ガラスの靴を脱ぎ捨てないで



人物

現実世界の人たち

エラノ シンヤ  振られたばかりの青年。20くらい。

スザキ 先輩   飲めない飲み好きの先輩。(王子と兼任)

ヤマタニ 先輩  飲まない飲み好きの先輩。(大臣と兼任)

店員       アルバイトの店員。


夢の世界の人たち

ゴネリル  シンデレラのまま姉@ 尊大な姉。

リーガン  シンデレラのまま姉Aぶりっ子キャラ。

コーデリア王妃 シンデレラの住むアリリア国の現王妃。

ケント 大臣  国のことと王子のことを考えることが趣味の大臣。

エドマント王子 通称エド。わがまま王子様

ハイジ?    夢の中と現実を行き来する少女。アルプスの少女とはあまり関係がないらしい。

ペータ?    ハイジ?とともに歩く少年。人を指差して笑う憎いやつ。(店員と兼任).

魔法使い    シンデレラに服を与える。ペータ?と兼任。






※ 舞台は現実世界と夢の世界とで大きくわかれ、
  夢の世界はまたいくつかの場面で構成される。
  
※ 劇団上演では人員不足の為ハイジ=ハイジリアにしたが、人数次第によっては、
  ハイジリアの名前を変え、二人を別々の役にする事も可能。





0
    舞台少し狭い。
    どこかの飲み屋といった風景。
    季節は秋だろうか。登場人物たちの格好は夏から秋へと移り
    変わる途中といったところ。
    
    音楽の中、飲み屋へとおずおずシンヤが入ってくる。
    店員に案内され席につく。
    どこか暗い様子。その後からやってくるスザキとヤマタニ。
    「ここだここだ」と言いたげな表情で、
    次にシンヤを見つける。そして、席に座ろうとするあたりで
    徐々に舞台は暗くなっていく。





ヤマタニ  すいませーん。


    明るくなると、そこは駅近くの飲み屋「つぼ七」手ごろな値段で
    酔っ払うことが出来る飲み屋である。ざわついた明るい場。


スザキ   いや、まだ決めてないから。

ヤマタニ  俺は決めたから。

スザキ   そんな勝手な。今日の主役はお前じゃないんだから。

ヤマタニ  ああ、そっか。(シンヤに)決めた?

シンヤ   いえ、まだ。

ヤマタニ  そっか。(店員に)すいませーん。

スザキ   だから、決めてないんだって。

ヤマタニ  分かってるよ。(店員に)すいませーん。

スザキ   だから何で呼ぶの!?

ヤマタニ  え?

スザキ   決めてないから。まだ。

ヤマタニ  分かってるよ。

スザキ   じゃあ、何で呼ぶの?

ヤマタニ  決めてないんだろう?

スザキ   決めてないよ。

ヤマタニ  じゃあ決めろよ。俺は呼んでるから。

スザキ   わかんない。全然分からないわその理論。

ヤマタニ  そうか? すいませーん

店員(声) (切れ気味に)伺いますのでもう少々お待ちください。

スザキ   ほら、しつこいから怒ってるよ。

ヤマタニ  怒られたか。……(シンヤに)決めた?

シンヤ   え? いえ。まだ。

ヤマタニ  何でもいいよ。どうせこいつの(と、スザキをさし)おごりだから。

スザキ   なんで俺?

シンヤ   ありがとうございます。

スザキ   いや、待て。まだ奢るとは……

ヤマタニ  それにしても、まさかお前がねぇ。いやぁ、世の中分からないよな。

シンヤ   先輩、その話はせめて乾杯してからってことで。

ヤマタニ  だって、そのためだろう? 今日呼んだの。

シンヤ   そうですけど。せめてアルコール入ってからにしましょうよ。

ヤマタニ  それもそうか。

スザキ   素面(しらふ)じゃね。言いにくいよな。


     店員がやってくる。


店員    お待たせいたしました。ご注文、お飲み物の方先に伺ってもよろしいですか?

ヤマタニ  じゃあ、ミルク。アイスでね。

シンヤ   え? お酒じゃないんですか?

ヤマタニ  酒なんて何で飲むんだよ。

スザキ   ヤマタニは今禁酒中だからさ。

シンヤ   そうなんですか? じゃあ、飲み屋じゃ悪かったですね。

ヤマタニ  別に、気にしてないけどねぇ。

シンヤ   すいません。

店員    あの? 注文、よろしいですか?

スザキ   あ、じゃあ、俺、豆乳。

シンヤ   え? スザキ先輩も禁酒中ですか?

スザキ   違う違う。俺、飲めないだけ。

シンヤ   じゃあ、余計飲み屋にしなければよかったですね。

スザキ   別に、気にしてないけどねぇ。

シンヤ   すいません。

店員    あの? 注文は?

シンヤ   あ、すいません。……えっと……(と、メニューを見る)

店員    お決まりじゃないんですかぁ?

ヤマタニ  なんだよ、決まってなかったのかよ。

スザキ   呼んでおいてさぁ。

シンヤ   ……この、スペシャルドリンクってやつ。

店員    スペシャルドリンクですか?

シンヤ   売り切れですか?

店員    いや、まだありますけど。……(シンヤをまじまじと見て)へぇ。

シンヤ   へぇって。

店員    いえ、ありがとうございます。ご新規三名様オーダー承りました〜。


    店員、去る。
    舞台袖から数人の「はい、よろこんで」が聞こえてくる。


シンヤ   なんだあの店員。

スザキ   気にするなよ。どうせアルバイトなんだし。

ヤマタニ  そうそう。こっちは飲めればいいんだしさ。しかしお前がねぇ。

スザキ   だから早いって。

ヤマタニ  まだ早いの!?

スザキ   早いよ。


    店員、登場。


店員    お待たせいたしました。

ヤマタニ  お、来た来た。

店員    こちら、牛乳になります。

ヤマタニ  え、俺アイスミルク……


店員    ですから、牛乳。

ヤマタニ  ニュアンスがなぁ。

スザキ   いいだろニュアンスは。

店員    それと、こちら牛乳です。

スザキ   え、俺豆乳……

店員    ですから、牛乳。

ヤマタニ  いいだろニュアンスは。

スザキ   ニュアンスじゃないだろう、牛乳と豆乳じゃ。牛と豆だぞ。

ヤマタニ  アイスミルクと牛乳みたいなもんだよ。英語と日本語。

スザキ   そうじゃなくて。

店員    それと、スペシャルドリンクです。


    店員が去る。


ヤマタニ  大丈夫か? それ。

シンヤ   ちゃんと頼んだやつですよ。

ヤマタニ  なんだぁ(つまらない)。

スザキ   とりあえず、乾杯するか。

ヤマタニ  そうだな。


    三人は思い思いに杯を持ち上げ、


ヤマタニ  それでは。シンヤの失恋を祝って。

スザキ   乾杯〜。

シンヤ   えぇ〜。


    ヤマタニとスザキはさっさと半分ほど飲みつつ、


ヤマタニ  それにしてもお前がねぇ。

シンヤ   先輩よっぽど言いたかったんですねそれ。

スザキ   いや、俺はわかってたよ。駄目だって。

ヤマタニ  そうかぁ? もうちょっと続くと思ってたけどな。

スザキ   四ヶ月も続けば続いたほうでしょ。こいつにとっては。

シンヤ   五ヶ月……いえ、四ヶ月でした。やっぱり。

スザキ   だろう?

ヤマタニ  でもさ。どっちかって言うと振るほうじゃないか? シンヤは。

スザキ   甘い甘い。こいつ、高校のときから振られてばっかだったんだから。

ヤマタニ  マジで?

スザキ   お前、受験中は全然部活来てなかったじゃんか。

ヤマタニ  ああ。

スザキ   それに比べて俺はちょくちょくこいつの相談にのったりもしてたからさ。

ヤマタニ  じゃあ、そのときから。

スザキ   そう。もう振られてばっかり。

ヤマタニ  何が悪いのかねぇ。

スザキ   要領でしょ。

ヤマタニ  だろうなぁ。


    ここらへんで、こらえられなくなりシンヤは酒を一気にあおる。


シンヤ   もう死にたいですよ、俺。

ヤマタニ  なんだよ、だらしないなぁ。いつものことだろう?

シンヤ   もう嫌なんですよ。いっそ消えたいです。

スザキ   まだこれから出会いだってあるって。

ヤマタニ  そうそう。

シンヤ   いや、もういいですよ。なんていわれたか分かります? 俺。
       「私といてもつまらないんでしょう」って言われたんですよ。
       何もそんなこと思ってないのに。

スザキ   いるよな、そういう断定する女。

ヤマタニ  次があるって思って、な? まだまだこれからじゃんか。

シンヤ   もういいですよ。俺。あーー。だれか、金持ちの未亡人とかいないですか
       ね。愛人でいいですよ、愛人で。

ヤマタニ  それはお前、自分捨てすぎだろう?

