いかにして彼らは舞台を作ったか
作 楽静


登場人物

サダ ルリヒコ  高校2年生。副部長・ツッコミ
シナハ ノニカ  高校2年生。部長・作演出担当・真面目
オカナ ミクリ/クリオカ  高校2年生。いじられ
ババ  ソノコ/バクソ  高校2年生。ボケ
ウスイ アツミ/ウスダ  高校1年生。アイドル好き
ハヤジ チャコ/ハチヤ  高校1年生。やや天然
カミナ ニア /カニーニ  高校1年生。真面目。

    演劇部の活動場所で物語は進む。
    2001年1月上旬〜2月末ころの話。
    ※もし今後、舞台公演前に緊急事態制限を経験することになる部活があった場合、その時に合わせて時期はご変更ください。
    ※台本上の台詞はあくまでも、最低限のものであり、この台詞だけで舞台を完成させようとしては楽しみが半減します。
      自分の役になり切って、役の流れ上必要であると思われる台詞は、アドリブで入れることを想定しています。


    1月。始業式の日の部活。
    全員制服姿+マスク。
    私語をしている部員たち。観客から見えるノニカの表情は、少し疲れ気味。が手を叩いて止める。

ノニカ はい!注目! 今日は次の作品についての話し合いをしたいと思います!
ニア 次の舞台っていつですか?
サダ 3月だ。
チャコ 後二ヶ月。
アツミ ってことはあの人達はまだ全国ツアー中か。……無事にライブが出来るといいなぁ。
チャコ アツミ、アツミ。帰ってきて。
ソノコ 次が最後の舞台か。早かったな二年生。
ミクリ 受験勉強したくないなぁ。
ソノコ それなぁ〜。
ノニカ はいはい。話をそらさない。まあ確かに? あたし、サダ、ミクリとソノコは次が最後。だから、悔いのない舞台にしないとね!
サダ 去年みたいなことになるかもしれないけどな。

    と、二年生は黙り込む。

ニア 去年は出来なかったんですよね?
サダ 発表会自体が中止になったからな。
ノニカ 先輩たち、すごい悔しがってたよね。
ミクリ 居たたまれなかった。
ソノコ それな。
ニア 今年はどうなんでしょう?
ノニカ ある! といいよねぇ。
アツミ 横浜アリーナのライブは中止になったし。2月は、せめて3月はやれるといいなぁ。
チャコ アツミ。帰ってきて。ここは部室だよ。
ニア えっと、どんな感じの発表会なんですか?
サダ と言われても、俺たち経験ないからな。
ノニカ だね。
ミクリ 正直、どこでやるのかもよくわかってない。
ソノコ それな。
ニア そうなんですか。
アツミ 福岡がマリンメッセ。新潟がコンベンションセンター。北海道がえっと、なんだっけ。ここまで出てるのに。
チャコ アツミ、ツアー会場当てクイズはまた今度にしよう?
ノニカ はい! とりあえず! やりたいこと出していって、イメージだけでも固める?
サダ で、シナハに書いてもらうと。
ノニカ 自分で書く気はないのかい?
サダ まかせた。
ミクリ (と、ソノコに目で合図し)せーの、

同時に
ソノコ は?
ミクリ まかせた! いや、合わせろよ!

ソノコ 急に言われても無理だし。(と、ノニカに)任せた。
ノニカ 一年生は、
チャコ せーの、
ニア&チャコ&アツミ お願いします!
ミクリ ほら! 一年を見習って!
ソノコ 人には得手不得手があるて。
サダ まあ、いつもどおりってことだ。
ノニカ ……わかった。書く。書きます。

    と、皆が拍手&歓声を上げる。

ミクリ いよ!
ソノコ 待ってました!
サダ さすが部長!
ニア&チャコ&アツミ ありがとうございます!
ノニカ 書くけど! 意見はください。とりあえず、やりたいこと言ってみて。
ソノコ はい!
ノニカ はやい! はい、ソノコ!
ソノコ 衣装を着たい!
ノニカ はい?
サダ そりゃ裸は嫌だろ。
ソノコ じゃなくて、なんか、「衣装」って感じのがいいかなって。
ミクリ 私服は嫌、と。
ソノコ それ。あ、でも一年の時のミクリみたいな露出多いのは無理。あと、前回のミクリみたいなキグルミ? あ、その前のミクリみたいなのも無理。
ミクリ お前、今までのあたしの役全否定してるからな?
ソノコ 正直、よく出来るなぁ。ミクリすご〜いって思ってた。
ミクリ はぁ!? そんなこと言ったらお前だってあれだったから。あれで! あれな! あれぞ!

    チャコは「あれって?」とミクリの動作をまねる。
    アツミはややふざけてミクリの動作をまねる。
    そんな二人をニアは先輩に気づかれないように止めている。

ノニカ はいはい。ミクリ落ち着いて。ソノコもミクリを煽らないの。
ソノコ (と、すいません風に)さーせん。
ミクリ それ謝ってないからな!
ノニカ ヤメレて。あと、前回もその前も役の衣装決めたの私なので。ソノコさん? 私のセンスに何か文句が?

