近未来和風漂う戦争恋愛活劇
45分間のファンタジー

「ブルー     



      
フェアリィ
    ……リアリィ?」

青   +  米  =     精(妖精)  ・・・まじ?
(読み方 「ぶるーらいすふぇありぃ……りありぃ?」)


登場人物

ドリャ     S☆NY製のロボット。お米もたける。自称お米の精。とにかく青い。

オビタ
    引きこもりの青年。0.05秒で眠ることができる。

シスカ    学級委員長。オビタを学校に行かせるために家へと通う。

ママ     オビタのお母さん(?)オビタを学校に行かせようとしている。

シャイアン  政府の人。ドリャを追ってきた。冷酷。しかしシャイ。

ネズオ    シャイアンの部下。博士。陰険な見張りが得意。






    時は2038年。日本は再びア○リカに戦争を仕掛けていた。
    そして敗北。今まさに日本が滅びようとしたそのとき、一つの部隊が立ち上がる。
    これはそんな部隊を生んだ、舞台裏のお話である。

    舞台の上にはマンションの一室。和室。
    机があり本棚があり、ちゃぶ台のようなものが置いてある。子供部屋。
    但し、ある程度年齢がいった青年の部屋。布団の下には青少年にはふさわしくない本が入っている。
    下手側、ドアの真横には窓もある。そして、上手側にドア。


シーン0 追われる炊飯器。


    舞台上の明かりが落ちる。
    客席の明かりが今にも消えそうになるころ、客席の奥からドリャが飛び出してくる。
    全身が青い。そしてなぜか炊飯器を抱いている。


シャイ(声)「逃がすな! 追え!」

ネズオ(声)「だめです。しゃもじが車のタイヤに刺さっています!」

シャイ(声)「だったら走れ!」

ネズオ(声)「はい!」


    客席の途中で、ドリャが振り返る。そして、何かを奥に投げた。


ネズオ(声)「お米が目に!?」

シャイ(声)「粘っこい!? やけに粘っこいぞ!?」


    その隙にドリャが舞台へと上がる。
    ドリャが上がった場所だけ証明が照らす。


シャイ(声)「どこだ!? 探せ! 探せ!」

ネズオ(声)「だめです。やつを見失いました!」


    声がFOしていく。
    舞台に上がったドリャはほっとしたように周りを見渡し、そして倒れる。
  
    と、そこへオビタがやってくる。
    ダサいジャージに、買い物袋を持っている。中身はカップラーメンばかり。
    不思議そうにドリャを見るオビタ。やがて、あわてて近寄る。


オビタ「大丈夫ですか!?」


    オビタが揺さぶると、ドリャはゆっくりと目を開ける。


オビタ「大丈夫ですか? その、怪我しているんですか?」


    ゆっくりとドリャが力を振り絞るようにオビタへと近づく。
    ドリャの上体が起き上がり、片手がオビタに伸びる。
    心配そうにその手をとろうとするオビタ。
    しかし、ドリャの手はそのオビタの手をすり抜けて、オビタの額へと伸びる。
    そして、力一杯にオビタの額をわしづかみにした。


オビタ「いたたたたたたたーーーーーー」


    オビタが力尽きる。
    暗転


シーン1 はじめの夢


オビタ(声)「夢を見ていた」


    暗闇の中オビタの声が響き渡る。音楽。
    そして、スクリーンに文字。
    「時は2038年。」
    言葉とともに未来都市の映像が浮かぶ。
    「日本は再びア○リカに戦争を仕掛けていた。」
     日本の国旗とアメ○カの国旗のぶつかり合い。
    「そして」
    「敗北。」
     国旗が折れる。
    「今まさに日本が滅びようとしたそのとき」
    「一つの部隊が立ち上がる。」
     いくつもの影たちが立ち上がった。
     派手な音楽が鳴り響く。


そして、目覚め。



シーン2 そして現実


    舞台に照明がつく。
    部屋の中に向かい合わすように下手側にドリャ。上手側にオビタが座っている。
    オビタの部屋は窓が開いている。そして、机の上にはオビタの靴。
    どうやら、オビタはここから出入りをしているらしい。
    部屋の中には、オビタが買ったと思われる袋の中身(ラーメン)が散乱している。

