10年経ったらきっと...
作 楽静


登場人物

元岸原中学校の生徒達
オカモト トモキ(岡本 友喜) 男 現在フリーター。中学時代はクラスの中心的存在。
ワタセ  ユウスケ(渡瀬 優助) 男 現在サラリーマン。中学時代はクラスで一番モテた。
セキグチ タダシ(関口 正) 男 現在悪徳商法営業。中学時代は正義感の強い少年。
ナカオミ ナオヤ(中臣 直也) 男 現在バー勤め。中学時代は三馬鹿の一人。フェミニン。
クラノ  マナミ (倉野 真美)  現在??? 中学時代は嘘つき少女。
サクラギ  ヒリナ (桜木 ひりな)  現在OL。中学時代は三馬鹿の一人。友情大事。
コザワ  レイコ (古沢 礼子)  現在写真家。中学時代は三馬鹿の一人。頷き担当。
ナイトウ カナコ(内藤 可奈子)  現在一児の母2年目。旧姓加賀。中学時代は大人。
現岸原中学校の生徒
ナイトウ ユウキ (内藤 有希)  現在岸原中学二年生。不登校。十年前母を亡くす。
岸原中学校の職員
サトノ  キノ (里野 喜乃)  現在岸原中学校 教頭。十年前は同校三年一組教員
ニイムラ チエ(新村 千恵)  現在岸原中学校 職員。二年1組担任。十年前は中学生。

※ 途中の声は、初演では照明担当の子に言ってもらいました。
※「ワタセ」と「ユウキ」以外は、特に名前が台本のとおりである必要はありません。これらの名前は、初演時の役者の名前をもじったものか、役者がつけたい名前をつけています。



      秋から冬に変わる頃の物語。休日の昼から夕方頃の時間帯。天気は雨から晴れへと変わる。
      この日、岸原中学校には元岸原中学3年1組の生徒が集まる予定になっている。
      当時三年生の使っていた教室は、生徒数の増加から今は二年生が使用する教室になっていた。
      舞台には中央に教室。教室以外の場所は廊下であったり、それ以外の場所になる。
      途中、ワタセが運び込む箱は、観客からは時折中身が見えるが舞台上の人物たちには中は見えない。

01 オープニング

      ユウスケだけが浮かび上がる。ユウスケは教室にある箱に入っている風。
      どこか怒号のような声が聞こえる。

ナカオミ声 ワタさん!
トモキ&セキグチ声 ワタセ!
サクラギ&ナカオミ&コザワ声 ワタさん!
トモキ&セキグチ声 ワタセ!
サクラギ&ナカオミ&コザワ声 ワタさん!
トモキ&セキグチ声 ワタセ!
サクラギ&ナカオミ&コザワ声 ワタさん!
トモキ&セキグチ声 ワタセ!
サクラギ&ナカオミ&コザワ声 ワタさん!
ユウスケ 俺を呼ぶ声が聞こえる。このワタセユウスケを呼ぶ声が。どうやらいよいよ登場時間のようだ。
    ……飛び出す瞬間、俺は思い返していた。そもそもの始まりとなる、一本の電話のことを。

      サクラギ、ナカオミ、コザワ、セキグチ、クラノ、カナコは、それぞれ舞台上で時間を過ごし方をしている。
      ナカオミの顔は観客には見えない。仕事をしている風の者もあれば、遊んでいる者もいる。
      中央で、トモキはそれぞれの登場人物達に電話をかけている。それぞれ登場人物が、一人の人と話している。
      その会話の断片が見ている人に聞こえる。登場人物達は電話をしながら去っていく。

トモキ あ、もしもし、オカモトです。覚えてるかな? オカモトトモキ。中学の時、同じクラスだったよね?
クラノ へぇ。懐かしいわね。
サクラギ うん。覚えてるよ。
コザワ 10年ぶりだっけ? 
セキグチ 久しぶりだな。 え、
クラノ&サクラギ&ナカオミ&セキグチ 同窓会?
サクラギ いいね。行く行く。それで、
ナカオミ どこでやるの?
クラノ&サキラギ&ナカオミ&セキグチ 学校!?
サクラギ まじで!?
クラノ いつ? 
セキグチ ああ。わかった。空けとく。いい儲けになりそうだし。いや、こっちの話。

      サトノが現れる。

サトノ 10年ぶりか。あっという間だったわね。懐かしいわ~
トモキ 先生、それで、「あれ」覚えてます?
サトノ 「アレ?」……ああ。「アレ?」 覚えてるわよ。埋めたわよね。掘り出す? もちろん大丈夫。先生に任せておきなさい!
トモキ ……という感じなんだけど、カガさんは来られる?

      サトノが去るのと入れ替わるようにカナコが現れる

カナコ 一人、連れて行きたい子がいるんだけど大丈夫?
トモキ 別にいいと思うよ。その人が気にしないなら。
カナコ ありがとう。(と、電話を切る)

      トモキが去るのと入れ替わるようにユウキが立っている。ユウキは見るからに引きこもりな格好。

カナコ ……そういうわけなんだけど、ユウちゃん、一緒に行ってくれる? 
ユウキ ……(首を振る)
カナコ ……一緒に行ってくれたら、おいしい食事ごちそうしてあげる。……駄目か。新しい服は?
ユウキ いらない。
カナコ ……インターネットの回線を、光通信にしてあげるって言うのは? 
ユウキ ……行く。
カナコ 良かった。じゃあ一緒に行きましょう。

      音楽。溶暗。

02 オカモトトモキとワタセユウスケの作戦。

      トモキが電話をしている。

トモキ (携帯に向かって)え~ なに。来られないの? 明日早いんだ? 雨降ってるし? ああ、ちょっと降ってきたね。
   うん? そうそう。(と、周りを見て)いや、全然変わってないよ。今は二年生の教室になってるってくらいかな。

      と、長方形で人が入れるほどの大きな箱(観客からは側面から中が見える。)
      をもってユウスケがやってくる。ユウスケはしんどそうにしている。

ユウスケ おい、トモキ、どうするんだこれ。
トモキ (電話に)あ、ワタセが呼んでるから。また。え? ワタセだよ。ワタセユウスケ。ほら、修学旅行で、
ユウスケ おい、トモキ? 降ろして良いのか?
トモキ そうそう! メガネのさ、ほら、結構女子に人気あった、違う違う。風呂でブリーフ盗まれたのはタダシだよ。
   アレ結局犯人捕まらなかったよね。タダシ、あの後どうしたんだっけ? ……え? うそ? ハンカチで?
ユウスケ トモキ!? いい加減、きついんだけど。
トモキ (ユウスケに)あ、ごめん。(と、電話に)じゃあそろそろ。うん。タダシの話はまたの機会にね。(と、電話を切る)
    やっぱりタカオ来られないってさ。
ユウスケ そうか。いや、それよりこれをどうするんだ。
トモキ とりあえず、こっち来られる?
ユウスケ おう。
トモキ こっち置いて。
ユウスケ おう。(と、箱を置く)
トモキ 入って。
ユウスケ おう……はぁ!?
トモキ 箱に入って。
ユウスケ なんで!?
トモキ ウケるためだよ! 当たり前だろ!?
ユウスケ ウケる?
トモキ せっかく10年ぶりに集まるクラス会。なにか目立つことをやりたいって言ったのはワタセだろう?
ユウスケ そりゃ言ったけど。
トモキ みんなが集まって、ワタセだけいないなって話になった瞬間、呼び声と共にここから登場! 目立つこと間違いなし!
ユウスケ そりゃ卒業してから集まったことなかったし、久しぶりに会うからには目立ちたいとは思う。だからってこれは……
トモキ だからこれを、頑張って作ってきたんだよ。三日がかりで! ワタセのために。
ユウスケ 俺のために?
トモキ 当たり前だろ。
ユウスケ トモキ。お前と会うのも何年かぶりだって言うのに……
トモキ 幹事として、いや友人としては当然のことだよ。入ってくれるよね?
ユウスケ しかし、ウケるのか? これが。
トモキ ウケるって。絶対面白いって。
ユウスケ でも、いい大人が。
トモキ 大人だからだよ。まさか、25にもなった大人が、こんな箱から登場するなんて誰一人思わないよ。
ユウスケ そりゃ思わないだろ。みんな引くんじゃないか?
トモキ 俺は引かないよ。
ユウスケ お前も引いたら最悪だ!
トモキ 悩んでる暇はないんだよ。入る前に他の人が入ってきたら意味ないんだから。
ユウスケ わ、分かった。

