ヒトリボッチ? 2014年ver

登場人物
ヒトミ 本編の主人公。小説家らしいが最近スランプ気味。
トモダ 敏腕編集員。ヒトミとは友人だと思っている。
トツミ 小説の中の登場人物。(突っ走る変人・三枚目キャラ)
ヒジヨ 小説の中の登場人物。(格好つけヒール。二枚目キャラ)
セイナ 小説の中の登場人物。(消極的変身願望少女。貧乏人キャラ)
チエ 小説の中の登場人物。(ヒロイン系クール。美人キャラ)
カナエ 小説の中の登場人物。(ヒトミの根元。自己否定キャラ)
アキラ 小説の中の登場人物。(暴走ボケリーダータイプ。熱血キャラ)
ナツコ 小説の中の登場人物。(冷徹クール年上女性。ボスキャラ)
先生 小説の中の登場人物。(年上男性キャラ。)
ミノル 実況 

※作中に出てくる伏字付きの漫画作品や人物名は、あくまで一例です。上演する団体にとって、分かりやすいものに変更してください。

0 始まりはシリアスで

    舞台中央に椅子。
    ヒトミが椅子に座っている。手に持っている原稿用紙をじっくりと見ている。
    悩んでいる。なにかを書いては消し、消しては書いている。
    暗転と共に、すさまじい音量で音楽が流れる。
    九人(トツミ、ヒジヨ、セイナ、チエ、カナエ、アキラ、ナツコ、先生、ミノル)の姿。それぞれの手には懐中電灯を握っている。

トツミ 道を歩いていた。
ヒジヨ 何があるのかも分からずに。
セイナ がむしゃらに。
チエ まっすぐに。
カナエ 他人に決められた道は嫌だから。
アキラ 自分の道をただ歩いていた。
ナツコ これしかないと思っていた。
ミノル&先生 この道しかないと。
九人 だけど、どこまで進んでも道は真っ暗だった。

    懐中電灯の明かりが当たりをてんでバラバラに照らし出す。

九人 その道の果てで何を見つけたんだろう? 何を得たのだろう? 何を失ったのだろう? ……まだ、先は真っ暗。真っ暗だ。

    九人が一斉に懐中電灯の明かりをヒトミに向ける。そして明かりを当てたまま、ゆっくりと舞台を去る。ヒトミが原稿を読みはじめる。

1 小説を読む小説家

ヒトミ 悪の組織はもうそこまで迫っていた。あたりに響く弾丸の音。捕まれば死は免れない。死にたくない。死ぬのは嫌だ。そんな焦りの中、アキラとナツコは走っていた。

    緊迫した音楽と銃声の中、ナツコとアキラがその場で走っている。二人とヒトミは互いの存在を無視して物語は進む。

アキラ だから止めようって言ったんだ! ヤクザの事務所に潜入捜査なんて。
ナツコ 計画通りよ。
アキラ どこが計画通りだ! あいつら銃持っているじゃんか!
ナツコ 問題ないわ。

    ナツコはいつの間にかスキップしていたり。アキラは未だ必死に走っているが、何故かナツコに遅れだす。

アキラ なにが問題ないわだ! って早っ……負けるかぁ〜。
ヒトミ (と、銃声を入れたくなり)バキュウーン。

    途端、アキラが吹っ飛ぶ。肩を押さえるアキラにナツコが近寄る。

ナツコ 大丈夫?
アキラ いや、肩を撃たれた。俺はもうダメだ。お前だけでも先に逃げてくれ。
ナツコ あなたを置いていけるわけないでしょう?(と、言いながらアキラの首に手を回す)
アキラ ナツコ……(と、手に気づき)って、この手はなにかな?
ナツコ アジトの場所をばらされちゃ困るから。(と、ナツコがアキラの首を絞める)
アキラ まてまて、マジに首しまってるって。
ナツコ (と、笑って)ほらほら、だんだん赤くなってきた。
アキラ 死ぬ、死ぬ、死ぬ〜。
ヒトミ 駄目駄目駄目〜! 全然っ駄目!

    ヒトミの叫びとともに、2人の動きが止まる。

ナツコ え〜。だめぇ?
アキラ また、没かよ。
ヒトミ 駄目に決まっているわ。何? このストーリー展開。なんで、組織に追われている男女2人が首締めなんかしなくちゃならないの。誰、こんなの書いたのは!
ナツコ&アキラ あんただよ。
ヒトミ (聞いちゃいない)そうよ。あたしだよ。あたしの馬鹿馬鹿馬鹿! この馬鹿野郎!
ナツコ まぁ、失敗は誰にでもあることだから。
アキラ 書き直せばすむことだろ。
ヒトミ (聞いちゃいない)締め切りは直ぐそこだって言うのに、何でこんなにまとまらないの? ああ、あたし、スランプなんだぁああ。

    ヒトミがその場に崩れ落ちる。アキラとナツコが元気つけようとするが、聞こえてない。

ヒトミ だいたい、こんなハードボイルド書こうとしていたのが間違っていたんだ。そう! それよそれ!
ナツコ&アキラ どれ?
ヒトミ ハードボイルドなんて止め止め! やっぱり、私にはこんな話、無理だったんだ! てわけで、こんな主人公は消去!
アキラ うっそぉ。今更、俺消えるのかよ。
ナツコ ご愁傷様〜。
ヒトミ てことは、ヒロインも当然消えるか。
ナツコ えぇえ!? あたしも!?
アキラ 当然だろうが、馬鹿。
ナツコ 馬鹿馬鹿言ってんじゃねえよ。
ヒトミ また書き直しか〜。痛いなぁ……。

    ヒトミがぶつくさ言っている。アキラとナツコが無声演技で言い合い。
    と、いつのまにやらトモダが舞台に現れていた。

2 そして編集員登場

トモダ ヒトミ先生。
ヒトミ トモダ!?

    トモダの登場により、アキラとナツコは舞台奥に追いやられる。2人は、喧嘩の途中だったため、上手と下手にそっぽを向く。もしくは去る。

トモダ なにを一人でぶつくさつぶやかれてたんです?
ヒトミ なんでもないの。ちょっとね。
トモダ ヒトミ先生。
ヒトミ はい。
トモダ 前から言っていますけど、これは仕事ですから。
ヒトミ ……(と、気が付き改まった口調で)失礼しました。トモダさん。
トモダ それで? どうしたんです?
ヒトミ 本当、なんでもないです。ちょっと、新作の構想を。
トモダ と言うことは出来たんですね? 新作。
ヒトミ と、とんでもないです。まだ、アイデアくらいしか。
トモダ (溜息)ヒトミさん。
ヒトミ はい。
トモダ ここへまず座って下さい。
ヒトミ はい。
トモダ (と、ヒトミの代わりに椅子に座り)お前は床に決まっているだろう?
ヒトミ すいません。
トモダ ヒトミさん。『締め切り』って分かりますよね?
ヒトミ はい。
トモダ 破るとどうなるか分かりますか?
ヒトミ 本が出ません。
トモダ 出ないとどうなりますか?
ヒトミ お金が入りません。
トモダ お前のことはどうでもいい。
ヒトミ ……トモダ……さんが困ります。
トモダ そうです。私、困ってしまうんです。上司にいびられるし、印刷所には頭下げなきゃいけないし。
ヒトミ&トモダ だからとっとと書きやがれ。
トモダ (椅子から立ち上がって)……わかっているなら、早く原稿下さい。
ヒトミ 頭では分かっているんですけど……。
トモダ 分かっているけどなんですか?
ヒトミ ……分からないんだ最近。……自分がいったい何のために、なにを書けばいいのか……なにを書きたいのか……。
トモダ ヒトミ先生。
ヒトミ ……はい。
トモダ あなたにシリアスは似合いません。
ヒトミ えぇえ〜切り捨てないでよ〜トモダ〜。
トモダ だから、これは仕事だって言っているでしょ?
ヒトミ 堅いこと言わないでよ〜。本当、困っているんだから。
トモダ そんなこと言ってて、こないだ渡した資料、使ったの?
ヒトミ 資料?
トモダ あんたがハードボイルド書くのにいいネタないかって泣きつくから、渡したやつよ。あたし、あれ用意するために『後ろに立つと殺されちゃう、眉毛が太いスナイパー』な漫画、全巻読んだんだからね! 何巻あると思う!? 174巻もあったのよ! 3日間夜は漫画喫茶で、一日に約57巻も読んだんだからね! あんたあれ使ったの?
ヒトミ 使……ったよ。
トモダ その顔は絶対使ってないでしょ!
ヒトミ 没になりそうだけど。
トモダ というわけで、頑張ってくださいね。
ヒトミ なんで〜頼れるのはトモダしかいないんだよ〜。
トモダ あんた友だちいないもんね〜。
ヒトミ 友だちくらいいるよ。
トモダ 誰がいるのよ。
ヒトミ ……トモダでしょ。トモーダでしょ。トーモダ。
トモダ それ全部あたしじゃない。あのね。あんたは作家で、あたしはあんたの担当なんだからね?
ヒトミ そんなこと言わずにさぁ〜。あたしたち親友でしょ〜?
トモダ そうだったんだ?
ヒトミ ……ごめんなさい。
トモダ (溜息)とにかく原稿、あげてくださいね。
ヒトミ はい。
トモダ 今日はこれで失礼します……そうだヒトミ。
ヒトミ (期待して)なに!
トモダ 「チゲ鍋」ってあるじゃない? あの「チゲ」は「鍋」って意味らしいの。ってことは、日本語にしたら「鍋鍋」よね。
ヒトミ はい?
トモダ 無駄知識よ。小説のネタにでも使って。(と、去る)

