拾ってください


人物

ルル   ダンボールに捨てられていた少女
エミカ  妊娠中の女子高生(二ヶ月)。年上の彼(ユウタ)と交際中。今までに一度堕胎経験あり。
サトミ  近所の変態おばちゃん。てか、天使?



○エミカの家(夜)
 室内は暗い雰囲気に包まれている。部屋の中には何も見えない。
ただルルに背を向けてエミカが立っているのだけが確認できる。


音響 FI→OP
照明 CI(幕上げ)

エミカ 片手でお腹を抑えている
    もう片手は耳元に

ルル 「ねぇ、もう私を愛してくれないの?」

エミカ「・・・・」

ルル 「私、捨てられちゃうの?」

エミカ「・・・・」

ルル 「・・・・・だったら、だったら私の寝ているときにして」


エミカ ルルへと振り向く
    ルルの話を聞いていたように見えたその手には携帯が握られている
    エミカの目はルルを見ていない
    無声演技 電話の相手(彼)と話しをしている。


ルル  気にせずに話を続ける


ルル 「私、絶対に途中で起きないように眠るから。
     どうか、捨てるんだったら私が眠っているうちにして。
     ・・・・そうすれば、私、あなたを恨まずに、きっと違う誰かを思えるから」


ルル  無理に微笑む
エミカ 電話の内容に俯く

音響 高く
照明 FO


○道路(夕方)
  住宅街の道。一本道になっている道路では車一台が通るのでやってくらいの広さしかない。
  電信柱の横に、大きな段ボール箱が置いてあり、紙が張ってある。
  紙には「拾ってください」と書かれている。


サトミ 上手から登場
    ダンボールの異様さに、初めから気づいている。
    一回は無視して通り抜けようとするが、思い切った顔でダンボールへと近づいていく。
    心配そうに中の様子を覗き込む。

ルル  顔を除かせる。
    目が合った瞬間ニッコリ

サトミ 心配した自分が恥ずかしくなったのか
     下手へ走って逃げていく。(退場)

ルル  顔を引っ込める。

エミカ 下手から歩いてくる。
    おなかに両手を当てている。まるで庇うように
    溜息をつきながらゆっくりと道を歩いている。時計を見ては溜息。
    どうやらまだ帰りたいとは思っていないらしい。
    携帯を取り出す。
    彼氏へ電話をかけようとするが、思いとどまる。
    やがて、携帯をしまう。
    その目が、段ボール箱に注がれる


