赤池乃愛(あかいけのあん)が本気(マジ)な理由(ワケ) 本来の演劇部(スラッシュの後は、作中脚本の中の配役)   部長/黒子1 2年生  副部長/副部長 2年生 男部員1/金城   1年生 男部員2/銀次   1年生 女部員1/銅島   1年生 女部員2/母    1年生 女部員3/梅    1年生 女部員4/黒子3  1年生 女部員5/リョータ 1年生 女部員6/彩子  2年生 女部員7/黒子2 2年生 女部員8/松子  2年生 女部員9/竹美  2年生 女部員0/赤池  2年生 脚本「姉弟らしさの作り方」 赤池乃愛 演劇部 部長二年生。突っ走る人情派。 副部長  演劇部 副部長二年。冷静に事を進める。 金城   演劇部1年生。おかまっぽい部員。 銀次ワタル   演劇部1年生。機械いじりが好き。中2病 銅島   演劇部1年生。アホの子。 母    リョータの母。おおらか。 リョータ 小学6年生。ちょっとすれた男の子 彩子   高校二年生。言いたいことが言いにくい。 松子 生徒会長 2年生 三期連続当選を狙う生徒会長。 竹美 副会長 2年生  梅  会計  1年生  黒子1 演出。 黒子2 幕の操作や、揺れを押さえる。 黒子3 幕の操作や、揺れを押さえる。      とある演劇部の、秋と夏の物語。      演劇部の時間軸では秋。脚本「姉弟らしさの作り方」では夏。      演劇部の世界では主に練習場所を。脚本の世界では、公園、駅前、道ばた、等を行き来する。 1 秋のある日。      演劇部員の練習場所。場転がしやすいために運びやすい黒板。他にも舞台で使う大道具、小道具が転がったりしている。      幕が上がると、演劇部員達(男部員1&2、女部員1〜2、4〜7)がそれぞれストレッチをしている。      副部長と女部員0は黒板にスケジュールを書いている。      やって来る部長。制服姿。製本された台本の束を抱えている。 部長 集合〜。そんなわけで、今回の秋大会&文化祭のお芝居は、こないだの出来事を脚色して舞台化しますってことで、脚本です! 女部員1&2&6&7 おー 女部員5 (と、女部員4に)脚本出来たって。 女部員4 (と、ストレッチを止めて)おー。ようやくか。 女部員6 イケさん。これ、もってって良いの? 部長 一人一部ね。      と、部員達はそれぞれ台本を取ってくる。誰かにとってもらったり、投げてもらったり。 部長 まぁ、実際の話を元ネタにする理由は分かってると思うけど、 女部員6&7 時間がない。 男部員1 もう、九月ですからね。 女部員0 大会来月だよ。早っ。 副部長 思わぬ事件で時間食っちゃったから。誰かのせいで。      と、何人かは部長を見る。 部長 まあ、終わったことだし。だから、セットは簡易にして、場面転換なんかも、 なるべく簡単にしていこうかなって思います。 副部長 あんまりにも簡単だと、どこだか分からないんじゃ無い? 部長 そこは、やってみて気になるところがあったら直す感じで。とりあえず、こないだの出来事を今の人数でやれるように脚色してみました。 女部員7 本人の許可は? 部長 取ってます!  女部員0 さすがに取らなきゃ出来ないっしょ。 女部員7 そりゃそうか。 部長 で、ある程度は本人に演じてもらおうと思ってたんだけど、問題があります。生徒会の役とか、子供と、母親と、私の友達。   これらの役は部員の中からやってもらわないといけない。 男部員1 そりゃそうですよね。 部長 って、ことで。数人の本人役は合体させて、女の役はくじを用意しました〜! どうぞ!      と、女部員3、8、9がくじの乗った机を押してやってくる。 女部員3&8&9 じゃじゃーん。 女部員1&2&5 おおーー。 女部員4 おー。 女部員8 制作時間3時間! 女部員9 着色3日! 女部員3 制作人員3名の、名付けて、 女部員3&8&9 「女の配役運任せ」くじ〜 男部員1&2 え、男は? 部長 二人しかいないのにくじ引いてどうすんの。自分の役やんなさいよ。台本に役の番号で書いてあるから。 男部員1 そうですね〜。 男部員2 ういーっす。(と、台本を見る) 部長 はーい。じゃあ、ちゃっちゃと決めるよ。まずは、副部長から。 副部長 あたし? まあ、いいけど。(と、一番長いくじを引く) 副部長 (と、くじを引いて)……副部長! って、自分の役かよ! 女部員4 (しれっと次にくじを引き)何も書いてないんですけど、 部長 あ、それはずれ。役なし。黒子。 女部員4 うわ〜最悪〜。 女部員8 (と、素早くくじを引き)私、生徒会長、松子! 女部員9 (と、慌ててくじを引き)私、副会長の竹美! 女部員3 (と、急いでくじを引き)あ! 生徒会会計の梅! 女部員3&8&9 これって運命!? きゃーー(と、大きく喜ぶ) 女部員7 すっごい作為を感じるけど……(と、くじを引き)って、あたしもはずれだ〜。黒子二人目〜。 部長 大丈夫。あたしも、黒子やる予定だから。 女部員0 (と、くじを引き)部長! 部長 それ、あたしの役。 女部員0 あたしがイケさんを演じるの〜? うまく出来るかなぁ。 女部員2 (と、くじを引き)母!? ……うわぁ。自信ない……。 女部員1 (と、くじを引き)部員3! って、3!? 1、と、2は? 男部員2 俺!2! 男部員1 俺、1! 副部長 じゃあ、残りのくじが?      女部員5と、女部員6がくじを引く。      それぞれ女部員5側弟、女部員6側は姉と、くじの結果は分かるが、2つのくじはひもか何かでくっついたまま。 女部員6 ちょっと、不良品じゃない? 女部員5 くっついたままだ。 部長 いいんだよそれで。(と、歌舞伎風に)伸ばした先に、つないだ縁が、切れたとあっちゃ、この芝居。   縁起が悪くて、あ、し〜かた〜ねえだ〜ろ〜。(と、見得を切る)      女部員7→黒子2が早速拍子木を打つ。 部長 さあ、始めるよお前たち。 部員全員 はい!      部員達は脚本を持ち、それぞれに見得を切る。      この際、女部員4〜7、は去る(着替えのため)残ったのは、部長、副部長、男部員1&2、女部員1〜3、8〜0 舞台の全員 時は2013年、 部長 頃は夏 副部長 日は夕(ゆう) 男部員1&2 夕は5時、 女部員0 校庭に 影おちて、 女部員1&2 アブラゼミ 身を潜め 女部員3&8&9 人々が、町をゆき、 副部長 空、赤々と燃え。 