HERO meet NEET
    ヒーロー        ミート            ニート

作 楽静



主要登場人物

ヒロイ タイヨウ  元太陽戦隊ムーンレンジャーのブルー。今は引篭もり。
ヒロイ ソラ    元太陽戦隊ムーンレンジャーのホワイト。タイヨウの妹。
アオイ アカネ   元太陽戦隊ムーンレンジャーのピンク。 現在も戦士として戦い中。
ツキノ ミチコ   元太陽戦隊ムーンレンジャーのグリーン。今は怪人。

ラハラ ラハ    (※1始め太陽戦隊ムーンレンジャーのレッドを兼任)怪人。結構真面目。
マッディ ホシミ  博士。戦士達のアイテムやロボットを作っている。
マタタビヨネコ   リポーター。とにかく知りたい事は聞きたがる。

           色々と説明したりしてくれる


コマーシャルの人達。

@
デデケン  なんか人気者らしい。(一発もの)

A
   カップル女。(ソラと兼ねるのも可)
   カップル男。シャイボーイ




     NEET(Not in Employment, Education or Training) 
      「就業、就学、職業訓練のいずれもしていない人」。英国で名づけられた。
      学術的・行政的定義
      学生でもなく、就業者でもなく、求職「活動」もしておらず、主婦(主夫)でもない
      という者をさす。

      注意点
      「フリーター」はニートに含まれない。
      また、就業意欲があっても求職活動していなければ「ニート」になる。
      ただし,家事手伝いはニートに含まれる.
      (by はてなダイアリー)






0ヒーロー達の終焉

     派手な音楽と共に、ヒーローが一人づつ舞台に上がってくる。
     その間、戦士が登場するのに合わせるように、声が響く。


声  「かつて、地球星、日本国、横浜市は悪の組織ホーリーランスに支配されようとして     
    いた。そんな中、太陽と月の力を身にまといこの街を救おうとしていた
    戦士達がいた! 広い心と少しの勇気、大海のブルー!」


     何て叫び声に合わせて、ブルーが現われポーズを取る。
     ブルーらしく、ちょっとキザっぽい。


声  「美しい森と美味しいお米、新緑のグリーン!」


     グリーンが現われポーズを取る。大人っぽく。


声  「純粋と馬鹿の紙一重、清純派ホワイト!」


     ホワイトが現われポーズを取る。ぶりっ子と馬鹿の紙一重な格好。


声  「夜の繁華街に殴りこみ、お色気ピンク!」


     ピンクは文句をいいたげに現われる。我慢してポーズ。お色気な格好。


声  「そして、燃える闘魂、怒りのレッド!」


     レッドがポーズを取る。


レッド「よっしゃー! お前ら行くぞ、さん、にー、いち!」


     レンジャー全員でポーズを取りながらの大合唱。


レンジャー全員「太陽戦隊! ムーンレンジャー」


      間


ブルー 「相変わらず、太陽なのか、月なのか良く分からないネーミングだ」

レッド 「余計な事は言うな! とうとう、ここまで来たんじゃないか」


      と、いうとレッドはふと遠くを見る。
      他のメンバーも、つられるように同じ方向を見る。


ピンク 「そうね」

ホワイト「あれが、ホーリーランス城……」

グリーン「なんて、美しい」

ブルー 「ああ。まるで、シンデレラ城みたいだ」

レッド 「だけど、あそこに敵のボスがいる。油断しては駄目よ」

4人  「はい」


      と、ここで4人はストップモーション


声   「最終回! 暁に散る戦士の涙! ここで、良い子のみんなに前回までのあらすじ   
     を説明しよう。ムーンレンジャーは、ついに、ホーリーランス城に辿りついた。     
     しかし、彼らはすでにいくえもの攻撃にさらされ、ボロボロになっていた。
     そして、肝心のレッドは、敵の砲弾によって、若い命を散らしていた」


      レンジャーのストップモーション解ける。


レッド 「はぁ!? あたし、死んでるの!?」

ブルー 「レッドォ!!(号泣)」

ホワイト「一緒に、帰ろうっていっていたのに」

グリーン「馬鹿だよ、あんた。大馬鹿だよ」

レッド 「そんな!? だってあんた達、さっきまで……」

ピンク 「みんな! ここで嘆いていても、レッドは喜ばない! 思い出して。
     レッドの、言葉を」


      皆の心の中に、レッドの言葉が蘇ってくる。
      ふと、ブルーが顔を上げる。
      なぜか、渋く声が流れてくる


声   「『東京は、寒い街だったよ』」

ブルー 「レッド……」

レッド 「え、そんなこといってない」


      グリーンが顔を上げる。
      また、渋い声が流れてくる


グリーン「レッド」

声   「『アボカドは寿司には向かないぜ』」

グリーン「レッド」

レッド 「いや、言ってないから」


      ホワイトが顔を上げる。
      しわがれた声が流れる。


声   「『手袋あんでおいたからね。夜なべで』」

ホワイト「レッド」

レッド 「いや、それは絶対レッドじゃないでしょ」

 
      レッドが叫んでいるうちに、
      袖から何人かやってきて、レッドを攫っていく。


レッド 「最終回なのに〜」

ピンク 「さぁあ、皆。もう、大丈夫ね」

3人  「はい」

ピンク 「行くわよ!」

3人  「はい!」


      かけていく戦士達、ブルーはその場に座る。
      暗転。その間に、ブルーは軽く衣装を脱いでおく。
      破壊音、奇声、色んな声が聞こえて、なぜかマリオのゴール音が聞こえたりと、
      良く分からなくなった頃、音響が消え、サスが入る。
      ブルー事、ヒロイタイヨウが浮かび上がる。体育座りである。


1 現在。ヒロイタイヨウの家


タイヨウ「こうして、地球星、日本国、横浜市の平和は守られました。
     戦士達はホーリーランスの壊滅と共に散り散りとなり、
     僕、ブルー事ヒロイタイヨウと、ホワイト事ヒロイソラ、つまりは僕の妹は共に
     新しい生活を始めました。そして、僕は今、引篭もっています。……あれから
     五年。全ては遠い昔の事だったような気がします。悪の組織も、正義の味方も。
     なんだか、全てに対してやる気が無くなってしまって、
     今僕はテレビを見ながら家の中に閉じこもっているような日々です。
     蓄えはムーンレンジャーのアイテムを売った幾ばくかのお金だけ。それも、
     もうじきつきそうです。妹は、こんな僕にあきれ果てたようで、家を出ていきま
     した。まぁ、それも関係無いことです。今日も、ただ、テレビを見続けるだけの
     日々……(と、ここでチャンネルを取り出す)しかし、最近のお笑いブームには
     正直ついていけないところがあるんだよなぁ。……なんてことを考えながら、
     まるでずる休みをしてしまった小学生のような罪悪感を感じながら、テレビの
     スイッチをつけるのでした」


      タイヨウがテレビをつける。
      舞台の違う場所に人が浮かび上がる。
      リポーターの、マタタビヨネコだ。


ヨネコ 「(重く)本日未明、長寿で一時期話題となった△△池の主である、
     亀が亡くなりました。およそ、2500歳でした」

タイヨウ「なぜ年齢が分かったんだろう……」

ヨネコ 「付近の住民の悲しみは深く、△△池近辺は重たい空気で包まれています。
    (いきなり明るく)さて、次は動物園に生まれた双子のゴリラの話題です♪」

タイヨウ「変わり身早っ」

ヨネコ 「現在、動物園ではゴリラの赤ちゃんに付ける名前を募集しています。
     今候補に上がっているのは、『ゴリオ』と『ゴリスケ』、『ジャイアン』と
     『ブタゴリラ』、『ゴジラ』と『ガジラ』の3通りです」

タイヨウ「どれも微妙だ」

ヨネコ 「動物園の園長さんのお話によると、『最終的にはゴリラに決めさせたい。今、
     彼らに聞いているところです』とのことで、園長さんの精神状態が危ぶまれる
     ところです」

タイヨウ「いや、夢があること言っただけじゃんか! 危ぶむなよ。……本当、
     平和な世の中になったな。退屈な、世の中だ」


      タイヨウがテレビのチャンネルを手にする。


ヨネコ 「たった今入って来たニュースをお届します。○○区(地元などで)において、怪人が
     (現れた模様です)」


      タイヨウがテレビを消す。
      ヨネコの姿が消える。


タイヨウ「……怪人?」


      タイヨウがテレビをつける。
      テレビが付くと、ヨネコが浮かび上がる。


ヨネコ 「この天気図ですと、週末は雨になるもようですね。以上、各地のお天気でした」

タイヨウ「天気のニュースになってるし!」


      乱暴にタイヨウがテレビを消す。


タイヨウ「なんだったんだ? ……他の番組を見れば……いや、きっと聞き間違いだ。聞き 
     間違い。怪人なんて良く聞き間違えるさ。
     ……それにどうせ、俺には出来る事なんてないんだ。今更何が起こったって」


      うつむくタイヨウ。


2 やってきた訪問者

      と、そのうつむきを壊すように、窓ガラスが割れる音が響き渡る。


タイヨウ「なんだぁ!?」


      と、そこに転がり込んできたのはアオイアカネ。
      その姿は何者にやられたのかボロボロである。
      ちょっと、背中に矢とか刺さっちゃったりしている。


