KUON ver2
登場人物 瀬野カナエ 相澤ルミ 七神ケイコ 二階堂ミツヨ 土井モミジ 声 暗転 幕開き前 ミツヨ 上手から登場 制服の上に、大きめのガウンを着たスタイル 片手にチラシ(ケイコの写真プリント)を持っている ミツヨ「七神ケイコの捜索に、ご協力をお願いします×?回」 ミツヨ チラシを配る演技をしながら下手へ退場 音響 FI(寂しげな音 幕を開く ○ここではないどこか 舞台上奥にはゴミ箱(上手)、消火器(下手)があるが観客には見えない。 カナエ 上手に立っている ルミ 下手に立っている 音響 FI(OP) 照明 上手ピンスポット CI カナエ「一人じゃ……一人じゃ何もできないよ。 私に何ができるの? 私は何をすればいいの? ……わたしはここにいてもいいのですか?」 照明 上手ピンスポット CO 下手ピンスポット CI カナエ 中央へ移動 ケイコ 上手から登場 上手サスの位置へ ルミ 上記の行動を待たずにしゃべりだす ルミ 「道が、私の前には道がない。 私は何をすればいいの? 私に何ができるの? ……わたしはここにいてもいいのですか?」 照明 下手ピンスポット CO 上手ピンスポット CI ケイコ「道の見えない街にいる。誰もが一人でひざを抱える街。 夕日だけが街を染める。時を消された血の色の町。 わたしはここに……何もしないで横たわる。 誰か私の傍に来て。私を暖めて欲しい。私は」 照明 暗転 三人 「私は、私が嫌いです」 音響 ボリューム上げる 音響 FO ○廊下(放課後 天気晴れ 時期九月) 照明 全照 カナエ 中央からそのまま前へ 雑巾で廊下の窓を拭く無言で、いかにもいじけ・怒っている ルミ 下手から登場(モップを持っている) カナエの事を気にしながら廊下の床を拭く 何度か、掃除をする手を止めてカナエに話し掛けようとするが、 なかなか踏み出せない。が、二人の雰囲気に耐え切れない様子で話し掛ける。 ルミ 「ねぇ、カナエ。何でさっきから黙ってるの?」 カナエ 振り向かずに窓拭きを続ける カナエ「……別に」 カナエ そのまま窓を拭き続ける。が、時々ルミのほうを盗み見る。 ルミ 少し掃除を続けるが、やはり怒っているカナエにもう一度話し掛ける ルミ 「ねぇってば。どうしたの? 体調悪いの?」 カナエ「………(首を振る)」 ルミ 「じゃあどうしたの? さっきから黙ったままで。なんかいじけてるみたいだよ」 カナエ「いじけてるわけじゃないよ」 ルミ 「じゃあ、どうしたのよ?」 カナエ「……だって」 ルミ 「だって?」 カナエ「ルミったら酷いんだもん」 ルミ 「酷い!? あたしが? なんでよ」 カナエ「六時間目の授業中、後ろの席で私のことを土井さんとかと話してたじゃん」 ルミ 「モミジと?六時間目? ……ああ、あれかぁ! あれは別にカナエのこと悪く言っていたんじゃないよ」 カナエ「うそばっかし」 ルミ 「嘘じゃないって。ほら、うちのクラスに渡辺君っているじゃん。 サッカー部の現部長の」 カナエ「(首をかしげて)……そんな人いたっけ?」 ルミ 「あんたぁ、同じクラスでしょ。もう二学期になっているにまだ覚えてないの?」 カナエ「全然」 ルミ 「はぁ。まったく、渡辺君もかわいそうに。 こんな、人のことはすぐ忘れるくせに、自分のことを言われると すぐにいじけるような子を好きになるなんて」 カナエ「……ええっ!?」 ルミ 「『ええっ!?』じゃないよ。渡辺君、カナエのこと好きらしいよ。 それで、カナエのこと詳しく教えてくれって頼まれたから、教えていたってわけ」 カナエ「そんなぁ……なんて言ったの?」 ルミ 「べつにぃ(意地悪げに)ただ、 『カナエはとても優しくて、頭もいいし、とてもかわいい、いい子』って言っただけ」 カナエ「ひどい、そんな、嘘ばっかり言って。渡辺君誤解しちゃったらどうするの」 ルミ 「な〜に言ってるのよ。全部本当の事じゃない。もっと自分に自信持ちなさいよ。 もしかしたら、渡辺君カナエに告るかもよ」 カナエ「そんな……私なんて、ダメだよ。ねぇ、その時はルミも来てくれるでしょ?」 ルミ 「何で私が!?」 ルミ カナエに見つめられて仕方なさそうに ルミ 「……分かったわよ。しょうがないわねぇ」 カナエ「良かった」 ルミ 「でも、何時までもそんなんじゃダメよ」 カナエ「分かってるけど……でも私……クラスの女子ともあまりまともに話せないのに、 男の人と話すなんて絶対無理」 ルミ 「『男の人』なんて言ったって、うちのクラスの男子はみんな子供じゃん。大丈夫だよ」 カナエ「そんなことないって」 音響 FI(明るい曲 モミジ 下手から登場 モミジ「げげっ!?ま〜だ掃除してるの!?」 ルミ 「あれ、モミジ、まだ帰ってなかったの?」 モミジ「な〜に言ってるのよ。聞きたいことがあるなら、 掃除が終わるまで待ってろって言ったのはルミでしょ?」 ルミ 「それは、モミジが掃除を手伝ってくれなかったからでしょ」 モミジ「そ……それはそうかもしれないけど……でも、本当。いつまで掃除しているのよ。 いいかげん待ちくたびれて帰るところだったじゃない!」 ルミ 「しょうがないでしょ。みんな掃除当番のくせに帰っちゃうし。 