シンヤ   そうですか? もう面倒くさいですよ恋愛なんて。どうせ報われないん
       だったら、いっそう愛なんてなくっていいですよ。なんか老人の慰み者
       とか、そういうの募集してないんですかね? 逆玉に乗りたいですよ。
       いいな、逆玉。世の中金ですしね。どうせ、幸せになれないんですから、
       俺なんて。もうなんでもいいっすよ。どうでもいいです。
       ああ、愛されたいなぁ。幸せになりたいよぉ。


     シンヤつっぷす。


ヤマタニ  何言ってんだこいつ。

スザキ   酔ってるね。

ヤマタニ  酔ってるな。

スザキ   やだねぇ。酔っ払い。

ヤマタニ  哀れだな。

スザキ   哀れ。

ヤマタニ  まぁ、飲むか。

スザキ   飲もう飲もう。

ヤマタニ  乾杯!


    スザキとヤマタニがグラスを合わせた途端、ストップモーションになる。
    途端に、音がなくなる。





シンヤ   (突然起き上がって)乾杯なら俺もやりますよ。俺も……先輩? え? 先輩? どうしたんですか?
        (あたりをみて)これは??


    と、徐々に大きく鳴り響く音楽とともに、ハイジが現れる。
    ハイジは歌っている。後ろにはペータ(店員)もいる。


ハイジ   (歌いながら)えい。


    と、スザキに触るとスザキが満面の笑顔を浮かべ去る。


シンヤ   先輩!?

ハイジ   (歌いながら)えい。


    と、ヤマタニに触れるとヤマタニが満面の笑顔を浮かべ去る。


シンヤ   先輩!!

ハイジ   (歌っている)

シンヤ   何なんだよお前。先輩! 先輩!?


    その間にペータは舞台を変えていってしまう。
    そこはどこか異世界。歌ってたハイジがシンヤを見る。


ハイジ   おい。人間。

シンヤ   俺!?

ハイジ   幸せになりたいか?

シンヤ   幸せに……?

ハイジ   なれるよ。幸せに。

シンヤ   幸せ……

ハイジ   慣れればね。この世界に。


    ハイジは笑い、去る。
    ペータはなぜかシンヤを見て笑っている。


シンヤ   この世界? なんだよ、この展開は? (ペータに気づき)なんだよお前は!


    ペータが逃げる。


シンヤ   おい! おい待てよ! (あたりの様子に気づき)なんだここ? どこなんだ? ここは。





    と、雰囲気が変わる。
    そこはどこか薄暗い。
    聞こえてくるのはゴネリルの呼び声。その声は尊大で冷たい。


ゴネリル  シンデレラ! 

リーガン  シンデレラ〜


    追従するようにリーガンの呼び声。少し甲高い感じ。


ゴネリル  シンデレラ!

リーガン  シンデレラ〜

シンヤ   シンデレラ?


    そして、二人が姿を現す。
    ゴネリルは手に古ぼけた服を持っている。
    リーガンは箒を持っている。


同時に
ゴネリル  シンデレラ!
リーガン  シンデレラ〜。

ゴネリル  こんなところにいたの? シンデレラ。

リーガン  探したじゃないのよぉ。シンデレラ。

シンヤ   え? 俺?

ゴネリル  あんた以外に誰がいるのよ、シンデレラ。

リーガン  自分の名前も忘れたの? シンデレラ。

シンヤ   シンデレラ? 俺が。

ゴネリル  何度も呼ばせないでよね、シンデレラ。

リーガン  まったく世話焼けるわねえ。シンデレラ。

シンヤ   でも、俺は。

ゴネリル  あんたの意思なんて関係ないのよ。シンデレラ。

リーガン  そうよぉシンデレラ。

ゴネリル  それにしても、シンデレラシンデレラって何度も言っていると
       うるさいじゃないのよ。シンデレラ。

リーガン  そろそろ観客も聞き飽きているわよ、シンデレラ。

ゴネリル  いい加減言うの嫌になってきたんだけど。シンデレラ!

リーガン  本当聞くのも嫌になってきたわ。シンデレラ!

ゴネリル  これも全部あんたのせいよシンデレラ。

リーガン  だからあんたは仕事をしなきゃいけないのよ、シンデレラ。

ゴネリル  というわけで、これ洗っとくのよ。シンデレラ。


    と、ゴネリルはシンデレラに持っていた服を投げつける。


リーガン  掃除しておいてよね、シンデレラ。


    と、リーガンはシンデレラに持っていたほうきを投げる。


シンヤ   だから、俺は。って、ちっちゃ!?


    おもむろにゴネリルの蹴りがシンヤのあごに飛ぶ。
    すごいいい音がしてシンヤが吹っ飛ぶ。


ゴネリル  あんたの意思は関係ないの。いい? シンデレラ。
       私があんたに洗濯をしなさいって言ったら、それはあんたが洗濯を
       するって言うことなのよ。わかる?シンデレラ。


    リーガンは倒れているシンヤを覗き込み、


リーガン  そうよシンデレラ。あたしがあなたに掃除をしなさいって言ったら、
       それはあなたが掃除をするってことなのよ。お願いね。シンデレラ


    リーガン、くすくす笑う。
    ゴネリルはたからかに笑う。。


ゴネリル  さあ、じゃあリーガン。今日の舞踏会のための準備をしましょう。

リーガン  ええ。お姉さま。

ゴネリル  一杯おめかししないと。

リーガン  あらお姉さま。それ以上のお化粧は時間の無駄ですわよ。

ゴネリル  そりゃあ、私の美貌は完璧だけど。

リーガン  いいえ。それ以上重ねたら、厚化粧にひびが入りますわ。

ゴネリル  あんたのその化粧しても無駄な顔よりはましだと思うけど。

リーガン  (笑って)お姉さまったら、相変わらず冗談が面白くないですわね。

ゴネリル  (笑って)あんたこそ。まったく笑えないわ。


    話しながら二人は出て行く。


シンヤ   なにが……? いったい何が起こったんだ? ここはどこなんだ? 俺は……


    と、歌いながらハイジが現れる。家来っぽい格好(ハイジリア)をしている。
    ハイジは箒を持って現われる。


ハイジ   はい(と、箒をシンヤに渡す)

シンヤ   お前! いったいどうなってんだよ! 俺に何をした!?

ハイジ   (笑顔で)落ち着け人間。

シンヤ   落ち着いていられるか!?

ハイジ   掃除をしないとね。

シンヤ   出来るか!

ハイジ   幸せになろうよ?


    ハイジが去る。
    いつの間にか、ペータが現れてシンヤのことを笑っている。


シンヤ   おい!(ペータに気づき)何なんだよお前は!


    思わずシンヤは追いかける。





    舞台変わって、王宮。
    照明の明るさがます。
    壮大な音楽が流れることで客はここが王宮であることに気づけるだろう。

    王子の名を呼びながらコーデリア王妃が現れる。


コーデリア エド! エド! どこにいるの? いい加減隠れてないで出てきなさい! エド!

    と、ハイジが現れる。今度はしっかりと家来っぽい格好をしている。
    お城の女兵士が一人ハイジリアである

ハイジ   王妃様。

コーデリア ああ。ハイジリア。エドはどこにいますか?

ハイジ   知らないです。

コーデリア まったくあの子ったら。今日は大事な日だって言うのに。

ハイジ   逃げたんじゃないですか?

コーデリア 逃げた!? どこに!?

ハイジ   いや、知らないですけど。

コーデリア まったくあの子はいつもいつも。
       今日は大事な日だって、あれほど、あれほど、あれほど言っていたのに。

ハイジ   だから逃げたんじゃないですか?

コーデリア どうして逃げるのよ!?

ハイジ   びびっちゃって。

コーデリア ああ、もう。エド! エド! どこにいるの? 怒らないから出てきなさい! 
        エドマント! いい加減出て来いこのやろう!

ハイジ   怒ってるじゃん。


エド(声) ははは。お母様。俺はここにいますよ。


コーデリア エド?

ハイジ   王子様?

    そんな声を後に、なぜかどっかの人形遣い漫才師のような格好で、
    ケント大臣が現れる。その手の中には、手に入れて動かす人形を持っている。
    流れてくる声にあわせて、その人形を大臣は動かす。


エド(声) ははは。お母様。ご心配をおかけしましたが俺はもう大丈夫ですよ。
       エドマント、ただいま参上いたしました。

コーデリア ……なにをやっているの? 大臣。

ケント大臣 私は大臣ではありませんよ。

エド(声) しゃべるな大臣。

ケント大臣 はは。

ハイジ   ばればれじゃん。

コーデリア ……それで? 何がしたいの?

エド(声) 何もしたいもなにも、お母様がお呼びになられたので、参上したまでですよ。

コーデリア そんなに今日の舞踏会が嫌なの?