    ドリャは炊飯器を抱いたまま座っている。
    オビタは体育座りのまま。どうやらオビタは寝ていたらしい。

    オビタが目を覚ます。


オビタ「ここは」

ドリャ「夢を見ていたようですね」

オビタ「夢を・・・そうか・・・夢か。変な夢だった」

ドリャ「夢は時に残酷なものですから」

オビタ「確かにそうかもしれない。日本で再び戦争が始まるなんて」

ドリャ「負け戦ですか」

オビタ「うん」

ドリャ「夢とはいえシビアなものですね」

オビタ「そうだね・・・って、君は誰!?」

ドリャ「え?(と、後ろを振り返る)」

オビタ「いや、君だよ君」

ドリャ「俺?」

オビタ「そう!」

ドリャ「え? まじで?」

オビタ「人の部屋で、なに勝手にくつろいでいるんだよ!」

ドリャ「おいおい〜そりゃないでしょうが」

オビタ「態度でかっ」

ドリャ「誰が家まで運んであげたと思っているのよ」

オビタ「家まで?」

ドリャ「そうですよ〜。気絶したあなたをここまでね。運ぶの大変だったんだから」

オビタ「気絶した僕を!?」

ドリャ「そう」

オビタ「ここまで!?」

ドリャ「そうだって。覚えてないの?」

オビタ「覚えて・・・る・・・なにか、青い物体を助けようとして・・・あ、頭が痛い」

ドリャ「(ごまかすほどにシリアスに)そこで敵に襲われたんです」

オビタ「敵!?」

ドリャ「今はここまでしか言えません。いずれ、お話出来るときが来るでしょう」

オビタ「君は、誰なんだ?」

ドリャ「これは申し遅れました。製造番号2001型、名はドリャ。
    まぁ、見てわかるとおり、お米の精霊です」

オビタ「精霊!?」

ドリャ「はい」

オビタ「製造番号あるのに!?」

ドリャ「常識ですよ。それともなんですか? こんな青いのに、お米もたける戦闘型アンドロイドだと、
    こうおっしゃりたいんですか?」

オビタ「いや、そんなことはおっしゃりたくないけど」

ドリャ「それはよかった。一つ命拾いしましたよノビ・オビタさん」

オビタ「なんで僕の名前を!?」

ドリャ「名前だけじゃないですよ。性別が男で人間であることもわかっています」

オビタ「それは見てわかるよ!」

ドリャ「さらに、年齢は17歳。現在父親と別居中の母親と二人暮し。
    高校二年生だが学校にはもう三ヶ月行っていない!」

オビタ「なぜそれを!?」

ドリャ「そして、あらあらこんなところにこんなものが!」


    いいながら、ドリャは青少年にはふさわしくない本を、オビタの布団から取り出す。
    オビタは慌てて本を奪い取る。


オビタ「これは別に、そう言う本じゃないから!」

ドリャ「そう言い訳する時点で、そう言う本だって言っているようなものですよ」

オビタ「うるさい! (本を再び布団の中に隠して)でも、なんでこんなことまで」

ドリャ「あんたのことは何でも知っています。俺の右手は・・・(と、右手を差し出し)
    恋人になるだけが脳じゃないんですよ」

   
    と、意味深な台詞を言ってみたり。


オビタ「というと?」

ドリャ「説明しよう!」


    途端、ドリャにスポットが集中。


ドリャ「製造番号2001型、コードネーム『青い彗星』の右手には強力な他者分析機能が付いているのです」

オビタ「他者分析機能!?」

ドリャ「そう。これで触れると、どんな物体でも、その正体があっという間に分かってしまう
    と言う代物なのだ。ビックリだろう!?」

オビタ「……わぁお。ビックリ(全く無感動)」

ドリャ「せっかく人が思いっきり説明台詞で説明してやったというのに、その反応は信じてないね?」

オビタ「だって。あり得ないし」

ドリャ「あっそ」


    ドリャが合図をした途端、スポットは消える。元のオビタの部屋に。


ドリャ「じゃあ良いですよ。別に〜分かってもらいたいなんて思ってませんし〜」

オビタ「うわっ。何だその態度」

ドリャ「せっかく、『妖精にコードネームあるのかよ!』とか『青い彗星って、赤い彗星のパクリかよ!』
    とかつっこみ場所を色々用意して上げたのに、全く使わないんだもんなぁ。(オビタを見て)
    この、つっこみ下手!」

オビタ「なっ」

ドリャ「(と、ふと観客に向いて)ちなみに、『俺の右手は恋人になるだけが脳じゃないんですよ』って
    台詞の意味が分からない子は、お父さんに聞いてみよう♪ きっと、怒られるからね」

オビタ「誰に話しているんだよ! 誰に! てか、出てけ! 今すぐ僕の部屋から!」

ドリャ「いやぁ」

オビタ「いやぁじゃない」

ドリャ「でもね」

オビタ「でもねじゃない」

ドリャ「そういうわけにも行かないんです」

オビタ「出て行かないと警察呼ぶぞ!」

ドリャ「実は、俺今追われているんですよ」

オビタ「え?」


    二人の会話を盗み聞きするように、窓に人影が現れる。
    それはネズオ。どうやら、ドリャを追ってきたらしい。
    その人影には気づかずに、ドリャは話し続ける。


