ヒトリボッチ



登場人物
オオノ 本編の主人公。小説家らしいが最近スランプ気味。
スギタ 敏腕編集員。オオノとは友人だと思っている。
ヨシダ 小説の中の登場人物。(突っ走り暴走三枚目キャラ)
サトウ 小説の中の登場人物。(格好つけヒール。二枚目キャラ)
ミサワ 小説の中の登場人物。(消極的変身願望少女。貧乏人キャラ)
クボタ 小説の中の登場人物。(ヒロイン系クール。美人キャラ)
コンノ 小説の中の登場人物。(オオノの根元。自己否定キャラ)
ヤグチ 小説の中の登場人物。(暴走ボケリーダータイプ。熱血キャラ)
ウスダ 小説の中の登場人物。(冷徹クール年上女性。冷たいボスキャラ)
デデデ 小説の中の登場人物。(年上男性キャラ。)
←そのまんま先生にやらせるのが望ましい。
声   アナウンサーTO―TO。←兼照明




0始まりはシリアスで

    舞台中央に椅子。
    客電がついているうちに、オオノがやってくる。そして椅子に座る。
    手に持っている原稿用紙をじっくりと見ている。
    ふと、何かを捜すかのように周りに視線を運ぶ。
    アイデアが浮かぶかどうか悩んでいるのだろう。
    そのうち諦めたその額がゆっくりと下を向く。

    客電が落ちる。
    すさまじい音量で音楽が流れる。
    静かに現れた八人(ヨシダ、サトウ、ミサワ、クボタ、コンノ、ヤグチ、ウスダ、デデデ)の姿。
    オオノを取り囲む。

    それぞれの手には懐中電灯を握っている。

    八人が一斉に懐中電灯をつける。
    それぞれがさりげなく自分を照らす。


ヨシダ「道を歩いていた」

サトウ「何があるのかも分からずに」

ミサワ「がむしゃらに」

クボタ「まっすぐに」

コンノ「他人に決められた道は嫌だから」

ヤグチ「自分の道をただ歩いていた」

ウスダ「これしかないと思っていた」

デデデ「この道しかないと」

八人 「だけど、どこまで進んでも道は真っ暗だった」


    ライトが一斉に当たりをてんでバラバラに照らし出す。
    それはまるで心の闇を光が照らそうとして、なお闇しか見えないかのよう。


八人 「その道の果てで何を見つけたんだろう? 何を得たのだろう? 何を失ったのだろう?
     ……まだ、先は真っ暗。真っ暗だ」


    八人が一斉に懐中電灯の明かりをオオノに向ける。
    そして、オオノが話し出すと明かりを当てたまま、ゆっくりと八人は舞台を去る。


1小説を読む小説家



オオノ「悪の組織はもうそこまで迫っていた。耳元をかするような弾丸の音。
     捕まれば死は免れない。死にたくない。死ぬのは嫌だ。
     そんな焦りの中、ヤグチとウスダは走っていた」


    照明がつくと、緊迫した音楽と銃声の中、ウスダとヤグチがその場で走っている。
    二人はオオノがいることを無視して(オオノも二人を無視して)物語は進む。


ヤグチ「だから止めようって言ったんだ! ヤクザの事務所に潜入捜査なんて」

ウスダ「計画通りよ」

ヤグチ「どこが計画通りだ! あいつら銃持っているじゃんか!」

ウスダ「問題ないわ」


    ウスダはいつの間にかスキップしていたり。
    ヤグチは未だ必死に走っているが、何故かウスダに遅れ出す。


ヤグチ「なにが問題ないわだ! って早っ……負けるかぁ〜」


    ヤグチはさらに必死に走り出す。
    と、オオノが書いている途中で銃声を入れたくなったのか、


オオノ「バキュウーン」


    途端、ヤグチが吹っ飛ぶ。
    肩を押さえるヤグチにウスダが近寄る。


ウスダ「大丈夫?」

ヤグチ「いや、肩を撃たれたらしい。俺はもうダメだ。お前だけでも先に逃げてくれ」

ウスダ「あなたを置いて逃げられる分けないでしょう?」


    ウスダは言いながら自分の首に巻いていたマフラーを、ヤグチの首に回す。


ヤグチ「ウスダ……(マフラーに気づいて)って、これはなにかな?」

ウスダ「アジトの場所をばらされちゃ困るからね」


    ウスダが後ろからヤグチの首を絞める。


ヤグチ「まてまて、マジに首しまってるって」

ウスダ「お前みたいな奴は死んでしまえ〜」

ヤグチ「死ぬ、死ぬ、死ぬ〜」

オオノ「駄目駄目駄目〜! 全然っ駄目!」


    オオノの叫びとともに、2人の動きが止まる。


ウスダ「え〜。だめぇ?」

ヤグチ「また、没かよ」

オオノ「駄目に決まっているわ。何? このストーリー展開。
     なんで、組織に追われている男女2人が首締めなんかしなくちゃならないのよ。
     誰よ、こんなの書いたのは!」


