いまだあけぬよるのなかで
未だ明けぬ夜の中で
作 楽静
登場人物(女7人(最少人数)) | |
シノノメ イロハ | 高公立高校2年 最近不登校ぎみ。 |
ヒグレ ユメ | 公立高校2年 イロハの友人。隠れオタク。 |
ナイトウ サヨ | 私立高校2年 昔イロハを助けた少女。 |
エンチュウ マナ | 私立高校2年 捻くれた少女。 |
エンチュウ ハナ | 社会人二年目 マナの姉。本屋。副業は霊媒師 |
トワ | 私立高校1年 マナの後輩。 |
レイ | 私立高校1年 トワの友人。 |
以下の役はそれぞれ余裕のある役が演じる。()内は初演時の兼ね役 | |
女生徒 | 通りすがりの女生徒(レイ) |
イロ母声 | イロハの母。声のみでの登場(ハナ) |
サヨ母 | サヨの母。(ハナ) |
子供サヨ① | 小学校時代のサヨ。 (トワ) |
子供サヨ② | 上に同じ。(ユメ) |
子供サヨ③ | 上に同じ。(ハナ) |
子供イロハ | 小学校時代のイロハ。(レイ) |
小学生① | 男子生徒。(ハナ) |
小学生② | 女子生徒。(マナ) |
黒子① | 説明用黒子(レイ) |
黒子② | 説明用黒子(トワ) |
※ 上記は必要最少人数だが、初演時は8人で上演された。
※ 初演時、舞台は前面と奥とで分けることによってなるべく暗転を造らないように上演された。
秋の物語。
※身代わり池はその昔、病で苦しむ妹のため兄が池の怪異に治癒を願ったところ「お前の魂と引き換えなら妹を助けてやろう」と言われ、兄が飛び込んだことからその名がついた。妹は結局助かることはなく、怪異の声を聞いた者もその後いなかったが、何故か「身代わり池」の名は廃れることなく
残り続けた。○○は助かった。××は駄目だった。などとまことしやかに語られることもしばしばなその池がどこにあるのかは作中では語らない。
?
1 九月中旬、水曜日。夕方。イロハの部屋。
イロハの部屋とわかる場所。壁には着ていない制服がかかっている。座卓。その上にノートパソコンとヘッドフォン。卓上時計。
座っているイロハと、イロハの肩を揉んでいるユメ。イロハはルームウェア。ユメは制服を着ている。
ユメの近くにはユメの学生カバンが置いてあり、その上にはユメのスマフォが置かれている。
ユメ だからさ、私たちは夜の中にいるんだよ。今がどんなにつまらなくても、人生は長いんだから。今は準備期間に過ぎないんだ。(と、マッサージ終える)明日があるっていうでしょ。絶対そのうち良いことあるから。前向きに生きなきゃ。
イロハ でも、やりたいこともないし。毎日つまらないし。
ユメ 欲しいものくらいあるでしょ。
イロハ あるけど、絶対手に入らないし。
ユメ 徳川埋蔵金?
イロハ もっと形のないやつ。
ユメ 仮想通貨!?
イロハ そういうんじゃなくて。ユメも、あと他のみんなも持っているのにあたしが持てていないもの。
ユメ 美的センス?
イロハ もう帰れよ。
ユメ 冗談だって。(と、時計が目に入り)って、もうこんな時間。あたし帰るね。あ、これ、来週提出のプリント。これのために来たのに忘れて帰るとかないわ。
イロハ わざわざごめん。
ユメ (と、帰りかけるが立ち止まり)明日は学校来られそう?
イロハ 多分。
ユメ もうすぐ修学旅行でしょ。楽しいことも多いから、来といたほうが良いよ。
イロハ ……明日は頑張って行く。
ユメ よし。じゃあまた明日。
イロハ また明日。
と、ユメが去る。
イロハ 欲しいもの、か。……夜に負けない自信が欲しい。
と、イロハはヘッドフォンをつけ、音楽を流す。
音楽が流れる。※オープニング
夕日の照らす中、歩いている制服姿のトワ。店員の格好をしたハナが追ってくる。トワが店に忘れたものを届ける。
不思議そうにお礼を言うトワ。ハナは満足気に去る。ハナが去った方向とは逆から歩いて来るレイ。トワと出会い、一緒に去る。
楽しげに歩く制服姿のマナと、つまらなそうな制服姿のサヨ。すれ違うように走ってくるユメ。片手にスマフォを握っている。そのまま走り去る。
マナが歩き去っても、サヨは舞台に残っている。どこかに再びユメが現れる。スマフォに目を向けよそ見中。
唐突に音楽が止み、ブレーキ音が響き、二人の姿が消える。救急車の音が響き渡る。不吉に響く電話の音。
?
2 水曜夜。身代わり池。
その日の夜。身代わり池と呼ばれる池の側。曇天。
スマートフォンを片耳にあて、イロハがやってくる。
イロハ あのさ。(と、思ったよりも声が響いたようであたりを見渡し、やや小声で)シャレにならないくらいに怖いんだけど!
あのね。身代わり池だよ? そりゃ自信が欲しいとは言ったよ? なんでそれで肝試し? それも身代わり池なんて、マジな心霊スポットだし。
死ぬと身代わりに願いが叶うとかわけわかんない伝説あるし。自殺者のニュース、一緒に見たでしょ。……そうだね。ユメは笑ってたっけ。
と、イロハの背後から制服姿のサヨがやってくる。緊張しているように見える。
イロハに気がつくと、信じられないものを見るような足取りでゆっくり近寄る。
サヨ イロハ?
イロハ (と、悲鳴)!? 今あたしの後ろに何かがいる。あたしのことを呼んでいる。まって、切らないで待って……なんで切るんだよぉ。
サヨ 本当に、イロハ?
イロハ はい、イロハです。
サヨ ウチのこと、分かるか?
イロハ どこの、どなた様でしょうかぁ?
サヨ ……こっち向いて自分で見ろよ。
イロハ 振り向いたら、消えてたりしないですよね?
サヨ するか。どんなエスパーだ。
イロハ エスパー?
サヨ 超能力者のこと。って、前に教えなかったか?
イロハ え?
サヨ 「ウチはエスパーじゃない」って言ったら、「エスパーってなに?」って。あれ、いつだっけ。
イロハ それって(と、振り返り)……サヨちん!?
サヨ ああ。
イロハ え、サヨちん!? 本当にサヨちん?
サヨ ああ。
イロハ サヨちん? サヨちん! サヨちん? サヨちん! サヨち
サヨ (と、イロハにデコピンする)
イロハ 痛い! え? 何? なんで?
サヨ 呼びすぎだ。恥ずかしい。あと「ちん」ってつけるのやめろ。なんか卑猥だろ。
イロハ ごめん。でも、サヨちんはサヨちんだったから。ちんがあるからこそのサヨちんというか。
サヨちんはやっぱりサヨちん(が似合うねと言うか)
サヨ (と、イロハにデコピンする)
イロハ 痛い!
サヨ 「ちんちん」うるさい!(と、言ってしまった屈辱に呻く)?
イロハ サヨちんのほうがよっぽど卑猥だし。
サヨ とにかく。サヨちんはやめろ。もう高校生なんだから。
イロハ じゃあなんて呼べばいい?
サヨ 何もつけなくていいだろ。
イロハ え……じゃあサヨ。(と、呼んで照れる)
サヨ 照れるな気持ち悪い。久しぶりだな。イロハ。
イロハ うん。久しぶりだね、サヨちん!
