聞こえますか? 
〜ミミミの耳は聴こえちゃう耳〜
大学生version

作 楽静


登場人物(初演時兼ね役)
男3 女3 6人〜16人 ①~⑥ キャスト例
※ヒヨリ、マナカに関しては演じるキャストの名前でやった方が面白い

①ヒヨリ  とある劇団員
②マナカ  とある劇団員。恐らく作演出。ヒヨリの友人
③ミミミ  元気な大学2年生
④父親  ミミミの父。普段からテキパキ仕事をこなす。
 ミミミの母。普段はおしゃべり好きな噂好き。 (マナカと兼ねる)
大井  英語が苦手な生徒     (ヒヨリと兼ねる)
中井  ミスをしがちな生徒     (マナカと兼ねる)
⑤松田 男 好調な生徒
講師 男 英語講師           (父親と兼ねる)
⑥神さま 男 なにかの縁結びの神様
葉山  中学生            (マナカと兼ねる)
綾瀬 男 高校生 大井を気にする男の子(松田と兼ねる)
若い人  軽薄そうな若者。声のみ   (松田と兼ねる)
閻魔様?  ちょっと渋めの声。声のみ  (父親と兼ねる)
役人  のんきそうな役人       (マナカと兼ねる)
父親の上司 男 追加の仕事を持ってくる。  (松田と兼ねる)

※キャスト数は、最低限であるが、一人一役だと物足りない役者が出るため、注意。


   ※劇中劇となるScene2~8はなるべく無対象で。Scene9ではなるべくセットに生活感を出す。
   ※録音は「」で表記。状況に応じて増やしても、減らしても良い。

0 前説(開始前)

前説 本日は(お足元のお悪い中)○○(今回の企画名)にお越しいただき、ありがとうございます。上演に先立ちましていくつかお願いがあります。本公演上演時間は約40分を予定しています。お手洗いを済ませておきたいよという方は今のうちにお済ませください。上演中、非常灯が消灯します。非常時はスタッフの指示に従って避難してください。飲食、喫煙、許可のない撮影はご遠慮ください。公演前のお願いは以上となります。多くの方に気持ちよく公演を楽しんでいただくため、ご協力お願い致します。それでは開演まで今しばらくお待ち下さい。
   
1 オンタイム

   客電が落ち、辺りは真っ暗になる。

ヒヨリ声「聞こえますか? 私の心の声、聞こえてますか? 今私は、私の心の声を、あなたの心に直接届けています。…………嘘です。……ちょっと、押さないで蹴らないで。出るからすぐ出ます」

   と、追い立てられるようにヒヨリが現れる。マスク姿。
   追い立てた勢いでマナカも舞台に出る。
   マナカが照明に合図を送る。ヒヨリに照明が当たる。
   マナカが去る。
   ヒヨリは録音に合わせて動作をする。

ヒヨリ「こんにちは。赤ねく隊です。本日はご来場ありがとうございます。先ほど、開演前にいくつかお願いさせていただきました。が、一点伝え忘れがありました。当たり前のことではありますが、上演中のスマートフォン、携帯電話、他電子機器のご使用はお控えください。開演時間ギリギリまでスマフォを使っていた方は、いま一度ご確認をお願いします。スマフォはマナーモード、あるいはシアターモードにしていただくか、電源を切っていただければ幸いです。……さて、ここまで話したところで、役者の準備は出来ているのでしょうか?」

   と、音響から「まーだだよ」って感じのSEが入る。

ヒヨリ「なるほど。音響さんありがとう。こういうのを、SE(えすいー)って言います。サウンド・エフェクトの略ですね。そうそう。突然ですが聞いてください。実は私、今年のはじめに、ライブに行ったんです。コロナの自粛期間も遠い昔。自粛期間中に解散しないで生き残ってくれていた、推しに会いに、下北沢の小さなライブハウスに行ったわけです。大体4年ぶりくらいのライブでした。ライブ会場について。ライブ用のシャツに着替えるじゃないですか。まあ何処とは言いませんが、感染対策? なにそれそんなのあったっけ? ってな感じなのですよ。そして最前ではないものの、わりかし前の方に立ち。待ちに待った開演時間。推しが出てきて、歌いだす! 瞬間! 思っちゃったんですよね」「飛沫怖っ」

   と、音響から「えー」って感じのSEが入る。

ヒヨリ「いや、本当私自身本当驚きで。……自分の溢れる推しへの愛が、不安感に負けた瞬間のやるせなさって言ったらもう。思わず前を見ていられなくて。俯いて揺れることしかできませんでした。……と、長くなりましたが、本当、私ごとで恐縮なんですが。それからなんていうか、こう、マスクをせずに話すのがなんだか怖いというか、躊躇われるようになってしまいまして。正直、演劇やるのもちょっと怖いなと思ってしまいました。なんなんですかね。この不安感。漠然としたもやもやというか。で、今回はスタッフとして舞台に関わることにして、役者はやめておこうかなと思っていた時にですね、メンバーが言ってくれたんです。「だったら、話さなきゃ良いだろ」って。ってことで、(と、マスクを外しながら)実はここまでの声は録音です!」

   と、音響から「えー」って感じのSEが入る。

ヒヨリ「ありがとう音響さん。と喋っていますが、これは事前に録音された音声であり、マイクを持って話しているふりをしているに過ぎません。今回は、こんな風に録音も利用した舞台となっています。リアルな声と録音と、違いも楽しんでご覧いただければ幸いです。ってことで、準備はよろしいでしょうか?

