僕の明日が見せる色
作 楽静


登場人物

未来 年齢は三十前後。とある研究所の職員達。
@ウオツリ・ススム 男 主人公 皮肉気味な科学者
Aオオマサ・カズキ 男 その友人 主人公とは幼なじみ
Bオギノ・キイタ 男 その友人 主人公とは幼なじみ
Cクロノ カイ 女 主人公と同じ研究員。
過去
D僕 過去のススム。皮肉気味であり、ヒーローが好きな年頃。
カズキ 男 友人 未来世界のカズキと同じ人が演じる
キイタ 男 友人 未来世界のキイタと同じ人が演じる
Eナカクニ君 男 尊大で自分大好きな男の人。でも、自分を敬う人間にはそれなりに優しい。
Fヒノモト君 男 口では色々言うけれど、直接行動はちょっと苦手。
Gウオツリ ミライ 女 どっちにいい顔をするのにも気が引けるモテ期がきている女。
Hオギノ ミナミ 女 キイタの姉。ミライの友人。
Iトビイ セナ 女 ミライ・ミナミの友人。
ボンドロ一家 年齢不詳。二十代くらい
Jナルーシ 男 自分大好きな肉体派
Kマッドン 男 研究大好きな頭脳派
Lボンドロ 女 ナルーシ、マッドンのリーダー役
Mドロロメエ/メカカメ 女 ボンドロ一家よりも上から指示する謎の存在。/悪の秘密工場で作られた的なロボ
正義の味方・ゴッデスマン
N一号 男 正義の味方。生き様が正しいわけではない。
O二号 女 正義の味方。

※1 カズキ役、キイタ役は同じ人物が演じるよう考えています。
※2 カズキ役・ドロロメエ(メカカメ)は男女どちらが演じても問題はないと思います。


00 すべての始まりの前に

   中央奥に時計のモニュメント。扉のようにも見える。
   未来と過去(?)が交錯する物語。
   季節は未来世界も過去世界(?)も春先。
   新しいことが始まるというよりも、何かが切り替わる季節。


01 僕の明日はたぶん灰色。

   ススムが浮かび上がる。

ススム いつの頃からだろう。僕にとって世界は灰色だった。

   僕が浮かび上がる。僕はススムと似た格好をしている。

僕 僕にとって、世界は不思議で染まっていた。
ススム 染まりたくない色の世界から、僕は必死に抜け出そうともがいていた。
僕 この不思議はいつまでも消えはしないんだろうと思っていた。
ススム 消えてしまいたいのを必死に堪えて、ただ進んでいた。
僕 どこまでも進んでいける気がしていた。あの日までは。
ススム あの日からもがくだけもがいて、僕はようやく一つの道を手に入れた。あのとき失った色を取り戻すための道を。

   僕が消える。
   入れ替わるようにキイタとカズキが現れる。

キイタ ススム。こんなところにいたのか。どうした? 
ススム いや、とうとう出来たんだなと思って。
キイタ タイムマシン、か。まさか本当に出来ちゃうとはなぁ。
カズキ 平行世界を認識し、ワームホールとして使うことによって、物理概念を超えた時間圧縮を可能とする。
キイタ 何だ急に。
カズキ 概念を言葉にするだけなら10秒もかからないのに、ずいぶん時間がかかったと思って。そもそも、過去に戻ることによって生まれるIFの世界がすでにあることを仮定する、なんて、はじめはバカバカしいとしか思わなかったけど。
ススム でも、そのおかげで、パラドックスは破られた。
キイタ 俺は、自分で作っていて未だによく分からないけどな。
カズキ なんども説明したろ? 要は、はじめにもしもボックスで「もしもタイムマシンがあったら」と言ってからタイムマシンを作るようなものだって。
ススム その例え、ちょっとわかりにくいよ。
キイタ ま、カズキがおしゃべりになるくらいには長い年月だったわけだ。
カズキ ……ふん。
ススム これで、夢が叶う。
キイタ まずは、どこに行くつもりだ?
ススム そうだな。いや、まぁそんなことはどうでもいいよ。
キイタ どうでもいいことないだろ。

   クロノが現れる。

クロノ 失礼します。
キイタ あ、クロノさん。見てくださいよ。これ。とうとう完成したんですよ。タイムマシン。
ススム 正確にはこれから試乗して、ようやく完成と呼べる訳だけど。
キイタ ススムは一言多いんだよ。
クロノ オオマサさん、オギノさん。所長がお呼びです。
カズキ わかった。
キイタ え、所長が? 何の用だろ。おい、カズキ、おまえ何やったんだよ。
カズキ ハッ(鼻で笑う)

   カズキが去る。

キイタ え、何その笑い。何の意味が? 何かの伏線?

   キイタが去る。

02 クロノさんとススムくん

クロノ 所長には、屋上に来てもらうようにお願いしておきました。二人と合流するまでに数分は必要でしょう。
ススム ありがとう。クロノさん。これで、時間が出来た。
クロノ 止めても無駄なんですね。
ススム 僕は、この日のためにこいつを作ってきたんだと思っているから。まぁ、そんなことはどうでもいいことだけど。
クロノ 過去に戻って何をするのか、聞かせてはもらえないんでしょうか。
ススム ……取り戻さなきゃいけないものがあるんだ。
クロノ 取り戻さなきゃいけないもの?
ススム あのとき、無くすべきではなかったもの。捨てるべきではなかったもの。大事にこの手の中につかんでおかなければならなかったもの。僕の世界を色づけていたもの。
クロノ それは、いったい何なんですか?
ススム 究極超人ゴッデスマン一号のフィギュアです。
クロノ ……は?
ススム 究極超人ゴッデスマン一号のフィギュアです。
クロノ ごめんなさい。ちょっとよく聞こえなかった。
ススム 究極超人ゴッデスマン一号のフィギュアです。
クロノ フィギア?
ススム フィ、ギュ、アです。
クロノ フィギュア?
ススム グッド。では、行ってきます。

   ススムが去る。

クロノ 行ってらっしゃい……って、え? フィギュアってフィギュア? ちょ、ちょっと待ってススムさん。いったい、どういうこと? ゴッデスマンってなに? いったいそれがなんだっていうの!?

声 説明しよう。究極超人ゴッデスマンとは、フニテレビ系で放送されていた、ヒーロー番組である。いくつかあつめると願いを叶えてくれる気がするファルコンストーンを、悪の組織ボンドロ一家から守るため、今日もどこかで活躍しているようなしてないような。脱力系パクリじゃないよオマージュだよな正義の味方。それが、究極超人ゴッデスマンである!

   音楽

03 ナカクニ君とヒノモト君はウオツリさんを取り合ってみる

   強引にウオツリさんを引っ張ってくるナカクニ君。
   その反対の手をヒノモト君が引っ張っている。

ウオツリ 痛いって! 痛いからやめれって!
ナカクニ いい加減あきらめたらどうなんだ君も。
ヒノモト その台詞はそっくりあなたに返しますよ。
ウオツリ あのさ、二人ともさ、そろそろやめない? 
ナカクニ ほら、いい加減手を離したまえ。ウオツリさんが困っているじゃないか。
ヒノモト その言葉も、そのまま返すよ。ナカクニ君。君には、もっとふさわしい人がいるんじゃないかな。
ウオツリ だからね。ほら、なんか視線が多くなってきている気がするし。
ナカクニ いいや、僕みたいな人間にこそ、ウオツリさんはふさわしいんだ。
ヒノモト 君と一緒になってもウオツリさんは幸せになれない!
ナカクニ 馬鹿を言うな。それは君の方だろう。
ウオツリ どっちでもいいから、まずは手を離して欲しいな。そろそろ手汗が気持ち悪くなってきたんだけど。
ナカクニ ほら、ヒノモト君。ウオツリさんが困っている。手を離したまえ。
ヒノモト ナカクニ君こそ。こういうときに積極的に動いてこそ、男としての価値が上がるんじゃないかな?
ナカクニ いや、君が先に手を放すべきだね。
ヒノモト 君こそ先に手を放すべきだと思う。
ウオツリ どっちでもいいから、放せって!
ヒノモト じゃあ、せえので放すってのはどうだろう。
ナカクニ 仕方ない。せえのだな。
ヒノモト せえのだ。
ウオツリ せえのね。
ナカクニ&ヒノモト&ウオツリ せぇの!

