あ・くしゅ
作 楽静


登場人物

現実の世界の人々
ヒムカイ アメ 17歳。このたび親の都合で引越しをする事が決まった。
少し夢見がちな少女。
アメの母親 シオンと兼任。
ハルノ  スミレ 17歳。アメの友人。愛称「スミちゃん」冷静に物事を考えられる人。
アメの父親 アメにピエロの人形をプレゼントする。
              
玩具(人形・ぬいぐるみ)たち
ライラック 少年の姿をした少女の人形。スミレに雰囲気の似た人形。アメを助けに現われる。
フクジュ 猫のヌイグルミ。アメの味方。
クロッカス 木で作られた人形(スミちゃん制作←裏設定)陽気な男の子の人形でアメのことを好いている。
リンドウ 知的な少女の人形
ツバキ 少女の子供の頃に良く似た人形。性格は勝気。
シオン 魔女であり、主人公の最初の人形という自負がある。
クチナシ 寡黙な人形。アメに叱られる事が多かった。
ジキタリス いたずら担当の人形。アメに叱られることが多かった。
オトギリ 名も無きピエロの人形。父親に買われた。
オダマキ 青年の人形。父親に買われた。



初公演の際、クロッカスとオダマキはそれぞれ二人いた照明担当の子が交換で舞台に立っていました。
父親役は、舞台に立っても言いという男の先生にお願いすると面白いと思われます。
人形役は、舞台上に現れる人形と同じ服を着ている必要があります。



    少女の部屋がある。
    季節は春。春休みの間の出来事。
    少女の部屋の中は、色々な場所にダンボールが置かれている(見えなくてもよい)
    中心にも一つのダンボール。近くには半透明のゴミ袋。
    目立たない場所に、ピエロの人形(と、見せかけて本物のピエロ)が立っている。

    少女が一人、ダンボールに物を詰めている。
    時々思案しながら、床に散らばっている人形をダンボールに詰めたり、ゴミ袋に入れたり。
    やがて一体の魔女の人形を手にする。
    こんな物持っていたっけという顔をして少女は首を傾げる。
    ダンボールに詰めるべきかどうか悩んでいる所に、母の声がする。



母親 アメ〜。まだやってるの? もう寝なさい。

アメ うん。もうちょっと。

母親 まだ一日あるんだから。明日またゆっくり詰めなさいよ。

アメ うん。でも

母親 わざわざゴミになる物持って行かないでよ。どうせまた捨てるんだったら
   今のうちに捨てておきなさいよ。

アメ わかってるよ。

母親 そういえば、友達にはもう知らせたの?

アメ  ……

母親 学校には連絡しているんだから。ちゃんとしなさいよ。まぁ急な話だったし。
   でも、仕方ないでしょう?お父さんの仕事なんだから。

アメ 別に文句なんて言ってないでしょ?

母親 そうね。かあさんもう寝るから。

アメ うん。

母親 ……あら?

アメ なに?

母親 それ。

アメ どれ? (と、まだ手に持っていた人形を見て)こんなの、持ってたっけ?

母親 懐かしいわね。どこにあったの?

アメ 押し入れ。

母親 そう。どうするの?

アメ どうするって?

母親 捨てるの?

アメ うーん。使うかな?

母親 知らないわよ。自分で決めなさいよ。

アメ はーい。


    母親が去る。
    アメは魔女を母親に見立てて、


アメ 「友達にはもう知らせたの?」知らせられるわけないじゃん! 急過ぎだよ。
  三年から学校変わったって友達なんて出来るわけないし。お父さんだけ転勤すればいいのに
  ……(魔女を見て)わかってるよ。言い過ぎました。ごめんなさい。なによ。もう。
  勝手なことばっか言わないでよ!


    アメはそのまま勢い良くゴミ袋に魔女を捨てる。
    そして、ダンボールに向き合う。
    しかし、作業につかれたらしく。


アメ いいや。もう。明日やろう。


    と、自分に言い聞かせる。
    そんな時、電話が鳴る。
    電話の主はスミレ。スミレが舞台に現れる。
    どこかイライラとした風。
    アメは暫く悩んでから電話に出る。





アメ はい。

スミレ 遅い。

アメ スミちゃん。

スミレ 鳴ったらすぐでなさいよ。寝てたの?

アメ 寝てないよ。ごめん。ちょっと色々してた。

スミレ どうせ、また人形でも並べてたんでしょ。
    こうやって立たせるほうが見栄えがいいかな〜とか。

アメ (あたりに散らばっている人形を見ながら)うん。実は。

スミレ 全く。で、決めた?

アメ 何が?

スミレ 旅行よ旅行。卒業旅行。場所。

アメ スミちゃん。でも、まだ一年あるんだよ?

スミレ 言ったでしょ? あたし一般受けるって。

アメ うん。

スミレ だから2次試験まで受けたら来年の今ごろまで余裕ないみたいなのよ、これが。

アメ じゃあ、行けない?

スミレ ばか。それで今から決めておこうって言ったんじゃん。あんた話分かってる?

アメ 分かってるよ。うん、場所だよね。あたしが決めて良いの?

スミレ あんたが決めるの。ほら、小学校の時も。

アメ スミちゃんが鎌倉行こうって言い出して。

スミレ 自転車で鎌倉。朝六時起きしてついたの八時。

アメ どこも店やってないって、スミちゃん怒ってばっか。

スミレ そうだっけ? ほら、中学の時も。

アメ 温泉入りたいってスミちゃんが言って。

スミレ 箱根まで行って。まぁ、あれはあれで楽しかったでしょ。

アメ でも、温泉が熱いってスミちゃん怒ってばっかだったよ。

スミレ そうだっけ? だから、高校はね。

アメ あたしが決めるんだね。

スミレ そう。でも、学期始まっちゃうとさ。忙しいじゃん。お互い。

アメ うん。

スミレ だから春のうちに決めておいたほうがいいかなって。言ったでしょ?あたし。

アメ 言った。

スミレ で。決まった?

アメ ううん。

スミレ なにやってんのよぉ。

アメ ごめん。……ねぇ、スミちゃん。

スミレ なに?

アメ 遠くてもいいの?

スミレ いいけど。何よ。外国でも行きたいの?

アメ そんな遠くじゃないけど。

スミレ 国内か。どこ。

アメ 滋賀。

スミレ え?

アメ 滋賀、なんてどうかなって。

スミレ 滋賀? どこそこ? 何県?

アメ 滋賀県だよ。

スミレ ああ、滋賀県か。遠いの?そこ。

※ 別にここは滋賀の方たちに悪意があるわけではなく、私の中で聞いたとき一瞬県名か分からない県の代表が滋賀だっただけです。
   それ以外に他意はありません。


アメ うん。

スミレ 何があるの? 温泉?

アメ わからない。

スミレ つまらないトコには行きたくないよ。あたし。

アメ うん。あのね、スミちゃん。

スミレ なによ。

アメ あたしね。

スミレ なに?


    と、ライラックが顔を覗かせる。


アメ ……やっぱりいい。

スミレ なによ。わけわかんない。

アメ 明日言うね。

スミレ 今言いなさいよ。

アメ うん。じゃあ、また明日ね。

スミレ おい。アメ! こらアメこう!

アメ お休み。


    アメが電話を切る。
    どこか悪態つきながら、スミレが去る。





アメ (溜息)

ライラック 言えなかったね。また。


    アメが驚いてライラックを見る。

ライラック 何度目だろう? これで。三度目? 四度目?

アメ だれ?

ライラック 引っ越す事が決まって、一番はじめに伝えたい人なのに、一番伝えにくいなんて、

なんだか切ないね。

アメ どっから入ってきたの?

ライラック まるで愛しているから傷つけるような。大切だから無くしてしまったような。
       矛盾をはらんでいて、だから人は面白い。だから悲しい生物なんだね?

アメ 誰ですか? 


    ライラックは答えず自分の人形を手にする。


ライラック 初めましてとは言わないよ。あたしと君は毎日会っているんだし。だけど
     挨拶をしないのは礼儀に反する事だから、あくまで気楽に頭を下げよう。こんばんは。

アメ こんばんは。あなたは……

ライラック おっと。質問するのは君じゃない。だって君はもう分かっているんだから。
      あたしが誰だか。あたしにとって君が誰かってくらい当たり前に。

アメ そんなこと言われても……(と、人形とライラックの服が同じ事に気づく)そんな……

ライラック さあ、当てて。あたしは誰?

アメ ……(人形とライラックを見比べる)ライラック?

ライラック そう。君はあたしをそう呼んだ。「ライラック(どこか外国風に)」だから
      あたしはライラック。勇気の持てない主人を今宵、助けに参った人形です。


    ライラックは深深とお辞儀する。


アメ 人形って。でも、動いて。

ライラック 夜だからね。夜の魔法は人にまなこ(眼)を閉じさせまこと(真実)を開く。
      仮初めの体は夜にみそめられ、だから見それられてた真実(まこと)の体は、
      認められない羞恥に染められ現われる。またとないチャンスに
      あたしは急ぎ駆け付けたのです。君のために。

アメ あたしのため?