    奥の方で、アキラとナツコが へー。とかやっている。ヒトミはトモダを見送ると、思わず椅子に座り込む。

ヒトミ なにに使えっていうのよ。(と、ため息)……書けるわけないよ。今の状況で……ほんとう、なに書いたらいいんだろう? 
   ……なにを書きたいんだろう、あたし。

    アキラとナツコはヒトミの様子に頷きあうと、二人してヒトミに近寄る。

3 現れた物語のキャラクター(ずっといたけど)

ナツコ 仕方ないわね。
アキラ 俺たちが、手伝ってやるよ。
ヒトミ な、なんですかあなた達は!? どっから!?
ナツコ どっからって……。
アキラ さっきからいたんだけど……。
ヒトミ いたってどこに!?
ナツコ だからぁ。……あー。説明めんどい。アキラ、任せた。
アキラ お前はいつもそれだ……つまり、俺らは……その、君のそばに、いつもいたんだYO……分かれよ〜。
ヒトミ はぁ?
ナツコ 馬鹿。そんな説明で分かる分けないだろ?
アキラ 何だよ! じゃあお前やってみろよ!
ナツコ しょうがない奴だな……ヒトミ、私たち見て何か気づかない?
ヒトミ あなたたちを見て?
ナツコ どこかで見たような気がするでしょう?
アキラ ずり〜。
ヒトミ ……そんな……だって、え!? なんで!?(と、持っていた原稿を見直し)……アキラと、ナツコ、なの。

同時に
アキラ そういうこと。
ナツコ 呼びつけにすんなよ。

    と、アキラとナツコはにらみ合い

同時に
アキラ&ナツコ 一緒に喋るなよ。

    が、ナツコの足がアキラの足を踏んづけていた。たまらず、アキラはナツコに会話を譲る。

ナツコ って、ことだから。まぁ、要するにあんたの小説のキャラクターなわけよ。あたし達。
ヒトミ だけど、そんなこと……。
ナツコ なに? 信じないわけ? なんなら実力で信じさせてやってもいいけど?
アキラ 止めろって(と、制して)いきなりは無理かもしれないけどさ。でも、あんた困っているんだろう?
ヒトミ 困っている?
ナツコ 作品が出来なくてよ。アイデア、出ないんでしょ?
ヒトミ ……そうなの。本当、出ない。もうお手上げ。
アキラ 安心しな。それをどうにかするために俺たちが声をかけたんだ。
ヒトミ どう言うこと?
ナツコ 自分でアイデアが出せないのなら、あんたが今まで書いてきた奴らに考えさせればいいって事よ。
アキラ その通り!

    途端、舞台袖からマイクのようなものが飛んでくる。アキラはそれを素早くキャッチして。

アキラ さぁ! では、小説の登場人物の皆さん! いらっしゃーーーい。と、ここで音楽♪。

    音楽がかかる中、アキラの言葉に誘われるように、色々な所から、トツミ、セイナ、ヒジヨ、チエ、先生、カナエ現れる。
    トツミは変な格好。セイナは庶民的。ヒジヨは金持ち風。チエは女子高生ルック。カナエは寝間着。
    そして先生は先生と分かる格好(スーツの上に白衣とか)で、見た感じ出オチキャラ。

アキラ はい皆さん整列整列ー。
ナツコ 適当に並びな。
アキラ お前またそんなことを……。
ヒトミ そんな……こんなのって……夢、そうか、わたし夢を見ているんだ。
アキラ 夢ぇ?
ナツコ 仕方ない奴ねぇ。……立て。

    思わずヒトミが立ち上がると、ナツコはヒトミを舞台前まで連れていく。

ナツコ トツミ、ここに立て。

    反対側にトツミを立たせる

ナツコ 殺れ。
トツミ ヒトミ〜♪。

    言われたトツミは嬉しそうにヒトミに抱きつこうとする。いきなり入るスローモーション。
    が、ヒトミに着く寸前に、ヒトミがトツミを殴り飛ばす。スローモーションが解ける。

ヒトミ 拳が痛い……夢じゃない。
ナツコ よし、じゃあみんな集合。……ヒトミ、号令。
ヒトミ 号令!? ……えっと、気をつけ……休め。
ナツコ 違うだろ? お前の号令はそうじゃなかっただろ!?
ヒトミ え?
ナツコ 野郎共、気をつけ。(ヒトミに)お前もやるんだよ……(へー○ルハウス風に)ハーイ。
ALL (へー○ルハウス風に)ハーイ。

    思わずヒトミもやってしまってから、恥ずかしさに気づく。

ヒトミ な、なにやらせるのよ!
アキラ いや、結構様になってた。なぁ?

    他の登場人物は皆頷いていたり。

ヒトミ 全然嬉しくない!
ナツコ 忘れてしまったんでしょう?
ヒトミ え?――。
ナツコ だから書けなくなったのよ。

    間

ナツコ アキラ。
アキラ え?
ナツコ 後は任せた。
アキラ はい?
ナツコ あたし疲れたから。向こうで休んでる。解決しそうになったら呼んで。
アキラ お前なぁ。呼ぶだけ呼んでおいて後は俺任せって、そう言うことですか?
ナツコ うん。

    と、ナツコ去る。

アキラ うっわぁ……(気を取り直し)それでは皆さん、ご着席下さい。

    アキラの言葉に、キャラクターはその場に思い思いに座る。
    ヒトミはおずおずと自分の椅子に座り直す。

アキラ 本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。小説家ヒトミカナエが、再び作品を書けるよう、小説の登場人物の皆様には、ご協力をお願いいたします。

    アキラの言葉に、6人は思い思いに、了解のサインを出す。

ヒトミ 小説のキャラクターが私を助ける? そんなの、無理よ。
アキラ 無理かどうかはやってみないと分からない。一応、ここにいるのはあんたの小説では代表的なキャラばかりなんだから。
ヒトミ 代表的なキャラクター? ……あれだけは納得いかない!(と、トツミを指す)。
トツミ え〜そんなぁ。
アキラ わかるけどさ、わかるけど、残念ながらこういう作品も書いているわけよ、あなた。バカっぽくて、なにしでかすか分からない三枚目キャラって、良く出すでしょ?
ヒトミ そういえば……。
アキラ そんな感じで、どんなに小説が変わっても似ているキャラクター。それが俺たちなわけ。
チエ 野球漫画でよくあるでしょう? 登場人物の顔が毎回同じな、(あ○ち充)とか(川三○地)の作品みたいな。