   二人とも手を離さない。

ナカクニ&ヒノモト&ウオツリ なぜ手を放さない!
ナカクニ 約束が違うじゃないか。謝罪と賠償を要求する!
ヒノモト 実に遺憾だ!
ウオツリ もう、いい加減誰かどうにかして〜

04 悪の組織はウオツリさんの宝を狙う

ボンドロ&ナルーシ&マッドン その願い、我々が叶えてやろう!

   ボンドロとナルーシ、マッドンが笑いながら出てくる。
   笑いながらナルーシとマッドンは膝をつき、背を曲げ、
   ボンドロはその上にすべてを見下すように立つ。

ナカクニ&ヒノモト な、なんだあなたたちは。
ボンドロ お黙りっ。問われて名乗るほど安くはないよ。
ナカクニ&ヒノモト なっ。
ボンドロ 娘。困っているか?
ウオツリ 困っているって言うか。さすがに、こうずっと両手を捕まれているのはちょっと。
ナカクニ ウオツリさんが困っているぞ。手を離せ。
ヒノモト そっちが離せ。
ボンドロ 困っているなら助けてやろう。
ウオツリ それはありがたいですけど。
ボンドロ その代わり、おまえの持つ、ファルコンストーンを頂く。
ウオツリ なぜそれをっ。あなたたちは一体。
ボンドロ お黙り。問われて名乗るほど安くはないよ。
ウオツリ すいません。
ボンドロ が、知りたいとあれば教えてやろう。それも高貴なるものの努め。マッドン! ナルーシ!

   ボンドロが二人から降りて一歩引く。

マッドン&ナルーシ はっ
ボンドロ 名乗っておやりっ!
マッドン ははっ。遠からんものは音に聞け、
ナルーシ 近くば寄って目にも見よ、
マッドン このお方は、
ナルーシ このお方こそは、

   マッドンの名乗りに合わせて、ナルーシは()内の台詞を言う。

マッドン ボンドロ・ア・デーア(女神)ソーニョ(夢!)・フェリチタ(幸い)・ジョーヤ(喜び)・コラッジョ(勇気)・アモーレ(愛)・クオーレ(心!)カンターレ(歌!)ガンバーレ(頑張れ!)ジャポーネ(日本)楽しいね(楽しいね!)食いねぇ食いねぇ(寿司食いねぇ)
マッドン&ナルーシ ファンタスティックタンタタンギュウタタンモーニンイブニンアリオリハベリイマソカリ四世である!
ボンドロ お見知りおきを。撃てい!

   その言葉とともにマッドンとナルーシが何かを投げる。
   ナカクニとヒノモトはウオツリの手を離しふっとぶ。
   それぞれの腕には何かが刺さっている。

ナカクニ これは、ジョーカー
マッドン 私はあなたに不幸を運ぶ死者ですから。それ以上怪我をしたくなければ動かないことですな。
ヒノモト これは、写真?
ナルーシ 私のベストショットです。欲しければいくらでもあげますよ。
ボンドロ さあ、娘。言葉通り助けてあげただろう。ファルコンストーンをお寄越し。
ウオツリ この石は、おばあちゃんの形見なんです!
マッドン それがどうした!
ナルーシ さっさと、石を出さないと、おまえも、痛い目見ることになるぞ!

05 正義の味方はいつだって駆けつける。

一号声&二号声 そこまでだ!
ボンドロ&マッドン&ナルーシ 何者だ!?

   音楽とともにゴッデスマン一号と二号が現れる。

一号 世界の平和は守れなくても、
二号 ご町内を平和にしたい。
一号 強気を挫き、弱きを助ける正義の味方。
二号 愛と勇気とお金で解決。どこから来たのか誰なのか。
一号 究極超人ゴッデスマン一号!
二号 同じく二号
一号&二号 とにかく見参!!
ボンドロ またしても現れたなゴッツァンマン。
一号 ゴッデスマンだ。ボロドン一家。
ボンドロ ボンドロ一家よ! まぁいい。おまえたち。やっておしまい!
マッドン&ナルーシ お任せ合点!
一号 かかってこい。
二号 あなたたち、今のうちに逃げて!

   一号がマッドン&ナルーシの相手をしているうちに、
   二号がウオツリ、ヒノモト、ナカクニを逃がす。

   マッドン&ナルーシと、一号&二号は戦いになる。
   音楽が増す。
   僕が現れる。反対側にススムが現れる。

僕 究極超人ゴッデスマンは僕にとって常にあこがれだった。
ススム いつだって、彼は正義だった。
僕 彼だけが正義だった。そう思っていれば良かった。
ススム それだけで良かった。
僕&ススム なのに。
声 臨時ニュースをお伝えします。

   世界の音は止まり、僕とススム以外のすべての動きが止まる。

同時に、
僕 その日、僕の世界は灰色に染まった。
ススム あの日、僕の世界は灰色に染まった。

声 フニテレビで放送中の「究極超人ゴッデスマン」において、一号を演じていた俳優、ニノマエハジメさんが、本日薬物取締法違反の疑いで逮捕されました。警察の調べによると、ニノマエさんは乗用車の中に大麻500グラム相当を保持していた疑いが持たれています。フニテレビでは事態を重く受け取り、「究極超人ゴッデスマン」の放送を打ち切ることを表明しています。続いてのニュースです。

   音楽がやがて大きくなっていき、声は小さくなっていく。≪舞台準備≫
   そして世界は闇に染まり、かけたところにクロノが駆け込んでくる。

クロノ オオマサさん! オギノさん! みんないない。というかこんな時に限って所長はどこ行った! ってそうだ私が屋上に呼び出したんだった。何でこんな時に限って騙されるかなぁ。てか、タイミング悪い。タイミング悪いわ。告白しようと思っていたときに、相手が過去に移動して行っちゃうって。なにこのSF展開。いや、SFっぽいところに勤めているのは私の責任だけど。

   と、音がする。何かがやってくる音。

クロノ ススムさん! 帰ってきたの!?

   照明に浮かび上がるのは、どこかで見たようなタイムマシンに乗ったトビイさん。

トビイ え、ここどこ?
クロノ ……誰?

   暗転。

06 少年たちは大切にしているコレクションを処分する。

   照明がつくとそこは僕(ススムの家)リビング。
   中央に段ボール箱。
   僕と少年時代のキイタとカズキがいる。


キイタ というわけで、今日皆に集まってもらったのは他でもない!
僕 僕の家だけどね。ま、どうでもいいけど。
カズキ ……。
キイタ 呼んだのは俺だろ。
僕 だったら自分の家にあつめればいいのに。
キイタ うちの姉ちゃん怖いの知ってるだろ。
僕 怖いのはキイタがいつも怒らせてるからだよね。
キイタ ススムは一言多い! で、持ってきたのか。
僕 僕の家だからね。部屋にあったものは持ってきたよ。
キイタ カズキは。
カズキ ……(無言で品物を示す)
キイタ よし。
僕 そう言うキイタは?
キイタ 見ればわかるだろう?(と、箱を指し示す)
僕 僕達が小遣い果たして買いそろえたグッズもまとめてみるとこんなものか。
キイタ まぁ、小学生のお小遣いなんてたいしたことないものな。
カズキ でも、今日捨てちゃうんだな。
キイタ 捨てるんじゃない! 俺たちは見切りをつけたんだ。汚い大人の、正義とは反対の行動に。そうだろう? 俺たちは信じて裏切られた。この、究極超人ゴッデスマン一号に!
僕 二号のグッズも入ってるみたいだけど。
キイタ 二号だって同罪だろ! カズキだってそう思うよな。
カズキ そう、かも。
キイタ そうなんだって! ゴッデスマン一号が麻薬をやっていたのに、それを二号が知らないわけないだろ。二人はチームなのに。おかしいだろ。そんなの。二号は知っていたけど黙っていたって考える方が自然だろ。
僕 確かに。その推測はそう的外れとは言えないだろうね。
カズキ キイタにしてはまともだ。
キイタ つまり、二人して俺たちを裏切ってたんだよ。
僕 勝手に信じていたのは僕達の方だけどね。
キイタ ススムは一言多い。
僕 それで、どうでもいいけど、どうやって処分するの。これ。
キイタ ……そりゃ、あれだよ。あれ。
カズキ あれか。
僕 あれね。
キイタ そ、そう。あれ。
僕 あれは大変だよ。あれとか、どうするの。
キイタ それは、あれだよ。あれして、あれするんだよ。
僕 ああ。なるほど。さすがキイタだね。
キイタ だろ!
カズキ それで、あれって?
僕 さぁ? キイタが知っていると思うけど。
キイタ すいません思いついてませんでした。
僕 まぁ、プラゴミの日に出すっていう手もあるけど、
カズキ シンプルだね。
キイタ それは嫌だ。そんなの集まった意味がないだろ。
僕 じゃあ、燃やす。とか。
キイタ 燃やす?
カズキ 炎か。
僕 後腐れ無く、灰にしちゃうのが一番じゃないかな。
キイタ それだ! 俺たちの青春をかけたコレクションは、俺たちの若さという名の炎によって燃やされ、昇華し、美化される思い出となるんだ!

