合コンしようよ



人物

佐藤  眼鏡男 いつだってスーツ姿。

吉野  優男 ラフな格好を心がけている。どこか弱々しい。

花山  体力だけ 休日はジャージで過ごしています。そんな男。

澤木  明るい女 この中では一番一般人。

松浦  根暗女 と見せかけて実は男




<始まりもする前に>

   吉野が舞台に立っている。
   灯りは吉野だけを浮かび上がらせる。どうやら椅子に座っているらしい。


吉野 もてない男達の合コンって言うのは、いつの時代だって、大変なものだ。
    今回の会社の同僚と、昔の友人とで合コンをした。これはそんな話しだ。
    合コンで僕は二つ、心に深く誓ったことがある。
    一つ、外見がいくら可愛いだろうと、注意はすること。
    そして、もう一つ。・・・・・・


     吉野の言葉が終わると、明かりは消える。
     吉野は舞台から去る。



<そして物語へ>


     ここはどこかの駅前。
     雑多な音が辺りには溢れている。
     どこにでもありそうなオブジェが、気色悪いくらいその場に似合っていない。
     もうすぐ夏になりそうな季節の中、空は申し合わせたように晴れていた。
     と、佐藤が少し神経質に現れる。スーツ姿が暑いのか、軽くネクタイをゆるめている
     つけているネクタイがやけにスーツにあっていない。



佐藤 いいか。ファースト・インパクトが大切だ。
    相手にちょっとでも不快感を与えたらそれでおしまいだからな。気をつけろよ祐介。
    お前もそろそろ童貞捨てたいだろ? ああ、捨てたいさ。よし、がんばれ。バリOK。


     佐藤はオブジェ近くで歩を止める。
     時計を確認し、満足そうな顔になる。


佐藤 よし。ぴったり10分前到着だ。まぁまぁの出だしだな。(鏡を取り出し)
    ……よし、髪は乱れていない。……フケも落ちてはいない。
    女の子はこういうの気にするだろうからな。今日のネクタイの柄は……うふふ。かっこよすぎ。
    よーし、大丈夫だぞ祐介。今日のお前に敵はいない。
    なんて言ったって、他の奴らは優男に、筋力馬鹿だ。お前の知的センスにかなうわけはない。


     佐藤が話している途中で吉野が現れる。
     吉野の格好は割と普通。サラリーマンが休日には少し気を休めていますといった感じの服。
     近づく吉野に佐藤は気づかずに喋り続けている。


佐藤 「もしもし、お嬢さん。正真正銘の哀しい話しをしましょう。
    『ある日、男が車のガソリンを確かめる為、マッチを擦ってタンクの中を覗いた。あった! 
     …………享年55才。』あっはっは。いっつ、アメリカンジョーク!」


     自分の言葉に自分で受けて笑う佐藤


吉野 ……面白くない 

佐藤 うわっ……なんだ、吉野君か。ずいぶんゆっくりしたお出ましだね? 
    やっぱり司会者ともなるとそれなりに準備ってものが必要なのかい?

吉野 いや、別にそう言うわけじゃないけど

佐藤 いやいや謙遜しなくてもいいよ。 今回の企画を立ててくれたのは他ならぬ君なんだし。
    余裕を見せていられるのも当然のことさ。…………でもね、合コンが始まったら、
    誰がうまくいっても恨みっこ無しだよ。

吉野 分かってるって

佐藤 ああ、そうか。合コンなれしている吉野君は当然分かっているはずだよね。

吉野 …………

佐藤 それに比べて僕なんて合コンは、初めてだし。有利か不利かでいったら断然不利なわけだ。
    何せ初めてだし

吉野 何がいいたいんだよ。

佐藤 正直な話しさぁ。何で僕を誘ったわけ?

吉野 え?

佐藤 なんかそこら辺に作為を感じるわけですよ、僕としては。

吉野 なんで?

佐藤 だって、僕は眼鏡ですし〜。なんか風体オタクっぽいですし〜。
    女の子と喋ったことあまりないし、ってか女の子には初対面で嫌われるタイプですし〜。

吉野 自分のことよく分かっているじゃん

佐藤 (むっとしつつ)だから、吉野君に誘われたときには嬉しさ半分ありつつ、
    疑いもあったんだよねぇ。

吉野 疑い?

佐藤 よく聞く話だからさ。合コンを開くときに「とりあえず、三対三ね〜」なんて女の子にいわれて、
    自分よりも見た目で劣る人間を集める男。

吉野 へぇ、そんな奴いるんだ。

佐藤 なんか、目をそらしてない?