カナエはなんかいじけてるし」 カナエ「いじけてなんてないってば」 モミジ「ふぅん。ま、そんなことよりぃ」 モミジ ポケットからメモ帳を取り出す モミジ「さぁ、サッカー部のエースに目をつけられたクラスのマドンナの胸中やいかに?」 ルミ 「こぉら、モミジ、ふざけないの。カナエがおびえているじゃない」 モミジ「ふざけてなんてないよ。校内一の情報収集家を自称するこの土井モミジとしては、 どんな小さな情報も必死の覚悟で集めるつもりなの」 ルミ 「そんなこと言って、またくだらない噂を集めているだけでしょ」 モミジ 少しムカッときて モミジ「なに言ってるのよ。私はね、将来ジャーナリストになるのよ!」 音響 FO ルミ 「ジャーナリスト!?」 モミジ「そ。だ・か・ら、今はその修行をしているのよ。お分かり?」 ルミ 「あんたが?へぇ……モミジも、もう将来の夢とか考えているんだ」 モミジ「あったり前よ〜もう高校二年生なんだから」 ルミ 少し動揺して ルミ 「あ、そ、そうだね、当たり前よね」 モミジ「さぁて、では教えてもらいますか! 瀬野さんはサッカー部のエースをどう思っているのかを」 カナエ「え?え、その……私、渡辺君なんて知らなかったし」 モミジ「そっかぁ。とするとやはり渡辺フラレ決定か」 モミジ 手帳をしまう ルミ 「あ、やっぱり分かってた?」 モミジ「まぁね。はぁ。せっかく久々の恋の噂だったのになぁ〜つまんない」 ルミ 「恋の噂ねぇ……てかあんたってばさぁ、結局いつもそればっかじゃん? そんなんでジャーナリストになんてなれるのぉ?」 モミジ「しっつれいねぇ〜 私にだって恋話以外のとっておきの情報の一つや二つあるわよ」 ルミ 「へぇ、例えば?」 モミジ「例えば〜? ……そだ。二人とも、うちの学校に神隠しにあった人がいるのって、 知らないでしょ?」 ルミ 「神隠し?」 ルミ カナエと目を合わせ首をかしげる ルミ 「なにそれ?もしかして七不思議の一種?」 モミジ「やっぱり知らないみたいね。まぁ二人が知らないのも、無理はないわよね。 私の情報収集能力をもっても、入学してから二年も経ってから知ったんだから」 ルミ 「一体どんな話なのよ?」 モミジ「知りたい?」 ルミ 頷く モミジ「瀬野さんは?」 カナエ おずおずと カナエ「私は……」 ルミ 「別に聞くだけなんだから怖くないって、ね」 カナエ 仕方なさそうに頷く モミジ「よし。それならば教えてあげよう。我が学校の『神隠し』をね」 音響 FI(お化け音? 照明 スポット(×2)のみ モミジ「(脅かすような声色で)何年かに一度ね。この学校内の廊下で、生徒が消えるのよ。 それも、まったく何の前触れもなく、いきなりね」 カナエ「生徒が……消える?」 モミジ「(頷く)何が原因かも分からない。本当にある日忽然とね。 下校途中の少し薄暗い廊下から……フッと。 そこには、何の前触れもありはしない」 ルミ 「まさか、人が消えるなんて」 モミジ「そう思うでしょ?ある人の話では、消えてしまった子は、 この世から完全にいなくなってしまったのではなくて、 どこか、こことは別の場所で生きているかもしれないっていう話よ。」 ルミ 「別の場所……」 カナエ「も、もういいよ」 モミジ「例えば、時の進まない場所……ここではない、ほかの何処か」 ルミ 「時の進まない……」 ルミ 何かを考え込み、首を振る カナエ 怖がってルミに引っ付いている モミジ 十分に怖がらせたいのか、さらに迫力をつけようとする モミジ「……そして、何時まで経っても居なくなった子は見つからないまま ……もちろん、死体だって出てきたことがない……そして」 ルミ 「わ!!」 カナエ「きゃああ」 モミジ「ひゃぁぁぁぁっ」 音響 CO 照明 全照(スポット×2はCOのまま) モミジ「び、びっくりした」 カナエ「ひどいよぉ」 ルミ 「ご、ごめん。まさかそんなに驚くとは……やっぱり、大声で脅かすって言うのが、 怪談のオチかと思って、先取りしてみたんだけど」 モミジ「あのねえ、これは真剣な話なのよ。ただの脅かしじゃないんだから。 現に、四年前にも、消えてしまったまま戻らなかった子がいるんだから」 カナエ「本当に?」 モミジ「ほら、時々朝、校門の前で女の人が捜索依頼のチラシ配ってるでしょ? ミツヨさんって言うんだけど。今日も朝いたじゃん」 ルミ 「え。そうなの? 私今日遅刻したし……」 カナエ「それって……もしかして、これ?」 カナエ ポケットから折りたたんだチラシを取り出す モミジ「そうそれ。てか、瀬野さんそういうの捨てないんだぁ(感心して)」 カナエ「だって、あの女の人、いつも一生懸命だから……」 ルミ 「(カナエの持つチラシを覗き込んで)この人が消えちゃったってわけ?」 モミジ「そうだよ〜当時は結構ニュースにもなったんだから」 ルミ 「へぇえええ(疑いの声)」 モミジ「なによぉ、そのいかにも「疑ってます」って声は」 ルミ 「べっつにィ」 モミジ「まったく、せっかくの情報なのに、こんな奴に話すんじゃなかった」 ルミ 「なにぃ」 モミジ「あ! もうこんな時間! 帰ってニュース見なくっちゃ〜では、私はこれにて」 モミジ 下手へ退場 ルミ 「明日あったとき、覚えとけよ〜」 モミジ 下手から顔を出す モミジ「なに言ってるの? 