛に咽を痛ませる

どれだけ空へと声を馳せれば
思いは叶うというのだろう
嘆くとも
憂うとも
応えすら空から帰らない

時に休むことはあっても
歌い続ける鳥のために
与えられる物などなく
失う物ばかり増えていく

愛ですら移ろうと言うのに
歌に何を望むというのだろう
分からぬままに声を枯らす
声だけが割れて空を満たすのか

歌おうとさえ思わなければ
これほど苦しみはしないのに
カゴに捕らわれた若き鳥は
悲痛に咽を痛ませる
痛んだ咽を押さえながら
若き鳥は今日も悲痛に笑う





それでも思いは変わらないから  
                2004年10月20日

誰にどう思われようとも
自分の中の
思いに嘘はつけない
抑え否定しようとするほどに
心は
思いを強くし締め付けてくる
いっそなにも思わなければ
そうやって諦めようとした矢先に既に
思いが胸の中に溢れている

それはせき止めようとしながらも
徐々に溢れてくる水のように
消そうと努力しながらも
なお燃え広がる炎のように

止まらずに
消えもせず
溢れ続ける
暖め続ける

どうやらずっとこの思いを
抱いて生きる定めらしい
諦めきった言葉を吐いたわりに
浮かんだ表情は今までにない笑顔だった





好きは好き   2004年10月24日

好きなモノを
好きだと言葉にする
それは誰にも止められないから
嫌われるとか
受け入れられないとか
そんなネガティブ捨て去って
叫べばいい

好きは好き

誰に求められることはない
あなた
ただ一人の気持ち





揺れる地面へ  2004年10月26日

震える大地は
人に人の弱さを思い知らせる
何が境目か?
分からないまま
灯火は消え
何が報いか?
分からないまま
人はただ身を寄せ合う
何が出来るか?
分からないまま
誰もが思わず地面を見つめ
震えている
この大地もいつか震え出すことを思って





精神的にキツイ夜  2004年10月27日

闇の中を鳥が羽ばたく
何度も
何度も
互いの羽をこすり合わせて
もがきながら
傷つけながら
それでも
明日へ
明日へと逃げるように
闇の中を鳥が羽ばたく
見えない羽音に怯え
私は布団を握りしめ
辺りを窺っている
闇に羽ばたく鳥などいない
そう心の中で繰り返し
闇の中を羽ばたく鳥の
こすれあう羽音に耳を押さえる