ウスダ&ヤグチ「あんただよ」


オオノ「(聞いちゃいない)そうよ。あたしだよ。あたしの馬鹿馬鹿馬鹿! この馬鹿野郎!」

ウスダ「まぁ、失敗は誰にでもあることだから」

ヤグチ「書き直せばすむことじゃんか」

オオノ「(聞いちゃいない)もう締め切りは直ぐそこだって言うのに、何でこんなにまとまらないの? 
     ああ、あたし、スランプなんだぁああ」


    オオノがその場に崩れ落ちる。
    ヤグチとウスダが元気つけようとするが、どうやら聞こえてないようで。


オオノ「だいたい、こんなハードボイルド書こうとしていたのが間違っていたのよ。
     そう! それよそれ!」

ウスダ&ヤグチ「どれ?」

オオノ「ハードボイルドなんて止め止め! やっぱり、私にはこんな話、無理だったのよ! 
    てわけで、こんな主人公は消去!」

ヤグチ「うっそぉ。今更、俺消えるのかよ」

ウスダ「ご愁傷様〜」

オオノ「てことは、ヒロインも当然消えるのよね」

ウスダ「えぇえ!? あたしも!?」

ヤグチ「当然だろうが、馬鹿」

ウスダ「馬鹿馬鹿言ってんじゃねえよ」

オオノ「書き直しか〜。いたいなぁ……」


    オオノがぶつくさ言っている
    ヤグチとウスダが無声演技で言い合い。

    と、いつのまにやらスギタが舞台に現れていた。


2 そして編集員登場



スギタ「オオノさん」

オオノ「スギタ!?」


    このスギタの登場により、ヤグチとウスダは舞台奥に追いやられる。
    追いやられた2人は、喧嘩の途中だったため、上手と下手にそっぽを向く。


スギタ「なにを一人でぶつくさ言ってらっしゃったんですか?」

オオノ「なんでもないのよ。ちょっとね」

スギタ「オオノさん」

オオノ「はい」

スギタ「前から言っていますけど、これは仕事ですから」
オオノ「……敬語を使えですね。失礼しました。スギタさん」

スギタ「それで? どうしたんです?」

オオノ「本当、なんでもないです。ちょっと、新作の構想を」

スギタ「と言うことは出来たんですね? 新作」

オオノ「と、とんでもないです。まだ、アイデアくらいしか」

スギタ「(溜息)オオノさん」

オオノ「はい」

スギタ「ここへまず座って下さい」

オオノ「はい」


    オオノが自分が座っていた椅子に座ろうとすると、素早くスギタが座ってしまう。


スギタ「お前は床に決まっているだろう?」

オオノ「すいません」

スギタ「オオノさん。『締め切り』って分かりますよね?」

オオノ「はい」

スギタ「破るとどうなるか分かりますか?」

オオノ「本が出ません」

スギタ「出ないとどうなりますか?」

オオノ「お金が入りません」

スギタ「お前のことはどうでもいい」

オオノ「……スギタ……さんが困ります」

スギタ「そうです。私、困ってしまうんです。
    上司にいびられるし、印刷所には頭下げなきゃいけないし」


オオノ&スギタ「だからとっとと書きやがれ」

スギタ「……わかっているなら、早く原稿下さい」

オオノ「頭では分かっているんですけど……」

スギタ「分かっているけどなんですか?」

オオノ「……分からないんです最近」

スギタ「……」


    オオノの言葉に、思わずヤグチとウスダは顔を見合わせる。
    二人してオオノの会話に注目。



オオノ「自分がいったい何のために、なにを書けばいいのか……なにを書きたいのか……」



    オオノの言葉に、ヤグチはウスダに近寄る。二人して何かを相談している。



スギタ「(椅子から立ち上がって)オオノさん」

オオノ「……はい」

スギタ「あなたにシリアスは似合いません」

オオノ「えぇえ〜切り捨てないでよ〜スギタ〜」

スギタ「だから、これは仕事だって言っているでしょ?」

オオノ「堅いこと言わないでよ〜。本当、困っているんだから〜」

スギタ「あんたこの前もそう言って、小説の資料に使うからって
     あたしにコスプレショップを取材させたでしょ!
     あのネタ使ったの?」

オオノ「使……ったよ」

スギタ「使ってないでしょ!」

オオノ「さわりだけ」

スギタ「ほらヤッパリ。今回だって、あんたがハードボイルド書くからって、
     『あたしゴルゴ13』全巻読んだのよ! 何巻あると思っているの!? 
     131巻もあったのよ! 3日間夜は漫画喫茶で、一日に約43巻も読んだんだからね!
     あんたあのネタは使ったの?」

オオノ「使……ったよ」

スギタ「使ってないでしょ!」

オオノ「没になりそうだけど」

スギタ「ほらやっぱり。じゃあ今回、小説の中で使うって言っていたkiroro。使わないんだ?」


    スギタは言いながらkiroroのアルバムを取り出す。


オオノ「え!? 使う! 使うよ〜」


    オオノはしばらくスギタからCDを受け取ろうともがくが、うまく取れない。


スギタ「仕方ないわねぇ」


    スギタがオオノにCDを渡す。
    オオノは早速中身を見る。


オオノ「ビート……バン?」

スギタ「バカね。それはベートーベンって読むのよ。マイ フェイバリット ミュージックよ♪」

オオノ「へぇ……っで、kiroroは?」

スギタ「だってあんた、歌をネタに使うだけでしょ? だったら歌詞カードあれば十分じゃない」

オオノ「そんなぁ。聞きたいよ〜。Kiroro」

スギタ「聞きたきゃ自分で買いな」

オオノ「なんで〜頼れるのはスギタしかいないんだよ〜」

スギタ「そうか。あんた友だちいないもんね〜」

オオノ「友だちくらいいるよ」

スギタ「誰がいるのよ」

オオノ「……スギタでしょ。スギタでしょ。スギタ」

スギタ「それ全部あたしじゃない!」

オオノ「……鈴木でしょ、ジュン、ピエール、リッキー、トロ」

スギタ「それ『どこでもいっしょ』じゃない! あんたまだやっていたの!?」

オオノ「可愛いんだよ〜 『ゆうたん』って呼んでくれるし」

スギタ「きしょ!」

オオノ「いいもん! あたしにはスギタがいるもん!」

スギタ「だから、そうやって人を頼らない。あんたは作家で、あたしはあんたの担当なんだからね?」

オオノ「そんなこと言わずにさぁ〜。友達でしょ〜?」

スギタ「そうだったんだ?」

オオノ「……ごめんなさい」

スギタ「(溜息)とにかく原稿、あげてくださいね」

オオノ「はい」

スギタ「今日はこれで失礼します……そうそうオオノ」

オオノ「(期待して)なに!」

スギタ「ドラえもん全巻の中で、ドラえもん、のび太に続いて登場回数が多いのはスネオらしいわよ」

オオノ「はい?」

スギタ「無駄知識よ。小説のネタにでも使って」


    スギタが去る。
    奥の方で、ヤグチとウスダが「へー」とかやっている。
    オオノはスギタを見送ると、思わず椅子に座り込む。


オオノ「スネオなんだ……なにに使えっていうのよ。はぁ。まいった……書けるわけないよ。
    今の状況で……ほんとう、なに書いたらいいんだろう? 
    ……なにを書きたいんだろう、あたし」


    ヤグチとウスダはオオノの様子に頷きあうと、二人してオオノに近寄る。


3 現れた物語のキャラクター(ずっといたけど)



ウスダ「仕方ないわねぇ」

ヤグチ「俺たちが、手伝ってやるよ」

オオノ「な、なんですかあなた達は!? どっから!?」

ウスダ「どっからって……」

ヤグチ「さっきからいたんだけど……」

オオノ「いたってどこに!?」

ウスダ「だからぁ。……あー。説明めんどい。ヤグチ、任せた」

ヤグチ「だからお前はいつも……つまり、俺らは……その、君のそばにいつもいたんだYO
    ……分かれよ〜」

オオノ「はぁ?」

ウスダ「馬鹿。そんな説明で分かる分けないだろ?」

ヤグチ「何だよ! じゃあお前やってみろよ!」

ウスダ「しょうがない奴だな……オオノ、あんた私たち見て何か気づかないの?」

オオノ「あなたたちを見て?」

ウスダ「どこかで見たような気がするでしょう?」

ヤグチ「ずり〜」

オオノ「……そんな……だって、え!? なんで!?」



    オオノは言いながら自分が持っていた原稿を見直す。



オオノ「……ヤグチと、ウスダ、なの」


同時に

ヤグチ「そういうこと」
ウスダ「呼びすてにすんなよ」


    一瞬、ヤグチとウスダはにらみ合い


同時に
ヤグチ&ウスダ「一緒に喋るなよ」



    が、ウスダの足がヤグチの足を踏んづけていた。
    たまらず、ヤグチはウスダに会話を譲る。



ウスダ「って、ことだから。まぁ、要するにあんたの小説のキャラクターなわけよ。あたし達」

オオノ「だけど、そんなこと……」

ウスダ「なに? 信じないわけ? なんなら実力で信じ込ませてやってもいいけど?」

ヤグチ「止めろって(ウスダを制して)信じられないかも知れないけどさ。
    でも、あんた困っているんだろう?」

オオノ「困っている?」

ウスダ「作品が出来なくてよ。アイデア、出ないんでしょ?」

オオノ「…………そうなの。本当、出ない。もうお手上げ」

ヤグチ「安心しな。それをどうにかするために俺たちが声をかけたんだから」

オオノ「どう言うこと?」

ウスダ「自分でアイデアが出せないのなら、
     あんたが今まで書いてきた奴らに考えさせればいいって事よ」

ヤグチ「その通り!」


    途端、舞台袖からマイクのようなものが飛んでくる。
    ヤグチはそれを素早くキャッチして。


ヤグチ「さぁ! では、小説の登場人物の皆さん! いらっしゃーーーい。と、ここで音楽♪」


    音楽がかかる中、
    ヤグチの言葉に誘われるように、色々な所から、ワラワラと人が出てくる。
    途中いきなり音楽が止まったり。


ヤグチ「音響! 止めるのが早い!」

音響 「すいません」

ヤグチ「もう一回!」


    再び同じ音楽がかかり始める。
    
    ヤグチとウスダは協力し、オオノが座ったままの椅子を舞台奥へと置く。
    そして、舞台にてんでバラバラに、八人の登場人物達が集まった。
    ヨシダは変な格好。ミサワは庶民的。サトウは格好良く。クボタは女子高生ルック。
    コンノは寝間着。
    そしてデデ先生は先生と分かる格好(スーツの上に白衣とか)


ヤグチ「はい皆さん整列整列ー」

ウスダ「適当に並びな」

ヤグチ「お前またそんなことを……」

オオノ「そんな……一体どっから!? ……こんなのって……
     夢、そうか、わたし夢を見ているんだ」

ヤグチ「夢ぇ?」

ウスダ「仕方ない奴ねぇ。……立て」


    思わずオオノが立ち上がると、
    ウスダはオオノを舞台前まで連れていく。

ウスダ「ヨシダ、ここに立て」


    反対側にヨシダを立たせる


ウスダ「殺れ」
ヨシダ「オオノ〜♪」


    言われたヨシダは嬉しそうにオオノに抱きつこうとする。
    いきなり入るスローモーション。
    が、オオノに着く寸前に、オオノがヨシダを殴り飛ばす。
    スローモーションが解ける。


