BANANA`S BIRTHDAY BASH
(バナナズ バースディ ばーす)

作 楽静


登場人物

演劇部員達
神奈川端 サナエ 高校3年生。ミナコの姉。演劇部員。(早苗)
神奈川端 ミナコ 高校1年生。サナエの妹。演劇部員。(美奈子)
アコ 高校2年生。頼れぬ部長 演劇部員。本名 コアラダ アコ(湖洗田亜子)
チエ 高校2年生。秀才系?  演劇部員。本名 エイチ  チエ (永地知恵)
エモト先輩 高校3年生。受験生   演劇部員。本名 エモト  トモエ(江本友江)
ハナ 高校一年生。語り部   演劇部員 本名 オオキ  ハナ (大木 花)
大人たち
母さん 主婦 サナエとミナコの母。旧姓:ミナミナミナミ(皆南 那美)
ウキタ先生 教師 苦労性 部活顧問 本名 ウキタ シズエ (浮田静江)

※ 作品中、合宿場所を山中湖と限定してますが、これは初公演の高校から近い合宿所だったからという理由だけです。
※ ミナコ役とアコ役の子は身長や体格が同じくらいの子のつもりで書いてあります。
※ 早婚をネタにしておりますが、作品の性格上であり他意はありません。




     2008年。夏を目の前にした7月の某日。部室を舞台に物語は進む。
     試験後も六時間授業があったという設定である。
     部室には机がいくつか並んでいる。
     演劇の大道具やら、衣装やらが適当に並んでいる。黒板には、「夏合宿地決定 山中湖」の文字。
     無造作に人が一人は入れそうな箱が置いてある。上手側が出入り口になっている。
     下手手前は、放送室の一室となっている。部室とは違う空間。
     部室の机の上にはバナナが一束置いてある。
     
     陽気な音楽と共に、客席は暗くなり、幕が開く。
     下手手前が明るくなる。

1 放送室 PM 15:30

     エモトが座っている。机の上にはマイクが乗っかっている。

エモト さぁ、今聞いてもらっているのが、この夏お勧めのナンバー。いいよね。いい感じだよね。そんなわけで、
   今回も始まりました『エモトトモエの、勝手に放課後ラプソディ』この放送は、放送室を勝手にジャックして
   行われています。提供は、ここらへん、をご覧くださいっ


     と、放送がかかる。ウキタである。


ウキタ(声) えー。放送室で、勝手に放送を流している生徒。すぐにやめなさい。放送室で、勝手に放送を
       流している生徒。すぐにやめなさい。というか、三年二組、出席番号四番エモトトモエ! 

エモト 今はDJトモエです。トモちゃんって呼んでください。

ウキタ(声) 放送を私物化するなっていつも言ってるでしょうが。

エモト (マイクに)放送委員には、放送をする権利があるんでーす。

ウキタ(声) 会議の邪魔だからすぐやめなさい!

エモト ウキタ先生の声のほうが、邪魔だと思いますけど〜。

ウキタ(声) いい度胸だ。エモト! そこにいなさいよっ!


     放送が切れる。


エモト やべ。さて、エモトトモエは生き残れるのでしょうか。それでは皆さん、シーユーアゲイン。チャオ。


     エモトが逃げる。


2 演劇部室 PM15:30
     
     全体的に明るくなってくる。
     演劇部室には、サナエ・アコ・チエ・ハナの四人がいる。
     チエとハナは顔の横にお面をしている
     皆一様に、目の前にあるバナナを見ている。


アコ バナナ、だよね?

ハナ バナナ、なんですか?

チエ バナナでしょ。

サナエ じゃなきゃ何なのよ。スイカ?

ハナ え! スイカなんですか!? バナナみたいなのに?

サナエ だから、バナナでしょ?

ハナ バナナなんですか。

サナエ バナナね。

アコ うん。よし、これはバナナですね。で、なんでバナナがここにあるのよ!

サナエ だから、来たときにはあったのよ。説明したでしょ?

アコ それは聞きました。それは聞きましたけどね。

ハナ あ! きっと、誰かが置いてったんですよ。

アコ そんなことは〜 わかってるのよ〜。

ハナ さすが部長。

アコ 感心されても〜。うれしくな〜い〜。

チエ サナエ先輩が部室に来た時にはもう置いてあったんですよね?

サナエ そう。

チエ 昨日最後に閉めたのは、アコだっけ?

サナエ そうなの?

アコ えっと、昨日は皆で合宿の話してて、

サナエ そういえば。決まったんだ?

ハナ はい。あたしが言ってた場所で。

チエ で、黒板にあたしが書いて。

サナエ 山中湖か。

アコ で、そのあと、あたし残ってたから。そりゃあね。って、(バナナを置いたのは)あたしじゃないわよ!

ハナ え、(鍵を閉めたのは)アーコ先輩でしたよ。あたし鍵見てないですし。

アコ いや、そりゃそうだけど。でもあたしじゃないからね。

ハナ え〜

アコ 「え〜」って……


     と、そこにエモトがやって来る。すばやくやって来ると、ドアを閉め、遠くをうかがう。


ハナ あ、エモト先輩〜。

エモト (口に指をあて)しっ。静かに。


     思わず静かになる面々。


エモト (しばらく外をうかがって)よーし。まいたな。うん。あ、おっはようー。

それぞれに
アコ おはようございます。
チエ おはようございます。
ハナ おはようございます。

エモト おはよ。ハナちゃん。ちょっと(と、ドアを)見ててくれる?

ハナ はーい。

サナエ まーたくだらないことでウキタ先生怒らせて。

エモト ということは、聞いてた?

アコ 校舎中に響いてましたよ。先輩の放送。

エモト (嬉しそうに)いやぁ。そりゃ、参ったねぇ。

サナエ 全然参ったって顔じゃないんだから。

エモト しかし、珍しいねサナエがいるなんて。

サナエ 仕方ないでしょ。今日は。

エモト そうだ! サナエに渡せって頼まれてたものあったんだ。(と、カバンをあさる)ほら、これ。


     と、エモトが出したのは変に折られた進路希望表。


サナエ (紙を解いて読む)……進路希望? って、これあたしの!

エモト だって、あんた、第一希望欄に、二つ書いたでしょ? それじゃ第一希望の意味無いからって。

サナエ ああ。そりゃそうだ。

エモト でも、就職ってのはちょっと難しいと思うよ?

サナエ うん。そうだよね。(と、紙を机の上に置く)

エモト あたしも、迷ってんだけどねぇ。

サナエ 専門だっけ? 放送関係? 演劇?

エモト どっちにしろそろそろ決めろって親がうるさくてさぁ。

サナエ そっか。

エモト なにより卒業できるか危ういのに……。

サナエ だよねぇ。

アコ (場の空気を明るくするように)えっと、先輩♪

エモト ん?

アコ (バナナを指し)これ、先輩ですか?

エモト なにそれ?

チエ (同じく明るくしようとして)何だと思います?

アコ あたしが言おうと思ったのに。

エモト あ、クイズ? ちょっと待ってね。(と、バナナを持ち)
   ふむふむ、これは(と、バナナを頭に載せ)機関砲用意、(頭に載せたバナナを客席にむけ)
   ババババババ! ナナナナナナーン! 全弾命中。


     アコ達をちらりと見る。反応が無いので、


エモト 弱いか。(バナナを胸に抱き)うわー。元気な赤ちゃんですね。目元なんてもう……
   あれ? この目元、僕に似てる? まさか、あの日!?