   と、役者らの「もーいーよ」が聞こえる。

ヒヨリ「……それでは、只今より、「ミミミの耳は聴こえちゃう耳」開演です! 音楽!」

2 ミミミの耳は聴こえちゃう耳 オープニング

   音楽とともに、各キャラクターが出てくる。
   最後にミミミが家から出てくるように舞台へ。
   ミミミに光が当たる。冬の大学生っぽい格好

ミミミ 私、ガイチュウナイ ミミミ 19歳。特技は飛び込み前転。苦手なことは勉強全般。今は平凡並(へいぼんなみ)大学で、大学生活をエンジョイ中! って言いたいところだけど、最近ちょっと悩みがあるんだ。それは何かって言うとね。実は私、心の声が聞こえるみたいなの。あ、そこで引かないで。本当なんだって。例えば、今日の朝なんて……。

   ミミミが見ると、台所に向かっている風のミミミの姉。
   お弁当を作ってる。

姉「忙しい忙しい。なんでこんな忙しいのにお弁当作んなきゃいけないんだか。ミミミももう大学生なんだから自分で作ればいいのに」
ミミミ 毎日すいません! あ、姉です。社会人やってます。
姉「やれば出来るくせに面倒くさがりなんだから。えっと昨日は冷凍のシュウマイで、一昨日はお惣菜のあまりだったでしょ。今日はどうしよう。いつもどおりの卵焼きと、さやいんげん……あ、冷凍コロッケがまだ残ってた!」良かった! 
ミミミ それ先週と一緒……。
姉「これ先週と同じか?」気にしない気にしない! 食べられるだけありがたいと思ってくれなきゃね!

   姉の姿が消える。

ミミミ 毎日ありがとうございます。本当、母親代わりの姉には苦労をかけっぱなしで……でも、こういうのって聞こえないほうがやっぱり良いよね。あるいはこんなのも。

   新聞を読んでいる父親の姿が現れる。
   新聞を持ったままちょっと身震いする。

父親「……よし。音を出さずにおならが出来たぞ。くっさ! 俺のおならくっさ!」
ミミミ 最悪。あ、父です。
父親「うん。今日も腸内は快調だな。腸だけに快ちょう! ってね!」 あっはっはっは。

   大げさにウケる。その姿が消える。

ミミミ うちの父がすいません。でも、口に出してないからセーフ? これって幻聴? って思うこともあったけど、どうやら本当に聞こえているみたい。どうしよう。こんなこと誰かに相談したら絶対頭のおかしなやつって思われる〜。ただでさえ、大学では浮き気味なのに。なんでだろう? 不思議不思議。そんな悩みのせいで、最近は寝不足気味。今日も遅刻しそうな時間に起きたせいで朝ごはん食べずに家を出る羽目に。本当トホホだよ〜。この授業が終わればお昼だけど、よりによって今日はテストの日。静まり返った教室で、お腹がならないといいなぁ。

   と、ふらふらしながらミミミが席につく。

3 心の声が聞こえている? ①

   大学の教室。英語の小テスト中。
   大井、中井、松田。そしてミミミが座ってテストを受けている。
   講師が椅子に座って眠たげにしている。
   大井、中井、松田の心の声が聞こえてくる。
   
大井「あ、間違えちゃった」

   ミミミはビクリとする。

中井「うわ〜回答箇所ずれてる。もう、やんなっちゃう」

   ミミミは周りを見る。首を傾げながら勉強に戻る。

松田「よし。これで完璧。予習ちゃんとしておいてよかった〜」
中井「最悪、どこからズレてるかわかんないし。時間足りるかな」
松田「毎回これくらい出来ると最高なんだけどなぁ」
中井「毎回面倒くさい問題で最悪なんだけど」
大井「……あーあ。なんで英語なんて選択したんだろ。中高出来なかったのが大学で出来るようになるわけ無いじゃん。出来なすぎて笑える〜。いや、笑えないんだけど。ってどっちやねん! あー、つまらな。早く時間経たないかな〜」

   ミミミは周りを見る。

松田「お腹すいたな」
中井「もうすぐ昼か〜。朝買い忘れたから購買行かないと」
松田「今日のおかず結構自信作だし、ちょっと楽しみだ」
中井「面倒くさいなぁ。誰かお昼分けてくれないかな〜」
大井「頭使ったから甘いもの食べたくなった。あ〜ドーナツ食べたい! あれ? ドーナッツ? ドーナツ? あれ? どっちが正しいんだっけ? どっちもだっけ? ドーナッツ、ドーナツ、ドーナッツ、ドーナツ、ドーナッツ、ドーナツ、ドーナッツ、ドーナツ」

   ミミミも一緒に悩む。悩みながらお腹が空いてくる。

大井「まあ、どうでもいいや」

   ミミミはずっこける。慌てて姿勢を正す。

大井「あれ? もしかして、あの子。あたしの心の声が聞こえてる?」

   ミミミはびくりとする。

大井「いや、まさかね。なんかタイミングが合っただけだよね」

   ミミミはテストに集中しようとする。

大井「あ、先生ズボンのチャック開いてる」

   ミミミは講師を凝視する。

大井「なーんてね。……これは聞こえてるのかな? それとも聞こえてないのかな?」

   ミミミはごまかすようにあたりを見る。講師が気づく。

講師「ずいぶんキョロキョロしているな。まさかカンニングか?」

   ミミミは慌てて解答用紙へ向かう。
   講師は時計を見ると椅子から立ち上がる。

講師「ああ、もうこんな時間か」よーし。じゃあここまで。解答用紙裏返して机において。
大井「終わった〜。よーし、お昼はドーナツ食べるぞ!」

   賛成するようにミミミが両手を上げる。盛大にお腹がなる。

講師 あ〜。良い返事だけど、返事は口でしてくれればいいからな。

   笑い声が広がる。
   恥ずかしそうに承知しましたのポーズを取るミミミ。
   そんなミミミにスポットが当たる。ヨロヨロと歩き出すミミミ。
   ミミミが話しているうちに、舞台のセットは変えられていく。

ミミミ もうやだこんな能力。何の役にも立たないし。相手の声が聞こえても、こっちの声は届かないし。聞きたい人の声が聞こえるわけじゃないし。タイミングだってバラバラだし。声聞こえるのが嫌で人混みとかいけないし。かといって誰もいないところで急に何の声かわからない声聞くのも嫌だし。もう、本当どうにかしたいんです。お願いします。神様! この何だかよくわからない力をなくしてください! お願いします。あ、ついでになんですけど、もし出来たらもう一つお願いしたいことが有りまして……。

   と、熱心に願うミミミの前には、なにかの神様っぽい像がある。
   ※ポーズをとって役者が演じる。

4 神さまの声が聞こえている?

