Tricolore(虜回転)
作 楽静


登場人物

梅崎モモコ  高校二年生。今がよければそれでいい。アイカの友人。
藤田アイカ  高校二年生。優等生タイプ。モモコの友人。
魔女  年齢不詳。魔女の世界では若い年齢。
試験管 その他 年齢不詳。魔女の世界ではやや年配。

※試験官の役は女性を想定して書いていますが、男性でも構いません。
※作中表記される実際の人物名、団体名は、例であり、その時の流行・上演団体の興味によって変更する必要があります。
※舞台上で必ず使用するとしているセットは2脚の椅子。それも演出の都合によっては変更して構いません。


1 魔女の試験場

    怪しげな音楽
    魔女の試験場といっても、まるで受験の面接会場のように見える。
    受験者用の椅子が置いてあり、試験官用の椅子がある。
    スーツ姿の試験管が入ってくる。手にはファイルを手にしている。
    受験者用の椅子の角度を確認し、満足げに頷くと試験官用の椅子に座る。
   
    ノックの音。

試験官 どうぞ。
魔女(声) し、失礼します。

    緊張した顔の魔女が現れる。オーソドックスな魔女の姿。手にはほうき。
    試験管は手で受験者用の椅子へと促す。

試験官 受験者は受験番号のみを言いなさい。
魔女 はい! 受験番号、七十七番の……
試験官 番号のみ、の声が聞こえませんでしたか?
魔女 す、すいません。
試験官 七十七番、あなたの成績は大変結構です。内申点、筆記試験、共に合格ラインに達しています。頑張りましたね。
魔女 ありがとうございます。
試験官 そのコスチュームも自作だと聞きましたが、
魔女 はい。いかにもという感じでまとめてみました。……少し派手だったかもしれませんが。
試験官 大変結構です。
魔女 じゃ、じゃあ。
試験官 しかし。実技テストでの成績が、いまいちですね。
魔女 え、でも。
試験官 目的はクリアしています。しかし、そのためには手段を選ばないと言うか、あなたのやり方には美しさがありません。
魔女 ですが。
試験官 言いたいことは分かります。終わりよければ全て良し。確かにその通りかもしれません。しかしそれでは、我々の仲間になるには足りないのです。
魔女 そんな……あんなに頑張ったのに……(と、立って帰ろうとする)
試験官 まだ話は終わってませんよ。
魔女 すいません。(と、慌てて席に座る)
試験官 おめでとうございます。
魔女 は?
試験官 ここに案内されたと言うことは、2次試験までは合格と言うことです。
魔女 え? じゃあ、さっきの、足りないって言うのは?
試験官 ただの感想ですが?
魔女 脅かさないで下さいよ~。
試験官 口調が軽くなりすぎです。
魔女 すいません。
試験官 ここでは次の最終試験の説明をさせてもらいます。
魔女 最終試験。
試験官 すでにいくつか説明は受けていますね?
魔女 はい。使え、ないんですよね?
試験官 そうです。ですが、そんな不利な条件でも我々の仲間であるとわかるような結果を見せてもらわなくてはいけません。自信はありますか?
魔女 大丈夫です。もう、目星はつけてありますから。
試験官 この最終試験に合格すれば、あなたは我々の仲間として認められます。しかし不合格の場合、再び試験資格を得るためには、10年の研修期間をおいてもらいます。
魔女 10年!? なんで!?
試験官 なり手ばかりが増えても、困りますから。
魔女 (小声で)……鬼っ。
試験官 なにか言いましたが?
魔女 い、いえ。なんでもないです。……(小声で)地獄耳。
試験官 ……聞こえてますよ。
魔女 えっと、 では、七十七番、行って参ります。

    魔女がポーズをとる。
    音楽が高くなり溶暗。

2 とある教室での二人。

    試験官、魔女と入れ替わるようにアイカとモモコが現れる。
    試験官の椅子、受験者の椅子は、アイカとモモコのクラスの椅子に変わる。
    音楽と共に、教室の情景が流れる。
    (お互いに、机はパントマイムで表現する)
    登校してくるアイカ。椅子に座ると、すぐに予習を始める。
    登校してくるモモコ。椅子に座り、すぐにアイカに話しかける。
    アイカに怒られると、今度は違う友達とおしゃべりに興じる。
    やがて授業が始まる。授業を一生懸命聞くアイカ。
 おしゃべりするモモコ。やがて、眠くなり寝始めるモモコ。
    そして、一日が終わる。
    だらしない格好で寝ているモモコ。
    アイカはその横で勉強している。
    夕方になる頃、モモコは目を覚ます。

