Before festival



人物紹介

アキノ(しっかり者に見せかけ天ボケ)
マリイ(わがまま女)
谷口(不良っぽいが根は真面目)
モモコ(冷静女)
ミズホ(まとめ役)
アナウンサー

 時   現代。放課後
 場所 日本、○○県内高校。

○職員室(なぜか暗闇)
 それぞれに呼び出された生徒が、先生より「ご命令」を授かっている。

 暗転
 照明 下手サス

タツヤ「(憤慨して)なんだって、俺が……そりゃあ、俺が悪かったんだし、反省してるさ。でも、さすがに
    あんまりだ、ひどすぎる。だいたい、俺がいなくなったら、困るのは………そうか、そう言うことかよ。
    そうだよな、困るのは俺達だ、あんたらは嬉しいだろうな。……何を言っているのか分からないって?
    バカにすんじゃねえよ。俺はな、こう言うことには頭が回るんだよ。いいか、覚えとけ。
    俺はな、あきらめねえからな、あんたらがいくら卑怯な手を使ったとしても、絶対諦めないからな」


 タツヤ客席に背を向ける
 と、同時に下手サスCO
        上手サスCI


ミズホ「そんな……出来ません先生。だって、副委員長になったのも、ジャンケンで負けたからだし、
    ……それに、委員長の人が頼もしいから仕事なんて無いと同じだよって言ったの先生じゃないですか。
    ダメです。出来ません。……そんな、そんなずるいですよ。卑怯です。
    ………分かりました。やってみます。はい、……はい、分かってます。では、失礼します」


 ミズホが観客に背を向ける

 全照

○文化祭実行委員室(放課後)
  机が六つバラバラに並べられている。部屋の隅には段ボール箱が乱雑にある。
  あまり綺麗とはいえない。

 疲れた顔でミズホは席に着く。
 アナウンスが入る。


声 「連絡します。文化祭委員の生徒は、三階、生徒会議室まで至急集まって下さい。
    もう一度繰り返します。文化祭委員の生徒は、三階……」

 声、フェイドアウト
アキノ 下手より登場。

アキノ「あれ?もしかしてミズホちゃんだけ?今日、委員会じゃなかったっけ」

ミズホ「そうよ」

アキノ「そうだよね。いつもならみんないて、何かやってるのに」

ミズホ「いつもいる人達は、委員会に入ってない人達ばかりだもの」

アキノ「え、ああ、そうだったっけ。そっか、今日委員会だから、みんな帰っちゃったのか。何だか変な話ね、
    委員会があるときに限って人がいないなんて……で、他の人は」