     アコ達をちらりと見る。反応が無いので、


エモト じゃあ、あれだ、えっと……だめだ、思いつかない。


     エモトがひざを突く。ハナが寄る。


ハナ 先輩。そんな日もありますよ。

エモト ハナちゃん!


     エモトがハナに抱きつく。


アコ (手を上げて)はい。

チエ (アコを指差し)はい、部長。

アコ とりあえず、会話の流れが良くわからなくなってきたので、無かったことにしていいですか?

チエ 異議なし。

サナエ 異議なし。(手を上げる)はい。

アコ (指差して)はい、サナエ先輩。

サナエ (時計を見て)もうそろそろ、ミナコ来るんじゃない? (チエに)掃除だっけ?

チエ っていう話だったと。(ハナに)だよね? あ、えーと、エモト先輩。

エモト ちょっと待って、今凄いネタが浮かびそうなんだから。これがもしもね、

チエ いえ、申し訳ないですが、時間切れです。

サナエ 初めからボケてもらおうと思ってないから。

エモト そうなの!? じゃあ、これは一体何のために?

ハナ エモト先輩のでもないんですか?

エモト なんで私が?

チエ (ため息つきつつ)はい、部長タッチ。

アコ はい。タッチ受け取り。えーではですね、

エモト え、じゃあなんでバナナがここにあるわけ?

アコ あ、先輩、その話もう流すことに決めたんで。

エモト そうなのか。でもこれ、誰が(持って来たの?)

アコ・チエ 時間無いんで協力お願いしまーす。

エモト はーい。

アコ では、皆さん。じゃあ、もうすぐ時間ですから、準備しましょう。

ハナ はーい。

チエ イエスサー。

サナエ はいはい。


     ハナは入り口へ、チエは飾り付けを隠したり、サナエものんびりクラッカーを用意したり。
     そして、アコは箱に入ろうとする。


エモト え、ちょ、ちょっとまってアーコ。

アコ はい?

エモト なにやってるの?

アコ 隠れるんですよ?

エモト え、なんで?

チエ そのほうがインパクトあるじゃないですか。

エモト インパクト?

サナエ 驚かせてやりたいんだってさ。ただそれだけの理由で作ったのよ、(箱を指し)それ。

チエ 私も手伝ったけどね。

ハナ 私もです。三日かかりました。

アコ ミナコちゃんにばれないようにするの大変だったよねぇ。

エモト ミナコちゃん? ミナコちゃんが何かあるの?

アコ はい?

チエ 先輩?

サナエ トモエ、あんた。今日がなんの日か、忘れてる?

エモト (バナナをテーブルに戻しつつ)何の日?(はっとした顔で)開校記念日だ!? え、じゃあ休み!? 
   うっそ、あたし学校来ちゃったよ。家でのんびり出来たのに〜。

チエ 放課後までしっかり授業を受けててなんでそういう発想になるんですか。

ハナ ミナコの誕生日ですよ。

エモト あ、そうなんだ。へぇ。

チエ だから、誕生日会やろうって話になってたじゃないですか。

エモト え? 誕生日って、えーーー!? 誕生日ってコト!?

サナエ じゃあ、なんであんたは今日来たのよ、ここに。

エモト いや、だから、ウキタ先生に追われたから。って、じゃあ、あたし先生に追いかけられなかったら、
   普通に帰ってたのか。あぶなかったぁ。あれ? サナエ、塾は?

サナエ 休んだ。休めって部長がおっしゃられましたので。

アコ だってお姉さんが祝ってくれないなんて、寂しいじゃないですか。

サナエ 無駄だって言ったんだけど。

アコ あ、チエ、フタお願い。

チエ 了解。ハナちゃん。どう?

ハナ まだ大丈夫です。

チエ 隠れてる途中で見つかるほど間抜けは無いものね。

アコ (箱の中から)だよね。

エモト そうかぁ。今日はミナコちゃんの誕生日か。……皆、プレゼント持参?

サナエ 私以外はね。

エモト ま、あたしは三年だし。いいよね。プレゼント無くってもさ〜。……え、あれ? だめ?

ハナ オオキハナの創作ニポンムカシバナシ〜「うっかりロクベー」

エモト え?

ハナ 昔々。まじめで評判な、ロクベーという男がいました。あるとき、ロクベーはうっかり忘れ物をしてしまいました。
   ところが、その忘れたものというのが、お殿様へお届けする大事な品だったからさぁ大変。
   途端、人々は彼をこう呼ぶようになりました。「間抜けのロクベー」「うっかりロクベー」
   ……以来、大して能力の無い人を、ロクベーのようになるなよという意味をこめ、
   『ろくべーでもなしに』転じて、『ろくべでもなし』『ろくでもなし』『ろくでなし』と呼ぶようになったということです。
   一回の失敗が、皆の評価をがらりと変えることって、あるんですよね。

サナエ&アコ&チエ あるんですってね。

エモト ……買ってくる!


     エモトが去る。


3 さ〜て今年の地区大会作品は?


チエ ハナちゃん、ナイス。

サナエ 相変わらず、でたらめを語らせたら凄いわ。

ハナ (横につけていたお面を正面に被って照れる)えへへへへ。

サナエ そういえば(お面を指し)どうしたの? あれ。作ったの?

チエ ああ、(自分の仮面を指し)コレと一緒に作ったんです。今度の芝居で使おうと思って。

サナエ へぇ。もう、なにやるか決めたんだ。創作?

チエ 半創作です。ね?

ハナ グスコーブドリの伝記。

サナエ え?

チエ 宮沢賢治ですよ。知りませんか? ブドリとネリの兄妹が出てくる。

サナエ ああ、二人でクラムボンがどうしたってやつ?

チエ それは、『やまなし』です。

サナエ ああそうか。夜に銀河鉄道に乗るやつだ。

チエ それ、まんま『銀河鉄道の夜』ですよね。

サナエ サウイフモノニ ワタシハナリタイ?

チエ 『アメニモマケズ』詩ですよね。

サナエ どっどど どどうど どどうど どどう!

チエ 『風の又三郎』

サナエ どんぶらこっこ、どんぶらこっこ!

チエ 『桃太郎』

サナエ のっしじゃんが ずしん、のっしじゃがんが ずっしん。

チエ 『力太郎』って、もう全然遠いですよ。当てる気無いですよね。

サナエ ごめん。

ハナ ブドリというのは、男の子の名前です。彼にはネリという妹がいました。二人はとても仲良しでした。

サナエ へぇ。

チエ その、子供の時の二人はお面で表現しようかと思って。

サナエ 兄妹愛か。

チエ いえ。というわけでもなくて。

ハナ 自己犠牲。

サナエ え?


     舞台の雰囲気が変わる。チエがブドリの面を横に被る。


ハナ ブドリは大きくなった後、火山に関わる技師になりました。ある年、気候を安定させるため、
   火山をわざと噴火させなければならなくなります。けれど、火山に行った者のうち、
   一人は必ず帰ってこられないことが分かっていました。……名乗り出たのは、ブドリでした。

チエ 「先生、私にそれをやらしてください」

ハナ 「それはいけないよ。きみはまだ若いし、いまのきみの仕事にかわれるものはそうはない。」
   すると、ブドリは笑って言いました。

チエ 「私のようなものは、これからたくさんできます。私よりもっともっとなんでもできる人が、
  私よりもっと立派にもっと美しく、仕事をしたり笑ったりして行くのですから。」


     舞台の雰囲気が戻る。サナエはチエを(ブドリの台詞を)見つめるように立ち尽くす。


ハナ ブドリはみんなを船で帰してしまって、自分は一人、島に残りました。
   ……そしてその年、ブドリのいない世界の気候は、とても穏やかなものになったのでした。

サナエ ……(感情をごまかすように)今年は期待できるのかな?

