悪役になりたい!?
作 楽静


登場人物

GGG団(グレート・ガ○ャピン・ギャング)
悪の限りを行う秘密結社(らしい)ただいま、人数が減ってしまい、急遽戦闘員を募集している。


総帥(そうすい)   ジンマ キョーコ  
              GGG団総帥。指先に集められる力によって、強力なデコピンを使用するらしい。


元帥(げんすい)  紅(くれない) ピータン
             元帥。知略家。詐欺師の英会話教師と、外人女性(国籍不明)の間に生まれた。


戦闘員1       ジェット ユーロウ  
              戦闘員。格闘技の使い手であり、剣の腕にも長けている。かわいい女に弱い。


戦闘員2       野村幸(略)
              戦闘員。舞うように戦う、和服の女。自称、ユーロウの女。

【一般人に見える人々】

寺岡咲子       就職希望者。理由は金

田原優子       就職希望者。理由は面白そうだから。しかし、実は。


            声。時にはニュースキャスター。またあるときは、説明する人。



はじまりはじまり。




     暗がりの中、ラジオの雑音と共に、ニュースキャスターの声が流れてくる。


声 「国会で決められた予算に対して、社民党は全面的に反対するという姿勢を見せています。
   次のニュースです。15日未明、○○区の美容院「横山チョップ店」に現れた『アフロ怪人』を、
   駆けつけたボイスィレンジャーが退治しました。
   近々、○○市長はボイスィレンジャーを表彰すると表明しています。・・・次のニュースです・・・・」



     雑音が消えるにしたがい、声も遠くなっていく。
     だんだんと明るくなっていくと、そこはどうやら道路らしい。
     道の真ん中にはバス停が立っている。ずいぶんおとぼけなバス停である。
     その前には田原が立っている。
     可愛さを強調しようとして失敗してしまったような服を着ている。
     きょろきょろと落ち着かないそぶり。

     田原はでかいカバンを背負っている。
     と、カバンを開ける。中身を探しても捜し物は見つからない。


田原「おっかしいなぁ。どこやっちゃったんだろう?」


     寺岡が現れる。現代っ子っぽい格好がきちんとしている。
     片手に広告を持っている。
     道を捜しているらしく、周りをきょろきょろ見ながら歩いてくる。

     と、田原はストップモーション。


寺岡「(溜息)正直、ただいまこんな人生ってあり? って気分。
    まさか冗談半分にとっといた募集広告まで頼らなきゃいけないことになるなんて……
    ただ平凡に暮らしたかっただけなのになぁ。何が悪かったんだろう……
    ああ、人生が、二度あったらなぁ……」


     田原のストップモーションが解ける。
     


田原「あれ? 今一瞬止まったような……って、あ!」


     田原は、寺岡の持っている広告に気づく


寺岡「えっ? なに?」

田原「ああ! ああああ!」

寺岡「なに? 何ですか、急に」

田原「それ!(寺岡の広告を指さす)」

寺岡「これ?」

田原「それ! あたしの!」

寺岡「はあ? 何言ってるの? これは、私が」

田原「あたし、探してたの! それを」

寺岡「だから、これは私の・・・・・・もしかして、あなたも、ここに?」

田原「そう! だけど、なくしちゃって。どうしようかなぁって思ってたの」

寺岡「・・・・じゃあもしかして、面接を・・・?」

田原「そう。受けようと思ってるの。田原優子。20歳です♪」

寺岡「いや、私に自己紹介してもしょうがないよ。私も、今日面接受けに行くんだし」

田原「そうなの!? じゃあ、一緒に行こうよ!」

寺岡「うん。そりゃあ、いいけど」

田原「よかったぁ。試験って一人だと心細いもんね。細かい番地までは覚えてなかったし。
    もう辿りつけないかと思ってた」

寺岡「じゃあ、行こうか?」

田原「あ、ちょっとまって」


     いきなり田原はバス停を軽々と持ち上げる


田原「行こう♪」

寺岡「って・・・それ・・・・」

田原「どれ?」

寺岡「危ない! 振り回さないでよ! これよ、これ。バス停。もってっちゃだめでしょ」

田原「え?・・・ああ、これ? これ、本物じゃないから、ただの、カモフラージュなんだ」

寺岡「カモフラージュ? なんの?」

田原「こうやって、立っていれば、道に迷ったようには見えないでしょ?」

寺岡「・・・・・それだけのため?」

田原「そう。バス・ストップだから、バストちゃん」

寺岡「へぇ。名前、あるんだ」

田原「さ、行こうか」

寺岡「う、うん」


     田原と寺岡が舞台から去る。


○ 秘密結社本部

     突如薄暗くなり、音楽と共に、2人の人間が舞台に現れる。
     ジェットと野村だ。2人は、かけ声をあげながら、音楽に合わせて舞台を組んでいく。
     どうやら、ここは秘密結社らしい。いつの間にか持っている物がはたきへと代わり、
     そして、またいつの間にか、お互いの武器になっている。
    
     ジェットの服装は、あからさまに怪しい。ただし、悪の中ボス位の格好良さがある。
     対する野村の格好も、怪しくはあるが、なかなか悪役らしい。
     ジェットの武器は剣、野村の武器は鉄扇である。

ジェット「はっ!」

野村「はっ!」


     ジェットは野村が武器を持っているのを確認し、構える。
     野村もまたジェットを認識構える

     ジェット&野村
     声をあげながらの格闘

     ジェット 剣で斬りかかる
     野村 扇で受け流す

     ジェット 剣で斬りかかる
     野村 扇で受け流す

     ジェット 剣で斬りかかる
     野村 扇で受け流しながら剣を払い落とす


野村「ふふふ。どうやらこれまでかしら」

ジェット「・・・・それはどうかな?」


     ジェット 素手で構える
     野村 扇で攻撃


     ジェット&野村 格闘中〜


     ジェット 両の手で抑えながら扇を払う
     野村 体のバランスを崩す
     ジェット 正拳づきを寸止め
     野村 扇を思わず落とす


元帥「それまで!」

   
     元帥の声と共に、辺りが明るくなり、秘密結社の全貌が明らかになる。
     元帥が現れる。怪しい格好だが、えらそうだ。

     ジェット&野村 構えを解く


元帥「今日は、ユーロウの勝ちのようね」

ジェット「ふっ。さすがに女には負けはしません」

野村「その女に武器を落とされたのは誰かしら?」

ジェット「ちっちっち。ハンデだ」


     野村 鉄扇でジェットの額を叩く


野村「今度変に手を抜いたら、殺すわよ」

ジェット「ふん。手を抜かれないように、力を上げるのが先だろうが」


     野村 ジェットを睨む


元帥「ストップ! ・・・試合以外の喧嘩は止めなさい。みっともない」

ジェット「はっ。申し訳ありません」

元帥「野村さんも、あんまりかっかしないようにね」

野村「はい。」

元帥「今日は、もうじき面接が始まりますから。二人にはその準備を命じます」

ジェット「ははっ」

野村「御意に。・・・ところで、総帥の姿が見えませんが」

元帥「ああ、あの方なら・・・」

総帥「はーはっはっはっはっは」



     ジェット&野村同時

野村「何事!?」  
ジェット「な、なんだ?」



     突如辺りは暗やみに包まれ、怪しい音楽が流れ出す。
     そして、闇の中に一人の姿を浮かび上がらす。総帥、ジンマだった。
     ハデな格好を、フード付きマントで隠している。