アカネ 「た、タイヨウ、久し振り」

タイヨウ「アカネ……」

アカネ 「ごめん。窓壊しちゃった」


      と、言葉と共にアカネは倒れる。


タイヨウ「窓なんて良いよどうでも! どうしたんだよ、その体!」

アカネ 「スカイバイクの飛行力が持たなくってさ。本当は、ベランダに止めようと
     思ったんだけど」

タイヨウ「だから、窓のことは良いから! それよりお前、大丈夫か!?」

アカネ 「大丈夫。命に、別状はないと思う」

タイヨウ「なんか刺さってるけど」

アカネ 「平気平気、みねうちだから」
タイヨウ「いや、全然みねうちじゃないと思うぞ」


アカネ 「レンジャースーツ、ボロボロにしちゃった」

タイヨウ「……なにが、あったんだ?」

アカネ 「復活したんだよ」

タイヨウ「なにが!?」

アカネ 「分かっているでしょう?」

タイヨウ「まさか。だって、あいつらは俺達が」

アカネ 「だから、復活、したんだって」

タイヨウ「そんな」

アカネ 「リターンだよ。やつらの」

タイヨウ「ばかな」

アカネ 「そせい?」

タイヨウ「うそだ」

アカネ 「リザレクション?」

タイヨウ「いや、分かっているからね。言葉の意味は」

アカネ 「なんだ。てっきり理解できてないのかと」

タイヨウ「だいたい、なんで途中から疑問形になってるんだよ」

アカネ 「いや、あってたかなぁって思って」

タイヨウ「あっているよ! 自信持てよ! それで、どうしてこんなに? 
     まさか一人で戦ってたのか?」

アカネ 「違う。急に襲われたの。ピザの配達中に……」

タイヨウ「バイトか」

アカネ 「そう。それで、変身したんだけど、勝てなくて」

タイヨウ「そんな……相手の数は!?」

アカネ 「一体」

タイヨウ「まさか……」

アカネ 「信じられないくらい強くなっていて。逃げ出すのがやっとだった。配達にスカイ
     バイクを使っていたから。そのまま空を飛んで」

タイヨウ「それで、ここまで」

アカネ 「タイヨウ……」

タイヨウ「なんだ?」

アカネ 「とりあえず、ピザ食べて。冷めちゃうから……」


      アカネが気を失う。


タイヨウ「アカネ!? 大丈夫か! アカネ!?」


      そして、聞こえてくる大いびき。


タイヨウ「寝ているだけか……(ふと、前を向いて)そして、僕は嫌な予感に襲われていた。
    何か恐ろしい事が始まっている。そんな予感……その予感が的中しているのが
    分かったのは、アカネを布団に寝かしつけ、テレビのスイッチを入れてからだった。
    ……冷めたピザを食べることも出来ずに、僕はテレビにくぎ付けになっていた」


      暗転。
      爆発音が響き渡る。


3 荒れ果てた町、港北区。

      爆発音が小さくなる中、怪人ラハララハとツキノミチコがやってくる。
      ラハラは、なんだかロボットなんだか良く分からない怪人である。
      そして、ツキノミチコも、かつての面影は無く、怪人の格好をしている。

      二人はまるで若手漫才師のように手を叩きながら登場する。


ラハラ&ミチコ「はいはいはいどーもでーす」

ラハラ 「ラハラです」

ミチコ 「ミチコです」

ラハラ 「二人合わせて」

ラハラ&ミチコ「怪人ブラザーズ」

ラハラ 「女なのにブラザーズってところがポイントだよね」

ミチコ 「ポイント」

ラハラ 「そう、そんなわけでやってきました○○区」

ミチコ 「隊長、なにもありません」

ラハラ 「破壊したからね」

ミチコ 「破壊し尽くしちゃったから」

ラハラ 「この手で」

ミチコ 「この足で」

ラハラ 「この頭で」

ミチコ 「この歯で」

ラハラ 「なに、あんた噛んで破壊してたの?」

ミチコ 「したよぉ。ガジガジって」

ラハラ 「すっげぇ。どんな歯? 見せて見せて?」

ミチコ 「いやですー」

ラハラ 「見せなさいよ」

ミチコ 「いーやー」

ラハラ 「見せろって」

ミチコ 「じゃあ、ちょっとだけよ?」

ラハラ 「いいよ」

ミチコ 「に(歯を見せている)」

ラハラ 「白い!?」

ミチコ 「そりゃ、歯だからね」

ラハラ 「しゃべった!?」

ミチコ 「そりゃ、歯だからね」

ラハラ 「動いてる!? 噛み続けてる!?」

ミチコ 「だから、動くし噛むって! 歯だもん」

ラハラ 「歯って、凄いねぇ」

ミチコ 「当たり前の事ばかりだけどねぇ」


      間


ラハラ 「(ふと、真面目に)やっぱり、それはツッコミじゃないと思うんだ」

ミチコ 「うん。私も、なんだかやってて違和感感じた」


      ラハラはポケットから紙を取り出す。
      どうやら、台本らしい。


ミチコ 「てか、なんで漫才なわけ?」

ラハラ 「だって、なにかやらないとさぁ。やっぱり、新しい怪人としては」

ミチコ 「べつに漫才じゃなくても」

ラハラ 「なかったと思うんだよね。今まで。怪人で、漫才」

ミチコ 「そりゃあね」

ラハラ 「あ、『歯って凄いねぇ』でさ、ミチコが、なんでやねんって飛ぶのはどうかな?」

ミチコ 「飛ぶの!? ジェットで?」

ラハラ 「いや、ジェット持ってないでしょ」

ミチコ 「まだね」

ラハラ 「え? つけるの?」

ミチコ 「うーん。総統に今頼んでいるんだ」

ラハラ 「まぁ、空飛べればね。強いしね」

ミチコ 「逃がさないでしょ。ヒーローを」

ラハラ 「真面目に考えてるんだ」

ミチコ 「一応ね。脱ヒーローした手前さ」

ラハラ 「元ヒーローだもんね」

ミチコ 「うん。手柄、立てていかないと」

ラハラ 「大変だね。脱ヒーローも」

ミチコ 「本当だよ……さ、じゃあ、私報告に帰るね」

ラハラ 「あ、お疲れ。じゃあ、あたしももう少ししたら帰ろうかな」

ミチコ 「残業扱いにならないよ?」

ラハラ 「分かってる。なんか、気になるところあってさ」

ミチコ 「そう。じゃあね……ハイル、ホーリーランス!」

ラハラ 「ハイーホー」


      ミチコが去る。
      ラハラはふと、視線を這わせて。

ラハラ 「ムーンレンジャー。あれで最後じゃないはず。待ってろよ……で、
     そこで見ているのは誰? 隠れてないで出てきなさい?」


      その言葉にひかれるようにマタタビヨネコが現れる。


ヨネコ 「あらら。ばれてましたか」

ラハラ 「当たり前よ。あんなに、カメラのレンズが光ってちゃ、ね」

ヨネコ 「これから気をつけます。あの、怪人の方ですよね」

ラハラ 「いかにも」

ヨネコ 「もしかして、ホーリーランスの……」

ラハラ 「ラハララハよ。第2幹部の」

ヨネコ 「ホーリーランスが復活したというお話は、では本当だったんですね」

ラハラ 「そう」

ヨネコ 「なぜ、一番に○○区を?」

ラハラ 「それは企業秘密」

ヨネコ 「あの……ぜひ、お話を伺わせて頂けないでしょうか」

ラハラ 「いいわよ」

ヨネコ 「ここでは、なんですから、向こうで」

ラハラ 「ええ」


      ヨネコはここで、カメラマンを向く。
      ラハラは少し威厳を持って歩いて行く。


ヨネコ 「さぁ、大変な事になってきました。港北区を征服しようと企む悪の組織、
     ホーリーランスの幹部と、独占インタビューが決定してしまったのです!
     わたくし、マタタビヨネコはこれより決死の覚悟でインタビューに臨みたいと
     思います。それでは、場のセッティングが出来るまで、視聴者の皆様、しばらく
     お待ちください! あ、すいません、怪人さん! 待ってください〜」


      ヨネコが去って行く。


4 再びタイヨウの家

      照明が変わり、ここはタイヨウのマンション。
      タイヨウが呆然とした顔で現れる。
      片手には食いかけのピザ。もう片手にはコントローラーを持ったまま。


タイヨウ「どうなってんだこれ!? ふざけてるのか? ……ミチコ、なんで怪人なんかに
     ……おまえは、ムーンレンジャーグリーンだろ!? なんで……一体、なにが
     起こってるんだ……なんだこの分け分からない状況……まずいだろ……これ」