エド(声) まさか。そんなわけないじゃないですか。だからこうやって参上したのですよ。

コーデリア 嫌なら嫌と、せめて堂々と言えばいいじゃない。

エド(声) いやだなぁお母様。俺はこんなにも堂々としているじゃないですか。

コーデリア 堂々と……ねぇ。(と、ハイジを見て)ハイジリア。

ハイジ   はいはい。


    ハイジが去る。


エド(声) ん? お母様、何をするつもりです? あ、こら。ハイジリア。お前。
      何でここが。あ! やめろ。 そんなとこ触るな。 エッチ!

コーデリア ……大臣。

ケント大臣 (人形を動かしながら)オレハ、大臣ジャナイゾ。

コーデリア もういいのよ。エドのフリしなくても。

ケント大臣 ナンノコトカナ? サッパリワカラナイ。

コーデリア 給料カット。

ケント大臣 (いきなり人形を脱ぎ捨てて)いやぁ、
      わがまま息子のお世話も大変ですよ。(言いながら人形を踏みつける)
      おや、王妃さま!? こんなところに。一体いつから?

コーデリア 白々しい。

ケント大臣 さて? なんのことでしょう?

コーデリア で、だれがわがまま息子?

ケント大臣 いえ。まさかそんな。とってもかわいらしい坊ちゃんですよねぇ。(と、人形を再び抱く)

コーデリア 本当。わがままに育ったものだわ。

ケント大臣 でしょう? こら、わがままが過ぎるぞ。なんて。ははは。(と、人形を袖に投げ捨てる)





    そこへ、ハイジに耳を引っぱられるようにエドマント王子が現れる。
    現われながら、


エドマント こら、ハイジリア。お前どっちの味方だ!

ハイジ   強いほうです。

エドマント ということは、少なくとも俺の味方ではないな。

ハイジ   分かっているならいいです。

エドマント はい。

ケント大臣 王子! こら、ハイジリア。王子に何を。

ハイジ   もう終わりました。


    言って、ハイジはエドを突きとばす。


エドマント 痛っ。

ケント大臣 この! 

ハイジ   何か?

ケント大臣 ……少しはドレスでも着て女の子らしくなったらどうだ。

ハイジ   ふん。


    ハイジは去る。


エドマント ハイジリアのドレスか。それも微妙だ(コーデリアと目があい)……と、お母様。

コーデリア (微笑んで)エド。

エドマント いやぁ、どうも。なんていうか。ご機嫌ですね。

コーデリア ええ。とても。

ケント大臣 では、わたしはこれで。

エドマント まて大臣。(と、大臣をつかむ)

ケント大臣 離してください王子。わたし、やることを思い出しまして。

エドマント なんだやることって。

ケント大臣 サボテンが枯れないように水をやらないと。

エドマント サボテンにはそんな頻繁に水をやらなくていいんだ。

ケント大臣 私のサボテンは違うんです。

エドマント いいからここにいろよ。

ケント大臣 いやしかしですね。

コーデリア エドマント!

エドマント はい!

コーデリア ケント大臣。

ケント大臣 はい。

コーデリア ……とうとう、今宵は舞踏会。わかってますね。

ケント大臣 それはもう。

エドマント それについてですけど。

コーデリア 異議は認めません。

エドマント いたたた。急におなかが。

コーデリア 薬を飲みなさい。

エドマント 頭も痛いような。

コーデリア 気のせいです。

エドマント あたた。足も痛くなってきた。これじゃあ踊れないな。

コーデリア 車椅子で踊りなさい。

エドマント そういえばさっきから腕が……

コーデリア いっそのこと、脳みそだけにして出席させてあげましょうか?

エドマント 出ます。

コーデリア (ため息)いい? エド。あなたはこの国の王子なのよ?

エドマント わかってますよ。望んでなったわけじゃありませんが。

コーデリア 王子の役目は何?

エドマント 王になって国を治める。

コーデリア あなたにそこまでたいそうなことは望んでません。

エドマント え、そんな。

コーデリア そのかわり、早く結婚して世継ぎを作ること。それがあなたの唯一の仕事です。

エドマント 俺の価値って……

ケント大臣 ないですね。

エドマント ないな。

コーデリア まぁ、あなたがやる気を出してしっかり勉強をするというのなら話は別ですけど。
        そんな可能性ないでしょう?

ケント大臣 ないですね。

エドマント ないな。

コーデリア はっきり言うな!

エドマント そんな。

コーデリア とにかく。もうすでに町の娘たちは準備をしていることでしょう。
       今夜。いいですか。今夜、王女となる人を必ず決めるのですよ。

エドマント いやぁ、でも、男と女って言うのはもっとなんていうか。

コーデリア 聞く耳持ちません。ケント大臣。

ケント大臣 はい。

コーデリア 王子が逃げないように見張っていてください。

ケント大臣 はは。

コーデリア もし、王子が逃げたそのときは……わかってますね?

ケント大臣 重々承知しております。


    コーデリアは去る。





エドマント ……行ったか?

ケント大臣 はい。


エドマント 寿命が縮んだな。

ケント大臣 笑いながら言わないでください。

エドマント なぁ、大臣。

ケント大臣 いけませんよ王子。

エドマント まだ何も言ってないぞ。

ケント大臣 言わなくても分かります。

エドマント なんだ、さすが大臣だな。じゃあ、いいな?

ケント大臣 なにがですか!?

エドマント 言わなくても分かるんじゃなかったのか?

ケント大臣 分かりませんよ!

エドマント しょうがないやつだなぁ。(こそっと)俺は逃げるぞ。

ケント大臣 駄目です!

エドマント 行かせてくれ!

ケント大臣 なりません! 王子には今日こそ、
       可愛いお嫁さんを採ってもらわなくては。

エドマント 可愛い子が今日来るって何で分かるんだ!

ケント大臣 国の選りすぐりの娘たちを呼んだんですよ?

エドマント 俺の趣味と違ったらどうする。

ケント大臣 見もしないでどうしてわかるんですか!

エドマント わかるもなにも……見ればいいんだな?

ケント大臣 え?

エドマント 見てからなら、逃げてもいいな?

ケント大臣 王子?

エドマント よし。じゃあ、今から行こう。

ケント大臣 は? どこへですか?

エドマント 町へだよ。行こう。どんなやつらが来るのか見に行こう。

ケント大臣 王子、でもですね。王妃は……

エドマント だから、ばれないうちに行けばいいんだよ。大臣が来ないなら一人で行くぞ。

ケント大臣 それはいけません!

エドマント よし、じゃあ決まりだ。行くぞ!


    エドマントは走り出しそうになる。


ケント大臣 王子!

エドマント なんだ?

ケント大臣 ただ単に、外をぶらつきたいだけじゃないでしょうね?

エドマント ……(にっこり笑うとそのまま走っていく)


    エドマントが去る。


ケント大臣 王子!


    ケント大臣があわてて追いかけて去る。





    ところ変わって再びシンデレラの家。
    薄暗くなった照明とともに、どこか夕日が差し込んでくる。
    舞踏会まで後数時間。
    そんな中、みすぼらしいシンデレラの格好をして、シンヤが現れる。
    木漏れ日の中、両手に持った箒で庭を掃いている。


シンヤ   人間、一番の特徴は「慣れ」だってことを、
       いやになるほど思い知らされたような気がします。
       シンデレラと呼ばれ、雑用を押し付けられ、服を着せられ、
       そして雑務に当たる。なんだか、そのすべてにいつの間にか
       なじんでいるような気がしたとき、自分が何か大切なものを失っている
       ような気がしながら、同時に安心感も覚えていました。それが、
       「慣れ」ってことだと思いながら、この状況では、その安心感だけが
       唯一の救いのような気がして、箒であたりを掃きながら、なんだか俺は
       平和な気持ちになるのでした……なるか! 


    と、シンヤは箒を投げ捨てる。


シンヤ   なんで俺がシンデレラ!? 何だこの格好は? なぜ着てる、俺。
       しかも、……結構なじんでる。

ゴネリル  シンデレラ。洗濯は終わったの?


    言いながらゴネリルが出てくる。桶を持っている。


シンヤ   いいえ、お姉さま。

ゴネリル  早く済ませてくれないと困るじゃないの。ほら、持ってきてあげたわよ。

シンヤ   ありがとうございます。

ゴネリル  夜までには終わらせなさいよ。他にも仕事はあるんだから。

シンヤ   はい。


    ゴネリルが去る。


シンヤ   いやぁ。本当、お掃除っていつまでたっても終わらないですよね。
       だから、やるんだったら洗濯のほうがすきなんですよ、実際。だって、
       あるもの洗ったら終わりでしょう? まぁ、毎日たまりますからね。
       これもまた終わりの見えない仕事のような気がしますけど。
       そう考えると家事ってやつは、なんていうかなぁ。現実を常に追い続ける
       サバイバルゲームなんですよね。家の中で行われる永遠の……って、
       だから何やってるんだ俺は! 
       こんなことやっている場合じゃないだろう!? 
       ……あ、ここの汚れはなかなか取れにくいんだよなぁ。
       襟元は汚れやすいから気をつけてっていっておいたのに……


    シンヤは洗濯に没頭し始める。





    エドマントとケント大臣が現れる。
    二人とも少しお忍びの格好といった感じ。
    シンヤは必死に洗濯をしている。


ケント大臣 ああ、ほら王子、あの子なんてどうですか?(と、客席を指したり)

エドマント いやぁ。あの子はなぁ。

ケント大臣 なんか、かわいいじゃないですか。目元なんか、ほら。……なかなかユニークで。

エドマント 駄目だな。ほら、ジェイミーに似てる。

ケント大臣 ジェイミーって……ああ、昔王子が飼っていらした。

エドマント 豚だ。

ケント大臣 じゃあ、あの子なんてどうです?