エミカ「・・・・捨て猫? にしては大きい段ボール箱・・・」


エミカ 箱を覗き込む。
ルル  箱の中から首をちょこんと出してエミカを見上げる

ルル  笑顔
エミカ 表情が固まる


エミカ「・・・・きゃああああ」

ルル 「わあぁああああ」


エミカ 本気で悲鳴をあげている
ルル  どこか楽しそうに大きな声を出す


ルル 「なんなの〜あなた」

エミカ「いや、こっちの台詞よ」

ルル 「え? じゃあどうぞ」

エミカ「どうぞって・・・『なんなの〜あなた』」

ルル 「・・・65点くらいかな」

エミカ「はあ」

ルル 「もう少し、声に驚きをつけつつ、体全体で表現してくれないと。ちょっと驚きが伝わらないよ」

エミカ「すいません」

ルル 「んじゃ、もう一回ね」


ルル 頭を引っ込める


エミカ「はい・・・・って、そうじゃないでしょ」

ルル 「もうー。やるんならさっさとしてよ〜」

エミカ「だから、そうじゃなくて」

ルル 「僧じゃないんなら、坊主かな?」

エミカ「・・・・・・・・・」

ルル 「突っ込みが遅い!」

エミカ「す、すいません」

ルル 「寒いネタ我慢してまわしてあげてるんだから、早く突っ込みいれてくれないと駄目でしょ」

エミカ「はぁ」

ルル 「まったく。んじゃ、そういうことで」

エミカ「え、ちょっとまってよ」

ルル 「なに?」

エミカ「だから、なんなの? あなたは。そんなところでなにしてるの?」

ルル 「・・・・あなた、日本語読めないの?」

エミカ「え?」

ルル 「Can you speak Japanese?」

エミカ「Yes, I am!」

ルル 「・・・英語の成績悪いでしょ」

エミカ「うっ。ナゼそれを」

ルル 「いるんだよねぇ。疑問詞の受け答えも出来ない人って」

エミカ「今の、間違ってた?」

ルル 「まぁ、世界の言語は英語だけじゃないから。気にするな」

エミカ「そんな、同情の目を向けないで〜」

ルル 「ほら、お茶でも飲んで。元気出せ」


ルル ペットボトルを差し出す。
   ラベルの書いてないペットボトルはどこか黄色い


エミカ「ありがとう・・・」


エミカ ペットボトルを飲もうとする


ルル 「あ、ごめん。そっち間違い。こっちこっち」


ルル 慌てた口調でダンボールから身体を乗り出しペットボトルを差し出す。


エミカ「え? じゃあこれは?」

ルル 「人の生理的問題に口を出すのはよくないわよ」

エミカ「はい?」

ルル 「しかたないでしょ。仮住まいの身でも、部屋を汚すわけにはいかないんだから」

エミカ「じゃあ、もしかしてこれって・・・尿?」

ルル 「(乙女チックに)体からの、小さなお便りよ」

エミカ「おんなじことでしょ! あっぶなぁ〜 もう少しで飲むところだった」


エミカ ペットボトルを放り投げる
ルル  慌てて取りに行く


ルル 「ちょっとぉ。放らないでよ! 壊れたらどうするのよ」

エミカ「放りたくもなるわよ! どおりで、なんか生暖かいと思った」

ルル 「できたてほやほやよ♪」

エミカ「笑顔で言うな! だからなんなのよ、あなたは」

ルル 「別に、飲んでも害はないと思うのにな」

エミカ「何でこんなところにいるの? そんなものまで用意しているって事は、住んでいるわけ?」

ルル 「尿健康法っていうのも、実際にあるわけだし」

エミカ「いつまでも、そんなもの抱いてないで、話を聞きなさいよ!」

ルル 「聞いているよ」

エミカ「じゃあ、答えなさいよ」

ルル 「言ったでしょ? あなた日本語読めないの?って」

エミカ「だからなに!? 読めるわよ、日本人だもの」

ルル 「え〜本当かなぁ。怪しい。だったら、ここになんて書いてあるか分かるはずでしょ?」

エミカ「・・・・『拾ってください』」

ルル 「ピンポーン! 正解。よく出来ました」

エミカ「って、余計わけ分からないわよ」

ルル 「あんた物分り悪いわねぇ〜」

エミカ「いや、だって、そんな」

ルル 「いーい? もしここに段ボール箱があったとして」

エミカ「あるけどね」

ルル 「そう。あったとして、その中に可愛い〜子犬ちゃんが入っていたとする。
     そうしたらあなたどうする?」

エミカ「私、犬駄目なのよね」

ルル 「・・・・・・じゃあ、可愛い〜子猫ちゃんだったら?」


エミカ 途端に子猫に話し掛けるように


エミカ「大丈夫でちゅか〜捨てられちゃったんでちゅか〜かわいちょうでちゅね〜」

ルル 「それ、変わりすぎ」

エミカ「だって猫よ。子猫なのよ。可愛いのよ。かわいそうじゃない!」

ルル 「う、うん。そうだね」

エミカ「それで? だからなんなの?」

ルル 「そう! もし、犬や猫が入っていたのなら、そういう反応が正しいってもんでしょ!」

エミカ「そうね」

ルル 「決して、犬や猫に『なんなの〜あなた』なんて聞かないでしょ」

エミカ「そりゃそうだけど」

ルル 「何で私に聞くのよ。失礼じゃない」

エミカ「ごめんなさい」

ルル 「よろしい。じゃ」

エミカ「・・・って、いやちょっと待ってよ」

ルル 「な〜に? まだ何かあるの?」

エミカ「いや、だから、なんなの? あなた」


ルル 怒り心頭


ルル 「あなた! ぜんっぜん、人の話! 聞いてない、でしょ!」

エミカ「いや、だって、犬、猫が一体何の関係があるの?」

ルル 「私は、捨てられたの。捨て人よ、す、て、び、と。捨て犬、捨て猫、捨て人。同じでしょ。
     拾う気無いんだったら、とっととどこかへ行ってくれる? 冷やかしはやめてよね!」