   と、爆発音。

キイタ って、俺まだ何もやってないぞ。
僕 ガス爆発かな?
キイタ 逃げなくちゃっ。

07 現れた未来からの

ススム声 ちょっと待ったーー

   色々な音とともに、一瞬暗転(もしくは黒子に運ばれてくる)
   ススムが少年たちの中央にいる。乗っているのはどこかで見たようなタイムマシン。

ススム どうやら、間に合ったようだな。
僕 誰?

   ススムは話しながら少年たちのグッズをタイムマシンに載せていく。

ススム 時間。場所。計算に全く間違いがない。十年以上前の出来事だったとはいえ、よく覚えてたな。さすが僕。まぁ、そんなことはどうでもいい。えっと、これで全部かな。じゃ、そういうことで。
キイタ ちょ、ちょっと待てよおっさん。
ススム おっさん? あ、おまえキイタか。……成長しないな。おまえ。
キイタ なんだそれいきなり現れて。俺たちのグッズをどうするつもりだよ。
ススム いや、もういらないんだろう? これ。
キイタ そうだけど。
ススム だからもらっていこうかと思って。
キイタ なんでそうなるんだよ。おい、ススムにカズキも黙ってないで何とか言ってやれよ。
カズキ ……いくら出す?
ススム 金で解決か。子供らしくないけど、それはそれでカズキらしいなぁ。よし。1万だそう。
カズキ 好きにすればいい。
キイタ おいっ!
ススム お金は大事だろう? これ、結構買いそろえるまでに苦労したんだろう?
キイタ 苦労したよそりゃってその前に誰なんだよあんた!
ススム まぁまぁ、どうでもいいじゃないか僕のことは。
僕 未来から来た僕ってところかな。どうでもいいけど。
キイタ はぁ!?
ススム さすが僕。話が早い。
キイタ なに言ってんだよ。ススム。
カズキ ってことは、これタイムマシン?
僕 なんだか、変なデザインだけど。
ススム デザイン考えたのはキイタなんだ。
カズキ&僕(キイタを見て) なるほど。どおりで。
キイタ 俺こんなの考えたこと無いぞ!
僕 これから考えるんだろ。
キイタ なんだよこれからって。
ススム というわけで、僕はこれで。
キイタ だからちょっと待てって! なんなんだよあんたは!
ススム ちょっと、悪いんだけど説明しておいて。
僕 それはいいけど、何の目的でそれを持っていくのか教えてもらえませんか? って、自分相手に丁寧な言葉になるのもなんか変な気がしますね。まぁ、どうでもいいことだけど。
ススム 相変わらず一言多いね。というか、僕の方が相変わらずなんだろうけど。ってどうでもいいか。いや、説明したいのは山々なんだけど時間がな。
僕 時間?
ススム ということで、簡単に説明するだけにしておくけど、つまりね。これ、えーっと、今から15年後の未来では爆発的な人気になるからさ。
僕 人気に?
キイタ これって、この裏切り者たちが?
カズキ どれくらいの人気になるんですか?

   どこか別の場所にゴッデスマン一号が現れる。
   言葉とともにポーズを決めたり動いたり。

声 ゴッデスマン一号、ことニノマエハジメは横浜アクションクラブ出身の俳優である。薬物取締法で捕まり実刑判決を受けた後、獄中で小説「ヒーロー挽歌」を執筆。この作品が芥川賞を受賞すると、獄中作家として一躍有名に。出所後、自身が書いていた作品群の一つである、「ダーティーヒーロー」が映画化されると、主人公役として映画復帰を果たす。その後、バイク事故に巻き込まれるも生還。粘着質なファンに襲われるも生還と、激動の日々を過ごし、不死鳥のようによみがえるその姿は多くの視聴者の心をつかんで離さない俳優となったのだった。

   ゴッデスマン一号が去る。

僕&キイタ&カズキ い、一億!?
ススム うん。人形一つでね。関連グッズも馬鹿みたいな値段で売れるから、これ一つで10億くらいいくかもね。
キイタ 十億!? まじで! 俺、今から売ってくる!
カズキ 未来の話だよ。
キイタ え? あ、わかってるよ!
僕 お金が必要なんですか。
ススム まぁね。研究費って言うのはいつの時代でもあればあるだけいいものでね。まぁ、どうせバラバラにされてしまうんだったら、僕が持ち帰って売ってしまってもかまわないよね?
キイタ まぁ、それも、そうか。
カズキ 燃やすはずだったものだしね。
ススム 燃やす? いや、バラバラにされそうになりつつ、隠されたはずだけど。
僕 バラバラに? ハサミか何かでですか?
ススム いや、まぁ、それはどうでもいいとして……しまった。僕は帰る。
キイタ ちょ、ちょっと待てよ!
ススム もう全部説明しただろ!
キイタ なんかすごい気になること言ったまま帰ろうとするな!
ススム もう時間がないんだ!
キイタ 何の時間だよ! ほら、おまえらも止めろって! ほら!

   と、キイタは箱の中の人形たちを僕やカズキに渡す。

ススム 何をするんだ!?
カズキ 渡されてもなぁ。
僕 どうでもいいけど。
ススム 返してくれ! もう時間がないんだ!
キイタ だから何の時間だよ!
僕 いや、もうだいぶ展開が読めてきたよ。
カズキ だね。
キイタ 一体どういうことだよ。

   と、声がする。

ウオツリ声 ただいま〜 
僕 姉ちゃん。
ススム ……終わった

   音楽高まってくる。

ウオツリ声 あーひどい目にあった。
トビイ声 モテる女は辛いねぇ。
ウオツリ声 そんなんじゃないって。
オギノ声 お邪魔します。キイタ〜 いるんでしょう?
キイタ 姉貴!?
トビイ声 え、なにこの靴の数。もしかして休みの日なのに男だけで家の中にいるの? うわっ気持ち悪いんだけど。ないない。ないって〜 これで人形で遊んでたりしたらマジやばくない? ドンびくよ私。

   ウオツリ、オギノ、トビイがやってくる。
   ウオツリとオギノは、人形を持ったままの男の子たちに固まる。

ウオツリ&ミナミ いや、さすがにそれは無いでしょ……え。
僕&キイタ&カズキ あ。
トビイ ……(一人ススムに気づき)だれ?

   暗転

08 悪の結社っぽい展開。

   どっしりとゆっくりと大きな画面越しのようなものを持って、ドロロメエがやってくる。
ボンドロ一家に指令を与えているボスである。ドロロメエはサスに入ると、画面越しに叫ぶ。

ドロロメエ 集合だめぇ〜
ナルーシ&マッドン&ボンドロ ははーーー。

   三人も反対側のサスに入ってくる。
   画面を持っている。結構押し合いへし合いして三人は画面に映ろうとしている。

ドロロメエ まぁた失敗したみたいだめぇ。
ナルーシ&マッドン&ボンドロ 申し訳ありませんっっっっ
ナルーシ もう少しのところまで来ていたんですけど、
マッドン このナルーシの馬鹿がですね、本当に惜しいところでドジをしまして、
ナルーシ いや、いくら俺がかっこよくても、あれは俺のせいじゃないだろ。どっちかと言えばボンドロ様が、
ボンドロ あたしのせいだって言うの!? 元はといえばマッドンが、
マッドン ちょ、ちょっと、俺のせいにするのはさすがにひどいんじゃないかと、
ボンドロ じゃあ誰だって言うのよ。
マッドン ここはナルーシのせいということで、手を打ちましょうよ。
ナルーシ おいおい、いくら俺がかっこいいからって責任まで俺任せかよ!
ドロロメエ 黙るんだめぇ〜
ナルーシ&マッドン&ボンドロ ははーーー。
ドロロメエ やっちゃったことは仕方ないめぇ。失敗は成功のハハハって言うめぇ。失敗したときこそ笑うんだめぇ。笑うところに福来たるだめぇ。ほら、笑うめぇ。はっはっはっは。
ナルーシ&マッドン&ボンドロ (笑う)はっはっはっはっはっは
ドロロメエ といいつつ、お仕置きはするめぇ。