総帥「闇より生まれ闇を生き。光を厭い闇を選び。今闇のために光を滅せん!」


     ハデな言葉と共に、照明がつく。
     ふと、総帥はそのまま固まる。


     間


野村「・・・? なんで固まっているの?」

総帥「闇より生まれ闇を生き(以下略)」

ジェット「うわっ。また、始めちゃったよ」

総帥「今闇のために光を滅せん!」


     間


野村「? また固まっちゃったよ」

総帥「闇より生まれ(以下略)」

ジェット「いつまでやっているんだよ!」

元帥「・・・・これよ」


     元帥 メモを取り出す


ジェット「これ?」

元帥「これを、言うの」

ジェット「・・・・これって、もしかして、紅(くれない)様が頼まれた・・・」

元帥「まかせたわ!」

ジェット「そんな、ずるいですよ」

野村「なんて書いてあるの? ・・・・うわ・・・・」


     野村&元帥 ジェットから離れる
     総帥はそんな皆を期待を込めた目で見ている

     ジェット 嫌そうな顔でメモを手に取る
     総帥 一つ頷いて


総帥「闇より生まれ闇を生き。光を厭い闇を選び。今闇のために光を滅せん!」


     ジェット わざとらしく

ジェット「あ、あなたは一体!?」


     総帥 フードつきマントを取り去る


総帥「名を知りたくば教えてやろう。わが名はジンマ!GGG団の総帥である!」


     間


     総帥 皆の反応を待つ
     沈黙を破ったのは、元帥の拍手。

元帥「(咳払い)ブラボーです。総帥。素晴らしい」

総帥「やっぱり♪ あなたならそういってくれると思っていたわ、ピータン」

元帥「紅(くれない)です。下の名前ではdon't call me!(憎しみを込めて)
    と、お願いしたはずですが(笑顔)」

総帥「そうだったかしら。すっかり忘れていたわ」

元帥「ははは。ぼけるのはたいがいにしやがれよ(笑顔)」

総帥「えー。結構チャーミングな名前だと思うけど♪」

元帥「はっはっは。いい加減にお黙りくださらないと、殺しますよ」

野村「こわっ」

ジェット「えっと、総帥?」

総帥「なに? 戦闘員一号」

ジェット「いや、それが今度の決めぜりふなんですか?」

総帥「その通り。第26バージョン目よ」

野村「一つ質問が」

総帥「なに?」

野村「この(といってメモをジェットから取り上げる)台詞が言われないときにはどうするんですか?」

ジェット「あ、俺が言おうとしたのに」

総帥「・・・・・・・」

ジェット「いや、俺も言わないと思うのですが」

総帥「・・・・・・考えてなかった」


     総帥 その場に膝をつく


元帥「まあそんなことはどうでもいいから」

総帥「どうでもいい!?」

元帥「(無視)さっさと面接の準備しましょう」

総帥「ピータン。どうでも良いって言うのは」

元帥「だから紅(くれない)だといっているでしょ!」

ジェット「くれないさま。落ち着いて」

野村「とりあえず、私、椅子用意しますから」


     野村が舞台から去る。
     と、入り口からか寺岡と田原の声が聞こえてくる。


寺岡「すいませーん」

田原「ごめんくださーい」

ジェット「お。総帥。紅様。客が見えたようです」

元帥「そのようね。では、総帥。ご準備を」

総帥「まっかせて♪ とりあえず、今日はバージョン16で行くから」

元帥「了解です」


     総帥は舞台を去る。


元帥「(ため息つきつつ)ユーロウ。お客さんのおもてなしをしていて。
    とりあえず必要書類を提出させて、それから、野村さんが来たら席に座らせる。
    分かったわね?」

ジェット「ははっ」


     元帥は舞台を去る。


寺岡「あの〜誰かいませんか?」

ジェット「どうぞ。そこ、自動ドアになってますけど、開かないんで。
     勝手に入って来ちゃってください」

寺岡「あ、はーい」


     寺岡が舞台に現れる。その瞬間、2人の時が止まった。
     お互いに、相手から目を離せずに、見つめ合う中、ジェットが何とか言葉を漏らす。


ジェット「美しい・・・」

寺岡「え?」

ジェット「いえ。・・・ようこそ。本日は、当社に面接を受けに来ていただきありがとうございます。
     とりあえず、先に履歴書の方を提出してもらってよろしいでしょうか?」

寺岡「あ、はい」


     寺岡 履歴書をジェットに渡す。


ジェット「ここまでの道のりはわかりやすかったですか?」

寺岡「いえ。ちょっと入り組んでいて・・・」

ジェット「そりゃあそうですよ。秘密結社ですから」

寺岡「ですよね」

ジェット「今、椅子が来ますので。野村! 遅いぞ」


     野村 椅子を一つ持って登場


野村「壊れてない椅子を探すだけで大変だったのよ。だいたい、こういうのは男の仕事でしょ!」

ジェット「すいません。やかましい女で」

寺岡「いえ。(椅子を渡されて)ありがとうございます。あの、」

ジェット「もうすぐ、説明係の方が参りますので。もうしばらく、俺と話しでもしてお待ちください」

寺岡「あ、いえそうではなくて。もう一人、いるんですけど」

ジェット「もうおひとり?」

野村「(舌打ち)早く言いなさいよ。まったく。また椅子もって来なきゃ」

ジェット「おい、お客さんに、その言い方はないだろう?」

野村「はいはい。ごめんなさいね」


     野村は舞台を去る。


ジェット「(無視)お友達も、あなたと同じように美しいのでしょうね?」

寺岡「いえ、別に友達じゃなくて・・・」

田原「ああああ! もう! なんなのよ、あのドアは!」


     田原が現れる。その瞬間、2人の時が止まる。
     お互いにお互いを認識したとき、田原が思わず浮かべるごまかし笑いとは別に、
     ジェットの方は、表情を固まらせる。時を動かすようになんとか、ジェットが口を動かす。


