Fantasy in DOTORU
カブッテル?




登場人物

菅野 由美(スガノ ヨシミ)      16歳 勉強好きの女の子

菅野 由美(カンノ ユミ)       クラスで一番人気な女の子


十津川 玲奈(トツカワ レイナ)    ユミの友人

光寺院 百合子(コウジイン ユリコ) ユミの友人。


アクトーレ  魔法の国からやってきた♪ 人。

アヌランス  魔法の国の人。今は学校の先生をやっている。

ベラドンナ  なんだか知らないけどえらい人。

声 





    ここはドートル。コーヒーショップだったりする。
    中央奥にはドアがあり、そこが客を店の中へと入れる入り口。
    右手奥にはカウンターがある。
    カウンターには電話が置かれている。
    中央にはテーブルが二つ。
    なんだか薄暗い雰囲気が漂っているが、
    それはまだ客が独りもいないからだろう。

    と、静かにアクトーレがやってくる。
    時計を確認し、ぼんやりとしている。
    ふと、近くのコップを手にとって、拭いてみたり。
    他に店員の姿は無い。
    どうやら、相当暇なようだ。
    突如、アクトーレはマイクを取り出す。


アクト「ここがどこかって? お客さん、見て分からないんですか? 広々としたカウンター。
    店に並んだ食器達、漂う濃いコーヒーの薫り。そして、流れる音楽」


    と、アクトーレが指を鳴らす。途端、音楽が流れ出す。


アクト「そう、ここは、コーヒーショップ・ドートル。
    最高のコーヒーと音楽をお届けする、都会の中の癒し空間。それが、この店」


    アクトーレはにっこり微笑むと、音楽に合わせて軽くステップ。
    しばらく、踊りが続く。(無くても良い)
    
    と、電話の音が鳴る。
    カウンターに置いてある電話らしい。
    が、アクトーレが取ったのは携帯。
    退屈そうに電話を取って。


アクト「もしもし?」

ベラ声「デカビタ?(もしもし?)」


    電話口から聞こえてくる声に、
    一気にアクトーレの血の気が下がる。
    そして、口から飛び出したのは不思議な言葉。
    これは、魔法の国の言葉だと思ってくれて構わない。
    どうやら、それで意志が伝わるらしい。
    インチキ外国人のように会話が為される。
    ただし、感情は訳にあうように見せること。難しければジブリッシュでも構わない。


アクト「ああ、ベラドーナ、リポビターン(ああ、ベラドーナ様。お久しぶりです)」

ベラ声「アクトーレ パセリ?(アクトーレかしら?)」

アクト「ウシ、アクトーレ、カモハッシ。(ええ、アクトーレでございます。)

ベラ声「アユ解禁、ハッシュドビーフ(相変わらず、退屈そうね)」

アクト「ハッシュドビーフ? ハハハ、サラミ。(退屈そうだですって? ははは、とんでもない)」

ベラ声「メソポタミア、トルコベネチア?(お願いがあるのだけれど)」


    ベラドンナの声は、急速にフェイドアウトしていく。


アクト「ウシ、・・・テバ ミソヤキイターメ、カモハッシ? 
    ウシ、モンジャ、ベラドーナ、オミオツケ ゴハン。
    ・・・ウシ。・・・・・・ウシ。・・・チンジャーロース。メソポタミア、テバ アジシオコショウ。
    (訳・ええ、・・・またいつものお願い、でございますか? 
     ・・・ええ、そりゃ、ベラドーナ様のお申し出とあれば。
     ・・・はい。・・・・・・はい。・・・かしこまりました。それでは、またいつものように)」
    

    電話を切ったアクトーレは、どこか不適に微笑む。


アクト「カツテイショク・・・いや、忙しくなりそうだ」


    何事もなかったかのように、電話を置くと、
    コップを磨き始める。
    徐々に顔中に広がっていく笑みを、どうにかしておさえながら。




    突然騒がしくなり、
    ドアが舞台側に開く。飛び込んできたのは、スガノだった。
    女子校生姿に似合わない警戒の仕方で、
    スガノはドアを後ろ手に閉める。
    アクトーレは少し驚きながらも、とりあえずは挨拶を。


アクト「いらっしゃいませ」

スガノ「黙ってて」

アクト「はい」


    スガノはドアに背をつけ、真剣な顔で外をうかがう。
    やがて、ホットしたのか、表情が軽くなる。


スガノ「・・・よし。OK。ごめんなさい。あの、いきなり飛び込んできて変なこと云っちゃって」

アクト「いえいえ、あの、なにか」

十津川「(袖から)スガノ〜、どこだぁ」

光寺院「スガノさん〜 どこ〜」

スガノ「黙ってて」

アクト「はい」


    スガノはドアから外を見る。
    と、目があったらしい、慌てて背を向けるが、もう遅い。
    嫌々と首を振るスガノごとドアを開けようとするように、
    スガノの後ろのドアがばたばたなる。


十津川「スガノ、さん。今ならあたし、怒ってないのよ?」

スガノ「怒ってる。絶対、怒ってるからその声」

光寺院「別に、私たち、どうこうしようって気持ち、まるでないしぃ」

スガノ「ある、絶対に、あるに決まってる」

十津川「あけて、スガノさん」

スガノ「ヤダ」

十津川「あけろよ、こらぁ」

光寺院「ぶっ殺すぞ、われ」

スガノ「やっぱり、めちゃくちゃ怒ってるじゃん」

アクト「あの、お客様、一応それ、うちの店の物ですので」

スガノ「外野は黙ってて」

アクト「はい」

十津川「しょうがない。光ちゃん、最後の手段」

光寺院「OK、十津川」

スガノ「?」


    一瞬、ドアを押していた力が止む。
    ふと、不思議そうに首を傾げるスガノ。
    途端、ドアが外側に開いた。引っ張られるように、
    スガノは倒れ込む。


スガノ「そんな馬鹿な!?」

十津川「イエーイ。勝利〜」

光寺院「私たちに、勝とうなんて、十年早いですよ、スガノさん」


    言いながら入ってきたのは十津川と光寺院。
    なんと、2人とも、制服姿ではあるが、
    明らかにカツラと思われるような金髪のタテロールを装着。
    これは、カツラが重要なのであり、タテロールでなくても構わない。
    ただ、あまりにもコメディになってしまうような(ちょんまげ等)は、
    避けた方が無難だろう。


アクト「うわぁああ」


    アクトは思わずカウンターに隠れる。


十津川「さぁ」

光寺院「さぁ」


十津川&光寺院「スガノさん!?」


スガノ「はい」

十津川「そろそろ、鬼ごっこは終わりにしよう?」

光寺院「いいかげん、こちらも疲れてきてしまいましたし」

スガノ「あ、じゃあ、今日はもう解散ね。はい、それでは鬼ごっこ部の今日の活動はおしまい。
    皆さん、家に帰るまでが鬼ごっこです。変質者に捕まらないよう、気をつけて帰りましょう」

