GOING!
 強 引 グ ー 



人物

須崎 高校三年生 ぶっ飛び部長。楽しい部活を目指して日々から周りしている。
       春菊嫌いな鍋奉行。頭のねじを一本飛ばしてそれを拾うような日々。

福沢 高校二年生 のんびり系? けれども真面目な役者兼スタッフ兼脚本
       部長がアレだけにストッパーとして忙しい毎日。

久保 高校一年生 元気はつらつ。
       
石川 高校三年生 いい人。頭もいい。運動も出来る。品行方性(?)な生徒会長。
       演劇部の予算を減らそうと画策中。減った予算は吹奏楽へ。





    部活紹介IN体育館(昼)
    運動部の紹介が終わり、文化部の紹介時間がやってきた。次々と紹介される文化部たち。
    新入生が疲れ始めた頃、ようやく演劇部の順番がやってくる。
    ちなみに、一個前は吹奏楽だったらしく、音楽が流れていた。


声(石川) はい、吹奏楽の皆さんありがとうございました。次は、演劇部です!


    音楽と共に、須崎がうきうき気分で登場。
    ナース服を着ている。中央で止まると持参したマイクを両手にとってポーズ。


須崎 はーーい♪ 演劇部です♪
    演劇部では、ただいま役者、スタッフ共に大募集♪
    女の子だけど、男の子でも「演劇に興味があるなぁ」って人はおいでくださいませませ。
    癒されたい方大歓迎♪
    あ、放課後に部室にて新入生への説明会を行います。ぜひ、遊びに来てくださいね?


     須崎は言うだけ言って去っていく


     幕上がる
     舞台にはすでに演劇部の部室が用意されていたりする

     部室(夕方)
     机が二つ向かい合わせで置いてある。椅子が二つの机にそれぞれ入っている。
     片方の椅子にはブレザー。
     他には、鏡や衣装箱。数台の椅子が上手側に半円状に並べてある。
     部室内は散らかっていて、人を呼べる雰囲気ではない。


     福沢が舞台に登場
     カラーコーンをかぶっている。左手には紙袋
     無言のまま部室の鏡の前に立つ


福沢 ・・・可愛いと思ったんだけどな


     福沢はカラーコーンを取る。頭にはウサギの耳をかぶっている。
     新鮮な驚きを覚える。


福沢 これはいけるかも!? ・・・(舞台前を見て)ようこそ演劇部にひょン。
    ・・・・・みょんの方がいいかな・・・


     福沢は鏡の前でポーズをしている。
     と、須崎が登場 ハイテンション引きずりまくり。いまだナース服。


須崎 ただいま〜 きゃーーー緊張した緊張した〜 もう一年生皆可愛いし〜
    誰入って来てもいいや〜

福沢 ・・・・


     福沢はポーズのまま固まる
     須崎が福沢に気づく


     間


福沢 うっす、先輩

須崎 うっす♪ なにそれふくちゃん〜かわいい♪ ・・・・・こぶたさん?

福沢 No! It's a rabbit

須崎 やっぱり〜そうじゃないかと思ったんだ〜

福沢 普通間違えない

須崎 そんなこと言われたって似てたしさ〜。あ、ふくちゃん。アレは用意してきた?

福沢 ここに

須崎 よっし。んじゃ後は一年生が来るのを待つだけねぇ〜
    ああああー楽しみ〜

福沢 部長、はしゃぎすぎ

須崎 ふくちゃんが、冷静すぎるんだって。ちょっと真剣さ足りないんじゃない?

福沢 そんなことないですよ

須崎 いや、そんなことあるよ〜

福沢 無いですって

須崎 ありありじゃない〜
    あ、もしかして新入生が入ってきたら、もう二人っきりでいられないから寂しいんでしょう?

福沢 はぁ!?

須崎 ふくちゃん、なんだかんだいって寂しがりだもんね。大丈夫。新入生入ってきても、
    私はふくちゃんのこともちゃんと考えてあげるから。いじけない、いじけない

福沢 いえ、それだけは無いですから

須崎 またまた〜無理しちゃって

福沢 無いです(きっぱり)

須崎 ・・・そんな力いっぱい否定することも無いと思うなぁ

福沢 先輩。新入生入れようとしている先輩のその努力は認めますけど。
    でも、なんかテンションが異常すぎですよ

須崎 ウサギ耳の人に言われたくないなぁ

福沢 じゃあ取りますよ。(ウサギ耳はずして)まぁ、私も少しは方向性を変えてますよ、そりゃあ。
    でも、先輩のテンションはちょっと・・・

須崎 ちょっと、なに?

福沢 ・・・・すべりすぎかなと

須崎 がーーーん

福沢 いや、そのショックの受け方の時点で、すでに滑ってますから

須崎 ・・・・本当?

福沢 ええ

須崎 そんなこと言われてもさぁ。だって、ドキドキするじゃない? 新入生が入ってくるかもしれない!
    なんてさ。 ふくちゃんはドキドキしない?

福沢 まぁ、あまり


須崎は福沢の手を取って自分の胸につける


須崎 ほら、心臓が凄くドキドキいってるでしょう? もう今日は朝からずっとこんな調子でさぁ。
    血がバンバン巡りまくっちゃってるのよ。いても立ってもいられないって感じ?

福沢 久しぶりに舞台に立つから緊張しただけじゃないんですか?

須崎 ・・・・・・そうかもしれない


     福沢は須崎の手を振り切って


福沢 先輩、こういっちゃあなんですが。余裕過ぎませんか?

須崎 そんなこと無いわよ〜

福沢 いいえ。言動に、ほ、の、か、な余裕が見え隠れしています

須崎 そっかなぁ。こんなにドキドキ言っているのに?

福沢 ですから。先輩はまた違う方向に突っ走っているのだと思います

須崎 違う方向?