チエ さぁ?

ハナ ただ今誠意執筆中です。

サナエ そう。いい加減、地区落ちの連続記録からは、脱出したいからね。頼むよ〜。

チエ 去年は惜しかったじゃないですか。同じブロックに強豪がいなきゃ上行ってましたし。

サナエ そんなこと言っても、地区落ちには変わりないしさぁ。

チエ 切ないですね。

サナエ 切ないよぉ。

アコ(箱の中から) あたしもせーつーなーいーなー さみしーなー。

サナエ うわっ。ビックリした。

アコ(箱の中から) 見えないところで会話が盛り上がってると、さみしーなー。せつないなー

サナエ 別に、会話に入ればいいのに。今年は期待できそうですか、部長?

アコ(箱の中から) えっと、それはですねぇ。

ハナ あ、ミナコが来ました。

チエ 静かに。

アコ(箱の中から) はい。あ、どのタイミングで出ればいい?

サナエ 合図を決めればいいんじゃない?

チエ じゃあ、「そろそろ、練習始めようかぁ〜」ってあたしが言うから、それから1、2の3で。

アコ(箱の中から) 了解。


4 やってきたヒロイン。


     ミナコがやって来る。
     サナエはさりげなく、進路志望の紙を机に置く。


ミナコ すいません。遅くなっちゃって。ってお姉ちゃん! なんで?

サナエ 掃除の割にはずいぶん遅かったじゃない?

ミナコ うん。ちょっと電話してて。あれ? アーコ先輩は?

チエ ああ。いいのいいの。ちょっと、出てるだけだから。まぁまぁ、まずは座りましょうよ。

ミナコ あ、でも、私、

チエ いいからいいから、ね。ほら、ハナちゃんも。

ハナ はーい。


     ハナとチエ、サナエが席に着く。
     ミナコの席は、先ほどまでサナエが座っていた席。
     ミナコを囲むような配置。


ミナコ (バナナに気づき)あれ? これって……

チエ ああ、なんか置いてあったのよ。

ミナコ アポ山スーパー700じゃないですか!

チエ&ハナ え?

サナエ へぇ?

ミナコ アポ山スーパー700ですよ。フィリピン・ミンダナオ島にあるフィリピンの最高峰アポ山、標高3144mの
   中腹約700メートルの地点でしか栽培されていない、幻の高原バナナのことです! なんでこんなところに!

チエ えっと、それ、凄いの?

ミナコ 凄いに決まってるじゃないですか! バナナ好きの憧れの的ですよ。え、なんでコレが部室に? 先輩が?

チエ 違う違う。

サナエ 何故か置いてあったのよ。

ミナコ ってお姉ちゃん、テンション低いよ! あの、アポ山スーパー700が、今目の前にあるんだよ。

サナエ そうですね〜。

ミナコ 昔はあんなにバナナが好きだったのに。バナナの皮に、「サっちゃんの」って名前まで書いていたのに。

サナエ ちょっと、それは今関係ないでしょ!

ミナコ でも字が汚いから、(黒板に書く)カタカナの「サ」が左が長くて右が短く見えて、「ヤッちゃんの」って読めたのに。

サナエ うっさい。黙れ。

ミナコ あの頃のお姉ちゃんに見せたら、きっと大喜びするよ!

サナエ この年になっても食べ物程度ではしゃげるのはあんたくらいよ。

ミナコ 寂しい大人になっちゃったんだね。

チエ えーっと、話を戻していいかな?

ミナコ あ、すいません。

ハナ サナエ先輩、バナナに名前書いてたんですか?

サナエ 書いてない。

ミナコ うっそだぁ。書いてたじゃん。左下がりのクセ字でさ。あたしが気付かないで食べると凄い怒ったくせに。

ハナ なんか、可愛いですね。

サナエ (ミナコに)あんただって書いてたでしょ、ちっっちゃい字で。

ミナコ でも、字はきれいだったでしょ?

チエ はいはいはい。もう、バナナの話はいいから。話を元に戻そう?

ミナコ えっと、何の話をしてましたっけ?

チエ だから、

ハナ とりあえず、席に着こうってことになって、

ミナコ で、バナナを見つけて。アポ山700だって。そう! だから! すごいんだって! 

(バナナを手に取り)凄いバナナなんだって!

チエ (バナナを奪い取り)はい、じゃあ部活を始めましょうかね。って話をね。しようとしてたよね? してました。

ミナコ (しゅんとなる)あ、はい。(思い出して)あ、その、部活なんですけど、

ハナ (手を上げる)はーい。

チエ はい、ハナちゃん。

ハナ その前に、準備、オーケーか確認したいと思います。

チエ そうですね。準備、が出来てないと部活にならないですからね。


     と、言いながらチエとハナはクラッカーとかを用意し始める。


ミナコ えっと、その、準備する前になんですけど、あの、私、今日、

チエ さぁ、準備終わったら、そろそろ、練習始めようかぁ〜。

ハナ ですね。


     頭の中で、1、2の3と数えたその時、


ミナコ すいません! 今日申し訳ないですが、早退させてください!


     間


チエ&ハナ え〜〜


     クラッカーを鳴らそうとした格好のまま、チエとハナは固まる。
     箱を持ち上げていたアコは、そのまま箱の中に戻っていく。


サナエ (あえて感情を隠して)やっぱりね。

ミナコ ごめんなさい。当日連絡で、その、申し訳ないんですけど。

チエ でも昨日までは出るって言ってたよね? (ハナに)でしょう?

ハナ (頷いて)体の具合でも悪くなったの?

ミナコ その、お母さんが、早く帰って来いって。

ハナ お母さん?

ミナコ 今日、あたし、誕生日なんです。それで、電話が。

サナエ 毎年のことなのよ。去年なんか、横浜の何とかってホテルで食事したらしいし。
    今年はそれっぽい動きしてなかったんだけどさ。

ミナコ ドッキリさせようと思ったって言ってた。

サナエ 見事にドッキリしたわけだ。うちらが。

ハナ だから、サナエ先輩、さっき無駄だって言ってたんですね。

ミナコ 無駄って?

ハナ ううんなんでもない。そうか〜。そういえば、今日、ミナコ、誕生日だよね〜。

ミナコ 朝、バースディメールくれたじゃん。

ハナ あ、そうだったっけ?

チエ (ふと思い出して)でも、去年、サナエ先輩の誕生日は普通にやりましたよね。

サナエ あたしと、この子は別だから。母さん、この子にべったりだし。

ミナコ そういう風に言わないでよ。

サナエ じゃなかったら、部活早退なんてしないでしょ。

ミナコ そりゃあたしだって、部活出たいけどさ。でも、そしたらお母さん傷つくだろうし。

サナエ いい加減、子離れしたほうがいいと思うけどねあの人は。もう36なんだし。

ミナコ そうかもしれないけど。


5 ビックリ年齢。


ハナ さんじゅうろく!? 