    ノニカの静かな怒りにチャコとアツミとニアも思わず固まる。

ソノコ いえ。ありません。 
サダ 俺は、殺陣がやりたいな。
ノニカ 時間あるかな?
サダ なんとかなるだろ? あと、主役か、悪役がいい。
ミクリ なんか物語のIFとかどう?
ノニカ 例えば?
ミクリ シンデレラとか、一寸法師とか、そういうのが実はこういう話でした。みたいな。
ソノコ あ、あと、変な料理名言いたい。
サダ お前それ「今」したいことだろ?
ソノコ (と、知的に)「知ってた? ランドグシャって、「犬の舌」って意味なんだ。」みたいな?
ミクリ へーそうなんだ。

    チャコ、アツミ、ニアも感心する。
    ノニカは引っ掛かりを覚える。

サダ ラング・ド・シャな? あと、「猫の舌」な? 言えてない上に嘘になってるからな。
ミクリ 騙された!
ソノコ 言えてました。ランドグシャって言えてました!
サダ だから、ラング・ド・シャ!
ソノコ ランランルー!
サダ ランしかあってねえよ! ふざけてんのか!
ソノコ ふざけてるよ!
サダ ふざけんな!
ノニカ はいはい。喧嘩しない。ほら、一年生も意見出して。チャコ、なにかある?
チャコ 私も衣装着たいです。
アツミ 前の舞台、チャコ制服だったもんね。あたしも、前みたいに衣装が着たいです。
ノニカ うん。チャコもアツミも出来れば、もっと具体的にやりたいことを出してくれると嬉しいな。
チャコ えっと、殺陣やるなら、サダ先輩を斬りたいです。
アツミ 私も!
サダ なんでだよ!
アツミ あ、でも、悪役は嫌です。
チャコ じゃあ先輩が悪役だ。
サダ おい!
チャコ 大丈夫。似合ってますよ。三下っぽいし?
アツミ 「覚えてろよ〜」とか言いそうですよね?
サダ それは全然褒めてないな?
ノニカ はいはい。そこまで。ニアは?
ニア 私は、派手な動きって無理そうなんで、あまり動かない役がいいです。あ、お嬢様とか?
ノニカ えーっと。はい。そうだ。話のジャンルは?
ミクリ 復讐ものは? やられたらやり返すな話。流行ったし。
サダ いいな。殺陣も出来そうだし。
ソノコ 「アクアパッツァの仇〜!」みたいなセリフとか?
サダ アクアパッツァに何があったんだよ。
ミクリ 「報いを受けろ!」とか?
アツミ はい! 「天誅」って言いたい。
チャコ 「あの世で誰々に詫びろ!」みたいな?
ニア 「閻魔に代わってお仕置きですわ!」とか。
アツミ あ、「母ちゃんに言いつけてやる!」を、サダ先輩が言う!
サダ なんでだよ!

    部員たちは好き勝手なセリフを並べていく。
    ※例)「運転手さん、前の車を追って!」「ここはあたしに任せて先に行け」「犯人はこの中にいる!」「

サダ ……で。これ、まとまるのか?
ノニカ わかんない。まず、舞台ができるのかな……。
サダ 確かにな。

    と、不安をあおるような時を刻む音。
    動きを止めた部員たちのシルエットの中、
    コロナに関してのニュースが流れる。
    ※演じられる時の状況によって変更。
      サダとノニカ以外の部員が去る。

声 「全国のコロナ感染者の増加を受け、政府は本日、首都圏内の一都三県に対して緊急事態宣言を出すことを決定しました。今回の宣言に伴い……」

    声の中、ノニカが鞄を持って走り去る。
    追いかけるようにサダが去る。他の部員は二人とは逆へ去る。

2 数日後

    帰りの時間。廊下。帰り支度を済ませたノニカが歩いてくる。
    その背にサダが追いつく。

サダ どういうことだよ!
ノニカ なにが?
サダ 顧問の先生から聞いたんだ。お前が、その……
ノニカ うん。そういうことだから。
サダ 辞めるってなんだよ。
ノニカ もう無理かなって。
サダ 無理なんかじゃない。
ノニカ 舞台発表のルールだって、ここ一年ですごく変わったよね。

    ※発表時によって、年数、月日は変更。
    ※この後のルールは一例です。

サダ それは、秋の大会からだったろ。
ノニカ 向き合う場合は2mは距離をあける。出演者は必ずマスクをする。それと……
サダ 接触禁止だろ。
ノニカ 胸ぐらつかめない、相手の傷の手当も出来ない。もうこの時点で戦うシーンはほぼ終わってるよね?
サダ やりようはあるだろ。
ノニカ 出来たとしても、状況によっては発表出来ないよね?
サダ 無観客。あるいは映像での発表ってのもある。
ノニカ 頑張っても無駄かもしれないなんて。
サダ それは他の部活だって一緒だろ? むしろ、可能性があるだけでも(ありがたいんだから。)
ノニカ 浮かばないんだ。
サダ なにが?
ノニカ 出来る舞台。ニュースで緊急事態宣言出て、親なんか、「よくこんな状況で部活やれるね」とか言ってくるし。台本書こうとしても、嫌なことばかり浮かんで暗い話しか出てこなくて。だから、ごめん。
サダ 俺達にとって! 次が最後なんだぞ?
ノニカ わかってる。
サダ だったら、
ノニカ だからちゃんとしたものを作りたかった! でも浮かばない! 全然話が思いつかないの!
サダ そんなの、みんなで考えればいいだろ。
ノニカ 無理だよ。だって、いつもあたしが台本考えてたんだし。
サダ それは、そうだけど。
ノニカ 一年の秋大会からずっと。「任せた」で済まされてたんだから。
サダ それは……。
ノニカ だからごめん。みんなにも謝ってたって伝えておいて。

    と、ノニカが去る。

サダ 俺は諦めないからな。こんな時だって、芝居は出来るんだ。

    と、他の役者がやって来る。
    あたりは部室の風景となる。

サダ ってことで。今回はここにいるメンバーで台本を考えることになった。
ソノコ いや、無理だし。
ミクリ 練習時間だってそんな無いのに。
ソノコ それな。
ニア 発表まで練習どれくらいですか?
ミクリ 15回くらい?
ニア 少ないですね。
ソノコ 一時間ものは無理だよ。
サダ 30分くらいならどうだ?
チャコ 30分芝居か。
アツミ こないだ、チャコと一緒に見たライブ配信が29分52秒だったから、だいたい同じくらいかな。
チャコ アツミ。秒数まで覚えているのは怖いよ?
ニア 役者は、(ここにいる)6人ですか。
サダ (ノニカも入れて)7人だ。
ソノコ 戻ると思う?
サダ 台本ができれば。
ミクリ 出来ると思う?
サダ やってみないとわからないだろ! やりたいだろ舞台! 

