共作 フェイクワールド 
〜夢物語に別れを告げて〜


人物


女(ミナ)
ミサキ(女2)
トモミ
未那
女1




「始まり。そして終わりの話し」
 楽静

男 
女 

    不思議な空間。
    男の姿が浮かび上がる。


男 「これから始まる物語は、ありそうでなさそうな、いや、やっぱりなさそうな
   そんなお話。
   ある時ある場所ある人達。そんな昔話で語られそうな、ありそうなお話。
   あるわけのない夢物語。
   時間は進み戻り続ける。これは今? それとも昔? 
   混乱から生まれる醜い花たばをあなたのために」



    と、説明の途中に女がやってくる。
    辺りの雰囲気は途端に変わる。
    ここは道ばた。



女 「何をしているの?」

男 「何って、説明を」

女 「誰に説明しているの?」

男 「誰ってそりゃ……あれ?」

女 「何で説明しているの?」

男 「なんでって……」

女 「あなたは誰?」

男 「俺は」

女 「ここはどこ?」

男 「ここは?……どこだ? ここは……」

女 「あなたは誰?」

男 「俺は…………あれ? あんな所に人だかりが」

女 「行かない方がいいわ」

男 「なんで?」

女 「物語が終わるから」

男 「どういうことだ?」

女 「あれはなに?」


   そう言って女は違う方向を指す


男 「あれは……犬?」

女 「喧嘩しているわね。」

男 「本当だ。よし! 負けるなちび!」

女 「黒い方が強そうよ?」

男 「馬鹿だなぁ。だから、弱そうなちびを応援するんじゃないか。」

女 「じゃあ、私は黒い方を」

男 「頑張れちび! そこだ! 相手の咽に食らいつけ!」

女 「軽く避けられたわね」

男 「負けるな! そこで回転蹴りだ!」

女 「逆に殴られてふらふらしているわよ」

男 「まだだ! まだ逆転はある! そこだ! チョークチョーク! すかさずフック、
   ジャブ!ジャブ! ストレート!」

女 「あ、」

男 「トドメは、えぐり込むようにアッパーだ!」

女 「お腹見せて降参しているわよ」

男 「よっし! さすがだちび」

女 「ちびの方がよ」

男 「そんな馬鹿な!?」

女 「やっぱり、黒が勝ったわね」

男 「やはり体格のハンデは覆せなかったか。」

女 「楽しかった?」

男 「昔から、犬を見ると興奮しちゃうんだ」

女 「そう。」

男 「しかし、根性のないちびだったな……あれ? 首輪ついてら。
   飼い犬か。それじゃあ弱いわけだ。」

女 「でも、飼い主は居ないみたいよ。」

男 「そうだな……って、あれは」

女 「あれは?」

男 「あれは、俺の犬だ。」

女 「今頃思い出したの?」

男 「おかしいな。何で忘れていたんだろう?」

女 「あるみたいよ。時々。」

男 「何が?」

女 「記憶がなくなること。ここでは。」

男 「ここでは?」

女 「思い出したくない事ばかりだから。それで。」

男 「ここは、どこなんだ?」

女 「あの、人だかり、まだ思い出さない?」

男 「思い出す? いや、何も」

女 「あなたのために集まっているのよ」

男 「俺のために!?」

女 「ぐちゃぐちゃになってしまったあなたのために。」

男 「それは、どういう?」

女 「本当に、忘れているの?」

男 「……いや、覚えているさ」

女 「じゃあ、行きましょう?」

男 「今さら、どこへ行くんだ?」

女 「抜け出すのよ。まやかしから。」

男 「抜け出してどうする?」

女 「そして、私たちだけの国を作るの」

男 「なぜ俺なんだ?」

女 「だって、いい人だから」

男 「いい人?」

女 「それに私たちには必要なの」

男 「何が」

女 「私たちの物語を語る人が。」

男 「そうか」

女 「さぁ、語って頂戴。あるかもしれない無いかも知れない、そんな話しを」

男 「わかった。……これから始まる物語。あるかもしれない。
   いや、やっぱり無いだろうそんなお話。
   言葉はすべて虚構に還り。そして世界を包み始める。 
   また、一つの世界の歌が始まる。
   始まりは、
   ただ、一人の少女から。」