オオノ「うわぁ……湿ってる……夢じゃないのぉ」

ウスダ「よし、じゃあみんな集合。……オオノ、号令」

オオノ「号令!? ……えっと、気をつけ……休め」

ウスダ「違うだろ? 違うだろオオノ。お前の号令はそうじゃないだろ!?」

オオノ「え?」

ウスダ「野郎共、気をつけ。(オオノに)お前もやるんだよ……(へーベルハウス風に)ハーイ」

ALL「(へーベルハウス風に)ハーイ」


    思わずオオノもやってしまってから、恥ずかしさに気づく。


オオノ「な、なにやらせるのよ!」

ヤグチ「いや、結構様になってた。なぁ?」


    他の登場人物は皆頷いていたり。


オオノ「全然嬉しくないわ!」

ウスダ「忘れてしまったんでしょう?」

オオノ「え?――」

ウスダ「だから書けなくなったのよ」


    間


ウスダ「ヤグチ」

ヤグチ「え?」

ウスダ「後は任せた」

ヤグチ「はい?」

ウスダ「あたし疲れたから。向こうで休んでいるわ。解決しそうになったら呼んで」

ヤグチ「お前なぁ。呼ぶだけ呼んでおいて後は俺任せってそう言うことですか?」

ウスダ「うん」


    ウスダ去る。


ヤグチ「うっわぁ……(気を取り直し)それでは皆さん、ご着席下さい」


    ヤグチの言葉に、それぞれのキャラクターはその場に思い思いに座る。
    オオノはおずおずと自分の椅子に座り直す。


ヤグチ「本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。
     オオノユウカが、再び小説を書けるよう、
     皆様オオノ小説の登場人物の方々には、ご協力をお願いいたします」


    ヤグチの言葉に、6人は思い思いに、了解のサインを出す。


オオノ「小説の登場人物が私を助ける? そんなの、無理よ」

ヤグチ「無理かどうかはやってみないと分からないでしょ? 
    一応、ここにいるのはあんたの小説では代表的なキャラクターばかりなんだから」

オオノ「代表的なキャラクター? ……あれだけは納得いかない!(と、ヨシダを指す)」

ヨシダ「え〜そんなぁ」

ヤグチ「わかるけどさ、わかるけど、残念ながらこういう作品も書いているわけよ、あなた。
     バカっぽくて、なにしでかすか分からない三枚目キャラって、良く出すでしょ?」

オオノ「そういえば……」

ヤグチ「そんな感じで、どんなに小説が変わっても似ているキャラクター。それが俺たちなわけ」

クボタ「タッチやH2で有名な(あだち○とか)のキャラとかですよ」


    途端に、( )の部分に照明による生声での「ぴーーー」音が入る。


オオノ「なに? 今の音」

声  「ただいま、放送に不適切な表現があったことをお詫びします」

ヤグチ「アナウンサーのTOTO氏だよ。良く出すだろ?」

オオノ「ああ、そう言えば……」

ミサワ「カードキャプターやレイアースの(CLAMP)とか」


    再び「ぴーーー」音が入る。


声  「ただいまの放送に」

サトウ「そんなこと言ったら、青山(剛昌)の名探偵(コナン)と、マジック(かいと)の
     主人公なんてもう、(そっくり)」


    さらに「ピーー」が入る。


声  「た、ただいまの」

ヨシダ「だったら、だったら」


    嬉しそうにさらに言葉を続けようと思ったヨシダに対し、
    それまで沈黙を守っていたコンノが口を開く。


コンノ「いい加減、止めれ」

ヨシダ「そんなぁ」

コンノ「くどい」

ヨシダ「はい」

コンノ「(ヤグチに)さっさと続けて」

ヤグチ「はいはい。まぁ、そんなわけでここにいるキャラクターは、
    それぞれあんたの作品に良く出てくるキャラクターなわけだ。
    ちなみに俺は、『暴走ボケ、リーダータイプ』で、今はヤグチなわけだよな」

ヨシダ「そして私は!」

コンノ「自己紹介なんて無駄よ」

ヨシダ「はい……」

ヤグチ「じゃあ、さっそくだが、お前ら、この小説家にアイデアを提供してやってくれ。
    はっきり言って、俺はない!」

クボタ「威張る事じゃないと思います」

ヤグチ「すいません」

ヨシダ「はい! じゃあ、一番私」

ヤグチ「え〜」

ヨシダ「そんなぁ」

ミサワ「一応やるだけやらせるのも、大切だと思うけど?」

ヤグチ「なるほど! じゃあヨシダ。誰を使う?」

ヨシダ「じゃあ、クボタと、デデ先生で」

クボタ「私ですか?」


    言われると、それ以外の面子(ヤグチ含まず)は、舞台から思い思いに去っていく。
    観客席が空いているなら、観客席に降りて行っちゃってもいい。
    オオノは所在なさげに椅子に座っている。


デデデ「…………?(無言で、自分ですか?という顔をしている)」

ヨシダ「嫌なんですか? デデ先生」

デデデ「(勘弁して下さいのジェスチャー)」

クボタ「あの、私も……」

ヨシダ「そんなぁ。だって、デデ先生、まだ一度も喋ってないじゃないですか」

デデデ「(いや、無理だよ無理のジェスチャー)」

ヨシダ「え〜」

ヤグチ「ヨシダ」

ヨシダ「はい?」

ヤグチ「先生に無理をさせるな。デデ先生は、ここにいるっていう時点でネタなんだ」

ヨシダ「あ、ネタだったんだ……」


    デデデは微妙にショックを受けている。


ヨシダ「じゃあ、クボタ、行こう〜」

クボタ「あの、私も(嫌なんだけど)」

ヨシダ「なに?」

クボタ「……分かりました」


    ヨシダとクボタが去る。
    デデデは去りにくい。


ヤグチ「デデ先生」

デデデ「……?」

ヤグチ「(あくまで笑顔で)なにやっているんですか? ヨシダが待っていますよ?」

デデデ「(結局出るのか!?)」

ヤグチ「え? 出ない分けないでしょう? どうぞ」


    ヤグチが言う言葉と共に、デデデはヨシダが行った方向へ仕方なさそうに走り去る。
    (が、デデデは反対側の袖に移動しておく)


ヤグチ「では、スタート!」


    言うと、ヤグチは去っていく。


4 戦争小説「君を永久に忘れぬ(笑)」


    途端に、音楽が鳴り響く。戦争している感じ。

    ヤグチが現れる。紙芝居のような物を持っている。
    1枚目「時は20040年」(最後の○が小さい)
    2枚目「日本は」
    3枚目「アメリ○に」
    4枚目「攻められていた」
    5枚目「そして今」
    6枚目「最終(回好き)兵器(フェチ)彼(氏持ち)女が」(( )内は小さい)
    7枚目「動き出す」
    途中でめくっていても良し。

    クボタが現れる。真面目風。なぜか、服装には似合わない銃器を下げている。
    その後を追うようにヨシダが出てくる。



ヨシダ「クボタ!」


    ヨシダの言葉にクボタは立ち止まる。が、振り返らない。
    ヨシダはどこか所帯慣れ(平和ボケ)した格好。


ヨシダ「行っちゃうの?」

クボタ「(頷く)」

ヨシダ「なんで? なんであんたが行かなくちゃいけないの? 
    あんたが行けば、この戦争は止まるの!?」

クボタ「そんなことわからないですよ。敵は手強いですからね」

ヨシダ「だったらなんで……なんであんたが行かなくちゃいけないの?」


    クボタはゆっくりと振り返る


クボタ「私は戦うすべを知っていますから」

ヨシダ「でも、あんたは女でしょう!?」

クボタ「男だとか女だとか……そんなことを言っていたらこの国は無くなってしまうんです」

ヨシダ「こんな国が無くなったって!」

クボタ「ヨシダ先輩!……それ以上は言わないでください。
    この国が無くならないよう犠牲になった人たちがいるんです」

ヨシダ「……そして、あんたもその一人になろうとしているんでしょう?」

クボタ「………先輩と過ごした高校生活は楽しかったですよ。
    戦うことしか知らなかった私がいつの間にか、
    戦術ではない笑顔を作れるようになったんです。感謝しています」