十津川「待てや」

スガノ「やっぱり、だめ?」

十津川「当たり前だろ?」

光寺院「私たちには、判断しかねるんですけど、いい加減協調性というものを、
     出してみたらどうですの?もう、スガノさんだけなのよ?」


    話しながら、光寺院は退屈そうに近くの椅子に座ってみたり。


スガノ「だってさぁ」

十津川「一体何が気にくわないんだか、ちゃんとした理由を聞くまで、今日は返さないからね」

スガノ「ほら、体育の時とかね。・・・・むれるし」

光寺院「あら、べつにそんなこと無いわよ。通気性抜群だから」

スガノ「勉強中、気になって集中できないかなって」

十津川「馬鹿だなぁ。勉強嫌いのこのあたしが、こないだの模試で全国200番内に入れたのよ? 
     集中付きまくり。苦手科目もなくなるって」

スガノ「だったら、なんだ、その」

光寺院「見た目も凄くエレガントでしょ?」

十津川「美しさも確実に上がるんだってよ」

光寺院「そういえば、このごろ肌が乾燥しにくくなったの」

十津川「あたしなんて、気になっていたニキビが消えたんだ」

スガノ「だけど、その、それは・・・」

光寺院「それは?」

スガノ「だから、さぁ、なんというか」

十津川「ああ、もうはっきり言ってよ」

スガノ「だから・・・その」

光寺院「しかたないわね。十津川、こうなったら初めは無理矢理でも構わないでしょ?」

十津川「そうだな。試してみれば、すぐに病みつきになるって」

スガノ「いやぁああ。やめて。こっち来ないで〜」

光寺院「いいから、いいから」

十津川「お嬢さん、悪い風にはしないよ」

スガノ「いやぁあああ」

カンノ「そこまでにしておきましょう?」


    突然、声が響き渡る。
    ドアが自然に舞台側へと開くと、
    そこにはカンノが立っていた。
    制服姿に、当たり前のようにタテロールだったりする。


スガノ「ユミ、さん」

十津川「なんだよ、ユミ、遅かったな」

カンノ「ごめんね。ちょっと先生に呼び止められちゃって」

光寺院「でも、よくここが分かったわね」

カンノ「当たり前でしょ。あなた達のフェロモン、しっかり感じたから」

十津川「ユミ・・・」

カンノ「ちょっと、疲れちゃったけどね」

光寺院「ばか。本当、がんばりやさんなんですから」

十津川「感動させやがって。目から汗がでちまった」

スガノ「なんだよぉ。この世界。やばいよぉ」


    スガノ、云いながらカウンターまで後ずさり。
    と、アクトがひょこっと顔を覗かし。


アクト「貴方もそう思います?」

スガノ「うわぁあ。何、あんた!?」

アクト「一応、ここの店員です」


十津川「よし、じゃあ久しぶりに、あれ、やるかぁ」

光寺院「そうね。なんか、あたしも燃えて来ちゃった」

十津川「行くよ、ユミ」

カンノ「ええ、もちろんよ」


    と、いきなりハデな音楽が当たりに響く。


十津川「バスケで鍛えた足は学校一! 健脚の十津川」

カンノ「静かな微笑はクラスの花。美のカンノ」

光寺院「分析解析お手の物。智の光寺院」

十津川「三人そろって」


同時に
三人 「突貫工事」

    音楽が急速に消える。
    三人は、ポーズを取ったまま、その場にストップ。


アクト「うわぁあ・・・」

   
    再び、アクトーレはカウンターの中に逃げる。


十津川「決まった」

カンノ「久々なのに、あなた達ったら、全然衰えてないわね」

光寺院「当たり前でしょう? ユミだって、首の逸らし方、私、ぐっと来ましたわ」

十津川「(光寺院に)あんたも、指先がキュートだったよ」

カンノ「いいわね、やっぱり友達って」

十津川「おう」

光寺院「ええ」


    三人は、ひどくキラキラした目で、スガノを見る。


スガノ「・・・・えっと、帰っていい?」

十津川「何でこう、いい話しに水をさせるかなぁ?」

光寺院「せっかく、あたし達のお仲間にと思っていましたのに」

カンノ「仕方ないわよ。友情とは、孤独だからこそ美しい、のだから」

スガノ「いや、それ意味分からないし」

カンノ「どっちにしろ、スガノさんに無理矢理身につけさせたところで、似合わないでしょうしね」

十津川「ま、そりゃそうだけどさ」

光寺院「協調性の問題があるように思うんですけど」

カンノ「だって、スガノさんって元から協調性ないし」

スガノ「別に、好きで協調性がないわけじゃないけど」

十津川「オタクだしね」

光寺院「暗いですしね」

カンノ「だから、少しでも華やかになれるようにって、せっっっっっっっかく、
    心配して差し上げたんですけど、余計なお世話だったのなら、
    しかたないんじゃないかなーって、ユミ、思うんです」

スガノ「本当、余計なお世話だから」

十津川「なんだとぉ」

光寺院「人の心配を無にする子は、いけない子なのよ」

スガノ「だって、どう考えても変じゃん」

十津川「何が変なんだよ」

スガノ「何がって、それよ」

光寺院「それって何のことですか?」

スガノ「だから、それよ」

カンノ「はっきり言ってくれないと、分からないわよ?」

スガノ「だから、その……その、ど派手なタテロールが変だって言ってるのよ!」


アヌラ「タテロールの悪口を言うのは、何処の子ですか!」


   突如響き渡る声と共に、音楽が広がっていく。
   重々しい、派手な音楽。
   そして、一人の女が姿を現す。どう見ても男だが。女の名はアヌランス。
   派手な衣装を白衣で隠し、髪はしっかりタテロール。
   なんだか、教師といわれれば、そう見えなくもないような
   風体ではあるが、どう考えても一般人には見えない。
   (この白衣というのは、高校の教師における女性教師の一部が、
    その服がチョークで汚れるのが嫌で着ている白衣、と言った感じ。
    別に、保険の先生だからではない)


生徒達「アヌランス先生!」


   十津川、カンノ、光寺院は、アヌランスの姿を見て、
   まるで狂信者のように瞳を輝かす。
   が、スガノは苦虫をかみつぶしたような気持ちで、
   思わず隠れられそうな場所を探すのだった。


アヌラ「こーんにちわ、可愛い子たち。気のせいかしら? ここら辺で先生、あたくしの、
    ポリシー!が、馬鹿にされちゃうような声を聞いたような気がするんですけど」

アクト「何なんだ今日は……また変なのが……」

アヌラ「ああた!」

アクト「え! 俺!?」

アヌラ「ああた? あたくしの、ポリシー!を、馬鹿にしたのは」

アクト「いえ。滅相もないです」

アヌラ「じゃあ……ああた?(といって、再びアクトを指す)」

アクト「いや、だから俺じゃないって」

アヌラ「じゃあ……」

アクト「だから、こっちを見るな」

十津川「先生!」

アヌラ「あら?」

光寺院「先生の」

カンノ「悪口を言ったのは」

十津川「ここに」

三人 「います!」


    そう言って突貫工事三人組が指さしたのは、
    隠れる場所がないまま、隠れるフリをしていたスガノ


アヌラ「あら…………カンノさん」

カンノ「カンノはわたしです」

アヌラ「あら失礼。じゃあこっちは、スガノさん、だったわね?」

スガノ「…………お、おはようございます」

アヌラ「あら、スガノさん。あらあら、スガノさん、あらスガノさん」

スガノ「は、はい」

アヌラ「今は、放課後だから、挨拶だったらグッド・アフターヌーンでしょ?」

スガノ「はい、そうですね」

アヌラ「それで?」

スガノ「はい?」

アヌラ「ああた。あたくしの悪口言って楽しいわけ?」

スガノ「いえ、私は別に」

アヌラ「あたくしの悪口言って、『キャーー、楽しいぜ、げへへへ』なわけ? 愉快なわけ? 
    有頂天なわけ?」

スガノ「いえ、そんなことは決して」

アヌラ「じゃあ何で、悪口言うのよ、あたくし地獄耳なのよ。聞こえちゃうのよ。
    こう、あたくしの胸が叫ぶのね? 『お前、今悪口言われてるぞ。言われまくっているぞ。
    むしろ、言われ放題大バーゲンだぞ』って。あんまりにも酷くない? 
    酷いでしょ? 酷いわよね?」