チエ え、それってサナエ先輩とミナコちゃんのお母さんの年齢? 

ハナ わっかーい。

チエ ということは、サナエ先輩は、18の時のお子さん。ってコトですか?

アコ (箱の中から)ーなー

サナエ 今で言う、おめでた婚ってやつ。

チエ お母さんが若いなんていーなー。

アコ (箱の中から)さーみーしーいーなー。

ミナコ え?

ハナ あ。

チエ 忘れてた。

アコ(箱の中から) 見えないところで会話が盛り上がってると、さみしーなー。

ミナコ え、どこから声がしてるんですか?

ハナ 先輩、もう出てきてもいいと思いますよ。

チエ 誕生日会、出来ないから。

ミナコ え?


     箱が開いて、アコが出てくる。


アコ これってさぁ。入るところを見られるより、間抜けじゃない?

ハナ そんなことないですよ。ですよね?

チエ 残念ながら否定は出来ない。

ミナコ アーコ先輩? え、なんでそんなところに?

サナエ あんたを驚かそうとしてたんだってさ。

ミナコ え?

ハナ (クラッカーを見せ)秘密で企画してたんだ。誕生日会。

ミナコ あ……。

アコ せっかく準備したのになぁ。

ミナコ じゃあお姉ちゃんがいるのも。

チエ そういうこと。でも、仕方ないよね。毎年のことなんだったら。

ミナコ はい。

ハナ あたしはメールで朝、おめでとうって言っちゃってるしね。

ミナコ うん。ごめんね。

サナエ ちょっとくらいならいいんじゃない?

ミナコ え?

サナエ 別に、すぐに帰らないとまずいってわけでもないでしょ。迎えに来るわけでもないんだし。

ミナコ そうかな?

アコ 本当? だったら少しだけ残ればいいじゃん。ねぇ?

チエ 電話、入れてみたら?

ミナコ たぶん残れても、30分くらいだと思いますけど。

ハナ それで十分だよ。ですよね?

アコ そうそう。あ、もっかい箱に入りなおそうか? あたし。

チエ じゃあ、あたしフタをガムテープで目張りしてあげる。

アコ 出られなくなるから!


     ミナコがその間に電話をかける。


ミナコ あ、お母さん? うん。あたし。そう。まだ部活。あのね、今日、30分だけ部活やってもいいかな? 
    え? えっと、つまり? ……あ、そうなんだ? うん。じゃあね。
   (電話から顔を上げ、周りを見る) お母さん、もう学校着いてるって。

サナエ どういうこと?

ミナコ 部室、見たいからって。今、ちょうど廊下に来てるって。


     全員の目が廊下を見る。


6 やって来る親。


母さん(袖) すいませんね。急に娘から電話かかってきちゃって。

ウキタ(袖) いえいえ。


     母さんと、ウキタがやってくる。


ミナコ お母さん!

母さん 来ちゃった。

サナエ 「来ちゃった」って。

母さん あら、サナエもいたの?

サナエ 私も、一応、演劇部だから。

母さん でも今日は塾じゃなかった?

ミナコ お母さん、それよりなんで部室まで?

母さん うん? ちょっと見てみたくなっちゃって。演劇部なんてお母さん全然分からないから。
   ミナコを迎えに来るついでにって思って。でも、あれよね。この部屋何か埃っぽいわよね。
   (ウキタに)ちゃんと掃除しているんですか?

ウキタ まぁ、掃除に関しては生徒に任せているので。

母さん でも、先生は演劇部の顧問じゃないですか。そう、ご紹介していただいたと思うんですけど。

ウキタ ええ。そうです。演劇部顧問の、ウキタです。

母さん ですよね。でしたら、ほら最近、ハウスダストなんかも騒がれてますし。
    アレルギーなんかへの影響もねぇ? あるかもしれないじゃないですか。
    そこはやっぱり、先生が見てくださらないと。

サナエ ちゃんと掃除ならやってるから。

ウキタ やっているんですよ。生徒たち皆で協力して。

母さん 皆っていっても、コレだけの人数しかいないじゃないですか。顧問の先生って何人いらっしゃるんですか?

ウキタ 私を含めて三人ですね。

母さん だったら、先生方にも協力してもらえれば、ねぇ?

ウキタ え?

母さん ですから、先生方も一緒に掃除をしていただければ、もっと清潔な部室になるじゃないですか。

ウキタ いや、でもそんな時間は……。

母さん 生徒だけに任せておいて、何かあったら。大変じゃないですか。

ウキタ ……そうですね。検討してみます。

母さん 本当ですか? よろしくお願いします。

ウキタ じゃあ、私はコレで。

母さん 案内していただいて、ありがとうございました。

ウキタ いえいえ。とんでもない。


     ウキタがやや疲れた顔で去る。


ハナ 先生、逃げた。

アコ いやぁ強烈だね。

チエ うん。

サナエ 母さん来たし、帰れば?

ミナコ でも、

母さん ごめんなさいね、皆さん。今日はちょっとミナコは早退させていただきますね。ミナコ、帰る準備は出来てる?

ミナコ お母さん、私、

母さん あ、サナエ。あたしたち多分遅くなると思うけど、夜ご飯何がいい?

サナエ いいよ、適当に食べるから。

母さん あ、そう? じゃ、行きましょうか?

ミナコ え、あ。(周りに頭を下げる)

母さん どうしたの?

ミナコ ううん。なんでもない。行こう?


     と、母さんとミナコが去ろうとした瞬間、エモトがやって来る。


エモト あぶなかったぁ。今そこでさ、ウキタ先生に見つかりそうになっちゃったよ。でも、大丈夫。
   ばっちり隠れたから。あれ? なに、もうミナコちゃん帰るの? じゃあなに? 誕生日会終わり? 
   ちょっと待ってよぉ。せっかくあたし、買ってきたのにさぁあ。

母さん 誕生日会?

サナエ トモエ。(黙れの合図)

エモト なに? え? なに? 

母さん 皆で、誕生日会やるつもりだったの? ミナコの?

ミナコ えっと、まぁ、そうかなぁ。でも、(もう終わったような)

母さん 素敵! いいわね! 「誕生日会」って。響きがいいわよね。英語にしたらバースディ・バース?

サナエ なによ「バースって」

母さん にぎやかな宴会ってことよ。よし、やりましょう。

ミナコ やりましょうって?

母さん そりゃ、今からやるのよ。ここで。

ミナコ えぇ、でも、


     ミナコは思わずサナエを見る。
     サナエはそっぽを向く。
     ミナコはアコ、ハナ、チエを見る。
     アコ、ハナ、チエはそっぽを向く。
     ミナコはエモトを見る。


エモト さぁ、楽しいパーティタイム! だね。


     ミナコは首を必死に横に振る。
     暗転。


7 第二章。 部室 16:00


     明かりがつくと、誕生日の用意がしてある。
     真ん中にはミナコ。そのミナコを囲むように、サナエ、母さん、
     アコ、ハナ、チエ、トモエ。
     母さん以外の机の前にはプレゼントが置いてある。


アコ では、皆さんプレゼントも準備できたところで、改めて、ミナコちゃん、誕生日おめでとうございます。

サナエ・母さん・ハナ・チエ・トモエ おめでとうございます。

アコ ということで、プレゼントの授与を。

母さん (手を上げる)はい!

サナエ やめてよ変なことするの。

母さん 発言するには手を上げて、よね?