ジェット「醜い・・・」

田原「はあ?」

寺岡「あの、田原さんです。・・・(田原に)どうしたんですか?」

田原「どうしたもないって。あの忌々しいドアに、私のバストが挟まっちゃって」

ジェット「そんなに、胸があるようには見えないが・・・腹の間違いか?」

田原「失礼ね〜 違うわよ!」

寺岡「あの、バス停のことなんです」

ジェット「はぁ?」

田原「ここが、秘密組織ってわけね〜なんか、それらしいわぁ。で、あなたはヒラなの?」

ジェット「ぶっちゃけ失礼な奴だなお前は! ああ、ヒラだよ」

田原「ちなみに月給は?」

ジェット「聞くか? そういうこと・・・・(指で数を示す)50万」

田原「へぇ。きつい、汚い、嫌われる! の3Kでそれだけあるなら、いいじゃん」


     野村があらわれる。椅子を持ってきたようだ。


野村「椅子です」

田原「ありがと〜。あ、ヤッパリ女の人もいるんだ♪ よかったぁ」

寺岡「(田原に)ちょっと。・・・・もうちょっと、おとなしくしてないと落とされるよ?」

田原「あ、そっか。・・・ねぇ、名前まだ聞いてなかったよね」

寺岡「私は」

ジェット「(田原に)おい、履歴書は?」

田原「履歴書? あ。ちょっとまってて(カバンから、よれよれの紙を出す)はい」

ジェット「ずいぶんしわくちゃだな、黄色い染みがついているぞ? ・・・・まさか」

田原「カレー食べたときに、口拭く紙がなくってさぁ」

ジェット「履歴書で拭くなよ!・・・・・とにかく、準備が出来るまでもうしばらくお待ちください。野村」


     ジェット&野村は二人して舞台から去る。


田原「それで? あなた名前は?」

寺岡「え? ああ、私寺岡咲子」

田原「サキちゃんか。それで? なんで、こんな会社に勤めようと思ったの?」

寺岡「こんな会社って・・・・田原さんも、就職したくて来たんでしょ?」

田原「え? あ、ああそうね。まあね。でも、興味あるじゃん。悪の組織に就職したい、なんてさ。
    いくら不景気だからって」

寺岡「私、高卒でさ。面接、19社落ちたんだ。ここが、20社目」

田原「・・・・やっぱり、今不景気なんだねぇ」

寺岡「うん。女の私には、就職って難しいみたい。
    『女なんか役に立たない』ってはっきり言われた会社もあったし」

田原「わかるわかる。女なんか永久就職すればいい、みたいな風潮ね。まだあるよね」

寺岡「本当、頭来るあのハゲ爺共!」

田原「・・・・それで、悪の組織?」

寺岡「悪の組織だったら、就職させてくれるかなぁって思って。私、これでもハッキングとか、得意だし」

田原「そうなの!? 人は見かけによらないなぁ。
    だったら、パソコン関係の仕事につけば良かったじゃん?」

寺岡「だめ。パソコンは、苦手なの」

田原「よく分からないよ?」

寺岡「だから、ね。・・・私、・・・実は、・・・ネットばっかりやっていてさ。
    だから、ネット関係は得意なんだけど……」

田原「ああ、ひきこもりか」

寺岡「違うよ! ひきこもりなんかじゃないよ! 
    掲示板だって数時間は覗いて無くても大丈夫だし、はまっているチャットも、20くらいだし、
    そんな荒らしなんてまだまだ全然したことないし・・・」

田原「思いっきりはまっているじゃん」

寺岡「・・・(ため息)そうなんだよねぇ・・・・だから、就職試験の前の日も徹夜しちゃってたり、
    むしろ携帯でぎりぎりまで、掲示板見てたり・・・」

田原「中毒なんだねぇ」

寺岡「これじゃ駄目だって思っているんだけどね」

田原「それで、今回の挑戦かぁ」

寺岡「田原さんはどうして?」

田原「いや、私は」


ジェット「お待たせしました」


     ジェットと、野村が現れる。


野村「元帥様のご登場です」


     元帥が現れる。威厳をもち、なんだか厳粛な歩み。


元帥「秘密結社GGG団へようこそ。私が、元帥の紅(くれない)です。
    右にいますのが、戦闘員である、ジェット・ユーロウ。そして、左にいるのが野村さんです。
    お見知り置きを」

寺岡「野村さん……?」

野村「『野村さん』までで一つの名前です。通称、野村、ですが。なにか?」

寺岡「いえ……なんか、ちょっと意外で」

元帥「……よろしいですか?」

寺岡「は、はい」

田原「よろしくおねがいします」


     緊張した間


     総帥が、ふと顔を覗かせる。


総帥「ねぇ、ピータン。準備できた?」

元帥「シャラップ! コール、ミィ、KURENASI! ドゥー、ユー、アンダスタン?」

総帥「いえーす。アイドゥ。ごめんよピータン。準備できたら呼んでね」


     総帥が去る。


元帥「まだ言うか!」

寺岡「ピータン?」

元帥「(寺岡を睨んで)寺岡咲子、減点1」

寺岡「え!?」

元帥「今度、私をその名で呼んだら、さらにマイナスします。よろしいですね」

寺岡「は、はい」

元帥「よろしい。ユーロウ。野村さん。下がりなさい。そして、総帥に準備が出来たと」

ジェット「はは」

野村「了解しました」


     ジェット&野村が去る


元帥「さて、このたび、GGG団は、規模拡大と供に、新団員を募集することにしました。
    今日、あなた方二人は、その新団員になるために、ここに来たのだろうと、
    私は理解しています。そうですね?」

寺岡「はい」

田原「その通りです」


     元帥は頷いてノートのようなモノを取り出す。


元帥「先に説明しておきますが、私たちGGG団は数は少ないものの、立派な悪の組織です。
    主に、他の悪の組織が頼まれた仕事の下請けや、斡旋をしながら、
    ○○区一帯を悪のはびこる場にする事を目標に頑張っています。当然、警察は敵です」

田原「あの」

元帥「なんですか?」

田原「それって、あんちょこ?」

元帥「・・・田原優子。減点1」

田原「ごめんなさい」

元帥「(咳払い)とにかく、そういった仕事ですので、収入は良いですが危険は付き物です。
    このGGG内でも、今年に入って、三人の負傷者が出ています。
    まぁ、我々は警察には捕まりませんが」

寺岡「え・・・?」

元帥「大丈夫。入団後、改造手術を受けてもらいます。
    それにより、警察程度にはやられない力を得ることが出来ます。
    ・・・が、正義の味方連中には注意しないといけません」

寺岡「ああ、ボイスィレンジャーですか」

元帥「名前を聞くのもおぞましい!」

田原「結構活躍していますよね。最近」

元帥「○○区内にしか現れないとはいえ、忌々しいにもほどがある。
    今年の第一目標は、とりあえず、ボイスィレンジャーの討伐です。
    ですから、その点は覚悟しておいてください」