   夕方の神社。
   地元の神さま的存在として祀られている神が立っている。
   賽銭箱が神さまの前にはある。
   その前で一心に祈っているミミミ。祈り終えて、去ろうとする。
   が、再び戻ってきて祈る。
   そして、満足したようにうなずき、去ろうとする。
   が、再び戻ってきて祈る。

神さま「聞こえますか?」

   ミミミは不思議そうな顔をして周りを見る。

神さま「私の声が聞こえていますね?」

   神の像を向くミミミ。

神さま「ユーキャンヒアミーできてますね?」

   ミミミは恐る恐る頷く。

神さま「私は今、あなたの頭に直接話しかけています。」
ミミミ ……あなたは神様ですか?
神さま「イエスであり、ノーでもあります」
ミミミ イエス様!?
神さま「そういう意味ではありません。神であるような、無いようなといった意味です」
ミミミ 神じゃないんですか?

   ※ここから神さまは実際に話し出す。
   ついでにミミミが見ていない時は好き勝手な動きを取り、
   ミミミが見る瞬間に元のポーズに戻ったりする。

神さま そもそも神とは何かと語り始めると長くなるので端的に説明しますと、人より力があるような気がする存在。それが私です。
ミミミ それは、神ではないのですか?
神さま 神ではありますが、有名な神と呼ばれる存在ほどの力はありません。
ミミミ 力は、ない……。
神さま はい。だから、あなたがさっきから祈っている願いは叶えられません。
ミミミ そんな……
神さま あなたの好きなお笑いコンビの解散をなかったコトにする力はありません。
ミミミ なぜ、それを!?
神さま ずっと祈っていましたよね?
ミミミ 聞こえていたんですか?
神さま 今聞こえているように、あなたが伝えたいと思った言葉は伝わっています。
ミミミ いや、でもそれは、ついでのようなもので。
神さま ついでの割には一番祈りが長かったような?
ミミミ せっかく来たことだし、一応ダメ元で的なところがありまして。
神さま ダメ元ですか。
ミミミ はい。……すいません変な願い事をして。本当の願いは、その前だったんです。
神さま 残念ながら好きなアイドルグループの活動休止もなかったことには出来ません。
ミミミ 違います。
神さま あ、好きなバンドのメンバーが脱退した方でしたか?
ミミミ それより前に祈っていたことです。
神さま そちらでしたか。残念ながらあなたの願いは叶えられません。
ミミミ そんな……。
神さま 私には、M1の優勝者を今から変える力はないのです。
ミミミ そっちじゃないです!
神さま でも、あなたの若手芸人への熱い思いはしっかりと受け取りました。
ミミミ すいません。変な願いばかりして本当にすいません。
神さま ……大丈夫ですよ。
ミミミ え?
神さま きっと、大丈夫。あなたの力には意味があるのです。いつか正しく使えるようになるでしょう。
ミミミ それって。
神さま 今回私の声を聞くことが出来たのも、あなたの、何かの声を聞く、という力のおかげです。
ミミミ でも、今の所何の役にもたってなくて。
神さま それでも、人が与えられた力には必ず意味があるものです。
ミミミ 人の多いところに行けないし。
神さま 人が大勢いるところが好きなのですか?
ミミミ いや、全然ですけど。
神さま だったらいいじゃないですか。
ミミミ だけど、好きなバンドのライブに行ったのに、知らないおじさんの熱唱が聞こえてきたりするんですよ?
神さま それは、……嫌ですね。
ミミミ 好きな芸人のライブに行ったのに、知らないおじさんのツッコミが聞こえてきたり。
神さま 最悪ですね。
ミミミ 活動休止するアイドルの動画を家族と一緒に見てる時に、家族の、実はあんまり興味ないんだよなぁ、って本音が聞こえたり。
神さま いらないですね、そんな力。
ミミミ ですよね!
神さま いや、それでも、きっと、その力が役に立つ時が来ますよ。
ミミミ ……ですかね。
神さま 多分。
ミミミ なんだかさっきより自信がなくなっているような気がしますけど!?
神さま 気のせいです。いつかきっと、あなたの力を使いこなせ、役に立つ時が来るでしょう。
ミミミ 本当に、そんな時は来るんでしょうか?
神さま あなたはやればできる子ですよ。
ミミミ それ、親にもよく言われます。やればできる子なのに、って。出来るでしょうか?
神さま 出来ますよ。神のような存在の保証では不安かもしれませんが。
ミミミ 確かに。
神さま ん?
ミミミ いえ! そんなことはないです。決して!
神さま 頑張りましょうね。
ミミミ はい。がんばります。……ありがとうございました。
神さま いいんですよ。よろしければまたお越しくださいね。私の声が聞ける方というのも珍しいですから。
ミミミ はい! 絶対にまた来ます!
神さま その時には気になる人の一人でもいるといいですね。
ミミミ ……え? 
神さま 私が持っているのは、縁結びっぽい力ですから。
ミミミ ……。
神さま 初めてでしたよ。私にあなたのような祈りを送った人は。つい声をかけたくなるほどでした。
ミミミ ……。