   と、ドロロメエは何かを押す。
   ポチっという音ともに、電流が流れる。
   三人しびれる。

ナルーシ&マッドン&ボンドロ あばばばばばばばば……
ドロロメエ ファルコンストーンをあつめることが、お前たちの使命だめぇ。あの石が集まれば、願いは何だって叶うめぇ。お前たちの願いだって、簡単に叶うんだめぇ。
マッドン で、でも、毎回毎回邪魔する奴らがいてですね、
ボンドロ そう。あの ゴッドンマンとか、ガッデンマンとかいうやつらが、
ナルーシ 格好良さでは全然俺以下何ですけど、なかなか強くてですね、
ドロロメエ 言い訳は聞かないめぇ。
ナルーシ&マッドン&ボンドロ ははーーー。
ドロロメエ 正面からぶつかって勝てないんだったら、勝てる方向を見つければいいめぇ。
ナルーシ&マッドン&ボンドロ 勝てる方向?
ドロロメエ 別に戦う方法は一つじゃないめぇ。
マッドン なるほど、そういうことですか。
ドロロメエ そういうことだめぇ。
ボンドロ どういうことよ。
マッドン この俺の頭脳が、ビリリっと来たんですよ。ビリリっと。卑怯で卑屈で非凡な男、マッドンさんの頭に、ニヒルでヒールなアイデアが閃いたんですよ。
ナルーシ だからどういうことなんだよ。
マッドン 作戦名をあえてつけるなら、人質大作戦。
ボンドロ なるほど。そういうこと。
ドロロメエ そういうことだめぇ。
ナルーシ だから、どいうことなんだよ!
ドロロメエ やることがわかったなら動くめぇ! 家宝は寝てたら奪われるめぇよ。
ナルーシ&マッドン&ボンドロ ははーーー。

   ドロロメエ、マッドンとボンドロがほぼ同時に去る。
   ナルーシ一人残る。

ナルーシ えっと、で、結局どうするんだ?

   ナルーシが悩みながら去る。
   それに合わせてあたりは明るくなる。
   そこはまた再び過去のウオツリ家である。

09 反省という名の説教タイム。

a  明かりがつくと過去のウオツリ家。
   ススム、僕、キイタ、カズキは正座させられている。
   ウオツリは三人の前に仁王立ちで立っている。
   その横でトビイは楽しそうにしている。オギノはタイムマシンをいじっている。

ウオツリ で。未来の世界の人間だとか言う、青くも黄色くも猫型でもない普通のおっさんが、わざわざ一般人の眼鏡かけてるだけで別に成績が悪いわけでもない男の子のところに来て、おもちゃを盗んで帰ろうとしていたと。
ススム いや、盗もうとしていたというか何というかですね。
トビイ ただ箱ごと持って行こうとしていただけよねぇ。
ススム はいっ。いや、そうじゃなくて、
ウオツリ それを盗むって言うんでしょう!?
ススム は、そうですね。はい。
オギノ っていうか、何よりも先に、休日の昼間に男三人そろって人形遊びに夢中だったっていうこの状況を、姉ちゃんはどうかと思うのだけど。
カズキ あの、僕達は別に遊んでいたわけではなくて、
トビイ うん。大丈夫。カズキ君は悪くないんだよね?
オギノ これ、ススム君と、うちの馬鹿の問題だから。
カズキ はい。
ウオツリ 確かに。ミナミの言うとおりだわ。ススム。
ススム&僕 はい。
トビイ なんで(ススム)あなたまで返事してるの?
ススム いえ。つい。
オギノ キイタ。
キイタ なんだよ。
オギノ 何か反論はある?
キイタ 別に。
トビイ いや〜ないよね。ないない。男三人集まって人形遊び。カードゲームだったらまぁ仕方ないと思うけど。人形だもんね。しかも、ヒーローもの。
僕 人形じゃなくて、フィギュアけどね。
キイタ 変に口挟むなよ。
オギノ フィギュア? フィギュアって呼んでるの?
ウオツリ いや、いいんだけど呼び方なんて。
トビイ てか、それだけで痛いんだけど。そのうちに『ぼ、僕達のフィギュアに手を出さないで欲しいんだな』とか言っちゃったりしてね〜。
オギノ どうしよう。ミライ〜 このままこいつらが人形オタクになっちゃったりしたらあたし……。
ウオツリ 大丈夫。大丈夫よ。
トビイ 『な、生身の人間になんか興味ないんだな』とか言っちゃったりねぇ〜
オギノ 嫌だ。そんな弟は嫌だっ。
ウオツリ セナ! それは言い過ぎ。
トビイ はーい。
オギノ どうしよう〜ミライ〜
ウオツリ 大丈夫。あたしが何とかするから。セナ。
トビイ え? なに?
ウオツリ 私の部屋の机の上に、文房具入れてる缶があるんだけどさ、
トビイ はいはい。あったような気がするね。
ウオツリ その中に裁ちバサミが四本くらい入ってるから、全部持ってきて。
トビイ え、裁ちバサミが!? なんでそんな入ってるの!?
ウオツリ いいから早く!
トビイ あ、うん。わかったよ!

   トビイが去る。


僕 姉さん、もしかして、
ウオツリ 切る! ぶった切る!
ススム&僕&キイタ&カズキ いやああああ〜
オギノ ミライ。偉いよ。あんた、いい女だよ。
ウオツリ わかってる。
ススム&僕&キイタ&カズキ いやいやいやいや!
カズキ あれ。でも、これ元々捨てる気だったよね。
キイタ いや、自ら捨てるのと、捨てられるのじゃ話が変わるだろ。
ススム そうだよ。どうにかしないと。このままじゃ何のために過去に来たのかわからなくなる。
僕 それは本当にわからないけど、確かにこのままじゃ何か釈然としないものを感じるのも確かだね。どうでもいいけど。
キイタ どうでもいいことはないだろ。
僕 うん。仕方ない。フォーメーションα(あるふぁ)で行こう。
ススム フォーメーションα?
キイタ あれを、本当にやるのか!?
カズキ それほどの相手、ということだね。
ススム え、なにこの盛り上がり方。
僕 未来から来たって言うのに、忘れたんですか。僕達の考えたあの作戦を。
オギノ ミライ、ガキどもなんかやる気みたいよ。
ウオツリ へぇ。ススム。まさかとは思うけど、姉ちゃんに逆らう気じゃないでしょうね?
ススム&僕 うっ。
ウオツリ 大丈夫。あんたの変な趣味も○○も、全部切ってあげるから。
キイタ 今、なんかやばいこと口走らなかったかっ。
僕 それでも! 僕らはやらなきゃいけない。僕らの自由は僕らのものだ!

   ススムは思わず僕を見る。
   キイタとカズキは僕の言葉にうなずく。

僕 行くぞ、フォーメーションα!
キイタ ああ! あんなところに、水着でむっちむちのギャルがいるっ!

   思わず全員がキイタを見る。

キイタ ……いや、俺じゃなくて、ほら、あっちあっち!
僕 ……フォーメーションβ(ベータ)!
カズキ くはっ!

   カズキが突然胸を押さえて倒れ込む。
   そのまま、咳き込み始める。

僕&キイタ カズキ? カズキ!
カズキ こ、こんなところで、情けないな僕は。
僕 これ……血!? 馬鹿野郎! 何でこんなになるまで黙ってたんだ!
カズキ しゃべったら、お前、止めただろう?
僕 当たり前だ!こんな状態のお前を誘えるか!
カズキ だから、だよ。
僕 くそっ。一体どうすればいいんだ。
カズキ このまま、放っておいてくれ。
僕 放っておけるか! (ウオツリとオギノに)頼む。医者を! 医者を呼んでくれ!
ウオツリ え、なに言ってるの。あんた。
オギノ カズキ君、どこか悪いの?
僕 こんなに苦しんでいるのが、見えないのかよ! 医者を呼んでくれ! 早く!

   言いながら僕はウオツリとオギノにしがみつく。

ウオツリ ちょっとススム!
オギノ わかったから離して。すぐ呼んであげるから!
僕 こいつが、いなくなったら僕は、僕は!……
ウオツリ ススム……
オギノ ススム君……
僕 今だ!
キイタ&カズキ おう!

   キイタとカズキは人形の入った段ボールを抱えて走って出て行く。

オギノ キイタ!
キイタ 馬鹿が見る〜
ウオツリ 騙したわね!
カズキ ススム! グッドラック!