寺岡「はい」

田原「無理かもねぇ」

元帥「田原優子、減点1」

田原「あ・・・・ごめんなさい」

元帥「さあ、では、以上の説明を受けても、まだ入団の意志はありますか?」

寺岡「はい」

田原「もちろん」

元帥「それでは・・・・・われらが、総帥をお呼びいたしましょう!」


     元帥の言葉と共に、辺りは暗やみに包まれる。
     怪しげな音楽と共に、光が総帥の姿を浮かび上がらせた。
     また、総帥はフードマントをかぶっている


総帥「ふっふっふっふっふっふっふ・・・」

元帥「(棒読み)誰だ!」

総帥「問われたならば応えるのみ。闇より生まれた魔の化身。
    プリティスマイルに見事隠した悪の意志」


     と、照明が完全につく。


総帥「我こそはGGG団総帥、ジンマである!」

元帥「総帥、登場お疲れさまです」

総帥「おう。さぁ、ピータン。今回の受験者を紹介しておくれ」

元帥「く、れ、な、いですと、何度言えば、あなたのおつむは理解しやがるのですか?」

総帥「はっはっは。そんなことより。さて、受験者諸君」

元帥「無視かよ!」

総帥「受験者諸君。悪は好きかな?」

寺岡「え?」

田原「どっちかというと・・・・」

総帥「私は悪が大好き!」


     総帥 うっとりと夢見るように


総帥「日光へ修学旅行へ行く生徒のバスを、同名のラブホテルの前に止めてしまうのが大好き」

寺岡「せこっ」

総帥「美容院にやってきた女の子達の髪を、ド紫にするのが大好き」

田原「ひどっ」

総帥「混んでいるバスに、わざと大荷物で乗り込むのが大好き。二人とも、悪は好き?」

寺岡「そういう悪なら」

田原「結構好きかも」

総帥「よろしい。さて、ではピータン。試験の説明を。これが、今回の試験よ」


     総帥は試験の紙を元帥渡す


元帥「(ため息)では、・・(紙の文を読んで)・・・・って・・・まじですか?」

総帥「マジです」

元帥「アー、ユー、オーライ、ヘッド?」

総帥「イエス!」

元帥「・・・わかりました。試験は、悪に必要なモノを、あなた達が持っているかどうかです」

寺岡「悪に必要なモノ?」

田原「例えば?」

元帥「例えば、というより、次の二つです。
    一つ目。決めぜりふ。二つ目。特徴的な笑い方」

寺岡「ええ! そんなぁ」

総帥「そんなぁ、じゃない。この二つがこなせないで、何が悪の組織よ、悪の怪人よ! 
    もし、バルタン星人が、『うひゃひゃひゃ』って笑っていたら、世界はどうなっていたと思うの」

田原「面白かった」

総帥「そういうことを言っているんじゃない!」

寺岡「笑い声って大切なんですか?」

総帥「大切よ。例えば、この元帥であるピータンはね」

元帥「紅(くれない)だ」

総帥「笑うときには『ぴーたったったん』って笑うのよ」

元帥「笑うか!」

総帥「馬鹿な笑いかたよねぇ」

元帥「だから笑いません! 笑い方なんて気にしているのは総帥くらいなものですよ」

総帥「そうかなぁ・・・でも、だめ。これは、譲れません」

元帥「と、いうことです」

田原「え〜。そんなこと言われたって、笑い方なんて、ねぇ」

寺岡「すぐには思いつかないし」

元帥「大丈夫。制限時間はちゃんと授けましょう。決めぜりふと一緒に笑いも、言ってもらいます」

総帥「まぁ、10分くらい? あれば十分よね♪」

田原「相談は?」

元帥「別にしても良いですけど、二人とも受かるとは限りませんよ」

田原「そんなぁ」

総帥「んじゃ、あたしは、ちょっと衣装替え〜」

元帥「あ、総帥。あんたまたうちの経費勝手に使って服作ったんじゃないでしょうね!?」

総帥「ふふふ。今度のヤツは凄いよ」

元帥「凄いよじゃない!」


     総帥&元帥は舞台を去る。


田原「はぁ。どうしよっか?」

寺岡「・・・・なんか、思っていたのと違うなぁ」

田原「思っていたのと?」

寺岡「だって。悪の組織だよ? もっと、テレビの悪役みたいに怖い場所かと思っていた」

田原「演技よ、演技。このご時世でも、悪の組織なんて就職する人少ないんだから。
    新入社員が逃げないように、演技しているんだって」

寺岡「そうなのかなぁ。なんか、やっていることもしょぼいしさぁ」

田原「あのねぇ。GGG団を舐めちゃいけないわよ。こないだだって、
    アフロ怪人が美容院を乗っ取って、美容院にやってきたお客さんを
    みんなアフロにしていたんだから」