福沢 (頷いて)部員を入れようと努力しているように見えなくもないですが、
    自分ばかりが楽しんでいるように見えなくもないですよ

須崎 え〜福ちゃんは楽しんでないの?

福沢 そういう意味ではありません。ただ、楽しみすぎるのもどうかと

須崎 いいじゃん。新入生を入れようってあせっても、すぐには入るわけないし。
    それだったら楽しんだもの勝ちだと思わない?

福沢 勝ち負けあるんですか? こう言うのに

石川 しっつれい〜します


     石川 登場
     片手に書類を持っている。ついでにポスターも


須崎 あ、いらっしゃーい・・・って、なんだ石川か

石川 なんだとはなによ? せっかく、この品行方性にして女子生徒の憧れの的、
    男子生徒の高嶺の花。である、石川由が着てあげたって言うのに。あんまりじゃない?

福沢 相変わらず、ナルシストですね。石川先輩

石川 そういうあなたはひ、きょ、う、も、のの福沢さんじゃない。ごきげんよう

福沢 まだ根に持っているんですか?

石川 まさか、このすべての人に優しく美しくをモットーにしている私よ。ぜんっぜん、きにしてないわ

須崎 根に持っているって?

福沢 去年の終わりの球技大会で、バレーボール顔面に当てられたことを怒っているんですよ。
    わざとじゃないのに

石川 わざとじゃないだとぉ!? なんでバレーボールで顔面にボール当てられるんだよ! 
    ドッジボールかよ!

福沢 ぶつかった直後は『あらぁ、気にすることないのよ、オホホ』とか言ってたのに

須崎 恐っ

石川 (激しく咳払い)あら? 何のことかしら?

福沢 相変わらず変わり身早いですね先輩は。それで? なんのようですか?

石川 そうそう。まず、これね


     石川はポスターを床に放る


須崎 これって・・・・・うちのポスター!?

石川 そう。許可していない場所に貼ってあったのが2枚。
    許可していないテープ類で貼ってあったのが2枚。
    その他2枚。剥がさせてもらいましたから

須崎 そんなぁ

福沢 だから、止めときましょうって言ったのに

須崎 あ、福ちゃん自分だけいい子になろうとしてずるい! セロテープじゃなくて、
    ガムテープ使おうって言ったのは、福ちゃんでしょう?

福沢 だって、剥がされないようと思って

石川 しっかり、規則違反だから。そういうのって

福沢 ・・・・それで? 残りの二枚は?

石川 ああ、これは・・・・ちょっと表現が正確ではないので剥がさせてもらったわ

須崎 表現?

福沢 正確ではない?

石川 読めば分かるでしょう? 『我が演劇部は県大会へも何度も出場したことがある実力が有り』
    ・・・いつ県大会に出たかしら?

須崎 そ、それは

福沢 それは『○○県内で潰れそうで、大変な部同士話し合おう、の会』の略ですよ。
    で、通称『○県大会』

石川 え?

福沢 ですから『○○県内で潰れそうで、大変な部同士話し合おう、の会』です。
    去年は確かK高校の体育館で話し合われたんですよね。ね、先輩

須崎 え? ・・・・そ、そう。そうなのよ〜。だから、全然大丈夫!

石川 そんなわけないでしょ! JAROに訴えたら厳罰もののごまかしじゃない!

須崎 うっ

福沢 ですが、まさかそれだけのためにポスター剥がして持ってきたんですか?

石川 なにが言いたいの?

福沢 本来なら勧告のみのはずですが。・・・越権行為?

石川 違うわよ! それ以外にも用があるに決まっているでしょう!

須崎 え? どんな用なの?

石川 ・・・去年ラグビー部、つぶれたよねぇ?

福沢 ラグビー部? そういや、今回の部活紹介プログラムの中に名前なかったような・・・


     福沢は机の上に置かれているプログラムを手に取る


須崎 うん。体育館にはいなかったよ。去年は派手なパフォーマンスしていたのにね。たった二人で

福沢 覚えてますよ。ステージを見ながら、あのタックルには引いてましたからね。他の女子と一緒に

石川 まぁ、演劇部は、去年も逝っちゃった部活紹介していたけどね〜

須崎 え? そうだっけ?(わざとらしく)

石川 ああ、覚えているのも嫌だろうね。さすがに

須崎 去年の私は、今年とは違った存在だったのよ。だから、知らない

福沢 まあ確かにその体形でアニメキャラのコスプ

須崎 そ、そーれで、ラグビー部がどうしたんだって〜? ねぇ、ふくちゃん

福沢 やはり、今年の部活紹介の中にはないですね。けれど、それが?

石川 ああ、やっぱり去年入ってきたばかりの子にはわからないようね。須崎、あんたは?

須崎 分からないわよ。二人とも、三年生だったからとか?

石川 そう。知らなかったのね。この部活にも関係あることだったのに

須崎 どういうこと?

石川 決めたのよ。生徒会で。前期までで部員が一定数いない部活は活動不可能とみなして、
    即廃部にするってね。
    生徒総会にもかけたでしょ? まぁ、皆適当に拍手していただけだから覚えていないと思うけど

福沢 え!? なんですか、それ?

須崎 聞いてないわよ

石川 言ったわよ。ただ、あなた達が聞いていないだけでしょ? ま、仕方ないのよねぇ。
    生徒会費を有効に使うためだしさ。大体おかしいでしょ? 
    一人、二人しかいない部活が何万も活動費せしめていて、人数が多い運動部と同じ数なんて。
    不公平じゃない?

福沢 一人、二人しかいない部活? ってことはもしかして?

石川 そう。この部活もね。今、廃部にしようって話になっているの

須崎 な、なんでよ〜。なんでそうなるのよ!