ドリャ「だから警察にはいけません。以上」

オビタ「いや、意味わからないから」

ドリャ「オビタ〜意外と鈍いぞ」

オビタ「なれなれしく呼ぶな!」

ドリャ「仕方ないなぁ。俺のことは、ドリャ様って呼んでいいから」

オビタ「誰が呼ぶか!」

ドリャ「え〜。なんだよ。呼んでくれないのかよ」

オビタ「いいから説明しろよ! 何で追われているんだよ!? なんで僕の部屋なんだ!? 
    なんで青いんだよ!? そして、その炊飯器は何だ!?」

ドリャ「そんな一度に聞かれても困っちゃうわ」

オビタ「怖っ・・・じゃあ、まずその炊飯器は?」

ドリャ「ばかだなぁ。炊飯器はお米を炊くものでしょう?」

オビタ「だから、なんでもっているのかって聞いているんだって!」

ドリャ「お米をたくのかな?」

オビタ「僕に聞くな!」


    と、チャイムの音がする。



シーン3 突然の訪問客


    「はーい」という、ママの声。そして「オビタなら、部屋にいますよ」という声がする。
    オビタは耳をすませている。
    間


ドリャ「誰か来たみたいだな」

オビタ「ああ」

ドリャ「もしかして、これか?(と、親指を見せる)・・・・って、そっちの指かーーい」

オビタ「・・・・」

ドリャ「つっこめよ! 切ないだろ!」


ママ(声)「いいから、あがって頂戴〜。どうせ、あの子部屋にいるんだから」


オビタ「またママが余計なことを・・・」

ドリャ「なに? あれ、お前のママの声なの? 若いなぁ。てか、その年でママかよ。さてはマザコンか?」

オビタ「うるさいな。ちょっとは黙っていてくれよ!」


    ドアの向こうにシスカがやってくる。
    小さくノックする音にオビタは震える。


シスカ「オビタさん?」

オビタ「!」

シスカ「オビタさん・・いるんでしょう?」

ドリャ「(小声で)どうしたんだよ、返事してやれよ」

オビタ「(小声で)黙れよ!」

シスカ「今日はね。英語とライティングがあったでしょ? だから結構つらかったんだぁ。
     ・・・・それに、もうすぐ文化祭でしょ? だから今のうちに授業進めておくんだって、
     先生たちみんなはりきっちゃってさ。もう大変だよ・・・
     そうそう! 数学の授業で宿題が出たんだよ。提出は来週の月曜日だって。プリントだから、
     一応オビタさんの分も持ってきたの。・・・もしかして、寝ちゃってる?」

オビタ「・・・・・」

ドリャ「おい、なんで返事をしないんだよ」

オビタ「うるさい。黙ってろ」

ドリャ「友達なんじゃないのか?」

オビタ「違うよ。」

ドリャ「でも、あ、彼女か?」

オビタ「そんなんじゃない!」

シスカ「そっか。寝ちゃってるんだよね」


    と、ドリャの顔が急にシリアスに変わる。
    そして、雰囲気の重い曲が流れる。


ドリャ「そうか。じゃあ、敵か」

オビタ「え?」

シスカ「プリント。ここ置いとくね?」

ドリャ「じゃあ、俺が助けてやらないとな」

オビタ「なに言ってるんだよ」

シスカ「また、くるから」

ドリャ「もう、来ないようにしてやるよ」

オビタ「どういう意味だよ」

シスカ「じゃあ、また明日ね」

ドリャ「明日なんて、ないってことさ」

オビタ「何する気だよ!?」

ドリャ「炊飯波動砲さ」

シスカ「ばいばい。オビタさん」


    シスカがドアから離れると同時に、ドリャが炊飯器をドアに向けて構える。
    うなる音とともに、光が当たりに広がる。


ドリャ 「発射!」

オビタ「やめろおおおおおおおおお」


    すさまじい光とともに、音があたりに広がっていく。
    そして暗転。



シーン4 そして夢


オビタ「夢を見ていた」


    オビタの言葉とともに、照明がつく。
    見ると、オビタの部屋なのだが、ドアは開けたままになっている。
    と、座り込むオビタの元へシスカがやってくる。
    シスカは、肩に銃器を背負っている。
    さらに、手にも銃器を持っている。