サヨ (と、イロハにデコピンする)
イロハ 痛い!
と、イロハは笑う。サヨも笑ってしまう。サヨに抱きつくイロハ。鬱陶しそうに相手するサヨ。
制服姿のユメがやってくる。ユメは何も持っていない。ユメが話し出すとあたりは次の日となる。
サヨはイロハと話している素振りで身代わり池を後にする。
3 木曜日。放課後。サヨの高校近くの路上。
ユメ いやーないでしょ。ありえない。
イロハ 本当に偶然会えたんだって。それで思い出話に盛り上がったんだけど、夜遅いから帰ろうってなって。
ユメ 小学校の友人との再会の場所が、身代わり池って。
イロハ 運命だし!
ユメ でも連絡先聞かなかったと。
イロハ 胸が一杯になっちゃって。大丈夫。制服はちゃんと見た。
ユメ それで、ここにつながるわけか。
イロハ 学校前にいればまた会えると思うんだ!
と、話しているところへ制服姿のトワが通りかかる。イロハを不審そうに見つつ去る。
ユメ 不審者扱いされてるけど。
イロハ 言うなし。心折れる。
ユメ せめて制服着てくればよかったのに。
イロハ だって、学校に行かないのに制服着て歩くのはさぁ。
ユメ 変なところ律儀だよね。
イロハ ユメが来てくれて助かったし。
ユメ それで呼ばれたのかあたしは。
イロハ ごめんね。変なことで呼び出しちゃって。
ユメ いいよ。イロハ、必死だったもんね。
イロハ なんか起きたら全部夢かもしれないって思って。
?
と、制服姿のサヨがやってくる。後ろから声をかけられたらしく、立ち止まりため息をつく。
イロハ ……いた。
ユメ 夢じゃなかったね。
イロハ うん。これで、ユメを紹介できる(と、呼ぼうとする)
マナ (と、声)サヨちーーん。
と、制服姿のマナがやってくる。サヨに纏わりつく。
声をかけようとしていたイロハは思わず固まってしまう。
マナ 呼んでるのに無視するなんてひどくない?
サヨ ちゃんと止まっただろ。
マナ 手を振るとか、声を返すとかしてくれてもいいじゃん。
サヨ 面倒。
マナ そういう人だよねサヨちんって。さ、今日はなにして遊ぼうか?
サヨ ……今月、もう金が無い。
マナ じゃあ、稼いじゃう? サヨちん得意じゃん。
サヨ その話はやめろ。
マナ 誰も聞いてないって。(と、イロハに気づく)ん? 知り合い?
サヨ ……知らない。
マナ 誰か待ってるのかな?(と、イロハの視線の先を追う)
サヨ ……(と、無言で歩き出す)
マナ 待ってよ、サヨちん。(と、イロハに)待ち合わせですか?
イロハ あ、えっと、いえ。
サヨ (と、二人の会話を止めるように強く)マナ。帰っていいなら帰るけど。
マナ ちょっと世話を焼こうとしただけじゃん。さ、行こう。今日は帰さないよ。
と、マナとサヨは去る。呆然とするイロハをユメは慰めようとする。
ユメ ……まあ、中学以前の友達って、高校での友達と一緒の時に会うと、ちょっと気まずかったりするよね。
あたし、イロハと一緒に歩いている時に中学時代の友達見かけても、声掛けないよ。まあそれは高校入ってから、
興味のジャンルが変わってしまったせいってのもあるんだけど。だから、今の友達を優先するのも仕方ないというか。
イロハ 誰だ、あの女ーー!!!
ユメ サヨって子の友達じゃない?
イロハ あたしには「サヨちん」って呼ぶなって言っておきながら、あの女ガンガン呼んでたし!
ユメ え、気にしてたのそこ?
イロハ しかもあの女、学校前でウロウロしている人に親切に声かけるとかありえないし! いい人か!
ユメ いい人じゃ悪いの?
イロハ 悪くない! でもサヨがあんないい子と友達なんておかしい!
?
ユメ いやいや。それはイロハの願望じゃない? 自分よりも仲がいい人がいてほしくない、的な。
イロハ それもある!
ユメ 面倒くさい女だなぁ。
イロハ そんな女とあえて友だちになるのがサヨなんだよ。あんなふうに無視するのもサヨらしくないし。絶対なにかある。
ユメ そうかなぁ?
イロハ 行くよ。
ユメ どこに?
イロハ 後をつける!
と、イロハは二人を追うように去る。
ユメ ま、元気になってくれて良かった。
と、ユメはホッとした顔でイロハの後を追って去る。
4 放課後の尾行風景
音楽の中、イロハとユメはサヨとマナを尾行する。
くっついているマナに、無表情なサヨ。サヨは片手に財布を出している。
マナに言われるがままに、たい焼きや、肉まんなどを購入するサヨ。二人は街を歩き、本屋に寄る。
歩いてくる女生徒、トワ、ユメに手を振るハナ。それぞれに、イロハは話を聞く。
ユメはそんなイロハに驚いたり、ハナにびびる。
ハナに話を聞いている間にマナとサヨは去り、気づいたイロハが去る。
ハナ ありがとうございました。また、お越しください。
と、ユメは一度立ち止まる。ハナが手を振る。首を傾げながらユメが去る。
ハナ ありがとうございました~。
と、本を探している女生徒がやってくる。
女生徒 すいません。
ハナ はい。ああ。日本史の参考書でしたら、あちらに特集コーナーがございます。
女生徒 え。
ハナ ご案内しますね。漫画が好きでしたら絵が多いものがおすすめですよぉ。(と、去る)
女生徒 まだ何も言ってないんだけど。
と、女生徒はハナの後をついて去る。
5 木曜夜。イロハの部屋。状況整理
イロハの部屋。机の上にはノートパソコン。今日の行動を箇条書きでまとめている。
疲れ切ったイロハと、微笑ましく見ているユメがいる。
ユメ 引きこもりにしては頑張ったほうだと思うよ。
イロハ 知らない人と話すのなんて久々だったから、なんて話しかけたら良いかわからなかったし。
ユメ 怪しい外国人みたいだったね。
イロハ (と、聞き込みの時のように)チョトお時間イイデスカ?
と、どこかに突然声をかけられた風の女生徒が現れる。女生徒の格好は制服姿だが、ユメともサヨたちとも違う。
女生徒 私?
イロハ スイマセン。アソコ歩イテル二人イマスネ。アノ二人トハ、ドンナ関係デス?
女生徒 他人ですけど。
イロハ&ユメ ですよね。
女生徒 もう良いですか?
イロハ 待ってください! あの二人、どんな関係に見えますか?
女生徒 友達同士? にしては、距離が、ある? かな。
イロハ ですよね!?
ユメ 嬉しそうだなぁ。
イロハ 聞きたいことは以上です! では!
女生徒が去る。
ユメ 道行く人が偶然知り合いってのは、流石に無理がない?
イロハ 一杯一杯だったし。でも、おかげで冷静になれて。同じ学校の生徒に聞いてみようって思えたし。
ユメ だからって、あれは馴れ馴れしかったよ。
イロハ (と、当時の勢いになり)ねえ、君。君だよ君。今時間ある?
と、突然話しかけられた風でトワが現れる。
トワ ……え?
ユメ 思い切り引かれてたよね。
イロハ 気づきました。気づいたからすぐに立て直しに入ったし。(と、当時の様子で)ごめんなさい。少し聞きたいことがあるんですけど。
トワ なんですか?
イロハ あの前を歩いている二人、知っています?