    途端に、( )の部分にミノルによる音声での 「ぴーー」。音が入る。

ヒトミ なに? 今の音。

    と、舞台のどこかにミノルが現れる。

ミノル ただいま、著作権的に不適切な表現があったことをお詫びします。
アキラ 実況兼解説のアナウンサー・ミノルだよ。良く出すだろ?
ヒトミ ああ、そう言えば……。
セイナ ゲームでも、よくあることよね。顔が違っても、(○○)シリーズなんて、毎回似たようなキャラがちらほら出てくるし。

    再び ぴーーー。音が入る。

ミノル ただいま、著作権的に
ヒジヨ そんなこと言ったら、青山(剛○)の名探偵(コ○ン)と、マジック(か○と)の主人公なんてもう、(そっくり)。

    さらに ピーー。が入る。

ミノル た、ただいまの。
トツミ だったら、だったら。
カナエ いい加減、止めれ。
トツミ そんなぁ。
カナエ くどい。
トツミ はい。
カナエ (アキラに)さっさと続けて。
アキラ はいはい。まぁ、そんなわけでここにいるキャラクターは、それぞれあんたの作品に良く出てくるキャラクターなわけだ。ちなみに俺は、『暴走ボケ、リーダータイプ』で、今回は、アキラなわけだよな。
トツミ そして私はトツミ! 
カナエ 自己紹介なんて無駄。
トツミ はい……。
アキラ じゃあ、さっそくだが、お前ら、この小説家にアイデアを提供してやってくれ。はっきり言って、俺はない!
チエ 威張る事じゃないと思います。
アキラ すいません。
トツミ はい! じゃあ、一番私。
アキラ え〜。
トツミ そんなぁ。
セイナ 一応やるだけやらせるのも、大切だと思うけど?
アキラ なるほど! じゃあトツミ。誰を使う?
トツミ じゃあ、(と、チエに触れ)この子と、先生で。
チエ 私ですか?

    言われると、それ以外の面子(アキラ含まず)は、舞台から思い思いに去っていく。
    観客席が空いているなら、観客席に降りて行っちゃってもいい。ヒトミは所在なさげに椅子に座っている。

先生 …………?(無言で、自分ですか?という顔をしている)。
トツミ 嫌なんですか? 先生。
先生 (勘弁して下さいのジェスチャー)。
チエ あの、私も……。
トツミ そんなぁ。だって、先生、まだ一度も喋ってないじゃないですか。
先生 (いや、無理だよ無理のジェスチャー)。
トツミ え〜。
アキラ トツミ。
トツミ はい?
アキラ 先生に無理をさせるな。先生は、ここにいるっていう、それだけでネタなんだ。
トツミ あ、ネタだったんだ……。
先生 (微妙にショックを受けている)
トツミ じゃあ、チエ、行こう〜。
チエ あの、私も(嫌なんだけど)。
トツミ なに?
チエ ……分かりました。

    トツミとチエが去る。

アキラ 先生。
先生 ……?
アキラ (あくまで笑顔で)なにやっているんですか? トツミが待っていますよ?
先生 (結局出るのか!?)。
アキラ え? 出ない分けないでしょう? どうぞ。

    アキラが言う言葉と共に、先生はトツミが行った方向へ仕方なさそうに走り去る。

アキラ では、スタート!(と、舞台隅へと移動する)

4 戦争小説 君を永久に忘れぬ(笑)。

    音楽が鳴り響く。戦争している感じ。ミノルが現れる。紙芝居のような物を持っている。ミノルの言葉に合わせてアキラも手伝い、紙は捲られる。

ミノル 時は20014年。(と、めくり2枚目)日本は、(と、3枚目)ア、メーリカに。(と、4枚目) 攻められていた。
  (と、5枚目)そして今!(と、6枚目)『最終回好き兵器フェチ彼氏持ち女が。(紙芝居上の太字は小さい。声は大きく)
  (と、7枚目)動き出す!

    チエが現れる。真面目風。なぜか、服装には似合わない銃器を下げている。その後を追うように所帯じみた格好のトツミが出てくる。

トツミ チエ! ……行っちゃうの?
チエ (頷く)。
トツミ なんで? なんであんたが行かなくちゃいけないの? チエが行けば、この戦争は止まるの!?
チエ そんなことわからないですよ。敵は手強いですから。
トツミ だったらなんで……なんであんたが行かなくちゃいけないの?
チエ ……私は戦うすべを知っていますから。
トツミ でも、あんたは女でしょう!?
チエ 男だとか女だとか……そんなことを言っていたらこの国は無くなってしまうんです。
トツミ こんな国が無くなったって!
チエ トツミ先輩!……それ以上は言わないでください。この国が無くならないよう犠牲になった人たちがいるんです。
トツミ ……そして、あんたもその一人になろうとしているんでしょう?
チエ ………先輩と過ごした高校生活は楽しかったですよ。戦うことしか知らなかった私がいつの間にか、戦術ではない笑顔を作れるようになったんです。感謝しています。
トツミ その笑顔で、人を殺せるの?
チエ ……殺します。それがこの国を守るためならば。
トツミ そんなことのために、私はあんたと仲良くなったわけじゃない!
チエ ……先輩。この国を守るって言うことは、あなた達を守るって事なんです。
トツミ え?
チエ 私は国家だとか、国旗だとか、そんな物は関係ないんです。……この国の人が好きです。だから守りたい。それだけなんです。
トツミ チエ……。
チエ ……さぁ、いつまでも隠れていなくて大丈夫ですよ。もう、別れの挨拶はすみましたから。

    チエの言葉に、トツミは思わずチエの視線の先を見る。が、先生がその反対側から登場する。手に持った拳銃を背に隠し持っている。

先生 ……ごめん。出る場所間違えた?
トツミ そっちかよ!?
チエ (気を取り直して)……アサヒ先生。まさか、あなたが迎えに来てくれるなんて思ってませんでしたよ。
先生 ナンバー03、行く決心はもう付いたんだね?
チエ はい。
トツミ チエ! 本当に、本当にいいの? だって、あなたには!
チエ 先輩! ……伝言をお願いできますか?
トツミ チエ……。
チエ あの人に……伝えて置いて欲しい言葉があるんです。
トツミ ……駄目よ。
チエ え?
トツミ 帰って来るんでしょう? だったら、自分で言えばいいじゃない。
チエ ……そうですね。そうします……(先生に)行きましょう。
先生 03……そうだな、行くとしよう……しかし、戦場ではないが。
チエ え?

    先生はチエの一瞬の隙をつき、隠していた拳銃でチエを撃つ。アキラとミノルは紙芝居を一枚めくる。八枚目 「!?」ミノルとアキラは去る。
    銃声と共に、信じられない物を観る顔でチエは先生を見る。

チエ なにを……。
先生 君が戦場に出れば、劣勢だったこの国が少しは持ち直してしまうかもしれないだろう? それでは困るんだ。
チエ そんな……。(と、倒れる)
先生 やっとこの国が無くなるチャンスなんだ。悪いが、邪魔はさせない。(と、去る)
トツミ チエ!
チエ 先輩、結局、こんなものなのかも知れませんね?
トツミ だめ、喋っちゃ……なによこの血……。
チエ 無駄です。……通常ならショック死のレベルですから……。
トツミ 血、血を止めれば。
チエ 楽しかったですよ。先輩と一緒で。
トツミ 何か止血できるモノは!?
チエ あの人もいて、楽しかったなぁ。
トツミ チエ!
チエ 死にたくないですよ、先輩。
トツミ ……。
チエ あたし、死にたくないです。……まだ、やれることたくさんあったのに、たくさん……死にたくないよぉ。

    チエ、トツミに抱きつくように目を閉じる。

トツミ なんで。なんであんたが死ななくちゃいけないの? なんで、こんな戦いが……なんで、なんで!
ヒトミ 駄目! 駄目駄目! だめぇ!!
トツミ ……なんで、駄目なの〜。

    気が抜けたようなトツミ。そして、腕の中のチエが目を開けて飛び起きる。

5 そして現実@

チエ トツミさん、唾飛ばすの止めてください。
トツミ 酷いっ。
アキラ (と、舞台に現れ)え〜。結構いい話しだったと思うけどなぁ。
ヒトミ どこが? いい!?とりあえず、あんた達ここに座りなさい!