ライラック 困っているんでしょう?

アメ 困ってる?

ライラック 友達に真実が告げられなくて。

アメ 言おうとはしたの。何度も。だけど。

ライラック 言えなかった。何度もごまかした。なんで?

アメ だって。

ライラック だって?

アメ 悲しむから。きっと。

ライラック そうだね。

アメ ……それに。

ライラック それに?

アメ 悲しまないかもしれないから。もしかしたら。

ライラック 信じられないの? 友情が。

アメ あたしたち、そんないつも一緒にいたわけじゃないから。

ライラック なるほどね。どうやらこれは重傷だ。あたし一人じゃ無理らしい。

アメ ごめんなさい。

ライラック 謝ることは一つもないよ。これはあたしの慈善事業。
      だけどあたし一人でやる気は毛頭ないし、あいつらもあたし一人じゃ不満だろう。

アメ あいつら?

ライラック 君の周りにいつだっていたやつらだよ。どうやら夜の魔法が今夜は調子良いらしい。
      ほら、いい加減、隠れてないで姿を見せな!


    ライラックが指を鳴らす。
    陽気な音楽と共に、フクジュ、クロッカス、リンドウ現われる。
    と、同時にピエロの人形が姿を消す。




アメ あなた達は!?

フクジュ アメちゃん。こんばんは。どーん。


    と、フクジュは前振りも無く、アメにぶち当たる。


アメ うわぁ。フクジュ?

フクジュ ピンポーン。そして、こっちが。

アメ クロッカス。

クロッカス 正解♪

リンドウ 私は?(自分に指を指す)

アメ リンドウ?

リンドウ ふうん。そういうこと言うんだ。

アメ え、ちがうの?

リンドウ 間違ってるなんて言った?

アメ ごめんなさい。

クロッカス はい! そこ! 暗くしない!

リンドウ してない。

クロッカス いいから、ほらフクジュも。いくよ。クロッカス!

フクジュ フクジュ!

リンドウ リンドウ?

クロッカス なんで疑問系なんだよ。とにかく、三人そろって!


    と、クロッカスとフクジュがポーズを決める。
    リンドウは静かに。


同時に
クロッカス チャーミング・ボーイズ。
フクジュ はりきりキューティーズ。


同時に
アメ え?
ライラック は?


リンドウ そろってない。

クロッカス なんであわせないんだよ!

フクジュ ってかなにそのだっさい名前。

クロッカス そっちこそ、どこら辺がキューティーなんだよ。

フクジュ キューティーでしょ!?

クロッカス キューティーってより、お前はキューピーだろ。

リンドウ 座布団一枚。

フクジュ あんたこそ、どこらへんがチャーミング・ボーイなのよ!

クロッカス チャーミングだろ!

フクジュ あんたなんてチャーミングって言うより、(と、リンドウを見る)

リンドウ チャーハンの具。

フクジュ のようなものよ!

クロッカス なんでフクジュの味方するんだよ!

リンドウ 味方してって言った?

フクジュ 女の子同士の結束は固いのよ。

クロッカス へぇ。ヌイグルミにも性別があるとは知りませんでしたねぇ。

フクジュ あんただってボーイって言うほど男らしくないじゃない。

クロッカス なんだとこの毛だまり。

フクジュ なによトウヘンボク。

クロッカス 骨無し。

フクジュ ヘタレ。

クロッカス 綿。

フクジュ 板。

クロッカス 言いやがったな!

フクジュ それはコッチのセリフよ!


    クロッカスとフクジュが喧嘩し始めるのをライラックが止めに入る。


ライラック はいはい。そこまで。あんたたち、恥ずかしくないのか。アメの前で。

リンドウ 醜い。

アメ そんな仲悪かったの? 二人とも。

ライラック お互い君のことが好きなんだよ。ただそれだけさ。

フクジュ アメ〜。クロッカスが苛める〜。


    と、フクジュはアメの膝に。


アメ なんか、ヌイグルミの時より大きいから、不思議な感じ。

フクジュ でも、ふわふわよ。わたし。

アメ 本当だ。よしよし。

フクジュ にゃ〜。

クロッカス あ! ずるい! ……アメ〜。

フクジュ きもい。

クロッカス そんな! リンドウ〜。

リンドウ (冷たく)誰ですか?

クロッカス 夜なんて大っ嫌いだ!


    クロッカスが走り去る。


ライラック おいおいフクジュ。呼んだ意味ないだろこれじゃ。

フクジュ だって。あいつ絶対アメの隣狙っているよ。

リンドウ あんたもね。

ライラック いいじゃないか。それは皆同じなんだから。

フクジュ でも、今はあたしが一番近くにいるの。だから私はそれを守るの。

リンドウ いい度胸よね。

アメ どういうこと……(と、アメはライラックを見る)

ライラック 君が新しい仲間を手に入れるたびに、あたしたちは場所を追われる。そうだろう? 
     クロッカスは少し前までは君の一番のお気に入りだった。
     だからフクジュはライバル視するんだ。

リンドウ いい加減どけ。

フクジュ ふにゃ。


    と、リンドウはフクジュを蹴り飛ばし、アメの隣に座る。
    そして、アメを見上げる。
    アメが思わずリンドウの頭をなでる。


リンドウ えへへ。

ライラック そしてリンドウもね。

フクジュ ずるい。

リンドウ うるさい。

アメ でも、あなたは……

フクジュ ライラックは枯れてるのよ。

リンドウ 同感。

ライラック あたしは随分前にそんな争いはばかばかしいって思っただけだよ。一番傍にいなくても、
      君はたしかにあたしのことも思ってくれているんだから。そうだろう?

アメ うん。ごめん(ね)

ライラック 謝らないで!

アメ え?

ライラック あたしは君の傍にいるのが好きなんだ。あたしたちは皆。

フクジュ だから思われなくても思い続ける。

リンドウ あたし達にはそれしか出来ないから。

ライラック それしか出来ないのに謝られたら、あたしは何をしていいか分からなくなっちゃうだろう? だから、謝るのは無し。

アメ うん。ありがとう。

ライラック そう。そっちのほうがずっといい。じゃあ、始めようか。

アメ 何を?

ライラック おいおい。忘れちゃ困るよ。あたし達がここに来たのは、
      君に勇気を持たせるためだ。

アメ でも、そんなこと(どうやって)

ライラック いいかい、アメ。思うことしか出来ないあたし達の力は思い出なんだ。

リンドウ そして今は夜。

フクジュ 夜は姿を持たない物にも形を与える。

ライラック だったら、あたし達に出来る事は思い出を形に変えてあげること。フクジュ。

フクジュ (あたりをかいで)あそこらへん。今、漂ってる。

ライラック リンドウ。

リンドウ ん。


    リンドウはアメを引っ張ると立たせて少しどける。


アメ え? え?

ライラック よーし。それじゃあ思い出よ。姿を見せよ!


    ライラックが再び勢い良く指を鳴らす。
    すると、押し出されるようにスミレが現われる。




スミレ ……どこ。ここ。

アメ スミちゃん?


スミレ 何やってんの? あんた。

アメ スミちゃん。え、なんでスミちゃんがここに?

ライラック あれは君の友達じゃないよ。

アメ え?

フクジュ 思い出。

リンドウ あなたの友達の記憶を形に表したの。あなたがスミちゃんと呼んでいる思い出を。

アメ じゃあ本物じゃないの?

ライラック だけど、ある意味本物より本物らしい。

フクジュ 本物以上に本物。

リンドウ 見てれば分かる。


    と、手持ち無沙汰にしていたスミレがフクジュの人形を見付け、ひっぱる。


フクジュ ぎゃ。なにするのよ!

スミレ え? あ、ごめん。痛いの?

フクジュ 引っ張ったら痛いにきまってるでしょ。

スミレ 痛いのか……


    と、スミレは思いきり引っ張ったり。


フクジュ だからやめろって!

アメ うわぁ。スミちゃんだぁ。

スミレ は? あんた何言ってるの?

アメ ううん。なんか。行動がとってもスミちゃんだから。

スミレ 意味分からない。

アメ (ライラック)本当に本物じゃないの?

ライラック もちろん。あれは君の思い出だからね。

フクジュ だから、アメちゃんの思い出通りに動くの。

アメ あれも?


    と、アメが見る先でスミレは退屈したのか人形を変な形に並べて遊んでいる。
    何気にリンドウがその横まで行って手伝う。自分の人形はわざとよけたりしている。


ライラック あの姿には君の友達への思い出が全て詰まっているからね。

アメ 全て?

フクジュ うん。アメちゃんの友達が忘れてても、アメちゃんが覚えている物ならすべてだよ。

アメ あたしに関する事だけ?

フクジュ アメちゃんの思い出なんだから当たり前でしょ。

アメ そうなんだ。

ライラック さあ、あの思い出の姿に言う事が出来れば、本物にだって言えるだろう?

アメ (頷く)スミちゃん。

リンドウ (スミレに)スタンダップ。立て。


    しぶしぶとスミレが立つ。


スミレ (見下ろすように)なによ?

