長靴を履いた猫と
あくまでもラブストーリーは唐突に。
作 楽静
登場人物
猫 | 男 名前のついてない猫。エミのために頑張る。 |
悪魔 | 女 名前に興味ない悪魔。絶望のために頑張る。 |
エミ(ハルノ エミ) | 女 彼と別れたばかりの少女。未だ出会い無し |
元鐘(モトカネ) | 男 エミの元カレ。新しい彼女がいる。 |
今居(イマイ) | 女 元鐘の今カノ。元鐘の後輩らしい。 |
友田(トモダ) | 男 元鐘の友人でエミのクラスメイト。突っ走りやすい性格。 |
池面(イケベ) | その他 通りすがりのイケメン。 |
※池面の役は、最後の最後にしか登場しないため、「その他」としていますが、男性役です。
但し、他の登場人物よりも顔が良いのであれば、女性が担当しても構わないと思います。
秋の近づくとある町。
としているが特に季節は限定しない。
舞台に特にセットは無く、照明の切り替えで場所の変化をつける。
01 ある雨の中の路地。
とある休日。雨の音。
舞台中央に段ボール箱。「拾って下さい」とか書かれている。
その中に座っているのは猫。
適当に鳴いていた猫は、ふと観客に顔を向けると話し出す。
猫 僕は考える猫である。名前はつけられたことがない。……パクリだって? いえ。オマージュです。意味分かって使ってますよ?
あれですよね。和菓子の一種です。おまーんじゅ。……と、こんなことをいきなり言い出したことからも分かるように。猫です。
夏の気配もやや遠くなってきた秋口に、昼間っから、段ボールに入り、雨にうたれ、鳴いている猫です。
と、ちょうどエミが通りかかる。傘を差している。
エミは猫に気づき立ち止まる。
猫 (柄悪いチャラ男風に)「なーなー。ねーちゃん。拾ってぇなぁ。悪いようにはせえよんよって。
せいぜい、あんたのお気に入りの下着に爪立てたり、勉強している時に限って甘えてぇってポーズをとったり、
アイロンかけたばかりの制服に転がって毛ぇつけたりするだけや。なぁ? ひろってぇな」
と、エミが去る。
猫 ちっ。この、あばずれが! 雨の中で鳴いてる猫に対してひとっかけらの情も沸かんのか。この、情なし! 人でなし!
ろくでなし! 散々鳴かしといて、憎たらしい! こんな生活やからってなめとるとしばくぞ!
ごろ巻いてるだけやと思って見くびってると 東京湾に沈めたるぞ! えぇ! クチだけやと思ってなめとんのやろ! ああ!?
と、エミが戻ってくる。
猫 お、おう、戻ってくるとはいい度胸じゃねぇか。まさかとは思うけど、こっちが言ってること分かってたりしませんよね? ね?
いや、冗談ですよ? 分かるじゃないですか。僕、人畜無害な家畜専用の野良畜生ですよ?
と、エミは傘を猫にかける。
エミ ごめんね。
猫 ……なんで謝ってるんです?
エミ 助けてあげられなくてごめんね。
猫 いや、そりゃ仕方ないでしょう。世知辛い世の中ですからね。なかなか他の命を救うなんてのは難しいと思いますよ。はい。
エミ 一人なのにね。あなたも。
猫 僕、も?
エミ いい人に会えるといいね?
と、エミが去っていく。
猫は呆然と観客を向く。
猫 瞬間、僕の体に電気が走りました。あれです。エレキテールです。
ちゃんと意味分かって使ってますよ? あれでしょ? エノキみたいな趣のある尻尾でしょ? エノキ・テイル。
と、こんなことしか言えない僕が、傘を貸してくれたあなたのために出来る事はあるんでしょうか。
きっとあの子は一人なんだ。どうしようもないくらい一人で。僕なんかと自分を重ねるほどにさびしいんだ。
ああ、神様。どうかあの子が笑えますように。僕にこの傘を差し出した少女が、心からの笑顔を浮かべられますように。
僕に何かが出来ますように。もしもあの子を僕の力で笑わせられるなら、そのためなら僕は、この魂だってささげても構わない!
……って、ちょっと格好つけすぎかな?
と、猫の後ろに立つように悪魔が現れる。
悪魔 その願い、本当ならば叶えてあげる。
猫 えっと、どちら様?
悪魔 願いを叶える存在。ってところ。ただし。神様じゃないけど。
猫 あの、まさかとは思うんですが、もしかして。
悪魔 決まってるでしょう? 悪魔。
猫 あ、くま?
悪魔 お願い、叶えてあげましょうか?
猫 え、あくま? ちょっと、開始早々ファンタジックすぎるんじゃ無い!?
悪魔 お願い、叶えて欲しく無いの?
猫 叶えてくれるんですか?
悪魔 あなたが本気で願うなら。神では無くて、悪魔だけれど。叶えてあげる。
猫 だったらお願いします!
悪魔 「自分の力で少女に笑顔を浮かばせたい」それがあなたの願いで、間違いない?
猫 はい。あ、でも……難しいですよね?
悪魔 なぜ?
猫 だって、僕、猫だから。
悪魔 なら、猫じゃなくなればいいんだ?
稲光。落雷の音。
しびれたように猫は揺れ、そして、
揺れながらダンボールから立ち上がる。
再び落雷。ダンボールから飛び出す猫。
二本足に慣れてないためこける。手をすりむく。
両手を見る。体を触り、顔を触る。そして気づく。
猫 え、マジ? これじゃまるで人間じゃないですか!
悪魔 さあ行きなさい。少女の笑顔のために!
猫 はい! ありがとうございます!
喜びながら、走ろうとするが、少し行って戻ってくる。
傘を掴んで畳むとステッキのように振るう。腰にさす。
そして、自分がいたダンボールをかさ代わりに頭に載せ、
舞台を去っていく。
悪魔 そして、笑顔の後の涙のために。……ありがとう、か。初めて言われたわ。
悪魔が去る。
椅子を持ってエミがやって来る。
椅子に座ると日記帳をひろげる。読み始める。
雨の音が次第に遠くなる。
元鐘が姿を見せる。
少女は本を読んでいた顔を上げる。
2 甘い喧嘩と仲直りと
そこはエミの部屋。時間は数ヶ月前に遡る。
まだお互いに付き合っていた頃の、別れてしまう日の光景。
エミ ……今度の休日どこかにいかない?
元鐘 いいよ。どこがいい。
エミ どこでもいいよ。
元鐘 ……カラオケとか?
エミ カラオケはちょっと嫌かな。歌下手だし。
元鐘 じゃあ、映画でも見に行こうか。
エミ 何か今面白いのやってるの?
元鐘 分からないけど。じゃあ、どこがいい?
エミ ……もういいよ。
元鐘 なにそれ。
エミ べつに。どうしてもどこか行きたかったわけじゃないし。
元鐘 そう?
エミ 試験終わりだなって思っただけだから。
元鐘 そう。
エミ ……「そう」ばっかり。
元鐘 なにが。
エミ べつに。
元鐘 そ(う)……お前だって、「べつに」ばかりだろう。
エミ なにそれ。なんでそういうこと言うの。
元鐘 言い出したのはそっちだろう。
エミ 私は何も言ってない。
元鐘 ああ、そう。
エミ ほら。
元鐘 なんだよ。
エミ また言った。「そう」って。私の言ってることなんて全然興味ないんでしょ。
元鐘 そんなことないよ。
エミ じゃあ、なんでちゃんと考えてくれないの?
