Dream Line

登場人物
ルギ  精神年齢15歳 フェミニストのませガキ    
ユイ        16歳 元男のナルシスト      
アキ        20歳 キザな台詞の怪盗      
ヒメ         18歳 夢見る乙女な少女      
ボン        26歳 典型的に憧れる金持ち    
ジュン       24歳 警官(警部)         


暗転
○ヒメの住む場所

上手にヒメが座っている(顔俯いている)
その下手側前にルギが立っている

音響CI
照明→上手サス(大きめ)

ルギはヒメに近づき、何か声をかけようか迷っている

音響FO


ルギ「ねえ」


ヒメ ルギの言葉に俯いていた顔を上げる


ルギ「これで、よかったの?」


ヒメ 頷く


ルギ「そう。じゃあ良いんだ。ヒメが良いんなら、それで」

ヒメ 俯く

ルギ「……ねえ、じゃあ、いつまでそこにいるのさ」

ヒメ「……いつまで?」

ルギ「もう、僕らの話は終わろうとしているのに。……ヒメは何かしないの?」

ヒメ「なにも」

ルギ「なにも?」

ヒメ「だって、何をしていいかわからないから」

ルギ「そう。……じゃあ、さ。僕の願いをかなえてよ」

ヒメ「願い?」

ルギ「うん。だって、僕はヒメの願いを叶えてあげたんだから。僕の願い事を聞いてくれたっていいでしょ?」

ヒメ「でも、私には何も出来ないわよ」

ルギ「大丈夫だよ。簡単な願い事だから。……(ちょっとカッコつけて)闇に生きるがさだめの悪魔、ルギめがヒメ様にお願い申し上げます。どうかこの僕に、貴方と日の下を歩く名誉をあたえてください」


ヒメ 少し微笑んで


ヒメ「私でよろしければ、喜んで」


ルギの差し出す手にヒメの手が重なる。

照明CI→舞台上を紅く
音響CI→

ルギ&ヒメ上手へと退場する

音響CO
暗転

ボン 石(大道具)の上でポーズ

○ボンの家(庭)
照明→全照(緑ベース)
上手からジュンが入ってくる。(コロンボみたいな格好)


ジュン「また、予告状か? だいたい、毎回毎回盗まれるくせに、新しい家宝を手に入れる方がへんだって言う気もするがね。まあ、今度こそは、あいつをお縄にしてやるから、安心して良いって……って? あれ? おい、ボン……どこいったんだ? いつもならここらへんでのんびり、星でも見ているはずなのに……」


ジュン暫くボンを探すが、いない


ジュン「まあ、いいか」


ジュン振り返って上手の銅像(ボンが化けている)を見る。


ジュン「しかし、こんな悪趣味な物を、よく盗もうなんて考えるもんだ……わざわざ予告状までつけて。……ん? そういや、もう今日が終わってしまうな……おかしい。「3/(大会の日)確かに家宝の銅像を受け取りに来ます」と書いてあるのに……」


音響CI→時計の音


ジュン「(時計の音を数える)……日が変わった。……どうしたんだ? 怖気ついたのか?」


音響→時計の音が変わる(時計の音のあとに音を入れておく)


ジュン「な、なんだ?」


照明→暗転
  →中央サス
下手からアキ登場。
音響FO


アキ 「月の光はこよい今宵も私を導いてくれる。欲にまみれた輝きの元へ。私はその輝きをいだき抱き、天へと返そう。夜空が前より明るくなって、見上げる人々が笑顔を見せられるように……人は私を」

ジュン「なんだ、アキ、遅かったじゃないか。もう日は変わってしまったぞ。寝坊か?」


照明→全照(緑ベース)


アキ 「……人は私を」

ジュン「まさかお前でも失敗する時があるとはなぁ。まあ、今日という今日は観念して、大人しく捕まるんだな」

アキ 「人は私をぉ」

ジュン「どうした? 決り文句をまだ言ってなかったのか。(アキ頷く)しょうがないなぁ、『人は私を「闇夜の狩人アキ」という!』 だろ。早く言ってくれよ。そっちが決めないとこっちだって動きづらいんだから」

アキ 「ひ、ひどい……(うなだれる)」

ジュン「え?」

アキ 「人の台詞取るなんて……人の台詞をかむより太刀が悪いじゃない!」

ジュン「うっ……すまん」

アキ 「今度から気をつけてよね」

ジュン「はい……ってぇ、何で俺が謝らなくちゃいけないんだ! そんなことより、アキ! お前はとうとうヘマしたな。銅像はこのとおり、3/(大会の日)をすぎても、盗まれずに置いてあるままだ」