      ユウスケは箱の中に入る。観客には箱中のユウスケの様子が見える

トモキ (箱に向かって)いい? ワタセのことを俺が呼ぶから。そしたら登場だからね。
ユウスケ 早めにしてくれよ?
トモキ 大丈夫だって。俺を信じて。

      ユウスケが箱の中に姿を隠しきる。

03 ニイムラ先生はトモキを怪しむ。

      と、ニイムラ先生が教室に現れる。右手に竹刀を持っている。箱に向かって話しているトモキを見て怪しむ。

ニイムラ その声は生徒じゃないですね?
トモキ え?
ニイムラ 保護者の方でもないですよね。休日の教室で、一人で、怪しげな独り言、もしかして……
トモキ 佐藤さん!?
ニイムラ はい?
トモキ うわ、本当に佐藤さん? 懐かしいね~。
ニイムラ いいえ。違います。
トモキ 違うのか。……じゃあ、鈴木さんだ。
ニイムラ なんですか「じゃあ」って。違います。
トモキ 高橋さんだ! 
ニイムラ いえ。
トモキ 田中さん? と、見せかけて渡辺(わたなべ)さん!
ニイムラ どれも違います。
トモキ 以上、日本人の名字ベスト5でした。佐藤が日本で一番多い名字なのは、藤原氏の勢力範囲が広かったかららしいよ。
   ……ごめん。やっぱり10年も経つと女の子は変わるね。全然名前分からないや。
ニイムラ なるほど。つまり、変質者の方ですね?
トモキ え?
ニイムラ まさか、校内でナンパをされるとは思いませんでした。流行ってるんですか?
トモキ しませんよ。ナンパなんて。
ニイムラ それはつまり、「お前みたいなメガネの似合いそうなオバサンはお呼びじゃないんだよ」ってことですか。
トモキ ナンパが目的じゃないって言ってるだけです! あと、メガネ、かけてないでしょ。
ニイムラ かけた方が良いとでも言いたいんですか!?
トモキ 言ってません!
ニイムラ ここで何しているんです?
トモキ あなたこそ何なんですか。校内でそんな物もって。何に使う気ですか。
ニイムラ 何にって、さすのに使うんです。
トモキ 刺す!? だれを!?

      と、サトノ先生がやってくる。

サトノ ああ、ニイムラ先生。こんなところにいたのね。丁度良かったわ。

同時に
ニイムラ その声は教頭先先生ですね。
トモキ サトノ先生!

トモキ え、ニイムラ先生?
ニイムラ 教頭先生、お知り合いですか?
サトノ え? あらあら、オカモト君じゃない。なんだ。もうこっち来てたの。
トモキ すいません。一応幹事なのでちょっと早めに行動しなくちゃと思って。
サトノ 学校についたら事務室であたしを呼んでって言っておいたと思うけど。
トモキ すいません。
サトノ まあいいわ。ニイムラ先生。こちら、オカモトトモキ君。ほら、今日同窓会をするって話してたでしょう? その幹事さん。
ニイムラ ああ。教頭が昔担当していたって言うクラスの。
サトノ そう。オカモト君、こちらニイムラ先生。今年度、この2年1組の担任をやってもらってるの。若いのに、とっても頑張っている先生よ。
トモキ オカモト、トモキです。
ニイムラ ニイムラです。それで教頭先生。なにか私に用があったんじゃ無いですか?
サトノ そうそう。ニイムラ先生、事務室に置いてあった竹刀、持って行かなかった? 体育科の鈴木先生が困ってたわよ。
ニイムラ いいえ。
サトノ その手に持っているのは?
ニイムラ 傘ですけど?
トモキ は?
サトノ ニイムラ先生。メガネメガネ。
ニイムラ 教頭、眼鏡かけてましたっけ?
サトノ 私じゃなくて、ニイムラ先生。眼鏡かけてみて。
ニイムラ はぁ。(と、眼鏡をかける)何でしょうか?
サトノ 手に持っているのは?
ニイムラ だから、か(さ)……鈴木先生は、事務室ですか?
サトノ ええ。ニイムラ先生の傘を片手に途方に暮れていると思いますよ。
ニイムラ 分かりました。

      ニイムラが去る。

サトノ ビックリしたでしょう?
トモキ ええ。かなり。だいぶ目が悪いみたいですね。
サトノ そうなのよ。でも、メガネをかけるのは好きじゃないみたいで。
トモキ 面白い先生ですね。
サトノ でしょう?
サクラギ&ナカオミ&コザワ声 先生~ 
サクラギ いつまで待ってれば良いの?
トモキ この声は……
サトノ あ、ごめん。案内してたの忘れてた。入って入って。私、ちょっと一度職員室戻るから。
トモキ あ、先生、例のアレは?
サトノ 大丈夫。業者さんに頼んだから。じゃあ、また後でね。

      サトノが去る。と同時にサクラギ、ナカオミ、コザワが入ってくる。それぞれ、ボーイッシュ、きれい系、かわいい系。

サクラギ あれ。トモキ?
コザワ あー。トモキじゃん。
トモキ えっと、サクラギ? に、コザワさんに……
ナカオミ トモキくん? うっわ。懐かしい~。
トモキ ナオヤ!? ……どうしたんだよ。その格好は?
ナカオミ 似合ってない?
トモキ 似合ってないとか、そういう問題じゃないと思うんだけど。
ナカオミ (サクラギとコザワに)ほら。だからちょっと地味じゃない? って言ったじゃん。
サクラギ え~。でも、それ以上派手にしたらやばいって。
コザワ ナオが捕まっちゃったらあたし達困るし。
ナカオミ 捕まらないよ!
トモキ 三人とも仲いいのは変わってないんだ。
サクラギ あたしら高校も一緒だったから。ね?
ナカオミ&コザワ ねぇ~
トモキ サクラギもコザワさんも変わってないな。
コザワ 人のこと言えないでしょ。
サクラギ てか、普通は、「綺麗になったね」とかお世辞でも言うものじゃない?
トモキ 言われたいの?
サクラギ まさか
ナカオミ まぁ10年くらいじゃ、人間変わりっこないよねぇ

      トモキはナカオミを見ると、サクラギとコザワを引っ張っていく。

サクラギ ちょっと、なにするのよ。
トモキ あのさ、あれは、ナオヤだよね
コザワ そうだよ。
サクラギ まあね。
トモキ あんなんだったっけ?
サクラギ それ、聞きたい?
コザワ あのね。まず、高校入ってすぐに好きになった人がね、
トモキ いや、いい。聞きたくない。

      ナカオミはいつの間にか三人の側にいる。
      そこにくっつくように、いつの間にかクラノがいる。お化けのように立っている。

ナカオミ なに? 三人で集まっちゃって。何の話?
トモキ&サクラギ&コザワ いや、なんでもないって、(と、クラノに気づき)うわっ!?
ナカオミ 酷いよ。人の顔見て噴き出すことないじゃん。これでも、今日は薄めなんだから。
トモキ&サクラギ&コザワ じゃなくて後ろ!
ナカオミ 後ろ?
トモキ&サクラギ&コザワ&ナカオミ (と、クラノを見て)……誰?

      教室が暗くなる。

04 廊下

      セキグチが廊下を歩いてくる。片手に箱。片手に傘を持っている。スーツ姿。ちょっと鼻歌気味。
      反対から、バットを持ったニイムラがやって来る。セキグチが止まる。

セキグチ ……あれは、こないだの客!? 何でここに……って、まずいっ。

      思わず背中を向けるセキグチ。やや、不審に思ったのかニイムラが立ち止まる。

ニイムラ こんなところに柱が?
セキグチ 違います。
ニイムラ 失礼しました。保護者の方ですか?
セキグチ いえ、卒業生で。その、
ニイムラ ああ。教頭の。
セキグチ 教頭?
ニイムラ いえ、サトノ先生の生徒だった方ですね? 皆さん、集まられてますよ。
セキグチ そうですか。えっと、教室は……
ニイムラ 三階です。
セキグチ ありがとうございます。
ニイムラ 今は二年生の教室になりますので。二年、一組です。
セキグチ わかりました。では。
ニイムラ あの、
セキグチ は、はい?
ニイムラ いえ。すいません。ちょっと知っている声に似ていた気がしたので。失礼します。
セキグチ あ、外、雨降ってますよ。
ニイムラ ええ。大丈夫です。これがありますから。(と、バットを見せ、去る)
セキグチ なんでバット?

      首をかしげつつ、セキグチは去る。雨音。
      しばらくしてニイムラが戻って来る。
      体の水滴を払う動作。バットを睨む。そして眼鏡をかける。

ニイムラ ……惜しい。

      と、カナコがやってくる。傘をたたみつつ、自分がやってきた方向に向かって、

カナコ ねぇ。私はこっちから入っていいのよね? ねぇ? ユウちゃん? ユーキちゃん?

      渋々という感じでユウキがやってくる。中学の制服姿。

ユウキ いいんじゃない。
カナコ ちょっとついて来てよ。
ユウキ なんで。
カナコ ちょっとだけだから。
ユウキ 意味わからない。
カナコ 靴は脱いだ方がいいのかな? あ、でも土足OKだったよね?
ユウキ それ、前来た時も聞いた。
カナコ ごめんなさい。そうだったっけ? あ、でもあの時は保護者としてだったけど、今日は卒業生として入った方がいいのかな?
ユウキ 私に聞いても仕方ないでしょ!
ニイムラ ナイトウさん?