ルル  ダンボールに向かいかけて思いついた様子
エミカ 混乱している


ルル 「ひょっとして、あなた私を拾ってくれるの?」

エミカ「はぁ?」

ルル 「なんだ。だったらもっと早く言ってよ。私ね、優秀よ。可愛いし。人の話には素直だし。
     裁縫とくいだし。可愛いし」

エミカ「いや、ちょっとまって」

ルル 「料理も得意なの。三ヶ国語話せるし。可愛いし」

エミカ「いや、だから」

ルル 「大人しいし。優しいし。足速いし。可愛いし」

エミカ「だから」

ルル 「わがまま言わないし。ゴミの日ちゃんと覚えられるし。分別も出来るし。可愛いし」

エミカ「だ」

ルル 「遠慮深いし、冷蔵庫の管理もばっちりだし、洗濯物を綺麗に畳めるし、
    可愛いし、あと、それからそれから」

エミカ「だっから、まてーーーーーーーい」

ルル 「・・・・それから」

エミカ「まてーーーーーーい、喋るなーーーー。しゃ、しゃーーーーーーーー」


エミカ 猫のように威嚇する

ルル  何か言おうと口を開く

エミカ 威嚇

ルル  もう一度喋ろうとする

エミカ その身体を引っかこうとするまね

ルル  身を引く

エミカ 猫で吼える。興奮状態


エミカ「しゃあーーー。みゃーーーーーーーー。ふーーー、ふーーー、ふーーーー。しゃーーーー」


ルル  びびっている

エミカ しばらく興奮状態が続くが次第に落ち着いていく。


エミカ「・・・・・よし。黙ったわね」

ルル 「はい」

エミカ「とりあえず可愛いことを強調したいことはよーーく分かった」

ルル 「はい」

エミカ「今度は、こちらから話をしてもいいかしら?」

ルル 「はい」

エミカ「よかった。では、まず」


ルル  思わず唾を飲み込む

エミカ 急に弱気な顔になって


エミカ「わたしって、近所じゃ可憐で物分りのいい子で通っているのよ。
    本当は、こんないきなり大声出すようなキャラじゃないの。分かる?分かるよねぇ?
    こんなところ人に見られでもしたら、私のこれまで築き上げてきた、信頼や、実績がぱーーよ。
    ああーー。もう、穴があったら入りたい〜」

ルル 「穴は無いけど、ダンボールなら」

エミカ「あ、そうだった」


エミカ 思わずダンボールに入る


エミカ「ここって意外に、快適ねぇ・・・・・ってちがーう!」


エミカ ダンボールから飛び出す


エミカ「だから、何で人間のあなたが、ダンボールに入って『拾ってください』なんて箱に書いて、
    路上にいなきゃいけないのよ? 捨て人? なにそれ聞いたことないわ、はん! 
    大体誰に捨てられたって言うのよ? 
    どこかの金持ちエロ爺に囲われてたとでも言いたいわけ? ああん?」

ルル 「・・・・・今、そこの角を誰か通ったよ」

エミカ「ええ!」


エミカ ルルの指差す方へ思わずスマイル


ルル 「あなたの声聞いた瞬間、走って逃げちゃったけど」

エミカ「・・・・・・おわった」


エミカ その場に崩れ落ちる


ルル 「ねぇ〜」

エミカ「(放心状態)・・・・・なに?」

ルル 「あなた、名前は?」


エミカ 放心状態のまま


エミカ「笠木エミカ」

ルル 「エミカ、か。いい名前よね」

エミカ「いい名前よね・・・・」

ルル 「あたしの名前はルル。可愛いでしょ?」

エミカ「ルル」

ルル 「そう、ルル」

エミカ「(ドナドナをルで)ルルルルルルルルルール〜ルルルルルールールー・・・」

ルル 「もう、ばっちり覚えちゃったわね♪」

エミカ「ばっちり覚えちゃったわ・・・・」

ルル 「じゃあ、これからよろしくね」

エミカ「よろしくね」

ルル 「やったー。じゃあ、これからお世話になります」

エミカ「これからお世話になります・・・・って、なによいきなり!?」


エミカ 放心解ける


ルル 「え? 私を拾ってくれるんじゃないの?」

エミカ「だからなに? 拾うってどういうこと? てか、あなたなんなのよ!?」

ルル 「もう! さっきから何度と無く言っているでしょ? 私は、捨て人なの。
     んで、エミカが拾ってくれるのかどうか聞いたら、エミカがよろしくって言ったから、
     これからお世話になりますって言ったんでしょう!」