吉野 そらしてないそらしてない。

佐藤 (疑いつつ)だから、もしかしたら吉野君は僕のことを、そう言う人間として、
    つまり自分を目立たせるための脇役として呼んだのかなぁって思って。もし、そうだとしたら……

吉野 そうだとしたら?

佐藤 ゆるさねえぞこんちくしょう!

吉野 い、いや、まった。待った佐藤。お前を呼んだのにはちゃんとした理由があるんだ。

佐藤 理由?

吉野 ああ。 あっちからの注文なんだよ。「優しくて、眼鏡が似合う男性で、力強い人」っていうのが

佐藤 おいおい、そんなに誉めるなよ。

吉野 ばっか。お前のどこが優しそうで、力強そうなんだよ。眼鏡なだけじゃないか。

佐藤 じゃあどう言うことだよ。

吉野 いや、だからさ。そんな「優しくて眼鏡で力強そう」なんて同期にはいないから、とりあえず、
    眼鏡と、力強そうなのをそれぞれ集めてみたわけよ。

佐藤 優しいってのは?

吉野 俺。優しいでしょ、俺。

佐藤 優しい人間ってのは、自分でそう言うこといわないと思うけど。

吉野 別に、帰ってもいいんだよ?

佐藤 うん。吉野君はやさしーと思う。

吉野 どう? これで疑いは晴れた?

佐藤 まあね。……もう一つ聞いてもいいかい?

吉野 なに?

佐藤 今日来る子って、かわいいの?

吉野 ………(無言で親指をぐっと突き立てる)

佐藤 まじでまじでまじで!

吉野 かわいいぞ。声は。

佐藤 ……………声?

吉野 ああ、なんていったって声優の専門通っている子達だから。苦労したんだ。コンタクト取るの。

佐藤 ……それって、顔はどうなわけ?

吉野 かわいいんじゃん? 声優だってアイドルなんだし。

佐藤 そうなのか……なんか、俺一瞬、眼鏡かけて、
    いつも教室の隅で小説読んでいるようなオタクが思い浮かんじゃったよ。

吉野 そんなわけないって

佐藤 だよなぁ

吉野 そうだよ、それじゃお前じゃんか

佐藤 だよなぁ……っておい!


     吉野と佐藤が無声演技になる
     と、そこへ花山が現れる。
     ラフ……というよりも、もはやハワイアン。
     二人を見つけると駆けてくる。


花山 悪い悪い。目覚まし時計が壊れていてさぁ。

吉野 お、花山。来たな。

花山 おうよ、吉野……と、なんだ佐藤もか。

佐藤 なんだとはなんだよ。

花山 別に(佐藤に)しかし、お前、よく休みなのにそんな格好できるな。

佐藤 いいだろう? 服装は個人の自由なんだから。君こそ、そんな派手な服を着て。
    いい大人がみっともない。

花山 おいおい。服装は個人の自由じゃなかったのか?

佐藤 僕はただ個人的な見解を述べただけさ。

花山 相変らずむかつく奴だな。吉野、なんでこんな奴まで呼んだんだよ。
    こんな気色悪いネクタイしめた野郎を。

吉野 まぁまぁ花山落ち着けよ

佐藤 気色悪いとは何だ気色悪いとは! 君の美的感覚で僕を測って欲しくはないね!

吉野 まぁまぁ佐藤も落ち着けよ

     花山と佐藤はにらみ合って後、顔を背ける
     間に挟まれた吉野は居心地悪そうにしている。
     しばらくのぎこちない沈黙の後、ふと、吉野が時計に目を向ける。


吉野 …………遅いな。

花山 悪かったよ。遅れて。

吉野 いや、お前じゃなくて女の子たちが、だよ。

花山 ああ、そうか。

佐藤 怪しい格好した男がいるからって、怖くて近寄れないんじゃないのかね。

花山 おかしなネクタイしめた眼鏡もいるしな

佐藤 だから君の美的感覚を僕に押しつけるなよ。

吉野 二人ともそんなにらみ合うなって。女の子が来たときに喧嘩していたら、
    二人とも白い目で見られるぞ。

佐藤 ………花山君。まぁ、仲良く行こうじゃないか。

花山 ……ま、まぁ仲良くするか。


     佐藤と花山ぎこちなく握手
     と、花山が手に力を込める


花山 この、合コンが、終わるまで、なぁ


     十分に握ってから花山は手を離した。


佐藤 まあ、それは僕も同じ気持ちさ


     手を痛そうにしながら、恨めしそうに佐藤は花山を睨む。


吉野 まったく、二人ともガキなんだから。

花山 ほっとけ。それより、今日来る女の子はかわいいんだろうな?