      ユウキはニイムラに気づく。

ユウキ (舌打ち)
カナコ あら。ニイムラ先生。お久しぶりです。
ニイムラ 久しぶりですね。どうしたんですか今日は?

      と、去るユウキ。

カナコ (気づかず)見て下さい。やっと、やっと連れて来れました。
ニイムラ 今、すごい勢いで逃げちゃいましたけど。
カナコ え? って、ユウちゃん! 待って!
ニイムラ ナイトウさん!

      カナコとニイムラが去る。

05 正直タダシと嘘つきクラノ。

      再び教室に戻る。サクラギ、ナカオミ、コザワ、トモキ、クラノがいる。皆、若干まったりしている。

ナカオミ も~クラノさん。来てるなら言ってよ。
クラノ ビックリするかと思って。
サクラギ そりゃびっくりするわ。
トモキ てっきりお化けかと思ったよ。
ナカオミ 僕、悲鳴あげるとこだった。
クラノ そんなに存在感あった?
サクラギ ある意味ね。
コザワ クラノさん。なんかずいぶん雰囲気変わったね。
クラノ そうかしら。
サクラギ いや、変わったって言うか、その、
ナカオミ 丸くなった的なのだよね?
コザワ ううん。どっちかっていうと、暗くなった?
サクラギ ばかっ。
トモキ 楽に! なったよね。楽に。
クラノ そう?
サクラギ&ナカオミ そうそうそう。
コザワ 意味わからないよ。
サクラギ いいの。分からなくて。
ナカオミ 今日は、あと何人来るの?
トモキ えっと、俺に、サクラギ、ナカオミ、コザワさん、クラノさんでしょ、あとカガさんと、ワタセ、それから、
コザワ ワタセ!?
ナカオミ え、ワタさん来るの?
クラノ ワタセくんか。
サクラギ へ?会うの楽しみね。
コザワ あんた、ワタセのこと好きだったもんね。
サクラギ それ誤解だって言ったでしょ。どっちかっていうとさ、
ナカオミ (コザワに)自分もワタさんのことはお気に入りくせに。
コザワ だって、ワタセ面白いんだもん。
クラノ 確かに面白い顔よね。
コザワ 顔は格好良かったじゃん。
クラノ そう?
サクラギ 格好良くなってるかなぁ。
ナカオミ 確か、私立行ったんだよね。
トモキ まぁ、ワタセのことはね、あとの楽しみって事で。あとはセキグチタダシ。

同時に
ナカオミ セキグチくん!?
サクラギ&コザワ セキグチ~!?

クラノ セキグチ君……
サクラギ 「正直セキグチ」か? あいつ、いつも正論ばっか言うから苦手だったなぁあたし。
ナカオミ 僕ら結構、彼に怒られてたしね。
トモキ まぁ、タダシ、真面目だったからね。
コザワ あたしもあいつ苦手。クラノさんもでしょ?
クラノ あの人とは、あまり、波長が合わない気がしてたわね。

      と、セキグチがやってくる。

セキグチ ちーっす。
トモキ お、噂をすれば。
セキグチ なんだよ、人が来る前に悪口大会か?
ナカオミ セキグチ君!? 久しぶりだねぇ。
セキグチ おお。……えっと、誰?
ナカオミ ナオヤだよ。ナカオミナオヤ。
セキグチ ああ。ずいぶん変わったなぁ。
サクラギ セキグチ?。あんたなにその格好。ビシッとしちゃって。
セキグチ 忙しいんだよ。毎日ね。
コザワ 仕事、なにやってんの?
セキグチ 今は営業。遠塚製薬って、聞いたことない? そうだ。一つどう?(と、箱からペットボトルを出す)
コザワ なにこれ?
セキグチ うちで出してる、激(ゲキ)美肌水。
サクラギ 美肌水? 化粧水なのにペットボトルに入ってるの?
セキグチ いいや。飲むコラーゲンという感じかな。特にコラーゲンの主要成分である、ヒドロプロリンを多量に含んだ、
    美容促進を歌った健康飲料水。それが、遠塚製薬が自信を持ってお届けする、特定医療食品見込みの、激(ゲキ)美肌水だ。
ナカオミ へ~。
セキグチ 効果としては、新陳代謝を高め、老廃物を除去し、肌にはハリを。脂肪をつけにくくし、運動に比例して脂肪を効率良く燃やすのにも
    役立つ。と、健康と美容に特化した飲料水としてはこれ以上無いんじゃないかって品だ。
コザワ すごいじゃん。
サクラギ でも、なんかただの水っぽいんだけど。パッケージも地味だし。
セキグチ それが狙いなんだよ。あからさまな容器だと、美容に気を使っているのが丸わかりで気恥ずかしいだろう? 
    これならぱっと見、ただのミネラルウォータにしか見えない。だからこっそり美容に気をつけられるってわけ。
ナカオミ 確かにそうかもね。
トモキ そんなものなんだ?
セキグチ まあ、唯一の欠点をあげるなら、多分(と、サクラギとコザワに)おまえら二人にはあまり効果は無いって事かな。
サクラギ なにそれ。
コザワ どういう意味?
セキグチ すでに美人だったり可愛い子には効果が薄いんだよ。美容維持の効果くらいにしかならない。
サクラギ うまいこと言っちゃって。
セキグチ まぁ、飲み続ければ、その状態を20年はキープ出来るはずだけどな。
コザワ 一本頂戴。
セキグチ 喜んで。
サクラギ これ、どこで売ってるの?
セキグチ こちらに定期購入の書類が。
サクラギ ちゃっかりしてるんだから。
ナカオミ 僕も、もらえる?
セキグチ もちろん。男だって、美容には気を使うよな。
トモキ おいおい。同窓会で商売するなよ。
セキグチ ただの挨拶だって。そこの……もしかして、クラノ?
クラノ ええ。
セキグチ そっか。久しぶり。どう? 一本。
クラノ 私はいいわ。
セキグチ 今より可愛くなるチャンスだぞ。
クラノ 悲しくなるチャンスにしか思えないもの。

      と、クラノは去る。

トモキ ほら、変に商売気だすから、クラノさん怒っちゃった。
セキグチ あれくらいで怒るような奴だったっけ?
サクラギ やっぱり、クラノさん、ちょっと変わったよね。
コザワ なんか陰気になったね。
ナカオミ 確かに、昔はもうちょっと明るかったよ。セキグチ君も、変わったけど。
セキグチ そうか?
トモキ 変わったよ。
ナカオミ 昔はもう少し真面目な感じじゃなかった?
セキグチ 人は変わるんだよ。あれから十年だぞ? クラノだってそうだろ。
サクラギ まぁ、嘘をつかなくなっただけ良いんじゃない?
ナカオミ あ~ついてたよね、嘘。
コザワ あたし、心の中でずっと「嘘つき女」って呼んでたもん。
トモキ ひどいなぁ。
コザワ だって、嘘つきだったじゃん。
サクラギ ほら、なんか大きな屋敷に住んでいるとかさ。
トモキ え、アレ嘘だったの?
サクラギ で、セキグチがいつも真っ正面から切り捨ててたよね。
コザワ 切ってた切ってた。
セキグチ そうだっけ?

      雰囲気が変わる。どこかに、クラノが浮かび上がる。中学の時のクラノだ。クラノは今よりも明るい。

クラノ あたしの家? 丘の上にあるお屋敷だよ。そこにね、婆やと住んでるんだ。父も母も忙しいから、あたしのことは婆やが育ててくれたの。
   ちょっと寂しいけど、ペットのクロがいるから寂しくないよ。あ、クロわね。ワニなんだ。賢いんだよ。
コザワ へ~そうなんだ。
ナカオミ この辺に丘なんてあったっけ?
クラノ 学校からちょっと遠いの。
サクラギ 今度家へ行っても良い?
クラノ ごめんなさい。婆や、知らない人が来るのをあまり歓迎しないから。クロも人見知りするし。
セキグチ 嘘だね。
クラノ ……嘘じゃないよ。
セキグチ クラノさん、三者面談はお母さんと来てたよね。
クラノ あれは別のお手伝いさん。うちのお母さん、忙しいから。
セキグチ 嘘だ。目元とかすごい似てたし、しゃべり方も、動作の癖がそっくりだったよ。
クラノ 偶然じゃない? 
セキグチ 一つや二つならね。でも三つ以上似た点があるなら、それは偶然じゃないよ。そんな君にそっくりなお母さんの服装からして、
    中流以下という可能性はあっても、中流より上、さらに屋敷を構えられるほど、というのは嘘だと判断するしかないよ。
クラノ 丘の上って不便だから、割と安く買えたんじゃないかな。
セキグチ それも嘘。お屋敷なんだろう? 一般の家と同じ感覚では買えないよ。だいたい、セキグチさんちの住所の場所ってさ、丘なんて無いよね。
クラノ 地図に書かれるほど、大きな丘じゃないから。
セキグチ 嘘。地図に書かれない丘は、もう丘とは言えない。ちなみに、クラノさんの住所辺りだとマンションはあるけど、
    屋敷はないはずだよ。あと、ワニは成長すると2メートル超して、力も強力になるんだけど、分かってて飼ってるの? 
    まぁ嘘だよね? しかも、婆やだなんて。子供の面倒を見るためにお手伝いさんを雇うにしても、普通は若い人で、
    婆やはないだろうと思うけど。そういう嘘つくのやめた方が良いよ。
クラノ 嘘じゃないよ。
セキグチ 嘘だよ。全部嘘だ。