部長 すべて世は事もなし。 舞台の全員 すべて世は、事もなし!      音楽と共に登場人物が去って行く。副部長は自分のくじを見て、部長を見る。振り切るように去る。 2 ある夏の日の待ち合わせ。      蝉の鳴き声。昼。黒子2と 部員4→黒子3 が揃って浮かび上がる。黒子3は、黒子2の拍子木を受け取ると、鳴らす。 黒子2 物語は、演劇部部長である赤池乃愛が、小学校時代の友人、白井彩子に呼び出されたことから始まった。      黒子3が拍子木を打つと、女部員6→彩子 が出てくる。私服姿。反対側から女部員0→赤池 が出てきて手を振る。 赤池 久しぶり〜。元気? 彩子 うん。ごめんね。夏休みだからって思って。部活だったよね。 赤池 いいのいいの。珍しいね。彩子から連絡くれるなんて。いつもこっちからなのに。どうしたの、学校で何か……。   いじめ!? 女子高のいじめってきつそうだもんね。え、大丈夫? 彩子 大丈夫。なにかあったってわけじゃないんだけど。……あのさ。イケさんってお姉ちゃんだよね? 赤池 うん。弟と、妹がいるけど? 彩子 男の子ってさ、 赤池 男出来たの!? え、なにで出会ったの? フェイスブック? Line? 彩子 じゃなくって、あの、共学ってさ。どんな感じなの? 赤池 は? 彩子 ほら、中学から女子ばかりの環境でしょ。あたし。あまりイメージできなくて。やっぱり、男の子って小学生とは違う? 赤池 まあねぇ。って、おいおい。急に共学の男子が気になるって、そういうこと? 彩子 え? 赤池 わかった! 任せなさい。あたしが何とかする。 彩子 な、なんとかって? 赤池 やっぱりね、女子高だとあれでしょ。あんまり男の人と触れ合う機会無いから、   いざ話そうとするとちょっと困っちゃったり? でしょ。 あるあるある。大丈夫。任せて。 彩子 ちょっと、イケさん? 赤池 大船に乗ったつもりでどーんと、任せなさい!(と、意気揚々と去る) 彩子 ちょっと、あの、話を聞いて〜(と、赤池を追いかけて去る) 3 演劇部室で作戦会議@      赤池と彩子が去ると同時に、ある夏の、演劇部室が広がる。      部員の席なんてものは特になく、黒板代わりの移動式黒板に好き勝手な文字。      副部長、男部員1→金城、女部員1→銅島、男部員2→ワタル。      置いてある衣装や大道具で演劇部の空間だということがわかる。      ワタルは何かをハンダ付けしている。部長が走り込んでくる。 赤池 って、ことなんで、あんたたちには協力してもらいます。 副部長 どういうことだか良く分かんないんだけど。 銅島 今日、秋の大会の台本決めるって話じゃなかったでしたっけ? 副部長 生徒会に提出する書類のこともあるし。いい加減決めないと。 金城 もう八月ですしね。 銅島 そうですよ〜。いい加減決まらないと、本番までに台詞が覚えられないですよ。 ワタル ちょっと、机揺らさないでくれる? 銅島 って、ワタル。さっきから何作ってるの? ワタル 指向性スピーカー! 銅島 なにそれ。 ワタル 指向性の、スピーカー! 銅島 日本語でしゃべれよ。 ワタル 日本語だよ! 赤池 はいはい、そんな話よりも、恋愛相談のほうが大事! 金城 えっと、たしか、部長の友達が?  銅島 「男の子に慣れたい」と言ってきたんですよね? 副部長 友人としては、是非とも協力したいってこと? 赤池 でも、あたしの男の知り合いって言ったら、金城か、ワタルしかいないじゃん? で、どちらがましだと思う? って話。 副部長 どっちもどっち。 銅島 ですよね〜。 金城 ちょっとちょっとちょっと、待って。何その言いぐさ。酷くない? 赤池 酷いと思う人〜。 金城 はい!(と、手を上げ)……ちょっと、ワタル! ワタル え? ごめん聞いてなかった。 赤池 だって、金城って、半分女みたいなもんじゃん。 副部長 ああ。きんさんは違うよね。 銅島 うん。男違う。 ワタル まぁ、お前は違うよ。 金城 失礼! ちがくない! 男! ちゃんと。完、全に男! 赤池 彼氏彼女で言ったら、迷うよね。 金城 彼氏です! 迷いません! 赤池 で、選択肢は二つ。これらよりもましな男を見つけるか、これらでどうにかするか。 副部長 クラスの男子は? 赤池 そこまで気安く頼めるような仲はいないんだよね。それに、変に期待させちゃったら可哀想だし。 銅島 期待って? 副部長 脈あるかも、とか? 銅島 (納得して)あ〜。 赤池 その点、演劇部員ならさ、いいよね。気楽で。だって、 副部長 期待しようが無い。 銅島 (深く納得して)あ〜。 金城 酷い。 赤池 ってことで、金城、いいよね? 金城 どうせ拒否権ないんですよねっ。 赤池 ないよ。 銅島 部長! あたし! あたしも一肌脱がせて下さい! 副部長 いや、あんたは女だろ? 銅島 そんなものは格好でどうにかなります! 金城 銅島さん、男装でもするの? 銅島 大丈夫! 似合う! 赤池 うん。まーいいか。 金城 いいのかよ。 副部長 あたしはパス。秋大会の台本探さないとならんし。 赤池 そっか。任せた。あと、ワタルもだからね。ワタル? 銀次ワタル! ワタル (ハンダ付けしていた手を止め)え? 赤池 ほら、いい加減ゲームするの止める。 ワタル ゲームじゃなくて、機械工作! 赤池 はいはい。じゃあ彩子に電話しておくから。いいかお前ら、次の日曜は、必ず空けておくんだぞ! 返事は? 副部長以外の部員 ラジャー!    辺りは暗くなる。 4 電話      電話の音とともに、彩子がやってくる。袖に向かって。 彩子 ごめんなさい。友達から。……はい。      赤池が浮かび上がる。 赤池 あ、彩子? 今大丈夫? 彩子 どうしたの電話なんて珍しいね。 赤池 いやぁ、あんたメールだと返信遅いから。 彩子 ごめん。 赤池 いいのいいの。とりあえず、男、用意したから。 彩子 え? 赤池 いつ会う? 今度の日曜で良いよね。      と、リョータがやってくる。私服の小学生。少しすれた風にも見える。 