作 楽静
登場人物
佐藤 エイコ 主人公
ミサキ 主人公の友達。ドジな秀才。
シモダ 主人公の友達。お調子者。
母 主人公の母
ダイチ 通行人A
高橋先生 主人公の担任。数学教師。
1
エイコの部屋。
ドアを叩く音。
母 ねぇ、エイコ。ちょっと入ってもいい?
エイコ だめ。
母 ちょっとだけだから。話がしたいの。
エイコ べつに。母さんと話すことなんてないし。
母 ほら、学校のこととか。
エイコ いいんだよ。もう。
母 いいってこと(ないでしょ)
エイコ いいから放っておいてよ!
母 アナタは何にも悪くないじゃない。
エイコ うるさい!
舞台中央、一人の少女が椅子に座っている。
少女は一人で何かを読んでいる。
それは一冊のノート。
エイコ 小さい頃、物語を書くのが好きだった。自分の理想どおりの主人公が、
理想の異性と付き合うお話。今読んだらそれこそ顔から火が出そうなほど
恥ずかしい話を毎日のように書いていた。書いた物語を友達に見せると、
友達はみんな決まって言ってくれた。「面白いね」と。だから私は物語を書いた。
物語を書くのが好きだった。どんなに自分が自分の理想とした女の子になれなく
たって、物語の中ではなれる。それでよかった。私は物語を書ければよかった。
よかったはずなのに。……たった一人でいるこの部屋の中で、私はあの日、
あの時から物語を書けないでいる。
ノートを見る。
そのままノートを破ろうとするその時、ノックの音が聞こえる。
エイコ だれ? ……母さん? 入ってこないでって言ったでしょ?
椅子から少女が立ち上がる。
驚いた顔でドアを見る。
エイコ あなたは……
あたりが一瞬にして暗くなる。
そして、両端に少女が浮かび上がる。
2 2年前の某日
教習所。
緊張感ある音楽。
二人の少女が原付のテストの結果を見ている。
ミサキとシモダである。
お互い、自分の番号を片手に持ち、声にしている。
同時に
ミサキ 45番、45番、45番、もうすぐ20番台か、45番、45番、45番、
(と、目をつぶって)来い! よし来た! (と、本当に数字があったので)え?
来た? 本当に来た! やったぁ!
シモダ 46番、よし、来るよ。46番来ちゃうよ、ほら! あ、まだ出ないのか。
46番来るよね。いや、出来てたもんあたし。うんできてた。絶対出来てたって
(と、ミサキの声が聞こえ)え? うそ、来た!?(と、自分も見て、自分の
番号は無いことを知る)落ちちゃった……
喜ぶミサキ、落ち込むシモダ。
途端世界はエイコの部屋になる。
エイコの服は少し若々しい(上から羽織るだけ系)
エイコ で、ミサキは受かったけど、シモダは落ちちゃったわけだ。
ミサキ そういうこと。やっぱり、日ごろの行いの差だよねぇ。
シモダ よく言うよ! だまされちゃ駄目よエイコ、こいつカンニングしたんだから。
エイコ カンニングしたの!?
ミサキ してないよ! (シモダに)いい加減なこと言わないでよ。
シモダ じゃなきゃミサキが受かるわけない。
エイコ そんな決め付けなくても
シモダ だって、「原付のテストなんて一夜漬けでいいよ〜」って言ってたんだから。
ミサキ だからちゃんと合格したでしょ一夜漬けで。
シモダ おんなじ台詞を言った数学のテストは5点で、免許は合格点なんておかしい!
ミサキ 数学と一緒にしないでよ。あんなん、勉強したって出来ないじゃん。
シモダ うわ、高橋が聞いたら泣くでしょうね。
ミサキ 辞めてよ、あんな数学しか相手のいない奴の話なんて。
エイコ そっか。ミサキも数学高橋だっけ。
ミサキ そうだよ〜二年連続。あたし苦手なんだよね、あのせんせ。
エイコ 熱いからね。
シモダ いい先生じゃん。
ミサキ いいせんせだけどさ。(エイコに)ね。
エイコ まぁ、あたしは担任だからさ。いい先生だと思うよ。本当。でも、ね。
ミサキ ね。
シモダ ああ。あるね。確かに。
ミサキ こないだも数学の授業中にさ、
と、高橋がやってくる。
高橋 ここで、Xを求めるには、だ。……ところで、X線といえば電磁波だよな。
レントゲンという人が1895年の末に発見したことは皆も知っているだろう。このため、
レントゲン線と呼ぶこともある。だが、なぜか日本の法令の条文上ではカタカナを
用いて「エックス線」と表記するのが原則となっている。そもそも、エックス線と
何故呼ばれていたかというと、始めその性質が全く謎だったからなんだ。そこで、
未知のものとしての意味を持つXをその呼び名につけたわけだな。無理やりに
日本語訳すれば「謎線」だ。で、本当ならエックス線って言うのは、その性質が
分かった瞬間から取れていいはず。いいはずなんだが、それが定着してしまった
わけだ。なんとも、レントゲン氏は可哀想じゃないか。そして! 発見者など
取るに足らないといわんばかりにみなの心に残ったX。素晴らしい。そんなXへの
畏怖の気持ちを持ちながら、問題を解いてみてくれ!