エミカ「その、捨て人って言うのが分からないのよ」

ルル 「何でよ。捨てられた人だから、捨て人でしょ」

エミカ「誰に捨てられたのよ」

ルル 「前の持ち主によ」

エミカ「持ち主って・・・・・両親って事?」

ルル 「馬鹿言わないでよ! 持ち主って言ったら、持ち主のことよ。親は関係ないでしょ?」

エミカ「・・・・あなた生まれは?」

ルル 「・・・さぁ? わからない」

エミカ「年はいくつ?」

ルル 「知らない」

エミカ「苗字は?」

ルル 「ない」

エミカ「ご両親はどこにいるの?」

ルル 「いない」

エミカ「・・・・・病院いこ、病院。あんたどこかおかしいのよ」

ルル 「なんでそうなるのよ」

エミカ「いや、それより警察の方がいいかな? 親は関係ないって言っているってことは、
    家出の可能性もあるわけだし」

ルル 「なんで、病院とか警察が出てくるの? 私何も悪いところなんて無いし、してないよ」

エミカ「あのね。あなたに言って理解できるかわからないけど。この日本で人が捨てられたり、
    拾われたりって言うことが日常的に起こるわけが無いの」

ルル 「だって、起こっているじゃん」

エミカ「だから・・・・・あーそいうか。これは夢なんだ、夢。あはは。夢か」


エミカ 目をつぶり頬を叩いて


エミカ「起きろ! 起きろ私!・・・・・・起きろ〜」

ルル 「・・・・・・起きた?」


エミカ 大きく頷く。
    目をあけて、ルルを見て。

ルル  笑顔


ルル 「おはよ〜」

エミカ「うわぁ! まだいる!」

ルル 「そんなこと言われたって、私は捨てられて、ここにいるの。これは、間違いの無い事実だし、
    現実なの」

エミカ「だから、そこがおかしいのよ。人間がそんな風に捨てられるわけ?」

ルル 「私だけじゃないわよ。私の友達もみんな捨てられてたもの」

エミカ「皆?・・・・・そうか」

ルル 「どうかした?」

エミカ「・・・・・もしかして、あなたがいた場所って・・・・・孤児院?」


緊迫した間


ルル 「・・・・なにそれ?」

エミカ「何で知らないのよ! 捨てられたことたちが預けられる場所よ」

ルル 「なんだ〜 やっぱり、そういう場所があるんじゃん。保健所みたいなものでしょ?」

エミカ「ちっがーう! てか、何で保健所知っていて孤児院知らないのよ」

ルル 「知らないもの知らないんだから仕方ないじゃん」


エミカ&ルル 無声演技の言い合い

サトミ 下手から登場
    片手に服を握り締めている。
    走ってきたらしく、息が上がっている。


サトミ「ちょーと、ハァハァ。まってぇ。ゼイゼイ」

エミカ「悪いけど、今取り込み中なの」

ルル 「人が拾われるかどうかの瀬戸際なんだから。黙ってて」

サトミ「え? あ、はい」

エミカ「だから、拾うとか捨てるって言うのはおかしいわよ」

ルル 「だって実際捨てられちゃっているんだからしょうがないでしょう〜」

サトミ「あの〜」

エミカ「誰に捨てられたのよ!」

ルル 「それはいえないわ」

サトミ「あの〜」

エミカ「どうせ、どこかの変態親父におもちゃにでもされて捨てられたんでしょ」

ルル 「ひどい。いい人でしたよ―だ」

サトミ「聞けよ」

エミカ「いい人が何で捨てるのよ」

ルル 「事情ってものがあったのよ。あなただって事情によっては捨てるでしょ」

エミカ「何の話よ」

サトミ「スト―――ップ!」


ルル&エミカ 思わずサトミを見る


サトミ「とりあえず、言い合いはストップして欲しいんだけど」

エミカ「誰よあんた」

サトミ「あたしは、その」

ルル 「エミカってばこわーい」

エミカ「・・・・何の用かしら? ウホホ」


ルル&サトミ 引く


エミカ「ごめん。わざとらしすぎたわ」


ルル&サトミ 頷く


ルル 「あなたは?」

サトミ「あなたたちの話にあたしも入れてもらおうと思って」

エミカ「どういうこと?」

サトミ「あたしも! そこの可愛い子を拾いたいから。勇気を出してやって来たのよ」

ルル 「可愛い?」

エミカ「拾うって・・・・あなたなに言っているのか分かっているの!?」

サトミ「あたりまえよぉ? 捨てられているかわいそうな人だから、拾いたいと思ったの。
    初めは驚いたけどね。なんせ、小汚い段ボール箱を除いたら、
    そこには可愛い女の子が座っていたんだから。あたしの心臓は一回口から飛び出した後に、
    空中で三回宙してから喉に飛び込んだ。こんな衝撃は初めてだったのよ。
    今までは、どんなに驚いても、二回宙が限度だったのに」