元鐘 考えてるだろ。どこ行きたいかって言われたから、カラオケとか映画とか意見出しただろ。
エミ そういうこと言ってるんじゃない。
元鐘 じゃあなんなんだよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ。
エミ 言わなきゃ分からないんだ。
元鐘 わかるわけないだろ。
エミ じゃあもういいよ。
元鐘 なんなんだよだから。
エミ もういいって!
元鐘 はっきり言ってくれなきゃわからないだろ。
エミ もういいって言ってるでしょ。
元鐘 そ(う)…………今度の日曜って、○○日だろ(と、公演する月の日曜を言う)。
エミ ……そうだけど。
元鐘 ……横浜(と、地元のおしゃれスポットをあげる)のさ、夜景の見えるレストランって感じの店、予約してあるんだよ。18時。
あんまり早くても食事って感じしないだろうけど、遅いとお前門限あるから。
エミ ……え? ……なんで?
元鐘 なんでって。……付き合って、一年だから。
エミ ……覚えてたの?
元鐘 何で忘れてると思ったんだ。……覚えてるよ。そりゃ。だからさ。
エミ うん。
元鐘 それまでの時間は、べつに、どう過ごしてもいいかなって思ってたんだよ。お前が行きたいとこ行くか。
二人でまったり過ごしてさ。それでいいかなって。
エミ 驚かせようとしてくれたんだ。
元鐘 べつに。そういうわけじゃない。失敗したし。
エミ ……ばか。だったら、最初からそう言ってよ。
元鐘 だってさ。
エミ だって?
元鐘 ……俺だけ、覚えてて、気にしてた、とかだったら、なんか恥ずかしいじゃんかよ。
エミ ……ごめん。
元鐘 なにが?
エミ 本当はちょっと期待してたの。なんか考えていてくれるかなって。
でも、本当に考えてくれてると思わなかったから。
元鐘 信用されてないんだ。
エミ うん。
元鐘 ひでえ。
エミ だから、ごめん。
元鐘 いいよ。
3 あの日の再現
と、猫が現れる。元鐘の動きが止まる。
猫 あまーい。
エミ ……なにあんた。
猫 あまいですね。恋人通しの喧嘩と仲直り。あまあまだなぁ。スイーツですね。
エミ 急に人の部屋に入ってきて。一体何なの。
猫 でも、残念ですよね。世の中、そんなに甘くはないんですものね。
エミ なに言ってんの。
猫 日記帳に妄想を書き連ねるのは結構ですけど、それじゃあ事態は何も進みませんよ。ハルノ、エミさん。
エミ なんで、そんなことあんたに分かるのよ。
猫 本当は、こうだったんですよね?
と、猫が指を鳴らす。と、今度は本当にあったあの日の再現。
元鐘が先ほどの同じ場所、同じ会話の流れで話し出す。
元鐘 じゃあなんなんだよ。言いたいことがあるならはっきり言えよ。
エミ なに、これ。
元鐘 わかるわけないだろ。
エミ なんで、ここにあいつがいるの?
元鐘 なんなんだよだから。
エミ (猫に)もういい! やめて!
元鐘 はっきり言ってくれなきゃわからないだろ。
エミ もういいって言ってるでしょ!
元鐘 本当、面倒くさいよな、お前って。
思わずエミはあの日に戻る。
エミ ……今度の日曜って、23日なんだよ。(と、公演する月の日曜を言う)
元鐘 それが?
エミ 私たち、が、付き合った日って、いつだか、覚えてる?
元鐘 ……もしかして、記念日とか、そういうのやりたかった? だったらそう言えよ。言ってくれれば俺だってさぁ。
エミ 帰って。
元鐘 はぁ? 何なんだよいきなり。(と、その手をとろうとする)
エミ 触らないで!
元鐘 ……
エミ 帰って! 帰れ!
と、元鐘が去る。
猫 面倒くさい女ですね。
エミ うるさい。
猫 言われてませんでした? 面倒くさいって。
エミ でも、覚えてくれてたっていいでしょ? 一年目なんだよ? 二年とか三年ってわけじゃないし。
日にちだって、覚えにくいってわけじゃないし。
猫 それであれですか。おしまいですか。
エミ そう。でも、別に未練とかないから。
猫 そうですね。相手も、すぐ新しい彼女できたみたいですし。
エミ うそ!
猫 え? 知りません? 年下らしいですよ。彼が別れて落ち込んでいる時、親身になってくれたとかで。
エミ ……へぇ。そうなんだ。
猫 あー。もしかして、まだ未練とかあったりしました?
エミ ないっ!
猫 本当に?
エミ 無いったら無い! というか、なんであんたが彼のことそんなに知ってるの?
猫 まぁなんかそこは? この姿にされたときについでに? 入ってきた知識というか。そういう感じで。
エミ てか、誰?
猫 えっと、名前はまだ無いんです。が、あなたを助けに来ました。
エミ 助けに? あたしを?
猫 はい。願い事を叶える感じで?
エミ なんで、そんなことをあんたが?
猫 お礼ですよ。これの(と、傘を見せる)
エミ それ……え、じゃあ、え? あんた……
猫 さぁ、ちゃちゃっと幸せになりましょう。なにがほしいですか?
エミ いや、えっと、まって。ちょっと混乱してきた。
猫 さぁさぁさぁさぁ。何でもいいですよ。ああ、でも、お金はね。ちょっとまだ全然わかんないんで。
勘弁してほしいところも無きにしもあらずですが。
エミ ……本当に願いを叶えてくれるの?
猫 ええ。
エミ ……彼氏は?
猫 はぁ?
エミ 彼氏が、ほしい。
猫 なんで彼氏? やっぱり未練が?
エミ そうじゃないけど! でも……
猫 でもぉ?
エミ ……一人は嫌なの。色々考えちゃうし。さっきみたいな妄想とか。
どうしたら良かったんだろうとか。私の何がいけないんだろうとか。
色々。
猫 ……なるほど。じゃあ、男をあさりにレッツゴーですね! さぁ行きましょう!
エミ あたしが行くの!?
猫 え? 当たり前じゃないですか。自分で動かないと。
エミ 連れてきてくれるとかじゃないんだ。
猫 誘拐ですか?
エミ 違うけど! でも自分でなんて無理よ!
猫 え? なんでです?
エミ だって、ほら、あ、雨降ってるし。
猫 じゃあ、止んだら出発ですね。また来ます!
エミ ちょ、ちょっと待って! そうじゃなくて!
猫 なんです?
エミ 私、可愛くないし。
猫 え? そうなんですか?
エミ あんただって、さっき面倒くさいって言ったでしょ!
猫 いや、それは性格的なことで? 顔は可愛いんじゃないですかね?
エミ ……本当に?
猫 ええ。僕は好きですよ。
エミ ……ありがとう。
猫 あ、いや。えっと、はい。(と、照れて顔を撫でようとして、毛が傷にあたり)いて。
エミ え? ちょっと。怪我してるじゃない。どうしたの、それ。
猫 いや、二本足で立つのって案外難しくて。何回かこけちゃって。
エミ ちょっと待って。
と、どこからか絆創膏を取り出す。そして猫の手に張る。
エミ ……あんた、本当になんなの?