   ミミミは財布を取り出す。財布の中身を賽銭箱に全て落とす。
   熱心に祈り始める。

神さま え? ……あ、そんな熱心に祈られても今更ですからね? ほら! 念が強すぎて声になってないですから! ちょっと落ち着きましょう? 思いが重い! なんか物理的に重いし! あとなんか熱い! 痛い! ああ……言わなきゃよかった……。

   神の像が悶え苦しむ。
   音楽。辺りが暗くなる。
 
5 心の声が聞こえている?②

   暗転中に車の音。信号待ちのアイドル音
   走り出す車。止まったままの車へクラクションが鳴らされる。
   交通量が多いわけではないが、のんびりではない道。
   猛スピードでバイクが走り急ブレーキ。そしてクラクション。
   再発信する車。なんだか、危なそうな道だと音で伝わると良い。

   夕暮れ。バス停。ベンチで大学生の大井が本を読んでいる。
   ベンチには大井の鞄。座る面積を減らしている。
   ミミミが道を歩いてくる。

ミミミ「あ〜神さまと話してたら遅くなっちゃった。いや、あれは話してたでいいのかな? 念話してた? いやでも後半は祈ってただけのような……まあいいや。バスはっと。よかった。まだあった」

   ミミミはベンチの横に立つ。
   大井が鞄を寄せる。頭を軽く下げてミミミはベンチに座る。
   大井はスマフォをいじっている。
   その奥を高校の制服姿の綾瀬が通リすぎる。

綾瀬「ん?」

   綾瀬の心の声が聞こえる。

綾瀬「あれ? 〇〇(大井を演じるキャストの下の名前)? あそこにいるのって中学校の時の同級生の〇〇じゃないか?」 

   ミミミはあたりを見渡す。が、ミミミに綾瀬の姿は見えない。
   首を傾げつつスマフォに目をやる。と、綾瀬は大井によると、
   顔をさりげなく見てから元の位置に戻る。

綾瀬「やっぱり〇〇だ。ずいぶん大人っぽくなったけど、〇〇だ。間違いない。いや、だからなんだって話か。でもなんでこんなところに? せっかくだから話しかけてみるか」

   ミミミはあたりを見渡す。すごい遠くまで見てみる。
   ミミミに綾瀬の姿は見えない。綾瀬はまた近づこうとして、

綾瀬「……いや、やめておこう。どうせ俺のことなんて覚えてないさ。……いや、でももしかしたら覚えてるかもしれないか?『もしかして、大井?』なんて声かけたら『あ、久しぶり』なんて言ってくれて。いや、無いかな〜。引かれちゃうかな〜。いやでも『俺のことわかる?』『え〜△△(綾瀬を演じるキャストの下の名前)くんでしょ?』『そう△△! よくわかったね!』『わかるよ〜全然変わってないじゃん。あ、髪切った?』……いやぁ、ないな。ないない。無理だよ。……いや、でも、もしかしたら、いや? いや、いやぁ? いやいやいや……」

   綾瀬の姿が見えないことで混乱するミミミと、悩んでいる綾瀬。
   中学生姿の葉山がやってくる。綾瀬の姿を見て立ち止まる。

葉山「え!? なにあれ。もしかして、痴漢?」

   ミミミは「え、どこに?」という感じであたりを見る。
   が、ミミミには綾瀬も、葉山も見えない。

葉山「あからさまに怪しい動き。痴漢だ。絶対にそう! どうしよう。なんでこんな時に限って人がぜんぜん通ってないの? あの子たちも全然気づいてないみたいだし。てか、何でこんな時間にバス待ってんの! 暗い時間に女の子がこんなところで! どうしよう? 放って……はおけないし。でも待って。『あなた痴漢でしょ』って声かけて、『そうだよ俺が痴漢だよ』って開き直られたら? 『警察呼ぶわよ!』って言っても『呼べるんなら呼んでみろよ!』なんてキレられたらどうしよう。武器になるもの……はない。大声で叫べば……誰も来そうにないし。あの子達に気づいてもらって三人で立ち向かえば? でもなぁ」

   と、女は悩む。ミミミは混乱する。
   と、本を読んでいた大井が少し震える。
   本を読んでいた少女の心の声が聞こえてくる。

大井「なんか背筋がぞくぞくする。やっぱりこのバス停、出るって本当なのかも。結構事故が多い交差点だし。そういえば、△△くんが事故にあったのも、このバス停だったっけ……。バス遅いなぁ」

   バスが来る方向を見る大井。奥で悩んでいる綾瀬と葉山。
   ミミミは思わずベンチから立ち上がり叫ぶ。

ミミミ え、これ幽霊!? 幽霊の声聞いてるの私!? てか、めちゃくちゃやばい場所じゃんここ!
大井&葉山&綾瀬 え?
ミミミ あ。
大井&葉山&綾瀬 幽霊?
ミミミ いや、えっと、だから、

   と、鋭い光がバスの方向から大井に向く。
   そして、止まらないブレーキ音。

大井&葉山&綾瀬 あ……
ミミミ 危ない!

   ミミミが大井と場所を入れ替わる。
   ミミミが目を見開く。あたりが暗くなる。
   救急車のサイレン。

6 あの世の声が聞こえてる?

   救急車の音が遠くなる。暗い声が聞こえる。

ミミミの声 はい嘘〜。この人思い切り嘘ついてます〜。
若い人の声 何を言うんですか。嘘なんて一つもついてないですよ。
ミミミの声 はいそれも嘘〜。嘘ついてない人はこの世にいません〜。
若い人の声 信じてください閻魔様!
ミミミの声 信じるところなんて一つもありません〜。今も閻魔様のことを、これくらい必死なんだから、信じろよ顔デカおばけ! って思ってます〜。
閻魔の声 裁きを言い渡す。地獄行き!