10 あの子が欲しい。あの子じゃわからん。

   キイタとカズキが去ると同時にトビイが戻ってくる。

トビイ おまたせ〜 ってあれ? 今どういう状況?
オギノ ススム君〜
ウオツリ ススム、あんたいい度胸よね。
ススム フォーメーションβというか、ベタだったな。
ウオツリ おっさんは黙ってて。
ススム おっさ……元の世界では、そっちの方がおばさんのくせに。
僕 やっぱり、未来でもうるさいの?
ススム もう、やれ「結婚しろ」だの、「彼女作れ」だの、うるさいうるさい。言い返すとその三倍は言ってくる。
僕 うわっ。それはひどいね。
ウオツリ なんかわからないけど、すごい腹立ってきた。
トビイ どうする? ハサミはあるよ?
オギノ セナ〜。私も、欲しいな一本。
トビイ ほいほい。
ウオツリ モヒカンって似合うと思う?
僕 いや、ちょっと話し合いってのは必要だと思うけど。

   と、そこに叫び声が飛び込んでくる。

キイタ声&カズキ声 うわあああああああああ〜
オギノ キイタ!?
ウオツリ と、カズキ君?
トビイ え、なに、何があったの?
ウオツリ これも何かの作戦? 近所迷惑だからやめさせなさい。
僕 違うよ。こんな作戦無いよ!

   と、ナカクニ君とヒノモト君がやってくる。

ナカクニ&ヒノモト た、たいへんだ! ウオツリさん!
ウオツリ あ、あんたらなんでここに!

同時に早口で。
ナカクニ いや僕はね、僕は君が困るかなと思って帰ろうと言ったんだけど、この男が何をとち狂ったのか君のことを護衛するだとか言いながらストーカーまがいに後をつけていくのでね、僕は君が頭を悩ませてはいけないと思って、この男から君を守るためにもというつもりで一緒にいたわけだけど、そうしたらそこの影から急にガキ共が出てきて、そしてさらに変な男たちが出てきて二人をさらっていったんだ。僕はもう驚いてしまって。いやどれくらい驚いたかって、うちのセバスチャンの名前が遠山金五郎だってわかったときくらいだったよ。いや、セバスチャンというのはうちの運転手件、執事みたいなものなんだけどね、
ヒノモト 僕はその、帰ろうと言ったんですけど、ナカクニ君が執拗に僕にウオツリさんをあきらめろとうるさくてですね、そのうち先にウオツリさんを奪った方が勝ちだなんて言うものだから、僕は君をあきらめたくなかったから、じゃあ一緒に行こうと言うことになりまして。そうしてこの家の前まで来たら子供たちが出てきまして、もしかしたらウオツリさんの兄弟かなと思って声をかけようとしたら変な男たちにその子がさらわれて。本当びっくりしましたよ。どれくらいびっくりしたかって、びっくり寿司でこれ外れかなと思いながら食べたお寿司が思った以上においしかったときくらいのびっくりで。あ、びっくり寿司ってわかります?

ウオツリ (二人の会話の途中で)えーい黙れ!
ナカクニ&ヒノモト すいませんっ。
ススム だれだあれ。
僕 姉さんを好きだって言う、奇特な人たち。
オギノ 来てるよねぇモテ期。
トビイ 来てるねぇ。
ウオツリ (オギノとトビイに)黙ってて。(ナカクニ)同時に話されてもわからないから。とりあえず、ヒノモト君。何があったの?
ナカクニ なぜヒノモトに聞くんだ!
ウオツリ だって、なんかあんたキモイ。
ナカクニ きもくない!
ウオツリ (ヒノモトに)それで?
ヒノモト えっと、なんか家の前で子供たちが誰かにさらわれていて、
オギノ さらわれた!? キイタが!?
ヒノモト それで、これ、ウオツリさんにって。(ト、手紙を渡す)
ウオツリ 手紙? ……ウオツリミライへ。ガキ共はボンドロ一家が預かった……
トビイ ガキ共、ってことはカズキ君も!?
オギノ キイタ……

   と、どこかにマッドンとナルーシが現れる。
   マイクスタンドを前に二人は争うように話す。

マッドン ウオツリミライ。
ナルーシ ガキ共はボンドロ一家が預かった。
マッドン 返して欲しかったら、ファルコンストーンを持って、みなとみらいの赤レンガ倉庫裏に来い。
ナルーシ 時間はいつでもいいけど、今日中。あんまり遅いと、こっち不機嫌になっちゃうと思うよ?
マッドン おきまりだろうが、警察に連絡したら、ガキ共の命はない。
ナルーシ なーい。では、
マッドン&ナルーシ アデュー。

   マッドンとナルーシが去る。

僕 ……そんな。ボンドロ一家が動くなんて。
ススム 姉さんがファルコンストーンを? そんな馬鹿な話が。
オギノ ミライ。ファルコンストーンって?
ウオツリ (胸元の石を見て)これ。
ススム なにっ!?
ウオツリ でも、これが一体なんのために?
二号 その答えは私がお答えしましょう!

   音楽。
   二号が現れる。やや早口で登場シーン。一号の分無しで。

二号 ご町内を平和にしたいと、愛と勇気とお金で解決。どこから来たのか誰なのか。同じく二号! とにかく見参!! ……一号がいないと締まらない……(ト、落ち込む)
ススム そんな、彼女は……
僕 ゴッデスマン二号!?
ウオツリ 一体どうしたらいいんだろう。
二号 あ、大丈夫、この私が、
オギノ とにかく悩んでいても仕方ないでしょ。二人がいるって場所に行ってみようよ。そこに二人がいるかどうか確かめてから、どうするか考えよう。
ウオツリ うん。手伝ってくれる?
オギノ うちの愚弟が攫われたのよ? こっちの台詞よ!
二号 え、あのちょっと! ちょっと待ってください。

   ウオツリとオギノが去る。

ナカクニ&ヒノモト あ、ウオツリさん。待ってください! って、同時にしゃべるな!

   ナカクニとヒノモトが追いかけて去る。

11 間の抜けた正義の味方は許されるのか。

二号 は、話を聞いて欲しかった……(ト、落ち込む)
ススム 本物なのか?
僕 本物だよ。こんな真昼間に、人の家に土足で入ってくるのは、正義の味方くらいでしょう?
ススム そんなものか?
僕 そんなものです。
トビイ 状況についていけないなぁ。

   トビイは不満げにタイムマシンをいじり始める。

二号 えっと、というわけでゴッデスマン二号でーす。
ススム ずいぶん締まらないなぁ。
二号 すいません。一号がいないと、ちょっと勢いがつかなくて。
僕 一号、やっぱり捕まったままなんですか。
二号 うん。
ススム (ぼそりと)裏切り者。
僕 裏切り者!
ススム 信じていたのに。
僕 あんた達は、僕らを裏切ったんだ。信じていたのに。正義の味方だって。僕たちの憧れだったのに。
二号 ごめんなさい。どんな言葉でも後で聞くから。今はあの子達を助けさせて。
僕 助けてくれるのかよ。
二号 ご町内の平和が、私たちの使命だから。

   二号が走り去る。

ススム 追わないのか?
僕 ……僕は、頭がいい人間なんだ。
ススム 未来の自分相手に自慢って、それどうかと思うよ。
トビイ 未来の自分って。え、マジで!?

   トビイは驚いてタイムマシン上にこける。

僕 周りの人間なんて僕から見たらみんなガキでさ。僕はすべてを見下してたんだ。
ススム キイタとカズキ以外は、だろう?
僕 何でだろう。あいつらは僕の言葉に怒ったりしないんだ。いや、怒ることもあるけど、でも離れないんだ。だから僕もあの二人だけは友達だって思えたんだ。そんな二人が好きなものを、僕も好きになりたいって思うのはおかしい事じゃないよね?
ススム そういえば、究極超人ゴッデスマンを始めに薦めたのはキイタだったっけ。
僕 二人は本当に好きだったんだよ。本当にゴッデスマンにあこがれていて、本当にゴッデスマンが正義の味方だって信じてたんだ。この世界に本当の正義なんてありはしないのに。正義の味方だとか、真実の愛だとか、まっすぐな勇気なんて口にする奴に限って、持ってるものはまがい物だって言うのに。あの二人は本当に信じていたんだ。
ススム だから、許せなかった。
僕 二号は否定しなかった。やっぱり、キイタとカズキは裏切られていたんだ。
ススム そして、君もね。
僕 僕は、二人ほどゴッデスマンが好きだったわけじゃない。
ススム いや。好きだったよ僕は。好きだったから、期待してしまった。憧れてしまった。
僕 僕は好きだったわけじゃない!