猫 あなたに、笑顔を届けに来たものです。
エミ ……笑えるかな? 私。
猫 ええ。そのために来たんですから。では、晴れた時にまた来ます!
エミ まって! ……せめて、ドアから出て行って。
猫 あ、はい。
と、猫とエミが去る。
エミ (声) ちょっと、靴は!?
猫 (声) え? なんですそれ?
エミ (声) いいからこれ履いて!
猫 (声) なんですこれ? 長靴?
と、話しているうちに、悪魔が来て椅子と日記帳を回収していく。
風景が変わる。
4 次の日?
友田が独りで歩いてくる。
しばし一人演技。
途中から長靴を履いた猫が入ってくるが、
ぎょっとして話しかけられずにいる。
友田 えっと、「『こんにちは。ハルノさん。偶然だねこんなところで会うなんて。覚えてる? ほら、同じクラスの俺。
俺だよ俺って、俺俺詐欺じゃないよ?』なんてね。本当は、曲がり角くらいで偶然会った風にしようとか思ってたんだ。
……でもやっぱり深夜二時のテンションで書いちゃダメだね。てか、休みの日に押しかけるとか迷惑この上ないよね。
ごめん。……だけど、学校でなんて言えないし、メールしようにもまずメアド知らないし。それで押しかけちゃうって、
逆に気持ち悪く無い? って話だけど、でも、住所聞いたら結構近かったから。あ、住所聞いたって言うのは、クラスメイトで。
えっと、やっぱりこういうのは直接じゃないと。手紙とかも、本当は考えたけど、俺字下手だし。
いきなり手紙渡されるのも嫌でしょう? だから。その。なんで来たかっていうと、話があったんだ。
その、ハルノさん、今付き合っている人いないんだよね? だよね? よかった。
これでちゃんと面と向かって好きだって言える。……あ、ごめん。もしかして、今、俺、声に出しちゃってた?
ちゃんと伝えようって思ってたのに。いざってなると照れちゃって。ごめん。でも、好きなんだ君が。……」
(と、落ち着いて)やっぱり、告白するまでが長いよな。もうちょっと短く出来るか。
猫 えっと、いいですか? 通っても。
友田 え? あ、すみません。道ふさいでました?
猫 ふさいでたって言うより、通りづらかったです。凄く。
友田 すいません。ちょっと練習中で。
猫 そうですか。頑張ってくださいね。
友田 はい!
猫が通り過ぎる。
友田 よし。では本番、の前にもう一度……
猫 (声) (大声で)おはようございまーす。エミさーん。おはようございまーす。
友田 え? って、あの家は!?
猫 (声) あ、おはようございます。エミさん。絶好の、男あさり日和ですね!
エミ (声) 大声でなんてことを言うの!
猫 (声) ささ、行きましょう行きましょう! いい男をゲットだぜ!
と、猫に引っ張られエミがやって来る。
猫 男あさり~だ。身長、収入、学力なんて気にしない~ た・だ・し、イケメンに限る~。
エミ ちょっと、引っ張らないでって!
猫に引っ張られてエミが去る。
悪魔がやって来る。
友田 そ、そんな……ハルノさんが、男を求めて休日走るような肉食形だったなんて……
悪魔 いや、きっと彼女は騙されているんだ。
友田 そうだ。そうに違いない。
悪魔 きっと、手を引っ張っていったあいつが悪いんだ。
友田 そうだ。あいつのせいでハルノさんがおかしくなってしまったんだ。
悪魔 なんとかしなくちゃ。
友田 なんとかしなくちゃ。そうだ。なんとかしなくちゃ。
悪魔が離れる。
猫とエミが戻って来る。エミが先に歩いてくる。
頭をはたかれたらしく、猫は痛そうに頭を抑えている。
エミ だから、準備くらいさせてって言ったでしょ!
猫 ごめんなさい。
エミ 色々とね、こっちは用意しなきゃいけないことがあるの!
猫 面目ありません。
エミ 大体ね……あれ? 友田君? だよね。
友田 あ、ああ。ハルノさん。おはよう。
エミ どうしたのこんなところで。だれか、知り合いが住んでるとか?
友田 そういうわけじゃないんだ。
エミ あ、ごめんなさい呼び止めちゃって。どこか行く途中だったんだよね?
友田 まあね。準備しなきゃいけないことがあって。
エミ そうだ。あたしも。じゃあ、また学校でね。
友田 うん。また後でね。
と、友田は去る。去り際、猫を睨んでいく。
猫 なにあの人、めちゃくちゃ僕睨まれたんですけど。
エミ 誰だかわからなくてつい見ちゃったんでしょ。じゃあ、ちょっと準備してくるから。
猫 はい。いってらっしゃいませ~。
と、エミは去る。
5
猫 いててて。思いっきり殴るんだもんな。……でも、昨日よりは元気よさそうだな。
悪魔が話しかける。
悪魔 なかなかうまくやっているようね。
猫 え? だれでしたっけ?
悪魔 もう忘れたの? お前をその姿に変えてあげたのに。
猫 ああ、くまさんですか。
悪魔 悪魔。
猫 悪魔さん。
悪魔 どうやら、あの子にもう一度、頑張る力を与えられたみたいね。
猫 いや、その節はお世話になりました。
悪魔 いいのよ。希望が大きければ大きいほど、絶望は大きくなるから。
猫 え?
悪魔 正直、最近の若い人間って簡単に絶望してしまうからつまらないの。
あたしたち悪魔としては、こう「絶対絶望しないぞ。世の中は、希望に満ち溢れているんだ」ってやつをはーい残念!
って蹴落とすのが面白いのに。なにかあると、「生きていても仕方ない」とか「俺オワタ」とか簡単に諦めてしまって。
そんなのはあれよ。ボスステージまでずっと青いスライムしか出てこなくて、
やっとボスにたどり着いたと思ったらボスが赤いスライムだった、みたいなもんでしょ。ねぇ? そう思わない?
猫 すいません。全然意味が分からないです。
悪魔 まぁ、いいわ。お前はあの子を頑張って手伝ってあげて。希望をいっぱい持たせて。あの子の、笑った顔が見たいんでしょう?
猫 はい。頑張ります。
悪魔 まぁ、その後、絶望に浸らせてやるんだけど。
猫 え?
悪魔 でも、あの子がまた恋に出会えるかは分からないわよね? 案外変な邪魔が入るかも。
その時はお前も一緒に絶望してしまうかもしれない。それはそれですっごい楽しみだけど。
猫 まあ最悪、その時は、僕がいますから。
悪魔 ……なに?
猫 だから、その、あの子の相手として。
悪魔 誰が?
猫 僕が。
悪魔 え? あの子のなにに?
猫 その、恋人として?
悪魔 誰が?
猫 僕が。
悪魔 ……(笑う。大笑い)
猫 そんな笑うことないんじゃないですか!?
悪魔 ない。それはないわ。
猫 いや、分かりませんよ。もしかしたらって。こともあるし。
悪魔 ……(笑う。大笑い)
猫 ちょっと笑いすぎじゃありません?
悪魔 ない。それはないわ。
猫 や、でもですね。可能性というのはいつだってあるわけで。
悪魔 じゃあ、賭けようか?
猫 え?
悪魔 あの子がお前を好きになるかどうか。賭けてみようか?