   銅鑼のような音。若い人の悲鳴と、ミミミの笑い声。
   あたりが明るくなるとそこはあの世とこの世の境目。

ミミミの声 お疲れ様でした~

   ミミミが舞台奥に声をかけながら現れる。
   疲れているものの、やり切った顔。
   役人が追いかけるように来る。
   あの世の人間っぽい独特な格好。

役人 いや〜お疲れさまねぇ〜。今日も、ほんとう助かったよ〜。
ミミミ えっと、役人様もお疲れさまです。あんなんで良かったんですかね?
役人 いや〜とても助かるねぇ〜。閻魔様もねぇ。助かるな〜ってニコニコしてたよ〜。
ミミミ 大変なお仕事ですもんね。
役人 結構ねぇ。この季節多くて〜。まったくねぇ。ウソを付くと舌を抜かれるとわかっているのに嘘を付く。人ってのはおっそろしいよ〜。
ミミミ 気軽に、舌を抜く、なんて言えちゃうのもどうかと思うけど。
役人 それにしてもミミミさん、慣れるの早いねぇ。あれから三日? 五日? くらいなのに。百日はいるみたいよ〜。
ミミミ そんな。大げさですよ。
役人 いっそのこと〜このまま永久就職しちゃう?
ミミミ いや〜それは流石に。
役人 あ〜無理かねぇ〜?
ミミミ だって、それって死んじゃいますよね?
役人 そうねぇ〜。亡くよなるよ〜。
ミミミ ですよね〜。一応、まだ完全に死んだわけじゃないみたいなんで。
役人 はあ〜。せっかく楽になると思ったのにねぇ〜。
ミミミ あ、でも、本当に死んじゃった時は、お願いします。
役人 そうねぇ。先を楽しみにしておくよ〜。今日はお疲れ様ねぇ〜。ゆっくり休みなよ〜
ミミミ お疲れさまです〜。

   役人が去る。

ミミミ いやいや、楽しみにされてもなぁ〜。

   しゃがんでため息をつくミミミ。頬杖をついて考え込む。

ミミミ「どうやらあたしはバス停で事故にあって、いわゆる生死の境目ってやつにいるらしい。あの時、咄嗟に人を助けた行いがあの世の人に認められて、体が回復するまでは無理に戻って苦しい思いをすることないだろうってことで、今は閻魔様の隣で、嘘発見器みたいな仕事をしている。なんていうかこれ……めちゃくちゃ楽しい! 閻魔様自身も嘘を見抜く力は持っているんだけど、一人より二人。ダブルチェックは大事だし。なんかさ! あたし今ようやく自分の力が役に立ってるって実感してる。いや〜これいっそのこと、このままでもいいか? 無理して生き返るのも面倒くさいし。どうせ、あたしなんて誰も必要としてないし。うん。このままあの世にいてもいい気がしてきた。きっと、あの日神様が言ってた『役に立つ時が来る』ってこういうことだったんだ!」

   と、神さまがやってくる。

神さま 違いますよ。
ミミミ え?
神さま 違います。そんなつもりは全く無いですからね。
ミミミ ……もしかして、神様ですか?
神さま イエスであり、ノーでもあります。
ミミミ イエス様!?
神さま そういう意味ではありません。神であるような、無いようなといった意味です。
ミミミ 神じゃないんですか?
神さま 神ですが、ってこんなやり取り前もしましたね。
ミミミ やっぱり神さまじゃないですか! うわ〜動いてる! なんでここに。
神さま あなたを迎えに来たんですよ。
ミミミ 迎え?
神さま そろそろ、体へ戻られませんか?
ミミミ え、でも、まだあたしの体ボロボロだし。
神さま 魂が入ったほうが回復は早いですよ。
ミミミ そうなんですか!? や、でも、痛そうだし。
神さま その痛さが生きている証ですよ。
ミミミ そりゃそうですけど。……って、あたしを連れ戻すためだけに来てくれたんですか?
神さま 道案内も兼ねていますが。
ミミミ 道案内?
神さま これでも縁を結ぶ神なので。現世(げんせ)で結べなかった縁も、あの世でならば結べましょう。

   と、葉山と綾瀬がやってくる。

綾瀬 どうも。
葉山 えっと、その節はお世話になりました?
ミミミ ……誰?
葉山 だよね。そういう反応になるよね。
綾瀬 俺たちの姿見えてなかったもんな。
葉山 あたしも、後ろ姿と、叫んでるとこくらいしか見てないけど。
綾瀬 気がついたらはねられてたもんなぁ。
葉山 そうね。思い切り空飛んでたもんね。
綾瀬 人って、飛ぶんだなぁって思ったもんな。
葉山 思った思った。
ミミミ いや、本当誰? え? 待って。その声……もしかして、バス停の、幽霊?

   と、ミミミは後ずさる。

葉山 だよね。そういう反応になるよね。
綾瀬 俺たちも、お互いが幽霊だって気づいた時、そうなったもんな。
葉山 なったなった。

   と、葉山と綾瀬はお互いを見て、近寄る。

葉山&綾瀬 もしかして、

同時に
葉山 あたしたち、
綾瀬 俺たち、

葉山&綾瀬 幽霊!?