彩子 え、あの、今度の日曜って25日? あの、 赤池 まあ用意したって言ってもそんなに頼りになるアレじゃ無いけど、でもいないよりましだと思うし。 慣れるには早いほうがいいでしょ? 彩子 えっとね。25日は、 リョータ 25日……。 赤池 うん。じゃあ、25日に、駅前の。こないだ待ち合わせた所に連れて行くから。11時くらい? 集合でよろしく。 彩子 あ、うん。11時。よろしく。 赤池 じゃあ。      赤池が去る。 リョータ 日曜、出かけんの? 彩子 うん。その、 リョータ 食事は? 行かないんだ? 彩子 ……ごめん。約束してたの、今度の日曜……だった、よね。ごめん。 その、ごめんね。 リョータ べつに。どうでもいいよ。 彩子 …… リョータ ご飯、用意できたって。(と、去る) 彩子 うん。……早く慣れないと。      と、彩子はおずおずと進む。景色が変わる。 5 そして待ち合わせ場所は地元駅。      日曜日。駅前。中央にベンチ(これは部室でのいつを並べたもの)      彩子がいる場所とは違う場所に赤池と金城がやってくる。 赤池 彩子! 彩子!こっちこっち!  彩子 イケさん。 赤池 あ、こっちはとりあえず一人目。うちの部の一個下。金城。 金城 おはようございます。 彩子 ああ、例のカマっぽい人? 金城 カマじゃない! もう、部長! なに吹き込んでんですか! 赤池 え? 本当のこと? (と、彩子に)あと二人来るはずなんだけど、ちょっと待ってて。(と、電話する)あ、銅島?    あんた今どこに? 遅れる!? ワタルもいっしょ!? どこ? ああ、もう分かったから待ってて。迎えに行く。   (と、電話を切り)ちょっと行ってくるから。 彩子&金城 えぇ!? 赤池 二人で話してて。すぐ戻るから。      と、赤池は去る。 金城 ……なんかねぇ。いつも突っ走って、一人で勝手に決めて勝手に周り巻き込んでる感じで。大変ですよねぇ。巻き込まれるほうは。 彩子 はぁ。 金城 えっと、改めて、金城です。 彩子 白井彩子です。……えっと。すいません今日は。 金城 いえいえいえ。なんかこっちこそ、俺なんかでごめんなさい。 彩子 いえいえ。その、わたしこそすいません。 金城 いえいえいえ! そんな、ねぇ。……座りましょうか。 彩子 はい。      と、二人は座るが会話は無い。落ち着かない間の後、 彩子 ……その、私のことは赤池さんからは? 金城 そういうの説明する人だと思います? 彩子 ……いいえ。      同じ空間だが、やや離れた位置に生徒会の三人がやってくる。      女部員3→梅、女部員9→竹美、女部員8→松子 梅 だから〜、生徒会だからってなんで休日まで活動しなきゃなんないの。 松子&竹美 生徒会だから! 松子 何度も言ったでしょ。 竹美 第一、梅は会計だろ。 梅 だからなに!? 竹美 会計が出ないで、どうやって文化祭費用の計算まとめんだ。あとで予算と決算が合わなかったら、問題だろ。 梅 そんなの、適当に帳尻合わせればいいじゃん。大人はみーんなそうやってるよ? って、あ! 松子 どうしたの梅? 梅 金城だ。 松子 金城? 梅 うちのクラスの演劇部員。なにあいつ。デート? 生意気。 竹美 うちらが、休日出勤している中、世間では休日にしっかり青春しているわけだ。 松子 演劇部ってモテなさそうなのにね。 梅 ですよね。 松子 てか、部活しろよ! 竹美 演劇部って、まだステージ関係の書類出してないんじゃなかったっけ? 梅 これは一言言ってやるべきだよね? 松子 待ちなさい。その前にまず状況判断が必要よ? いきなり出てったら怪しい人でしょ。 竹美 よし、見張ろう。 松子&梅 おう。      生徒会の三人はさりげなくこの後の会話を盗み聞いている。 6 彩子さんと金城くん      金城と彩子の間に場面は戻る。 金城 あの、話にくかったらいいですよ? 彩子 ……私、父子家庭なんです。お母さん、小さい時に……。 金城 そ、そうなんだ。 彩子 それで、お父さんがずっと頑張ってくれていたんだけど、去年の秋くらいかな、に、好きな人ができたって言われて。 金城 へぇ。えっと、良いこと、だよね? 彩子 はい。結婚することになって。 金城 おめでとうございます。 彩子 ありがとうございます。それで、先月からその、相手の人と、一緒に住んだりしてるんですけど。   ……相手の人、というか、新しいお母さんには、お子さんがいるんです。 金城 あ、もしかして、それが? 彩子 男の子なんです。 金城 いくつ? 彩子 小学六年生。 金城 うわ〜一番うるさい時期だよね。 彩子 男の人って良くわからなくって。小学校の時、ちょっとからかわれたこととかもあって。   それで、お父さんが中学からは女子高に入れてくれて。だから。その。丁度苦手だった頃の年齢だし、それで…… 金城 うまく話せない? 彩子 はい……それで、赤池さん共学だし、そういうの詳しいかなって思って。 金城 そっか〜。なるほど〜 ……なんであの人は、そういう話をちゃんとしないかな〜。 彩子 ごめんなさい。 金城 あ、いや彩子さんが謝ることじゃないですよ。 彩子 変な相談したの私だから。……でも、私自身、どうしたらいいのか分からなくて。普通に話さなきゃって思っても、   普通って言うのがわからなくなっちゃって。もう、全然ダメで。 金城 その、彩子さんは、新しく出来た弟君のこと、嫌いなの? 彩子 好きです! あ、いや、変な意味じゃなくて。家族としてってアレですけど。 金城 うん。なんか、慌てて否定されると、逆に怪しく見えるけど……それを、伝えればいいんじゃないかな? 彩子 好きって? 金城 そう。思い切って大きな声で、言ってみたら? そうしたらわだかまりなんてなくなっちゃうと思うよ。 彩子 そう、かな。 金城 ちょっと練習してみる? 彩子 練習? 7 誤解と後悔      やや時間の経過。リョータと母が現れる。二人ともどこかへお出かけのスタイル。リョータはどこか憮然とした感じ。 母 今日残念だったわね〜。 リョータ なにが。 母 お姉ちゃん一緒に来られなくて。 リョータ 別に。姉とか思ってないし。 母 リョータ。 リョータ だって、全然話しないしさ。姉とか言われても、わかんないよ。俺のこと、嫌いみたいだし。 母 大人しい子だから。