アキ 「ふっ。警部。私がミスをすると、本気で思ってるの? まさに、蝶のようにはかない姿でありながら、幻のように現れては夢の輝きを盗み出す、この怪盗アキが」

ジュン「なに? どういうことだ!?」

アキ 「私はすでに銅像を盗み出しているという事よ。警部はどうせ夜に盗まれるんだろうと思って、昼過ぎに警備に来るだろうから、警備を始める前、つまり、(大会の)日の朝早くにね!」

ジュン「しまった……その手があったか……ではこれは、イミテーションか?」

アキ 「ええ。ちょうど朝の乾布摩擦をしていたボンさんを、眠らせて、銅像のように置いておいたのよ」

ジュン「なるほど、道理でボンの姿が見えないはずだ……って、ボン! しっかりしろ!」

アキ 「それじゃあ警部。また星同士がめぐり合う時にでも、会いましょう」

ジュン「待てアキ!」


アキ、下手へ退場。


ジュン「……ちっ逃げられたか。銅像なんて手に入れてどうするつもりか、ぜひ聞きたかったのに……(ボンを見て)こんなのの銅像なんて、誰か買うのか? まさか、アキはボンの事を……はぁ。疲れてるなぁ……おい! 引き上げだ。……あん? ボン? ほっておけ。じき目を覚ますだろう。あ〜あ、また警官の不祥事なんていわれるのかねぇ……」


ジュン上手へ退場。
ボン、目覚める


ボン 「刑事さん? 待ってくださいよ刑事さん。怪盗が出たんです。ねえ、刑事さん!」


ボン上手へ退場。

照明→暗転
  →上手サス
音響FI→(寂しげな音

○城から出る道(夜? というより常闇)

ルギ 上手から登場
音響FO


ルギ「さ、ヒメ足元に気をつけて。こっちだよ。さあ、早く」


ヒメ 上手から登場
   恐る恐るあたりを伺って
ヒメ「なんで、真っ暗なの?」


ルギ「それは、この道をヒメが作っていなかったからだよ。ヒメが自分の場所から動く事は、ヒメが考えない事だった。だから、ヒメが行くはずのない道、見るはずのない場所は、ありもせ
ず、暗闇のままなんだよ」

ヒメ「それは、進んではいけないということじゃないの?」

ルギ「ヒメ。……誰もが暗闇の道を進まなくちゃならないんだよ。初めから分かっている道を進む人なんていないんだ。ただ、それだけの事なんだよ」

ヒメ「でも、暗い……」

ルギ「大丈夫。今は僕がついているから。ほら、もう光が見えてきた。道は果てしなく続いているように思えても、どこかに必ず光があって、泉が湧いていて、公園があったりするんだよ。どこを自分のゴールにするかはその人次第だけどね。分かる?」


ヒメ 頷く


ルギ「(嬉しそうにヒメの手を取り)いこ!」


ヒメ&ルギ上手へ退場
照明→(紅ベース)
音響CI→軽め

○町はずれ

アキ 下手から登場
音響FO


アキ「はぁ。それにしても簡単だったなぁ。まるで、夜空の星が、私の行動を見守って導いてくれたみたいに。限りなく続く日々の中で、私は変わらずに、光を受けつづける……終わらない日々。朝になり、夜が来れば、星は私をまた輝きでつつみ、導いてくれる……変わることの無い日々。いいなぁ……って、もう朝かぁ。夜型は肌が荒れるからなるべく止めないとなぁ。今日なんて朝から起きてたから、きついや」


音響CI→
ボン 上手から登場
ボンかなり酔っ払い?


ボン「あ〜、朝だねぇ。おはようございます」


ボン 近くの石(大道具)に笑いかけて、そのまま座る。


ボン「あれ? ねえ、君なんかちょっと硬くない? 僕も硬いよぉ勝負しようか……(頭をぶつけて)ああ、痛い痛い、引き分けぇ……」

アキ「ボンさん、おっはー」

ボン「あれれ? アキさんじゃありませんか。おはよぉ」

アキ「……私のこと、追いかけないの?」

ボン「どうして追いかけないの?」(真面目に石に質問する)