モモコ (と、目覚めると大きくあくびをし)あーあ、疲れた。月曜ってやっぱりだるいよね。
アイカ 別に私はそれほどでもないけど。
モモコ あたし、アイカと違って勉強のためだけに生きてるわけじゃないから。って、こんな時間!? え、ずっと勉強してたの?
アイカ 今日は塾なかったから。モモコ、気持ちよく寝ているみたいだったし。
モモコ そこは起こそうよ。寝すぎて余計に疲れちゃったよ。
アイカ 声はかけたわよ。でも、全然起きなかったの。
モモコ そ、そうなの?
アイカ お昼休みから、よく寝ていたじゃない。チャイムの音が鳴るのにも気づかないで気持ちよさそうに。あんまりよく寝ているもんだから、先生が「可哀相だ」って、起こさなかったのよ。
モモコ そっか。先生に好かれてると、こういうときに困るよねぇ。
アイカ 昨日、寝るの遅かったの?
モモコ 友達と長電話しちゃって。電話かかってきたのが11時過ぎくらいだったのに、終わってみたら、4時過ぎててさ。
アイカ よくそんなに話がもつわね。
モモコ いっぱいあるでしょ。ほら、昨日だったら、あのバラエティとか。
アイカ ……?
モモコ え、もしかして、昨日のあれ、見てないの?
アイカ ……??
モモコ まさかね、今時あれ見ていない高校生なんていないよね。もしいたとしたらよっぽどの変人か、テレビよりもインターネット見るほうが好きって人たちくらいだよね。アイカ ……???
モモコ もしかして、本当に見てない?ほら、「日曜洋画劇場」
アイカ ああ、あれなら見……
モモコ の、後の時間にやってるやつ。
アイカ ……昨日は、勉強してたから
モモコ えらいなぁ。でも、大丈夫? なんかアイカって、勉強しか、やること無いみたいじゃない?
アイカ 私は今の楽しみよりも、10年後の楽しみのために勉強してるの。
モモコ そんな先の事なんて考えてるの?
アイカ 考えてないの?
モモコ 今がよければ、それでいいじゃん。最近異常気象とか多いし、10年位後には、地球なんてこっぱみじんこかもよ。未来なんて、なってみないと分からないよ。
アイカ モモコらしいね。
モモコ 私らしいって?
アイカ 別に。ただ、そんな気がしただけ。
モモコ アイカ、もっと友達作って、学校生活を楽しみなよ。そうすれば考え変わるって。参考書見てばかりじゃあ人生損してるよ。
アイカ 友達がたくさんいるからって人生楽しくなるとは限らないでしょ。むしろ友達がたくさんいるせいで、勉強が出来なくって、どんどん落ちこぼれていく可能性の方が高いんじゃない?
モモコ それは言いすぎじゃない?
アイカ でも、休み時間に勉強できないでしょ? 貴重な時間を、友達と過ごすことに使ってるじゃない。
モモコ だって、せっかくの休み時間なんだよ?
アイカ その10分間で、どれだけの英単語が覚えられると思う? 問題集だって、3ページは確実に解けるし。
モモコ 私はそうやってコツコツやるのって苦手。一夜漬けの方が得意だな。
アイカ じゃあその得意の一夜漬けの成果はどうだったの?
モモコ 今日返ってきたテストのこと? まあ、けっこうできたよ。
アイカ けっこう? ってことは 90点代?
モモコ いや、あの、じゃあ、まあまあ。
アイカ ってことは70点くらい
モモコ ぼちぼち……そんなに良くはなかった。
アイカ やっぱり。でも、半分は取れたでしょ? 私が教えた所出たんだし。
モモコ えっ……。
アイカ あのテストで半分以下取る高校生なんていないわよね。それこそ、よっぽどの馬鹿でもなければ、分かるような問題ばかりだったし。
モモコ …………。
アイカ ……半分以下だったの?
モモコ うん。
アイカ ……ごめん。
モモコ 別に良いよ、気にしてないから。
アイカ そうよね、モモコは勉強なんてどうでも良いって思っているんだし。気にしないよね。テストで何点取ろうと。
モモコ そういうわけでもないけどね。
アイカ えっ?
モモコ あっでもあれは書けたよ。アイカが2時間かけて教えてくれたやつ……ほらっ……あれ? なんだっけ?……イフ……イフユア……ユア?
アイカ If your wish came true,what would you wish? 「もし願いが叶うなら、何を願いますか?」 ね? やっぱり一夜漬けじゃ本当の実力はつかないのよ。
モモコ みたいだねぇ。ま、次は頑張るって。
アイカ 前回もそう言ってたじゃない。二年生になっても進歩無しね。来年は受験生なんだから。
モモコ 受験かぁ。なんかまだピンとこないな。
アイカ 『今がよければ……』って言ってたもんね。
モモコ うん! アイカ、もし今願いが叶うなら、何が欲しい?
アイカ なに急に。そんなのありえないわよ。
モモコ だからたとえばの話だって。ほら、言ったでしょ。イフユア…………
アイカ If your wish came true,what would you wish?
モモコ それよ、それ。たったひとつだけ叶うとしたら何を願う? あたしだったらねぇ。新しい鞄! いや、彼氏? ううん。いっそ現金の方がいいかな。アイカは?
アイカ あたしは別に欲しいものなんて無いわよ。
モモコ 別に形があるものじゃなくてもいいじゃん。ほら、頭の体操だと思ってさ。
アイカ 頭の体操ねぇ。……そうね……2人の永遠の友情……なんてのは、どう?
モモコ おお! いいね、それ! 私も同じ願い事する! 二人の友情がずーっと続くようにって。
アイカ ……調子いいわねぇ。絶対そんな事思ってなかったくせに。
モモコ 世渡り上手だから、私。
アイカ ……願い事なんて叶わなくても、私達友達でしょ。
モモコ もちろんこれからも、ずっとね。

    二人、微笑み合う。

3 魔女と二人。

    と、そこに魔女が現れる。
    二人に見える場所でポーズを取る。
    二人は魔女を見ると、お互い顔を見合わせる。
    うなずき合い、見なかったことにして帰ろうとする。

魔女 ちょっと待って! そうやって、見なかったことにするのはやめて!
モモコ …………何ですか?
アイカ 話しかけちゃだめ。このまま、職員室行って、先生呼びましょ。
魔女 聞こえてるからね! 違うの。怪しい人間じゃないの。あなた達が今、話していたことについて、ちょっと話があるだけなの。
アイカ (モモコに)行くわよ。
モモコ 怪しい人間じゃないって。話くらい聞いてあげようよ。何か、面白そうじゃん。
アイカ どう見たって、怪しい人にしか見えないじゃない。
魔女 だから怪しくないの! 怪しい人って言うのは、見るからに怪しい格好なんてしないものでしょ。
モモコ そうなんだ。
魔女 誘拐犯だって、殺人犯だって、『そんなことする人には見えなかったのに……』って言うでしょ? 怪しい、イコール、危ない人とはならないのよ。
モモコ なるほど。
アイカ でも、姿格好が怪しいなら、充分避けて通るだけの理由になると思うけど。
モモコ あ、それもそうだよね。
アイカ でしょ、行こう。
魔女 ねえ、だからちょっと待ってよ。待ちなさいよ。何かチラ~っと願い事がどうこうみたいなこと話してなかった? 話してたよね?
モモコ 話してたけど。
アイカ 校内で怪しげな商品の販売されたって、私達は買いませんから。
魔女 そんなコトしないわよ。もっと直接的なこと
モモコ 直接的?
アイカ ……もしかして、願いを叶えてやる。とか言うの?
魔女 ピンポーン!
モモコ ……行こっか。 
アイカ そうね、行きましょう。
魔女 いいの? 願い事が叶うかもしれない機械を失くしちゃうんだよ? いいのかなぁ。後で絶対後悔するよ。別に、とって食おうってわけじゃないんだから。ほら、化粧品とか、健康食品とかの、無料サービスだと思ってさぁ。
アイカ いったい何? 学校関係の人間には見えないし。そんな格好して。いい年して、みっともないとは思わないの?
魔女 みっともないって何よ!!この服わね、伝統にのっとった由緒正しい服なのよ!!そりゃ確かに流行からは後れてるけど……魔女には黒って決まってるんだもの仕方ないじゃない。
モモコ ……魔女。
アイカ やっぱりおかしいのよ。
魔女 ちょっとー!私は魔女なの!! (と、小声で)見習いのようなもんだけど。
モモコ え?何か最後の所よく聞こえなかった。
魔女 と、とにかく、だからあなた達の願いを叶えてあげられるわけよ。分かる?
アイカ そう……それで、本当は何なの?
魔女 だから、本当も何も魔女なんだって。
アイカ 分かったから、本当のこと言いなさいよ。
魔女 分かって無いじゃない。魔女だって言ってるでしょ!……ほら、ほうきも持ってるし
アイカ そんなもの、何処にでもある竹箒でしょ。
魔女 ぶーっ!!魔女の箒は竹じゃなくて『エニシダ』で出来てるの。
モモコ でも、見た感じ竹っぽいよ、掃除する人が持ってるやつみたい。
魔女 えっと、ほ、ほら。黒い服着てるでしょ?
アイカ お葬式に行く人は皆喪服よ。
魔女 ど、動物の言葉だって分かるんだから。ほら、見てあそこにいるカラス、『お腹空いた』って言ってるわよ。
モモコ やっぱり本物かもよ。
アイカ 証拠を見せなさいよ。もっと、ちゃんとはっきりと、本物の魔女だって言えるだけの根拠を。
魔女 ……わかったわ。見てて。