トワ ? エンチュウ先輩??
イロハ エンチュウ?
トワ あの、今たい焼き食べてる方。部活の先輩なんで。
イロハ あの人ってどういう人?
トワ よく食べる人ですね。
ユメ 見たままだね!
イロハ それ以外に。というか、そのエンチュウさん? と、隣の子の関係って分かる?
トワ あの財布出している人ですか?
イロハ そう財布出して……え?
トワ 友達じゃないですかね。あの、もういいですか?
イロハ うん。大丈夫です。
と、トワが去る。
ユメ どうしたの?
イロハ サヨ言ってたよね。「今月金無い」って。
ユメ そういえば、食べてるのはエンチュウ? って子ばかりで、イロハの友達は、
イロハ 全然食べてなかった。なのに、財布はずっと出してた。
ユメ だから、店員さんに話を聞いたの?
イロハ うん。目が合ったから仕方なくって言うのもあるけど。
と、ハナが現れる。
ハナ いらっしゃいませ。何でもお聞きください。
イロハ すいません。あの二人って、よくこの店来るんですか?
ハナ え? まあ、来ると言えば来るけど。
イロハ 手に財布を持ってた子がいつも支払いを?
ハナ そうね。ここに来る時はいつも何か買っていってくれて。
ユメ 本が好きな子なんだ?
イロハ ううん。えっと、どうも、でした。
ハナ ありがとうございました。また、お越しください。
と、ハナが去る。
?
6 推理
イロハの部屋で、ユメとイロハはノートを囲んでいる。イロハは悪い想像が膨らんでいる。
イロハ なんとなくだけどさ。
ユメ うん。
イロハ あたしを無視した理由とか、財布をずっと手に持ってたとか、昨日、身代わり池に来たとか。繋がっちゃう気がするんだけど。
ユメ うん。
少し暗い雰囲気になる。
イロハ (と、話題を変えようと)そうだ。ごめんね。今日、柔道部サボらせちゃって。
ユメ いいよ。二年って言っても補欠だから。むしろあたし、部活では影薄いから、いないことに気づかれているかどうか疑問だったり。
イロハ それ、部活やってて楽しいの?
ユメ 楽しいよ? 柔道部を扱った漫画って結構あるからさ。「この技は漫画に出てきたやつ」とか思うと、練習にも力はいるんだよね。
イロハ それは楽しそうで何より。
ユメ イロハもなにか部活入ればよかったのに。
イロハ あたしは中学の時、部活で結構やらかしたから。
ユメ 空回りしたんだっけ?
イロハ 盛大にね。あいつら陰湿だからさぁ。一個下なんて、卒業式に数人で囲んできてさ。「あたしたち、先輩のこと嫌いでした」って。
ユメ 最悪。
イロハ だからさ、高校では部活入る気なくて。……友達も作る気なかった。あんなに一緒の時間過ごしたのに、誰も助けてくれなかったし。
ユメ (と、ぽつりと)じゃあ、あたしは運が良かったんだ。
イロハ え?
ユメ イロハの友達になれて。運が良かったんだ。
イロハ ……恥ずかしくない? そういうこと言っちゃうのって。
ユメ 結構恥ずかしい。だから、今日は帰る。
イロハ うん。ママに見つかんないようにね。
ユメ まかせとけ。気配消して帰るから。
イロハ また明日ね。
ユメ また明日。
と、ユメが去る。
イロハ 運が良かったのはあたしの方だし。……だからこそ、サヨのことは助けなくちゃ。
イロ母声 イーローハー?
イロハ ちょっとはシリアスさせてよ。なーにー?ママ―?
イロ母声 電話ー。
イロハ 誰からー?
イロ母声 珍しい子よ~。サヨちゃん。
イロハ え?
身代わり池にスマフォを片手にサヨがやってくる。
サヨ 今日のこと謝りたくってさ。それだけだから。……今? どこでもいいだろ。いや、違くない。大丈夫。補導される時間までには帰るよ。
うん。じゃあな。今日はごめん。うん。
電話を終えて、下ろしたスマフォの画面は光っている。ふと気づく。
サヨ そうだ。あの時、なにか変だと思ったんだ。そうだよな。何もなきゃ、こんなとこ誰が来るんだよ。
膝を抱えるようにしてうずくまる。
7 木曜日。夜遅く。身代わり池。
ふと、サヨは気配を感じて顔を上げる。身構える。イロハがやって来るのを見て肩の力を抜く。
イロハ 怖くない怖くないったら怖くない。(と、繰り返しながら)
イロハはスマフォを懐中電灯のようにしている。サヨに気づくと呟くのをやめ、駆けより、隣に腰を下ろす。
サヨ なんで(「来たんだ?」)
イロハ うん?
サヨ なんでもない。
イロハ うん。
風の音と虫の音。人がいないような世界。
イロハ ……あたし、中学の時、サヨの家にかけたことある。
サヨ かからなかっただろう?
イロハ うん。
サヨ 引っ越して番号変わったから。
イロハ うん。
静かに時が流れる。
サヨ ……聞かないのか?
イロハ ここにいるっていうのは、そういうことなんでしょう?
サヨ ……ちらりと思ったくらいだけどな。もういいかなって。楽しいこともないし。これから良いことがある気もしないし。
イロハ あたしは、その、あたしも思ったことある。生きているのしんどいなって。……中学でちょっとやらかしちゃってさ。
高校はおとなしくしようと思って。そうしたら、小学校の時みたいに一人になっちゃって。なんか生きてても仕方ないなって。
でもね、そんなあたしにも友だちができたんだ。
サヨ 頑張ったんだな。
イロハ ううん。きっかけをくれたのはユメだったし。友だちになれたのはサヨのおかげ。
サヨ ウチの?
どこかに高校一年生の時のユメが現れる。
ユメ その本! いや、ごめん。なんでもないです。ちょっと思いがけない出会いだったと言うか、ああ、なんでもないです。
あの、できれば何だけど、その本、当にできればでいいんだけど。その本、いや、やっぱりいいです。
サヨ さっぱりだな。
イロハ うん。だから思わず言ったんだ。昔サヨに言われたみたいに。
サヨ もしかして?
イロハ そう。「言いたいことあるならはっきり言ってよ。あたしは
サヨ&イロハ 「エスパーじゃないんだから」
サヨ パクったな。
イロハ パクった。でね、そしたらユメが、キョトンとした顔して。
サヨ まさか、
イロハ うん。
ユメ ごめん。エスパーってなに?
ユメの姿が消える。
イロハ 思わず笑っちゃって。てか大笑いだったし。「うるさい!」って司書の先生に怒られて、図書室追い出されて。謝るユメと一緒に帰って。気づいたら友だちになってた。
サヨ そっか。
イロハ うん。サヨのおかげ。
サヨ ウチは何もしてないだろ。
イロハ あの時、あたしを助けてくれたから。あたしと友だちになってくれたから。だから、あたしはユメと友だちになれた。
今日まで生きてこれた。
サヨ 大げさだよ。
イロハ だから、今度はあたしの番。
サヨ なんだよそれ。
イロハ 絶対助けるから! ……話して。困ってるんでしょう?
イロハの言葉にサヨは泣きそうになる。そして、話しだした。
?
8 金曜日 昼間 イロハの部屋。サヨの回想
平日の昼間からイロハの部屋に来ているユメ。昨日の話をイロハから聞いていた。
ユメ 脅迫!?