スガノ「別に私は」

アヌラ「はいはいはい。分かっているわスガノさん。あなたもこれが欲しいんでしょ?」

スガノ「はい?」

アヌラ「だーから、あたくしの気を引こうとして、つい悪口なんて言っちゃったのね?」

スガノ「そんな、違います」

十津川「先生、スガノさんはむしろ欲しくないって」

アヌラ「あらあらあら? あらあらあらあら? あらあらあら? 字余りね? 
    一句作ったつもりが字余りで、クエスチョンね?」

カンノ「むしろ季語も入ってないから俳句ではないと思います」

アヌラ「あら、ユミちゃん。怒っちゃ嫌よ。あたくし悪気はないんだから」

カンノ「怒ってません。でも、先生が来ることはなかったんですよ」

光寺院「私たち、ただ、穏便にお話を進めていただけです」

十津川「それなのに、スガノさんが」

アヌラ「わかったわ。わかったわ。ああた達の気持ちはあたくしいたいくらいに分かったわ。
    ああ、いたい。痛すぎて、あたくし倒れちゃう」


   言いながら、アヌランス倒れる。


三人 「大丈夫ですか、先生!」

アヌラ「せめて最後に、スガノさんのビューティホーな姿を見てみたかった」

スガノ「いや、本当、意味分からないですから」

アヌラ「ああ、今スガノさんの言葉が確かにあたくしの胸を貫きました。
    教師生活一年で、こんなに酷い痛みをおったのは、あたくし初めてです!」

スガノ「みじかっつ」

アヌラ「しかも口答えまで! スガノさんが、スガノさんが不良になってしまったわ!」

カンノ「大丈夫ですアヌランス先生。スガノさんは、私たちが立派に更正して見せますから」

十津川「立派に……は無理だろうけど、せめて、微妙にタテロールが似合う女の子にして見せます」

スガノ「しなくていいしなくて」

光寺院「口応えしないの! あなたは、先生がどうなってもいいと言うのですか!?」


   三人組+アヌランスと、スガノはしばしにらみ合う。
   と、アクトーレがおずおずと切り出す。


アクト「あのぉ。一応、この店、私の店なんですけど」


   途端に、アヌランスは立ち上がって。


アヌラ「これはエクスキューズミー、サァーですわ。
    あたくしとしたことが、公衆の面前でとんでもない失態をさらしてしまったようで」

アクト「いや、公衆ってほどではないですけど」

アヌラ「とりあえず、この場は潔く退散することにいたします。スガノさん。
    あたくしのビューティホー・タテロールの悪口は、もう二度と言っちゃ嫌よ」

スガノ「……」

十津川「何とか言ったらどうなのよ」

光寺院「そうですわ。あなたは先生にこれ以上辛労を重ねさせるつもりなの?」

カンノ「(溜息)先生。スガノさんにはあたし達からよっく言って聞かせますから。どうか、この場は」

アヌラ「わかりました。スガノさんの反省の言葉を聞かないのは、あたくしとっても哀しいですけれど
    ……この場はああた達に任せることにいたします」

三人 「はい」

アヌラ「では。あたくしは、さらなるビューティホー・タテロール布教の旅に出かけます。
    明日の授業で会いましょうね?」

カンノ「ごきげんよう、先生」

十津川&光寺院「ごきげんようです、先生」

アヌラ「ああたたち、本当いい子ちゃんね。では、ごきげんよう」


   アヌランス、去る。
   生徒三人、お見送り。


アクト「何だったんだ一体……ん? そうか……あれがベラドンナ様の……」


   アクトーレは呟くと、再びカウンターに身を隠す。


十津川「さあ、スガノさん」

光寺院「いい加減、観念しましょうね?」

スガノ「あなた達、絶対どこかおかしいって」

カンノ「おかしいのはあなたでしょう? なんでみんなが喜んでつけている、
    これをあなただけがつけようとしないのか、
    あたし、全然分からないわよ」

十津川「クラスの大半はもう、あんたにこれをつけさせるのは諦めているみたいだけど」

光寺院「あたし達は、最後まで、あなたがこれをつけて喜ぶ姿見たさに頑張っているのに」

スガノ「だから、余計なお世話だって」

カンノ「せっっかく、同じクラスのよしみで話しかけてあげもしているのに、
    いつまでそうやって強がるつもり?」

スガノ「別に、強がってなんて」

カンノ「本当は、寂しいんでしょう?」

十津川「友達いないしな」

光寺院「部活だってやっていないし」

カンノ「学校へ来ては、ただ帰るだけの日々」

スガノ「別に、私は友達が欲しくて学校へ行っているわけじゃ」

十津川「はい! ユミちゃん」

カンノ「はい、十津川さん」

十津川「スガノさんは嘘をついています」

カンノ「まぁ、それはどうして?」

光寺院「私たちは見てしまったからです」

カンノ「見たって何かしら?」

十津川「スガノさんが――」

スガノ「ちょっと、何言う気よ」

光寺院「近所の公園で――」

スガノ「まさか、見てたの!?」

十津川「小さな子供相手に――」

スガノ「やめて、それは……」

光寺院「『お姉ちゃんと一緒に遊んでくれない?』」

十津川&光寺院「と、作り込んだ笑顔で言っていたのを!」

スガノ「絶対、誰も見ていないと思っていたのに……」

カンノ「……スガノさん、寂しいなら、貴方も仲間になればいいのに」

スガノ「そんな物つけている人たちの仲間なんて絶対嫌」

カンノ「強情ねぇ」

十津川「やっぱり、無理矢理つけてみるしかないんじゃないかな?」

光寺院「一度つけてみたら、きっと病みつきになるはずですわ」

カンノ「やっぱりそれしかないのかしら? あたし、無理矢理って嫌いなんだけど、ね」


   いいながらも、三人組はカンノの言葉に会わせてスガノを見る。


スガノ「え、ちょっと、……マジ?」

三人 「大マジ」


   いいながら、ちょっとずつ、近づく三人


スガノ「いやだって、絶対。そんなの無理だから。つけられても似合わないし。
    絶対直ぐ取るって。絶対だから」

十津川「嫌よ嫌よも好きのうち」

光寺院「つけてみなくちゃ分からないでしょう?」

カンノ「さあ、観念しなさい?」

スガノ「いやああああ」


   スガノが叫んだ、その瞬間。


アクト「ちょぉっと、まったぁあ」


    カウンターから姿を現したのは、不思議な格好をしたアクトーレ。


三人 「何者!?」

スガノ「店員さん!?」

アクト「店員などという名前ではない。問われて名乗る物でもないが、教えて欲しくば語ってやろう」

カンノ「別に、聞きたくはないですけど」

アクト「いや、聞け!」


    思わず、生徒達は口をそろえる。


四人 「言いたいのかよ!」

アクト「言いたいんだよ! このお話の中ではここでしかおおっぴらに自己紹介できないんだから。
    黙って聞きなさい」

四人 「はい」


   と、音楽がかかり始める。


アクト「普段はしがないコーヒーショップの店員。しかしその実体は! 正義の心で悪を撃つ。
    乙女の味方アクトーレ!」


   音楽が高鳴り、アクトーレは気持ちよく決めポーズ。
   が、沈黙を破ったのは少女達で。


スガノ「……アクトーレぇ?」

カンノ「あの、一応、これ現代劇なんですけど」

十津川「そんな不思議な格好でいきなり出られてもなぁ」

光寺院「出るお話間違えてません?」


   四人とも口々に、「なんかおかしいよねぇ」「変な名前」
   等と、ぼそぼそ騒ぎ出す。


アクト「黙れ! お前等の先生だって、アヌランスなんて、
    『アデランス』パクったような名前じゃないか! どう見ても日本人だったろう!」

カンノ「あら? アヌランス先生は、本名は、秋吉蘭子っていうのよ」

十津川「アヌランスは、あだ名だもんなぁ」

アクト「そんなこじつけが許されてたまるか!」

光寺院「だって、日本人でアヌランスなんて、おかしすぎですわ、ねぇ」

三人 「ねぇ」

アクト「こら! スガノって女! あんたのために、出てきてやったのに、
    あんたまで一緒になって、否定することないだろう!」

スガノ「だって、これ以上変な人に出てもらいたくないし」

十津川「これ以上!?」

光寺院「まさか、スガノさん、自分のこと棚上げにしているんじゃないでしょうね?」

スガノ「だって、わたしはあんた達よりまともだから」

カンノ「スガノさん。いい? 現実を直視した方がいいわよ? 道を百人、人があるいてとして、
    百人とも貴方のような人をなんて言うか分かる?」

スガノ「可愛い女子高生♪」

十津川「だから、現実を見ろっていってるだろう!」

光寺院「だいたい、まともなって言うだけでもおこがましいのに、その上可愛いなんて、
     人として許されると思っているの?」

カンノ「道行く人は貴方のことをこう言うだけでしょう? 変人と」

スガノ「そんな……あんたちにくらべたら私なんてねぇ」

アクト「だーから、無視をするな!」


   怒号に、四人は思わずアクトーレを見る。


アクト「いいかい嬢ちゃん達。忘れているかも知れないが、ここは俺の店なんだ。
    いい加減、騒がしくしていると、営業妨害の罪で、コーヒーぶっかけるぞ!」

十津川「ここ、コーヒーショップだったのか」

光寺院「そのわりには人がいませんわね」

アクト「静寂を好むお客さん用の、隠れた名所なんだよここは!」

十津川「店員がこんなのだから、客が来ないだけ何じゃない?」

光寺院「ありえる」

アクト「お前等〜」

カンノ「わかりました」

アクト&スガノ「え?」

カンノ「これ以上お店の迷惑になるのも、私たちの本意ではありません。
    今日の所は、おとなしく退散することにいたします」

光寺院「でも、ユミさん」

十津川「だって、ユミ、スガノさんのことは」

カンノ「どうせ明日も一人寂しく学校で授業を受ける身になるんです。
    その寂しさを感じれば、彼女だって考え直すことがあるかも知れませんわ」

スガノ「いや、絶対に」

十津川「さすがユミだね」

光寺院「なるほど、さすがはユミさんだわ。良いアイデアに、わたし、思わずうっとりしてしまいました」

カンノ「では、そう言うことですから。アクトーレさん。
    わざわざのご登場、痛み入りますけど、あたしたち、これで帰ることにいたします」

スガノ「……絶対、気持ちなんて変わらないわよ」

カンノ「そうかしら?」

スガノ「絶対に、変わるわけがないわよ。何度言われたって、無駄だから」

カンノ「分からないわよ?」


   一瞬、誰もが思わすカンノを見る。


カンノ「だって、これがドラマなら、一時間のうちに必ず誰かの心は変わるのだから」

スガノ「…………」

カンノ「それでは。ごきげんよう。……あ、アクトーレさん」

アクト「はい?」

カンノ「あなたの衣装、とても素敵ね」


   カンノが舞台を去る。


十津川「あれ、素敵か?」

光寺院「さぁ? でも、ユミさんが言うことだから」

十津川「じゃあ、きっと流行るんだろうな。これみたいに……じゃ、スガノさん。そういうことだから」

光寺院「ごきげんよう」


   十津川&光寺院は舞台を去る。


アクト「やっぱり、分かる人には分かるんだなぁ、これ」

スガノ「……お礼なんか言わないから」

アクト「別に。俺は、俺の店を守りたかっただけさ。それより、あんた。コーヒーはどう?」

スガノ「……」

アクト「すさんだ心に、染みるよ。うちのコーヒーは」

スガノ「……じゃあ、いっぱいだけ」

アクト「かしこまりました」


   アクトーレは素早くコーヒーを入れる。
   運ばれたコーヒーを、スガノはおもむろに飲もうとするが……


スガノ「あつっ」

アクト「そりゃ、熱いさ。ホットだから」

スガノ「私、アイスコーヒーしか飲まないんだけど」

アクト「それは、コーヒーに対する冒涜ですよお嬢さん」


     スガノは、しばしアクトーレを睨み、


スガノ「はぁ。なんで、わたしってこんなについてないんだろう……」

アクト「大変だねぇ。お嬢さんも」

スガノ「分かってないくせに同情はしないで」

アクト「そりゃ、何も聞いてませんから」

スガノ「……去年までは、全然普通の高校生活だったのよ。
    あたしだって、そう孤立していたわけじゃなかったし」

アクト「なるほど?」

スガノ「なのに……二年になって、アイツが来てからみんな変わっちゃった」

アクト「あの、アヌランスとか言う人かい?」

スガノ「(うなずいて)あいつが、変な物を、生徒達に配りだして……
     って、私、何を、語っちゃってるんだか。まぁ、そういうことだから。
     ごめんなさい。騒がしちゃって」