   僕は耐えられず走り去る。

ススム いや、僕には分かる! 僕にとって一番楽しかった時は、無邪気にヒーローを信じていられた時だ。そして、裏切られて灰色に染まった。人形は全て姉に没収され、ばらされ、隠され、記憶を忘れることも出来ないまま、大人になっていった。まるで腐ったままの臓器が体の中で脈打っているようだったよ。そいつは鈍い痛みを時折発しては、僕の心を狂わせるんだ。だから、僕はここに来た。今度こそ、完全に終わらせるために。……でも、この現実はなんだ? 僕はこんな世界知らない。

   ススムが走り去る。

12 勘違い時間旅行

トビイはサス中に浮かび上がる。

トビイ 置いてかれちゃったぁ。ていうか、どういう展開。分からないなぁ。……これ、本当にタイムマシンなの? えっと、じゃあ、押したら発進しちゃったり? ぽちっと。なんてねぇははは。

   と、音。と光。
   

トビイ え?

   クロノがやってくる。サスの中に入る。

クロノ ススムさん! 帰ってきたの!?
トビイ え、ここどこ?
クロノ ……誰?

   キイタとカズキがやって来る。未来の姿である。
   照明がつくとそこは未来世界。

キイタ おい、クロノさん。所長俺らのこと呼んでないって言ってたぞ、って……(ト、トビイに気づく)
クロノ いや、えっと、これは、その。
キイタ セナさん!
クロノ え?
カズキ 若い。
トビイ え、誰?
キイタ 俺だよ俺。どうしたの? はっ。まさかついにアンチエイジ系の美容整形を!? あれほど、君は今のままでもきれいだって言ったのに。
トビイ え、なにこの展開。モテ期? 私今、モテ期来てる!? ごめんなさい。顔が好みじゃないので。
キイタ そんな!? 男は顔じゃないって言ったじゃないか!
トビイ いやいや、顔でしょ。男は。
キイタ ひどい!
カズキ 本当にセナさん?
トビイ その顔、その声、もしかして、カズキ君!? うわ〜カズキ君、大きくなったらこうなるの? 正直、全然変わらないねぇ。
キイタ 俺だって変わってないだろ!
トビイ えっと、誰だっけ。ああ、なんかいた人?
キイタ ひどい!
カズキ 一体、なぜあなたがここに?
トビイ そうだ! 大変なのよ!ミライが持ってるのがファルコンなんたらで、ミナミの弟とカズキ君が浚われて、みんな助けに行くとかで私置いて行かれちゃったの!
キイタ なんのことか、さっぱりわからないな……
カズキ うん。
トビイ だから、
クロノ ススムさんはどうなったんですか?
トビイ ススム君? なんか走ってっちゃったけど。
クロノ 走っていった? どこにですか!
トビイ えっと、みなとみらいだっけ?
クロノ どいて!

   クロノはトビイをどかしてタイムマシンに乗る。

トビイ ちょっと、なにするのよ!
キイタ おい、クロノさん。どうする気だよ。
クロノ ススムさんを救出に向かいます。
キイタ まずいって、まずは所長に連絡してからの方がいいって。
クロノ そうしたら、ススムさんは処分を受けることになるんでしょう? 減棒で済めばいいけど、下手したらこの研究所をクビになったり。
キイタ そりゃそうだけど。
クロノ 今だったら、ばれないで済むかもしれない。
キイタ 無茶だろ。みなとみらいったって、結構広いんだぞ。
トビイ なんかね、赤レンガ倉庫裏? とか言ってたけど。
クロノ ありがとう!
キイタ だからさ、まずいって。俺たちだけのタイムマシンって訳じゃないんだからさ。こういうのはまず所長に相談しないと。
クロノ なにも相談してくれなかったの。
キイタ はぁ!?
クロノ ススムさんは、なにも相談してくれなかった。何か悩んでたのに。一人で抱え込んで。過去に行けば解決するんだって信じてた。過去を変えたってしょうがないのに。私たちは今を生きているんだから。でも、私は言えなかった。あの人の悩みを聞いてあげられなかった。だからこんなことになったの。私のせいなの。
キイタ クロノさん。

   カズキがタイムマシンに乗る。

キイタ カズキ、なにしてるんだよ。
カズキ タイムマシンの運転はデリケートなんだ。一人より二人の方がいい。
クロノ ありがとう。(ト、タイムマシンの調整を始める)
キイタ なに言ってるんだよ。お前自分がやってることわかってるのか。
カズキ あいつの悩みを聞いてやれなかったのは俺も一緒だから。友人として、長く一緒にいたのに。あいつが過去に行きたい理由さえ、聞いたこと無かった。
キイタ ああもう、普段頭いい奴らって、なんで変なときに馬鹿になるんだよ!

   キイタは言いながらタイムマシンに乗る。

カズキ キイタ?
キイタ 俺だって、あいつのダチだってこと、忘れるなよ。
カズキ キイタ……このタイムマシン、三人乗りなんだ。
キイタ は。
トビイ あんたの席は無いってことなんじゃない?
キイタ 俺、カズキ、クロノさんで三人だろ!
トビイ あたしがいるんだけど。
キイタ 降りとけ!
トビイ あんたが降りなさいよ!
カズキ 冗談だよ。
キイタ&トビイ たちが悪い!
クロノ (調節が終わったらしく)行きます!

   音楽。あたりは一度光に包まれる。
   そして、世界は暗闇に包まれる。

13 待ち合わせ場所でつまずいて

   薄暗い雰囲気の場所。
   ウオツリとオギノがやってくる。

ウオツリ とりあえず、来たのはいいけど、どうやって探す?
オギノ 大声で呼んでみたら答えるかも。
ウオツリ それ、二人を浚った奴らにも見つかるよね。

   と、言っていると声がする。

マッドン声&ナルーシ声 フッフッフッフッフッフ

ウオツリ 誰!?

   話しながら

マッドン フッフッフ来たな。
ナルーシ 飛んで日にいる何とやらとはこういうことだなぁ。
ウオツリ あんたたちが、ボロボロ一家!?
マッドン ボンドロ一家だ!
ウオツリ どっちも似たようなものでしょ。
マッドン 全然違う! まぁいい。怖がらずに来たことだけは褒めてやろう。
オギノ キイタとカズキ君はどこ?
ナルーシ ガキ共か? 俺はガキが嫌いだからね。ほら、汚いだろう? だからなるべく見えないところにおいておきたくてね。
マッドン でも、逃げられたら困るだろう。そこで、考えたのがあれだ。

   ナルーシとマッドンがどこかを指す。
   吊られている二人の姿が見える(もしくは人形)

ウオツリ あんなところに!
オギノ キイタ! カズキ君! ……聞こえてないみたい。
マッドン 怖くて気絶しているんじゃないか?
ナルーシ どんなに威勢が良くてもガキはガキ。この俺みたいにかっこよくは生きられないものだな。
オギノ どうしよう、ミライ。
ウオツリ 二人を返して!
マッドン だったらファルコンストーンを渡してもらおう。
ウオツリ 二人を返すのが先よ!
ナルーシ 別に俺たちはどっちでもいいんだぞ? お前たちをいたぶってから、ファルコンストーンを戴き、あいつらを放っておいて帰ってもな。
ウオツリ くっ。
オギノ 卑怯者!
マッドン 吠えても無駄だ。
ナルーシ ののしる声は気持ちいいなぁ。

   と、声が聞こえる。


ナカクニ声&ヒノモト声 ちょっと待った!
マッドン&ナルーシ 誰だ!