土日休みじゃん」 ルミ 「あ、そうか」 モミジ「また来週ねえ。バイチャ♪」 モミジ 下手へ退場 ルミ&カナエ 掃除再開 ルミ 「はぁ。モミジに一本取られるなんて……って、カナエ、何考えているの?」 カナエ「あ、うん。さっきの神隠し、何か怖くって」 ルミ 「あんなの、モミジの悪ふざけなんだから、気にしちゃダメよ」 カナエ「悪ふざけ、だったのかな?」 ルミ 「え? どういうこと?」 カナエ「あの話。ただの悪ふざけには思えなかったんだけど」 ルミ 「なに言ってンの。悪ふざけに決まってるわよ」 カナエ「だって、やけにリアルじゃなかった? このチラシの人が消えちゃったのは本当なんだし」 ルミ 「ただ、嘘がもっともらしくなるように利用しただけだって。 ……でも、なんか羨ましくない? あの話って」 カナエ「え?」 ルミ すこし夢見るように ルミ 「消えてしまった子が、本当に別の世界に行っているなら、よ。 こんな、時がいつのまにか流れ続けている場所なんかじゃなくて、 もっと別の……モミジが言ったような、 時がまったく流れない場所に、いなくなった子は行っていたのだとしたら?」 カナエ「……怖いよ、そんなの」 ルミ カナエを羨む存在として見つめる 口調、少し皮肉っぽくなる ルミ 「そりゃ、カナエはそうでしょうけど」 カナエ「え?」 カナエ ルミの口調にとげがあることに気付く ルミ 少し慌てて優しい笑みを作る 言動は軽く。 しかし、その中には自嘲、皮肉が込められる ルミ 「べつに……ただ、カナエは私とは違うから……。 カナエは将来に夢だって持っているもの。そりゃあ、この場所がいいと思えるわよ」 カナエ「そんな、別に夢なんて……」 ルミ 「だって、絵の勉強したいんでしょ? 画家になるためにさ。 進路希望の紙に『美大に進学』ってしっかり書いてたじゃん」 カナエ「そ、そんな大そうなものじゃないよ。ただ、私は絵が好きだから、 絵のことを学びたいってだけで」 ルミ 「それだってすごいことだよ。自分のやりたいことがちゃんと決まっている、なんてさ」 カナエ「そんなこと……ルミだって、『文系の大学に進学』って書いてたでしょ」 ルミ 「ああ、あれ? そういやそうだったね」 ルミ 苦笑する カナエ ルミの様子が少しおかしいことを訝る カナエ「ルミ?」 ルミ 「(笑って)なんでもない。……たださ……時がたつのなんてあっというまね」 カナエ「なに? 急に」 ルミ 「いつのまにかもう、二年生だしさ。あっという間に一日がたって、 一月がたって、一年がたって……時の流れに流されるままでいて ……そうやって、私たちは、どこへ行くんだろう?」 カナエ「でも、それは仕方ないよ。そうじゃないと、成長できないし」 ルミ 「ま、そうだろうけどね。でも、時々考えるんだ。 そりゃ、目的がある人はそれでいいのよ。 そういう人たちには自分達の乗る時の流れがどんなだかが分かるんだから。 でも、私みたいのは、ただ、流されるまま……だから、いっそ」 カナエ「ルミ、そんなこと言わないでよ……私は、ルミが居なきゃダメなんだから」 ルミ 「(笑って)冗談よ、冗談」 カナエ「脅かさないでよ〜」 ルミ 「ごめんごめん。なんか今日は調子が悪いや。モミジが変な話したからかな。 (廊下を見渡して)掃除、もう、これくらいでいいよね……帰ろう」 カナエ ルミに何か言いたそうにするが、言えない カナエ「うん」 ルミ 「モップ片付けて来るね。あ、バケツもさ」 カナエ「あ、ごめん」 ルミ 「あと、カバンも持ってこなきゃ……カナエのも持ってきてあげるよ」 カナエ「あ、ありがとう」 ルミ 少し歩いて、立ち止まりポツリと ルミ 「どうせ言ったところでカナエには分からないもんね」 カナエ「え?何か、言った?」 ルミ 「なんでもないよ」 ルミ モップを置きに舞台袖へ 二人分のカバンを持って小走りで帰ってくる カナエ ルミを待っている間、ルミの様子の異様さに首をかしげる? ルミ 「はい、カバン」 カナエ「ありがとう」 ルミ 「……さ、行こう」 二人して歩き出す。と、数歩でルミが足を止める ルミ 「鈴?」 カナエ「え?」 ルミ 「ううん。……なんでもない。気のせいだった」 音響 FI(鈴の音 ルミ 「いや、やっぱり聞こえる……鈴」 カナエ「鈴? …………そんな音、聞こえないけど?」 ルミ 「こんなはっきり聞こえるのに?」 カナエ「……やだ、ルミ、からかってるんでしょ?」 ルミ 「からかってなんかいないって。聞こえない? なにかこう、あまりいい感じはしない鈴の音」 カナエ 耳を澄ませて首を振る カナエ「聞こえないよ?」 ルミ 「うそ……なんか、耳がおかしいのかな? さっきから鈴の音がだんだん大きくなっていくような気がする」 カナエ「ねぇ、疲れてるんだよ、ルミ。早く帰ろう?」 ルミ 「うん……そ、そうだね、早く帰ろう」 カナエとルミ下手へ向かう。 ルミ 足早になる カナエ ふと足を見て、画鋲が刺さっていることに気付く カナエ「あ、ちょ、ちょっとまって」 カナエ 靴の裏を見る。画鋲を取る仕草 照明 フットライト(赤)のみ ルミ カバンを落とす 照明 もとに戻す 音響 CO カナエ「あれ? ルミ? ルミ? ちょ、ちょっと、どこ行ったの?」 