    サダ以外の部員はそれぞれ消極的に賛同する。

サダ だったらやるしかないだろ!

    ミクリとソノコ、一年生はそれぞれ顔を見合わせる。

サダ ……ってことで、各自台本を次の部活までに書いてくること! 以上! 今日はおしまい!
ニア 次の部活って、
チャコ 今日が金曜だから。まあ、休みを使えば?
アツミ 土日は配信を追いかけるつもりだったのに……
ソノコ どうする?
ミクリ 書いてはみるけど……でもなぁ。
ソノコ ねぇ。

    不安そうな部員たち。暗転。
    不安なまま時が刻まれる音。

3 更にその数日後

    演劇部の活動場所。
    ノニカを除いた6人がいる。

サダ 台本出来た人は、挙手!

    と、誰も手を挙げない。諦めに似た暗い空気が漂う。

ミクリ やっぱり無理、か。
ソノコ 人には得手不得手があるて。
チャコ 既成作品を探したんですけど、なんかあまりピンとくるのはありませんでした。
アツミ 人数が多いのを一人で読んでいると、よくわからなくなるし。
チャコ だよね。
ニア 書こうとしたんですけど、アイデアが浮かばなくて。
サダ そっか。
ソノコ 一応ノニカにコレ貸してもらったけどさぁ〜。台本が書けるようになるわけないし。

    と、その子はノートを放る。

ミクリ これは?
ソノコ こないだの話し合いを書いたノート。ノニカが、参考にしてくれって。
ニア 見ていいですか?
ソノコ もちろん。
ニア ノニカ先輩、ちゃんとみんなの意見を書いてたんですね。
ソノコ 結構細かくね。
ミクリ どれ。お、サダルリヒコ。
サダ フルネームで呼ぶな。
ソノコ みんなそうなんだって。
ミクリ サダルリヒコ「殺陣がやりたい」「三下?」「覚えてろよ〜」「母ちゃんに言いつけてやる!」がキメ台詞。
サダ 途中から、俺の意見じゃないだろそれ。(と、ノートを奪い)オカナミクリ。
ミクリ はい。(と、賞状を受け取るような動作)
サダ 卒業式じゃないから。えっと、「物語を元にした話」「シンデレラとか一寸法師」「一寸法師ってどんな話?」って、あいつ、一寸法師知らないのかよ。
ミクリ 実はあたしもよく知らない。
ソノコ あれでしょ? 小さな虫にも立派なタマシイがあるよって話。
ミクリ へー?

    チャコとアツミが感心する。
    ニアが二人に違うと否定する。

サダ 「一寸の虫にも五分の魂」な。ことわざじゃねーか!
ソノコ その技。
ミクリ そーなんだ?
サダ 違うからな? 「復讐」やられたらやり返す。「報いを受けろ!」という台詞。……どこで使うんだ?
ミクリ だよねぇ。
サダ ババソノコ。「前回のミクリみたいな衣装は嫌だ」「料理の名前を言いたい」「〇〇の仇〜」な台詞。……こんなことしか言えないようなのが二年生なんだもんなぁ。
ソノコ その言葉、そっくり返すから。

    と、サダはノートをニアに放る。ニアがノートを読む。

ニア ウスイアツミ 「衣装が着たい」「サダを斬る」「天誅」
アツミ (と、覗いて)ハヤジチャコ 「衣装が着たい」「制服以外」「サダを斬る」「あの世で詫びろ!」
チャコ 言ったなぁ。ニアは?
ニア カミナニア……言ったこと全部書いてある。
チャコ 本当だ。あ、先輩のもある。シナハノニカ。「面白い話」
アツミ 「みんなでやれる舞台」「みんな」に二重丸……
ニア 「わかりやすいもの?」「勧善懲悪」「時代物は無理?」……(と、ページを捲り)……ノート、破った跡。
チャコ 何枚分だろ。結構あるね。
アツミ 書いて、破って。書いて、破って、かな。
ニア うん。
ソノコ もう使わないから、アイデア出しに使ってってさ。
サダ あいつ……。
ミクリ あたしも、どうしようかな。
ソノコ ねー。
サダ どういう意味だよ。
ミクリ このままだと、舞台自体出来そうにないし。部活やってる意味あるかなって。
ソノコ それな。
サダ 舞台はやるって。
ミクリ だって、本が決まらなきゃさ。
ソノコ 発表会自体、まだどうなるかわからないんだし。
サダ 暗い方に考えるから浮かぶものも浮かばないんだ。逆に考えてみろ!
ミクリ 逆って?
ニア 逆……(と、ノートを読み返す)
サダ これは、チャンスだ!
ミクリ いやいやいや。
ソノコ それはポジティブすぎない?
サダ 今までの先輩たちが誰も知らない状況にいるんだぞ。未知にワクワクしろ! 楽しまないでどうするんだ!
ソノコ なるほど?
ミクリ ワクワクねぇ。
サダ とにかく! 発想を変えよう。
ミクリ どうやって?
ニア 発想を、変える。

    と、ニアがノートに向かう。
    書いているのを見て、チャコとアツミが助言したりしている。
    二年生は気づかないまま。一年生は確認のために去る。

サダ そう! いっそのことアドリブだけで舞台を作るとか。
ミクリ エチュードみたいな?
サダ インプロとか即興劇っていうんだけど、客からお題をもらって、お題を元に演じるんだよ。
ソノコ どういうこと?
サダ 例えば、

    と、司会者の格好のノニカがやってくる。箱を持っている。
    ※実際にインプロでもいいし、台本通りでもいい。

ノニカ はい。では、お客様に上演前に書いていただいたお題の紙が、この箱の中に入っています。今から三枚、中から引いて、そのお題が必ず出てくるように、演者には即興劇を行っていただきます!

