Repair
作 楽静
登場人物
てんどうななみ(魔法少女ナナミン)/ななみα | 女 高校2年生。/アンドロイド |
ダーミン/ビーショック/ボチボチ/クレイマー/ジャマジャーク | 女 四天王/四天王/四天王/四天王/魔王 |
キナリ | 女 悪の組織の下っ端/研究員/高校2年生 |
ジャーク/アンドウ/アン | 女 三匹の子豚のオオカミ。赤いスカーフを巻いている。 |
ジャマー/ローイ | 女 悪の組織の下っ端/アンドロイド |
ポジティ/トウドウ/トト | 女 魔法少女のマスコットキャラ/研究員/高校2年生 |
タナカ/ナカドウ/カナタ | 男 刀使いな高校2年生/研究員/先生 |
舞台は電脳世界と現実世界を行き来する。
想定する未来はアン○ンマンが終了してから10年くらい。
奥や手前と場面をしている箇所があるが、
舞台で使える道具によっては上下でも構わない。
ト書きに書かれている分け方は参考程度で。
登場人物の後に「声」とついている場合は、録音か影マイク。
01 オープニング。悪の組織と戦う魔法少女。
3月中旬。舞台全体が明るくなると、プリンセスラインなドレススタイルの
魔法少女ナナミン(ななみ)が舞台に立っている。杖(ギルティ・ワンド)を持っている。
ななみ みなさんおはようございます。こんにちは。あるいはこんばんは? 魔法少女でゆるチューバー、
ななみでっす。今日はいつものように、ジャマジャークの秘密基地の一つをぶっ潰しに来ています。
初めての人のために説明するとね、ジャマジャークっていうのは 世界征服を企む悪の魔法使いさん
達のチーム名? みたいなものだよ。現在共に戦ってくれる人を募集中。まずはチャンネル登録を
して、過去の私の戦いを見てみてね? あ、でも最初の方の戦いはちょっと見ないほうがいいかも。
いや、否定するわけじゃないんだけど、なりたての頃はメチャクチャだったからなぁ。
と、舞台上のどこかに、動物?な人形が姿を見せる。
(役者が袖から動かす、もしくは舞台上に人が隠れられる装置を用意する)
ポジティ ナナミン、あまり大きな声でふざけていると、敵に気づかれるよ~
ななみ ごめんポジティ。(と、見ている人に向けて)みんな知ってると思うけど、あの子はポジティ。
てんどうななみが魔法少女ナナミンになるためのきっかけとなった、マスコットキャラ?的な存在
だよ。もちろん中の人なんていないからね?
ポジティ ナナミンは時々何を言っているかわからなくなるよ~。
ななみ ポジティの紹介も終わったところで、いい加減出てきたらどう? そこにいるのは分かっているよ!
と、指差した反対からダーミンが出てくる。悪役マーメイドラインなドレスとか。
ダーミン 残念ながらこちらよ。
ななみ (と、すかさず位置を変え)魔法少女にはお見通しだよ!
ポジティ 思い切り間違えてたよね~
ななみ しっ。黙ってれば気づかれないよ!
ダーミン まあここは? 気づかないフリをしてあげるのが大人の務めと思いましょうか。
ななみ ありがとうおばさん!
ダーミン オバ!? (と、怒りを抑え)オムツの取れたばかりのようなガキが。今日こそこのジャマジャーク四天王が一人ダーミン様が粉々にしてあげる。
ななみ 若さが罪なら確かに私は有罪かも。だけど、今日のギルティ・ワンドはあなたをさしてるの。残念だけど、魔法少女に懺悔タイムだよ!
ダーミン お前たち、やっておしまい!
ジャマーとジャークが出てくる。忍びのような顔を隠す姿。
ジャマー ジャマー!(と、ポーズ)
ジャーク ジャーク!(と、ポーズ)
ポジティ 頑張って! ナナミン!
と、ポジティは去る(もしくは誰かが運び去る)
ななみ 言われなくても! 今日もギルティワンドはご機嫌ナナミンなんだからね!
派手な音楽(プリ〇ュアとか)とともにジャマー&ジャークと戦うナナミン。
※殺陣
そして、徐々に劣勢となる。
ジャマー ジャマー!(と、言いながら攻撃)
ジャーク ジャーク!(と、言いながら攻撃)
ななみ もう! しつこいな!
と、劣勢なナナミンにジャマーが襲いかかろうとした時、
タナカ声 どうやらここが戦場(いくさば)みたいだな!
ななみ この声!?
と、タナカが走って斬り込む。着流しスタイルもしくは軍服。
刀の振られる音がして、ジャマーが切られる。
ジャマー ジャマー!?(と、叫びながらジャマーは切られたアクションをして去る)
ジャーク ジャーク!?
と、ジャークはジャマーが切られ去ったため、刀を怖がる。
タナカ 知らないのか? サムライからは逃げられないんだ。
ななみ タナカくん!? なんでここに!?
タナカ 誰だお前? なんで俺の名前を知っている!?(と、怪しむ)
ななみ (と、わざとらしく気づく)そうか。魔法少女の時は認識阻害魔法がかかっているから
気づかないんだ。(と、タナカに向き)あたしだよ、
と、袖からポジティが顔を覗かせる。
ポジティ 駄目だよナナミン。魔法少女は正体不明がお約束なんだから~。
ななみ (と、その声で気づいて)わかってるよ!
タナカ (と、ポジティの声の方向を警戒しつつ)魔法少女? お前が?
ななみ そう! あたしは魔法少女ナナミン。見ての通り、正義の味方、だよ。
タナカ そうか。危なそうだから助太刀に入ったが、間違ってなかったようだな。
ななみ 助けてくれてありがとう! 力を貸してくれる?
タナカ 望むところだ。誰だろうと我が刀にかないはしない。
と、ナナミンとタナカがダーミンを向く。
ダーミン お子様が一人増えたところで、あたしに勝てるかしら?
にらみ合うダーミン、ナナミン、タナカ。そしてジャーク。
ダーミン、ナナミン、タナカの視線がジャークに向く。不思議そうにジャークがダーミンを見る。
ダーミン なにやってるの。早く行きなさい。
ジャーク ジャーク!?(と、驚いて「自分が!?」と言う動作)
ダーミン 当たり前でしょ。雑魚戦闘はお約束なんだから。
ジャーク ジャーク……(「でも、切られたら死んじゃいますよ?」)
ダーミン 安心なさい。あなたの代わりはいくらでもいるわ。
ジャーク ジャーク(「まじかぁ」)……(と、左腕をわざとらしく見て)ジャーク!
(「あ、定時過ぎてる」)
※腕時計は着けていなくて良い。
ジャークの大声にななみとタナカは警戒する。
ジャーク ジャーク!(「すいません」) ジ。(「時間なんで」と、腕を見せる)
ダーミン 時間!? なんの
ジャーク ジジャ、ジャク(「いや、今うちの嫁が」と、小指を立てる)
ダーミン 嫁さんが?
ジャーク ジャーク(「妊娠中で」と、おなかが膨らんでるジェスチャー)
ダーミン 妊娠中で?
ジャーク ジャクジャークジャ(「早く帰らないと」と、非常口のポーズ)
ダーミン ダッシュで帰らないと?
ジャーク ジャーク(「鬼みたいに怒るんですよ」両指で角を作る)
ダーミン 鬼に変わる?
ジャーク じゃ!(と、これは気軽なバイバイ風な「じゃ」)
と、ジャークが去ろうとする。
ダーミン まちなさい!