    魔女俯く。長い沈黙の後に、顔上げ。

魔女 ……五千九百八十円
アイカ え?
モモコ なに?
魔女 (アイカを指さす)あなたの財布の中身。五千九百八十円。他にテレホンカードが二枚に、市の図書カード一枚そして『桜井』のプロマイド。
モモコ え~アイカって嵐が好きなの? 意外。
アイカ ……櫻井よしこよ。
モモコ えっ…………本当だ。だれ?
アイカ どうして…………?
魔女 だから、私は魔女だって言ってんでしょ。信じた?
モモコ じゃあ今の魔法?
アイカ 魔法。のわりにはせこいわね。手品と変わらないじゃない。
モモコ 他のこと出来ないの
魔女 だから、願い事を叶えてあげるってば(と、かわいく)
モモコ そんな可愛い言い方しといて、結局願い事を叶える変わりに、お前の魂を地獄に引きづり込んでやる、とか。
魔女 そんなことしないわよ。私はいい魔女なんだから。
モモコ そっか。
アイカ そっかじゃないわよ。悪い奴がわざわざ自分から『私は悪い人間です』なんて言う分けないでしょ。
モモコ そうだね。酔ってる人間ほど『いやぁぜんぜん平気ですよ』って言うのと同じか。
アイカ そうよ、だからこれの言うコトなんて簡単に信じちゃダメよ。これが本当に魔女で、しかもいい魔女かなんてまだ判んないんだから。
魔女 ちょっとアイカちゃん。
アイカ・モモコ ちゃんづけは止めて。
アイカ ……何でモモコまで言うの?
モモコ いや、あの、なんとなく。
魔女 なんで? アイカちゃん。
アイカ イヤなのよ。
魔女 どうして? アイカちゃん
アイカ ……分かっててやってるでしょ。
魔女 そんなことないよ、アイカちゃん
アイカ ……もういい。なに?
魔女 だからね。これってなによこれって。私にだって名前があるんだから、名前で呼んでよ。
アイカ 言ってないのに、わかるわけないでしょ?
魔女 そ、そっか。(咳払い)私の名前はユーラシア・UN・ユーゴスラビアユートピア・ユータナジー・ユザワヤよ。
みずき …………それで、あなたはどうして。
魔女 名前で呼んで。
モモコ えっと、ユ、ユ、ユ………………ユザワヤさん。ごめんなさい、覚えられなかった。
アイカ ユーラシア・UN・ユーゴスラビア・ユートピア・ユータナジー・ユザワヤさんよ。
モモコ す、すごい……そんな意味不明な言葉よく覚えられたね。
アイカ ……ユーラシアは、ヨーロッパとアジアが存在する大陸の名前。UNは、ユナイテッド・ネイジョンズ、国際連合の事よ。ユーゴスラビアはバルカン半島にある共和国だし、ユートピアは理想郷でしょ。ユータナジーは医学用語で「安楽死」それから
モモコ ユザワヤは判る! 手芸材料屋さんだよね! 何か辞書引いてゆの段からテキト~に付けたみたい。
魔女 人の名前テキト~とか言わないでよ。それにねアイカちゃん、ユーラシアは、我が家に代々伝わる由緒正しい名前なの。何でも、鼻ぺちゃで悩んでいたクレオパトラの鼻を高くしてあげたお礼に、クレオパトラが付けてくれた名前らしいわ。それに、ユーゴスラビアとユートピアじゃないの。ユーゴスラビアユートピアで1つの単語。意味は『青は藍より出て藍より青し』よ。ユータナジーはひいおじいちゃんの名前。ユザワヤは、幸運を呼ぶおまじない。ママが、私の幸せと、自分を超える立派な魔女になるようにって心を込めて付けてくれた名前なんだから。
アイカ ……UNがぬけたわよ。
魔女 あぁ、それはユナイテッド・ネイションズであってるの。
モモコ え゛~何でそんな名前付けたのぉ~私ならやだな。
魔女 それは、国連が発足された年に私が生まれたから。
アイカ 国連が発足されたのって1945年でしょ? あなたって若く見えるけど…………
魔女 アイカちゃん女性に年齢の話はタブーよ。とにかく、ゴメンね。
アイカ 何よ?
魔女 せっかく知識披露してくれたのに無駄にしちゃって。
アイカ ……なにそれ。だいたい私はねあなたが魔女だなんて信じてないのよ。
モモコ いいじゃんおもしろそうだよ。
アイカ おもしろくないわよっ!! 帰るわ、そんなに面白いんならモモコ1人でやっててよ。
モモコ 待ってよ。アイカが帰るなら私も帰るってば。
魔女 待って!!
アイカ いい加減にっえっ…………

    魔女はほうきを二人に向けると何か呪文を唱える。
    呪文は特に何を言ってもいい。

アイカ ……それで、その魔女さんが、どうして私達の願いを叶えてやるなんて言うの?
魔女 それはね。私がいい魔女だからよ。いい魔女って言うのは、願い事を持っている人を見ると、その願いを叶えて幸せにしてあげたいぃぃって思うの。こう、強い思いが身体中を駆けめぐるのよ、分かる? なんて言うのかな、幸せの無償奉仕よ、良い言葉じゃない。
モモコ 幸せかぁ…………
アイカ 財布の中身を見るぐらいしか脳がないくせに、人を幸せにするなんて出来るの?
魔女 何て事言うのよ。出来るわよ。なんせ魔女なんだから。
アイカ ……さっき、見習いだけど、とか言ってなかった?
魔女 聞こえてたの…………まあ、見習いって言ったって、今まで何人もの人を幸せにしてきたんだから大丈夫。それに、あなた達の願いを叶えれば、正式な魔女になれるの。つまり、もう実力は一人前なのよ。
モモコ じゃあ例えば、どんな魔法を使ったんですか?
魔女 気になる? ど~しても? ど~しても知りたい?…………分かった、特別に教えてあげる。本当は、他の人の願い事を第三者に教えることはいけない事なんだけど……本当に特別よ。