    男の語りの途中に、少女は姿を消す。
    そして、男も語り終わるとともに、姿を消す。



「恋愛事情×家庭事情」 作 渡邉

人物
  宮本 ミサキ 
  宮本 トモミ 


    上手からミサキが現れる。
    手にはパンフレットが握られている。
    どうやら、ここはミサキの家の中らしい。


ミサキ「ただいまぁ! はぁあ。また見ちゃったぁ。
    これで踊る大捜査線見るの、四回かぁ。やっぱ、ユースケ・サンタマリアだよねぇ」


    ミサキはパンフレットを広げながらうっとりとユースケを見ている。
    トモミは上手から登場してくる。制服だ。


トモミ「ミサキぃ!入るよ。ちょっと、居るんだったらこの間貸したお金返してよ」

ミサキ「あっ!ごめん。さっき映画見て来ちゃったから」

トモミ「まさか、あんた」

ミサキ「・・・ごめんなさいっトモミお姉さま! 出世払いいたしますから!このとおりです」

トモミ「まぁたみてきたの? 
    あんた、いくら中学一年生でも勉強しないと皆に置いていかれるよ」

ミサキ「いいじゃん。私は、私のペースでやってるんだから」

トモミ「どうせまた部活サボってまで観に行ったんでしょ?」

ミサキ「もう、お母さんみたいなこと言わないでよ」

トモミ「だからってねぇ」

ミサキ「そう言うお姉ちゃんこそ、受験生なのに夏休みから
    ずっと漫画読みっぱなしじゃん」

トモミ「・・・うん」

ミサキ「あれだけ漫画毛嫌いしてたのに、どうしちゃったの?」

トモミ「別に、どうもしたわけじゃ」

ミサキ「そんなんじゃ、お母さんから、またがみがみ言われちゃうよ」

トモミ「それは、あんたでしょ」

ミサキ「そりゃあ、いつもお母さんはあたしばっか怒るけどさ

(母親の真似・明らかなオーバーパフォーマンス)

     『ミサキっ!! あんたまた遊んできてっ。 少しは勉強したらどうなの?
      ミサキ、あのね、勉強しないと皆に置いていかれちゃうの。
      さらに先生からは見捨てられちゃうのよ! 高校はもちろん、
      大学だって行けなくなっちゃうのよ!! それでもいいの?』

(ミサキに戻って)
    まだ中一だからいいよ。

(母に戻って)
     『ムッキーーー!! あんたはホントに分かってないのね! もう知らないっ!
      先生からこの子の行ける高校はありませんっていわれても
      助けてあげませんよーだっ!!』


トモミ「はいはいはいはい。一人語りはそこでおしまいっ」

ミサキ「はーい。でも、お姉ちゃん何で漫画なんか? 今まで興味なんて無かったのに」

トモミ「あたし、危機感を感じたのよ!」

ミサキ「はっ?」

トモミ「(勝手に暴走していくトモミ)私もついに高校三年生になって、
    18歳の誕生日も迎えてしまった。でも、いくら他の人より勉強は出来ても、
    私には足りない物があった! それは」

ミサキ「それは?」

トモミ「彼氏よ!」

ミサキ「・・・・・・」

トモミ「高校生として最後の誕生日を迎えてしまった私は、
    彼氏いない歴18年に突入してしまったのよ! 
    友達はみんな男の子と手を繋いで
    私を後にして帰っていく・・・・私は一人取り残された。だから、
    最近流行の漫画でも読んで何とかして気を紛らわそうかと思って・・・・」

ミサキ「思っていたら、これがなかなかおもしろかったと」

トモミ「そう! もうかっこいい人いっぱい出ててね。はまっちゃったのよぉ。
    キャーー! ヒカル〜」

ミサキ「しかもジャンプ系か・・・・いたた」

トモミ「でも、あんたこそ、同じ映画を何度も見るなんて珍しいわね。
    なんかあったの?」

ミサキ「別に」

トモミ「もしかして〜好きな俳優が居るの? 誰? 
    あ、わかった! いかりや長介」

ミサキ「なんで、そこで和久さんが出てくるわけ」

トモミ「だって、カッコイイじゃん」

ミサキ「ちがうよ。ユースケ・サンタマリア」

トモミ「えーーーーー。微妙」

ミサキ「かっこいいでしょ!?」

トモミ「かっこいいことはかっこいいかもしれないけど。
    ……どこが好きなの?」

ミサキ「・・・・・しっかりしてて、優しそうな所」

トモミ「まるで、リョウ君みたいだもんね」

ミサキ「・・・・」

トモミ「リョウ君のこと、まだ気にしているの?」

ミサキ「・・・・・・・」

トモミ「好きな人を忘れないことは悪いことではないと思うけど、いつまでも気にして
    引きずっているのはどうかと思うよ」

ミサキ「お姉ちゃんには関係ない」

トモミ「関係なくないでしょ。あんたとリョウ君が小さいとき、
    よくあたしが面倒見てあげたんだし。
    ……仕方ないじゃない。
    リョウ君の家の事情があったんだしさ」