      クラノがうつむいて去る。

06 そして集合。

      電話の音。急速に元の空気に戻る。

トモキ あ、ごめん。電話。

      トモキが四人から離れる。四人は思い出話をしている。四人とは別に、トモキとユウスケが浮かび上がる。

セキグチ 嘘つきクラノか。
ユウスケ いつまで待たせるんだよ。
トモキ 悪い。でも、あと一人だから。
サクラギ 一人でなんか変なとこ見てたよね。
コザワ 見てた見てた。
ナカオミ 何を見てたんだろう。
ユウスケ 何も見えないんだぞ。
トモキ ごめんって。
ユウスケ なんか寂しくなってきたし。
サクラギ 寂しかったんじゃない?
ユウスケ 一人ぼっちの気持ちになるし。
コザワ 一人だったもんね。
ナカオミ 一人だったよね。
トモキ 一人じゃない。お前は全然一人じゃないよ。
セキグチ 案外、本当になにか見えていたんだったりしてな。
サクラギ (幽霊のポーズ)こんなの?
コザワ 聞こえてたりして。霊の声とか
ユウスケ そのうち泣くぞ俺。
セキグチ すすり泣く霊が、すぐそこに! とかな。
ナカオミ 学校で怖い話はやめてよ~ 
サクラギ 幽霊はお墓でじっとしているものでしょ。
トモキ カガさんが来たら、すぐに呼ぶから。それまでじっとしてて、「せーの!」で出る感じで。
コザワ でも、お墓にいませんって歌あったよ。
セキグチ 「千の~」だろ。
ユウスケ 「せーの」だな。
コザワ 「千の」なんだっけ?
トモキ 「せーの」で。
サクラギ 「千の」

      と、クラノが戻ってくる。じっと箱を見ている。

クラノ ねぇ。なにか変な声がしない?
トモキ じゃ、後で。声ってなに?
クラノ こもったような。
ナカオミ え、やっぱりいるの? ここに? なにかが?
コザワ クラノさん、霊感あるの?
クラノ どうかしら。
サクラギ (セキグチに)どう思う?
セキグチ さぁ。いるかもね。
トモキ いないよ霊なんて。それより、みんな揃うまで何しようか。

      と、そこへニイムラとカナコがやってくる。ニイムラは眼鏡を外している。

ニイムラ こちらです。
カナコ ありがとうございます。
サクラギ お、カナコ?
トモキ カガさんっ。
カナコ みんな、久しぶり。元気だった?
コザワ 元気元気。
ナカオミ カナコ、あまりかわってないねぇ。
カナコ そうかな?
セキグチ これで、後はワタセだけか。
トモキ ごほん(咳払い)実はね、
ナカオミ ワタさん遅刻か?。なんか中学の時もしょっちゅう遅刻してたよね。
トモキ え?実はですね、
 
      と、そこへサトノがやってくる。

サトノ あらあらみんな集合?
カナコ 先生。ご無沙汰しています。
サトノ ええ。元気そうで何よりね。
トモキ よし、先生も来たところで、衝撃発表しちゃうよ、
サトノ ちょっと待って。ほら、そんなところにいないで入って来て。

      ユウキ入ってくる。そっぽを向いている。

ニイムラ ナイトウさん。
カナコ ユウちゃん。良かった。荷物置いたら探しに行こうと思ってたの。
ユウキ だと思ったから。
カナコ ありがとう。
サクラギ だれ? その子。
サトノ この子のクラスなのよ、ここ。なのに廊下でもじもじしてたから。
トモキ あの、聞いてみんな。
セキグチ そりゃ入りづらいよな。こうおばさんが集結していちゃ。
コザワ おばさん!?
サクラギ だれがおばさんよ。
クラノ おじさんもいるわ。
ナカオミ 僕らまだ若いでしょ。
セキグチ このクラスの子ってことは、今13か14だろう? それくらいの子にとって、25なんておばさんだよ。
ナカオミ 11才差か。それなら仕方ないかも。
サクラギ あたしはまだ24だ。
コザワ 早生まれだもんね。
トモキ え?、あの~皆さん、実はですね?
カナコ あのねみんな。実はね、この子も参加させて欲しいの。
サクラギ え、そりゃべつに構わないんだけど、
コザワ その子、カナコのなんなの?
トモキ おーい、聞いて?
コザワ イトコ! あ、ハトコだ!
カナコ えっとね、
トモキ あのね、すごいびっくりすると思うんだけど、今からすごいの出るから。
カナコ いや、そこまですごくはないと思うけど。
トモキ せーので言うからね!
カナコ え、せえの?
トモキ はい、注目! 

      言われて皆は思わずカナコを見る。トモキは気づかない。

トモキ せーの!!
カナコ こ、この子、私の娘なんだ!!

      オープンする箱。飛び出すユウスケ。見てないみんな。

トモキ&サクラギ&ナカオミ&コザワ&セキグチ&クラノ&サトノ えぇぇぇぇ!? 娘!?

      箱に戻っていくユウスケ。

サクラギ え、なに娘って、
コザワ カナコ、うちらと同い年だよね?
ナカオミ え、結婚してたの? いつ?
セキグチ 今14歳ってことは11の時の子か?
クラノ 頑張ったのね。
コザワ うわっすごい、触っていい?
サクラギ あたしも触る。
カナコ ううん。実の子ってわけじゃなくて、
セキグチ だよな。さすがにそりゃないよな。
コザワ 先生知ってたんですか?
サトノ 知らない知らない。
ニイムラ ちなみに、ナイトウユウキさんの担任は私です。
サトノ ニイムラ先生! そういうことは教えてよ! てっきり、イトコかなにかかと。
ニイムラ 言ってませんでしたっけ?
コザワ ナイトウ?
カナコ 結婚したから。名字変わっちゃって。
サクラギ 結婚か?
コザワ そういえば、橋本くんも結婚したんだよね。
サクラギ 橋本タカオね。野球部の。
セキグチ へぇ。あいつ結婚出来たの?
ナカオミ なんか職場の人ととか言ってたね。
コザワ あと、山田君と小林さんも結婚だってよ。
セキグチ うわっ。俺知らなかった。
トモキ 駄目だ。もう収集がつかない。
サクラギ やっぱりそういう年だよねぇ。
コザワ いいなぁ。結婚。憧れるね。
クラノ 実は、私も結婚してるわ。
トモキ&サクラギ&ナカオミ&コザワ&セキグチ まじで!?
クラノ そんな驚く事?
ナカオミ 驚くよ!
コザワ 出来たんだ。結婚。
クラノ 失礼だと思う。
トモキ ごめんワタセ。俺にはもうまとめられない。
ユウキ ……バカみたい。

      音楽と共に溶暗

07 数十分後。

      トモキとユウスケが浮かび上がる。

トモキ ごめん。
ユウスケ ……いいよ。もう。
トモキ すぐにみんなでワタセコールするからさ。そうしたら、登場って事で。
ユウスケ うん。
トモキ そんな怒るなよ。
ユウスケ 怒ってないよ。
トモキ 怒ってるじゃん。
ユウスケ じゃなくて。なんかずっと箱の中いたから。
トモキ うん。
ユウスケ 眠くなってきた。
トモキ 寝ちゃ駄目だ! すぐだから。ね。頼むよ。

      明るくなって教室内。皆適当にそこら辺にいる。サクラギ、ナカオミ、コザワ、セキグチはやや固まって。
      そのすぐ近くにカナコ。クラノは少し離れている。教室の隅にニイムラとサトノとユウキ。