と、高橋は去る。
ミサキ 解いてみてくれじゃないだろ。解いてみてくれじゃ。
エイコ たまに解説になってないもんね。
ミサキ 本当だよ。
シモダ 数学が出来ない理由にはならないと思うけど。
ミサキ うっ……別に、数学の話は今はいいでしょ。
シモダ 免許だっておんなじ。出来るわけ無いって言ってるの。
ミサキ 知らないの? 免許はね、ハートなのよ。
シモダ ハートぉ?
ミサキ 心でしょ、こ こ ろ。歩行者のことを考え。他の運転手の事を考える
心があればだれだって取れるもんなのよ。心の無い誰かさんと違って。
シモダ 誰が心無いって!
エイコ はいはい。そこまでにしなよシモダも。人の家まで来て喧嘩しないでよね。
シモダ だって、ミサキがさぁ。
ミサキ いいから、こんな負け犬放っておいてさ、
シモダ 誰が負け犬だって!?
ミサキ (チラッと見てから)こんな負け犬放っておいて、免許取ったことだし、
どっか行かない?
シモダ 二回も言うし……
エイコ どこかって?
ミサキ 後ろ載せたげるから。海でもいこうよ。
エイコ 原付って二人乗りできたっけ?
ミサキ 乗れるでしょ? 大きめなの買ってもらうつもりだから。
エイコ 親出してくれるの?
ミサキ うん。あたしに任すと保険とか適当にしそうだからって。実際よく知らないしね。
エイコ いいなぁ。
ミサキ だけどガソリン代は自分で出さなきゃいけないからバイトしないと。
エイコ ああ。ガソリンかぁ。高いんでしょ?今。
ミサキ だってね。よく分からないけど。
シモダ フッフッフッフッフ。
ミサキ なに?
エイコ どうしたの?
シモダ とうとう見つけたわよ、カンニングの証拠を。
ミサキ はぁ? 何言ってるのあんた。
エイコ 証拠って?
シモダ その知識のなさがカンニングの何よりの証拠! さぁ、神妙にお縄につくことね。
ミサキ 何言ってんの。誰が知識無いって?
シモダ 全然無いでしょ! 何が「乗れるでしょ?」よ。原動機付自転車は二人乗りは
出来ません!
ミサキ 何言ってるのよ。うちのクラスのヤツ、こないだ友達後ろに乗せて走ってたよ?
シモダ 違法だからそれ。
エイコ でも、時々走ってるの見るよ?
シモダ まぁ、犯罪よねつまりは。
ミサキ 大丈夫だよ。ヘルメットするし。
シモダ だから、そういう問題じゃないんだって!
ミサキ あれだよ。自分が免許取れなかったからってすねてるんだ。
シモダ 違うわよ!
ミサキとシモダが追いかけっこをしそうなところで、二人は固まる。
エイコ ミサキとシモダは小学生の頃からの友達だった。何かあると三人であたしの家に
集まっては夜遅くなるまでだべってた。ミサキは頭は悪いけど要領がいいお調子者。
シモダは勉強できるくせに変なところでドジをする損な性格。そして、あたしは
二人の中間。二人はあたしの物語の始めての読者だ。……そして私の物語の
最後の読者になる。なんてことになるなんてすこしも気づかないで、あたしは、
ただ、いつものように二人の反応を楽しんでた。
よーし、じゃあ二人でどっか行こうか?
ミサキ お〜エイコ、話せるねぇ。
シモダ だから、違法なんだって。
エイコ シモダは留守番でね。
ミサキ シモダは留守番で。
シモダ 怪我しても知らないからね。
エイコ あ、拗ねちゃった。
ミサキ いつものことでしょ。すぐにケロッとなるって。
エイコ そっか。
ミサキ で? どこに行く?
エイコ え? 本気?
ミサキ もちろん。
エイコ だって、違法なんでしょ?