イロハ サヨが言うにはね。
ユメ それってあの「奥さん、この写真を見てもらおうか」「これは!?」「浮気のこと旦那さんにバレても良いのかな?」「お願いします。
主人には言わないでください。何でもしますから」「何でもするって言った? ならまずはその体を、」いつまでやらせんの。止めてよ。
イロハ 自分で始めたくせに。
ユメ てか、今やってて思ったけど、脅迫ってまずは弱みを握らなくちゃ始まらないでしょ。サヨって子の弱みはなんなの?
イロハ それは、
サヨが出てくる。彼女が語るのはイロハに語っていた内容。
サヨ 小6の時、親の都合で引っ越すことになって、ウチはこの街を離れただろう? 戻ってきたのは、親が通っていた高校に、
ウチを通わせたい、なんて理由なんだ。ふざけてるだろ? 連絡しなかったのは、誰かと話すのがすごくだるくてさ。だって、
誰と仲良くなったところで、ウチは流されるままで。親の都合で離れることになるんだ。だったら、最初から一人が良い。
一人で、毎日が過ぎるのを待ってた。なのに、
どこかにサヨの母親が現れる。
サヨ母 サヨ。もう二年生なんだから、進路はっきりしなさいよ。
サヨ え……?
サヨ母 自分の将来なんだから、自分で決めないと。いつまでも子供じゃいられないんだからね。
サヨの母の姿が消える。
サヨ 答えは決まってるんだ。親が望むウチってやつが。さりげない話題に。机の上に置かれたパンフレットに。親の知り合いとの会話の中に。
ウチは何も言えなくなって。それは、あの時のイロハみたいで。
と、音楽と共に子供の姿をした少女がやってくる。
それは過去のサヨとイロハ。少女らしい格好のイロハ。男っぽい格好のサヨ。泣いているイロハを慰めている幼いサヨ。
子供サヨ① イロハ、だっけ? お前見るからにおとなしいし。なんか全身からにじみ出てるよな。いじめてくださいってオーラ。だから給食のおかず程度でいじられるんだよ。
子供イロハ ごめんなさい。あの……(ありがとう)
子供サヨ① 言いたいことあるなら、はっきり言えよ。ウチはエスパーじゃないんだから。
子供イロハ うん。えっと、その、
子供サヨ① 言いたいことは、はっきり言わないと駄目だって。ほら、
子供イロハ あのね、
音楽が消える。
と、サヨの近くに子供サヨ②が現れる。子供サヨと同じ格好。
子供サヨ② 言いたいことは、はっきり言わないと駄目だって。ほら、
サヨ やめろ。
と、サヨの近くに子供サヨ③が現れる。子供サヨと同じ格好。
子供サヨ③ 言いたいことは、はっきり言わないと駄目だって。ほら、
サヨ やめろよ。
子供サヨ達 言いたいことは、はっきり言わないと駄目だって。ほら、
サヨ やめてくれ!
か弱い少女のように、過去からサヨは逃げ去る。過去のサヨ②③が消え、再び音楽とともに懐かしい過去の光景が続く。
子供イロハ エスパーって、なに?
子供サヨ① はぁ!?
子供イロハ ごめんなさい。
子供サヨ① いや、謝らなくていいけど。エスパーってのは超能力者のこと。てか、気になるとこそこかよ。(と、笑う)
子供イロハ ごめん。
子供サヨ① ま、一応言いたいことは言えたってことで。ほら。(と、手を差し出す)
子供イロハ え?
子供サヨ① 握手だよ。握手も知らないのか?
子供イロハ 知ってるけど。なんで?
子供サヨ① なんでって。友達になろうよ。の、握手。
子供イロハがおずおずとサヨの手にふれると、子供サヨ①はその手を握り満足そうに笑う。
子供イロハも照れたように笑う。二人は手をつないだまま一緒に去る。
どこかで、本屋の店内をうろつくサヨがいる。サヨは周りを見渡すと、本を一冊手に取り、カバンに入れ、足早に店を出ていく。
その後をスマフォを持ったマナが追いかける。景色がイロハの部屋に戻る。
ユメ 万引き!?
イロハ うん。昨日行った本屋で。わざわざ防犯カメラが見える位置で本をカバンに入れて、店を出たんだって。
ユメ そんなのすぐバレるよね。
イロハ 警察に捕まって、理由を問い詰められでもすれば、言いたいことが言えるようになるんじゃないかと思ったって。
ユメ 馬鹿だなぁ。あ、ごめん。
イロハ でも、本屋にはバレなかった。サヨが写ってると思っていた防犯カメラはちょうど故障していたんだ。そして、サヨはその夜に、母親から、父親の昇進を聞かされた。
ユメ おめでたいことだよね?
イロハ うん。喜ぶ家族を見たら、警察沙汰で迷惑をかけるなんて考えられなくなって。なのに、次の日、
と、朝のざわめきの中、スマフォを見ながら登校中の生徒を確認しているマナ。
そこへ学校へ行く途中のサヨが現れる。マナがサヨに気づく。
マナ いたいた。ねえ、あなたでしょ。
サヨ なんだよ。
マナ これ。あなただよね?
マナはサヨにスマフォを見せる。サヨは固まる。音が消える。
マナ こういう事、いつもしているの? 駄目だよ。あの店、防犯カメラが壊れても、なかなか修理出来ないくらいなんだから。潰れちゃうよ?
サヨ それ、どうする気だ?
マナ ネットに晒すとか? あ、名前教えてくれる? 二年生だよね?
サヨ ……ナイトウサヨ。
マナ サヨか。サヨちんだね。サヨちんは何組?
サヨ 二組。
マナ 隣のクラスか。じゃあ、続きは放課後ね?
ご機嫌に去るマナ。立ち尽くすサヨ。チャイムの音が響く。のろのろと歩いてサヨは去る。
9 打開策検討
景色はイロハの部屋に戻る。
ユメ なるほどねぇ。
イロハ 今日の夜、またサヨと会う約束しているんだ。それまでに対策を考えないと。
ユメ ねえ、イロハ。
イロハ 何?
ユメ 今日、何曜日?
イロハ 金曜日だけど?
ユメ 今は何時?
イロハ お昼だね。やばい。昼ごはん食べてないし。
ユメ いつまで目をそらしているの?
イロハ えっと、なんの話?
イロハは何かが聞こえたような気がする。わかりたくなくて首を振る。
ユメ ……映像はスマフォに入っているんだよね?
イロハ (と、話が変わったことにホッとして)っていう話。盗む?
ユメ 人を脅すような人って、スマフォから目を離す?
イロハ そもそも家の外で、スマフォを手放す時っていつ?
ユメ ……ないよ。
イロハ ないな。
ユメ あたし、ほぼ手に持ってた。
イロハ スマフォ中毒め。
ユメ お前もな。
二人笑い合って、頭を抱える。
イロハ そもそも盗んだりしたらこっちが捕まるし。
ユメ だよね。悔しいね。脅迫って犯罪なのに。こっちが犯罪者になるかもしれないなんて。
イロハ 脅迫は、犯罪?
ユメ そうだよ。今回の場合は脅迫によって金品を得ているんだから、恐喝罪になるはずだけど。
イロハ ってことは、こんなのはどう?
二人は頭をつき合わせる。そして、サヨとの待ち合わせの時間となる。
10 金曜夜 身代わり池
身代わり池にサヨが現れる。イロハの話に呆然とする。
サヨ 脅し返す!?