猫 ……何を賭けるんです?
悪魔 もし、あの子がお前を選ぶなら、お前は人間のままいさせて
あげる。
猫 あの子が僕を選ばなければ、猫に戻る。
悪魔 いえ、レゴになる。
猫 レゴ!?
悪魔 知らない? これっくらいの小ささで、こういくつものブロックを繋げていって、お城だとか、動物だとか作るの。
猫 何でそんなものに!?
悪魔 面白いでしょう?
猫 全然!
悪魔 じゃあ、エコ。
猫 エコ!? えっと、エコロジー的な? 知ってますよ。エッチな本ばかり読んでいる。お爺さん。
悪魔 いえ、西アフリカ経済圏での通貨。エコ。2015年導入予定。
猫 なんでそんなマイナーなものに!?
悪魔 どうする? 賭けてみる?
猫 ……
悪魔 どうしたの? 今更怖気づいた?
猫 ありがとうございます。
悪魔 え? なんで?
猫 だってそれ、どっちに転んでも、僕の勝ちですよね?
悪魔 なに?
猫 だって、僕が選ばれた時はあの子の傍には僕がいて。僕が選ばれない時は、あの子の傍にはきっと誰かがいてくれる。
そうでしょう? そうしたら、きっと、あの子は笑ってくれているはずですよね。だったら、僕の勝ちだ。
だから、ありがとうございます。
悪魔 ……これだから。元々人間じゃないやつはやりにくい。変に純粋なんだから。
猫 すいません。
悪魔 そこで謝るな。そんなことされたら……惚れちゃうでしょ!
猫 えー!?
悪魔が猫を叩く。
猫 痛い痛い! 何でぶつの!
悪魔 お前、人間の世界のことどれくらい分かってるの?
猫 えーっと、とりあえず、お金が無きゃ回らないってことは。でも、お金ってなんです?
悪魔 まったくこれだから獣は。……仕方ないから、私がついていて色々と教えてあげる。
猫 え、でも、あの子ビックリしちゃいますよ?
悪魔 大丈夫。人間には見えないから。
猫 ありがとうございます。僕、頑張ります。
悪魔 ……頑張りなさい。人間にとっては、無駄な努力になるだろうけど。
エミがやって来る。
猫はエミに手を伸ばす。が、悪魔が手をつながせない。
猫とエミと悪魔が一緒に去る。
6 町中。
音楽。今居が歩いてくる。待ち合わせ。
そこへ元鐘がやって来る。
「まった?」「今来たところ」
そんなやりとりのあと、二人は手をつないで歩いていく。
二人は歩いていて、やがて本屋を見つけ入っていく。
元鐘 晴れてよかったよね。
今居 そう言いながら、いきなり書店に入るって言うのもどうかと思いますが。
元鐘 悪い。新刊の発売日だって思い出して。
今居 いいですよ。先輩の読む本ってのも、興味ありますし。
元鐘 ごめんね。お、新刊でてる。あ、こっちもか。どうしようかなぁ。ちょっと、立ち読みしてもいい?
今居 じゃあ、私も、自分の好きな本見てきます。
元鐘 うん。行ってらっしゃい。
今居が去る。元鐘はパントマイムで本を探す。
別の場所に猫とエミと悪魔が現れる。
猫 えーっと、まずはどこへ行けばいいんです?
エミ 知らないわよ。あんたが連れてってくれるんじゃないの?
猫 ちょっとくらいは協力できないんですか? 出会いの場の一つや二つ、教えてくれたっていいでしょ。
エミ 協力って言ったって、そういう場所知らないし。
悪魔 情報収集って行ったら、本屋だよねぇ。
猫 なるほど。じゃあ、とりあえず本屋ってやつを教えてください。
エミ 本屋? 駅前にあるけど。あんた、字、読めるの?
猫 どうなんです?
悪魔 いけるいける。
猫 いけます。行きましょう。
エミ ちょっと、駅はそっちじゃなくて、こっち!
と、猫とエミと悪魔が去る。
元鐘の所へ今居が戻ってくる。
今居 先輩。
元鐘 どうした? あ、まって。トイレ?
今居 違います。
元鐘 本の匂い嗅ぐと、トイレ行きたくならない?
今居 なりません。腹がすきましたのでご飯にしましょう。
元鐘 え、ちょっと待ってまだ早くない?
今居 じゃあ、いつごろがいいですか?
元鐘 あと、30分くらい? 大丈夫? 待てる?
今居 分かりました。我慢しますよ。その代わりおごりですから。
元鐘 え、そんなにお腹すいてるの?
今居 ええ。わりと。朝寝坊したせいで、食べて来れなかったので。
元鐘 その割には、待ち合わせ時間より早く来てたみたいだけど。
今居 ええ。遅刻するの嫌ですから。わりと、楽しみにしていたので。
元鐘 ……じゃあ、ちょっと待って。これ、買ってきちゃうから。
今居 わかりました。
と、元鐘が去る。
そこへ、猫とエミと悪魔がやって来る。
エミ ちょっと、こっち文庫コーナーじゃない?
猫 え。ブンコってなんです?
エミ あんたそんなことも知らないで、なんで先頭切って歩いたのよ。
猫 だって、それは(と、悪魔を見る)
悪魔 ああ。そうだったかも。探し物は、向こうの列だった。
猫 え。こっちじゃないの?
悪魔 そこにいる人に聞いてみたらどう?
猫 うん。すいません。
今居 え?
猫 出会いの場とか乗ってる雑誌ってどこです?
今居 え……すいません。ちょっと店員じゃないので。
猫 知らないって。
エミ 馬鹿! なに変なこといきなり聞いてるのよ。恥ずかしいでしょ。すいません突然へんなこと聞いて。
今居 いえ。あ――
エミ え?
今居 いえ、なんでもないです。えっと、デート中なんですよね?
エミ え?
今居 あの、だったら、出会いの場っていうより、デートスポットかなって思ったので。
エミ ああ、別にこの人? いや、これはそういうんじゃなくて――
と、元鐘がやってくる。
元鐘とエミはお互いに気づく。
元鐘 ごめん待たせてって――え?
今居 いえ。全然待ってませんよ? 先輩?
元鐘 あ、ああ。ごめん。
エミ なんでいるの?
元鐘 そっちこそ、なんでここに?
エミ ……ていうか、誰?
元鐘 今の彼女だけど。
今居 今居です。初めまして。前に付き合っていた方ですよね?
エミ う、うん。まあ。知ってるんだ。
今居 何回か、見ましたから。
エミ へぇ。
元鐘 えっと、そっちは? 友達?
今居 今聞いていたんです。そうしたら――
エミ 彼氏! 彼氏ですが!?
今居 え、でもさっきは、
エミ ちょっと恥ずかしくて。
猫 え、俺彼氏だったん(ですか)
と、エミが猫を睨む。
猫 ですね。です。はい。彼氏やってます。
元鐘 なんか早速尻に強いているみたいだな。
エミ こう見えて凄い仲いいのよ。ラブラブ。悪い?
元鐘 いや。いつから?
エミ べつに。関係ないでしょ。
元鐘 そうだな。じゃあ、友田には悪いことしちゃったな。
エミ なにそれ?
