2004年 10月の作品たち




小さな奇跡を抱いて  2005年10月2日

誰かを好きでいること
好きな誰かを見ていられること
きっとそれだけで奇跡だ

何十億の人々の中で
繰り返し再生する世界の中で
今日もあなたの笑顔が見れて
今日もあなたの笑顔に会える
それは紛れも無く奇跡そのもので
一瞬一瞬が輝く宝物なんだ

だから今は
その奇跡を大切に胸に抱いて
余計なことは忘れていよう

例えあなたの笑顔が私を見ずに
他の誰かのものでさえ
私は奇跡を抱いているから
それでいい
それだけでいい
言い聞かせてあなたを見る

小さな奇跡は今日も眩しく
手の届かない場所で輝いている





一瞬への夢想  2005年10月3日

想いを伝えるのは一瞬
答えを聞くのも多分一瞬
けれど世界すらその一瞬でほころぶから
一瞬への恐怖に今日も言葉は喉につかえる

時だけが流れ
独りのあなたもいつか誰かの隣で
独りの私は一人あなたを思うのだろう
それでもあなたが幸せならば
私は独り笑えるだろう
孤独には慣れているから
あなたを誘う言葉が出ない
臆病な自分を独り抱いて

あなたへの言葉だけが増えていく
あなたへの思い出ばかりが増えていく
ありえない一瞬ばかり夢見ている





うつむく君へ  2005年10月3日

自分に自信がもてないと
俯く君は今日も素敵で
泣きそうになる
何がそんなに君を悩ますのか
問いかけられずに君を見ている

僕が君を好きだと
君の弱さすら好きなのだと
言えば笑ってくれるだろうか?
君に自信を持たせるためなら
道化にでもなれるというのに
冗談ばかりはいていたから
うまく言葉がかけられない

せめて隣に座れれば
はかない願いも叶わないまま
君を見ている
俯く頬にかかる髪を
なでたい欲望に嫌悪しながら





優しいねって言葉はいらない  2005年10月4日

優しいねって
言葉かけられるたび戸惑う自分がいた
なんでもないことをして
当たり前に思っていたのに
優しいねって
言葉が小さな鎖になる

きっとそれは何気ない一言で
つぶやいた当事者さえ
忘れていたはずなのに
まるでそんな言葉をかけられることを待っていたようで
当たり前が
当たり前に出来なくなる

思ったよりもこの世界は
当たり前に生きることが難しい
そんなことにいまさら気づいて
寂しくなった

見知らぬ人を助けた夕焼けの町





願い  2005年10月5日

私で救える人なんて
きっとたいしたカズじゃないから
せめて手の届く範囲の人たちは
笑って欲しいと思った

世界では今日も何百と人が死んでいて
何千何万もしかしたら何億もの人々が泣いている
だけど私に出来ることはあまりにも小さくて

だからこそ願わずにはいられない
せめて私の手の届く範囲の人たちは
いつでも笑っていて欲しい

愚かしいエゴイズム
それでも消せない儚い想い





君に会えない時間は  2005年10月6日

会えない時間が生まれるたびに
小さな不安が胸を膿んでいく

知らない時間を過ごす君が
知らない間に変わるようで
何も出来ない立場の僕は
ありもしない妄想に身を震わせる

思い切って君のため物語を作ろうか
君に会えない時間を君のため
使って言葉を綴ろうか

相手のいない問いかけは
むなしく空へと吸い込まれて
だから今日も薄暗い空からは
寂しさ紛らわすように
冷たい雨が降り注いでいる





エゴ  2005年10月7日

誰かの泣き顔なんて見たくないから
自分を一番最後においた
私が一人耐えることで
誰かが笑える力になるなら
それでいい気がした

冷静な自分が物陰から囁きかける
偽善者ぶるのはやめたらどうだ?
奉仕など
自己犠牲など
似合わない世の中だから
報われない優しさなど
何の役にもたたないのだと
裏切られてばかりの心が軋むたび
泣いている自分は救われたのかと