ミサキ 大丈夫だって。みんなやってるじゃん。
エイコ そりゃそうだけどさ。
ミサキ ランド行かない?
エイコ ランド? なんで?
ミサキ 原付で行けば時間気にしなくても済むじゃん。
エイコ なるほど!
ミサキ あたし、一回完全に閉まるまでいてみたいんだよねぇ。
エイコ あたしも。
シモダ あたしも!
ミサキ あれ? シモダは留守番でしょ?
シモダ いいじゃん。皆で行こうよ。
ミサキ いいけど、行きも帰りも一人よ?
シモダ もういい! 馬鹿! 事故っても知らないからね!
ミサキ 大丈夫。あたし運転絶対うまいから。
シモダ むしろ事故れ!
シモダが去る。
ミサキ いじけて帰っちゃった。
エイコ もう。いじめすぎ。
ミサキ だって、シモダってば試験場の帰り道もずっと『何で落ちたんだろ』とか
ぐちぐち言ってるんだよ? あたしいらいらしちゃってさぁ。
エイコ でも、結構傷ついてるみたいだったよ。
ミサキ お土産買って行けばいいっしょ。クッキーとか。好きだし。
エイコ それもそうか。
ミサキ そう。ってわけで、行くよね、ランド!
エイコ うん。
ミサキ よーし、では、しゅっぱーつ!
3
途端に照明は変わり、ある日の夕方へ。
エイコ え? え?
ミサキ というわけで、今日、行くから。
エイコ どこに飛んだの?
ミサキ 数日後。
エイコ そんな簡単にワープしないでよ。
ミサキ だって時間ないからさ、はしょるところは、はしょらないと。
エイコ だけど原付は? 買ったの。
ミサキ もちろん。
エイコ どれ?
ミサキ じゃーん!
と、ミサキは椅子を指す。
もしくは空間をさす。
エイコ これ?
ミサキ これ。
エイコ なにこれ?
ミサキ 心の目で見るの! そうすれば、見えてくるから。
エイコ 心の目で?
ミサキ 心の目で。見えないとか、言わないよね?
エイコ わ、分かった。原付だ。本当に買ったんだ!?
ミサキ まぁ、買ってもらった。だけどね。中々いいでしょ。後ろも乗りやすそうなの
選んだんだよ。
エイコ へぇ〜。
ミサキ あと、はい。(パント)
エイコ なにこれ?
ミサキ ヘルメット。一応さ。つけといたほうがいいでしょ。
エイコ あ、そうだね。
ミサキ では、レッツゴー!
エイコ おー
と、暗くなる。
原付に乗る二人。
エンジン音。
上手に人の姿が浮かび上がる。
ダイチである。両耳にイヤホンをつけている。
中央にも原付の姿が浮かび上がる。
少女らは二人とも楽しそう
エイコ よーし、スピードガンガン上げて!
ミサキ オッケーボス! 風になります!
エイコ 風気持ちいいねぇ〜
ダイチ あーあ。なんかいいこと無いかなぁ。ゲームも一通りクリアーしたし。
それにしても最近のRPGは絵がきれいになったわりにストーリーが味気ないの
多いよなぁ。って、すんげぇ駄目人間だな俺。ほんのちょっと独り言しゃべった
だけなのに、駄目さがにじみ出てる。あーあ。いいこと無いかなぁ。
と、舞台中央をふと見て、
ダイチ あ。あれ百円じゃね? いや、でも近づいていってメダルとかだったら嫌だなぁ。
どうすっかな……いや、こういうときは行くっきゃないっしょ。
ダイチが中央に移動。
百円を拾う。
ダイチ やった、百円だった。ラッキー。
と、少女二人の姿が現れる。
ダイチ って、全然ラッキーじゃねえじゃん。
少女ら二人の悲鳴と共に、ダイチと少女ら二人は消える。
クラクション。
事故の音。
救急車の音。
4
救急車の音が去ると、電話の音が流れてくる
エイコの母親が走ってきて電話を取る。
料理途中だったのか、手を拭きつつ。
母 もしもし? はい。佐藤ですけど。はい。そうです。ええ。はい。エイコは娘です。
そうです。母親です。……あの、娘が何か? 警察? エイコが何かしたんでしょうか?