   と、怖がって後ずさってみる。

綾瀬 って。
葉山 やったやった。
神さま あなたのおかげでお二人は、もう生きていないと気づいたそうです。
葉山 で、どうしようかって悩んで。
綾瀬 そうだ近くに神社あったよな?
葉山 あったあった!
綾瀬 ってなって。
神さま 私が、これもなにかの縁ですので、お連れすることになったわけです。
ミミミ な、なるほど?
綾瀬 おかしいとは思ってたんだよな。なんか毎日ぼんやりするし。
葉山 似たような日が続くなとは思ってたのよね。
綾瀬 でもまさか、とっくに幽霊だったなんてな〜。
葉山 まさか数年経ってたとはね〜。
綾瀬 な〜。と、まあそんなわけで、あんたのおかげで気づけたんだ。
葉山 そうそう。あなたが声を聞いてくれたおかげ。
ミミミ いや、でも、それは偶然で。
綾瀬 いいんだよ偶然でも。助かったことには変わりないんだから。
葉山 そうそう。
綾瀬 本当ありがとうな。
葉山 ありがとう!
ミミミ えっと、じゃあ、どういたしまして?

   ミミミと綾瀬、葉山は笑い合う。
   綾瀬と葉山はお互いにうなずき合う。

綾瀬 いや〜、良かったよな! お礼が言えて。
葉山 そうね。これで思い残すこともないわ。
ミミミ え。
綾瀬 じゃあ俺たちは行くけど、あんたは頑張って生き返ってくれよな。
葉山 あたし達の分まで、って言ったら重くなっちゃうけど、でも、頑張ってね。
ミミミ えっと、あの、お二人も、お元気で? って言っていいのか悪いのか。
葉山 いいんじゃないそれで。ね?
綾瀬 な。(と、神さまに向き)神さま、お世話になりました。
葉山 (と、神さまへ)ありがとうございました。

   神さまは笑顔で手を降る。
   綾瀬と葉山が去る。ぼんやりとミミミは二人を見送る。

7 心の声を聞いてみる?

   神さまとミミミだけに光が当たる。

ミミミ なんだか、ずっと幽霊やってたにしては、あっさりとしたもんなんですね。
神さま 未練の無い方はそういうものですよ。迷い悩むのはいつでも現世に未練のあるものです。……あなたのように。
ミミミ ちゃんと、あたし、役に立ててたんですね。生きてる時でも。
神さま これからですよ。あなたにとっては。全て、これからです。
ミミミ ……神さま、あたし、結構大学で浮いてるんですよ。
神さま そうですか。
ミミミ 時々誰かの心の声聞こえちゃうから、なんでもない時にビクってなるし。変な声だったらキョロキョロしちゃうし。だから、あまり人の話に集中しきれなくて。あまり話しかけられなくって。だから、あんまり、仲の良い人って出来なくて。だから……一人、なんですよ。結構。あたしがいなくても、困る人なんていないんですよね。……それでも、生きなきゃだめですか?
神さま 私は縁を結ぶ存在だと話しましたね?
ミミミ え。あ、はい。
神さま あなたに繋がる縁を見せてあげましょう。

   と、神さまが指し示す方向へ、ミミミの父親が現れる。
   ムスッとした顔でパソコンに向かいキーを叩いている。
   キーの音は聞こえない。が、強く叩いているように見える。
   上司がやってきて、書類を机の上に置く。
   何かを上司と話し、一つうなずいてまた仕事に戻る。

ミミミ お父さん。働いてる。
神さま 働いてますね。
ミミミ ……これって、今の姿ですか?
神さま そうです。現世は夕暮れ時ですね。
ミミミ あたし、病院にいるんですよね。魂はここだから、目覚めないままで。
神さま ええ。
ミミミ それでも、お父さんは、変わらないんですね。
神さま こちらはどうでしょう?

   と、神さまが指し示す方向へミミミの姉が現れる。
   マスク姿でエコバッグに食材を入れて持っている。
   呼び止められたのか立ち止まる。
   立ち止まったまま話し始め、その話で笑っているように見える。

ミミミ 笑ってる。
神さま 笑ってますね。
ミミミ なんだ。あたし、いなくても、全然、平気じゃないですか。
神さま そうでしょうか?
ミミミ だって、あんな笑ってて。
神さま 聞いてご覧なさい。
ミミミ え?
神さま 心の声を。そうすれば、わかりますよ。

   ミミミは恐る恐る父親と姉の姿を意識し、耳をすませる。
   二人の心の声が聞こえてくる。仕事をしている父親、歩いている姉。
   2人とも表情は、何も気にしてないようにも、無表情にも見える。

父親「ミミミ! ミミミ! 大丈夫か! 大丈夫だよな!?」
ミミミ ……お父さん?
姉「ミミミ! 大丈夫よね? 大丈夫。きっと大丈夫よね!?」
ミミミ お姉ちゃん。
父親「ミミミは負けない! 事故になんか絶対負けない。大丈夫。大丈夫だ」
姉「大丈夫。あいつ、弱そうに見えて強いんだから。小さい頃、転んだっていつも泣かなくて馬鹿みたいにケラケラ笑ってたんだから」
父親「お転婆で」
姉「やんちゃし放題」
父親「優しくて」
姉「無計画で」
父親「元気なミミミがこんな若さで終わるわけないんだ」
姉「だから大丈夫。大丈夫だよ」
父親「大丈夫だ。絶対。うちの子は強いんだ! 事故なんかに負けるか! 俺が信じないでどうする!」
姉「あたしが、あいつの無事を信じないでどうするの」
父親「しっかりしろ俺!」
姉「こんな時こそしっかりしなきゃ!」
父親「元気な顔で、迎えてやるんだ」
姉「笑って、「全然心配なんかしてなかったし」って言うんだから」
父親「だから早く起きろ! ミミミ」
姉「早く、早く起きろよ。ミミミ」

   聞いていられなくなって、ミミミはうなだれる。
   心の声は聞こえなくなり、父親と姉の姿も見えなくなる。

ミミミ お父さん、お姉ちゃん……。
神さま 見せている顔も、聞かせる声も、心とは違う。それが人です。
ミミミ ……神さま。
神さま はい。
ミミミ あたし、生きたいです。
神さま ええ。生きましょう。生きているものは、懸命に、存分に生きるのです。それが、人であるということです。
ミミミ はい! ……神さま。
神さま なんでしょう?
ミミミ あたし、この力、持っててよかった。

   神さまがミミミを促し現世への道を指し示す。
   ミミミが歩いていく。辺りが暗くなる。

8 心の声を聞いてみる?