エミカ「・・・・はぁ」

ルル 「やっぱ、わたしって可愛いよね」

サトミ「可愛いわよ。だから、あたしはあなたを拾おうと思って。そのために、服まで用意したの!」


サトミ もっていた服を両手で広げる
    服はメイド服


サトミ「さらに、オプションつき」


サトミ ポケットからオプションを取り出す
     オプションは 猫耳


エミカ&ルル
   「うわぁ・・・」

サトミ「これを着て、この猫耳をつけたら、パーフェクトになるの。誰もあなたに勝てない」

エミカ「確かに誰も勝てないだろうけど・・・」

サトミ「可愛いわよ〜さいっこうに。(姿を想像して笑い出す)グフ。グフ。グフフフフフフ」

ルル 「あたし、ちょーっとそういう系は・・・」

サトミ「さあ、行きましょう。あたしたちの愛の巣へ」

ルル 「え、いや、だから」

サトミ「あ、そうだ。帰る途中に首輪も買っていきましょうね〜 きっと似合うわよ♪」

ルル 「首輪!?」

サトミ「蚤取り付きの首輪の必要性はないわよねぇ」

ルル 「あの、だから私やっぱり」

サトミ「ほら、行きましょう〜よ」

ルル 「だから〜」

エミカ「ちょっと待ってよ」

サトミ「なによ」

エミカ「嫌がっているじゃない。無理矢理連れて行くなんて誘拐よ」

サトミ「あらいやだ。心外ねぇ〜誘拐だなんて。ただ、拾っていくだけでしょ? いいじゃない。
    この子は捨てられていたんだし」

エミカ「だからって・・・・自分の変態的趣味のために利用するためだなんて」

サトミ「誰が変態よ! ただ、可愛い服を着せて、可愛くしたいだけじゃない。(ルル)ねぇ」

ルル 「え・・・」

サトミ「だいたい、拾ってくださいっていっているんだから拾ってあげるんでしょう? 
    可愛い服着せてあげて、育ててあげるんじゃない! 
    感謝されることはあっても、文句言われる筋合いはないわよ。かわいそうだからなんて、
    偽善だけで拾えるほうが変態よ。それなりの見返りが無くっちゃね」


ルル  俯く


エミカ「で、でも」

サトミ「だったら、あなたが拾って育てるとでも言うの? できるのかしらねぇ〜あなたに。
    まだ若いみたいだし〜。子供の一人育てたことも無いんでしょう?」

エミカ「・・・・・・・」


エミカ 知らずに自分のお腹を抑えている


サトミ「あら・・・あなたもしかして・・・・」


サトミ エミカのお腹を興味深そうにじっと見る
エミカ 視線をそらす


ルル 「私・・・拾われるんだね」

サトミ「そうよ〜 帰ったら、美味しいもの一杯作ってあげるから♪ あ、まずはこの服を着てからね♪」

ルル 「・・・・はい」

サトミ「あ、私のことは、サトミ様、もしくはご主人様と呼んでくれればいいから」

ルル 「・・・・はい」

サトミ「じゃあ、行きましょう♪」


サトミ 上機嫌で下手へ退場


ルル 「・・・・じゃあね」


ルル エミカへと背を向けるとサトミの跡を追おうとする
   ふと、思い出したように自分の段ボール箱を取りに行く


エミカ「・・・・・いいの?」

ルル 「なにが?」

エミカ「あの人で、いいの?」


ルル  エミカに背を向けて


ルル 「だって。私には選ぶことなんて出来ないから」


ルル  下手へ退場
エミカ お腹へと手を当てる
    ルルの言葉の意味を考えながら携帯を取り出す。
    弱くはあるが、小さな決心を持った顔で頷く。
    彼氏へと電話をかける


音響 CI→呼び出し音&携帯の通話ボタンを押した音


エミカ「あ、ユウタ? あたし」


照明 FO(暗転)

大道具配置(ダンボール) 舞台中央へ

照明 下手サス

 ルルがサス中に飛び込んでくる

ルル 「ごめんなさい。でも、私、やっぱり恥ずかしくて・・・・・わかってる。
     私のためにしてくれることだって。でも、やっぱり・・・・・ごめんなさい!」

照明 上手サス

 いまだエミカは彼氏と通話中。エミカの顔色がよくない。

エミカ 携帯に向かって話している。
    空いている手は無意識にか、お腹へと時々触れる


エミカ「・・・うん。やっぱり、そうだって・・・・うん。また、だね。でも今度は早く分かったから。
    前よりも、難しい手術にはならないって・・・・・お金? うん。そんな掛からないと思う」

ルル 「・・・だから私、恥ずかしくて」

エミカ「どう、すればいいの?・・・え?・・・・うん、そういう話だったよね」

ルル 「確かに、やるって言ったよ。でも」

エミカ「でもね・・・・・・・今日、帰りの道でさ」

ルル 「でも、だって・・・」

エミカ「え・・・・・話と違うって・・・・でも、ユウタだって好きだって言っていたでしょ? 
    2人で育てて・・・・・確かに、私子供だけど、でも」

ルル 「・・・でも、そんな・・・・」

エミカ「できないよ、そんなこと・・・・」

ルル 「無理! だって・・・・だって・・・・」

エミカ「だって・・・かわいそうだよ」

ルル 「・・・・出来なかったら、どうするの?」

エミカ「いいよね? 私、その・・・・・・・やっぱりだめだよね・・・」


エミカ 俯く
ルル  俯く


エミカ 恐る恐る


エミカ「もし、さ。もしだよ」

ルル 「もし、さ」

エミカ「もしね、もしだけど」

ルル 「もしもって、ことなんだけど」

エミカ「本当はありえっこないことだから」

ルル 「そんな、まじになってほしいことじゃないんだけど」

エミカ「もし、ね」

ルル 「もしも、さ」

エミカ「もしも・・・・」

ルル 「私が言うことできなかったらどうする?」

エミカ「言うとおり、しなかったらどうする?」

ルル 「私が出来なかったそのときは」

エミカ「私を」

ルル 「また・・・」

エミカ「私・・・・」

ルル 「また・・・・」


エミカ 恐くて言葉が出なくなる


ルル 「捨てられるの?」


エミカ 携帯から答えがこぼれたらしい
     前を見たまま固まる


ルル  愕然と前を見る


照明 暗転
音響 FI→雨

ルル  ダンボールの中に入っておく
エミカ 上手へ退場

照明 FI→薄暗い道(昼)