アキ「いや、それはこっちの台詞」

ボン「だって、俺はしがない酔っ払い。な〜んも、理由は無いよ」

アキ「…………酔っ払い?」

ボン「そう」

アキ「……ねえ、ちょっと、どうしちゃったの、ボンさん。あなたさっきまで、お金持ちの、一人息子ボンだったでしょ? それに、ボンさんはお酒は飲まないはずよ」

ボン「いいんだよ、もう、俺なんていらないんだからさ」

アキ「いらない?」

ボン「そ。お金持ちはいらないのです。だから、俺はのん兵衛になったのです。まあ、お酒は飲んでみたかったし、良いんじゃない?」


ボン あくびをする


アキ「ちょっと、それってどういうこと?」


ボン、寝ている


アキ「ねえ、ねえ、ボンさん!」


アキ、ボンの肩を揺らす


ボン「うっ……気持ち悪……」

アキ「ああ、ちょっと待って、ほら、今どこか休める場所に連れて行くから、肩かして……どうなってんの?」


アキ ボンを連れて上手へ退場。
照明→暗転
音響FO
(スタッフはこの時舞台をチェンジ)

○ユイの家(お昼)

音響CI→
照明→全照(青ぽい色ベース)
下手よりユイ登場。
石(大道具)の上に鍋があると仮定して、それをかき混ぜている。


ユイ「(歌っている)」


アキ上手から登場


アキ「ユイ〜〜〜!!」


叫びながら、アキ、ドアを開けるしぐさ。そのまま中に飛び込んでくる

ユイ振り返る


ユイ「どうしたの、アキちゃん」(笑顔)

アキ「……すいません、家間違えました!」


アキ、蒼白(驚きすぎて固まる)になって、上手へ一度退場する。

ユイ、不思議そうに


ユイ「またどうぞ」


ユイ、鼻歌で自分の歌を歌っている

アキ住所を確認しながら、恐る恐るといった様子でドアを叩く。


ユイ「はい、どうぞ」

アキ「しつれいしまーす。……あの、ユイは?」

ユイ「だから、なによアキちゃん、さっきから」

アキ「…………ユイ?」(ユイを指差す)

ユイ「そうだって言ってるでしょ」

アキ「魔法使いの?」


ユイ 頷く


アキ「この世界の全てを知っているという?」


ユイ 頷く


アキ「いつも杖を持っている?」

ユイ「ここにあるわよ」

アキ「私の友人の?」


ユイ 頷く


アキ「…………男の?」


ユイ 首を振る


アキ「ユイなの?」(声、震えている)

ユイ「(ニコリと笑って自身を指して)そう、ユイ」

アキ「あんたこの間まで男だったでしょぉぉ!!」


詰め寄るアキに結いは動じずに笑って


ユイ「やあねぇ。別に、男か女かなんて関係無いじゃない。遺伝子上のXかYかなんて、私の美しさにかかれば、無いも同然よ」

アキ「ついてたものはどうしたのよ!」

ユイ「あんな物、魔法でちょちょいっとね」


ユイ笑いながら、スープ(?)をよそってアキに差し出す


ユイ「まあ、そんな事より、まだ外は寒かったでしょ。ほら、スープでも飲んで温まって」

アキ「うん……(スープを一気に飲む)はぁ……胸はどうなってるの?」

ユイ「ああ、これは、大量ホルモン摂取でね」

アキ「変なところだけ科学的なのね……まあいいわ。ちょっと、いや、かなりびっくりしたけど。前からユイってどこかそっちのけありそうだったし、予感はしてた。うん、大丈夫。大丈夫よ私、ガッツ」(自分を励ましてから、コップを差し出す)


