急行電車は止まりません
作 楽静
登場人物
僕 | 中学2年生 |
君 | 中学2年生 読書好き |
姉 | 派遣系 |
神様/俺 | この世界の神/新卒の兄さん。 |
母 | 結構バリバリなOL |
博士 | ストレス抱えてそうな会社員。 |
助手 | まだまだ呑気な大学生。 |
悪魔 | 学生。天使の友人。 |
天使 | 学生。悪魔の友人。 |
駅員 | ホームを支配するもの。 |
※ 初演時、僕及び博士は女の子が演じました。
※ 台本上の想定としては、神様/俺と博士が男性役者を想定しています。
※ 台本上に時折漫画や時代劇のパロディが出てきます。不快になられた方は申し訳ありません。
S0 はじまりはじまり。
春の物語。舞台上にはいくつかのブロック。
中心にはベンチのように並んだブロック。
舞台に音楽が流れると同時に、登場人物が現れる。
駅員がいつの間にか立っている。
学生服姿の君が椅子に座る。本を読み始める。
会社員のような格好の姉。社会人一年風の神様。ピシッとした服装で時計を気にしている母。
スーツ姿でいらだった表情の博士が椅子に座る。
その横で椅子に座れず、博士を迷惑そうに見ている大学生風の助手。
ホームの前の方へと進んでいく友人同士の悪魔と天使。
そして学生服姿の僕。
椅子に座った君を見つけて、僕は近くに寄ろうとする。でも、出来ず、離れる。
僕は君を見る。そして目をそらす。君が僕を見る。少し笑って、うつらうつらし始める。
音楽が高まる。
S1 駅のホームで君を想う。
駅員 まもなく、2番線を急行電車が通過します。白線より、内側にお下がりください。
今は昼。電車を待っている人々。
君を見ている僕。
やがて光は僕と君だけを照らし、人々の姿は無くなっていく。
僕 僕は、駄目なやつだと思う。勉強も運動もパッとしないし。趣味が特殊ってわけでもない。自慢できる特技も無い。
つまりは普通ってことだけど、時々テストで平均以下を取ってしまうあたり、普通以下なのかもしれない。
そんな事を考えた帰りのホーム。僕は、いつものように電車を待つ君を見つけて、なんだか寂しくなりました。
今日は三学期の終了式で明日からは春休み。だから、君に声をかけるチャンスも今日を逃したら、しばらく
無いはずなのに、君はやっぱりいつもの君で、僕はいつもの僕で、そのいつもの僕を誇れるものは一つもなくて。
駅員 2番線を急行電車が通過します。ご注意ください。
僕 勇気ってものが僕の中にあるんだとしたら、今ここで使わなくちゃ意味が無いって思っているのに出てこなくて。
どうやって出すのかも分からなくて。そんな自分がたまらなく嫌で仕方ないのに、自分が嫌な僕が君に話しかけても
仕方が無いって思ったりして。だったら話しかけなくていいんじゃないかと考えたりして。なにか、何か小さな
きっかけでもいいからあればいいのにって願ったりして。神様に祈ってみたりして。天使や悪魔を夢見たりして。
頼ったりして。駄目だな僕は。起こらない奇跡を空に見て。その空は馬鹿みたいに澄んでいて、僕の想いなんて
本当にちっぽけなんだと思って目を閉じた。
S2 天使と悪魔が僕をからかう
天使が出てくる。
白い安っぽい羽が生えている。
天使 うん。ダメだね君は。
僕 え?
悪魔が出てくる。
黒い安っぽい羽が生えている。
悪魔 駄目駄目だと思います。
僕 はい?
天使 でも、それが人間だと思うよ。
悪魔 それが人間ってものですね。
僕 あの?
天使 どうも。
悪魔 呼ばれてみました。
僕 あなたたちは?
天使 天使ね。
悪魔 悪魔です。
天使 二人合わせて、
天使・悪魔 お助けトリオ(です)。
僕 え?
天使 だから、天使よ。
悪魔 悪魔です。
天使 二人合わせて、
天使・悪魔 お助けトリオ(です)。
僕 えっと?
悪魔 まず、そこは『二人なのに、トリオかよ』ですよね。
僕 はぁ。
天使 じゃ、もう一回。天使。
悪魔 悪魔。
天使 二人合わせて、
僕 いや、そういうことじゃなくて。
天使 ボケを封じたよ。この子。
悪魔 新しい。ある意味。新しいですね。
天使 これはこれでありね。
悪魔 これはこれでありです。
僕 あの、そうじゃなくて、え? 天使?
天使 天使。
悪魔 そして、悪魔です。
天使 二人合わせて、
僕 いや、いいですから。あれ? 夢を見てるのかな?