エミカ 上手より登場
    傘を持ったまま俯いて歩いている。片手がお腹を庇っている
    途中、ダンボールに気がつき、驚きで歩が止まる
    無視して下手へと歩いていく
    しかし、無視することは出来ずにダンボールへと近づく
    傘を差し出す


エミカ「・・・濡れるわよ」


ルル  ゆっくりダンボールから顔を出す。
    なんでもないように笑みを浮かべる。

音響 FO


ルル 「なんだ。せっかくシャワーを浴びてたのに」

エミカ「・・・・何で、こんなところにいるの?」

ルル 「なんでって、このダンボールの前に書いてある言葉、読めないの〜?」

エミカ「・・・・『拾ってください』」

ルル 「そう。だからね〜私は」

エミカ「捨て人」

ルル 「そう。分かっているじゃない。なに? あなた、拾ってくれるの?」

エミカ「また、捨てられたのね?」

ルル 「そうなんだよねぇ〜。もう、まいっちゃう。ははは」

エミカ「・・・・」

ルル 「でもねぇ、拾ってくれた人も悪いのよ。私はしたくないって言っているのに、
     変な服着せようとしたりさ。つけたくないって言っているのに、首輪つけようとしたりさ。
     そんな風に食べたくないって言っているのに、
     犬猫みたいに皿にご飯もって食べさせようとするしさ〜。
     やっぱ人間は手でご飯食べれないとねぇ。はいつくばってなんて、食えやしないっての。
     だっからさぁ。嫌だ嫌だって駄々こねたわけよ。私」

エミカ「それで、捨てられたの?」

ルル 「そう。しっかも、嫌みったらしくこんな雨の中に」


ルル くしゃみ


エミカ「風邪、引くんじゃない?」

ルル 「さあ。でも大丈夫。私、丈夫だから」

エミカ「くしゃみ、したわよ」

ルル 「誰かが私のことうわさしているのかなぁ〜なんてね」

エミカ「・・・・・・傘、使って」


エミカ 傘をルルに渡して背を向ける


ルル 「あ、ありがと〜。さすがに厳しいかなとか思ってたんだよねぇ〜」

エミカ「・・・・・・なんでよ」

ルル 「え? なんでって、ほら。やっぱり濡れたくないしさ〜」

エミカ「違う!」

ルル 「え?」

エミカ「なんで・・・・笑ってられるの?」

ルル 「・・・・なんのこと?」

エミカ「捨てられて、拾われて、また捨てられて。そうやって、何度も、何度も・・・・・・
     なのに、何で笑っていられるのよ」

ルル 「何でって・・・・・・笑う以外に何ができるの?」

エミカ「・・・・」

ルル 「私は、捨てられた。泣いたって、叫んだって、それが変わるわけじゃないもの」

エミカ「でも、捨てられないようにはしなかったの?」

ルル 「努力したよ、私だって。相手に合わせるように頑張って。相手の話に笑って、泣いて、怒って。
     ・・・・本当の自分、どこにいるんだろうってくらい頑張ったよ」

エミカ「・・・・」

ルル 「でも、駄目だった。捨てられちゃった」

エミカ「・・・・」

ルル 「捨てられちゃったら、もう終わりだもん。それでその人とはジ・エンド。
     追っかけても、戻ってこない」

エミカ「・・・・」

ルル 「だったら、笑って夢を見たほうがいいじゃない」

エミカ「・・・・捨てられて、夢なんか見れないわよ」

ルル 「見れるよ」

エミカ「・・・・」

ルル 「私ね。いつも、次に拾ってくれる人のことを夢に見るの」

エミカ「次に?」

ルル 「そう。次に私を拾ってくれる人はどんな人だろうって。優しかったらいいなぁとか。
    背が高かったらいいなぁとか。顔が、剛君みたいだったらいいなぁとか」

エミカ「堂本剛?」

ルル 「ううん。草薙剛」

エミカ「・・・・・なんか、どっちにしろ微妙ね」

ルル 「いいでしょ。なんか、人畜無害って感じで」

エミカ「なるほど」

ルル 「そうやって、次に会える人のこと考えていれば、全然辛くないよ。
     捨てられたって、へっちゃらーの、ら」

エミカ「気楽ね」

ルル 「そんなことないよ。いつも、星に祈っているんだから。早くかっこいい人が現れますように! 
     ていうか、剛君早く来い。私はまだ純な少女だぞ〜。まだ、経験ゼロだぞ〜。
     すべての初めてをあなたのためにとっているのよ〜」