ユイ コップを受け取り、笑顔でまた鍋をかき混ぜようとする


アキ「スープありがと。なんかふしぎな味ね。何でダシ取ってるの?」

ユイ「別に、大した物入れてないわよ。ただ、お肉の有効利用をしなくちゃと思って」

アキ「有効利用?」

ユイ「ええ。取っちゃった肉も、捨てるとなると勿体無くて」


アキ 瞬間固まる


アキ「と、いうと……もしかして、このスープは(ユイの体を見る)……うっ」

ユイ「なによ失礼ね、こんな所で吐かないでよ」

アキ「だ、だって。(吐きそうにしながら)あんた、なんてもの入れるって言うか人に食べさせるのよぉ(涙声)」

ユイ「夕食の残りのお肉ばっかり入れたスープの何がそんなに嫌なのよ」

アキ「へ?」

ユイ「別に、そんな変な味はしないと思うけど」

アキ「なんだぁ……よかった……」

ユイ「まったく、一体なんだと思ったのよ」

アイ「そりゃあ、……って、言えるわけ無いでしょ、そんな事!」

ユイ「変なアキちゃん。それで? 今日は一体なんのようなの?」

アキ「あ、そうそう。忘れるとこだった。ユイに聞きたいことがあってきたのよ」

ユイ「なんでも聞いて良いわよ。この美と知識をつかさどる司る妖艶なる魔女ユイに答えられない物は無いわ」

アキ「……なんか、またナルシスト度が進行してない?」

ユイ「そんなことないわよ。ただ、だんだん理解してきたのよ。私という存在の美しさを、ね」

アキ「え、えっとね。ユイにも関係しているかも知れないんだけど。なんか、世界の人が変なの」

ユイ「世界の人が変? 私は別にまともだけど?」

アキ「でも、ユイだってこの間までは男だったでしょ。それでね、今日ボンさんにあったんだけど」

ユイ「ボンってあのお金持ちの?」

アキ「そう。お金持ちで、毎回私に何か盗まれるはずだったボンさん。あの人、今日あったら酔っ払いになってたの。それで、ユイのところに来たら、ユイは女になってるし」

ユイ「ただの偶然でしょ?」

アキ「でも、今まで私たちの世界が変わることなんてあった? 私はずっと怪盗で、ユイは時々助言を与えたりする魔法使い、そういう役だったでしょ。それに、最近じゃない。ユイが、へんに自分の事美しいって言い出したりしたのも」

ユイ「つまり、この世界に変化がおとづれているって言いたいわけね、あなたは」

アキ「そう、そういうこと」

ユイ「……でも、そうなると考えられる事は一つしかないわね。私の美しさは別として、ボンが酔っ払いになったなんて事を考えると」

アキ「それは?」

ユイ「ヒメに何かが起こったって事よ。あの(といって前方を指す)山の上にある城から、私たちを見ているヒメにね」

アキ「何かって何?」

ユイ「そんなの聞かれたって分からないわよ。最近あまり外の事なんて見てなかったし」

アキ「ほら、やっぱり変だよユイ。前は、世界中を見ていて、いつもいろんな事を知ってたのに」

ユイ「だって、この世の中に私より美しい物がいないって言うのに、私以外を見ているなんて、つまらないし、時間の無駄でしょ?」

アキ「……それで? ヒメは今何をしているの?」

ユイ「さりげなく無視したわね? いま」

アキ「何のこと?」

ユイ「まあいいわ。ちょっと待って。今、この鏡に映し出してあげる」


ユイ 手鏡を取り出す。

下手側で鏡を覗き込むユイ(鏡の背は観客)に、アキは近づく


ユイ「鏡よ、鏡のなかに眠りし精霊よ(マジ)この世界で(口調変わって)一番美しい物は? (トーンを変えて)『それは貴方です』やっぱりぃ。まったく、鏡も上手いんだ・か・ら」


アキ 無言で殴る(チョップでも可)


アキ「殴るよ?」

ユイ「殴ってるじゃない。……分かったわよ、真面目にやるわよ。そんな怒らないでよアキちゃん。ただ、突然覗き込んだ鏡の中に、あんまりにも美しい人がいたから、つい見惚れちゃっただけ」

アキ「はいはい。それで」

ユイ「(咳払い)鏡よ。我が力により、望みの場所を移したまえ。この世界の創設者であり全てを眺めし者、ヒメはいずこに?」


照明下手半分暗く、上手明るく

(上手サスを広めにしてもOK)色は緑?

アキ&ユイはストップモーション
ヒメ&ルギ上手から登場


ルギ「ねぇ、ヒメ。外に出てみるのも良いでしょ? 悩んでいる時は日の光を浴びるっていうのもお勧めなんだよ」

ヒメ「でもちょっと疲れちゃった。少し休みましょ」


ヒメ 石(大道具)に腰かける。
ルギ その近くに立って


ルギ「ほら、僕も太陽の下なのに少しも苦しくないよ。全てが変わり始めた証拠さ」

ヒメ「そうね」

ルギ「ほら、ヒメの靴も少し汚れてきている。お城の中に留まっていたままじゃ、靴だって少しも使われなくて、可哀想だよ」

ヒメ「……だけど」


音響→CI
ルギ(歌う)ヒメを慰める&励ます歌っぽいの
歌い始めヒメは明るくなるが、曲の終わりにまた俯いてしまう


ルギ「……まだ迷っているの? 今ならまだ取り返せると思うから?」

ヒメ「うん」

ルギ「何を取り返すの? そりゃあヒメがいる場所は、とってもゆるやかで、それこそ平らみたいな川の中だけど。それでも、川は少しずつ流れつづけるんだよ。川岸に引っかかったままの誰かを残して」

ヒメ「それじゃダメなの?」

ルギ「……確かに留まったままの水は日に暖められて温かくって、とても気持ちがいいものだけど、流れつづける水は、たとえ冷たくても、日々新しい景色を見ているんだよ?」

ヒメ「それでも……」

ルギ「水の温かさに騙されているとね、ある日突然気付く事になるんだよ。周りには自分の知っている人がいなくて、居心地の良かった場所はいつの間にか、よどんだ瞳の魚達のすむ、寝床になっていることに」