天使 立ったままで?
悪魔 新しい。いえ、古いですよ。
天使 ボケてみた?
悪魔 なるほど。ボケでしたか。(僕に)なんでやねーん。
僕 ……。
天使 面白くないね。
悪魔 ええ。面白くないですね。こんなのが流行ですか?
僕 いや、分かりませんけど。えっと、つまり?
天使 だから、天使だって。
悪魔 悪魔です。
僕 本当、に?
天使 きっと。
悪魔 願ったでしょう? 奇跡を。
僕 願ったけど、でも、
天使 だから来たの。
悪魔 叶えるために。
僕 叶える?
天使 叶えてあげる。
悪魔 起こしてあげますよ。奇跡。
僕 奇跡?
天使 そう。
天使・悪魔 奇跡。
S3 神様チャンネルラジオ『願ってゴー』オープニング
と、僕に被るように神様が出てくる。
白い羽、怪しげなサングラス、砕けた格好。
僕は去る。
神様 はいはいはいはい。神様です。そんなわけで、今日もやってきました。『願って〜、
神様・天使・悪魔 ゴー!』
神様 のお時間です。司会は、私(わたくし)、いつもニコニコ現金払いこと、神様。
天使 ご利用は計画的にでおなじみ、天使と、
悪魔 返済には余裕を持っての、悪魔。
神様 以上合わせて、
神様・天使・悪魔 お助けトリオ!
神様 で、お送りします。はい。そんなわけでね、始まりましたけれど。
早速今日のゲストさんを紹介しちゃいましょう。はい、じゃあ、天使ちゃんお願い。
天使 横浜市に在住の、ラジオネーム「平凡の『凡』の字が書けないくん」。中学生。
神様 イタいな。書けないんだ「平凡」って。中学生なのに。
天使 ラジオネームだから。
神様 でもきっと、こういう子って、「汎用(はんよう)型パソコン」を「凡庸(ぼんよう)型パソコン」って読んじゃうんだろうね。
悪魔 ラジオネームですから。
神様 そうだったね。よーし、こんにちは、「平凡の『凡』の字が書けないくん」
神様に願いを聞いてもらっちゃうのは初めてかな? ……OK、OK。緊張するのは仕方ない。
まずはリラックスしてみよう。はい、すって、はいて、はい、すって、すって、すって、はいてーー。
はい。出来たかな? リラックス。それで? いきなりだけど、「平凡の『凡』の字が書けないくん」の
お願い聞いちゃいましょう。はい、悪魔くん。
悪魔 いつもの駅でいつも会う制服姿の女の子、と話がしたい。
神様 なるほど、青春だね。若人だね。出会い系だね。っていうと、いきなり怪しくなるね。
よーし、では、「平凡の『凡』の字が書けないくん」にはチャンスをあげよう。願いを叶えるチャンス、名づけて、
神様・天使・悪魔 願いを叶えるチャーンス。
天使 これから、「平凡の『凡』の字が書けないくん」にはいくつか試練を受けてもらうよ。
悪魔 その試練を見事クリアーした暁には願いが叶います、と。願いの大きさによって、試練の大きさも変わりますけどね。
神様 今回は、話がしたいって願いだから、(と、ごそごそなにやら紙を取り出し)まぁ、こんなものかな。
天使 では、早速いってみようか。
神様 と、その前に、忘れちゃいけない本日最初の曲紹介を、どうぞっ。
悪魔 今日最初にご紹介する曲は、若者の青春を歌ったあの曲、
と、曲が流れ始める。
(例 「明日がある」坂本九)
神様 それでは、「平凡の『凡』の字が書けないくん」がんばってみようかぁ〜。
音楽大きくなる。
駅員 はい。二番線、電車通過します。ホーム先頭にお立ちのお客様、危険ですので白線の内側までお下がりください。
神様、天使、悪魔が去ると入れ替わりに、僕がやって来る。
君はいつの間にか眠りこけている。
S4 僕の家だと思うよここは。
姉が出てくる。変なお面をつけている。
姉 で?
僕 え?
姉 それで、どうなったの?
僕 ああ、だから、それで帰ってきたら、
姉 うん。
僕 僕の部屋に、あの子がいたってわけ。
ここは僕の部屋。
君が寝ている。
姉 つまり拉致?
僕 姉さん、
姉 あんたは、気になった女の子に話しかけることができず、連れ帰ってきたと。え、誘拐じゃない? それ。
僕 だから、違うんだって。普通に帰ってきたの。僕は。そうしたら、寝てたの、この子が。こんなことって……。
姉 つまり、むしゃくしゃしてやったと。実行中はよく覚えてないと。
僕 覚えが無いも何も、何もして無いんだって。
姉 まだ。
僕 まだじゃなくて、最初から。てか、なんだよ、その面は。
姉 似合う?