ジャーク ジャーク!(「すいません」と、さすがに許されなかったかと大げさに謝る)
と、ジャークが止まる。
ダーミン そういうことは早く言いなさいよ。ほら(と、どこからか小さな瓶を取り出す)
ジャーク ジャーク?(「なんですこれ?」)
ダーミン 組織開発の体力回復薬。大事な人になにかあった時のため持っておきなさい。
ジャーク ジャーク?(「いいんですか?」)
ダーミン 当たり前よ。いい? ここにあなたの代わりはいくらでもいる。でも、大事な人にとって、あなたは代わりのいないあなたなの。
どっちを優先するかなんて、子供でもわかることでしょう?
ジャーク ……はい! お先に失礼します!
と、ジャークが去る。
去りながら電話して「今日定時で上がれた~」とか話してもいい。
ダーミン さてと。待っていてくれてありがとう? 始めましょうか。
タナカ いや、どこからツッコミを入れていいか分からなくて動けなくなっていただけだ。
ななみ あの人ちゃんと喋れたんだ。
タナカ そこ!?
ななみ いやだって、「ジャーク」としかしゃべれない改造人間的ななにかなのかと。
タナカ それよりも、体型的に明らかに女性だっただろう。なんで奥さんいるんだよ。
ななみ いたら駄目なの?
タナカ え?
ダーミン あなたが何を問題にしているかさっぱりわからないわ。
ななみ それね。
タナカ えー、まさかの味方ゼロ? いやだから(と、「法律が」「常識的に」などと反論しかけて)いい。脇にそれるだけだ。
ダーミン そうね。いい加減始めましょうか?
ななみ 二体一だけど、いいんだね?
ダーミン ゾウがネズミの数の一匹や二匹気にするとでも?
と、にらみ合う三人。
キナリ声 ちょっと待ったぁ!
と、セーラー服の少女、キナリが走り込んでくる。
きちんとしているが、その分一番場違いな格好に見える。
キナリ 決闘は法律で禁止されています! 繰り返します。決闘は法律で禁止されています! そして、(と、タナカを指し)あなたは帯刀禁止違反!
というか、タナカくん! 刀を持ち歩くなといつも言ってるでしょう!
タナカ そのたび伝えたはずだ。これは俺の魂だって。
キナリ 言動が一々中2臭いんだよ!
ななみ きなちー。
キナリ 誰?
ななみ あたしだよ!
と、ポジティが顔を出す。結構ドスの利いた声で。
ポジティ 正体不明がお約束だよっつたよな?
ななみ (と、慌てて魔法少女っぽく)魔法少女ナナミンだよ!
キナリ いや、「だよ」って言われても。知らないけど。
ななみ だよねぇ。
ダーミン 今日は随分とお子様な乱入者が多いわね。なに? この近くでお祭りでもあるわけ?
タナカ おまえ、なんだってこんなとこに。
キナリ (と、タナカに)べ、別に、タナカくんの背中が見えた気がしたから全力で走ってきたわけじゃないから!
タナカ お、おう。
キナリ というか、タナカくんが喧嘩に巻き込まれそうで心配とか、そんなこと全然ないから! 気のせいだから!
タナカ 気のせいも何も、少しも考えてねえよ!
キナリ ああ? 少しは考えろよバカ!
タナカ はあ!? なんで俺責められてんだ!?
ダーミン あっちは放っておきましょう。
ななみ そうだね。行くよ!
ダーミン いつでもどうぞ?
タナカ (と、二人の様子に慌てて)俺も混ぜろって。魔法使いとは戦ってみたかったんだ。
キナリ (と、その様子に慌てて)だから待ちなさいって! 決闘は駄目! 刀も抜いたら駄目なんだって! ここは、無法地帯じゃないんだから!
魔法王国マジーアの都、アリスティアなんだから!
と、瞬間雷のような衝撃がななみとダーミンを襲う。
ななみ 今、なんて言った?
キナリ え?
ダーミン なんて言ったの?
キナリ だから、決闘は駄目って。
ダーミン その後。
キナリ 刀も抜いたら、
ななみ もっと後、魔法ナンタラの後!
キナリ だから、魔法王国、
ダーミン マジーアの都?
ななみ アリスティア。
と、ななみとダーミンは膝を付きそうになる(ついてもいい)
タナカ おい、大丈夫か?
キナリ え? あたしなんか変なこと言った?
ななみ 思い出した。
ダーミン なんてこと。
ななみ なんか変だと思ってたんだ。
ダーミン まさかこんな。
ななみ だってこれは、
ダーミン 現実、だけど。
ななみ&ダーミン あたし今、ゲームの世界にいる!
と、二人は顔を見合わせる
ななみ&ダーミン あなたも!?
と、音楽とともにオープニング。
ローイがキックボードに乗ってやって来る。反対からアンドウがやってきて、
ローイがキックボードに乗れていることを喜ぶ。トウドウが来て、キックボードに乗せていることを怒る。
あやまるアンドウ。ローイがキックボードで去る。追いかけるトウドウ。それに追いすがるアンドウ。
歩いてくるタナカ。タナカを見つけるキナリ。刀を注意する。
二人の距離が近くなり、慌てて離れるキナリ。早足で去るタナカを文句を言いながらキナリは追いかける。
やってくるナナミ。行く手を遮るようにダーミンが現れる。二人は互いに武器を構える。戦いの始まり。
暗転
02 コントするアンドロイド
3月初旬。未来の日本。
舞台奥中央に二人立っている。アンドウとローイ。
アンドウは博士っぽい白衣。ローイは販売員っぽい。
キックボードが側に置いてある。二人はパントでものを表現。
ローイ お買い得でしょう?
アンドウ お買い得、なのかなぁ。
ローイ 見てください、この艶。
アンドウ うーん。
ローイ 綺麗でしょう?
アンドウ 綺麗だけどさ。
ローイ それに、(と、持ち上げるマイム)意外と軽いんです。
アンドウ そうなんだ。
ローイ 今ならなんと、もう一個ついて来ます。
アンドウ いや、あのね。いい商品だとは思うんだけど。
ローイ だけど何です? 何を迷うことがあるというんですか?
アンドウ (と、ローイが持っているものをじっと見つめ)炊飯器、なんだよね?
ローイ ただの炊飯器じゃないですよ! この艶。光沢。どれを取っても従来品より綺麗です。
アンドウ 外観がいくら良くても、
ローイ 今ならなんと、もう一個ついて来ます。
アンドウ うん、まずそれがね、売りとしてどうなのかと思うんだ。
ローイ お値段はそのまま。
アンドウ 一人暮らしなんだけど。
ローイ でしたら、必要でしょう?
アンドウ ですから、いらないよね。二個は。使う状況がないよね?
ローイ 例えば、早だきと、普通に炊いたお米の違いを同時に味わいたいという機会が訪れた時。
アンドウ ないと思う。
ローイ はたまた、ご飯におかゆをかけて食べたくなったとき、
アンドウ 絶対来ないよね。と言うか、炊飯器自体のさ、思わず買いたくなっちゃう機能とか特徴とかないの?
ローイ え?……(と、すごい考えて)お米が炊けます!
アンドウ 炊飯器だからね。
ローイ おかゆが炊けます。
アンドウ 炊飯器だからね。
ローイ 今ならなんと、もう一個、
アンドウ それはもういい! なんかあるでしょう? タイマー機能とか。
ローイ タイマー?
アンドウ 好きな時間にセットして、その時間になるとお米が炊き上がるとか。
ローイ え!? 炊飯器にそんな機能が?
アンドウ あとは、お米を炊く以外にも、パンが作れますとか、
ローイ パン!?
アンドウ オニオングラタンスープが簡単に出来ますとか。
ローイ オニオングラタンスープ!? あっはっはっはっは(と、手を叩いて大受けしてから真顔で)炊飯器の話をしましょうよ。
アンドウ 炊飯器の話をしてんの!