女の子ばかりの学校だし、あんまり男の人と話したことないだけよ。リョータだって男の子でしょ?  だからうまく話せないのよ。 リョータ ふーん。(と、金城と彩子に気づく)      彩子と金城は「好き」という練習に熱中。 彩子 好きです! 金城 もっと大きな声で! 彩子 好きだ! 金城 もっと、感情をこめて! 彩子 好き。 金城 関西風に! 彩子 えっと、めちゃ好きやねん! 金城 外国人になりきって! 彩子 アイラーブ……(と、リョータに気づく) 金城 どうしたの! そんなんじゃ、気持伝わらないよ! 彩子 リョータ。 母 ……情熱的な、ラブコールね。 リョータ だれだよそいつ。 金城 え、だれ。弟? 彩子 そう。 リョータ 俺は弟だなんて思ってない。 彩子 ご、ごめん。 金城 えっと、 リョータ 今日、予定があるって、男に会うためだったんだ? 彩子 違うよ。違うの、全然違う。男なんかじゃなくて、違うよね。うん。男違う。この人はね、そういうんじゃなくて。 金城 いやいや、男ですよ! ちゃんと。完全に男! リョータ 男だって言ってるけど。 彩子 男じゃない! 金城 男でしょ! どう見ても! 彩子 ほら、彼氏彼女って言葉で表すとそう言うんじゃ無くて、 金城 彼氏彼女で言ったら、彼氏です。迷いません! 彩子 黙ってて! 金城 はい。 母 あらあら、仲が良いのねぇ。ほら、リョータ。じゃましちゃ悪いわよ。 彩子 そう言うんじゃないんです本当に。あの、ね。だから、 リョータ 別にどうでもいいよ。      と、部長と銅島とワタルがやってくる。ワタルは中2病な格好。銅島は男装。 赤池 お待たせ。ごめん。遅れた。(と、息切れしている) 金城 部長、遅い〜。 赤池 これでも、急いだ、の。あー気持ち悪(と、疲れ切ってうずくまる) 金城 飲み物買ってきます。(と、一度去る) ワタル お前がいつまでもちんたらしているせいだぞ。服装なんてどうでもいいって言ったのに。 銅島 はっはっは。いいじゃないか。細かいことは。 彩子 誰。 銅島 僕だよ。ハニー。 ワタル なぁ、これに比べたら俺のほうがマシだよな? 銅島 これってどれだい? ボーイ? ワタル わざとらしく話すな。横歩かれたら恥ずかしいだろ。 銅島 はっはっは。照れ屋さん。 ワタル 誰かこいつどうにかしてくれよ。 母 あらあらあら。 リョータ なんだよ、これ。 銅島 おや、坊やはどこのチャイルドかな? 僕は、彼女のボーイフレンドさ。 ワタル これに比べれば、俺のほうがマシだよなぁ? リョータ 三また?  彩子 違うよ。この人たちは、彼氏とかじゃなくて。 銅島 ボーイフレンドさ! 母 モテモテね。 リョータ 楽しそうだね。 彩子 楽しくない! 銅島 はっはっは。そんな照れなくて良いって。 彩子 あのね、これは、だから。 リョータ 勝手にやれば。母さん。行こうよ。 母 え? ああ。そうね。じゃあ、あんまり遅くなると心配だから遅くなる時は電話してね。 リョータ いくよ。(と、去る) 母 はいはい。(と、追うように去る) 彩子 リョータ……。 金城 (と、水を持って現れ)部長、水。 赤池 ありがと(と、水を飲み)フー生き返る!……あれ? 何この空気。え、え、どういうこと? 彩子 イケさん……の、馬鹿。      辺りが暗くなる。 8 やっと話を理解する赤池      黒子2と3が出てきて語りだす。      黒子2と3の真ん中で黒子1(部長)は正座。 黒子2 こうして、部室で部員に話を振ってからは三日後、 黒子3 白井彩子に相談を受けてからだと一週間後、 黒子2&3 ようやく、赤池乃愛は、自分が受けていた相談の、本質を理解するのだった。 黒子3 ……人の話はよく聞きましょうって、小さい頃お母さんから言われませんでした? 黒子1 はい。よく言われました。 黒子2 はじめから、ちゃんと話を聞いていたら、避けられたトラブルだったと思わない? 黒子1 面目ない。 黒子3 そもそもなんで部長に相談が来たんです? 黒子1 あたしが、お姉ちゃんだから。だって。 黒子2 その時点でさ〜 もうちょっとさ〜 黒子1 そりゃ気づけなかったのはあれだけど、けどね! でもね! しっかりと反省し!     ここから巻き返しを図るわけなのよ、あたしは!      と、赤池と彩子歩いてくる。どこかの道端。 赤池 そっか〜。弟と仲良くなるために、まず男に慣れようとしたわけか。早く言ってよね。 彩子 ごめん。 黒子2&3 反省?してる? 黒子1 こ、ここからここから。      と、黒子1は黒子2&3を押して去らせる。 赤池 弟さん、小六だっけ? 彩子 いっつも難しい顔してるの。どうしていいかぜんぜん分からなくて。 赤池 一人っ子だもんねぇ。 彩子 うん。……ねぇ、お姉さんらしいってなに? あたしって、そんなにお姉さんぽく無いかな。 赤池 えーっと……。でもさ、一度普段の彩子らしさ出して、本気でばーんとぶつかっちゃえば、何とかなるって!    「弟!」「姉さん!」 がっしー(と、抱き合う動作)って感じ? 彩子 「姉さん」なんて、呼ばれたことないなぁ。 赤池 弟君になんて呼ばれてるの? 彩子 呼ばれるほど、親しくなれてない。 赤池 ま、まぁ、こういうのはね。気長にやらなきゃ。あたしでよかったらいつだって協力するから! 彩子 そう、だね。 赤池 ……彩子? 彩子 あたしね。引っ越すんだ。 赤池 え? 彩子 新しいお母さんの実家のほうにいくんだって。魚沼ってわかる?  赤池 新潟の? 彩子 そうだったかな。多分……あたしも、よく分かってないんだけど。 赤池 学校は、どうするの? 彩子 さすがに通えないから。転校。今度は、多分共学かな。 赤池 そっか。 彩子 ……引っ越すって聞いてね。最初に浮かんだのが、イケさんだったの。おかしいよね? 中学、高校と別だったのに。   イケさん、いつも元気いっぱいで、周りのこと巻き込んで突っ走って、から回って、でも、凄く楽しそうで…… 赤池 なんか、それだけ聞くとあたし凄いうざい人じゃない? 彩子 うん。あたし、少し苦手だった。 赤池 面目ない。 彩子 でもね、イケさん、いつでも本気だったから。……今の学校行ってからは、みんななんかちがうんだ。うまく言えないけど。   笑ってても、あんまり楽しくないんだろうなぁって分かっちゃって。