アメ 何でも無い。

ライラック いきなり失敗してどうするんだよ!

アメ だって、恐い。

フクジュ 勇気を出すニャー。うん? ニャーって語尾をつけると、なんか猫っぽい?

リンドウ 黙れ猫以下。

フクジュ 猫以下って何なんニャー!? ん? 何ニャー? ななんにゃー? ニャー?

ライラック (フクジュに)真面目にやれよ。(アメに)何が恐いの?

アメ 言ったら、なんて言われるかな?

ライラック 分からないんだろう? だから、まずは思い出に話してみなよ。

アメ 怒らないかな?

ライラック 怒るかもね。でも、それは本物じゃないよ。

フクジュ 大丈夫。あたしらはいつも傍にいるから。

スミレ (リンドウに)何がしたいの?

リンドウ すぐに分かる。

アメ (頷いて)ねぇ、スミちゃん。

スミレ なに?

アメ 話しがあるの。

スミレ だから、なに?

アメ 私ね。

スミレ うん。

アメ 私。

スミレ うん。

アメ 私、

スミレ 言いたい事あるなら早く言いなさいよ。

アメ ごめん。(ライラックに)怒られた。

ライラック 言わないからだろ? ほら、勇気を出して。

フクジュ 頑張れニャー。

リンドウ いい加減ニャーは辞めろ。

フクジュ はい。

アメ ……スミちゃん!

スミレ ん?

アメ 私ね、今度、その、その、ひ、ひ、引越しソバ食べてみたいって思った事ある?

スミレ ない。

アメ (ライラックに)惜しかった。

フクジュ&リンドウ&ライラック 惜しくない惜しくない。

ライラック なんで引越しまで出て違う言葉になるかなぁ。

リンドウ 私が言おうか?

ライラック それは意味が無いよ。アメが伝えなくちゃいけないんだから。

リンドウ 時間の無駄。

ライラック 無駄なことは無いさ。

フクジュ でも、無理にやらせるのもさぁ。

ライラック それはそうだけど

アメ あの、

ライラック なに?

アメ もう1回やってみる。

ライラック よし。頑張って!

アメ うん。


    アメがスミレに向かう。
    スミレはあまり興味なさそうにしている。


アメ スミちゃん。

スミレ なに?

アメ どうしても、伝えたい事があるの。

スミレ そう。

アメ スミちゃんに。あたし、伝えるの恐くて、スミちゃんが恐いんじゃなくてスミちゃんに
  どう思われているかって思ったら恐くなっちゃって、言えなくって、
  でも、どうしてもスミちゃんに一番に聞いて欲しくって、それで。

スミレ なによ。 彼氏でも出来た?

アメ そんなんだったらどんなに楽か分からないよ。

スミレ 出来ないくせに。

アメ うん。って、そんなことはどうだっていいんだよ。

スミレ じゃあなに?

アメ あのね。私、……やっぱり言えない。

ほぼ同時に
ライラック アメ!
フクジュ アメちゃん。
リンドウ なぜ言わない。

アメ ごめん。でも、無理だよ。あたし言えない。言えないよ……


    と、そこに陰気な音楽が流れてくる。
    そして、あたりの雰囲気が暗くなる。




アメ え? なにこれ?

ライラック ? あれ? どうしたんだ?

リンドウ なんか来る。

シオン 随分楽しい事をやっているじゃないか。


    シオン・クチナシ・ジキタリスが現われる。
    クチナシとジキタリスはシオンの配下のようだ。
    シオンは魔女の格好をしている。が、おばあさんと言うわけではない。


スミレ 誰?

リンドウ ……いいから。私の後ろにいて。

ライラック シオン……。

シオン 私らにお呼びがかからないって言うのはどういうわけかな、ライラック?

アメ あなた達は?

シオン これはこれは。我が主(あるじ)は私らのことをお忘れかな?

ライラック シオンそう噛みつくなよ。アメはただこの姿のあたし達に(馴染みが無いだけ)

シオン あんたには話しかけて無いんだよ! おや、フクジュ。どうした? 
    なにか気に触ることでもあったかしら?

フクジュ な、なんでも無いニャー(フクジュは震えている)

シオン 可哀相にフクジュ。どうしたの? こんなにふるえて。

フクジュ なんでもないです。

シオン あたしが恐い?

フクジュ そんなわけないですよ。

シオン そうよねぇ。そんなわけないわよねぇ。

フクジュ もちろんです。はい。


    言いながらフクジュはリンドウの傍まで逃げる。
    リンドウは自然フクジュもかばう。


リンドウ (シオンに)何しにきたの?

シオン リンドウも、元気みたいね。

アメ あなたたちは……

シオン ジキタリス! どうやら主は我々のことをお忘れのようよ。名前を教えてあげないと。

ジキタリス は。俺の名前はジキタリス。この名前に覚えは無いかい?

アメ ジキタリス?

ジキタリス 悲しいな。忘れられるって言うのは。

リンドウ 遠い昔だもの。

ライラック 覚えてないのも仕方ないさ。

アメ ……悪戯ずきのジキタリス。

ジキタリス そう、そのジキタリス。そんでこっちが、

クチナシ ……(ジキタリスを見る)

ジキタリス え? なんだお前自分で紹介出来るのか?

クチナシ ……(頷く)

ジキタリス わかった。やってみろ。

クチナシ ……(頷く)……(アメを見る)

アメ (思わず頷く)

クチナシ ……(頷く)……(満足げにジキタリスを見る)

ジキタリス 出来たじゃねえよ! まったく何一つとって満足に出来てねえよ! 
      首傾げるな! いじけるな! さて、お嬢さん。こいつの名前はわかるかな?

アメ いつも無口なクチナシ。

ジキタリス そう、その通り。そして、彼女が。

シオン シオン。忘れられた思い出の魔女。

アメ シオン……。

シオン あんたが忘れたおかげで、私の服はすっかり埃まみれ。胸にあった誇りは消え去り、
    暗闇でひたすら思うばかり。なんで私はここにいるんだろう? なんであんたはそばに
    置いてくれないんだろう? 答えは出ない問いかけを幾つも重ねるだけの日々。

アメ もしかしてあなたは……(と、ゴミ袋を見る)

シオン そうそう、礼を言わなくちゃね。やっと外に出してくれてありがとう。
    外に出してくれた途端に、無用の物として捨ててくれてありがとう。

アメ 私が、捨てた魔女?

シオン 私もね。そして、このクチナシも、ジキタリスも。あんたに捨てられた物達だよ、お嬢さん。

ジキタリス 思い続けた日々は同じなのに、選ばれなかった物達さ。

クチナシ ……(頷く)

ライラック だからなに? 今更、何を言おうっていうんだ?

シオン 何も言うつもりは無い。

ライラック だったら何で出てきた。アメは今必死なんだ。

シオン そう。知っているわ。勇気の持てない我らが姫が、より集められた思い出にさえ
    胸をはれないもどかしさくらい。

ライラック だったらわかるだろう? あんたに用が無い事くらい。

シオン でも、私にはある。

ライラック へぇ。一体どんな?

シオン 私達の力は思い出。その思い出を捨てる主への、心ばかりの、復讐。

ライラック 復讐?

シオン クチナシ! ジキタリス!

ジキタリス はいはい。

リンドウ 何をする気?

ジキタリス 邪魔するなよ。壊しちゃうから。


    ジキタリスとクチナシは動けないでいるリンドウをよそに、
    スミレを引っ張り自分達のほうへ引き寄せる。


スミレ なによ、なにするのよ。

アメ スミちゃん!

ジキタリス おっと。動かないほうがいい。俺たちのボスは短気だからな。

シオン 下手に動くと(と、スミレの首に手をやり)どうなっても知らないわよ? 
    魔女の爪は長いらしいから、変に傷つけちゃうかも。

スミレ なにこれ? なんかの冗談?

ジキタリス さぁ。

ライラック おいっ。何をする気だ?

シオン 思い出を捨てるつもりの我が主の、大切な思い出を連れていってやろうと思うだけよ。


    笑いながらシオンは去る。
    ジキタリスとクチナシもスミレをつれて去る。
    あからさまにフクジュはほっとする。リンドウは悔しそうににらみつける。


ライラック ばかな! おい! シオン! くそ。

アメ なに? 一体どうなったの?

ライラック 追いかけるよ。あいつらを。

フクジュ ニャニ!?

アメ 追いかけるって。どうして?

フクジュ そうよ。折角いなくなったのにわざわざ追いかけるなんて。

リンドウ バカ猫。耳無いの?

フクジュ あるよ! しっかり! ほら!

リンドウ 黙れ。

ライラック あいつ達は捨てられた腹いせに思い出を連れて行くって言ってたんだ。

アメ それが?

ライラック 思い出を連れて行かれたらどうなると思う? 

アメ どうなるって……

リンドウ 思い出が無くなる。

ライラック 消えるんだ。

アメ じゃあ、スミちゃんの思い出が?

ライラック 消えてなくなるんだよ。君の中から。

アメ そんなの駄目!

ライラック だから行かないと。あいつらを止めに。

アメ でも、どこに?