ヨシダ「その笑顔で、人を殺せるの?」

クボタ「……殺します。それがこの国を守るためならば」

ヨシダ「そんなことのために、私はあんたと仲良くなったわけじゃない!」

クボタ「……先輩。この国を守るって言うことは、あなた達を守るって事なんです」

ヨシダ「え?」

クボタ「私は、国家だとか、国旗だとか、そんな物は関係ないんです。
    ……この国の人が好きです。だから守りたい。それだけなんです」

ヨシダ「クボタ……」

クボタ「……さぁ、いつまでも隠れていなくて大丈夫ですよ。もう、別れの挨拶はすみましたから」


    クボタの言葉に、ヨシダは思わずクボタの視線の先を見ようと振り返る。
    が、デデデがその反対側から登場する。手に持った拳銃を背に隠し持っている。
    気配に気づき、慌ててクボタは振り返る。


デデデ「……ごめん。出る場所間違えた?」

ヨシダ「そっちかよ!?」

クボタ「(気を取り直して)デデ先生。
    まさか、あなたが迎えに来てくれるなんて思ってませんでしたよ」

デデデ「ナンバー03、行く決心はもう付いたんだね?」

クボタ「はい」

ヨシダ「クボタ! 本当に、本当にいいの? だって、あなたには!」

クボタ「先輩! ……伝言をお願いできますか?」

ヨシダ「クボタ……」

クボタ「あの人に……伝えて置いて欲しい言葉があるんです」

ヨシダ「……駄目よ」

クボタ「え?」


    思わずクボタはヨシダを見る。


ヨシダ「帰って来るんでしょう? だったら、自分で言えばいいじゃない」

クボタ「……そうですね。そうします……(デデデに)行きましょう」

デデデ「03……そうだな、行くとしよう……しかし、戦場ではないが」

クボタ「え?」


    デデデはクボタの一瞬の隙をつき、隠していた拳銃でクボタを撃つ。

    ヤグチは紙芝居を一枚めくる。
    八枚目「!?」
    
    銃声と共に、信じられない物を観る顔でクボタはデデデを見る。


クボタ「なにを……」

デデデ「君が戦場に出れば、劣勢だったこの国が少しは持ち直してしまうかもしれないだろう? 
     それでは困るんだよ」

クボタ「そんな……」


    クボタ、倒れる。


デデデ「やっとこの国が無くなるチャンスなんだ。悪いが、邪魔はさせない」

ヨシダ「クボタ!」


    ヨシダがクボタに駆け寄る。
    デデデがゆっくりと舞台を去る。


クボタ「先輩、結局、こんなものなのかも知れませんね?」

ヨシダ「だめ、喋っちゃ……なによこの血……」

クボタ「無駄です。……通常ならショック死のレベルですから……」

ヨシダ「血、血を止めれば」

クボタ「楽しかったですよ。先輩と一緒で」

ヨシダ「何か止血できるモノは!?」

クボタ「あの人もいて、楽しかったなぁ」

ヨシダ「クボタ!」

クボタ「死にたくないですよ、先輩」

ヨシダ「……」

クボタ「あたし、死にたくないです。
    ……まだ、やれることたくさんあったのに、たくさん……死にたくないよぉ」


    クボタ、ヨシダに抱きつくように目を閉じる。


ヨシダ「なんで。なんであんたが死ななくちゃいけないの? 
    なんで、こんな戦いが……なんで、なんで!」

オオノ「駄目! 駄目駄目! だめぇ!!」

ヨシダ「……なんで、駄目なの〜」


    気が抜けたようなヨシダ。そして、腕の中のクボタが目を開けて飛び起きる。


5 そして現実@


クボタ「ヨシダさん、唾飛ばすの止めてください」

ヨシダ「酷いっ」

ヤグチ「え〜。結構いい話しだったと思うけどなぁ」

オオノ「どこが? いい!?とりあえず、あんた達ここに座りなさい!」


   オオノの前にクボタとヨシダ集合。


オオノ「あの先生は?」

ヤグチ「俺が見てくるよ」


   ヤグチは言って、舞台から去る。

オオノ&ヨシダ&クボタ「逃げたな」

オオノ「所詮男なんて……とにかくあなた達ね。私の小説で人殺しちゃまずいでしょ!」

ヨシダ「だって、その方が感動的だと思って」

クボタ「あそこで、私が死ぬことによって、物語が、盛り上がるかと」

オオノ「盛り上がっても駄目! いい! 私の精神はね、これよ!」


    途端に、音楽がかかる。「HERO」の
    「駄目な映画を盛り上げるために〜見ていたいのは希望に満ちた光」あたりまで。
    音響は徐々にFO。しかし、クボタは途中から歌い出す。