シスカ「オビタさん」

オビタ「シスカちゃん死んでなかったの!?」

シスカ「何を言っているの?」

オビタ「だって、今波動砲で・・・あれ? あの青いのは?」

シスカ「馬鹿な夢を見ていないの! 今はそんな状況じゃないでしょ!」

オビタ「今?」

シスカ「敵はすぐそこまで迫ってきているわ。オビタ君も武器を持ってないと」

オビタ「敵?」

シスカ「あいつらに決まっているでしょ!?」

オビタ「あいつらって・・・」


    突如、シスカはオビタにびんたをする。


オビタ「何を」

シスカ「しっかりしてよ、オビタさん。戦わなきゃいけないのは兵士だけじゃないんだって、
    昨日あれだけ皆で話し合ったでしょ」

オビタ「皆で・・・昨日・・・そうだったかな。皆で、決めたんだっけ」

シスカ「そうよ。この国の平和は、私たち皆で守らなくちゃいけないんだから」

オビタ「だからシスカちゃんも?」

シスカ「ええ。私も、戦うの」

オビタ「そんな!? 死んじゃうよ!」

シスカ「何もしなければ、同じことよ」

オビタ「降伏すればやつらだって」

シスカ「オビタさん! ・・・本当にそうおもっているの?」

オビタ「・・・・」

シスカ「・・・私、行くね」


    シスカは去ろうとする。
    動けないオビタ。
    が、シスカは途中で立ち止まる。


シスカ「私ね。オビタさんが好き」

オビタ「え――」

シスカ「こんな時にって思うかもしれないけど・・・こんな時にしか言えないから」

オビタ「それって・・・どういう?」

シスカ「オビタさんの弱い部分も、醜い部分も知っているけど・・・それでも、私、オビタさんが好き」

オビタ「シスカちゃん・・・」

シスカ「オビタさんと一緒に・・・生きたかったな」

オビタ「・・・僕も・・・僕も! その、シスカちゃん、僕も・・・」

シスカ「・・・うん。わかってる」

オビタ「僕も」

シスカ「私と一緒に戦ってくれる? この国を守るために」

オビタ「僕は・・・」


    シスカが、ドアの向こうに立つ。
    手に持っていた銃を差し出す。
    オビタが数歩シスカに近づく。


オビタ「僕は・・・シスカちゃん、僕は、君が」

シスカ「うん」

オビタ「でも、僕は」

シスカ「さぁ」

オビタ「僕は・・・無理だよ」


    ドアを越せずにオビタは立ち止まる。


シスカ「やっぱりね」


    うつむくオビタを向いたまま、シスカは去っていく。


オビタ「僕は・・・僕は・・・」


    オビタはひざをついてうつむく。
    砂嵐音。
    映像が、だんだんと途切れるようにあたりの雰囲気が変わっていく。



シーン5 そして現実


    ドアからドリャがやってくる。


ドリャ「いやぁ、全自動じゃないって不便だよね。なにあれ? あれが洋式ってやつなの? 
    いやぁ、びっくりびっくり」


    ドリャはドアを無造作に閉めると、また元の位置に座る。


ドリャ「また、寝ていたのかい?」

オビタ「・・・それが僕の特技だからね」

ドリャ「0.1秒で眠りにつくのがか」

オビタ「いや、0.05秒だよ。枕があればもっと早い」

ドリャ「才能だね。それは。・・・いい夢、見れた?」

オビタ「戦っていたよ。何かと」

ドリャ「へぇ」

オビタ「シスカちゃんも、戦っていた」

ドリャ「さっきの子か」

オビタ「僕だけ、逃げていたよ」

ドリャ「夢とは本当に残酷だ。寝ているときくらい、スーパーマンでもいいのに」

オビタ「どっちが夢なんだ?」

ドリャ「なにが?」

オビタ「彼女がいる世界と、彼女を、君が消してしまった世界は」

ドリャ「俺の波動砲はすごいだろう? ドアは無傷なのに、彼女は消滅」

オビタ「服も、残っていたな」

ドリャ「ああ。生命エネルギーだけ消し去るからね。下着もあったよ? 流さないほうがよかったか?」

オビタ「なんに、使うんだよそんなもの」

ドリャ「かぶるとか?」

オビタ「出てけよ! ここからさっさと出て行け!」

ドリャ「大丈夫だ。この国はまだ法治国家だろう? 死体が出てこなきゃ殺人罪にはならないさ」

オビタ「人が一人死んだんだぞ!」