アクト「いや、丁度よかったよ。目星がついたから?」

スガノ「なんの?」

アクト「……魔法って信じるかい? お嬢さん」

スガノ「はい?」

アクト「魔法だよ、魔法。人の心を虜にしたり、願い事を叶えたり」

スガノ「あの、そう言う話しはちょっと」

アクト「見たことあるだろう? ハリーポッターとか、ロードオブ・ザ・リング」

スガノ「あの、これ以上世界観をおかしくしないでくれません? 
    わたし、ただでさえ最近混乱しているんだから」

アクト「そんな魔法を使ってみたいと思わないかい? 君も」

スガノ「思いません」

アクト「使えるんだよ。君にだって、魔法が」

スガノ「あの、いい加減私帰るんで」

アクト「実はね、お兄さんは、魔法遣いだったのさ!」

スガノ「さようなら」

アクト「いや、本当だって。マジですから。ね、本当の、本当」

スガノ「ここに客がいない理由が今分かった気がするわ」

アクト「え?」

スガノ「自称魔法遣いの、不思議部屋だったんですね。ここは」

アクト「いや、実際そうなんだけど」

スガノ「で、私はそう言うのには興味ないですから」


   スガノはそう言って舞台を去ろうとする。


アクト「魔法は君の身近にあるんだよ。例えば、さっきの子達のように」

スガノ「さっきの?」

アクト「君だって不思議に思っているんだろう? 
    なんで、あんな不思議な髪型が流行っているのかって」

スガノ「……まさかぁ」

アクト「そのまさかさ。あの、アヌランスって人は魔法遣いなんだ」

スガノ「じゃあ、あの髪型は」

アクト「魔法のアイテムってわけ」

スガノ「まさか、そんな、いったい何のために?」

アクト「それは、俺には分からない。でも、このままだと、
    君もいつか魔法によって、あの髪型になることだけは確かだろうね」

スガノ「そんなこと、絶対に」

アクト「ないと言い切れるかな? もう、学校中の女の子が、あの髪型なんだろう?」

スガノ「(うなずく)」

アクト「しかも、あの髪型になった物は、不思議な力が身に付いている」

スガノ「じゃあ、あれは偶然じゃなくて……?」

アクト「魔法の品物って証拠だろうね。あの、髪型が」

スガノ「そんな……それじゃまるで洗脳じゃあ」

アクト「その通り。これは、許すことの出来ない犯罪だよ! そして、この俺は、
    実はそう言った魔法アイテムにおける犯罪を阻止している正義の味方ってわけ」

スガノ「阻止できてないじゃん」

アクト「正義の味方も、依頼がなければ動けないのが、最近の世の中でね。
    特に魔法の国ならまだしも、一般人だとねぇ。」

スガノ「ないの? 依頼」

アクト「残念ながら、変な髪型で困ってますなんて依頼は一件も」

スガノ「じゃあ、あたしが依頼するわよ」

アクト「それがね。一般人からの四件以上報告されないと、正義の味方は出動できないんだ。」

スガノ「四件……微妙にリアルな数ね」

アクト「バレンタインのチョコだとしたら、なんだか、モテているのか判断が難しいラインだよな」

スガノ「確かに。四か……だめ。私、友達いないし」

アクト「ごめんね。一回一回対応していたら、成り立たないからさ。正義の味方もまぁ、ビジネスなんで」

スガノ「じゃあ、何もできないって事?」

アクト「色々うるさいんだ。下手に俺が女子高生に話しかけたら、逆に俺が刑務所行きだし」

スガノ「正義の味方っていっても、役立たずなんだ」

アクト「だけど、君にならできるだろう?」

スガノ「え――?」

アクト「なってみないか? 正義の味方」

スガノ「あたしが」

アクト「そう。君が、やるんだ。正義の味方を」

スガノ「正義の……味方を?――」


    なんだか始まりっぽい音楽と共に、
    暗転。





    次の日
    相も変わらず客のいないコーヒーショップ・ドートル。
    音楽がかかる中、アクトーレがグラスを磨いている。
    と、電話が鳴る。


アクト「ベラドンナ様か……それでは、今日は日本語訳バージョンでお楽しみ下さい。」


    そんなことを何処とも無しに語りかけ、
    アクトーレは受話器を取ると、見せかけ、再び携帯をとる。


アクト「グッドアフターヌーンです、ベラドンナ様」

ベラ声「ガルパゴスエスタゴン?(順調に進んでいるかしら)

アクト「あ、ベラドンナ様、今回は日本語バージョンなんで」

ベラ声「ああ、そうなの。早くいってよ」

アクト「すいません」

ベラ声「……順調かしら?」

アクト「はい。こちらはもう順調に進んでおります」

ベラ声「さすがね」

アクト「ええ。商品の方は目星がつきました。既に対策も打ってあります」

ベラ声「よかったわ。(ぼそっと)これで、反省させられるわ」

アクト「誰をですか?」

ベラ声「いいえ。なんでもないの。さすがアクトーレ。管理局内でも、優秀なだけはあるわ」

アクト「はい。それはもうベラドンナ様の満足をお約束いたします。それでは。」

ベラ声「あ、まだ話したいのに」


    アクトーレは電話を切り、ふと溜息をつく。


アクト「まったく。内密仕事ってって奴も難しい物だ。金持ちだからってなぁ〜。
    天下の管理局員を顎で使うなよなぁ」


    電話が鳴る。
    ギクッとしつつ、電話を取るアクトーレ。


ベラ声「なにか、今悪口言わなかった?」

アクト「言ってません言ってません」

ベラ声「あたし、地獄耳ですからね」


    電話が切れる。
    アクトーレほっとする。

    と、そこへスガノがやってくる。
    何かを決心したのか、その顔は重々しい。


アクト「いらっしゃいませ」

スガノ「来たわよ」

アクト「まっていたよ、お嬢さん」

スガノ「別に、正義感ぶるわけじゃないからね」

アクト「ということは、やってくれる気になったわけだ」

スガノ「今日、学校行ったら、男子もあれをつけていたのよ!」

アクト「……そりゃあ、ビックリだわ」

スガノ「男がよ! 男が! 似合う分けないでしょ! あんなの」

アクト「それで、危機感を感じたわけだ」

スガノ「こうなったら、アレをつけないためなら何だってするわよ」

アクト「それはいい心がけだね」

スガノ「それで、どうすればいいの?」

アクト「待って。ちゃんと、用意しておいたんだ」


    アクトーレがいいながらカウンター中から取りだしたのは……
    いかにも魔女っ子が持っていそうなステッキ(大型)だった。


スガノ「……なにそれ」

アクト「なにって、魔法アイテムに対抗するには、やっぱり魔法アイテムでしょ」

スガノ「そう言う問題の物なの? それって」

アクト「それに、女の子が魔法を使って戦うなら、やっぱり魔女っ子でしょ?」

スガノ「……なんか、かなり趣味入ってない?」

アクト「まさか。きちんとした、魔法のアイテムですよ」

スガノ「……わかった。とりあえず、その物体については受け入れるわ。
    それで、それを使ってどうしろと?」

アクト「もちろん、変身するのさ」

スガノ「誰が?」

アクト「君が」

スガノ「何に?」

アクト「魔女っ子」

スガノ「はぁ!?」

アクト「この杖を天高く捧げてだね。呪文を唱えるのさ。
    (大きな声で)
    マスダノダルマ マルダノダスマ ルーセンゲーバ デ ポン!」

スガノ「増田って何!?」

アクト「それは秘密です」

スガノ「……それを、言わなきゃいけないの?」

アクト「そう」

スガノ「やっぱり、あたしやめておこうかな」

アクト「じゃあ、明日になったらタテロールだね」

スガノ「……」

アクト「あ、でも案外似合っちゃうかも知れないわけだ。タテロール。それで、鏡に自分の姿写して、
    『うふ。あたしって可愛いかも?』なんて、言っちゃったりするかも知れない」

スガノ「言わないわよ! そんなこと」

アクト「いやぁ、でも、あの髪型の魔力は相当だからねぇ」

スガノ「言えばいいんでしょ! 呪文。ほら、杖貸してよ(アクトーレから杖を奪って)
    これ、持ったまま言えばいいの?」

アクト「そう。空高く掲げてね」

スガノ「……えっと……マスダノダルマ マルダノダスマ ルーセンゲーバ デ ポン!」


   静寂。
   何も起こらない。
   と、アクトーレがいきなり笑い出す。


アクト「うっわーーー。本当に言っちゃったよ〜。凄いまじめな顔して『ポン』だって!『ポン』!」

スガノ「帰ります」

アクト「ちょっと、ちょっと、ちょっと待ってよ」

スガノ「こんな物までわざわざ用意して、そんな人をからかうのが楽しいですか」

アクト「冗談だって冗談」

スガノ「そりゃ、あなたには関係ないですもんね。誰が変な髪型になろうと。
    それなのに、信じた私が悪かったですよ。はいはい。ごめんなさい。さようなら」

アクト「テストだったのさ」

スガノ「テストぉ?」

アクト「ほら、魔法の呪文ってのは厄介でねぇ。必ず一息で言わなきゃいけないの。
    でも、呪文なだけに難しいし、長いしで言えないかな〜とも思ったわけ。それで、テスト」

スガノ「……試したの?」

アクト「その通り。でも、心配して損したよぉ。ちゃんと言えるじゃない。
    しかもいい声しているねぇ。合唱部?」

スガノ「もとね」

アクト「どおりでぇ。これなら、本番もきっとうまくいくよ」

スガノ「……それで? 実際の呪文はなんて言うの?」

アクト「(にやりと笑って。可愛らしく)
    ハッピーマジカルアクション ホーリーナイト デ ラブリーキュートモーニング」

スガノ「言えるか!」

アクト「なんで!」

スガノ「意味分からないわよ!」

アクト「だから呪文なんだって」

スガノ「無理。ヤダ。それだけは言えない」

アクト「そんなことないって。君なら出来るよ」

スガノ「そんな、よく分からないフォローは欲しくないのよ」


   二人が言い合いを始めようとしたその瞬間。
   二人の笑い声が響き渡る。

  
   同時に

十津川「くっくっくっくっく」
光寺院「ふっふっふっふっふ」


アクト「誰だ!」


   アクトーレの言葉を待っていたかのようにドアが開く。
   そこにいたのは、光寺院と光寺院。


光寺院「見つけたわよスガノさん!」

十津川「今日こそは、これ(といって頭を指す)を、つけてもらうから」

アクト「とうとう、来たか。じゃ、頑張れよ!」


    言い残すと、アクトーレはカウンター下に消える。


スガノ「(アクトに)あ、ちょっと!……(二人を向いて)光寺院さん……十津川さん……
    どうしてここが?」

光寺院「我が、光寺院家の力をなめてもらっちゃ困りますわ」

スガノ「まさか! 盗聴器!?」

光寺院「とんでもない。我が光寺院家は落ちぶれたとはいえもと貴族。
     そんな、はしたない真似出来る分けないでしょう」

十津川「追ってきたんだよ。学校から。光ちゃんの家の車を使って」

光寺院「『お嬢様のためなら例え火の中水の中』と、運転手の田中は快く引き受けてくれたわ」

スガノ「そんな……全然気づかなかった」

光寺院「運転手歴60年の田中の腕を甘く見たのがあなたの敗因ね」

十津川「まぁ、その変わり心配性の性で、車出るのが遅くなったけどね」

光寺院「あら十津川。それは仕方ないですわ。こんな怪しげなコーヒーショップに、
     か弱い乙女が二人何の装備もなく入っていこうとするのですもの。
     運転手としては、拳銃の一つや二つ、持たせてあげたいと思うのも当然という物でしょう?」