寺岡「それって、怖いよりも、可笑しくない?」

田原「可笑しくないわよ! なかなか手強い敵だったんだから」

寺岡「ふうん。詳しいんだね」

田原「まぁね♪」

寺岡「あ、でも、結局倒されちゃったんでしょ?」

田原「そりゃあね。ボイスィキャノンで、一撃よ♪」

寺岡「痛そうだなぁ」

田原「悪さする方が悪いんだって」

寺岡「そっか。・・・・悪も大変だねぇ」


     寺岡&田原 考えている
     と、ジェットが現れる。


ジェット「悩んでいるみたいだね」

寺岡「あ、さっきの・・・えっと・・・」

ジェット「ジェット・ユーロウ。戦闘員の一人だ。でも、君ならユウと呼んでくれていい」

田原「ねぇ、ユウさん」

ジェット「黙れ! お前には言っていない」

寺岡「あの、ユーロウさん。私別に困っては・・・」

ジェット「とりあえず、椅子をちょっと離そうか」


     ジェットは軽々と寺岡の座っている椅子を持ち上げる
     寺岡は慌てて降りる


ジェット「座ったままでも良かったのに」

寺岡「いえ、悪いですから」

ジェット「遠慮深いんだね」

田原「なんか、私から遠ざかってない?」

ジェット「何も聞こえないな」


     ジェット&寺岡は田原と反対方向へ。


ジェット「さあ、悩みがあったら話してご覧」

寺岡「悩みって言うか・・・・」

田原「ねぇ、私には聞いてくれないわけ?」

ジェット「知らん」


     ジェットの言葉と共に、田原がいる方は暗やみが包む。

   
田原「そんな! 照明まで変わるなんて!? え? 私、いなくていい!?」

ジェット「(無視)(寺岡)君には、悩んでいる顔は似合わないよ」

寺岡「悩んでいるって顔に出てるんですか?」

ジェット「顔に? 違うな。君の心に悩みが見える」

寺岡「えっと・・・・実は、決めぜりふと、笑い声に困っていて」

ジェット「笑い声? そんなの簡単だろう?」

寺岡「なんか、悪らしい笑い声じゃないといけないとかで」

ジェット「ならばこう笑えばいい『はーっはっはっは。はーはっはっは』」


     思い出したように田原の照明がつき


田原「ばかっぽい」

ジェット「黙れ! 耳が腐る」

田原「なっ」


     そしてまた、田原は暗やみに包まれる。


寺岡「私には、ちょっと無理かなぁ」

ジェット「まぁ、少し恥ずかしいって事はあるかもしれないな」

田原「少しかよ」

ジェット「じゃあ、これは。『くっくっくっくっく』」


     田原の上の照明がつき、


田原「えちごや。お主も悪じゃのう」

ジェット「いえいえ、お代菅様にはかないませんて・・・って、ちっがーう! やらせるな!」

田原「ノリノリだったくせに」

ジェット「照明」


     また田原は暗やみに包まれる。


田原「酷っ」

寺岡「笑い声って難しいんですねぇ」

ジェット「そんなことないって。大丈夫。ポーズさえそれっぽかったら、どんな笑い声でも通るから」

寺岡「そうなんですか?」

ジェット「だって、試験管俺だし」


     しつこく田原の照明がつく。


田原「なーんだ。心配して損した」

ジェット「お前には言ってない」

寺岡「いいんですか? そんなことして」

ジェット「大丈夫。なんだったら、決め台詞も考えてあげようか?」

寺岡「なんで、そんなによくしてくれるんですか?」

ジェット「・・・・それは」

田原「そんなの決まっているじゃんねぇ〜」

ジェット「照明!」


     田原はまた暗やみに包まれる。


田原「うわっ。また、はぶられたよ」

ジェット「もう、気づいているのかと思っていたよ」

寺岡「気づくって?」

ジェット「俺の気持ちに」

寺岡「気持ち?」

ジェット「こんな事を、こんな時に言うのは、得意じゃないんだけど・・・
     でも、こんな気持ちになったのも、初めてなんだ」

寺岡「え、あの、もしかして・・・」

ジェット「一目会ったときから、君だって思った」

寺岡「それって、あの」

ジェット「だから、なんて言うのかな。俺は、君を・・・・」


     突如音楽が流れてくる。
     (第一候補SAY YES「何度も言うよ〜(略)」あたりから)いきなり大音量


ジェット「なっ・・・音! 早いっつーの! こら、止め、音!」


     辺りが明るくなる。
     田原は、いつの間にか寝てしまっている。


寺岡「えっと・・・」

ジェット「あの・・・・だから・・・・俺は・・・・」

野村「『俺は』なんなのかしら」


     野村が現れる。
     右手にラジカセを持っている(背中に隠している)


ジェット「野村・・・」

野村「やだぁ。ユウったら。いつもみたいに、『野村のラブリーさっちゃん』って呼んでよ」

ジェット「いや、そんな風に呼んだことないだろう!」

野村「そうだったっけ?」

ジェット「(ラジカセに気づいて)おい、お前・・・それ、もしかして今の音楽は!?」

野村「気を利かせてかけてあげたのよ。ちゃんと、活用してくれなくっちゃ」

ジェット「活用って・・・お前なぁ!」


     野村はあくまで笑顔のまま寺岡へと歩いていく


野村「(寺岡に)だめよ。この人の言うことをまともにうけちゃ。どうせ遊ばれるだけなんだから」

寺岡「私、別に・・・」

野村「無事に就職したかったら、人のモノに手を出すのは止めときなさいね」

ジェット「だれが、誰のモノだって!?」


     野村は無視したまま田原へ近づく
     田原はまだ寝ている


野村「あなたは・・・・心配ないわね」

田原「(目覚めて)な、何が!? なにが、どしたの?」

野村「何でもないわ」


     野村 ジェットへ


野村「さあ、まだこの子達の考える時間は終わってないはずよ。行きましょう? 
    そして、私たちの話をしましょう」

ジェット「話す事なんて何もない」


     野村 ジェットの首筋を掴む


野村「行きましょう?」

ジェット「か、かならず、俺は戻ってくる〜」


     ジェット&野村は去る。


田原「悪の組織も色々と大変だねぇ。やっぱ、男一人って言うのは問題よね」

寺岡「・・・・・」

田原「あれ? どしたの?」

寺岡「え? あ、ううん、なんでもない」

田原「なんでもないことないでしょ。なんか、ぼぉっとしちゃってたわよ」

寺岡「そう? 別に、大したことないよ」

田原「惚れたね?」

寺岡「えぇ゛!!?」

田原「そんな慌てなくっていいって〜。気持ちは分かるよ。あんな風に迫られちゃあねぇ」

寺岡「べつに、そういうわけじゃないけど」

田原「かっこいいしね。ユーロウさんって」

寺岡「だから、そんなんじゃないって」

田原「はいはい。そういうことにしておくよ」

寺岡「・・・・・いいの? 田原さんは、試験のこと考えなくて」

田原「あ、誤魔化そうとして〜」

寺岡「だから、違うってばぁ。もういい! 知らない!」

田原「ごめんごめん。もう言わないって」

寺岡「・・・・・・・・」

田原「さきちゃんは、ちゃんと決め台詞考えれたの?」

寺岡「・・・・うん。一応」

田原「え? どんなのどんなの? 教えてよ」

寺岡「嫌だよ。恥ずかしいし」

田原「どうせ、試験官の前では言うんじゃん」

寺岡「やっぱりそうかなぁ? 書かされたりですまないよね?」

田原「絶対にね。あの人達なら、言わせると思うなぁ」

寺岡「そっかぁ・・・・」

田原「だから、今のうちに言っておけば、恥ずかしくもないし、悪いところは直せるよ」

寺岡「・・・・笑わない?」

田原「笑わない笑わない」

寺岡「・・・・・・・・・わかった」


     寺岡 その場に立つ


寺岡「・・・じゃあ、言うね」

田原「はい。では、スタート!」


     寺岡 弱く言い出すが、途中から、だんだん乗ってくる


寺岡「(咳払い)一つ。昼間のセクハラ親父を。
        二つ。ふざけた差別親父を。
        三つ。とにかく醜い親父共。斬ってくれよう、あ、ももたろ〜」