ローイ 炊飯器にどれだけ夢見てるんですか?
アンドウ あるの! そう言う機能を持ったやつが。
ローイ 未来に期待しましょうね?
アンドウ 今! 今あるの!
ローイ 今ならなんと、もう一個?
アンドウ ただの炊飯器に用はない!
ローイ ただではありません! お値段はそのままです!
アンドウ もう帰れよ! 以上、アンドウ&(あんど)
ローイ ローイでした。
アンドウ&ローイ ありがとうございました!
と、礼をして、顔を上げた途端ローイの動きは止まる。
03 とある研究所の研究員達
明かりが全体的につくと、そこはとある研究所の施設。
舞台奥には座る場所があり、そこには充電装置がある。(接触充電機。シンプルな形のもの)
アンドウはやり遂げた顔をしてトウドウのいる方向を向く。
トウドウが呆然としてやって来る。
アンドウ 課長。どうです?
トウドウ どうですって言われても。
アンドウ すごいと思いませんか? アンドロイドによるコント。
と、ローイの体が動きトウドウにどや顔を向ける。
トウドウ えっと、
アンドウ 今までに、見たことないですよね?
トウドウ そりゃないけど。
アンドウ 思わず欲しくなっちゃいますよね。
トウドウ 欲しくはならないかな。
アンドウ 何故ですか!?
ローイ (と、トウドウの言葉に表情を消し)マスター。
アンドウ どうしたの?
ローイ 充電の残りが20%を切りました。
アンドウ ああ、そうか。ローイ。充電をして。
ローイ はい。
と、ローイが勝手にキックボードで部屋の奥にある充電装置にだらしなく座り、目を閉じる。
アンドウ どうですか。電力が足りなくなれば自分で充電に行ってくれるんですよ。
トウドウ なんだか、座り方がおっさん臭くない?
アンドウ 「スキ」です。
トウドウ え?
アンドウ あ、別に私が課長のことをスキなわけじゃないですよ?
トウドウ そんなの言われなくてもわかっているからね?
アンドウ 本当は少しドキッとしたんじゃないですか?
トウドウ これっぽっちもないから安心して。
アンドウ なんでですか? 私に好かれたら迷惑ですか?
トウドウ 面倒くさいな君。
アンドウ 面倒くさいところもまた可愛いところだとは思いませんか?
トウドウ 自分で言うな。話がちっとも進まないから、説明を優先して。
アンドウ はい。つまりは、スキがある方が人間ぽい感じがしませんか? ということです。
トウドウ なるほど?
と、ローイが居眠り中椅子から落ちそうになってガクッとなる状態になり
一瞬目を明けあたりを見渡す。
トウドウ あれも?
アンドウ スキです。
トウドウ 本当は人間なんじゃないの?
アンドウ それ! そう思わせられれば成功と言ってもいいかと思います。
トウドウ たしかに。まあ、君の個人的な研究は置いておいて。それで、出来た?
アンドウ 当然です! ななみくん!
と、制服姿のななみαがやってくる。
サンタの帽子を頭に載せ、カラフルなマフラーを巻いたりしている。
ななみαはナナミより少し幼い精神。
ななみα はい! てんどうナナミです!
トウドウ ナナミちゃん!? すごいな。本人そっくりだ。
アンドウ 事件当時の彼女の姿、そのままを再現しました。
トウドウ そうか。世間はクリスマスだったんだっけ。
と、アンドウはファイルを持ち出す。
アンドウ テンドウナナミさん、17才は当時、あの格好で高校の友達とのクリスマスパーティに参加していました。そして、帰宅後、
と、場面が変わる。
ななみαは家に帰って来た演技をする。
ななみα ただいま~ メリークリスマース! お姉ちゃん~? メリクリだよ! ……ってなんだお姉ちゃんもいないのか。あれ。なんだろこれ。
新しいゲーム!? すごい。フルダイブ型だ! え、お姉ちゃん、これ試してもいい? いいよね? ありがとう!
と、何かの機械を頭に乗っけると意識を失う。場面は研究所に戻る。
アンドウ と、たまたまテンドウさんが家に持ち帰っていたフルダイブ型のゲームを試し、意識を失い、既に3ヶ月。未だ目覚める気配がありません。
トウドウ どう見てもこれはテンドウくんのミスだよねぇ。
アンドウ 今は妹さんのため必死になっているようですが。
トウドウ さすがに3か月ともなると、隠すのも限界が近いんだよねぇ。
アンドウ だからこそ、世間を欺くためにも、アンドロイド、テンドウナナミを学校に通わせるわけですね。
トウドウ このままじゃ出席日数が危ういそうだからね。
アンドウ これも、バレたらまずいですよね。
トウドウ 自信はある?
アンドウ ななみα(あるふぁ)、ウェイクアップ!
ななみα (と、目覚めて)もう朝? お腹すいたぁ。
トウドウ ちなみに食事は?
アンドウ 我々と同様のものを摂取可能です。トマト以外なら何でも食べられます。
トウドウ なんでトマトは駄目なの?
ななみα 嫌いだから。
トウドウ そうか。ななみちゃんはトマトが食べられなかったのか。
アンドウ いえ、私が嫌いなんです。
トウドウ それは駄目だろ!?
アンドウ トマトなんて滅んでしまえばいいんですよ。
トウドウ ななみちゃんはトマト好きかもしれないじゃないか。
アンドウ トマトが好きな人なんていませんよ。(と、観客に)ですよね?
トウドウ 全国のトマト好きに謝れ! の前に、どこに向かって話しかけてるの!? とにかく、下手に本人じゃないと怪しまれる行動は取らせないように。
アンドウ お任せください。バッテリーの充電も本人っぽく出来るようプログラムしています。
と、ななみαはローイに近寄るとさり気なく押し出して充電を始める。
※充電器からのどけ方はななみαのアドリブでも良い。
押し出されたローイは不満そうにななみαを見る。ななみαが気にしないのを見て、ふてて去る。
トウドウ まあ、学校以外はここに帰ってきてくれれば問題はないか。
アンドウ ローイをアンドロイドの教員実験機として潜り込ませますので、もしもの時はフォローできるかと。
トウドウ アレに先生が出来るんだ?
アンドウ たぶん。
トウドウ たぶん、かぁ。学年が変わるまでには起きてくれると助かるんだけどね。私の胃の調子的にも。
と、ナカドウが駆け込んでくる。彼は基本うるさい。
ナカドウ 課長! トウドウ課長!
トウドウ どうしたのナカドウ君。そんな大声出して。
アンドウ またカッターで中指切りましたか?
ナカドウ 切ってない! (と、以下を出来れば一息で)というか「また」ってなんだ一度もないからなそんなこと!第一中指切った程度で大声出すようなキャラにするな!
トウドウ 相変わらず、元気だねナカドウくん。
アンドウ 相変わらずうるさいねナカドウくん。
ナカドウ 誰のせいだ! いや、アンドウには用はないんだ。課長。大変です。おちついて聞いてください!
アンドウ まずお前が落ち着けよ。
ナカドウ 俺はいいんだよ! 走ってきたんだから!
トウドウ 何があったの?
ナカドウ (と、声を抑えて)ハツミ、いえ、テンドウさんが倒れました。
アンドウ&トウドウ は?
ナカドウ 正確には、倒れているところを、うちの社員が発見しました。今は病院に搬送されています。
トウドウ なんてこと。
ナカドウ それと。あの、
トウドウ なに?
ナカドウ テンドウさんは、フルダイブ型のゲームをかぶったままだったそうです。
トウドウ すぐに私も病院へ。アンドウくん。もしかしたら、あれ(と、ななみαを見て)テンドウくんの分も必要かもしれないよ。
アンドウ お任せください!