セキグチ おーい。
トモキ じゃあすぐに呼ぶから。

      トモキは電話を切り、皆の元へ戻る。

セキグチ 幹事がいないと始まらないだろ。
トモキ ごめんごめん。
ナカオミ でもびっくりしたよね。
サクラギ 一瞬、中学時代すでにお母さんだったのかと思ったわ。
コザワ カガさん、昔からすごい落ち着いてたもんね。
カナコ そうかな。
サクラギ でも、今中学二年生か。若いよねぇ。
コザワ うちらも、こんな時代があったんだね。
ナカオミ ねぇ~。
セキグチ ほら、そこ話してないで飲み物配るから受け取って。
コザワ&ナカオミ はーい。
サクラギ って、これさっきの水?
セキグチ 美味しかったら是非購入を。
サクラギ 本当、ちゃっかりしてるんだから。
トモキ あ、ニイムラ先生にも、あげてくれる?(と、ユウスケの入った箱を気にしながら)
ニイムラ いいんですか?
サトノ ええ。今はここのクラスの担任だし。新旧揃ってていいじゃない。
ニイムラ わかりました。
セキグチ ジュースでいいですか?
サクラギ え、水は?
セキグチ ごめん。人数分しかなくって。
コザワ 私のいいよ。
セキグチ いや、お前は飲んでよ。
コザワ いいよ。さっきちょっと飲んだし。
ニイムラ いえ。気にしないでください。水にはあまり良い思い出がないんです。
サクラギ なにそれ。
ナカオミ 美容にいいらしいですよ?
ニイムラ そういう水には余計いい思い出がないんです。ちょっと前に、騙されたことがあって。
コザワ&サクラギ&ナカオミ へ~。
セキグチ まぁまぁ、いいじゃないそういうのは。ね? はい、ジュースです。
ニイムラ あの、
セキグチ は、はい?
ニイムラ どこかで会ったことありますか?
セキグチ いいえ? 初対面ですよ。
ニイムラ そうですか。すいません。ちょっと聞いた事ある声だったので。
セキグチ (変な声になって)さぁ、みんな乾杯しようか。
トモキ なんだよ、変な声だして。
セキグチ (変な声のまま)こんな声だっただろう?
クラノ お酒がないのが寂しいわね。
サクラギ お、クラノさん言うね。
ナカオミ まぁ、そこは学校だから仕方ないよ。ほら、幹事さん。
トモキ え? 俺? いいのかな。
コザワ 一応、幹事なんだし。
トモキ そっか。ではですね、

      と、放送が入る。

声 教頭先生、教頭先生、事務室まで起こしください。繰り返します。教頭先生、教頭先生、事務室まで起こしください。
サトノ あら、ごめんなさい。ちょっと席外すわ。ニイムラ先生、よかったらあたしの分、
セキグチ いや、それは先生に、俺は飲んで欲しいです。
サトノ そう? じゃあ、後でいただくわね。

      と、サトノ去る。

ナカオミ 忙しいんだね。教頭先生って。
サクラギ そうね。
コザワ ま、とりあえず、乾杯しちゃおうか。
カナコ あの。この子にもいい?
トモキ あ、そうか。ごめんごめん。
セキグチ ユウキちゃんはジュースがいいかな。
ユウキ ……。
カナコ そうね。その方がいいと思う。
セキグチ OK。
ユウキ 私いらない。(と、去ろうとする)
カナコ ユウちゃん。どこ行くの?
ユウキ 別に。(と、去る)
ニイムラ 私、見てきましょうか?
カナコ すいません。
ニイムラ いえ。担任ですから。(と、去る)

08 ワタセコール。

カナコ ごめんなさい。空気悪くしちゃって。
トモキ いや、別に。
サクラギ あまり、うまくいってないの?
カナコ まぁ、あんまりね。
コザワ 大変だよね。あれくらいの年齢の子って。
カナコ うん。結婚するまでは、ううん。あの子が小学生の頃は仲良かったんだけどね。
サクラギ 色々変わるからね。中学入ると。
ナカオミ でも、あんな感じで、学校うまくいってるの?
カナコ ……行ってないから。
ナカオミ それって学校自体にってこと?
セキグチ 不登校ってやつか。
カナコ 夏休み終わってから、ね。だから、今日はいい機会だと思って。でも駄目ね。無理やりだと。
サクラギ ああいうの見るとあたしイライラするけどね。
コザワ あんたは殴ってそうだよね。
サクラギ 殴るね。思い切り。中学生がなに人生知ったつもりになって引きこもってんだよって感じ。
カナコ やっぱり年が近いせいかな。なんか、色々うまくいかなくって。
セキグチ 旦那さんは何も言わないのか?
カナコ 忙しい人だから。
クラノ 大変ね。
トモキ ……はい! なんか暗い空気を壊すためにも、ここでワタセコールをします。
セキグチ なんだそれ。
クラノ 呼んだら来るものじゃないと思うけど。
トモキ 来るかもしれない。いや、きっと来る。はい、皆さんごいっしょに。わーたーせ、わーたーせ、
ナカオミ わーたーさん。わーたーさん。
トモキ わーたーせ。わーたーせ、
コザワ わたーせ、わたーせ。
セキグチ わたせー。
トモキ わーたーせ。わーたーせ、
クラノ わたせくーん。
カナコ ワタセくん。
トモキ ちょっとは揃えようよ。ほら、わーたーせ、わーたーせ、
トモキ&ナカオミ わーたーせ、わーたーせ、
トモキ&ナカオミ&サクラギ&コザワ わーたーせ、
トモキ&ナカオミ&サクラギ&コザワ&セキグチ&クラノ&カナコ わーたーせ、わったっせ、わったっせ、わったっせ、わーたーせーーーー。

      スポットがユウスケに当たる。ユウスケは寝ている。

セキグチ そりゃ、来るわけないよな。
クラノ そうね。
トモキ ……ごめん。トイレ行って来る。(と、去る)
サクラギ なにがしたかったのよあいつ。
コザワ ねぇ、私も、トイレ行きたい。
ナカオミ あ、僕も。
サクラギ よし、行くか。ついでに学校探検だ。
セキグチ いいのか、勝手に歩いて。
サクラギ 大丈夫でしょ。あんたたちはどうする?
セキグチ 俺はいいよ。
クラノ あたしも。
カナコ 私は、あの子さがしてこようかな。
サクラギ 見つけたらぶん殴っちゃいなよ。
カナコ それもいいかもね

      サクラギ、ナカオミ、コザワとカナコが去る。

09 それぞれの時間の過ごし方

      セキグチとクラノだけが残る教室。どこか静かな空気。

セキグチ なんていうか、グダグダだな。
クラノ そうね。
セキグチ でも、変わらないな。
クラノ そう?
セキグチ まぁ、もう結婚している奴もいるとはさすがに驚いたけど。
クラノ ……うそ。
セキグチ え?
クラノ 「うそだ」って言われると思ってた。
セキグチ うそなのかよ。
クラノ あなたは、いつも私の言うことを嘘だって言うから。
セキグチ それはお前がうそばかりついてたからだろ。
クラノ 本当のこともあったわ。
セキグチ 丘の上の家も?
クラノ それは嘘だけど。
セキグチ ワニを飼ってるとか。
クラノ それも嘘だけど。
セキグチ ばあやと二人っきりって言うのもあったな。
クラノ それは本当。
セキグチ は?

      景色が変わる。ユウキがどこかに座っている。ニイムラがやってくる。

ニイムラ 雨、やんだみたいね。
ユウキ ……
ニイムラ 久しぶりの学校はどう?
ユウキ ……別に。
ニイムラ せっかく、久しぶりに教室まで来たんだし、もうちょっといない? お母さんも、心配していると思うし。
ユウキ ……あの人をお母さんって呼ばないで。

      廊下へと景色が移る。歩いてくるトモキ。反対側からサトノがやってくる。

トモキ 電話に出やしない。あいつ絶対寝てるな。
サトノ あら、オカモトくん。ちょうど良かった。
トモキ あ、先生。どうしました?
サトノ 今ね、頼んでいた業者の方が来て、
トモキ もしかして、あれ、見つかったんですか?
サトノ ええ。思ったとおり、あまり深くは無かったみたい。みんなで掘り出しても良かったかもしれないわね。
トモキ それで、今どこに?
サトノ 事務室においてあるんだけど、取りに来てくれる?
トモキ もちろんです!

      そこにサクラギ、ナカオミ、コザワがやってくる。

サクラギ 本当信じられない。
ナカオミ 和式のトイレの方が数が多いなんてありえないよね。って、トモキ。
コザワ どこ行くの? 教室あっちだよ?
トモキ みんなに教室にいるよう言っておいて。俺、今から取って来るから。
サクラギ なにを?
トモキ 10年前に埋めただろ。タイムカプセル!

      トモキとサトノが去る。

サクラギ&ナカオミ&コザワ タイムカプセル?

