グッバイ・ドロシー
作 楽静


登場人物

現実の世界の人々
シロド ユイ 主人公。17歳。高校三年生を目の前にして、引きこもる少女。一人好き。
ホシサキ チエ ユイの友達。頭が良いらしい少女。
カナミ ミカ ユイの友達、体を動かすのが好きな少女。
              
空想の人物たち
ライオル ライオンを模した少年。
カ・カシィ/ママ(声) どこか抜けている悪ぶった女の子。/娘に甘いママ
ブリキン/パパ(声) わりと片言のナイスガイ/娘に甘いパパ
オズ  ラスボスの自覚のあるボス。
トト 自称お助けキャラ。司会進行役
シャショー・シャン/色々な声 銀河鉄道の車掌。/色々な声(駅員とか、ユイのお父さんとか)

※ ライオルは女の子が男の子役を演じています。
※ ブリキンがギターを弾くのは、ブリキン役の男の子がギターを弾けたためで特に意味はありません。
※ 途中観客を利用するト書きがありますが、小劇場の雰囲気を利用した効果です。

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    舞台の上にはブロック体で作られた空間がある。
    このブロックを移動させることによって、舞台転換を行う。
    舞台はブリキンと、カシィによって作られていく。
    ライオルがやってくる。満足げに頷くと、二人に何事か指示する。
    二人が頷く。
    そして去る。

    舞台が暗くなる。
1
    少女の姿が舞台上に現れる。トトである。


トト はーい。こんにちは。夢の案内人、トトです。みなさん、元気ですか〜。
  (マイクを観客席に。声を拾ったように満足げに)よーし。今日もみんな元気だね。
  でも、その元気もいつまで持つか分からないぞ〜。さぁ、ここは、見ての通り悪の本拠地。オズの根城よね。
  見るからに何もないように見えるけど、そこは心の目を通して見てくれればOK。
  ほら、足音が聞こえる? 見て。オズがやってくるわ。


    その言葉どおりオズが舞台に現れる。
    どこか疲れたサラリーマン風に見えなくも無い。


トト さあ、恐ろしい悪役が現れたところで、正義の味方の登場です! まずは鋼鉄の意志に硬い体! ブリキン!


    ブリキンが現れる。


トト 続いて、柔軟な思考と、火をも恐れぬ勇気。カ・カシィ!


    カ・カシィが現れる。


トト そして、我らがグループのリーダー! ライオル&ユイ!


    ライオルとユイが現れる。
    ライオルの胸には勇気の勲章


トト 悪のボス、オズを前にして、全く動じないこの四人がどんな戦いを繰り広げるのか! 
  夢物語第48話「別れ話は明日に告げて」堂々開幕です!


    言いながらトトが去る。
    派手な音楽とともに、それまでやる気がなさそうだったオズが語りだす。


オズ とうとうここまで来たか。素人連中が、ずいぶんと頑張ったようだな。
  わが手下達も全て倒されてしまったということか。

ライオル 追い詰めたぞオズ!

ユイ 今日こそエメラルド姫を元に戻してもらうわ。

ブリキン に(げようたって)

カシィ 逃げようたってそうは行かないからね。

ブリキン だ。

オズ ふはははは。雑魚が何人集まろうと私の前では雑魚だということを教えてあげよう。

ライオル なにをぉ!? みんな! かかれ!

ユイ&カシィ&ブリキン おー!

オズ 威勢ばかりでは私に勝てんぞ! 食らえ! 名刺フラッシュ!


    なんだか効果音とともにカシィが倒れる。


ライオル&ユイ カシィ!

ブリキン シィ!


    カシィの頭には名刺が刺さっている。


カシィ くっ。ごめん。不覚だっ……た。

ライオル&ユイ カシィ!

ブリキン シィ!

オズ まずは、一人。


    白衣を着た二人(チエ&ミカ)がカシィを連れ去っていく。


ライオル よくもカシィを!

ブリキン ぜ(ったいに許せない)

ユイ 絶対に許さないわよ!

ブリキン だ!

オズ ふふふ。許さなければどうするのかね?

ブリキン うおおおお!

ライオル ブリキン!


    ブリキンが怒りに任せてオズにかかろうとする。


オズ あ、失礼しました。


    オズがいきなり頭を下げる。


オズ 挨拶が遅れました。私、こういうものです。


    オズが名刺を差し出す。


ブリキン あ、すいません。えっと。


    ブリキンが名刺を探し始める。


オズ もらった! 名刺ストラッシュ!

ブリキン ぐおぁああ。


    効果音とともにブリキンが袖へ。


ライオル&ユイ ブリキン!

オズ ふふふ。たわいも無い。サラリーマンを甘く見ないことだな。

ライオル くっ。まさか、オズがこれほど強かったなんて。

ユイ ライオル

ライオル なんだい?

ユイ 私が隙を作るから、あなたは逃げて。

ライオル 何言ってるんだよ! まだ勝つ方法はあるよ。

ユイ それはライオルが見つけてくれればいいから。後は、任せたよ。

ライオル ユイ! 駄目だよそんなの!

ユイ じゃあね。ライオル。

ライオル ユイ!


    ユイがオズへと向かう。

    と、その瞬間ブリキンがギターを持ちながらやってくる。


ユイ ブリキン!?

ブリキン 突然ですがお知らせです。○○高校演劇部では現在演劇部員を切実に募集中。
    現在三年生は△人なのに、一年生は□人。正直来年は劇を作れるかわからない。
    さぁ、あなたの愛を我が演劇部に!


    そして演奏開始。

    カカシィが、鼻歌であわせながらブロックを直して行く。
    オズが一緒に歌い始める。


ユイ なに? みんな何やってるの? ちょっとっ! ねぇ!

ミカ ユイ? いるんでしょ? ユーイ。

チエ ユイちゃ〜ん。あーけーてー。


    あたりが暗くなっていく。





    少女二人が浮かび上がる。
    インターホンを押す姿。


ミカ ちっ。居留守使ってやがる。

チエ 本当にいないんじゃない?

ミカ そんなわけ無いじゃない。学校来ない奴が、どこ出かけるって言うのよ。

チエ 病院、とか?

ミカ 真面目に言ってる?

チエ 3パーセントくらいは。

ミカ 97パーセントは冗談じゃんそれ。

チエ ちがうよ。ゲームセンターの確率が15% 家の中にいるのは76% 6%の確率で不良になってます。

ミカ つまり、あんたも家にいるって思ってるんでしょ?

チエ うん。

ミカ じゃあそう言いなさいよ! 会話が長ったらしくなるだけでしょ。

チエ 冗談ではないよ、ってことが言いたかったの。

ミカ 冗談の方がまだましよ。ユイ! ほらいるんでしょ! 開けなさいよ!

チエ ミカちゃん。それじゃ家族の人がびっくりしちゃうよ。

ミカ ああ、そうか。

チエ まぁ、平日の夕方にユイちゃんのご家族が家にいる確率は0%だと思うけど。

ミカ ……。

チエ 冗談だよ。

ミカ (無言でチエの頭を殴る)

チエ いたっ。

ミカ まだるっこしいことやってないで、開けなさいよ!

チエ 冗談の方がましって言ったくせに(と、ドアをチョコチョコいじる)開いたよ。

ミカ よし。ユイ! 居留守使ってんじゃないわよ!


    と、部屋の中。
    ユイが布団に包まっている。
    ユイの近くにはライオルが座っている。

    ミカとチエとユイの間にはドアがあるらしい。


ミカ ユイ! いるんでしょ!

ユイ うるさいな。勝手に家の中に入ってこないでよ。不法侵入で訴えるわよ。

ミカ よし。どうやらやはり風邪引いたってわけじゃないようね。ポチ。

チエ うん。(と、ドアに向かい)あ、駄目だこりゃ。内側から閉める用だよ。鍵穴無いもん。

ミカ 叩き壊すか。

ユイ 止めてよ。なんでそんな話になるのよ。

ミカ 鍵が開かないんだもの。仕方ないじゃない。

ユイ 仕方なくないでしょそれ。何の用で来たのよ。

ミカ なんで学校来ないのよ。

ユイ 風邪引いてたのよ。

ミカ ひと月も?

チエ 正確には18日。

ミカ うるさい。そんな長引いた風邪だったの?

ユイ そうよ。大変だったんだから。熱も出るし。せきも酷いし。

ミカ 今も?