ドリャ「別に彼女でもないんだろ?」

オビタ「! だけど」

ドリャ「友達でもない」

オビタ「だけど」

ドリャ「じゃあ、問題ないじゃないか。なに怒っているんだよ」

オビタ「おかしいよお前」

ドリャ「そりゃ、精霊ですから」

オビタ「なにやって追われているんだよ」

ドリャ「何が?」

オビタ「さっき言っていたろ? 追われているって」

ドリャ「そんな事いったっけ?」

オビタ「言えよ、何で追われているんだよ!」

ドリャ「おい、そんな熱くなるなよ。クールに行こうぜ」

オビタ「だまれ!!!」


    飛び掛るオビタ。
    しかし、ドリャはあっけなくオビタを離し、その場に転がす。


ドリャ「なんだよ。やればできるじゃないか」

オビタ「なにがだよ」

ドリャ「なんで、銃を取らなかった」

オビタ「どうしてそれを!?」

ドリャ「答えろ。何で銃を取らなかった!?」


    緊迫する間。それを壊すように、ママの声がする。



シーン6 そしてママ


ママ(声)「オビちゃん? なにか音がしたけど、どうしたの?」

オビタ「なんでもないよママ!」


    ママ登場。
    ドアの前で心配そうにしている。
    ドリャはしらけた顔で離れて座る。


ママ 「さっきからどたばたして。・・・シスカちゃん、もう帰ったんでしょ?」

オビタ「帰ったよ! 帰ったからあっちいけよ」

ママ 「そのわりにずいぶんドタバタしていたわよ・・・シスカちゃんとケンカしたの?」

オビタ「してないって! だから帰ったんだよ! シスカちゃんは」

ママ 「でもママ、玄関で靴見つけちゃったんだけど」


    得意そうなママ。靴を自慢げに差し出す。
    はっとするオビタとドリャ。ドリャは炊飯器を掲げる。


オビタ「やめろ!」

ドリャ「ばか。このままじゃ騒ぎがでかくなるだろ」

ママ 「やっぱり、いるんでしょ。シスカちゃん」

オビタ「いないって! (ドリャに)ママに何もするんじゃないぞ!」

ママ 「馬鹿おっしゃい。靴忘れて帰るわけないでしょ」

オビタ「その靴、たぶん僕のじゃないかな」

ママ 「オビちゃんのはちゃんとあったわよ。いいじゃない。
    べつにオビちゃんがシスカちゃんとママには言えないことの真っ最中だとしても、
    ママ、別に何も言わないわよ」

オビタ「言わないなら、さっさとどっかに行ってくれよ!」

ママ 「でも、ちょっとだけご挨拶したいかもなーなんて思ったり」

オビタ「頼むから思わないでよ!」

ママ 「いいじゃない。減るものじゃないし」

オビタ「ママの寿命が減っちゃうよ!」

ママ 「なにわけわからないこと言ってるのよ」

ドリャ「入れるなよオビタ。入れたら終わりだ」

オビタ「ママ! 入っちゃだめだ!」

ママ 「なーんてね。オビちゃんっ鍵かけてるんだから、ママは入れるわけないじゃない」

オビタ「あ、そうだった・・・よかった・・・」

ママ 「(ドアに手をかけて)あら? 鍵かかってないわ」

オビタ「ママ!」

ドリャ「終わりだ」

オビタ「やめろ!!」


    ママがドアを開ける。
    目と目が合うママとドリャ。
    と、ドリャがつぶやく。


ドリャ「美しい」

オビタ「へ?」


    なんかわざとらしい恋の音楽かかっちゃったり。


ママ 「あら、ごめんなさい。シスカちゃんじゃなかったのね」


    ドリャはゆっくりとママに近づき


ドリャ「はじめまして。オビタ君のお友達で製造番号2001型、ドリャと言います。
    見てのとおり、お米の精霊なんてものをやっております」

ママ 「はあ」

ドリャ「どうですか。これから、僕と一緒にお粥でも?」

ママ 「いえ、結構です。(と、部屋の中に入りつつ)オビタの、お友達さんなんですか?」

ドリャ「はい。そうです」

ママ 「そうなの・・・オビタとはその、仲良くやっていただいているんですか?」

ドリャ「はい。それはもう」

ママ 「そうですか。(オビタに)オビちゃん。お友達が入っているならそういってくれなくちゃ。
     ママ、恥ずかしい事言っちゃって。本当恥ずかしいわ。(ドリャに)どうぞごゆっくり。オホホ」