三人がそれぞれ走って去る。
ななみα いってらっしゃーい。
舞台奥からのんびりと手をふるななみα。場面が変わる。
04 ダーミンタイム①
キナリがやって来る。ノートを手にして読み出す。
このノートはゲームの説明を書き出したノート。
キナリ フルダイブ型ゲーム機、とは、プレイヤーの意識を仮想世界内へ送り込む装置です。既にいくつものゲームが生み出されているので、
体験した方も多いでしょう。株式会社ネクスト・未来研究所が開発中の「ライフinマジーア」は、マジーア王国という仮想世界にて、ファンタジー世界を
生きることができるゲームです。魔法使いになりたい?刀を振りたい? 楽しい学校生活を送りたい? あなたの夢はきっと叶うことでしょう。
また「ライフinマジーア」にはこの王国の平和を脅かす悪の組織が存在します。例えば、魔法少女になったあなたに待っているのは、悪の組織
「ジャマジャーク」その四天王が一人、悲嘆なる怠惰の魔術師。ダーミン。
と、キナリの台詞の間にダーミンがゆっくりやって来る。
キナリの紹介とともに、ダーミンだけに光が当たる。
ダーミン 「後5分」? いくらでも眠れば? あなた一人が頑張って起きたところで、世界の何が変わるの?
と、キナリに光が当たる。ダーミンは去ろうとする。と、キナリが説明を続ける。
キナリ そして虚飾と暴食の騎士。(と、ダーミンを指す)
ダーミン (と、指さした方向を見るが誰もいないのでキナリの側により)え? 私がやるの?
キナリ (と、ダーミンに向けて)虚飾と暴食の騎士。
ダーミン あ、はい。(と、キナリから離れる)
キナリ ビーショック。
と、ダーミンのみ光が当たる。ダーミンはビーショックというキャラになりきって、
自己紹介を行う。
ダーミン(ビーショック) 着たい服を着て食べたいものを食べるあたし素敵! 体重計? そんな物この世から全て滅ぼしてやるわ!
と、キナリに光が当たる。
キナリ なお、只今開発中のため、全ての敵キャラには同じグラフィックを当てています。
と、ダーミンはキナリの側までより、
ダーミン 雑すぎない?
キナリ 続いて、虚栄心ゆえ強欲なる商人。
ダーミン また私がやるのね?
キナリ (と、頷く)
ダーミン はい。(と、キナリから離れる)
キナリ ボチボチ。
と、ダーミンのみ光が当たる。ダーミンはボチボチというキャラになりきって、
自己紹介を行う。
ダーミン(ボチボチ) えーっと(と、考えて)もーかりまっか? そうです、私が(ボチボチです。)
と、キナリに光が当たる。
ダーミン あ、最後まで言わせてくれないんだ。
キナリ そして、傲慢なる憤怒のモンク。クレイマー
と、ダーミンのみ光が当たる。ダーミンはクレイマーというキャラになりきって、
自己紹介を行う。
ダーミン(クレイマー) (怒りの表情で)お宅の商品どうなってんの? え? こっちはお客様なんだけど? は? クレーマーとか言っちゃう?
そういうこと言っちゃう? もういいからさ。あんたじゃ話にならないから上司出してくれないかな。って、長くない?
ねえ。もう言うこと無いんだけど。
と、キナリに光が当たる。
キナリ そして、頂点に立つ、組織の名を持つ魔王、ジャマジャーク!
と、ダーミンに光が当たる。ダーミンは魔王の指人形をはめて答える。
ダーミン(ジャマジャーク) (コレまでと声を変えて、機械音っぽく)ワレガ、悪ノ組織ノ長ニテ魔王、ソノ名モ、ジャマジャー(と、無理に話していたため大きく咳き込む)ちょ、タンマ。待って。
と、キナリに光が当たる。
キナリ 悪の組織を倒せば、プレイヤーとしてエンディングを迎えます。ですが、イーセリアの世界をどう生きるかはあくまでプレイヤーであるあなた次第。
無限大に続く世界をどうぞお楽しみください。
05 カラオケでの説明
と、明かりが全体的につくとノートを持ったキナリ、
ちょっとまだ咳き込んでつらそうなダーミン、片手でタブレットを持ち曲を探しつつ、
ダーミンの背中を擦っている。ななみがいる。変身を解いたナナミは制服姿。
オープニングの次の日くらい。ゲーム世界の中のカラオケボックスの一室。
ソファー、テーブル、あたりが置いてある。
ななみ って感じだったよね?
ダーミン うん。まあ大体あってる。(と、背中をさすってくれてることに対して)ありがと。もう大丈夫。
キナリ この世界がゲームの世界ねぇ。というか、これあたしが聞いていい話? 部外者じゃない? あたし。
ななみ 何言ってるの。こんな話、親友のきなちーくらいにしか話せないよ。
ダーミン 今は二人で話すよりもこの世界の信用できる人に話を聞いてもらいたい気持ちだから。(と、ななみをちらと見て)この子相談にはあまり役に立たなそうだし。
ななみ その予想は正しいと思う!
キナリ そう? ならいいけど? てか、ナナミが最近噂になってた魔法少女だったんだ?
ななみ え、噂になってたの? どんな?
キナリ なんか、ドレス着た女が突然魔法ぶっ放してくるから気をつけろって。
ななみ それあたしのことだったのか。(と、ダーミンの視線に)仕方ないんだよ。ほら、悪の組織が町中にあるのが悪いし。
ダーミン 制作陣がやらせたかったのはこっそり忍び込みであって、ごっそり破壊行為じゃないんだよねぇ。
ななみ あたしって、悪・即・滅が信条だから。って、ダーミンさん。やっぱりゲームの制作をやっていた人だったの?
ダーミン ちょっとそこらへんの記憶は曖昧。自分の名前も思い出せないんだから。(と、呟くように)
一人用ゲームの中に無理やり二人分のデータが入っているわけだから、どっかしら無理は出ているんだとは思うけど。この姿も本来のあたしじゃない
気がするし。年齢だって……あたし幾つだったんだ?
ななみ あたしはね、元の世界でもななみ。17才!
ダーミン うん。それはなんかわかった。名前以外は何が思い出せた? 家族は? 友達は?
ななみ なんか、いるってわかるんだけど、名前も顔もぼやけちゃってる感じ?
ダーミン そっか。
キナリ えっと、それで?
ななみ 「それで」?
キナリ どうするの?
ななみ どうするって。あ、次の曲? てか、カラオケなのに、カラオケ流せないって面白いよね。
キナリ どういうこと?
ななみ あたし達の世界のカラオケは、声が入ってない歌が流れるんだよ。でも、この世界のカラオケって違うじゃん?
キナリ 声が入ってる曲だから聞いて楽しいんでしょう?
ななみ うんうん。あたしも記憶思い出すまでそう思ってた。
ダーミン (と、話の流れを元に戻そうとして)元の世界に帰るわよ。ここは私達の世界じゃないんだから。
ななみ 曲聞かないの?
ダーミン そのために入ったわけじゃないから。
ななみ あたしにとって500円は大金なのに……。
ダーミン ななみのぶんはあたしが払ってあげるから。
ななみ わかった!(と、タブレットに意識を向ける)
キナリ 二人がいなくなったらこの世界はどうなるの?
ダーミン ああ、そこは安心して。ゲームデータを消しでもしなけりゃ、ずっと続いていくと思うから。
キナリ そうなんだ。その、戻るあてはあるの?
ダーミン ラスボス倒してエンディングだから、ジャマジャークを倒せば良いんじゃないかって思うけど。だけど。
キナリ 同じ顔なんだよね?
