1999年11月の作品

時空 楽静作 1999年11月1日

点から線へ
そう、僕らはいつも
そこに存在していた

いくつもの存在が線へと変わり
そして、瞬間は人生へと変化する
時は全て、僕と言う一個人の周りに、その空間を作り上げ
人はやがて、誰も入れぬ自己を作り出す

時が、全てを変える
不変なものなど存在しない
全ては点から線へなるために生まれ

そして
やがては変化する流れの前に、
その存在は無へと還る

それは百年を単位とし
それは千年を単位とし
それは万年を単位にする
それは永遠であり
それは結局

ひとつの点の存在




ひとまず 楽静作 1999年11月1日

「私のことは忘れてください」

旅立つあなたの最後の言葉
悲しそうなその瞳
潤む両のまつげに負けて

ひとまず
この場は頷いて
あなたが去るのを見送ります


でも
あなたはきっと
きっと戻ってくるでしょう?

この場所に
この町に
この、私のもとへ

だから
だからひとまず
過ぎ去る電車に
答えの無い言葉を投げつけて
私は別れを受け入れます

「また、いつか」と




人 楽静作1999年11月1日

泣いて
笑って
怒って
楽しんで
下劣で
空虚で
うそつきで
身勝手で
高慢で
でも
賢くて
優しくて
涙もろくて
強くて
弱い
人間が好き





POWER 楽静作1999年11月2日

こぶしを振り上げ人を脅す人間ほど
弱いものはいないのです

力の使い方を間違っているものは
結局、失うばかりで何も得ないのですから

得たとしても
気づかぬうちに、大切なものを失ってしまっている


力を大切にしないでください
「知恵と、勇気と、ほんの少しのお金」

あの、有名な言葉を思い出してほしいのです
誰もが笑顔でいられるように
悲しみの裏にも、希望をもって過ごせるように

あなたは言うでしょう
「力がなくては生きていけない
優しくなければ、生きていく資格はない」
あの、映画の言葉を使って
力がなくては生きられないのだと

でも
誰もが力を持たなければ
誰もが力を振りかざさなければ
力は必要ないのです

優しさだけあれば
・・・偽善かもしれません

でも
願ってはいけませんか?
高慢でもいい
ただ思う

「誰もが力を持たないように」






過去     楽静作1999年11月2日

誰かに愛されたくて
ただただ毎日を過ごしていた

他人にやさしく、自分に厳しく
「自己犠牲こそ最高の愛の形」

そんな言葉を、疑いもせず信じていた

「大丈夫?」
「変わろうか?」

「平気だから」

困っている人に対して、いたわりの言葉が自然に飛び出す
作り笑いを浮かべるのが得意になって
愛想を振り撒くことなど造作もなくできるようになった

気に入らない人間にもいつも笑顔で
辛くても、それは一人の時以外顔に出さない
それが私だった


気づいたのは夕暮れの道
誰もが帰る放課後の坂道
連れ添って歩く男女
並んで歩く"仲間"たち

私の隣には誰もいなくて
仲間が私を囲むこともない

私は一人
たった一人で道を歩いている

何故だろう?
それは小さな疑問から

ナゼワタシハヒトリナノダロウ?

自己犠牲という形からは
何も生まれないことを
私はその時初めて知った

でも
引きつった私の笑顔からは
もう涙は出てこなかった





コドモ   楽静作1999年11月2日

教室はいつもよりもざわめいて
ヒステリックに叫ぶ先生の声を、
無感情な生徒の背中が拒絶している

互いの将来に背を向け
中身のない会話に花を咲かせる彼らは

子供のままが嫌なくせに、
大人になるのを拒否する彼らは
義務と責任を知らずに
幼稚な権利ばかりを振り回す
現在に縛られた哀れなコドモタチだ。


喧騒だけが支配するこの教室の中で
私は今日も全てに目をそむけ
彼らと私の違いを、
説明することができないまま

窓の外を見ている





文化 楽静作1999年11月3日

人が作り上げた文化は
必ずしも正しいとは言えなかった

でも、
間違っていると決め付ける人間だけにはなりたくなくて
だから、真実だけを見ようと努力をしている


遅れていると、他国をけなす国の人々は
本当は、何一つ勝っているものなどないことに気づかない

負けるだとか、勝つだとか、
人間が、連なる人間として
作り出した歴史に言えるはずはないのだから


何を勘違いしているのだろう?
優越感と劣等感
何故、感じたいと思うのだろう?