   ヒトミの前にチエとトツミ集合。

ヒトミ あの先生は?
アキラ 俺が見てくるよ。

   と、舞台から去る。

ヒトミ&トツミ&チエ 逃げたな。
ヒトミ 所詮男なんて……とにかくあなた達ね。私の小説で人を殺すな!
トツミ だって、その方が感動的だと思って。
チエ あそこで、私が死ぬことによって、物語が、盛り上がるかと。
ヒトミ 盛り上がっても駄目! いい! 私の精神はね、これよ!

    途端に、音楽がかかる。「HERO」の「駄目な映画を盛り上げるために〜違う僕らが見ていたいのは」あたりまで。
    音響は徐々にFO。

チエ いいんですか? こういうのやっちゃって。
トツミ さぁ?
ヒトミ ね? わかる? 感動を作るために、泣かせるために人を殺すなんて、そんなの単純すぎるでしょ!? 死にそうな人がいたら、泣きたくなるじゃない!? 感動しなかったら冷たい人間なような気がするじゃない!? でも、そんな理由で殺される方の身にもなってみなさいよ!
トツミ&チエ はぁ。
ヒトミ 『はぁ』じゃない! そんなことも分からないで、私の小説のキャラクターだなんて、認めないわよ!
トツミ だって、小説の中でそんなこと言ったことないし。
ヒトミ 言わずとも分かれ!
チエ それに、今時流行らないと思いますけど。
トツミ 結局感動する話って誰か死ぬし。
ヒトミ 流行る流行らないは関係ない!

    と、そこへヒジヨがやってくる。無駄に豪華な恰好。

ヒジヨ どうやら、あたしの出番のようね!
ヒトミ あなたは?
ヒジヨ シャラップ! お黙りなさい。愚民が私に名を問うというの?
トツミ ヒジヨ〜。助けに来てくれたの〜。

    と、ヒジヨは抱きつくトツミを突き放しつつ、

ヒジヨ これから、あたしのアイデアを披露してあげる。だから、あんたはそこの席に座ってとくと見てなさい!
ヒトミ わ、わかった……そういえばあの男は?
ヒジヨ ああ。アキラは、今先生を慰めているわ。
ヒトミ 慰めている?
ヒジヨ 登場場所を間違えたのを気にしているのよ。あんた達がうまくフォローできなかったせいで!
トツミ 別に私は。
チエ すべてはトツミの責任で、私は悪くないです。

    言うと、怒って舞台を歩いていってしまう。

トツミ ちょっと、チエ〜。
チエ 触るな下手くそ。
トツミ あんなに、心を通わしたじゃん♪。
チエ いつ?

    チエが去る。

トツミ そんなぁ〜。

    トツミも去る。

ヒジヨ 邪魔者がいなくなったところで始めるわよ? プリーズ、座れ。
ヒトミ は、はい。

    ヒトミはヒジヨの勢いに押されて座ってしまう。

ヒジヨ ミュージック、スタート!

    途端に、新しい物語が始まる。


6 ホラー小説 サ○コさん飯はまだかいの?

   少女スタイルのセイナが舞台にやってくる。

セイナ うっわぁ。ヒジヨさんの部屋って、すごくキレイ!
ヒジヨ 当たり前でしょ? あ、た、しの部屋なんだから。
セイナ いいの? あたしなんかがお邪魔しちゃって。
ヒジヨ 何を言ってるの? セイナが入ったから私の部屋が少し汚れるかもなんて、あたし、全然気にしないわよ。
セイナ 大丈夫。ちゃんと、服の埃も落としてきたから。
ヒジヨ あっそう。それでも落としたんだ。
セイナ ……でもなんで今日は呼んでくれたの?
ヒジヨ 見せたい物があるのよ。
セイナ 見せたい物?
ヒジヨ いいからあなたは座ってて。セバスチャン!

    舞台にアキラがちょっとだけ顔を出し。

アキラ お嬢様、セバスチャンは、やる気がないでございます。
ヒジヨ 入れなさい!
アキラ 無理〜。
ヒジヨ じゃあ、(と言って、逆方向を見て)ボブ!

    と、ミノルが何かを食べながら出てくる。(本物でなくていい)

ミノル お嬢様、ボブは、ちょっと今手が離せません。
ヒジヨ 舞台の上でものを食べるな!
ミノル そんなこと言ってもお腹すいちゃって。(と、言いつつ去る)
ヒジヨ 役立たずね……じゃあ、ばあや!

    一瞬の沈黙。瞬間、ヒジヨはヒトミを睨む。

ヒジヨ ばあや!
ヒトミ え? あたし?
ヒジヨ 人がいないんだから仕方ないでしょう!? ばあや。テレビを持ってきて。
ヒトミ え? この部屋テレビ無いの?
ヒジヨ 今は置いてないでしょ。そんなことも忘れたの?
ヒトミ いや、知らないし。
ヒジヨ いいから、持ってきなさい。
ヒトミ はい……。

    ヒトミ、勢いに飲まれて舞台から去る。

ヒジヨ しばらく待っていてね。今、ばあやがテレビを持ってくるから。
セイナ 見せたい物って、テレビなの?
ヒジヨ 馬鹿ね。テレビなんて見せてどうするのよ。

    ヒジヨがそう言って手を挙げると、ビデオが袖から飛んでくる。

ヒジヨ これよ。
セイナ ビデオ……しかも、今時VHS!?(はっと思いつき)もしかして。いやよぉ、ヒジヨさん。あたし、そんなの見せられても困っちゃうって言うか〜。
ヒジヨ 何を言っているの?
セイナ あ、でも、興味がないわけじゃないのよ。なんて言うのかなぁ。やっぱり、そういうのって気になる年頃じゃない?って、言わせないでよ、エッチ!
ヒジヨ 暴走するな!

    ヒジヨはセイナを叩いて現実に戻し、

ヒジヨ セイナさん、「呪いのビデオ」って知っているでしょ?
セイナ え、私そういう裏ものの作品には全然詳しくないから。
ヒジヨ いい加減そっちの方向から離れなさい!
セイナ はい……「呪いのビデオ」って、じゃあ、あの、見たら一週間で死んじゃうとか、そういう?
ヒジヨ やっとまともになったわね。そう。その「呪いのビデオ」セイナさんって、ホラー好きよね?
セイナ 読むのは好きだけど。
ヒジヨ これ、本物の「呪いのビデオ」なの。
セイナ ……やだぁ、ヒジヨさん、冗談きついよ。
ヒジヨ このビデオもね、見た人が七日目に死んじゃうのは同じなの。
セイナ 本当なの?
ヒジヨ ビデオの内容は、ちょっと昔のホラー映画のパクリみたいに井戸が写り続けているだけなんだけどね。
セイナ 詳しいんだね。ヒジヨさん。
ヒジヨ 私も、見たのよ。そのビデオ。
セイナ ……いつ?
ヒジヨ (軽く笑って)八日前。

    セイナは一瞬意味が分からずにきょとんとし、直ぐに今まで言っていることがヒジヨの嘘だったと思う。
    が、観客にはヒジヨの表情から、その言葉だけが嘘と思わせる。

セイナ ヒジヨさんってば、冗談きっついよ。
ヒジヨ だからさ。ネタとして見ておいても面白いかと思って♪。
アキラ お待たせいたしました。

    ヒジヨの言葉が終わる頃にでかいブラウン管なテレビをキャスターの上に載せアキラが現れる。
    なんだか、真ん中に切れ目があるような気がする。そこから何かが出てくるような……そんな不思議なテレビだ。
    一瞬、セイナはビックリする。ヒジヨは覚悟を決めた顔で。

ヒジヨ 遅かったじゃない……ばあやはどうしたの?
アキラ さぁ? 会いませんでしたが。
ヒジヨ そう。テレビは、いいわ。そこら辺に適当に置いておいて。
アキラ はい。(と、テレビを置き)ほらよ。

    と、コントローラーをヒジヨに投げつけてから出ていく。

ヒジヨ 使用人の分際で。
セイナ うわっ態度悪っ。
ヒジヨ さぁ、じゃあ、ビデオを見ましょう。椅子持ってきて座りなさい?
セイナ うん。

    と、セイナは端に置いてあったヒトミの椅子を持ってくるが、ヒジヨが座る。

ヒジヨ ありがとう。
セイナ え?
ヒジヨ さぁ、座って良いわよ。
セイナ あ、床なんだ……。
ヒジヨ (セイナが座ったのを確かめてから)では、見ましょう?