だけど
それでも誰かが笑えるのなら
泣き出す代わりに微笑むのなら
それだけで私は幸せ感じられるから

それでいい
それだけでいいと思った
せめて私の代わりに誰かが
笑って日々を送れるのなら


願いを込めて生きる独りの日々は
寂しいけれど
どこか暖かく過ぎていく
それでいい気がした





秋の雨の中  2005年10月11日

夜中の雨が地を濡らす
まどろみには程遠く
窓を濡らす雨音の数を数えている

しんと静まる深夜には
救いも希望も降ってはこない
締め切ったはずの部屋で隙間風に体を震わせ
たった一人のくしゃみに一人笑ってみた

きっと胸を満たす黒雲も明日には晴れるだろう
言い聞かせてテレビをつける

冷静なアナウンサーが無表情に
長引く雨を伝えていた

誰も聞かないため息は余計に気分が沈むから
濁った空気を吸い込んで
小さな笑い声にしてみた

雨音だけが満たす部屋の
あまりにも小さな自己防衛





君のいない町  2005年10月13日

君の声が聞けなくて
君の姿見えなくて
無くしたものを探すように
沢山の人見渡しても
面影さえ見当たらなくて

泣くのは嫌だと
胸の奥へと涙隠して
飽くまで歩いて
どこまでも行く
遠く記憶に夢馳せる

そうやっていくつ朝を迎えれば
君の笑顔に会えるのだろうか?

急く心抑えて歩く
明日も分からない夕暮れ





何故  2005年10月17日

なぜだろう?
君の何気ないメールに
なぜだろう?
胸が温かくなる
なぜだろう?
言葉にならないほど
なぜだろう?
優しくなれる気がする
なぜだろう?
疑問ばかり繰り返して
分かるだろう?
否定するたび強くなって
繰り返すんだろう
新しくてまた変わらない恋心を





虫の歌  2005年10月18日

手の届かない花のため
虫は今日も歌を作る
むしられた悲しみのため
無視される想いのため
虫でしかない存在は花へ歌を作り続ける

それはあるとき空を歌う
それはあるとき海を歌う
山を
緑を
花が見ない花自身の美しさを虫は歌う
歌うことしか出来ないから
歌うだけでは届かないから
虫は歌う
ただ小さな願いを込めて
気づかれなくても
忘れられても
虫は歌う

もしも花がうつむいたら
そんな虫の歌を聴き
笑ってくれればそれだけでいい
小さな願いを虫は歌に

だから今日も歌声は
花の周りを歌っている





君に会える日  2005年10月19日

乙女に会える喜びで
青年の足は町を駆ける
明日さえ分からなくても
今日は笑顔に会えるから
胸いっぱいに吸い込んだ朝を
喜びと共に吐き出して

昨日までの曇り空は
今日は雨に変わっていても
頬をなでる北風が
浮かれた熱を奪おうとも
青年は駆ける乙女の元へ
息を切らし希望ためて
青年は駆ける今日の笑顔へ

きっとたどり着いたその場所で
乙女は小首傾げるだろう
どうしたのって笑う彼女の笑みは
肩で息する青年の心を
誰よりも癒すだろう

一瞬の輝きを掴むため
青年よ急ぎ馳せよ





進化  2005年10月20日

使い古した言葉で綴る新しい思いは
どこか歪んで見えて
真直ぐなはずの気持ちもどこか
真白には見えなくなる
それは進化なのだろうか?

日々生き
生き急ぎため息つくたび
心に抱いたキャンパスはにじんでいく
余計な色が増えていく
それは進化なのだろうか?

分からないまま
君への想いはますます増え
もう真白には戻らない絵の前で
独りため息をつく





キミノコエ  2005年10月21日

曇り空に響く君の声は
どこまでも澄んでいる
明るい声聞くその度に
胸の中まで暖かくなる

それはまるで春のようで
鳥が鳴き
花々は種をまき
光が辺りに跳ね広がる

幻想にとらわれ目を開けば
陽を覆った空は今にも涙を流しそうで
気づかされる
君の
君自身が気づいていない無限の価値を





言葉集めて  2005年10月22日

『君に会うために
生まれてきたんだ』と
呟いてみた
『君以外何も要らない』と
呟いてみた

どんな言葉をかければ君は
微笑んでくれるだろうか
何も出来ない僕だから
せめて言葉はと探しているけど

口先ばかりの愛情じゃ
思いは届かないから
呟き重ねた言の葉を
今日も握り潰す

枯葉のように崩れる想いを集めて
また愛の花を抱く





年をくった岩亀の歌  2005年10月23日

年をくった岩亀は
今日も君に救われる
年をくった岩亀の
歩みはひどく遅いのに
君より今は前にいるから
君より今は遠くいるから
君は注目してくれる
助言を請い
その歩みの距離ゆえの言葉に
君は称え笑みを返す