ミズホ「……まだ来てない」

アキノ「えぇ、もうみんなやる気無いなぁ。じゃあ、あたしも帰ろうかな」

ミズホ「………帰っちゃうの?」

アキノ「冗談だよ冗談……でも、委員長は?いないの?ほら、いつも真っ先にここに来ては、
    色々資料あさって、一人で張り切ってたじゃん」


 アキノが話している内に、

モモコ 下手から入ってくる。


ミズホ「ああ、谷口君は……」

モモコ「全然人いないのね」

アキノ「うわっ、びっくりした。モモコ来てたの?」

モモコ「今来た所よ……もう委員会始まる時間じゃない?」

モモコ 二人が話している内に席に着き、
     つまらなそうに本を読み始める。

ミズホ「そうなの。みんなどうしたのかな」

アキノ「さぼったんじゃない?めんどくさいしさこんなの」

ミズホ「でも、ちゃんとクラスできめた委員会なのに。みんながやってくれなきゃ、文化祭、いいのできないよ」

アキノ「ジャンケンで、無理矢理入れられた人だっているんだから仕方ないじゃん」

ミズホ「……ジャンケンか」

アキノ「どうしたの?」

ミズホ「ううん、何でもない」

アキノ「ああ、分かった。初めの委員会の時、ジャンケンで副委員長やらされる羽目になったの、
    まだ気にしてるんだ」

ミズホ「え、別にそんな訳じゃあ」

アキノ「仕方ないよ、ジャンケンは運なんだから」

ミズホ「……でも、パー出したのが私だけなんておかしくない?」

アキノ「そんなこと無いよ。だってあたしジャンケンの時いつも必ずちチョキ出すもん」

アキノ「そお?……私の運が悪かっただけかな」

ミズホ「そうだよ。もしかして、みんなにわざとさせられたとか思ってた?」

アキノ「そんなこと無いけど」


少し気まずい空気が流れる。


アキノ「あ、モモコ一体何読んでるの」

モモコ「(黙ったまま本を差し出す)」

アキノ「なに?……『いやな同僚を消す十の方法』…………あ、えっと。ずいぶん面白いのを読んでるね」

モモコ「そう?」

ミズホ「う、うんとってもモモコらしいというか……まさか、あたしのこと消そうなんて考えてないよね」

モモコ「きっとね」

アキノ「そ、そうよね」

ミズホ「…………もしかして、あたし?」

モモコ「お茶の中に雑巾の絞り汁を入れるというのは、古典的だけど、見つかったとき、自分の評価が一気に
    落ちるから、止めた方がいいらしいわね」

ミズホ「そ、そうなんだ」

モモコ「靴の中に、画鋲などを入れた嫌がらせをしても、たいてい履く前に分かってしまうから、
    威力はないそうよ」

ミズホ「し、知らなかったわ」

モモコ「大丈夫。怖がらなくてもいいから」


思わず一歩下がってしまうミズホの手を、 モモコは掴む。


モモコ「私、あっけないのが好きだから。例えば、青酸系の毒を服用させるとか」

ミズホ「そ、それは……」

アキノ「ねえ、だから、あたしじゃないよねぇってば」


 モモコ、ただ無言で本を読み始める。
 アキノは焦ってモモコの方をゆらす。

マリィ 下手から登場
     入ってきた時から威圧的な態度


マリイ「あんた達何やってるのよ。まだ委員会やってなかったの。あたしが来る前に、重要なこと全部決めて、
    さっさとあたしが帰れるようにしてないとダメじゃない」


モモコ 本を閉じる。


モモコ「……来たわね」

マリイ「な、何よ」

モモコ「いえ、どうぞ、席にお座りになって。私、ちょっとお茶を入れてくるから」

マリイ「ずいぶん調子がいいわね。……ま、いいわ。言っておくけど、あたしお茶にはうるさいわよ」

モモコ「大丈夫。文句は言えないと思うから」


モモコ 下手へ退場。

ミズホとアキノはくっつき合うように事の成り行きを見守っている。


マリイ「どうしたのあなた達。何かあったの?」

アキノ「え、いえ、別に」

ミズホ「モモコのお茶は飲まない方がいいわ」

マリイ「え?なんで?」

ミズホ「あ、あの、何となく」


モモコ お茶を持って登場する。


モモコ「お茶が入ったわ」

マリイ「ずいぶん早いわね」

モモコ「準備してたから」

マリイ「ふーん。それなら、みんなで先に飲んでたらよかったのに」

モモコ「それじゃああなたに悪いでしょ」

マリイ「そう、まあいいわ」


マリイ お茶に手を伸ばす。それをあわててアキノとミズホが抑える。


アキノ「ダメ、マリイ」

ミズホ「飲んじゃダメ」

マリイ「な、なによ二人とも」

アキノ「この中には、きっとしち量の毒が」

マリイ「致死量でしょ……なんですって」


マリィ あわててお茶から手を引こうとするが、二人が抑えててそれが出来ない。


マリイ「ちょっと、二人とも手を離しなさい」

ミズホ「ダメ、お茶には毒が」

マリイ「分かったから、離しなさいってば」


マリィ やっとの事で二人を離してから、
     モモコを睨む。


マリイ「さあ、説明してもらおうかしら」

モモコ「説明?質問の意図が飲み込めたならいいのだけれど」

マリイ「とぼけるんじゃないわよ。毒ってどういう事よ」

モモコ「健康や、生命に害のあること。として、国語辞典には載ってると思うけど」

マリイ「そう言うこと言ってるんじゃないわよ。毒を入れたってのはどう言うことかって聞いてるの」

モモコ「ただの冗談よ」

マリイ「冗談?」

アキノ「え、だって、モモコさっきあっけないのが好きだからとか言って」

ミズホ「危なげな本も読んでたし、だから、私達」

モモコ「大丈夫。毒なんかは言ってないわ、私を信じて。(かわいく)飲んで」

マリイ「全っ然信用できない。あなた、飲んでみなさいよ」

モモコ「……(無言のまま、お茶を飲み干す)飲んだわよ」

アキノ「なんだ、やっぱりただの冗談だったんだ」

ミズホ「よかった」

モモコ「だから、冗談だって言ったじゃない。大体一介の高校生に過ぎない私が毒なんて手に入れられないわよ」

マリイ「あなたの冗談はたちが悪いのよ」

モモコ「……いい誉め言葉ね」

マリイ「もういいわ。なんか疲れてくる。さっさと委員会終わらせちゃいましょ」

ミズホ「う、うん」

ミズホ 資料(役員名簿や全員に配るはずのプリント)をかき集めようとして床に撒き散らす
     慌ててかき集める。
アキノ 手伝おうとしゃがむ
マリィ 溜息を一つついて