アコ えっと、じゃあ、はい。ミナコちゃんのお母さん。

母さん 誕生日の歌は歌わないの?

アコ え、歌?

母さん 歌。

サナエ 歌いません。

ハナ 歌うの? ミナコの家。

ミナコ うん。

チエ へぇ。

ミナコ 変ですか?

チエ いいんじゃないかな。

エモト じゃあ、サナエも歌うんだ?

サナエ あたしの誕生日には歌わないわよ。歌わせない。ミナコだって、もう恥ずかしいだけでしょ。

ミナコ そりゃあ、ちょっとね。

母さん でも、誕生日といったら、やっぱりね。誕生日の歌でしょう?

ミナコ うん。そうかも。

サナエ (ため息)

アコ じゃ、ね。せっかくだし。ね、歌いましょう! みんなで。

(母さんに)普通に、ハッピバースディ・トゥ・ユーってやつでいいんですよね?

母さん 違うわよ。

アコ え!? 違うんですか?

母さん うちのはね。ほら、サナエ。

サナエ 母さんが歌ってあげればいいでしょ。

母さん 妹の誕生日でしょ。祝ってあげなさいよ。

サナエ だからって

ミナコ お姉ちゃん(お願い)

サナエ ……わかりましたよ。


     サナエ歌う。
     とてつもなくオリジナルな感じ。


アコ ……えっと、はい。じゃあ、歌も歌ったことで、プレゼントを渡しましょう。

エモト 待ってました〜。

チエ 中々気合入れたんだよね。

ハナ 私のほうが気合入ってますから。

ミナコ そんな、皆、気を使わなくてもいいのに。

母さん (ニコニコとそんなミナコをカメラに収めている)

サナエ え、皆歌わないの!?

エモト いやぁ。さすがにそれはねぇ。

サナエ なんであたしがこんな目に。

アコ はい! ミナコちゃん、誕生日おめでとう〜(プレゼントを渡す)

チエ おめでとう〜。

ハナ おめでとう〜。

エモト 私からも、はい。

ミナコ ありがとうございます。

エモト よし。じゃあ、プレゼントを渡したところで、私は去る。

サナエ え? なんでよ。

エモト いや、なんか嫌な予感がするんだよね。うん。では!


     エモトが去る。


サナエ なんだそれ。おい!


     と、ウキタがやって来る。


ウキタ ねぇ、エモト来なかった?

アコ 先輩なら、今までいましたけど。

ウキタ 逃げたか。

チエ どうかしたんですか?

ウキタ 今日も勝手に放送室使ってたでしょ。今日こそガツンと言ってやるつもりだったのに。

ハナ エモト先輩、勘鋭いですからね。

ウキタ 本当、いつの間にか逃げてるんだから。って、あら? ミナコちゃん。部活は早退じゃなかたっけ?

ミナコ そのはずだったんですけどね。

母さん 今日、この子の誕生日なんですよ。それで、みんながお祝いしてくれるってことになって。

ウキタ あ、そうなんですか。うちの部ってそういうの多いですからね。

母さん 本当、この子がこの学校受けたときにはどうしようかと思ったけど。
    でも、いい先輩方にも会えたみたいでほっとしたわ。

ハナ ミナコ、違う学校行くはずだったの?

ミナコ 私はここ一本のつもりだったんだけどね。

母さん この子慎重だから。中途半端な偏差値の学校だから辞めなさいって言ったんだけど、
    聞かなくて。そういうところ頑固なのよねぇ。

サナエ あたしはここで満足してるんだけど?

母さん そりゃああなたはね。

ミナコ あたしも、ここで満足してるから。

母さん そう? ならいいけど。……さっきから気になってたんだけど。これ、バナナよね?

サナエ そうだけど。

母さん 誰のプレゼントなの?

アコ 部室においてあったんです。

チエ いつの間にか。

母さん そうなの? 危ないわねぇ。(ウキタに)部室の管理ってちゃんと出来てるんですか?

ウキタ ええ。鍵は放課後じゃないと渡せないことになってますし。

母さん でも、そこの窓とか開いてたら簡単に入って来れますよね?

サナエ ここ、四階なんだけど。

母さん 入ろうと思ったら階なんか関係ないわよ。ですよね?

ウキタ まぁ、そうかもしれませんね。

母さん 思い切って、先生に見張ってもらったほうがいいんじゃない?

サナエ だから、なんで一々そっちに話し持っていくのよ。

母さん なんでって、だって危ないでしょ?

アコ (話題をそらすように)そういえば、ミナコちゃんのお母さん。

母さん はい?

アコ (が、話題は思い浮かばず)えーっと。なんですか?

母さん はい?

アコ じゃなくて、ね。(チエ)ね?

チエ あ、うん? (ハナに)ね?

ハナ ミナコって、バナナが好きなんですよね。昔から。

母さん そうね。昔っから、ミナコは好きよね。バナナ。

ミナコ お姉ちゃんもだよ。

母さん そうそう。二人して相手に食べられないように、自分のバナナに名前書いたりしてたのよね。
    ミナコは几帳面だから小さな字で。サナエはいっつも左下がりの汚い字で。

サナエ その話、さっき出たから。

母さん そうなの? そう。あ、それで、部室の管理なんですけどね、

サナエ だから、なんで一々先生を困らせるようなことするの?

母さん 困らせてなんかいないわよ。お願いしてるんでしょう?

サナエ お願いって言う感じじゃないじゃん。

アコ (話題をそらす)そういえば! そういえば! (チエに)ね?

チエ え? って、毎回振らないでよ。(ハナに)ねぇ?

ハナ 遠足で「バナナっておやつに入らないんですか?」って質問あったら、なんて話はよく聞くけど、
   はじめに言ったのは誰なんですかね。

サナエ 別に無理にバナナを話題にしようとしなくてもいいと思うんだけど。

母さん 遠足で思い出した。(黒板を指し)合宿するんですよね?今年。

ウキタ ええ。

母さん 去年はしてないのに。

アコ あの! 今年こそは、万年地区落ちから脱出しようって皆で話し合ったんです。

チエ そしたら、ハナちゃんがいい場所知ってますって言って。

ハナ 中学の部活の時は毎年合宿ありましたから。

母さん 合宿があるなんて初めてで、ちょっと分からないんですけど、親は行けないんですよね?

ウキタ はい。でも、顧問は引率しますので。

母さん だけど、何かあったら大変じゃないですか?

ウキタ ちゃんと見てますんで。

母さん あたし、付き添ってちゃダメかしら?

ミナコ お母さんが?

サナエ ダメに決まってるでしょ。

母さん なんでよ? あんたはそりゃ平気かもしれないけど、でもミナコは枕替わると眠れないじゃない。

ミナコ でも、それは他の人だって同じだから。

母さん だけどもしものことがあったら、ねぇ? もし、部屋が無いんだったら、泊まる場所は変えますんで。
    部活中も、大人しく見学してますし。

ウキタ それはちょっと。

母さん 先生も生徒さんにかかりきりだと大変でしょうし。あたし、結構面倒見いいんですよ。

ウキタ いや、でもですよ。

母さん 大体、合宿自体ねえ、半分遊びみたいなものなんでしょう?

サナエ ちゃんと練習するわよ。ねぇ?

アコ あ、はい。スケジュールはあたしたちで作ってます。

チエ 基本的に朝から晩まで練習って感じですけど。

母さん そんなに練習してて、もし脱水症状なんかになったりしたら大変じゃない?