    スイッチを入れる動作と共に音楽が始まる。どうやら映像はどうしようもないほど退屈な物らしい。

セイナ うわぁ……本当に井戸だね……。
ヒジヨ …………ごめんなさい。
セイナ なにが?
ヒジヨ このビデオ、友達から見せてもらったんだけど、その友達は従姉妹と、その彼氏とビデオを既に見た後だったのよ。
セイナ もしかして、その人たち……?
ヒジヨ (頷いて)私、このビデオを見たの、本当は七日前なの。
セイナ じゃあ!

    途端、音楽が変わる。緊迫感を含んだ音楽。そしてテレビ(?)が揺れる。

セイナ なに? これも冗談なの!?
ヒジヨ 違う……なんで? もしかして、もう……。
セイナ やだ! 私は関係ない!
ヒジヨ 待ってよセイナさん! 友達でしょ!
セイナ こんな時ばかり友達なんて言わないでよ!
ヒジヨ 仕方ないでしょ、怖かったんだから!
セイナ 開き直らないでよ! 死ぬなら一人で死になさいよ!
ヒジヨ 友だちを見捨てるの!
セイナ だから友だちなんかじゃないもん!

    2人が話しているうちに揺れがどんどん大きくなる。そして、テレビが二つに割れ、中から貞○の格好をしたヒトミが出てくる。

ヒジヨ&セイナ (悲鳴)。

    ヒトミはゆっくりと奇声を挙げながらテレビを出てくる。まるで、テレビの○子のように。
    そして、十分に貞○モードを堪能したあげく、おもむろに叫ぶ。

ヒトミ って、なんじゃいこれは!

    音楽が止まり、井戸が落ちる。

7 そして現実A

ヒジヨ&セイナ 駄目?
ヒトミ 駄目って言うか、どうしようもないって言うか、てか、何であたしが幽霊やってるのよ!
セイナ ちょっとはノっていたくせに。
ヒトミ そりゃあ、楽しかったから〜って、そういうことじゃない!
ヒジヨ 確かにあんたを使っちゃったのは悪いのかも知れないけど。なに? あたしのアイデアに文句があるの?
ヒトミ ありありよ! 今時、ホラーなんて流行らないんだよ!
ヒジヨ 流行らないですって……。
セイナ さっき、流行りなんて関係ないって言ったくせに!
ヒトミ それとこれとは話は別。だいたい、今時「呪いのビデオ」って。……はん(鼻で笑う)。
セイナ 酷い〜。

    セイナは泣きながらテレビをかたしつつ舞台を逃げる。

ヒジヨ あ! こらセイナ!……(ヒトミに)どうせ、自分ではアイデアも出せないくせにえらそうに!
ヒトミ うるさい! 私だって書こうとは思っているのよ。
ヒジヨ 思っても、書けなきゃ意味がないのよ。
ヒトミ 分かっている……分かっているけど……仕方ないでしょ! 分からないんだから。私の書きたい物が出てこないのよ!
ヒジヨ あなたは、忘れてしまっただけでしょう?
ヒトミ 忘れた?
ヒジヨ 何であなたは小説を書いているの?
ヒトミ 何で……?
ヒジヨ 小説家になって、何年も経って……そのうちに、あなたは忘れてしまったのよ。なんで、あなたが私たちを生んだのか。
ヒトミ なんで……?

    ヒトミは悩むが、思い出せない。それほど、時は残酷に彼女の思い出を消していた。と、そこにカナエとナツコが現れる。
    ナツコは制服姿。

ナツコ 悩んだって、仕方ないんじゃない? 思い出せないんだから。
ヒジヨ 次はあなた達?
ナツコ そういうこと。
カナエ 別に、やりたくないけど。
ヒジヨ そう……じゃあね、小説家さん。(皮肉に)アイデア、浮かぶといいわね。

    ヒジヨが舞台から去る。カナエは舞台に崩れるように座り込む。

ナツコ どうしたの?
ヒトミ 何か、忘れているのよ。
ナツコ 大事なこと?
ヒトミ きっと……それさえも、忘れてしまっているの。
ナツコ じゃあ、物語を始めましょう? 忘れてしまった物を取り返すために。
ヒトミ そうすれば、私は書けるようになるの?
ナツコ さぁ?
ヒトミ さぁって……。

    ナツコが言いながら、カナエの反対側に立つ。ヒトミが椅子に座る途端、音楽が始まる。


8 青春小説 君を外に連れ出したくて。

    膝を抱える少女、カナエ。学校からのプリントを持ったナツコは、自分の気持ちを落ち着けるように深呼吸をする。
    そこは、カナエの家。ナツコはゆっくりとカナエに近づく。
    カナエが背を傾けている場所。そこにドアがあるようだ。ヒトミは2人の状況を見ているうちにはっとする。

ナツコ ……起きてる?
カナエ ……またなの?
ナツコ うん。また来た。
ヒトミ ……!……これは……。

    ドアらしきところをナツコはノックする。びくりとカナエが反応した。

ナツコ 今日はね、プリントを持ってきたの……良かったら、開けてくれる?
カナエ プリントなんていらない。
ナツコ ……まだ学校に行く気無いの?
ヒトミ やめて。こんなの見たくないわ。
カナエ 帰って。
ナツコ みんな、あなたが来るのを(「待っていると思うよ」)

ヒトミ&カナエ 止めて。

ナツコ ……。
カナエ 誰も私の事なんて待ってなんかいないわよ。
ヒトミ 止めて……。

    ヒトミは耐えられなくなって耳をふさぐ。ようやく彼女は思い出す。

ナツコ そんなこと。
カナエ あるでしょう? 私なんていつも一人なんだから。
ナツコ ……。
カナエ 大変だよね? 学級委員って。
ナツコ ……。
カナエ 内申点のためとはいえ、先生の言うこと『はい、はい』って聞いて。
ナツコ ……。
カナエ いいよ? プリントなんてポストに入れて置いてくれれば。いいじゃない。先生には、『学校来るよう言っておきました』って言えば。どうせ、分からないんだし。
ナツコ ……。
カナエ 分かったら帰って。
ナツコ 馬鹿にするんじゃないわよ!

    ナツコがドアらしきところを叩く。びくりとカナエが反応した。

カナエ え?
ナツコ 学級委員だから? 内申点のため? ふざけるんじゃないわよ。あんたみたいな不登校児を訪ねたってね、内申点が良くなるわけ無いのよ。だったら、学級委員だから押しつけられているとでも思った? おあいにく様、あたしはね、そんなくだらない女じゃないのよ!
カナエ ……じゃあ、何で……。

    振り返るカナエ。ドア越しに、2人の少女が見つめ合う。

ナツコ あんたが……あんただから……心配なのよ。それだけよ!
カナエ …………トモダ……。
ヒトミ いい加減止めなさい!

9 そして現実。蘇った過去

    ヒトミはカナエとナツコを睨み付けながら椅子から立ち上がる。

ヒトミ こんな物を……こんな物を私に見せて、どうしようって言うの?
ナツコ 言ったでしょう?
ヒトミ 思い出したわよ! ……思い出したわよ……最低な自分を。でも、それは、思い出さなきゃいけないことだったの?
ナツコ どうやらまだ忘れているようね。

    ナツコは言いながら舞台を去る。

ヒトミ 私が知りたいのは小説のアイデアよ! こんなくだらない過去の思い出じゃない!
カナエ いいのよ。無理に思い出さなくても。
ヒトミ え?
カナエ 忘れたいなら、忘れていればいいでしょう? あなたの中の私を殺して、それで生きる方が幸せなら、そうすればいいじゃない。
ヒトミ あなたを殺す?
カナエ 私を否定するって事はそう言うことでしょう?
ヒトミ あなたは、誰なの?
カナエ 私は……昔のあなた。
ヒトミ 私……。
カナエ 弱いあなた。醜いあなた。たった独りでうずくまってた。冷たいフローリングの上で、体育座りで爪を噛んで。ドアが叩かれるのを待っていたのに、叩かれたら怯えたあなた。
ヒトミ 止めて……思い出させないで。
カナエ 書きたい物が分からない? 笑わせないで。私を忘れたあんたに、小説を書く理由なんて無いのよ!
ヒトミ 昔の自分に、お説教なんてされたくない!
カナエ そう…………そんなに私を消したいのなら、望み通り消えてあげる。忘れてしまえばいい。なんで、自分が物語を書くのかなんて!