カナエ ルミを探して下手へ退場 照明 フット赤+青(暗そうだったらスポット×2をぼやけさせて当てる) 音響 FI(異世界 ルミ 「カナエ? ……廊下って、こんなに暗かったっけ? それに赤い……ねぇ、カナエ! まったく、あの子、どこ行っちゃったのよ。 あたしの荷物持ったままで……あ、そうだ。携帯」 ルミ 携帯を取り出して ルミ 「圏外!? ど、どういうこと?」 ケイコ 上手から登場 古いセーラー服を着ている ルミをみて少し驚く ルミ 「あ、ねぇ、人探してるんだけどって、うちの学校の生徒じゃないのよねぇ?」 ケイコ しばらくルミをじっと見つめる。やがてゆっくりと 自分の言葉を捜しながら ケイコ「うちの生徒? ……そう、あなたは新しくここへ来たのね?」 ルミ 「ここ?」 ケイコ「永久の時の街。『クオン』と、私は呼んでいるわ。 あなたがここへきたということは、ここへくるだけの資格があるということ。 ……歓迎するわ」 ルミ 「あ、あの、よく意味がわからないんだけど」 ケイコ「ゆっくり説明してあげる。大丈夫。時間はいくらでもあるから……あなたの名前は?」 ルミ 「え?相澤ルミだけど」 ケイコ「そう。私はケイコと呼ばれていたわ。よろしくね」 ケイコ ルミに微笑みその手を取る ルミ 恐る恐るケイコを見る 音響FO 暗転&下手へスポット カナエ 下手から登場(登校の演技) ケイコ&ルミ上手へ退場 声 「あ、すいません瀬野カナエさんですよね? 相沢るみさんと最後まで一緒にいた」 カナエ「……はい」 声 「日本放送ですが、あの、お話伺えますか? あ、大丈夫ですよ。 放送の時には声はちゃんと変えて流しますし、顔は写しませんから」 カナエ「私、何も」 声 「でも、あなたは相澤ルミさんとはいつも一緒に帰っていたのですよね?」 カナエ「そうですけど……」 声 「相沢ルミさんが最後に消えたのは学校の廊下だと警察には話したそうですけど」 カナエ「はい、そうですけど」 声 「でも、学校の校舎で人が消えるなんて言うのは変ですよねぇ」 カナエ「そんなこといわれても……」 声 「警察で話された事を……もう一度、始めからから話してくれませんか?」 カナエ「分からないんです、私、何も。ルミがいないと私・・・・ おねがいですから、ほっておいてください!!」 カナエ 下手へと逃げる(退場) 照明 全照 音響 FI(チャイム) カナエ 下手から登場。とぼとぼと歩いてくる モミジ 下手から登場 カナエの姿を見つけて走り寄る モミジ「あ!瀬野さんっ。ねぇ、ルミがいなくなったって本当? なんか、校門にパトカー止まってるし、報道関係の車も……って、 ちょっと待ってよ」 音響 FO カナエ そのまま歩き出そうとする。 モミジ「ルミのことレポーターにはなんて言ったの?ねぇ」 カナエ「……私、何もわからない」 モミジ「だって、ルミと最後に一緒にいたのは瀬野さんでしょ」 カナエ「そうだけど……」 モミジ「だったら何かわからない? ねぇ」 カナエ 下を向いたまま下手へ方向転換 抑えていた感情を膨らます モミジ「瀬野さん?」 カナエ「私、本当に何も分からない。何か分かってたら、 ルミがどうなったのか分かったら、私……」 モミジ「瀬野さん…………ねぇ、もし、ルミを見つけられるかも知れないって私が言ったら、 どうする?」 カナエ モミジに向く カナエ「どういうこと?」 モミジ「……もしかしたら、ルミは神隠しにあったのかもしれない」 カナエ「え? それって」 モミジ「こないだ、話したでしょ? うちの学校の神隠し」 カナエ「でもあれは……作り話でしょ?」 モミジ「そういう部分もあるんだけど……でも、本当の部分もあるんだ」 カナエ「本当の部分って?」 モミジ「…………瀬野さん、放課後時間ある?」 カナエ「え? う、うん。大丈夫だけど」 モミジ「じゃあ、今週私、昇降口の掃除当番だから、うちの教室の廊下で待ってて」 カナエ「いいけど、でもどうして?」 モミジ「放課後に時間気にせず話せた方がいいと思うんだ。もうすぐ本鈴鳴っちゃうし」 カナエ「私、今日は……」 モミジ「え? 学校行かないの? もうすぐそこじゃん」 カナエ「でも、なんかもう疲れちゃって」 モミジ「わかったよ。でも、放課後には絶対来てね。絶対だよ!」 カナエ 下手へ退場 モミジ「来てくれるよね、きっと……あ、そだ。私は授業に行かないと、皆勤賞が〜」 モミジ 上手へ退場 ○放課後の廊下 照明 スポット×2CO 音響 FI(寂しげな音楽 カナエ おそるおそる廊下を歩いてくる。ルミと別れたあたりを見て カナエ「ルミ……本当、どこ行っちゃったの? ルミがいなきゃ、私、どうしたらいいか……」 モミジ「瀬野さん!」 音響 CO モミジ 上手から登場 モミジ「よかったぁ、背のサンやっぱり来てくれたんだね。 あたし、瀬野さんがもし来なかったらって考えたら 授業中もろくに集中できなくってさぁ。 初めてだよ、世界史の授業つまらないって感じたの。 もういくら先生がくだらないこと言っていても面白いって思えなくてさぁ」 カナエ「土井さん!」 モミジ「はい?」 カナエ「あの、朝言っていたこと。