マリイ「あら?そう言えば、あのバカはどうしたの?いつも一人燃えてたあのバカは」

アキノ 手伝い途中で立ち上がって

アキノ「ああ、谷口君の事?そう言えば、あたしもさっきミズホとそう言う話をしてて、
    そしたらモモコが来て、マリイが来て、お茶になってそれでお茶が毒じゃなくて」

マリイ「ああ、もうあなたの話はいいわよ。それで、谷口はどうしたの?」

モモコ「長期、たぶん永久期における、勉学の免除よ」

マリイ「なに?」

アキノ「サッパリ分からない」

モモコ「でしょうね」

マリイ「モモコ、あんた私達をバカにしてるの?」

モモコ「さあ」

ミズホ 資料をそろえ終わって

ミズホ「た、谷口君、退学になったの。……三日前に」

アキノ「退学!?」

マリイ「……………本当に?」

ミズホ「そうなの。だから、副委員長のあたしがまとめなきゃならなくなっちゃって」

マリイ「たく、あのバカ一体何をやらかしたんだか。……んで、ミズホが知ってたのは先生に言われてたから
    だろうから分かるけど、何でモモコまで知ってたのよ」

モモコ「ルシファー様に教えてもらったのよ」

マリイ「は?」

モモコ「知らないの?神がこの地上を作ったときに、一緒にその手伝いをして、
     しかし神の反感をくらい地の底に落とされたのよ。その声が、耳に時々響いてくるの。
     彼は、全知全能の神と等しい力を持っていて、この世の全てを事前に知ることが出来るのよ」