    カナエ逃亡。観客席をつっきって去る。ナツコが現れる。元の格好に戻っている。

ナツコ あーららこらら。いーけないんだいけないんだ♪。
ヒトミ 別に、あっちが勝手にキレて、勝手に出てっただけじゃない。

     と、舞台にトツミ、ヒジヨ、セイナ、チエ、アキラが現れる。トツミ、ヒジヨ、セイナはなぜかレンジャーものの格好。
     が、あきらかにトツミの格好はコスプレっぽく、ほかの二人も、なんだかコスプレっぽい(が、ほかの二人は少しは似合っている)
     アキラは右手に、 先生。と書かれた名札を持つぬいぐるみを持っている。歌いながら5人は入ってくる。そして、ヒトミを囲む。

5人  あーららこらら。いーけないんだいけないんだ。
ナツコ ヒートミが、悪い。先生に、言ってやろ。(この間ほかの5人は あーららこらら。を繰り返している)
アキラ (ぬいぐるみに)先生、ヒトミさんが自分で自分をいじめているんです。(ぬいぐるみを口に持っていって)『それはいかんなぁ。自慰行為もあんま誉められないが、自傷行為はもっといかんよ。』

    ナツコも5人に加わり、

6人  あーららこらら。いーけないんだいけないんだ。

    と、アキラ、トツミ、チエ、ヒジヨ、ナツコ、セイナと 「いけないんだ〜。」を半音ずつあげていく。全員が言ったところで、

6人  デユ、ワーー。

    と、やってみたり。

ヒトミ 分かったわよ! どうせ私が悪いのよ! だからって、どうすればいいって言うのよ!
アキラ (ぬいぐるみの声真似で)追えばいいだろ?

    ヒトミがアキラを睨む。アキラはぬいぐるみを持って知らん顔。ヒトミが他の人間を見る。他の人間も知らん顔。

ヒトミ わかったわよ!

    ヒトミも観客席を突っ切って外へと出ていく。


10 主役のいない舞台。

    ヒトミの去った舞台では、ぼんやりとヒトミの去った方向を6人が見ていた。

チエ 行きましたね。
アキラ やっと、な。
セイナ 長かった茶番も、これでおしまい。か。
ヒジヨ いいじゃない。楽しかったから。
アキラ そうそう。たまには作者じゃなくて、俺たちが物語を作ってもいいよな。
ナツコ まぁ、私たちが元々ヒトミカナエみたいなものだしね。
アキラ バカ。それをいっちゃあさぁ。
ナツコ 大丈夫。ヒトミ、走っていっちゃったんだから。
アキラ そっか。
ナツコ で、あんた達三人の格好はなんなわけ?

    ナツコの言葉に、トツミ、ヒジヨ、セイナの三人は、ヤケに嬉しそうに胸を張る。

トツミ よくぞ聞いてくれました♪。
ヒジヨ 正直、つっこみが無いのが不安だったけど。
セイナ どうせ物語するなら派手な方がいいじゃない? それで、これよ。

    と、いきなり派手な音楽がかかる。派手に踊った後、ポーズをそれぞれ取って、

ヒジヨ 炎の貴公子! ジェントルメン・レッド。
セイナ 緑の疾風! カゼレンジャー・グリーン。
トツミ お色気ピンク ミュジカレンジャー・ピンク。
三人  三人あわせて。

同時に
ヒジヨ スリー・ジェントルメン。
セイナ 風雷戦隊・カゼレンジャー。
トツミ 自由楽隊・ミュジカレンジャー。

ヒジヨ ミュジカレンジャーだぁ?
トツミ カゼレンジャーってなによ?
セイナ ジェントルメンって、女ですらないし。

    三人、すさまじい言い合いを始める。

ナツコ ちょっといい?
三人  なによ!
ナツコ 頑張って主張しあっているところ悪いんだけど、誰に見せるの?
三人  誰にって…………あ!
アキラ ヒトミ、走ってっちゃったからねぇ。
トツミ せっかく着替えたのに。
チエ 無駄ですね。
トツミ チエ〜。ちょっとはフォローしようよ。
チエ (笑顔で)触るな。
アキラ しかし、作者がいないって事はだよ? これは、つまり自由って事だよな!
5人  そう言えば。
アキラ よし。せっかくだから俺たちの中から作者を立てちまおうぜ。そして、そいつがオチを決める!
ナツコ オチって?
アキラ 決まってるだろう? この物語のだよ。
ナツコ 仕方ないわね。(だったら私がやるわ)
トツミ じゃあじゃあ、私! 私がやる!
セイナ いや、ここは私が。
ヒジヨ 私に任せなさい。
アキラ おいおい、こういうのは言いだしっぺがやるもんだろ。
チエ これじゃ、誰を作者にするか決めらないんじゃないですか。
ナツコ あたしたちで決められないなら、違う誰かに決めてもらえばいいのよ。
アキラ だな。……てなわけで、第一回! 小説家決め大会〜。

EX 小説家決め大会

    音楽と共に、舞台の端にミノルと先生が現れる。
    その間にキャラクターはじゃんけんで順番を決める。チエは一人隅に離れる。
    ※ 観客を巻き込んで楽しく。

ミノル はい。始まりました。
ミノル&先生「第一回小説家決め大会」
ミノル これから、各キャラクターには、どういうオチにしたいかをアピールしてもらいます。その後、この物語をご覧のあなたに、
先生 (と、観客へ)あなたに、
ミノル オチにふさわしいと思うキャラクターを決めてもらう。と、こういう流れになっております。物語の最後を決めるのはあなた。
先生 あなた。
ミノル あなたです! 実況はわたくし、アナウンサーミノルと、
先生 解説の先生です。
ミノル さあ、ではどんどんまいりましょう。まず一人目の作者候補はこの男。アキラです。
先生 トップバッターです。
アキラ 俺が目指すオチはずばり熱い終わりだ。飛び散る汗、握られる拳。これから先の戦いを想像させるような、そんな終わり方がいい。
ミノル 力強いアピールでした。
先生 ストロング。
ミノル つづいてはこの人、トツミ!
先生 二番目です。
トツミ 古今東西、あらゆるまか不思議物語を終わらすのに適した終わり方、それこそ、夢オチ。 どんなめちゃくちゃなストーリーでも、ものの見事に終わらせられる。そんな夢オチを私はやりたい! 夢〜(と、歌いだす)
ミノル はい。いい歌でしたね。
先生 グッドソング。
ミノル 三番目は、ミス・セイナ!
先生 どうぞ。
セイナ 物語は明るい終わりが一番。みんなで笑って、笑顔のまま終わりを迎える。そんな最後がいいと思う。というわけで、私は笑いオチを押します。
ミノル 笑顔になれそうなオチですね。
先生 スマイリング。
ミノル さあ、どんどんいきましょう。次はこの方!
先生 ヒジヨ!
ヒジヨ あたしは思い出オチを推すわ。全てを思い出にして、過去の出来事にしてこそ終わったという感じがするものよ。私は、「あの頃は大変だったね。でも、いい思い出だよね」なんて感じる終わりがいいわ。
ミノル 大事ですよね。思い出。
先生 メモリーズ。
ミノル いよいよ最後です。ラストはこの方、
先生 ナツコ!
ナツコ 全ては虚構。実は全部舞台のお話でした。なんて終わり方がいい。そういう、もしかしたら今ここにいる私たちも全部舞台のお話なんじゃないか。なんて終わり方。こういうのなんて言うの? 演劇オチ?
ミノル さあ、以上の中からどのキャラクターを作者にするか、みなさんに、
先生 みなさんに、
ミノル 決めてもらいたいと思います。キャラクターの名前を呼びますので、「このオチがいい」と思ったキャラクターに拍手をお送りください。拍手を多く受け取れたキャラクターのオチが採用されます。物語がどうなるかを決めるのは、あなた、
先生 あなた。
ミノル あなたです! では、参りましょう。「熱いオチ」を目指すアキラ! 「夢オチ」のトツミ! 「笑いオチ」のセイナ! 「思い出オチ」のヒジヨ! 「楽屋オチ」のナツコ! ……ありがとうございます。物語のオチは、この人に任せましょう!「○○オチ」○○!