ユイ そうだって! だから移ると困るから早く帰ったほうがいいよ。

ミカ 本当に?

ユイ そうだよ。

ミカ そう。なら、いいけど。

ユイ うん。じゃあね。鍵閉めていってよ。

ミカ 分かってるわよ。……行こ。

チエ ミカちゃんがね、絶対おかしいって。

ミカ ポチ!

チエ ユイちゃん、メールも返してくれないし。電話にも出ないし。学校休む前、結構悩んでいるみたいに見えたから、
  もしかしたらなんか凄い悩みがあるんじゃないかって。だから来たんだよ。ね?

ミカ ……そうよ。もうすぐまたクラス替えだしさ。三年になったら、そんな話し聞いて上げられなくなるじゃない?
  だから来てやったのよ。

ユイ 別に、聞いて欲しい話なんてないし。

チエ ユイちゃん、本当に何もないの?

ユイ そう言ってるでしょ? 風邪引いているだけだから。本当に。

チエ そう。何かあったら、私たち、いつでも話し聞くからね?

ミカ 聞いてやるからメールくらい返しなさいよ。

ユイ はいはい。じゃあね。

ミカ またメールするから。

チエ 何かあったらすぐに言ってね?


    ミカとチエが去る。





ユイ 何かあったら、か……

ライオル 話せばいいのに。あんたらが原因だよって。

ユイ 別に、ミカたちは関係ないでしょ。

ライオル そうなの? じゃあ、これは?


    と、ライオルはどこからか紙を取り出す。
    それはくしゃくしゃになった手紙。


ユイ あっ。

ライオル 手紙じゃないと言えないと思ったから手紙を書きました。もうすぐ三年生だよね……あれ? 
     ここまでしか書いてないや。なんだこれ。落書きだ。変な顔〜。

ユイ 描くこと無かったから、ちょっと描いてみただけよ。

ライオル これ、あれでしょ。アンパ○マン。

ユイ ドラ○もん。

ライオル 顔が丸いとこしか共通点無いよ。

ユイ 落書きにけちつけないでよ。

ライオル まったく。……一人で考えてたって答えなんて出ないんじゃないの?

ユイ うるさいな。お説教は止めてよ。消すわよ。

ライオル 消してご覧よ。消せるものなら。

ユイ あんたなんて、所詮私の空想のキャラクターのくせに。

ライオル 空想に説教されてちゃ終わってると思うけど。

ユイ そうよ。どうせ私は終わってるの。

ライオル すぐいじけるんだもんなぁ。

ユイ こんな私のことなんて、すぐみんな忘れるわよ。

ライオル だから、一人夢を見るの?

ユイ 夢の中だったら、私が忘れてられるから。

ライオル そんなんじゃいつまでたっても成長できないよ?

ユイ だからお説教はやめて。……ずっと変わらなければいいのに。このままずっと。そうしたら、みんな一緒なのに。
  来年なんか来なきゃいいのに。三年生なんて、ならなくていいのに……

ライオル そんなの無理だよ。

ユイ そうよね。分かっているんだけどね。

ライオル 分かっているなら、それなりに動けばいいのに。

ユイ うん。分かっているんだけどさ。

ライオル 動けないんだね。

ユイ うん。って、そんなことよりも、オズよ。あいつを倒さないと。

ライオル まだ諦めてなかったの?

ユイ 何言ってるのよ。ブリキンと、カシィの敵も取らなきゃいけないでしょう?

ライオル そりゃそうだけどさ……(と、何かを思いついて)そうだね。オズの奴をやっつけないと。

ユイ うん。

ライオル あ、でも、あいつは今度は空の果てに逃げたんだ。

ユイ 空の果て?

ライオル そう。この星をはるか離れた場所に。自分の力で変えられるほかの世界を探して。

ユイ そんなの早く止めないと!

ライオル うん。

ユイ でも、どうやってその空の果てに行けばいいの?

ライオル やだなぁ。ユイ。空の果てには、鉄道で行けばいいんじゃないか。

ユイ 鉄道?

ライオル そう。銀河を走る白銀の列車。銀河鉄道に乗って!


    光が溢れる。
    ブロックの位置が変わる。
    




    そこは駅。
    シャショーシャンがやってくる。


シャショー はい。ステーション 地球。 ステーション 地球です。お忘れ物の無いようお降りください。
      次の発車は○時○分を予定しております。

ユイ え? ここは?

ライオル 駅でしょ。どう見ても。

ユイ あ、駅なんだ。……あれは?

ライオル シャショーシャン。

ユイ 言えてないわよ。車掌さんでしょ?

ライオル いいんだよ。銀河鉄道の車掌である、シャショー・シャンなんだから。

シャショー あれ? お客さん?

ライオル 二人です。

シャショー 困るなぁ。ちゃんと券売機で切符買って来てくれなきゃ。

ライオル すいません。

シャショー まあ、いいんだけどね。ほら、入って入って。座って座って。


    と、ライオルと結いは電車の中に乗り込む。


シャショー で、どこまで行くの?

ユイ (ライオルに)ずいぶんなれなれしい車掌ね。

ライオル シャショー・シャンだからね。

ユイ それ、理由になってるの?

シャショー はい。こそこそ話さない。シャショー・シャンには正直に。素直に。正確に。オーケー? さもないと、

ユイ さもないと?

シャショー 泣きます。

ユイ はぁ?

シャショー 冷たい反応されると、シャショー・シャン、こう心臓が痛くなるんです。&哀しくなって、ついでに泣きます。

ユイ えっと、どういうキャラなの?

ライオル どうせ、あまり出てこないから、自分をアピールすることで一生懸命なんだ。

シャショー そういうこと言わない! で、どこまで行くの?

ライオル 空の果てまで。

シャショー ソラマメ!


    なんだかショックな音が入る。


ライオル いや、空の果てね。

シャショー ソラハテ!


    なんだかショックな音が入る。


ユイ 大丈夫なの?

ライオル 分からない……

シャショー (急にシリアスに)なるほど、つまりあなた方がかの者達ということですか。

ユイ かの者達?

シャショー 伝説です。そのもの、二人づれで片方は精神年齢の低い少女。片方は年齢不詳の男の子カッコはてな
      カッコ閉じるの姿で現れ、ソラハテへ行くと願うだろう。おお! あの伝説は本当であった(泣き崩れる)

ユイ 精神年齢の低い少女……って、誰がよ!

シャショー もう何も言わなくて結構です。ソラハテまで、どうか快適な空のたびをお楽しみください。
      例え、何かを失うたびになろうと。


    シャショー去る。


ライオル やったね。ユイ。無事に列車に乗れたね。

ユイ とりあえず、これで空の果てまでは行けるってことよね。

ライオル そうだね。(と、いいつつライオルはきょろきょろしている)

ユイ どうしたの?

ライオル うん。ちょっともうすぐで見つけられそうなんだ。

ユイ 何を?

ライオル しっ。静かに。新しい仲間だよ。

ユイ 仲間?

ライオル やっぱり僕ら二人だけじゃオズと戦うのには不安だからね。

ユイ でも、ブリキンとカシィは……

ライオル だから、新しい仲間、なんじゃないか。よし。見つけた。


5


    ライオルが空間を引っ張る。
    チエが現れる。


ユイ チエ!?

チエ あれ? ユイちゃん、何やってるの?

ライオル もういっちょ!


    ライオルが引っ張る。
    ミカが現れる。


ユイ ミカ!?

ミカ ……なに、ここ?

ライオル ようこそ、銀河鉄道へ。勇者ホシサキチエに、カナミミカ。我々はあなたたちを歓迎します。

ミカ は? 勇者? 何言ってるの?

チエ ここは……電車の中みたいだね。ユイちゃんが呼んだの?

ユイ 呼んでないわよ! ライオル! どういうことよこれは。

ミカ それを言いたいのはこっちの方よ! 何よここは! 私、今まで多分晩御飯食べていたはずなんだけど。

ライオル うん。食べてたね。今日はシーフードカレーだったよね。

チエ いいなぁ。カレー。

ミカ 横から口挟むな! 「食べてたね」って、じゃあ、何でいきなりこんなところにいるのよ!

ライオル 僕が引っ張ったんだ。チエちゃんは、勉強中だったよね?

チエ ううん。あたし時間中。

ユイ 「あたし時間」?