エドマント スタイルが貧弱すぎやしないか?

ケント大臣 あの子は?

エドマント 髪型がなぁ。アトムみたいじゃん?

ケント大臣 じゃあ、あの子。

エドマント 笑顔がKABAちゃんっぽい。

ケント大臣 あらさがしばかりばっかりしてないで、いいとこだけを見ましょうよ。

エドマント 愛に妥協は不必要だろう。

ケント大臣 愛があれば多少のことは気になりませんよ。

エドマント そんなことないぞ。実際な、一緒にいればいたで相手の欠点ってものは
       見えてくるものだし……(と、ここで、はじめてシンヤに気づく)

ケント大臣 いえいえ。誰にだって欠点はありますからね。愛って言うのは
        そういうものを乗り越えたところに見つかるものなんですよ。

エドマント ……見つけた。

ケント大臣 え? ああ、またあら捜しですか。

エドマント ちがう。愛だ。

ケント大臣 愛?


    ケント大臣もエドマントと同じ方向を見る。そこにはシンヤが一人洗濯物を
    洗っている。シンヤの動きはどこかスローモーション。
    なぜか、シンヤの姿が輝きに包まれる。


エドマント 今、この胸にびびっと来ちゃったんだよ。

ケント大臣 電波ですか?

エドマント ちがう。愛だ。

ケント大臣 愛?

エドマント 決めたぞ大臣。

ケント大臣 何をですか?

エドマント あの子にする。

ケント大臣 は?

エドマント 俺の花嫁はあの子に決まりだ!


    エドマントはいきなりシンヤに向かおうとする。
    大臣があわてて止める。


ケント大臣 いけません王子!

エドマント 止めるな大臣!

ケント大臣 駄目ですよ。いきなり王子が行ってどうするんですか!?

エドマント 決まっているだろう? 城に連れて行くんだ。

ケント大臣 だから、それが駄目だって言ってるんです。

エドマント なんで?

ケント大臣 そんなことをしたら今日の舞踏会が台無しになってしまうでしょう!

エドマント いいじゃないか。目的は達成できたんだから。


    エドマントはまたシンヤに向かおうとする。
    ケント大臣は王子の体を素早く掴んで投げ飛ばす。


ケント大臣 いけません馬鹿王子!

エドマント 止めるな大臣!……馬鹿って言ったか今?

ケント大臣 いいですか王子。今日の舞踏会のために苦労して準備をしてきた人間が
        大勢いるんです。それなのに王子がすでに花嫁を連れていたら
        どうなりますか? そのものたちの努力を笑うことになるんですよ。
        ……どうしました王子? なんでそんな驚いた顔をするのですか。

エドマント ……いきなりまともなこと言い出すなよ。びっくりするじゃないか。

ケント大臣 大臣ですから。

エドマント たしかにそれはお前のいうとおりかもしれないが……じゃあ、どうするんだ?

ケント大臣 簡単ですよ。舞踏会であの子を選べばいいんです。

エドマント 舞踏会場で見つけられるかな? 女ってやつは晴れの舞台だと
       みんな似たような格好になるからなぁ。

ケント大臣 目印をさりげなく送ればいいでしょう。

エドマント 目印? どんな?

ケント大臣 どんな? 

エドマント 矢印でも送るか?

ケント大臣 そんなの送ったらただの変態ですよ。ドレスなんてどうですか?

エドマント ドレス?

ケント大臣 そうですよ、王子の好みのドレスを彼女にプレゼントすればいいじゃないですか。

エドマント なるほど。でも、着てきてくれるかな。もう舞踏会用のドレスを決めているかもしれない。

ケント大臣 王子のドレスコレクションの中からとっておきのものを選べば、
        きっと着てくれますよ。可愛いのやら綺麗なのやら大人っぽいのやら
        ロリータやら、気持ち悪いくらい種類ありますし。

エドマント 気持ち悪いは余計だ。

ケント大臣 ほら、そうと決まったら、早くお城に戻ってドレスを選びましょう。

エドマント ちょっと待て。もうすこし、あの子の顔を見させてくれ。

ケント大臣 ちょっとだけですよ。


    ケント大臣は去ってしまう。エドマントはシンヤを見ながら呟く。


エドマント 必ず君のハートを射止めるよ。


    投げキッスをし、エドマント去る。洗濯物をし終えたシンヤに寒気が走る。





シンヤ   なんだ? 急に寒気が……


    と、洗濯物を持ち上げつつあたりを見渡すシンヤ。
    やがて、洗濯物に目を向ける。


シンヤ   あ、よっし、うまく落ちているじゃない。さっすが私。……じゃなかった。
       さすが俺。さあ、次はっと……(と、なんかの布切れを取り出し)
       うーん。ただの布か。お姉さまたちのいじわるも手が込んできてるなぁ。
       綺麗に洗ったら捨てるつもりだなぁ。よーし、がんばって綺麗にするぞっと。

    と、すっかり世界になじんでいる様子。
    そこへ先ほど王子と大臣が消えたところから、
    魔法使い(ペータ)がやってくる。
    魔法使いのローブは、いかにも即席で作られたといった様子である。
    若干おどおどした感じでやってくる魔法使いは、手にドレスを持っている。


魔法使い  俺は魔法使い。俺は魔法使い。ちょっとキュートな魔法使い……
        で、なにするんだっけ?


    ふと、分からなくなって遠くを見る。
    すると、王子の声が聞こえてくる。


エド声   「いいか、お前は今から魔法使いだ。」

魔法使い  でも、俺、ただの羊飼いのはずなんだけど。

エド声   「いいから、お前は魔法使いなんだ。いいな」

魔法使い  わかった。俺は魔法使い。

エド声   「そうだ。そして、その箱に入っているドレスと靴を、
       桶で洗い物をしている綺麗な子に届けるんだ。」

魔法使い  わかった。俺は魔法使い。箱に入っているドレスを洗い物をしている子に届ける。

エド声   「よし、行け!」

魔法使い  マホー。

エド声   「…………一応聞いておくが、その掛け声は何だ?」

魔法使い  魔法使いだから。

エド声   「魔法使いだからか」

魔法使い  魔法使いだから。

エド声   「……よし、行け!」

魔法使い  マホー!


    魔法使いは元気にシンヤの元へと歩いていく。
    シンヤは鼻歌交じりに洗濯中。


魔法使い  おい人間。

シンヤ   え? ……誰だお前?

魔法使い  俺は魔法使いだ。

シンヤ   魔法使い? そんなものいるわけないだろ。

魔法使い  ……のような物だ。

シンヤ   いきなり自信なくすなよ。

魔法使い  じゃあ、魔法使いだ。

シンヤ   じゃあってなんだ……その、魔法使いのようなものが何の用だよ。

魔法使い  お前は誰だ?

シンヤ   俺? ……シン(ヤ)……シンデレラだよ。

魔法使い  シンデレラ。お前、舞踏会に行きたいんだろう?

シンヤ   武道館? いや、別に興味はないけど。

魔法使い  舞踏会! 無理矢理ボケようとするなよ。恥ずかしい。

シンヤ   ぼけてねえよ! 舞踏会ってなんの事だよ。


    と、なんの脈略もなく、ゴネリルが現われる。


ゴネリル  舞踏会って言うのはね、シンデレラ。今夜お城で開かれるパーティのことよ!

シンヤ   おねえさま! いつからそこに!

ゴネリル  あんたがちゃんと仕事をしているのか見張っていたにきまっているじゃないの。
       いいこと?シンデレラ。その舞踏会では王子の結婚相手を決めるのよ。
       でもね、あんたはそこには行けないの!

シンヤ   ふーん(興味なし)
ゴネリル  そう興味のないフリをしなくても良いのよシンデレラ。行きたいでしょ? 
       あんた、めちゃくちゃ行きたいでしょ? なんせお城じゃ豪勢な食事は出るし、
       玉の輿になれる機会がたくさんですものね。行きたいでしょ? 正直お城に行ってみたいでしょ?