ミサキ「分かってるよ、そんなこと」

トモミ「それに転校したっていっても、外国に行ったわけじゃないでしょ。
    手紙も書けるし、電話もできるじゃない」

ミサキ「だから、お姉ちゃんには関係ない!!」

トモミ「ミサキの気持ちは私だって少しは分かるよ。でも、リョウ君を、
    好きな俳優なんかとくっつけて見ても、意味無いじゃん。
    リョウ君はリョウ君なんだから」

ミサキ「お姉ちゃんだって人のこと言えないでしょ。彼氏が出来ないからって
    漫画のカッコイイ人を見てキャーキャー言ってさ。私よりもお姉ちゃんが
    ちゃんと前を向いて歩くべきじゃないの?」

トモミ「私だって、このままでいいなんて思ってない。
    これじゃいけないって分かっているからこそじゃあどうすればいいかを
    今考えているのよ」

ミサキ「・・・・・・いいじゃん。リョウ君に似てるんだから、好きになったっていいでしょ!」

トモミ「よくない」

ミサキ「うるさいっ! もうあたしの部屋から出てってよ!」

トモミ「・・・今度リョウ君に電話しな。好きだって言えなくても、
    リョウ君といて楽しかったことおもしろかったこと言ってみるといいよ。
    小さい頃からのつきあいだもん。リョウ君なら分かってくれるよ」

ミサキ「今さら、電話なんて出来る分けないじゃん」

トモミ「じゃあ、ミサキは今のままになっちゃうよ。リョウ君のことが好きなまま、
    好きな俳優を重ねて見て、
    新しい恋もできないまま中学生活を送る気?」

ミサキ「そんなの・・・やだ」

トモミ「だったら電話しな。新しい自分になるためにも今のミサキのためにも」

ミサキ「・・・・・・・」

トモミ「ミサキならなれるよ。もっともっと新しい自分に」

ミサキ「・・・・・・・」

トモミ「じゃあね」


    トモミは舞台から去る
    ミサキは一人黙ったまま俯いている
    しばらく他って、ミサキは携帯を取り出す。
    電話をかけるミサキ。
    

ミサキ「・・・・あ、もしもし。リョウ君・・・・あたし。あの、その・・・
    今年の夏も暑かったね。また会えるといいね。
    私リョウ君といて凄く楽しかったよ。・・・・・・・・・ありがとう
    え、何で急にって、お姉ちゃんがね。
    ・・・え? あ、そう、そうだよね。
    また、電話していい? うん。じゃあ、またね」


    ミサキは電話を切り、
    呆然と呟く。


ミサキ「そっか。そうだった。私、お姉ちゃんなんていなかったんだっけ。
    全部、私が作り出しただけだったんだっけ」


    女が舞台に現れる
    女が話すうちに、ミサキは退場。


女  「孤独を感じずに孤独を否定し。
    少女は一つの嘘を作り出す。
    嘘は虚構を作り出し、虚構は世界を包み始める。
    そしてまた、一つの世界の歌が始まる。
    始まりは、ただ、一人の少女から」



    暗やみにだんだんと包まれていく。


『カガミ』  作 久保寺

人物
   五十嵐 未那  
   イガラシ ミナ 


    舞台に1人の少女が倒れている。名前は五十嵐未那。
    辺りが明るくなる。なんだか、異質な空気
    未那は目を覚ます。
    何故か手にはカッターを持っている。
    ゆっくりと顔を上げるが、見た事のないところだという事に気付き、驚きを隠せない。
    起き上がり、辺りを見渡す。
    立ちあがるが、未那はなかなか動けない。
    そこは、現実世界とか遥かに違う、幻想的な世界が広がっていたのだ。
    前(客席側)には壁がある。未那はそれに気付く。
    持っているカッターをポケットに閉まって。