    言いながら、光寺院はおもむろに拳銃を取りだしてみたり。


スガノ「いや、思わない。絶対に、思わないから」

十津川「馬鹿だなぁ。モデルガンだよ」

スガノ「なんだ……」

光寺院「当たったら、確実に弾は皮膚にめり込みますけど」

スガノ「ひぃぃ」

十津川「今日こそは、こいつをつけてもらうからな」

光寺院「逆らわば、死を。ですわ」


    光寺院が銃口をスガノに向ける。
    その時、スガノの脳裏に言葉が響き渡る。
    途端、十津川・光寺院はストップーション


アクト「さぁ、今こそ変身するのじゃ」

スガノ「何急に老人声になっているのよ!」

アクト「馬鹿者。若者に助言を与えるのは、ジジイと決まっておるじゃろう」

スガノ「あんたの常識、本気でよく分からない」

アクト「そんなことより、呪文、使わないと、死ぬよ?」

スガノ「いきなり素に戻らないでよ! ……分かってるけど……」

アクト「……呪文、忘れた?」

スガノ「うん」

アクト「仕方ないなぁ」


   カウンターの上に、あからさまにアクトーレの手でメモが置かれる。
   どうやら、腕から下はカウンターの下に潜っているよう。


スガノ「……あんたの行動、本当意味分からない」

アクト「それより、呪文を唱える準備は出来たか? 時が動き出すぞ」

スガノ「え? え? これって、時間止まってたの? マジ!?」


   時が動き出す。


光寺院「ずいぶんと間抜け面ですわね。驚きすぎて顔の構図が壊れていますわよ」

スガノ「放って置いてよ! あんたたちこそ、それ以上私に何かするつもりなら、
    こっちにだってそれそうとうの覚悟があるわよ」

十津川「へぇ。覚悟ねぇ」

光寺院「面白いわね。やってみなさい」

スガノ「や、やるわよ……やっていいわけ! 止めるなら今のうちよ!」

十津川「早くしろよ」

スガノ「わかったわよ! もう、呪文だろうが魔法だろうがやってやるわよ!
    (メモを取りだし、一気に読む)
    ハッピーマジカルアクション ホーリーナイト デ ラブリーキュートモーニング」


   瞬間、不思議な音楽と共に、辺りの雰囲気が変わる。
   アクトーレがカウンターから顔を出す。
   手には、しっかりとマイクを握りしめている。


アクト「その時! 少女の体は七色に輝き出した」

スガノ「え? どーみても、七色には見えないんだけど」

アクト「七色に輝きだした! そして、辺りの時間がゆっくりとなる」

スガノ「あ、本当だ! 今なら逃げられる」

アクト「そして、彼女は魔法少女、マジカル・ロロンへと、変身するのだった!」

スガノ「何よその名前は!」

十津川「ああ! 体が勝手に動く!」

光寺院「一体、これはどうしてですの!?」


   アクトーレが黒い布を二人に渡す。
   十津川と、光寺院は黒い布を互いに持ち、スガノを隠すように布を張る。
   (奥のドアからでも、見えないように魔女っ子の服がスガノに渡される)


スガノ「あ、あたしの体も、勝手に……きゃあ! 何!? この服!」

アクト「さぁ、変身するんだマジカル・ロロン。魔法の時間が続くのはたった一分しかないぞ!」


   アクトーレがいいながら取りだしたのは、なんとタイムウォッチ。
   そして、本当に分を測り始める。


スガノ「きゃーー。こんな魔法嫌ぁ」


   言いながら着替えるスガノ


十津川「体が……」

光寺院「動かない……ですわ」


   苦しむ十津川と光寺院。


アクト「あと、30秒〜」


   遊んでいるアクトーレ。
   そんなどうしようもない一分が過ぎ。


アクト「いっぷーーん」


   アクトーレの言葉と共に、黒い布が落ちる。
   そこには、
   すさまじく現実離れした魔法少女なスガノが立っていた。


スガノ「な、何とか間に合った……」

アクト「素晴らしい。さすが俺が見込んだ人間だ。……恐ろしく、似合っていない」

スガノ「うるさい! 杖を使ったらこんな服になるなんて聞いてないわよ!」

アクト「言っただろう? 魔女っ子になるって」

スガノ「だからって……こんな……こんなの」

アクト「ほら、二人も動き出すんだから、しっかりやりなよ♪」

スガノ「あ、ちょっと!」


   アクトーレはまたカウンターの下に。
   途端、十津川と光寺院がはっとして動き出す。


十津川「体が」

光寺院「動きますわ……」

十津川「光ちゃん!」

光寺院「十津川!」

十津川・光寺院「怖かったよぉ」

スガノ「(ちょっと拍子抜けしつつ)あ、あんたたち! 
     これ以上何か凄い目に遭わされたくなかったら、早くここから逃げ出すことね!」

同時に
十津川「………………あんただれ?」
光寺院「………………あんただれですの?」

スガノ「え!?」

十津川「さっきまで、ここにスガノがいたはずなんだけど?」

光寺院「あなた知りません? 高校生の女の子」

スガノ「あんた達、あたしが誰だかわからないの?」

十津川「……はぁ?」

光寺院「残念ながら、コスプレが趣味のお友達はいない物ですから」


   スガノは思わず二人に背を向けガッツポーズ。
   そんなスガノを、二人はにやにやしてみていたり。


スガノ「そっか……魔女っ子にありがちな、変身したら誰だかわからないって設定なのか!」

十津川「それにしてもスガノの奴、どこ行ったんだか」

光寺院「本当本当。影も形もなくなってしまいましたわ」

スガノ「残念ながら、あなた達がスガノヨシミに会うことはないでしょうね」

十津川「どう言うことだ?」

光寺院「あなた、スガノさんをどこかへやったの?」

スガノ「ちがうわ。私は、スガノヨシミが助けを呼ぶ声を聞いてここへやってきたの。
    可哀想に、あの子はあなた達のせいで傷つき、今はその心の傷を癒すことで精一杯よ!」