シンヤ   いや、べつに。

ゴネリル  無理しなくてもいいのよ。シンデレラ行きたいなら行きたいって言ってくれてもいいの。

シンヤ   いや、だからべつに。

ゴネリル  いいから行きたいっておっしゃい!

シンヤ   行きたいです。

ゴネリル  そう! 行きたいわよねぇ。で、も、ね、あんたは行けないのよ〜。
       なんせ今日はやらなきゃならない仕事がたくさんあるんだからねぇ。
       (高笑う)舞踏会には、私とリーガンで行って来てあげる。


    ゴネリルは笑いながら去る。


魔法使い  ……大変だね。

シンヤ   うん。リアクション取り辛いのが一番困るよ。で? なんだっけ?

魔法使い  ああ、舞踏会に行かせてやるよ。俺が。

シンヤ   いや、別に興味ないんだけど。

魔法使い  嘘つけよ〜。

シンヤ   嘘じゃないし。

魔法使い  行きたいんでしょ。舞踏会。

シンヤ   行きたくないよ。

魔法使い  行きたいくせに。

シンヤ   あんたも、お姉様と同じようなこと言うなぁ。そんなに舞踏会に行かせたいのかよ。

魔法使い  うん。

シンヤ   なんで。

魔法使い  じゃないと、俺困る。

シンヤ   なんで。

魔法使い  困るから。

シンヤ   いや、理由になってないし。

魔法使い  とにかく! これ。


    と、魔法使いは箱から服を出し、シンヤに渡す。


シンヤ   なにこれ!?

魔法使い  (なにやら呪文を唱えている ※ビビデ…… とか。 )……服。

シンヤ   いや、今呪文唱える前に出したよな!? 

魔法使い  と、これ。(今度は先に呪文を唱えている)


    と、魔法使いは箱から靴を渡す。


シンヤ   え? なに? なんなの。

魔法使い  履け。着れ。

シンヤ   これを!? ……いやぁ、なんか凄い趣味入ってると思うけど。

魔法使い  俺もそう思う。

シンヤ   お前が出したんだろう!?

魔法使い  え? ……じゃ。そういうことだから。

シンヤ   そういうことって! おい!


    魔法使いは慌てた風で去って行く。


シンヤ   なんなんだよ……これ、着るのかぁ……


    シンヤは服を見る。いやそう。
    と、辺りの雰囲気が不思議な感じに変わる。
    どっからか、声が聞こえてくる。


ハイジ声  「『舞踏会か。きっと、私なんかには似合わないんだろうな』そう、シンデレラは考えました」

シンヤ   え?

ハイジ声  「『でも、行ってみたいな』シンデレラはそうも思いました。」

シンヤ   いや、思ってないし。

ハイジ声  「そして『せっかくだから、この服を着てみよう』そう、シンデレラは考えたのでした」

シンヤ   だから、思ってないし。

ハイジ声  「思え」

シンヤ   そんな!

ハイジ   「そして、時は過ぎ、いよいよ舞踏会の時間がやってきたのでした。」

シンヤ   はやっ! え、まってまだ準備が。

ハイジ   音楽!


    静かな音楽とともに、シンヤを待たず照明が暗くなる。


シンヤ   暗っ!


    シンヤがはける。
    闇の中に響き渡るように高らかに城のテーマが流れ始める。


10


    舞台変わって、王宮。
    照明の明るさがます。
    壮大な音楽が流れることで客はここが王宮であることに気づけるだろう。

    王子の名を呼びながらコーデリア王妃が現れる。
    パーティ用の為、少し派手か。


コーデリア エド! エド! どこにいるの? いい加減隠れてないで出てきなさい! エド!


    と、ハイジが現れる。今度は少々派手な服を着ている。
    ドレススタイルのつもりらしい。


ハイジ   王妃様。

コーデリア ああ。ハイジリア。エドはどこにいますか?

ハイジ   知らないです。

コーデリア まったくあのこったら。今日は大事な日だって言うのに。
        ……なんか、こんな言い合い数分前にもしなかった?

ハイジ   したような気がします。逃げたんじゃないですか?

コーデリア 誰が!?

ハイジ   ですから、王子。

コーデリア どこに!

ハイジ   いや、知らないですけど。

コーデリア まったくあの子はいつもいつも。大臣を見張りにつけても何の役にも
        立たないんだから。あの大臣、首にしてやろうかしら。

ハイジ   いえ、大臣もあれで結構頑張ってるんですよ。

コーデリア エドと一緒に楽しんでいるようにしか見えないけど。

ハイジ   それは否定できませんが。

コーデリア ……ところで、ハイジリア? その格好は何?

ハイジ   ドレスです。

コーデリア そう見えなくないのは認めるけど。だから、何?

ハイジ   舞踏会ですから。

コーデリア あなた! まさか王子との結婚を狙っているんじゃ! 

ハイジ   まさか!

コーデリア そんなこと考えていようものなら、給料カットですよ。

ハイジ   ありえないですよ。誰が、あんなくそ坊ちゃんと結婚なんか。

コーデリア それを聞いて安心しました。……が、誰がくそ坊ちゃんですか! っていうことで給料カット決定。

ハイジ   そんなぁ。

コーデリア でも何でそんな格好を?

ハイジ   そ、そりゃあ、舞踏会ですからね。どっかのいい男を捕まえりゃ、
       こんな城で働く生活ともおさらばってやつですよ。

コーデリア ……とうぶんただ働きのほうがいいかしら?

ハイジ   そんなぁ。

コーデリア ああ、こんな話をしているときじゃなかった。エド! エド! 
       どこにいるの? 怒らないから出てきなさい! エドマント! 
       いい加減出て来いこのやろう!

ハイジ   怒ってるじゃん。


エド(声) ははは。お母様。俺はここにいますよ。


コーデリア このパターンは……

ハイジ   なんか、ありましたね。


    そんな声を後に、なぜかどっかの人形遣い漫才師のような格好で
    ケント大臣が現れる。その手の中には、王子の格好をした人形を持っている。
    流れてくる声にあわせて、その人形を大臣は動かす。
    しかし、今回の大臣はしっかりとパーティ用の服を着ている。
    人形も少し派手目。


エド(声) お母様。お待たせいたしました。

コーデリア エド!

エド(声) はい。

コーデリア だから、もう同じパターンはいいの!

ケント大臣 私もね、そう言ったんですよ。

エド(声) しゃべるな大臣!

ケント大臣 はは。

コーデリア ハイジリア。

ハイジ   はいはい。


    ハイジが去る。
    ケント大臣はあわてて人形などを放り出す。


ケント大臣 いや、王妃。王子は別にですね。

コーデリア 大臣。

ケント大臣 はい。

コーデリア 黙ってなさい。

ケント大臣 はい。

エド(声) ん? あ、こら。ハイジリア。お前。何でここが。あ! くそ! 
      何度もしてやられる俺だと思うな! くらえ!


    いろいろな音が聞こえてくる。正直痛そう。
    そして、エドマントの耳を引っ張りハイジリアが出てくる。
    エドマントはなかなかの格好をしている。
    ハイジはエドマントを放り出し、コーデリアのそばに立つ。


エドマント 痛い痛い痛い……お母様。

コーデリア エドマント。お前は本当に(あきれました)。

エドマント 違うんですお母様。これは本当。ね? この格好見てください。
       ほら、きちんとしているでしょう!?

コーデリア そういえば……

ケント大臣 王子はただ、出来るだけかっこいい登場をしようと思っただけなんです。

ハイジ   かっこ悪い。

エドマント だから格好よくしようとしたんだって!

コーデリア エド! あなた。

エドマント ご心配をおかけしましたが。お母様。もう、心配は要りません。僕は生まれ変わりました。

コーデリア じゃあエド!

エドマント はい。今宵の舞踏会。めちゃくちゃ張り切ってまいります。

コーデリア 王子としての自覚がついに芽生えたのですね。

エドマント もちろん!

ケント大臣 男としての本能と言ったほうがいい気がしますが。

エドマント 余計なことは言うな。

ケント大臣 はい。

コーデリア (感動していたらしい)すばらしいわ、エド。
       よく覚悟を決めてくれました! これで私も心配することなく
       今宵の舞踏会に望めます。

エドマント はい! お母様はなんら心配をすることなく、どんと構えていてください。

コーデリア わかりました。あなたが花嫁を見つけ出す姿。母はゆっくりと眺めることにします。
       (と、去りかけ)……エドマント。

エドマント はい?

コーデリア 舞踏会までまだしばらく時間があります。その乱れた格好を少しは直しておきましょう。ハイジリア。

ハイジリア はい。

コーデリア 大臣と一緒にお客様のお迎えをお願い。

ハイジリア え? えー。でもなぁ。

コーデリア もしかしたら、あなたの探す玉の輿の相手も現れるかもしれませんよ。

ハイジリア 仕方ないですね。それなら。

エドマント 変わり身早っ。

ハイジリア 何か言ったか?