      と、そこにアカネがやってくる。


アカネ 「やっぱり、まずい?」

タイヨウ「まずいどころか。ヤバイよ! どうなってんだよ」

アカネ 「そんなに!?」

タイヨウ「どうしようもないよ」

アカネ 「まさか」

タイヨウ「なんでこんな事に」

アカネ 「嘘でしょ?」

タイヨウ「嘘なもんか。最悪だよ」

アカネ 「そんなに美味しくなかったの?」

タイヨウ「は?」

アカネ 「それでも、一生懸命作ってるのよ? そりゃ確かに冷めちゃったら味は落ちるかもしれない。
     でもね。そんなどうしようもないなんて、最悪なんて、いわれる筋合い無いわよ!」

タイヨウ「何の話しだよ!?」

アカネ 「ピザよ!」

タイヨウ「ピザ!?」

アカネ 「だから、最悪なんでしょう? どうしようもないんでしょう?」

タイヨウ「何が!?」

アカネ 「だから、ピザよ!?」

タイヨウ「ピザ!?」

アカネ 「それよ!」

タイヨウ「それ?(と、自分の持つピザを見て)こんなのの話しなんてしてないよ」

アカネ 「こんなの!?」

タイヨウ「いや、だからそうじゃなくて」

アカネ 「いうに事欠いて、こんなの!? そりゃ、私が作ったわけじゃないわよ。たかが、
     配達の人間ですよ。私は。でもね。でも、美味しいと思っているから。食べた人
     の笑顔がみたいから、仕事を続けているのよ。こんなのなんて言われるためにね、
     バイク走らせているわけじゃないのよ!」

タイヨウ「だから、ピザの事を悪く言ったわけじゃないんだって!」

アカネ 「最悪だって言ったじゃない」

タイヨウ「違うよ。おいしいって。これは」

アカネ 「ろくに食べてないくせに」

タイヨウ「食べたって(と、ピザを口にほおりこみ)ほら、ほら、おいひいよ!」

アカネ 「まずそうに食べてる!」

タイヨウ「(まだ食べているらしい)ほんなことないよ! おいひー。おいひー」

アカネ 「なんか、わざとらしい」

タイヨウ「(食べ終わり。暫し悩んで、土下座)……おいしゅうございました」

アカネ 「本当!?」

タイヨウ「ええ。本当に、デリシャスでした」

アカネ 「具体的には?」

タイヨウ「具体的に!? ……まったりと、それでいてあっさりとしたチーズとこくのある
     生地の歯ごたえがシャキシャキと豊かなハーモニーを」

アカネ 「良く分からないけど。おいしかったのなら良かった」

タイヨウ「てか、そんなことより!」

アカネ 「そんなことだと?」

タイヨウ「アカネさんのピザが美味しかった事はおいといてですね」

アカネ 「うん」

タイヨウ「一体、何が起こってるんだ!?」

アカネ 「なにがって……私、急に襲われただけだから」

タイヨウ「今、テレビを見て、そうしたらミチコが」

アカネ 「ミチコ? グリーンがやられたの?」

タイヨウ「怪人に、なってた」

アカネ 「なんで!?」

タイヨウ「俺にも分からないよ!」

アカネ 「私がやられて、あんたがここにいて、グリーンが敵に?……ホワイトは?」

タイヨウ「ソラ!? まさか、あいつ襲われて!?」

アカネ 「連絡手段は?」

タイヨウ「携帯くらいしか……(と、携帯を取り出し、ボタンを押す)
     あいつ携帯の番号変えてやがる!」


      と、タイヨウは携帯を地面に叩き付ける。
      慌てて拾い、


タイヨウ「壊れてないよなぁ」

アカネ 「ならやるなよ」

タイヨウ「そんなこと言ったって」

アカネ 「それで? どうなっているの? 今」

タイヨウ「どうもなにも……そういえば、テレビが」

アカネ 「テレビ?」

タイヨウ「インタビューするって」

アカネ 「インタビュー? 一体なんチャンよ」

タイヨウ「テレビ夕日」

アカネ 「(本当どうしようもないと言いたげに)あの番組は……」


      タイヨウはテレビのリモコンを持つ。
      アカネが奪うようにして、テレビをつける。


5 怪人様にインタビュー


      と、マタタビヨネコが椅子を持って浮かび上がる。椅子に座る。


ヨネコ 「え〜ただいま、わたくしマタタビヨネコは怪人さんへの独占インタビューの為、  
    特設スタジオに来ています。怪人さんからの条件の為、場所をお教えする事は
    出来ません。そして、向き合う相手は一名までと言う条件の為、カメラを固定し、
    私は単身怪人さんと向き合うことになっています。正直、インタビューなんて持ち
    出さなきゃ良かったと言う思いでいっぱいです」


アカネ&タイヨウ「ならやるなよ」


ヨネコ 「あ、今、怪人さんがこちらに現われようとしています。あの凶悪そうな顔、
     肉付きの良い二の腕、逞しいボディ。まさしく、怪人の中の怪人、
     怪人オブ怪人さんの登場です」


      ラハラがすこし落ちこんだ顔でやってくる。椅子をおき座りつつ、


ラハラ 「あのさ、怪人らしさを出そうとしてくれるのは嬉しいんだけどさ」

ヨネコ 「え? ダメでしたか、今の」

ラハラ 「一応、女の子だから、私。肉付きが良いとか言われても……」

ヨネコ 「申し訳ありません」

ラハラ 「凶悪そうな顔なんて、ここ最近言われた事ないのに……」

ヨネコ 「えっと……もう一度、やりなおしますか?」

ラハラ 「そうしてくれる?」

ヨネコ 「わかりました」


      ラハラが去る。


タイヨウ「なんだこの番組……」

アカネ 「あれは……」

タイヨウ「これ、もうおふざけとしか言えないだろう?」

アカネ 「あいつよ」

タイヨウ「なにが?」

アカネ 「私を、襲ったやつ」

タイヨウ「え?」


ヨネコ 「さあ、改めまして、今、怪人さんがこちらに現われようとしています。
     あの優しい顔立ち、美しい二つの腕。引き締まったボディ。まさしく、
     怪人の中の怪人、怪人オブ怪人さんの登場です」


      ラハラが笑顔でやってくる。


ラハラ 「どうも、ラハララハ。御紹介の通り、怪人です」


      ラハラが席につく。


ヨネコ 「お気に召しましたか」

ラハラ 「まぁ、そんなに気にしているわけじゃないんだけどね。うん。べつにね。
     顔とかね、そんな気にしてないから。体とかね。別に何言われたって大丈夫
     なのよ、私は。うん。ただ、それをねどういう風に表現するっていうか、
     そういうとこをね、なんていうのかな求めただけで。うん。だから、始めっから
     気にしているって事は無かったんだけど」

ヨネコ 「(区切るように)それでは、インタビューの方に移らせて頂いても
     宜しいでしょうか」

ラハラ 「どうぞ」


    ラハラは物凄くカメラ目線になる。


ヨネコ 「まず、所属を教えていただけますでしょうか」

ラハラ 「新ホーリーランス所属、ナンバーツーの、ラハララハです」

ヨネコ 「ラハラさんは、怪人と言う事ですが?」

ラハラ 「そうですね。怪人です」

ヨネコ 「なに怪人になるのでしょうか?」

ラハラ 「……サイボーグ・怪人、ってところですか」

ヨネコ 「サイボーグですか!?(その格好で? というニュアンスで)」

ラハラ 「そうです。一応、一度ムーンレンジャーに敗れてますから」

ヨネコ 「え、その後復活したと言う事なのですか?」

ラハラ 「復活したというか……蘇ったと言うか。まぁ、再改造をしたわけですね。つまり」

ヨネコ 「ということは……ゾンビ」

ラハラ 「ゾンビではありません。サイボーグ」

ヨネコ 「ゾンビ風、サイボーグ」

ラハラ 「ただの、サイボーグ」

ヨネコ 「ゾンビサイボー」

ラハラ 「何怪人かという話しはやめにしましょう」

ヨネコ 「わかりました。ではいきなりですが、復活の理由はなんですか?」

ラハラ 「それはもちろん、征服(制服)の為ですよ」

ヨネコ 「コスプレですか」

ラハラ 「違います。世界征服。世界を、我が手に」

ヨネコ 「では、なぜ○○区から?」

ラハラ 「この街には、やつらがいるからです」

ヨネコ 「やつら?」

ラハラ 「太陽戦隊、ムーンレンジャーがです」

ヨネコ 「ああ、一度ホーリーランスをやっつけた」

ラハラ 「我々はやられてはいない!……一度、世界征服事業から撤退しただけです」

ヨネコ 「それをやられたというのでは」

ラハラ 「とにかく! まずはやつらムーンレンジャーを滅ぼさなければ、世界征服の道は
     無い。と、総統がおっしゃられたために、
     今、やつらの残党狩りをしているのです」