ドリャ「はい。ありがとうございます」

ママ 「でも、シスカちゃんどこいったんでしょう?」

オビタ「この部屋にはいないって言ったろう?」

ママ 「わかりましたよ。トイレかしらねぇ」


    ママはそういい残すと、去っていく。
    ほっとして崩れ落ちるオビタ。



シーン7 去った後


ドリャ「いやぁ、お前のママ、若いなぁ」

オビタ「そうか? もう40過ぎだと思うけど」

ドリャ「40? なら十分射程距離だって」

オビタ「射程・・・・なんだって?」

ドリャ「……パパって呼んでもいいんだぜ?」

オビタ「誰が呼ぶか! パパはちゃんといるよ」

ドリャ「どうせ離婚秒読みだろ?」

オビタ「そうだけど」

ドリャ「もったいない。俺が人間ならほっておかないけどねぇ」

オビタ「仕方ないよ。・・・パパは仕事のほうが大事なんだから」

ドリャ「それで息子は引きこもりってわけか。いやだねぇ、典型的な壊れた家庭って」

オビタ「放っておいてくれよ。あんたには、関係ないんだから」

ドリャ「それで?」

オビタ「なんだよ、それでって」

ドリャ「関係のあるお前は何をしたんだ?」

オビタ「僕が?」

ドリャ「お前は関係あるんだろう? それで、何をしたんだよ?」

オビタ「僕は・・・」

ドリャ「関係ある人間に何もできなきゃ、何も変りはしないんだぜ」

オビタ「うるさい! なんだよ。あんたになにがわかるって言うんだ」

ドリャ「何も」

オビタ「だったらいいだろう? 僕の家がどうなったって」


    間


ドリャ「でも、お前は俺を助けようとしてくれたろう?」

オビタ「あんたを・・・?」

ドリャ「倒れていた俺に、『大丈夫か』って言ってくれたろう?」

オビタ「それは・・・あんたが死にそうに見えたから」

ドリャ「見ず知らずの俺なのに」

オビタ「炊飯器手に倒れているやつなんて、見たの初めてだったから」

ドリャ「いかにも怪しげな格好だったのに」

オビタ「どうにかしていたんだよ! あの時は」

ドリャ「じゃあ、どうにかなっちゃえばいいじゃんかよ」

オビタ「・・・・・・」

ドリャ「どうにかなって、どうにかしちゃえよ」

オビタ「できないよ」

ドリャ「ここから出てさ。ママに言えばいいじゃんかよ。『出たよ』って」

オビタ「できないよ!」

ドリャ「買い物にはいけるのにか? 窓から出て。袋いっぱいにラーメン買って」

オビタ「それとこれとは違うよ!」

ドリャ「何が違う? どこが違うんだ」

オビタ「もういいから帰ってくれ! 頼むから僕の邪魔をしないでくれ!」

ドリャ「オビタ! いい加減目を覚ませよ。夢の中に逃げないで、現実に目を向けろ!」

オビタ「いやだ! 帰れ! 帰ってくれ!」

ドリャ「オビタ!」


    間


オビタ「……何をして良いか分からないんだ……このドアの向こうで。毎日が長すぎて、
    いつもただ途方にくれるしかないんだ。何をしても駄目で。僕なんて何をやっても意味がないんだ。
    僕がいる意味すらまるでなくて……だから、僕は決めたんだ。ここにいようって。
    このドアが守ってくれるから……だから、もうほうっておいてくれよ」

ドリャ「だからドアに鍵をかけて。眠っているのか。夜をただ待って」

オビタ「一日が終われば、僕は動けるんだよ。……そんなどうしようもない人間なんだ僕は。
     ……そんな僕に、何ができるって言うんだよ!」



シーン8 戦争のにおい


シャイ(声)「何もできないだろうな」

ドリャ 「!」


    ドリャとオビタが思わず声がしたほうを見る。
    そこは窓。シャイアンが窓から顔だけをのぞかせる。


ドリャ「シャイアン総督・・・」

シャイ「探したよ2001いや、探らせてもらったよと言ったほうが正しいかな? 君の目的はよくわかった。
    しかし、それは君の仕事ではない。第一、君にできないだろう? 兵器に人生相談役は」


    言いながらシャイアンは部屋の中に入ってくる。
    ふと、周りを見渡し。


シャイ「久しぶりだな。監視カメラの一個もない部屋へとはいるのは。……嬉しいことだが、少し寂しい」

オビタ「なんなんだよ、あんたは」

ネズオ「口の聴き方に慎みたまえ」


    今度はネズオが窓から顔を出す。


ドリャ「博士まで・・・」

ネズオ「また会えてうれしいですよ。2001型君。君にぶつけられたご飯粒がほら、
     まだ私の頬にくっついている」

ドリャ「はじめから、ばれていたのか」

ネズオ「当たり前です。一体何が目的なのか分からないため、見学させていただきましたがね。
     君のような性能に恵まれた者が引きこもりの相談役とは……情けない」


    ドリャはオビタを守るように上手へと後退する。
    シャイアンに被るようにネズオ。


オビタ「なんなんだよ。なんなんだよ、あんたらは」

ドリャ「オビタ。・・・悪いけど、すこし黙っていてくれ」

ネズオ「2001型。一応誉めておきましょう。民間人の家に逃げるとはなかなか面白い行動でした。
     しかし、君の行動など、このドクター・ネズオの手にかかればすぐにでも」