石川 あんた話し聞いてた? 人間がいないからよ。演劇やるには人間がいるでしょ

福沢 一人劇をやるのであれば、一人で充分

石川 ・・・・演劇って音響とか、照明がいるんじゃなかったかしら?

福沢 音響も、照明も、一人いれば十分

須崎 そうそう! だから

石川 っていうことは、あと一人は必ず入れなくちゃいけないわけよね? 入るかしら〜?

福沢 あと一人くらいなら入るんじゃないですか?

石川 ど〜かしら。入らなかったら、即廃部よ〜

久保 すいませーん


     久保登場


石川 (気づいていない)もし、一年が入らなかったら、
    ここなんて今まであったことなんて分からないくらい
    完璧に葬ってあげるから

福沢 それはいいんですが先輩。後ろをご覧ください

石川 なによ

福沢 一年生がきています

石川 うそ!

久保 こ、こんにちは

須崎 うわ〜いらっしゃーい


     須崎は久保を舞台上手まで引っ張っていってしまう
     須崎と久保 無声演技


福沢 入りそうですね。一年生

石川 まだわからないわよ!

須崎 久保さんっていうんだ〜。じゃあ、久保ちゃんね

福沢 なじんでいるみたいですが

石川 くっ。・・・・・まぁ今回は言いたいことを言いに来ただけだから、この辺で引き上げるわ

福沢 なんか、捨て台詞を言う悪役みたいでかっこ悪いですよ

石川 うるさいわね! でも、あなた達から受けた屈辱は必ず晴らさせてもらうから


     石川退場


福沢 やっぱり根に持っているじゃん・・・ん? あなた達? 私だけじゃないのか

須崎 さあ、うるさいのが消えたところで、自己紹介しましょうよ。福ちゃん

福沢 はい

須崎 こちら、一年生の久保さんね。久保ちゃん、二年生の福沢さん。通称福ちゃん

久保 は、はじめまして

福沢 うっす

須崎 私の自己紹介はもうしたから、これでOKね

久保 え!?

須崎 ? どうしたの?

久保 部員ってこれで全員なんですか?


     福沢は須崎の口をふさぐ


須崎 そう(福沢に口をふさがれる)

福沢 いえ。今日は二人しかいないだけ。実際はあと、六人くらい

久保 そうなんですか〜


     須崎と福沢 久保には気づかれないように話す。


須崎 なにするのよ!

福沢 正直に喋ってどうするんですか!

須崎 こんなの嘘ついたってしょうがないじゃない!

福沢 完全な嘘ではないですよ。実際、幽霊部員は六人くらいいますから

須崎 だからって・・・正直に言ったからってなにが変わるって・・・

久保 よかったぁ。もし、二人だけだったらどうしようかと思いましたよ

須崎 え? なんで?

久保 だって、私いれても三人じゃ劇なんてできないじゃないですか。そしたら、私入部する意味ないし

須崎 そっかぁ・・・・福ちゃんナイスフォロー!

福沢 当然

須崎 ま、いつかはばれちゃうと思うけどね

久保 なにがですか?

須崎 いえいえ、こっちの話。・・・・それで、久保ちゃんは役者志望? 
    一応聞いておくけど演劇経験はあるのかな?

久保 あ、はい。中学のときも演劇部に入っていましたから。一応役者やりたいと思っています

須崎 そっか〜。よかった。これで、劇ができるわ

久保 どういうことですか?

須崎 え? いえ、別に

福沢 真剣に演劇やろうと思って入ってくれて、嬉しいと言いたかったんでしょう? 部長

須崎 そうそう、そうなのよ!

久保 はぁ、そうですか

須崎 じゃあ、とりあえず、新入生の歓迎パーティしようっか♪

久保 え?

須崎 ふくちゃん、用意お願い

福沢 了解

須崎 久保ちゃんは、ちょっとこっち向いててね〜


     須崎が久保を無理矢理正面に向かせる。福沢の用意が見えない位置
     福沢は袋から鍋を取り出し、机の上にセット


久保 あ、あの、なにをするんですか?

須崎 大したことじゃないんだけど〜。新入生に対する、私たちの愛を表現したくって

福沢 用意完了です

須崎 よし。じゃあ、久保ちゃん、こっちむいて

須崎&福沢 じゃじゃーーん

久保 ・・・・・・・・・鍋?

須崎 そう。ちょっと季節外れかもしれないけど。

久保 ここ、部室ですよ!?

須崎 まぁ、細かいことは気にしない気にしない

福沢 大丈夫。食べている間は、交互に見張りにつくから

久保 でも、何で鍋なんて・・・

須崎 皆で一つの鍋をつつきあうことで、友好関係を深めようとしているのよ。ほら、座って

久保 は、はあ

須崎 さぁ、食べましょうか〜

福沢 いただきましょう

須崎 ・・・・・・・って、ふくちゃん、箸は?

福沢 ・・・・・・・・・あ゛

須崎 駄目じゃーーーーーん!!

福沢 まさか、こんなところに落とし穴があるとは

須崎 あれほど、綿密に計画立てたのに〜

久保 ・・・・・・・食べれないですね、鍋

須崎 ま、まあ、そんな時もあるよ。ね

福沢 ありますね

久保 ・・・・・これから、どうするんですか?

須崎 ・・・・練習、しよっか?

福沢 (鍋をじっと見ている)え?

須崎 いや、練習、ね

福沢 あ、ああ。そうですね。練習しましょう

久保 練習、するんですか?

須崎 そうと決まったら、早速行くわよ〜。ほら、久保ちゃんも

久保 あ、はい


     須崎&久保 退場


福沢 鍋を見つめている

須崎 ふくちゃーーん?

福沢 今いきます


     福沢 残念そうに鍋を片づける。溜息と共に、退場



     時は移って5月の終わり。


     久保 登場。服はもう夏服


久保 一番のり〜・・・・・今日もあたしが一番か。てか、先輩たち、お、そ、すぎ。やる気あるわけ?
    ねえ!