光寺院「そんな、わたし達が何をしたと?」

スガノ「とぼけても無駄よ。無理矢理タテロールをつけようとしたり、
    執拗に追い回したりと、あなた達の悪事はすべてお見通し! 覚悟しなさい!」

十津川「覚悟しろ、だってぇ」

光寺院「(十津川を制して)そんな正義感ぶるあなたは、一体どなたなのです?」

スガノ「私? ……私は、えっとぉ」

アクト「(ふっと、カウンターから顔を出し)ロロン。(また、戻る)」

スガノ「……私の名前は、マジカル・ロロン! 愛と正義の魔法少女よ!」

十津川「愛と正義の魔法少女?」

光寺院「マジカル・ロロン?」


十津川「(笑う)」
光寺院「(笑う)」

スガノ「な、何がおかしいのよ!」

十津川「だってねぇ」

光寺院「よりにもよって、魔法少女だなんて。今時、ねぇ」

十津川「愛と正義ってだけでもおかしいのに、ねぇ」

光寺院「よくもまぁ、堂々と言えたものですわ。ねぇ」

アクト「(いつの間にか、カウンターから顔を出し)まったく。
    恥ずかしいって気持ちがないのかしら。ねぇ」

スガノ「あんたまで何言ってるのよ!」

十津川「それで? ス ガ ノ。何でそんな格好しているわけ?」

スガノ「え? いいえ、私の名前はマジカル・ロロン……」

光寺院「スガノさんが、なんでそんな格好をしたいのか分からないけど。
     でも、そんな服、スガノさん似合ってないんだから。無理しちゃダメよ、スガノさん」

スガノ「……二人とも、もしかして、最初から?」


同時に
十津川「わかっていたよ」
光寺院「わかってましたわ」

スガノ「負けた……」


   スガノ、その場に膝をつく。


十津川「まったく。まぁ、面白い物見せてもらったよ」

光寺院「でも、行動の意味が分からないけどね」

スガノ「ううう……」

アクト「何を落ち込んでいるんだ、マジカル・ロロン。
    戦わないうちから、それじゃ負けているような物だぞ?」

十津川「戦うぅ?」

光寺院「店員さん? 一応部外者なんですから、あまり余計なことは言わないで戴けます?」


   光寺院、言いながら拳銃をアクトーレに向ける。
   が、その前に何とスガノが立ちふさがる。


光寺院「スガノさん?」

スガノ「そうだ。逃げていちゃいつまでたっても解決しないのよ。
    ……あたしは、戦うために、こんな服を着たんだから」

光寺院「戦うですって?」

十津川「一体、何と?」

スガノ「あなた達と。私の、髪型のために!」

光寺院「面白いわね。……容赦はしないわよ」


   光寺院、拳銃をスガノに向ける。
   十津川、スガノに向かって構える。
   スガノ、杖を振り上げる。
   しばし流れる緊迫した間。


スガノ「(ぼそっと)……店員さん」

アクト「なになに?」

スガノ「戦い方が分からないわ」

アクト「説明書読む?」

スガノ「そんな暇ある分けないでしょ!」

アクト「仕方ないな。んじゃ、もっとも基本の型ね。まっすぐ杖を持って、振りかぶるんだ」

スガノ「こうね」

アクト「そう。そして」

スガノ「そして?」

アクト「殴れ!」

スガノ「はい! って、え!?」


    スガノの振り下ろした杖は、光寺院に見事にヒット。
    ぶっ倒れる光寺院を見て、十津川は、血色を変える。


十津川「よくも、光ちゃんを……人殺し!」

スガノ「えぇ!そんな……だって、まさか魔女っ子の攻撃が打撃系だなんて思わなかったから……」

十津川「言い訳無用! 覚悟」

スガノ「きゃああ!」


    スガノは悲鳴と共に杖を振るう。
    十津川はすんでの所で杖を避け。


十津川「危なっ。ちょっと、マジで殺すきかよ!」

スガノ「まだ、慣れてなくって……」

十津川「そんな殺人の言い訳があってたまるか!」

スガノ「素直に諦めてくれば、これ以上何もしなくてすむのよ?」

十津川「誰が諦めるか! ……ユミのためにも、
     あんたにはこいつをつけてもらわなくちゃいけないのよ」

スガノ「なんでカンノさんのために?」

十津川「それは……とにかく! これ以上私たちに何かするようなら、
    あんたも、覚悟してもらうことになるわよ」

スガノ「一体、これ以上どうなるって言うのよ!」

十津川「それは……」

カンノ「こうなります!」


    荘厳な音楽と共に、カンノ登場。
    途端、倒れていた光寺院も起きあがる。


スガノ「カンノさん!?」

十津川「ユミ!」

光寺院「ユミさん!」

カンノ「待たせたわね。あなた達」

十津川「何言ってるんだ、今来たところさ」

スガノ「いや、前からいたでしょ!」

カンノ「今日のあなた達のフェロモン、強烈すぎて……思わず酔っちゃって遅くなったわ」

光寺院「そんな、私たちが至らなかったばかりに」

カンノ「違うの。私が、酔い止めの薬を飲んでいなかっただけ」

十津川「馬鹿。あれほど、キャベジンを飲めって言ったじゃないか」

カンノ「ごめんなさい。心配かけて……でも、もう大丈夫よ」

光寺院「そうですわね」

十津川「ユミが来たからには……反撃開始か」


   カンノ、十津川、光寺院は、そろってスガノを見る。
   武器を構えつつも、スガノの勢いはやや弱い。


スガノ「な、なによ、何で急に元気になるわけ?」

カンノ「スガノさん。スガノヨシミさん」

スガノ「何?」

カンノ「私、一つ分からないことがあるんだけど。聞いてもいい?」

スガノ「どうぞ?」

カンノ「なんで……これが、つけれないのに、それは着られるの?」

スガノ「……べつに、それに比べたら、こんな服」

カンノ「どう考えても、その服って恥ずかしいと思うんだけど」


   十津川と光寺院は、カンノの話しにはうなずく。
   スガノの話には首を捻っている


スガノ「仕方なくよ。この服は、あんた達をその髪型から解放するための、いわば、戦闘服なんだから」

カンノ「この髪型からの解放? そんなの、頼んでないけど?」

スガノ「これは私のためでもあるのよ! 私は、絶対そんな髪型になるのは嫌なんだから」

カンノ「なんで?」

スガノ「変だからよ!」

カンノ「でも、あなた結局、そんな変な格好しているじゃない」

スガノ「これは、違うわよ」


   ふと、カンノの表情から微笑みが消える。
   冷たい言葉が口から繰られる。


カンノ「何が違うの?……スガノさん、あなたはただ自分が特別でいたいだけなんでしょう?」

スガノ「特別? まさか」

カンノ「自分一人他の人とは違うって思いたくて、
    髪型なんて細かい変化で主張しているだけなんでしょう?」

スガノ「何言ってるの。違うわよ。私はただその髪型が嫌いだから」

カンノ「髪型だけだったかしら? あなたがクラスで孤立している理由は」

十津川「ユミ……どうしたんだよ?」

光寺院「しっ。十津川。黙ってなさい。今のユミさんには聞こえてないわよ」

十津川「あ、ああ。そうだな」

スガノ「……どういうこと?」

カンノ「あなたはいつも一人で私たちを見てた。クラスで何かドラマが流行ったときも。
    みんなが好きなアイドルについて話しているときも。
    たった独りで、冷静なフリした視線を私たちに送ってた。
    そうでしょう? 自分だけが特別。だから、私たちなんかの話しには加われない。
    そんな目をして」

スガノ「そんな目なんて……」

カンノ「あなたが思う特別、なんてまやかしなのよ? 友達もできない。会話にも参加できない。
    そんな、出来損ないの人間が、自分を保つために作り上げた嘘に過ぎない。
    今だってそうでしょう? 
    私たちが話しかけなきゃ、あなたなんて、クラスの中でいないも同じ。
    ううん。今だって、いるのか分からない」

スガノ「私は! ……私はただ、私でいたいだけよ。あなた達とは、考え方が違うんだもの。
    一緒にいられる分けない」

カンノ「凄いわぁ。話しかけもしないで、考え方が違うなんて、よく分かるわね?」

スガノ「わかるわよ。そんな、訳の分からないものつけるような人たちなんだから」

十津川「あんただって、そんな変な服着ているじゃんかよ」

スガノ「これは、あんた達に勝つためよ」

カンノ「そうやって、また特別だってアピールしたいの?」

スガノ「違う! なんで? なんで私の気持ちを分かってくれないの?」

カンノ「分かってくれないのは、あなたでしょう?」

スガノ「だから私はそんな格好は!」

カンノ「違う!」

スガノ「え――?」

カンノ「私たちが、いいえ、私が一体どんな気持ちでいるのかなんて、一度も考えたことないくせに!」


   カンノはこらえきれなくなったという様子で、店を出ていってしまう。


光寺院「ユミさん!」

十津川「ユミ!」

スガノ「……勝ったの……?」

光寺院「……最低ね、あなた」

スガノ「なんで……」

十津川「ユミの気持ちも分からないで勝手なこと言って……あいつは、お前を」

光寺院「いいわよ、十津川。行きましょう」

十津川「ああ。ユミを、追いかけなくちゃ」


   光寺院と、十津川は店を出ていく
   アクトーレがカウンターへとまた姿を現す。


スガノ「……どういうこと? 私、勝ったんじゃないの?」

アクト「さぁ? でも、逃げたのは向こうだよ?」

スガノ「……だけど……なんでだろう? 私、なにか悪いことをしたような気がする」

アクト「いいんじゃない? 孤独だと泣く少女はいつも、
    本当は孤独を愛しているだけと、そういうことなんだよ。きっと」

スガノ「……なんでそんな笑顔でまとめに入っているわけ?」

アクト「いや、そろそろエンディングかなと思って」

スガノ「どこがよ! まだ、全然謎が解決されてないでしょ!?」

アクト「解決したいの?」

スガノ「……」

アクト「いいんじゃないの? 君は、タテロールにならずに済んだ。君の望みはそれだけだろう? 
    明日からまた一人学校で勉強する日々だ。あの子達もきっともう話しかけてこないだろう。
    平和な学園ライフ。グッドエンド!」

スガノ「別に、ただ、ちょっと気になるだけよ。なんで、カンノさんが、あの髪型になったのかって」

アクト「知りたいの?」


   アクトーレの含みを持った言い方に、思わずカンノはアクトーレを見る。
   アクトーレは陽気に笑う。


アクト「できるさ。だって、君は今魔女っ子なんだから。そして、俺は魔法遣いだよ?」


   しばしの悩みの後、スガノは一つ大きくうなずく。


スガノ「知りたい」

アクト「オーケー」


   アクトは小さな杖を出し、振りながら呪文を唱える。


アクト「ハラリヒラリフラリ ヘラリホラリホラフイテ ポン」

スガノ「いや、ほら吹いてどうするのよ!」


   辺りが暗やみに包まれる。
   同時に、舞台の片隅に明かりがつき、一人の少女を浮かび上がらせる。


4  カンノの過去シーン


   暗闇の中、舞台片隅に照明がつく。そして、椅子に座ったカンノの姿が浮かび上がる。
   カンノの両脇には、仮面を付けた十津川(仮面1)と光寺院(仮面2)が立っている。
   二人は、両手に習字の半紙のよう中身を、丸めて持っている。

   雑音と共にチャイムが鳴り、HRが始まる


声  「さぁ、皆さん。小学校初めてのクラス替えはどうでしたか? 
    これから名前を呼びますからね? 一人ずつ返事をして下さい。……では、秋田さん」

仮面1「はい!」

声  「岩田君」

仮面2「はい」

声  「岡田さん」

仮面1「はい!」

声  「川本君」

仮面2「はい!」

声  「スガノさん」

カンノ「……」

声  「スガノさん? あれ? 今日欠席者いなかったわよね?」


   カンノは、当然自分が呼ばれるだろうと思っていたため、
   何が起こっているか分からず、辺りを見渡す。


声  「……なんだ。スガノさん、いるじゃない」


   カンノは指を刺されたのか、困った顔で先生を見る。


声  「スガノさん。呼ばれたら返事をして下さいね?」

カンノ「……カンノです(小さな声)」

声  「え? 何ですか?」

カンノ「……私、カンノです」


   カンノの泣きそうな言葉と共に、仮面1が半紙を広げる。
   そこには仮名を振られた「菅野 由美(カンノ ユミ)」の字がある。


声  「あら、ごめんなさい。カンノヨシミさんだったのね。先生分からなかったわ」

カンノ「カンノ、ユミです」

仮面2「……瞬間、走った沈黙の重さを、彼女は決して忘れることはないだろう」

仮面1「なぜならその沈黙は、次の瞬間、大爆笑に変わったのだ」


   笑い声が響き渡る。
   徐々に、体を小さくしていくカンノ


仮面2「彼女はその日の日記にこう書き記している」

カンノ「こんな名前大ッキライ!」

仮面1「そして、季節は巡り。去年の秋」


   音楽がなると共に、
   カンノと、仮面達はわざとらしく、反対側隅へ移動。
   そこには既に椅子が用意されている。

   それまでカンノがいた場所に、高校生の服に戻ったスガノが現れ、椅子に座る。


仮面1「ねぇねぇ。カンノさん。見てよこれって、カンノさんじゃないよね?」

カンノ「なあに? ……書道大会で優秀賞?……私じゃないわね」

仮面1「すごくない? 同姓、同名。しかも、同じ一年生なんだって」

カンノ「え? その人も、カンノユミって読むの?」

仮面1「ううん。この子はね、スガノヨシミさんだって――」


   仮面1の言葉と共に、今度は仮面2が半紙を繰る。
   すると、そこには仮名を振られた「菅野 由美(スガノ ヨシミ)」が書いてある。


カンノ「スガノ、ヨシミ……」


   カンノは思わず反対側を見る。
   反対側では、スガノが無表情で本を読んでいる


仮面2「そして、高校2年の春。二人は、運命的な出会いをする」


   また再びわざとらしい音楽と共に、
   仮面1がカンノの椅子を中央へ運ぶ。
   スガノは椅子を持ったまま中央へ。
   そして、スガノはまた無表情で本を読む。
   カンノはそんなスガノにゆっくりと近寄って