エドマント いえ。さあ、お母様行きましょう。

コーデリア ええ。顔はともかく、格好だけはなんとか見られるものにしましょうね。

エドマント あんたそんな俺をぼろくそに言うのが楽しいか。


    コーデリアとエドマントが去る。
    ケント大臣とハイジリアは無言で少し場を移動する。


11


    そこは少し雰囲気が変わって受付?なのだろうか。
    二人はそこで何か礼をしながら客を受け持っている。
    なぜかハイジリアは少し不機嫌に見える。


ケント大臣 ……なぁ、ハイジリア。

ハイジ   なんですか?

ケント大臣 なぜそんな不機嫌なんだ?

ハイジ   不機嫌じゃないですよ。

ケント大臣 不機嫌だぞ?

ハイジ   違うって言ってるだろう?

ケント大臣 はい。

ハイジ   ……(ふと、客に言うように、作った笑顔で)いらっしゃいませ。

ケント大臣 (あわててあわせ)ようこそお城へ。

ハイジ   どうぞ、お先へお進みください。

ケント大臣 どうぞどうぞ。……また一人入ったな。

ハイジ   ……

ケント大臣 今日は何人来るんだろうな?

ハイジ   ……

ケント大臣 ハイジリア?

ハイジ   さぁ。

ケント大臣 「さぁ」って。

ハイジ   そうやって大臣様は他の女ばかり見ていればいいんですよ。

ケント大臣 他の女って……皆様もしかしたら将来王子の花嫁になるかもしれない方達だぞ。

ハイジ   そうですね。

ケント大臣 ハイジリア。いったい、何が言いたいんだ。

ハイジ   べつにー。

ケント大臣 (ため息)変だぞさっきから。何かあったか?

ハイジ   何もないです。

ケント大臣 じゃあ、何だ? 何が気に食わない?

ハイジ   何でもないって言ってるだろう?

ケント大臣 分かりましたよ。


    間


ハイジ   ……気づいてくれないんだ?

ケント大臣 え?

ハイジ   なんでもないです!

ケント大臣 何に気づくっていうんだ!

ハイジ   (じっと、下を向く)

ケント大臣 言いたいことがあればはっきりと……ドレスか。

ハイジ   着てみたらって言ったのは自分のくせに!


    ハイジが走り去る。


ケント大臣 ハイジリア!? えー。うそぉ。え、だって、うそぉ。どういう展開だよ。


    ケント大臣もあわてて追いかける。


12


    と、そこへ現れるのは先ほどの魔法使い(ペータ)


魔法使い  今の? ま、いいか。魔法使いをやったお礼にお城の料理食べ放題なんて、
        これほど割りのいい仕事はないよなぁ。さぁ、今日は食べまくるぞ〜。
        すいませーん。王子か大臣いませんか? すいませーん?


    と、そこへゴネリルとリーガンが現れる。
    どちらもおめかししている。


ゴネリル 来たわよ、リーガン。

リーガン 来たのね、姉さま。

ゴネリル とうとう私が王妃になるときがやってきたのよ。リーガン。

リーガン 私が王妃になる時、の間違いですわ。お姉様。

ゴネリル あなたって子は大人の色気ってものが分かってないようね。

リーガン 色気? どこ?

ゴネリル ああん?

魔法使い (と、ここで気づき)なんか、濃いキャラの上怖い人がいる。逃げないと。

ゴネリル ちょっと待ちなさい小僧。

魔法使い 小僧って俺!?

ゴネリル あんた以外に誰がいるのよ。ねぇ?

リーガン まぁ、小僧って言うより、ガキ?

魔法使い 俺がどうかした?

ゴネリル あんた、わたくしたちの事を、今何て言った?

リーガン 正直におっしゃい。

魔法使い 濃いキャラの上に怖い人。

ゴネリル 怖いは余計よ!

リーガン 濃いキャラも余計だと思いますわお姉さま。

魔法使い 濃いキャラの上、怖くて変な人。

リーガン な(……んで増えるのよ)

ゴネリル なんで増えるのよ!

魔法使い じゃあ、ただの怖い人。

リーガン だ(……から怖いが余計)

ゴネリル だから怖いが余計だって言ってるでしょう?

魔法使い だって怖いもん!

ゴネリル どこが怖いのよ。こ、ん、な、に、優しくて可憐で、美しいでしょう?

リーガン 確かに怖いかもしれませんわね。

魔法使い 鏡見た事ある?

ゴネリル お黙り!

魔法使い 許して! 食べないで下さい!

ゴネリル あんたには、どうやら私がどういう人か分からせてあげたほうが言い様ねぇ。ねぇ、リーガン。

リーガン 怖いわよ、姉さまは。

ゴネリル 怖くないわよ! 私はね、近い未来この国で一番偉い人の隣にいる事になるのよ。

魔法使い え、魔王?

ゴネリル どうやったらそういう答えになるのよ! 王妃よ王妃!

リーガン 私が王妃になるんですわよ。お姉さま。

魔法使い 王妃……

ゴネリル その時には、あんたを奴隷として使ってやっても良いわよ。(と、たからかに笑い去って行く)

リーガン ですからお姉さま。私が王妃になるんですって。


    ゴネリルとリーガンは城の中へと入っていくらしい。


魔法使い ……あんなのが王妃になったらこの国もおしまいだな……やっぱり、帰ろうかなぁ。


    と、去りかけ。
    シンヤが舞台袖から顔だけ出す。


魔法使い あれ? あんた! 

シンヤ  あ、お前さっきの!?

魔法使い なんでそんなところに隠れてるの? 

シンヤ  いや、やっぱり無理だよ。無理あるよ。この格好。

魔法使い そんな袖で隠れなくても。それ本当はないことになってるんだから。

シンヤ  てか、やっぱり無理だから。帰る!

魔法使い なんで今更!?

シンヤ  無理だって。恥ずかしい!


    と、シンヤの顔が消える。


魔法使い 恥ずかしい? よし。俺が連れて行ってあげる。あ、待ちなって。ねぇ!


    魔法使いが去る。
    あたりの景色が変わっていく。


13


    そしてファンファーレ?
    城の舞踏会がスタートする。

 
コーデリア お集まりの皆様。今宵は国の舞踏会へお集まりいただき、ありがとうございます。
        この子を産んでからの苦節ウン十年。つらいことばかりでしたが、今日こそ報われるような気がします。
        お待たせいたしました。皆さんにご紹介いたします。わが国の誇るべき王子。エドマントです!


    颯爽と登場するエドマント。ここぐらいは決まっていて欲しいところ。


エドマント エドマントです。今日は僕のために集まっていただき
       ありがとうございます。早速ですが、そこの方とそこの方。(笑顔で)
       お帰りください。ああ、それとそこの方と、その隣の方。お帰りください。あとそこの……

コーデリア エド?

エドマント はい?

コーデリア いきなり何をしているの?

エドマント いやだなぁ。お母様。予選ですよ、予選。

コーデリア 予選?

エドマント こうやって見込みのなさそうな子からどんどん減らしていかないと、
       人が多すぎて誰を選んでいいのかも分からないじゃないですか。
       目当ての子も見つけられないですよ。

コーデリア なるほどね。……あまり敵を作らないようにね。

エドマント もう遅い気がしますが。じゃあ、続きをっと。えーっとあの子はどこだ。あの子は?

コーデリア あの子?

ゴネリル&リーガン声 お探しの子ならここにいますわ。


    と、声が聞こえてゴネリルとリーガンが現れる。


エドマント なんだ、こいつら

ゴネリル  王子様。始めまして。変な女の姿ばかりで、さぞ王子様もお疲れでしょう。
      私が来たからには、もう予選など必要ありません。さあ、今すぐ決勝戦で
      お選びくださいませ。

リーガン  お選びくださいませ。

コーデリア これは元気のいいお嬢様たちね?(こんなのが好みなの? といった目で王子を見る)

エドマント 違いますよお母様。それだけはありえません。……えっと、
       何か勘違いして来ちゃったのかな?

リーガン  それは姉です。

ゴネリル  勘違いなんてとんでもない。王子が少しでも早く見つけてもらえるよう、
       こうして参上したしだいです。

エドマント あ、そう。じゃあ、もう見つけたからいいよ。帰って。

リーガン  ですって、お姉さま。お帰りください。

エドマント 君もね。

リーガン  私も!?

ゴネリル  帰れって……王子の寝室にですか!? そんな!? 
       それはまだまだ先のお話だと思ってましたのに。
       でも、王子が望みますのなら。私……

エドマント そうじゃなくて! 家に帰れって。

ゴネリル  王子と私の新居ですね!? もう、王子ったら行動がおはやいんですから。

エドマント 違う! 自分の家に帰れって言ってるんだ!

ゴネリル  王子の家は私の家。そう思ってよろしいという事ですね?

エドマント ちがーう! なんだ? 何て言ったら分かってくれるんだ? 
       お前なんかには興味は無い! 少しも無い! 全然ない! 
       ありえない!