ルミが神隠しにあったって……」 モミジ「そうそう! それ、それを瀬野さんに話そうとしてたの。 ほら、こないだ話したこと覚えてる? この学校で神隠しにあった人がいるって言う話」 カナエ「あの、四年前にっていう話? 散らし配りのお姉さん、ミツヨさん?の友達だっけ?」 モミジ「うん。そのミツヨさんから聞いたんだけどね、こういう話があるの。 今から四年も前の話よ」 カナエ&モミジ ストップモーション 照明 暗転&スポット×2のみ 音響 FI(オルゴール ケイコ&ミツヨ上手から登場 ミツヨ「遅くまで自主練付き合わせちゃってごめんね。 でも、ケイコが色々言ってくれて助かった」 ケイコ「うん。最初と比べて大分良くなったよね」 ミツヨ「ケイコのおかげだよ。ありがとね」 ケイコ「私はただ……でも、ミツヨも、大変よね。セリフ沢山あって」 ミツヨ「うん、覚えるの大変だよ。でも、やりたいことだもん、楽しいよ。 私、女優になりたいの。 だから、テレビとか、映画とか舞台に同い年の子を見ると、 私もやらなきゃって思うのよ」 ケイコ「そっか……。ミツヨいつも役者になりたいって言ってるものね」 ミツヨ「ケイコは?将来、何になりたいの?」 ケイコ「私?私は……さか、私何になりたいんだろうね?」 ミツヨ「どうするの?もう高二よ。私で良ければ相談に乗るよ?」 ケイコ「いいよ……なんかさ、一日があっという間じゃない? 何をやるのにも短すぎて……悩んでいるうちに、もう日は落ちてきちゃうし ……将来なにやるか、なんてのに関係なく学校はあるし。 あたし、勉強以外は何も趣味とかないしさ……でも、その勉強も、 好きだってわけじゃないし……困っちゃうよ」 ミツヨ「ケイコ……」 ケイコ「ねぇ、時が進まない場所があったらいいのにね。 永久に時が進まない場所『久遠(くおん)の街』 ……そんな街があればいいと思わない?」 音響 FO ミツヨ「退屈よ、そんな場所は」 ケイコ「そうかな……私は……」 ケイコ 鈴の音に気付いて、止まる ミツヨ「……どうしたの?」 ケイコ「……鈴」 音響FI(鈴の音 ミツヨ「え?」 ケイコ「鈴の音がしない? なんか、細かい音」 ミツヨ「鈴? ……気のせいじゃない?」 ケイコ「気のせい? ……ねぇ、からかわないでよ。聞こえてるじゃん」 ミツヨ「なに言ってるのよ、全然聞こえないじゃない?」 ケイコ「そんな…………ねぇ、もう行こう? なんか、気味悪い」 ミツヨ「え? ええ」 ケイコ ミツヨの背に隠れるように ミツヨ 不思議そうな顔のまま下手へ。途中振り返り ミツヨ「あ、私ちょっと忘れ物しちゃった」 ケイコ「え? な、なに?」 ミツヨ「音楽のリコーダー」 ケイコ「ええっ」 ミツヨ「ほら、明日音楽あるから、もって帰って、練習しなきゃ」 ケイコ「明日じゃ、だめ?」 ミツヨ「それじゃ練習できないでしょ。テスト明日なんだよ」 ケイコ「私も行く」 ミツヨ「いいよ。それより、荷物置いていくから、ちょっと見ててね」 ミツヨ 走りかけて 音響 鈴の音を高める 照明 フット(赤)のみ ケイコ 引かれるように下手へ退場 ミツヨ「ねぇ、ちよっとケイコ何処にいるのよ?ケイコ?ケイコ?ケイコ!?」 音響 鈴の音一度高めてから落としていく ミツヨ 名前を呼びながら下手へ退場 照明 全照−スポット×2 モミジ&カナエ それぞれ登場 カナエ「そんなことがあったんだ……」 モミジ「いなくなった年は違うけど、状況は似ているでしょ?」 カナエ 頷く モミジ「やっぱり……あたし思ったのよ。 一つのパターンよりも、二つのパターンを照らし合わせたほうが、 この事件を解明できるかもしれないし。 ねぇ、今の話聞いて何か気づいたこととかない?」 カナエ「そんなこと言われても」 モミジ「ルミを早く見つけたいでしょ? 何でもいいのよ」 モミジ カナエに迫る カナエ 困り果てて、思いつく カナエ「音……」 モミジ「音?」 カナエ「ルミがいなくなったとき、ルミ、『鈴の音がする』って言ってた。 それと、ケイコさんも」 モミジ「鈴……」 モミジ 話をメモっている カナエ「それに」 モミジ「それに?」 カナエ「二人とも帰りがけに消えたってこと、かな」 モミジ「鈴の音……それに、帰る時刻……でも、だったら何で今までに、 消えた人間が二人なの? なんか少し少なすぎるんじゃない? いや、もしかしたらいなくなる時間が限定されているのかなぁ?」 カナエ「確かに、私たちは掃除時間が長引いちゃっていたけど……」 モミジ「私はそれで待っていたから遅くなったけど ……そうか、そう考えると、私ってばぎりぎりだったのかなぁ? ……ね、今はどうかな?」 カナエ「……こないだ帰ったのは、これくらいの時間だったけど……」 モミジ 何気に歩き出す カナエ ついていく モミジ「何か、特別なキーワードでもあるのかなぁ? カギとなる言葉みたいなものが」 カナエ「……夢?」 モミジ「え?」 カナエ「あの時、私たち、夢の話をしてた。ケイコさんたちみたいに」 モミジ「それって……」 カナエ モミジの言葉を気にせずに カナエ「私が自分の夢の話をして……それでルミはあまりよく話してくれなくって…… 帰ろうって…………でも、あの時私、 なんであんな夢が言えたんだろう? ルミがいなかったら私、何をしていいのかも良くわからないのに ……ルミじゃなくて、 私が消えたのなら良かったのに……私なんて」 モミジ「瀬野さん……そんな、気にしちゃだめだよ」 カナエ「だけど、私は……」 音響 FI鈴の音 カナエ「……鈴」 モミジ「え?」 