      サクラギとナカオミとコザワが去る。再びニイムラとユウキに照明が当たる。

ニイムラ 優しい、いいお母さんでしょう? あの人、なんて言っては駄目よ。
ユウキ 先生知ってる? あの人いつも笑ってるの。どんなときも、何でもないって顔して。
ニイムラ ……。
ユウキ なのに、私が笑えなくさせてる。
ニイムラ ……
ユウキ 「親子には見えませんね」とか「ずいぶんお若いんですね」とか皆、嫌味ばかり。まるであの人が悪いことをしたみたいに言って。
   あの人は困ったように笑っていて。でも、ちゃんと笑顔になって無くて。
ニイムラ 学校で誰かに……誰かの保護者の方に、なにか言われたの?
ユウキ ……みんな放って置いてくれればいいのに。
ニイムラ 悪き気は無いのよ。ただ、ちょっと、珍しく映っちゃうんじゃないかな。
ユウキ 大人のくせに。
ニイムラ ……きっと、みんな簡単に大人になれないのよ。今日来てる元生徒さん達だって、ナイトウさんより10才も年上なのに
    子供みたいでしょう? なかなか大人になれないから、私たちは学校へ行って、教育を受けんじゃないかな。
ユウキ 学校へ通ってもあんな大人になるんなら、行く意味ないよ。
ニイムラ それは、ほら、でも、ナイトウさんのお母さんみたいに、しっかりした人もいるでしょう?
ユウキ 先生知ってる? 先生があの人を褒める度、私が何を思うか。(と、歩き出す)
ニイムラ 今度はどこに行くの?
ユウキ どうせあの人も探しに来るだろうから。戻る。
ニイムラ そう。ねぇ、ナイトウさん。きっとお母さんは誰かが言うことなんて気にしてないと思うけどな?
ユウキ あの人はお母さんじゃない。お父さんの、結婚相手なだけ。お父さんがいなかったら私なんて……。

      ユウキが去る。ニイムラも追って去る。教室に照明が当たる。

クラノ ……本当だったのよ。母は、仕事ばかりで。家にはお手伝いさんとあたしだけで。私はその人とご飯を食べて、その人と宿題をしてた。
   お年を召した方だったし、本当のおばあさんみたいだったけど、やっぱり家族じゃないから。
セキグチ だから、ばあや、か。
クラノ そう呼んでおかないと、甘えてしまいそうだった。他人なのに、家族の愛情を求めてしまいそうだったから。
セキグチ ……だったら、あの頃に言ってくれれば良かったのに。
クラノ うそ。
セキグチ は?
クラノ うそよ、今の。
セキグチ なんだ。信じちゃったよ。
クラノ 中学の時なら信じなかったのにね。
セキグチ あの頃は、ただガキだったんだよ。
クラノ ……「嘘だ」って言わないのは、今のあなたが嘘つきだから?
セキグチ ……どう言う意味だよ。
クラノ お水、もう一杯もらえる? 話しすぎて喉乾いちゃった。

      セキグチが水を取る。ユウキとニイムラがやってくる。

ニイムラ お二人だけですか? あの、カナコさんは?
セキグチ 探しに行ったよ。その子を。
ニイムラ そうですか。

      ユウキが皆より離れて座る。ニイムラも距離を取る。

10 中学時代は楽しい思い出?

      と、サクラギ、ナカオミ、コザワが戻る。

コザワ&ナカオミ ただいま?
サクラギ お?ユウキちゃんいるじゃん。
ナカオミ 良かった。
セキグチ ずいぶん長いトイレだったな。
サクラギ なに? 寂しかった?
セキグチ バカ言え。
コザワ 洋式の個室が一つしかなくてね。
ナカオミ 三人で順番に使ったから。時間かかっちゃって。
セキグチ 大変だな女は……って、お前も一緒に入ったのか?
ナカオミ やだなぁ。だから順番だって。一緒に入るわけないでしょ。
セキグチ そ、そうか。
サクラギ 大変よね。中学生も。
コザワ 本当だよ。
サクラギ 私、不登校になっちゃう気持ちも分かるわ。
コザワ 私も。
セキグチ おい。
コザワ え?
サクラギ あ。

      と、皆がユウキを見る。と、カナコが戻ってくる。ちょっと息が上がっている。ユウキはカナコを睨む。

カナコ ユウちゃん。戻ってたの? よかった。(と、ユウキの頭をなでる)
ユウキ (と、離れて)子供扱いしないで。
カナコ ごめんね。嬉しくってつい。どうしたの? なにか私の顔についてる?
ユウキ なんで、話したの?
カナコ もう、離れたのはユウちゃんの方でしょ。(と、ユウキを抱こうとする)
ユウキ そうじゃなくて!
サクラギ ごめん。不登校って話、ぽろっとしちゃった。
カナコ そうなの? いいのよ。隠すような事じゃないから。
ユウキ なにそれ。
カナコ 秘密にして欲しかったの?
ユウキ ……別に。
クラノ 嘘。
ユウキ は?
セキグチ おい。
クラノ って、昔はセキグチ君の口癖だったのにね。
サクラギ 確かに中学の時は、セキグチ、いつも言ってたよね。
コザワ 言ってた言ってた。
セキグチ 昔の話だろ。
ナカオミ でも懐かしいよね。中学時代。ね?
コザワ 楽しかったもんね。
サクラギ そう。楽しいこといっぱいあるんだから。三年間なんてあっという間なんだし、後で後悔しても遅いんだからさ。
    行っておいた方がいいよ、中学校は。
ナカオミ&コザワ だよね~。

      と、サクラギたちはわざとらしくユウキを見る。ユウキは目を逸らす。

サクラギ そういえば、セキグチにクラノさんも覚えてる? 卒業式の時に埋めたでしょ。ほら、
セキグチ ああ。
クラノ タイムカプセル?
サクラギ そうそう。なんか思い出の品だったか、
コザワ 形見じゃ無かったっけ?
セキグチ 手紙だろ。
サクラギ あ、そうだっけ。
ナカオミ そうだよ、手紙だ。
カナコ 10年後の、だれかへのだっけ?
クラノ あたしは自分に宛てて出したと思う。
ナカオミ 僕はだれに宛てたんだっけ……。
サクラギ 手紙か。
コザワ 手紙……って、
サクラギ&ナカオミ&コザワ ぎゃーー。
セキグチ なんだよ、三人して大声だして。
コザワ やばい。
サクラギ やばいわ。
ナカオミ やばいよ。
コザワ 開けちゃ駄目だ。タイムカプセルなんて。
ナカオミ 僕、すごい恥ずかしいこと書いた気がする。
サクラギ あたしだって!
コザワ あたしも!
サクラギ やっちまったぁ!!

      と、サクラギはユウキが見ていることに気付き。

サクラギ いや、違うのよ。中学時代は確かに面白かったんだけど。
コザワ やっぱり思い出は思い出のままにってのも確かにあるよねっていう。
ナカオミ なんのフォローにもなってないよ。
カナコ 私は人に読まれても大丈夫だけど。
サクラギ 無理?
コザワ 読むとか絶対に無理。
ナカオミ そんなことしないよね? ね?
セキグチ 俺に聞かれても。
ナカオミ でも、トモキくん、結構ノリノリで走って行ったよね。
コザワ ということは読むくらいはするかも。
サクラギ ふざけんな!
セキグチ 俺に怒るなよ。
クラノ 逆に読んで見たくなるわね。
カナコ 確かに。
ナカオミ いやいや、本当駄目だって。
コザワ 無理!
サクラギ よし、タイムカプセルなんてなかったってことにしよう。

11 タイムカプセルを開けよう。ワタセ登場作戦失敗

      と、そこにトモキとサトノが現れる。

トモキ じゃじゃーん。タイムカプセルの到着でっす!
サクラギ&ナカオミ&コザワ ぎゃーーーー!!
トモキ 盛り上がってるね! いいよいいよ。それでこその同窓会。それでこそ、10年ぶりの再会だよ。
コザワ あのさ、
サクラギ 今日全員いるわけじゃないんだし、
ナカオミ こういうのは全員揃ったときがいいんじゃない?
トモキ うん。だから、今日は、今いる人のを読むことにしよう!
コザワ そういうことじゃなくて!
トモキ なんだよ、お前ら割と恥ずかしいこと書いたのか?
サクラギ そういうのはプライバシーでしょ。
トモキ 大丈夫。俺も恥ずかしいこと書いてるからきっと。


      と、トモキは床にタイムカプセルを置き、開けようとする。

コザワ&サクラギ なお!
ナカオミ うん!

      と、ナカオミがそのタイムカプセルを奪い取る。その端っこを、なんとかトモキは捕らえる。お互いに譲らないまま、

トモキ なにするんだ! 返せ!
サクラギ 別にそれ、あんたのじゃないでしょ!
トモキ あのな、10年前に書いたことなんだから今更気にするなよ!
ナカオミ ちょっと、トモキ引っ張りすぎ!
サクラギ 渡しちゃ駄目よ。
トモキ 恥ずかしいのは分かるけど、
サクラギ&ナカオミ&コザワ 分かってない!
トモキ セキグチ! 手を貸して!
セキグチ ナカオミも諦めてさっさと、渡しちゃえよ。
サクラギ&コザワ 渡しちゃ駄目!
ナカオミ 渡さない!
トモキ 渡せ!
サクラギ&コザワ 渡すな!