カンノ「……あの、スガノさん?」

スガノ「……?」

カンノ「その席、たぶん私のだと思うんだけど?」

スガノ「え、でも……(と、出席番号表を見て)出席番号あってるけど?」

カンノ「本当? ……あ、ごめん! 私の名前、もっと前にあったわ。
    同じ名前だから、勘違いしちゃった」

スガノ「ああ、そう……」


    カンノは、ちょっとドキドキしながら隣りに座って。


カンノ「スガノさん、でしょ?」

スガノ「そう、だけど?」

カンノ「私、カンノ。カンノユミ。はじめまして」

スガノ「初めまして」

カンノ「私って、よく、スガノって間違えられるんだ。ほら、同じ字でしょ?」


   二人の後ろで、仮面1と仮面2が半紙を広げて立っている。


スガノ「そうだね」

カンノ「スガノさんも、間違えられた経験ない?」

スガノ「私は……ないかな」

カンノ「うそぉ! そんなことないでしょ? だって、スガノとカンノって同じ字を書くじゃない?」

スガノ「そうね」

カンノ「下の名前だって、私、ヨシミって呼ばれたこと何度もあるのよ。
    スガノさんは、ユミって呼ばれたことない?」


   二人の会話の背後では、
   半紙を持った仮面二人が、意味もなくお互いの紙を主張しあっている。


スガノ「別に」

カンノ「そんな……」

スガノ「名前呼ばれることってあんまりないから」


   スガノの言葉に、仮面二人はやたら大げさにショックを受ける。
   しょぼくれて去っていく二人をよそに、カンノは、受けた衝撃を必死に隠そうとしながらも、
   寂しそうに呟く。


カンノ「……そんな……やっと、同じ気持ちを持つ人に会えたと思ったのに……」


   カンノが俯く。
   音が大きくなる。
   そして、暗転。





   次の日。
   コーヒーショップ・ドートルでは、今日もアクトーレが一人暇そうにしている。
   時々、なにやらカウンター下を気にするそぶり。
   が、なぜか、急にまじめな顔で前を向いたりしている。
   動作がぎこちない。