エミカ「・・・・・・私は、恐い」

ルル 「剛君が!?」

エミカ「ちがうわよ!」

ルル 「・・・捨てられるのが?」

エミカ「・・・・・・」

ルル 「なんで?」

エミカ「だって・・・・・一人は嫌」

ルル 「エミカって一人だったの? え〜友達のいない孤独少女?」

エミカ「そりゃ、友達だっているけど・・・・でも」

ルル 「でも?」

エミカ「・・・・私、愛されたい」

ルル 「・・・・・」

エミカ「友達は友達でしょ? たぶん愛されているのと違う」

ルル 「愛なんて、分からないじゃん」

エミカ「そうだけど。でも、今は」

ルル 「愛されているの?」

エミカ「分からないけど、でも」

ルル 「・・・だからセックスするの?」

エミカ「・・・・・」

ルル 「相手に体差し出して。相手の自由にさせて。捨てられないように体をささげるの?」

エミカ「そういう言い方、ないでしょ」

ルル 「あ、ごめん。怒るよね。そりゃ。・・・・でも、本当のことでしょ?」

エミカ「別に、捨てられたくないからって理由だけでしてるんじゃ・・・・」

ルル 「大して変わらないでしょ」

エミカ「・・・・・・」

ルル 「でも、そうやって出来てしまったものは、捨てちゃうんだよね?」

エミカ「え・・・・」

ルル 「捨てちゃうんでしょ? 捨てられないように、捨てるんだ」

エミカ「何のこと?」


エミカ 言いながらもお腹を庇っている


ルル 「見たよ、この間。エミカが病院から出てくるとこ」

エミカ「・・・・・・」

ルル 「そのすぐ後に、お腹の大きい人が何人も出たり入ったりしてた」

エミカ「見て、たの」

ルル 「同じ通りだからね。そんなに離れてないし。・・・・今日も、行くところだったんでしょう?」

エミカ「・・・・」

ルル 「お腹の子を、捨てるために」

エミカ「違うわよ。今日はただ、書類を取りに行くだけ」

ルル 「そうだよね。本当なら、父親のサインが必要だもんね」

エミカ「・・・・」

ルル 「でも、結局遅かれ早かれ、捨てるんだ」

エミカ「・・・・」

ルル 「分かっているの? 今捨てても、その子は誰も拾ってくれないんだよ? 
     夢だって、見れないんだよ?」

エミカ「今なら大丈夫よ。痛みだって、苦しみだって、感じないはずだから」

ルル 「そんなこと、何で分かるのよ」

エミカ「だって、仕方ないじゃない!」

ルル 「・・・・」

エミカ「私、捨てられたくない。仕方ないでしょう? 捨てられたくないんだから。もっと愛されたいの。
    愛してもらって、私も愛していたいの。この子がいたら、それは無理なのよ。
    私が捨てられないためには、この子を、この子を捨てるしかないの」

ルル 「でも、それは愛なの?」

エミカ「・・・・」

ルル 「そんなにまでしなきゃ愛してもらえないのは、本当に愛なの?」

エミカ「・・・分からないわよ」

ルル 「それでも、捨てるんだ?」

エミカ「だって、それしか出来ないじゃない。それしか方法が無いでしょ?」

ルル 「そんなの、わがままだよ」

エミカ「そうよ!」

ルル 「自分勝手」

エミカ「分かっているわよ」

ルル 「自分が愛されるのなら、それでいいの?」

エミカ「当たり前じゃない!」

ルル 「その子も、愛されたいのかもしれないのに?」

エミカ「!」

ルル 「今は生まれてないだけで、その子も、愛されたいのかもしれないのに? 
     どんなに愛されたくても、その子には捨てるものなんて無くて、
     あなたからもらうばかりだというのに?」