あたしもだけど。   なんかうまく本気になれなくて。あたしらしさとか、わからなくなって。だからかな。   お姉さんらしさが分からないのも。 赤池 わかった。 彩子 え? 赤池 わかった。もう、完璧分かった。うん。任せなさい。あたしが何とかするから。 彩子 なんとかって? 赤池 やっぱり女子高だとあれでしょ? うん。あるあるある。大丈夫任せて。 彩子 ……まかせて、いいの? 赤池 大船に乗ったつもりでどーんと、任せなさい! 彩子 うん。(と、去る) 9 演劇部室で作戦会議A      演劇部室。副部長、ワタル、金城、銅島、赤池がいる。 赤池 レディース&ジェントルメン! クイズ、姉らしさってなんだ〜のお時間です! 金城 姉らしさ…… 副部長 部長。いい加減、秋の舞台のこと考えないと、使用する暗幕の提出期限とか迫ってんだけど。 赤池 だいじょうーぶ。なんとかなる! 銅島 なんとかなりますかね……。 副部長 そう言ってて、去年の部長は生徒会長に怒られてたような。 赤池 松子でしょ。あいつ、一年だったのに妙に迫力あったよね。 副部長 今年はもっとだと思うよ。 赤池 そんなことより、姉らしさよ。 ワタル はい! 部長 はい、銀次ワタル君! ワタル 姉らしさって言ったら、セクシーさでしょ。 ワタル以外 えーーー。 ワタル え、なにこの反応。小学生にとっての年上の姉だろ。つまりは、年上の魅力でしょ。    それって、結局エロいかどうかじゃないの? 金城 そんなに、エロい姉がほしいか。 ワタル ほしくねーよ。一般的にってこと。 銅島 そんなに、エロい姉がほしいか。 ワタル ほしくねーって! なんだよ。たまに真面目に答えたら、その反応。いいよもう。 金城 真面目に答えたつもりってのが怖い。 ワタル はいはいそうですね! じゃあなんだよ、姉らしさって。 金城 年上らしさ……年上の魅力? と言ったら、包容力、とか。 副部長 それってどうやって見せるの? 金城 ……よしよし。(と、銅島の頭を撫でる) 銅島 気持ち悪い。 金城 酷いっ! 副部長 ようはさ、弟君が、姉を頼るような状況があれば良いんじゃない? それこそ、イケさんみたいに、    何か任されて「任せろ!」って言ってみせるような。 赤池 例えば? 副部長 それは思いつかないけど。 赤池 うーん。 松子&竹美&梅 どうやらお困りのようですね! 赤池 この声は……      松子&竹美&梅が現れる。 松子 お困りですか! 竹美 お困りですね! 梅 お困りですよ! 松子&竹美&梅 YES! ご存知、生徒会です! 金城 なんで脈絡も無く生徒会が。 松子 そろそろ、文化祭の書類を提出していただかないと、と思いまして。 梅 暗幕を何枚使うとか、机や椅子は? とか。色々貯まってるんだよ〜。 竹美 本来なら、書類出さなきゃ知らぬ存ぜぬで突っぱねるんだけど。 松子 一応、演劇部って文化祭くらいしか出番ないでしょうし? 赤池&副部長 あるわよ!  赤池 大会だってあるんだから。 松子 またまた、ご冗談を。 赤池&副部長 冗談じゃねーって! 竹美 ま、本来なら放置するんだけど、 松子 私、松野松子は、本校史上初の、三期連続生徒会長、を狙っておりまして。 竹美 そのための地盤固めとして、演劇部に協力してあげなくもない。 梅 と、こういう話です。 赤池 そんないきなり出てきて言われても。 金城 話、分かってます? 松子 異例の二期連続当選の生徒会長に不可能はありません! 竹美 ま、本当はこないだ偶然君ら見かけて話し聞いてたんだけどね。 松子 竹美。余計なことは言わない。 竹美 はいはい。 副部長 だからって、生徒会なんかに何が出来るの? 松子 なめてもらっちゃ困るわ。この、松子! 竹美 竹美。 梅 梅! 松子&竹美&梅 ご存知、生徒会です! 梅 来期も清き一票を〜。 松子 に、策有り! 名づけて! 松子&竹美&梅 ピンチになった時に颯爽と現れるお姉さんってカッコイイね! 作戦!      電話の音。 10 ピンチになった時に(略)作戦      夜道をリョータが歩いている。電話の相手を見て、ちょっと驚く。別の場所に彩子が浮かび上がる。 リョータ はい。 彩子 あ、リョータ? リョータ そう、だけど。なに?  彩子 今、帰り? リョータ うん。 彩子 どこらへん? リョータ 公園の、近く。中通って帰ろうと思って。      と、彩子の横に赤池が現れる。 赤池 どこだって? 彩子 (と、電話の口を押さえ)やっぱり公園だって。 赤池 よし。(と、自分の携帯に)こちらアルファよりベータへ。目標は予定通り○○公園を通過する模様。 リョータ ……もしもし? 彩子 あ、ごめん。えっと、 赤池 一応、人通りの確認して。 彩子 うん。その、周りに人いる? リョータ え? 別にいないけど。 彩子 (と、電話の口を押さえ)いないって。 赤池 迎えに行くって言って。 彩子 じゃあ、迎えに行くね。 リョータ え……(と、周りを改めて見て)いいよ。来なくて。 彩子 大丈夫。すぐだから。 リョータ 家じゃないの? 彩子 うん。帰る途中で。公園の近く。 リョータ 近くって……。 赤池 待ってろって伝えて。 彩子 ま、待ってて。 リョータ ……いいけど。じゃあ、水飲み場のとこにいる。 彩子 うん。じゃあね。 リョータ 待てよ! ……気をつけて。 彩子 うん。(と、電話を切る) 赤池 よし、行くよ。 彩子 大丈夫かな。      赤池と彩子は去る。水飲み場のある公園の景色が広がる。薄暗さにやや不安な表情を浮かべるリョータ。      と、松子がやってくる。 松子 お坊ちゃん、一人?      と、リョータは反対へ歩こうとするが、その道をふさぐように梅がやってくる。 梅 危ないよこんなところで一人なんて。 松子 あたしたちと遊んでくれない?      と、別の場所に赤池と彩子、竹美が現れる。     竹美 弟君がピンチの時に、颯爽と姉登場! 完璧な作戦だろ? 彩子 大丈夫かな。 赤池 案外、演技うまいじゃん。 梅 (リョータに)周りを見たって助けなんて来ないと思うよ? 松子 それとも、誰かあてがあるのかな? リョータ 助けの、あて……      と、リョータはふと自分が来た方を見る。