チエ あたし時間。ね?

ユイ ごめん分からない。

ミカ だから! 私は何でこんなところにいるのって聞いてるの!

ライオル 僕が引っ張ったって言ってるじゃんか。大丈夫だよ。意識だけだから。

ミカ 意識だけ?

ライオル 本体は今頃眠ってるはずだから。カレーの皿に頭突っ込んで。

ミカ 死んじゃうでしょ!

ライオル 大丈夫だよ。ほら、


    と、声が流れてくる。


ママ(声) あら? ミカちゃん。どうしたの?

ミカ ママ!

ユイ&チエ&ライオル ママぁ!?

ミカ ……(はっと口を押さえるが)なによ、なんか文句あるの?

ユイ ううん。別に。ね。

チエ うん。

ライオル いいよね。ママ。

ミカ うるさい!

パパ(声) あら、ママどうした。

ミカ ダ(ディ)


    ミカは慌てて口を押さえる。


ユイ ダ?

ライオル なんだ、ダって。

チエ ダディ。

ユイ&ライオル まさかぁ。

ミカ うるさいって言ってるでしょ!

ママ(声) パパ、ミカちゃん、どうしたのかしら?

パパ(声) はっはっは。ママ。ミカ、カレーに顔突っ込んで寝ちゃってるよ。

ママ(声) あらあら。ミカちゃんったら、お茶目さんねぇ。

パパ(声) ほらほら、鼻にニンジン刺さってる。

ママ(声) パパ。からかっちゃ駄目よ。

パパ(声) ごめんごめん。ほら、ミカ。起きないと、息できなくなっちゃうぞ〜

ママ(声) こら。遊んでないでお布団に連れて行ってやって。

パパ(声) はいはい。

ライオル いいご両親だねぇ。

チエ 羨ましいほどアツアツだねぇ。

ミカ くっ……一生隠し通すつもりだったのに。不覚……

ユイ まぁ、ほら、でも、家族が仲いいってことはいいことだからね。

ミカ うるさい! それで。ここはなんなのよ。

ライオル どこだと思う?

ミカ ポチ?(分かる?)

チエ ユイちゃんの夢の中?

ライオル 正解。

ユイ だからなんで、この二人がここにいるの?

ライオル 言っただろ? 味方が欲しいって。

チエ ミカ?(と、ミカをさす)

ミカ 何の味方よ?

ライオル オズを倒す味方だよ。

ミカ オズ!?

ライオル そう。この世界を不幸のどん底に叩き落す悪魔のごとき男。オズ。

ミカ オズ、ねぇ。

チエ そういう夢なんだ。ユイちゃんの夢って。

ユイ いいでしょどんな夢だって。放っておいてよ!

ミカ 人呼び出しておいて放っておいては無いでしょ。

ユイ 私が呼んだんじゃないんだって。

ミカ 本当は寂しかったんでしょ? だったらそういえばいいのに。

ユイ だから違うわよ! ライオル〜!

ライオル あ、そうそう。ご紹介が遅れました。僕はライオル。ユイちゃんとはずっと一緒にいる夢の住人。
     言っておくけど、ユイちゃんとの付き合いは高校からのお二人よりもずっと長いので。よろしく。

チエ よろしく。

ミカ よろしくじゃない! なんで食事中に呼び出されて、しかも、呼び出した張本人に、
  「呼び出してない」なんて言われなきゃならないのよ。納得いかないわ。

チエ ミカちゃん落ち着いて。

ミカ 落ち着いていられるか!

チエ (冷たく)落ち着け。

ミカ ……はい。

チエ とりあえず、これはユイちゃんの夢なんでしょう?

ユイ そうよ。

チエ で、私たちを呼んだのはこちらのライオル君なのね。

ユイ だからそう言ってるでしょ。

ミカ でも、あんたが作ったキャラが呼んだのなら、あんたが呼んだってことじゃないの。

チエ だからそういうことじゃないんでしょ。多分。そうなんだよね?

ユイ そうよ。ライオルが勝手にやったの。

チエ うん。分かった。じゃあ、ライオル君。私たちは、なにをすればいいの?

ミカ ポチ!

チエ 今は、ね? そういうことにしておこう?

ミカ ……分かったわよ。後でちゃんと白黒はっきりさせてもらうからね。

ユイ 別にはっきりすることなんて何も無いわよ。

チエ まあまあ。それで? ライオル君。

ライオル うん。君たちには僕らの手伝いをして欲しいんだ。
     巨大な悪に、さすがにたった二人じゃ勝てそうにないからね。それに……

ユイ それに?

ライオル うん。ユイには言いづらいことなんだけど……ブリキンとカシィは……
    (実は、なんていうかな、ね、寝返ったって言うか、その)


    と、音楽が変わる。


ミカ あれ? なにこの音楽。

チエ 敵ね。

ミカ なんであんたがそんなはっきり反応してるのよ。

チエ ミカちゃん。こういう時に、こういう音楽が掛かってきたら、それは敵が現れたってことでしょ?

ミカ そうなの?

チエ ね?

ユイ 常識よね。

ミカ 常識なのか。





    やってくるのはB・カ・カシィと、B・ブリキン。
    先ほどと衣装が変わっている。マントとか着ていたい。


カシィ おやおや。どうやらおそろいのようだねぇ。

ブリキン だな。

ユイ カシィ! ブリキンも! 無事だったの?

カシィ カシィ? 誰だいそれは?

ユイ 誰だいって、カシィでしょ?

カシィ 気安く呼びかけないでくれない? それに、あたしの名前はカシィなんてだっさい名前じゃないんだよ。
   こいつも、ブリキン、なんて変な名前じゃない。そうだろ? B・B。

ブリキン (照明のあたりで自分が一番かっこいいポイントを探している)

カシィ B・B?

ブリキン (照明のあたりで自分が一番かっこいいポイントを探している)

カシィ B・B!

ブリキン (はっと気づき)俺の名前はB・B見ての通り、ナイスガイさ。

カシィ そして、あたしはブラックキャシィ。キャシィって気楽に呼んでくれて構わないけど、様をつけなかったら殴るわ。

ブリキン キャシィ

カシィ (ブリキンを殴る)様を付けろ

ブリキン キャシィ

カシィ (ブリキンを殴る)様を付けろ

ブリキン キャシィ〜

カシィ (ブリキンを殴る)様を付けろ!

ブリキン 申し訳ありません女王様。

カシィ よろしい。

チエ これは……特殊な世界だねぇ。

ミカ 呆れてしゃべるの忘れるところだったわ。こんなのが仲間だったの?

ユイ 違う。なんで? カシィ

カシィ キャシィだって言ってるでしょ!(ブリキンを殴る)

ブリキン すいません!

ユイ ブリキンも……そんなんじゃなかったのに。

ブリキン その哀れみの瞳が俺の心を鋭く刺す!

ライオル すっかり、オズに変えられてしまったということか。

ユイ オズに!?

カシィ 変えられたんじゃないわ。、マメチビ。本当の自分にさせてもらったのよ。ねぇ、B・B。

ブリキン 溢れる開放感。俺を縛る鎖はどこにも無い!アイ アム フリー!

カシィ お手。

ブリキン はしっ(素早くお手をする)

カシィ 待て。

ブリキン はしっ(素早く待つ姿勢)

カシィ これぞ、私たちの本当の姿。

ブリキン わん!(同意)

カシィ というわけで、あんたたちの命、もらうわ。

ユイ カシィ!

カシィ キャシィだって言ってるでしょ!(ブリキンを殴る)

ブリキン すいません!

ユイ キャシィ……

カシィ 様。

ユイ なんで? 私たち、ずっと一緒に戦ってきたじゃん。それなのに。……私たち、仲間だったはずでしょう?

カシィ 仲間? そうだったかもねぇ。でも、お嬢さんだって分かってるんだろ? 人はね、変わるんだよ。

ブリキン いつまでも正義の味方なんてやってられないんだよ。

ライオル 言いたいことはそれだけか?

カシィ あら? なに? あんた、あたしとやる気?