ライラック 思い出を捨てられるのは思い出の中だけだ。行こう。


    ライラックが手を差し伸べる。
    アメがおずおずとその手に触れる。
    ライラックが頷く。
    リンドウも横から手を貸す。


フクジュ 行ってらっしゃい〜。

ライラック&リンドウ お前も行くんだよ!

フクジュ 平和に生きていたいのに〜。

ライラック いいから来いよ!


    ライラックとアメが去る。そしてリンドウも。
    フクジュは追いかけて行こうとするが丸くなる。


フクジュ まぁ、なんとかなるなる。果報は寝て待てってねぇ。


    と、ピエロが現れる。


オトギリ声 へぇ。

フクジュ え?

オトギリ声 余裕だな。

フクジュ だれ?

オトギリ声 そんな気楽に解決するのかなぁ?

フクジュ 誰よ。どこにいるの?

オトギリ声 後ろだよ。後ろ。


    フクジュが振りかえる。
    そして、ピエロを見る。


オトギリ声 いいのか? 行かなくて。

フクジュ あんた、誰?

オトギリ声 さぁ。俺には名前なんて無いんでね。


    ピエロは姿を消す。


フクジュ ……結構ヤバイかも。


    思いなおして、フクジュが二人が追って行った方へと走っていく。
    ピエロの声が響く。


オトギリ声 フフフフフ。


    周りがだんだんと暗くなって行く。
    

    明かりがつくと夕方の公園のよう。
    ライラックとアメが走ってくる。


ライラック あいつらどこに行ったんだ?

アメ ここは? 公園?

ライラック そう、みたいだね。

リンドウ あなたがよく来た場所じゃないの?

アメ あたしが?


    そこへ、ツバキがやってくる。
    手には人形を持っている。なんか変な形の人形。


ライラック ほら、君が来た。

アメ あれが……あたし? でも、少し違うような……。

ライラック 人形だからね。

アメ 人形?

リンドウ この思い出の世界では私達が思い出を演じているの。

ライラック あれは、いつもなら君はツバキって呼んでいるはずだよ。

アメ ツバキ。……あたしが、自分に似ているって思って買った人形……。

ライラック そうだろうね。まぁ、性格は君みたいに大人しくとはいかないみたいだけど。
      とりあえず彼女に聞いてみよう。シオンの行方を知っているかもしれない。
      (と、ツバキに)ねぇ、ツバキ。

ツバキ 私は今アメよ。

ライラック だけどここに本物がいるからその名では呼べないんだ。

ツバキ 本物? 本当だ。あたしのこと、分かる?

アメ ええ。

ツバキ 最近は遊んでくれないわね。

アメ ごめんなさい。

ツバキ いいわよ。あたし今忙しいから。

ライラック シオンを見なかった?

ツバキ さあ、それより、あたし今からアメの思い出を演じなきゃいけないの。見て行かない?

アメ あたしの思い出って?

ツバキ ある人との出会いの思い出。少し変わったから演じなおさなくちゃ。

アメ ある人。(と、周りを見て)そうか。ここが、そうなんだ。

ライラック アメ?

アメ ここが、スミちゃんと初めて出会った場所なんだ。

リンドウ ここが?

ライラック あたしたちには記憶に無い場所だ。

リンドウ 外には出ないから。私達は。

アメ ここで、一人で遊んでて。小学校の頃だった。そう、今のツバキみたいに一人で人形を抱えて……

リンドウ 人形? 

ライラック 誰?

アメ なんだったろう……でも、たしかになにかを抱えてたの。

ツバキ これ?

アメ そんなんじゃない。てか、なにそれ?

ツバキ 人形?

アメ 自分でも疑問なんだ。

ツバキ うん。でも、その時来たのはスミレって人じゃないよ?

アメ え?

ツバキ その時来たのは……


    と、突如響き渡る銃声。


アメ な、なに!?

ライラック 危ない!


    ライラックがアメを引き離す。


リンドウ ……ここ、日本じゃなかったっけ?


    突如として雰囲気変わる。
    そして、コートを着た男が転がり込んでくる。
    オダマキである。オダマキは肩を撃たれたらしい。




ツバキ こんな人。

アメ え!? こんな人知らない。

オダマキ (独り言のように)ちっ。しくじっちまった。

ツバキ おじさん大丈夫?


    オダマキは笑って立ち上がろうとし、ひざをつく。


ツバキ どうしたの? けがしてるの?

オダマキ (首を振る、が、痛みに顔をゆがめる)

ツバキ 肩ね。

オダマキ ……俺に、構うな。

ツバキ 待って。なにか止血できるもの……(と、人形を渡す)肩、抑えてて。

オダマキ 俺に構うなと言ったろう?

ツバキ 死にたいの?

オダマキ お前には関係ない。

ツバキ 私、今日の星占いで11位だったの。

オダマキ ?

ツバキ でも、「血まみれの人を助けたら、大吉」って言ってた。

オダマキ そんな星占いがあるか。

ツバキ いいから。そういうことにしておけばいいじゃん。

オダマキ おせっかいだな。

ツバキ 知ってる。(と、何か道具を持ったらしい)肩、見せて。

オダマキ どうする気だ?

ツバキ 弾、取らないと。残っちゃってるから。

オダマキ 余計なことをするな。

ツバキ いいから。

オダマキ 素人に出来るわけ(ないだろう)

ツバキ えい。(と、肩に何か入れたらしい)

オダマキ ぐあ……

ツバキ よいしょっと。取れたよ。

オダマキ ……お前、ただの小学生じゃないな。

ツバキ 私立だからね。

オダマキ 銃弾の取り方を教える私立小学校は無い。

ツバキ 習ったのは幼稚園でだよ。

オダマキ 何者だ?

ツバキ ふっふっふ、まだ気づいてなかったの?

オダマキ なに!?

ツバキ 伝説と言われた怪盗オダマキ・ジョー、またの名をギリギリのジョー。
    あなたも、勘が鈍ったようね。

オダマキ 俺の名を?

ツバキ この世界であんたの名前を知らなきゃもぐりでしょ?

オダマキ 同業者か。

ツバキ そういうこと。まさか、こんなところであんたに会えるとは思わなかったわ。
    おかげで、嘆きの瞳も簡単に手に入れることが出来た。

ライラック おい、ちょっと待て。

オダマキ なに!? (と、コートを探したらしい)しまった。

ツバキ (宝石を出すふり)どうやら、本当に純粋に手当てを受けていると思ったようね。
    伝説の怪盗も小学生には甘いのかしら?

ライラック おーい。

オダマキ 何者だ、きさま。

ツバキ あんたが伝説なら、あたしは現在進行形で伝説を作っている最中の女。
    人はあたしをこう呼ぶ。深紅の疾風。怪盗、ツバキ。

ライラック ちょっとまてぇい!


    雰囲気が元に戻る。



ツバキ あら?

ライラック 「あら?」じゃない。明らかに回想シーンじゃなくなってただろう、今。アメの思い出はどこ行った。

ツバキ どこって。ほら、なんか急に銃声が入ったりしたから。

ライラック 誰だよそんなの入れたのは。


    ツバキはオダマキを指す。
    オダマキは振り返る。で、誰もいない。


オダマキ 俺?

リンドウ 明らかにそうでしょう?

ライラック ほう……(と、オダマキに近づく)

オダマキ な、なんだよ。俺はこれしか出番無いんだ。いいじゃないかちょっとお茶目したって。

ライラック 何だよお茶目って なぁ。なぁ。なぁ(と、言いながらオダマキを突ついている)

オダマキ 痛い。痛い。痛い。ごめんなさい。ごめんなさい。もうしません。許してください。
     すいませんでした。

ライラック よし、いけ。

オダマキ はい。……覚えてろよ!

ライラック なに?

オダマキ 忘れてください。それでは、続きを楽しんで〜。


    オダマキが去る。




ツバキ そして、変な人は去り、私は二度とここには来なくなりました。

アメ 違う。そんな思い出じゃない。ここは……

リンドウ シオン?

ライラック たぶんね。

アメ え?

リンドウ 思い出を捨ててるんじゃない?

アメ じゃあ、そのせいで?

ライラック 思い出が変わってしまったんだ。(ツバキに)前は違ったんだよな?

ツバキ そう。スミレっていう人と会うはずの思い出。なんでこんな話に……

リンドウ ノっていたくせに。

ツバキ わかる?

アメ シオンが変えているの?

ツバキ それは私には分からない。

アメ 止めないと。

ライラック そうだよ。止めないと大変な事になる。

アメ スミちゃんとの思い出が消えちゃう! もう作れないのに! もう忘れて行くしかないのに。そんなの駄目!


    アメが走り去る。


リンドウ&ライラック アメ! 

ライラック まったく。やっと実感したのか。


    ライラックが追いかける。


リンドウ やれやれ。


    リンドウも去ろうとするが、その手をツバキが掴む。
 

ツバキ 待って。

リンドウ なに?

ツバキ 私も、ここで出番終わり?

リンドウ さあ? そうなの?

ツバキ そんな予感がする。

リンドウ だったらそうじゃないの? とにかく急がないと。

ツバキ ねぇ。

リンドウ なに?