僕 似合うとか似合わないとかじゃなくて。なんでつけてるの。
姉 顔見られたら大変でしょ? 指名手配されちゃうし。
僕 されないから。
姉 始末するから?
僕 しないよ。なんでそうなるの。
姉 だって一応犯罪だし。
僕 してないから。何も。
君 うーん。
姉 あ、起きそう
僕 本当だ。なんて説明しよう。
姉 (ロープを出し)とりあえず、縛っとく?
僕 なんで当たり前みたいに縄を出すのさ。
姉 暴れたら大変でしょ?
僕 ちゃんと事情を説明するよ。
姉 言っておくけど、天使とか悪魔とか、普通信じないから。
僕 仕方ないだろ。本当のことなんだから。
姉 聞いてくれると思う?
僕 まず、僕なんかと話をしてくれるかどうか分からないけど。
姉 大丈夫よ。あんた一応地球人だし。
僕 それ大多数の人に当てはまるよね!?
姉 じゃあ駄目か。
僕 いきなり諦められたっ。
姉 まぁ、まずは縛って落ち着かせてみるか。
僕 そういうのはいいから! とりあえず、姉さんはあっち行っててよ。
姉 そうやって二人きりになって何するつもりよ。
僕 だから、説明するんだって。
姉 自ら死ぬか、殺されるかの?
僕 なんで選択肢が二個ともそんな物騒なの?
姉 ?
僕 不思議そうに首を傾げないで。いいから、あっちいっててよ。
姉 わかったわかった。(と、面をはずし、)はい。
僕 なに?
姉 顔見られないようにつけておいたら?
僕 いいって。
姉 あっそ(お面をそこらに捨て去ろうとし、)そうだ弟。
僕 なに?
姉 (真面目に)一つ聞いていい。
僕 ……いいけど。
姉 (真面目に)晩御飯、カレーとお鍋どっちがいい?
僕 それ、今聞くこと!?
姉 だって、もうすぐ夜だし。
僕 いいよどっちでも。
姉 じゃあ、うどんね。
僕 選択肢に無かったよねぇ!?
姉 どっちも選べないことって世の中にはあるものよね。
僕 もういいよ。どうでも。
姉 (物語風に)あの時言われた姉の言葉を、今になって僕は思い出すのだった。
僕 何の話!?
姉 「本当だね、姉さん。選べないことって世の中にあるよ」
僕 言わないからね。
姉 「犬派か猫派かなんて、僕には選べない」
僕 結構どっちでもいいことだよね、それ。
姉 「まさか、それがこんな大惨事になるなんて」
僕 猫派と犬派の間で何が!?
姉 だから言ったのにっ。
姉が去る。
僕 つ、疲れる。なんで今日に限ってあんなテンションなんだ。……いつもはもっと……あれ?(どんなんだったっけ?)
君 うーん。
僕 まぁいいや。それにしても、これって願いが叶ったっていえるのかな? でも、そんな上手く行くわけないよな。
S5 君と僕が居る時間
と、君が起きた。
君 ……。
僕 あ――。
君 (キョロキョロとあたりを見渡す)
僕 えっと、あの、その、
君 (自分の体を見る)
僕 何もしてないから! その、こういっても信じてもらえるか分からないけど、何もしてません。
誓って。ここは僕の部屋なんだけど、いきなり君がいたっていうか、いや君が居た原因は僕にあるのかもしれないけど、
でもそれは僕が君をここへ連れてきたって事じゃなくて、そうなっちゃうかもしれないけど、つまり、なんていうかその、
姉が顔を出す。
姉 僕は決して犯罪者ではありません。
僕 そう! ぼくはけっしてはんざいしゃじゃありません。
姉 変態なだけです。
僕 へんたいなだけです。て、何言わせるんだよ! (君に)違う! 今のは違うから。
姉 でも、君が好きな気持ちに変わりは無いです。
僕 どんなフォローなんだよそれは! 姉さんはあっち行っててって言っただろ!
姉 はーい。
姉が去る。
僕 えっと、つまり、その。
君 ぽろ ぱ ぱら(ここはどこ?)
僕 …………え?
君 ぽろぱぱら、れぱれぱれ?(ここはどこで、あなたはだれ?)
僕 えっと、……え?
君 ぽろぱぱら、 れぱれぱれ? ぱれ? ぱーらろっぷらぽら?(ここはどこで、あなたはだれ?だれ? わたしをどうする気?)