較べなければ保てぬ自信なんて要らない
始めから、私は私たちの文化を誇りに持てているから
私たちでしか なしえなかったことに、
価値なんてつけないでください

そして、
誰にも価値なんてつけられないことに
そろそろ気づいてください





 「さよならの時」    楽静作1999年11月6日

手をふって、涙も見せずに
にっこり微笑んで

「また会えるよ」
なんて言った言葉で私が慰めたのは
あなたではないんです
あなたの心じゃないんです

あなたに別れを言うことで慰めたのは
私の心 この私だったんです

聞きたかった言葉 聞けなかったから
仕方なしに私から言った

「また会おうね」

「いつかきっと」

その言葉にあなたは言いましたね
この私が強いって

別れの言葉に泣きながら
別れを笑顔で言える私が強いって

ああ、でも違います
私は弱い

だって本当は 本当は私は
あなたから私に言って欲しかったんです
あなたから私に、別れの言葉を言って欲しかったんです






無力 楽静作1999年11月6日

アスファルトに転がった石ころを
つま先で軽く蹴飛ばしてみました

あんまりよくは飛ばなくて
ゴツ、ゴツと嫌な音で弾んで
石ころは、道路わきの溝にはまってしまいました

あわてて石を取ろうとして
でも、よく考えたら私には溝から石を取る理由がなかったから
私はそのまま石の横を通り過ぎました

石は、石のまま何も言わずに
私の事を見送っているのかも分からず
ただ溝にはまっていて

それはまるで
他人のされるままに流されては
どうしようもできずにいう私のようで
でも、石のためにかがむ自分はあまりにも惨めなきがして

結局
今も石はそのまま
溝の中にあります





「林」 楽静作1999年11月6日

遊び道具はその木のツタだった

林の中の大きな木
僕らはそれが大好きだった

いつまでも、いつまでも
それこそ、夜になるまでそこにいた
おしゃべりして、どろんこになって
僕らは木と共にいた


春は、木に咲く花が何かも知らぬままに
その匂いを体中にかき抱いた

夏は涼しげな日陰となって
汗だくな体を木に押し付けた

秋は紅葉するその幹によじ登り
どの葉が一番奇麗かを皆で探しあった

冬は降り積もる雪の下で
枝から落ちる雪に喜んで駆けよった

そして一年が終わっていく
子供だった僕らの中では、当然すぎる"日常"


その木が無くなった

林も平らな道になった

鳴き声が聞こえる

木々達の鳴き声が聞こえる

そんな気がして

僕はまだその道を通っていない





電車 楽静作1999年11月7日

満員電車の中に押し込まれて
息苦しさの中に今日の始まりを知る

ふと、
アナウンスの声がいつもより高いことに気づく

あの人たちは、何故
同じような声を使うのだろう?
妙にだみ声で
耳に響くと言うよりも
不快感を体に残す

ガタン ゴトン ゴトン ガタン

単調な電車音と、
むせ返るような人のにおいの中で
私の思考は

今日はなぜか
次の駅名を告げる声に傾けられている……




「いい子」になったねってあの人は言ったけど……  楽静作1999年11月07日

「ふざけるな」
「馬鹿野郎」
「死ね」

いくらでも汚い言葉は口から出て
目の前でうなだれる人が
涙を見せても止まらなかった


「くだらねえ」
「むかつく」
「やってられねえ」

不平だけは腹の中にあふれていて
大人に近づきたくて自販機の前に並んでた


「何で私が?」
「どうして?」
「私だけ?」

他人なんて関係ない
自分が良ければそれでいい
だから、たくさん無茶もやれた


何でだろう?
いつから私は自分を制御して
笑みなんて浮かべるようになってしまったんだろう?

それが当然って思う奴らの中で
薄っぺらな笑み張りつけて
私は何を求めているのだろう?

罵倒は全て自分に向けて
いいかげんさも胸の中に押し込んで
疑問は全ての殿奥に飲み込んでしまって
「いい子」になった私がいる

中身のからな
ただの「いい子」の私が





石ころ 楽静1999年11月20日

転がっている小さな石
蹴飛ばせば転がるだけの小さな無機物

でもこれは
もしかしたら

火山の噴火の勢いで飛んできた石かもしれない
大洪水で流された石かもしれない

原始人が、武器として投げて使っていた石かもしれない
振られた若者が、その涙とともに投げた石かもしれない

小学生の石蹴りに使われた石かもしれないし
案外、ある日天から落ちてきたのかもしれない

なんて考えて
つい恭しく手にとってしまった

結局これはただの石なのだろうか?
なんでもないだけに、夢をいっぱい詰め込んでいるのかもしれない

だから、こんなに硬いのか?
なんてくさい台詞だろうとあきれながら

私は石を放り投げた
今度は違う誰かの、想像の的になれるように




今だから 楽静作1999年11月10日


今だから
言える事があります

引越しするあなたに
どうしても言えなかった事

今ごろ言っても、きっと手遅れですよね?