未那「・・…ここは? あたし、死ねたの?」


    すると舞台下手からもう1人、少女が現れる。その少女は未那と同じ格好をしている。


ミナ「あら、気付いたのね。」

未那「(驚き)」

ミナ「会いたかったわ。」

未那「あなたは・・・?」

ミナ「私は、イガラシミナ。」

未那「えっ?あたしと同じ・・・。」

ミナ「私はもう1人のあなた。」

未那「・・・もう1人の?」

ミナ「そう。私はこの世界に住むあなた。」

未那「どういうこと? もう1人のあたし? ・・・夢?」

ミナ「夢なんかじゃないわ。ここはちゃんとした世界なの。」

未那「そんな・・・ウソよ」

ミナ「信じないんだったら、それでも構わないわ。」

未那「第一あたしはここにこれるはずない」

ミナ「そうね。普通はね。私が連れてきたの。」

未那「なんのために?」

ミナ「・・・わからないの?」

未那「・・・えっ?」

ミナ「あなたがここに来る前、何をした?」

未那「・・・!?それは――」


    未那は思わず自分の手首を見る。


ミナ「だから連れてきたの」

未那「・・・あたし?」

ミナ「死んでないわ。そう簡単に死なれちゃ困るもの。」

未那「そんな・・・。」

ミナ「なんでそんなことをするの?」

未那「あたしは死にたかったの」

ミナ「そう」

未那「だから勇気を振り絞って、カッターで手首を切ったのに……」

ミナ「なんで、そんなことをするの?」

未那「あたしは……ただ、自由になりたいの。」

ミナ「死ねば、自由になれるの?」

未那「そうよ。みんなにイジメられることもない。お母さんに怒られることもない。
    何一つイヤなことなんてなくなる。」

ミナ「じゃあ、あなたは殺人犯ね。」

未那「えっ?」

ミナ「あなたが死ぬってことは、私も死ぬってこと。だから殺人犯。」

未那「そんな! あたしには死ぬ自由もないの?」

ミナ「死んで、いい事なんて何一つ無いわよ?」

未那「あたしはもう疲れたの。この苦しみから逃げたいの。
    学校に行けばイジメられる。先生もしらんふりで。お母さんも、分かってくれない。
    こんなのはもうイヤ・・・。」

ミナ「私は生きていたい」

未那「・・・」

ミナ「私もあなたよ。私は楽しく生きてる。
   なのに、あなたに命を奪われるのなんて御免だわ。」

未那「もう生きるのには疲れたのよ」

ミナ「そんなに言うほど、あなたは何かしたの?」

未那「どういう意味?」

ミナ「あなたはいつも、自分から行動を起こさなかった。誰にも話しかけず、
   いつも1人でいた。イジメられても、誰にもイジメられてることを言わなかった」

未那「そんなの、言えるわけないじゃない!」

ミナ「なぜ?」

未那「『なぜ』? あなたは、あたしの気持ちなんて全然わかってない。
    ホントにあなたはあたしなの?」

ミナ「私にはわからないわ。あなたの気持ちなんて。
   だけど、あなたの気持ちはよく見える。」

未那「見える?」

ミナ「そう。いつも、自分は弱いんだって、そんな勇気は出せないって
   決めつけてる弱いあなたが。
   やってみなくちゃわからないのに。何かする前から諦めてる。
    あなたなら言えるはずでしょ?」

未那「そんなのムリよ…。あたしは弱い人間なの。」

ミナ「ウソ! あなたのイジメられた原因はなんだった?」

未那「そんなの、覚えてない」

ミナ「うそばっかり。イジメられてる友達をかばったからでしょ? 
   自分がいじめられるかも知れないのに、可哀想だからって。
   そんなあなたが、言えないはずない。」

未那「それは昔の話。今のあたしは違うの。」

ミナ「違わないわ。」

未那「違う。あたしは、あの時だって弱かった。
    結局、あの子を助けることできなかった。
    あの子は自殺しちゃったの。あたしがイジメられ始めてすぐ」

ミナ「ええ、知ってる」

未那「遺書にはこう書いてあった。
    『未那は、私のせいでイジメられた。だから、その原因の私がいなくなればイイ。』
    って。それがなによりも辛かったの・・・。だから、あたしはあの子の元に行く。」

ミナ「なんで? あの子は、あなたのために命を落したのよ。
   あなたを助けたいから。なのに、そのあなたが死んでどうするの?
   その子の願いを無駄にするの?」

未那「あたしは自由になりたいから。」

ミナ「死んだって自由にはなれないわ」

未那「生きてるより、何百倍もましよ。」

ミナ「未那、私はあなたに生きて欲しい。
   そして、前みたいに明るい笑顔を見せて欲しい。
   だって、あなたにならできるから」

未那「ムリよ。あたしには。」

ミナ「そんなことない。やってみなくちゃわからないでしょう?」


    間


未那「・・・・・・ありがとう(微笑む)」

ミナ「未那」

未那「・・・でも、ごめんね」

ミナ「未那!」


    未那がポケットからカッターを取り出す。


ミナ「ダメよ。死んじゃダメ……。」

未那「許してね。(微笑む)」

ミナ「やめて!!」


    未那は首を切り、倒れる。


ミナ「・・・・そして少女は死も分からずに、死へと逃げていく。
   世界を知らずに世界に別れを告げて
   ・・・なんで?」



   男が舞台に現れる。
   ミナの言葉を受け継ぐように。
   ミナは、男が話す途中に舞台から去る。



男 「ここでは何も分からないから
   私は問いを紡ぎ続ける。
   なんで?
   なんで?
   なんで?
   疑問は虚しい響きとなる。
   虚しさは虚構を作りだし、虚構は世界を包み始める。
   