田原「なんか、良い奴じゃん。それって」

寺岡「え? ・・・・やっぱり、そうかなぁ?」

田原「うん。さきちゃんって、もしかしたら、正義の味方の方が向いているかもよ?」

寺岡「え、無理だよ。正義の味方は私には。・・・・田原さんは、決め台詞考えたの?」

田原「あたし? あたしは、前からあるから」

寺岡「うそ! すごい。どんなの?」

田原「聞きたい?」


     寺岡 頷く


田原「よし、では聞かせてあげましょう♪」


     田原 舞台の中央に膝をつく


田原「嘆き悲しむ人のため
    愛と勇気を声で奏でる
    聖なる歌声は悪を滅ぼし
    華麗な舞いは世を救う

    声で正義を貫く愛の戦士
    ボイスィレンジャー。
    イエロー! 見参!」


     田原は決めポーズ。

     間


田原「……決まった」

寺岡「え? え?・・・それって・・・ボイスィレンジャーの決め台詞・・・ってえ?」

田原「黙っていてごめんね。実は私、ボイスィレンジャーなの」

寺岡「うそ・・・だって正義の味方がなんで、悪の組織に? 転職?」

田原「そんな分けないでしょ。本当に、本物よ。それは保証するわ」

寺岡「じゃあ、なんで・・・」

田原「これは、潜入捜査だったのよ。ごめんなさい。あなたを、利用させてもらったの」

寺岡「私を?」

田原「そう。何も知らない就職試験を受ける一般人と一緒に来れば、
    私も、自分の素性をより隠しやすくなるでしょう? だから、あなたと一緒に来たのよ」

寺岡「そんな・・・・」

田原「びっくりするのも無理はないわよね。でも、変だと思わなかった? 普通のかわいい♪
    女の子が、バス停を持ち上げられると思う?」

寺岡「ただ、怪力なのかと・・・」

田原「それもあるけどね。これでも、ボイスィレンジャーとして特殊訓練を受けているから。
    レンジャースーツを着ていなくても、ある程度一般人より優れた力が出せるの」

寺岡「それじゃあ、あのバス停にも何か意味が?」

田原「あれはね。武器よ」

寺岡「武器?」

田原「ボイスィレンジャーイエローの武器が何か知っている?」

寺岡「え? ・・・確かニュースでは・・・レッドがマイクで、ブルーがギター、グリーンが……」

田原「カスタネットよ。彼、楽器はそれしか扱えないから」

寺岡「それで、ピンクがベースなんだよね」

田原「ある意味、レッドとブルーとピンクだけいればいいって言われているけどね」

寺岡「それで……イエローは……確か……ボイスィマイクスタンド!」

田原「ピンポーン♪ よく覚えていたわね」

寺岡「だって、一人だけ楽器ですらないから……あ、もしかして! あれが?」

田原「そう。あのバス停が、マイクスタンドになるの」

寺岡「全然気づかなかった・・・」

田原「そりゃあ、気づかれちゃったら意味がないから」

寺岡「でも、なんで私に正体をばらしたの? 私は、悪の組織の面接を受けに来たのよ?」

田原「でも、あなたはまだ悪の組織の人間じゃない。そうでしょう?」

寺岡「そうだけど」

田原「だから、今から正義の味方になることもできるのよ」

寺岡「え!? ボイスィレンジャーになれるの?」

田原「それは無理だけど・・・でも、ボイスィレンジャー・フォロークラブには入れるわ」

寺岡「フォロークラブ?」

田原「正義の味方の補佐よ。怪人が現れたときに、いち早く知らせたりするの」

寺岡「それって、お金はいるの?」

田原「なにいっているのよ。正義の味方はほとんどがボランティアよ。
    あたしだって、普段は実家で父さん達と畑仕事しているわ」

寺岡「だからそんなに力があるんだ……」

田原「そうよ♪ とにかく、ボイスィレンジャーでの収入は限りなくゼロよ。時々、マイナスにもなるわ」

寺岡「それじゃあ、私・・・・」

田原「でも、その代わり正義の役に立っているっていう、とてつもない名誉を受けるのよ」

寺岡「でも・・・・」

田原「言っておくけど、悪の組織にはいるというのなら、あなたも私の敵になるわよ」

寺岡「・・・・・・・」

田原「大丈夫。あなたは別に何かをしなきゃいけないわけじゃないから。
    ただ、試験が始まったら『やっぱり止めます』っていって、席を外せばいいの。
    そして、入り口を開けて頂戴」

寺岡「そうしたら、どうなるの?」

田原「私は、仲間を呼ぶわ。そうしたら私の仲間がなだれ込んでくる。
    そして、この悪の組織は終わりよ」

寺岡「・・・・・・・・・」

田原「あなたは、悪の組織を一つ潰すことに貢献するのよ。素晴らしい名誉を手に入れられるの」

寺岡「・・・・・・・・」

田原「わかったわね?」

寺岡「私・・・・・・」

野村「さぁ、考える時間は終了です!」


     野村が現れる。ジェットにピッタリくっついている。
     ジェットがむっすりとした顔で現れる。何か2人の間にあったらしい。


ジェット「試験の結果は、総帥、元帥二人の目の前で行ってもらう。(野村に)いい加減離れろ!」

野村「良いじゃない別に・・・(言いながら離れる)」

ジェット「(寺岡に)この女のことは気にしないで。大丈夫? 顔色悪くないか?」

寺岡「・・・平気です」

田原「それより、総帥は来ないんですか〜?」

ジェット「それよりとはなんだ。・・・いや、もう来ると思うが・・・」

総帥「いやよ〜。決め台詞言うのぉ」

元帥「はいはいはいはい。いいから素直に来ましょうねぇ」

総帥「痛い痛い痛い〜ピータン、痛いよ〜」

元帥「(エセ外人風に)そーりー。きこえませーん。
    さっきから人の言葉をアンダスタンしない耳なんていらないでしょう〜」


     元帥が登場
     総帥の耳を引っ張ってくる
     そんなわけで、総帥も、登場
     右手にフードマントを持っている
     耳を引っ張られている。
     さっきまでと服が違う。


元帥「ただいま参上しました。総帥。お客様もお待ちでしたよ」

総帥「はいはい。参上しましたよ。せっかく、服まで変えたのになぁ」

元帥「そんなのはどうでも良いですから。試験を行いましょう」

総帥「わかっているよ。さぁ、では、二人にはまず笑い方から言ってもらおうかな?」

田原「その前に、寺岡さんが話したいことがあるみたいです♪」

寺岡「え? 私、別に」

田原「あるのよね?」


     田原 寺岡を軽くどつく


ジェット「(田原に)おい!」

元帥「(寺岡に)話しがあるというのは本当ですか?」

寺岡「・・・・・・はい」

元帥「聞きましょう」

寺岡「私・・・・・」


     寺岡はジェットを見る
     ジェットは寺岡を見つめる

     寺岡は田原を見る
     田原は寺岡を睨む


寺岡「私・・・・・・ごめんなさい」


     寺岡は田原に頭を下げる


田原「え?」


     寺岡は素早くジェットの後ろに隠れる
     背中に寄りかかったまま俯いて


寺岡「その田原さんは、ボイスィレンジャーです!」


     全員 驚く


総帥「ボイスィレンジャー・・・初めて見たわ」

元帥「(総帥をかばいながら)体格から判断するに、イエローか」

ジェット「(寺岡を背にかくまって)まさか、単身乗り込んでくるとはな」

野村「(ジェットに)べたべたするのやめなさいよ」

ジェット「お前が、べたべたしてくるなよ」

田原「そんな・・・・さきちゃん・・・・あなた、なんで・・・・」

寺岡「・・・・ごめんなさい。私、ボランティアなんてやってられる余裕じゃないの・・・
    それに、元々、私は悪の組織に入りたくて来たのよ。裏切る事なんて、出来ない」