     久保は部室内のぬいぐるみに八つ当たり
     福沢は途中から入ってくるが声をかけずにいる


久保 一年あたし一人だし! 練習全然たるいし! てか、三年下手すぎ! 
    こんなんでなにやれって言うのよ! ねぇ!

福沢 さぁ、なにやるんだろうね

久保 あ・・・・・・

福沢 おはよ

久保 おはようございます!

福沢 今日も早いね

久保 (ぬいぐるみを後ろに隠しながら)あの、これは、その

福沢 いいよ、別に。言っていること、皆正しいと思うし

久保 で、ですよね〜。てか、本当参ってるんですけど。五月も終わりになるって言うのに、
    なんで一年入ってこないんですか?

福沢 同じクラスの子に声かけてみた?

久保 かけましたよ〜。でも


     久保のクラスでの会話。福沢はクラスメイトに扮する。


久保『ねぇ、部活まだ入ってないんだよね?』

福沢『うん。まだはいってなーい』

久保『演劇部なんてどうかしら? ウフ♪』

福沢『そうねぇ』

久保『絶対、絶対、楽しいよ。面白い人いるし』

福沢『ぜーーったい、嫌』

久保『え゛・・・』

福沢『だってぇ、演劇ぶって。くらいじゃん。なんかオタクっぽいし。どうせ入るんだったら、
    あたし、運動部がいいし〜』

久保 って・・・散々言われました

福沢 気にすること無いよ。私が一年のときも、そうだった

久保 そうなんですか? 私、中学の時は演劇に興味ある子多かったから、なんかショックで

福沢 高校演劇ってなにか硬い感じがするんじゃない?

久保 やっぱり、演劇部に入るような子って、少し変わっているんですかね?

福沢 私は自分のこと普通だと思うけど

久保 あたしも、自分のことを普通だと思ってますけど・・・・でも、須崎先輩みたいな人を見ると

福沢 ああ、あの人はね・・・・特別だから

久保 やっぱり、そうですよね・・・・どうにかならなんですか?

福沢 どうにかって・・・一応先輩だし

久保 でも。このままじゃ、部活にならないどころか、廃部になるかもしれませんよ? 
    あの人の暴走のせいで

福沢 確かにねぇ。どうしようかぁ

久保 どうしましょうか・・・・


     間

     須崎 登場
     今回は演劇部の宣伝を書いたサンドイッチスタイルで入ってくる
     宣伝の文句はかなりやばげ。


須崎 おっはよう〜

福沢 ういっす

久保 おはようございます・・ってうわぁああ。なんですかそれ!

須崎 凄いでしょ♪ 今帰宅生徒を狙って、一人一人勧誘して来たんだ

久保 その格好で、ですか?

須崎 あったりまえじゃーん

久保 ・・・・・・おわった

須崎 どうしたの? 久保ちゃん

福沢 ・・・成果は、あったんですか?

須崎 それがね。今年の一年生は結構シャイみたいで。皆、私が近づくと逃げ出すのよ。
    捕まえるのに苦労しちゃった

久保 酷すぎる・・・・

須崎 そう、酷いよねぇ。逃げること無いじゃんねぇ

福沢 (久保に)・・・・大丈夫。もしかしたらってこともあるんだから。奇跡を信じましょう

久保 奇跡なんて・・・・


     石川 登場。かなり怒っている。


石川 生徒会に喧嘩売っているの? この部活は!

須崎 あら? 石川じゃん。どうしたの?

石川 どうしたのじゃないわよ! 一般生徒から苦情がきたのよ、苦情が!

久保&福沢 やっぱり

須崎 え? なんで?

石川 なんでって、これのせいに決まっているでしょう!


     石川 須崎のサンドイッチスタイルを指差す


須崎 これが?

石川 危なげな格好で、部活勧誘をしている人がいるって、
    放課後になった瞬間にもう五件も報告されているのよ

須崎 うっそぉ!?

石川 どう考えても、その格好はやばいでしょ

須崎 え〜 そんなことないよねぇ


     久保&福沢 須崎から目をそらす


須崎 あれ? なんで、こっち見ないわけ?

福沢 会長!

石川 なによ

福沢 今回の騒動は、この人が一人でやったことですから

須崎 え゛

久保 演劇部は関係ないので

須崎 うそ、そんなぁ

石川 ・・・・・あんた、もしかして浮いているんじゃないの?

須崎 そんなことないわよ。ね♪

福沢 さて、久保ちゃん。練習しようか

久保 あ、そうですね


     福沢&久保 練習開始


須崎 福ちゃん・・・・久保ちゃん・・・・

石川 なんか、あわれすぎてかける言葉も無いわ。今回は、おとがめなしにしといてあげるから、
    二度とこんなことやるんじゃないよ

須崎 ・・・・はい

石川 あんた、真面目にやらないと、一二年生離れていっちゃうわよ

須崎 もう離れてる

石川 ・・・・じゃ、そういうことで


     石川 退場
     福沢&久保 石川が出て行ったのを確かめてから須崎に寄る


福沢 部長、よかったですねぇ。おとがめなしで

久保 本当。被害者が多かったわりには穏便にすんでよかったじゃないですか

須崎 ・・・・そうだね

福沢 部長・・・・そんな落ち込まないでくださいよ

須崎 どうせ、私って浮いているよね

久保 そんなこと、今更嘆いたってしょうがないじゃないですか

須崎 今更、なの?

福沢 今更ですね

久保 もうどうにもならないですし

須崎 ああ、私一人で頑張って、看板作って、勧誘して、その結果がこれ!? 惨め過ぎる〜

福沢 しかたないですよ。部長はそういうキャラなんですから

久保 私たちもう諦めていますから。気にしないでください

須崎 そんな〜。私、諦められちゃってるの!?