イロハ そう。脅しには、脅しを。その、マナって子の弱みを握って、脅し返せば良いんだよ。
サヨ あいつに弱みなんかあるかな。
イロハ 少なくとも、一つはあるし。
サヨ なんだそれ。
イロハ 同じ学校の生徒を脅している。
サヨ ウチ自身をネタにするのか。
イロハ 動画を晒す、なんて発想をする子だからさ。自分がされた時の怖さはよくわかっていると思うんだよね。
サヨ なんでそこまで出来るんだ? 全部ウチが悪いのに。
イロハ そんなことないし。
サヨ あるよ。10人いたら、10人が、自業自得だって笑うに決まってる。
イロハ あたしは笑わない。10人が笑ったって、11人目は違うかも知れないし。その11人目に救われることだったある。
そう教えてくれたのはサヨだよ?
サヨ ウチが?
?
小学生①は男子、小学生②は女子、子供イロハが現れる。子供イロハの机を小学生①②が囲む。机の上には給食のトレイが置かれている。
小学生① お前、ハンバーグ食べられないの? おかしくない?
イロハ 四年生の給食の時間。あたし、その前の日にすごいグロいホラー映画見ちゃって。そのせいで給食のハンバーグが食べられなくて。
小学生① なあ、どっかおかしいんじゃない?
小学生② ねえ、なんで?
小学生① なんでだよ? おい、なんとか言えよ。
小学生② 無視しなくてもいいじゃん。
イロハ 周りが騒がしくなって。あたしは何も言えないままで。そんな自分が嫌で仕方なくて。自分が嫌な自分は、何を言われても仕方ないのかもなんて思ったりして。だけど、
サヨ そうか。あの日か。
子供サヨ①がやってくる。
子供サヨ① そんなのこいつの勝手だろう! こいつの好き嫌いがお前らに関係あるのかよ!
その言葉に、嬉しくて子供イロハは泣いてしまう。
小学生①と②は気まずくなって食事を終えるとさっさと去る。子供サヨ①は泣いてる子供イロハに気づくと、無理やり立たせて引っ張っていく。
イロハ 誰も助けてくれないって思ったけど、そうじゃなかった。だから、サヨもそう。誰がサヨを否定しても、あたしは否定しない。
サヨ ……ありがとう。
イロハ お礼は作戦がうまく行ってからでいいし。それで、映像を撮るには脅されている現場が必要だから、周りの目がなくて、あたしたちが潜んでいても大丈夫そうな場所で、相手に脅されてほしいんだけど。
サヨ わかった。でも平気か? 怖いの苦手だろ。
イロハ 大丈夫一人じゃないし。……正直言うと、これ友達と一緒に考えたんだ。
サヨ 前に言ってた子か。
イロハ ごめん。あたしだけじゃ思いつかなくて。
サヨ いいよ。そのかわり、今度会わせてくれよ。
イロハ うん! もちろん! じゃあ、明日ね!
サヨ ああ!
イロハは元気に走り去る。サヨは自分を勇気づけるように頷くと、どこかに電話をかける。
サヨ ああ。ウチ。なあ、明日空いてるか? 夜でいい。……話したいことがあるんだ。
サヨの姿が消える。マナの姿が現れる。どこかに電話をしている。
マナ んじゃ、一応よろしく。きっと楽しいことになると思うから。うん。頼りにしてる(と、電話を切る)明日、楽しみだなぁ。
時間が流れる。
11 土曜。今にも日が沈みそうな夕暮れ。廃病院外
身代わり池近くにある、廃病院。恐る恐るやってくる制服姿のユメ。イロハはカバンを持っている。中には三脚が入っている。
ユメ ここ?
イロハ うん。サヨに教えてもらった住所。
ユメ 絶対勝手に入っちゃいけない場所だよね。大丈夫? 住居侵入罪だよ。
イロハ バレなきゃ問題ないし。
イロハは三脚にスマフォをセットし、撮影の準備を始める。
ユメ てか、いかにも何かでそうじゃない?
イロハ そんなの怖がってる場合じゃないし。
ユメ ……イロハさ。
イロハ なに?
ユメ 随分と度胸ついてきたね。
イロハ そうかな?
ユメ (と、どこか満足そうに)うん。これなら大丈夫かな。
イロハ なにが?
と、トワとレイがやってくる。
トワ あのぉ、こんなところで何やってるんです?
レイ 何だ? この三脚。
トワ え、何? 盗撮? なにを?
イロハ やばい。
と、とっさに逃げるイロハとユメ。
トワ レイ!
レイ 任せろ。
と、レイが追いかけて去る。
トワ 楽しくなってきたなぁ。
トワも去る。
12 土曜夜。廃病院の中。
廃病院の中。設備はすべて撤去され、古びたカーテンが残るのみ。
マナとサヨがやってくる。
マナ ここさぁ。医療ミスを隠していたことが発覚してからは、あっという間だったよね。……で、話って何?
サヨ ……。
マナ こういう誰もいない場所ってドキドキするよね。通報されるかもっていうのもスリルがあっていいよ。サヨちんもスリルを求めるなら、
こういう廃墟訪問でスリルを味わえばよかったのにね。
サヨ 別にスリルなんて求めてない。
マナ じゃあ、なんで万引きなんてしたの?
サヨ それは。
と、トワとレイがイロハを連れてくる。
イロハ 離してよ。別に逃げたりとかしないし。
トワ さっきからスキあれば逃げようとしてるじゃないですか。レイ、離しちゃ駄目だよ。
レイ 分かってる。
マナ その子誰?
サヨ イロハ……。
トワ 先輩。いきなり鬼ごっことか全然楽しくないんですけど。
レイ 騙された。
マナ ごめんごめん。人気(ひとけ)のない所なんて指定するから、何かあるだろうとは思ったけど。あんたたち呼んで正解だった。サヨちん、友達いたんだね。
イロハ サヨ。ごめん。
マナ って、あんた校門前で困ってた人じゃない? え? サヨちん知り合いじゃないって言ったよね?
トワ あたし、この人に先輩のこと色々聞かれましたよ。
マナ なにそれ。なんでいるの?
レイ スマフォで撮影する準備してた。
マナ どういうこと?
サヨ それは、
マナ なに? はっきり言えよ。(と、サヨに迫る)
イロハ サヨの動画、消してあげてください。
マナ へえ。自分がなにしたか、この子に喋ったんだ? 誰かに話すとか思わなかったわけ?
イロハ あたしはそんなことしない。
マナ あんたには聞いてない。
サヨ 別に。話しても構わない。
マナ え?
サヨ イロハが誰かに話すのなら、ウチのためだろうから。
トワ うわぁ。かっこいい。
レイ ドラマみたいだな。
マナ ムカつく。
トワ 先輩?
マナ 一人でも平気って顔してさ。こんなとこまで来てくれる友達がいてさ。さらっとそんなこと言って。涼しい顔しちゃって。
トワ 先輩落ち着いて。
マナ 持ち過ぎなんだよサヨちん。友達なんかいないと思ったのに。人に興味ないって顔しているくせに。欲しくても手に入らない人だっているのに。持ちすぎ。(と、思いつき)ねえ、その子と絶交してよ。
イロハ 何、言ってんの。
マナ 縁を切れってこと。一人になってよ。
サヨ それは……。
マナ (と、スマフォを見せ)これ、実名で晒す? こういうネタって一度拡散したら、一生消えないじゃん。ニュースになるかもね。「高校生、万引き現場をSNSで拡散!」とか。そうしたらサヨちん有名人だね。
イロハ そんなことしたら、誰が拡散したのかも追求されるし。あなただって、ただじゃ済まない。
マナ ネットには捨てアカで晒すに決まってるじゃん。私がやったって証拠残すわけないでしょ。
トワ えげつないですねぇ。先輩。
レイ ちょっと引く。
イロハ なんでそんな事出来るの? おかしいよ。あなたたちも、なんで止めないの? 人が不幸になるのがそんな楽しいわけ?