エミカ「だって、私・・・・」

ルル 「エミカを愛してくれるのは一人じゃないけど。でも、その子を今、愛してやれるのは、
    エミカだけなんだよ?」

エミカ「私・・・・」

ルル 「そうやって、何度捨てることを繰り返すの?」

エミカ「私・・・私・・・・・」

ルル 「仕方ないって言葉で、何度、冷たいヘラで掻き出させるの? 
     宿ったばかりの魂を、ただの小さな塊にして。そうやって愛されるのは、幸せなの?」

エミカ「・・・・私・・・・・私・・・・・・」


エミカ 崩れ落ちる


エミカ「・・・・ごめんなさい」


エミカ お腹の子供に謝る





エミカ「・・・・分かってた。ずっと。悪いことだって」

ルル 「うん」

エミカ「でも、それしかないって。仕方ないって」

ルル 「そうだよね」

エミカ「だって、私、捨てられたくなくて・・・・だから・・・・・」

ルル 「・・・・・・濡れすぎると、その子の身体に悪いよ」


ルル  傘を差し出す
エミカ 傘を受け取る


ルル 「・・・・大変かもしれないけど。辛いかもしれないけど。でも、エミカを愛してくれる人はいるよ」

エミカ「え?」

ルル 「だって、生まれてくるはずのその子だけは、絶対にエミカを愛してくれるはずでしょう?」

エミカ「・・・・・・」

ルル 「エミカを捨てたりはしないでしょう? エミカが愛せば、応えてくれるでしょう?」

エミカ「私の・・・・子供が?」

ルル 「そして、そんなエミカを愛してくれる人、きっと現れるよ」

エミカ「・・・・そんなこと、わからない」

ルル 「そうだね。でも、可能性はゼロなんかじゃない。すくなくても、今の状況よりはよっぽどいい」

エミカ「子供なんて・・・・私、私も子供なのに・・・・」

ルル 「そんなの、命を捨てる理由にならないよ」

エミカ「・・・・・・そうだね」

ルル 「お願いだからさ・・・・・今度は、捨てたりしないでよ。・・・・・・・お母さん」

エミカ「え?」


エミカ 顔をあげる
    しかしルルの姿はエミカには見えない


エミカ「ルル?・・・・・いない?・・・・そんな・・・・」


ルル  ダンボールによって片付け始める

サトミ 上手より登場
    天使コスチューム

ルル  サトミに気づく

エミカ サトミが見えない
     ダンボールを探す

サトミ ダンボールを隠してしまう

 ダンボールが無くなった後には花が咲いている

サトミ 花の前に立って観客には花が見えないようにしている

エミカ ダンボールもなくなってしまい、
    なにがなんだか分からなくなる

エミカ「ルル? 夢? うそ・・・・そんなこと・・・・」

サトミ「気はすんだの?」

ルル 「サトミさん」

サトミ「サトミ様でしょ。一応、天使なんだし」

ルル 「そのくせに、かなり変態なおばちゃんだったけどね」

サトミ「だれがおばちゃんよ。あれは、あなたがさっさと話を進めないからでしょ?」

ルル 「だって。恥ずかしかったんだもん」

サトミ「あなたが、前に死んだ赤ちゃんだなんて分かるわけ無いじゃない。
    魂の状態でいったら、あの子と同じくらいなのに」

ルル 「でも、もしかしたら親になっていたかもだったわけじゃん」

サトミ「まったく。本当、私見捨てるとこだったわよ。神様の気まぐれにも困ったものよね」

ルル 「大変だった?」

サトミ「まぁ、久しぶりに人間になれたし。たまには人助けも面白いわよね」

ルル 「化粧濃かったけどね〜」

サトミ「うるさいわね。上手くいったの?」


ルル エミカを見て


ルル 「・・・・うん、ありがと」

サトミ「そう、よかったわね」

ルル 「うん」

サトミ「・・・・輪廻は順番制だから、残念だけど、あなたはあの子の子供には・・・」

ルル 「分かってる。もうエミカの赤ちゃんは決まっているもん」

サトミ「そう・・・・じゃあ、帰りましょうか」

ルル 「うん・・・・あ、もうちょっとだけ」


ルル&サトミ エミカを見る


エミカ 探しつかれて途方にくれたまま


エミカ「ルル・・・・・どこに行っちゃったの?」


音響CI→携帯音


エミカ「ユウタ・・・」


エミカ 一瞬ユウタからの着信にびくりとする。
    しかし、覚悟を決める。

音響CI→携帯をとった音


エミカ「もしもし・・・・・ユウタ? うん。今病院の近く。・・・・まだ行ってないよ」


ルル (無声演技)必死に応援している。『頑張れ、頑張れ』


エミカ「私ね・・・・病院行くよ・・・・・・・・けど、でも、おろすために行くんじゃないから」


ルル 大喜び。
   サトミと共に喜んでいる


エミカ「うん。私、生む。・・・・・いいよ、ユウタは。別に私のことは気にしてくれなくって。
    私、一人でなんとかやってみるから」


サトミ 帰ろうとルルの袖を引っ張る
ルル  まだエミカを見ている


エミカ「だって、捨てられないよ。私、この子のこと・・・大事だから」


エミカ ユウタが何か叫んだらしく顔をしかめる

音響CI→切る音

エミカ 携帯をしばらく見ている
    気を取り直してポケットにしまう

ルル&サトミ 無声演技しながら上手へ退場

エミカ 一つ伸びをしてからもう一度ルルがいた場所を見る
    花に気がつき、近寄る
    傘を花に立てかける
    少し足早に下手へ走っていく

照明 雨だったはずの空に晴れ間が見える
   太陽は、傘を立てかけられた花を照らしている

音響FI→ED

照明 溶暗