佐藤 そんなことしか頭にないのか、お前は。

花山 んだよ、おまえ気にならないってのか?

佐藤 僕はもう聞いたからね。

花山 おまえ、この……

吉野 ほら、花山落ち付けって。大丈夫。今日来る子はかわいい。めちゃくちゃかわいいから。

花山 ……本当?

吉野 気色悪い声だすなよ。……本当だよ。

花山 よーし、気合い出てきた。んで、一次会はどこでやるのよ?

吉野 とりあえず、食いかな。

佐藤 フランス料理かい? それとも、イタリアン?

吉野 アジアンキッチン!

花山 お前それけちりすぎじゃねえか?

佐藤 さすがに、それは女の子が納得しないでしょ。

吉野 いいんだよ。一応向こうには言ってある「海外の料理で、舌鼓打とうぜぇ」

花山 確かに海外ではあるが……

佐藤 それで、二次会はどうする?

吉野 そりゃあ、飲みに決まってるだろ。

花山 だよなぁ。居酒屋辺りでぱーっとやるか。

佐藤 いや、ここはしゃれたバーでも行くとかさぁ。

吉野&花山 どこにそんな金があるんだよ

佐藤 ……ごもっとも

吉野 まぁ、それからあと、お互いに気に入ったのなら、その後は、成り行きでね。

花山 よしよし。まぁまぁの計画じゃないか。

佐藤 しかし、どうしよう。

吉野 何が?

佐藤 女の子が、みんな僕の周りにばかり来たら。ぐふふ


     佐藤が自分の世界に入っているのを、
     吉野と花山は呆れた顔で見て。


花山 お前、女と会話できるのか?

佐藤 失礼だな君は! それくらい僕だってね! ……吉野君、どんな話しすればいいかなぁ?

吉野 俺に聞くなよ!

佐藤 だって、この中じゃ一応吉野君が一番女性経験が豊富じゃないか。

吉野 まぁ、そうだが。

花山 俺だって、お前よりは女とつき合った経験あるぜ。

佐藤 ああ、そりゃそうだろうさ! どうせ僕は女性経験ゼロのカスですよ!

花山 ……そこまで言い切られると、むしろ哀れだな

吉野 しょうがないなぁ。んじゃ、いっちょ伝授してやるよ。

佐藤 ほんとうかい!?

吉野 もちろんさ。名付けて、「吉野の合コンテクニック! 黄昏へん!」


     なぜか、3分間クッキングの音楽が流れ出す。


花山 黄昏って何だよ。

吉野 気分。

花山 了解。

佐藤 それで?

吉野 まぁまて、落ち着け。
    まずは今日来る女の子達がどういう会話のジャンルに飛び付き添うか考えるんだ。

佐藤&花山 ほうほう

吉野 ………なんで、お前まで聞いているんだ?

花山 そりゃ、俺だって失敗したくないからな。一応だ。

吉野 なるほど。……まぁ、いい。さぁ、今回の女性陣は声優の勉強をしている子達だ。
    いわば、アニメや吹き替え映画の申し子! とすると!

佐藤 とすると?

吉野 会話としては、アニメや映画の話しをすれば、食いついて来るんじゃないかと想像は、つく。

佐藤 なるほど。なるほど。なるほど〜。

花山 アニメねぇ……あんま見なかったからなぁ……

吉野 あ、ちなみに、映画は洋画のほうがヒットする可能性は高いと思うぞ。

佐藤 はっはっは。だったら、僕の天下ということだね!

吉野 いきなり元気になったなこいつ。

佐藤 残念だが、吉野君に花山君。今回の合コンはもらったよ。

花山 なにおう!?

佐藤 はっきり言って、僕はアニメオタクだ。

吉野 はっきり言いすぎだ。

佐藤 なんとでも言ってくれ。だが、アニメのことで僕は負ける気はしないね。

花山 それはどうかな。俺だって全くアニメを見なかったわけじゃないんだぜ。

吉野 お前ら、二人ともここが公共の道路だって分かっているだろうな?

佐藤 ならば、勝負するかい花山君!

花山 望むところだ。

吉野 望むなよ。

     吉野は言いながら他人のフリをしようと二人から離れようとするが。
     すぐに、佐藤に捕まる


佐藤 君もやるんだよ、吉野君。

吉野 俺もかよ!