ライオル それを望むんならね。

ユイ ライオル。

ライオル ユイちゃん。つらいだろうけど、でも、コイツラを倒さないとオズのところまでは行けないんだ。だから。

ユイ でも。

カシィ 来ないんならこっちから行くよ! っと言いたいところなんだけどね。
   今回は、(ユイに)あんたを徹底的に倒すって言うのがボスのお考えでね。
   というわけで、あんたとはあたし達戦えないのさ。

ミカ 何しに出てきたのよじゃあ。

チエ ミカちゃん。割り込んじゃ迷惑だよ。

ミカ うるさいな。こういう、なんかよく分からない会話が一番腹が立つのよ。

カシィ そうね。さっさと要件を片しちゃった方がいいのかもね。B・B?

ブリキン いつでも準備はOK。

カシィ 目的はたった一つ。あんたらからライオルを引き離すことさ!


    カシィは言うと何かを下にぶつける。
    途端、あたりは真っ暗orえらい色に。


ユイ なにこれ!?

ブリキン ふん。


    とか、言いながらブリキンがライオルを担いで連れて行く。


ライオル うわぁあああああ。

ユイ ライオル!?

カシィ 空の果てで待っているよ。せいぜい三人で頑張ることね。





    景色が晴れる。


ミカ 何だったのよ一体。

チエ (爆弾がぶつかった場所を調べ)視界をかく乱させる何か? みたい。花火みたいな? 
  原料はよく分からないけど。

ユイ ライオル? ……そんな、ライオルが……


    と、間の抜けた声が流れる。


声 銀河鉄道、発車いたします。駆け込み乗車はおやめください。はい。駆け込み乗車はおやめください。


ユイ ライオル!

ミカ ユイ! あんたどこ行くのよ。

ユイ だって、ライオルを探さなくちゃ。

ミカ 探すってどこを?

ユイ 分からないけど。

ミカ ポチ?

チエ まぁ、普通に考えてこの電車の中にいるんだろうね。走り出しちゃったし。
  だいたい、外に逃げるんだったら、わざわざ派手にやる必要もないしさ。

ミカ だってさ。

ユイ じゃあ、早く探さないと。

チエ でも、案外もう目的地にいるってこともあるよね。夢の世界なら、何でもありなはずだし。

ユイ じゃあどうすればいいの!

ミカ とにかく落ち着きなさいよ!

チエ もう列車は動き出しちゃったんだから。じっとしてたって、いつか目的地に着くと思う。だから、慌てる必要は無いよ。

ユイ ……本当に?

チエ うん。

ユイ そう。


    ユイが脱力する。


ミカ それにしても、あんた毎回こんな夢見ているの? よく体力持つわね。

ユイ こんなの初めてよ。ライオルがいなくなるなんて。

チエ いつもは一緒なの?

ユイ うん。ずっと。ずっと一緒だったのに。

ミカ そんなに同じ夢ばっかり見るわけ? 

ユイ そういうわけじゃないけど。……なんていうかな、ライオルはあたしの一番そばにいる友達なの。
  昔からずっと傍にいる。ちっちゃいころから、一緒に絵を描いたり。一緒に本を読んだり、してた。
  ……空想の、だけど。いいよ。笑っても。おかしいだろうし。

チエ おかしくなんか無いよ。

ユイ 二人とも、変な顔したくせに。

ミカ それは、なんていうか、あれよ。ねぇ。

チエ なんか、可愛いなって。

ユイ 放っておいて。

チエ 私もいたよ。小学校くらいまでだけど。ミーちゃん。

ミカ ウサギだったっけ?

チエ ううん。レディオギア・ルクラウス。

ミカ なんだそれは。

チエ 耳が長くて、赤い目で、ピンクなの。

ミカ ウサギだろ、だから。

チエ 違うよ。レディオギア・ルクラウス。世界に一匹しかいない珍獣なんだから。

ミカ つまりは、自分で作ったキャラクターって事ね。

チエ そう。

ミカ あたしは別にそういうの無かったから。でも、変ってわけじゃないと思う。ちょっと、寂しかったけど。

ユイ 何で?

ミカ そんなの、ねぇ?

チエ 言ってくれればよかったのに。

ミカ ってこと。

ユイ 親のこと、ママって呼んでるんだ〜って風に?

ミカ まぁ、人それぞれ秘密はあるよ。うん。

チエ でも、ずっと一緒だったのならなんでいなくなったのかな?

ユイ 分からない。……どうしよう。このままいなくなっちゃったら……あたし……。

ミカ 空想のキャラクターでしょ? 別にまた作ればいいんじゃないの?

ユイ そんなんじゃない! ライオルは、そんなんじゃないの。

チエ ミーちゃんもね。いなくなってから、もう出てこなかったよ。ミーちゃんみたいのは出てきてくれたけど。違うの。

ミカ だからって。どうしろっていうのよ? これはあんたの夢なんでしょ。
  あんたがどうにかしてくれなきゃ、あたし達には何も出来ないじゃない。

ユイ そんなこと言ったって……





    と、制服を着た少女がやってくる。


トト お困りですか? お困りじゃないですか? お困りですよね?

ユイ あなたは?

トト はい。困ったあなたのためのパーソナリティ。司会進行役に、お助けキャラまでこなす何でもありの、
  キーパーソン。トトです。

ミカ トト?

チエ オズの魔法使いで、ドロシーが飼っている犬の名前。

トト 犬とか言わない! ほらこの格好! あからさまに人間でしょ? ね? 犬に見える?

ユイ 見えないけど……

トト ならばよろしい。さぁ、ではご説明させていただきましょう。この列車、銀河鉄道はどこに向かっているのか。
  そして、悪の帝王、オズの真の目的を。

ユイ なんでそんなことあなたが知っているの?

トト 司会者ですから。

ユイ なるほど。

トト さて。マイク!


    袖からマイクが飛んでくる。
    マイクを持つと、がらっと明るくなり、


トト はーい。こんにちは。夢の案内人、トトです。みなさん、元気ですか〜。
  (マイクを観客席に。声を拾ったように満足げに)よーし。今日もみんな元気だね。
  でも、その元気もいつまで持つか分からないぞ〜。さぁ、ここは、見ての通り銀河鉄道。
  オズの元へと向かう列車内よね。見るからに何もないように見えるけど、そこは心の目を通して見てくれればOK。
  さぁ、ここで、まず前回までのおさらいをしておくわね。オズはまずブリキンとカシィをユイから引き離しました。
  さらに、二人を洗脳し、自分の子分へと変えたのです。そして、極めつけはライオルの誘拐。
  これは、全てユイをたった一人にするための計画だったのです。

ミカ え、でも(あたし達が)

トト しかし! ライオルはさらわれる前に力を振り絞り、人間の仲間を呼び寄せていました。口より先に手が出る女。
  得意の武器はストレート。カナミミカ!


    音楽。


トト ポーズ。

ミカ え?

トト ポーズとる! 早く。

ミカ は、はい。


    ミカがポーズをとる。


トト そして、頭のよさはメンバー随一。趣味は鍵開け。あだ名はポチ。ホシサキチエ!


    チエはちゃっかりポーズをとっている。


トト 彼女らに守られし、我らがグループのリーダー! シロドユイ!


    ユイがポーズをとる。


トト 三人はライオルを救えるのか? そして、オズの真の目的とは? 
  夢物語第49話。「銀河鉄道にさようなら」堂々開幕です!


     音楽やむ。


ミカ って、何よ今の!?

トト 説明?

ミカ 首かしげながら言うな!

トト というわけで、説明終わったので私帰ります。

ミカ ちょっと!

トト あ、もし用があったら元気な声で、「おねえさーん」って呼んでください。気が向いたら出ます。それじゃ。


    トトが去る。





チエ 毎回、こんな感じのノリなの?

ユイ ……うん。

チエ 落ち込んでる?

ユイ うん。

チエ まぁ、分かるよ。自分の夢って人に見られるとつらいよね。

ミカ 毎回やってるんだったら落ち込んでいる場合じゃないでしょ! 知らずに辱めを受けた人間だっているんだから!

チエ 結構ポーズ決まってたよ?

ミカ うるさい! ほら、立って。とりあえず、行くわよ?

ユイ どこへ?

ミカ その、ライオルって言うのを探すためでしょ。そうするのが目的みたいだし。それとも、このまま目覚めるのを待つ?

ユイ ううん。行こう。

チエ どっちに?

ミカ&ユイ あっち。


    声はそろうが、ミカとユイが指した方向は逆。


ミカ&ユイ はぁ!? なんでよ! なんでって、あっちに行ったでしょ!? 行ってないわよ馬鹿! 
      馬鹿って何よってか、同時にしゃべるな!

