〇〇デレラ (読む時は「んーーでれら」あるいは「でれら」)    作 楽静 [登場人物] 語り    物語のあらましを語る バトラー  家令 苦労人 燕尾服。 女1 長女 少しきつめな性格。派手なドレス。 女2 次女 少し病みがちな性格 やや派手なドレス。 女3 三女 おとなしい性格 地味な服。 ※この物語は「シンデレラ」を元にしつつ、 「ドレスは着たいけど、恋愛は嫌だ」「とにかく一人で語りたい」 「燕尾服着たい」という希望に沿ったコント芝居となっている。 ※語りとバトラーを兼ねても良い。その場合、最後の語りの台詞の「彼」を一人称に変える。     幕が開く前に語りがやってきて物語を語りだす。(バトラーと兼ねても良い) 語り それは遠いようで、近いような昔。ここ、とある王国の国王の息子である王子はそれはもうたいそうなイケメンでございました! その面(つら)の、失礼。その見た目の麗しさ、また国王の一人息子であることから、それはもうモテにモテて、「末はハレムか、大奥か」とまで言われたとか言われないとか! ……ところが子供の頃にモテるものほど年頃になると少し歪んでしまうもので、王子はいい年になっても婚約者を作ろうとしなかったのです。(と、少し態度悪い男子風に)「別にぃ、なんかぁ。今じゃなくてもいいっつぅか。もっと俺にぃ、ふさわしい女がいるかもって感じ?」あれですね。人はなまじモテることを自覚してしまうと、「謙虚」という言葉を忘れるものですね。いいですか。今自分はモテてると自覚のある男子はよくお聞き下さい。モテ期というものはですね。いつか終わるんですよ! その時になって「(ちょっと気取って)俺にとって大事なのは誰か、やっとわかったよ」なんて言ってもね、遅いですからね! と、まあそれは置いておいて。王子の態度に周りは大慌てで女性を薦めます。「どこどこの姫様は美しいと評判ですよ!」とか「誰々様の娘様はそれはもう愛らしいんですよ」とか。でもそんな周囲に対して王子はと言うと(と、スマフォのようなものをいじるような動作をしつつ)「ふーん。あ、11連Sレア確定って言って一枚だけかよ?。最悪」こんな態度。ただでさえこの国、国王が愛妻家で、いやそれは良いんですよ。夫婦円満が一番ですからね。ただ、ちょっと嫉妬深くて息子である王子にもやきもちを焼くため、子供を作りたがらない。国王や王子に何かあったら一気に国が傾きかねない。ということで、周囲からの猛烈な後押しもあって前代未聞の、大大大舞踏会が行われることになったのでした!     華やかしい音楽。     語り部は踊るように動きながら話を続ける。 語り 三日三晩をかけ、国中の年頃で未婚の娘を招いて開かれた舞踏会。東西南北、町村集落(まちむらしゅうらく)関係なく。身分の上下もしらぬとばかりに呼ばれた娘の中、一人ぐらいは王子の目に留まる女性がいるはず。いやいてくれ頼むと周りは願う。王子はむろん強制参加。これで見つからねばこの国終わると誰もが期待と不安に震えたその始めの夜。国を救う救世主。王子の心を射止める女性は現れたのです。     音楽が消える。語り部は見えない少女を見つめる。 語り 退屈げに舞踏会を眺めていた王子は一人の少女に目を留めます。まばゆいドレスを身にまとい、不思議な輝きを持つガラスの靴を履いた少女。思わず椅子を立ち上がり、気がつくと王子は少女の前まで歩いていました。驚いた目で見る周囲には目もくれず、じっと少女だけを見、王子は驚きと戸惑いで固まる少女に手を差し出し、言いました。(と、王子のように手を差し伸ばす)「僕と踊ってくれませんか?」少女は短く答えます(と、少女になりきって)「はい」     音楽(「Shall we dance?」あるいは「Can I Have This Dance」でも) 語り 王子と少女のダンスは人々を魅了しました。少女は一日目は一度のダンスの後に帰り、二日目は数度のダンス。三日目は王子との食事まで楽しみ、周囲はようやく王子の相手が見つかったと胸を撫で下ろしたり、あの少女はどこの誰だと探りを入れたり。舞踏会は今日で終わり。王子は今日こそは彼女の身元を知ろうとしますが、時間を忘れて楽しんでいた事が仇となってしまったのか真夜中を告げる鐘の音が二人の仲を引き裂きます。     12時を告げる鐘の音が聞こえる。 語り 少女は慌て走り去り、呼び止めたくとも、王子は少女の名前も知らなかった事実に愕然とするのでした。