    魔女は人形を取り出す。

魔女 これよ
モモコ ……人形?
魔女 そう。でも、ただの人形じゃあないの。…………あのね、『この美しさが年老いて朽ち果てるなんて耐えられない。永遠に美しいままでいたい。年を取るなんて嫌ッ!お願いよ魔女さん。私の美しさを永遠のものにして』って、願った人がいたの。だから、これ。
アイカ はあ!?
モモコ 人形にしちゃったの!?
魔女 そうよ。だって、ほら、永遠に美しいままじゃない。ちょっと、ちっちゃくなっちゃったけど、いつまでも肌はすべすべ、しわ一つ出来ないわよ。
アイカ ……絶対、本人が願ったことと違うと思う。
魔女 そんなこと無いわよ。ほら、幸せそうな笑顔でしょ?絶えず微笑を続けて、もう笑顔そのままって感じよね。
モモコ ……他にはどんな願いをした人がいたの?
魔女 そうねぇ………お金が欲しいって願い事をした人がいたわ。
モモコ お金。
魔女 そう。まあ確かに、誰しも一度は憧れるものよね。お金、美貌、名誉なんて。っで、その人は、そんなささやかな欲望を持っている時に、運良く私に出会ったのよ。
モモコ それで?
魔女 ところで、この日本で、一番お金があるところはドコだと思う?
モモコ え?お金が一番あるところ?………国会議事堂?
アイカ ……一応聞くけど、どうしてそんな突拍子もない答えが出てくるの?
モモコ だって、国会議事堂って、大きいじゃん。それに、偉い人がいっぱい集まるし。政治家はみんなお金持ちでしょ。
アイカ 大きいだけなら、東京都庁の方がよっぽど大きいわよ。
モモコ え、じゃあ、都庁?
アイカ 違うわよ。いくら不正が多かったって、お金があることにはならないわ。
モモコ え?……あ、そうか、銀行だ。
魔女 ピンポーン、その通りよ。
アイカ 銀行? 確かにお金はあるかもしれないけど、一番っていうのは言いすぎじゃない?
魔女 アイカちゃんが、そうひねくれた考え方をしたいのは分かるけど。
アイカ ひねくれた考えって何よ。
魔女 とにかく、昔のことだし。そんな厳密に考えないでよ。お金があるのは銀行。それでいいでしょ、オーケー?
アイカ それで?
魔女 だからね。お金が欲しいんだから、お金があるところに連れてってあげようと思って。
アイカ 連れていくって。
魔女 そう。日本銀行の、金庫の中にぽーいっと。
モモコ あ、何か聞いたことある。
アイカ 『世紀の大泥棒、厳重な警備をくぐり抜け、銀行金庫内に潜入』って、何週間かニュースを騒がせたやつね。……最近の話じゃないの。
モモコ 確かその泥棒さん、金庫の中から瀕死の状態で見つかったんだよね。
アイカ 当たり前じゃない。金庫の中は密閉されているのよ。下手したら、窒息死ね。
魔女 えっ……
モモコ 酷い。
魔女 な、何でそうなるのよ。お金が欲しいっていったから、ハイハイッて願いを叶えてあげただけじゃない。私は悪くないわよ。そんな願い事をする方が悪いのよ。
アイカ ふうん。
モモコ …………
魔女 なによぉ
モモコ もしかして、まだあるの?
魔女 もちろん!聞きたい?
モモコ ……もういい。
魔女 じゃあいよいよ2人の番ね。何にする? なんでも一つだけ叶えてあげる。
アイカ ……ねぇ、それって、2人で一個?
魔女 うん。
モモコ やっぱ見習いなんだ。
魔女 べつに私が見習いだからとか、そう言うわけじゃなくて、ただこちらにもキマリって言うかなんていうか。
アイカ 2人で一個って言う事実は変わらないんでしょ、結局。
魔女 ……うん。だから2人で相談して決めてネッ!
モモコ 相談って言われても……。
アイカ …………。
魔女 そんな深刻になんなくっても。
アイカ うかつな願い事なんてしたら、あなた何するか分かんないじゃない。それに、私達は別の人間なのよ、2人で一つの願い事なんて、そう簡単に見つかんないわ。
魔女 どうして?
アイカ どうしてって、
魔女 だって2人は友達でしょ?2人で一緒に楽しめることいっぱいあるじゃない。実際いたよ、2人専用のカラオケBOXほしいとか、2人でアルプス旅行したいとか。そういうのないの?
モモコ ……私……私、UVERworldのliveチケット最前列ど真ん中がほしい!!
魔女 あっなるほど!2人とものUVERworld のファンなんだ。せっかく2人で行こうと思ってたのに、チケットとれなかったのね。
アイカ 乳母? 世界? なにそれ?
魔女 あれ?
モモコ ……あっあのliveは……あゆみと行こうと思ってて。だって!嫌いでしょアイカそういうの。だから……お願い!!願い事譲って! どうしても行きたいの!!友達でしょお願い!!
アイカ ……うそつき。
モモコ え?
アイカ モモコ言ったじゃない。私と同じ願い事するって。
モモコ ……。
魔女 え? あるんじゃない!2人同じ願い事。な~んだ。だったらもっと早く言ってよ。私ちょっとドキドキしちゃった。2人の同じ願い事、それ叶えてあげるから。言ってよ、ほら。
アイカ もういいわよ。
モモコ アイカ。
アイカ モモコの願い事叶えてもらえばいいでしょ。
モモコ そんな言い方しなくたっていいじゃない。なんで私ばっか悪いの? アイカだって魔女さんが、
魔女 だから名前が。
モモコ どうでもいいよ! 魔女さんが2人で一個の願い事って言ったとき、すぐ言わなかったじゃん。本気で思ってたんなら、すぐ言えるよね?
アイカ ……責任転嫁しないでよ、モモコこそ、適当に合わせてただけで、そんな気なかったくせに、嘘だったんでしょ。
モモコ 嘘じゃないよ。
魔女 嘘だったんだよね。
アイカ&モモコ !?
魔女 永遠の友情なんて、よっぽどの本物か、全くの偽物じゃなきゃ言えないよ。
モモコ やっぱり私達の会話、しっかり聞いてたんだ。
魔女 え、あっほら、その……ぐ~ぜんたまたま聞こえちゃって……
アイカ それで、あなたは私達の友情が、偽物だって言いたいの? 確かにちょっともめちゃったけど、仕方ないじゃない。そう言うことだってあるわよ。
魔女 アイカちゃん怒んないでよ、私が言ったわけじゃないんだから。
モモコ なにそれ!? 私達が、自分で言ったって言うの?
魔女 ……似たようなこと言ってたよね。