    拍手を受け取りオチが決まると、音楽が変わり、すぐさまそのオチのシーンが始まる。


EXU 物語のオチ。(例)

@ アキラの場合
アキラ ぐはあ。
セイナ 大丈夫!?
アキラ く。この小説世界に存在していられるエネルギーがどうやらつきたらしい。この世界に飲み込まれ、俺は消える。
だが、その前に最後にお前に言っておくことがある。
セイナ それはいったい!?
アキラ この物語のラスボスは、お前の姉さんだ! ガク(と、倒れる)
セイナ な、なんだって!?
ヒジヨ ついにここまで来たようね。
セイナ ラスボス! いや、姉さん!
ヒジヨ 私を倒すには、銀の矢が必要よ!
セイナ そんな!
トツミ お待たせ! 中ボスとの戦いで死んだと思われていたけど、それは気のせいだったわ! そして銀の矢は私が持ってる。
セイナ 一人の力は非力でも、
トツミ 二人の力は絶対無敵よ!
ヒジヨ くはっ。これほどとは。申し訳ありません。お母様。(倒れる)
ナツコ でも、教えてあげる。この子は四天王の中では最弱!
トツミ ラスボスじゃなかったの!?
セイナ お母様!? じゃあ、あなたは……
アキラ (と、立ち上がって)次々と現れる新たなる敵。彼女の戦いはまだ終わらない!

    全員やりきった顔でハイタッチしあう。
    そのまま遊ぶ空気になっていく。→チエの台詞「目的〜」へ

A トツミの場合
トツミ は。夢か。なんだかおかしな夢を見ていた気がする。あたしが小説のキャラクターだなんて。変な夢だったなぁ。そろそろ起きなくちゃな。(と、止まる)
アキラ は! なんだ。夢か。そうだよな。夢に決まってるじゃないか。よし起きて出かけないと(と、止まる)
ナツコ なんだ。夢か。男になるなんて変な夢だったな。さて、起きなくちゃ。(と、止まる)
セイナ はっ。良かった。夢か。夢の中で夢を見るなんて酷い夢だった。さ、起きなくちゃ、(と、止まる)
ヒジヨ なんだ。夢か。あれ? わたし、こんな格好、だったっけ? (と、止まる)

    起きる人たち。その度「夢か」とつぶやく。
    夢の世界が続いているうちに。遊ぶ空気になっていく。→チエの台詞「目的〜」へ


B セイナの場合。
セイナ びりりっ
ヒジヨ こら。小説の中だからって、好き勝手やってるから。
アキラ 見ろよ。ページ破れちゃってるよ
セイナ あ、しまったぁ。
アキラ まったく。お前はいつもおてんばなんだから。
セイナ 失敗失敗。てへ。
ナツコ 調子がいいんだから。
トツミ あんたらしいけどね。
五人 アハハハハハ。 アハハハハハ(と、楽しそうに笑う)

    笑いながら踊ったりする五人。そのまま遊ぶ空気になっていく。→チエの台詞「目的〜」へ

C ヒジヨの場合。ヒジヨと四人の子供。
ヒジヨ (老人風に)というわけでな。皆でオチを考えることになったんじゃよ。
アキラ (子供風に)うわー。
セイナ (子供風に)大変だったんだねぇ。
トツミ (子供風に)それで、それで。
ナツコ (子供風に)それからどうなったの?
ヒジヨ それからどうなったか。知りたいかい?
子供たち 知りたい知りたい!
ヒジヨ そうじゃのう…… (と、寝る)
子供たち おばあちゃん?
セイナ おばあちゃん! 
ナツコ ……寝ちゃった。
アキラ いい夢見てるのかな。
トツミ うん。きっと。

    微笑ましく見る子供たち。やがて子供だけで遊びだす。
    老人が目覚めると、老人も入れて遊ぶ。→チエの台詞「目的〜」へ

D ナツコの場合
ナツコ はい、カット!
ナツコ以外の四人 お疲れさまです。
アキラ とりあえず今日の練習はここまででいいか。
ナツコ そうね。
ヒジヨ お疲れさま〜。あー。もうこんな時間。
セイナ あたし、今日塾あるんで先帰りまーす。(と、去る)
セイナ以外の四人 お疲れさま〜。
ヒジヨ どうしたの?
ナツコ ふと思っちゃって。これも舞台だったらどうしよう。
ヒジヨ どういうこと?
ナツコ 小説の物語だと思ったら舞台の世界だったみたいに、現実の世界だと思ったら舞台だったりして。なんてね。
ヒジヨ 大丈夫だよ。これは現実だから。
ナツコ そうだよね。
アキラ カット! いや〜お疲れ様。
ナツコ もうちょっと間が長い方が良かった?
アキラ いや、ちょうど良かったよ。ねえ?
セイナ (と、出てきて)はい。カット!
セイナ以外の四人 お疲れさま〜。

    繰り返す「カット」の言葉。繰り返すごとにだらけていく。
    そのまま遊ぶ空気になっていく。→チエの台詞「目的〜」へ

チエ ……目的、忘れてますね?
トツミ 今度はなにしようか〜。
ヒジヨ やっぱり、ヒーローよ。ヒーロー!

    5人がわいわい遊び出す。座って、次に遊ぶ人を決めるため、棒倒しを始めたり。
    チエはいつの間にか、皆を見ている立場になり、椅子に座る。

11 帰ってきた小説家

    と、小説家ヒトミが戻ってくる。なぜか椅子の近くから登場。楽しそうに遊んでいた奴らは無性演技になる。

チエ 帰ってきたんですか。
ヒトミ 何時の間にか、ここに戻っていたの。
チエ 仕方ないですよ。ここはそう言う世界ですから。
ヒトミ (舞台の連中を見て)……楽しそうね。
チエ 子供みたいですよね。
ヒトミ あなたは加わらないの?
チエ 私は、そう言うキャラですから。

    ここら辺で、遊んでいたキャラ達はそれぞれ眠り出す。

ヒトミ 一人になりたがる私。
チエ 気づいたんですか?
ヒトミ ………みんな、私だったのね。
チエ ここは、あなたの世界ですから。
ヒトミ 全部、私の物語だったのね。孤独を好んで、特別だって思いこんで、男に憧れてみたり、羞恥心を忘れたがったり。……妄想を繰り返して……現実の寂しさを、否定して。
チエ 思い出したんですね。
ヒトミ 認めたくなかっただけなのかも知れない。そんな自分を救うために、小説を書いていただなんて。
チエ あれ? それは違いますよ。
ヒトミ え?
チエ だって、それならあなたは救われているはずでしょう?
ヒトミ …………そうか、そう言うことだったのね?
チエ はい。
ヒトミ また、進めるかな?
チエ あなたが決めた道でしょう?
ヒトミ ……そうだね。…………よーし、こら! 起きなさい! いつまでも寝ていると、もうあたしの小説に書いてやらないわよ!

    起きた連中が見守る中、小説家は口を開く。

ヒトミ ……物語を書きたいの。あなた達の話。人も死なない、怖くもない、古い傷をえぐるような真似もしないけど、読んだ人が幸せになれる。そんな話を。
ナツコ ふうん。分かったみたいね。
ヒトミ おかげさまでね。
アキラ これでやっと、この物語も、終わりに出来るってわけだ。

    6人と小説家お互いにやれやれと言う感じ。

セイナ (と、カナエを探し)で、あの子は?
残6人 え?