元鐘 いや、あいつ、前からお前のこと好きだったらしくてさ。だから、フリーになったって話ししたら、
告白するっていうんで、住所教えてやったんだよ。
エミ なにそれ。なんでそんなこと勝手に教えるの?
元鐘 いや、だって教えてくれって言うから。
エミ ……最悪。
と、エミは去る。
猫 あ、ちょっと待ってくださいよ。どこ行くんですか。
エミ(声) うるさい
と、猫も去る。
元鐘 なに怒ってんだよ。あいつ。
今居 先輩、それはさすがにひどいですよ。
元鐘 だって仕方ないだろ。頼まれたんだから。「もう別れたしいいよな」って言われたら、俺も断れないし。
悪魔 でも、そんなこと言って彼がストーカーにでもなっちゃったらどうするの?
元鐘 どうするって……
今居 先輩?
悪魔 勝手に待ち伏せしたりして、で、暗がりでいきなりとかあるかもしれないわよね。
元鐘 そんなこと、するやつじゃないだろ。
今居 なにがですか?
元鐘 え、だから、待ち伏せとかさ。さすがにしないだろ。友田だし。
今居 知りませんよ。先輩の知り合いの行動までは。
元鐘 そうかな。
悪魔 今日あたり、襲ったりしちゃうかもね。あ、でも、もう別れたし。どうなっても関係ないか。
元鐘 ……
今居 先輩? それより、私も買いたい本あるんですけど。レジまでついてきてもらえます?
元鐘 あ、ああ。……今居。
今居 なんです?
元鐘 ごめん。俺、ちょっと行くわ。
と、元鐘が猫と少女を追いかけて去る。
今居 先輩!? 待ってください! 先輩!
悪魔 ああやって走っていくって事は、やっぱり前の彼女に未練あるのかな。
今居 まさか。喧嘩別れだって言ってたし。何とも思ってないって。
悪魔 口では言えるけどね。
今居 先輩。私……お腹すいたんですけど。
と、今居が元鐘を追いかけて去る。
悪魔 さて。種はまいた。後は、絶望の花が咲くのを待つだけ。
悪魔が去る。
7
風景が変わる。猫とエミがやって来る。
猫 ちょっと、どんどん駅から離れているんですけど。男あさりに行かないんですか?
エミ うるさい!
猫 すいません。
と、エミが立ち止まる。猫はぶつかりそうになる。
猫 っと、危ないな。いきなり立ち止まってどうしたんです?
エミ ……なにやってるんだろう。あたし。
猫 立ち止まってますよ?
エミ そうじゃじゃなくて。……なんでこうなんだろう。あたし。
猫 こうというのは?
エミ べつに。あんたに言ってもしょうがないし。
猫 言いたいことはちゃんと言ったほうがいいですよ。
エミ うるさい! ……だから、そういうことよ。
猫 え? どれです?
エミ べつに。……そうじゃない。そういうことじゃなくて。
猫 はい。
エミ 言いたいことが言えなくて。言わないでわかってもらえるわけないのに。わかってほしくて。
分かってくれないって思ってばかりで。最悪。面倒くさい女。
猫 そうなんですか?
エミ そうでしょ? あんたが彼氏じゃないってはっきり言えばいいのに。見得はって。絶対あいつ、誤解したし。
猫 まぁ、誤解もなにもって話しですけどね。はっきりと僕が彼氏だって宣言してましたから。
エミ だって、見た? あの女。
猫 はぁ。まぁ。
エミ なんであんなのと付き合ってるの? 全然あたしとタイプ違うじゃん。ってか、あたしのこと好きだったんならさ、
次に付き合う時はちょっとは似た感じの女と付き合うもんじゃない?
あれじゃ、まるであたしのことなんて全然タイプじゃなかったのに付き合ってたみたいでしょ?
猫 自分と似た感じの人と付き合っていてほしかったんですか?
エミ ……それはそれで、なんであたしじゃないのって思うから嫌。
猫 面倒くさいですね。
エミ だから言ってるでしょ! 面倒くさい女だって! 第一、なんで別れたからって元カノの住所を知り合いに教えるのよ!?
意味分からない!
猫 頼まれたって言ってましたよ?
エミ 頼まれたからって普通は教えないの! ちょっとは気を使うでしょ。あたしに。付き合ってたんだから! 好きだったんならさ。
猫 ……まだ、未練があるんですか?
エミ ……分からない。あったからって、別れたことには変わらないし。
猫 まだ好きなら、そう言ってみればいいんじゃないですか?
エミ また付き合いたいかって言うと、そういうわけじゃないし。
猫 め(んどうくさい)……難しいんですね。人間は。
エミ また、面倒くさいって言おうとしたでしょ。
猫 はい。いえ、そんなことはないですよ。
エミ 分かってる。面倒くさい人間だって。もう私なんてどうなってもいいのよ!
猫 そんなことないですよ。ちょっと頑張れば何とかなりますよ。
エミ 頑張らないとダメなんじゃん! それって、つまり私のままじゃダメってことでしょ!
猫 そんなこと……
エミ じゃあ私のいいところってなに? どうやったら好きになってもらえるの? 教えてよ。あんた、私を助けに来たんでしょ?
だったら教えてよ。どうしたらいいの!?
猫 ……そのままで、いいと思いますよ。
エミ ……。
猫 雨の中、僕は何度も鳴いていたんです。誰かに立ち止まってほしくて。誰かに見てほしくて。でも、誰も僕なんか見向きもしないで。
そりゃそうなんです。面倒くさそうですからね。ダンボールに入って。毛なんか雨でぺたーってなってて。細っこいし。
見栄えなんて全然だし。それなのに、あなたは立ち止まってくれた。声をかけてくれた。自分が濡れるのも構わずに、傘を預けてくれた。
だから、あなたはそのままでいいんですよ。
エミ ……頑張れって言ったくせに。
猫 ちょっとですよ。僕も、ちょっとだけ頑張りましたよ? 二本足で立つのは少し難しくて。始め転んでしまったけど。
でも、ちょっとだけ頑張ってみました。だから、ちょっとだけ、頑張ってみませんか。
エミ ……あたしには無理よ。
猫 だったら……僕じゃダメですか?
エミ え?
猫 僕が、あなたの傍にいるのはダメですか?
8
と、友田がやって来る。木刀的なものを持っている。
友田 ハルノさん、そいつから離れて!
エミ 友田君!? なんでここに!?
友田 嫌な予感がして探してたんだ。そいつは君を騙してる!
エミ なに言ってるの? ていうか、その手に持ってるのはなに?
友田 素手で殴ったら手が痛くなるじゃないか!
エミ なにその理由!?
友田 とにかく離れて! そいつは、悪魔の手先だ!
エミ いやいや、意味分からないよ?
猫 手先ではないですよ。僕は。お願いは聞いてもらいましたけど。
エミ え?
友田 ほら! やっぱり手先だ!
猫 いやいや、だから手先になった覚えは無いですって。でも、あれですよ。悪魔も案外優しいんですよ?
エミ なに言ってるの?
と、元鐘と今居がやってくる。
エミと猫を挟むように友田と元鐘&今居
元鐘 友田! お前なにやってんだよ!
エミ なんで……
友田 お前こそなんでここに。
元鐘 なんか嫌な予感がしたんだ。てか、その手に持ってるのはなんだ!
友田 武器だ!
元鐘 ああそうか。って、そういうこと聞いてるんじゃない! なんでそんなもの持ってるんだ!