福沢 ええ

久保 仕方ないですから

須崎 いいんだ、いいんだ、私なんて。どうっせ、こう言うキャラですよ〜だ

福沢 いじけたよ

久保 ・・・・とりあえず、看板かたしときましょうか?

福沢 そうだね


     福沢&久保 須崎の行動は気にせず、須崎が着ている看板を脱がしに掛かる


久保 これ、どうします

福沢 当然ゴミ箱でしょ

久保 そうですね


     久保 須崎の看板を躊躇無く捨てる


須崎 ああ! 私の三時間半・・・・

久保 それで今日は何をしましょうか?

福沢 とりあえずこれからの部活に必要な人間を集めるためにはどうしたらいいかをきめないとね

久保 そうですね。最低でも一人はいないと部活にならないですからね

須崎 え? また誰か新入生入れるの?


     福沢&久保 須崎のことは無視


福沢 とりあえずはまともな人希望か

須崎 演劇部にまともな人なんて入らないって〜

久保 どういった勧誘方法が一番適切なんでしょうか?

福沢 そうだなぁ〜

久保 とりあえず、こう言う人間は入れたくないっていうのをリスト化してみます?

須崎 リスト化なんて面白そうじゃん♪

福沢 そのリストに引っかからなかった人を、入れるってこと?

久保 闇雲にやるより、一人に集中してぶつかった方がいいと思うんです。
    めぼしをつけた人間を粘り強く吊り上げる。

福沢 ここには君が必要なんだ!

久保 あなた以外私の目には写らないわ

福沢 君の力で、どうか私たちを助けて欲しい

久保 あなたはスター。未来のスターなの

福沢 君が入れば部活は変わる

久保 あなたがすべてを作っていくの

須崎 そこまで言うんだったら入っちゃおうかなぁ〜


     間


福沢 勧誘する相手を間違えると、とんでもない勘違い君が入ってくるわね

久保 綿密に計画を立てる必要がありますよね

須崎 ちょっと〜 さっきから私のこと無視してない?

福沢 そんなことないですよ、部長

久保 気のせいですよ部長

須崎 なんか、呼び方に距離を感じるんだけど

福沢 気のせいです

久保 とりあえず、座っていてください

須崎 ・・・・・はい

福沢 じゃあ、入れたくない人間、考えようか

久保 それについては私、どうしてもこれだけは譲れないポイントがあります

福沢 はい、では久保さんどうぞ

久保 ありがとうございます。それは、場の空気を読めない人間です

須崎 (場違いにでかい声)あーー。いるいる。そういう人。こまるよねぇ〜本当


     福沢&久保 何か言いたそうに須崎を見る
     須崎は気がつかない


福沢 ・・・・・私も一つ譲れないことが

久保 はい、どうぞ

福沢 自分勝手に考えた挙句、相談なしに突っ走る人間

須崎 いるいるいる。困るよねぇ〜 そういう人も

福沢 ・・・特に勝手に動いたせいで、周りに不快感を与えるだけでなく、
    関係ない第三者まで被害にあわす人間

須崎 本当、やになっちゃうよね。そういう人って

久保 ・・・・・神経が図太すぎる人っていうのもいいですか?

福沢 やっぱ、限界超えるときついよね

須崎 えー。図太い方がいいじゃん。舞台の上で緊張するより、ドパーとはじけた方がさ

久保 とりあえず、こちらが言っていることから推察するくらいの能力は欲しいですよね

福沢 婉曲を理解する心って大切よね

須崎 あ、私もいいかなぁ?

福沢 ・・・・・・どうぞ

久保 何か、部長も嫌な性格ってあるんですか?

須崎 私にだってもちろんあるわよ。あのね。自己中心的で、周りが見えていない人。
    まぁ、空気が読めない人間ににているけどさ。目の前のことだけで、周りが見えなくなる。
    みたいな


     福沢&久保 思わず黙る


須崎 本当、そういう人間って困るよね。自分しか見えてないんだよ。
    んで、自分が楽しければそれでいいわけ。ねぇ。やばいでしょ

福沢&久保 お前のことじゃんか!

須崎 え?

福沢 しまった

久保 口が勝手に

須崎 なに? どういうこと?

久保 駄目です福沢先輩、私、もう限界です

福沢 耐えて! 耐えるのよ、久保ちゃん!

須崎 なになに? 何を耐えるの?

久保 この、この、この・・・

福沢 耐えて久保ちゃん! 私だって辛いの

須崎 いいなぁ。二人だけで盛り上がっちゃって

久保&福沢 ああん!?

須崎 ひぃ!!

福沢 ・・・やめよう久保ちゃん。我慢するだけ無駄だ

久保 そうですね

福沢 こういうのは正直に行ったほうが言いと思う。てか、もう限界

久保 同感です!

須崎 だからなに? なんなの?

福沢 先輩。この際だからはっきり言わせてもらいます

須崎 う、うん

久保 前からずっと思っていたんです

福沢 私なんて去年からずっと考えていました

須崎 何よ一体。改まっちゃって

福沢 先輩のテンションは変です

須崎 え?

久保 というより、人として変です

須崎 ええ!?

福沢 自己中心的だし

須崎 ちょっと・・

久保 周り見えてないし

須崎 ええ!! うそ

福沢 言動寒いし

須崎 そんな・・・

久保 日本語通じないし

須崎 そんなぁ・・・酷い。

久保 確かに、酷いことを言っているのはよく分かっています

福沢 私たちだって、本当はこんな事を言いたくはありません。でも


久保&福沢 事実です!