アコ 水分はしっかり取れるようにしますから。

母さん だからって。そもそも、合宿する必要なんてないんじゃない?

サナエ だから、今年は、

母さん でも去年も、一昨年も地区落ちなんでしょう? わざわざ合宿しても、
    実力なんてそう上がらないんじゃない? 先生だって、演劇のプロってわけじゃないですものね?

ウキタ そうかもしれませんが、生徒が自主的に考えたことですから。

母さん それで怪我しちゃ元も子もないじゃないですか。お金もかかるし。
    だったらその分、舞台にお金かけるとかしたほうが建設的じゃありません?

ウキタ それは……

サナエ いい加減にしてよ。

母さん でも、こういうのはきちんと話しておいたほうがいいでしょ?

サナエ 何だかんだ言って、結局それは母さんがミナコの傍にいたいだけじゃない。違う?

母さん そりゃ、心配だもの。

サナエ 我侭言ってるだけじゃん。起こりもしないことで難癖つけてさ。

母さん つけてないわよ難癖なんて。

サナエ そうやって何がしたいの? 皆で企画した合宿を潰せればいいわけ?

母さん 私は、ただ必要があるのかって聞いてるだけでしょ?

サナエ 必要あるって言ってるじゃん始めに。なんでそれで納得しないの?

母さん リスクを考えてないんじゃないかって話してるの。

サナエ 部活でやりたいことをやるのがそんなにいけないの?

母さん あんたはそれでいいかもしれないけど、ミナコは違うでしょ。

サナエ ミナコだって同じよ。そうでしょ?

母さん ミナコは、お母さんの言いたいこと分かるわよね?


     二人から見られ、ミナコは縮こまる。


ミナコ ……お母さんは、あたしのこと心配しているだけだから。

サナエ あ、そう。


     サナエは去ろうとする。


母さん どこ行くのよ。

サナエ 帰る。馬鹿馬鹿しい。


     サナエが去る。


ウキタ 様子、見てきますね?

母さん すいません。


    ウキタが去る。


8 静かになるばかり。


アコ えっと。

母さん ごめんなさいね。なんか暗くしちゃって。せっかくの誕生日会なのにねぇ。あの子とは本当昔っからなんか
    ぶつかっちゃって。反抗期かしら。長いわ〜。反抗期長いわ。ねぇ。まったくね。うまくいかないものよねぇ。


     微妙な間
     エモトがやって来る。


エモト いやぁ。なんか、ウキタ先生とすれ違ったんだけど、全然こっち見てないでやんの。なんかあったねありゃ。
   ……って、こっちが何かあったねぇ。あー。うん。じゃ!


     エモトが去る。


母さん さ、じゃあ、帰りましょうか?

ミナコ あ、うん。


     ミナコがプレゼントを袋にしまう。
     忘れ物が無いか、机の中も見る。進路志望の紙を見つける。
     母さんに見つからないよう(放送が流れたら)読んで、机にしまう。
     ハナが大きめの袋を持ってきてミナコが受け取る。
     アコはお面をもてあそんでいる。
     チエはバナナを見ている。

     と、下手にエモトが現われる。
     放送がかかる。


エモト えー。昇降口付近に車を止められた方、至急移動してください。

母さん あら。あたしの車だわ。多分。

エモト 今、校内に入り込んだワンちゃんが、車にマーキングしようとしています。至急移動した方がいいと思います。

母さん え、なにそれ。ちょっと、嫌よそんなの。

エモト あ。

母さん え?

エモト セーフ。危ないところでした。

母さん なにこの放送。とにかく車動かさないと。ちょっと、母さん先行くからね。
    校門の前で待ち合わせましょう。

ミナコ うん。

エモト あ、また寄って来た。

母さん もう、この学校の管理はどうなってるのよ。


     母さんが去る。


エモト これで、気まずい空気も少しは和らぐかな。 ……さて、ワンちゃんのマーキングが先か。車の移動が先か。
   なかなかコレは見逃せない展開ですねぇ。


     ウキタがエモトの傍に現れる。


ウキタ いやいや。ここもなかなか見逃せない展開だと思うけど?

エモト あら?

ウキタ なにをやってるのかしら?

エモト 邪魔者を追い出そうと思いまして。

ウキタ この場合、一番の邪魔者はあんたでしょ!

エモト 失礼な!


     ウキタがエモトを追いかけ、二人とも去る。


9 さらに静かに。


     のろのろと帰る支度を終えるミナコ。


ミナコ じゃあ、お先失礼します。

ハナ えっと、お疲れ様。

ミナコ お疲れ様。

アコ なんか、ごめんね。

ミナコ 何がですか?

アコ 結局、気まずい感じにしちゃって。

ミナコ そんなことないです。プレゼント、ありがとうございました。チエ先輩も。

チエ (バナナを指し)それ、もって帰らないの?

ミナコ あ、そういえば、結局なんだったんですかね。これ。誰が置いたかも、分からないままで。

チエ サナエ先輩でしょ。

ミナコ え?

ハナ へ?

アコ え? そうなの?

チエ だって、先輩が一番最初に部室来たんだし。

ミナコ お姉ちゃんが?

チエ ミナコちゃんがこれ好きだってのを知ってるのもサナエ先輩だけだったし。

アコ でも、なんでサナエ先輩が?

チエ 誕生日だから。ミナコちゃんの。

ミナコ (バナナを手にし、置いて)……ダメなんですよね。あたし。お姉ちゃんにも、お母さんにも、
    守られてばっかりで。分かってるのに。私のことでお母さんとお姉ちゃんが喧嘩してるってわかってるのに。
    止められなくて。見てるばっかりで。言いたいこと、言えないままで、お姉ちゃん傷つけて。


     いつの間にか、サナエが戻ってきてた。


サナエ 別に、傷ついてないわよ。

ミナコ お姉ちゃん。

サナエ カバン。置いたままだったから。

ミナコ そっか。


     サナエはカバンを取ると、机の中から、進路志望の紙をとりだす。
     ミナコに背を向ける。ポケットに適当に紙を突っ込む。


サナエ 別にいいんじゃないの。

ミナコ え?

サナエ あんたはそのままで。どっちにも気を使ってるまんまで。

ミナコ それでいいなんて思ってないくせに。

サナエ 思ってるわよ。あたしとあんたは違う人間なんだから。それでいいじゃない。

ミナコ ずるいよそんなの!

サナエ (ミナコに振り返り)ずるい?

ミナコ そうやって、結局お姉ちゃんばっかり損してさ。お姉ちゃんばかりお母さんに怒られて。喧嘩して。

サナエ いいのよ。あたしは。

ミナコ そんなことない。

サナエ いいんだって!

ハナ ブドリが犠牲になっても、ネリはきっと喜ばなかったと思うんです。

サナエ なに急に。

ハナ (お面を被る。それはネリの仮面)ブドリは自分なら犠牲になってもいいと思ってた。
   でも、妹にとってはどうだったでしょうか? 