友田 ハルノさんを守るためだ。お前は別れたんだから関係ないだろ!
エミ そう。あんたには関係ない。ってそんなことより(と、猫を見る)
今居 と、言っているので先輩、行きましょうか。
元鐘 いやいや、そういうわけには行かないから。というか、なんでそんな冷静なの?
今居 あまり私たちには関係ないかなと。二人の問題ですし。お腹空きましたし。
元鐘 そういうわけにはいかないだろう?
今居 やっぱり、まだ気になるんですか?
元鐘 いやだってこの状況だぞ。
今居 先輩、前の彼女のことは何とも思ってないって言いましたよね? だったら、いいじゃないですか。関係ないんですから。
それとも、まだあの人のことが好きなんですか?
元鐘 ……べつに、そんなことは無いよ。だよな?
エミ 私だって、あんたなんか。(それより今は、猫の方が気になる)
今居 あなたはどうでもいい。先輩。はっきり言ってください。先輩がはっきりあの人を好きじゃ無いというなら、私はそれを信じますから。
何とも思ってないんですよね? そうですね? あの人だって今は、その人(と、猫を指す)と付き合っているんだから。
元鐘 俺は……
友田 ちょっと待った―! なんだそれ! どういうことだ! お前、ハルノさんはフリーだって言ったじゃないか! 騙したな!
元鐘 騙したつもりは無い。俺だって知らなかったんだ。
今居 ラブラブらしいですよ。
友田 そんな……(と、膝をつく)
猫 あ、すごいですね。あっという間に敵を無効化しましたよ。
エミ あれはどうでもいいから、それよりもあんた。悪魔に願いを聞いてもらったって本当?
猫 ええ? それがどうしました?
今居 先輩。それで、答えを聞かせて下さい。あの人のこと、何とも思ってないんですね?
元鐘 ……何とも思ってないよ。好きじゃ無い。じゃなきゃ、別れないだろう?
今居 ……。
エミ もしかしてこれも、あんたの願いなの? 全部、あんたが願ったことなの? あんたのせいで、私、こんな目に遭ってるの?
猫 え? なに言ってるんですか? そんなわけ(無いですよ。)
エミ 近寄らないで!
元鐘 エミ!? そいつに何かされたのか?
エミ やめて! 来ないで!
元鐘 エミ?
エミ 嫌だ。もう、わけわかんないよ。何信じていいかわからない。
元鐘 どうしたんだよ!?
エミ 触らないでって!
元鐘 しっかりしろって!
エミ 昨日からずっと。変なことばっかりで。あたし……。
元鐘 わかったから、ちょっと落ち着けって。な?
今居 ……嘘つき。
友田 そうか。そういうことか。
元鐘 友田?
友田 最初からグルだったんだ。本当は別れてなかったんだ。そうやって、カップル同士で孤独な人間をあざ笑う気だったんだな!
エミ なに言ってんの?
友田 俺を笑いものにしようとしたって そうはいかないからな!
友田が武器を振るう。猫がこける。
猫 ら、乱暴は止めましょうよ。
友田 うるさい!
エミ もう嫌。なんであたしがこんな目に遭わなきゃいけないの。
友田 被害者面するな!
元鐘 危ない!
今居 先輩!?
友田が武器を振るう。
エミを守るように元鐘が、壁になる。
そして元鐘が殴られて、倒れる。
友田 あ……
今居 先輩!
エミ なんで?……ちょっと、大丈夫? ねぇ!
元鐘 ……いってえな。お前、ちょっと洒落にならないぞこれ。
友田 ……お、俺は悪くない。あ、当てるつもりなんか無かったのに、急に走り込んでくるから。
元鐘 嘘。まじで。うわっ。焦って損した。
今居 大丈夫ですか?
元鐘 いや、結構痛いけど。あ、血、出てない?
友田 あ、その、俺。
元鐘 落ち着けよ友田。本当に悪気は無かったんだって。エミに、彼氏が居るなんて本当に知らなかったんだ。
エミ ……彼氏じゃ無い。
元鐘 え?
エミ 彼氏じゃ無い。この人。
元鐘&友田 え、まじで。
猫 はい。実は。
元鐘 それ、俺殴られぞんじゃ無い?
友田 お、俺なんか治療できるもの探してくる。
と、武器を落として友田が去る。
9
エミ ……大丈夫。
元鐘 ああ。まぁ、たいしたことじゃない。怪我、ないよな。
エミ うん。守ってくれたから。
元鐘 当たり前だろ。もともと、俺が、住所教えたのが悪いようなもんだし。
エミ そういえば、そうだった。
元鐘 ごめん。
エミ べつに……。
猫 頑張るなら今ですよ。
元鐘 何の話?
と、今居が武器を拾う。
今居 ……先輩。やっぱりそうなんですか?
元鐘 え?
今居 結局、そっちを選ぶんですね。
エミ え?
今居は武器を掴み、二人を見る。
猫 え、何この状況。ちょっと、何やろうとしてるんです?
今居 黙れ。
元鐘 今居?
今居 付き合っている彼女のことは名字で呼ぶのに、別れた人は名前で呼ぶんですね?
元鐘 いや、これはその。
エミ 別にあたしたちお互い何とも思ってないから。ね?
元鐘 あ、ああ……
今居 そうですか。……嘘つき。
今居が思いきり武器を振りかぶる。
猫 ちょっと待った~!
慌てて猫は二人と今居の間に入り両手を広げ目を閉じる。
そして、代わりに殴られようとした。
瞬間、エミと元鐘と今居の時が止まる。
いつまでたっても痛みが襲ってこないので、恐る恐る目を開ける。
猫 あれ? 止まってる? おーい。「元気ですか~」 止まってる。え、どうしようこれ。なんでこんなことになったんだろう。
ぼくはただ、この子の幸せを願っただけなのに。
と、悪魔がやってくる。
悪魔 (笑いながら悪魔が出てくる)残念。うまくいかなかったみたいだねぇ。ああ。本当に残念。
猫 ああ、丁度いいところに! これ! 止まっちゃってるんですよ!
悪魔 ええ。止めたの。スリルあったでしょう?
猫 ええすごく。でも、どうしよう。
悪魔 どうやら、うまくいかなかったみたいね。
猫 はい。あの、これ、なんとかなりませんか?
悪魔 なんで?
猫 なんでって、このままじゃ、ぶつかっちゃうじゃ無いですか。
悪魔 だから?
猫 だからって。ぶつかったら怪我しますよ?
悪魔 そうね。その角度だと、顔に当たるでしょうね。もしかしたら目だったりして。そしたら、失明なんてこともありえるわね。
猫 そんなことになったら、怪我した方も、させた方も大変ですよ!
悪魔 困るかもね。
猫 そうですよ! だから、
悪魔 だから、いいんじゃない。
猫 え?
悪魔 せっかく頑張ったのに、全部台無し。台無しどころか、前よりも最悪。全部お前のせい。お前が、この子の笑顔を願ったせいで。
猫 何を言ってるんですか?
悪魔 怪我をしたらこの子はどう思うだろうね。ほんのさっきまで、少しだけ頑張ろうと思ってたのに。
怪我をさせたその子はどう思うだろう。さっきまで、楽しい時間を過ごせていたのに。
目の前で誰かが怪我をするのを見る彼はどう思うだろうね。自分のせいと責めるかしら。それとも、他の誰かに責任をなすりつける?