ヨネコ 「しかし、一度倒されてしまったホーリーランスとしては、勝つ見こみは……」

ラハラ 「あります! すでに、レッドは最終決戦中に死亡、ピンクはデリバリー中を襲撃、
     そして、グリーンは我々の仲間になりました」

ヨネコ 「正義の味方が悪の組織に!?」

ラハラ 「それだけ悪が魅力的だと言う事です。なんせ、我々は週休五日で動いてますから」

ヨネコ 「週に二日しか働かないんですか!?」

ラハラ 「ええ。主に日曜日と金曜日ですね」

ヨネコ 「でも、それでは生活が」

ラハラ 「幹部になる怪人の平均年収は2000万です」

ヨネコ 「そんなに!?」

ラハラ 「年に数回、組織の飛行機で旅行に出かけたりもします」

ヨネコ 「キツイ、キタナイ、金が無いの3Kのイメージとは程遠いですね」

ラハラ 「それは、今やヒーローの方でしょう。アルバイトをやりながらほそぼそと
     ヒーローをしている人間もいるようですから」

ヨネコ 「悪の組織はお金持ちなんですね」

ラハラ 「金が無ければ世界征服なんて出来ませんからね」

ヨネコ 「なんだか、私も悪の組織に入りたくなってきました」

ラハラ 「今ならいつでもメンバー募集中ですよ。しかも、あなた好みの怪人になれるよう、
    我々がしっかりとサポートします。怪人になってしまった後の、
    心のアフターケアも万全です」

ヨネコ 「私、前から猫に憧れてたんですけど」

ラハラ 「キャットですね。もちろん大丈夫ですよ。
     とても素敵なキャット怪人になれることをお約束します」

ヨネコ 「一度、見学だけでもいいですか?」

ラハラ 「どうぞどうぞ」

ヨネコ 「じゃあ、このインタビューの後にでも」

ラハラ 「わかりました」

ヨネコ 「では、最後に、質問を宜しいでしょうか?」

ラハラ 「はい」

ヨネコ 「気になっていたのですが、ムーンレンジャーの、ブルーとホワイトの話しが
     出てこなかったようですが?」

ラハラ 「ああ。それは、わざとです」

ヨネコ 「わざと」

ラハラ 「ちょっと、カメラに向かってパフォーマンスをしても宜しいですか?」

ヨネコ 「? どうぞ」


      ラハラは立ちあがると、カメラを見る。      
      その視線を、真っ直ぐタイヨウは食らったように画面から目を離せなくなる。


ラハラ 「太陽戦隊ムーンレンジャーのブルー。みているんでしょう? よく、聞きなさい。
    (と、懐からスカーフを取り出す)ホワイトは預かっているわ。返して欲しけれ
    ば、姿を現しなさい。そして、戦うのよ。我々と。我々は負けはしない。
    正々堂々と、お前を倒す。せいぜい、倒されないよう昔の仲間を頼る事ね」


      タイヨウの部屋へと戻る。
      インタビューの方は終わりを迎えたのか、
      ラハラが誘うように肩を抱き、ヨネコを連れ去って行く。



6 そしてまたタイヨウの部屋

      タイヨウは思わず膝をつく。
      アカネが横で腹立たしげにテレビの画面を消している。


タイヨウ「そんな……ソラが……やつらに……」

アカネ 「罠よ。やつらにソラちゃんが捕まえられるわけ」

タイヨウ「あのスカーフは、俺が、ソラにあげたものだ」

アカネ 「まさか」

タイヨウ「誕生日の、プレゼントにって。バイト辞める前に俺がソラにしてやった、最後の
     プレゼントだった」

アカネ 「……こうなったら、力をあわせて戦いましょう。大丈夫よ。
     さっきは不意をつかれたけど、私だって真正面からだったらあんなやつに
     負けるわけないのよ、だから」

タイヨウ「何言ってるんだよ」

アカネ 「え?」

タイヨウ「無理だよ。分からないのか? 勝てるわけ無いんだよ」

アカネ 「そりゃ一人では無理かもしれないけど二人で力を合わせれば」

タイヨウ「無茶言うなよ。五年前とは違うんだ。あいつらだってパワーアップしている
     だろうし。なにしろこっちには、レッドが居ない。グリーンも……ホワイトも」

アカネ 「でも、二人で戦ったときもあったじゃない。皆が遅れてしまって、あたしたち、
     二人で戦ったときも」

タイヨウ「負けたよな。ボロボロに」

アカネ 「そのあと、五人で巻き返したんだっけ、そういえば」

タイヨウ「五人いなきゃだめなんだよ。俺達は」

アカネ 「仮面ライダーは一人だって戦っているじゃない!」

タイヨウ「あんなお話しの中のヒーローを例えに出すなよ!……俺達の戦いは、
     リアルなんだ」

アカネ 「戦ってみなきゃ、分からないじゃない」

タイヨウ「分かっているよ。戦えないんだから、もう」

アカネ 「戦えるよ」

タイヨウ「五年もブランクがあるんだぞ」

アカネ 「五年が何よ。それくらいで何が変わるのよ」

タイヨウ「変わるよ。力だって。体だって それに」

アカネ 「それに、何よ」

タイヨウ「スーツが、ないんだ」

アカネ 「どういうこと?」

タイヨウ「売ったんだ。ヤフーオークションで」

アカネ 「ヒーローのスーツを!?」

タイヨウ「生活に困ってさ! テレビで怪人が言っていたとおりだよ。
     ヒーローなんて3Kだ。キツイ、キタナイ、金が無いだ」

アカネ 「大丈夫よ、スーツが無くたって」

タイヨウ「スーツも無くて、どうやって戦うんだよ!? 丸腰なんだぞ?」

アカネ 「藤岡弘なんて、ライダースーツが無くたって、未だに侍ぶって
     頑張っているじゃない」

タイヨウ「だから、仮面ライダーとは違うんだって!」

アカネ 「戦う理由は一緒でしょ!」

タイヨウ「……理由?」

アカネ 「誰かを守りたいから。悲しい顔を見たくないから。戦うんでしょう? 私たちは。
     ヒーローだから。お話しだろうと、現実だろうと。守る為に、戦うんでしょう? 
     戦えるよ」