周りのものにも頼み少女を探すものの、こつ然と消えてしまったかのように少女は見つかりません。少女は夢か幻だったのか。そんな不安を覚える中、お城の入口付近で少女が履いていたと思われる靴が見つかります。これは、3日間ダンスを踊り、共に話した少女の靴だと王子には確信がありました。舞踏会の熱が未だ残る城の中、愛する人を見つけるため、王子は無茶にしか思えない命令を下します。「国中の女性にこのガラスの靴を履かせよ!」と。さてさて。お目当ての少女はどこの、誰さんなのでしょうね?     音楽。     語りは頭を下げて去る。     幕が上がる。そこには一軒のお屋敷。あるいは屋敷に繋がるだろう門。     貴族ではあるものの、それほど裕福には見えない。     燕尾服を身にまとったバトラーがガラスの靴を掲げで王子の命令を告げる。  バトラー 舞踏会で殿下のお心を射止めた幸運な少女は、このガラスの靴を履いていたという! 殿下は少女との再会を望んでおられる。よって街に住む年頃で未婚の娘は全てこの靴を履くようにとの勅命である! この靴がピタリと足にあった者には応急にて、殿下へ拝謁の名誉を与えよう!     と、元気よく言い終わった途端、疲れ切った顔を見せてぼやく。 バトラー などと勢い良く少女を探したものの、簡単に見つかるわけもなく。後残る家はわずか。本当に見つかるんだろうか。えーすいません。こちらにこの靴が合う少女はおりませんか?     と、ドレス姿の少女がやって来る。白い手袋を両手にはめている。     利き手の逆の手の親指辺りが少し赤くなっている。 女1 はい! その靴は私の靴ですわ! バトラー うん。みんなそう言うんですよねぇ。 女1 随分と嘘をつく愚か者がいたみたいですね。お疲れさまです。でも、あなたも悪いんですよ? 当家にもう少し早く来てくれていれば、しなくてもいい苦労だったんですから。 バトラー かなり自信がおありのようですね。 女1 それはもちろん。この私(と、いったん溜めて)ツンデレラが、見事その靴を履いてみせましょう! バトラー ……ツンデレラ? 女1 私の名前が何か? バトラー いいえ。ただ何故か「試さずともわかる負けフラグ」という言葉が頭に浮かんできまして。とにかく靴を履いていただきましょうか。 女2 ちょっと待った! バトラー え?     と、女2がやってくる。ドレス姿。 女2 その人に靴を履かせても無駄。だって、その靴が合うのはこの私だからね! バトラー あなたは? 女2 王子様と結ばれる運命にあるのは、この私! ヤンデレラだから! バトラー どうしてだろう。全然運命を感じない。 女1 ヤンデレラ! あなたどうやってここに!? 女2 やっぱり部屋のドアを塞いだのはツンデレラ姉さんだったんだ? 女1 一体何を言っているのかわからないわね。 女2 とぼけても無駄! その手袋が赤く染まっているのが何よりの証拠だから! 女1 これは(と、とっさに手袋を片手で隠す) 女2 不器用なツンデレラ姉さんのことだから、どうせ扉に板を打ち付けている時に指を金槌にぶつけたんでしょう? 扉に打ち付けてあった木にも血がついていたからね。 女1 あれだけ頑丈に閉じ込めたのに、よく出てこれたこと。 女2 扉が開かないなら、蹴破ればいいだけだからね! 女1 あなたの足と靴が合うわけないでしょう? そのまま閉じこもっていればいいのに。 女2 その言葉、そっくりお返しするから! ツンデレラ姉さんこそ、無駄な恥はかかない方が良いんじゃない? サイズが合うわけないんだから。 女1 王子と結婚するのは、このツンデレラって決まっているの。 女2 結ばれる運命にあるのはこのヤンデレラだから。 バトラー あの、どちらでもいいので、まずは靴を履いてみてくれませんかね?     と、二人は顔を見合わせると靴を見る。 女1 どうせ合わないもの。あなたからどうぞ? 女2 姉さんからお先にどうぞ? 女1 履かないで脱落が決まるなんて可愛そうでしょう? 女2 その言葉もそっくりお返しするから。姉思いの妹で嬉しいでしょう? 女1 そう。じゃあ、試すことも出来ずに悔し涙を流せば? (と、バトラーに)靴を貸してくれる?     と、余裕たっぷりにツンデレラは靴を履こうとする。サイズが合わない。 女1 あら? バトラー あーやっぱりですか。 女1 ちょっとまって。こんなはず無いんだけど。なにこれ。なんでこんなちっちゃいの? バトラー はい。じゃあ靴は合わなかったということで。 女1 待って。