「好きだった」なんて
過去形で言われても
あなたは苦笑するしかできないでしょう?
だから私は言いませんよ

今だから言えるけど
今言ってもしょうがないから
だから今は
あなたにただ笑顔で言いましょう
「お帰りなさい」

「ただいま」と
笑って言ってください

そう言ってくれるだけで
私はきっと幸せになれると思いますから




蟻(1) 楽静1999年11月11日

寒い空の下を一匹
蟻が道を這っている

溜め込むための食料を探すために、
その触角はせわしなく動き
昆虫の特徴である六本の足は
ありにとっては全てである大地をしっかりとつかんでいた

彼らは空を見ても
私たちのように感傷は覚えない

次の子孫のために
次の、次の子孫のために
永久に種を残すプロセスを繰り返す
人に較べればあまりにもちっぽけで

つい
無意味に命を消されることもある存在


でも、彼らはそれを不幸だとは思わない
短くても
ちっぽけでも
彼らにとって
生とは種をつなぐと言う
明確な目標の前に成り立っているのだから

生きる意味をつかめず
ただ生きている私たちよりはよっぽど
彼らは幸福なのかもしれない




蟻(2) 楽静作1999年11月11日

幼い心の前に善悪はまるで区別がつかない

ただ興味という思いの前に
少年は、小さな命を踏み潰す

彼らの作り上げた
芸術的な家に水を流し込む
火でその体をあぶり
泥の中にその体を埋め
わざと、天敵の目の前に落とす

少年は気がつかない
残酷と言う心が
好奇心の前に小さくなる時期なのだから

彼らを分解してはアスファルトの上に並べ
手足だけをもいだグロテスクな生き物を作り上げる
抵抗が、抵抗にならない彼らを
幼さの前に、
無意味に残骸に変えていく

そして
少年は気づく
いつしか好奇心が小さくなり
罪悪感を覚える頃
取り返しのつかないほどに
己は命を消しすぎた事を

大人になっていった少年達は
今でも
彼らの事を夢に見
その小さな体に恐怖している




蟻(3)楽静作1999年11月11日

幼い心に
罪や罪悪を教えたのは
父でも 母でも
まして友人でもなかった
ただの一匹の蟻だった

その小さな生命は
幼いゆえの残酷さに
ただ命を絶たれることで教えていった


いのち
生命と言うこと
生きているということ

そして

死ぬと言うこと
殺すと言うこと
罪と言うこと
その全ての根源にある、良心を


感謝をすることもできず
幼かった心は大人になっていった

なくしてしまったものは
もう戻らない事を知った時
初めて私は
あのちっぽけな存在を、
自分よりも巨大だと感じた




成長 楽静作1999年11月11日


時がすぎて 僕は
子供の頃を忘れ
すこしずつ

そう、少しずつだけどきっと
『大人』に近づいていく


『大人』になれば
何かを得られるだろう

でも
その時には きっと
何かを無くしてしまっている……


何かが何か? そんなの分からないよ
それなのに、時だけすぎていく

何かが何かなんて わかっちゃいないのに
時だけが、ただ過ぎて行く


何かが何かわかるときなんて
いつか来るんだろうか?
そんな漠然とした思いだけを心に秘めて





今さらだけど 楽静作1999年11月11日

今更あなたに言うなんて
そんなの無駄ですよね?

分かってはいるんです
心の中では分かっているんです

でも、言ってもいいですか?
私の気持ちを
私の本心を

「今でも好きです」

あなたは笑いますか?
あなたは笑ってくれますか?

苦笑じゃなく
嘲笑じゃなく

ただ静かに
困ったような
照れたような
薄い紅に頬を少し染めた

そんな笑顔で
私に笑ってくれますか?


言えずに
今でもいえずにいるけれど
ここまで出て
喉まで出てはいるんです
ただあなたを見ると
すぐに奥に引っ込んでしまうんです


だからもう少しだけ
今はまだ、友達のままで





あなたへ 楽静作1999年11月11日

ごめんなさい
すいません
申し訳ありません

土下座もします
手も合わせます
頭を地面にこすり付けるほどに下げます

あなたをいつまでも敬います
心から言います
本心のみの謝罪をします

証拠が欲しいのなら
この腕を
いえ、足も
いえ、喉も、頭も、体も
私の命をささげてもかましません

本気で言います
正直な心です

目に一片の曇りもありません
嘘じゃありません

その場限りのごまかしなんかじゃなく
この後一生有効です

一生のお願いでもいいです
どうか、許してください

あなたを愛していないなんて
嘘をついたこの私を





不思議 楽静1999年11月20日

公園の上にある空は、とても大きく広がっていた
ジョギング風のおじさんや
ペットを連れたおばさん達が
立ち止まってしまった僕を不信そうに見て通り過ぎる

ぽかんと空を眺めたままで
ぼうっと立っている僕は
あなた方にとってよっぽど変に思われる事でしょう

でも、知っていますか?
晴れていても、その空の色は決して真っ青なんかじゃないって事を
昔と違って、少し薄い青になってしまった事を

それは、空が汚れたためだなんていわれているけど
でもあなたたちは
いつも同じ空だと思っているのでしょう?
だから、空を見ようともしないんですね?