しかし岩亀の歩みは鈍い

いつか君はその歩みの速さゆえ
岩亀に追いつくだろう
岩亀が歩んだ道のりなど
ほんの数歩の距離と気づくだろう

そのとき君は同じように
笑みを浮かべてくれるだろうか?
歩んだ道を比べあい
互いに方を叩けるだろうか

岩亀には分からない
だから今日も年をくった岩亀は
君を想いながらも首をすくめる





君がいる時間  2005年10月24日

太陽の似合う笑顔を見るたびに
暖かい風が胸をくすぐっていく
何気ない言葉に胸震わせ
ワクワクしている

仕切られた場所
区切られた時間
会えるのは限られていて
僕になんか会えなくても
きっと君は変わらないけど
ただ傍にいたいから

今日も朝から急いでいたよ
君に会えるから
歯ブラシする手にやけに力こめた
鏡の前意気地なしの顔に
拳見せて強がっていた

君を待っていたよ
待っていたいよ
ほんの一瞬瞳交わすのも嬉しくて
かけたい言葉は沢山あったのに
一つも口から出てこなかった

待ちわびていた時間は余計に早く過ぎて

振り返りもせず帰る君に
どうしようもなく寂しくなる
こんなに痛いなら
想いなんてと思うのに

似合わないって分かっているけど
君の瞳に映っていたいと思った
そしてまた
君に会えるときを待つ





ふと見た空が瞬いていて  2005年10月25日

何気なく見上げた空には
星が瞬いていて
満天には程遠いのに
なぜか嬉しくなる

あの星はなんて名前か
分からないけど確かに輝いていて
この空は君が知っているのか
気になる自分がいる

たいした事じゃないけど
僕が感じた喜びを
君も同じように感じていたら

そんな時なるメールの着信は
ありえないけど
もしかしたらと胸を自然に高鳴らせ
そうして夢見がちな妄想のために
今日もなんでもないメールに傷ついている





人は誰も二人を求める  2005年10月26日

母親の胎内から飛び出したときから
誰もが孤独の世界に生きている
安楽な十月十日の報いのように
泣き笑い泣きやがて誰もが一人に戻る

かつての温もりを取り戻すようにしか
人は人を求められず
だからいつの時代もどんな愛情も
突き詰めればいつも身勝手で傲慢だ
そんな風にしか思えないから
今日も素直に想いを吐けず
一人はあまりに寒すぎて
膝を抱えてうずくまる

せめて人が
一人で生れ落ちるなら
これほど二人を求めずに済んだだろうに

一人を知らなかった時間は
あまりにも短く甘美で
遠くただ
思い出にすらならない細胞の記憶ばかりが
胸を掴み苦しめている





甘え歌   2005年10月28日

君を冷たいと感じたのは
甘えすぎた僕の弱さだった
風に吹かれ早めに落ちたドングリのように
冬が近いから
寒さに顔を青くさせていた

君にかける言葉が増えるたび
思いも増すと思っていた
木枯らしに舞う木の葉のように
目的もなく
執着もなく
ただ言の葉は君を迷わしただけ
いつの間にか笑い顔が
泣きそうに歪んでいた

この世界は冷たいから
一人が怖くて繋ぎとめようと手を伸ばした
そんな他人任せの両手じゃ
重みになるって分かっていたはずなのに

一人でまだ歩けずにいる僕を
冷ややかに見つめだした君を
孤独に戻る未来を照らして

夕焼けは
今日も苦しげに沈んでいく





遠き記憶の罪に  2005年10月30日

君を泣かせた遠い夜を
笑って話せる君を見て
抗えもせず心の奥に刃を刺した

僕にとっては何気ない
照れ隠しの憎まれ口
君にとっては紛れも無い
意義さえ見失うのろいの言葉
あっけなく君の心は暗闇で満たされ
頬に流れる涙
届かない過去で君は何度
涙のまま夜を越したのか
知らずにいたこと自体が僕の
紛れも無い罪と分かっている

今何も無かったように笑う君の
笑みに恨みは一つも見えないから
えみのうらのかなしみを増やした
僕自身に刃を深く
この身を早く滅ぼすようにと
深く刃を心にさした

そんな時救ってくれるのは
こんなどうしようもない僕に
無償で送られる君の笑顔で
贖罪さえ求めない君に
どうしようもないほど今惹かれてしまう

どうか許されるならこの咎人に
最後に刃を振り下ろすのは
君でいてくれますように





うつむく君のため  2005年10月30日

自分の道が分からないと
うつむく君に単純な言葉はかけられず
額にかかる前髪に見惚れながらも思案する

誰かの笑顔がそこにあるなら
君の生き方は間違っていないよ
もしも誰かが悲しみに浸っているなら
君自身が道化になればいい
笑われたって笑っていられれば
君の世界は明るいだろう

そうして生きてきたのは僕だから
君にもきっと出来るはずだけど
それは悲しみと隣り合わせの生き方すぎて
君に勧めることは出来ないでいる

気がつけばただ
君のうつむく顔が辛すぎて
どうしようもない冗談で
笑われようと焦る自分がいた