チエ うわー凄いね。

ミカ&ユイ 凄くない! ……とりあえず、(咳払い)


    ミカがユイを止める。


ミカ 先に話して。

ユイ あっちに行ったでしょ。二人。

ミカ (反対を指し)あっちよ! ねぇ?

チエ 私、回り見てなかったから。

ユイ あっちだって。

ミカ 分かったわよ。あんたの夢なんだし? あんたの言うとおりにしてあげる。

ユイ 別に、反対だと思ったらそっちに行けばいいんじゃない? あたし、一人で行くから。

ミカ 一人で何が出来るって言うのよ。

ユイ 放っておいてよ。どうせ、今迄だって一人みたいなものだったんだから。今更仲間なんて要らないのよ。

ミカ 呼び出したのはあんたでしょ!

ユイ あたしは呼んでない! ついてこないでいいって!

ミカ うるさい! さっさと歩け!


    ユイとミカが去る。


チエ まったく。仲がいいんだか悪いんだか。


    チエが去る。
    雰囲気が少し変わる。


10


    カシィと、ブリキンがやってくる。
    カシィが先に出てくる。ブリキンが手前に遅れてつく。


カシィ こら。被ってる。

ブリキン あ、ああごめん。


    二人は入れ替わって。


カシィ なんであんたはそう、周りを見ないで行動するのよ?

ブリキン 俺が悪いのか?

カシィ あからさまにそうでしょ? あんた以外に誰が悪いのよ。言ってみなさいよ。

ブリキン (カシィに指を指そうとする)

カシィ (指の先を遠くまで見て)誰もいないじゃないの。全く。本当使えないんだから。

ブリキン 申し訳ない。


    反対方向からオズがやってくる。
    変な格好。


オズ あ、ブリキンに、カシィ! 見(てくださいよ どうっすかねこの格好)

カシィ このバカァ!


    カシィがいきなりオズを殴る。


オズ な、殴ったね。

カシィ 馬鹿! あんたいきなりそんな緊張感のかけらも無い声を出して出てどうするのよ! 
   ユイに見られたら計画が全ておじゃんでしょ!

オズ だからって殴ること無いじゃん。一応、君らのボスなんだからさぁ。

カシィ そういうのはボスらしいことをやってから言ってよ。

オズ だって、いつも一人だったからさ。仲間が出来ただけで嬉しくて。

カシィ 言い訳しない。

オズ はい。あれ? ライオルは?

ブリキン 休ませてある。疲れているみたいだから。

オズ そっか。ねぇ、ブリキン。ものは相談なんだけどさ。

カシィ ストップ。

オズ え?

カシィ 聞こえなかった? ボスらしくって、言ったはずだけど?

オズ どんなさ、ボスらしいって。

カシィ 威厳! 威圧! 意志の強さ!

オズ そんなハードルを高くしないでよ。

カシィ いいからやる!

オズ はい! なぁ、ブリキン。ものは相談なんだが。

カシィ ボスは相談しない。命令。

オズ うむ。命令なんだが。

カシィ なんだが言わない。

オズ 命令、だ。

ブリキン はは。

オズ ちょっと来い。

ブリキン はは。


    オズは歩きつつ、


オズ こんな感じ?

カシィ 振り返らない!

オズ はい! もう。疲れるなぁ。

カシィ 何か?

オズ いえ! ところで、ユイたちは? 追ってきてないみたいだけど。

カシィ そういえば……

ブリキン 反対方向行ってたりして。

オズ はは。まさかぁ。ねえ?

カシィ ありえる。

オズ うそっ。なんだよ。じゃあ、追わなきゃ。

カシィ ボスらしく!

オズ 何をやっているんだ。早く追いかけるぞ。

ブリキン ははっ。あ、でも、命令とは?

オズ ああ。追いながら話そうではないか。

ブリキン ははっ。


    オズとブリキンが去る。


カシィ 全く。一々世話が焼ける。


    カシィが去る。


11


    と、ユイ&チエ&ミカがやってくる。
    三人とも不機嫌な顔。


チエ ねぇ。言いにくいんだけどさ。

ミカ じゃあ言うな。

チエ ねぇ。

ミカ なによ。

チエ こっちじゃないんじゃない?


    ミカとチエの足が止まる。


ミカ やっぱり、あんたもそう思う?

チエ だって、もう結構歩いているよ。まぁ、夢の中だから仕方ないけどさ。ずっとなんか、同じ景色ばっかりな気がするし。

ミカ だから、あっちだって言ったんだよあたしは。何で夢の中で疲れなきゃいけないんだか。


    ミカがその場に座る。
    ユイがそのまま歩いていこうとする。


チエ ユイちゃん。

ミカ あんた一人でどこ行くのよ。

ユイ 先に進むのよ。疲れたんでしょ。座ってれば。

ミカ あんただって、疲れたんじゃないの?

ユイ 別に。平気だから。

チエ ユイちゃん。ちょっとだけ休も?


    ユイが座る。


ミカ ポチの言うことなら聞くんだもんなぁ。

チエ じゃんけんだよ。

ミカ 何が?

チエ ミカちゃん、ユイちゃん、あたし、ミカちゃん(強い順に指していく)

ミカ そういえば、そうね。変なトリオだ。

チエ ね。

ユイ 今年までのね。

ミカ なんで?

ユイ 別に。

チエ ユイちゃん、どっか引っ越すの?

ミカ え? 引っ越すのあんた。

ユイ 引っ越さないわよ!

チエ じゃあ、来年も一緒だね。

ミカ なによ、びっくりさせないでよ。

ユイ 別に、引越しなんかしなくたってさ、変わるじゃん。

ミカ 何が?

ユイ 別に。

ミカ ああああああ! もうやだ。言いたいことがあるなら、ちゃっちゃと言いなさいよ! ちゃっちゃと! 何? 
  さっきから、変に突っかかったりさ! 勝手に引きこもるし! なんなのよ一体!

チエ ミカちゃん、落ち着いて。

ミカ これが落ち着いていられるか! こういうのみているとイライラするのよ。

ユイ イライラするなら見なきゃいいじゃん。

ミカ ほら! こういうこと言うし。ああ、もうやだ。やだやだやだやだやだやだ! いやだー!

チエ ミカちゃん、落ち着いて。

ミカ だから、これが落ち着いていられるかって(言うんだよ)

チエ 落ち着け。

ミカ はい。

チエ 私も、ミカちゃんも心配なんだよユイちゃんのことが。
  なんか、すごく、一人になりたがっているような気がするからさ。

ユイ ……

チエ 話したくないんだったら、無理に聞かないけどね。

ユイ 小学校の頃、さ。

チエ うん?

ユイ 小学校の頃、仲がいい友達がいたのよ。チエみたいに、頭良くて、人当たりがいい子でさ。
  でも、ミカみたいに正義感強くて、自分が納得行かないことだったら男の子の中でも平気で
  ぶつかっていける子で。女の子なのに、男の子みたいだった。なんか、憧れって言うのとは
  少し違うのかもしれないけど、凄く一緒にいるのが嬉しくって。楽しくって。こういうのが友達
  なんだって、そう思ってた。……中学に行くときにさ、その子私立の中学に行ったんだ。
  ずっと友達だよなんていって。二人で家庭科の時間に作った人形を交換し合ってさ。あたし
  ぶきっちょだから、凄い下手で。あの子のは、もらうのがもったいないくらいよく出来てて。
  でも、「宝物にするね」って言ってくれて。嬉しかった。あたし、凄く目立つ場所に人形を置いて。
  いっつも学校から帰ってきたら一人で見てた。あたし昔っから、あんまり友達作るの得意じゃ
  なかったからさ。中学では全然友達できなくって。でも、あたしにはあの子がいたから。
  大丈夫って思ってた。連絡しなくっても、なんかつながってるって思ってて。勝手に思っててさ。
  ……その年の冬に偶然、町で会ったんだ。凄い女の子の格好してて一瞬誰か分からなかった。
  これからデートなんだって言われて。話したいことといっぱいあったはずなのに、
  全然浮かばなくってさ。とっさに、人形って言葉が出てきちゃって。そのまま、言ったんだ。
  「人形、うちに飾ってあるんだ。卒業式のとき交換した奴。机の上において。大事にとっていてあるよ」
  って。そしたら――


    と、可愛く着飾ったトトが出てくる。
    少し困った顔で、


トト 「あ、ごめん。あたし、それもう捨てちゃった」

ユイ あ、そうなんだ。

トト 「ごめんね。 取っておこうとは思ったんだけどさ。」

ユイ ううん。いいよ。ほら、下手くそだったし。あたしは、宝物って思ってたんだけどな。

トト 「ごめんね。そんな風に思ってなくて。……あ、あたしもう行かなきゃ」

ユイ そっか。じゃあね?