田原「私のことは、裏切ったのに」

寺岡「ごめんなさい」

ジェット「本当に、貴様ボイスィレンジャーか」

田原「こうなったら、仕方がない。そうよ! 私こそが、ボイスィレンジャーが一人、黄色の怪力。
    イエロー!」


     田原 ポーズを取る
     すぐに、カバンからメガホンを取り出す 


元帥「それはまさしく、ボイスィホーン」

ジェット「くっ。変身する気か。野村! 俺の剣を持ってこい」

野村「断る」

ジェット「いや、断るなよ」

野村「その女とくっついている限り断る」

ジェット「残念だ。剣を持ってくる時の顔がかわいいのに」

野村「すぐ取ってくるわ」


     野村が剣を取りに舞台を去る。


元帥「総帥! ここは、我らにお任せを」

総帥「え〜。私も、活躍したい!」

元帥「良いから、ひっこんでろ!」

田原「ふん。もう遅い。チェンジ。ボイスィ!」


     田原がメガホンに向かって叫ぶ
     突如、辺りが薄暗くなり(といっても、完全な暗闇ではない)
     田原の姿がヤケにあからさまに照明で浮きだたされる。

     そして、どこからか説明口調な声が響き渡る。


声 「説明しよう。ボイスィレンジャーイエローである、田原優子がボイスィホーンに叫んだとき、
   大気中にあるよく分からない物質が彼女のスピードを異様に上げ、
   ボイスィレンジャースーツに着替える助けをするのだ」


     田原は着替える
     といっても、スーツはあらかじめ服の下に着てあったらしい。
     ので、マスクをつける。そして、上を脱ぐ。



     ここから、敵の組織の人間&寺岡はスロー

ジェット「(スロー)剣はまだか!」

元帥「(スロー)はやく、奥へ!」

総帥「(なぜか普通)分かったよ〜」


     総帥 走って下手へ退場(スロー関係なし)


寺岡「(スロー)消えた!?」

元帥「(スロー)さすが総帥」


     田原 膝をついて俯く
 
     スロー解ける

     野村が駆け込んでくる。


野村「ユーロウ! 剣よ」

ジェット「ありがとよ」

野村「あたし、輝いている?」

ジェット「いや? 普通だろ? そんなことより、前を見ろ!」

野村「そんなことたぁ、なんだよおい!」


田原「嘆き悲しむ人のため
   愛と勇気を声で奏でる」


元帥「しまった、すでに変身してしまったか」

田原「聖なる歌声は悪を滅ぼし
    華麗な舞いは世を救う」

ジェット「我こそは、ジェット・ユーロウ!」

田原「声で正義を貫く愛の」

ジェット「ボイスィレンジャーよ。まさか一人で来て勝てるとは思ってないだろうな!」

田原「声で正義を貫く」

ジェット「能書きはどうでもいい! さぁ、かかってこい!」

田原「なによ! 決め台詞くらい言わせなさいよ!」

ジェット「ふん。誰が言わせるか。アフロ怪人のかたき。取らせてもらうぞ。
     アイツは、俺の親友だったんだ」

田原「あたしに勝てるかな!?」

ジェット「いつも、一人を五人がかりでたこ殴りにする奴には負けはしない!」


     ジェット&田原 にらみ合う


ジェット「咲子さん。少し下がっていてくれ。これから、どちらかが血を流す」

寺岡「気をつけてください」

ジェット「分かっている」

ジェット「(田原に)行くぞ!」

寺岡「来い!」


     緊迫する間
     と、そんな雰囲気をぶちこわすように。

元帥「なんかぁ、ラブコメやられちゃ困るよねぇ」

野村「てか、あたしの相手なのに、みたいな」

元帥「あら。あなたこないだまでアフロ怪人じゃなかったっけ?

野村「だって、あの人今入院中だし」

元帥「節操ないわねぇ。あたしが狙っちゃうわよ。アフロ怪人。
    アフロから今度はソフトモヒカンにしちゃったり」

野村「あ、そしたら、あたしまた惚れ直すかも」


     二人して楽しそうに話しをしている。


ジェット「あの、黙っていてくれません?」

元帥&野村「はーい」

ジェット「あらためて、いくぞ!」

田原「剣か・・・ならばこちらも、武器を出すわよ。こい! ボイスィマイクスタンド!」


     途端響き渡る大音響。
     なにか、固い物が固い物にぶつかっているような音が響き渡る。


元帥「なんかぶつかっているわね」

野村「上の方よね」

田原「あれ? おかしいなぁ?」

寺岡「ひっかかっているんじゃない?」

田原「え?」

寺岡「ほら。だって、ドア通らなかったんでしょ?」

田原「そんな・・・大丈夫。ボイスィマイクスタンドはそんなやわじゃないわ! 
    こい!ボイスィマイクスタンド! こい! こい! こーーーい!」


     でかい衝突音が続く。


元帥「あ、なんか来たわよ」

田原「ほら、私の言ったとおりでしょ♪」


     田原がふと、入り口の方を見る。
     と、バス停の一部が飛んでくる(標識あたり)


田原「(標識をキャッチ)・・・・・・ボイスィマイクスタンドぉぉぉぉぉ!!」


     田原 その場に崩れ落ちる


元帥「やわかったみたいね」

ジェット「(上手を見て)ああ、酷い・・・入り口ぼろぼろになってら・・・・」

田原「よくも・・・よくも、ボイスィマイクスタンドを!」

ジェット「いや、俺達が悪いわけじゃないだろ」

田原「許さないわよ! こうなったら、仲間をみんな呼んで袋叩きにしてやる!」

元帥「うわっ陰険・・」

野村「来るなら来たら? 私たちの力を甘く見ない方がいいわよ」

田原「すぐに呼んでやるわよ! ボイスィトランシーバー!」


     田原 携帯を取り出す
     ジェット、思わず構える。

寺岡「それ、ただの携帯……」

田原「うるさい!」


     叫びつつ、田原は番号を押し、


田原「・・・・・・・あ、レッド? あたし。イエローだけど。今敵のアジトにいるの。すぐ来て。じゃあ」


     田原は携帯を切ってから皆を見つめる
     一瞬勝利の笑みを浮かべてがっくり膝をつく


田原「留守電だった・・・・」

ジェット「・・・なんか、いっそ哀れだな、お前」

元帥「ここにくること、メンバーには知らせてないの?」

田原「知らせたけど、たぶん本気に取ってくれてない」

野村「イエローの言うことだもんね」

寺岡「可哀想・・・」

田原「なによ。なによ、みんななんでそんな哀れんだ目で私を見るのよ! 
    哀れんで欲しくないわよ! 覚えておきなさいよ! 
    絶対に、絶対に、あんたら悪の組織なんて滅ぼしてやるんだから!」