   そしてまた、一つの世界の歌が始まる。
   始まりは、ただ、一人の少女から」



    照明が落ちる。


試作品001 作 土屋

 人物

  男  ラボラス伯爵
  女  キヨカワ ノゾミ


     仮面を付けた男が立っている。
     人気のない夕暮れ。場所は寂れた公園。
     照明全照。
     その前を、今にも泣き出しそうなほど哀しい顔をしたノゾミが通る。

男  「そこ行く貴方、お待ちなさい」

ノゾミ「・・・・私?」

男  「そう。そこいく貴方。こんな夕暮れに一人で哀しそうな顔をしながら人気のない
    公園を歩いているなんて・・・なにがあったのです?」

ノゾミ「・・・いきなり何ですかあなた?」

男  「なに、あなたがあまりにも哀しい顔をしている物で。声をかけたくなったのです」

ノゾミ「悪いけど、今は誰かと話している気分じゃないの」

男  「そのわりに、立ち止まったではありませんか」

ノゾミ「呼び止めたのはあなたでしょう!?」

男  「しかし、無視することもできたはずでしょう?」

ノゾミ「・・・・(無言で背を向ける)」

男  「お待ちなさい。私は別に、怪しい物じゃありませんよ」

ノゾミ「そんな変な仮面なんか付けてちゃ、説得力無いわよ」

男  「これがないと、ここではうまく生きられない物ですから」

ノゾミ「変態?」

男  「(首を振って)わたくしは、ラボラスともうします」

ノゾミ「ラスボス?」

男  「いえ、ラボラス」

ノゾミ「どこの国の名前よ?」

男  「聞き覚えないのも無理はないですね。私は」

ノゾミ「変態」

男  「ちがう! ……これでも、周りからは伯爵と呼ばれています」

ノゾミ「変態伯爵」

男  「だから、変態じゃない! 何ですか貴方は。せっかく人が
    穏やかに話を進めようとしているのに」

ノゾミ「だって、そろそろお客さんが飽きる頃かなって思って」

男  「そんな心配は必要ないんですよ。貴方自身の心配をして下さい」

ノゾミ「私の……そんな、本物の変態だったなんて」

男  「だから、違う! 私はラボラス。伯爵なのです。ここではですが。
    貴方が、ここではキヨカワノゾミであるように」

ノゾミ「! なんで・・・」

男  「現実は時にファンタジーの世界より不可解なことが起こる物だ。
    そうは思いませんか?」

ノゾミ「・・・・さようなら」


    言ってきびすを返し去ろうとするノゾミ。


男  「いかがです? 大切な物を失った気分は?」

ノゾミ「!・・・・」

男  「辛い物ですね。どんなに深く愛しても相手が拒めば、愛は悲観と深い傷になる。・・・・
    それでも人は愛を求め続ける・・・」

ノゾミ「なんで・・・」

男  「私は知っていますよ。貴方の過去、未来、すべてを」

ノゾミ「・・・変態ストーカー!?」

男  「違います。私は貴方の望みを叶えるために来たんですよ」

ノゾミ「望みを、かなえる?」

男  「はい。どんなものでも、ね」

ノゾミ「どんなものでも?」

男  「例え、それが人の心でも。ね。キヨカワノゾミ、さん」


    男、ストップモーション


ノゾミ「私は・・・彼に振られた・・・けど、まだ愛している。
    彼とは、小学校から一緒だった。いつから好きだったかなんて、もう覚えていない。
    中学になってあんまり顔を見なくなって、会いたくても会えなくなった。
    だから、そのうち彼を好きなことも忘れられる。そう思ってた」


     男のストップモーションが解け、ノゾミが代わりに止まる。


男  「そして時は経ち、中学三年生になり、彼女は他の人を好きになった。そして、
    彼もまた、他の人を好きになった。しかし、2人とも愛を拒まれる。
    再開した2人は、お互いの傷を癒すように友達へと戻る。そして、
    あなたは思った」


女  「やっぱり、私は、彼が好き」


男  「そして、想いを伝えた。・・・しかし、
    相手はこう言った。本当にごめん、と」


     ノゾミのストップモーション解ける


ノゾミ「せっかく、やっと気づけたのに。自分の気持ちに。やっと・・」

男  「・・・しかし、私にはあなたの願いを叶えることが出来る」

ノゾミ「・・・本当に?」

男  「ええ。そのかわり、ちょっとした物をいただきますが」

ノゾミ「お金?」

男  「いえいえ、そんな大した物ではありませんのでご安心を」

ノゾミ「じゃあお願い! 私の望みを叶えて」

男  「よろしいですか?」

ノゾミ「もちろんよ。彼に好きになってもらえるのなら何を失うのだって怖くない」

男  「では、始めましょう? 禁じられた契約を」


     男が手を差しのばす。
     ノゾミが倒れる。
     

男  「さぁ、これであなたは彼にいつまでも愛されるでしょう。
    それは憐憫という名の鎖でしかないけれど、
    心の亡くなったあなたを、彼が一生をかけて愛することは確かです」