ヒメ「……変わらなくちゃ、いけないのかな」

ルギ「そうだよ。ヒメは変わることができるんだから。流れつづけなきゃいけないんだよ。大丈夫。僕がついているから」


ヒメ 頷こうとする
アキ突然顔を上げて


アキ「ダメだよヒメ、変わっちゃダメだよ!」


暗転
ルギ&ヒメ上手へ素早く退場
全照


ユイ「あ……あぁあ、急に大声出すから、消えちゃったじゃない」

アキ「ダメだよ、変わっちゃ」

ユイ「アキ?」


アキ 何か決心したように上手へ向かう


アキ「ありがとうユイ。何で、こんな世界になったのか分かったよ」

ユイ「ええ、でしょうね。それで? どこへ行くの?」

アキ「ルギを倒す。そうして、ヒメに言うの『変わらなくても大丈夫だよ』って」

ユイ「変わろうとすることがヒメの意思だとしても?」

アキ「そんなことない。ヒメは迷っているだけよ、ルギにそそのかされてね。変わることがいいみたいに思い込まされそうになっているのよ」

ユイ「……なんで、そんな事があなたにわかるの?」

アキ「だって……だって、私は変わりたくないのよ。ヒメがこの世界の創設者なら、私達はヒメの心の一部。その一人である私が変わりたくないって思っているんだから、ヒメも、きっとね」

ユイ「……そうかもしれないわね。私は手伝えないけど、がんばってね」

アキ「何か予定でもあるの?」

ユイ「ええ。これから、大切な人とディナーの約束があるの」

アキ「ええ! だれ?」

ユイ「わ・た・し」

アキ「(ため息)じゃ、じゃあいってくるね、ユイ」

ユイ「いってらっしゃい」


アキ 上手へ退場
ユイ 手を振ってアキを見送ってから


ユイ「変わりたくない、か。……アキちゃん。あなた、キザな台詞の怪盗役だったのに、いつの間にか台詞が普通になってるのよ……きっと気付いてないだろうけど。今この世界は変わり始めたんじゃなくて、変わっていることに気付き始めただけなのかも知れない……さ、食卓の準備しなきゃ。待っててね? 私」