レイ 元々万引きしたせいだろ。自業自得。
トワ それな。
イロハ 理由があるし。
トワ 理由があれば犯罪も許されるんですかぁ?
レイ トワ、それブーメラン。
トワ 確かに。先輩のやってること確実にアウトだった。
マナ アウトとか、ブーメランとかどうでもいいんだよ。で、どうする? サヨちん。って言っても答えは決まってるけど。
マナとレイ、トワが笑う。
イロハ サヨ……。
イロハは不安げにサヨを見る。サヨはそんなイロハを見て、ふっきるように笑い出す。
マナ なにがおかしいんだよ。
サヨ (と、ぽつりと)晒したきゃ晒せよ。
マナ はぁ?
トワ まじで。
イロハ サヨ?
レイ やけになった?
サヨ 違う。気づいたんだ。「だから?」 って。
マナ なにそれ。
トワ ネットの世界は広いですよ。
マナ サヨちんの狭い世界で考えないほうがいいと思うけど?
サヨ 見えない広い世界より、ウチは自分の狭い世界の方が大事だ。結局そういう事なんだ。何が大事かだったんだ。それだけなんだ。
マナ 何それ。
レイ 強がりだな。
サヨ 強がるさ。ウチは弱いから。親友の家の番号をソラで言えるくせに、ずっと電話をかけられなかった。
イロハ サヨ。
サヨ だけど、見捨てないでいてくれたんだ。イロハを裏切るくらいなら、あの日のウチを無かったことにするくらいなら、世界を敵に回した方がマシだ。
トワ (と、思わず口笛を吹く)
イロハ ダメだよサヨ。
サヨ いいんだ。
マナ 本当に、いいの?
サヨ いいって言ってるだろ。
イロハ ダメ!
マナ お前には聞いてない!
トワ 先輩、マジでやるんですか?
サヨ 晒したければ晒せよ。
イロハ ダメ! ユメ! いるんでしょ! お願い! 助けて!
と、思わず皆はあたりを見渡す。
マナ なに。他に誰かいるの?
トワ いえ。一人でしたよ。
イロハ あたしと一緒にいて、逃げたのがいたでしょ。忘れたの?
マナ って言ってるけど?
トワ いや。一人でしたって。
レイ 一人ぶつくさ喋ってた。
トワ なんか気味悪かったよね。
レイ うん。
イロハ ……嘘だし。ユメは影が薄いから。部活をサボっても気づかれないくらい存在感無いやつだから。
サヨ イロハごめん。
イロハ なんでサヨが謝るの?
サヨ 気づいてたんだ。何もなくて、あの池に来るわけないんだって。
イロハ 何を言っているの?
サヨ あの日電話しているフリをしていただろ。
イロハ フリ? 違うし。ちゃんとあたしは、
サヨ 電話してたなら、スマフォの画面は光っていたはずだよな。
イロハ それは。……でも、いるし。ねえ、いたでしょ?
マナ なにこの状況。意味わからない。
トワ 妄想で友だちを作っていたってことですよ。
イロハ 妄想じゃない! ユメはいるし! だってずっといたし。あの日だって休んだあたしを心配して家まで来たし。
「また明日」って。そう言って。帰って、それで、
と、車のブレーキ音。
イロハ 事故にあったって、おばさんから電話があって。信じられなくて、電話かけたら、出て。違う。そんな気がして。だから、身代わり池に、身代わりにならなくちゃって、思って。
サヨ それで、ウチに会ったのか。
イロハ サヨに会えて。夢みたいで。朝起きたら、全部夢なんじゃないかって思って。祈って。願って。朝、呼んだら、ユメが、来て、くれて。だから……。
イロハがその場に崩れ落ちる。サヨはイロハに寄る。
サヨ もう良いよイロハ。もう。
イロハ ユメは、いない? 全部、妄想?
マナ サヨちん。あんなこんなのが友達でいいわけ? 妄想で友達作っちゃう子だよ? こんな子のために、ネットに顔晒すの?
サヨ さっきから言ってるだろ。いいよ。晒したきゃ晒せよ。
トワ 一度ネットに流れたら、一生ついてまわりますよ。
サヨ それくらい一生背負ってやる!
イロハ サヨ、あたしは、
サヨ ウチは、イロハの友達でいたいんだよ!
マナ あーそー。ならお望み通り全世界にばらまいてやるよ!
マナがスマフォをいじる。
トワとレイが笑う。イロハはどうしていいかわからない。そんなイロハをサヨは抱きしめた。
13 幽霊
と、そこにやってくるユメ。
ユメ はいはいはい。盛り上がっているとこ悪いけど、没収です。
と、ユメはマナのスマフォを奪う。イロハ以外にユメの姿は見えていない。ただ、空中を動くスマフォが見えている。
また、ユメの声もイロハ以外には聞こえない。
イロハ ユメ!?
マナ え?
レイ は?
トワ せ、先輩!? 後ろ!
マナ (と、ユメの方、スマフォを見て)浮いてる!?
イロハ え? ユメが手に持ってるだけだし。
サヨ (と、空中をうごくスマフォを見て)あれが、ユメ?
イロハ そうだけど。え、ユメはいるの?
ユメ いるよ。見えないのは仕方ないよ。幽霊だから。
イロハ 幽霊!?
サヨ&マナ&トワ&レイ 幽霊!?
後ずさるマナ。
レイは足から力が抜ける。
トワ 何だこの展開。あ、先輩。あたし、ちょっと、用事を思い出しまして。
マナ はぁ!?
トワ じゃあ、そういうことで。もし呪い殺されても、化けて出ないでくださいね。
マナ ちょっと! あたしを置いていく気!?
レイ トワ!
トワ なに? 止めても無駄だからね。
レイ 引っ張って。脚震えて。うまく動けない。
トワ OK(と、頷きレイを引っ張りながら)じゃ、先輩。生きていたらまた学校で!
レイ 先輩、すいません!
と、トワはレイが必死に逃げる。
マナ トワ! レイ!
イロハ うわぁ。
ユメ ものの見事に見捨てられたね。
サヨ マナ……。
マナ あいつらなんてどうでもいいんだよ。それより(と、ユメが持つスマフォを指差し)それ、どうにかしろよ!
イロハ あたしに言われても。
ユメ それ、ってあたしのことなのかなぁ?(と、マナに近寄る)
マナ こ、こっちに来るな!
ユメがマナを追いかける。マナは近寄ってくるスマフォから逃げようとする。
サヨ あれは、大丈夫なのか?
イロハ ふざけているだけだから。こんな簡単に片付くなら、もっと早く手伝ってもらえばよかったし。
ユメ ごめんね。遅くなって。ちょっと大人の人を探してて。
イロハ 大人?
ユメ 今の私に力を貸してくれる人って、限られててさ。とりあえず、頼れそうな人を探してたんだ。
14 サイキック・ハナ
と、ハナがやってくる。本屋さんの格好をしている。
ハナ そして呼ばれてきました。私が頼れる大人です。
イロハ 店員さん?
ユメ 本屋で目が合ったから。声をかけてみたら、来てくれた。
ハナ 私、霊とか見える人なので。
サヨ エスパーかよ。
ハナ いいえ。サイキックです。
イロハ&サヨ サイキック?