そう! この靴を履いた時には踵がなかったの! 今、けずってくるわ。 バトラー そういうホラーなことは止めてください。普通に履けなかったら、靴の持ち主じゃないですから。 女2 (と、笑って)やっぱりね、運命は私の味方だから。ほら、諦めてどいてよ。 女1 こんな靴が履けないくらいで、王子の相手にふさわしくないって決められたくないんだけど。 バトラー そんなことは殿下へ言ってくださいよ。わりと無茶なことをしているってわかってるんですから。 女2 さあ、あたしの運命の人、今このヤンデレラがお側に参りますからね。(と、履こうとするが、サイズが合わない)……(と、無言で無理やり足を入れようとする) バトラー 待って待って! 壊れちゃう! そんな無理矢理詰め込もうとしないで! 女1 (と、笑って)あらあら?。どうやら運命じゃなかったみたいね? 女2 おかしい。あ、昨日お菓子食べ過ぎたから足がむくんじゃったんだ。 女1 一日の暴食で履けなくなる靴ってどんな靴よ。 女2 お二人とも履けないみたいですね。この家にはもう娘さんはおられないんですか?     と、二人は顔を見合わす。 同時に、 女1 いません。 女2 いるけど。 バトラー え? いるんですか? いないんですか? 同時に、 女1 いません。 女2 います。 女2 ツンデレラ姉さん。 女1 だって、あの子なわけ無いでしょ。時間の無駄よ。 女2 私もそう思うけど、でも、 バトラー いるんですか? いないんですか? 同時に、 女1 いますん。 女2 いますん。 バトラー あの、一応これは勅命なので。王家からの命令ですからね? 嘘をついて隠していたりすると処罰されてしまうかもしれませんよ? 女2 姉さん。 女1 ……今、連れてまいります。     と、ツンデレラが去る。 女2 (ぽつりと)姉さんったら、なんで隠しがったんだろう。 バトラー 嫉妬、からかもしれませんね。 女2 嫉妬? バトラー 妹が王子と結ばれて王宮に住むなんて羨ましい、とか。 女2 王宮に住む……あの子が? バトラ そんな良いものじゃないですけどね。王宮暮らしなんて。 女2 あの、その靴が足に合って、拝謁の許可をもらうってことは、王子様と結ばれるということ、なんですよね? バトラー こんな勅命は初めてですので私にはなんとも。ただ、 女2 ただ? バトラー 殿下はこの靴の持ち主に非常に心惹かれているとか。もしかしたら、そのままご婚約、お城での暮らしなんてこともありえるかと。 女2 お城暮らし、ですか? バトラー ええ。殿下のお相手となれば、次期王妃様でございますから。 女2 次期王妃!? バトラー 王となる殿下を支えるための教育も必要となりましょう。 女2 教育。 バトラー そうとなれば、そのままお城暮らしとなったほうが負担は少ないのではないでしょうか? 女2 あの子が、お城で暮らすかもしれないなんて。     と、女3がやって来る。女1、女2に比べるとどこかみすぼらしい格好。 女3 あの、私まだ洗濯物の取り込みが終わってないんですけど。 女1 どうせ靴が合わないで終わる話なんだから。すぐよすぐ。ほら、連れてきた。これでいいんでしょう? バトラー ありがとうございます。では、こちらの靴が足に合うかどうかお試しください。 女3 はあ。     と、女3が靴を試そうとする。     と、ガラスの靴を女2が取り上げる。 女2 駄目! 女1 ヤンデレラ? 女3 姉さん? 女2 うちには靴に合う子は誰もいませんでしたから。どうぞお帰りください。 バトラー あの、勅命なんですと申し上げましたよね?     と、男は靴を女2から取り返す。 女1 ヤンデレラ、急に何を言っているの? 女2 姉さんだって、この子はいないんだって言ってたからいいでしょ。 女1 でも、あんたが正直に「います」って教えたんじゃない。 女2 そうだけど。でも、だから、いいでしょ。試さなくったって。 バトラー そういうわけにもいかないんですよ。 女2 いません。うちに女の子はもういませんから。 バトラー そんな事言われても見えちゃってますから。 女2 見なかったことにしてください! バトラー そういうわけにはいかないんですよ。     と、女2は背中に女3を隠す。 女2 いいじゃない。この街には女の子は他にもいっぱいいるんだから。足のサイズだって同じ人が一人や二人きっといるはずでしょ? だから、この子じゃなくてもいいでしょう? 女1 ヤンデレラ。おちついて。