4 過去の教室①

    ふと、空気が変わる。
    今日ではない教室の風景になる。
    そこでは、魔女はモモコの友人あゆみを演じる。
    アイカはそんな二人を見ている。

あゆみ(魔女) チケット残念だったよね。
モモコ ホ~ントスッゴイ頑張ったのにさ。当日ダフ屋とか出てるかな。でもぼったくられそうだし……あ~~あ。
あゆみ またチャンスはあるよ。ねっそれより……よかったの?
モモコ なにが?
あゆみ live、あたしとで。
モモコ なんで?
あゆみ だってあんた藤田さんと仲いいじゃん。やきもちやくんじゃない?
モモコ アイカがやきもち?何言ってんの。
あゆみ だって、あの子って、他に友達いないっぽいじゃん、逆に言うと、モモコがたった1人の友達なんだよ。それなのに他の子とliveとか行ったら嫌なんじゃない?
モモコ 冗談やめてよぉ。そりゃアイカは友達っていないけど、それってアイカの勝手じゃん。私が遠慮する必要ないよ。
あゆみ まあね。
モモコ でしょ。それに、私、充分アイカの相手努めてるでしょ。ちょっとぐらいリフレッシュしたいよ。
あゆみ ……やっぱ疲れるんだ?
モモコ 疲れるっていうかさ。アイカって勉強ばっかって言うか、勉強にしか興味ないし。だからドラマなんて全然みてないし、時々何の話していいかわかんなくなるんだよね。でも、テストの山なんか教えてもらえるじゃん。教え方も先生より詳しいし、一緒にいて損はないからさ。
あゆみ ふ~ん。
モモコ それに、アイカ頭いいって言っても、教科書以外の事って全然駄目なの。ちょっとしたなぞなぞとかは、もう真っ直ぐに考え過ぎちゃって、絶対答えに辿り着かないんだ。だからね、思うんだ。そりゃあアイカの方が、私より成績はいいけど、私の方が人間的に、優秀なんじゃないかって。結局勉強できてもそれだけじゃ、でしょ。
あゆみ まあねぇ二人見てると、モモコがあの子に手差し伸べてるみたいだもんね。
モモコ でしょ!!いい引き立て役ってトコかな。アイカにしたって、悪い話じゃないと思わない?友達やってあげてんだから。感謝してもらわなきゃ!!

5 過去の教室②

    景色が元に戻る。

魔女 モモコちゃんって、頭悪いくせにこういうとこすごいよね。尊敬しちゃう。
モモコ ちょっと、何でそのこと。
アイカ ずっと友達だって思ってたのに。私を利用してたのね。
モモコ ちがうよ。これは、
アイカ 何が違うって言うのよ!
魔女 どうして怒るの?
アイカ 怒るに決まってるでしょ!?
魔女 そうか。アイカちゃんは誤解してたんだもんね。利用してるのは自分だって。
モモコ アイカ?
アイカ ……何言ってるの?
魔女 だから、言ったのは私じゃないんだよ。

    ふと、空気が変わる。
    今日ではない教室の風景になる。
    そこでは、魔女はアイカのクラスメイト(秀才風)を演じる。
    モモコはそんな二人を見ている。

生徒 あの、藤田さん。今日のReadingで判らないところがあったんだけど、おしえてもらってもいい? ……藤田さん? 何見てるの? 10円玉?
アイカ ああこれ……さっきモモコが変なこと言うから気になって……ほら、この10円玉の平等院鳳凰堂の扉をじっと見てると、閉じたりしまったりしてるって。
生徒 ……それでずっと悩んでるの?
アイカ ……ずっと気になっちゃって…………どういう事かしら。閉じたりしまったりって……
生徒 ……漢字で考えてみれば? ……ねっ閉じるもしまるも。
アイカ あっ…………同じ…………くだらない。
生徒 その問題出したの梅崎さんでしょ? きっと悔しかったのよ。ほら彼女、お世辞にも頭いいとは、ね? ……それにしても、こんな問題出して喜ぶなんて彼女って本当に低レベルなのね。
アイカ いいのよ。こういうくだらない問題しかできないんだもの。かまってあげなきゃ可哀相よ。私の方が大人なんだし。
生徒 でも大変じゃない? 色々と。
アイカ 自分よりレベルの低い人間と一緒にいると、自分への戒めになるのよ。『こうなってはいけない』って。時々考えるの、もしも私がモモコみたいだったら……ゾッとするわ。だからモモコと話す度に、どんなことがあっても、彼女のようにはならないように気を付けてるの。もっとも、あの子と一緒にいれば、どう見たって落ちこぼれを見捨てない優しい友人に見えるだろうけど。
生徒 確かにね。
みずき 世の中の何の役にも立ってないんだから、使ってあげないとね。馬鹿とハサミは…………ってやつよ。

6 決裂

    元の教室に戻る。

魔女 やっぱアイカちゃんの方が頭いい分言うこと違うよね。でも結局は、似たもの同士ってことだよね。……あれ?
モモコ アイカだって私のこと利用してたんじゃん。被害者ぶっちゃって。そっちの方が、よっぽど酷いコト言ってるじゃない。
アイカ よく言うわよ! 私のこと影で悪く言って、お調子者ってサイテーよ。
モモコ そっちこそ『ずっと友達で』みたいなこと言ってたくせに。全部嘘じゃん。最悪。
アイカ あんた頷いてたじゃない。だいたい、いつも寝てばかりいるような頭で、人を騙そうとする事自体馬鹿なのよ。
モモコ その馬鹿に騙されてたんでしょ。いくら勉強が出来ても、他は何も分からなきゃね。やっぱりだめだよね。
アイカ あんたは、その勉強すらできないんでしょ。
モモコ あたしは勉強なんて出来なくても、世の中わたっていけるから。アイカなんて、勉強取ったら何にも残んないくせに!
アイカ 勉強出来なきゃ、まともな就職だってできないじゃない。モモコなんて、どうせ風俗店にでも勤めるのよ。
モモコ 就職って勉強だけじゃないから。バイトもしたこと無いから分からないだろうけど、面接でお店の人に気に入られるのも大切なんだから。アイカは、そんなこと全然出来無いでしょ。変にプライドだけ高くして、どうせどんな仕事についてもすぐやめちゃうんだよ。
魔女 ちょ、ちょ、ちょっと、二人ともケンカしないでよ。何で二人ともケンカするの? 互いの本音が分かったんだから良かったじゃない。これでやっと本当の友達でしょ?
モモコ こんな人、もう友達じゃないわよ。
アイカ 友達なんて、こっちから願い下げよ。
モモコ アイカなんて一生暗い人生送ればいいのよ。
アイカ あんたはノー天気な人生しか送れないんでしょうね。