    暗闇の中、男の台詞の途中に、うごめくよう、ノゾミは退場。


男  「愚かな少女。恋を覚えずに恋を求め。
    喪失を理解できずに失う事実に嘘を重ね。
    気づかない。自分を騙す虚しさにも。
    さあ、物語を始めましょう。
    嘘と虚しさは響きあい。
    言葉は虚構を作り出し、虚構は世界を包み始める。
    そしてまた、一つの世界の歌が始まる。
    始まりは、ただ、一人の少女から」



   照明が暗くなる。

   少女達が、机を運び込む。
   数は二つ。
   男は静かに去っていく。

17歳   作 楽静

人物
   女1  コタニ マミ
   女2  セリザワ ヤスコ

   声1
   声2
   声3
   先生 (前もってテープに入れて置くなど) 


    教室では、机が前に向けられておいてある。授業中。
    舞台に向かって下手が女1。上手は女2。
    今は、女1の姿しか見えない。


    音響 CI→雑音

    女1 席に座って前を向いている
    声1 机に座って話しているらしい
    声2 ドア近くで席についたまま話しているらしい
    声3 そこら中を動いて話しているらしい


声1「でさ、昨日」

声2「うそ? こうでしょ?」

声3「違うってこれが」


    女1 顔が声に向く
    あきらめた表情で戻る。どこか寂しげ。


    声1 興奮して立ち上がったらしい
    音響 机のずれる音

声1「だから驚いたんだって」

声2「え〜そんなの嫌だ〜」


    声2 机を叩いたらしい
    音響 机の叩かれる音

    女1 寂しそうに微笑む
    俯く


声3「あたしもまさかと思ったんだけど」

声1「うわっまじで?」

声2「でも、これは?」

声3「え? でもね」


    CI チャイム
    声たち 徐々に会話のトーンを落としていく


    女2 下手から登場。
    きょろきょろと辺りを見ながら入ってくる


女2「セーフ? セーフ? …………よかったぁ〜
   もう授業始まっちゃったのかと思った〜。
   あの先生、授業中に入るとうるさいもんねぇ。」


   と、女2は声をかけられたらしく、元気よく


女2「おはよ〜」


   からかわれでもしたのだろうか、むっとした顔になり、


女2「全部バスが悪いのよ〜」


   女2 声に挨拶しながら席につく


女2「おはよ、真美」


   女1 ゆっくりと女2を見る
   頷く


女2「どうしたの? 具合悪いの?」

女1「・・・教科書、ニセモノだったの」

女2「はぁ? 何言ってるの」

女1「国語も、数学も、皆、ニセモノだったの」

女2「なに寝ぼけてるんだか」


    女2 あきれながらカバンをあさる
    一時間目の科目、国語の教科書が見当たらない。


女2「あっちゃぁ。これ、昨日の時間割のままだ。仕方ない」


    女2は、国語の変わりに数学の教科書を開いておいておく。
    女1は喋りたそうな顔をするが、無表情になって前を向く

    音響CI→足音
    できればドアが開く音も

    先生(声) 下手から入ってきたらしい
    足音とか鳴らせたら鳴らしたい


先生「はい、授業するよ〜」

女2「よし。今日は当てられないことを一日祈っていようっと」


    女2は真剣に数学の教科書に向いている
    女1はただ前を向いている。その目には何も写していないように見える。


先生「さーて、では前回の続きからとりあえず読んでもらいましょう。
   では・・・芹沢さん」

女2「げ」


    先生は姿は見えないが、女2の近くまで来ていたらしい。
    女2の反応する方向は舞台正面よりもやや下手向き


先生「芹沢さん?」

女2「(俯いていた顔を上げる)はい」

先生「57ページから読んでください」

女2「・・・はい」


    女2 立ち上がる
    両手に教科書(数学)を持っている


女2「えっと、三角形の面積が・・・」


    女2 冗談のつもりで言った自分の言葉の間抜けさに恐ろしくなって
    顔が先生を向く

    先生 笑いもしないらしい


先生「芹沢さん・・・今は現代文の授業なんだけど」

女2「・・・すいません。その、教科書忘れちゃって」

先生「だからって違う教科やっていていいってことはないでしょう?
   ・・・いいわ。じゃあ、小谷さん」

女2「すいません」


    女2 謝りながら席につく
    女1 無反応。


先生「小谷さん?」


    女1 本当にゆっくりと女1の顔が先生へと向く。


先生「聞いてた? まさか、小谷さんも忘れたの?」


    先生 両手を組んであきれがおで睨んでいるらしい
    女1 ゆっくりと先生へと焦点をあわせる
    先生 言葉を飲み込んでいるらしい
    女2 女1の異様な雰囲気にただ隣を凝視している