ダーミン それ。あー。やりづらいなぁ。
ななみ (と、タブレットを見ながら)てかさ。あたし帰る気無いんだけど。
キナリ え?
ダーミン 何言ってるの?
ななみ せっかくこんな何でも有りの世界に来たんだよ? もっと楽しまないと。記憶が戻ったぶん、こっちと向こうの違いとかわかるし、今ならもっと面白く過ごせると思うんだよね。
ダーミン 一度元の世界に戻ってからでも良いでしょう?
ななみ やだ。遊び足りない。ほら見て。こっちの世界では
放送してないのに、向こうのアニメの曲が入ってる。コレ入れていい?
ダーミン そういうの含めて、元の世界で遊べばいいでしょう。
ななみ だって、向こうじゃ魔法使えないし。
キナリ 魔法がない? ありえない。
ななみ そう。ありえない世界なんだよ。向こうは。
ダーミン ななみ、この世界での記憶ってどこから始まってる?
ななみ えっと、こっちには去年転校してきて、いつだっけ?
キナリ 6月くらいじゃなかった?
ななみ そう! その前は……あれ?
ダーミン ってことは、9ヶ月近くね。ゲーム内では三倍の速さで時間が進むように設計してあるから、だいたい元の世界では三ヶ月くらい眠ったまま、か。(と、記憶が少し蘇る)そう。だから、危ないと思って。(あたしは)……でもなんで?
ななみ ダーミンさん?
ダーミン いい、ななみ。今のあなたはとても危険な状態なの。想定外のトラブルで、意識がゲームの中にい続けている。現実世界の体は病院で眠った状態のままなの。今の状態が続けば、筋力が衰えて、そして……。
キナリ それって……。
ななみ いいよ。
ダーミン は?
キナリ ななみ?
ななみ 別に。このまま、楽しいまま死ねるんだったらそれでも、
ダーミン 馬鹿なこと言わないで。
ななみ 良いんだよ馬鹿で! ……どうせさ。あたしなんかがいなくても、向こうは何も変わらないし。
ダーミン そんなことない。女子高生が開発中のゲームで意識を失ったのよ? きっと大騒ぎに……いや、待てよ。
06 ななみがいない世界
と、チャイムの音とともに現実世界になる。
3月中旬。夕方。制服姿のトトがやって来る。誰かを待っている風。制服姿のアンがやって来る。
アン トト。
トト 遅い。部活終わるの早いんじゃなかった?
アン ごめん。さっきすごい光景に出くわしちゃって。
トト (と、期待にあふれる眼差しで)なになに? うさぎ跳びしている横綱でも見た?
アン ごめん。そこまですごくない。というか、高校に横綱はいない。
トト じゃあ、うさぎ跳びしている大関?
アン いや、
トト うさぎ跳びしている関取?
アン いや、あの相撲取りから離れてもらっていいかな?
トト うさぎ跳びしているマツコ・デラ……
アン うさぎ跳びからも離れて! あと! 膝、労ろう?
トト (と、興味を一気になくして)じゃあ、何を見たって?
アン キックボードで廊下を走るローイ先生。
トト いつものことじゃん。
アン を、後ろから全力で追いかけるカナタ先生。
トト それもいつもだよね。
アン に、曲がり角でぶつかる女子生徒、謝るカナタ。へ、スマフォをかざすローイ。どなるカナタ。
泣く女子生徒。まさに地獄絵図。
トト なんだそれ。あたしも見たかった!
アン とりあえず、録画しておいた。
トト よくやった。
と、そこへななみαがやってくる。
ななみαの頭にはサンタの帽子の代わりにアンテナのようなものが立っている。
ななみα あ、トトに、アンちゃん。
トト あれ。ななみ久しぶり。
アン こんな時間まで学校いるの珍しいね。
ななみα うん。結構休んでたから補修受けてた。
トト あー。風邪、ひどかったんだって?
アン ウイルス性のが一気に来たとか。
ななみα そう。インフルエンザが治ったと思ったら麻疹(ましん)にかかって、百日咳(ひゃくにちぜき)になって、おたふくかぜになって、風疹(ふうしん)になって、
もう大丈夫だ~って思った翌日に流行性角結膜炎(りゅうこうせいかくけつまくえん)になったんだ。
アン よく生き残ったね。
トト 年末年始に神社で罰当たるようなことしたんじゃない?
ななみα うーん。そうかも。
トト あたしたち、これからなんか食べて帰る予定だけど一緒に行く?
ななみα ううん。ちょっと寄る所あるから。
トト そっか。
アン じゃあね。
ななみα ばいばーい。(と、ななみαが去り、元の場所に戻る)
トト しばらく会わなくっても変わらないね、ななみは。
アン うん。何一つ変わってないね。
と、キックボードに乗ったローイが通り過ぎる。
ローイ さようなら~(と、言い終わる頃には舞台から去っている)
トト あ、さようなら。
アン さようなら。
トト 変わってんなぁ。
アン 変わってるね。
と、へとへとになったカナタがやって来る。
カナタ ローイ先生! 明日は、キックボード、来ちゃ駄目ですよ!
トト へばってんなぁ。
アン へばってんね。
カナタ (と、二人に気づき取り繕い)さようなら。
トト&アン さようなら。
カナタは学校へ戻り、生徒は歩き去る。
07 再びカラオケ
舞台はゲーム世界に戻る。同じカラオケボックス。
ダーミン ってな感じであまり問題にならないかも。
ななみ でしょ?
キナリ ナナミが二人? 怖い。異世界怖い。
ななみ だったらいいよね? 帰らなくても。
ダーミン 友達には眠ってるって知られなくても、家族は知らされるでしょう?(と、頭痛を感じつつ)今頃、きっと、心配(してる。)
ななみ してないよ。
キナリ いや、そんなのなんで(わかるの)
ななみ わかるよ。だってうち、誰もあたしに興味ないから。
ダーミン そんなこと、
ななみ あたしさ。クリスマスが誕生日なんだ。
キナリ くりすます?
ななみ あー。向こうの行事の一つ。でさ、昔から友達には「誕生日とクリスマスが一緒だと豪華でしょ」なんて言われるけど。そんなことないんだ。
どっちも中途半端なだけ。親はいつも仕事だし。昔はお姉ちゃんがケーキ用意してくれたけど、就職してからは、「年末には休めるから、
プレゼントはその時でいいよね?」って。
キナリ 忙しい人たちなんだ。
ダーミン それでも、ななみのためって、プレゼントを選んでくれるんでしょう?
ななみ プレゼントが欲しいわけじゃない! いや、欲しくないわけでもないけど。だけどさ。生まれた日を祝われないあたしって何? って思うんだよね。
家族にも祝われないあたしって、なんで生きてるんだってろって。ずっとは思わないよ? だけど何年も続くと、さ。
キナリ きつい、ね。
ななみ こないだの誕生日は友達が祝ってくれて。でも、帰ったら一人で。大勢で騒いだ後ってさ。一人って余計に、なんか。うーってなるんだよ。
ちがうな。(と、低く)うー。(と、もっと低く)ぐー。
キナリ なんだそれ。
ななみ わかんないけど!(と、心臓のあたりを示して)ここらへんがさ。なんか小さくなった感じ? するんだよね。ああいうの、これからも味わうのはさ。
しんどいかなって。だったらこのままのほうがいいかなって思ったり?
ダーミン そんなの、ここ一年とか二年? 三年くらいの話でしょう? これからの人生でいくらでも(取り返せるんだから。)
ななみ 「くらい」? ダーミンさんが何年生きてる人なのか知らないけどさ。あたしにとっての三年は長かったよ!?