    と、ノニカがストップ。

ソノコ いや、無理!
ミクリ そんな即興力、ないし。
サダ でも、これについてだったら話せるみたいなのあるだろ?
ソノコ ある?
ミクリ 美容関係? なら少しは。
ソノコ おしゃれぶりやがって! じゃあ、あたしはラーメン。
ミクリ 食いしん坊か!
ソノコ 悪いか!
サダ じゃあ、その2つは必ず入るように仕掛けをしておくとか。
ソノコ&ミクリ しかけ?

    と、ノニカが動く。

ノニカ この箱をあけると、あら不思議。上の部分に、二枚の紙が。

    と、軽く貼り付けてある紙を見せる。箱を閉めて止まる。

ソノコ ずるだ!
ミクリ いっそのこと、三枚とも仕込んでおけばいいのに。
サダ まあ、一個くらいなら無理やり入れられるだろう? ってことで、やるとしたら、こんな感じ。

    と、ノニカが司会のように話し出す。

ノニカ さあ、何が出るかな? 何が出るかな? 一枚目!「ラーメン」食べ物ですね。二枚目!「美容院」うーん。場所かな? そして、三枚目!「病院」また場所だ! さあ、では演じていただきましょう!

    と、ノニカがソノコとミクリに振ってから去る。

ソノコ え?
ミクリ 今?
サダ 試しにやってみろよ。
ソノコ やるか。
ミクリ やろう。

    と、二人は即興劇を少し勘違いして始める。
    それはどこか漫才風。

ソノコ はいはいどーも。あなたの隣のソノコです。そして私の隣りが、あの子です。
ミクリ どの子だよ。
ソノコ 失礼しました。ドノコです。
ミクリ 違うわ。ミクリです。どーも。よろしくおねがいします〜。
ソノコ ソンナワケデ、みくり、ワタシ、ラーメン屋、ヤリタイヨ。
ミクリ ん? いきなりどの国の人になったのかな? ラーメンだけに中国?
ソノコ 生マレモ育チモ「群馬」ダヨ。
ミクリ 群馬の人に謝れ。
ソノコ (と、笑って)群馬に、人ナイヨ。
ミクリ やめろって。素直に謝りなさい。
ソノコ (と、野球部のように)サーセンした!
ミクリ すいませんのっけから。で、ラーメン屋? やりましょうか。私店に入るから。店主やって。
ソノコ オッケー。
ミクリ (と、自動ドアを開けて)うぃーん。
ソノコ (と、手のひらを自分に向け両手を上げた手術前の医者スタイルで出迎える)いらっしゃいませ。
ミクリ え? 病院?
ソノコ 違います。今日はどこらへんを切る予定です?
ミクリ え? 病院?
ソノコ 違います。どんな具合にカットを?
ミクリ あ、美容院か。まって? ラーメン屋だよね?
ソノコ お客様? ラーメン屋はその道を真っすぐ行って左ですよ?
ミクリ あ、そうなんですかすいません。ラーメン屋やりたいって言ったよね!?
ソノコ お客様? そのご様子でラーメン屋に行けるとお思いで?
ミクリ 思ってるよ! 何!? ラーメン屋に行ける顔じゃないとでも!? なんだラーメン屋に行ける顔って!
ソノコ なるほど。頭の具合がお悪いようですね?
ミクリ いたってまともだわ! 
ソノコ おいたわしい。
ミクリ いたわるな! いいよ! 話進まないから髪切るよ。髪切ってラーメン屋行けばいいんだろ!
ソノコ 今日はどんな具合に?
ミクリ 全体的に短くしてください。
ソノコ 前頭葉を短く。
ミクリ 美容院だよね!?
ソノコ でしたら、その角を曲がった先におすすめの美容院が。
ミクリ ここはどこでお前は誰だ!
ソノコ あなたの隣のソノコです。
ミクリ もういい、やめさせてもらうわ。
ソノコ&ミクリ どうも、ありがとうございました〜。

    と、間を少し持ってから。

ミクリ ……待って。違くない?
ソノコ これ、漫才だよね?
サダ だな。
ミクリ ほら〜、やっぱり即興は無理なんだって。
ソノコ 人には得手不得手があるて。
サダ そうか〜。
ソノコ ……まあ、でもなんとなくわかったけどね。
サダ なにがだ?
ソノコ 「楽しまないでどうするんだ」ってやつ。
ミクリ あたしも、わかるかも。
ソノコ 即興劇? 漫才だったけど。楽しかったし?
ミクリ 何かを演じるっていうのがね。楽しいんだって、改めて思った、かも?
サダ だよな。俺も、そう思う。
ソノコ ……ノニカは、辛いだけだったのかもね。
サダ どうだろうな。
ソノコ あたしたち、負担かけすぎだった、かも?
ミクリ かも。
サダ ……だったら、今度は俺たちが頑張るべきだろ。あいつが戻れるように。