   ナカクニとヒノモトが現れる
   ナカクニとヒノモトはそれぞれ武器を持っている(バット等)
   マッドンとナルーシはしばらく4人の会話に入ろうとするが出来ない。

ナカクニ&ヒノモト この胸の思いにかけて、ウオツリさんは僕が守る。
ウオツリ&オギノ うわあ……
ナカクニ&ヒノモト……だから同時にしゃべるなって! お前は黙れ。僕が話しているんだ。だから、お前は黙ってろって!
オギノ あんたたち、本当は仲いいんじゃない?
ナカクニ とにかく! 僕が来たからには安心です。
ヒノモト ウオツリさんは僕が守ります。
ウオツリ あ、うん。そうなんだ。
ナカクニ (ヒノモトに)君は引っ込んでろ。震えているほうがお似合いだよ。
ヒノモト き、君こそ、本当は怖いんだろう?
ナカクニ な、何の根拠があって言ってるんだ。根拠のない侮辱はやめて欲しいな。
ヒノモト き、君こそ何の証拠があるんだ。そんなねつ造ばかりしていると信用されなくなるよ?
オギノ いや、そこでにらみ合っている場合じゃないと思うんだけどな。
ナカクニ&ヒノモト 部外者は黙っていてくれ!
オギノ あんたたち、本当は仲いいだろ。

   と、銃声。
   ウオツリ、オギノ、ナカクニ、ヒノモトは思わず銃声がした方を見る。
   マッドンとナルーシの奥からボンドロが銃を片手に現れる。

ボンドロ 子供の遊びは終わりだよ。
マッドン&ナルーシ ボンドロ様!
ボンドロ マッドン! ナルーシ!
マッドン&ナルーシ はっ
ボンドロ 人質まで取っておいていつまで時間かかっているんだい。
マッドン&ナルーシ 申し訳ありません。
ボンドロ さて、じゃあお嬢さん。ファルコンストーンを頂戴しようかねぇ。ああ、その前に勇敢なナイト様が二人もいたんだっけ? 是非ともお相手して差し上げないとねぇ?

   ボンドロが銃を向ける。

ナカクニ あ! そういえば近所のビデオ屋さんで借りたDVDの返却期限が今日だった。
ウオツリ&オギノ&ヒノモト は?
ナカクニ このままじゃまた延滞料金払わなきゃいけないや。参ったなぁ。なんでレンタルしたの忘れちゃうんだろ。というか、一週間ってあっという間だよねぇ。

   とか、言いながらナカクニは去る。

ヒノモト ……あ、そういえば。そういえば、そういえば。
ウオツリ いいよ。
ヒノモト え?
ウオツリ 逃げていいよ。
ヒノモト ……そう言えばと「総入れ歯」って似てるよね。うん。それだけ。
ウオツリ ヒノモト君。

   ヒノモトはウオツリを守るように立つ。

オギノ なんだよの空気。逃げたいなぁ。めちゃくちゃ逃げたいなぁ。今すごくすべてがどうでも良くなった〜。
ボンドロ 別に、逃げてもいいけど、あのガキ共には二度と会えなくなるよ。
オギノ 卑怯者……
ナルーシ その言葉は、今さっさと逃げてった男に言うべきだと思うがね。
ボンドロ さあこれでおしまいだよ。
マッドン とっととファルコンストーンを渡すんだな。

14 現れる正義の味方パート2

二号 そこまでよ!
ナルーシ この声は!?

   音楽。そしてムチの音。ボンドロが銃を手から落とす。

ボンドロ くっ

   とともに、二号が現れる。武器(鞭?)を持っている。

二号 ご町内を平和にしたいと、愛と勇気とお金で解決。どこから来たのか誰なのか。同じく二号! とにかく見参!! 

ボンドロ&マッドン&ナルーシ ゴッデスマン二号!
二号 さぁ、あなたたちは逃げて。ここは私がなんとかします。
ウオツリ でも、キイタ君とカズキ君が。
二号 大丈夫。正義の味方を信じてください。

   ウオツリとオギノ、ヒノモトは顔を見合わせると一緒に去る。

ボンドロ 大きく出たね。ゴッデスマンニ号。でも、一人で一体何が出来る?
二号 正義は必ず勝つ!
ボンドロ お前たち。やっておしまい!
マッドン&ナルーシ お任せ合点!

   ボンドロが奥へと去る。
   バトルシーン。
   戦いが始まるが、二号は劣勢。
   どこか違う場所にススムと僕が現れる。

僕 さすがに不利みたいだよ。
ススム そうだな。
僕 どうするの?
ススム どうするって言ったって。
僕 未来人でしょ。武器とか出せないの?
ススム 四次元ポケットもないのに無理言うな。
僕 でも、このままじゃ。
ススム 先に人質のほうをどうにかしよう。
僕 分かった。

   と、ススムと僕は走り去る。
   二号が膝をつく。

マッドン さすがに二号だけでは無理なようだな。
二号 く、それはどうかしら。
ナルーシ 無駄無駄無駄〜。この台詞、一度言ってみたかったんだなぁ。
二号 正義は絶対に負けない!
ボンドロ声 いいや、負けるねぇ。

   ボンドロがやって来る。
   ススムと僕が捕まっている。

ススム あっという間に捕まりました。
僕 情けないよ。
ススム 未来の自分に何を期待しているんだ。
ボンドロ 人質がこうも多くちゃ、手も足も出せないだろう?
二号 くそ。
マッドン さすがボンドロ様。
ナルーシ なんだ。完全勝利じゃないか。
ボンドロ さぁ、お前たち、あの二人を捕まえてきな。
マッドン&ナルーシ お任せ合点!

15 小さな友情と巨大な敵


キイタ声&カズキ声&クロノ声&トビイ声 ちょっとまったぁ!
ボンドロ なんだってっ。
マッドン また新手か!
ナルーシ 次から次と。今度は誰だ!

   キイタとカズキとクロノとトビイが現れる。
   四人とも、武器は断ち切りバサミ。
   クロノとカズキがボンドロの後ろから現れ、ススムと僕を救出する。
   そのまま、三対七の形へ。

ボンドロ あ、お待ち!
マッドン&ナルーシ 大丈夫ですかボンドロ様!
ススム キイタ! カズキ! クロノさんまで!
僕 なにやってるのトビイさん。
クロノ た(すけに)
トビイ 助けに来たのよ。ススム君!
クロノ あたしの台詞を!
キイタ とりあえず、危ないから向こう行っててね。
トビイ えーー。
カズキ トビイさんはこの子と、あとお姉さんたちをお願いします。
トビイ 分かったわ! 行くよ、ススムくん!
僕 う、うん。

   僕とトビイが去る。


キイタ お前の言うことは聞くんだもんな。
カズキ この時代だけだよ。
クロノ もしかしてさっきの、この時代のススム君!? 若い! あ、(二号に)大丈夫ですか。
二号 ええ。ありがとう。
ススム キイタ。カズキ。
キイタ ……なんで、黙って行ったんだよ。
ススム 言ったら、止めると思って。
キイタ 当たり前だ!
ススム ごめん。
キイタ だからってな、お前にとって俺は何なんだよ。映画の中だけいい人になる近所のガキ大将か!
ススム ……意味が良くわからない。
カズキ じゃあ僕は映画の時もいい人だったり嫌なやつだったりするお金持ちポジションだね。
クロノ え、じゃあ私はヒロイン!? ってことは将来的には主人公といい関係に?
キイタ&カズキ いや、たぶん青いロボット。
クロノ 黙っとけ!
キイタ&カズキ ごめんなさい。
ススム ありがとう。みんな。
ボンドロ なんだかいい雰囲気になっているところ、悪いけど、あんたたち、状況分かってる?
ナルーシ 何人集まろうと雑魚は雑魚。
二号 あなたたち、戦闘経験は?
キイタ 狩りなら任せろ! どんなモンスターも片手剣で倒せる!
カズキ ゲームの話ね。
ススム 一応、僕らデスクワークが主だから。体力には自信ないな。
二号 だめだぁ!(と、膝をつく)
キイタ ゲームをなめるな! 行くぞカズキ、ススム!

   と、キイタはナルーシにぶつかっていく。
   ナルーシとマッドンにあっという間にやられる。

ススム&カズキ キイタ!
キイタ なんで、一緒に、戦わない?
ススム 負けるの分かっていたからね。
ナルーシ はっはっは。弱い。弱いぞ。笑うを止めると書いて、笑止!
マッドン このままでも勝てるだろうが、獅子は兎を刈るのにも全力を尽くすという。ボンドロ様。
ボンドロ おや、マッドン。あれを使うのかい? お前も人が悪いねぇ。
マッドン 人が悪いはほめ言葉! さぁ、来るんだ! 今週の最終メカ!



メカカメ声 メー!カー!