     ハナがチエを見る。
     チエがブドリの面をかぶる。
     舞台の雰囲気が変わる。


チエ 「(アコに)先生、私にそれをやらしてください」

アコ 「それはいけないよ。きみはまだ若いし、いまのきみの仕事にかわれるものはそうはない。」

チエ 「私のようなものは、これからたくさんできます。私よりもっともっとなんでもできる人が、
   私よりもっと立派にもっと美しく、仕事をしたり笑ったりして行くのですから。」

ハナ 「でも、兄さんは一人しかいないよ?」

チエ 「ネリ……」

ハナ 「兄さんのような人は、きっとたくさん出てくる。兄さんよりなんでもできる人も、
   兄さんよ立派な人も。でも、それは、兄さんじゃない」

チエ 「僕なんかがいなくたって世界は変わらないだろう?」

ハナ 「私の世界は変わってしまう」

チエ 「誰かが犠牲にならなくちゃいけないんだ!」

ハナ 「そうだとしても! ……自分はいらないなんて気持ちで世界の犠牲にならないでください。
   あなたは、あたしにとってたった一人の、兄なんだから」


     舞台の雰囲気が戻る。
     サナエはハナを(ネリの台詞を)見つめるように立ち尽くす。


サナエ (動揺を抑えて)でも、結局ブドリは犠牲になるんでしょう?

ハナ はい。

サナエ だったら、周りがどう思おうと変わらないじゃない。
    ちょっと、地区大会でやる劇としては暗いんじゃないかなぁ。

ハナ このネリの台詞を考えたのが、ミナコだったとしても。ですか?

サナエ ミナコが?

ミナコ お姉ちゃんと、あたしへのお母さんの反応って全然違うから。
    なんだか、お姉ちゃんはあたしの怒られる分まで怒られている気がして。あたしが言いたい不満も全部、
    お姉ちゃんが言っている気がして。そうしたら、なんか、いつか、お姉ちゃん、
    いなくなっちゃうんじゃないかって。自分がいなくなればなんて思って、
    どっか行っちゃうんじゃないかって。

サナエ バカね。そんなこと、

ミナコ 本当に?

サナエ 本当よ。

ミナコ じゃあ、なんで、進路希望の紙に、就職って書いたの?

サナエ ……見たの?

ミナコ (頷く)

サナエ ……母さんにとってはね、あたしは、悔いなんだと思う。

ミナコ 悔い?

サナエ 簡単に言うとね。そんな悪い意味じゃないのよ? ああしておけばよかったなぁ。くらい? 
    ほら、うちって出来ちゃった婚だから。18だよ。あたし生れたの。今親になるなんて想像できる?

アコ まずそんな出会いがないですよ。

サナエ まぁね。大変だったんだってよ。おばあちゃんから聞いた話だけど。
    あたし、小さい頃おばあちゃんが世話してくれてたらしいしね。ミナコが生まれた時も、
    大変っちゃ大変だったみたいだけど、でも、二人目だからっていう余裕もあったんだって。
    だから、母さんはミナコにかかりきりになった。あたし、おばあちゃんに懐いてて、
    離そうとすると泣き叫んで嫌がったらしいよ。そんな記憶ほとんど残ってないけど。
    でも、母さんは、あたしを見るたび思い出すわけだ。

ハナ そんなの、サナエ先輩のせいじゃないじゃないですか。

サナエ 誰のせいでもないって。(おどけて)あたしがもっと凄い子だったらよかったんだけどねぇ。これだから。
    (チエに)ほら、ブドリも言ったでしょ?「私のようなものは……」なんだっけ?

チエ 「私のようなものは、これからたくさんできます。私よりもっと、

サナエ&チエ もっとなんでもできる人が、私よりもっと立派にもっと美しく、仕事をしたり笑ったり

サナエ しますよっと。ね。だから、母さんが、嫌なら、出て行くのも、あり、かな。って。

ミナコ なんでそうやって一人で決めちゃうのよ!

サナエ 仕方ないでしょ。

ミナコ なに、『仕方ない』って。

サナエ 『仕方ない』は、『仕方ない』よ。他に何が言えるのよ。

ミナコ 大人ぶらないでよ。

サナエ 大人にならないといけないでしょ。

ミナコ 二つしか違わないくせに。

サナエ 二つも、よ。

ミナコ 二つしかじゃん。

サナエ でも結局あんたには何も出来ないんでしょ? 出来ないくせに、
    あれは嫌だ、これも嫌だって駄々をこねているだけなのよ。違う?

ミナコ そんなことは分かってるよ!

サナエ 分かってるなら、突っかからないで!

ミナコ ……分かってるけど。それでも私はお姉ちゃんと一緒にいたい。今は無理かもしれないけど、お母さんと
    お姉ちゃんが、笑って話しているところが見たいの。だって、私は、二人とも、(大好き)だから。

サナエ ……じゃあ、まずあんたが見せてよ。

ミナコ え?

サナエ 母さんの言葉に揺れない、あんたを見せてよ。

ミナコ あたしは、

サナエ あたしだって、あんたと母さんと……だったらいいなって思う時はあるんだから。

ミナコ ……わかった。

サナエ (ふと大きく息をつくと、にやりとし)はい!聞きましたか〜。聞きましたね? 皆さん。

ミナコ え?

アコ・チエ・ハナ はい?

サナエ では今日はこれから改めて、ミナコの誕生日会をやります。もちろん、母さん抜きで。

ミナコ え、何でそんな話になるの? だって、今日はこれから、

サナエ あれ? あんた自分が言ったこと、もう曲げるの?

ミナコ そういうわけじゃないけど。

サナエ あっそー。そうですか。ふーん。なんだったのかなぁ。ここまでの熱い流れは。あーあ。あーあ。あーあ。

ミナコ やる。やります。やろう! お姉ちゃん。

サナエ よし。どう、みんなは?

アコ 『みんなは』って。

ハナ えっと?(と、チエを見る)

チエ つまり、ミナコちゃんは親より部活を取ると。

ミナコ そう言うと、私、ひどい人みたいなんだけど。

ハナ でもなんかこのままだと、私たち、今日ずっと流されっぱなしみたいで悔しいよね。

ミナコ うん。

チエ だよね。

サナエ で、部長のご判断は?

アコ OK! やりましょう!

ハナ で、どうするんですか?

アコ 親御さんにミナコちゃんを渡さなきゃいいんですよね?

サナエ ミナコが来ないと思ったら、母さんは戻ってくると思うから、そこをうまくかわせさえすればいいと思うのよ。

チエ はい!

アコ はい、チエ。

チエ いい案が浮かびました。

アコ よし。

チエ でも、人数が足りません。


     と、そこにエモトがやってくる。


エモト あー、しつこい!


     と、ウキタがやって来る。


ウキタ 追い詰めたわよ〜。

チエ あ、そろった。

ウキタ え? あれ? サナエさん、いつ戻ってたの?

アコ というか、ウキタ先生、サナエ先輩の様子を見に行ったんじゃなかったでしたっけ?

ウキタ だって、放送が聞こえちゃったんだもん。

エモト 教師としてそれはどうなのかなぁ。

ウキタ それは言わないで!

チエ とりあえず、二人にも手伝ってもらいます。

エモト え? なにを?

ハナ ミナコ救出大作戦ですよ。

エモト え、ミナコちゃんいつさらわれたの?