    ソノコとミクリは顔を見合わせる。ニヤリと笑って。

ソノコ いいこと言うね。サダルリヒコくん。
サダ フルネームで呼ぶな。
ミクリ その調子で台本、一本どう?
サダ そんな簡単にいくか。
ソノコ あたし達、やる気はあるんだからさぁ。台本が突如現れるみたいな奇跡があってもいいと思うんだよね。
サダ ないだろ。
ソノコ 奇跡起きろて〜。ミラクルカモーンて。あ、ミラクルと、ミクリって似てない?
ミクリ やだ。もしかして、私、奇跡の親戚?
ソノコ ミラクルミクリさん! 奇跡を、奇跡を起こしてください!
ミクリ ミラクルミクリのミラクルマジック〜! 親指が消えます。(と、指の消失マジック)
サダ アホな奇跡しか起こらんな、この部活は。

    と、一年生たち(ニア、チャコ、アツミ)が戻ってくる。
    チャコとアツミは手に刀などの小道具を持っている。
    ニアはノート(ノニカの)を持っている。
    
ニア 奇跡です!
チャコ&アツミ 奇跡!
ニア 奇跡が起きました!
サダ 何だ一年そろって。
ニア これを、見てください。(と、ノニカのノートを差し出す)
サダ ノニカのノートなら、さっき見たけど?
チャコ すごいことに気づいたんです。
ニア サダ先輩、言ってたじゃないですか。「逆に考えろ」「発想を変えろ」って。
サダ 言ったけど。
ニア だから、逆に考えてみたんです。
アツミ それでニアが気づいたんです。
サダ 気づいた。
ソノコ&ミクリ なにに?
チャコ ノニカ先輩の名前って、
アツミ 逆から読むと、
ニア&チャコ&アツミ 「カニノハナシ」
ニア になるんです!
ニア&チャコ&アツミ 奇跡――!

    一年生三人ははしゃぐ。

ソノコ&ミクリ な、なんだってー。
ニア シナハノニカ、逆から読んだから、
チャコ&アツミ「カニノハナシ」
ニア ね? なってますよね!
ニア&チャコ&アツミ 奇跡!

    一年生三人ははしゃぐ。

サダ いや、知ってるけど?
ニア ……え?
ソノコ ごめん。普通に知ってた。
ミクリ 一年の時に散々からかった話題なんだそれ。
ニア 知ってた?
サダ&ソノコ&ミクリ 知ってた。
ニア そんな……。(と、崩れ落ちる)
チャコ じゃあ、このメンバーならあれが出来るっていうのも、すでに知ってたってことですか?
サダ&ソノコ&ミクリ あれ?
アツミ 今の部員だけの奇跡だって喜んでたのが馬鹿みたいだね。
サダ&ソノコ&ミクリ 奇跡?
ニア ごめん。あたしが先輩に確認も取らず突っ走っちゃったから。
チャコ ニアは悪くないよ。あたしも、すごいってノッちゃったし。
アツミ 先に聞けばよかったね。
チャコ ね。
ニア じゃあ、これ片付けてきます。

    と、一年生三人は去ろうとする。

サダ 待て。なんの話?
ソノコ あれってなに?
ミクリ 何の奇跡?
ニア だから、「さるかに合戦」です。
サダ は?
ニア (と、少しキレ気味に)このメンバーでなんちゃってさるかに合戦をやるのはどうかって話ですよ! 決まってるじゃないですか!
サダ&ソノコ&ミクリ さるかに合戦!?
ソノコ ってなに?
ミクリ 知らない? カニの親子がいて。母親が猿に殺されちゃってやりかえすっていう……復讐ものだ!?
サダ 待て待て。なんだそれ? シナハの名前を逆から読んだら、カニノハナシってなったから? それでさるかに合戦が浮かんだって?
ニア あと、部員の名前にさるかに合戦に登場するキャラクターが入っているからです!
サダ キャラクター!? ニアは?
ニア カミナニア。「カニ」です。ノニカ先輩と同じです。これで、親子ガニが出来ます。
ソノコ アツミは。
アツミ ウスイアツミ。「ウス」ですね。
ミクリ チャコ。
チャコ ハヤジチャコ。「ハチ」です。
サダ それじゃ、俺は。
ミクリ サダルリヒコ、「サル」か! それであたしは、
サダ 「クリ」か。ミクリだもんな。すごい。本当に皆さるかに合戦だ。
ソノコ え。あたしは?

    と、皆視線をそらす。

ソノコ え? 何その反応。待って、当てるから。正解だったら、そう言って。ババソノコだから、ソバ? ソバなんてキャラいる? いないか。……バソコ? なに? バソコって何?

    サダはお前が言えよという視線をニアに送る。
    ソノコが悩んでいるうちにお前が言えの押し付け合い。
    最終的にニアに落ち着く。

ニア あの、ソノコ先輩。非常に申し上げにくいのですが。
ソノコ なになに。
ニア とある一部の地方ではですね。……うんちのことを「ばば」っていうんです!
ソノコ え……ってことは。わたしは。
サダ うんこだ!
ソノコ はぁ!? 生き物ですらじゃないじゃん!
サダ 大丈夫。さるかに合戦のうんこはな、しゃべるぞ!
ミクリ ちゃんと自分で動くことも出来る!
ソノコ そりゃもう「うんこ」じゃないだろうがYO!
ニア なんちゃってなので、皆人間です。
チャコ 名前もじって、さるかに合戦っぽくしたどうかなって話してて。
サダ サルだと、サルヒコとか?
アツミ そんな感じです。
ミクリ ほぼまんまじゃん。
サダ 覚えやすくていいだろ。
ソノコ うんこは?
チャコ ……クソヤロウとか?
ソノコ ただの悪口じゃんよ!
ミクリ 名前はみんなで考えよう?
ソノコ うん。
サダ さるかに合戦、か。
ニア 殺陣がやりたいなって話でしたよね!
サダ だな。
チャコ 物語のIFストーリーって面白そうって意見も!
ミクリ あたしが言ったやつ。
アツミ あと、サダ先輩は主役か、悪役でしたよね?
サダ サルは悪役だな。
ニア サダ先輩を斬りたい二人も、いますし。
チャコ 惨殺だね。
アツミ キルユー出来るね。
ニア 復讐モノですし、架空時代ものふうにすれば衣装も凝れるかと思います。どうでしょうか?
サダ ……反対意見のある人は、挙手!