ユメ 霊媒師? なんだって。
イロハ 霊媒師。
サヨ まじか。
マナ お、お姉ちゃん!
イロハ&サヨ お姉ちゃん!?
ハナ そう。マナの姉、エンチュウハナです。
ユメ やっぱり。来る途中聞いた名字が同じだったから。珍しい名字だものね。
マナ なにこれ。何がどうなってるわけ。
ハナ どうなってるか聞きたいのはこっちよ。せっかくマナに友だちができたと思って喜んでいたのに、全然違ってたんだもの。
サヨ 友達? ウチが?
ハナ 真実を聞かされた時の衝撃があなたに分かる?
マナ でも、あいつはお姉ちゃんの店で、
ハナ 万引き? 知ってるわよ。
マナ なんで!?
ハナ 次の日に、本を返しに来てくれたから。こっそりとだけど。
サヨ 気づいてたのか。
ハナ 本屋にいる霊が教えてくれたの。しれっと無かったことにしてたら腹が立ったけど、あなた、すごい落ち込んでたから。きっと事情があるんだろうなぁって思ってた。まさか、妹に脅されていたとは思いつかなかったわ。ごめんなさいね。
マナ だって、犯罪者だよ。反省しているなら自首すればいいじゃん。
ハナ だからって脅していい理由にはならないでしょ。帰ったらガッツリ説教だからね。
マナ はい。
ハナ とりあえず、スマフォのデータを消しなさい。ユメさん。スマフォ返してもらえる。
ユメ うん。(と、スマフォを返す)
ハナはマナがスマフォをいじるのをじっと見守る。マナは動画を消す。そしてさらにスマフォを見せ続ける。
サヨ あ。
イロハ どうしたの?
サヨ ユメ、だっけ? がどこにいるのかわからないなって思って。
イロハ サヨにも見えたら良いのに。
ユメ 流石に無理だと思う。
ハナ 出来るけど?
イロハ&ユメ 出来るの!?
ハナ 見えるように、周りから力を借りればいいのよ。
ユメ 周り?
イロハ ってあたしたち?
マナ 霊に力吸われるとか勘弁して欲しいんだけど。
ハナ そうじゃなくて、ここにいる霊たちよ。
イロハ&ユメ&サヨ&マナ え?
サヨ 待て。
マナ お姉ちゃん?
イロハ え、ここって他にも霊がいるの?
ユメ あたし以外に?
ハナ いっぱいいるわよ。まあ、ほとんどの霊はひっそりと漂っているけど。面白そうな物があると集団で見入っていたりするの。ここからここまで。あと、あそこらへんまで。じっとこっちを見てるわよ。
イロハ&マナ 怖っ。
サヨ ここは劇場か。
ユメ 本当だ。うっすらだけど、なんかいる感じする。
ハナ これだけいれば、少しずつ力を借りて姿を見えるようにするなんて楽勝よ。じゃあ、頑張ってみますか。
と、ハナの雰囲気ががらりと変わる。
15 幽霊にお願い
ハナが話し出すと、下手と上手にハナの動作を観客に説明するため、黒子①、②がやってくる。
ハナ はい。では皆さん。あ、見られることに慣れてなくて、自分だって思えないかもしれないけど、(と、観客へ)あなたですよ。
あなたです。そして、あなた方です。たまには見るだけじゃなくて参加しましょう。この子に、霊的なパワーを送るのに、
ご協力ください。では、練習です。右手と左手を回してください。恥ずかしい方はお腹のあたりで結構です。ぐるぐるぐるぐる。
空気中にあなたの力を集めてください。力が集まってきたら、一度上に両手を上げて、手を合わせます。そして! 両の手の中に溜まったエネルギーを
前に押し出す。この時に気合を入れるため、「は!」と言ってください。せぇの、は!
うん。では本番行きますよ。ぐるぐるぐるぐる、両手を合わせて、は! ですからね。ではいきましょう。ぐるぐるぐるぐる。両手を合わせて、せえの
(と、観客の声を待つ)
いい感じな音量だったら、音楽と共に、ユメが照らされる。あまり声が聞こえなかったらもう一度。
満足したらユメに光が集まり、ユメの姿が見えるようになる。
ユメ でってれー。
サヨ&マナ 人がっ。
ハナ ありがとうございました~。現れました~。(と、拍手でお礼)ほら、あなた達もちゃんとお礼をして。
役者全員 ありがとうございました。(と、拍手)
黒子たちは去る。
16 イロハとユメ
サヨ お前が、ユメ。
ユメ おお、見えてるのか。うん。はじめまして。サヨさん、だね。
サヨ サヨでいい。なんか、あまり初めてって感じしないな。
ユメ そうだね。
マナ 本当に、人が、現れた。
ハナ あなたが思っている以上に、この世界には不思議なことがあるのよ。あなたはもっと、その不思議を探す努力をしなさい。誰かを不幸にして笑うより、よっぽど健康的でしょう?
ハナの言葉にマナはうつむく。
ハナ ……まあ、見えてる時間は数分ってとこだろうけど。
ユメ 数分、か。
ハナ その後は誰にも見えなくなるかもしれない。今のうち言いたいことは言っておくといいわよ。
ユメ うん。ありがとう。(と、気持ちを落ち着けるように深呼吸をして)……というわけだから、イロハ。さよならだね。
イロハ ユメ。
ユメ 今日まで楽しかった。学校サボったことなかったけど、たまには良いかもしれないね。
イロハ ユメ。
ユメ でもさ。学校だから出来ることもあると思うんだ。嫌なこともつまらないことも多いけど、あたしたちが出会ったのだって学校だったんだから。
イロハ うん。
ユメ だから、ちゃんと行かないと駄目だよ。言ったよね? 人生は長いんだから。今は準備期間に過ぎないって。
イロハ 明日がある、だよね。
ユメ そう。だから、前向きに生きなきゃ。
イロハ うん。明日から学校行く。
ユメ 明日は日曜だよ。
イロハ 月曜から行く。約束する。だから、一緒に行こう?
ユメ それは無理だよ。
イロハ 無理じゃない。幽霊のままついて来ればいいし。
ユメ 誰にも見えないんだよ。
イロハ あたしには見えるし。
ユメ それだって、いつまで見えているのかわからないでしょう。
ハナ 正直、力を持っていない人に見えていたのが驚きよ。
ユメ ほらね。
イロハ なら、さっきみたいに霊的なパワー? を集めればいいし。
?ユメ 嫌だよ。恥ずかしい。
イロハ 恥ずかしがってる場合か!
ユメ (と、サヨに)え、なんで怒られるのあたし。
ハナ まあ、今回はたまたま霊たちが優しくて手を貸してくれたけど、何度も助けてくれるとは思えないわね。
イロハ でも、あたしユメがいなかったら。
ユメ 大丈夫だよ。だってイロハ、ここ数日間ですごい強くなったじゃん。友達のために知らない人に話しかけて情報集めて。怖がらないでこんな場所まで来て。それに、会えたでしょ。昔からの友達に。だから、大丈夫。イロハはひとりじゃない。
と、サヨが頷いてイロハに寄り添う。
イロハ うん。
ユメ じゃあ、行くね。
と、ユメが歩いていこうとする。
イロハ ユメ!
ユメ なに?