トト 「うん。またね。今度メールするよ」


    トトが去る。


ユイ それっきり。はい。おしまい。メールもなし。一度こっちから送ったら、返信エラーで戻ってくるしね。
  まぁ、仕方ないんだよ。人間変わるもんね。生まれてからずっと変わらない人がいたら、それこそ不気味だし。
  ね? なんか、暗い話になっちゃったけど、つまり言いたいことはさ。あれだ。あれってなんだ。
  つまりさ、離れるかもしれないんだからさ、そんなくっつかないで欲しいんだよね。
  別に友達なんてあんまり必要としてないんだからさ。


    ユイが、そのまま去ろうとする。


ミカ 待ちなさいよ。

ユイ なに? 分かったでしょう? もう。

ミカ 言い逃げするわけ?

ユイ 何よ、言い逃げって。これ以上なに言い合っても無駄でしょ?

ミカ なによ。真面目に聞いてりゃ泣き言ばっかりいってさ。つまり、「離れないで」って言いたいんでしょ? 
  だったらそう言えばいいじゃない。まだるっこしいたらありゃしない。

ユイ そんなこと一言も言ってないでしょ。

ミカ 自分ばっかり不安なつもりになっちゃってさ。結局「あたしってばこんなに自分勝手です〜」
  って言ってるだけじゃん。ばっかみたい。

ユイ 誰が馬鹿よ!

ミカ 馬鹿じゃなきゃトンマよ。

ユイ 何とんまって。久々に聞くんだけど。意味分かって使ってるの?

ミカ トンマってのはトンのマよ。決まってるでしょ。

ユイ それ何の説明にもなってないんだけど。

ミカ だから、馬鹿だって言ってるのよ。

ユイ もう放っておいてよ! 私は一人がいいの! 一人でいいのよ! 
  何も分からないくせにごちゃごちゃうるさいのよ!

ミカ 分かってないのはどっちだよ! 

ユイ うるさい! もう、私のことは放っておいてって言ってるでしょ!

ミカ 言われなくてもそうするわよ! こんな馬鹿だとは知らなかったわ。ああ、呆れました。本当やんなったわ!


    ミカが去る。


チエ ミカちゃん!

ユイ チエも、もういいよ。あたしのことはいいから。ミカと一緒に帰って。あたしは、一人でいいから。

チエ ……寂しかったんだよ。あたし達。

ユイ え?

チエ ずっと、友達だって思ってたからさ。離れっこないって思ってたから。
  なのに、ユイちゃん悩んでいるのに何にも言ってくれないから。ずっと、寂しかったんだ。

ユイ そんなこと……

チエ 高校入って、同じクラスになってさ。あたしも、ミカちゃんも、ユイちゃんも、
  クラスに中学までの知り合いいなくてさ。それで、仲良くなったんだよね。あたしたち。

ユイ うん。

チエ 二年になっても同じクラスでさ。「運命だよね」なんて言い合って。いろんなとこ行ったよね? 
  いつも三人一緒で。旅行の班も、くじ引きだったのにわざと、クジ交換してもらって三人同じグループになってさ。
  懐かしいよね。修学旅行。もう、半年も前だけど。

ユイ うん。

チエ ミカちゃんは専門学校だって言ってたし、ユイちゃんは大学行くって言ってたけど、多分あたしと違うだろうし。
  多分バラバラだろうなぁって、思ってた。でも、三人ともずっと一緒だろうなって、ずっと馬鹿やったり、
  時々一緒に遊んだり、大人になったら一緒に飲みに行ったり。……するんだろうなってあたしは思ってたんだ。
  きっと、ミカちゃんだって。ユイちゃんも、そう思ってくれているんだろうって思ってた。

ユイ ……ごめんね。そんな風に思えてなくて。

チエ ううん。ユイちゃんの気持ち聞けて少しすっきりしたから。

ユイ ……あ、あたしもう行かなきゃ。

チエ そっか。じゃあね?

ユイ うん。またね。今度メールする。

チエ うん。待ってるよ。


    チエが去る。
    ユイは自分の語った言葉が、かつて聞いたものだということを思い知る。


ユイ 馬鹿だ、あたし。


    ユイがうつむく。


オズ(声) おやおや、一人かね?


12


    オズがやってくる。
    でかいマントを引きずるような格好。


ユイ オズ!?

オズ あんまり君が遅いから、こちらから来てしまったよ。

ユイ ライオルはどこ?

オズ さぁ、どこかな? 私を倒せたら教えるというのはどうだろうか?

ユイ その言葉、忘れないでよね! いでよ! 剣!


    と、剣が飛んでくる。


オズ え、そんなのこれまで出たことあったっけ。

声 説明しよう! ユイの呼びかけによって飛んでくる剣は、魔剣エクスガリバー。ようするに、まぁ、魔剣である。

オズ 説明になってないだろそれ!

ユイ いまだ!


    ユイがオズを切る。


オズ ぎゃあああ。く、しかしこの程度では、


    ユイがオズを切る。


オズ ぐあああああ。く、なかなかやるな。しかし、


    ユイがオズを切る。


オズ ぐおおおお。な、なるほど。どうやら、この姿では失礼だったよう


    ユイがオズを切る


オズ ぎゃああ。せ、台詞を言わせて、


    ユイがオズを切る。


オズ ぐっはああ。


    オズが倒れる。
    ユイはオズの胸倉を掴みつつ


ユイ さあ、ライオルはどこ!?

オズ 今の回数の切られ方では、普通に俺死んでいると思うんだけど。

ユイ 生きているんだからちゃっちゃと話なさい。

オズ わ、分かった。話すから、まずは離してもらおうか。

ユイ 話したら離してやるわよ。

オズ 話すから離せ!

ユイ 先に話せ!

オズ 話したら離すって、わけが分からなくなるから、とりあえず手をお離しください。


    ユイが手を離す。


オズ ふう。ふふふ。どうやら、やはりこの姿では失礼だったようだな。

ユイ ライオルの居場所を教えるんじゃなかったの!?

オズ そんなこと言いましたっけぇ?


    ユイが切ろうとする。


オズ おっと、キャシィ!


    カシィがやってくる。


ユイ カシィ……

オズ ここは任せたぞ。準備をしてくる。

カシィ はいはい。

オズ 見せてやろう、私の真の姿を!


    オズが去る。


13


ユイ 待ちなさい!

カシィ おっと。しばらくここは通さないわよ。

ユイ カシィ……。お願いだから、元の姿に戻って。

カシィ なんで? あたしは今はこっちの方が自分に合ってるのよ。

ユイ カシィはそんなんじゃない!

カシィ 自分の気持ちばっかり押し付けないでくれる?

ユイ え?

カシィ あんただって変わっているくせに。なんであたしが変わるのを否定されなきゃいけないの?

ユイ だって、カシィは私の仲間だったはずじゃない。

カシィ だからって、あんたに私を縛る理由は無いでしょう?

ユイ それはそうだけど……。

カシィ あんたは怖いだけでしょう? 外見や、趣味が変わったくらいで、気持ちまで変わってしまうんじゃないかって。
   だから、変わることを恐れている。みんな変わるって自分で言っておいて、誰もが変わらないで欲しいって
   願ってる。それって凄い矛盾してない?

ユイ そんなこと分かってるわよ!

カシィ 分かっているなら、変わったあたしのことも分かりなさいよ! 
   ……そうすれば、また仲間に戻れるかもしれないわよ。

ユイ え?

カシィ なんてね。ほら、もう準備は出来たの?

オズ(声) もちろん!

カシィ さぁ、今回のオズは手ごわいわよ。あなたに、倒せるかしら?


    カシィが去る。


ユイ カシィ!