   と、ゴ○ラ的入場音と共に、メカカメ登場。

メカカメ メーカー!
ススム 二号さん! こっちも何か無いんですか!?
二号 一号がいればおたすけメカが呼べるけど。っていうか、二号さんって言うな!
キイタ ああ! あいつらって、究極超人ゴッデスマンの敵キャラか。
カズキ 今更過ぎるよ。でも、不思議だね。もしかして……。
ススム カズキ?
ボンドロ ふふふ。さあ、観念するんだねぇ。
メカカメ メーカー!
ナルーシ ついに、悪が正義に勝つ時が(来た)
メカカメ メーカー!
マッドン これぞ、この私の素晴らしい(頭脳のおかげ)
メカカメ メーカー!
ボンドロ さぁ、(お前達)
メカカメ メーカー!!
ナルーシ 地獄(へ送ってやろう)
メカカメ メーカー!!!
マッドン か(くごして、)
メカカメ メーカー!!!!
ボンドロ&マッドン&ナルーシ だまっとけ!
メカカメ これしか台詞無いのに……。
クロノ あんなお馬鹿な敵にやられるなんて。
二号 せめて一号がいてくれたら。
マッドン あまいあまい。私のメカに勝てる奴なんてこの世にはいない!

16 正義の味方いつも遅れてやってくる。

一号声 さぁ、それはどうなんだろうね。
ボンドロ&マッドン&ナルーシ 誰だ!

   と、客席から一号登場。深々と帽子をかぶっている。

一号 ボンドロ一家の一の子分、マッドンが作り出したメカカメックス・バージョン2011。その速力は初速で東横線を遙かにしのぎ、またその力は岩をも壊す。が、所詮日本では二番目だ。
マッドン では、一番は誰だと言うんだ!
一号 (口笛)チッチッチ。(と、自分を指す)
二号 一号!
ススム&僕&キイタ&カズキ ゴッデスマン一号!
一号 情けないぞ二号! こんなところでやられてどうする!
二号 ごめん。
ボンドロ まさか。
マッドン お前は捕まったはず。
ナルーシ 一体、どうして。
メカカメ メーカー?

   一号は不敵に笑うと帽子を飛ばして名乗りを上げる。

一号 世界の平和は守れなくても!
二号 ご町内を平和にしたい!
一号 強気を挫き、弱きを助ける正義の味方。
二号 愛と勇気とお金で解決。どこから来たのか誰なのか。
一号 究極超人ゴッデスマン一号!
二号 同じく二号
一号&二号 とにかく見参!!

   一号と二号はポーズを決める。

キイタ 本物だ。
カズキ そういう事か。
クロノ どういう事?
ススム ゴッデスマン一号。捕まったはずじゃ。
一号 こんな事もあろうかと、検査用の安全な尿と血液くらい、いつでも仕込んであるんだよ!
二号 さすが一号!
キイタ&カズキ&クロノ&ススム いやいやいやいや。
ボンドロ&マッドン&ナルーシ 駄目だろそれは!
メカカメ メーカー!
一号 今だ!

   一号と二号はすかさずメカカメを倒す。

メカカメ 酷い! まだ何もしてないのに!

   メカカメが去る。

マッドン 私のメカが!
ナルーシ 卑怯者!
一号 勝てば正義だ!
ボンドロ ふん。調子に乗るんじゃないよ。こっちには人質が、

   と、ボンドロとマッドン、ナルーシはどこかを見て、

ボンドロ&マッドン&ナルーシ いない!?
一号 こんな事もあろうかと、すでに人質は安全なところに下ろしておいた。ついでに、ファルコンストーンはすでに俺の手の中だ!
二号 さぁ、覚悟しなさい!
ボンドロ くっ。ひとまず引くよ! 
マッドン あ、ボンドロ様! 覚えてろ! この恨みいつか晴らしてやる!

   ボンドロとマッドンが去る。

ナルーシ あ、二人とも。えっと、(と、何か気の利いたことを言おうとするが思い浮かばず)

   ナルーシ去る。
   一号と二号は不敵に笑うと互いの拳を打ち付ける。

17 去りゆくヒーロー


ススム 一号……。
一号 助けに来るのが遅くなってすまなかった。
ススム いや。ありがとう。あなたはやっぱり、正義の味方なんだね。
二号 君だってそうでしょう?
ススム え?
二号 私を助けようとしてくれたじゃない。
ススム でも、僕は結局捕まって。
一号 それでも、君の心には正義の色が輝いている。その色がある限り、君も同じ正義の味方だ。
ススム 正義の色。それって、何色なんです?
一号 さぁ。
ススム さあって。
一号 何色だったら、面白いかな。
二号 行きましょう一号。
一号 それでは諸君、また会おう!

   一号と二号が去る。

ススム あ……。何色だったら、面白いか、か。
キイタ これで終わったのか?
カズキ どうやらね。
クロノ よし、じゃあ早く帰りましょう! 所長が戻ってくる前の時間に戻らないと、処罰ものなんだからね!
キイタ 機械のセット手伝うよ。
クロノ よろしく! ススムさん……準備できたら呼ぶからね!

   キイタとクロノが去る


カズキ ススム。
ススム ここは過去のはずなのに。なんか変な世界だよな。ここは。一体どうしてこんな世界になっているんだろう。
カズキ 本当の過去じゃないのかもしれない。
ススム え?
カズキ 平行世界を認識し、ワームホールとして使うことによって、物理概念を超えた時間圧縮を可能とする。それが今回のタイムマシンの原理だった。過去に戻ることで生まれるIFの世界、その世界をはじめからあると仮定することによって、運用される時間逆行システム。
ススム はじめにもしもボックスで「もしもタイムマシンがあったら」と言ってから、タイムマシンを作るような物、だったっけ?
カズキ そのもしも、の世界の一つなのかもしれない。もしも、タイムマシンがあったらという平行世界の一つ。そこでは、ヒーローがいて、悪の組織がいて、なんだかよく分からない戦いを繰り広げている。のかもしれない。
ススム でも、単純に僕らがいた世界は元からこんなだったのかもしれない。
カズキ ススム。
ススム そうだろう? 過去のことは、本当は分からない。もしかしたら、本当に正義の味方がいて、僕らの町を守っていたのかもしれない。そう考えた方が、面白い。
カズキ そうだね。
キイタ声 カズキ! ちょっと分からないところあるんだけど。
カズキ 今行く! ……とりあえず、ちゃんと無事未来に帰れるといいけど。
ススム まったくだ。

   カズキが去る。

18 僕の明日が見せる色

   静かになる世界。
ススムがあたりを見渡していると、僕がやってくる。

僕 帰るんだね。
ススム ああ。迷惑をかけた。ゴッデスマンのグッズは持って行かないことにしたよ。あれは、君が好きなヒーローだろう?
僕 うん。……ねぇ。
ススム なに?
僕 僕は、これからどうなるの?
ススム ……僕にとって、世界はずっと灰色だったんだ。不思議な事なんて無いこの世界で、いずれその灰色に飲み込まれて、僕自身、くすんだ人間になってしまう。そう思ってた。
僕 うん。
ススム だから、あがいてあがいて、過去にしがみつこうと思った。すべて過去が悪かった事にすれば、今の僕はつまらない人間にならずにすむから。だけど、それが今は! 今はなんて言うかな! 分からないだろうなぁ。上手く言葉に出来ないんだ。
僕 ううん。分かる。
ススム そうか。分かるか。
僕 うん。世界は、
僕&ススム 世界は、こんなにも明るい。

   明るくなる世界。それはタイムマシンが上手く起動した光。
   まるで眩しさを抑えるように僕とススムは目を細める。

クロノ ススムさん! 準備できました。
ススム ああ。今行くよ。
トビイ ススムくん。早くお姉さんのところへ行こう?
僕 うん。今行く。(ススムに)ねぇ、それは何色なの?
ススム さぁ。分からない方が、面白いだろう?
僕 うん。

   僕とススムが去る。
   音楽。そして徐々に暗くなる。

   と、そこにやってくる二人。
   縛られたままのキイタとカズキ(子供の格好)

キイタ なぁ。誰もいないぞ?
カズキ うん。こっちから声、聞こえたのにね。
キイタ なぁ、いつまでこのままかな?
カズキ さぁ。
キイタ まさか、忘れられてたりして?
カズキ まさかぁ。
キイタ だよな。

   二人笑う。笑った後、同時に、

キイタ&カズキ 俺たちの、世界も明るくして〜!!

   今度こそ本当に暗くなる。

あとがき
大人数の芝居を作る必要に駆られて作ったお芝居です。
タイム○カンとドラ○もんな世界観なお話になりました。

昔に戻れるわけがないと思っていても、「あの頃」に戻りたいと思うことがあります。
取り返したい失敗だとか、もう二度と会えない人だとか、景色だとか。
そんな過去にこだわったまま生きている人の姿が浮かんで物語が生まれました。

「思い出は美化される」とよく言うように、きっと、過去に戻てみたら
こんな事にこだわっていたんだっけなんて思ったりするんじゃないかなと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。