ユイ 下手へ退場

○警察署前の公園(夕方)
照明→紅ベース
音響CI→
ジュン&ボン上手から登場
ジュン「だからぁ、麻雀なんてのは結局退廃的な遊びでしかないんだよ、つまらないし」

ボン 「そんな事言っても、一度いい手が出ちゃったら止められないだろ」


二人石(大道具)を引き寄せて座る


ジュン「いい手ねぇ だからって、四人で卓を囲んでだよ? みみっちくやってるのはなぁ」

ボン 「確かに、あれでタバコ吸うとすごい事になるからな」

ジュン「やっぱり、平和的に、賭け事は自転車だよ」

ボン 「だから、そこが違うんだって。何でそこで競輪に行くんだよ。馬の方が絶対面白いって」

ジュン「馬ぁ? 大の大人が何で、たまの休日に馬の尻なんて追っかけなくちゃならないんだよ」

ボン 「そういう風にいうからへんに思うんだよ。競馬はね、言うなれば、ロマンなんだなぁ」

ジュン「ロマンねぇ。ロマンって言ったら(パチンコの手つき)こっちでしょ」

ボン 「なに言ってんだ、下手なくせに……『お、ほら、今リーチになってるよ』」

ジュン「え? (パチンコの台を見つめるように)」

ボン 「あ、ああ当たったじゃんか!」

ジュン「え? なに? なにこれ?」

ボン 「なにこれって、確変きての大当たりって、何でそこで手を止めるんだよ!」

ジュン「え? 当たったから終わりじゃないの?」

ボン 「ダメだよ、ほら早く玉入れてって、何でそんなちんたら撃つんだよ終わっちゃうだろ! ほらどけ」

ジュン「ぐあ……」


ジュンその場に突き飛ばされる。


ボン 「あーあ。終わっちゃった。………ご感想は」

ジュン「最悪。もう二度と、パチンコなんてやるか」


アキ上手から登場


アキ 「警部!」


ボンとジュンを交互に見て


アキ 「こんな所で、何しているんですか? それも男二人で…………まさか」

ジュン「ちがうぞ」

アキ 「ユイが男をやめて女になったように……警部は……」

ジュン「違うって!」

ボン 「うわ、やだぁ」

ジュン「お前が押し倒したりするから話がややこしくなるんだろ!」

アキ 「ええ! じゃあ、ボンさんの方が……」

ボン 「違う違う。俺は、まとも」

アキ 「俺はってことは……」

ジュン「だ〜から、ちがう! それで、アキは何のようで来たの?」

ボン 「出来ちゃったんだよ」


ボン、ジュンの肩を叩く


ジュン「お前は黙ってろ」

ボン 「そろそろつわりが厳しい時で」

ジュン「だ〜から、お前は黙ってろって。それで?」

アキ 「あ、そうそう。警部に力を貸してもらおうと思って」


ジュン「俺の力?」

ボン 「決まってるだろ? 子作りは一人じゃできないからさ」

ジュン「いい加減にしろよ? お前」

ボン 「……はい」

アキ 「あの、ルギを倒すために力を貸して欲しくって。警部は、拳銃も持っているし」

ジュン「ルギ? って、悪魔の? あの、人をたぶらかすのが仕事な?」

アキ 「そう」


ジュン真剣な顔で、アキの肩を叩いて


ジュン「……いいかい、悪魔なんて者は、この世にはいないんだよ。例え俺が彼の設定を知っていたとしても、それはそれ、これはこれだ」

ボン 「大人はいつもそう言って不思議な存在を誤魔化すんだよな」

ジュン「失礼な。いないものはいないだろう」

アキ 「……魔法使いはいても? というか、この世界が何でもありでも?」

ジュン「そんなこといっても、俺は会ったこと無いからなぁ」

ボン 「まるでサンタはいるかと聞かれた父親のようだぞ」

ジュン「サンタねぇ……(子供に言うように)サンタはいるよ、君が良い子にしていればちゃんとプレゼントをくれるさ。だからね、お父さんの言う事を聞いて、早く寝ようねぇ」

ボン 「うわっやな大人」

ジュン「うるさい」

アキ 「とにかく、ルギを倒すために力を貸して欲しいの」

ジュン「う〜ん、残念だけどなぁ。実は俺、もう警部じゃないんだ」

ボン 「そうそう」

アキ 「え?」

ジュン「な〜んか、正義を振り回して歩くのも疲れちゃってさ。というより、警察って、今流行じゃないじゃん? 不祥事ばっかり起こしてるせいでちょっと事件を解決したって、むしろ犯人より疑わしそうな目で見てくるし。だいたい犯罪を起こす人間が、本当に悪いのかっていうと、そうじゃなくて、この社会が悪いんだって言い出すやつまでいるしさ。娘も、父親が警察だと、このごろは肩身が狭いみたいだから……思い切って、ボンと組んで、何か賭博で儲けようかなと思ってさ」

アキ 「……警部って、娘さんがいるんだ……」

ボン 「そこが驚くポイントなのか?」

ジュン「設定ではね」

アキ 「設定では?」

ボン 「そう。コロンボ警部の奥さんみたいな物だよ。暴れん坊将軍の息子とか。いるんだけど、でてこないの。良くあることさ」

ジュン「お前が説明するなよ」

アキ 「警部も、もう変わっちゃったんだ」

ジュン「まあ、ただ職業を変えただけで、俺の中は特に変わってないと思うがね。例えるなら、FFでジョブチェンジをしたとしても中身は変わっていないような、いくらいい奴の役をつけられたとしても、やな人間が急に変わるわけが無いというような、そんな感じかな?」