    慌てて、当たりを見渡し。

アキラ なんだよ、アイツまだいないのか?
ナツコ (ヒトミに)あんた、探しに行ったんじゃなかったの!?
ヒトミ だって、いつのまにか、こっちに出ていて……それで……。
チエ そう、遠くには行っていないと思いますけど。
アキラ じゃあいっか。
トツミ でも、この世界で行方不明になっちゃったらさぁ。
ヒトミ なに!? この世界でいなくなったらどうなるの?
トツミ えっと……。
ヒジヨ 消えるわね。
ヒトミ 消える!?
ナツコ 作者の精神世界から消えてしまえば。
セイナ 目覚めたときにはもう、その記憶だけなくなっているわ。
ヒトミ なんでそう言うことを今更言うのよ!
ヒジヨ だって。
6人  そう言うネタだったから……。
ヒトミ ネタで、記憶を失わされちゃ困るわ! 早く捜さなくちゃ。
6人  どうやって?
ヒトミ 何か方法はないの!?
アキラ 探しに行って俺たちまで消えてもやばいしなぁ。
ナツコ でも、このままだと結局同じかも。
アキラ なに?
ナツコ だって、あの記憶は、ヒトミの原点だから。
ヒジヨ それが消えれば。
セイナ 私たちも……消える?
トツミ やばいじゃああーーん!

    途端、みんな慌て出す。

ヒトミ 無駄に慌ててもしょうがないわよ! 冷静に、冷静になるの。
トツミ もうおわりよーーー。
ヒジヨ 冷静になれと言われただろう!
セイナ ま、形ある物はいつか壊れ、形ない物はやがて薄らぐ物だから。
チエ 悟った方がいいかも知れませんね。
ナツコ 何か方法はないの?
アキラ 知らん。
ナツコ 威張るな!
ヒトミ あーーもう! 何とかして!

    と、ど派手にミノルが舞台のどこかに現れる。

ミノル どうやら、俺の出番のようだな。
ヒトミ この声は?
全員  アナウンサー・ミノル!
ミノル その子、俺が捜してやるよ。
ヒトミ でも、そんなこと、あんたに出来るの?
ミノル 出来るか分からない……だけど、もし消えたとしても、俺はしょせん実況の立場。俺が一番被害が少ないだろ?
ヒトミ 成る程。そうね。
ミノル あとは、あんたが俺を信用できるかどうかだ。
ヒトミ 任せて、いいのね。
ミノル ああ。
ヒトミ お願い。
ミノル OK! 俺に任せておきな!

    と、ミノルが元気に走り去る。その瞬間、カナエの姿が現れる

カナエ 実はもう戻っていたり。
6人  あぁ!

    すさまじく色んな物をまき散らしてずっこけた音が聞こえる。

ミノル ぐっはぁあ。
6人  アナウンサー・ミノル!?

    ミノルが貼って現れる。ボロボロになっている。

ミノル 燃え尽きたぜ。無駄に、灰になっちまった……。
ナツコ よし。大丈夫。生きている。

12 過去と向き合う

    ふと見れば、ヒトミとカナエが向かい合っている。思わずみんなは2人の周りを開ける。

ヒトミ ……あの。
カナエ 思い出したんでしょう?
ヒトミ ええ。
カナエ なら、謝る必要はないわ。
ヒトミ ……あたし、書くよ。
カナエ 書けばいいでしょう?
ヒトミ でも、あなたは救えないと思う。
カナエ 頼んでないわ。昔っから決まっていたことよ。
ヒトミ&カナエ『自分を救うのは自分だけ』
カナエ 過去は変えられないもの。
ヒトミ この道しかないんだよね。
カナエ ええ。
ヒトミ 色々と、ありがとう。
カナエ ……私にはなにもなかったの。
ヒトミ うん。
カナエ 書くしかなかったの。
ヒトミ うん。

    カナエは笑みを浮かべる。

カナエ だから、あなたも書けばいいのよ。
ヒトミ ……うん。分かった。

    と、セイナが椅子を中央に運んでくる。誘われるように、ヒトミは椅子に座る。
    明かりが落ちる。派手な音楽(オープニングと同じ)が流れ出す。
    舞台にオープニングと同じように小説の登場人物が現れる。

トツミ 道を歩いていた。
ヒジヨ 何があるのかも分からずに。
セイナ がむしゃらに。
チエ まっすぐに。
カナエ 他人に決められた道は嫌だから。
アキラ 自分の道をただ歩いていた。
ナツコ これしかないと思っていた。
先生&ミノル この道しかないと。
九人  だけど、どこまで進んでも道は真っ暗だった。

    ライトが当たりをてんでバラバラに照らし出す。
    それはまるで心の闇を光が照らそうとして、なお闇しか見えないかのよう。

九人 その道の果てで何を見つけたんだろう? 何を得たのだろう? 何を失ったのだろう?……まだ、先は真っ暗。真っ暗だ。

    九人が一斉に懐中電灯の明かりをヒトミに向ける。
    そして、ヒトミが話し出すと明かりを当てたまま、舞台を去る。ヒトミは原稿を読む。

ヒトミ それでも、私は歩いていこう。取り囲む闇は、魅惑的に私をまどろみに誘うけれども、それでも私は歩いていこう。微かに見える光の先に、誰かの幸せが待っている。そう信じて。私には、この道しかないのだから。

    照明がつくと、そこには編集員トモダが立っていた。


13 そして、現実で。

トモダ この家は、年中鍵をかけないのですか?
ヒトミ (驚いて)どうしたのトモダ……さん。珍しいですね。こんな時間に。
トモダ 携帯に、朝から何度も連絡したんですよ? また、寝ていたんですか?
ヒトミ ……ごめんなさい。……書きはじめたら、夢中になっちゃって。
トモダ ということは、出来たんですね。
ヒトミ そう。お望みの品が、ね。

    ヒトミがトモダに原稿を渡す。トモダは恐る恐ると言った感じで受け取る。

トモダ 今回は、どういうお話なんですか?
ヒトミ 思い出した事を、書いてみたの。
トモダ 思い出したこと?
ヒトミ なんで、私は物語を書くのか。
トモダ …………。
ヒトミ 思いが詰まっているの。たくさんの、思い。独りぼっちの私だったから、せめて、私以外のみんなは、誰かを感じることが出来ますようにって。
トモダ 寂しい願いね。
ヒトミ うん。知っている。でも、決めたの。この道を歩いていこうって。
トモダ そうやって、あんたはいつも勝手に決めちゃうのよね。
ヒトミ 私、自分勝手だから。
トモダ 本当、勝手すぎるわ。……私は、その度何回繰り返せばいいの?
ヒトミ なにを?
トモダ 他の作家先生だったら、携帯に出ないくらいで、来たりしないわ。
ヒトミ その代わり原稿を受け取れたじゃない。
トモダ 馬鹿にするんじゃないわよ?
ヒトミ え?
トモダ 編集員だから? 原稿のため? ふざけるんじゃないわよ。あんたみたいな引きこもりを訪ねたってね、給料なんて上がらないのよ。だったら、昔のヨシミで押しつけられていると思った? おあいにく様。あたしはね、そんなくだらない女じゃないのよ!
ヒトミ ……じゃあ、何で?

    音楽が高くなる。トモダが言った言葉は聞こえない。
    ドアを開けられなかった少女は、今度は照れてトモダを叩く。トモダも自分の台詞に照れる。
    照れ隠しなのか、トモダはヒトミに原稿を読もうと誘う。
    椅子に座るトモダと、上から自分の原稿を見るヒトミ。
    読んでいるトモダの後ろに、いつの間にか小説の登場人物が、笑いながら覗き込んでいる。
    トモダも、ヒトミも笑顔だ。救いは、簡単なところに転がっている。


あとがき

どんなに多くの人と一緒にいても、
友達と笑っていても、家族と食事をしていても、
一人だなって感じることはありませんか。
あの、良く分からない孤独感はどこからくるのでしょうね。
救われているような、救われていないような、小さな世界のお話。

10年ぶりの再演のため所々に手を入れているうち、
昔も今も考えていることはあまり変わらないなと思ったり。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。