   暗い中、ミミミの声が聞こえる。
準備が出来たら、ミミミは姿を現す。
ミミミが話しているうちに教室の風景に。
   何事もなかったかのように見えるが、ミミミの椅子には松葉杖が
   かけてあり、ミミミ自身も、少し体をぎこちなく動かす。
   周りの生徒の服装は変わり、時の経過を感じさせる。
   講師はあまり変わらない。

ミミミ「こうして、私、ガイチュウナイ ミミミ20歳は、無事、生き返ったのでした! あ、入院中に20歳になりました。祝成人! パチパチ〜。リハビリについては、メッチャクチャ大変だったので話しません! でも、一見冷たいって思ったリハビリの先生は心の中ですごい熱く応援してくれる優しい人ってわかったり、平気な顔で歩いてるように見えるリハビリ仲間も、同じように辛いんだってわかったりで、思ってたより辛くなかった……いやそんなことはないな。うん。思うように動けない時間は、力のコントロールに当てたので、今は急に心の声が聞こえたりっていうのは、少なくなった。と思う。多分。大学では相変わらず浮き気味。でも、今はそれほど気にならない。今は自分に精一杯っていうか。まずは自分がやりたいことに集中! って感じ? そうそう、今、自分の声を飛ばせないか研究中。ほら、直接言えないことでもさ、念じて届いたら便利だよね? 例えば、お父さんとお姉さんに(と、声を誰かに飛ばすポーズ)…………なんてね? まあ、なかなかうまくいかないんだよねぇ」

   と、自分の席に付くミミミ。テストの時間。
   大井、中井、松田といった生徒たちは机の用紙に向かっている。   
   講師が腕を組んでテストを受ける生徒を見張っている。
   と、声が響く。

ミミミ「大好き! 愛してるヨ!!」
ミミミ以外「え? 何この声。誰??」
ミミミ (と、いう皆の心の声を聞いて)うっそぉ〜 なんで今〜

   うなだれるミミミ。音楽。
   周りは、声の聞こえ方に首を傾げつつ、反応に困る。
   いち早くミミミは立ち直り、テストに向かう。
   音楽が高まり、あたりが暗くなる。

9 聞こえますか? 彼女たちの理由

   音楽が小さくなるのに合わせて、チャイム音。ドアの開く音。
   ヒヨリの部屋。マナカがやって来る。私服姿。
   ヒヨリはルームウェアで、自宅にいる風。
   それだけでは寒いので毛布をかぶっていたり。
   スマフォを見ている。