ボン 「カツオがいつまでも小学五年生で、クレヨンシンちゃんは妹が生まれたのにもかかわらず、幼稚園児のままって、そう言う事だよな」

ジュン「……なんか、お前のは違う気がする」

アキ 「変わってないって言いたいの?」

ジュン「いや、正直あんまり変わったってのは分からないな。俺は、俺だから」

アキ 「自分は、自分……」

ボン 「そう、俺は俺ね。いい事いう」

ジュン「いやぁ」

アキ 「じゃあ、でもどうやったらルギを倒せるの?」

ジュン「だから、悪魔なんて者はいないんだよ」


ルギ&ヒメ 上手から登場
      三人の会話に気付いて、ルギはヒメを上手(舞台外)に留まらせ会話を盗み聞く


ボン 「そうそう」

ジュン「悪魔なんてのは、迷信から生まれたもんで、何でもない写真が心霊写真に見えるようなもんさ」

ボン 「隠していたはずのクッキーがいつの間にかなくなってたり、な」

ジュン「あ、ごめん。それ、俺だ」

ボン 「なにぃ?」

ルギ 「ねえ 今、僕の事話してなかった?」


音響CI→ショック


ボン 「…………だれ?」

ルギ 「ルギ。常闇に済む悪魔の眷属が一人さ」

アキ 「ルギ……」

ジュン「まさか……本当に、悪魔?」

ボン 「まじで?」

ルギ 「そう。悪魔のルギだ。人間、敬うがいい」

アキ 「ルギ、貴方に話があるの」

ルギ 「もちろんいいよ。お姉さん♪」

アキとルギ、睨み(?)あう

ジュン「えっと、じゃあ俺は邪魔になりそうなのでこの辺で……金儲けになりそうなこと探しに行かなくちゃいけないから。あはは」

ボン 「違う、ロマンを求めて旅に出るのさ」

ジュン「いい事いうねぇ」


ジュン&ボン 退場


アキ「全然頼りにならない……」

ルギ「しょうがないよ。悪魔と人では、力の差が大きすぎるからね。それで、お姉さんは、僕に何のようなの?」

アキ「……まず、そのお姉さんって言うのを止めてよ」

ルギ「だったら、なんて呼べばいいの? 僕、君の名前わからないもん」

アキ「アキよ。それでいいから」

ルギ「そう。じゃあ、アキ。僕に、なんの話があるの?」

アキ「ヒメをたぶらかすのをやめて」

ルギ「たぶらかす? どういう意味?」

アキ「分かってるのよ、あなたがヒメに『変わることがいいことだ』みたいな事教えていたって事。そして、そのせいで、皆が変わってしまったこと。一体、何を企んでいるの?」

ルギ「企むなんて、おかしな事を言うなぁ。僕は、ヒメの願い事を聞いてあげただけだよ。ヒメが願ったんだ。変わる事を」

アキ「うそよ」

ルギ「嘘じゃないさ。ヒメだっていつまでも子供じゃないんだ。夢を、この世界を作り出した頃の、夢見る少女なんかじゃない。世界には正義を守る人たちがいて、お金を持っている人が一番偉くて、だけど、そのお金を盗みに来る華麗な泥棒がいて、そして、世界の全てを知っている大人が必ずいる。そんな夢だけでは、生きられなくなっているんだよ、もう、随分前からね」

アキ「そんなことない。いいじゃない、夢なんだから。おとぎ話のような、当然の物語、初めと最後が分かっているのに、何度も見たくなる絵本のような、そんな夢を見ていたって」

ルギ「……ヒメはね、もう子供じゃないんだよアキ。自分が周りに取り残されているって言う事にも気付くほど、彼女は大人になったんだ。そして、僕に頼んだんだよ。唯一彼女に話し掛ける事ができる、夢の世界の誘惑に。誘惑に打ち勝つ清純なヒメ役ではなく、冒険の中に裸足で飛び出していく女性に、彼女はもう成長しているんだ」

アキ「……変わるってそんなにいい事なの?」

ルギ「そんなこと、僕には分からないよ」

アキ「そんな! そんなの無責任じゃない。変わっていって、結局前のほうが良かったら、変わろうとしたことが無駄ってことでしょ」

ルギ「無駄なんかじゃない……変わろうとするのは、無駄なんかじゃないさ。……世界はいつも変わりつづけているんだ。人が生み出した文明は、栄え、衰えていく。あまりにも巨大な川が、その変化を気付かせないままに、だんだんと川岸を削っていくようにね。変わらない物は無いんだ。変わろうとすることは、生き物の、いや、この世に存在する物の当然な流れなんだよ」

アキ「……私は変わってなんかいないわ」

ルギ「そんなことないよアキ。君だって変わっているはずさ。ただ、その変化に、自分自身が気付かない事があるだけでね」

アキ「私は、私は変わりたくないのよ。いいじゃない、流れに取り残されたって、自然に逆らう事があったって。変わるって事が、あたりまえなんて変よ」

ルギ「アキは、何を恐れているの?」

アキ「……恐れてなんて」

ルギ「アキは、逃げてるんじゃないの? 自分が変わることから。時間が流れて行くことから。今の自分が心地いいから。これから進む場所が、どこかわからないから、怖くて、恐れているんだ」

アキ「違う……怖くなんて……」


アキ、その場にしゃがみ込む


アキ「……ううん、怖い。だって、変わっちゃったら、私はどうなるの? ヒメはどうなるの? 皆変わっていって、そのせいで辛い思いをして、そんなのやだよ。このままでいれば、誰も傷つかない。ヒメだって、ずっと幸せでいられる。変わってしまえばそれは無くなる」