 ミズホとアキノは無言で椅子を離す。


マリイ「モモコ、あんた絶対いかれていると思ってたけど」

モモコ「なんて、事を信じている人がいたら笑っちゃうわよね」

マリイ「モモコっ!」

モモコ「冗談じゃない。そんな目くじらたてることじゃないでしょ」

マリイ「だから、あんたの冗談は、冗談に聞こえないのよ」

モモコ「わかった。少し自重する事にするわ」

マリイ「そうして頂戴……だから、何であなた谷口が退学になったって知ってるのよ」

モモコ「会ったのよ、谷口君に」

マリイ「いつ? どこで?」

モモコ「さっき、そこの廊下で」

ミズホ「え、でも谷口君退学だって」

アキノ「でも、あの人だったら退学になっても学校来てそうだよねぇ」

マリイ「まったく何考えてんだかあのバカは……さ、ほら、二人とも何席はなしてるのよ。
    さっさと、委員会始めて、決めること決めて、終わりにしましょ」

アキノ「う、うん」

ミズホ「そうした方がいいね」


 アキノとミズホ椅子を戻す。
ミズホ 机からファイルを取り出す。


ミズホ「えっと、じゃあまず出席をとります」

マリイ「何馬鹿なこと言ってるのよ、どう見たって、ここにいる四人しかいないじゃない」

ミズホ「え、で、でも、委員会始める前には出席をとってくれって先生が」

マリイ「先生がじゃないわよ。そんなの臨機応変でしょ。
    数えりゃわかるのに、わざわざ出席取ること無いじゃない」

ミズホ「でも先生言ってたし」

マリイ「……分かったわよ、さっさとやって」

ミズホ「うん。
    一年一組………二組……三組……」


 だんだんと、瑞穂の声は小さくなっていく。


ミズホ「一年生、出席0。二年生、一組……あ、私だ。二組」

アキノ「はい」

ミズホ「三組……四組」

マリイ「(うんざりして)はい」

ミズホ「5組」

モモコ「はい」

ミズホ「六組、七組……二年生、四人」

マリイ「ああ、もう、いい加減にしなさいよ。どうせ来ないわよ。これ以上、ここの空気重くする気?」

ミズホ「え、でも」

マリイ「出席取ったからって、肩で息しながら走ってきて『すいません遅れました』
    なんて誰かが言う事なんて無いから」

ミズホ「やっぱり無いかな」

マリイ「ないわね」

ミズホ「わかった」


ミズホ ファイルを閉じる。


モモコ「それで、委員長代理。今日やることはなに?」

ミズホ「え、そ、そんな、委員長代理なんて」

アキノ「なんかそれってかっこいい」

ミズホ「そ、そう。え、えっと、今日は今年度の文化祭の、テーマと、内容を決めるって言うことで」


ミズホ 言いながら、資料の紙を一枚取り出す。


ミズホ「この紙に、今年度の文化祭テーマ、その意味、そして、簡単な内容を書いたらおしまいよ」

マリイ「えぇっ、めんどくさい」

アキノ「テーマなんて言われても、急に思いつかないよ」

モモコ「……殺戮と、破壊」

マリイ「モモコ、あんたねえ、本当にそれでいいと思って言ってる?」

モモコ「冗談よ」

マリイ「でしょうね。……そう言えば、去年は一体どういうテーマで文化祭やったんだっけ。覚えてる?」

アキノ「去年?そんな昔のこと覚えてられないよ」

マリイ「ミズホは?」

ミズホ「覚えてない」

マリイ「そうよね、それが普通よね……何モモコ聞いてほしそうな顔してるのよ、何よあなた知ってるの?」

モモコ「私が知るわけ無いじゃない」

マリイ「……もういいわ。とにかく、去年のテーマをまず知らなくちゃ。さすがに、
    二年連続同じテーマってのはやばいし」

アキノ「おお、マリイ考えてる」

マリイ「当たり前でしょ。あたしは、無駄な努力が大っ嫌いなんだから。もし、必死で考えたテーマが、
    去年とかぶってたら、その間の時間まるで無駄じゃない。そんなの許せないわ」

モモコ「文化祭委員になんて入った瞬間に、もう無駄だと思うけど」

マリイ「うるさいわね、いいからさがすわよ」


マリイ そう言って席を立とうとする。


ミズホ「まって」

ミズホ 乱雑にある段ボール箱から一つを取ってくる

マリイ「なに?」

ミズホ「たしか、そういった資料だったら、谷口君が集めていた気がする。たぶん、これ」

アキノ「なに?『谷口委員長の物。関係者以外開閉禁止』?谷口君らしい」

マリイ「たく、わざわざこんな物作って資料まとめとくなんて暇人ねぇ。ま、そのおかげで助かるけど」

ミズホ「本当、ありがたいわ」


 言いながら、ダンボールの中の書類を取り
 色々と中の物を見始める


アキノ「ホントだよね、でも、これだけ一生懸命やってて、退学になってたらしょうがないよね」

マリイ「ほんとよ、まるで無駄じゃない」

モモコ「今頃、命を絶ってなきゃいいけど」


 沈黙


アキノ「ま、まさか、ねぇ」

ミズホ「そこまでするわけないよ。ねえ」

マリイ「何で私にふるのよ、分かるわけ無いじゃないそんなこと、ねえ」

モモコ「惜しい人を亡くしたわね」

マリイ「だから、まだ死んだ訳じゃないでしょ」

モモコ「冗談よ」

マリイ「もういい。あんたの話につき合ってたら、夜になっちゃうわ」

モモコ「大丈夫、開けない夜はないから」

マリイ「(無視して)それで、ミズホ、去年のテーマ入ってた?」


ミズホ 一つの書類を食い入るように見てたのから気づいて。


ミズホ「え、ええ、たぶん。きっと、もしかしたら」

マリイ「何よ、見つけたのなら、読んでよ」

ミズホ「う、うん」

アキノ「そんな変なこと書いてあるの」

ミズホ「そうじゃないけど。いい、読むから聞いてて。
    『【文化祭テーマ】宇宙。
     【意味】この広大な宇宙の中で、僕らはなんてちっぽけな存在なんだろう。
     【内容】ないよう』」


 四人互いに互いの顔を見る。その後、まちまちにため息。


マリイ「なんか、本当どうしょうもないわね」

アキノ「なんか、真剣に考えてるのがバカみたいに思えてきた」

ミズホ「だから、言わない方がいいと思ったのに」

マリイ「まあ、去年はそんな感じだったわけね。で、一昨年はどうだったの?」

ミズホ「一昨年のも読むの?」

マリイ「当たり前じゃない。去年とだぶらなくても、一昨年とだぶったら意味無いもの」

モモコ「たぶん、だぶることはないわ」

マリイ「まあ、そうでしょうね」

アキノ「え?なんで」

マリイ「くだらないからよ。ミズホ、読んで」

ミズホ「うん。【テーマ】Go To Heaven
       【意味】全員が天国に逝くような気分になる文化祭にしよう。
       【内容】それなりにやれ」

マリイ「ほらね」

アキノ「本当だ。でも、なんか面白そうだよね。みんなはじけてそうでさ」

マリイ「まあ、作った方は面白いでしょうね。でも、こんなテーマで文化祭やるんじゃ、
    きっと大変だったわよ」

アキノ「でもさぁ、うちの文化祭って、かなりテーマと関係ないよね。ほら、去年で言ったらさぁ、
    宇宙なんて言うテーマの割には、(テーマに関係なさそうな映画)だったし」

マリイ「そう言えばそうね。うちのクラスは餅売ってたわ」

モモコ「私のクラスは、お化け屋敷」

アキノ「でしょ?案外テーマなんてどうでもいいんじゃない。みんなだってどうせ文化祭って言われて、
    じゃあ何しようかって決めるわけだし、別にテーマ作って決める訳じゃあないでしょ」