花山 それで。勝負の方法は?

佐藤 どれだけ知識を持っているかはこれで決まる。名場面再現勝負!

吉野 馬鹿なことはやめろ!!


花山&佐藤 すた〜と!


     途端、周りの色が変わる。
     頭上から流れてくる音楽は「カリオストロの城」エンディング。
     佐藤は一度、舞台を離れると見せかけて戻ってくる。


佐藤(銭形) くそ〜。一足遅かったか。ルパンめまんまと盗みおって。


     吉野が振り返り、台詞を言うと見せかけて、
     花山が大げさな身振りで言葉を続ける。


花山(クラリス) いいえ、あの方はなにも盗らなかったわ。私のために戦ってくださったんです。

佐藤(銭形) いえ。ルパンの奴はとんでもないものを盗んでいきました。

花山(クラリス)………

佐藤(銭形) あなたの、心です

花山(クラリス) はい!


吉野 はい! じゃねぇえ! 気色悪いっつーの!


     音楽止まる
     佐藤は全く気にせずに。


佐藤 ほう、よくここを覚えていたな。

花山 ふっ。常識だ。

佐藤 では、次行くぞ!

吉野 いや、行かなくていいから行かなくて。

花山 望むところだ!

吉野 だから望むな!

佐藤&花山 すたーーーと!

吉野 まてぇええ!

     途端、周りの色が変わる。
     かかってくる音楽は「ドラゴンボールZ」


佐藤(ベジータ) もうこんな星などいらん! 消し去ってくれる!

花山(ゴクウ) させるか!

佐藤(ベジータ) なにぃ!? 俺のギャリック砲とそっくりだと!?


吉野 だっから、やめーーーーい!


    音消える。
    周りの雰囲気も元に戻る


花山 ああ、界王拳が……

吉野 知るか!! てか、お前ら根本的に間違っているだろう!

佐藤 根本的に?

吉野 いくらアニメだからってなぁ……

佐藤 そうか。やっぱり定番を忘れちゃいけなかったね。

吉野 ・・・・・はぁ?

花山 なるほど、そういうことか。

佐藤 だったら早く言ってくれればよかったのに。大丈夫。僕はどんなジャンルでもOKさ。

花山 俺だって。

吉野 ちょっとまて。何か勘違いしてないか?

佐藤 大丈夫。君が言いたかったのは、こういうことだろ?


     突如流れる音楽は「フランダースの犬」
     音楽と共に、佐藤と花山は手を組んで踊り出す


吉野 ちっがーーーう!

     再び音が消える。
     呆然とする佐藤と花山に、吉野は怒り顔を向けるが、もはやあきらめぎみ。


吉野 もういい。疲れた。勝手にやってろお前ら。

佐藤 そ、それはどういう意味だよ。

吉野 どういう意味もなにも、そのまんまだ・・・花山。いつまで踊ってるの?

花山 (はっと気づいて)ま、まぁちょっと調子に乗りすぎたかな。俺も。

吉野 乗りすぎだ。もう、合コン始まる前からテンション下がったじゃんか。

佐藤 なぜ下がるんだ!? 僕は、もう完全にテンションは上がりきってしまったよ!

吉野 ああ、お前はな

佐藤 ああ! この胸の中に宿った思いは何だ!? 今日こそ僕は変われそうな気がする。
    むしろもう変わった! 僕は新しい僕になったんだ! ごめん。君たち。
    今日の僕、完全に輝いている。

花山 ・・・・とうとうねじが飛んだか?

吉野 いきなり冷静になるなよお前も。まぁ、仕方ないさ。もう、あきらめたよ、俺は。

佐藤 なんだなんだ君たち。くらいなぁ。僕のようにさわやかになれないのかい? 
    まぁ、今日の合コンは僕の独り舞台だと思っていてくれたまえ。 
    今日こそ僕はいい出会いが出来るような気がする! 



     佐藤が話している途中、舞台には松浦が現れる。
     下を向いたまま歩いてくる松浦は、佐藤にはまだ気づいていない。
     佐藤は松浦に背を向けている。


佐藤 そして、出会った瞬間運命を感じたら、僕は言う!(気取ったポーズになって)
    僕と一緒に恋に落ちよう。生まれる前から好きでした!


     台詞と共に振り返った佐藤の目の前には松浦。
     思わず、吉野と花山も言葉を失う。


     間


佐藤 あ、あの、これは、その・・・


     松浦はにっこりと微笑む


松浦 ・・・・・・しぃ

佐藤 え?