ダーミン ご両親も、変わられるかもしれないし。
ななみ かもだよね!? それで変わらなかったら? そのときまたこっちに来られる? 無理だよね。想定外のトラブル、だもんね。
最悪、あたしには二度とフルダイブさせないくらいはするよね。
ダーミン それは……。
ななみ だからあたしは、このままでいい。帰るならダーミンさん一人で帰って。
言い返せないダーミン。
重苦しい沈黙。一番居心地が悪いのはキナリ。
キナリ えっと、なんか曲入れよう!? 思い切りエモいのにする?
ななみ そだね。せっかくだし。明るいのでお願い。
キナリ まかせて。誰でも知ってる曲で、明るいやつね。
と、「アン○ンマンマーチ」が流れる。
歌詞が流れるに連れ、その歌詞が意外と重くて空気がより重くなる。
キナリ ……ごめんなさい。思ったよりも明るくなかった。(と、曲を消そうとする。)
ななみ いいよ消さないで。最新のゲーム世界で、古いアニメ曲聞くってなんか面白いし。
キナリ 古いアニメなんだ?
ななみ うん。あたしが小学校入る前かな。終わったの。お姉ちゃんとよく二人で見てた。餃子みたいな顔の可愛いキャラがいてね。
キナリ 餃子みたいな顔? え、怖くない?
と、どこかにキナリのイメージする餃子に顔が書いてある絵が浮かぶ。
ななみ 目の周りが黒いの。パンダみたいに。
と、どこかにキナリのイメージする餃子の目の周りが黒い顔が描いてある絵が浮かぶ。怖い。
キナリ 組み合わせに恐怖しか感じないんだけど。
ななみ お姉ちゃんにぬいぐるみもらったり。あの頃は良かったなぁ。
と、絵が引っ込む。
キナリ あの頃は良かったとか、ばあさんか。
ななみ 精神的にはばあさんかも。
キナリ 止めてよ同い年なのに。
ななみ 正確には違うけどね。
キナリ ああ、そっか。そだね。
と、しばらく音楽を聞いている三人。ななみは昔を思い出すように曲を聞いている。
ダーミンも大切な誰かと一緒に同じものを見た記憶がある。その子の姿が、ななみと重なる。
ダーミン (と、音楽を乱暴に消して)嫌だ。(と、頭痛が始まる)
ななみ&キナリ え?
ダーミン 嫌。ななみが生きるの諦めてるのも、しんどいからいいやなんて言うのも、精神的にばあさんなんて言い出すのも、全部全部あたしは嫌。
ななみ ダーミンさんには関係ないのに。
ダーミン わかんないけど、でも。だから、あたしはななみを元の世界に絶対に戻す。
ななみ あたしは帰りたくないんだって!
ダーミン 関係ない! あたしはななみを迎えに来たんだから!
キナリ 記憶が戻ったの?
ダーミン 戻ってないけど。でも、絶対にそう。あたしだったらそうする。ななみをこのままになんて絶対にさせない。だから、強制的にでも、連れて帰る。
諦めるにしても、向こうで諦めなさい!
ななみ 強制的に連れ帰る? どうやって?
ダーミン まずは魔王までを全員倒して、それで戻れるか試す。
ななみ ちょ、本気?
ダーミン 同じ顔をしているなら後は気合の問題! 要は勝つ気がある方が勝つ!
と、財布からお金を出してテーブルに叩きつけていく。
ダーミン 釣りはいらないから!
ななみ 余計なことしないでよ!
ダーミン 止めたければ止めればいい。出来るならね!
と、勢いのまま去る。
ななみ ちょっと! 待ってよ。「Hey! ポジティ!」
と、どこからかポジティ人形が顔を出す。
ポジティ そろそろ僕の名前を忘れている人もいるかと思うけど、僕の名前はポジティ! 呼んだかなナナミ?
ななみ 変身よ! 魔法少女ナナミンの力であの人を止めなくちゃ。
ポジティ じゃあ、人気(ひとけ)のないところで変身だね。
ななみ うん! じゃあ、きなちー。巻き込んでごめんね。また学校でね!
と、ななみが去る。
キナリ そうなんだよね。あたし一番関係ないんだよね。……(と、お金を手にする)万札だ。わーい。……罪悪感がすごい。……
と、スマフォっぽい何かを取り出し、悩みながら一つの番号にかける。
舞台上にスマフォっぽい何かを持ったタナカが現れる。タナカとキナリに光が当たる。
キナリ ってわけで、二人共行っちゃったんだけど、どう思う?
タナカ 別の世界? 帰る? 意味分かんないんだが?
キナリ 正直そこは私もよくわかってない。
タナカ (と、ため息を付き)助けたいんだろ?
キナリ でもどうしたらいいかわからないし。
タナカ 動いてから決めればいいだろ。
キナリ いや、いいのかなって。あたし関係ないのに。
タナカ ああ? なんで関係ないんだよ! ナナミはダチだろう? ダチ助けるのに、関係ないなんてあるわけないだろ!
キナリ ……手を貸してもらってもいい?
タナカ 今日は刀持ってても、許してくれるよな?
キナリ わかった。
タナカ 刀一本男一匹、どこへだろうと貸してやるよ!
音楽とともに二人はそれぞれの方向へ去る。
08 再びの研究所
現実世界の夜。夕方の続き。
舞台奥側、研究所別室。椅子が2つほどある。
と、ローイを連れてアンドウがやって来る。
ローイの姿は少しボロっとしている。話しながら、アンドウは椅子をすすめる。
アンドウ 君のほうが先に生まれたんだからね。いわばお姉さんでしょう? 少しは妹分の行動を大目に見てやらないと。
ローイ でもあの子、あたしの充電器ばかり使うし。
アンドウ 充電器なんてどれも似たようなもんなんだし。違うの使えば済むことでしょう?
ローイ キックボードにも乗りたがるし。
アンドウ 学校から帰る途中で笑いながら追い抜いたんだよね? そんな自慢するように乗っていたら誰だって欲しいと思うよ。
ローイ (と、キックボードのかけらを取り出し)壊すし。
アンドウ うん。そこは怒ってもいいとは思うけど。暴力はいけません。プログラムで禁止しているのに、どうして殴り合えたのかな。
ローイ 自己防衛は禁止されてないので。
アンドウ ナナミが先に攻撃したって言うの?
ローイ 私のころんだ先に、偶然あの子の顔面があっただけです。(と、転びそうになると見せかけて殴る動作をする)
アンドウ それは絶対偶然じゃないね?
と、トウドウがやって来る。
トウドウ アンドウくん。どうだい? ローイは。
アンドウ 問題ありません。ナナミのほうはどうです?
トウドウ 頭部の受信装置が少し曲がった程度ね。特に問題は見当たらなかったよ。
ローイ 課長。
トウドウ どうしたのローイ。
ローイ あの子はいつまでここにいるんです?
トウドウ そりゃ今回の件が解決するまでよ。事が解決次第、ナナミモデルは体型を変えて、外の研究所の お手伝いとして派遣することになるから。
それまでは仲良くしてほしいな。
ローイ いつ解決しますか?
トウドウ それはなんとも言えない。職員は全力で解析にあたってはいるけどね。
ローイ 解析、進んでいるんですか?
トウドウ もちろん。いや、多分? きっと。進んでいると言え、なくも、無い、くらい?
ローイ わかりました。
と、ローイは立ち上がる。
トウドウ どこへ行くの?
ローイ 部屋へ。
と、ローイが去る。
トウドウ 一体だった時は起きなかった問題が二体になった途端、か。
アンドウ そうですねぇ(と、嬉しそうに笑う)
トウドウ なんで笑う? え? なんで嬉しそうなの?
アンドウ 人間らしいなぁって思いまして。
トウドウ 争うようなプログラムはしてないんだよね?