    女1 小さく笑う


先生「小谷さん?」


    女1 笑う
    その笑いは徐々に大きくなり、指先が先生を指す


女2「真美? ちょっとどうしたの?」

先生「小谷さん! ふざけるのは止めなさい!」


    女1 笑う。顔全体に笑いは広がっていく。
    おかしくってたまらないといったように
    だが身体をよじりはしない。顔はあくまで先生を向いている


女2「真美! ねぇ真美!」


    女2 慌てて席を立って女1の肩を掴む
    女1 笑いが徐々に小さくなっていく。
    指がゆっくりとしたに下がる


女2「真美・・・」

女1「本当じゃなかったのよ」

女2「え?」

女1「本当じゃなかったのよ。先生、なんて」

女2「なに言ってるの?」

女1「分からないなら、見てごらんよ。(指を刺す)見えるのならあんたも笑ってあげる。
   見えないんだったら。何も見えなきゃ。・・・ねぇ、何が見える?」

女2「何がって」


    女1 指の先には先生
    女2 先生に向く。しかし、先生の姿などない


女2「そんな・・・いない」

女1「いないさ。本当じゃないんだから」

女2「どういうこと?」

女1「どういうこと? 夢。幻。幻覚。よりどりみどりの博覧会。それなら満足?」

女2「茶化さないでよ! 先生を、どうしたの?」

女1「どうもしない。ただ、笑ったのよ」

女2「笑ったって」


    音響CI→椅子の倒れる音


声1「職員室だ!職員室に行かなくちゃ」


    声1 席は舞台奥の方(上手側)にあったようだ


女2「え、でも」

声1「先生がいなくなるなんてことあるもんか。きっと職員室に行ったんだ」

女2「だけど、今目の前にいたのに」

声1「職員室だ! 職員室に行けばはっきりする」


    女1 笑う


女2「真美?」

声1「何がおかしいんだ」

女1「本当じゃないもの」

声1「なに?」

女1「あんたも本当じゃない。まったくのニ、セ、モ、ノ」


    女1 笑う


声2「ちょっと小谷さん、おかしいんじゃない?」

声3「いかれてんじゃないの〜」


    女1 大声で笑う
    席から立ち上がって舞台前まで


女2「真美!」


    女2 女1が心配で舞台前に出てくる

    女1 笑いながら
    指差すその手は周りを指していく


女1「ニセモノ。フェイク。まやかし。
   本当じゃないのよ。何もかも本当じゃない。
   あんたたち皆。ニセモノだらけ。本物なんて一つもない!
  (笑う)可笑しいでしょ? ニセモノばかりに囲まれて、ニセモノだって気づかないで。
  (笑う)ああ、可笑しい!」

女2「真美・・・・・大丈夫?」

女1「大丈夫よ。これまでが大丈夫じゃなかっただけ。
   (小さく笑って)ねぇ、康子。あなたは本物?」

女2「そんなの分からないよ」

女1「ニセモノは笑えば消えるのよ。
   だって笑われて我慢できるほどの力なんて持ってないもの」

女2「そ、そうなんだ」

女1「私。気づいたの。私の周りにはなんてニセモノが多いんだろうって。
   気づかないうちに暮らしてた。だって考えないじゃない?
   目の前にいる何かが本物じゃないかなんて」