ツバキ あたしも連れてって。

リンドウ はぁ?

ツバキ 大丈夫。邪魔しないし、大人しくしているし、なんでも言う事聞くよ。結構可愛くしている
    てかむしろマスコットキャラクター張りに頑張るからってか可愛くしているから。

リンドウ そんな可愛くを強調しなくても。

ツバキ そんな感じでがんばるって事よ。

リンドウ あたしとしては面白くなるかどうかが重要。

ツバキ なる。

リンドウ じゃあ、いいんじゃない?

ツバキ ありがと〜。


    言って、リンドウはツバキを引っ張って走って行く。
    ツバキの去った跡には人形がそのまま置いてある。


10

    ゆっくりとピエロ(オトギリ)がやってくる。人形を拾う。


シオン声 それ、酷いでしょ。

オトギリ ……

シオン声 笑えないわよね。酷い出来。


    シオンが現れる。


オトギリ そんな所にいたのか。探してたぞ。女と人形が。

シオン 分かってるわよ。そうさせたのは私なんだから。

オトギリ そうか。

シオン あんたは参加しないの?

オトギリ 俺は常に見ているだけだ。

シオン あんたも不思議な奴ね。あの子のそばにいるのはあたしとあんまり変わらないのに。

オトギリ そうだったかな。

シオン まぁいいわ。邪魔はしないでね。

オトギリ 言っただろう? 見ているだけだって。

シオン ……見ているだけ、ねぇ。

オトギリ お優しい皆々様のいらぬお節介の邪魔なんてしたくても出来ないさ。

シオン そう。じゃあね。明日になったらもうあたしはどっか知らないゴミ捨て場なんだろうけどさ。
    ……あんたは、あの子を見ていてやってね。


    シオンが去る。


オトギリ そうやって最後の最後までお優しく生きているお前達の邪魔はしないさ。
     お前達の邪魔は、な。


    人形をもてあそびながら、笑いつつ、オトギリは去る。


11


    クチナシとジキタリスが現われる。
    スミレを引っ張っている。


ジキタリス ほら、速く歩きなってば。

スミレ 引っ張らないでよ。痛いから。

ジキタリス 俺もね、引っ張りたいわけじゃないのよ。でも、シオンがさ(と、クチナシを見て)
      そう。怒るからさ。(と、クチナシを見て)まだそんな時間じゃないよ。(クチナシ)だから違うって。

スミレ なんでその人話さないの?

ジキタリス (肩をすくめ)それが主の決め事なんだよ。俺は悪戯ばかりやっていて、
      こいつは無口でなにも喋らない。だからいっつも怒られる。

スミレ 誰に?

ジキタリス 主にさ。そうやって怒る事で、あの子は自分でいられたんだ。自分よりも弱い存在、
      気に食わない存在を作ることで。たった独りを耐えていた。

スミレ だから、いつも人形と一緒だったのね、あいつ。

ジキタリス あんたが現われなかったら、きっと俺達は今でも遊んでもらえてた。
      でも、主は寂しかっただろうな。

スミレ そう。
ジキタリス 思い出のあんたに言っても仕方ないんだけどな。

スミレ 本人に言いなさいよ。こんなまだるっこしいことしてないで。

ジキタリス 俺もそう思うよ。でも、シオンは(違うことを考えているらしい)


    クチナシがジキタリスの肩を叩く。


ジキタリス どうやら、ゆっくり歩いていたせいで追いつかれちゃったみたいだな。

クチナシ (頷く)

ジキタリス (スミレに)あんたは先に行っててくれないか? これから先にシオンが待っているはずだから。

スミレ あたしが言うこと聞くと思う?

ジキタリス 聞くさ。だって、俺達がやっていることは別に悪いことじゃない。 だろう?

スミレ ……ふん。


    スミレが去る。


ジキタリス シオンの準備が出来るまで時間がまだまだかかりそうだ。クチナシ、ごまかすぞ。
      「場末のバー作戦」だ。

クチナシ (頷く)


    ジキタリスが合図を鳴らせば、そこは雰囲気が変わる。
    場末のバーの雰囲気。
    ジキタリスはウイスキーを片手にちょいとクールな顔。
    クチナシはバーテンダー風。
    と、そこへツバキが走ってくる。


ツバキ おかしいな。皆を追って来たはずなんだけど……

ジキタリス お嬢さん、一人かい?

ツバキ え? うん。本当は皆いたはずなんだけど。って、何やってるのジキタリス。

ジキタリス だれだい? それは。

ツバキ 誰だいって……何やってるの?

ジキタリス 飲んでいるのさ。それより君は迷子、かな?

ツバキ 迷子じゃないって。ちょっと行く場所がわからないだけ。

ジキタリス そうか。それは人生の迷子と言うんだよ。

ツバキ そうなのかな?

ジキタリス どうだい? 一杯? 迷ったときは飲むのが一番だよ。


    と、自分のグラスを差し出す。


ツバキ それじゃあ、お言葉に甘えて(と、飲む)う……まずいぃぃぃ。


    と、そのままふらふらしているところをクチナシが連れて行く。
    クチナシが戻ってくる。


ジキタリス いっちょう上がり。


    二人でポーズを決める。


アメ スミちゃん!


    アメが駆けこんでくる。


ジキタリス おやおや。主役のお出ましか。


    クチナシが構える。
    そして、ライラックが現われる。


12


ジキタリス お前も来たのか。

ライラック あの子はその奥か?

ジキタリス その通り。思い出の奥深く。思い出しもしない深い場所。
      そこに運んで行っている所だよ。

ライラック そこをどいてもらおうか。

ジキタリス 断ると言ったら?

アメ お願いします。私、スミちゃんを失いたくないの。

ジキタリス 覚えていたほうが辛くても?

アメ え?

ジキタリス 遠くへ離れてしまうんだろう? 二度と会えないかもしれないんだろう? だったら、
      忘れた方が楽じゃないのか? 思い出さないでいられたほうが、悲しくないんじゃ無いか?

アメ それは……

ジキタリス 何も俺達は悪い事をしているわけじゃない。主が苦しまないように、
      思い出を消してあげようとしているだけさ。

ライラック 駄目だよ。こんな口車に乗せられちゃ。

ジキタリス いずれほっといても同じことさ。会えないうちに思い出さなくなるんだ。
      それが早くなるだけのことだろう?

アメ それは、そうかもしれないけど、でも

ジキタリス 思い出さなければ別れの悲しみも無い。別れを告げる辛さも無い。
      そのほうが、主にとっては幸せなんじゃないかな?

アメ 幸せ……。

ライラック そんなことが幸せなもんか。それはお前が一番良く分かっている事だろう? 
      忘れられる悲しさを知っているはずのお前が、なんで忘れる事を進めるんだ!

ジキタリス 決まっているだろう? 忘れられたからさ! 俺達を忘れたんだから、友達だって忘れられる。
      そうだろう? そうじゃなきゃおかしいじゃないか。俺達はすぐに忘れられて、
      友達は覚えていられるなんて。俺達だって友達だったはずだろう?

ライラック だけど、あたし達は人間じゃない。

ジキタリス それがなんだ。そばにいた時間は俺たちの方が長いんだ!


    ライラックは何も言えなくなる。
    アメが顔を上げる。


アメ それでも、私はスミちゃんを失いたくない。

ジキタリス 俺達は簡単に忘れたのにか。

アメ ごめんなさい。でも、スミちゃんのことを忘れたくないの。

ジキタリス 勝手だな。

アメ 分かってる。

ジキタリス 傲慢だ。

アメ 知ってる。

ジキタリス 我侭だよ。

アメ それでも、スミちゃんは、あたしの、一番大事な友達なの。

ジキタリス ……そうか。じゃあ、ここを通すわけには行かないな。

アメ どうして!?

ライラック ジキタリス!?

ジキタリス 俺達も、守らなければならない友達がいるんでね。一番大事な友達だと、
      主を思っている俺達の大事な人がね。なぁ、クチナシ。

クチナシ 俺たちの友達には聞かせない。その言葉。


    全員クチナシが喋ったことに驚く。


ジキタリス そういうことだ。さぁ、どうする!?


    ジキタリスとクチナシが構える。


ライラック どうするって……

フクジュ どうやら、あたしたちの出番みたいねぇ。


    フクジュが現われた。そしてリンドウも

13


ライラック フクジュ!? それに、リンドウ?

リンドウ バカ猫を待ってたら遅れたわ。

フクジュ バカ猫言うな!

リンドウ じゃあ、バカ。

フクジュ じゃあじゃない! とにかく、やっと追いついたニャー。しかも、こんなピンチになんて。
     あたしって正義のヒーローみたい?

アメ フクジュ……

フクジュ おまたせアメちゃん。大丈夫? 泣かされてなかった?

アメ うん。

ジキタリス 味方が一人二人増えたところで、何が出来るわけでもないだろう。

フクジュ フフフ。それはどうかな。

ジキタリス なに?

フクジュ 実はあたしは0.03秒の動きで動く事が出来る超高速の力があるのニャー。

フクジュ以外 はぁ!?