この子を傷つける原因となった物を持ってきてしまった男の子は何を思うかしらね。
本当はそれはこの子を守るために持ってきたはずの物だったのに。さあ、何を思う?
猫 そんなことになったら、みんな、悲しむ。
悪魔 そうねぇ。嬉しかった気持ちが大きければ大きいほど、絶望は深くなるからね。
猫 あなたは、そんな景色が見たいんですか?
悪魔 私は悪魔よ? そして願いをかけたのはお前。悪魔に願えば待つのは地獄。そう決まっているの。
猫 ただ、人を絶望させたくて。それでこんなことをしたんですか。それが、あなた?
悪魔 そうそれが、悪魔。でも、私はただ疑いの種をまくだけ。その種を育てたのも、疑惑を芽吹かせ、絶望への花としたのも人間。
もうすこし誰かを信じられれば良かったのにねぇ。それより前に、自分を信じれば良かったのに。だけど、人間はいつもこう。
何かを願う度に、心に魔を呼ぶ。……あなたは十分に頑張った。でも無駄だった。それだけのこと。さあ、離れてなさい。
最後の仕上げといきましょう?
悪魔は時を動かそうとする。
それに気づき、猫は再び今居が振り上げる武器の前に立つ。
悪魔 なにをやっているの? お前の出番は終わったの。
悪魔と猫はにらみ合う。
猫 ……は、はは。もう。冗談きついな。悪魔さん。思わず信じちゃうとこでしたよ。
悪魔 何を言ってるの? 冗談なんて言ってないわ。
猫 またまたぁ。
悪魔 全ては人間が絶望する顔を見るためにやったの。
猫 またまたぁ。「願いを叶えたわけじゃないんだからね!」って言うんでしょ? そういうの、あれですよ。ツンデレ。
意味分かって使ってますよ? あれですよね。こうやって、目標のぎりぎりで攻撃が止まることですよね。
悪魔 ?
猫 スンドメ。
悪魔 全然違う言葉になってるじゃない。
猫 だから、違うことなんですよね。本当は。
悪魔 何を言ってるの。私は、
猫 だって、あなたは僕の願いを叶えてくれたじゃないですか。神様だって聞いてくれなかった僕の願いを、叶えてくれたじゃないですか。
悪魔 残念だけどそれは、人間に(絶望を与える為よ)
猫 それなら叶える願いは僕のじゃ無くてもよかった。だけどあなたは叶えてくれた。だから、嘘をつくのは止めましょうよ。
悪魔 ……嘘なんかついてない。
猫 それに、言ってたじゃないですか。最近の若い人間って簡単に絶望してしまうって。
悪魔 言ったけど。それがなに。
猫 悪魔としては、「絶対絶望しないぞ。世の中は、希望に満ち溢れているんだ」ってやつを残念! って蹴落とすのが面白いんですよね。
だったら、足りないですよ。全然足りない。こんなの、えっと、お酢ステーキまでずっと青いライムしか出てこなくて、
やっとお酢にたどり着いたと思ったらお酢が赤いライムだった、みたいなあれですよ。ええ。ですよね?
悪魔 ……意味わかってないでしょう?
猫 分かってますよ! アレですよね。お酢のステーキだと思ったら、素のライムだったんですよ。
悪魔 ……これだから。元々人間じゃないやつはやりにくい。変に純粋なんだから。
猫 すいません。
悪魔 そこで謝るな。そんなことされたら……いいわ。そうね。……悪魔らしくいきましょうか。
と、悪魔が指を鳴らす。
当たっても大丈夫そうな武器(ピコピコハンマーとか)が、飛んでくる。
猫 え、どこから?
と、武器をその当たっても大丈夫そうな武器に取り替え、
悪魔 もっと、この子たちに希望が貯まって。絶対絶望しないって、思うまで。それまで絶望はお預けしておくわ。
猫 ありがとうございます。
悪魔 ……本当調子狂う。あんたの願いなんて、叶えなきゃ良かった。
猫 すいません。
悪魔 そこで謝るな。そんなことされるから……さあ、じゃあ、ひとまずの仕上げといきましょう?
猫がエミから離れる。時が動き出す。
今居 え? なにこれ。
元鐘 なにそれ。
エミ あれ? この子が持っていたのって……
猫 あ、なんだそこにあったんですね! それ探してたんですよ。ほら、僕の大事な甥っ子なんですよ。(と、言いつつ武器を奪い)
可愛いでしょう? ほら、よしよしよし、ああ、泣かないの。お腹空いたんでちゅか~。ミルク飲みましょうね~
と、言いながら猫は去ってしまう。
元鐘 なんなんだ、あいつ。
エミ 気にしないで。
元鐘 彼氏なんだろう?
エミ だから、付き合ってないって言ったでしょう!
元鐘 ごめん。
エミ ううん。私こそ。ごめん。
エミ&元鐘 あのさ……
エミ あ、どうぞ先に。
元鐘 いや。そっちからでいいよ。
今居 なんですかこのいたたまれない空気。
元鐘 あ、今居。ごめん。
エミ あたしのことは気にしないで。ほら、頭打ったんだし、彼女に傷、見てもらったら?
元鐘 ああ。
と、言っているところに友田がやってくる。全力疾走後という感じ。
絆創膏と消毒薬を持っている。
友田 そこの、コンビニで、絆創膏売ってた。あと、消毒薬。
元鐘 あ、悪いな。
友田 いいんだよ。傷、見てやろうか?
元鐘 ああ。
エミ あたしが見る!……あ。ごめん。彼女さんが(見るよね)
今居 先輩。
元鐘 え?
今居 ご友人お借りします。友人さん。
友田 はい?
今居 私。そういえば、すごくお腹が空きました。付き合ってください。とりあえず、コンビニまで。
友田 え、俺今全力で戻ってきたばかりなんだけど。コンビニでも、「めちゃくちゃ急いでるんで!」って言って買ってきたのに。
今居 でもいい加減、私はお腹が空き過ぎてピンチです。
友田 え、それ大丈夫なの? 肩貸そうか?
今居 汗臭いので遠慮します。
友田 親切が台無しだよ!
今居 冗談ですよ?
と、今居と友田が去る
10
エミ なんか気を使わせちゃったみたいだね。
元鐘 すごく気がきくんだ。後輩なのに。色々察してくれて。だから、一緒にいて楽なんだ。
エミ そりゃ私は、面倒くさい女だから。
元鐘 自分で言うなよ。
エミ ……なんであの時、あんなこと言ったんだろうって、ずっと思ってたの。本当に言いたいことは別にあったのに。
素直に言えなくて。もうちょっと頑張ればよかったって。
元鐘 ……俺は、言われなくてもわかってあげられたらよかったのにって思ってたよ。
気づこうと、ほんの少しでも頑張ってやればよかったって。
エミ 今は、頑張れてる?
元鐘 どうかな。あいつ、言わなくても気が付くし、言いたいことははっきり言うから。やりたいことは我慢しないし。
エミ いきなり殴りかかってくるとか?
元鐘 ああ。なんだったんだろうな。あれ。……まぁ、でも、もう少し言われる前に気づいてやりたいなとは思ってる。
エミ だったら、昔の彼女を下の名前で呼んでたらダメでしょ。
元鐘 まったくだ。気を付けるよ。
エミ うん……そうなれたのは、彼女のおかげ?