ミズホ「だからって、テーマを決めないわけにはいけないわ。たとえ、テーマと関係ないことを毎年やってた
    って、一応学校行事なんだし」

マリイ「そう、それに、そんなこと言ったら、私達がこうやって残ってることが無駄になるわけだしね。
    テーマは決めるわよ」

アキノ「うん、分かった。でも、なるべく難しいのは止めようね」


 四人考え込む。


モモコ「………無」

マリイ「は?」

モモコ「全てこの世の物は無から生まれたよって、我々は無を大切にしなければならない」

マリイ「……今度はなんの冗談なの?」

モモコ「大げさなくせ何でもない台詞ってのを言ってみたくって」

マリイ「そう、まあ、それでいいわ。丁度テーマと意味にあうし」

アキノ「え、そんな勝手に決めちゃっていいの」

マリイ「いいわよ、別にだれも気にしないでしょテーマなんて。さて、後は内容よね。モモコ、他になんかない?」

モモコ「私が知ってると思ったの?」

マリイ「……いいわね、それでいきましょ」

アキノ「マリイ!」

マリイ「いいのよ。だってめんどくさいじゃない。さて、じゃあミズホ書いといてね、今モモコが言ったこと」


マリイ 席を立つ。


アキノ「え、マリイ帰るの」

マリイ「ただのお手洗いよ。でも、戻ってきたら帰るつもりだから、書いといてね」


マリイ 下手に退場。
モモコ 立ち上がる。


アキノ「えっモモコ」

モモコ「体内においての代謝産物、及び老廃物の破棄に行ってくるわ」

アキノ「え?」

モモコ「トイレよ……チャンスだから」


モモコ 下手に退場。


アキノ「ねえ、ミズホ、チャンスってどういう意味だろ」

ミズホ「聞かないで。想像したくないから。それよりこれ書いちゃわなきゃ」

アキノ「あ、そうだね。うん、考えるのヤメにする。……でも、それでいいの」

ミズホ「そう言われると答える言葉がなくなっちゃうけど。いいと思う」

アキノ「そうだよね、どうせ文化祭だしどうせ、みんな学校行事だからって
    無理矢理やらされてるようなもんなもんね」

ミズホ「うん」


 ミズホが書いている様子をアキノは見ている。
 音響CI


谷口 「ダメだダメだダメだ。そんなテーマじゃ絶対ダメだっ」


谷口 上手から明らかに異様と分かる格好で入ってくる。
    ズボンは切れ切れ、服もぼろぼろ。
    まるで事故にあったばかりのような格好。
    顔は包帯で隠している


ミズホ「えっ」

アキノ「だ、誰ですか」

谷口 「俺の名前なんてどうでもいい。それより、そんなテーマじゃ許せない。今すぐ変えろ」

ミズホ「……谷口君、ちょっと、余りにもいただけないよ、その格好」

谷口 「お、俺は谷口じゃない。奴は今退学だからな。こんな所にいるわけ無いじゃないか」

ミズホ「別に退学だからなんてどうでもいいけど谷口君」

谷口 「谷口じゃないって言ってンだろ」

ミズホ「何でそんなムキになってんの谷口君」

谷口 「だから、俺は谷口じゃないんだ」

ミズホ「……分かったよ谷口君」

谷口 「分かってないっ」

アキノ「あの、何処の誰だか知らないけど、何処から入ってきたの?」

ミズホ&谷口「えっ?」

ミズホ「アキノ何処の誰も、アレは谷口君でしょ」

アキノ「何言ってんの、本人が違うって言ってるじゃん」

谷口 「そ、そうだ。俺は谷口じゃない」

アキノ「だから、それはいいけど、あなた何処から入ってきたの」

谷口 「そっち」


谷口 上手を指す。


アキノ「(素に戻って)あのさ、教室のドアはあっち(下手を指す)そっちは窓なの(上手を指す)
    とりあえず舞台は教室なんだから、間違えないでよ」

谷口 「だから、窓から来たんだって」

アキノ「どうやって?」

谷口 「隣の教室から、ベランダ渡って。苦労したんだぜ。廊下歩いてて見つかったら、
    何言われるか分からないからな。なんせ退学中だし……あ」

ミズホ「やっぱり谷口君じゃない」

谷口 「しまったぁ誘導尋問に引っかかるとは、なかなかやるなアキノ」

アキノ「誘導尋問って?」

谷口 「……………と、とにかく。そうだよ、俺は谷口だよ」

ミズホ「谷口君、何でそんな格好」

谷口 「変装に決まってるだろ、変装」

アキノ「確かに、それなら谷口君だって分からないだろうね」

ミズホ「……分からないのアキノだけだよ、きっと」

アキノ「何か言った?」

ミズホ「ううん。あ、それで、谷口君は何で変装までして委員会に?」

谷口 「そんなの決まってるじゃないか。文化祭のテーマを決めるのが心配だったから、来てみたんだ。
    いや、来たかいがあった。もう少しで、また今年もくだらない文化祭になるところだった」