マナカ おーい。入るよー。

   ヒヨリは慌ててマスクを付ける。

ヒヨリ なに? 急に来るとか。仕事は?
マナカ 今日は夜から。なんだ。元気そうじゃん。
ヒヨリ 別に風邪引いたわけじゃないし。
マナカ そっか。で、読んでくれた?
ヒヨリ ん?
マナカ 台本。送ったやつ。
ヒヨリ ああ。『ミミミの耳は聴こえちゃう耳』だっけ。
マナカ そう。どう? 今度の舞台に。
ヒヨリ 前説、あたしなんだ。
マナカ 説明は必要かと思って。で、どう?
ヒヨリ 主役の名前、ミミミって。安直じゃない?
マナカ そこは、わかりやすさを狙ってみた。
ヒヨリ そのわりに、名字なんだっけ。なんか変なの。
マナカ ガイチュウナイ?
ヒヨリ そうそう。
マナカ 知ってる? 耳は外耳(がいじ)中耳(ちゅうじ)内耳(ないじ)と、大きく三つの部分に分けることが出来るんだよ。
ヒヨリ それで、がい、ちゅう、ない。か。
マナカ 一つ賢くなれたね。
ヒヨリ なんか虫の害虫が意識されそう。
マナカ そこは、パンフに役名書いたりすればいいよ。
ヒヨリ 適当だなぁ。
マナカ でも、どう? これなら舞台できそうでしょ?
ヒヨリ あたしのセリフ、ほぼ全部録音か。
マナカ 飛沫問題解決! これなら、声を出すのが怖くても大丈夫でしょ。
ヒヨリ てか、こないだ話したライブのネタ、そのまま使ってるんだ?
マナカ 使えるネタは何でも使うよ。自分の以外は。
ヒヨリ そこは自分のも使ってよ。
マナカ やだよ。で、どう?
ヒヨリ ……。
マナカ 舞台、出られる?
ヒヨリ ここまでしてくれなくてもいいんだけど。別に、あたしくらいいなくたってさ。
マナカ あたしは、あんたと一緒に舞台がやりたいんだよ。
ヒヨリ 今回はスタッフとして手伝う形にしても
マナカ あんたと、一緒に舞台に立ちたいんだよ。
ヒヨリ ……。
マナカ 不安感って心の問題だから消えはしないと思うけど。でも、一回舞台立ってみたらさ、こんなものか、って思うかもしれ無いし。
ヒヨリ こんなものか?
マナカ うん。まあ舞台とライブじゃ距離感違うけど。不安を感じるまま、舞台からも、ライブからも離れるのってさ、もったいないっていうか、なんかさ。なんか、悔しいじゃん?
ヒヨリ 悔しいって。何と戦ってんのよ。
マナカ 強いて言えば、世間の空気?
ヒヨリ それは勝てないやつ。
マナカ 勝てない時はあるけど、でも、抗ってやりたいって時はあるでしょ。……好きだったんでしょ。ライブ行くの。
ヒヨリ うん。
マナカ 舞台やるのもさ。
ヒヨリ うん。
マナカ だったら、ちょっとだけ頑張ってみても良いんじゃない? とりあえず立ってみてさ。録音しておけば、最悪本番ギリギリで他の役者に代役してもらってもいいし。
ヒヨリ 声だけあたしで別の人が舞台に立ってるの?
マナカ それも面白いでしょ。
ヒヨリ ……でも、伝わるかな。
マナカ そこは衣装でなんとかなるよ。
ヒヨリ じゃなくて。その、気持ちっていうのかな。そういうの。
マナカ どういうこと?
ヒヨリ 何ていうかな。その瞬間だからってあるでしょ。客席が暗くなって、舞台が明るくなってさ。最初に言うセリフがちょっと上ずったり。練習とは違う距離感じて戸惑ったり。
マナカ 慌ててとちったりね。
ヒヨリ そう。でも、だからこそ本番だから出る気持ちが声に乗って、体が動いて。そういうのって伝わるよね。ああ、この人今すごい楽しんで演じてるな。とか。あの人気持ちすごい乗ってるな。とか。逆もあるけど。だから、演劇って面白いって思うし。
マナカ それは、まあ、そうだけど。
ヒヨリ だから、伝わるかなって思って。……あたしがやる、意味、あるのかなって。
マナカ ……。
ヒヨリ ごめん。せっかく書いてくれたのに。
マナカ ……あたしさ。演劇好きなんだよね。
ヒヨリ 何急に。知ってるけど。
マナカ だけどさ。それでもこうして日常的にマスクするのに慣れちゃって。もういつでもなにかの風邪が流行ってるとさ、やっぱり思うよ。舞台で大きな声出すなんて怖いなって。
ヒヨリ うん。
マナカ 発声練習でもさ、なんか大丈夫かなって思うし。
ヒヨリ うん。
マナカ だって、わかんないしさ。昨日も今日も体調良かったけど潜伏期間なだけかもしれないし。そういえば、あの子昨日だるそうだったなとか思ったら、もしかしてって思っちゃうし。距離あっても、マスクしてても、本当に大丈夫かなんて保証ないし。
ヒヨリ うん。
マナカ でもやっぱり好きなんだよ。だから、これ、自分自身が安心して舞台やりたいってのもあって書いてみた。
ヒヨリ 気持ちが伝わるかどうかは二の次ってこと?
マナカ そうじゃないけど。でも、自分たちが自信を持って安心して見せられなかったら、まず気持ちを伝えるどころじゃないと思う。
ヒヨリ それは、そうだね。
マナカ それに、録音でもさ、伝わるよ。
ヒヨリ 伝わる、かな。
マナカ 伝えようよ。あたしたちの気持ち。演劇って楽しいぞって。むしろ、伝えなきゃ!でしょ!
ヒヨリ ……だね。伝えなきゃね。
マナカ 伝えなきゃだよ!
ヒヨリ うん! よし! 頑張ろう!
マナカ おう! まあ、まだみんなで読んでないし、これで決まりってわけじゃないと思うけど。
ヒヨリ やる気を削ぐなぁ~。まあ本番まであまり時間無いし、決まりでしょ。
マナカ じゃあ、出るってことで?
ヒヨリ ……出るってことで。
マナカ よし! んじゃ、早速皆にも台本送っておくわ!

   マナカが去ろうとする。

ヒヨリ ねえ! ……ありがとう。

   マナカがぐっとポーズをして去る。

ヒヨリ 伝えなきゃ。か。だよね。演劇は楽しいって。……頭ではわかってるんだけどなぁ。

   と、ヒヨリはスマフォで台本を改めて読む。

ヒヨリ スマフォだと文字ちっちゃいんだよ。

   と、軽く咳払いし、心の中で観客席を意識し、台詞を読む。

ヒヨリ 聞こえますか? 私の心の声、聞こえてますか? 今私は、私の心の声を、あなたの心に直接届けています。

   観客席に届けと念を送っているようにヒヨリは目を閉じる。
   自分の思いが誰かに届くように。
   目を開けると、自分の行動を振り返って少し照れてしまう。
   そんな気持ちのまま、言葉が続く。

ヒヨリ ……嘘です。

   音楽
   不安な気持ちをヒヨリは追い出そうと自分を鼓舞する。
   舞台の始まりの台詞を練習するヒヨリ。
   同じようにどこかに台詞を読んでいる劇団員が見える。
   あたりが暗くなる。


あとがき
あなたにとって、耳は頭の一部ですか?
それとも、顔の一部ですか?
私にとって、耳は体の一部です。

まあ、きっと多くの人にとってそうだと信じていますが、
洗髪用のもので耳を洗うのには違和感を持ち、
かと言って、洗顔剤で耳を洗うのはもっと違うような気がし、
結局ボディ用で洗うことで毎回落ち着いています。

そんな耳に関わる話……では全然ない物語。
ミミミ役をやってくれた子が高校生くらいの頃に書いて、
つい最近舞台に出来たというちょっと思入れ深い作品です。

しかしLIVEに行くと、あれ?感染症対策どこ行った?
って思うようになりましたね。それでも漠然とした不安感は残っていて、
未だにライブ会場や演劇の客席でマスクを外せずにいたりします。

それでも。
だとしても舞台はやっぱり楽しい。

だからきっとこれからも作品を作っていくでしょう。
今まだ不安の中にいる誰かにとって、この作品が何かのきっかけになれたら幸いです。

「あなたと舞台がやりたいんだ」
そう言ってくれる誰かがいるって幸せですよね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。