ゴネリル  そんな!?


    ゴネリルは一瞬ショックの表情をするが、


ゴネリル  照れちゃってー

エドマント ああ。もうやだ。

リーガン  さすがに私もそこまでは面の皮が厚くなれないですわ。

コーネリア エド。こんな状況の一つや二つ、軽くあしらえ無いようじゃあ、
       これから先尻にしかれる事は目に見えていますよ。

エドマント お母様。そんな姑みたいな事言ってないで何とかしてください!

コーデリア 何とかって……(ふと、気づき)ハイジリア! ハイジリア! 
        どこに行ったのかしら? ハイジリア?


    舞台前面に光が当たる。
    そこをすごいスピードで走り抜けるハイジリア。


ケント大臣 ハイジリアー。


    その後を、ケント大臣が追いかけて去る。
    コーデリアやエドマント達は、思わずその姿を見送る。
    照明戻る。
    何事もなかったかのように、


コーデリア まったく。どこへ行ったのかしら。

エドマント 本当ですよ。この重大なときに大臣もいないし。

ゴネリル  え? 重大発表? いよいよ婚約発表ですわね。でも、そんな。
       まだまだ早いと思って。私ったらこんな格好で。
       もっと派手なドレスを着てきたほうが良かったかしら?

エドマント 言ってない! ああ、もう誰でもいい! こいつらをどうにかしてくれ!

魔法使い  その言葉を待っていました!


    と、現れたのは魔法使い。


エドマント お前は。

コーデリア 誰ですお前は。

魔法使い  俺は、魔法使いだ。

コーデリア ばかばかしい。そんなものいるわけないでしょう。

魔法使い  ……のようなものだ。

エドマント お前、もしかして連れてきてくれたのか。

魔法使い  (うなづく)その方が食い物もらえるかと思って。

エドマント やるやる! 今日の食事はみんなお前のものだ。

コーデリア エド? 誰を連れてきたというのです?

エドマント 本日のメインキャストです。

ゴネリル  あら? あたしたちは?

エドマント 脇役中の脇役。

ゴネリル&リーガン  ひどい!

エドマント さあ、見せてくれ。その子を。

魔法使い  マホー。じゃあ、行くぞ。(と、呪文を唱えながら一回はけ)

シンヤ声  やめろ! 引っ張るなよ!

魔法使い  (呪文を完成させ)いでよ!

シンヤ声  やめろって!


    シンヤが現れる。そして、魔法使いは去る。
    途端、王妃は去り、ゴネリルとリーガンも去り、
    そこはエドマントとシンデレラだけの世界になる。


14


シンヤ   ……どうも。

エドマント ……美しい。

シンヤ   そう、ですか。

エドマント 名前は、なんと言いますか?

シンヤ   シン(ヤ)……シンデレラです。

エドマント 美しい名だ。僕はエドマントといいます。
       でも、君はエドと呼んでくれてもいい。

シンヤ   はぁ。

エドマント 単刀直入に言います。(と、シンヤの手を取る)結婚してください。

シンヤ   はぁ!?

エドマント 驚くのは分かる。僕のこともまだよく分かっていないのに結婚だなんて
       早すぎるのもよく分かる。でも、それは僕だって同じだ。
       君の事をまだよく分かっていない。

シンヤ   だったら。

エドマント でも、君を思うこの気持ちに偽りはない! 愛しているんだ!

シンヤ   そんな事いきなり言われても……

エドマント どうしたら分かってくれる? この思い。俺は、君のためなら、
       何でも出来る!

シンヤ   何でもって……

エドマント 君のためなら、……脱げる。

シンヤ   はぁ!?

エドマント なんなら、ここで脱いでもいい!

シンヤ   えぇーー!?

エドマント 嘘だと思うのか? ほら!


    と、エドマントは本当に脱ぎ始める。


シンヤ   いや、まずいから! こんな場所でいきなり脱ぎ出されても、

エドマント 俺は構わない。君のためならいつだって。どこでだって。

シンヤ   俺が構うんだ! どんな愛しかただよそれは。

エドマント 俺、不器用だから。

シンヤ   不器用って言うより不気味だ!

エドマント それだけ純粋なんだ!

シンヤ   どんな純粋さだよ! ……(と、客を向き、)と、言いながらもそこまで
       愛されるという事にまんざらでもない気分を感じてしまった俺は、
       変態なのでしょうか。

エドマント やっと伝わったんだね。俺の愛が。

シンヤ   人のモノローグに入りこむなよ!

エドマント 愛があれば、LOVE IS OKさ!

シンヤ   そんなこと言われたって。

エドマント でも、じゃあどうしたら伝わるんだこの思いが!……やっぱり脱ぐか。

シンヤ   脱ぐな!


    と、シンヤはあわててエドマントの動きを止めに入る。
    その手をエドマントが掴む。


エドマント やっと、触れてくれたね。シンデレラ。

シンヤ   あんたが掴んだんだろう!

エドマント 愛している。……結婚しよう。(と、抱きしめる)

シンヤ   ちょ、まって!


    と、そこへハイジの声が流れる。
    エドマントはストップモーション。


ハイジ   「こうして、シンデレラはいつまでも幸せに暮らしましたとさ」

シンヤ   おい!

ハイジ   「めでたしめでたし」


    言葉と共に、辺りは暗くなって行く。


シンヤ   おい! ちょっと待て!


    シンヤの言葉にまた明るくなる。


ハイジ   「なんだ人間?」

シンヤ   これのどこが幸せだ!

ハイジ   「愛されているじゃんか」

シンヤ   いや、愛されているけど。

ハイジ   「玉の輿じゃんか」

シンヤ   玉の輿……だけどさぁ。

ハイジ   「なんでもいいんだろう?」

シンヤ   ……そんないちいちあげ足取るような真似しなくたって……

ハイジ   「どうでもいいんだろう? でも、幸せになりたいんだろう」

シンヤ   俺にだって選択する権利はある!!


    ハイジの声がなくなる。
    同時に、シンヤはエドマントを突き飛ばす。


エドマント シンデレラ!?

シンヤ   悪いけど王子。私は帰らなければなりません。
       まだ、お姉さまに頼まれた洗濯が途中なんです。


    シンヤは走り去る。
    エドマントは一瞬呆然となりながらも、


エドマント シャイだなぁ。シンデレラは!


    うれしそうに走っていく。


※ ここから物語りはいくつものシーンの折り重なりになる。
スピード感を大事にしたい。


15


    照明変わってすぐに駆け込んでくるハイジリアとケント大臣
    さきほどハイジリアが走っていったその続きらしい。

@A

ケント大臣 ハイジリア! 待ってくれハイジリア!

ハイジリア (立ち止まり)なんですか、大臣様。

ケント大臣 俺は、君に伝えたいことをどうしても言えずにいたんだ。

ハイジリア え、それって。(思わず期待して振り返る)

ケント大臣 俺は……君が……


    ケント大臣はなぜかそこでテレながらもと来た道を走り去る。


ハイジリア えー! ケント大臣!


    ハイジリアはわてて追いかけて去る。



AA
    照明変わって魔法使い(すでにペータの格好に戻りつつある)が、
    食べ物を両手に走ってくる。


ペータ?  俺は食べていいって言われたから食べてただけだ!


    コーデリアが鞭のようなものを持って追いかけてくる。


コーデリア だから食べるにしても、もっとお行儀をよくして下さいと言っているんです!

ペータ?  お行儀よくしてるよ、俺。

コーデリア ほう?


    と、鞭を鳴らしてみたり。


ペータ?  (声にならない悲鳴)


    ペータ?が逃げる。


コーデリア この城内で私に逆らうのは許しませんよ!


    コーデリアが追いかけて去る。



BA


    シンヤが走ってくる。
    ちょっと走りつかれて、息を整える。


シンヤ   ここまできたら、大丈夫、だろう。


    結構息が上がっているシンデレラ。


エドマント シンデレラ!


    エドマントが走りこんでくる。


シンヤ   しつこい!

エドマント なんだシンデレラ。待っていてくれたのか。ありがとう。

シンヤ   違う! なんでそんなさわやかなんだ。

エドマント 大丈夫か? 疲れているんじゃないか。

シンヤ   しかも、やけにやさしい。

エドマント もし、結婚が嫌なら、まずは付き合うことからはじめてみないか?


    シンヤは何かを振り切るように走っていく。


エドマント シンデレラ!


    エドマントも追いかける。



CA


    ゴネリルとリーガンが現れる。


ゴネリル  なんか私たち、すごくないがしろにされているような気がしない?

リーガン  そうね。お姉さま。

ゴネリル  王子は変な女に夢中だし。

リーガン  そうね。お姉さま。

ゴネリル  でもあの女、どっかで見たことあるような気がするんだけど。

リーガン  そうね。お姉さま。

ゴネリル  だけど、ああいうのには、気づいちゃいけないことになっているものね。

リーガン  そうね。お姉さま。

ゴネリル  ……ねえ、さっきから同じ台詞ばかりのような気がするんだけど?