アキノ「え、それってどういう……」

マリイ「あんたねぇ、廊下に洗剤まくなんてどういう神経してるのよ。もう少しで転ぶところだったじゃない」

モモコ「廊下でスケートが出来るかどうか試してみたかったのよ。失敗だったわね」


マリイ&モモコ 下手より登場。


マリイ「失敗だったわねじゃないわよ。どうするのよあれ。廊下びちゃびちゃじゃない」

モモコ「大丈夫よ。帰りに拭くから」

マリイ「それまでに誰かが……あら?どうしたのみんな。まだ帰る準備……って、
    谷口あなたなにやってんのよこんな所で」

モモコ「とりあえず、泥棒ではないようよ」

マリイ「当たり前でしょ、何盗むってのよ」

モモコ「委員会費」

谷口 「ふざけんなよ、俺がそんなコトする分けないだろ」

モモコ「冗談よ」

マリイ「なに勝手にキレてんの?退学になった身分で、のこのこ学校に来てるんじゃないわよ」

谷口 「うるせえな、人の勝手じゃねえか」

マリイ「ふうん、そんな口聞けるの?ここで先生呼んできてら、どうなるでしょうね」

谷口 「やってみろよ、この窓から逃げるだけだからよ」

マリイ「やってやろうじゃない」

ミズホ「ちょ、ちょっとマリイまって」

アキノ「そうだよ、谷口君も落ち着いてさ。ケンカするために来たんじゃないでしょ?」

谷口 「お、おう」

マリイ「なんのために来たのよ、このバカは」

谷口 「バカだとこら」

マリイ「バカにバカって言って何が悪いのよ」

谷口 「てめ、もう許せねえ」

アキノ「だから、二人とも止めなよ、子供じゃないんだから」

マリイ「うるさいわね、あんたに子供って言われる筋合いはないわよ」

アキノ「ちょっと、マリイそれってどういう意味よ」

マリイ「うるさいわね」

アキノ「うるさいって何よ」

谷口 「なに、お前アキノにあたってんだよ」

マリイ「あたってなんかいないわよ」


マリイ、アキノ、谷口、互いに睨み合う。


ミズホ「アキノも怒らないでよ、何でみんなすぐ頭に血がのぼっちゃうの。ほら、委員会ちゃんとやらなきゃ、
    ねえってば」

モモコ「いい加減にしなさい!」


 音響CI


モモコ「あなた達は、ここに何しに来たの?それはケンカをするためでは、間違いなくない。そうでしょ?
    まず、ここに、何しに来て、自分達がやるべき事を思い出して。私達は、年に一度しか行われない、
    文化祭のためにここにいる。そして、今日は、その軸となる、テーマを決めなくてはならない。
    ケンカをしている時間はないはずよ」