   と、スガノが入ってくる。カバンには魔法の杖が刺さっている。


アクト「いらっしゃい。今日は遅かったね?」

スガノ「ここに来る気はなかったのよ」

アクト「……コーヒー、飲む?」

スガノ「アイスなら」

アクト「それは、コーヒーの対する冒涜だよ? クールにしときな」

スガノ「同じじゃん」


   アクトはクールに、コーヒーを差し出す


アクト「はい」

スガノ「……ホットだし……動作がクールってだけ!?」

アクト「うちは、ホットしかないんですよ。お嬢さん」


   スガノは、仕方なさそうにコーヒーを飲んで
   アクトーレは下が気になってしょうがないらしい。


スガノ「…………今日、カンノさん休みだったの」

アクト「そう」

スガノ「昨日、あんなの見たせいか、私も色々考えちゃって」

アクト「……そう」

スガノ「あれって、本当にカンノさんの過去シーンなんだよね?」

アクト「そう」

スガノ「脚色無しで?」

アクト「そう」

スガノ「……なんで、『そう』しか言わないの?」

アクト「そう?」

スガノ「……もういい。それで一日考えたんだけどさ。……なんで、カンノさん、
    私をあの髪型にさせたかったのか、やっぱりよく分からなくて……」

アクト「そう!?」

スガノ「何で嘘つかなきゃいけないのよ!」

十津川「てか、何で分からないのか分からない!」

光寺院「あなた人の心持っていらっしゃる!?」


   カウンターから声と共に、十津川と光寺院が現れる
   今日は、頭に何故か布を巻いている


スガノ「なんで! あんた達が!?」

十津川「あんたは絶対ここへ来るだろうと思ってね」

光寺院「隠れて待っていたってわけですわ」

スガノ「てか、どうしたの、その頭」

十津川「これは……」

光寺院「それよりも、ユミさんですわ」

十津川「ああ、そうだ」


   二人は言いながらカウンターから外へ出て


光寺院「話しはすべてこの店員さんから聞きました」

十津川「タテロールが嫌で、魔女っ子のコスプレで誤魔化そうとしたって聞いたときは、
     呆れて物が言えなくなったけどな」

スガノ「なっ……コスプレってあれは、まほ……」


   スガノが言いながらふと、アクトーレを見れば、
   アクトーレは口に指を当てて内緒の合図。


スガノ「……う使いサリ〜を、ちょっと、イメージしてね」

光寺院「あまりにも気持ち悪い攻撃でしたわね」

十津川「まぁ、それを見て、あたし達も色々考えさせられたんだけどね」

スガノ「どういうこと?」

光寺院「……ユミさんは、あなたと話しがしたかっただけなんですわ」


   なぜか、わざとらしく流れるしんみり音楽。
   そして、光寺院と十津川は語り出す。


十津川「初めは、同姓同名だからってだけだったんだと思う」

光寺院「でも、ユミさんって優しいでしょう?」

十津川「だから、クラスで孤立しているあんたを見てさ」

光寺院「助けたいって、思ったんですわ」

スガノ「そんな……余計なお世話よ」

十津川「重ねちゃったんだよ、自分と」

スガノ「自分、と?」

光寺院「ユミさん、高校までは、あまり友達いない方だったそうですから」

スガノ「そんな……いつもクラスの中心にいるのに?」

十津川「からかわれていたんだよ、名前で」

スガノ「名前?」

アクト「ああ、分かる。『スガノースガノー』とか『ヨシミ〜』とか、
    違う呼び方で呼ばれていじめられたんだ!」

光寺院「その通りです」

十津川「あたし達が、高校入ってから仲良くなったのも、名前繋がりなんだよね。
     あたしは、ほら、十津川なんて、妙な名前だし」

光寺院「私も、光寺院なんて、ぱっと聞き、よく分からないですし」

十津川「だから、あんたを初めてみたとき、ユミってば『自分と同じだ!』って思っちゃったんだよ」

光寺院「無視されたり、避けられれば、避けられるほど、
     昔の人付き合いのない自分と重なってしまったんですわ」

アクト「ええ話しや……」


   アクトのわざとらしい声に、音楽は消えてしまう。
   十津川と光寺院に睨まれ、アクトは小さくなって、カウンター下に入る


スガノ「そんな……そんなの、勝手だよ。私のこと、関係ないじゃん」

十津川「それは、あんただって同じだろう?」

スガノ「え――」

光寺院「ユミさんのこと、何も分かってあげないで、いやがるだけ。自分から、孤独に逃げて……」

スガノ「だって……なんでそれがタテロールに繋がるのよ! 意味分からないわよ!」

十津川「……ネタ、だったんだよ」

スガノ「はい!?」

光寺院「……その、アヌランス先生がしつこく薦めてくるし、スガノさんの気を引く方法も、
     なんか思いつかないからって」

十津川「ユミ的には、笑い話で終わるかなぁって思っていたんだよ……そしたら」


同時に
光寺院「流行っちゃったんですわ」
十津川「流行っちゃったと」


スガノ「そんな……何!? じゃあ、一発ネタだったの!?」

十津川「そのはずだったんだけどねぇ」

光寺院「ユミさんが、私たちも被ってみればって言ったところ辺りから、
     こう、話しが変な方向に行っちゃって……」

十津川「つけると、これがまた、なかなか面白いしね」

光寺院「私たちが流行らせたって、思うと、なんか益々、ね」

スガノ「そんな……私の悩みは何だったの……」

十津川「でも、昨日の話しを聞いて、ユミも反省したってよ」

光寺院「今日、私たちの分も、先生に返してくるっていって、持って行っちゃいましたから」

スガノ「え? じゃあ、今日学校は……」

十津川「下校の時にはあったけど?」

光寺院「ユミさん、よく部活だけ出るために学校来たりしますし。別に、いつものことですわよ」

スガノ「心配して損した……って、ことはその布の下は!」

十津川「急に、取られたから、髪の形がね」

光寺院「なんか、恥ずかしいんですわ」

スガノ「馬鹿馬鹿しい……それだけのことだったんだ」


   スガノはなんだか気が抜けて笑い出す。


十津川「なんだ、あんた笑えるじゃんか」

スガノ「え――」

光寺院「ちょっと、ぎこちないですけどね。素敵な笑顔ですわ」

スガノ「……ありがとう」

十津川「その言葉は、ユミに言って上げろよ」

光寺院「ユミさんが、ずっとあなたとお喋りしたがっているんですからね」

スガノ「……(うなずいて)いいね、カンノさんは。いい友達がいて」


   十津川と光寺院は顔を見合わせふと笑う。


十津川「馬鹿だなぁ。当たり前だろ」

光寺院「すぐになれますわよ。あなたも」

スガノ「え?」

十津川「光ちゃん、よくそんな恥ずかしいこと言えるな!」

光寺院「あら? 十津川こそ、『当たり前だろ』なんて、渋すぎますわ」


    スガノ、十津川、光寺院は思わず笑い出す。
    何故か、アクトーレもいつの間にか笑いに混ざっている。


十津川「いや、何であんたまで笑っているのさ」

アクト「いいじゃん。笑っても〜」

スガノ「えっと、混ぜてあげてよ……いい人、だから」

アクト「そうです。いい人です」

光寺院「自分で言うのは信用ならないですわ」


    とか、言っていると、
    何故か突然不穏な音楽と空気が流れてくる、


アヌラ「ああた達! こんなところにいたのねぇ〜」


    アヌランスが登場。
    その片手には、カンノを捕まえている。


十津川&光寺院&スガノ
「アヌランス先生!?」


アクト「こわっ」


    アクトーレは、すさまじく素早く、カウンター下に逃げる。


アヌラ「ごきげんよう。ああたたち、なに? 笑って解決? 笑って解決なの? 
    さわやかじゃない!? さわやかすぎじゃない? さわやか三組じゃない!?」


   アヌランスは言いながらカンノを放る。


カンノ「きゃあ」

スガノ「カンノさん!」

   
   スガノ達はカンノに駆け寄る。


光寺院「ユミさん……」

十津川「ユミ……大丈夫?」

カンノ「ごめんなさいね。スガノさん。無理矢理あんな髪型にしようとして……あたし達が、悪かったの」

スガノ「ううん。私も悪かったから。ごめん」

アヌラ「ああたたち、なにそれ? なんなのそれは。友情ごっこ? 
    友情ごっこであたくしのタテロール侮辱すると、承知しねえぞこらぁ!?」

十津川「先生、ユミに何を?」

光寺院「こんな事をして、教育委員会が黙っていると思っているんですか!?」

アヌラ「教育委員会なんて知らないわよ。あたくし、もう教師辞めましたんでぇ」

十津川「はぁ!?」

アヌラ「だって、今日あたくしがせっかく機嫌良く授業終えて帰ってくると、カンノさんが来るじゃない? 
    しかも、『もう、いらないんで』なんて言って、あたくしのポリシーを、
    三つも突き返してきたのよ? 
    三つよ!? ああたと、ああたの分だよ! もう、あたくし、切れちゃったもんね。
    だから、全力ですっ飛んできたのよ」

スガノ「いいじゃない。髪型なんて、変えたいときに変えたって」

アヌラ「これは、あたくしのポリシーなのよ! 孤独変人女は黙ってなさい! 
    あたくしは、この子達と話しをしているの!」

スガノ「…………」

十津川「……孤独変人女?」

光寺院「あら? 一体、誰のことを仰っているんですか? 先生」

アヌラ「なにぃ?」

カンノ「十津川さん? 光寺院さん?」

十津川「ユミ。なぁ、一体、ここの何処に、孤独変人女がいるんだろうな?」

光寺院「私たちには、分かりませんわよねぇ?」

スガノ「みんな……」

カンノ「……そうね。いないですよ。先生。孤独変人女なんて」

アクト「孤高の正義の使者ならいるけどねぇ!」


   そう言って、カウンターに躍り上がったのはアクトーレ。
   序盤で見せたへんてこな服を着ている。
   思わず、みんな固まる。


スガノ「えっと、孤独変人男なら、あそこに」

十津川「ええ、あそこに」

光寺院「あそこに」

カンノ「ほら、あれが」

アクト「なんだよ、お前等! せっかく人が助けてやろうと思っているのに!」

アヌラ「なにものよ、ああた」

アクト「正義の味方さ。あんた、魔法アイテム、勝手に一般人にばらまいてるそうだな。
    残念ながら、調べはついているんだ」

アヌラ「私はただ、この子達をビューティホーにしたいだけよ!」

アクト「だけど、いやがっている女の子を無理矢理っていうのはちょっと行き過ぎみたいだな。
    悪いけど、これでも正義の味方やらせてもらっているんでね」

アヌラ「ということは、ああた、魔法管理局員ね!」

アクト「ご名答」

アヌラ「あら? だけど、魔法管理局員が、一般人に干渉するのは、
    依頼があったときだけ、じゃなかったかしら?」

アクト「……あったさ。依頼」

アヌラ「魔法の国の住民からって言うのは無しよぉ。
    それだと、魔法アイテムの回収までしか、干渉できないわよねぇ?」

アクト「お詳しいことで」

アヌラ「一般の国のことは、一般人に任せていなさい。
    まぁ、あたくしがこっちの警察に捕まるわけ、ないけどね」

アクト「くっ……」

スガノ「依頼、あれば、動けるのよね?」

アクト「ああ。だけど、一般人からの依頼は」

スガノ「バレンタインチョコの数としては微妙な数」

アクト「……(はっとして)そうか」

スガノ「カンノさん、十津川さん、光寺院さん」

カンノ「はい?」

十津川「え、なに?」

光寺院「はいですわ?」

スガノ「あの人に、依頼して。どうにかしてって」

三人 「はぁ?」

アクト「いいから、依頼しろ! 俺を信じて」

三人 「いや、無理」

アクト「声合わせるなよ!」

アヌラ「させるか!」

スガノ「さらに、させるか!」


    アヌラの攻撃を、素早く、スガノは魔法の杖で受ける


スガノ「えっと、店員さん、お願いします。何とかして下さい。これでいい?」

アクト「OK! まずは一人!」

三人 「えっと……」


   十津川、光寺院、カンノは互いに顔を見合わせる。


スガノ「私を信じて!」

三人 「(お互いに、うなずく。そして、アクトーレを見て)任せた!」

アクト「それだけかよ! いや、だがOK。魔法管理局規則第12条に乗っ取り、
    一般人への干渉を開始します!」

アヌラ「馬鹿が。ああた一人で何が出来るって言うの!(スガノから杖を取り上げ)こんなオモチャ。
    何の役にも立たないわよ」


    言いながら、アヌランスは、スガノを張り飛ばす。
    倒れたスガノへ高校生三人は駆け寄る


スガノ「あっ……」

三人 「スガノさん!」

アクト「残念だけど、俺は魔法遣いなんだよ。魔法遣いは、誰かを助けるためなら、
    とびきりの魔法が使えるのさ!」


   アクトーレは杖を出し、呪文を唱える。


アクト「ハラリヒラリフラリ ヘラリホラリホラフイテ ショウカン! 最強の戦士!」


   アクトーレの呪文が終わると同時に、派手な音楽、そして、扉が急に開く。
   ベラドンナがそこに立っていた。
   すさまじく派手な化粧と、スタイルによって、その場にいる物すべてを硬直させる。


ベラド「呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーーーん」

アクト「べ、ベラドンナ様!? あれ? なんで!?」

アヌラ「……ま、ママァァァァーーーーー!!!?」


カンノ&光寺院&十津川&スガノ&アクト
「ママだとぉ!?」


  激しい衝撃音楽とともに、舞台は一度暗転となる。




   ここはコーヒーショップ・ドートル
   いつものように、アクトーレはグラスを磨く。
   ふと、何処へ語るのか分からない口調で語り出す。


アクト「世の中、何が起こるか分からないものです。まさか、依頼主が、騒ぎの元凶の母親だなんて。
    しつけを厳しくすると、子供がどう歪むのか、まざまざと見せられたような気がします。
    そう、これって、教訓劇だったんですねぇ。今、知りました。はぁ。
    それにしても……平和って言うのは……暇だ……」


    と、スガノが入ってくる。
    なんと、タテロールを装着している。


スガノ「こんにちは〜」

アクト「いらっしゃいって……うぉう!? どうしたの! それ」

スガノ「ああ? これ?」


    と、ぞろぞろと、カンノ、光寺院、十津川も入ってくる。
    みんな、思い思いの髪型である。


カンノ「こんにちは、です」

光寺院「お久しぶりですわ」

十津川「相変わらず、客がいないねぇ。ここは」

アクト「……いや、そんなことより、どうしたの?」

スガノ「次は、何を流行らそうかと思って」

アクト「え?」

カンノ「タテロールの代わりになる物を、今考えているんですわ。スガノっちには、
    一応、思い出としてタテロールを味わってもらっているんです」

アクト「へぇ……(ふと、名前に気づいて)スガノっち……ねぇ」

スガノ「(焦って)別に、私はね、どうでもいいって言ったのよ」

アクト「……よかったね」

十津川「ほら、店員さん、コーヒー」

アクト「うちは、アイスはないよ」


   高校生四人は顔を見合わせ


十津川「馬鹿だなぁ」

光寺院「アイスコーヒーなんて……ねぇ」

カンノ「コーヒーに対する冒涜です」

スガノ「……(ちょっと得意そうに)だってさ」

アクト「かしこまりました」


    嬉しそうにコーヒーを作ろうとするアクトーレ
    と、電話がかかってくる。
    黒電話がなり、いつものように携帯で出ようとする……が、
    今回は直接黒電話がなっているらしい。ようやく電話に手を伸ばして、取ってみた。


ベラ声「ちょっと、アクトーレ」

アクト「こ、これは、ベラドンナ様!」

ベラ声「あたしの出番ってあれだけなの?」

アクト「さぁ。私が決めたわけではありませんので」

ベラ声「納得行きません」

アクト「そう言われましても……」

ベラ声「というわけで、今から行きます」

アクト「え!? ちょっと、ベラドンナ様! もう、エンディングですよ!?」

ベラ声「だから、行くんです。というより」


   ベラドンナが、カウンター下から現れる。


ベラド「もう来ています」

ALL 「うわああああああああ」

  
   音楽と共に、一気に暗転。
   そして、カウンターだけが光で浮かび上がる。
   カウンターには、仲良くコーヒーカップが並べられている。
   その数は六つ。一つのカップには、べっとりと口紅がくっついていた。
   



あとがき

コーヒーショップではドトールが好きです。
あの薄暗い照明。
お昼時になると、
注文を一人で受けて修羅場化するカウンター裏。
不思議に上手いローストチキン。
良心的な量のコーヒー。
静かなBGM。
時々読み間違えるドトールのスペル。

「ああ、ここにはファンタジーがよく似合う」

大好きなベーグルサンドを頬張りつつ、
邪道と思いつつアイスコーヒーをストローですい、
ふとそんなことを考えた地元のドトール。

楽しんでいただければ幸いです。