タイヨウ「別に、守りたい人なんていない」

アカネ 「じゃあ、ソラちゃんはどうするの?」

タイヨウ「!」

アカネ 「お兄ちゃんも守ってくれなくて、誰が、彼女を救えるの? 守れるの?」

タイヨウ「ソラ……」

アカネ 「それに、グリーンだって」

タイヨウ「あいつは敵になったじゃないか」

アカネ 「何か理由があるのかもしれない。それを探してあげなくちゃ。
     私たちは仲間なんだから」

タイヨウ「……俺だって、本当は戦いたいんだ」

アカネ 「だったら」

タイヨウ「でも怖いんだよ……どうしても」

アカネ 「大丈夫。なんとかなるわ」

タイヨウ「ならなかったらどうするんだよ」

アカネ 「……なんとかするのよ。なんとしても」

タイヨウ「……なんとか、するのか」

アカネ 「そうよ。あたりまえでしょ。ヒーローなんだから」

タイヨウ「ヒーローだからか。まだ、ヒーローなのかな」

アカネ 「当然よ。たった、五年じゃない。なんとかなるわよ」

タイヨウ「そうか。なんとかするしかないんだな。ブランクがあっても、怖くても」

アカネ 「そうそう」

タイヨウ「……スーツが無くてもな」

アカネ 「それはどうにもならないかも」

タイヨウ「ほら、やっぱりそういうんじゃないか!」

アカネ 「だって、私にだって正直に言いたくなる部分があるもの」

タイヨウ「じゃあ、今までのは嘘だったのか!?」

アカネ 「嘘じゃないけど。……ちょっと、くさかったよね?」

タイヨウ「……もういい。あったまきた」

アカネ 「あんたがいつまでもうだうだしてるから、元気付けてやったんじゃないの」

タイヨウ「分かってるよ。だから、うだうだしてた自分に頭に来ているんだ」

アカネ 「なら、どうするの」

タイヨウ「……戦おう。どこまでやれるかわからないけど」

アカネ 「ええ。なんとかなるわよ」

タイヨウ「なんとかしなくちゃ」

アカネ 「そうね」


      タイヨウとアカネが自然に見詰め合う。
      途端、携帯がなる。それはタイヨウがさっきぶん投げたりした携帯だった。


7 電話の主はドクターホシミ


      タイヨウは不思議な顔のまま、電話に出る。
      電話の相手は、マッディホシミ。ヒーローの研究をしていた博士である。


タイヨウ「はい。もしもし」

ホシミ 「やっと決心がついたようね、タイヨウ君」

タイヨウ「この声は……ホシミ博士ですか?」

アカネ 「博士?」

ホシミ 「そのとおりよ。君達ヒーローを影で支える天才科学者こと、マッディホシミよ」

タイヨウ「良い子にもすぐ伝わる説明台詞ありがとうございます」

ホシミ 「ただし、私を呼ぶときは、」

タイヨウ「『ドクター、ホシミと呼びなさい』でしたね。忘れてませんよ」

ホシミ 「その記憶力は褒めてあげる。タイヨウ君。ついに戦う決心をしてくれて、
     私も嬉しいわ」

タイヨウ「博士」

ホシミ 「ドクター」

タイヨウ「ドクターホシミ。たしかに、ドクターの言う通り、
     俺は戦う決心をしたところです。でも、なぜそれを?」

ホシミ 「ホーリーランスが復活したのでしょう?」

タイヨウ「御存知でしたか」

ホシミ 「妹さんが、誘拐された」

タイヨウ「テレビをご覧になったのですね」

ホシミ 「アカネ君が、部屋に転がり込んで来た」

タイヨウ「どうしてそれを!?」

ホシミ 「分からないの?」

タイヨウ「え?」

ホシミ 「簡単な事よ」

タイヨウ「簡単な?」

ホシミ 「そう。こんな事もあろうかと思ってね。君の家には
     100個近くの盗聴機をつけさせてもらっていたからね」

タイヨウ「盗聴機!?」

ホシミ 「そう。だから全て聞いていたというわけ。答えを聞けば簡単なことでしょう?」

タイヨウ「いや、プライバシーの侵害ですよ! それ」

ホシミ 「ヒーローにプライバシーは無い」

タイヨウ「そんな!?」

ホシミ 「それよりも、私の作った盗聴機は特殊でね。その機能を使えばほら、」


      と、ホシミの姿が舞台に現われる。
      その場所はホシミの部屋。
      ホシミは手にマイクのような物を持っている。


ホシミ 「君の部屋中に声を飛ばす事も可能だ」

タイヨウ「え? あれ? 声がどこからか!?」

アカネ 「ドクターホシミ、お久しぶりです」

ホシミ 「アカネ君。その声を聞く限り、タイヨウ君に押し倒されたりはしていないようね」

アカネ 「ええ。幸いにも、今の所は」

タイヨウ「押し倒さないから! だいたい、聞いてたんだろあんた!」

ホシミ 「楽しみにしてたのに」

アカネ 「期待に沿えなくて申し訳ありません」

タイヨウ「どんな期待だ。……それで、ドクター。一体何の用なんですか」

ホシミ 「戦う気合が生まれたならば、次は戦う準備をする番でしょう?」

タイヨウ「戦う準備?」

ホシミ 「こんなこともあろうかと思って、新しい戦闘スーツを作っておいたから、
     とりにきなさい」

タイヨウ「戦闘スーツ!?」

アカネ 「新しい!? もしかして、私のもですか」

ホシミ 「もちろん。……グリーンと、ホワイトの分もちゃんとあった」

タイヨウ「……今、取りに行きます。グリーンと、ホワイトの分も」

ホシミ 「ええ。待ってるわ」

アカネ 「ドクター。敵がかつてのヒーローの残党を探しています。
     ドクターも気をつけてください」

ホシミ 「分かってるわ。ちゃんと最新の設備で防衛しているから心配しないで」


      と、ここでベルの音がする。
      これはホシミの家のものらしい。


ホシミ 「あら? 集金かしら。 ちょっと待ってね、出てくるから」


      ホシミが舞台を去る。


アカネ 「さすがドクターね」

タイヨウ「てか、チャイム鳴るたびに外出てたら防衛設備の意味無いんじゃないか?」

アカネ 「え?」


      ホシミの声だけが聞こえる。


ホシミ 「へぇ。そうなんですか。NTTの切り替え工事ですか」


      言いながら、ホシミが現われる。
      その後ろにいるのはあからさまに猫の格好をしたヨネコ。
      今やキャット怪人ヨネコである。なんか羽織って誤魔化している。
      タイヨウたちは声が聞こえないように、「しー」とかやっている。


ヨネコ 「ええ。国の方針で。一斉に始まりまして」

ホシミ 「どんな工事をするんですか? 工具箱も見えないようですけど」

ヨネコ 「いえ。簡単な工事ですから。それで、テレビはどちらですか?」

ホシミ 「はい?」

ヨネコ 「ですから、テレビです」

ホシミ 「え? NTTの工事ですよね?」

ヨネコ 「そうですよ。だから、テレビを」

ホシミ 「NTTですよね」

ヨネコ 「そうですって。だから、テレビを」

ホシミ 「それは、NHKの事ではないんですよね?」

ヨネコ 「……(あからさまにしまったという顔)」

ホシミ 「あ、すいません。まさか、NHKとNTTを間違えるわけ無いですものね。
     テレビも使うんですよね?」

ヨネコ 「フフフ。良くぞ見破ったな。この華麗な変装を」

ホシミ 「なに?」

ヨネコ 「しかし、少し遅かったようだな。まんまと部屋に入ってしまってから
     正体を見破るとは」

ホシミ 「あなた、ただのNTT作業員じゃないわね!」

ヨネコ 「その通り!(と、上着を脱ぎながら)ホーリーランスの怪人が一人。
     キャット怪人、マタタビヨネコ」

ホシミ 「そんな! 全然気づかなかった!」

ヨネコ 「覚悟!」

ホシミ 「やめなさい! こら! きゃああ!」


      とか言いながら、ホシミとヨネコは去る。


タイヨウ&アカネ「ドクター!?」

タイヨウ「ドクター! ……ダメだ。電話も切れてる」

アカネ 「行きましょう」

タイヨウ「どこに?」

アカネ 「ドクターの家によ」

タイヨウ「襲われに行くようなものだぞ」

アカネ 「それでも。見捨てたりは出来ないでしょう。私たちは」

タイヨウ「ヒーローだからな」

アカネ 「そういうこと」


      タイヨウとアカネは互いに頷く、そして、舞台を走り去る。
      暗転。
      小粋な音楽と共に「太陽戦隊。ムーンレンジャー」の声が入る。


8 そして一旦CMへ。


      「CM」とかかれたボードを持って役者がたっている。

      夕暮れ。
      男女が道を歩いている。
      女と男は少し離れて歩いている。
      ムーディな音楽が流れている。


女   「ねぇ……今日で、半年だよね。……憶えてる? この場所で。
     あの時、言ってくれなかったら、あたしたち、今こうしてここにいないのかな。
     なんてね。ごめんね。変な事言っちゃって。
     なんか、この半年いろいろあったけど、これからもよろしくね。なんて。あはは。
     何言ってるんだろう私。汗出てきちゃった。変なの」


      女が男の無言に不安になり、タクオを向く。
      男が、そっと口パクで思いを飛ばす。
      女が照れる。

女   「うん。私も」

      二人が見詰め合って……
      派手な音楽と共に、デデケンがやってくる。
      ばかばかしい踊りの曲が流れ出したのである。
      デデケンの後ろには、怪人、ラハラと、ミチコが一緒に踊っている。

      デデは気持ちよくさびを歌う。
      周りの踊っていた子達がいなくなると、


デデ 「出番コレだけで、この扱いは酷いんじゃないの!?」


      とか、言いながら、最後のポーズを決めるとそのポーズのまま去って行く。
      怪人二人は逆方向に同じ様に去って行く。
    
      取り残された恋人は、照れ笑いしながらも、


男   「なんだったんだろうね?」
女   「さあ?」


      なんだか緊張を解いた顔で、去って行く。
      男が最後女と手を結んでもいい。


声   「甘いロマンスから、明日に繋がるサンバまで。○○高校演劇部」


      と、声が入る。
      「CM」のボードを持った役者は一礼して去って行く。
      急速に暗転


      小気味よい音楽と共に、
      声「太陽戦隊、ムーンレンジャー」が入る。第二部の始まりである。


9 ドクターホシミの部屋で見たものは


      明かりの中、タイヨウとアカネが飛びこんでくる。


タイヨウ「博士!」

アカネ 「ドクター」


声   「タイヨウとアカネが山手線を乗り継いで五反田にある
     ドクターホシミの家についたのは、それから2時間後の事であった」

タイヨウ「ドアが開いている!?」

アカネ 「やっぱり、遅すぎたかしら」

タイヨウ「いや、まだ諦めるのは早い! 博士! 博士! 頼む、返事をしてくれ……
     博士!」

ホシミ 「ドクターと呼びなさいと言っているでしょう! タイヨウ君」


      声と共に、ホシミが現われる。
      その横にはすっかり懐いている様子のヨネコがいる。


タイヨウ「博士?」

ホシミ 「だから、ドクターだと言っているでしょう? 君の頭は物事を覚えるのに
     そんなに不向きなのかな?」

アカネ 「ドクター! 生きてらっしゃったんですね」

ホシミ 「ああ。アカネ君も無事で何より」

タイヨウ「はか……ドクター。ところで、その横にいるのは?」

ホシミ 「見て分からないの? 怪人よ」

タイヨウ&アカネ「怪人!?」

ヨネコ 「にゃ―」

タイヨウ「なぜ、そんな大人しいんですか」

アカネ 「そうですドクター。襲われていたはずじゃ」

ホシミ 「こんな事もあろうかと思ってね。ネコ型怪人の猫の部分を極端に高め、懐かせる

     道具を作っておいたんだよ」

タイヨウ「どうして、こんなこともあろうかとおもったんだのか、気になる限りですが、
     無事でなによりです」

ホシミ 「君達二人も。よく、生きてここまで来てくれた。地球を、また救ってくれるわね?」


      タイヨウとアカネは一瞬お互いを見交わす。


タイヨウ&アカネ「はい」


ホシミ 「それなら、二人をかつて無いほどの最高のヒーローにしてあげる。大丈夫。
     どんな敵だろうと敗れる事は無いわ。ヒーローは、負けてはいけないのだから」