カナエ「鈴、鈴の音がする」 モミジ 耳を傍立てて モミジ「何も聞こえないよ?」 カナエ「え、そんな……こんなはっきり聞こえるのに?」 モミジ「瀬野さん……それって(思わず、一歩二歩カナエから離れる)」 照明 フット(赤)のみ モミジ「瀬野さん!? え? うそ……そんな、消えた?」 カナエ 固まっている モミジ「瀬野さん? 瀬野さん! どこ行っちゃったの? ねぇ!」 音響 音を高める 照明 全照−スポット×2 音響 FO モミジ「本当に……消えるなんて……どうしよう……瀬野さぁん!」 モミジ 下手へ退場 照明 フット(赤&青)のみ カナエ「赤……赤……赤い場所……ルミは、ここにいるの? ルミ! ルミ……どこ?」 ケイコ 下手より登場 ケイコ「だれ?」 カナエ「あ、あの瀬野カナエといいます。ルミを探しにきたんです」 ケイコ「カナエ?………なんであなたの様な人がここにいるの?」 カナエ「私のような?どういうことですか?」 ケイコ「いえ、別に。……ルミさんからあなたの話は聞いているわ。 彼女、あなたの事を探してた」 カナエ「ルミも私を?あなたは誰ですか?ルミは何処にいるんですか?」 ケイコ「私の名前は……ケイコよ。ルミさんはこっちにいるわ」 カナエ「ケイコさん!?」 ケイコ「如何したの?さ、こっちへ」 カナエ「は、はい」 カナエ 上手側へ進む ケイコ 途中止まって ケイコ「言い忘れる所だったわ。時の止まった街『久遠(くおん)の街』へようこそ。 カナエさん。あなたを歓迎するわ」 ケイコ カナエに手を伸ばす カナエ その手をとる ケイコ&カナエ 上手へ退場 ルミ 上手から登場 ルミ 「ここは、私の望む場所……時の止まった世界…… もう私は何も悩まなくていい……だから幸せ? 分からない。これは私の望んだこと? でも私が時が流れる場所にいたって何もできない…… なにも……だから……わからない……もう、何も分からない」 ルミ 舞台中央で体育館座り ケイコ 上手から登場 ケイコ「さぁ、こっちに来て」 カナエ 上手から登場 音響 FO カナエ「……寂しい場所」 ケイコ「そうね。ここは皆がそれぞれ自分だけの時をすごす場所。 だから誰も互いに反応しない。確かに、寂しいわね。 だけどだからこそ誰もが幸せなのかもしれない」 カナエ「幸せ? だったらあなたは、あなたはなんで……」 ケイコ 薄く笑いながら ルミを指す ケイコ「ほら、あそこにいるわよ。せっかく永遠の場所に来たのに、 喜びもせずに、ひざを抱えたまま」 カナエ「ルミ!」 カナエ ルミに近寄る ルミ 顔をあげて ルミ 「……カナエ? なんでここに?」 カナエ「ルミを探しに来たんだよ。ねぇ、一緒に帰ろう?」 ルミ 「…………無理だよ」 カナエ「なんで!?」 ルミ 「……ここは、どんな人が来る場所かわかる?」 カナエ「え?」 ケイコ「自分の場所がわからない者。自分の未来が見えない者。 流れる時を否定する者の街。それがこの街」 ルミ 「そう。だから、私が外に出たって何もできない。 何もすることがないのよ。したいこともないし、何をすればいいのかもわからない」 カナエ「そんな……だって、私、ルミがいなかったら何をやっていいか分からないよ。 したいことも……何もできない」 ルミ 「なに言ってるのよ! 絵の勉強をするんでしょ!」 カナエ「ルミがいなきゃだめ。私、一人じゃ……」 ルミ 「カナエ……」 ケイコ「……だったら、みんなここにいればいいじゃない」 ルミ&カナエ ケイコを見る ケイコ「みんなこの場所で、永遠のときを過ごせばいいのよ。 ここにいれば未来を憂えることもない。時に流される苦しみだってないし、 ずっと、同じ時を過ごし続けられる。それが一番幸せじゃない?」 カナエ「…………そんなことない」 ケイコ「そう? ここにいればあなたもルミさんとずっといっしょにいられるのよ。 ……ルミさんにとって、それが幸せかは分からないけど」 カナエ「え?」 ルミ 「!っ ケイコさん、やめて」 ケイコ「ルミさんが、あなたのことを大切に思いながら、 時折あなたの言葉に傷ついていたことを、あなたは知っているのかしら?」 カナエ「そんな、ルミ、本当なの?」 ルミ 「そんなわけないわよ」 ケイコ「そうやって笑顔を浮かべながら、 すでに未来が決まっているカナエさんを苦々しく思っていたことを、カナエさん、 あなたは知っていたの?」 ルミ 「ケイコさん、もうやめて」 ケイコ「今だってそう。時の街にやってきた友達を喜びながら、その一方では、 夢を簡単に捨てようとするあなたを憎らしく思っていることを、 カナエさん、あなたは知っているの?」 ルミ 立ち上がる ルミ 「やめて! あなたに一体私の何がわかるって言うのよ」 ケイコ「分かるわよ。だって、あなたは私と同じだから。 ミツヨと一緒に帰っていたときの私と」 カナエ「同じ?」 ケイコ「いつもミツヨは未来を夢見てた。 