ユメに言葉をかけたいイロハ。しかし、言葉が出てこない。
サヨがイロハの肩に手をおいて、ユメへと押し出す。サヨに力をもらってイロハは話し出す。
イロハ ……ありがとう。
ユメ うん。
イロハ いつも一緒にいてくれて、ありがとう。
ユメ うん。
イロハ 相談に乗ってくれてありがとう。支えてくれて。背中押してくれて。困った時に助けてくれて。ユメのおかげで、少しは自信がついた、気がする。
ユメ よかった。
イロハ あと、あと、そう、力をくれて。言葉をくれて。あと、課題とか届けてくれて。一緒にいてくれて。いつも、話聞いてくれて。こんな、こんなあたしと。あたしなんかと、友だちになってくれて。ありがとう。色々と、本当に。
ユメ もう、行くよ。
イロハ まって。まだ言いたいことあるし。
ユメ なに?
イロハ だから、えっと。だからね?
ユメ 言いたいことがあったらはっきり言わないと。あたしは、エスパーじゃないんだから。
イロハ うん。……また会えるかな。いつか一緒に遊べるかな?
ユメ 会えるよ。絶対。
イロハ うん。絶対また会おう。絶対だよ。
ユメ うん。じゃあ行くね。
イロハ またね! ユメ!
ユメ うん。また明日!
イロハ また明日! …………え?
イロハたちは固まる。言葉を理解するのに時間がかかる。
サヨ 明日?
ユメ 駅前の市民病院だから。あ、お見舞いは15時までだからね。
イロハ いや、え?
ユメ お土産は何でも良いけど、花はやめてね。お腹膨れないし。
イロハ いやいやいや、え? ユメ、死んでないの?
ユメ 友達を勝手に殺すなよ。
イロハ でも、事故に合ったって。
ユメ あったよ。ドーンってぶつけられて。一瞬空飛んだから。まじで。頭の中に走馬灯? みたいの流れて。それで柔道部で習った受け身を
思い出してさ。とっさに体丸めて。やっぱり部活は真面目にやるものだね。あと、落ちた場所が街路樹の茂ってるあたりでさ。
草木がクッションになったんじゃないかってお医者さんが言ってた。
イロハ ……え、つまり、ユメって、何?
ユメ なにって、今は体から抜け出てる状態だから。えっと、なんだ?
ハナ 生霊。
ユメ それ。
イロハ 生、霊?
サヨ 生霊。
マナ 生霊って?
ハナ 生きてる霊ね。
イロハ 生き、てる?
ユメ 生きてるYO!!
イロハ やったーーー!(と、ユメに抱き着く)
ユメ ちょ。あー体透けて来た。タクシーで病院まで行こうと思ってたのに。
ユメとイロハ、サヨは笑い合う。そのまま三人は語り合う。
17 エピローグ
楽しそうな三人をじっと見ているマナにハナが近寄る。
ハナ 羨ましい?
マナ 別に。
ハナ あたしのため、だったんでしょう? 最初は。本屋で万引きなんて許せないって。軽く思っているなら反省させてやろうって、
そういうつもりだったんでしょう?
マナ 今更じゃん。
ハナ なにか言葉をかけるなら今しかないわよ。
マナ 別に。
ハナ 良いから言ってきなさい!(と、マナの後頭部を叩く)
マナ 痛い!
と、その声の大きさにイロハとユメとサヨがマナを見る。
マナ あ。
サヨ まだ、何かあるのか。
マナ 別に。サヨちんにはない。そっちの、ユメ、だっけ。
ユメ あたし?
マナ 前向きに生きろって言ったよね。
ユメ うん。
マナ 今は準備期間だからって。
ユメ 言ったね。
マナ ……ずっと何も無いやつは? なんで生きているのかわからないやつはどうしたら良い?そばにいてくれる友達もいないやつはどうしたら良いわけ?
サヨ マナ……。
マナ 別に同情とかいらないんだけど。
イロハ 私達って、100年位生きられるんだって。
マナ 何、急に。
イロハ 人生100年時代構想だって。100歳まで生きると思って計画をしていないと駄目ですよって。
マナ そんなこと言われてもピンとこないんだけど。
イロハ だったら一日で例えてみればいいし。(と。ユメに)ね?
マナ 一日?
ユメ ゼロ歳は生まれたてだから、ゼロ時。百歳は24時。24時間を100で割ると、一年は0,24時間、約14分。4才を少し過ぎたところで、
1時ちょい。17歳は、4時くらい!
マナ 4時。
ユメ そう。日はまだ昇ってない。私達は、夜の中にいるんだよ。
マナ 夜の中。
イロハ 暗い考えになるのは当たり前だし。日を浴びてないんだから。でも、だからこそ、明るくなるのはこれからと思えってこと。今は準備期間に過ぎないっていうのはそういうこと。
ユメ それあたしが言ったやつ。
サヨ パクったな。
イロハ パクった。
マナ 明けるのかな。いつか。
ユメ 明けない夜はないよ。ま、夜には夜の良さがあると思うけど。
マナ どんな良さがあるっていうのよ。
ユメ 幽霊と友達になるとか?
マナ はぁ!?
イロハ え、本気?
ユメ あたしひねくれた人って嫌いじゃないんだ。誰かさんみたいで。
イロハ 誰のことだし。
ユメ (と、マナに)ほら、スマフォ貸して。
マナ 何する気、ってあんたすごい透けてるけど。
ユメ この状態で写真撮ったらどうなるか気になってたんだよね。ほら、イロハも。サヨちんも。
と、ユメはマナに寄り自撮り風に写真をとる。
マナ ちょ、いきなり撮るな!
イロハ あーとりあえず連写で撮る?
サヨ だんだん透けて写っていくのか。怖いな。
ユメ はい、じゃあ、未だ明けぬ夜を記念して、一+一は?
四人 にー。
騒ぎ合う四人。ハナは嬉しそうに四人を見ている。と、トワとレイが戻ってくる。レイは何かしら武器を手にしている。
トワ まじで行くの?
レイ 武器は持った。今なら行ける。
トワ 幽霊に物理攻撃は聞かないと思う。
レイ 一瞬でもひるめば良いんだよ。先輩!(と、目にした光景に固まる)
トワ やっぱり助けに来ました! って、
レイ&トワ 幽霊と写真撮ってる!?
混乱するレイとトワ。それを見て笑うイロハとサヨとマナとユメ。
そんな彼女らを見守るハナ。夜なのに、日が昇ったかのように明るい光景の中、幕が下りてくる。
完
あとがき (2018.11.19 あと書きが「猫になりたい?」の時のままだと指摘されて修正。) 「人生時計」という考え方があります。 自分の人生は1日に例えるといつくらいなのかを計算することによって、残りの人生をどう過ごすかをイメージしやすくしようという考え方です。この考え方がはじめ世の中に出た時、たしか寿命は70〜80歳位で考えられていたんじゃないかと思います。 ところが最近、平均寿命が伸びたため、厚生労働省が「100年時代構想」なんて言い出しました。100歳まで生きるとして人生を考えないといけないらしいです。長いです。一方で、才ある方たちの登場は若年齢化しています。学校は進路決定を急かし、高校に入った途端に、大学入試のことを考えろと迫ります。焦ります。焦るあまりに自分なんて大したことないんだといじけてみたり。「死にたい」なんて考えてみたり。不安で押しつぶされそうになったり。小さな傷が許せなくって責めてみたり。まるで世界で自分だけが間違っているような気分になったり。 大丈夫。まだ君たちは夜の中にいるんだから。 不安も、恐れも当たり前のこと。 誰かを傷つけたりしない限り、君は間違っていない。 そんな事が言いたくてこの作品を書きました。夜の中にいる子達が。皆、無事に朝を迎えられるよう願ってやみません。 最後までお読みいただきありがとうございました。 |