事故? 病院? ……そんな……あの、エイコは無事なんでしょうか? はい。はい。
今から出ます。どちらの病院ですか? はい。はい。分かりました。
ありがとうございます。失礼します。
電話をおろす。
母 エイコ……本当ばかなんだから。
母親が去る。
暗くなると、共に中央に明りがつくとエイコがいる。
服は初めの服になっている。
エイコ 車と車の間から、男の子が飛び出してきた。どっちが出したのか分からない
叫び声が響いて……次の瞬間、あたしは吹っ飛ばされて……それから覚えてない。
エイコの姿が消える。
離れた場所にミサキが現れる。
ミサキ 人が目の前に現れた途端、慌ててハンドルをきった。何とか避けたのと、
背中にあったエイコの感触がなくなったのがほとんど同時で……次の瞬間、
原付は横倒しになって、あたしも地面に転がってた。何とか起き上がった
その目の前でエイコは動かなくって。誰かが救急車を呼ぶ声をどこか違う場所で
聞いてた。
離れた場所にダイチが現れる。
ダイチ 気がついたら、女の人が二人、地面に転がってた。俺は!……って、
体中触ってみたけど異常なし。……携帯で救急車を呼びながら、
凄く罪悪感を感じてた。俺が、飛び出さなきゃこんなことには……
ダイチが消える。
ミサキ 私が運転さえしなければ……
ミサキが消える。
エイコの姿が現れる。
エイコ 私が、ミサキをあおらなければ、こんなことにならなかった! そう、思った。
病院でお母さんが泣いて。それから思い切り叩かれた。私が悪いんだ。泣きながら
何度も何度も謝った……退院してから、ミサキはあたしを見るたびに
申し訳なさそうな顔をするようになった。後から免許を取ったシモダもなんか
ぎこちなくなって……気がついたら。学校にも行けなくなったまま、
たった一人になってた。そして、たった一人でいるこの部屋の中で、私はあの日、
あの時から物語を書けないでいる。
5
ノートを見る。
そのままノートを破ろうとするその時、ノックの音が聞こえる。
エイコ だれ?
椅子から少女が立ち上がる。
驚いた顔でドアを見る。
エイコ 母さん? 入ってこないでって言ったでしょ?
そこには、高橋先生がいた。
エイコ 先生。
高橋 お母さんからね、電話があったんだ。
エイコ そうですか。
高橋 お母さん、心配してたぞ。
エイコ そうですね。
高橋 佐藤、
エイコ なんですか?
高橋 先生の胸に飛び込んで来い!
エイコ はぁ?
高橋 お前がつらいのはよーくわかった。学校に行かないっていっても、
不良になるわけじゃなく引きこもっていることも。だから、先生の胸にドーンと来い。
エイコ だからの意味が分からないんですけど。
高橋 泣きたいときには泣くのが一番だろ!
エイコ 別に泣きたくなんてないです。
高橋 いいからぶつかって来い! じゃないとこっちから行くぞ!
エイコ 来ないでください!
と、母が現れる。
母 先生!
高橋 あ、お母さん。どうしました?
母 いえ、あんまり大きな声なんで。あの近所の手前もありますから。なるべく、その。
高橋 ああ、すいません。ほら、佐藤、大声出しちゃだめだろ。
エイコ もういいですから帰ってください!
高橋 お母さんに聞いたぞ。佐藤、お前、お前が運転して事故ったんじゃないのに、
責任感じちゃって学校行けないんだろう? お前は悪くないんだから。
エイコ そんなことありません。
高橋 まぁ、そりゃあ二人乗りをしたのは悪かったことだが。
でも、もうすんだことじゃないか。
エイコ もういいですから! 放って置いてください。
高橋 だがな佐藤、
エイコ 放って置いてください。
母 先生、今日はこの辺で。
高橋 そうですか? 分かりました。
母と高橋が去る。
エイコはドアを閉めるふり。
エイコ 私が悪いんじゃん。二人乗りが駄目なんて知りもしないで、せかしてばっかで
……最低だ、あたし。あたしのせいで、ミサキは……
6
と、いつの間にかドアにミサキが立っている。
ミサキ なんかさぁ、そういう風に言われると、あたし死んじゃったみたいじゃない?
エイコ ミサキ!?
ミサキ 暗くなられても困るんだよねぇ。
そういうのってなんかパフォーマンスくさいしさぁ。
エイコ 別に私、
ミサキ 「私、こんな反省してます。見て見て」っていうのが露骨過ぎて。
エイコ そんな。わたし、そんなつもりじゃ……
ミサキ 自分の方が悲劇のヒロインみたいに思ってるんでしょ。違うからねそれ。
ヒロインは、あたしだから。
エイコ ミサキ、別にわたしそんなつもり
ミサキ あんたになくたって、そうやって閉じこもってられると皆がそう思うのよ。
「あの子は可哀想。悲劇のヒロインなのね」って。別に事故ったのは
あんたのせいじゃないじゃん。
エイコ 私のせいだよ。
ミサキ 違うね。あたしがドジって、あんたはそれに乗ってた。ただそれだけでしょ?