その横で私がどんな思いでいたかもわからないで、楽しそうに夢を語った。 ……わからないでしょ? カナエさん、あなたには。 夢を持ち、時の流れになんら違和感を持っていないあなたには。 友達がいなければダメ? あなたにとって友達なんて、自分の未来を語って見下すための存在でしょう?」 カナエ「違う……違うよ……。ルミ、ルミはいつも、そう思っていたの? 私が話をするたびにいつも楽しそうに笑って聞いていてくれたのに、 本当は嫌だったの? ……じゃあ、今までの私たちって」 ルミ 「ちがう! それはちがう!」 ケイコ「何が違うっていうの?」 ルミ 「……確かに、カナエの話に笑顔を浮かべながら、うらやむ私もいたわ。 時には、憎らしく思うことだってあった」 カナエ「そんな……」 ルミ 「……だけど、だからってカナエの事を大切に思ってなかったなんてことはない。 絶対に」 ケイコ「また自分に嘘をつくの? いい人のフリをして、そこまで自分を良く見せたいの? ここでは意味がないのに」 ルミ 「ちがう、そんなんじゃない。……カナエを大切に思う気持ちも、 カナエを憎む気持ちも、両方とも私の心よ。 どっちを否定しても本当の私にならない。 私の心は、一つの感情だけでできているわけじゃないから……それじゃ、ダメなの?」 カナエ「ルミ……そうだね、私も、いつも明るくて誰とでも話せるルミがうらやましくって、 ……時々憎く思ったこともあるよ」 ルミ 「……そうだったの……ごめんねカナエ」 カナエ「何で謝るの? 謝ることなんて何もないよ。私こそ、ごめん」 ルミ 「カナエこそ、何で謝るのよ」 カナエ「(苦笑して)なんでだろうね」 ケイコ「……美しい友情ね。でも、そんなのはしょせん奇麗事。 心の中ではお互いどう思っていても、口では優しい言葉がいえるものよね」 カナエ「ケイコさん……なんでそんなふうに考えなくちゃいけないの? そんなの、悲しすぎるよ」 ケイコ「そう? あなたにはそう思えるだけでしょう? 友情があったほうが便利だから友達を続けているあなたには」 カナエ「そんなこと……ないよ」 ルミ 「……ケイコさん、本当はあなただって分かっているんでしょ? 私とあなたは同じだというのなら、あなたにだって友達を思う 気持ちはあったんじゃないの? 相手を憎むことだってあるかもしれないけど、 それと同じくらいに大切に思う気持ちも、あなたの中にはあったんじゃないの? 永遠の時を生きることが、その気持ちをなくしてしまったの? だったら、だったら私は永遠なんて生きたくない!」 ケイコ「……誰かを大切に思う気持ちなんて、始めからないわよ。人は一人なんだから」 カナエ「……ミツヨさんは、今でもケイコさんの事を探してるよ。ずっと」 ケイコ ショックを受ける ケイコ「ミツヨが!?……今でも私を?……うそ」 カナエ「うそじゃないよ。ほら(制服の内ポケからチラシを出す)こうやって、 チラシまで作って。今でもずっと心配して。 ケイコさんが便利だからなんて気持ち、ミツヨさんも持ってないよ」 ケイコ「ミツヨ(チラシを見る)………なにこれ、私、笑ってる。……馬鹿みたい。 ミツヨも、私も」 ルミ 「(優しく)利口な人なんていないわよ。カナエだって、なんだかんだいって馬鹿だし」 カナエ「え?」 ルミ 「だってそうでしょ? 誰がこんな場所まで友達を追っかけにくるのよ。 馬鹿そのものじゃない」 カナエ「そんなぁ」 ルミ 「でも、私だってそう。友達なんだから、思っていることをちゃんと言えばいいのに、 変に隠して苦しんでいた」 カナエ「ルミ……」 ケイコ 二人の会話に笑みを浮かべる ケイコ「……そうね、みんな馬鹿なのよね」 ルミ&カナエ 「え?」 ケイコ「馬鹿だから、時の流れなんかに悩んで、友達をうらやんで、 自分がダメなんだって思い込んで……でも、馬鹿だから、 こんな場所に逃げ込んだのに友達が迎えにきたり、探しているってわかると、 なんかうれしくなってしまう……本当頭良くないわね」 カナエ「ケイコさん……」 ルミ 「……だからこそ、時の流れの中でも生きていけるんじゃないかな、人は」 ケイコ「そして道を誤ってしまったものは、 すでに、何の選択肢も残されていないときになって その愚かさに気付くということね。……本当、馬鹿よね」 ケイコ 俯く ルミ 「どういうこと?」 ケイコ「なんでもないわ。 ……もう、ここを離れるつもりのあなたたちに言っても無駄なこと」 カナエ&ルミ 「え?」 カナエ&ルミ お互い顔をあわせる ケイコ「ルミさん、あなたさっき言ったでしょ?こんな場所にいたくはないってね」 ルミ 「あっ」 ケイコ「ここから出る方法はないかって、考えていたんじゃないの?」 カナエ「ルミ?!(嬉しそう)」 ルミ 「え! そ、そうだけど……なんで」 ケイコ「あなたは私と同じ。そう言ったはずよ。だけどいいの? 未来が見えないのに、時に流されるのが怖いのにこの場所から抜け出して」 ルミ 「そうだけど……でも、ケイコさんの話し聞いて思ったのよ。 私、どっちみちそんな偉くなれるわけでもないし、 自分なりに、悩むのもいいかなって」 カナエ「ルミ! 私と、一緒に?」 ルミ 「もちろんだって。カナエとはずっと友達よ、ずっとね」 ケイコ「そう……それも、いいかもしれないわね。