次に自分の携帯、      だが、決心したように、防犯ブザーを引っぱる。けたたましい音。 松子 え、あの、もう少し話を聞いてくれない!? 梅 ちょっと〜、この音、洒落にならないよ!      そして、リョータは走り去る。 彩子 どうするの!? 竹美 とりあえず、逃げる! 赤池 あんた、あの二人は! 竹美 大丈夫!(と、笛を取りだし)撤収! 撤収!(と、笛を吹く)      現場は混乱しながらも、松竹梅はその場を後にする。 彩子 リョータ……。      赤池に手を引かれ、彩子も去る。 11 彩子と赤池      公園から少し離れた夜道。      歩いてくる彩子。その後を、電話しながら赤池がやってくる。 赤池 ああ、そう? じゃあ、また明日ね。うん。ばーい。みんな、うまいこと逃げられたって。   ごめんね彩子。次。次はうまくいくから。 彩子 ……もういいよ。 赤池 もういいって。なに。 彩子 最初から無理だったんだよ。 赤池 弟と仲良くしたくないの? ……じゃあなんで私に頼んだの。弟と仲良くなりたかったからでしょ? 彩子 ……一度ね。お父さんと、新しいお母さんと、リョータと、あたしで食事に行ったんだ。 赤池 うん。 彩子 赤レンガ倉庫の近くにあるレストランでね。夜景が綺麗だって言ってたのに、その日雨降ってて。   お父さん「残念だったね」って言って。でも、あたし景色なんか見ている余裕無くて。   なんか緊張しちゃって。手、震えてて。なに食べたかもよく分からないくらいで。   そしたらリョータがね。リョータだけ気づいてくれて。      リョータが現れる。ぶっきらぼうを装いつつ心配した様子が見える。 リョータ 大丈夫? 彩子 え、う、うん。 リョータ 気分悪いなら、帰れば? 彩子 ごめん。大丈夫だから。 リョータ 気を遣うこと無いと思うよ。あの二人だって、本当は二人きりになりたいんだ。 彩子 でも……せっかくだし。 リョータ どうせ、一緒に食べる機会なんて、これからいくらでもあるだろ? ……家族になるんだし。 彩子 そ、そうだよね。 リョータ ほら 彩子 え? リョータ 手、引いてやるよ。      と、リョータが伸ばした手を彩子は思わず避けた。 彩子 あ……      リョータは自分の手を見て、彩子を見て、去る。 彩子 ……それからうまく話せなくなった。だからね。全部私が悪いの。仕方ないんだ。 赤池 だからってそれで諦めてどーすんの。弟とちゃんと話したいんでしょ? だったら、もっとマジでぶつかっていかなきゃ。   今逃げたって、どうせこれからもずっと顔会わせて生きていくんだから。うん。よし、任せなさい。   あたしが今度こそ何とかするから。 彩子 なんとかって? 赤池 やっぱり女子高だとあれだよね? こういう時アレでしょ? うん。あるあるある。大丈夫任せて。   大船に乗ったつもりでどーんと、任せなさい! 彩子 ……なんで、イケさんは諦めないの? 赤池 だって、諦めたらそこで試合は終了でしょ。あ、これあたしの好きな漫画の台詞ね。図書室に完全版置いてあったの。   ラッキーだったよね。って。だから。諦める事って簡単にできるよね。だからさ、本気出して頑張ってみようよ。 彩子 ……すごいね。イケさんは。 赤池 そんなこと無いって。 彩子 すごすぎて、あたしやっぱり、少し苦手だな。 赤池 彩子……本当にそれで良いの? 彩子 だって、仕方ないから。……もう、帰るね。      と、彩子が去る。      赤池は彩子を追うことが出来ない。      ふと、観客席を向く。 赤池 いつからだろう。本気になると言われる。「なに、そんなマジになっちゃってるの?」   まるで、本気で頑張るのがすごくかっこ悪いみたいに。なんでだろう。「なに、そんなマジになっちゃってるの?」   そう言っているあなたの顔は、あきれ顔で、でも、その瞳の奥に、小さく怯えが揺れている。   まるで、本気でぶつかることを畏れるみたいに。……怖がって、茶化して、笑って、離れて、   そのうちきっと分からなくなるんだ。本気の出し方。本気になるって気持ちを。だから、私は、とりあえず叫ぶことにした。   レディース&ジェントルメン! クイズ! さぁあ、どうしよう! の、お時間です!      赤池の叫びと共に、舞台は演劇部室へと姿を変える。 12 演劇部室で作戦会議B      演劇部室。だらけている部員。工作をしているワタル。それを見ている銅島。トランプをしている副部長と金城 金城 次、先輩の番ですよ。(と、ジョーカーを突き出す) 副部長 よし!(と、そのカードを取る)って、またジョーカー!? 銅島 先輩、引っかかりすぎ。 副部長 駄目なんだ、あたし。こう、突き出ているとさ。取っちゃうんだ。 赤池 って、人の話を聞けよ〜。もうちょっとマジにさ〜。なってよ〜。 副部長 そんなこと言ったって、友達はもう諦めているんでしょ? 金城 俺たちに出来る事なんて思いつかないっていうか。 赤池 思いついてよ! 金城 そんな無茶な。 銅島 こないだの作戦、中々良いと思ったんですけどね。 金城 お姉さんに助けてもらおうって奴? 銅島 ちょっと、夜に不審者って言うのがリアルすぎたんだよね。 ワタル よーし! 出来たぁ! 副部長 って、またワタルはなにやってんの。 ワタル 指向性スピーカーです! 副部長 なんだっけそれ? ワタル 指向性スピーカー! 銅島 女子高生スニーカー? ワタル 指向性! 狙ったところに音が飛ばせるんだよ。このスピーカーを向けた相手だけ、音が聞けるんだ。 金城 なにそれ怖くない? ワタル だろ〜? 副部長 で、何に使うの? ワタル ……ファンタジーとか? なんか現実離れした場面とか。あるだろ多分。 赤池 それだ。 ワタル どれ? 赤池 リアルすぎたから失敗したって言ったよね。 銅島 言いましたけど。 赤池 だから、今度はもっとファンタジックにすれば良いのよ! 副部長&金城&銅島 はぁ? 赤池 ああ、でも形を変えても似たような展開だとつまらないよね……。 ワタル なに、何の話? 金城 さあ?      と、生徒会役員がやってくる。      生徒会の面々は揃って元気が無い。 竹美 どーもーご存じ生徒会です。 梅 あのーそろそろ、暗幕使用の書類、出してもらえないかなと思いまして。 