    誰も手を挙げない。その顔は皆やる気に満ちている。

サダ やるか。
ミクリ いいね。面白そう。
ソノコ 人間なら文句はない。
チャコ 殺陣楽しそう~
アツミ どんな衣装がいいかなぁ。
ニア 決まり、ですかね。
サダ だな! やるぞ!

    サダの言葉に残り五人が頷く。音楽とともに暗転。
    ニアが浮かび上がる。
    ニアが語っているうちに、他の登場人物は着替えを済ます。
    2月某日。

ニア 物語は、とある田舎に隠れ住んでいたハーン親子から始まります。母の名はカーニチャ。娘の名はカニーニ。二人はとても仲の良い親子でしたが、一つだけ秘密がありました。ハーン家は魔女の一族。そう、お母様は、魔女だったのです。ある日、村の乱暴者、サルヒコに因縁をつけられ、食料と柿の種の交換をすることになったカーニチャは、隠していた魔女の力を使い柿の木を一晩で育て上げます。しかし、恵みをもたらすはずだった柿の木は、サルヒコに目をつけられるという災いを呼び込むことになってしまいました。結果、カーニチャは命を落とし、カニーニは復讐の炎に身を焦がします。その熱に呼ばれるよう集まった四人の若者たちは、哀れな娘のため、敵討ちを誓うのでした。……そして、とある日の夜。村の外れ。

    舞台を指すようにしてニアは去る。

4 劇中劇

    薄暗い夜。
    歩いているサルヒコ(サダ)。マスクのようなもので顔の半分は隠れている。刀を腰に差している。
    その前にハチヤ(チャコ)が立ちふさがる。
    避けようとすると、クリオカ(ミクリ)がやってくる。

ハチヤ サルヒコだな。

    サルヒコが後ろの気配に気づき、刀に手をかける。
    サルヒコを囲むように後ろからウスダ(アツミ)とバクソ(ソノコ)がやってくる。

サルヒコ 一体、俺になんのようだ。
バクソ カーニチャ・ハーンの件といえば、理解できる?
サルヒコ ……仇討ちというわけか。
ウスダ その命、義によって貰い受ける!
サルヒコ 四人がかりとは大げさな。
クリオカ 己の悪行の報いを受けるがいい!
サルヒコ ただではやられぬぞ。
バクソ 覚悟の上。
サルヒコ やり合う前に聞いておこう。
ハチヤ なんだ。
サルヒコ お前らの名は?
ハチヤ お前を討つ者の名。心に刻んで逝くがいい。私は、ハチヤ。
ウスダ ウスダ。
クリオカ クリオカ。
バクソ ……バクソ。
サルヒコ それ、本名か?
バクソ 悪いか!
サルヒコ そうか。すまん。では、やり合うとしようか。
バクソ カーニチャ・ハーンの仇、取らせてもらう!
ハチヤ あの世で彼女に詫びるがいい!

    サルヒコが刀を抜く。四人もそれぞれ武器を構える。
    ※以下初演の殺陣。武器の好みにより、殺陣は変更する。
    音楽「必殺仕事人」が流れる中、クリオカが薙刀を構え、
    ミクリとウスダがそれぞれ刀を構える。そして、
    バクソが途中までこぶしで戦うと見せかけて、
    胸元から拳銃を取り出す。
    クリオカが一番に斬りかかる。サルヒコは避ける。
    ハチヤが放とうとする突きを避け、
    ウスダの払う刀も避ける。
    バクソはやることがなく観客席にアピールしている。
    一度、落ち着くように距離を取ってから、
    クリオカが切りかかる。サルヒコは飛んで避ける。
    ハチヤの薙刀をはじき、ウスダの刀もはじく。
    そこで体制が崩れたところをクリオカが刺す。
    ハチヤが薙刀でさらに切り、
   
ウスダ&バクソ 天誅!

    バクソが拳銃でサルヒコの肩を撃つ。
    そして、止めにウスダがサルヒコを胴切りする。

サルヒコ あの時、柿の種さえ見つけなければ……。

    サルヒコが膝をつく。
    と、カニーニがやって来る。短刀を握りしめている。

カニーニ 最期まで、母への詫びは無いのですわね。
サルヒコ お前、は。
ハチヤ カニーニ!
ウスダ 何故ここに。
カニーニ 子を残して逝かねばならなかった母の怨み、思い知るがいいですわ!

    カニーニが短刀を振り上げる。バクソが止める。

カニーニ 止めないでくださいませ。

    バクソが首を横に振る。

ハチヤ もはや長くありません。
カニーニ この者は母の仇ですわ!
クリオカ 我が子に人を殺めてほしいと思う母親はいない。
ウスダ だから我らが力を貸した。
カニーニ それでも、私は!
バクソ (と、カニーニの短刀を奪い)トドメまでが、我らの役目。
カニーニ すいません。
サルヒコ (と、笑って)人殺しが、綺麗事を。
バクソ なに!?
サルヒコ 所詮、貴様らも、俺と同じ。
クリオカ 貴様!