リーガン  そうね。お姉さま。

ゴネリル  なんか、すっごく今自分が間抜けに見えたわ。

リーガン  そうね。お姉さま。

ゴネリル  やる気ないのもたいがいにしなさいよ!?


    ゴネリルとリーガンが去る。



AB


    コーデリアとペータ?が走ってくる。


ペータ?  だから、俺食べているだけだって。

コーデリア だから、その食べ方が問題なんです!

ペータ?  ちゃんと食べてるよ!

コーデリア わかんない子ね!(と、ペータを捕まえ)おいで。徹底的にしつけなおしてあげる。

ペータ?  そんなぁ。



@B


    ほぼ、同空間にハイジリアとケント大臣が現れる


ハイジリア まって。ちょっとまって。

ケント大臣 何?

ハイジリア なんで、そっちが逃げるの?

ケント大臣 え?

ハイジリア あたしでしょぉ、普通。

ケント大臣 そうなの?

ハイジリア そうだって。

ケント大臣 じゃあ、逃げろ。

ハイジリア え……いきなり言われてもなぁ。


エド声   待ってくれ!


ハイジリア どっち!?

ケント大臣 何も言ってないぞ?

ハイジリア え?


16


    そして、ほぼ同空間にシンヤとエドマントが現れる。
    ハイジリアとケント。コーデリアとペータ?は、去ったものを除き、
    シンヤとエドマントを囲むように見守ることになる。


エド声   シンデレラ!


    シンヤが現れるが、エドマントの声で思わず止まる。
    エドマントが現れる。


エドマント シンデレラ……

シンヤ   王子。

エドマント なぜ、そうまでして逃げるんだ。

シンヤ   それは。

エドマント 俺のことが、嫌いか。

シンヤ   嫌いとか、そういう問題じゃなくて。

エドマント じゃあ、なんなんだ。

シンヤ   ほら、自分、貧乏ですし。

エドマント 俺は気にしない。

シンヤ   名前だって変な名前だし。

エドマント 俺は気にしない。

シンヤ   じゃあ、ほら、実はこれカツラなんですよカツラ。ははは(と、頭を指す)

エドマント 君が君であることには代わらないさ。

シンヤ   なら……そうだ、変な癖がある!

エドマント 気にしない。

シンヤ   腕太いぞ!

エドマント 気にしない。

シンヤ   着やせしているように見えるけど、体格悪いんだよ!

エドマント 気にしないさそれくらい。

シンヤ   浮気するよ、一緒になっても絶対!

エドマント 気にしないさ。

シンヤ   俺はあんたが思っているような人じゃないんだよ!

エドマント それでも俺は君が好きだ!

シンヤ   ……てか、何より先に俺は男だ!


    シンヤはカツラを思い切り地面にたたきつける。
    エドマントはゆっくりと、シンヤのカツラを拾う。
    そして、シンヤに微笑む。


エドマント 誰にだって欠点はある。

シンヤ   欠点とか、そういう問題じゃ……

エドマント そんな小さなこと俺が気にするか! 俺は王子だ!

シンヤ   エドマント王子!

エドマント シンデレラ!


    シンヤとエドマントは抱き合う。
    その途端、あたりから拍手が。それは今までの登場人物たちが
    送っている拍手だった。去っていたはずの二人の姉妹も現れ、
    シンヤとエドマントに拍手を送る。
    シンヤが話だすと、拍手は空拍手になる。


シンヤ   一瞬、このままでもいいかもしれないという思いが浮かびました。
       こんなにまで俺を思ってくれる人となら、性別を超えても
       一緒になれるかもしれない。愛することに疲れた俺を、
       大きな愛で包んでいてくれるかもしれない。そんなふうに……
       思っ……思っ…お…思えるか! 無理! やっぱ無理! 無理だよ〜!


    叫んだ瞬間に、拍手がとまる。
    そして、急激な暗転。

    音楽が変わる。
    夢が現実へと移り始める。


17


    店員(ペータ)が照明に浮かび上がる。
    店員は一人で話している。話相手は店長のようだ。


店員    え? これから帰るつもりだったんですけど。え? あの客まだ帰って無いんですか? 
       いやですよ、俺が起こしにいくなんて。他の人間に頼んでくださいよ。
       もう帰らせちゃったって……そんなの店長が悪いんじゃ無いですか。店長が起こしてくださいよ(等など)


    色々喋ってはいるが、全てシンデレラが着替えるまでの時間稼ぎである。
    タイミングを見計らい、店員は仕方なさそうに寝ているシンヤの元へと向かう。


店員  分かりましたよ。行きますよ。


    暗闇にシンヤが浮かび上がる。


店員  お客さん。お客さん。そろそろ、閉店なんですけど。


    と、その声を合図に明かりがつくとそこは居酒屋ツボ七。
    閉店間際の朝5時くらい。蛍の光の変わりに陽気なアニメが流れているのは
    きっと店員の趣味だろう。


シンヤ   (寝ている)やっぱり無理。無理だから。女の子の方がいいよぉ……

店員    お客さん。お客さん。起きれ!!

シンヤ   はい! (辺りを見て)……え?

店員    あの、閉店なんですけど。

シンヤ   ここは?

店員    ツボ七ですよ。駅前の。

シンヤ   駅前の? ……え!? つぼ七? 今何時?

店員    五時ですけど。……お客さん、大丈夫ですか?

シンヤ   そうか。俺、飲んでて……あれ? 先輩は?

店員    帰られましたよ。とっくに。終電があるからって。

シンヤ   うっわぁ。冷たいなぁ。俺を慰めるためじゃなかったのかよ。


    言いながらシンヤは立ち上がる。


シンヤ   ごめんなさいね。じゃあ、帰りますわ。


    言いながら少しふらつくシンヤに、店員は伝票を見せる。


店員    お客さん。お勘定。

シンヤ   え?

店員    お勘定ですよ。払っていってもらわないと。

シンヤ   え? 先輩、払っていかなかったの?

店員    あなたがお支払いになるといわれておりましたけど。

シンヤ   うっわぁ。なんだよそれ。ぜってぇもうあの人たちと飲みになんていかねぇ。……いくら?

店員    (伝票を見て)12046円です。

シンヤ   はぁ!?

店員    ですから。12046円です。

シンヤ   最悪だ。……カードでもいいですか?

店員    いいですよ。


    店員がいっぽ引く。
    シンヤは財布の中を見る。


シンヤ   俺、お通しもろくに食べてないのになぁ。あの二人ひどすぎるよ。……これ……?


    と、シンヤが取り出したのはディ○ニーのパスポートらしい。


シンヤ   彼女と行こうって言ってたのにな。

店員    さすがに、ディ○ニーのパスポートじゃあお支払いは出来ませんよ?

シンヤ   分かってるよ! こんなの持っていたからあんな夢、見たのかなぁ。

店員    お客様?


    しげしげとパスポートを見ていたシンヤは、決心を固める。


シンヤ   ……でも、やっぱり追われるよりも、追いかけるほうがいいよなあ。男としては。ねぇ?

店員    はぁ。

シンヤ   もう一度、チャレンジしてみようかな。

店員    お客様?

シンヤ   あ、ごめんなさい。こっちの話……はい、じゃあカードで。

店員    ありがとうございます。少々お待ちくださいませ。


    店員が去る。
    シンヤは携帯電話を取り出す。


シンヤ   今の時間かけたら絶対怒るよなぁ。


    そういいながらも、なぜかシンヤの顔はどこか楽しそうにしている。


シンヤ   それでも君を……いや、そんなこといえないよなぁ。なんて言おう? 
       今でも君が? もう一度やり直さないか? うーん。いや、いっそ、
       変な夢見たんだけど。とか。……殺されるなぁ。


    言いながら、メモリーの彼女の番号は押される。
    呼び出し音が鳴り響く。

    そして、止まり、

    シンヤの顔がうれしそうなものになり、電話がつながったことが分かる。
    しかしその後は分からない。音楽とともに、徐々に溶暗。
    幸せを一人の男がつかめたかどうかはまた違うお話。

    ほんの小さなきっかけで人生なんて変わってしまう。それが例え一夜の夢でも。

あとがき
え〜シンデレラです。誰が何と言おうと、これはこれでシンデレラです。
最後の方の王子の台詞は、映画「お熱いのがお好き」から拝借しました(汗)
「Nobody is perfect」(完全な人間はいない)
こんな言葉をかけられちゃあ、心だって揺らいじゃいますよね(笑)

この作品にはとっても衣装代がかかりました(汗)
そしてシンデレラは汗をかきまくっていました。色んな意味で(苦笑)
どっちかっていうと、女装させても、見られそうな男の子がいた方が、
この劇は成功すると思います。
そんな男の子がいたからこそ生まれた劇ですので。

読んでいただきありがとうございました。