     田原走り去る
     途中一度戻ってきて、カバンとバス停の残骸を拾っていく


野村「追わないの?」

ジェット「いや。追っても無駄だろう」

野村「でしょうね」

元帥「とりあえず、総帥に危険は去ったと知らせてくるわね」

ジェット「お願いします」

元帥「どこまで奥に行ったのやら。逃げ足だけは早いんだからねぇ」


     元帥 ジェットの剣を持ってあげて、去る。


ジェット「・・・そうだ。まだお礼を言ってなかったな。ありがとう」

野村「いや、別にいいわよお礼なんて」

ジェット「何でお前に言うんだよ」

野村「え? だって、剣を持ってきてあげたでしょ?」

ジェット「当然のことだろうが。・・・ありがとう。咲子さん」

寺岡「そんな・・・・・私は別に」

ジェット「恐らく、もう君が入団するのに文句を言う奴はいない。今日から、君は俺達の仲間だ」

野村「あたし、文句言いたいんだけど」

ジェット「もうすぐ、アフロ怪人は退院して来るぞ」

野村「んじゃ、いいや。我慢する」


     野村 うきうきして去る。


寺岡「あの、私が、田原さんを裏切ったのは、本当は、あなたが」

ジェット「その後は言わなくていい。どうか、俺に言わせてくれ」

寺岡「・・・・・・」

ジェット「俺は、君が」


     と、しんみりとしたラブソングが流れてくる。


ジェット「また、野村だな・・・」


     二人 苦笑する


ジェット「まあいいや。俺は、君が好きだ」

寺岡「……わたしも、そうなのかも」

ジェット「これから、悪の限りを尽くして、俺はもっと力を付ける。ビックになる。
     それまで待っていてくれ。そうしたら、俺は・・・・」

寺岡「俺は?」

ジェット「俺は、君を食わしていけるようになってみせる」


     間


寺岡「・・・・・なんだと?」


     音楽消えます。


ジェット「え?」

寺岡「結局最後はそれか? ちょっとかっこいいだけでお前も、
    男尊女卑の固まりってわけかい? ああん?」

ジェット「いや、べつに、そういうわけじゃ」

寺岡「そうやって『くわせてやる』なんて考える男がいるから、
    女がハゲ親父に永久就職勧められるんだろうが」

ジェット「俺はそんなこと思ってないって。いたっ。蹴るなよ」

寺岡「私はね。働きたいの。分かる? ご理解いただけますか? 
    食わせてもらいたいんじゃないの。働きたいの。 
    頭あるなら、なんでこんなとこまでわざわざ就職探しに来ているのか考えなさいよ」

ジェット「いや、悪かったって。分かったよ」

寺岡「分かってない。本当、まったく、これっぽっちも分かってない」

ジェット「いや、分かったよ」

寺岡「あのね。私が何社落ちたかわかる? 19社よ。んで、何を言われたと思う? 
   そりゃあもう、『これ、セクハラじゃないんですか?』なんてことしょっちゅうよ。
   嫌になるわよ。そうねー男は優秀なのねーってくらいよ」

ジェット「そんな熱くなるなよ。さっき言ったことは悪かったって。取り消すからさ」

寺岡「熱くなんかなってないわよ!」

ジェット「ご、ごめんなさい」

寺岡「本当。男って奴はどうしようもないわね」

ジェット「おっしゃるとおりです」

寺岡「なによ。言い返さないの」

ジェット「いや、悪気はなかったんだよ、本当」

寺岡「悪気あったら、殺しているわよ」

ジェット「はい」

寺岡「ふぅ。まぁ、仕方ないのかなぁ」

ジェット「え?」

寺岡「私もね。そんな認められるような生き方してないし。てか、むしろひっきーだし」

ジェット「べつに、俺はそんなの気にしないって」

寺岡「私は気にするの」

ジェット「そ、そうか」

寺岡「・・・・・・・・・決めた」

ジェット「え?」

寺岡「わたし、あなたより強くなるわ。総帥だっけ? に頼めば改造してもらえるのよね? 
    そしたら、なれるんでしょ? 強く」

ジェット「え? いや、お前は俺が」

寺岡「なに? 女だから守ってやらなきゃいけないとか言い出すの?」

ジェット「いや、そういうわけじゃないけど」

寺岡「すぐあなたのこと追い抜いて、どんどん悪の組織上り詰めるから」

ジェット「そんな、だったら俺は」

寺岡「ビックになって、たんまりお金も受けてやるわ」

ジェット「それくらい俺だって」

寺岡「そして・・・・いつかあなたのこと、食わせてやれるようになるから」

ジェット「・・・・・・・・・え?」

寺岡「なに? 女に食べさせてもらうのはいやなの?」

ジェット「・・・・・・いや、そういうわけじゃないけど。でも、俺の方が先にビックになるって」

寺岡「ふうん。できるの?」

ジェット「やってやるさ」

寺岡「勝負ね」

ジェット「……ああ、勝負だ」

寺岡「じゃあ、行きましょう? 総帥のとこに案内してよ」

ジェット「ああ、もちろん。だけどな。本当、強くなるってのは並大抵の事じゃないぞ。
     改造手術にも色々な過程があってだなぁ・・・・って、おい! 聞けよ」


      寺岡は先に歩き出す

      ジェットは椅子を重ねて持ちあげる
      と、ストップモーション


寺岡「(溜息)本当、こんな人生アリって気分。
    ……でも、こんな展開もありなのかも知れない。たった一度の人生だしね。
    だったら、楽しんだ方が得だもんね♪ よし!」


     ジェット ストップモーション解ける


ジェット「あれ? 今、止まらなかったか?」

寺岡「何言ってるのよ? 行くわよ?」

ジェット「行くわよって、俺の話きいていたのかよ。
     だからその気になっても、なかなか実際は難しいからさあ」


     寺岡はジェットに振り返る
     いたずらっ子のように笑って


寺岡「・・・・だったら、ユウが、それまで私のことしっかり守ればいいんでしょ?」


     寺岡は舞台を走り去る


     ジェットは一瞬寺岡の台詞の意味に気づかない
     気がついた途端嬉しそうな顔になる


ジェット「おう! まかしとけ!」


     ジェットも去る
     急速に辺りは闇に包まれる。
     音楽が始まる中、またラジオの声が流れてくる。


声 「次のニュースです。本日18時頃、○○区のイタリア風フランス料理店「ムッシュ」に、
   謎の怪人が現れました。怪人は男女の2人組で、
   現在も、店のスプーンをハート型に曲げ続けているようです。
   あ、ここで、新たな情報が入りました。ただいま、ボイスィレンジャーが到着したようです。
   今日は、久々に、ボイスィキャノンが見れるのでしょうか? では、次のニュースです」

   
     徐々に小さくなっていく音。
     そして、幕。