    クリオカの動きをハチヤが止める。

サルヒコ 義によって、などと飾り立てても、結局は、殺しだ。
バクソ お前とは違う!
サルヒコ 同じこと。(と、咳き込んで)地獄に落ちるご同輩。先にあの世で、待ってるぞ。(と、事切れる)
カニーニ ……。
ハチヤ たしかにな。
クリオカ ハチヤ!?
ハチヤ 所詮は人斬り。閻魔の裁きではこの者と同じところに行くのだろう。
バクソ こいつと我らは違う!
ハチヤ 何が違う? 利で人を殺めるのが罪であれば、怨みで人を殺めるもまた罪。
ウスダ そうかもしれん。
カニーニ それでも! ……私は、感謝しております。母の仇を討っていただき、ありがとうございました。

    カニーニは四人に頭を下げる。
    音楽。
    と、カニーニが顔を上げる。手を叩く。

カニーニ(ニア) はい! という感じです!

    雰囲気が明るくなる。演劇部の活動場所。
    ※持つ武器によって、だれが当てたかは変更する。

サルヒコ(サダ) いってぇ〜。刀、あたったんだけど!?
ニア え、どこでですか?
サダ えっと(と、アツミを見る)
ウスダ(アツミ) いや、ちゃんとギリギリ狙いましたよ。
バクソ あたし、これ(銃)だから。
ハチヤ(チャコ)あたしも、ちゃんとギリギリでしたよ。
クリオカ(ミクリ)ってことは、あたし?
サダ お前、二回目だからな!?
ミクリ サルの立ち位置毎回変わるから、感覚つかめないんだよね。
サダ 言い訳すんな。
ニア 最期まで、詫びは無いのですわね。
サダ まさにそれ。
ミクリ (と、軽く)アイムソーリー?
サダ それ謝っている態度じゃないからな!?
チャコ でもサダ先輩、よく我慢しましたね。
サダ 痛がったら台無しだろ。
ミクリ 役者だねぇ。
ソノコ それな。
チャコ よ! 大根役者!
アツミ まさに猿芝居!
サルヒコ それ、褒め言葉じゃないからな? って、わけでまだ完璧じゃないけど、どうだ?

5 みんなで舞台を

    と、部員の視線の先からノニカがやって来る。

ノニカ ……どうって?
チャコ 結構練習したんですよ!
アツミ 一応、全体通しても30分以内には収まっている、はず?
ニア はずです。
ノニカ はずって、通しやれてないの?
サダ 配役の関係で、出来ないシーンがあるんだよ。
ノニカ 配役の関係?
サダ カニの母役が、いないんでな。
ノニカ それって。
ニア ノニカ先輩、やってくれませんか?
ノニカ ……練習時間、あまり残ってないよね?
サダ お前セリフ覚えるの早いし、なんとかなるだろ。
ノニカ まだ発表出来るかどうかわからないんでしょう?
サダ まあな。
ノニカ 駄目だったらどうするの?
サダ それは……
ソノコ その時は、みんなでがっかりしよう!
ミクリ そうそう。
チャコ みんなで、ですね。
アツミ みんなで。
ニア ここにいる。みんなで、です。
ノニカ 私も、入ってる?
ニア 当たり前です!
チャコ 先輩がいなかったら舞台にならないんですから。ねえ?
アツミ カニの母親がいなかったら話が始まりません。
サダ だから、戻ってきてくれるか?
ノニカ ……(と、躊躇う)
ミクリ (と、ソノコに目で合図し)せーの!

同時に
ソノコ え?
ミクリ おねがい! いや、合わせてよ。

ソノコ いや、いきなりやられても。
チャコ せーの! 
チャコ&ニア&アツミ お願いします!
ミクリ ほら、一年は出来てる。
ソノコ そりゃ、一回見ればね。
サダ よし。(と、全員に視線を送って)せーの! お願い(します)……やれよ!
ミクリ 三回は流石にね?
ミクリ&ソノコ くどい。
サダ そんなとこだけ息ぴったりだな!
ミクリ 褒めんなよ。
ソノコ 照れるわ。
サダ 全然褒めてないからな!
チャコ 先輩先輩。
アツミ 話、ずれてますよ。
サダ そうだな。……で。どうする?

    ノニカ以外の視線がノニカに向く。
    期待する視線。

ノニカ ……(と、みんなに頭を下げる)お願いします。部活に、戻らせてください。

    6人は顔を見合わせる。そして、歓声があがる。

サダ よっし!
ミクリ いよ!
ソノコ 待ってました!
チャコ&アツミ やったー!
ニア やりましたね!
サダ これで舞台ができる!
チャコ おかえりなさい先輩!
アツミ&ニア おかえりなさい!
ノニカ えっと、ただいま?
サダ じゃあ、早速だけど台本を。
ニア はい! 私取ってきます!(と、一度去る)
ソノコ いやぁ。良かったよかった。
ミクリ 実は結構困ってたんだよね。
ソノコ 前半部分全然出来てないから。
ノニカ そうなの?
アツミ なんか、ナレーションばっかで。
チャコ 説明ゼリフぽい?
サダ それ、殺陣の部分もな。
ソノコ セリフ、若干硬いよね。
ミクリ 私、言ってて意味わかってない所ある。
ソノコ それな。
チャコ あたしもです!
アツミ じつは、私も。
サダ 正直、俺も。
ニア (と、戻ってきて)はぁ!? なんですかそれ! 全然言ってくれなかったじゃないですか!
サダ いや、それは、さ。
ソノコ ねえ?
ミクリ 書いてくれたのに色々言うのはなーって。
ニア いや、先輩なんだから、気になることは言ってくださいよ!
ソノコ 二年だったら言いたいだけ言えるけど。
ミクリ 一年にっていうのはねぇ?
サダ なあ?