マリイ「……モモコ」

谷口 「そうだった。俺、学校退学になって、それでも来たのに、ケンカなんて……」

アキノ「………なんか、バカだね、あたし達」

マリイ「そうね」

モモコ「分かってくれたみたいね」

マリイ「ええ、充分よく判ったわ。……あなたに言われたって言うのが何より悔しいけど」

モモコ「そう。それはよかったわ。じゃあ、最後に締めをしなくちゃ」

マリイ「締め?」

モモコ「そう。(ふっと息をついて)
     なんて言葉真剣に言ったりしたら笑っちゃうわよね」


 全員固まる


マリイ「こういう奴だって事は分かってたのに」

ミズホ「せっかく感動して聞いてたのに」

アキノ「すごい真面目な気分だったのに」

谷口 「トホホだね」

モモコ「『冗談よ』と最後につけた方がよかったかしら?」

マリイ「………もういいわ。とりあえず、さっきの続きしましょ。それで、谷口は何でここに来たの?」

谷口 「おう。言っておかなきゃいけないことがあってな」

アキノ「なに?」

谷口 「アキノとミズホにはさっき言った。つまり(机の上のテーマが書いてある紙をおもむろに掴む)
    こんなテーマじゃダメだぁ」


 半分に破いて、丸めて放る。


マリイ「あ、なんてコトするのよ。ずいぶん考えたのよそれ」

モモコ「私が」

谷口 「おう、それはベランダで聞いてた」

マリイ「とりあえず、一生懸命書いたのに」

ミズホ「あたしだよ」

谷口 「知ってる」

アキノ「じゃあ何で?」

谷口 「だから、こんなテーマじゃダメなんだ。文化祭だぞ文化祭。そのテーマとなる物が、
    『無』なんて物で言いと思うか?」

マリイ「いいじゃない。別に、誰もテーマなんか気にしてないでしょ」

谷口 「それは、毎年のテーマがくだらないからだ。だからこそ、今年は変えなくちゃならない」

アキノ「そんなこと言ったって」

ミズホ「新しいテーマ考えるなんて、ねえ」

マリイ「急に浮かぶわけ無いじゃない」

モモコ「…………谷口君には何かあるの?」

谷口 「(嬉しそうに)ああ、あるさ、あるとも。最高なのが」

マリイ「何よ、結局あんたが自分の作ったテーマをやりたかっただけじゃない」

アキノ「だからわざわざ変装までしてきたんだ」

谷口 「い、いいじゃんか。やりたかったんだよ文化祭」

マリイ「はいはい」

ミズホ「それで、どんなテーマなの?」

谷口 「よくぞ聞いてくれた。言うからよく聞けよ。
    【テーマ】自由
    【意味】一人一人が心に描いた文化祭を仕上げよう。
    【内容】各学級にて決めること」

マリイ「……………変わらないじゃない」

谷口 「な、なんだと」

アキノ「あまり変わってないよね」

ミズホ「無って言うテーマよりは、少し明るい感じがするぐらいかな?」

モモコ「ただ単に、初めからあった自由度を、テーマに持って来ただけのようね」

谷口 「何言ってンだよ、それが重要なんじゃないか。いいか、今までの文化祭って言うのは、
    テーマがあって、それに反するものをみんながやっていたんだ。
    しかし、テーマを自由にすることによって、文化祭は始めて、
    テーマにあった出し物をすることになるんだよ」

マリイ「でかいこと言ってるように聞こえるけど、ただ単に、言葉上つじつまが合うようにしただけね」

ミズホ「……なんか、元によって中身が出来るんじゃなくて、中身があって、元をこじつけてるみたい」

谷口 「い、いいんだよ、どうせテーマなんだから」

アキノ「結局、あたし達と同じ事言ってる」

谷口 「う、うるせえな。いいんだよ、俺がいいって言ってンだからいいんだ」

マリイ「ま、いいけどね」

アキノ「せっかく、退学になっても学校に来たんだから、それでいいんじゃない?」

モモコ「そうね」

谷口 「そうだろ、いいじゃんか」

ミズホ「うん、みんながいいんなら、あたしもいいよ。じゃあ、書くね」

谷口 「あ、紙貸して、俺が書くから」


 谷口ミズホから紙とペンを借りテーマを書く。


マリイ「そう言えばさ谷口」

谷口 「ん?(顔は紙に向けたまま)」

マリイ「何であんた退学になったの?」

アキノ「ああ、そう言えば気になる。だって急だもんねぇ」

谷口 「その事か?いや、俺がドジッただけなんだけどな」

モモコ「殺害の現場を見られたら、そりゃ退学にもなるわよね」

マリイ「そんな分けないでしょ」

ミズホ「それだったら、殺人罪で捕まっちゃうよ」

谷口 「さすがに、そこまでやばいことやってないって。ただ………タバコ吸ってたのを見つかったんだよ」

アキノ「タバコ?」

マリイ「間抜けねぇ、うちの学校でタバコ吸ってるのみつかるなんて、そうそうないじゃない。
    何処で吸ってたのよ」

谷口 「いやぁ、別に、そうたいした場所じゃないんだけど……来客用トイレで吸っててさ」

マリイ「ばか」

谷口 「馬鹿ってことないだろ、馬鹿ってこと」

マリイ「バカに決まってるじゃない。何で、あんたそんな見つかりやすいとこで吸ってんのよ。男だったら、
    男らしく、生徒用男子トイレ個室で、数人固まって吸ってなさいよ」