元鐘 まぁ。……あとは、お前の……ハルノのおかげだと思うよ。
エミ そう。
と、猫が一人の青年を連れてくる。池面。
これまで舞台に登場していない青年が望ましい。
できるだけ、ここまでに出てきた人よりもいい男に見えたらいいな。
猫 あの子ですあの子。
池面 え、どの子? 本当に可愛いの?
猫 ほらほら、男見つけてきましたよ~。
元鐘 ……お前、そんながっついてんの?
エミ そういうわけじゃないんだけど。(と、猫に)あのね。誰でもいいってわけじゃ……
と、悪魔が指を鳴らす。池面とエミに恋が訪れる。
池面 ごめん。えっと、何か話し相手探しているとか? とりあえず会うだけでもって言われたんだけど。お邪魔……だった?
エミ えっと、お忙しいんじゃないですか?
池面 いや、休日だしいい天気だからちょっとぶらつこうかなって思ってただけで。
エミ あ、でも彼女さんいたりとか……
池面 全然。最近こっち引っ越してきてさ。知り合いもいないんだ。君は? あ、もしかして隣が彼氏?
エミ いえ! 全然。そういうのじゃないですよ! いやだなあ! なんか偶然隣にいた赤の他人です!
ちょっと、距離近いんですけど!
と、エミは元鐘を突き飛ばす。
池面 あ、そうなんだ。じゃあ、一人?
エミ はい! 引っ越してきたばかりってことは、もしかしてこの町のことよくわからなかったりします? 案内しましょうか?
池面 あ、本当? 助かるなぁ。駅から大学までしかまだ歩いたこと無くてさ。
エミ 大学生なんですね。あ、私、ハルノって言います。ハルノエミ。
池面 僕はイケベ。君みたいな子が彼氏いないなんて信じられないな。
エミ え~ そうですか?
とかどうでもいい会話をしながら去っていく。
池面とエミは笑みを浮かべている。
11
元鐘 な、なんか釈然としないなぁ。
猫 いいじゃないですか。愛は突然やってくるんですよ。
元鐘 なんかでき過ぎじゃないか?
猫 いいじゃないですか。でき過ぎでも。愛があれば。ほら、いい笑顔を浮かべてますよ。彼女。
元鐘 そりゃあそうだけど……って、結局お前なんなんだよ? あいつの親戚かなんか?
猫 僕はあれですね、まぁ、いわゆる希望の使者? みたいなものです。
元鐘 あんな男が希望だっていうのかよ。
猫 妬かない妬かない。
元鐘 べつに妬いてなんかいない。
猫 そういうの、あれですよ。ツンデレ。あ、意味分かって使ってますよ? あれですよね。
と、悪魔が声をかける。
この時点でようやく元鐘も悪魔が見えるようになる。
悪魔 同じネタを二度やるなんて恥ずかしいことしないの。
猫 すいません。
元鐘 え? どっから!? てか、誰!?
悪魔 煩い。
と、悪魔が元鐘に触ると、元鐘は動きを止める。
猫 え、大丈夫なんですか?
元鐘 ちょっと動きを止めただけよ。それより、良かったの? これで。
猫 ……ええ。ちゃんと見られましたよ。あの子の笑顔。
元鐘 向けられているのはお前じゃないけど。
猫 ……いいんです。それでも。あの子は一人じゃなくなったんだから。あの雨の中一人で、僕に傘を差し出したあの子はもういない。
きっと、これからあの子は笑っていられる。希望だっていっぱいあふれる。だったらそれでいいんです。
悪魔 そう。……だけど、お前は一人になる。
猫 一匹ですよ。猫ですから。良いんです僕は。独りで鳴くのは、慣れているから。
元々、あの日もずっと一人で濡れ続けて、独りで鳴いているはずだったんです。それが、ほんの少しだけでも独りじゃなかった。
だからいいんです。
悪魔 ……そう。人がいいわね。
猫 猫ですけどね。……さぁ、約束どおり、エコにでもしてください。あ、レゴでしたっけ。
悪魔 そんなものにはしてあげない。お前がなるのは、レコ。
猫 なんですそれ?
悪魔 言葉なんてなんだっていいの。レコってのは、「これ」の逆。
猫 だから、なんなんです。それは。
悪魔 つまり、こういうこと。
と、悪魔は猫の頬を両手で掴んで引き寄せる。
猫 え?
悪魔 知ってる? 猫って言うのは、よく魔女の使い魔とされるの。だったら、悪魔が使ってもいいわよね。
猫 ちょっと、意味が良くわからないです。
悪魔 分からないなら、わかるまで一緒にいてあげる。そうすれば、お前だって、独りじゃないでしょう?
猫 あ――
悪魔 愛は突然やってくる。でしょう?
猫 なんかでき過ぎじゃないか?
悪魔 いいじゃない。でき過ぎでも。愛があれば。ほら、どうせあなたは鳴くんでしょう?
だったら独りじゃ無くて、私の側で。私のために鳴きなさい。
猫 ……良いんですか? 本当に泣いてしまいますよ?
悪魔 ええ。飽きるまではね。
猫は悪魔をまじまじと見る。
そして、独りでないことに気づき今更泣き始める。
悪魔は優しく笑みを浮かべ、猫の頭をなでる。
そして、猫と悪魔は歩き出す。
猫が元鐘に気づいて、指をさす。
悪魔が指を鳴らす。
元鐘の動きが戻る。猫と悪魔が去る。
元鐘 なんだ。今。体の動きが……って、あいつ彼女いたのかよ! ……俺も、ちゃんと彼女を大事にしないとだめだよな。愛、か。
と、言ってるところに今居と友田がやってくる。
何かを食べつつ手をつないでいる。そのまま通り過ぎようとする。
元鐘 って、待て待て! ちょっと待て! え? なにやってるの?
友田 ごめん。コンビニでの食べものトークが思いのほか盛り上がってしまって。これから、レストラン行こうってことになって。
今居 ごめんなさい先輩。どうやら極限まで食べ物へと恋焦がれた結果、
今居&友田 恋が生まれてしまったようなんです。
元鐘 唐突過ぎる!
友田 愛は突然やってくるんですよ。
元鐘 いやいやいや、さすがにそれはでき過ぎじゃない?
今居 いいじゃないですか。でき過ぎでも。
今居&友田 愛があれば。
と、二人はいちゃつきながら去っていく。
元鐘 だ……だったら、俺だって、唐突でいいから愛がほしい~!!
天に向かって叫ぶ男が一人。
その後ろを、幸せなカップルたちが歩いていく。
その勢いのまま、元鐘は友田と今居を引き離そうとする。
にぎやかなまま。溶暗。
完
猫が好きで書いた作品。「愛ある限り~(略)」と同じような発想から生まれました。 とてもお気楽な作品ですので肩の力を抜ききって読んで頂ければ幸いです。 捨て猫と言う存在には生まれてからこの方二度ほどしか会ったことがありません。 その二度とも、捨て猫、が生きている場面には遭遇できませんでした。 「捨てる神あれば拾う神あり」 そんなことわざが通用しない厳しい世界。 だったら拾う悪魔くらいいてもいいんじゃないかな。なんて空想したりしてみたり。 最後まで読んでいただきありがとうございました。 |