     ※ここからの流れは、オープニングで聞こえたような流れになる。

ナカオミ 渡さん!
トモキ&セキグチ 渡せ!
サクラギ&ナカオミ&コザワ 渡さん!
トモキ&セキグチ 渡せ!
サクラギ&ナカオミ&コザワ 渡さん!
トモキ&セキグチ渡せ!
サクラギ&ナカオミ&コザワ 渡さん!
トモキ&セキグチ渡せ!
サクラギ&ナカオミ&コザワ 渡さん!

      と、箱が開き、ユウスケが出てくる。

ユウスケ 呼ばれて飛び出るワタセでーす!

      全員思わず止まる。
      ユウスケは一度箱に戻り、箱を突き破るようにして着て、立つ。

ユウスケ ……ほら、やっぱり滑ったじゃないか!
トモキ タイミング悪すぎだよ。
サクラギ&コザワ 今だ!
ナカオミ うん!
トモキ あっ(と、思わず手を放す)
サクラギ 手にはいればこっちのものよ。
ナカオミ どうするの?
サクラギ 燃やす!
コザワ 焼却炉!?
サクラギ それだ!
ナカオミ&コザワ よし!

      三人が去る。

ユウスケ なんなんだ一体。どうなってるんだ?
セキグチ お前、ずっとここにいたのか。
ユウスケ ああ。半分以上寝てたけどな。
トモキ のんびりしている場合じゃない! あいつらを追うよ! 先生! 焼却炉ってどこでしたっけ?
サトノ 裏庭の、
トモキ 裏庭か!(と、走り去る)
ユウスケ おい! まてよ! どうなってるんだって!(と、追いかけて去る)
セキグチ まさかここに来て追いかけっことはな。
カナコ セキグチくんも行くの?
セキグチ 仕方ないだろう。
カナコ そう?
セキグチ あいつらにはしっかりタイムカプセルを燃やしてもらわないと。過去の思い出なんて今更だからな。(と、去る)
クラノ そうはさせないわ。(と、去る)
サトノ あらあら。みんな恥ずかしがり屋ばかりなんだから。タイムカプセルくらい笑って開けられるようじゃないと駄目よねぇ。
ニイムラ (と、カナコとユウキを見て)私たちも行きましょう。
サトノ ニイムラ先生も参加したくなっちゃったの? 若いわねぇ。私はちょっと休んでいるわ。
ニイムラ いいから行きますよ!

      サトノを引っ張って、ニイムラが去る。

12 走る。

      残るカナコとユウキ。会話のない親子。ユウキはカナコを見る。が、カナコが向くと目をそらす。

カナコ ……ねえユウちゃん。
ユウキ なに
カナコ 今日、ここに連れて来た理由、分かる?
ユウキ 中学時代も楽しかったとか言いたかったんでしょ。
カナコ 楽しそうに見えた?
ユウキ べつに。
カナコ だよね?。
ユウキ だよねって。

      音楽。走るサクラギ、ナカオミ、コザワ

サクラギ で、焼却炉ってどこだっけ?
ナカオミ 分かってて走ってたんじゃなかったの?
サクラギ いや、とりあえず逃げなきゃって思って。
コザワ 多分こっち!

      サクラギ、ナカオミ、コザワが去る。トモキとユウスケ現れる。

ユウスケ 裏庭にいないぞ。
トモキ あいつら焼却炉の場所分からないんじゃないか?
ユウスケ 馬鹿だなぁ。
トモキ 落ち着いてる場合じゃないよ。燃やす方法はひとつじゃないんだから。
ユウスケ ああ、そうか。
トモキ 行くよっ
ユウスケ おうっ

      トモキとユウスケが去る。セキグチが現れる。歩いているところへクラノが現れる。セキグチを反対側に引っ張る。

セキグチ なんで俺引っ張られてるんだ。
クラノ 追いかけさせないように。
セキグチ だからなんで?
クラノ ……昔を否定して欲しくないから。
セキグチ なんだよそれ?
クラノ これまでの流れで分からないの?
セキグチ ……なんなんだよ流れって。……クラノ?
クラノ なんで私が昔、嘘をついてたか分かる?
セキグチ いや……
クラノ いつも、一人でいるような気がしてたの。そんな私を、まっすぐ見てくれる人がいたの。その人はいつもまっすぐ生きていて。
   その人が私に言う、「嘘だ」って声が好きだったの。だけど、その声を聞くために出来るのは、やっぱり嘘をつくことだけだったの。
セキグチ それって、もしかして……
クラノ うん。嘘。
セキグチ はぁ~~!?
クラノ っていうのも、嘘。
セキグチ え。
クラノ でも今度こそ、嘘をつかなくて済むと思ったのに。なんであなたが歪んでるのよ!
セキグチ 10年も経てば色々変わるだろ。
クラノ たった10年よ!
セキグチ 10年もだ!
クラノ バカ!
セキグチ はぁ!? 何だよバカって。
クラノ それでも、昔のままのあなたでいて欲しかったのよ!

      クラノが走り去る。と、思ったら止まる。

クラノ バカ!

      走り去る。と、思ったら止まる。何も言わず走り去る。

セキグチ ……追いかけろって事なんだろうな。きっと。

      追いかけようとするセキグチ。ニイムラが現れる。二人はぶつかる。

ニイムラ なんでこんな所に柱が!?
セキグチ 人だよ! このやりとり二回目だ!
ニイムラ 眼鏡が無いと良くわからなくて(と、眼鏡をかける)
セキグチ あ。
ニイムラ あんたは詐欺師!
セキグチ このタイミングで!? って、詐欺じゃない!
ニイムラ ただの水を4箱も売りつけたくせに!
セキグチ か、買うほうが悪いんだろう!
ニイムラ 「眼鏡の似合うあなたのような美人には、ずっとその美しさを保ってて欲しいから」なんて上手いこと言って! 
    おかげで眼鏡をかけるたびに騙されたことを思い出しちゃうじゃない! どうしてくれるのよ!
セキグチ そんな理由で眼鏡外してたのかっ
ニイムラ この、大うそつき!(と、セキグチに飛び掛る)
セキグチ 待てって!

      サトノが現れる。立ち止まって汗を拭く。セキグチはたまらずクラノが走り去った反対方向へ逃げ去る。ニイムラが追いかけて去る。
      クラノが無言で戻ってきて、二人の後を追って去る。サトノはそんな三人を見送り、

サトノ もう、みんな足速いわね。

      と、電話が鳴ったのか携帯を取る。

サトノ はいはい。あ、オカモトくん? どうしたの? タイムカプセルは? もう捕まるはず? 用意して欲しいもの? 
はいはい。なるほどね。了解しました。うん。任せなさい。

      と、話しながら去る。

13 10年後はきっと

      教室に皆が入ってくる。セキグチを捕まえて入ってくるニイムラ。その後ろからクラノ。
      タイムカプセルを抱えてまずはトモキ。その後ろから、ユウスケ。ユウスケは両手にサクラギ、コザワを捕まえている。
      その腰にはナカオミが捕まっている。

カナコ みんなお帰り。
ユウスケ ただいま。
トモキ 危なかった。まさか川の中に投げ込もうとするとは思わなかった。
サクラギ だからさ~ 読まないでくれればいいんだって言ってるでしょ。
コザワ 皆に手渡して、それで終わりでいいよ。
トモキ いやだ、もう絶対に読んでやる。(と、タイムカプセルを開ける)
ユウスケ ガキ過ぎるだろお前ら。……で、セキグチはどうしたんだ?
セキグチ 聞かないでくれ。
ニイムラ 絶対許さないから。
クラノ いい加減、離してあげてくれません?
ニイムラ 嫌よ! 眼鏡の恨みは恐ろしいんだから!
カナコ それで、誰のを読むの?
トモキ よ~し、はい!(と、手紙をひとつ出す)これにしよう!
サクラギ ちょっと! 本当やめてって!
ナカオミ やめようよ~
ユウスケ 観念しろって。
コザワ くっそ~。
トモキ 「10年後のワタセユウスケ君へ。」
ユウスケ って、俺!?
トモキ いや、宛名がユウスケなだけ。
ユウスケ そっか。え? なに? ということは、この中に? 俺宛に手紙を書いた奴がいるってこと? おいおい。誰だよ。
トモキ 「10年後のワタセユウスケ君、お元気でしょうか?」
ユウスケ はい。
トモキ 「風邪などは引いてませんか?」
ユウスケ 引いてません。
トモキ 一々反応しなくていいから。
ユウスケ はい。
トモキ まあ、いいや。「照れくさいので、一言で言います。ワタセユウスケ君、愛しています」
ユウスケ おー! なんだよ。中学の時に言ってくれればよかったのに。
トモキ 「この胸の思いは、きっと色あせることは、ないでしょう。もし、10年後も、同じ、気持ちで、いたら」……
ユウスケ おい、なんだよ、その先は。
トモキ ……「僕と付き合ってもらえますか?」
ユウスケ ……僕?
トモキ ナカオミナオヤより。
ナカオミ だから読まれたくなかったのに。
コザワ ナオ、可哀想。
サクラギ 純粋だからね。ナオは。
ユウスケ うわっ離れろ! 離せ!