アンドウ ですが、日々学習していますから。いつかは人間よりも、人間らしくなるでしょう。おかしな言葉ですよね。「人間よりも人間らしい」なんて。
トウドウ 人は争いから逃れられないんだと言われているようで気が重くならない?
アンドウ 争うからこそ成長もするんですよ。
トウドウ 成長、なのかなぁ。それは。
と、言いながらアンドウとトウドウは去る。
別の場所に(舞台前面)ローイがやって来る。後ろにななみαを連れている風に。
ローイ 私は、学校になんて行きたくない。最近、コントの練習をしていて。私の道はそっちの方だと思うから。だから。手を貸して。(と、「左手?」と言われて)
できれば右手を、(と、右手を渡されて)これで君と握手がいつでも出来るね。ってなんでやねーん。
と、ツッコミの姿勢で止まる。恐ろしいくらい長い間の後。
ローイ ね? 人を笑わす才能にあふれている。だから、力を貸して。私とあなたなら、出来るはず。この茶番を終わらせる。
音楽とともに暗転
09 ダーミン タイム②
音楽とともに、暗闇の中ビーショックの声が響く。
明かりがつくと背を向けたダーミン(ビーショック)がいる。
※「声達」は着替え済みの役者が担当。(合わせてもいい)
ビーショック よく来たわね。あたしが、四天王が一人、虚飾と暴食の騎士。ビーショック。あなたの相手をしてあげる。
(と、振り返って、目の前にいるダーミンに驚く)え、同じ顔!?
爆発音とともに暗転。
ビーショック ビーーーーーーショック!!
声達 ビーショック様ぁ!!
と、再びダーミン(ボチボチ)に光が当たる。俯いた姿勢。
ボチボチ くふふふふ。ビーショックを倒した手腕、素晴らしいですなぁ。ですがそれもここまでの話。(と、顔を上げて)そうです、私が(ボチボチです。)
爆発音とともに暗転。
ボチボチ ボーチボチボチボチ!!
声達 ボチボチ様ぁ!!
と、再びダーミン(クレイマー)に光が当たる。
クレイマー よくも二人を倒して(くれたな)
と、爆発音とともに暗転。
クレイマー 喋らせて〜。
声達 クレイマー様!!
暗転したまま爆発音が幾つも響く。
声達 ジャマジャーク様~!!
爆発音。「ぎゃー」とか「わー」とか聞こえる。
そして、疲れ切った姿のダーミンが姿を見せる。
10 再びの姉妹
ジャマジャークが住んでいたと思われる場所。ダーミンが魔王のように座っている。
ダーミン 来たみたいね。
と、ななみ(魔法少女ナナミン)がやってくる。
ななみ 来たよ。全然間に合わなかったけど。
ダーミン 間に合ったでしょ。あたしで、最後なんだから。
ななみ 魔王より強い四天王って意味分かんないんだけど。
ダーミン ゲーム制作者舐めたらいかんぜよ。
ななみ 何その話し方。
ダーミン でも、帰りの道は開けなかった。やっぱりフラグとして、四天王が生き残っていたら駄目みたい。
ななみ じゃあ打つ手無しだね。
ダーミン そうでもないのよ。
と、ダーミンが合図を送る。
その途端、ジャークが現れナナミを縄のようなもので拘束して、座らせる。
ななみ なっ!? あんたは、ジャークだったかジャマーだったか、えっと、
ジャーク ジャーク!
ななみ それ! てかあんた普通に喋れるじゃん! 知ってるんだからね!
ジャーク ジャーク?(と、不思議そうに首を傾げる)
ななみ そんな不思議そうにするんじゃない!
ダーミン 私が命を断った後、道が開いたら、ジャークが、あなたを元の世界までぶん投げてくれるの。
ななみ 命を断つって。そんなことしたら! ……えっと、あなたはどうなるの?
ダーミン さあ。もう何が起こってもおかしくない。ゲームから消えて現実世界で目を覚ますのか。そのままか。
ななみ そんなの。なんでダーミンさんがそこまでするの!? 関係ないでしょ! あたしたち。
ダーミン ここがね(と、胸を指し)ぬーんってなるの。
ななみ へ?
ダーミン 違うな。ぶーん? ふーん。す~……とにかくね。何かあんのよここに。で、あなたに「関係ない」って言われるたびにね、なんかなるの。だから。
ななみ それが理由?
ダーミン あのカラオケで、歌を聞いて思い出したんだけど。あたしずっと「一人になりたい」って思ってた。
ななみ え?
ダーミン 小学校上がるくらいまでは一人っ子だったからさ。なんか突然「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」って言われて怒られて、「はぁ!?」ってなったの覚えてる。
ななみ それって……。
ダーミン クリームパン。
ななみ え?
ダーミン 餃子じゃなくて、クリームパンだから、あれ。
と、キナリがイメージした餃子の絵が現れ、裏返る。そこにはクリームパ〇ダっぽい絵が描かれている。
ななみ クリームパン?
ダーミン それに、あげてないから。「コレほしい!」って取られて喧嘩して。だってそれはあたしの宝物で。なのに親に「お姉ちゃんだから」って言われて。
「なんであたしが我慢しなきゃいけないんだ」って結構思ってた。
と、絵が引っ込む。
ななみ もしかして……。
ダーミン 「お姉ちゃん」なんてなりたいわけじゃなかったのに、気づいたらなってて。そのくせ親は忙しくてさ。「お姉ちゃんだから」って面倒を任されて。
正直、「妹なんて」って思ったことだってないわけじゃない。だって、勝手に部屋に入って来てさ。人の仕事道具勝手に触って。
勝手に、こんな世界来ちゃう馬鹿な子なんだから。
ななみ 馬鹿でごめん。そんな風に思ってたなんて、知らなかった。
ダーミン 知るわけ無いよ。姉妹って言ったって他人なんだから。あたしだって知らなかったよ? あんたが、そんなにも誕生日を楽しみにしてたなんて。
こんな簡単に生きることを諦められるだなんて。
ななみ だって、あたしなんて、迷惑かけてばかりだし。
ダーミン まあね。否定はしないけど。
ななみ だったら、
ダーミン でも、いないとさ。あんたがいないと寂しいみたいなんだよ、あたしって。なんでだろうね。わかんないけど。
一人になりたいって思ってたはずなんだけどなぁ。「お姉ちゃん」だからかなぁ。わかんないや。でもきっと、あんたがいなかったら、
あんたが思う寂しさって、あたしが感じてたものなんじゃないかなって思うからさ。だから、帰ろう?
ななみ あ――。
ダーミン 大丈夫。きっとななみは助かる。あたしが助けてあげるから。
ななみ まって、ねえまって。だって、これじゃ、
ダーミン 私の魔力よ、この身をチリ一つ残さず焼き上げろ。万に一つの可能性も残さず、私自身を殺し尽くせ!
と、魔力の集まる音。
ななみ 待って、待ってよ!
ダーミン じゃあね、ななみ。
ななみ お姉ちゃん!
ななみの叫びを無視するように魔力は高まり切り、ダーミンの命が散る――
かと思われた瞬間、
剣の振るう音と共に、タナカがやって来る。
魔力のようなものが霧散する。
ななみ え?
ダーミン 私の魔力が。
ななみ 刀で、切れた?
タナカ 知らないのか? サムライからは逃げられないんだ。
ダーミン そんなバカな。
と、魔力切れのためダーミンが崩れ落ちる。
ななみ お姉ちゃん!
ジャーク ダーミン様!
と、ななみより先に、ジャークがダーミンを支える。
ななみ お前やっぱり喋れたんじゃんか!
ジャーク ジャーク?(と、首をかしげる)
ななみ とぼけんな!