フクジュ 驚くのも無理は無い。そんな設定が普通のヌイグルミに備わっているはずがないと、
     そう思うのが普通。

ライラック そりゃそうだ。

フクジュ しかし、思い出してもらいたい。ヌイグルミの宿命を。

アメ 宿命?

ジキタリス どんなだ?

ライラック さぁ?

フクジュ ヌイグルミの宿命、それは投げられる!

アメ 何か違う気がする。

フクジュ そんな事は無いのです。ご主人様が、むしゃくしゃした時、嬉しい時、
     とりあえず何か投げたい時、投げて投げて投げられまくる。それがヌイグルミの、
     ヌイグルミたる宿命なのです!

ライラック えっと、それで?

フクジュ そうやって何度も何度も投げられる内に、私は編み出してしまったのですよ。
     高速移動を!

ジキタリス&ライラック なんでだー!

アメ フクジュってば凄い!

リンドウ バカ猫にもとりえはあるわけだ。

フクジュ ふふふ。さぁ今こそ力を見せる時。悪党! 覚悟しなさい!

ジキタリス なんだか良く分からないが、やれるものならやってみろ!

フクジュ 超高速!


    瞬間、世界がスローモーションになる。
    言葉はスローで飛び交い、動きもスローモーションで展開される。
    しかし、フクジュだけは普通に歩いている。



スローな言葉達

ジキタリス なに!? 消えただと。

アメ すごい。全然見えない。

ライラック 本当に、出きるとは。


    と、フクジュがまずクチナシを殴る。
    クチナシがゆっくりと崩れ落ちる。


ジキタリス おい。クチナシ!

フクジュ (普通に)次はお前ニャー。

ジキタリス 負けるか!


    フクジュのパンチが決まる瞬間、ジキタリスがフクジュのパンチを受け止める。


フクジュ ニャに!?

ジキタリス 取った!


    スローなジキタリスのパンチがゆっくりとフクジュに突き刺さり、
    フクジュが吹っ飛ぶ。スローモーション終わり。

14

アメ フクジュ!

ライラック 大丈夫か?

フクジュ ありえないニャ。超高速が破られるなんて。不覚(と、気絶)

ジキタリス こんなこともあろうかと思って心の目を鍛えていたのさ。

ライラック いったいどんな状況を想像していたんだ。

ジキタリス 形勢逆転だな。

リンドウ それはどうかしら?

ジキタリス 何?

アメ リンドウ?

リンドウ 特殊な力があるのはフクジュだけじゃないのよ?

ジキタリス なに?

ライラック まさか、リンドウも超高速を?

リンドウ そんなキャラが被ることはしない。私が使うのは、召喚魔法だから。

リンドウ以外 はぁ!?

アメ 召喚魔法?

ライラック おい、リンドウちょっと待て。なんだそれ?

リンドウ 言葉どおりよ。別世界の戦士を召喚する魔法のこと。

ジキタリス なんで、そんなものがお前に使えるんだ?

リンドウ 分からない?


    全員が首を振る。
    リンドウは自信満々に答える。


リンドウ 言った者勝ちよ!

ライラック&ジキタリス なんでだー!

アメ でも、リンドウ。別世界の戦士って?

リンドウ ふふふ。ではお見せしましょう。出でよ別世界の戦士! オキャクサーン!

ライラック 待て! それはまずい!


    突然世界の雰囲気が変わる。
    リンドウは聞かずに客席に下りて行く。


ジキタリス おい。やめろって。俺負けでいいから。な。


    なんて言葉も聞かずにリンドウはお客様を連れてきてしまう。


リンドウ 我が召喚に答えし戦士オキャクサーンよ。お名前は?

客 「○○」

リンドウ それでは、○○さん。あの悪を滅ぼしてください!


    と、リンドウの言葉に誘われたかのようにハンマーが飛んでくる。
    リンドウがオキャクサーンに渡す。


ジキタリス こうなったら自棄だ! (と、オキャクサーンに向かうが)く、体が動かない。
      これが、オキャクサーンの力……。

リンドウ いまだ!


    と、オキャクサーンに倒してもらって、ジキタリスは敗れる。


ジキタリス ぐあああ。

ライラック 本当にやっつけちゃったよ。

アメ オキャクサーンって強いんだねぇ。

ライラック 最強の戦士だからな。この世界からしたら。

リンドウ ありがとうございました。それではオキャクサーン。元の世界にお戻りください。


    と、ちゃんとオキャクサーンを客席まで戻し、
    ちょっと一息ついてからリンドウはひざをつく。
    世界の雰囲気戻る。


リンドウ くはっ。

ライラック リンドウ!?

アメ 大丈夫?

リンドウ どうやら、あたしはここまでみたい。

アメ 大丈夫? どこかぶつけたの?

リンドウ MP(マジックポイント)が切れた。

ライラック ドラクエかよ。

アメ 平気なの?

リンドウ 休めば。どうせだから、フクジュが起きるまで休んでる。

アメ 本当に? 休めば平気?

リンドウ 人形だし。こいつも、ただ倒れているだけだから。

ライラック よし。行こう、アメ。

アメ でも。

ライラック ここで止まっているうちに、友達の思い出、消えちゃうかもしれないよ。

アメ それは嫌! ……ごめんね、リンドウ。……フクジュも

リンドウ あたしは好きでやっただけ。

アメ ありがとう。

リンドウ 思い出救ってね。

アメ うん。ねぇ、リンドウ。

リンドウ なに?

アメ この人達の事も、よろしくね。

リンドウ (嬉しそうに笑って)うん。

ライラック ほら、アメ。早く。

アメ うん。じゃあね、またね。

リンドウ また。


    アメとライラックが去る。


15


リンドウ ……行ったよ。


    ジキタリスが起きあがる。フクジュとクチナシも起きる。


ジキタリス あいてて。リンドウ、召喚魔法まで使うこと無いだろう。

リンドウ 勢い。

フクジュ おかげであたしの活躍が完全に薄くなったわ。

リンドウ 反撃するジキタリスが悪い。

ジキタリス だって、すぐにやられちゃったらなぁ。なんか雑魚キャラ見たいじゃんか。
      (と、クチナシを見て)いいんだよ、お前は雑魚キャラだから。

クチナシ (落ち込む)

フクジュ これで、大丈夫かな?

ジキタリス 1歩前進だな。あとは、シオン次第。

リンドウ そうね。

ジキタリス しかし、(と、フクジュを見る)お前まで来るとはね? 一瞬反応に困ったよ。
      お前は待機な筈じゃ無かったっけ?

フクジュ そのつもりだったよ。

リンドウ お陰で私、待たされた。

ジキタリス お節介なお前のことだ。自分も参加したくなったんだろう?

フクジュ そういうわけじゃないよ。ねぇ、みんな。

ジキタリス なんだよ。

リンドウ ?

フクジュ ピエロの奴が動いてる。

ジキタリス あいつが? まさか。だってあいつは

フクジュ いつも吊られて動かないはずだったのに、いなくなってた。

リンドウ 冗談?

フクジュ (首を振る)

ジキタリス 何考えているんだろうな。

フクジュ 分からないけど。でも、もし悪い事を考えているようならあいつの方がシオンより……

ジキタリス 悪質だな。間違いなく。

リンドウ そうね。

フクジュ どうする?

ジキタリス ……動くか。俺達も。


    ジキタリスの言葉に、フクジュとリンドウ、クチナシも頷く。
    三人は駆け出して行く。クチナシだけが残る。

16


    照明が少し暗くなる。
    端の方にオトギリが現われる。


オトギリ クックック。気づいてたのか。


    クチナシがうなずく。


オトギリ 馬鹿なやつらだ。小細工ばかり。そうだろう?

クチナシ(にらむ)

オトギリ いい加減、お前もやめたらどうだ? 話せるんだろう? 本当は。

クチナシ なにがしたいんだ?

オトギリ 昔話をしてやろうか? 遠い昔の話だ。俺は父親からのプレゼントだった。
     そう信じられない顔をするな。どこにでもいる父親と同じように、
     あいつの父親もまるっきり娘の趣味なんて分かっちゃいなかったのさ。


    と、ピエロの人形を持った父親が現れる。


父親 ほら、アメ。プレゼントだぞ。面白いだろ? ピエロの人形なんだ。ほら、
   なかなかかっこいいと思わないか? どうしたアメ? なんだ? どうして泣くんだ? 
   アメ? どうした。おい! 母さん。アメが泣いちゃったよ!