須崎 ・・・・・・みんな、私のことそういう風に思っていたんだ

福沢 残念ながら

須崎 私。みんなには好かれているんだと思っていたんだけどな

久保 嫌いじゃないですよ。別に

福沢 たまにうっとおしいだけです

須崎 はいはいわかりましたよ! 用は私がいなくなれば良いんでしょ!


     須崎 退場
     福沢 須崎が出ていったのを白けた顔で見送る
     久保 同上


久保 ・・・・・それで、今日は何をしましょうか?

福沢 うーん。やっぱ練習しておこうか?

久保 やっぱ発声練習からですか?

福沢 それと、即興劇も少しやりたいね

久保 ですねぇ


     須崎 登場


須崎 何で追ってこないのよ! 普通、この展開だったらみんなで追っかけてくるのが筋でしょ!

福沢 あ、まだいたんですか?

久保 お疲れさまです

須崎 福ちゃんも、久保ちゃんも、だいっきらいだぁぁぁああ


     須崎 泣きながら退場


福沢 ・・・・ちょっとやりすぎたかな?

久保 まぁちょうどいいお灸の感じはしますけど

福沢 でも、一応あれでも部活を三年間守ってきた人だし

久保 まぁ、それはそうですけど・・・・・


     間


久保 ねぇ、先輩

福沢 なに?

久保 演劇部って、なんなんでしょうね?

福沢 どういうこと?

久保 ・・・劇をやるだけだったら、劇団はいれば十分じゃないですか。高校生になって、
    わざわざ演劇部に入って・・・・しかも、こんな人数の少ないところで。
    私一体何やっているんだろう? って思うことがあるんです

福沢 ・・・・そうだね

久保 中学の時はそんなこと思うこと無かったのに。ううん、思う暇がなかったのかもしれないけど。
    演劇が好きだから演劇部・・・・それでよかったのに。
    なんか、高校入って演劇好きだから演劇部って・・・・なんなんでしょうね? 
    友達には小さい劇団に入って頑張っている人もいるのに

福沢 私に言われても、分からないよ。私はただなんとなくで演劇部に入っただけなんだから

久保 なんとなく? なんとなくって?

福沢 なんとなく。としか説明できないよ。べつにこれといってやりたい部活もなかったし。
    中学の時は演劇部って無かったからね。なんか、面白そうな気がしたし

久保 入って・・・・後悔しませんでした?

福沢 不思議と、しなかったかな。楽しいことだけじゃなかったことは確かだけど。
    部活ってそんなものだし

久保 部活、か。・・・・やっぱ演劇をやりたいんなら演劇部なんて入らないで
    劇団に入った方がいいのかなぁ

福沢 ・・・・・演劇部には、演劇部の良さがあるよ

久保 どこですか?

福沢 それは・・・・わからないけど。じゃなかったら、私二年も演劇部やってないし

久保 ・・・・須崎先輩にはわかるのかな・・・・

福沢 どうだろう? なんか、何も考えてなさそうだけどね

久保 それ、言い過ぎですよ

福沢 そうかなぁ?


     間


福沢 須崎先輩のこと、探そうか

久保 そうですね


     と、石川が舞台に現れる。
     血相を変えた顔で、思わず二人にぶつかりそうになる


石川 ちょっと! 

福沢 石川先輩?

久保 どうしたんですか? そんなに慌てて?

石川 あの、あの、あの、あの・・・・・

福沢 ちょっと、なんですか? 落ち着いてくださいよ。らしくないですよ?

久保 まさか、とうとううちの廃部が決まったとか?

石川 そんなことじゃないわよ!(深呼吸して落ち着いてから)落ち着いて聞いて。
    須崎が――

福沢 なんだ。須崎先輩がどうかしたんですか?

久保 またあの人問題起こしたんですか?

石川 須崎が――


     石川の次の言葉は声にならずただ口が動くだけ。
     しかし、二人の顔色が変わる。
     明かりが急に落ちる



     部室の中。
     福沢が椅子に座っている
     季節はもう六月を越している
     久保が舞台に現れる。どこか無理した明るさを持っている。



久保 おひさしぶりです〜。なんか、テスト期間中部活無いなんて楽ですね〜。
    思いっきりテスト勉強できましたよ。

福沢 ・・・・

久保 ・・・先輩?

福沢 ・・・あ、ごめん。おはよう久保ちゃん。

久保 今日は暑いですね。まだ六月だって言うのに、夏、なんですかね。

福沢 ・・・そうだね。

久保 聞いてくださいよ、今日体育だったんですよ。もう、へとへとですよ。

福沢 ・・・そうだね。


     間


久保 ・・・・まだ駄目なんですか?

福沢 うん。

久保 意識、まだ、その・・・

福沢 無いみたい。

久保 ・・・・もう、3週間ですよね。

福沢 そうだね。もとから頭よくないのに。これじゃ、卒業できないかもね。


     間


久保 ・・・・馬鹿、ですよ。


     久保は泣きそうな顔で言う。
     久保へと向いた福沢も、どこか疲れている


福沢 久保ちゃん・・・・

久保 勝手に暴走して、勝手に傷ついて、勝手に・・・・階段から落ちるなんて。

福沢 ・・・・・本当、馬鹿、だよね。

久保 受け身も取れないんですよ? 見ていた生徒の話じゃ、空中で一回転したとかいうし。
    どんなスピードだよって感じですよね。

福沢 廊下、一瞬ゆれたらしいからね。

久保 先輩、お見舞いには?