タナカ 少し大人しくしてろ。縄を切ってやる。
ななみ ありがとう。でも。どうやってここが?
タナカ ちょろちょろしてたやつがいたからな。
と、ポジティが顔を出す。
ポジティ いや、僕はただ、戦況を冷静に見極めようとしていただけで。
タナカ 思い切り逃げようとしてたからな。脅して居場所を吐かせた。
ポジティ えげつない脅し方だったよね!
タナカ (と、無視して)お前、ナナミなんだろう?
ななみ うん。そうだけど。
タナカ そうか。
ポジティ だから魔法少女の正体は、
タナカ (と、無視して)ほらな。間に合っただろう?
ポジティ 無視しないでくれるかな!?
と、声をかけた方向からキナリがやってくる。
ななみ きなちー!
キナリ いや、あたしはあれかもって思ったんだけど。でも、あたしたちって、ほら、あれじゃん? あれだし。
タナカ 語彙力どこに忘れてきた?
キナリ うるさい! だから、ほら、あれだからあれで。言いたいことはあんだよ! 言葉にならないだけで!
ななみ ありがとう! きなちー! 最高の友達だよ!
キナリ そ、そう? まあ、それほどでも? あるかもだけど。
タナカ 良かったな。
キナリ ああ? 別に不安がったりしてないから。
ダーミン まったく、よけいなことをしてくれちゃって。
と、ダーミンの声に皆の目が集まる。
ダーミン どうするの? これで、ななみはゲームの世界に閉じ込められたままになる。
キナリ いや、でも、ナナミのお姉さんなんですよね?
ダーミン 思い出したのは、ついさっきだけどね。
ななみ 来てくれてたんだ。
ダーミン 当たり前でしょ。
ななみ そっか。当たり前か。そっか。……って、じゃあなおさら犠牲になんて出来ないじゃん。
ダーミン でもあたしのせいだから。あんなの部屋に置きっぱなしで。
ななみ ちがうよ。勝手に部屋入ったあたしが悪いんだから。
ダーミン だけど、それじゃどうやって、
ななみ そんなのわかんないけど。
キナリ えっと、何か違う方法はないんですか?
ダーミン これしかないの!
ななみ だからそれは嫌なんだって!(※)
キナリ 妹さんもこう言ってることですし、
ダーミン じゃあどうしろってのよ!
ななみ わかんないって言ってんじゃん!
キナリ 二人とも落ち着いて、
ダーミン 落ち着きがないのはななみでしょ!
ななみ はぁ!? お姉ちゃんのほうがうるさいじゃん!
ダーミン あたしのどこがうるさいっての!
キナリ だーから、二人とも落ち着け!!
タナカ お前が一番うるさいぞ。
キナリ タナカ君は黙ってて!
タナカ はい。
ダーミン とにかく! ななみが帰るにはあたしが消えるしかないの!
ななみ だから、それは嫌なんだって!(※)
ダーミンとななみはお互いに譲らないまま、会話はループしだす。(※→※)
11 現実へあなたと
と、声が届く。と、パソコンのキーを叩くような音。
世界は外部からの干渉を受けて色を変える。
※研究所の人たちは録音を使う。
ローイ声 あの~ もうちょっと周りを信じてもいいんじゃないでしょうか?
ダーミン&ななみ え?
ジャーク ジャーク?
キナリ 誰!? え? どこ!?
タナカ 気配があまりにも薄い。何なんだ一体。俺に切れるのか。(と、キナリを守るように刀を構える)
ローイ声 結構みんな必死であなた達を助けようとしていたんですよ。
トウドウ声 何なの! この処理スピードは!?
アンドウ声 あたし達の今までの努力は一体!?
ナカドウ声 やばい。このままじゃ俺たち仕事なくなりますよ!?
ローイ声 まあ、私達には敵わないけど?
ななみα声 それな~。じゃあこっちは意識をデータ化して送れるよう準備すすめるね。
ローイ声 お願い。あ、有線でね。入れ替わっちゃったりとか嫌だし。
ななみα声 オッケー。
キナリ この声、
タナカ ナナミだな。
ななみ え、これあたしの声? うそ。あたしこんな声してる?
キナリ&タナカ うん。
ななみ うっそー。
と、ローイがやって来る。
ローイ ということで、迎えに来ました〜。コレで私も、通常業務に戻れそうですね。
ななみ アンドロイドの人!
タナカ 突然現れた、だと!?(と、刀を構える)
キナリ すぐに人に刀を向けないの!
ダーミン あなたが助けに来てくれたの?
ローイ まあ、やむを得ず? 人間に任せていては後数ヶ月は掛かりそうでしたので。
ダーミン ありがとう。
ローイ お礼など別に……あ、お礼と言ってはなんですが、一つ買っていただきたいものが。
ダーミン 何でも言って。
ローイ キックボードを一つ。
ダーミン え?
ローイ あなたの妹さんに壊されたので。
ダーミン ななみ?
ななみ 壊してないし。
ななみα声 お姉ちゃんごめん、あたしが壊した。
ローイ 壊したのは向こうのナナミです。
キナリ やっぱり増えてるんだ。異世界怖い。
タナカ ナナミが二人もいる世界か。やばいな。
ななみ え。どういうこと? は?
ダーミン ななみが壊したんなら、ななみに買わせるわ。
ななみ は? 意味分かんないんだけど?
ローイ あ、混乱するのは帰ってからにしてくれます?
ななみ 後で絶対説明してもらうからね! (と、タナカ、キナリ、ポジティの方を向き)ていうことで。あたし、行くね!
キナリ 帰るんだね。
ななみ うん。まあ、お姉ちゃんだけ帰れって訳には行かないし。あ、でもまた絶対来るから。絶対、絶対だから。
タナカ 好きにしろよ。
ポジティ 僕は待ってるよ。ナナミン。
キナリ また会おうね。
ななみ うん。
ジャーク ダーミン様。お元気で。
ダーミン あなたも。有給はちゃんと消化しなさいね?
ジャーク はい!
と、ダーミンとナナミは向き合う。
ローイ じゃ、はぐれないように手をつないでくださいね。
ダーミン え?
ななみ 手を?
と、二人は見合わせちょっと照れる。
ダーミン それじゃ、ナナミ。一緒に帰ろうか。
ななみ ……うん!
ナナミとダーミンの手が触れ、二人は笑い合う。
お互いを知り合った二人の関係は修復(repair)し姉妹へ戻る(Re pair)
光が当たりに満ちた。
完
これは再生の物語です。 修復?でもいいですが。とある姉妹が、というか妹が、しっかりしているようでどこか抜けているお姉さんに救われる。 そんなファンタジーを書いてみたくなって書いたお話です。……というのは、まあ本気度でいうと50パーセントくらい。 もともと、指導先の生徒からのリクエストをなるべく反映したいというのがスタートでした。 ただ、まさかの ①ドレスが着たい ②ドレスが着たい からの、 ③セーラー服が着たい。 ④キックボード乗りたい。 ⑤刀振りたい ⑥制服着たい(≠セーラー服) ⑦人間がやりたい。 などとリクエストがばらつくとは思わず。ドレスとセーラー服が両立する時点でだいぶ世界観は狭まりました。 その後も、言いたいセリフでのばらつき「トマト云々」「オニオングラタンスープ」(←本当に言いたいだけ) が様々あり、ようやくまとめ切ったのが今作となっています。 なので、上演される場合は、セリフは好きなように変えていただいて結構です(まあどの作品でも言っていますが) これは、一人の女の子が自分は一人じゃなく姉妹(pair)だったと思い出す。それだけのお話です。 その根底さえ崩さないでいただけるのであれば、もうあとはご自由に世界をお遊びください。 最後まで読んでいただきありがとうございました。 |