ヨシダ「ミスチル……」

クボタ「いいんですか? こういうのやっちゃって」

ヨシダ「さぁ?」

オオノ「『違う僕らが見ていたいのは希望に満ちた光だ』なのよ。わかる?」


ヨシダ&クボタ「はぁ」


オオノ「『はぁ』じゃない! そんなことも分からないで、
     私の小説のキャラクターだなんて、認めないわよ!」

ヨシダ「だって、小説の中じゃそんなこと言ったことないし」

クボタ「それに、今時流行らないと思うけど」

オオノ「流行る流行らないは関係ないの!」


    と、そこへサトウがやってくる。
    無駄に豪華……だ。


サトウ「どうやら、あたしの出番のようね!」

オオノ「あなたは?」

サトウ「シャラップ! お黙りなさい。愚民が私に名を問うというの?」

ヨシダ「サトウ〜。助けに来てくれたの〜」

サトウ「だから、その名前で呼ぶな! 伊集院と呼べと言ったでしょ?」


    サトウは軽くヨシダをけっ飛ばし


ヨシダ「ごめんなさい。伊集院様」

サトウ「これから、あたしのアイデアを披露してあげる。
     だから、あんたはそこの席に座ってとくと見てなさい!」

オオノ「わ、わかった……そういえばあの男は?」

サトウ「ああ。ヤグチは、今デデ先生を慰めているわ」

オオノ「慰めている?」

サトウ「登場場所を間違えたのを気にしているのよ。
    あんた達がうまくフォローできなかったせいで!」


    びしっと刺した指先の2人は(ヨシダとクボタ)は、心外だと言わんばかりに。


ヨシダ「別に私は」

クボタ「すべてはヨシダの責任で、私は悪くないです」


    言うと、怒って舞台を歩いていってしまう。


ヨシダ「ちょっと、クボタ〜」

クボタ「触るな下手くそ」

ヨシダ「そんなぁ。あんなに、心を通わしたじゃん♪」

クボタ「いつ?」


    クボタが去る。


ヨシダ「そんなぁ〜」


    ヨシダも去る。


サトウ「じゃあ、邪魔者がいなくなったところで始めるわよ? プリーズ、座れ」

オオノ「は、はい」


    オオノはサトウの勢いに押されて座ってしまう。

サトウ「ミュージック、スタート!」


    途端に、新しい物語が始まる。

6 ホラー小説「サ○コさん飯はまだかいの?」

   少女スタイルのミサワが舞台にやってくる。


ミサワ「うっわぁ。サト……伊集院さんの部屋って、すごくキレイ!」

サトウ「当たり前でしょ? あ、た、しの部屋なんだから」

ミサワ「いいの? あたしなんかがお邪魔しちゃって」

サトウ「何を言ってるの? ミサワが入ったから私の部屋が少し汚れるかもなんて、
    あたし、全然気にしないわよ」

ミサワ「大丈夫。ちゃんと、服の埃も落としてきたから」

サトウ「あっそう。それでも落としたんだ」

ミサワ「……でもなんで今日は呼んでくれたの?」

サトウ「見せたい物があるのよ」

ミサワ「見せたい物?」

サトウ「いいからあなたは座ってて。セバスチャン!」


    舞台にヤグチがちょっとだけ顔を出し。


ヤグチ「お嬢様、セバスチャンは、やる気がないでございます」

サトウ「入れなさい!」

ヤグチ「無理〜」


    ヤグチ去る。


サトウ「じゃあ、(と言って、照明を睨み)ボブ!」

声  「お嬢様、ボブは、照明で一杯一杯です」

サトウ「そんなに色変えてないじゃない!」

声  「んなこと言っても、辛いんだよ色々」

サトウ「役立たずね……じゃあ、ばあや!」


    一瞬の沈黙。
    瞬間、サトウはオオノを睨む。


サトウ「ばあや!」

オオノ「え? あたし?」

サトウ「人がいないんだから仕方ないでしょう!? ばあや。テレビを持ってきて」

オオノ「え? この部屋テレビ無いの?」

サトウ「今は置いてないでしょ。そんなことも忘れたの?」

オオノ「いや、知らないし」

サトウ「いいから、持ってきなさい」

オオノ「はい……」


    オオノ、勢いに飲まれて舞台から去る。


サトウ「しばらく待っていてね。今、ばあやがテレビを持ってくるから」

ミサワ「見せたい物って、テレビなの?」

サトウ「馬鹿ね。テレビなんて見せてどうするのよ」


    サトウがそう言って手を挙げると、
    ビデオが袖から飛んでくる。


サトウ「これよ」

ミサワ「ビデオ……(はっと思いつき)もしかして。いやよぉ、伊集院さん。
     あたし、そんなの見せられても困っちゃうって言うか〜」

サトウ「何を言っているの?」

ミサワ「あ、でも、興味がないわけじゃないのよ。なんて言うのかなぁ。
     やっぱり、そういうのって気になる年頃じゃない? って、言わせないでよ、エッチ!」

サトウ「暴走するな!」


    サトウはミサワを叩いて現実に戻し、


サトウ「ミサワさん、貞子って知っているでしょ?」

ミサワ「え、私ああいう女優には全然詳しくないから」

サトウ「いい加減そっちの方向から離れなさい!」

ミサワ「はい……貞子って、じゃあ、リングの?」

サトウ「やっとまともになったわね。そう。貞子の。ミサワさんって、ホラー好きよね?」

ミサワ「読むのは好きだけど」

サトウ「これ、本物の呪いのビデオなの」

ミサワ「呪いのビデオ……?」


    ミサワは思わずサトウを見る。
    そしてサトウのビデオを見、無理矢理笑おうとする。


ミサワ「……やだぁ、サトウさん、冗談きっついよ」

サトウ「このビデオもね、見た人が七日目に死んじゃうのは同じなの」

ミサワ「本当なの?」

サトウ「ビデオの内容は貞子のパクリみたいに井戸が写り続けているだけなんだけどね」

ミサワ「詳しいんだね。サトウさん」

サトウ「私も、見たのよ。そのビデオ」

ミサワ「……いつ?」

サトウ「(軽く笑って)八日前」


    ミサワは一瞬意味が分からずにきょとんとし、
    直ぐに今まで言っていることがサトウの嘘だったと思う。
    が、観客としてはサトウの表情から、その言葉だけが嘘だと思うはずだ。


ミサワ「サトウさんってば、冗談きっついよ」

サトウ「だからさ。ミサワさんもネタとして見ておいても面白いかと思って♪」

ヤグチ「お待たせいたしました」


    サトウの言葉が終わる頃にでかいテレビをキャスターの上に載せヤグチが現れる。
    テレビは無駄にでかい。
    なんだか、真ん中に切れ目があるような気がする。
    そこから何かが出てくるような……そんな不思議なテレビだ。
    一瞬、ミサワはビックリする。サトウは覚悟を決めた顔で。


サトウ「遅かったじゃない……ばあやはどうしたの?」

ヤグチ「さぁ? 会いませんでしたが」

サトウ「そう。テレビは、いいわ。そこら辺に適当に置いておいて」

ヤグチ「はい」


    ヤグチはテレビを置き、


ヤグチ「ほらよ」


    コントローラーをサトウに投げつけてから出ていく。


サトウ「使用人の分際で」

ミサワ「うわっ態度悪っ」

サトウ「さぁ、じゃあ、ビデオを見ましょう♪」


    サトウは言って、テレビ(ちゃんとビデオデッキ付きだったりするのだ)にビデオを差し込む。


ミサワ「って、今ケースごと入れなかった?」

サトウ「ばかね。うちのビデオは最新式の『デーヴイデー』だから、ケースは中ではずれるのよ」

ミサワ「そんな無駄な!? って、DVDじゃなくて?」

サトウ「『どんな、ビデオも再生、できる』で『デー、ヴイ、デー』よ。逆から読んでも『デーヴイデー』」

ミサワ「いや、DVDも逆から読んでもDVDだよ」

サトウ「椅子持ってきて座りなさい?」

ミサワ「……はい」


    と、ミサワは端に置いてあったオオノの椅子を持ってくるが、
    サトウが座る。


サトウ「ありがとう」

ミサワ「え?」

サトウ「さぁ、座って良いわよ」

ミサワ「あ、床なんだ……」

サトウ「(ミサワが座ったのを確かめてから)では、見ましょう?」
    

    スイッチを入れる動作と共に音楽が始まる。
    どうやら映像はどうしようもないほど退屈な物らしい。


ミサワ「うわぁ……本当に井戸だね……」

サトウ「…………ごめんなさい」

ミサワ「なにが?」

サトウ「このビデオ、友達から見せてもらったんだけど、
     その時、友達は従姉妹と、その彼氏とビデオを既に見た後だったのよ」

ミサワ「もしかして、その人たち……死んだの?」

サトウ「(頷いて)私、このビデオを見たの、本当は七日前なの」

ミサワ「じゃあ!」


    途端、音楽が変わる。緊迫感を含んだ音楽。
    そしてテレビ(?)が揺れる。


ミサワ「なに? これも冗談なの!?」

サトウ「違う……なんで? もしかして、もう……」

ミサワ「やだ! 私は関係ない!」

サトウ「待ってよミサワさん! 友達でしょ!」

ミサワ「こんな時ばかり友達なんて言わないでよ!」

サトウ「仕方ないでしょ、怖かったんだから!」

ミサワ「開き直らないでよ! 死ぬなら一人で死になさいよ!」

サトウ「友だちを見捨てるの!」

ミサワ「だから友だちなんかじゃないもん!」


    2人が話しているうちに揺れがどんどん大きくなる。
    そして、テレビが二つに割れ、中から貞子(?)の格好をしたオオノが出てくる。
    しかも、その両手はしっかりと井戸を腰の当たりで抱えていた。