タイヨウ「宜しくお願いします」

アカネ 「それにしても、どうしてここが? タイヨウの家は平気だったのに」

ホシミ 「ここを始めに叩いてしまえば、あなた達への補給は何も無くなるからでしょうね」

タイヨウ「小賢しい真似を」


      と、ラハラの声が響き渡る


ラハラ 「小賢しいのはどっちかしら?」

タイヨウ「この声は!?」


ラハラ 「せっかく簡単に眠らせてあげようと思ったのに。抵抗をするなんて。
     生意気にも程があるわ」

アカネ 「陰からじゃないと何も出来ないの? コソコソとしてないで、
     姿をあらわしなさい!」

ラハラ 「元よりそのつもりよ。いくわよ! ミチコ」

ミチコ 「ええ」

タイヨウ「ミチコ!?」

アカネ 「グリーン」


10 やって来た敵


      ラハラとミチコが現われる。
      再び、漫才のような登場の仕方である。


ラハラ&ミチコ「はいはいはいどーもでーす」

ラハラ 「ラハラです」

ミチコ 「ミチコです」

ラハラ 「二人合わせて」

ラハラ&ミチコ「怪人ブラザーズ」

ラハラ 「女なのにブラザーズってところがポイントだよね」

ミチコ 「ポイント」

ラハラ 「さあそんなわけでやってきました。五反田(※2)です」


(※2 この博士の住所である駅名は地元から時間がかかる場所ならどこでもよい)


ミチコ 「隊長」

ラハラ 「はい、ミチコ君」

ミチコ 「駅名を言われても具体的な場所がイメージできません」

ラハラ 「私もだミチコ君」

ミチコ 「それでいいんですか」

ラハラ 「いいんです。まぁ、分かりやすく説明するのであれば、目黒の次だね」

ミチコ 「まず、目黒が分かりません」

ラハラ 「恵比寿の次だ」

ミチコ 「……その前は」

ラハラ 「渋谷だよ」

ミチコ 「うわっ。山手線オタクがいるよ」

ラハラ 「いい加減にしなさい」

ミチコ 「どうも、ありがとうございました〜」


      礼と共に、ラハラとミチコは太陽たちに向かって構える。
      タイヨウたちは唖然としている。


ラハラ 「どうやら、私たちの漫才があまりにもおもしろすぎたせいで、
     口も聞けなくなっているようね」

タイヨウ「ば(か)……あきれてるんだよ!」

アカネ 「つまらなすぎる……」

ホシミ 「まぁ、怪人としてはよくやったほうなんじゃないかしら?」

ラハラ 「悔し紛れの減らず口を」

アカネ 「タイヨウ!」

タイヨウ「なんだ?」

アカネ 「見せてやりなさい。こいつらに。本当の、笑いってヤツを」

タイヨウ「ああ!」


      音楽入る。ヒロシのテーマ。
      ヒロイは自虐ネタを披露する。


タイヨウ「中学の友達に偶然会ったとです。……こちらが声をかけたら、変質者を見るよう
     な目で見られました。何度説明しても、思い出してもらえません! 
     ……すっぱい牛乳には、もう慣れたとです。米が高くて買えません! 
     ……妹の携帯に電話をかけたら、電話番号を変えられていたとです。
     色々考えていたはずなのに、ネタを忘れました!」


     音楽止む。タイヨウが構える。


アカネ 「これが、本当のお笑いってやつよ」

ラハラ 「黙れ!」

ミチコ 「ラハラ」

ラハラ 「なによミチコ」

ミチコ 「私も、今の私達のネタはあまり……」

ラハラ 「あんた、さっきまで乗り気だったじゃん!」

ミチコ 「ほら、文章にして面白いのと、じっさいにやって面白いのって違うから」

ラハラ 「う、裏切りものめ……」

タイヨウ「ミチコ!」

ミチコ 「……なに?」

タイヨウ「一体、なにがあったんだ? なんで、おまえがそっちにいるんだ」

ミチコ 「私のかってでしょう?」

タイヨウ「そんな」

アカネ 「どうやら、五年たって根性が曲がっちゃったみたいね」

ミチコ 「元々曲がっていた人間に言われたくないわ」

アカネ 「へぇ。一体誰の事を言っているのかしら」

ミチコ 「相手の言葉を理解する能力も落ちたんだ。年月って怖いね」

アカネ 「この怪人が! そんな姿になって恥ずかしくないの!?」

ミチコ 「御託は十分よ。かかってきなさいよ」

アカネ 「上等じゃない!」

タイヨウ「まて、アカネ」

アカネ 「なに? 止める気!?」

タイヨウ「オレがいく」


      タイヨウが前に出る。


ミチコ 「ラハラ。手を出さないでね」

ラハラ 「必要無いでしょう?」

ミチコ 「ええ。当然ね」


      タイヨウとミチコが睨み合う。


タイヨウ「行くぞ!」

アカネ 「タイヨウ! 待って!」

タイヨウ「いいからオレに任せろ!」


      タイヨウがミチコへ向かう。
      なんか気を練ってみたり。


ホシミ 「任せろって言って、あんたヒーロースーツも着てないじゃない」


      ミチコがタイヨウをボコボコにする。
      最終的に投げ出されるようにして、タイヨウが倒れる。


タイヨウ「スーツ、着るの忘れてた……」

アカネ 「ばか……」

ラハラ 「つまらないわねぇ。かっこつけといてこのザマ?」

ミチコ 「弱い」

アカネ 「ちょっと待ちなさいよ」

ホシミ 「アカネ君」

アカネ 「(ホシミに)止めないで。(敵に)今度は私が相手よ」

ホシミ 「アカネ君」

アカネ 「だから止めないでって言ってるでしょ」

ホシミ 「今の君じゃ二人には勝てないわよ。君だって丸腰なんだ」

アカネ 「わかってるわよ。だけど、だからって」

ホシミ 「仕方ないわね。……(敵に)それで? あんたたちの狙いはなに? 
     ここでヒーローを壊滅させる事? それとも、私?」

ラハラ 「察しがいいな」

ミチコ 「私たちはあくまで堂々とヒーローを潰す事が目的。
     だけど、それには補給所は不用だわ」

ホシミ 「何度も回復されては困るわけね」

ラハラ 「勝負は一度。勝つか負けるか。それだけのことよ」

ホシミ 「じゃあ、あなた達の目的はひとまず私ってことね?」

ラハラ 「なにが言いたい?」

アカネ 「ドクター?」

ホシミ 「私を連れて行くなり、殺すなりしなさい」

アカネ 「ドクター!」

ホシミ 「それで、先ずは退散ってことでいいかしら?」

ラハラ 「やけに度胸が良いわね」

ホシミ 「信じているだけよ」

ラハラ 「こいつらを?」

ホシミ 「そう。ヒーローを」

タイヨウ「(ここらへんで意識が戻るらしい)博士?」

ホシミ 「タイヨウ君。君は記憶力は良いくせに、一度思いこむと何度言い聞かせても
     同じ事をくりかえすアンポンタンだね」

タイヨウ「ドクター……なにを?」

ホシミ 「だが、だからこそ君は正義が勝つことを忘れはしない。
     自分がヒーローだと思いこんで突き進める。アカネ君、君もね」

アカネ 「ドクター。あなたが犠牲になる事なんて」

ホシミ 「今の君達には力が無い。ただそれだけの事よ。
     さあ、煮るなり焼くなり好きにしなさい」

タイヨウ「ドクター! 駄目だ、そいつらは俺が」

ホシミ 「動けない人間が無茶をしないの!」

ラハラ 「では、お望み通り、死んでもらおう」


      ラハラが手を差し出す。


アカネ 「ドクター!」

ミチコ 「動かないで」

アカネ 「ミチコ」

ミチコ 「今動いたら、ドクターの意志が無駄になる」

アカネ 「ドクター……」


      と、ここでマタタビヨネコが、ラハラに飛びかかる。


ヨネコ 「にゃーー」

ラハラ 「な、なんだお前は!」

ホシミ 「ヨネコ!?」

ヨネコ 「にゃ―。ドクターは私が守る」

ラハラ 「馬鹿言わないの! あんたは怪人でしょうが!」

ヨネコ 「そう見えなくもないですが」

ラハラ 「見えなくもないも、そのものよ!」

ヨネコ 「今は猫だと思っております」

ラハラ 「思ってなくていい! ミチコ!」

ミチコ 「こら、ラハラから離れろ!」

ホシミ 「ヨネコ……」



      ラハラに抱きついたままヨネコは離れない。
    

ヨネコ 「ドクター。どうやら、ここでお別れです」

ホシミ 「ヨネコ!?」

ヨネコ 「私の体にはもしもの時用に自爆装置が埋まっているんです。
     それを、起爆させます」

ラハラ 「なに!?」

ミチコ 「馬鹿な事は辞めなさい!そんなことをしたら、あんたは」

ヨネコ 「あなたたちも、道連れよ」

ホシミ 「私が、あなたの猫度を高めてしまったからなの?」

ヨネコ 「分かりません。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。でも、
     元リポーターで猫になった私に、ドクターは大切な事を教えてくれました」

ホシミ 「大切な事?」

ヨネコ 「ヒーローを信じる事。正義をしたくてリポーターになったはずの私が、
     何時の間にか忘れてしまった事。だから、私は今私に出来る事をします。
     ヒーローを守る為に」