    モモコとアイカはそれぞれ帰ろうとする。

魔女 ちょ、ちょっと待って。ねえ、願い事は?
二人 いらないわよ!!
魔女 そんな……本当にいいの?幸せになれるんだよ? 人生にたった一回しかないチャンスかもしれないよ? 本当にいいの? 後で後悔するよ絶対。ああ、あの時願い事叶えてもらえば良かったって。
二人 …………。
魔女 ほら、アイカちゃん。願い事、何かあるんじゃないの? あるでしょ? 自分のやりたいこと、あるわよねぇ。何でもいいから言ってよ。叶えてあげるから。
アイカ ……私は、別に魔女の力なんてを借りなくてもまっとうな人生送れるからいいわ。
魔女 そんなせっかく。
アイカ だったら今すぐモモコのこと消しちゃって。
魔女 私はいい魔女だからそれはちょっと…………
モモコ じゃあアイカと私を赤の他人にして!!
アイカ そうね、それがいいよ。
魔女 え~そんなところで気が合わなくったっていいのに。
モモコ 願い事叶えるんでしょ? さっさとしてよ。
アイカ 彼女に当たることないじゃない。みっともない。
モモコ そうやって上から目線で言うのやめてくれない?
魔女 いや、私のことは、ぜんぜん、そんな
アイカ 黙ってて。
魔女 はい。
アイカ 魔法で縁が切れないんならいいわ。じゃあねモモコ。あなたどうせ来年も二年生でしょ。あと一年同じクラスで我慢すれば校舎別々になって顔見ることもなくなるわね。
モモコ 同じクラスにいたって参考書とにらめっこしているような人の顔なんて思い出すこともできないから、一年がマンせずにすみそうよ。

    アイカとモモコが去る。

魔女 えっあっちょっと待ってよ~! 

7 魔女とモモコ

    と、モモコが戻ってくる。

魔女 ああ、良かった。やっぱり友情は大切って気づいたの? アイカちゃんは?
モモコ 二人で昇降口まで一緒なのも嫌だから、帰る時間遅らすの。
魔女 あ、そうなんだ。……いいの? アイカちゃんとこのまんまで。
モモコ はあ? あそこまで言われて今までどーりになるわけないでしょ。
魔女 けどお互い様なんだし……まあね、確かにアイカちゃんって堅いし、一緒にいたら、ちょっと肩こっちゃうよね。
モモコ ホントだよ!! 流行なんてぜーんぜんだしさ。音楽も聞かない。ドラマは見ない。ファッションも分からない。だもん。何が楽しくて生きてるの?って感じでしょ。
魔女 じゃあ、一緒にいるのも大変だ。
モモコ でしょ。だからよかったんじゃない? 何か魔女さんは何しに来たのって感じだけどさ。その点では感謝してもいいや。あんな何かって言うと知識ひけらかすやつ二度と喋りたくない。毎朝その日のニュースと、経済がどうとか内容はなんたらかんたらとかさ。
魔女 ……その度に劣等感感じてきたの?
モモコ ……なにそれ。
魔女 アイカちゃんが、難しいこと言う度に、理解できなくて惨めだったの?
モモコ なに言ってんの? 私はあんな勉強しかできないやつに劣等感なんて感じたことない!!だいたい、テストの点がなんだって言うの? そんなもんで、人間の価値って決まる訳じゃないでしょ!!
魔女 決まらないよ、テストの点ではね。
モモコ でしょ!? アイカも世の中も間違ってるよ。勉強できて、いい大学入って、いい会社入って、そういうのがえらいって考え方大嫌い。教科書に書いてある事なんて何の役にも立たないし、私のこと助けてくれないでしょ。いつ役に立つか分からないものを頭に入れたってしょうがないじゃん。あたしは今を生きてるんだから。
魔女 それでいいと思うよ。10年後、地球がなくなってるならね。
モモコ え?
魔女 でも、地球は滅びないし、10年後の未来もあるの。……ねえ、これから先もずーっと『今さえよければ……』って思いながら生きくわけ?その考え方って、すっごい危ないって分かってる? あっバカだから分からないか。
モモコ だからなんなのよ!そんなに勉強できないのが悪いことなの?
魔女 勉強できないからバカだって言ってるわけじゃないよ。自分で自分の可能性を全部、しかもつまんない考え方で潰しちゃって、その事に気づいてないからバカだって言ってるの。これじゃアイカちゃん、あなたと別れて正解だな。あの子は人生成功するよ。勉強できるおかげでたくさん選択肢があるもの。どれでも選り取りみどりってやつね。その中から、本当に自分のやりたいこと見つけて人生上々だ。
モモコ ……私は?
魔女 ……。
モモコ そんな~。だって今更どうしろって言うの?
魔女 他の友達を頼ってみたら?
モモコ 自慢じゃないけど私の友達なんて、アイカ以外皆バカだよ。
魔女 じゃあ、来年皆仲良くそろって2年生。
モモコ ヤダよ! ねぇ私どうしたらいいの?そりゃあ夢なんてまだ分からないけどさ。やっぱ人生成功したいよ~。
魔女 でも、ほら、学校だけが全てじゃないし。何が何でも卒業しなきゃって事もないんじゃない?
モモコ うそ! さっきと言ってること違うじゃん。ねぇ魔女さん助けてよ。
魔女 名前で呼んだら何とかしてあげてもいいけど。
モモコ あんな長くて難しいの、一回で覚えられるのアイカくらいだよ。……そっか、今までアイカの出したヤマって外れたことなかったし、私が覚えられなかっただけで、ちゃんとやれば何とかなるかもしれないんだ……。でも、今更友達なんて思えないし。アイカだってスッゴイ怒ってたし…………
魔女 アイカちゃんは平気よ。彼女は頭のいいバカだから。何かテキトーに誉めておけば、今まで通りになるんじゃない?
モモコ そっか、そうだよね、なんせアイカだもんね。後は、私がどれだけ我慢できるか……か。
魔女 できる?
モモコ …………うん! 何たって明るい未来が待ってるんだから! アイカ1人ぐらい手玉に取ってみせるって。私、世渡り上手だしね。