サトウ&ミサワ「(悲鳴)」


    オオノはゆっくりと奇声を挙げながらテレビを出てくる。まるで、テレビの貞子のように。
    そして、十分に貞子モードを堪能したあげく、おもむろに叫ぶ。


オオノ「って、なんじゃいこれは!」


    音楽が止まり、井戸が落ちる。


7 そして現実A


サトウ&ミサワ「駄目?」

オオノ「駄目って言うか、どうしようもないって言うか、
    てか、何であたし貞子やってるのよ!」

ミサワ「ちょっとはノっていたくせに」

オオノ「そりゃあ、楽しかったから〜って、そういうことじゃない!」

サトウ「確かにあんたを使っちゃったのは悪いのかも知れないけど。
    なに? あたしのアイデアに文句があるの?」

オオノ「ありありよ! 今時、ホラーなんて流行らないんだよ!」

サトウ「流行らないですって……」

ミサワ「さっき、流行りなんて関係ないって言ったくせに!」

オオノ「それとこれとは話は別。だいたい、今時貞子って……はん(鼻で笑う)」

ミサワ「酷い〜」


    ミサワは泣きながらテレビをかたしつつ舞台を逃げる。


サトウ「あ! こらミサワ!……(オオノに)
    どうせ、自分ではアイデアも出せないくせにえらそうに!」

オオノ「うるさい! 私だって書こうとは思っているのよ」

サトウ「思っても、書けなきゃ意味がないのよ」

オオノ「分かっている……分かっているけど……仕方ないでしょ! 
     分からないんだから。私の書きたい物が出てこないのよ!」

サトウ「あなたは、忘れてしまっただけでしょう?」

オオノ「忘れた?」

サトウ「何であなたは小説を書いているの?」

オオノ「何で……?」

サトウ「小説家になって、何年も経って……そのうちに、あなたは忘れてしまったのよ。
    なんで、あなたが私たちを生んだのか」

オオノ「なんで……あなた達を?」


    オオノは悩むが、思い出せない。それほど、時は残酷に彼女の思い出を消していた。
    と、そこにコンノとウスダが現れる。
    ウスダは制服姿。


ウスダ「悩んだって、仕方ないんじゃない? 思い出せないんだから」

サトウ「ふん。まぁ、無駄なことは仕方ないか。……次はあなた達?」

ウスダ「そういうこと」

コンノ「別に、やりたくないけど」

サトウ「そう……じゃあね、小説家さん。(皮肉に)アイデア、浮かぶといいわね」


    サトウが舞台から去る。
    コンノは舞台に崩れるように座り込む。


ウスダ「どうしたの?」

オオノ「何か、忘れているのよ」

ウスダ「大事なこと?」

オオノ「きっと……それさえも、忘れてしまっているの」

ウスダ「じゃあ、物語を始めましょう? 忘れてしまった物を取り返すために」

オオノ「そうすれば、私は書けるようになるの?」

ウスダ「さぁ?」

オオノ「さぁって……」


    ウスダが言いながら、コンノの反対側に立つ。
    途方にくれてオオノが椅子に座る
    途端、音楽が始まる。



8 青春小説「君を外に連れ出したくて」


    膝を抱える少女、コンノ。
    学校からのプリントを持ったウスダは、
    自分の気持ちを落ち着けるように深呼吸をする。
    そこは、コンノの家。
    ウスダはゆっくりとコンノに近づく。
    コンノが背を傾けている場所。そこにドアがあるようだ。
    オオノは2人の状況を見ているうちにはっとする。


ウスダ「……起きてる?」

コンノ「……またなの?」

ウスダ「うん。また来た」

オオノ「……!……これは……」


    ドアらしきところをウスダはノックする。
    びくりとコンノが反応した。


ウスダ「今日はね、プリントを持ってきたの……良かったら、開けてくれる?」

コンノ「プリントなんていらない」

ウスダ「……まだ学校に行く気無いの?」

オオノ「やめて。こんなの見たくないわ」

コンノ「帰って」

ウスダ「みんな、あなたが来るのを」

オオノ&コンノ「止めて」

ウスダ「……」

コンノ「誰も私の事なんて待ってなんかいないわよ」

オオノ「止めて……」


    オオノは耐えられなくなって耳をふさぐ。
    そう、これはオオノの過去の物語。やっと、彼女は思いだしたのだ。


ウスダ「そんなこと」

コンノ「あるでしょう? 私なんていつも一人なんだから」

ウスダ「……」

コンノ「大変ね? 学級委員って」

ウスダ「……」

コンノ「内申点のためとはいえ、先生の言うこと『はい、はい』って聞いて」

ウスダ「……」

コンノ「いいのよ? プリントなんてポストに入れて置いてくれれば。
    いいじゃない。先生には、『学校来るよう言っておきました』って言えば。
    どうせ、分からないんだし」

ウスダ「……」

コンノ「分かったら帰って」

ウスダ「馬鹿にするんじゃないわよ!」


    ウスダがドアらしきところを叩く。
    びくりとコンノが反応した。


コンノ「え?」

ウスダ「学級委員だから? 内申点のため? ふざけるんじゃないわよ。
     あんたみたいな不登校児を訪ねたってね、内申点がそんなに良くなるわけ無いのよ。
     だったら、学級委員だから押しつけられているとでも思ったんでしょ? 
     おあいにく様、あたしはね、そんなくだらない女じゃないのよ!」

コンノ「……じゃあ、何で……」


    振り返るコンノ。
    ドア越しに、2人の少女が見つめ合う。


ウスダ「あんたが……あんただから……心配なのよ。それだけよ!」

コンノ「…………スギタ……」

オオノ「いい加減止めなさい!」



9 そして現実。蘇った過去


    一瞬のうちに、沈黙が支配する。
    オオノはコンノとウスダを睨み付けながら椅子から立ち上がる。


オオノ「こんな物を……こんな物を私に見せて、どうしようって言うの?」

ウスダ「言ったでしょう?」

オオノ「思い出したわよ! ……思い出したわよ……最低な自分を。
     でも、それは、思い出さなきゃいけないことだったの?」

ウスダ「どうやらまだ忘れているようね」


    ウスダは言いながら舞台を去る。


オオノ「私が知りたいのは小説のアイデアよ! こんなくだらない過去の思い出じゃない!」

コンノ「いいのよ。無理に思い出さなくても」

オオノ「え?」

コンノ「忘れたいなら、忘れていればいいでしょう? あなたの中の私を殺して、
    それで生きる方が幸せなら、そうすればいいじゃない」

オオノ「あなたを殺す?」

コンノ「私を否定するって事はそう言うことでしょう?」

オオノ「あなたは、誰なの?」

コンノ「私は……昔のあなた」

オオノ「私……」

コンノ「弱いあなた。醜いあなた。たった独りでうずくまってた。
    冷たいフローリングの上で、体育座りで爪を噛んで。
    ドアが叩かれるのを待っていたのに、叩かれたら怯えたあなた」

オオノ「止めて……思い出させないで」

コンノ「書きたい物が分からない? 笑わせないで。
    私を忘れたあんたに、小説を書く理由なんて無いのよ!」

オオノ「昔の自分に、お説教なんてされたくないわ」

コンノ「そう…………そんなに私を消したいのなら、望み通り消えてあげるわよ。
       そして永久に忘れてしまえばいい。なんで、自分が物語を書くのかなんて!」


    コンノ逃亡。
    なんと観客席をつっきって、外へと出ていく。
   (※この時、外に出たからといって、素に戻ってはいけない。
     泣きはらした顔を誤魔化すように袖で拭って、受付の人たちや、
     周囲の人間をぎょっとさせてから、楽屋に引っ込みたいところ)


     オオノは呆然とその後ろ姿を見送るだけ。
     ウスダが現れる。元の格好に戻っている。


ウスダ「ありらこりら。いーけないんだいけないんだ♪」

オオノ「別に、あっちが勝手キレて、勝手に出てっただけじゃない」


     と、舞台にヨシダ、サトウ、ミサワ、クボタ、ヤグチが現れる。
     ヨシダ、サトウ、ミサワはなぜかレンジャーものの格好をしている。
     が、あきらかにヨシダの格好はコスプレっぽく、
     ほかの二人も、なんだかコスプレっぽい(が、ほかの二人は少しは似合っている)
     ヤグチは右手に、「デデ先生」と書かれた名札を持つぬいぐるみを持っている。
     歌いながら5人は入ってくる。そして、オオノを囲む。


5人 「あーりらこりら。いーけないんだいけないんだ」

ウスダ「オーオノが、悪い。先生に、言ってやろ」
(この間ほかの5人は「あーりらこりら」を繰り返している)

ヤグチ「(ぬいぐるみに)先生、オオノさんが自分で自分をいじめているんです。
    (ぬいぐるみを口に持っていって)それはいかんなぁ。
    自慰行為もあんま誉められないが、自傷行為はもっといかんよ」