ホシミ 「ヨネコ!」

ヨネコ 「さようならドクター!」

ラハラ 「辞めろ!」

ミチコ 「離れなさい!」

アカネ 「でも、ここで自爆されたら、たぶんみんな死ぬことになると思うんだけど」

ヨネコ 「あ」


声   「起爆装置スタートします」


タイヨウ「はやく、アカネだけでも逃げろ!」

アカネ 「どこに!」

ヨネコ 「ごめんなさい。私、役立たずです!」

ホシミ 「大丈夫。よくあることよ」

タイヨウ&アカネ&ラハラ&ミチコ「あるわけないだろ!」


      暗転。
      同時に爆発音が響き渡る。
      各々聞こえる悲鳴。


      そして、静寂。


11 闇の中から生還


タイヨウ「一体、どうなったんだ? 俺は、生きているのか?」


      と、闇の中から声が聞こえる。
      それはかつての妹の声。


ソラ  『お兄ちゃん』

タイヨウ「ソラ!? ソラか」

ソラ  『お兄ちゃん』

タイヨウ「ソラ! どこだ? 兄ちゃんはここにいるぞ」

ソラ  『なんでヒーロースーツ、売っちゃったの?』

タイヨウ「あれは、仕方がなかったんだ」

ソラ  『ヒーロー、辞めちゃうの?』

タイヨウ「ちがう。辞めたりなんかするもんか。あの時の俺は、
     ただ、生きているだけだったんだ」

ソラ  『痛い。……なんでぶつの?』

タイヨウ「だから、まっすぐに生きているソラが……澄んだ目で見るお前が……
     嫌で嫌で仕方なかった」

ソラ  『お兄ちゃんは、ヒーローだよね? そうなんだよね?』

タイヨウ「頷くことなんて出来なかった。そうか……これは……」

ソラ  『お兄ちゃんなんて、大嫌い』

タイヨウ「俺の、記憶だ」

ホシミ 「タイヨウ君。大丈夫かい?」

タイヨウ「博士?」

ホシミ 「ドクターよ。その分じゃ、平気みたいね」


      ゆっくりと照明が付いてくる。
      倒れているタイヨウ。
      そのタイヨウを守るように立っている、ホシミ。
      その姿はボロボロである。
      タイヨウが、目を覚ます。