シャイ「博士」

ネズオ「は」

シャイ「少し、私にかぶりすぎだ。後退したまえ。私は恥ずかしがりやだが、人に被られるのは嫌いだ」

ネズオ「失礼しました(下がりながら)君の行動など
     ドクター・ネズオの手にかかればすぐにでもわかってしまうのだよ。すべては」

シャイ「博士」

ネズオ「は?」

シャイ「まだ少しかぶっている。後退したまえ」

ネズオ「は」


    ネズオは窓枠に乗っかる。


ネズオ「すべては」

シャイ「博士」

ネズオ「は?」

シャイ「下がりたまえ」

ネズオ「これ以上下がると、私窓から落ちることになりますが?」

シャイ「それがどうかしたかね?」

ネズオ「・・・かしこまりました。では、2001型君。後で会おう」


    ネズオはそのまま窓の向こうに消える。


シャイ「さて、2001覚悟はできているね?」

ドリャ「見逃しては・・・もらえないだろうね」

シャイ「だから私が来たのだ」

ドリャ「そうか・・・じゃあ、仕方がないな(といいつつ、炊飯器からしゃもじを出し)
    おっと、動かないでくれよ総督。こいつの威力は、知っているだろう?」

シャイ「しゃもじ型爆弾か」

オビタ「爆弾!?」

ドリャ「こいつを食らえば、いくらあんただって無傷じゃすまないぜ」

オビタ「待てよ、そんなの食らったらこの家だって」

シャイ「自爆・・・か」

ドリャ「このまま帰るなら無傷だ。悪い相談じゃないだろう?」

オビタ「巻き添え食らわすきかよ!」

シャイ「なるほど考えたな・・・博士」

ネズオ「はいよ」


    ネズオは窓枠に乗りシャイアンに銃器を渡す。


シャイ「君は要らない」


    ネズオ、シャイアンに窓の向こうに落とされる。


ドリャ「そんな銃で勝てると思うなよ」

シャイ「どうかな」


    シャイアンはおもむろに銃を向けると、ぶっ放す。
    鋭い音ともに、しゃもじが部屋の端にとんだ。
    (銃声と共に、ドリャが投げるなどして、いかにも撃たれて飛んだという雰囲気を演出)


オビタ「ひい!?」

シャイ「お前が投げなければ爆発しないのだろう? それは」

ドリャ「くっ・・・だけど、弾は一つじゃねえ!」


    ドリャは炊飯器からしゃもじを二つ取り出す。


オビタ「何個入っているんだよ!」

ドリャ「突っ込みを入れるのは、こいつを倒してからだ」

シャイ「ほほう? 私に勝てると思っているのか?」


    シャイアンが再び銃を撃つ。しかし、今度はドリャがしゃもじで弾をはじく音が響く。


シャイ「見えているというのか・・・」

ドリャ「簡単に勝てると思っていたんじゃないのか? 顔が青いぜ」

シャイ「こしゃくな」


   激しい銃の音と、それをはじく音が響き渡る。
   オビタは一人ひざを抱える。


オビタ「なんでだよ。なんで、こんなことになるんだ。もう、やめてくれよ・・・やめてくれよ・・・いやだ・・・・
    現実なんて・・・いやだ!!!」


   叫びとともに、辺りが血に染まる。



シーン9 そしてまた夢


オビタ「夢、を見ていた」


   途端、動いていたドリャはだらりとなり、
   シャイアンは銃器を手に笑い声を上げる。
   そして、笑いながら窓から去ろうとし、崩れ落ちる。
   ドリャの右手がまっすぐシャイアンを向いていた。そして、再びドリャはだらりとなる。