    ウスダも5人に加わり、


6人 「あーりらこりら。いーけないんだいけないんだ」


    と、一人ずつ「いけないんだ〜」と言いながら半音ずつあげていく。
    全員が言い切ったところで、オオノに手を向け


6人 「デユ、ワーー」


    と、やってみたり。


オオノ「分かったわよ! どうせ私が悪いのよ! だからって、どうすればいいって言うのよ!」

ヤグチ「(ぬいぐるみの声真似で)追えばいいだろ?」



    オオノがヤグチを睨む。ヤグチはぬいぐるみを持って知らん顔。
    オオノが他の人間を見る。他の人間も知らん顔。


オオノ「わかったわよ!」


    オオノも観客席を突っ切って外へと出ていく。
   (※また外へと出ていく演技だが、ここはさらに受け付け当たりに
    「すいません、始めに女の子、出てきませんでしたか?」なんて聞いてみたい。
     舞台上との声の落差に気をつけつつ、楽屋へと走り去る。



10 主役のいない舞踏会。



    オオノの去った舞台では、ぼんやりとオオノの去った方向を6人が見ていた。


クボタ「行きましたね」

ヤグチ「やっと、な」

ミサワ「長かった茶番も、これでおしまい。か」

サトウ「いいじゃない。楽しかったから」

ヤグチ「そうそう。たまには作者じゃなくて、俺たちが物語を作ってもいいよな」

ウスダ「まぁ、私たちが元々オオノユウカみたいなものだしね」

ヤグチ「バカ。それをいっちゃあさぁ」

ウスダ「大丈夫。オオノ、走っていっちゃったんだから」

ヤグチ「そっか」

ウスダ「で、あんた達三人の格好はなんなわけ?」


    ウスダの言葉に、ヨシダ、サトウ、ミサワの三人は、ヤケに嬉しそうに胸を張る。


ヨシダ「よくぞ聞いてくれました♪」

サトウ「正直、つっこみが無いのが不安だったけど」

ミサワ「どうせ物語するなら派手な方がいいじゃない? それで、この格好」


    と、いきなり派手な音楽がかかる。
    派手に踊った後、ポーズをそれぞれ取って、

サトウ「炎の貴公子! ジャントルメン・レッド」

ミサワ「緑の疾風! カゼレンジャー・グリーン」

ヨシダ「お色気ピンク ミュジカレンジャー・ピンク」

三人 「三人あわせて」


    聞いているうちに他の連中は、「これ、あわないだろう」って気持ちになってくる。


同時に
サトウ「スリー・ジェントルメン」

ミサワ「風雷戦隊・カゼレンジャー」

ヨシダ「自由楽隊・ミュジカレンジャー」

サトウ「ミュジカレンジャーだぁ?」

ヨシダ「カゼレンジャーってなによ?」

ミサワ「ジェントルメンって、女ですらないし」


    三人、すさまじい言い合いを始める。


ウスダ「ちょっといい?」

三人 「なによ!」

ウスダ「頑張って主張しあっているところ悪いんだけど、それ、誰に見せるの?」

三人 「誰にって…………あ!」

ヤグチ「オオノ、走ってっちゃったからねぇ」

ヨシダ「せっかく着替えたのに」

クボタ「無駄ですね」

ヨシダ「クボタぁ。ちょっとはフォローしようよ」

クボタ「(笑顔で)触るな」

ヤグチ「しかし、作者がいないって事はだよ? 
     これは、つまりなにをやっても自由って事だよな!」

5人 「そう言えば」

ヤグチ「よし。こうなったら、もう俺たちで新しい作者立てちゃおうぜ。
     んで、その人にオチを書いてもらうと」

ウスダ「オチって?」

ヤグチ「そんなん決まってるだろう? この物語のだよ」

ヨシダ「じゃあじゃあ、私、あの人がいい!」


    言いながら、ヨシダは観客を指さす。


クボタ「いや、あんたの好みだし信用できないし。勝手に変なところ指さないで下さい」


    クボタとヨシダが言い合いしているうちに、ヤグチは観客席に降りて人を捜し、
    連れてきてしまう。


ヤグチ「連れて来ました」

5人 「はやっ!」

ウスダ「よーし。負けないわ」


    ウスダが観客席を物色しているうちに、ヤグチは客に質問をしている。
    ※アドリブです「何処高校ですか?」「うちの劇を観るのって初めてですか?」
    「ぶっちゃけ、面白い?」とか。そのうちに、ウスダやヨシダ達が、違う人を連れてくる。


ウスダ「どう? こっちの方が強そうよ」

ヤグチ「強いかどうか、関係あるのかよ! ……が、こっちだって、負けちゃいないぜ」

ウスダ「勝負ね」

ヤグチ「ああ……てなわけで、第一回! 小説家決め大会〜」


    ※アドリブです。
    音楽と共に、ゲーム開始。
    ルールは簡単。ジャンケンして、勝った方が負けた方を殴るというあれである。
    が、違うのは、ジャンケンをするのは観客。
    観客の勝ち負けにあわせて殴り合うのは、役者。

    負けた方には残念賞。勝った方には、プレゼントを挙げ、拍手と共に返してしまう。

全員 「ありがとうございました〜」

クボタ「って、返しちゃったら意味無いと思うんですけど」

ヤグチ「……え? なんで?」

クボタ「目的、忘れてますね?」

ヨシダ「今度はなにしようか〜」

サトウ「やっぱり、ヒーローよ。ヒーロー!」


    5人がわいわい遊び出す。
    座って、次に遊ぶ人を決めるため、棒倒しを始めたり。
    クボタはいつの間にか、皆を見ている立場になり、椅子に座る。



11 帰ってきた小説家


    と、小説家オオノが戻ってくる。なぜか椅子の近くから登場。
    楽しそうに遊んでいた奴らはサイレントボイスになる。




クボタ「帰ってきたんですか」

オオノ「何時の間にか、ここに戻っていたの」

クボタ「仕方ないですよ。ここはそう言う世界ですから」

オオノ「(舞台の連中を見て)……楽しそうね」

クボタ「子供みたいですよね」

オオノ「あなたは加わらないの?」

クボタ「私は、そう言うキャラですから」


    ここら辺で、遊んでいたキャラ達はそれぞれ眠り出す。


オオノ「皆を隔離する私」

クボタ「気づいたんですか?」

オオノ「………みんな、私だったのね」

クボタ「そっか、見ていたんですね?」

オオノ「ううん、なぜか知らないけど、感じてた」

クボタ「ここは、あなたの世界ですからね」

オオノ「全部、私の物語だったのね。孤独を好んで、特別だって思いこんで、
    男に憧れてみたり、羞恥心を忘れたがったり
   ……妄想を繰り返して……現実の寂しさを、否定して」