福沢 先週、部屋の前までは行けた・・・でも、入れなかった。

久保 私も、先々週・・・・部屋の前まで。

福沢 先輩のお母さんが見えちゃってさ。駄目だった。

久保 私も。だって、先輩、あたしのせいで。

福沢 それは違うよ。

久保 違いませんよ! あの時あんなこと言わなかったら、須崎先輩も、
    階段から落ちるなんて馬鹿なことしなかっただろうし! 意識不明にもならなかった。

福沢 違う! 久保ちゃんに正直に話すよう言ったのは私なんだから! 私が、悪いんだよ。

久保 それこそ違いますよ! 私が。

福沢 もういい! もう、いいよ。


     間


久保 ・・・・いまさら、ですよね。

福沢 うん。

久保 ・・・・着替えて、外、走ってきます。練習していた方が、気が紛れるし。

福沢 わかった。ごめん、私は・・・

久保 いいですよ。私が、練習したいだけですから。

福沢 ごめん。

久保 ・・・・演劇部、どうなっちゃうんでしょうね?

福沢 ・・・・ごめん。わからないよ。

久保 そう、ですよね。すいません。・・・行って来ます


     久保は何かを吹っ切るように舞台から出ていく
     福沢は一人椅子に座っている。
     ふと、自嘲して。


福沢 まるで、陳腐なドラマみたい。喧嘩した相手が事故にあって友情を取り戻す人情ドラマ。
    こんな三流ドラマ、先輩らしいけど。


     とりだしたのは携帯。
     福沢はかけもせず、須崎のアドレスを呼び出してじっと見つめる。


福沢 陳腐なドラマでいいから・・・いい加減ドラマを進めましょうよ、先輩。
    バットエンド何て流行りませんよ・・・先輩帰ってきたら、私、謝るから・・・


     俯く福沢。
     と、石川が舞台に現れる。


石川 こんにちは。

福沢 (慌てて涙を拭ってから)こんにちは。今日は何のようですか? 
    ・・・もしかして、とうとう廃部の勧告ですか?

石川 そうじゃなくて、その、須崎の様態はどう?

福沢 ・・・・まだ、駄目です。

石川 そう・・・長いよね。

福沢 はい。

石川 ・・・・ごめんね。

福沢 え?

石川 廃部の話し、あれ、嘘なの。

福沢 う、そ?

石川 ああいうこと言えば、須崎が、その、困ると思って・・・嘘、ついた。

福沢 どうして、そんな嘘、を?

石川 ・・・・私、演劇部員だったのよ。

福沢 えぇ!?

石川 ちょっと、そんなに驚くこと?

福沢 だって、須崎先輩と一緒に演劇部員だったってことですよね? 同い年の部員ってことで。

石川 そうよ。

福沢 私にはちょっと耐えられないなぁ。

石川 まぁね。私も無理だった。結局、あなたが入ってくる前に辞めちゃったわけだしね。

福沢 ・・・須崎先輩のせい、なんですか? それは。

石川 どうなんだろう? わからなくなっちゃったって言うのが正解かもしれない。

福沢 分からなくなった?

石川 私、一年の時から生徒会もやっていたし、吹奏楽も掛け持ちでやっていたのね。
    それで演劇部もってなると、あれもこれもになっちゃって・・・だけど、
    須崎は演劇部だけを一生懸命だし・・・
    なんだか、わからなくなっちゃった。何で、自分が演劇部員なのか。

福沢 それで、辞めた・・・

石川 きっと、理由はそれだけじゃないんだろうけどね。何で、私演劇部にいるんだろって思って。
    演劇がそれほど好きなわけじゃないのよ。高校はいるまでに劇を見たこと無かったし。
    でも、興味がないってわけでもない。・・・でも、興味半分なだけだったら、
    演劇を真剣にやりたい子に迷惑かな、なんて思ったり、ね。

福沢 そのこと、須崎先輩には?

石川 言えるわけ無いじゃない。あいつにはただ違うことに興味がわいたから辞めるって言ったわ。

福沢 先輩、怒ったでしょ?

石川 怒った怒った。それで喧嘩して、それっきり。

福沢 ・・・後悔、しているんですか?

石川 演劇部を辞めたこと? ・・・していないって言ったら、嘘だと思う。

福沢 それで、嘘を?

石川 そう。なんか三年生になっても演劇だけで一生懸命なアイツ見てたら、にくったらしくて。

福沢 いじめたくなるタイプですからね、須崎先輩って。

石川 そうだよねぇ〜。ついつい、悪いことだと思いながらも、こう自然に嘘がぺらぺらと。・・・だけど、
    私が嘘なんてつかなかったら・・・

福沢 先輩のせいじゃないですよ。

石川 でも、聞かれたのよ私、須崎のお母さんに。事故の原因に心当たりないかって・・・・・
    私、答えられなかった。

福沢 ・・・・それは、仕方がないですよ。私だって、久保ちゃんだって、悪いんだし。

石川 ・・・・・・ありがとう。

福沢 え?

石川 そう、言ってもらいたかっただけなんだと思う。私って、ずるいから。

福沢 確かに。

石川 え〜。そこでは否定して欲しかったなぁ。


     福沢と石川、少し笑いあう。


石川 早く、あいつ目を覚ますといいね。

福沢 さましてくれないと困ります。もうすぐ、大会の話しもしなくちゃならないし。

石川 そっか。もう、そんな時期か。忙しくなるね。

福沢 ・・・・なんなんでしょうね。演劇部って。

石川 さぁ。辞めちゃった私には分からないよ。

福沢 そう、ですよね。

石川 そんなことよりも、アイツがいなかったら演劇部は二人なんだから。劇、作れないんじゃない?

福沢 そうなんですよね。須崎先輩がいないことよりも、
    そっちの方がよっぽど重要な悩みなんですよね。


     福沢、小さく溜息をつく。
     と、鳴る電話。思わず携帯を見つめる。
     その番号は非通知。


石川 ? 鳴ってるわよ。

福沢 ええ・・・・


     ゆっくりと、福沢は電話を取る


声  福沢さんですか?

福沢 はい。そうです。

声  私、ヤブサメ病院の杉田と言います。

福沢 ヤブサメ?