オビタ「ここは・・・ドリャ? ・・・死んでる? なんだ? ここは・・・どこ・・・」

シスカ「オビタさん!」


   シスカが現れる。


シスカ「だめ! ここはもうだめよ。オビタさん! 逃げて」

オビタ「シスカちゃん!」


   と、銃声が響き渡る。
   シスカが倒れる。


オビタ「シスカちゃん!」


   駆け寄るオビタはシスカを抱き寄せる。


シスカ「ごめんね・・・・一緒に、生きられないみたい」

オビタ「しゃべっちゃだめだよ」

シスカ「私、じゃやっぱり勝てないみたい」

オビタ「ダメだよ。ダメだよシスカちゃん」

シスカ「もう、ここまで、かな」

オビタ「やだよ。死んじゃダメだ!」

シスカ「きっと、こうなる運命だったのよ」

オビタ「僕も、僕も一緒に戦うから」

シスカ「もういいの。・・・オビタさんは、逃げて」

オビタ「どこに?」

シスカ「どこか、遠く・・・誰もいない場所・・・そしたらきっと・・・」

オビタ「きっと・・・?」

シスカ「きっと・・・・大丈夫、だから」

オビタ「そんなところで、なにをすればいいんだ?」

シスカ「・・・・」

オビタ「シスカちゃん!」

シスカ「じゃあ、あなたは何をしているの?」

オビタ「!」


    シスカが死ぬ。
    オビタは、自分の手の中でぬくもりが消えていくのを信じられないように見守る。


オビタ「うわああああああああああああ」


    思わず叫んだオビタは拒否するように頭を振る。
    周りの光景が徐々に赤く燃え上がっていく。
    オビタの台詞と共に、溶暗。


オビタ「夢を見ていた・・・夢だといいなと願いながら・・・夢だと、
    頭のどこかで思いながら・・・・・夢を見ているだけだった・・・
    いつか覚めると信じて・・・・現実さえも・・・夢にしていたんだ」



シーン10 夢の終わり


オビタ「うわああああああああ」


    明るくなった場所は、いつもの部屋の中どおり。
    閉じたドア。散乱したラーメン。誰かを抱くようにポーズをとったままのオビタ。
    そして、下手にはドリャ。
    ドリャは、シーン2とまったく同じのポーズをとっている。


オビタ「・・・ここは」

ドリャ「夢を見ていたようですね」

オビタ「夢を・・・そうか・・・夢か」

ドリャ「言ったでしょう? 夢は時に残酷なものです」

オビタ「うん・・・まだ、熱が残ってる」

ドリャ「・・・何もしなければそうなるんだ」

オビタ「え――?」

ドリャ「逃げてるばかりじゃ、いずれ夢が現実になる」

オビタ「・・・何ができるんだよ」

ドリャ「さぁ」

オビタ「何をすればいいんだよ? 僕なんかが」

ドリャ「・・・とりあえず、米食えよ。ラーメンばかりじゃ、力でないぜ」

オビタ「・・・余計なお世話だって」

ドリャ「馬鹿だな。米は日本人の宝だぞ。だから俺みたいな精霊が生まれるんだ」

オビタ「型番のある精霊なんているのかよ」

ドリャ「いるよ」

オビタ「軍に追われている精霊もか?」

ドリャ「それは、な。夢だ」

オビタ「夢?」

ドリャ「事実だけどな。夢だ」

オビタ「お前、なんなんだよ?」

ドリャ「この姿見て、わからないのか?」

オビタ「わからないよ」

ドリャ「未来から来たお助けロボだよ。当たり前だろ? ただいま、タイムパトロール隊に追われ中だ」

オビタ「その格好でお助けロボかよ。説得力ねえな」

ドリャ「でも、力出たろ?」

オビタ「・・・ああ」


    と、チャイムの音がする。

    「はーい」という、ママの声。そして「オビタなら、部屋にいますよ」という声がする。
    オビタは耳をすませている。


ドリャ「誰か来たみたいだな」

オビタ「まさか・・・そんな」

ドリャ「言っただろう? 『俺の右手は恋人になるだけじゃない』って」

オビタ「・・・どこまでが、夢だったんだ?」


ママ(声)「いいから、あがって頂戴〜。どうせ、あの子部屋にいるんだから」


ドリャ「さあ。それは、お前が決めな」

オビタ「僕は・・・どうすればいい?」

ドリャ「ドア開けて、外出ろよ。そして、米くいな」

オビタ「もう、助けてくれないのかよ」

ドリャ「俺には、四次元ポケットないからな」

オビタ「・・・一緒に出てくれないか?」

ドリャ「やなこった」

オビタ「怖いんだよ」

ドリャ「知るか」

オビタ「冷たいやつだな」

ドリャ「女を見殺しにするやつに言われたくないね」

オビタ「・・・それは夢の話だろ」

ドリャ「どうだか」

オビタ「夢の話さ」

ドリャ「さあね」

オビタ「・・・・行くよ」

ドリャ「ああ」


    オビタはドアを開ける。


オビタ「行ってきます」


    そして、去っていく。
    ゆっくりと、ドリャが立ち上がる。
    その背に、血の跡がある。


ドリャ 「これで、借りは返したからな」


    ふと、窓の外を見て


ドリャ 「総督、あんたもなかなかだったぜ」


    ゆっくりとドアに向かって腰を下ろし、炊飯器を抱く。


ドリャ 「さあて、米でもたくか・・・」


    炊飯器を開けたその顔がゆっくりとうつむいていく。
    声が聞こえる。


オビタ「シスカちゃん!」

シスカ「オビタさん!部屋から出たのね?」

ママ 「なんですかオビちゃんそんな格好で!」

シスカ「おばさん、今はそんな場合じゃないですよ」


    シスカの声。ママの声。そして、オビタの声。
    楽しそうな笑い声の中、溶暗。