どうせこの子も靴は合わないわよ。 女2 でも、もしあったら? サイズがピッタリあったら、お城に行って、王子様に会って。それで婚約なんてことになったら? お城に住むことになるんでしょ? 女1 それはそうかもしれないけど。 女2 あんなだだっ広いけどうす暗くて。夜遅くまでパーティなんてやってるから肌の色が悪くて。運動量も少なくてぽっちゃりなんて可愛く呼ぶのがためらわれる人たちに囲まれたら、妹が、この子が体を壊しちゃう! バトラー ん? え? そっち? 女1 だからあたしはいないって言ったのに。 女2 お城に住むかもしれないなんて考えなかったから。 バトラー あなた、王子を自分の運命の人だって言ってませんでした? 女2 王子様は憧れだから? あたしだったらお城でも耐えられるとは思うけど。でも、この子は王子様とか、パーティとか、全くこれっぽっちも興味がないんだから。今日のこの格好見ればわかるでしょ! バトラー あ、それ好きでやってるんですか? 女1 私達が妹に無理やりこんな格好をさせているとでも? バトラー いや、それはその。 女2 着替えるように言ったからね! 何度も何度も! 女3 この格好の方が楽なんで。外で歩いたり、人に会うわけじゃないし。 バトラー 今思い切り外で人に会ってますけどね。 女1 本当は可愛い格好も似合うと思うのよ。 女2 ただ、しないだけだから! 女3 面倒くさいんで。 女1 そんな一言で切り捨てられてばかり。 女2 この家の中ならそれも許されるからいいけど。でも、お城だったら? バトラー そりゃ、その格好で拝謁をするのは流石に……。 女3 えー。じゃあいいです。試さないで。 女1 こういう子なんです。 女2 ですからどうぞお帰りください! バトラー いや、こちらも、そういうわけにはいかないんですって! 勅命です。どうかご自身の運命を受け入れてください! 女2 そんな運命、いりませんから! 女1 ヤンデレラ。いい加減にしなさい。 女2 でも、ツンデレラ姉さん! こんなのって! 女1 命令だもの。仕方ないわ。 女2 だけど! 女3 姉さん。もういいよ。 女2 そんなの、だって…… 女3 もういいんだよ。あたし、覚悟は決めたから。 女2 (と、感極まり)クーデレラっ。 女3 あたしのために、ありがとう。 女1 クーデレラも、知らないうちにおとなになってたのね。 バトラー ……ん? あれ? 女3 (決死の覚悟っぽく)靴を、貸してください。 バトラー えっと、お名前をお聞きしても? 女3 クーデレラです。 女2 サイズが合いませんように!(と、祈っている) 姉さんも。 女1 サイズが合いませんように。(と、祈る) バトラー あ、うん。なんか祈る必要ないんじゃないかって、今何故か思いましたよ? どうぞ。(と、靴を差し出す) 女3 (と、足を入れ)合わない。 バトラー ですよね。     女1と女2は喜びをそれぞれ表現する。     女1は言葉にせずに。女2は声に出して、 女2 やったー! 女1 心配する必要はなかったみたいね。 女3 堅苦しい格好しなくてすんで良かった。 女2 もうちょっと着飾ってもいいと思うけど。 女3 絶対イヤ。 女1 まあいいじゃない。これからも3人一緒で。 女2 そうね! 女3 姉さんはちょっと焦ったほうがいいと思うけど。 女1 あ? なんか言った? 女3 なんでもない。 バトラー えっと、お幸せに。     3人の女が仲良くじゃれ合う中バトラーはガラスの靴を抱えトボトボ歩く。     語り部が現れる。 語り こうして仲良し三姉妹はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。あ、ちなみに彼はその次の次の家でガラスの靴がピッタリはまる少女を見つけることになります。     と、どこかで誰かに語るようにバトラーはガラスの靴を掲げている。 バトラー 大丈夫ですよ。殿下は少女との再会を望んでおられます。街に住む年頃の娘は全てこの靴を履くようにとの勅命です。着ている服は問題ありません。みすぼらしい服など見慣れましたとも。ええ本当に。それで、お嬢様のお名前は? 「シンデレラ」 ……なるほど。では、どうぞ。お試し下さい。     靴を置いて一歩下がる。     ガラスの靴に光が集る。バトラーは結果にようやく肩の荷が降りたと安堵の笑みを浮かべる。     ハッピーエンディングを思わせるような音楽がかかり、物語は終りとなる。 完