戻れるわよ。 未来への夢を取り戻したあなたたちだもの。じきに、鈴の音が聞こえるはず。 この街と、元の場所とを繋ぐ音が」 音響FI 鈴の音 ルミ 「……本当だ」 カナエ「鈴の音が」 ケイコ 耳を澄ますが、聞こえていないのか、首を振る ケイコ「よかったわね。元の世界に帰れて」 カナエ「!っ ケイコさんは?」 ケイコ「なぜ私が帰らなくちゃいけないの?」 カナエ「だって、だって……」 ケイコ「関係ないでしょ? あなた達と私は。……それにね」 ケイコ 少し自虐的に笑う ケイコ「この場所は時が経たない街。何も食べなくても、寝ていなくても、 私たちには何も起こらない……でも、それは魂だけ。 私たちの器はやがて朽ち果てチリとなる。 私たちが気づかないうちに、ゆっくりとね」 カナエ「それじゃ……ケイコさんは……そんな……」 ケイコ「なにを、そんな驚くことがあるというの? 私は、私はここで一人で永遠を生きていたいのよ。 ずっとね。これは私の望んだこと。たった一つの私の望み」 カナエ「じゃあ、なんで……なんでケイコさんは、そんなに寂しそうなの?」 ケイコ「……さぁ、何でかしらね」 ルミ 「……ケイコさん……ありがとう」 ケイコ「私は何もしていないわよ。あなたも、後悔しないようにね。 時の流れる場所で、時の進むことを恐れる日々に」 ルミ 頷く カナエ「でも、ケイコさん、ケイコさんはそれで、幸せなの」 ケイコ 泣きそうな顔 ケイコ「……幸せよ。十分ね」 照明 フット(赤)のみ 音響 鈴の音高める カナエ&ルミ 何かを言いたそうにしながら引かれるように上手へ退場 音響 鈴の音高める 照明 スポットを下手に当てる 音響 FO ケイコ 二人が消えた場所に移動し、消えたことを確かめている モミジ 下手から登場 モミジ「やぱりいない……どうしよう……やっぱり消えちゃったんだ。 ……あたしの目の前で……これじゃあ、絶対警察に説明求められよぉ ……それで、アナウンサーにもコメント求められて」 ケイコ モミジの台詞中に上手に退場 照明 全照−スポット×2 モミジ「そしたら、一躍学校の人気者かぁ。困っちゃうなぁそんなのぉ。 こうなったら早めに警察呼んじゃった方がいいかなぁ。あと、報道関係とか……」 カナエ&ルミ 上手から登場 ルミ 「足が、ふらふらする」 カナエ「大丈夫? 救急車呼ぼうか?」 モミジ「そうそう、救急車呼んだりさぁって、ルミ!? それに、瀬野さん!」 モミジ ルミにひしと抱きつく。 ルミ 「モミジ? なんでここに?」 カナエ「ルミのこと探すのを手伝ってくれたんだよ。 ルミを見つけれたのも、土井さんのおかげ」 ルミ 「モミジが!? ありがと」 モミジ「な、何らしくないこと言ってるのよ。 言っておくけど、ちゃーんとなにがあったのかは話してもらうからね」 ルミ 「はいはい。でも、ひとまずは何か食べないと。腹へって死にそう」 モミジ「んじゃ、ファーストキッチンでもいこっか?」 ルミ 「おごり?」 モミジ「しっかたないなぁ。そうだ、ねぇ、瀬野さんケイコさんは? 見つけれた?」 カナエ「うん。でも」 モミジ「……帰っては来ないんだ」 カナエ「うん。なんか、幸せなんだって」 モミジ「なぁんだぁ、そうなの? んじゃ、ミツヨさんに教えてあげなくちゃ。 ちょっと電話してくるねぇ〜」 モミジ 下手へ退場 ルミ 「カナエ、今の……」 カナエ「嘘、ついちゃったね」 ルミ 首を振る ルミ 「ううん。きっとよかったんだよ。 哀しい思いをするのは少ない方がいいはずだから」 カナエ「……そうだよね。……ねぇ、ルミ、私やっぱり絵の勉強していいかな?」 ルミ 「なに言ってるのよ、当たり前でしょ。 私も、カナエに負けないようなこと、何か見つけるから」 カナエ「うん! 私もルミにあまり頼らないように頑張るね」 ルミ 「お、言ったなぁ。んじゃ、渡辺君に告白されても一人で何とかなるよね」 カナエ「え、それは無理」 モミジ 下手から登場 モミジ「ねぇ、ミツヨさんに電話したらミツヨさんも詳しい話し聞きたいから おごってくれるって! お寿司だって言うけど、食べに行くでしょ?」 ルミ 「もちろん。こっちは本当ペコペコなんだからね。食べるよぉ」 カナエ「ほら、ルミ肩貸すよ」 ルミ 「ありがと」 モミジ「まったく、どれ、私も手伝うよ」 ルミ 「優しいじゃん?」 モミジ「この事件の大事な証人だからね。後でたっぷり聞かせてもらうよ」 ルミ 「はいはい」 モミジ ルミに肩を貸す ルミ&モミジ&カナエ 下手へ退場 音響 FO FI(鈴の音 照明 暗転 フット(赤) 上手サス ケイコ 上手から登場 ケイコ「一人だけの場所。久遠(くおん)の街。 ……ミツヨ……ルミさん……カナエさん……誰もが時の流れを生きていて、 私はいつも一人だけ。取り残されてひざを抱える。 …………これは私の望み。だから私は幸せ……のはず。……だけど、私は」 ケイコ 観客を見る ケイコ「……あなたはどうですか? 未来を見ていられますか? 時の中で苦しみを感じてませんか? ここへ来てはくれませんか? 時の凍った……この場所へ」 ケイコ 最後の台詞と供に手を差し出す 音響 高める 照明 フット消す スポット絞って 溶暗 完