クボタ「思い出したんですね」

オオノ「認めたくなかっただけなのかも知れない。そんな自分を救うために、
    小説を書いていただなんて」

クボタ「あれ? それは違いますよ」

オオノ「え?」

クボタ「だって、それならあなたは救われているはずでしょう?」

オオノ「…………そうか、そう言うことだったのね?」

クボタ「はい」

オオノ「また、進めるかな?」

クボタ「あなたが決めた道でしょう?」

オオノ「……そうだね。…………よーし、こら! 起きなさい! 
    いつまでも寝ていると、もうあたしの小説に書いてやらないわよ!」


    起きた連中が見守る中、小説家は口を開く。


オオノ「……物語を書きたいの。あなた達の話。人も死なない、怖くもない、
    古い傷をえぐるような真似もしないけど、読んだ人が幸せになれる。そんな話を」

ウスダ「ふうん。分かったみたいじゃん」

オオノ「おかげさまでね」

ヤグチ「これでやっと、この物語も、終わりに出来るってわけだ」



    6人と小説家お互いにやれやれと言う感じ。



ミサワ「で。コンノは?」

残6人「え?」


    慌てて、当たりを見渡し。



ヤグチ「なんだよ、アイツまだいないのか?」

ウスダ「(オオノに)あんた、探しに行ったんじゃなかったの!?」

オオノ「だって、いつのまにか、こっちに出ていて……それで……」

クボタ「そう、遠くには行っていないと思いますけど」

ヤグチ「じゃあいっか」

ヨシダ「でも、この世界で行方不明になっちゃったらさぁ」

オオノ「なに!? この世界でいなくなったらどうなるの?」

ヨシダ「えっと……」

サトウ「消える」

オオノ「消える!?」

ウスダ「作者の精神世界から消えてしまえば」

ミサワ「目覚めたときにはもう、その記憶だけなくなっているわ」

オオノ「なんでそう言うことを今更言うのよ!」

サトウ「だって」

6人 「そう言うネタだったから……」

オオノ「ネタで、あたしの記憶を失わされちゃ困るわよ! 早く捜さなくちゃ」

6人 「どうやって?」

オオノ「何とか方法はないの!?」

ヤグチ「探しに行って俺たちまで消えてもやばいしなぁ」

ウスダ「でも、このままだと結局同じかも」

ヤグチ「なに?」

ウスダ「だって、あの記憶は、オオノの原点だから」

サトウ「それが消えれば」

ミサワ「私たちも……消える?」

ヨシダ「やばいじゃああーーん!」



    途端、みんな慌て出す。



オオノ「無駄に慌ててもしょうがないわよ! 冷静に、冷静になるの」

ヨシダ「もうおわりよーーー」

サトウ「冷静になれと言われただろう!」

ミサワ「ま、形ある物はいつか壊れ、形ない物はやがて薄らぐ物だから」

クボタ「悟った方がいいかも知れませんね」

ウスダ「何か方法はないの?」

ヤグチ「知らん」

ウスダ「威張るな!」

オオノ「あーーもう! 何とかして!」

声  「どうやら、俺の出番のようだな」

オオノ「この声は?」


全員 「アナウンサーTOTO」


声  「その子、俺が捜してやるよ」

オオノ「でも、そんなこと、あんたに出来るの?」

声  「出来るか分からない……だけど、もし消えたとしても、俺が一番被害が少ないだろ?」

オオノ「成る程。そうね」

声  「あとは、あんたが俺を信用できるかどうかだ」

オオノ「任せて、いいのね」

声  「ああ」

オオノ「お願い」

声  「OK! 俺に任せておきな!」

   
 と、その瞬間、コンノの姿が現れる


コンノ「実はもう戻っていたり」

6人 「コンノ!」


    すさまじく色んな物をまき散らしてずっこけた音が聞こえる。


声  「ぐっはぁあ」

6人 「アナウンサーTOTO!?」

声  「燃え尽きたぜ。無駄に、灰になっちまった……」

ウスダ「よし。大丈夫。生きている」



12 ラストへの流れ。

    ふと見れば、オオノとコンノが向かい合っている。
    思わずみんなは2人の周りを開ける。


オオノ「……あの」

コンノ「思い出したんでしょう?」

オオノ「ええ」

コンノ「なら、謝る必要はないわ」

オオノ「……あたし、書くわ」

コンノ「書けばいいでしょう?」

オオノ「でも、あなたは救えないと思う」

コンノ「頼んでないわ。昔っから決まっていたことよ」

オオノ&コンノ『自分を救うのは自分だけ』

オオノ「やっぱり、そうなのかな」

コンノ「ええ」

オオノ「色々と、ありがとう」

コンノ「……」


    コンノはオオノに背を向ける。


コンノ「私にはなにもなかったの」

オオノ「うん」

コンノ「書くしかなかったの」

オオノ「うん」


    振り返ったコンノは笑みを浮かべていた。


コンノ「だから、あなたも書けばいいのよ」

オオノ「……うん。分かった」


    と、ミサワが椅子を中央に運んでくる。
    誘われるように、オオノは席に着く。

    明かりが落ちる。
    派手な音楽(オープニングと同じ)が流れ出す。


ヨシダ「道を歩いていた」

サトウ「何があるのかも分からずに」

ミサワ「がむしゃらに」

クボタ「まっすぐに」

コンノ「他人に決められた道は嫌だから」

ヤグチ「自分の道をただ歩いていた」

ウスダ「これしかないと思っていた」

七人 「この道しかないと」

七人 「だけど、どこまで進んでも道は真っ暗だった」


    ライトが一斉に当たりをてんでバラバラに照らし出す。
    それはまるで心の闇を光が照らそうとして、なお闇しか見えないかのよう。


七人 「その道の果てで何を見つけたんだろう? 何を得たのだろう? 何を失ったのだろう?
     ……まだ、先は真っ暗。真っ暗だ」


    七人が一斉に懐中電灯の明かりをオオノに向ける。
    そして、オオノが話し出すと明かりを当てたまま、ゆっくりと七人は舞台を去る。
    あかりの中、オオノは原稿を読む。


オオノ「それでも、私は歩いていこう。取り囲む闇は、魅惑的に私をまどろみに誘うけれども、
    それでも私は歩いていこう。微かに見える光の先に、誰かの幸せが待っている。
    そう信じて。私には、この道しかないのだから」


    照明がつくと、そこには編集員スギタが立っていた。


13 そして、現実で。


スギタ「この家は、年中鍵をかけないのですか?」

オオノ「(驚いて)どうしたのスギタ……さん。珍しいですね。こんな時間に」

スギタ「携帯に、朝から何度も連絡したんですよ? また、寝ていたんですか?」

オオノ「……ごめんなさい。……書きはじめたら、夢中になっちゃって」

スギタ「ということは、出来たんですね」

オオノ「そう。お望みの品が、ね」



    オオノがスギタに原稿を渡す。
    スギタは恐る恐ると言った感じで受け取る。


スギタ「今回は、どういうお話なんですか?」

オオノ「思い出した事を、書いてみたの」

スギタ「思い出したこと?」

オオノ「なんで、私は物語を書くのか」

スギタ「…………」

オオノ「思いが詰まっているの。たくさんの、思い。
     独りぼっちの私だったから、せめて、私以外のみんなは、
     誰かを感じることが出来ますようにって」

スギタ「寂しい願いね」

オオノ「うん。知っている。でも、決めたの。この道を歩いていこうって」

スギタ「そうやって、あんたはいつも勝手に決めちゃうのよね」


    オオノは、スギタが言いたいことを分かっている。
    ただ、人間は言われないと不安になってしまう物なのだろう。
    スギタも、オオノが言って欲しいと思っていることを分かっている。
    恐らくそれが、2人の友情のあり方なのだ。


オオノ「私、自分勝手だから」

スギタ「本当に、勝手すぎるわ。……私は、そのたびに何度繰り返せばいいの?」

オオノ「なにを?」

スギタ「他の作家だったら、携帯に出ないくらいで、わざわざ来たりしないわよ」

オオノ「その代わり原稿を受け取れたじゃない」


    音楽がかかり始める(kiroroの「ベスト フレンド」)
    オオノは、スギタに背を向ける。そして、スギタは繰り返す。かつての台詞を。
    何度と無く繰り返してきた、友情の確かめを。


スギタ「馬鹿にするんじゃないわよ?」

オオノ「え?」

スギタ「編集員だから? 原稿のため? ふざけるんじゃないわよ。
     あんたみたいな引きこもりを訪ねたってね、給料なんて上がらないのよ。
     だけど、昔のヨシミで押しつけられていると思ったんでしょ? 
     おあいにく様、あたしはね、そんなくだらない女じゃないのよ!」

オオノ「……じゃあ、何で?」

    振り返るオオノ。
    2人の間に今はドアはない。けれど、2人は時を境にして向かい合う。

    音楽が高くなる。
    スギタが言った言葉は聞こえない。
    けれど、かつてドアを開けられなかった少女は、今度は照れてスギタを叩く。
    スギタも行った自分の台詞に照れる。
    照れ隠しなのか、スギタはオオノに原稿を読もうと誘う。
    椅子に座るスギタと、上から自分の原稿を見るオオノ。
    読んでいるスギタの後ろに、いつの間にか小説の登場人物が、笑いながら覗き込んでいる。
    スギタも、オオノも笑顔だ。

    救いは、簡単なところに転がっている。




※作品の中でkiroroとベートーベンが出てきますが、
  それは物語の主軸をベートーベンの音で演出し、
  ラストをkiroroにするための伏線です。