オズ(声) さぁ、第二ラウンドといこうか。


14


    オズがやってくる。
    ありていに言ってでかい。
    できれば、ブリキンがオズを肩車していて欲しい。
    ブリキンが肩車している場合は、ブリキンがオズの声をエコー処理。


ユイ でかっ。

オズ はっはっは。そうとも。ラスボスって言うのはでかくなるものなんだ。どんなRPGだってそうだろ?

ユイ 体ばかりでかくなったからって、何かが変わったってわけじゃないでしょ!


    ユイが剣を振りかぶる。
    が、オズの動作で弾き飛ばされる。


ユイ 剣がっ

オズ はっはっは。今の私にとっては、ハエが止まる動きだったよ。

ユイ くっ。

オズ これで、終わりかな? そうだ。カシィ。つれて来い。

カシィ(声) はいはい。


    と、カシィにつれられてライオルが現れる。
    後ろ手に縛られている。


ユイ ライオル!

ライオル ユイちゃん!

オズ 最後にライオルに会わせてやったんだ。感謝するんだな。

ユイ ライオル、ごめんね。助けられなかった。

ライオル ユイちゃん……やいオズ! 女の子をいたぶってそれでもラスボスか!

オズ 不思議なけちの付け方をしないでもらおうか。私は、男女平等にいたぶるのが好きなんだ!

ライオル 自慢された……。

オズ さあ、ではそろそろ終わりにしようか。

ミカ&チエ お待ちなさい!

オズ なにやつ!?


    と、ミカとチエがやってくる。
    ライオルとカシィが去る。
    どっから見ても、本人達だと分かるが、軽く変装している。


ミカ 女一人にずいぶんとやってくれるじゃないの。

チエ おいたをする子は私たちが許しませんよ!

ユイ ミカ? チエ?

ミカ 違う! 我々は断じてそんなのではない!

チエ こんな格好してもバレバレだって言ったんだけどねぇ。

ミカ ばか! 勝手に正体をばらすな! あれだよ、私たちはほら、なんだ。二人で一組のあれなんだよ! 
  そう思っとけ。

ユイ 帰っちゃったんじゃなかったの?

チエ そうしようと思ったんだけど、ミカちゃんに怒られちゃって。

ミカ 私は帰り道も分かってないのにどうやって帰るのかって言っただけよ。

チエ 三人でじゃなきゃ意味ないって言ったくせに。

ミカ うるさい! ああ、もう邪魔だこれ!


    と、変装道具を捨てる。


ミカ ってわけで、三人で帰るからね。

ユイ ミカ、でも、私、(酷いこと言って)

ミカ 変わってくのが怖いんだったら、一緒に変わればいいじゃん。それだけでしょ。

チエ ユイちゃんと一緒じゃなきゃ嫌なんだって。ミカちゃんは。

ミカ うるさい! ほら、なに変な顔してるのよ。

ユイ ごめん。

ミカ いくよ!

ユイ うん!


    三人はオズを向く。
    何か凄い調子のいいムード。


オズ はっはっは。無駄無駄無駄!


    がオズに、三人とも速攻やられる。


ミカ そんなっ。

チエ 物語的に、今ので敵を倒してハッピーエンドだと思ったのに。

オズ 甘い甘い。そんな簡単にはやられませんよ。

ユイ ごめん。

ミカ あんたが謝ることは無いわよ。

ユイ だって、あたしの夢なのに。あたし、どうしたらいいのか分からない。

チエ きっと、何か手があるわよ。ね。

ユイ 何かって言われたって……


    と、声が流れる。


トト(声) もし用があったら元気な声で、「おねえさーん」って呼んでください。


ユイ おねえさん。

ミカ え?

ユイ お姉さんを呼べばどうにかなるかも。

チエ トトさんね?

ユイ うん。

ミカ よし、じゃあ、呼ぶか。

オズ なんだ? なにをする気だ?

ミカ せーの。

三人 おねーさーん。


    何も起きない


ミカ うわっ。凄い恥ずかしい。

チエ ちょっと、照れちゃうね。

ユイ なんで何も起こらないの?

トト(声) だって、やる気を感じないからさぁ〜。


    どこか違う場所にトトが現れる。


ユイ やる気って……

トト もっとこう、切実な? パワーが欲しいのよね。

ミカ そんなこと言われたって。

トト 後楽園の子供たちのような情熱? ヒーローに出てきて欲しいっていう、愛情? そういうのが、足りない。
  全然足りない。

ユイ どうしろっていうのよ!

トト もっと叫んで! 力いっぱいに。

ユイ そんなこと言われても、

ミカ 急に出来ないわよ。ねぇ。

チエ うん。

トト しょうがないなぁ。さぁあ、じゃあ、みんな。みんなのパワーをあの三人に上げてください。いいですか? はい。
  じゃあ、右手を上げて! 左手もあげて! 左右に揺らして〜。そう、空気中にあなたのパワーを集めてください。
  はい、揺れて〜揺れて〜。そして、前に押し出す! パワー注入〜 そう、今だ!


    ※ 観客に喜んでやってもらうこと。
      三人は、その礼儀を忘れず返すこと。


三人 おねえさーん!


    照明が変わり、トトが現れる。


トト はーい。おめでとうございます。見事現れました〜。

ミカ なんか、すっごい無駄に疲れた気がする。

トト 何か言いました?

ミカ いえ、別に。

オズ 何だお前は。

トト あるときは司会のお姉さん。あるときは、キーパーソンを名乗るお調子者。して、その実態は!

ユイ&ミカ&チエ&オズ その実態は?

トト すきあり!


    トトは素早くオズ(ブリキン)に一撃を与える。


ブリキン ぐおおおお。

オズ し、しまった。しかし、それしきの攻撃で。

トト それはどうかしら?

オズ なに?

トト 百以上ある人体のツボのうち、消化器系のツボをついたわ。あなたを乗せている彼。
  恐らく、もうじきトイレに行きたくて仕方なることでしょう。

オズ え、それって。

ブリキン ぐあああああ。

トト あえて言いましょう。あなたの出番はもう終わっている。

オズ ちょ、ちょっと、こういうのあり? ねぇ!


    と、言いながらオズとブリキンが去る。


トト 一丁あがり。

ユイ すごい。

チエ あっという間に倒しちゃったねぇ

ミカ 最初っから呼べばよかったんじゃない?

トト では、私はこれにて。

ユイ ありがとう。

トト また、用があったときは、いつでも呼んでください。

ユイ もう、呼びたくは無いなぁ。

トト だと思った。


    と、トトは去る。
    そして、ライオルがやってくる。


ユイ ライオル! カシィは?

ライオル なんか、オズがやられた途端、逃げちゃった。

ユイ よかった……。

ライオル ありがとう。ユイちゃん。

ユイ ううん。いいんだ。さ、帰ろう?

ライオル うん。……そうなんだけど。

ユイ どうしたの?

ライオル 駄目なんだ。僕。

ユイ 駄目? 何が?

ライオル ここで、お別れなんだ。

ユイ どういうこと?

チエ 銀河鉄道。そういうことか。

ユイ え?

ミカ ポチ?

チエ 考えてたんだ。なんで、今回はいつもと違うんだろうって。私たちが呼ばれて、ライオル君がさらわれて。
   オズってボスが倒されてっていう展開なんだろうって。これまで、オズはやられたりしなかったんだよね?

ユイ うん。でも、それは私たちがオズまでたどり着けなかったからで……

チエ なんで、じゃあ今回はたどり着けたのかな? そう思ってたら、この列車のこと、連想したんだ。
  銀河鉄道。仲のいい友達との、別れの列車。

ユイ 何言ってるの?

ライオル 僕は、帰れないんだ。

ユイ ライオル?

ライオル 皆で決めてたんだ。終わりにしようって。だから、今回で最後なんだ。ユイちゃんと会うのは。

ユイ 何言ってるの? みんなって?

ライオル オズや、ブリキンや、カカシィや、トトだよ。このままじゃ、君は夢の世界に逃げてばかりだからって。

ユイ 私逃げてなんて、

ライオル 逃げてただろ? ずっと。僕と一緒にいる時間が長くなって。おかしいって自分で分かっているくせに、
     ずっと自分をだましてきていただろう? 変わってきてるのに、変わってないふりしてただろう?

ユイ そんなことない。

ライオル ユイちゃん。僕に嘘はつけないんだよ。だって僕は君なんだもん。……だから、僕は行くことにしたんだ。
     本当はもっとずっと早くそうしなきゃいけなかったんだけど。出来なかった。
     君を、一人残していきたくなかったから。

ユイ じゃあ行かないでよ。私、一人になっちゃうよ!