    困り果てた顔で父親が去る。


クチナシ でも、捨てられはしなかった。

オトギリ 捨てられは、だ。俺は吊るされ、そのままになった。名前をつけられることも無く、
     見向きも去れず……人形を買うたびにあいつは名前を付けた。
     俺以外の人形には愛を注いだ。俺にはなんにもない。それでも俺はいつもあいつを見ていた。
     じっと見ていた。

クチナシ 忘れられた恨みをはらすつもりか。

オトギリ 恨み? そんなちっぽけなものだと思っているのか? この感情が。

クチナシ 行かせない。あの子の元へは。

オトギリ 止めれないさ。お前にはな。


    オトギリがゆっくりと歩いていく
    クチナシは圧倒されるように一歩二歩下がり、やがて膝をつく。


オトギリ クックックックック……


    オトギリは笑いながら去っていく。
    クチナシは膝を叩き、立ち上がる。
    照明が暗くなる。

    少女の泣き声が聞こえる。


16


    照明がつくと、少女(ツバキ)が泣いている
    やがて、シオンがやってくる。
    手には魔女の人形を持っている(客には見えないよう隠している)
    シオンの声は母親のようで、すごくやさしい。
    感じの良い音楽が流れている。


シオン どうしたの?

ツバキ (泣いている)

シオン どこか痛いの?

ツバキ (首を振る)

シオン ……恐い夢を見たの?

ツバキ (えっと、シオンを見る)

シオン だと思った。だから言ったでしょう? アンパ○マンはあなたにはまだ早いって。

ツバキ だって、顔が取れるなんて。

シオン 大丈夫なのよ、そういうお話なんだから。

ツバキ くるくる回転したんだよ。

シオン でもちゃんと「元気百倍」って言ってたでしょう?

ツバキ 絶対死んだと思ったのに。

シオン 死なないわよ。パンだもの。

ツバキ ねぇママ。

シオン なあに?

ツバキ 死んじゃったらどこに行くの?


    音楽止まる。


シオン (突然冷たく)地獄よ。

ツバキ (息を飲む)

シオン 舌をこうやってペンチで思いっきり抜かれて、針が上向いてる山の上を転げまわらされて、
    もう、血が流れまくっている間に、これでもかっていうほどの熱い鍋で煮られて、
    骨も肉も溶けるかってくらいにされて、そんな毎日を繰り返し繰り返し送るのよ。

ツバキ ほ、本当?

シオン うっそ。


    音楽戻る。


ツバキ よかった。

シオン 本当はどうなるかなんてママも分からないわ。

ツバキ そっか。

シオン でもね。アメが恐い夢を見ないようには出来るわよ?


    アメとライラックが現われる。


ツバキ どうやって?

シオン これ。


    と、シオンが手渡したのは魔女の人形


アメ あれは……

ツバキ これは?

シオン 夢を守ってくれる魔女の人形。この人形を抱いて寝るとね、
    楽しかった事を夢に見ることができるの。

ツバキ 本当?

シオン うっそ。


    と、音楽が止む。


ツバキ え?

シオン 本当はそんな気がするだけ。魔法の品とかそういうわけじゃないの。

ツバキ そっか。

シオン でもね。アメが心から願えば、この子は悪い夢から守ってくれるわ。

ツバキ 絶対?

シオン 絶対。一生懸命願って、叶わないことなんてないのよ。

ツバキ ……本当?

シオン (ニッコリ笑って)本当。

ツバキ ありがとう、ママ。

シオン いいえ。そうそう。この子には名前があるの。

ツバキ なんて名前?

シオン 追憶と言う意味の花の名前。シオン。

ツバキ シオン……(と、そのまま胸に抱えて横になる)よろしくね。シオン。

シオン おやすみなさい。


    シオンは言いながら立ちあがる。


17


シオン そして、いらっしゃい。

ライラック これが、見せたかったのか?

シオン なんの話? 私はただここで思い出を演じていただけよ。

アメ 思い出した。

ライラック アメ?

アメ 初めてお母さんがくれた人形。それが、シオン。

シオン そう。そして、ずっとあなたとは一緒だったわ。アメ。この子が現われるまでは、ね。


    反対側からスミレが現われる。


アメ スミちゃん……

シオン 一番の友達。一番の理解者。物は言わないけれど、一番そばにいる、
    たった一人の大事な……あなたが私にくれた思いは今じゃこの子がみんな独り占めしてる。
    そして、私はとうとうゴミ袋の中。

アメ ごめんなさい……。

シオン そんな言葉が聞きたいんじゃないわよ!

アメ じゃあ、どうすれば良いの?

シオン いい? よく聞きなさいよ? 今のあんたは私なのよ。

アメ え?

シオン この子にとって、あなたは一番の友達。一番の理解者。あまり喋らないけれど
    一番そばにいる、たった一人の大事な……でも、あたしだって捨てられた。
    あなたがそうじゃないって保証はどこにも無いわ。

アメ スミちゃんが、私を忘れるって事?

スミレ あたしがアメを忘れる? そんなわけ(ないでしょう)

シオン あんたは黙ってなさい! (アメに)そばにいた私でさえ忘れられたのよ? 
    遠く離れるあなたがどうしてずっと覚えていてもらえると思うの?

アメ でも、あたしは人形じゃない。

シオン どんな違いがあるって言うの? いつもオドオドして、
    相手がそばにいるだけで満足して。そんなの、私にだって出来るわよ。

アメ でも、スミちゃんは私を忘れないよ。

シオン じゃあ、なんであんたは私を忘れたの?

アメ それは……

シオン それ以上のものが現われたからよ。人間は残酷で、新しいものが現われたら
    すぐに飛びついて古い物は忘れてしまう。私だって、ライラックだって。皆忘れられる。
    あんたがそうじゃないなんて、誰にも言えないんじゃない?

アメ そんな、こと……

シオン あんたの何がこれからこの子の前に現われる人達に優っているって言えるの? 
    この子の傍にいるのが相応しいって言えるの? 遠く離れてしまうくせに。
    会いたい時にも、もう会えなくなるくせに。

アメ それは、仕方ないことだから……

シオン そうね、仕方ない。だったら、あのこがあんたを忘れることだって仕方ないことよね。

アメ それは……。

シオン 認めたくないのは辛いからでしょう? 忘れられるのが寂しいからでしょう? 
    だったら、その寂しさを忘れればいいじゃない。辛さを無くしてしまえば良いのよ。
    私にはそれが出来るわよ。この子さえ、いなくなればいいんだから。

アメ スミちゃんを……

スミレ 私がいなくなればアメは辛くないの?

シオン そうよ。あなたさえいなければ……


    シオンの手がスミレに触れる。
    アメはその様子を凝視する。
    ライラックは言葉なく二人を見ている。


アメ (小さく呟く)それだけは嫌。

スミレ アメ?

シオン なに?

アメ それだけは嫌。

シオン 聞こえないね。小さすぎて。

アメ それだけは許さない!

シオン へぇ。じゃあ、あんたは忘れられても構わないってわけ? 忘れられる寂しさに
    耐えられるって言うの?

アメ 耐えるよ。耐えてみせる。

シオン どうだか。

アメ だって……もしスミちゃんが私を忘れても、私がおぼえていればいいんだもん。


    ライラックがアメを見る。
    そして、シオンを。


アメ スミちゃんの良い所も、悪い所も、全部見てきたんだから。それを私が忘れなければ、
  私はいつだってスミちゃんに会える。それだけで、私はいい。

シオン ……本当?

アメ 本当。


    シオンは頷く少女の顔を見て頷く。
    そして、スッキリした顔になる。


シオン そう。じゃあ、何も恐くないわね。

アメ え?

シオン 恐れることなんて何も無いはずでしょう?

アメ え、あ、うん。

シオン だったらどうどうと別れを告げなさい。友達に。

アメ ……いいの?

シオン うそって言って欲しい?

アメ (首を振る)



    アメがスミレに寄る。
    逆にシオンはライラックの方へ。


ライラック お疲れ様。

シオン べつに。

ライラック 迫真の演技だったな。

シオン 演技じゃないわよ。

ライラック え?

シオン うっそ。


    シオンは強がった笑みを見せると、ライラックにアメを見るよう、うながず。


アメ スミちゃん。

スミレ なに?

アメ 私ね。

スミレ うん。

アメ 私、


    と、アメが勇気を持って言おうとした瞬間。


18


オトギリ はい、ストップ。


    オトギリが現われてスミレを引き寄せる。


ライラック お前!?

アメ あなたは!?

シオン 邪魔はしないって言っただろう!?

オトギリ お前たちの邪魔はね。でも、この子の邪魔はしないとは言ってない。

シオン ふざけるな。なんの権利があって、(邪魔をするんだ)

オトギリ 権利なんて関係無いんだよ! やぁ。こんにちは。お嬢さん。

アメ あなたは、誰?


    と、ジキタリス、フクジュ、リンドウが現われる。遅れてクチナシも。
    寝ていたツバキも、今は起き出す。


オトギリ 誰だと思う?

アメ えっと……

ジキタリス 考えても無駄さ。

ライラック そいつに名前は無いんだ。

シオン あたし達とは違う存在だからね。

フクジュ 愛されたことなんて無い人形だから。

リンドウ 忘れられた存在。

ツバキ 見ているだけの人形。

クチナシ (頷いている)

オトギリ 紹介してくれてありがとう。しかし皆間違えてるな。俺にも、名前はあるんだ。

ライラック ばかな。(と、シオンを見る)

シオン あたしが覚えている限りあんたに名前がつけられたことなんてないよ。


    アメ以外の全員が頷く。


オトギリ おいおい間違えるなよ。俺は名前はあると言ったんだ。名前を付けられたなんて言った
     覚えは無いね。他人が付けた名前?冗談じゃない。俺は、俺がつけた名前を持っているんだ。

ジキタリス 自分でつけたって言うのか? 名前を?