松浦 うれしい♪ そんなこと言われたの初めて〜。感激しちゃった。ありがとう……

佐藤 いやぁ。お礼を言われるほどじゃないですよ。

松浦 あの、お名前は?

佐藤 えっと、佐藤です。

松浦 わたし、松浦です。

佐藤 いい名字ですねぇ。なんだかアイドルの名字みたいで

松浦 あら、佐藤って名前も素敵じゃない? 覚えやすくて。


     二人、語りながらなぜか退場していってしまう。
     佐藤は、去り際ふたりにブイサインを送る。


花山 ・・・・いっちまったぞ・・・・

吉野 ・・・・ああ。

花山 ・・・・なんだったんだ?

吉野 ・・・・さぁ?

花山 ・・・・何が、起こったんだ? 奴に。

吉野 ・・・・わかるかよ・・・・

花山 ・・・・だよな・・・・


     呆然としている二人。
     と、そこへ澤木が登場。遅刻のためか走ってくる。


澤木 ごっめええん。遅れちゃった。待ったでしょ?

吉野 ・・・・ああ・・・

澤木 ? 吉野? どうしたの?

吉野 あ? ああ! なんだ。澤木か! 遅いじゃんかよ。なにやってたんだよ。

澤木 色々準備ってものがあるの。女には。

花山 吉野、知り合いか?

吉野 ああ? ああ、今日の合コンの女側企画者。澤木って言うんだ。もと、高校の同級生。

澤木 澤木で〜す。ああ、この人がれいの力強い人ね?

花山 ん? 俺のこと、もう話してあるのか?

吉野 ああ、そりゃ面子についてはそれなりにな。……んでも、澤木。
    お前のほうも他に二人連れてくるはずじゃなかったのかよ?

澤木 それがさぁ。一人の子が急に用事入っちゃってさ。実は遅れたのもそのせいなんだよね。

吉野 どういうこと?

澤木 だから、来るよう説得していたわけよ。でも無理だった。

花山 えっと、もう一人の方(かた)は?

澤木 もう一人? ああ、その子は駄目。絶対に無理ってことが分かっちゃったから。

吉野 絶対に……

花山 無理?

澤木 そう。可愛い子なんだけどねぇ。松浦ちゃん。

吉野 ああ、その子なら・・

澤木 あ、もうあったの? 可愛いでしょ? 

花山 可愛かったけど……

澤木 あれでニューハーフじゃなきゃさぁ。そりゃ偏見はよくないけどねぇ。

吉野&花山 ニューハーフ?

澤木 あれ? まだ話してなかった? もう! 合コン行く前にも、
    自分のことはきちんと話して健全なおつきあいしなよって散々言ったのに。
    ・・・・そういえば、松浦ちゃんは?

吉野 いや、もう、来た。

花山 (松浦の特徴を言う)だろ?

澤木 そうそう。松浦ちゃんに間違いないわ。 それで? なんでいないの?

吉野 ・・・・早く、しらせなきゃ。

花山 ああ。

澤木 ? 何が?

吉野 早く、佐藤に知らせに行くぞ!

花山 まだそう遠くじゃないはずだ。走ればいける!

吉野 よし! 行くぞ!

花山 おう!

澤木 ちょっと、待ちなさいよ。なによ? 全然話しが見えないじゃない!

吉野 邪魔するな! 同僚が不幸になるのを黙って見てられるか!

花山 男相手で童貞喪失なんて事になったら、悲惨すぎるだろ!

澤木 え? それって・・・え〜! た、大変じゃない!

吉野 だから探すんだよ! 手伝え!

澤木 わ、わかった。

花山 あ、吉野、「佐藤」なんて大声で呼ぶなよ。街にいる人間のうち、5人に一人は振り返るぞ。

吉野 分かってる!



    音楽が流れ出す中、真っ先に花山が駆け出す。
    と、ストップモーション
    吉野だけ抜け出て語り出す。


吉野 まったく、もてない男達の合コンって言うのは、いつの時代だって、大変なものだ。
    今回の合コンで僕は二つ、心に深く誓ったことがある。
    一つ、外見がいくら可愛いだろうと、注意はすること。
    そして、もう一つ。・・・男と寝た同僚がいたとしても、温かい目で見てやること、だ。


    ストップモーション解け、3人は走り出す。
    音楽が徐々に高まっていく。
    溶暗。