ライオル 一人じゃないよ。ユイちゃんは一人じゃない。だって、こんなに頼れる人が一緒にいてくれてるじゃんか。


    ユイが振り返る。


ミカ まぁ、こいつのことは、あたし達が何とかしてあげるよ。

チエ 完全にいなくなるわけじゃないんでしょう?

ライオル 僕はユイちゃんが作り出した存在だからね。でも、本当は空想である僕たちは
     そんなにはっきり見えたり話が出来るわけ無いんだ。小さい頃の思い出と一緒に
     いつの間にか薄れていくはずのものなんだ。

チエ 私の、ミーちゃんみたいに?

ライオル だけど、ユイちゃんは怖がりだったから。一人になるのが寂しいくせに、
     離れるのが怖くて誰とも長く一緒にいられなかったから。だから、僕が傍にいたんだ。
     でも、もうそれも終わりみたいだね。

ユイ どうしても、行くしかないの?

ライオル それが普通の事だって、君自身思っているんだよ? いつまでも空想の世界には生きられない。
     それは、ユイちゃんが一番知っているはずでしょ?

ユイ だけど。

声 まもなく、この列車は空の果てに到着いたします。どなた様もお忘れ物の無いよう、お降りください。

ライオル さ、じゃあ行かなくちゃ。言っておくけど、はっきり見えなくなってしまうだけで、
     僕はいつだってユイちゃんの傍にいるからね。僕は君なんだから。

ユイ でも、私、ライオルがいなくなったら……

ライオル もう、仕方ないなぁ。


    ライオルは少し笑うと、その胸から勲章を取る。


ライオル これをあげるよ。勇気の勲章。これをもらったら、誰だって勇気をもつことが出来るんだ。

ユイ だけど、私……

ライオル ほら、胸張って。じゃないと、勲章に笑われるよ。


    そして、ライオルは去ろうとする。


ユイ ……ありがとう。

ライオル うん。

ユイ 一緒に居てくれて、ありがとう。傍で笑っててくれて、ありがとう。一緒に怒ってくれて、ありがとう。
  泣いてくれて、ありがとう。それから、えっと、まってね。おかしいな。まだあるのに。まだあるんだって。

ライオル ユイちゃん……

ユイ ライオルがいなかったら、あたし、どうなってたか、わからないよ。

ライオル 嬉しいなぁ。空想、冥利に尽きるよね。


    ライオルは去る。
    ユイが泣き崩れる。
    二人が傍による。
    あたりが暗くなる。


    トトが浮かび上がる。


トト さて、ご一同。夢物語はこれにて閉幕。小さい頃、きっと、誰もが生んだだろう私たちは
  ライオルと一緒に静かに舞台を離れるのみ。……だけど、ほんの少しだけ、
  本当ならもう私たちには見られない、目覚めの世界をお送りしましょう。始まりは、こんな音から。


    チャイム音。
    トトが消えると、反対側にチエとミカが現れる。


ミカ ちっ。居留守使ってやがる。

チエ まだ寝ているんじゃない?

ミカ そんなわけ無いじゃない。今更寝ていたって、なんの役に立つって言うのよ。

チエ 眠り姫になっちゃってる、とか?

ミカ 真面目に言ってる?

チエ 50パーセントくらいは。

ミカ だいぶ大きいわね。で、残りは?

チエ 冗談。

ミカ 真面目に聞いたあたしが馬鹿だったわ! ユイ! ほらいるんでしょ! 開けなさいよ!

チエ ミカちゃん。それじゃ家族の人がびっくりしちゃうよ。

ミカ 昼間にユイの家族が家にいる確率は0%でしょ。

チエ でも、今日は休日だから。

ミカ ……。

お父さん(声) どちらさま?

ミカ あっ

チエ すいません。ユイさんの友達なんですけど

お父さん(声) ああ、どうぞ?

チエ おじゃまします。ほらね?

ミカ そういうことは、もっと早く言いなさいよね!


    と、部屋の中。
    ユイは人形を手にしている。
    子供が作ったような人形。ライオルに似ている。
    ミカとチエとユイの間にはドアがあるらしい。


ミカ ユイ! いるんでしょ!

ユイ うん。

チエ 入っていい?

ユイ いいよ。


    ミカとチエが部屋に入る。


チエ おはよ。

ユイ ……久しぶり。

ミカ あんまりそんな気しないけどね。まったく。どこが病人よ。元気じゃないの。

チエ その人形? 話してくれたの。

ユイ うん。(気づいて)夢、じゃなかったんだ。

チエ 夢だったけどね。寝てたから。

ミカ あったわね、「夢だけど、夢じゃなかった!」ね?

チエ うん。あったね。

ミカ よく真似したよねぇ。

チエ そうだね。


    微妙な間


ミカ ……学校、来られそう?

ユイ ……うん。ごめん。

ミカ 何で謝るのよ。

ユイ 迷惑、かけたかなって。

ミカ そりゃあね。

ユイ ごめん。

ミカ だから、そうじゃなくって……ポチ。あれ。

チエ うん。はい。ユイちゃん。


    チエが袋をユイに渡す。


ユイ なにこれ?

ミカ 進級祝い。

ユイ まだ、進級できるか分からないんだけど。

ミカ じゃあ、死ぬ気で進級しなさいよ。

チエ ミカちゃんがね。夢の中でもらったものは、さすがに起きたら無くなってるだろうって。


    ユイが袋を開ける。
    中には、勲章が入っている。


ミカ みっともなく探し回っているんじゃないかと思って。

チエ まあ、記憶を頼りに作ったから、ちょっと正確かどうかは怪しんだけどさ。

ミカ ほら、付けてあげるから胸張って。

ユイ ……うん。


    ミカがユイに勲章をつける。


チエ (ミカに)ねぇ?

ミカ ああ。


    ミカとチエが勲章を見せる。
    勲章は三つあった。


ミカ あんた一人じゃ不公平だと思って。

チエ 三人、一緒がいいよねってミカちゃんが言って。

ミカ うるさい。

ユイ うん。ご(めんね)

ミカ こら。

ユイ え?

ミカ 謝るな。あたし達、悪いことしたみたいじゃんか。ねえ?

チエ そうだよ。誰も怒ってないよ?

ユイ うん……ありがとう。

チエ うん。

ミカ やっと言ったよ。

チエ ね。

ユイ 来年も、一緒にいてくれる?

ミカ さぁ、どうかな。

チエ って言ってるから、ミカちゃんだけ仲間はずれにしよう。

ミカ こら! 来年、なんて言わないでよね。一年で終わらせる気?

チエ ミカちゃんは欲張りだから。

ミカ おい!

ユイ 本当だよね。

ミカ ユイまで、あたしを悪者にするなよ!


    ユイが二人に何か言う。
    それはとても恥ずかしい、でも、気持ちのこもった一言で。
    ミカが照れる。
    チエは嬉しそうに言葉を返す。
    ユイが照れる。
    ミカが照れながら同じ言葉を二人にかける。
    三人は笑う。

    どこか違う世界から、オズやライオルやブリキン、カシィが見守って笑っている。
    トトが現れ、四人を違う場所へと案内していく。
    

    友情は続く。
    変わるものもあるだろう
    でも、信じていればきっとずっと――

    溶暗


参考文献 銀河鉄道の夜(宮沢賢治 ちくま文庫)
       オズの魔法使い(岩波少年文庫)

あとがき
小さい頃、よく布団にもぐりこんで出てこないことがありました。
外に行っても面白くなくて。
面白くない理由なんて分かっているのにどうしようも出来なくて。
どうしようも出来ない自分がたまらなく嫌で。
眠る事で、
夢を見ることで現実から逃げようと考えていた時がありました。

ちょっと周りを冷静に見れば、面白い事だってたくさん転がっているのに。
見ないふりだけしていました。

だからでしょうか。私の作品には夢の世界に入り込む女の子がたくさん出てきます。
本当はあの一人だった子供の頃、一人ぼっちで布団に包まっていた自分に
「君はそんなに一人じゃないよ」と、言いたいだけなのかもしれません。なんて。

そんな少女たちのうちの一人の物語です。

最後までお読みいただきありがとうございました。