フクジュ 有り得ない。

ライラック どうせろくな名前じゃないね。

シオン 人形が自分で?

リンドウ 無意味よ。


    人形がざわめきたてる。


オトギリ うるさい! 俺は俺で勝手に生きる事にしたんだ。だから俺は自分に名前をつけた。
     お前らに。お前らなんかに俺の気持ちが分かってたまるか!


    オトギリの勢いに気おされ、人形達は口を閉じる。


アメ なんて、名前なの?


    アメだけが真っ直ぐにオトギリを見る。


オトギリ ……オトギリ。

アメ オトギリ。

オトギリ なんだよ。文句あるのか? 俺が自分でつけた名前だ。文句は言わせないぞ。


    アメだけが凛とオトギリを見ている。


アメ 強そうな、名前。

オトギリ 当たり前だろうが。強いんだよ、俺は。

アメ ごめんね。

オトギリ なんで、謝るんだ?

アメ ごめんね。寂しくさせて。

オトギリ やめろ! 俺は、そんな言葉が聞きたいわけじゃないんだ! 恐いだろう? 俺が。
    恐がらせてやるんだよ、お前を。それが俺をずっと一人にしたお前への復讐なんだ。

ライラック アメに手を出すな!

オトギリ だまれ! 貴様から片付けてやろうか!?


    退いてしまったライラックをかばうようにアメが前に出る。
    そして、アメだけがオトギリに近付く。
    勇気を持った少女の一歩。


アメ ありがとう。

オトギリ なに?

アメ ありがとう。そんなにも、思っていてくれて。

オトギリ なんでだよ。なんでそこでそんな言葉が出てくるんだよ。

アメ みんながね、教えてくれたの。みんなが私を想ってくれていたこと。自分勝手な私を。
  私なんかを。だから、ありがとう、オトギリ。あなたも私を想っていてくれたんでしょう?

オトギリ 俺は……違う! 俺はお前を、ただ、お前を、

アメ 私を?

オトギリ お前……と、


    オトギリがよろめく。スミレを放す。


オトギリ ……一緒にいたかったんだ。泣かせてしまった君を笑わせるチャンスがほしかったんだ。

アメ うん。


    オトギリが膝をつく。
    少女は笑顔で頷いている。


オトギリ 名前おかしくないか?

アメ うん。

オトギリ 俺、恐くないか?

アメ うん。

オトギリ 傍においてくれるか?

アメ うん。


    少女の言葉と共に溶暗。


19

    朝、
    少女はダンボールに倒れ込むように寝ている。
    ダンボールから覗いている人形達。
    ゴミ袋に魔女の姿は無い。
    魔女人形は今は、ダンボールの中に。
    ダンボールの中から覗くたくさんの人形達。
    そして、少女の近くにライラックが寝ている。
    その傍ではジキタリスとクチナシが遊んでいる。
    反対側にはフクジュとツバキ。リンドウ。
    そして、シオンとオトギリ。ようするに人形達は未だ少女の傍にいる。


    遠くで母親の声がする。


スミレ声 おはようございます。

母親声 あら、おはよう。めずらしい。どうしたの? こんな早くに。

スミレ声 ちょっと、やぼようで。いいですか?

母親声 ええ。散らかっていてごめんねぇ。

スミレ声 いえいえ。


    と、スミレが現われる。
    手を組んで、いかにも不機嫌な感じ。
    部屋を見渡すと、いきなりアメを蹴る。


スミレ おい。

アメ いやぁ。最近の政治の事はわしゃわからんよ。

スミレ おい、じじい起きろ。

アメ 小泉(濃い墨)とって言うのはあれかね? 鉛筆で言うと2Bかね?

スミレ 訳の分からないボケを言うな。こら! 起きんかバカタレが!

アメ ふあ? ……(と、スミレを見る)スミちゃん!?

スミレ おはよ。

アメ え? なんでここに? また幻か!?(と、いきなり戦う姿勢)

スミレ 誰が幻だ。落ち付け。会いに来たんだよ、あんたに。

アメ あたしに? え? なんかあったの?

スミレ あんたが言ったんでしょ。昨日電話で。

アメ なんか言ったっけ?

スミレ 「明日話すから!」って。

アメ あ、ああ。うん。……え! それで来たの? 早くない?

スミレ 何か気になったから。朝一で教えてもらおうと思って。

アメ そっか。あ。でも(周りを見れば分かるかも)


    スミレは何も周りを見ていないかのような笑顔で聞く。


スミレ で、なに?

アメ うん。えっとね。その……


    周りの人形達は、二人の様子を見守っている。
    声を出さないように応援している物もいる。
    最後の一押しとばかりに、ライラックがアメの背中を押した――


アメ 私ね、引っ越すの。

スミレ ……

アメ 滋賀県。遠いんだ。お父さんの転勤でね。急に決まって。なんか、ドラマみたいだよねって
  皆で笑ったり。でも、お父さんだけって訳にも行かなくて。大学はコッチ受けるかもしれないけど、
  とりあえず、向こうで生活。みたいな感じ。です。

スミレ そう。

アメ うん。

スミレ そっか。

アメ ……うん。ねぇ、スミちゃん。

スミレ なに?

アメ ほんの時々でいいから思い出して欲しいんだ。あたしのいたこと。ずっと忘れないでなんて言わないから。
  ほんの時々、一瞬でも、ああ、あんな奴いたなぁって。それだけで良いんだあたし。
  それだけで頑張れると思うんだ。あたしはスミちゃんのこと忘れないから。ずっと、ずっと、忘れないから。
  ああ、スミちゃん今ちょっとわたしのこと思い出してくれたかなってそれだけでわたし大丈夫だから。
  だから。……何言ってるんだろう。わたし。なんでもない。
  わすれて。今の無し。全部無し。ね。だから、そういうことです。


    アメは俯く。
    スミレは一瞬アメを睨むと、肩の力を抜くように笑って、アメにデコピンを食らわす。


アメ いたっ。

スミレ ばか。

アメ ばかって何よ。

スミレ ばかだから馬鹿って言ったの。

アメ 馬鹿に馬鹿って言うのはね、禿げに禿げって言うよりきついんだよ。

スミレ 知ってたよ。

アメ 知ってて言うなよ。

スミレ 引っ越すこと。知ってたよ。あたし。

アメ え? なんで?

スミレ おばさんから聞いた。引っ越すって決まった次の日くらいに。ほら、うち母さんとおばさんも仲いいから。

アメ そうだったんだ。


    アメは脱力してへたり込む。
    人形達も、脱力している。


スミレ でも、あんたから聞きたかったのだよ、あたしは。一番に。それは叶ったかな?

アメ うん。誰よりも早くね。

スミレ そう。やっぱり、親友としてはさ、そういうの一番に聞きたいとか思っちゃったりするわけだ。これが。


    と、スミレは近くの人形をもてあそぶ。
    ライラックの人形だ。


アメ ごめんね。言うの遅れて。

スミレ 良いよ。あんたのことだから、引越しの当日かと思ってた。

アメ 惜しかったね。

スミレ まったくだ。

アメ お別れだね。明日で。


    俯くアメの頭を、スミレは人形で叩く。


アメ いたっ。


    それはライラックの人形。少年のような少女の人形。
    スミレは人形に顔を隠すと、少し違った声で話す。


スミレ コノ バカタレ。

アメ スミちゃん。

スミレ サミシイジャナイカヨ。バカ。アンタガイナクチャ サミシスギルジャンカヨ 
    ドウシテクレルンダ コノ バカ。

アメ ごめん。

スミレ (叩きながら)ワスレテナンテ イウンジャナイヨ バカ オボエテルニ キマッテルダロ? 
    アンタミタイナ バカ ワスレタクテモ ワスレラレナイヨ バカ。

アメ 痛いよ。スミちゃん。

スミレ ばか。

アメ うん。……ありがとう。

スミレ ふん。卒業旅行は滋賀で決定だからね。

アメ え?

スミレ あたしが行くまでに色々調べておきなさいよ。退屈させたら許さないから。

アメ うん。


    スミレは人形を乱暴にダンボールに入れると、立ちあがり腕まくりする。


スミレ さぁ、じゃあさっさとかたして遊びに行くわよ。

アメ ええ!? 

スミレ こんなの二人でやれば早い早い。すぐに終わるよ。

アメ いいの?

スミレ 当たり前でしょ。ほら、立って。

アメ うん。


    と、スミレがさしのばした手をアメが握る。
    それはまるで握手のようで。


スミレ (ぎゅっと握る)よろしくね。

アメ うん(ぎゅっと握る)もちろん。


    瞬間、悪戯好きの人形達がカーテンを引く。
    眩しい朝の光が流れこみ、二人は思わず目をしかめた。
    お互いの顔を見て、笑う。
    そして、ダンボールに向かう二人。
    人形達が見守る中、最後の共同作業が始まった。