声  須崎亜美さんが入院しています病院と言った方が、わかりやすいでしょうか。

福沢 須崎先輩の、病院!?

声  須崎さんのお母さんから電話をするよう頼まれまして、お電話いたしました。

福沢 須崎先輩の、お母さんからって・・・・先輩、どうかしたんですか!?

石川 !! 須崎が? どうしたの!?

福沢 わからない。わからないですけど、今、電話が。


     石川、じれったそうに、福沢の電話の裏に耳をつける


声  実はつい先ほど様態が急変しまして

福沢 急変・・・!?

石川 様態がって・・・じゃあ・・・・

声  本当に、残念なことなのですが・・・

福沢 そんな・・・・

石川 須崎・・・・

声  無事、回復したよ〜

福沢&石川 はぁ!?


     二人唖然としているところへ、須崎が舞台に現れる。
     片手に携帯、もう片方は松葉つえをついている。


須崎 いやぁ、ごめんごめん。なんか連絡するのすっかり忘れてたよ〜

福沢 先輩!!

石川 須崎!


     福沢と石川は思わず須崎に駆け寄る。
     須崎、嬉しそうに微笑んで。


須崎 二人ともお久しぶり♪ いやぁ、今日部活やっていてよかった。
    なにも考えないで出てきたからさぁ。
    もし、これで部活やってなかったらテンション下がりまくりだったよ。

福沢 須崎先輩、その、大丈夫なんですか?

石川 あんた、今まで意識不明じゃなかったの?

須崎 ん〜全然平気。ピンピンしているよ♪ 意識自体は先週くらいに戻ったんだ。
    んで、しばらくは検査入院みたいなものだったんだよ。いやぁ、迷惑かけました。

福沢 検査のための入院って・・・もう! なんで連絡してくれなかったんですか!

石川 学校にくらい連絡しなさいよ! 一体どれだけ人が心配したか・・・

須崎 いや、ほら、やっぱりこういう連絡って自分でしたいじゃん。だから、お母さんにも 
    私が連絡するからって言って、待っていてもらったんだけどさ。

石川 待っていてもらったんだけど?

福沢 ・・・まさか。

須崎 いやぁ、すっかり忘れちゃってて。あはははは。


     間


石川 そういえば、こういう奴だったんだよね、こいつって。

福沢 すっかり忘れてましたよ。

須崎 なに? 何で二人とも離れていくの? もっと、感動の対面しようよ!

福沢 携帯使って人騙すなんて最低。

石川 一体、あんたどれだけ・・・もういい。ばかばかしい。

須崎 ごめん〜。やっぱり、ただ登場するだけだったらありきたりかなぁとか思っちゃって。

福沢 先輩がやるとどんな小さな事でも大きな怒りを生むんだから。気をつけてくださいよ。

須崎 はーい。

福沢 ・・・・おかえりなさいです。先輩。

須崎 ただいま。

石川 地獄からよく戻ったわね。

須崎 地獄なんて行ってないわよ。

石川 まぁ、今回の奇跡の復活に免じて、廃部の件は無かったことにしておくわ。

須崎 え!? 本当に、やってねふくちゃん♪


     福沢と石川軽く目で笑いあう。


須崎 そう言えば、久保ちゃんは?

久保 須崎先輩!!!!


     久保、ドアの向こうから須崎を見つけたのか走って舞台に現れる。
     体育着姿だったりする


須崎 あー。久保ちゃーーん

久保 須崎先輩! 生きてたんですね!!

須崎 死なないよ〜。


     須崎と久保が抱き合って喜ぶ。
     石川は、それを見ると、少し呆れながらも羨ましそうに見て、
     福沢に手を振りつつ、舞台から去る。
     流れる音楽の中、福沢は携帯を見て、しまう。
     須崎と、久保、無声演技。


福沢 なんて陳腐なドラマ。・・・現実なんてそんなものかもしれない。
    ・・・だから、私たちは演じるのかな。
    (小さく首を振って)・・・だから、私は、演じるんだろう。きっと。


     福沢、二人の中に入っていく。


須崎 よーし! 私が戻ってきたからには、大会頑張るぞぉ〜。

久保 おーー

福沢 そのまえに、先輩はテスト受け直すんじゃないですか。

須崎 ふくちゃん、今はその話しないで〜。

福沢 了解。

久保 いいんじゃないですか、もう一年間三年生やるのも。

須崎 冗談じゃないよ〜。

福沢 ・・・・ねぇ先輩。

須崎 なに?ふくちゃん

福沢 なんで、先輩は、演劇部に入ったんですか?

須崎 なによ、急に。・・・そうね。好きだから♪


     福沢と久保は顔を思わず見合わせる


久保 それだけ、ですか?

須崎 それだけ♪

久保 演劇が好きだからってことですか?

須崎 なにがってわけじゃないくて。みんな、大好き。だから。

福沢 単純

須崎 いいんだよ〜それで♪

久保 ・・・そっか。それでいいんだ。

須崎 なにが?

久保 好きだから、でいいんですね。

須崎 あったりまえじゃーん。嫌いなら、やらないよ。

久保 そっか・・・。

須崎 変な久保ちゃん。

福沢 ・・・先輩らしいですね。

須崎 なにそれ? どういう意味よ

久保 本当、先輩らしい。

須崎 久保ちゃんまで!?

福沢 さぁ、久保ちゃん、練習しに行こうか。

久保 そうですね♪

須崎 えぇ〜。来たばかりで、また私はぶりなの!?

福沢 どうしようか、久保ちゃん?

久保 どうしましょうか?

須崎 そんなぁ。


     久保と福沢は顔を見合わせると、一度笑って、お互いに手をさしのべる。
     須崎は、嬉しそうにその手を取る。
     3人仲良く退場していく


     音楽高まり、溶暗。