副部長 あれ? 今日はずいぶん大人しいね。 竹美 こないだ失敗したからね。 梅 会長、地味にへこんじゃって。 松子 どうせ私は、ろくに話も聞かずに小学生にに防犯ブザーを鳴らされるような女ですよ。 竹美 ってことで、汚名を返上できるようなことありません? 梅 そして、来期には清き一票を! 副部長 なんか、態度がころっとひっくり返ったね。 赤池 それだ! 副部長 なにが? 赤池 ひっくり返せば良いのよ! 副部長&金城&銅島 はあ? 赤池 丁度良かった。暗幕使う。書類書こう。ついでにあんたたちも手伝ってくれる? 竹美 本当ですか?  竹美&梅 良かった〜。 梅 ほら、会長。私たち、必要とされてますよ。 副部長 今度は何する気? 赤池 ファンタジックに攻めるのよ。 金城&銅島 ファンタジック? 副部長 ファンタジックだろうとリアリスティックだろうと、帰り道に囲んだりしたら、どうせまた防犯ブザー鳴らされると思うよ? 松子 いや〜。防犯ブザーは嫌〜。 梅 会長、しっかり! 竹美 傷は浅いぞ! 赤池 大丈夫! 今度はひっくり返すんだから! 銅島 何をひっくり返すんです? 赤池 弟を姉が助けるんじゃ無い! 姉を弟が助ける! 帰り道に囲むんじゃ無い。呼び出してやるのよ! さあ、忙しくなるよ〜      音楽。      舞台は再び夜道へと変わる。 13 姉弟らしさの作り方      夜道をリョータが歩いてくる。と、現れる生徒会の面々。マイクと指向性スピーカーを持っている。 梅 こちら、目標を発見。 松子 本当にこれで声届くの? 竹美 らしいよ。仕組みは分からないけど。 梅 これより作戦行動に入る。会長。 松子 うん。(と、スピーカーをリョータに向け)藍川リョータか? リョータ (と、聞こえてきた声に首をかしげ)……声? 松子 藍川リョータだな。 リョータ ……そうだけど。だれだよあんた。どっから喋ってる? 松子 お前の姉は預かった。 リョータ なにいってんだよ? 松子 お前の姉は預かったと言っている。 リョータ なんだよそれ。誰だよお前は! 松子 返してほしければ今すぐ○○公園の広場に来い。一人でな。      生徒会の面々は頷きあい、去る。 リョータ おい! なんだ今の……。公園……。くそっ。行けば良いんだろ!      リョータが走り、幕が開くと公園が広がる。妖しげな光。黒子1〜3が出している。      金城がワタルを背負って後ろを向いている。体を大黒で覆っている。その影にはリョータに見えないように赤池と彩子。      生徒会の面々、銅島はそれぞれ上手と下手に立ち、人が気にしないよう看板(『演劇の練習中です』)を持っている。 リョータ 来たぞ! どこだよ! 金城&ワタル はっはっは。良く来たな少年! リョータ どこだ! 金城&ワタル ここだよ。(と、振り返る) リョータ でかっ。 ワタル 良く来たな少年。 リョータ どこにいるんだよ。 金城 誰のことかな? ワタル それは、お前の姉のことか。 リョータ 姉なんかじゃ無い。 ワタル そうだよな。姉なんてお前はいらないもんな?  リョータ ……そうだよ。 ワタル&金城 だったら連れて行ってやるよ。 リョータ なんだよそれ。何でそういうことになるんだよ。 ワタル 面倒くさいんだろう? 会話だってないし。一緒にいても息苦しいだけだよな。    本当は、どこかに行って欲しいって思ってるんだろう?  ワタル&金城 だったら連れて行ってやる。 リョータ そんなこと、思ってない。 ワタル じゃあ、なんで話をしない。 リョータ それは、あいつが。 ワタル あいつ、とは? だれかな? 大きな声で言ってごらん? リョータ だから、あいつだよ。あいつ。 金城 だれ? ワタル だ〜れ〜? 金城&ワタル だれのこと〜? リョータ だ、だから……こないだの、あいつの友達? 金城&ワタル え? リョータ あんたたち、あいつの、友達だろ。 ワタル な、なんのことかわかんないなぁ、ねぇ? 金城 ねー。 リョータ そういうこと。 金城&ワタル なに? リョータ こういうの、止めろよ。 ワタル こういうの、とは? リョータ これ、俺とあいつの問題だから。 ワタル なんのこと。 リョータ 分かってんだよ。どうせ、あいつに頼まれたんだろ。 ワタル 誰のことだか分かんないけど。 金城 全然分かんない。本当に分かんないよねぇ。 リョータ 彩子だよ。白井彩子。 金城 ……きみにとってはお姉さんだろ。そんな呼び捨てなんて。 リョータ 他人だよ! 彩子 他人…… リョータ 結婚したのは、母さんと、あいつの父親で、だから俺たちは一緒に暮らさなきゃいけなくなった。ただそれだけだろ。     あんたたちがふざけるのは良いけど、俺を巻き込むなよ。何がしたいんだよ一体。 赤池 (と、リョータに姿を見せ)ただ君と彩子に、ちゃんと向き合ってもらいたいだけだよ。 リョータ なんだよそれ。 赤池 本気で向き合って、本気で会話をして欲しいの。 リョータ そんなこと、あいつに言えよ。ずるいんだよあいつは。俺が話しかけてもたいしたこと喋らないくせに。     姉なんて呼べる分けないだろ。何考えてるか分かんないんだから。 金城 話そうとして、話せなかったんだ。 リョータ なんだよそれ。話したかったら、話せば良いだけだろ。 赤池 それが出来なかったから、あたしたちに頼んだんだよ。 リョータ 人に頼めば話せるようになるのかよ。人任せで、そういうとこがずるいんだよ。 赤池 ……だってよ? 年下にここまで言われて黙ってるの? 彩子 (と、リョータの前に姿を見せ)……分からない。 リョータ なんだよそれ。 彩子 だって、弟なんて出来たこと無かったんだから。 リョータ 俺だって、姉なんて出来たことねえよ! 彩子 どうすれば良かったの!? リョータ 知るかよ! 放っておけばいいだろ! 彩子 放っておけるわけ無い! リョータ なんでだよ! 彩子 だって、……私の、弟なんだから。 リョータ 俺のことなんてどうでもいいくせに。 彩子 そんなこと思ってない! リョータ 無理するなよ。迷惑だったんだろ。 彩子 無理なんてしてない! 本当は、嬉しかった。 リョータ 嘘つくな! 彩子 嘘じゃない! 本当に嬉しかったの。お父さんから新しいお母さんの他に弟も出来るって言われて。