エイコ でも、
ミサキ 「でも」なんて聞かないよ。悪いのはあたしで、あんたはむしろ被害者のはずでしょ。
エイコ だけど、
ミサキ 「だけど」じゃない。被害者がそんな加害者みたいに引きこもってられるとさ、
はっきり言って迷惑なんだよ。
エイコ 迷惑?
ミサキ ああ。迷惑だね。そんな暗い顔されちゃったらさ、
……謝るにも、謝れないじゃんよ。
エイコ ミサキ?
ミサキ ……ごめん。
エイコ なんでミサキが謝るの?
ミサキ 迷惑かけたのはあたしのせいなのに、怖くて、来れなかった。あんたのこと、
まともに見れなくって。逃げてた。だから、ごめん。
エイコ いいよ、私だって。ごめん。
ミサキ あんたは悪くないだろ。
エイコ ううん。ごめん。
ミサキ うん。……よかったぁ。
ミサキが座る。
エイコ なにが?
ミサキ 怒鳴られたら、どうしようかって思ってた。
エイコ 怒鳴らないよ。
ミサキ いきなり物ぶつけられたりさ。逆に泣き喚かれたり。色々想像しちゃって。
まぁ、散々脅かされたから。
エイコ 誰に?
と、シモダが出てくる。
シモダ どうやら一件落着かな?
エイコ シモダ!?
シモダ 久しぶり〜。元気してた?
ミサキ シモダ! でたらめばっかり言って! エイコ、何も変わって無いじゃんよ。
シモダ そう? そんな変わってなかった?(エイコを見る)
エイコ 少しは変わったよ。
シモダ ほらね。よかったでしょ。覚悟しておいて。
ミサキ もういい。あー安心したらなんか腹減ったな。よし、久々に三人で出かけようか?
エイコ 今から?
ミサキ 大丈夫。ほら、足があるから。
シモダ お任せあれ。
エイコ え、もしかして。
シモダ とったのよ。原付じゃなく、車のね。今度は、もちろん二人乗りも出来るわよ。
ミサキ 「あんたには負けない」ってすごい剣幕だったんだから。
シモダ ふん。
ミサキ さ、行こう?
エイコ あたし、その、車は、
ミサキ 怖いの?
シモダ 安全運転するわよ。
エイコ そうじゃなくて……道路を走るのが、あんまり……ミサキのせいじゃないから!
これ、あたしの気持ちの持ちようって奴なんだし。
ミサキ そんなこと言ったって、
エイコ さっき謝ったんだから。ね?
ミサキ ごめん。
エイコ ううん、変なこといって、ごめん。
ミサキ じゃあ、あれだ。歩いていこう。駅の近くでなんか食べるとか。
それならいいでしょう?
エイコ う、うん。
ミサキ ね、こいつは置いていけばいいから。
シモダ おい!
ミサキ あれだよ。自分が免許取れたからって自慢したいんだ。
シモダ 違うわよ! 車持っているんなら乗せろって言ったのはあんたでしょ!
エイコ よーし、じゃあ二人でどっか行こうか?
ミサキ お〜エイコ、話せるねぇ。
シモダ だからなんでそうなるのよ。
エイコ シモダは留守番でね。
ミサキ シモダは留守番で。
シモダ あたしも連れてってよ〜。
と、ミサキがエイコに手をさし伸ばす。
エイコが戸惑いつつも、その手を握る。
シモダが反対の手を取る。
光が溢れる。
罪は消えない。
傷は薄れない。それでも、
前を向いていたいと、誰もが願うのだろう。
物語がまた始まった。
完
※ 当然ことですが、作中に登場する先生は面白みのためのデフォルメです。
数学の先生に対する他意はございません。
交通安全高校生大会。 この台本は、その大会に参加するために書かれた作品です。 20分という少ない時間の中で、 どこまでテーマを掘り下げようか。 どこまで退屈されないものにしようか。 そんなことを考えながら作りました。 そのため、実際に事故の経験がある人にとっては 不快な部分もあるかもしれません。極力避けるようにはしたつもりですが、 筆の及ばないところがある場合は、御容赦ください。 高校生という若い体で無茶な運転をし、そして事故を起こす。 安全運転をしていたのに、事故にあう。もしくは巻き込まれる。 事故という現象をなくすことは不可能に近いのかもしれませんが、 こうした大会が開かれることによって、 少しでも皆が意識し、減らすよう努力できたら……いいですよね。 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 |