女2「う、うん」

女1「でもね。昨日思ったの。
   私、明日で17才になるんだって」

女2「え? 真美、今日誕生日だったんだ?」

女1「そう。・・・そしたらなんか、おかしくなっちゃって」

女2「え?」

女1「だって、私17になるって昨日まで全然意識してなかったのよ。
   私が生きている時間を、私自身が分かってなかった(自嘲的な笑い)」

女2「でも、それは仕方ないよ」

女1「分かりもしないのに、仕方ないなんて言わないで」

女2「ごめん」

女1「でね、そのとき思ったの。
   『もしかしたら今日までの日々は全部ニセモノだったんじゃないか』」

女2「(笑おうとするが無理)なにそれ」

女1「だってそうでしょう?
   私自身が全然気づきもしない日常って、それ本当だったの?」

女2「そんなこと言ったって、ちゃんと毎日過ごしてたじゃん」

女1「康子、先週自分がなにやってたか覚えてる?」

女2「え?・・・・それは無理だけど」

女1「昨日、何したか覚えてる?」

女2「昨日は、放課後一緒にファーキンでお喋りしてたじゃん」

女1「授業中は何してた?」

女2「何って・・・そんな一々自分の行動なんて意識してないよ」

女1「ほら。毎日はリアルなんかじゃない。
   ニセモノ、フェイクの集まり」

女2「でも、覚えていないだけじゃないの?」

女1「なんで?」

女2「なんでって、別に必要ないから」

女1「毎日って必要ないの?」

女2「そうじゃないけど・・・毎日のすべてが必要なわけじゃないから」

女1「そう。すべてが必要なわけじゃない。
   だから気づかないの。この世界がニセモノの集まりだってそんな単純なことに」

女2「だからそれは、その、うまくいえないけどさ」

女1「・・・・・・お母さん、消えちゃった」

女2「え?」

女1「なんか、自分がおかしくなって。笑ったら。お母さん、消えちゃった」

女2「・・・・・・・」

女1「お父さんも、消えちゃった。おばあちゃんも消えちゃった。
   電話口で話してたおじさんも消えちゃった。
   学校に来る途中の交番のおじさんも、消えちゃった」

女2「真美・・・」

女1「夢、見ることない?」

女2「え?」

女1「夢の中で、私にはお姉さんがいるの。
   夢の中で、私は幼なじみの男の子に恋をしているの。
   夢の中で、私はいじめられて死のうとしているの。
   夢の中で、私は不思議な男に会うの。
   そんな、夢」

女2「寝ているのに、分からない。起きているような気がしている」

女1「そう。すべては虚構に過ぎないのに気づかない。
   リアルって思い込んでるフェイク」

女2「この世界が夢だって言うの?」

女1「夢じゃないけど、でも夢みたいなものかもしれない。
   だってクラスの皆も消えちゃった。
   先生も消えちゃった。(笑う)みんな、みんな本物じゃなかった。
   全部、ニセモノ。」

女2「・・・じゃあ、何で私は消えないの?」

女1「・・・・消えるよ、康子も」

女2「私は消えてないよ。ここにいるもん」

女1「私が笑ったら、消えるんだ」

女2「絶対に消えない。
   私が消えなかったら、ニセモノばかりじゃないってことでしょ」

女1「消えるよ、絶対」

女2「消えない」

女1「・・・だったら私が消えるのかもね」

女2「え?」

女1「この世界で本物は康子だけ。私も、もしかしたらニセモノなのかもしれない」

女2「そんな・・・」

女1「ねぇ。消えるのはどっちだろう?」

女2「それは・・」

女1「康子はリアルなんでしょう? だったら私がフェイクなのかな?
   それとも私がリアルで、康子がフェイク?」

女2「わからない・・・わからないよ」

女1「でも、どちらかは消える」

女2「どちらも、消えないかも知れない」


    女1 女2を見る
    女2 女1を見る

    女1 女2を指差す
    女2 ためらいながら女1を指差す


    間


    女1 ゆっくりと笑う
    女2 ゆっくりと笑う


女2「(笑いながら)ねぇ、本物ってなんなの?」

女1「(笑いながら)さぁ?」

女2「ニセモノじゃないことが本物ってこと?」

女1「最後に残ったものが本物なのよ。だって消えなければ、
   それはリアルってことでしょう?」

女2「でも、要らないものが本物だったらどうしよう?
   たった一人でニセモノだらけに囲まれていたらどうしよう?」

女1「そんなの簡単よ」

女2「え?」

女1「そうしたら、ニセモノになっちゃえばいいよ」

女2「・・・・そうだね」

女1「そうだよ」


   女2 
   女1 お互いに微笑む


女1「ねぇ、康子。笑おうか」

女2「ねぇ、真美。笑おうよ」


   女1 笑い出す
   女2 笑い出す


   照明 暗転


女1&女2
  「よかった。私ニセモノだったよ」



   音響FI→(ED)

   男の声が響く


男 「この物語は、ありそうでなさそうな、いや、やっぱりなさそうなそんなお話。
   ある時ある場所ある人達。そんな昔話で語られそうな、ありそうなお話。
   あるわけのない夢物語。
   夢、なのだろうか?
   そう、心から思いこめるほど、
   力強く今日を生きているのだろうか?
   嘘ばかりが多すぎたここで。
   虚構に包まれた世界の中で。
   少女のあがきは目に留まらずに、
   日々の中に埋没する。
   そしてまた、一つの世界の歌が始まる。
   これは今? それとも昔? 
   混乱から生まれる醜い花たばを、あなたのために。
   この世界で抗い続ける
   あなたのために」


    女が現れる


女 「何をしているの?」

男 「何って、説明を」

女 「誰に説明しているの?」

男 「誰ってそりゃ……あれ?」

女 「何で説明しているの?」

男 「なんでって――」