楽しみで。   うまく話せるか心配で、緊張して、怖くって、でも、リョータは優しくて。手を、伸ばしてくれたよね?    だけど、あたし逃げちゃって、傷つけて。ごめん。 リョータ 俺が、嫌だったんじゃないのかよ。 彩子 違う。ただ、……怖かった。 リョータ なにが怖いんだよ。俺、そんな怖がらせたことあったかよ。 彩子 嫌われるのが怖かった。 リョータ ……嫌うわけないだろ! 俺だって、姉さんができるって聞いて! 楽しみにしてたんだ! 彩子 ごめんね。リョータ。ごめん。 リョータ ……いいよ。べつに。分かったからもういいよ。(と、手を伸ばす)ここから、やり直せばいいだろ。……姉さん。 彩子 うん。ありがとう。      リョータの手を彩子が握る。黒子1→部長 が飛び出してくる。 部長 ぅおっけーー!      途端に舞台は練習場所に戻る。 14 赤池部長が本気な理由。      ぞろぞろと役者達が舞台に現れる。 副部長 お疲れさま〜 女部員4 なんとか形になるもんだね〜。 部長 あ、時間大丈夫? 女部員2 平気でーす。 部長 よーし、じゃあ本番までに、もっと詰めて行こうか。 部員全員 はい! 女部員7 じゃあ、これかたしちゃいますね。 部長 よろしく〜      と、片付けが始まる。男部員1と、副部長、女部員5、6はちょっとばてて休んでいる。 男部員1 そういや部長。友達は本番見にこられるんですか? 部長 ん? なんで? 男部員1 だって引っ越しちゃうんですよね? 女部員3 あ、そうか。 女部員6 本番見て欲しいな。出来れば弟君と。ね? 女部員5 え、大丈夫かな。怒られないですかね。 女部員6 そこは、リョータの演技次第じゃ無い? 女部員5 俺が大丈夫でも、姉ちゃんがなぁ。 女部員6 ちょっと〜 どういう意味〜。 男部員2 で、見にこられるんですか? 部長 来られると思うよ。 男部員1 じゃあ引越しって、結構先の話なんですね。 部長 ていうか、あれ嘘だから。 副部長以外の部員全員 はぁ!?(と、思わず動きを止める) 副部長 ……やっぱり。 部長 ほら? 舞台にはさ、ある程度の脚色も必要だからさ。 女部員4 うわー。最悪。 女部員3&8&9 最低〜。 男部員1 俺信じてたのに。 男部員2 俺も。 部長 ごめんねっ。 男部員1&2 軽っ。 副部長 (と、部長に)で、あんたはいつ引っ越すの?      間 男部員1 え? 部員6 なに言ってるの? 副部長 最初から、おかしいと思ってたのよ。 部長 最初から? 副部長 いくら引越すからって、小学校時代の友人を全面的に頼らないよね。    どうしても助けてあげたかったんでしょ? 自分が引っ越す前に。 女部員7 だから、頼らせた? 副部長 文化祭の話題になると、すぐ話変えたよね。先のこと、考えるのが嫌だったんでしょ?    自分がいなくなること、考えることになるから。 女部員8 書類をなかなか書かなかったのも? 女部員9 そんな理由が? 部長 誰だって、先の話はしたくないものだよ。ワトスンくん。 副部長 舞台に私たちを実名であげさせて。なんで自分は黒子だったの? 部長 そりゃ、芝居に客観性は必要だからね。 副部長 あなた以外の演劇部員、ほぼ、そのままの役なのに? 一人だけ? 部長 やだなぁ。彩子の役とか、リョータ君の役とかいるじゃん。 副部長 部員の役は、ほぼあて書きだよね。なんであんたは部長役じゃ無いの? 部長 でもさ、そもそも、役決めは、くじ引きだよ。あんただって、自分で副部長のくじ引いたじゃん。 副部長 突き出ていると、つい取っちゃう私のクセ、台本に書くくらい知っていて、一番にくじを取らせたのはなんで? 部長 ……。 副部長 それが、あたしの役だったからだよね。あたしだったら、副部長って書かれたくじを取るって分かっていたから。 女部員0 じゃあ、あたしが部長役だったのは…… 副部長 自分がいなくなっても、この芝居ができるようにって思ったから。違う? 女部員3 え、ちょっと嘘ですよね? 女部員4 ……部長、引っ越しちゃうんですか? 女部員5 (と、部長が話さないのを見て)……本当なんだ……。 副部長 ……いつ? 部長 ……文化祭ごろ。まだ詳しくはわかんないんだ。 副部長 そう。 女部員1 だから、自分たちが出てくる芝居を作ったんですか。 男部員1 自分がいた証、みたいな? 部長 いやいやいや、それは違くて。引っ越すって言われてから、台本のこととか、手、つかなくなっちゃって。   それで、経験談なら、舞台にしやすいかなぁって思って。はは。 副部長 ……素直に言えば良かったのに。 部長 いや、だってさ、なんか私のことばっか、あれじゃん? なんかそんなにマジになって言うことかなーなんて思っちゃって。 部員たち え? 部長 あたしがいなくても、日は暮れて、セミが鳴いて。それこそ、何も変わらないわけで。「すべて世はことも無し」でしょ。   だったらさ、「あたし、引っ越すんだ」ってマジでシリアスぶっちゃってもさ。似合わないよね?    ほら、あたしって、基本コメディな人だし。なんかなーって思って。そういうのなんか重くない? とか思って。 部員0 ……つまりこういうこと? 人のことにはマジになれても、自分のことにはマジになれないって?  男部員1 僕、すごく言いたい言葉があるんですけど。 女部員1 あたしも。 男部員2 俺も。      部員たちは口々に言って立ち上がり部長を囲む。 部長 だってさ、自分のことだからってあれでしょ? 言ってから、気まずくなったらあれじゃん?    あんまり自分のこと話す機会ないから、いざ話そうとするとちょっと困っちゃったり? でしょ。 部員0 あるあるある。って、ねーよ! 男部員1 マジになれっていつも言ってるじゃないですか! 副部長 そういうのが、今回の劇のテーマなんじゃないの? 女部員1 そうですよ! 部長 だって、(客席に)……マジになるって、ちょっと難しいよね? 部長以外の全員 (叫ぶ)お前が言うな(よ)!!      音楽。      責められる部長。責めながらも、今から別れを惜しむ面々。 明るい空気のまま、幕がゆっくりとしまってくる。     完 参考 「海潮音」上田敏著 より『春の朝』ロバアト・ブラウニング