詩の残骸
私はこれを詩とはあまり呼びたくない。
なぜならこれらの詩を作った時私は私ではなかったから……

2000年 5/19

――時のままに――

凍えきった時の 針の動きに身を引き裂かれ

止まる事の無い永遠のロンドが 
いつの間にか僕らの時間を突き放して行く

混乱している街角
腐臭のにおい漂う 人間の町

僕らはいつまでこの町で
時の臭いに捕らわれつづけるのだろう





――歩き――

歩きすぎた人々は
いつか 自らの歩む道へ不安を覚えていた

進まなければならぬ方向へ目を凝らし
進むべきか悩んでいる

「大丈夫」

背中からかけられる一言を待ってる人
そんな弱い奴になっていた





5/21

――仮面――

冷たい慈母の笑みを浮かべる仮面
私は涙でそれをぬぐった

微笑んだまま仮面は私の手の中で
無機質な愛を繰り返しささやく

棄てられず 私は仮面を通して世界を見る

頭の中でチリチリと
繰り返し 繰り返す

狂気にいつか心捕らわれる





――人――

一体 何の意味があるというのか?

人という生き物の中から生まれて
人という存在を消せずにいる我々の中に

誰もが自由を願いながら
同時に束縛を求めている哀れな獣

人は いつから人であると思ったのだろう?

私達は今も ヒトに過ぎないのに……





5/27

――無――

誰にでも笑顔で接して
多くの人々の中に点在する私

陰ある喜びに やがて私の肉体は切り刻まれる

誰も 「本当」など知らない

私はまだ
無のままだ――





――毒――

頭に流れる不快なリズム

多くの悲しみが、末端神経まで切り裂いていく
この世界にあるもの全てが 毒

私は探す モラトリアムという名の解毒剤

私はどこ?

この毒に喉まで朽ちる前に





6/5

――間――

いつの間にか
血が出る事を恐れる僕がいた

身体を傷つけることに目をそむけ
少しでも痛くないほうへと逃げる僕は

本当に いつの間にか
心にいくつもの 傷を追っていた





――ここは――

傷ついた翼じゃ空が飛べなくて
朽ちる身体をただ眺めている

足が手が腕が
だんだんと形を変え

みすぼらしい「自分」が顔を浮かべる

ああ
そうか

呟いた言葉だけがいつも空へと飛ぶ

私はただの 人だった……





6/25

――価値観――

何が必要なのですか
何が生まれようとしているのですか

だれも答えぬままに見過ごして
自分だけの 思い 抱きしめている

何を見ているのですか

求めすぎて いつの間にか
失われて行く 人の証……





――街角――

街角で歌う控えめの詩人は
自分の声が恥ずかしくて 歌を歌えず

他人の歌では自分の心は語れなくて

ただ 両手で身体を抱きしめている

焦点を合わせず空を見る目
時折小さく開く唇

そして 控えめな詩人は空に瞳で歌を奏でる


 ここから出してください
 私をここから


 ココカラダシテ――と





7/5

――ともし火――

希望の炎を私はともそう
けして消えることの無い不滅の炎を

誰もがこの炎に集まり
そして永久の幸せが続くよう


……幻想と 久遠のまどろみの中

私は今日も

希望の二文字に恋焦がれる





――涙――

黙ったままであなたが流した一つの雫

私には止めることなどできなくて
ただじっと黙って待っていた


涙をふいたあなたは
夕暮れ時の子供の笑顔で言った

「さようなら」

あなたの涙をとめれたら

私は

去り行くあなたも止めれたのだろうか――





7/28

――呻――

世に流れる全ての事柄に苦しめられる日がある
誰に何を言っても始まらないくせに


この身を内側から焼いていくどす黒い炎

救われたい私のうめきは
この空へ いつか雨となって流れ落ちる


壁に叩きつけたこぶしから流れる血に口付けを――

そして夢見る 再び笑うときを





――風――

君は誰がために流れるのか?
何がために その身体を地に叩きつけるのか

悲しみと

怒りと

喜びを呼ぶ

君よ

私は君を崇めよう だから吹くのだ
始まりと終りのみ使いよ

その手に持ちし楽器を吹き鳴らせ

君の名は 風
私の求める 自由の象徴