      くっついたナカオミをユウスケは必死にはがす。残念そうに離れるナカオミ。
      クラノがニイムラの眼鏡を外し、遠くへ投げる。ニイムラは眼鏡を探す。
      無声演技になる空間。

カナコ ねぇ、ユウキ。
ユウキ ……
カナコ 不思議じゃない? みんな、他人なんだよ。他人なのに、関係は続いてた。10年経っても。……だからね、今、
   あなたが何も話してくれなくても、良いの。学校に行かないで引きこもっていても、私は良いの。そのままで良いの。
   私とあなたの関係は、ずっと、ずっと続いたままだから。だって、私たちは今、他人であるどころか、親子なんだから。
   ……それがね、ずっと言いたかったの。
ユウキ ずるいよ。
カナコ そうかな?
ユウキ あたし迷惑ばかりかけてるのに。負担になってることくらい、分かってるのに。そんな風に言われたら、惨めだよ。情けないよ。
カナコ いいのよ。親の前でくらい、子供は情けなくて。
ユウキ ……あたしは、母親だなんて、思ってない。
カナコ いいよ。それでも。私は、あなたを娘だと思ってるから。
ユウキ なんで、そんなこと言えるのよ。

      タイムカプセルをあさっていたトモキがまたひとつ手紙を見つける。

トモキ これは、カガさんのだ。読んでもいい?
カナコ いいけど。私、何書いたっけ?
ユウスケ まさかお前も愛の告白か?
カナコ まさか。
ユウスケ 今度は俺に読ませろよ(と、手紙を奪い)「10年後の私へ。あなたには今、子供がいるでしょうか? 
    母がそうであったように、子供ができないことで悩んでいたりしないでしょうか?」

      皆の視線がカナコに集まる。ユウキは俯く。カナコは微笑む。
      カナコはユウキの頭をなでる。

カナコ ……続けて。

ワタセからトモキが手紙を受け取り読み続ける。

トモキ 「……子供がいるならいいと思います。『孫の顔が見られるかしら』と笑う母に、見せてあげられていたらいいと思います。
   出来れば20歳で結婚して、25歳までには子供が欲しいです。母のように子供を愛せる親になっているといいと思います。
   女の子なら、希望が有ると書いて、ユウキちゃんという名前はどうでしょうか? 男の子なら勇ましい気持ちでユウキくん。
   一つだけ教えてください。10年後の私、私は今、幸せですか?」
カナコ (ユウキの頭をなでながら)はい。幸せです。
ユウキ ……子供扱いしないでよ……

      ユウキは撫でられたままになっている。トモキにサクラギとコザワが寄る。

サクラギ 私の貸して。
コザワ 私のも
トモキ 破るなよ。せっかくの手紙なんだから。
サクラギ 破らないよ。(と、読み始める)「100年後の人類へ」
トモキ&ユウスケ&セキグチ はぁ!?
サクラギ 「100年後の皆さん。これが見つかっていると言うことは、タイムカプセルは無事発見されたと言うことですね。
    これは、とある中学生が10年後の人たちに向けて書いた手紙達です。以下、当時のクラスメイトについて書きたいと思います。
    子孫が残っている場合は、届けてあげてください」……仕方ないでしょ。10年経つ前に世界は一度くらい滅んでると思ってたんだから。
ナカオミ それで、タイムカプセルは無事だって考えるのが凄いよね。
ユウスケ 一度滅んだ世界が、100年くらいで元に戻ると良く思えるな。
サクラギ うるさい。

      ナカオミもタイムカプセルを覗く。

コザワ あたしなんてもっと酷いよ~。ほら、当時流行ってたおかしとか、音楽とか、10年後どうですかってことばかり。
   もうちょっとましなこと書いておけば良かった。
ユウスケ まぁ、今読むと恥ずかしいよな。
ナカオミ はい。ワタセくんの発見。
ユウスケ ああ。

      クラノがタイムカプセルを覗く。

トモキ なんて書いたの?
ユウスケ 「ハーレム王に、俺はなる!」
トモキ&サクラギ&コザワ うわぁ……
ユウスケ 若気の至りって奴だよな。

      ユウスケ&サクラギ&ナカオミ&コザワは自分たちの手紙をそれぞれ批評し合う。クラノが離れる。二通手紙を持っている。

トモキ タダシは?
セキグチ いや、俺はいいよ。
トモキ 読んであげようか?(と、探し始める)
セキグチ いや、やっぱり自分で探す。(と、タイムカプセルによる)
クラノ 「10年後の僕へ。」
セキグチ クラノ?
トモキ それって……
クラノ 「10年後の僕。君は今、正直に生きていますか?」
セキグチ おい、それまさか、
クラノ 「正しいと名付けられた名前に恥じない日々を生きていますか?」
セキグチ 止めろよ。
クラノ 正しいことを続ける重さに負けていませんか? 嘘をつけないことを煩わしく感じていませんか? まっすぐな自分を誇れていますか?
セキグチ クラノ。わかったから。わかったから、もう止めてくれ。頼む。

      近寄るセキグチにクラノは手紙を渡す。

セキグチ これは?
クラノ 私の。あなたのは読んでしまったから、代わりに読んで。
セキグチ いいよ別に。
クラノ 読んで。
セキグチ 分かった。……「10年後の私へ。まだあなたは嘘をついて生きていますか? 頼れる人がいないからと強がって、見栄を張って、
    結局余計に一人になって。一人は辛くないとまた嘘をついて。……疲れていませんか? それでもまだ平気だと嘘をついていますか? 
    大事な人はいますか? 今、あなたの側に、あなたを支えてくれる人はいますか?」……良かったじゃないか。結婚できてて。
クラノ 嘘。
セキグチ え?
クラノ 言ったでしょう?「嘘だ」って言わないのかって。
トモキ ……よーし、じゃあ最後は俺だな。読むよ。「10年後のみんなへ」

      全員がトモキを見る。

トモキ 「このタイムカプセルを開けるとき、何人集まってるかな? 5人くらい? それとも20人? 間を取って、10人?」……おしい。
   「今、俺たちは先生に提案されて手紙を書いている。10年後の手紙。なんだか、凄くわくわくする。でも、悔しくもある。
   だって、これは先生が言ってくれなかったら実現しなかったことだから。俺は俺たちで、この企画を考えたかった。
   俺たちが発案者になって、やらされているなんてこれっぽっちも思わずにタイムカプセルを埋めたかった。だから、10年後のみんな。
   タイムカプセルを埋めよう。今日、ここにいるみんなで。また10年後の誰かに向けて。」……どうよ?
サクラギ ……あんた、その手紙覚えてたでしょ。
トモキ まあね。
コザワ またタイムカプセル?
セキグチ また10年後ってわけか。
クラノ その時は何人集まるかしらね。
ニイムラ ここにいるみんなって、私もいいんですか?
トモキ もちろん。
ニイムラ (セキグチを睨み)恨み言は駄目ですよね?
セキグチ ちょっと何書く気ですか?
トモキ お手柔らかにお願いします。

      と、サトノが入ってくる。

サトノ もう、オカモトくん、人使い荒いんだから。ほら、紙とぺん。
トモキ ありがとうございます。先生も、書いてください。
サトノ あらいいの?
トモキ もちろんですよ。

      紙とペンが皆に渡る。

ユウスケ 10年後か。
コザワ 10年後ねぇ。
セキグチ 35か。
サクラギ 年は言わないで。気が滅入る。
クラノ 生きてるかしら。
サクラギ 不吉なことも言わないで。
サトノ 次は校長になってるかもね。
ニイムラ 10年後にはコンタクトが怖くなくなってるかも。
セキグチ そして老眼が始まる。
ニイムラ 始まりません。
カナコ 10年後、か。
ユウキ ……ねぇ、……お母さん。

      カナコの手をユウキが引く。カナコはユウキに向く。
      ユウキがうなずく。
      カナコはユウキに紙とペンを渡す。
      真剣にユウキは書く内容を考え始める。
      音楽高まり溶暗。

あとがき
タイムカプセルって自分たちで埋めようって話して埋めると、
掘り出すのを忘れてしまいますよね。
埋めた場所を忘れたり。一緒に埋めた人を忘れたり。
・・・・・・私が忘れっぽいだけでしょうか。

10年という歳月の中で、
変わってしまうことや、変わらないこと、
変われないこと、変わりたいと思うこと。
そのなかでも変わらなくても良いんじゃ無いかと思うもの、
そんなものを書いてみたつもりです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。