    魔女がうっすらと微笑む。
    あたりが暗くなる。

8 夕暮れの道端。

    明るくなると、そこは帰り道。
    アイカが歩いてくる。
    魔女が後ろから現れる。

魔女 アイカちゃん、待って。
アイカ なに?……もとはと言えば、あなたさえ現れなければ、私達はいつも通り友達でいられたのよ。良い魔女だなんて言って近づいて、結局友情を壊しに来ただけじゃない。まぁ、元々存在しなかったんだから壊れたっていうのは適当じゃないわね。
魔女 ごめんね。
アイカ べつにいいわ。あなたのおかげでモモコの本音知ることが出来たんだし。まあこっちの本音まで知られちゃったけど。……どうせモモコとは高校卒業するまでの友達のつもりだったから。
魔女 そんなの寂しいよ。
アイカ 何言ってるの?『人は1人では生きていけない』なんて安っぽい台詞言わないでね。
魔女 うっ……。そりゃ、確かにアイカちゃんとモモコちゃんじゃ、ちょーっとバランス悪い友情だったかもしれないけどさ。
アイカ あの子ったら、歴代の内閣総理大臣すら言えないのよ。
魔女 うわ~ってことは今の文部大臣も、官房長官も判らないんだ。
アイカ そうよ。やんなっちゃう。
魔女 本当に馬鹿なんだねぇ。まぁ、そんなのちょっと調べれば分かるから、知っていたって対して何の自慢にもなんないけど。
アイカ あなたの言いたいこと想像つくわよ。『アイカちゃんは勉強しかないんだから勉強できて当然』とか。
魔女 えっ何で分かったの?
アイカ 私は自分のこと理解できないようなバカとは違うの。でもね、勉強しかできないんだからと思うでしょうけど、勉強ができさえすれば、運動が苦手だろうとも、それを十分にカバーできる。国公立の大学に入れば、私立に比べて、家計を助けることも出来る。秀でるものがある分だけ、人は、他の人よりも優位に立つことが出来るのよ。
魔女 優位に立ってどうするの?
アイカ 優位に立てれば、物事が全てスムーズに動くじゃない。相手は私の格下として、それなりの動きをし、私はその力を使って成功していくのよ。
魔女 性格悪いね。
アイカ ずいぶんはっきり言うわね。
魔女 でも、それならモモコちゃんと友達だった方が良かったんじゃない?
アイカ なんで?
魔女 だって、モモコちゃんと友達じゃなくなったってことは、あなたは学校を卒業するまでの間、ずっと教室の隅で一人、黙って座ってるだけになるんだよ。
アイカ それが何だって言うのよ。
魔女 優越感を満足させることもできない。
アイカ たった二年でしょ。
魔女 どうかな~だってアイカちゃん、今まで十七年間生きてきて、モモコちゃんが初めての友達でしょ。
アイカ 何でそんなことあんたに分かるのよ。
魔女 だって、アイカちゃんみたいな根暗少女にわざわざ自分から近寄っていって、その上友達になって利用される人間。なんて、そうそういるはずないもの。そんなの、モモコちゃんぐらいじゃないの?
アイカ ……。
魔女 そして、アイカちゃんが、他人に対する優越感を初めて知ったのもその時。だって、教室の隅にじっと毎日勉強のためだけにいるんだもん。そんな存在に、気づくはずもなかったよねぇ。
アイカ だから何だって言うのよ。
魔女 自分よりも劣っている者を見下ろす時の気分。その心地よさに、あなたはもう気づいているはずよ。
アイカ 何言ってるのよ。
魔女 隠したって無駄。モモコちゃんと話しているときのアイカちゃんを見ればすぐに分かる。……アイカちゃん、あなた、本当に楽しそうに笑ってるじゃない。
アイカ ……。
魔女 忘れることが出来るの? 勉強しかできないアイカちゃんが、初めて知った快感を。卒業するまでの2年間、ううん、もしかしたら、あなたに近寄ってくるようなバカなんて、もう二度と現れないかも知れない。
アイカ 二度と……。
魔女 どうせ、モモコちゃんはアイカちゃんを必要としているんだよ。後はあなた次第でしょ。……それとも、モモコちゃんを手玉に取るなんて、自信ないの?
アイカ 馬鹿なこと言わないで。あんなバカ、適当に何か一言二言くっつけてすまなそうな顔すれば、すぐに操れるわよ。
魔女 ……何か、私より魔女っぽい。

    あたりは暗くなる。

9 教室で願う永遠の友情

    教室に、アイカとモモコが向き合って立っている。
    その二人を見守るように魔女がいる。

アイカ ……モモコごめん。
モモコ ……あたしこそ。
アイカ 私、モモコのこと本当に大切な友達だって思ってる。だけど、私モモコみたいに明るくないから。モモコのこと羨ましかった。
モモコ ……私も同じだよ。アイカのこと好きだけど、私がすっごい苦労しても出来ないようなこと、簡単にやっちゃえるアイカが羨ましくて……つい……だから、本当にゴメン
アイカ ……何か、私達って……全然似てないと思ってたけど。結構似てたのね。
モモコ うん。私ね、アイカが本当のこと言ってくれて嬉しかった。そりゃ最初はムカッってしたけど。これで本当に本当の友達って気がするんだ。
アイカ ……良かった。私もそう思ってたの。
モモコ 本当に!?
アイカ もちろん(と、本音の声として)そんなわけないでしょ。
モモコ えっ?……何か言った?
アイカ ううん何にも。ねえ、モモコこそ、本当にまた元通りになってくれるの?
モモコ 当たり前でしょ!(と、本音の声として)利用させてもらうんだから。
アイカ え?
モモコ アイカがいてくれなきゃ私やっぱり駄目だから。だからさ、こんな出来の悪い私だけど……これからもよろしく。
アイカ こちらこそ。…………モモコから学ぶことたくさんあるみたい。
モモコ なに? そんなものあるの?
アイカ ええ……たとえば……バカに付ける薬はない、とか。
モモコ ……。
アイカ うそよ。
モモコ わかってるって。
アイカ それじゃ、決まりね願い事。
モモコ うん!