タイヨウ「ここは……! 博士!」

ホシミ 「だから、ドクターよ」

タイヨウ「どうして……そうか、猫が自爆して、それで……」

ホシミ 「普段から私は防御服を着ているんでね。……一人しか、守れなかったが」

タイヨウ「それじゃあ、アカネは」

ホシミ 「跡形も、ないみたいだね」


      ホシミが膝をつく。


タイヨウ「博士!」

ホシミ 「ドクターだよ」

タイヨウ「そんなことより、手当てを」

ホシミ 「いや、これは無理ね。さすがに、内出血までは抑えられなかったみたいだから」

タイヨウ「そんな冷静に……」

ホシミ 「それよりもタイヨウ君。今の爆撃のショックで、
     スーツがどこに行ったのか分からない」

タイヨウ「こんな時にスーツの話しなんて」

ホシミ 「こんな時だからだ! 君はヒーローだろう!」

タイヨウ「でも、俺一人じゃ」

ホシミ 「やるんだよ。(ふっと笑って)少しは仮面ライダーを見習いなさい」

タイヨウ「あれは、お話しのヒーローですよ」

ホシミ 「できるよ。君は。太陽戦隊の、名を持っているんだから」


      ホシミが倒れる。


タイヨウ「博士! 博士!」


      ホシミおきあがる。


ホシミ 「だから、ドクターだ」


      ホシミ、結局倒れる。


タイヨウ「博士!!!」

ラハラ 「どうやら、ヒーローはあなた一人になったようね」

タイヨウ「!?」


      ミチコに支えられて、ラハラがやってくる。
      ラハラもミチコも怪我をしているようだが目だった外傷はない。


タイヨウ「そんな……お前ら……生きて・・」

ラハラ 「危ない所だったけどね」

ミチコ 「正直、死ぬかと思ったわ」

ラハラ 「でも、私達の方が、少し丈夫だったみたいね」


      ラハラはいいながらもふらふらしている。
      どうやら、かなりのダメージだったらしい。


ミチコ 「ラハラ」

ラハラ 「わかってる。今日の所は、目的も達成した所だし一先ず引き上げることにするわ。
     ……あとは、あなただけだものね」

タイヨウ「……倒してやる」

ラハラ 「何?」

タイヨウ「必ず、倒してやるぞ! ヒーローの名にかけて」

ラハラ 「楽しみにしているわ。最後のヒーローさん」


      ラハラは名刺のようなものをタイヨウに投げる。
      ラハラとミチコが去る。
      タイヨウが名刺を見る。


タイヨウ「地図……か。待ってろよ……(ホシミを見て)博士……
     俺の力が足りなかったばかりに。すいません」


      言いながら、ホシミを抱き抱えると、そのまま舞台を去る。
      派手な音楽と共に、一度暗転。
      照明は悪の本拠地へと姿を変えて行く。


12 悪の城。


      派手な音楽の中、仮面をつけた女が浮かび上がる。
      悪の組織、ホーリーランス大幹部。それは、実はタイヨウの妹、ソラである。

      悪の総統がマントをひるがえすと、ミチコとラハラがやってくる。


ラハラ 「ラハララハ。ただいま到着致しました」

ミチコ 「ツキノミチコ。以下同文」

ソラ  「(頷く)……(ミチコを手招きする)」

ミチコ 「はっ」


      ミチコはソラに近付くと、ソラからの伝聞に頷き、


ミチコ 「とうとう、時が来たとおっしゃっています」

ラハラ 「ついに、仕上げの時がきたわけですね」

ミチコ 「あとは、タイヨウを待つだけ」

ラハラ 「この時をどんなに待ちわびたか」

ミチコ 「戦闘員の方は?」

ラハラ 「準備できているわ」

ミチコ 「でも、来るかしら彼」

ラハラ 「そりゃ、アレだけ大声で『倒してやる』って宣言されたんだし」

ミチコ 「だけど、たった一人だもの」

ラハラ 「一人がなによ。私達怪人なんてね、いつも殆ど一人で戦っているのよ。
     相手五人なのに」

ミチコ 「そのことはもう謝ったじゃん」

ラハラ 「そうだけど。だから、べつに気にしてないんだけど」

ミチコ 「なにかっていうと、いつもそうやって嫌味言うんだから。たまんないよ」

ラハラ 「なに? 私が悪いの? 五人で一人をタコ殴りにするのは悪くないわけ?」

ミチコ 「だから、悪かったって謝ってるじゃんって」

ラハラ 「謝っている態度じゃないんだよねぇ。いつも思うけど」

ミチコ 「どうすればいいのさ」

ラハラ 「いいですよ別に」

ミチコ 「そうやってすぐいじける」

ラハラ 「いじけてないって」

ミチコ 「いじけているでしょぉ」


      ソラが近寄ってくる。
      二人の肩を叩くようにして、「いいからいいから」と言いたいらしい。
      二人、反省。


ミチコ 「ごめん」

ラハラ 「私こそ」


      二人は握手を交わす。


ミチコ 「でも、本当に来るかな」

ラハラ 「そうだねぇ」

ソラ  「来るわよ」

ミチコ 「ですね」

ラハラ 「はい」


      と、突然爆発音が響き渡る。


ラハラ 「なに!? 一体!」

戦闘員A「大変です」


      現われたのは戦闘員A(アカネ)仮面をつけている。


戦闘員A「城の側壁にバイクが突っ込んできました」

ミチコ 「来たわね」

ラハラ 「派手な登場シーンだこと」

タイヨウ「どうやら、全員おそろいのようだな!」

ラハラ 「む! どこだ!」



13 アクションシーン。


      音楽が掛かる。
      サスの中に後ろ向きで入る一人の男。
      ヒーローの格好に身を包むのはヒロイタイヨウ。
      太陽戦隊最後の一人。


タイヨウ「この世に闇が訪れようと、必ず昇り照らし続ける。命の光。赤き輝き。
     今、ここに参上! 太陽戦隊、ムーンレンジャー、大海のブルー!」


      登場シーンを派手目にしたブルーには、もはや迷いはない。


ラハラ 「表れたな。ムーンレンジャー」

ミチコ 「ここは私が」

ラハラ 「(頷く)」


      ミチコとブルーが向き合う。


ミチコ 「スーツを着て、それらしくなったわね」

タイヨウ「容赦はしない」

ミチコ 「ほざけ!」


      ミチコとタイヨウの戦い。
      互角に戦っているようだが、タイヨウのほうが明らかに押している。


ミチコ 「く、何故これほどの力が」

タイヨウ「燃えているからさ」

ミチコ 「燃えている?」

タイヨウ「正義の為に、悪を討つことに。お前は忘れてしまったのか?」

ミチコ 「忘れる? 何を」

タイヨウ「なにかを守る為。誰かを救う為、燃えあがってくる正義の熱さを!」

ミチコ 「ぐわっ」


      タイヨウの拳がミチコを打つ。
      ミチコが敗れる。


ミチコ 「思い出したんだねタイヨウ」

タイヨウ「え!?」

ミチコ 「あんたの拳は、いつだって熱かった。こんな風に!」


      敗れたミチコは舞台から消える。


タイヨウ「ミチコ……」

ラハラ 「呆けている暇は在るのかな!?」


      ラハラが目の前に現れる。
      戦闘員Aが、ラハラに武器を渡す。
      戦闘員Aはその後舞台を去る。


ラハラ 「覚悟!」

タイヨウ「俺はもう負けない! そう決めたんだ!」


      タイヨウとラハラの戦いはほぼ、秒殺で方が付く。
      タイヨウの拳に、ラハラはつかれ、敗れる。


ラハラ 「久し振りだ……これが、正義の拳の感触」

タイヨウ「ヒーローは必ず勝つんだ」

ラハラ 「思い出したのね」

タイヨウ「なに?」

ラハラ 「だから、ヒーローはいつまでもヒーローなのよ。そうでなくっちゃ、
     やられがいがないわ」


      ラハラが舞台から去る。
      そして、ソラとタイヨウが向き合う。


14 真実。


タイヨウ「あとは、あんた一人か」

ソラ  「……」

タイヨウ「妹をどこへやった」

ソラ  「……」

タイヨウ「少しでも妹に傷がついててみろ。絶対に許さないからな」

ソラ  「……」

タイヨウ「さあ! 妹はどこだ!」


     ソラはゆっくりタイヨウに近づく。


ソラ  「……お兄ちゃん」

タイヨウ「!?」

ソラ  「お兄ちゃん。思い出したんだね」

タイヨウ「その声……まさか……」


      ソラがゆっくりと仮面を外す。
      タイヨウは、その仮面の下から表れて来た顔に驚く。


タイヨウ「ソラ……なんで」

ソラ  「ごめんなさい」

タイヨウ「ごめんなさいじゃ、ないだろう」

ソラ  「騙したみたいになっちゃって。ごめんなさい」

タイヨウ「騙したって……嘘だろう? じゃあ、ここのボスは」

ソラ  「お兄ちゃんなら来てくれるって思ってた。
     でも、来ないかもしれないとも思った」

タイヨウ「ソラ、兄ちゃん、お前が言っている事が良く分からないよ」

ソラ  「賭けだったの。お兄ちゃんが来るか、来ないかの」

タイヨウ「賭けって……冗談だろう? どこにいるんだ? ここのボスは。兄ちゃん、
     そいつを倒さなきゃいけないんだ。絶対。その為に来たんだ」

ソラ  「ボスはいないよ。だって、私が」

タイヨウ「なんのためにこんなことをしたんだよ!」

ソラ  「ごめんなさい」

タイヨウ「アカネを……博士を……傷つけて……一体、何の為にこんなことを!」


      間


ホシミ 「みんな、君を救う為だったんだよ」


      ホシミが舞台に現れる。


タイヨウ「博士? 生きて……」

ホシミ 「ドクターだよ。タイヨウ君。ご覧の通り、ぴんぴんしている」

タイヨウ「そんな……じゃあ」

ヨネコ 「はじめから、みな仕組まれていた事なんです」


      ヨネコが舞台に現れる。
      ホシミの傍に座る。


タイヨウ「あなたは……自爆して……」

ホシミ 「彼女は私の助手でね。今回の作戦に一役かってもらったんだ」

タイヨウ「作戦って……なんの」

アカネ 「あなたを救う作戦よ」


      アカネが現れる。
      戦闘員だった事が分かる格好である。


タイヨウ「アカネ……」

アカネ 「こうでもしないと、あんたは忘れたまんまだったでしょう?」

タイヨウ「忘れる?」

アカネ 「ヒーローだったことをよ」

ソラ  「アカネさん。ラハラとミチコは?」

アカネ 「あっちで休ませてる。結構いいのもらっちゃったみたいだから」

ソラ  「後で謝っておく」

アカネ 「その必要ないわよ。二人とも、喜んでいたから」

タイヨウ「どういうことだ? ソラ。これは、一体」

ソラ  「私は、取り戻したかったの」

タイヨウ「何を?」

ソラ  「ヒーローだったころの、お兄ちゃんを」

タイヨウ「ヒーローだったころの、俺?」

ソラ  「私が、憧れていた、ヒーローを」

タイヨウ「ソラが……憧れていた……」

ソラ  「そう。世界に一人の。ヒーロー」

アカネ 「ソラちゃんから相談受けて。ドクターにさらに相談してさ」

ホシミ 「悩んだんだけどね。でも、最近の君は見ているほうが辛くなる
     落ちっぷりだったから」

タイヨウ「俺の、ために?」

アカネ 「……仲間だもの。当たり前でしょう?」

タイヨウ「じゃあ、ミチコは」

アカネ 「複雑さを出した方がいいかなって。ドクターが」

ホシミ 「その方がドラマがあるでしょう?」

タイヨウ「だったら俺がやった事は……」

アカネ 「あんたは、忘れていた事を思い出したの。ただそれだけ」

タイヨウ「忘れていた事……」

アカネ 「もう、引篭もったりしないでしょう?」

タイヨウ「! ああ。もうしない……するもんか」

ホシミ 「忘れる事もないでしょう? もう、二度と」

タイヨウ「ああ。決して(ソラを見て)妹を、悲しませるような人間には、ならない」

ソラ  「おかえり。ヒーロー」

タイヨウ「……ただいま」


      なんだか、いいムード。


ソラ  「よかった」

タイヨウ「え?」

ソラ  「これで、次のステップに進めるから」

タイヨウ「次? 何かあるのか?」

ソラ  「ラハラ! いつまで休んでいるの!」

ラハラ 「申し訳ありません!」


      音楽がはじまる。
      ラハラがソラの近くに畏まる。


タイヨウ「そういえば、彼女は?」

アカネ 「怪人よ」

タイヨウ「え?」

アカネ 「私達が、これから戦うね」

タイヨウ「なにをいって……」

ソラ  「ミチコ、いえ、怪人、チコチー!」

ミチコ 「はっ!」


      ミチコがソラの近くに現れる。


ソラ  「これより、ホーリーランスは本格的な世界征服に乗り出します。ラハラ、近隣に
     飛び、新たな怪人となる人間をスカウトしなさい」

ラハラ 「畏まりました」

ソラ  「チコチー。この基地は爆破します。新たな基地の建設の指揮を任せますよ」

ミチコ 「はっよろこんで」

タイヨウ「ソラ、一体、何を……」

ソラ  「お兄ちゃん。いえ、太陽戦隊ムーンレンジャー、ブルー。そして、ピンク。
     戦いの、始まりよ」

アカネ 「ソラ。いえ、ホーリーランス総統、勝つのは私達よ」

ソラ  「それはどうかしら」

タイヨウ「おい! 一体どういうことなんだよ! これは!」

アカネ 「見ての通りよ」

タイヨウ「見ての通りって」

ホシミ 「忙しくなりそうね」

ヨネコ 「はい」

タイヨウ「博士、説明してくれ。一体何が」

ホシミ 「ソラちゃんはね。夢をかなえようとしているのよ」

タイヨウ「夢?」

ホシミ 「誰もが一度は夢見る事でしょう?」

タイヨウ「一体、なんのことだ!?」

ホシミ 「世界征服」

タイヨウ「そんな夢見てたのかよ!?」

ソラ  「実現させる為に、苦労してきたのよ。株でもうけたりとか」

タイヨウ「いつの間に!?」

アカネ&ミチコ 「あんたが引篭もっている間によ」

タイヨウ「お前ら! 知っていたのか?」

アカネ 「仲間だからね」

ミチコ 「それで、私ものらせてもらったってわけ」

タイヨウ「のらせてもらったって……ヒーローはどうするんだよ!?」

ミチコ 「大丈夫よ。あんたが居るでしょう?」

アカネ 「あたしもね」

タイヨウ「そんな……博士!」

ホシミ 「大丈夫。私が作ってあげるよ。さらに最高のヒーロースーツを」

タイヨウ「そういう問題じゃないだろう!?」

ホシミ 「ソラちゃんの夢は何も世界征服だけじゃないんだよ」

タイヨウ「まだあるのかよ!」

ホシミ 「もちろん。……彼女の憧れるヒーローの勇姿を真正面から見るという夢がね」

タイヨウ「ソラ……」


      タイヨウはソラを見る。
      ソラはタイヨウを挑戦的に見つめる。


ソラ  「止められるかしら? お兄ちゃん。私を」


      視線を受け止め、タイヨウは、諦めからヒーローの目へと表情を変える。


タイヨウ「……止めて見せるさ。兄ちゃんは、ヒーローだからな」

ソラ  「負けないでね。絶対」

タイヨウ「ああ。……ヒーローは負けない。絶対にだ!」


      光が溢れる。
      なぜか、みんな笑顔である。
      誰もが知っているのだろう。
      正義は戦いつづけ、勝ち続ける事を。
      これからの戦いを予想させるかのような激しい音楽。
      そして、溶暗