谷口 「それの何処が男らしいんだよ。俺はな、一度、アンモニア臭がほとんどない、
    清潔なトイレで吸ってみたかったんだよ」

アキノ「……トイレなんかで吸わないで、堂々と、家とか、学校からは馴れた場所で吸えばいいのに」

谷口 「学校の中で、どきどきしながら吸うからいいんじゃないか」

モモコ「見つかるか見つからないかの極限の状態に快感を感じる……何か、変態みたいね」

谷口 「なんでだよ。……ま、とにかくそこを見つかって、あっけなくご用ってわけだ」

ミズホ「え、でも、タバコは自宅謹慎じゃなかった?」

アキノ「確か、三週間とかそれぐらいだったよね?」

谷口 「俺、結構ワルサしてたからな。きっと、今までのつけもあったんだろ。」

アキノ「酒代くらい払えばよかったのに」

谷口 「そのつけじゃねえよ。……バイク通学したり、そのバイクで事故ったり、
     廊下の消火器いじくったり、そこらに落書きしたり……まあ、そう言うことだ」

アキノ「子供みたい」

谷口 「うるせえな、その時は結構楽しかったんだから仕方ないだろ」

マリイ「バカね」

谷口 「………ホントだよな」

 皆 はっとして谷口を見る

谷口「……なんか今更だケドよ、おれマジで反省してんだよ。何で、
   あの時、あんな事しちまったんだろうって」

ミズホ「谷口君……」

谷口「そりゃあ、その時その時は確かに楽しかったけど、そのせいで、大切の物をなくしちまった。おれ、
   楽しみにしてたんだぜ、文化祭のこと。本当に。バカみたいに、真面目に資料集めて、去年とか、
   一昨年とか絶対過去になかった文化祭にしてやろうって張り切って。
   結局、馬鹿なこと一回しておじゃんさ。学校に対して、散々ひどいコトしてきたからって、
   こんな卑怯な仕打ちはない、なんて先生達に悪態ついたりもしたけど、
   結局、俺のチャンスを不意にしたのは、俺自身だ。……本当、馬鹿なコトしたよな」

アキノ「…………でも、そんな時ってあるよ」

谷口 「え?」

アキノ「後から、何で、こんな事って、後悔するのっていっぱいあると思うよ。
    別に、その場その場に思ったことを、
    後でどうなるか分かるほど、あたし達器用じゃないし」

モモコ「後悔先に立たずって諺もあることだしね。私も、さっき勢いでまいた洗剤どうしようか、
    さっきからずっと考えてるし」

マリィ「アレは本当反省してもらいたいものね」

ミズホ「問題は、その後だよ、きっと」

谷口 「その後ったって俺にはもう何もできないぜ。まあ、テーマを作れただけでもいいかなとは思ってるけどよ」

モモコ「そうね、とりあえず、元は作れたんだしね、形上だけど」

谷口 「ああ……そう言うわけだからよ。………おれ、帰るよ。
    実は今日もバイクで来ててさ。見つかるとやばいから。
    ……文化祭、頑張ってくれな」


谷口 立ち上がる


マリイ「待ちなさいよ谷口」

谷口 「なんだよ?」

マリイ「文化祭には、ちゃんと見に来なさいよ。あんたのテーマにそって、ちゃんとしたのやってやるから」

谷口 「……ああ、楽しみにしてるよ」


谷口 上手へ退場。
 しばらく、沈黙が訪れる。


ミズホ「……さ、どうしようか」

アキノ「なんか、半端なのやるわけには行かなくなったって感じだよね」

マリイ「とりあえず、バカがベランダつたうなんて無茶してまで書きに来たテーマだからね。
    バカにバカにされるのも腹が立つし」

アキノ「でもさ、そんなこと言っても、テーマは自由だよ。何ができるの?」


音響CI


マリイ「……それをこれから考えるんじゃない。半端なもんじゃダメよ、あのバカが文化祭に見に来たとき、
    あっと驚くような物にしなくちゃ」

ミズホ「でも、あんまりすごい企画建てても、誰も乗ってこないよ。無難な物にしておいた方が」

マリイ「それをどうにかするのが文化祭委員の役目でしょ。あれもこれもできないじゃ、話にならないわよ。
    後悔だったら、後でいくらでもできるじゃない。簡単なものでお茶を濁すような文化祭なら、
    やらない方がまし、そうでしょ」

ミズホ「……うん、そうだね」

マリイ「分かったなら、頑張るわよ。まずは、今日、来なかった奴らを、
    どんなコトしても引っ張ってこなくちゃ」

アキノ「忙しくなるねぇ。なんかワクワクしてきた」

ミズホ「垂れ幕とかも作るのかな?ようこそ文化祭へ、とかさ」

マリイ「いいわね。どうせなら、みんなの心の中に思いっきり残る物にしましょう」

アキノ「うん」

ミズホ「そうね」

マリイ「ようし、頑張るわよ」

二人 「おー」

マリイ「……モモコ、あんたさっきから何黙ってるのよ、のりが悪いわね。どうしたの?」

モモコ「…………うちの学校って、ベランダあったかしら?
    ……谷口君、どうやって帰ったんだろうって思って」

マリイ「え?」

アキノ「そういえば」

ミズホ「……無かったような」


 全員上手を見て、音楽高まり溶暗