    と、ニアはチャコたちを見る。

チャコ あたしは、今思いついたっていうか。
アツミ チャコに同じ。
ニア そんなぁ。ノニカ先輩、みんなひどくないですか?
ノニカ いい、ニア。これが、脚本を書く人間の通る道。なの。
ニア 厳しいですね。
ノニカ 厳しいんだ。ってことで、あたしは遠慮しないでビシバシいくからね。
ニア はい! むしろこちらこそお願いします!
ノニカ うん。まず、はじめにだけど。
ニア はい!
ノニカ ……ごめん。母親役は無理だ。
ノニカ以外 え〜!?
ノニカ いやだってわかんないもん。
サダ 「もん」ってなんだもんって。
ニア えーと。
ソノコ あ、じゃああたしがやろうか? 役交換する?
ノニカ え。うんこ役はヤダ。
ソノコ うんこじゃねーし!! じゃあお前母親やれし!
ノニカ だから、母親は無理なんだって!
ソノコ 我儘言うな! 末っ子か!
ノニカ 長女です! 役者は我儘なんです!
ソノコ 開き直るな!
ミクリ 姉は?
ノニカ え?
ミクリ だから、お姉さんなら?
ノニカ まあ、それだったら? 出来ると思う。
ニア じゃあ、お姉さんにします。姉の敵討ちで。
ノニカ ありがとう!
ソノコ はい! バクソって名前変えたい!
サダ バクソはバクソだろ。
ソノコ バクソ言うなクソが!
サダ お前が言い出したんだよ!
チャコ じゃあ、メルダはどうですか?
ソノコ なにそれ?
チャコ イタリア語です。
ソノコ 意味は?
チャコ うんこ。
ソノコ やっぱりうんこなんじゃねーかYO!
サダ てか、そんな言っていいなら俺、死にたくないんだけど。
ニア え〜。
ミクリ あ、でもあたしも思ってた。やっぱ人が死ぬの嫌だなって。
チャコ (と、言いにくそうに)あたしも、です。
ニア え、でも、(惨殺したいって)
チャコ ほら、こんな状況だし? ちょっとなぁって。
アツミ 実は、あたしも。
ニア じゃあ、峰打ちにします?
ノニカ 待って。サルが死なないなら、姉も死なない? 出番増える?
サダ 増えていいのか。
ノニカ 出ると決めたらたくさん出たい。
ニア 分かりました。サルは半殺しにします!
サダ 逆に物騒!
ニア じゃあ、さっそく最初の方から直しつつ通しましょう!
ノニカ え、私台本渡されたばっかなんだけど?
ニア 先輩は台本持ったままでいいので。母のセリフをお姉さんぽく変えてください。
ノニカ すごい無茶振りが来た!
サダ ま、残り時間も少ないし。進められるだけ進めるしか無いだろ。
ソノコ 間に合うかなぁ。
サダ 間に合わせるんだよ。
ミクリ よーし。みんな頑張ろう、せーの、おー!……って合わせてよ!
サダ いや、何でいきなりこいつ仕切りだしたんだろうって思って。
ソノコ そんなの今までやったことなかったし。
ミクリ え、ここはそういう流れじゃない? 頑張ろうって言葉にみんな声合わせて、エンディングって流れでしょ?
サダ なんだよ流れって。
ミクリ 流れは流れだよ! わかんだろ! ね? わかるよね?

    と、みんな首をかしげる。

ミクリ わかんないふりしてんじゃねーよ! もういい! あたし、部活やめる!
ソノコ じゃあ、オープニングから始めよっか。
サダ そうだな。
ノニカ 了解。
ソノコ 一年、準備して。
チャコ&ニア&アツミ はい!
ミクリ そうだなじゃねーよ。了解してんな! そんで一年も元気に挨拶してんじゃねーよ! とめろよ! なに? あたしいらない子? いらない子なの? 帰っちゃうよ。本当に帰っちゃうからね? そんで、辞めちゃうからね?
ソノコ あれ? ミクリ帰るの? ばいばーい。
サダ ばいばーい。
ミクリ ばいばーい。じゃねえよ! なんだこれ! いじめか! 帰る!
ノニカ はいはい。そこまで! ミクリも帰らないの! なんで急にこんな展開になるかな?
ソノコ ノニカが止めるだろうと思って。
サダ いつものノリでやったら止め時がわからなくなった。
ノニカ おバカか! ほら、ミクリもいじけないで。部活しよ?
ミクリ ありがとうノニカ!
ノニカ はいはい。
チャコ やっと、もとの部活になった。
ニア うん。
アツミ これで、安心して全国ツアーの妄想に浸れる。
チャコ アツミ? 戻ってきて? まだ部活中だよ。
ノニカ 全く。……なんかいろいろ考えていたのがバカバカしくなった。……はい!注目!

    と、皆の視線をノニカは集める。

ノニカ あたしが言うのもあれだけど。残り時間は少ないし、まだまだ台本は未完成だし、やること多いけど。最後まで、みんなで頑張ろう。……ほら、ミクリ。
ミクリ いいの?
ノニカ 景気づけにやろうよ。

    ノニカの言葉に皆頷く。

ミクリ よっし、頑張るぞー! せーの、
全員 おー!

    音楽。
    部員たちはみんなで芝居の練習を始める。

あとがき
2021年の1月、春に向けて台本を~となっていた時に決まった再びの、緊急事態宣言。
どうなるんだろうという不安の中、生徒たちから舞台でやってみたいことを集めて出来た台本です。

大筋だけ決まっていれば、言いたいセリフや、漫才の部分などはどんどん変えていけるかと思います。
皆で意見を出し合いながら色々な形に変えていってくれればとても面白いかと思います。

どうしても台本を書く作業は一人になりがちですが、
悩みすぎて書くこと自体が嫌いになってほしくはないなぁと心から思います。

演劇は面白いものです。
どうか楽しんでお続けください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。