アコ さて、では、行動開始〜


     暗転。そして、ハナの姿が浮かびあがる。


10 閑話休題


ハナ ふと、こんなお話を思いついた。
   オオキハナの創作ニポンムカシバナシ〜「幸せで不幸せな犬」
   あるところに犬がいた。犬は飼い犬だった。飼い主が与えるものを犬は何だって喜んで受け取った。
   山ほどの食事は犬を太らせたが、犬は言った。


     暗闇の中、声が響く


チエ声 「私のためにしてくれることだから」

ハナ 散歩に行くにも抱きかかえられて運ばれたため、犬の足は痩せ細ったが、犬は言った。

アコ声 「私のためにしてくれることだから」

ハナ 飼い主の趣味で飾られた服は、犬から毛で身を守ることを忘れさせたが、犬は言った。

トモエ声 「私のためにしてくれることだから」 

ハナ ある時、飼い主は引越しをした。引越し先では、犬を飼うことが出来なかった。犬は捨てられた。犬は言った

ミナコ声 「うん。きっとこれも私のためにしてくれることだから」


演劇部員全員 ……犬がどうなったか、誰も知らない。


11 第三章 部室16:30


     明かりがつく。
     舞台上にはお面をつけたアコとミナコ。
     アコとミナコは仮面をつけたまま、左右対称の動きをする。
     箱に入ったウキタ。
     サナエとチエとエモト、ハナ。
     そして、母さんがいる。


エモト 第一回、どっちが娘でしょう〜!

チエ わーパチパチ。

ハナ パチパチ〜

母さん サナエ、これどういうこと?

サナエ さぁ?

エモト はい。あ、車移動できましたか?

母さん ええ。それで迎えに来たのよ。どうなってるのこれは?

エモト えーとですね。ミナコちゃんのお母さんには、これからどっちがミナコちゃんかを当ててもらいます。
   当てられれば、お母さんの勝ち。当てられなかった場合は、今日はミナコちゃんは、
   部活でおしゃべりしてから帰る。ということになりました。

母さん なにそれ、サナエ。

サナエ さあ。

エモト まぁまぁ。余興ですから。そのつもりでね? 軽く当てちゃってください。

母さん 当てろって言われても。


     アコとミナコは左右対称に動く。


母さん ミナコ。あんまりお母さんを困らせないで。ね?


     アコとミナコは左右対称に動く。


サナエ 当てる自信ないんだ?

母さん あるわよ。でも、二人とも同じくらいの背だから。


     アコとミナコは左右対称に動く。
     と、箱の下から足が生え、ゆっくり外へと向かって歩き始める。
     母さんが気付く。


母さん もしかして。ミナコ?


     箱が一瞬びくりとする。そして逃げ出す。
     生徒たちは騒ぎ出す。


母さん ちょっとミナコ! なんで逃げるのよ!


     母さんが追いかけて去る。
     少しがっかりする生徒たち。
     そして、


12 生徒たちの帰宅。


エモト はい。残念賞〜


     アコとミナコが仮面を取る。


ミナコ いいのかなぁ。

アコ あれ? 今更じゃない?

ミナコ それはそうですけど。

ハナ でも先生、よく手伝ってくれましたよね。

チエ 教師の弱みの一つや二つくらい握ってるからね。

エモト ほらほら、今のうちにさっさと行くよ。ちんたらしてると二人とも戻ってきちゃうから。

サナエ 戻ってくるかな?

エモト 来るでしょ。あんな格好でウキタ先生がいつまでも捕まらないとは思えないし。

サナエ そっか。

アコ さぁ。じゃあ、出ましょう〜。駅のとこのファミレスでいいよね?

ミナコ あ、はい。

ハナ 賛成で〜す。ケーキ食べましょう。ケーキ。

チエ サナエ先輩。

サナエ え?

チエ プレゼント、自分で渡したほうがいいと思いますよ。


     チエがバナナを指差す。


ハナ 今日の話、そのまま舞台にしたらおもしろそうですよね〜

アコ いいねぇ。思い切って実名でやろうか。

ハナ いいですね。

ミナコ ちょっとやめてよ。先輩も、勘弁してくださいよ。

アコ じゃあ、ありえない名前でやればいいよ。ねぇ?

ハナ 例えばこんな名前はどうですか。

アコ どんな?

ハナ ナババナ ナバナさん。

ミナコ どういう字書くの?

ハナ ナババナ の、ナババナに、ナバナの、ナバナ。


     サナエはバナナを手にすると、一本だけもぐ。
     そして、マジックで見えないように名前を書いた。
     一本だけのバナナを机に置くと、束を持ち


サナエ ミナコ。

ミナコ え?

サナエ (ミナコに)はい。

ミナコ ありがとう。

サナエ これからが大変だからね。母さんが相手でも、
    言いたいことちゃんと言えるようになりなさいよ。

ミナコ お姉ちゃんもね。話せば、分かると思うんだ。お母さんも。

サナエ ん。

エモト ほら〜行くよ〜。

サナエ 分かってるって。


     がやがやとエモト、サナエ、ミナコ、アコ、チエ、ハナが去る。
     静かになる舞台。


13 先生と母。そしてエンド。


     母さんとウキタがやって来る。


ウキタ すいません。あの子達に協力してくれないと、秘密をばらすって脅されまして。

母さん だからって、あんな全力で逃げることは無いと思いますけど。

ウキタ いや、凄い勢いで追ってくるから。

母さん だって、思うじゃないですか。そこまで嫌われることしたのかって。

ウキタ すいません。

母さん ……あたしね、母親のこと嫌いだったんですよ。

ウキタ え?

母さん だから、早く独立したくて。この人だって思った人とさっさと結婚して。その後がまた大変で。

ウキタ そうなんですか。

母さん 生活するので精一杯で。子供の世話なんて全然。そうしたら、母が手伝ってくれるって言い出しましてね。
    もう、嫌いとか言ってられないじゃないですか。結局、サナエはほとんどうちの母にまかせっきりで。
    コレじゃダメだって思ってたんですけどね。だから、二人目こそはって。気合、入れすぎちゃったんですかね。
    何でもかんでも口出して。うちの母がね。そういうタイプだったんですよ。そんな母が大嫌いだったのに。
    いつの間にか、自分も。

ウキタ 分かってくれてますよ。二人とも。

母さん 無理させていたんですかね。逃げたくなるくらい。

ウキタ そんなこと……。


     母さんはテーブルの上にあるバナナを見つける。


母さん サナエが小さい頃、買ってあげた事があるんですよ。ほら、安いし。
    ナイフで皮剥く必要も無いでしょう?安全だからって思って。食べてる間だけは、本当大人しくって。
    そしたら、いつの間にかミナコもこれが好きになって。いつも取り合ってて
    「そんなに食べたかったら、名前でも書いておきなさい」って言ったら、名前を……。

ウキタ どうしました?

母さん 名前が、

ウキタ え?

母さん 「母さんの」って。

ウキタ あれ? この字、

母さん 左下がりで……本当、汚い字。

     二人とは違う場所に、
     サナエ、ミナコが現われる。
     ゆっくりと幕が下りてくる。




参考文献
青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)より、
「グスコーブドリの伝記」 宮沢賢治

あとがき
小さい頃、ずっと弟や妹のほうが可愛がられていると思っていました。
私は一番上だったのですが、扱いが違うような気がして……
そんなのはきっと思い込みなんですけどね。5人家族だったため、
自分がいなければ丁度偶数になっていいんじゃないかなんて考えたり(苦笑)
そんな、家族の中にいるのにちょっと寂しかった気持ちを描いた作品です。
ちなみに、バナナは普通に大好きな食べ物で。うちの家族も好きで。
小さい頃本当に名前を書いておこうかと思った時がありました(笑)
バナナが嫌いって人には、それだけで敬遠されそうな話ですよね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。