のんびりしているように見えて
結局は、地面ばかり見てすごしているあなた達の方がよっぽど
私にとっては変に見えるんです




答えてください 楽静1999年11月20日

ココニイル?
私は、私という存在は
本当にここに存在していますか?

同じような格好の者達が
同じように座り
同じように聞き
同じような内容をノートに取る空間の中で

私は、私という存在は
一体何の意味を持っているというのか?


何をしたいのか分からなくて
ただ、毎日を生きている事へ 恐怖を感じる

また、『今日』が過ぎて行く
私は、何もせずにここにいる

何をするべきなのか?
何が私に出来るのか?

何か 私だけにしかできない事をしたい

それだけを探すだけに、日々を費やしている


まるで空気のような存在?
自分自身を否定して、その言葉に涙している

私はここにいるはず
私は、ここにいていいのか?
自問自答の繰り返し
答えなど、誰も持っていない

なぜならそれは
誰もがここにいる意味を知らずに入るのだから
誰もが、自分が何をすべきか知らないのだから

あなたは知っていますか?

自分が、ここにいるだけの意味を




ごめんね 楽静11月20日

机にすがりつくようにして眠る君の
そのあどけない寝顔が
何故こんなにも気になってしまうのか分からないけど

でもね
自分でもおかしくなるくらいに
不安になってしまうんだ
このまま君が起きないんじゃないかって

だから 許してくれよ
時々君の頭を小突く僕を




別れ 楽静1999年11月20日

瞳の中にいつもあなたの姿を映していた
あなたを、私の中にずっととっておきたくって

別れが近いことが分かって、一層その思いは強くなった
私の中で脹れる気持ちをあなたに教えたいのだけれど
そう簡単に、物事が進むわけが無く
ただ、時だけが過ぎていった

あなたがこれから行く道を
私はもう、見る事が出来ない
同じ空間にいたという事実さえ、あなたは忘れてしまうかもしれない
私という存在を、どうしたらあなたの中にとどめられるのだろう?

答えなんて出せなくて
意気地なしの私はただ
いなくなってしまったあなたの机を今日も見ている





「箱」作楽静1999年11月27日

箱の中にいる
日の光をカーテンで隠し
人工的な明かりの下で
皆、一様に同じ椅子に座っている

何個にも分けられた窓から
空を流れるくもを盗み見る
教師の声が厳かに響き渡り
権力と、思考と、義務と責任の圧力の中
私は静にあくびをかみ殺す





衝動 作楽静1999年11月27日

放課後の校庭には運動部の声が響き渡り
夕日に赤く染まった彼らが苦しそうに体を動かす

そんなにがんばって何が生まれる?
苦しんだ挙句に待っている喜び
それは流した汗より重いのか?

教室に遅くまで残っている少女達は
将来の夢や希望を嬉々として話し合っている

君達のその話の何分の一が叶うというのだろう?
泡となって消えるための希望を話す意味はあるのか?


ぶらぶらと腕を振りながら寂しげに帰る人たちは
ただぼぉっと遠くを見て さまようように歩いている

あなた達の瞳に未来はあるのか?
のんびりと歩くそのうちに、時間はもうたっているのだろう?


私はあせっているのかもしれない
周りの風景全てがのんびりに映ってしまう
このままどこにいくのだろう
分からずいたあの頃を

今また見ている気がして
たまらずこの風景を壊したくなる




私事 作楽静1999年11月27日

たった一つの言葉を伝えることも出来なくて
たった一つの笑みを浮かべる事も出来なくて

見つめられたら目をそらし
何か聞かれてもすぐ答えられず曖昧な返事を返す

始終もじもじと手を交差し
いつも何か夢見る瞳をしている

空想が好きで
将来の夢もしっかりと持っているのに

誰にも打ち明けられず迷ったふりをしてごまかしている

弱いくせに強がって
偽善と優しさの違いにいつも頭を抱えている

優しくされればつけあがって
ほって置かれるとすぐ目を潤ませる

「〜のくせに」という決め付け言葉は嫌いなのに
「さすが〜」というおだて言葉にはすぐ照れてしまう

興味本位でなんにでも手を出して
失敗したらすぐにふてくされる

最低な人間と思いながらも
心のどこかで優越感を感じてる

それが
私です