    2人は、互いに反対を向いてガッツポーズをとる。

モモコ 魔女さ~ん。
アイカ ユーラシア・UN・ユーゴスラビアユートピア・ユータナジー・ユザワヤさんよ。
モモコ ……ユザワヤさーん
魔女 2人とも願い事決まったみたいね
アイカ はい……いろいろありがとうございました。
魔女 気にしないでよ。
モモコ 私達がこうやって本当の友達になれたのも、全部ユザワヤさんのおかげです。
魔女 私はほんのちょっと手を貸しただけ。それに、私もこれで一人前の魔女になれるんだから。
アイカ あなた、魔女に向いてると思うわ。
魔女 ありがとう。じゃあ、そろそろいいわね、2人の願い事言って。
二人 ……私達の友情が、永遠に続きますように。
魔女 (と、適当な呪文を唱えて)これで二人は、もう永遠に友達よ。……ずっと離れることのできない、生涯唯一絶対的な親友。
モモコ ありがとう。
アイカ ……モモコ。帰ろうか。
モモコ うん、そうだね。
魔女 じゃあねモモコちゃん、アイカちゃん。……大事なコト、もう忘れちゃダメだよ。自分にとって、相手がどんなに大切なのかってこと。

    アイカとモモコはうなづく。

モモコ それじゃあ。
魔女 うん、ばいばい、仲良くね。
アイカ ええ、さよなら。

    二人は並んで去っていく。

魔女 さようなら。いい友情を、ね。

    魔女は見送る。そのままあたりは暗くなる。

10 試験結果

    魔女の試験場。
    魔女が浮かび上がる。

魔女 ただいま帰りました。

    ゆっくりと試験官が現れる。

試験官 あなたの帰還をもって、最終試験を終了とします。よろしいですね?
魔女 もちろんです。……で、結果の方なんですけど。って、そんなに早く出るはず無いですよね。じゃ、失礼しま……
試験官 待ちなさい七十七番。結果はもうすでに出ています。
魔女 ええっ!じゃあ私、明日っから、魔女ですか?
試験官 残念ですが。
魔女 ですよね、まさかいきなりって事無いですよね。やっぱりそれなりの手続きとかあるんですよね。
試験官 ですから。
魔女 ああ、それにしてもやっと念願の魔女かぁ。
試験官 七十七番。話を聞きなさい。違います。
魔女 え?何がですか?
試験官 残念ですが。あなたにはもう10年間、見習いとして頑張ってもらいます。
魔女 な、何でですか? 私ちゃんと人間を不幸にしてきました。しかも、二人も!あんな風に、お互いに依存し合い、騙し合うことを友情として続けるような人間は、必ず不幸になります。しかも、それが不幸なことだとは、おそらく気づかないまま一生を終えるんです。自分で自分を殺したも同然なんです!!
試験官 確かにあの2人はあなたの言うとおり不幸な人生を送るでしょう。ですが……試験の規定を忘れていませんか?
魔女 試験の、規定?
試験官 そう。「魔法を使ってはならない」としていたはずですが。
魔女 そんな、魔法なんて使ってません! 二人の願いは、二人自身がそれぞれ叶え続けるんです。お互いに、相手が離れることは、プライドが許さないでしょう。あの二人に魔法なんて必要なかったんです。私の「魔女」としての存在のみを使って、あの二人を不幸にしたんです!
試験官 じゃあ、財布の中身は、どうやって当てたんですか?
魔女 ……女の第6感。
試験官 あの少女達にどうやってあなたを魔女だと信じさせたのですか?
魔女 ……人徳。
試験官 もう10年、頑張って下さい。
魔女 で、でも、納得行きません。願い事を叶えるさいに魔法を使わなければいいんじゃないんですか?
試験官 試験が始まってからです。
魔女 そんなぁ……

    魔女はとぼとぼと、退室しようとする。
    が、自分の持っているほうきに気づいて足を止める。

魔女 ちょっと待ってくださいよ。
試験官 なんです?
魔女 私、二人の所までほうきで行ったんですよ。ほうきで。だって、この試験会場ってほうきでしか行き来できないじゃないですか。でも試験始まってから魔法使えないなら、その時点で失格じゃないですか。ほうきに乗ってしか来られない試験場から、どうやって、ほうき以外であの二人の所まで行けるんです? 方法があるんなら、教えて下さい。
試験官 そ、それは。
魔女 方法ありませんよね?無いって事は、やっぱり願いを叶える時まで魔法を使っていいって事になりますよね?
試験官 ……
魔女 と言うことは、私は合格。
試験官 ……わかりました。
魔女 やったぁ。
試験官 再試験を行ないましょう。
魔女 え?
試験管 あなたの言うことも確かにもっともです。ので、改めて試験をする事にしましょう。今度はほうきだけは魔法を使ってよいという条件で。
魔女 そんなぁ、い、いつやるんですか?
試験管 早いほうが良いでしょう。今すぐです。
魔女 お風呂だって入ってないのに……
試験管 もう10年頑張りますか?
魔女 それだけはやだ。
試験管 それでは次のターゲットを決めなさい。すぐに試験をはじめましょう。
魔女 はい……なんかすっごい損した気分。
試験管 いやなら止めてもいいんですよ。
魔女 い、いえ、やります。大丈夫です。人間なんて、ちょっとしたことで簡単に不幸になるんだから。本当、簡単ですから。
試験官 ……ではこれより、魔界厚生労働省・職業安定局・悪魔派遣・労働部・女性課、通称、「魔女」の再試験を行います。だれを、魔へと陥れるか決めなさい。
魔女 はい!
魔女は観客席を見渡す。

魔女 さて、だ、れ、を、ふ、こ、う、に、し、よ、う、か、な、と。うん。次は……

    魔女は観客席の一人を指差す。

魔女 あの人で。

    魔女が微笑む。
    音が高まり、辺りは闇に包まれる。


あとがき
10年以上前に書いた作品、「トリコロール」のリメイクです。
これを機に、正式に4人用の台本として書き直しました。

今が良いと思っている女の子と、ガリ勉タイプの才女。
特に趣味が合うわけでも無いのに、友達関係が続いているとしたら、
ちょっと裏があるんじゃないかって考えちゃいません?
そんな着想から生まれた物語です。

ここで出てくる魔女は、
三つの願いを叶える悪魔のような存在の女性版だとお考え下さい。

最後まで読んでいただきありがとうございました。