ルギ「……大丈夫。ヒメはそんなに弱くは無いよ。ねえ、ヒメ。そうでしょ?」


ヒメ上手から登場うなだれている


アキ「ヒメ…………ずっと、聞いていたの?」


ヒメ、頷く


ルギ「ヒメ、これが、ヒメの悩みだね? 僕に変わりたいと願いながら、迷っていた原因。それは、変わることへの恐怖なんだね?」


ヒメ、頷いてアキに近づく


アキ「ヒメ。ヒメは、変わりたいの? 変わってしまえば変わる前まで持っていたはずの幸せを逃がしてしまう事になるとしても?」

ヒメ「……変わらなくちゃ、いけないのよ」

アキ「なんで?」

ヒメ「だって、私はもう、子供じゃないから」

アキ「そんなの、答えにならないよ。変わりたくないって思っていれば、ずっと変わらずにいられるはずでしょ?」

ヒメ「だけど、私ももう誰かの力じゃなくて、自分の力で進んでいかなくちゃいけないの。変わらなくちゃ、これからは進めないのよ」

アキ「自分の力で?」

ヒメ「それに、もう昔のような夢は、もてなくなっちゃったから。たぶんちょっとずつだけど、確実に私はかわっているんだと思う。今まで、自分でも良くそれがわからなくて……だけど、今はわかる。私は変わっていかなくちゃいけなくて、そして、もう変わり始めているんだって」

アキ「……怖くない?」

ヒメ「怖いよ。きっと、昨日までの自分と、今日の自分は違う。そして明日の自分もまた今日の私とは違っている。だけど、それは決して間違った方向に進んでいるんじゃないから。変わるって事はね、いつも新しい物を見ていられるって事だと思うの。昨日までの自分が感じていた花の美しさと、今日の私が感じる花の美しさは違うって事だと思うの。だからね、楽しみでもあるんだ。変わっていく自分が。変わることのできる自分がね」

アキ「…………そっか。ヒメは嬉しいんだね? 変わっていく自分に気付いた事が。変われることのできる自分が」

ヒメ「嬉しい? ……そう、嬉しいのかも知れない。自分の何かが変わってしまうことは何か寂しくもあるけど、でも、それよりも、嬉しい」

アキ「……結局、ルギのほうが正しいって事?」

ルギ「いや、それは違うよ、アキ。確かに変わることは間違いじゃない。だけど、変わりたくないって思うことも、大事なんだ。ヒメが、変わりたくないと思うもの、それはとても大切な物のはずだから。何も考えずに日々を過ごし、変わりつづけるだけだったのなら、きっと、その大事な物をいつの間にか、落としてしまうことになるんだよ。それはとても寂しい事だろ?」

アキ「そっか。そうだね」

ヒメ「変わっていくけど、大事に取っておくものもあるってことよね。アキがいつまでも怪盗でいるみたいに」

アキ「え〜、だけど、もうボンさんはお金持ちじゃなくなっちゃったし。いつまでも変わらなかったら、何もする事がなくなっちゃうよ」


ルギ&ヒメ 笑う


アキ「え? 何かへんなこといった?」

ルギ「ほらね。変わっていかないと、困るだろ?」

アキ「あ……そっか。そういうことなんだ」


音響→FI(雑音


ヒメ「…………もう、朝になるのね」

ルギ「夢の世界は、そろそろお終いですよ、ヒメ。またのご来場を、心待ちにしております」


ルギ、気取った礼をする


アキ「次はもう、私は私ではないのかも知れないけどね。……変わらない物は、無いんだよね」

ヒメ「ええ……そういうことに……なるわね……」


ヒメ、目を閉じて、その場に眠り込む。
ルギとアキ笑いあって、その場から離れて行く。
ルギ、マントをその場に脱いでおく
ルギ&アキ下手へ退場

音響→高くする
照明→全照。朝っぽく(白
音響FO
音響FI(前の音のあとに入れておく?)

ヒメ、目覚める。


ヒメ「ああ、よく寝た……なんか、懐かしい夢、見てた気がするなぁ。あれ? やだ、この服着たまま寝ちゃったんだ。ああ、今度の舞台で着る服なのに。どこかシワついちゃったりしてないかな?」


ヒメ自分の服を見た後。笑って


ヒメ「そーだ。せっかくだから、お父さんとお母さんにも見せてあげよう。きっと驚くぞ。よし。そうと決まれば早速……」


ヒメ上手へ行こうとして立ち止まる
ルギのマントが落ちているのをじっと見つめる
ヒメ、暫くマントを見つめて何かを思い出そうとする
思い出せたのか笑ってマントを手に取る
ゆっくりマントの埃を取って、綺麗にたたむ。
石(大道具)の上に乗っけて、笑いかけて退場

音楽→高く
照明 暗転