僕 あの、ごめんなさい。何を言っているのか分からないんだけど。
君 ぽろぱぱら、れぱれぱれ? ぱれ? ぱーらろっぷらぽら!(ここはどこで、あなたはだれ?だれ? わたしをどうする気!)
……れーぺ。 チ・キュ れ (……ああ。 地球人ね)
チ・キュ れ、ろっぷれぺれ らぽら!?(地球人 が 私に何の用? どうする気!?)
僕 えっと、ごめんなさい。何を言っているのか相変わらず分からないんです。どっか、打ったのかな?
君 ぴーたん!(近寄るなっ)
僕 え?
君 ぴーたん ぱーたたん(近寄るな汚らわしい)
僕 どうしよう、全く状況についていけない。えっと、とりあえず、落ち着いてくれないかな?
君 ぴーたん!(近寄るなっ)
S6 急展開。
と、いつの間にか窓(下手側)に人が立っている。
博士である。
博士 近づくな! そう、殿下はおっしゃっておられる。
僕 殿下!? って、どこから!
君 は・かせ(博士)
博士 ご機嫌麗しゅう殿下。窓の外から失礼致します。ここしか入れそうな場所が無かったもので。ガラガラガラ。
と、博士は窓を開ける動作。
そのまま入ってこようとして、
ふとこれじゃ面白くないかなぁなんて思う。
博士 とうっ。がっしゃーん。バリバリバリ。(と、回転して入ってくる)ふん。特殊ガラスなど、
私の力にかかれば造作も無い。(と、肩を付き)くっ。しかし、少し無理をしたようだ。
だが、これしきの怪我、殿下を思い痛むこの胸の痛みに比べればぁぁぁ。
頑張れ、頑張るんだハ・カセ。殿下のお傍に行くためにっ。(と、立ちあがる)
待たせたな。わが名は、ハ・カセ。殿下の忠実なるしもべが一人、天才サイエンティストの、ハ・カセである。
僕 ……ごめんなさい。もう全然話についていけません。
博士 殿下を誘拐しておいて良くもそうぬけぬけと。
僕 あの、ですから誘拐して訳ではなく、というよりそもそも殿下というのがわからないんですが。
博士 ええい、しらじらしい。これが目に入らぬか!
と、博士は何かしら星の目印をだす。
博士 お前の目の前にいる方をどなたと心得る! 恐れ多くも、ピポポラマ星の、次期女王、
☆※〜△□(発音不能)王女に在らせられるぞ!
僕 (発音できない文字を言葉にしようとして、)ヒュ? ピャ? なんですって?
博士 ピポポラマ星の、次期女王、※○〜△□――(発音不能)王女に在らせられる。
僕 さっきと名前変わってません?
博士 それよりも、お前が殿下を誘拐したために、今わが星は大変なことになっているのだ。
これを見よ。(と、自分の腕を押す)ピポパッパピポポ。ういーん。
手前に、母が現れる。
なにやら探しているように見える。
僕 映像がっ。
博士 これぞ、わが発明品、「腕内蔵型テレビ」名づけて、「腕から見えーる」だ。そして、これはわが星の映像。
僕 あれは?
博士 殿下の母上、つまり王妃であられる。貴様にも分かるよう、日本語吹き替えにしてやるから、とくと見るがいい。
そして、自分がしでかした罪の深さを知るのだ。(少し口調変わって)
あ、ちなみにこの映像は立体グラフィックのため、場所をとる。もう少しそっちへ移動してくれるかな?
ほら、殿下も。もう少しそっちへ。もう少し。もう少しそっちね。
と、博士と僕と君が去る。
S7 生中継。ピポポラマ星 翻訳・適当。
母と助手の会話は途中までどこか下手くそな翻訳機械にかけられた会話のよう。
母 私の娘〜。私は探してます。娘〜。
助手が現れる。
助手 王妃。私は来ました。
母 ああ、ジョーシュ。あなたが来てくれて嬉しいです。どこですかハ・カセは?
助手 彼はさっき、出かけました。発信機を追って。王女につけた。
母 何故あなたは追わないのです?
助手 なぜなら、あなたが呼んだからです。
母 私は分かりました。どこにいるのですか? 娘は。
助手 日本です。地球の。
母 おお! 地球人がさらったのですか、このピポポラマ星の時期女王である娘を!
助手 恐らく。
母 分かりました。では、戦争です。
助手 王妃、私はそれを早いと考えます。
母 なぜ?
助手 さらった者の目的が分かりません。分からないまま攻めては、王女の身に何が起こることか。
母 なるほど。では、戦争にしましょう。
助手 王妃、意見が先ほどと変わっていません。戦争の前に、やることがあるかと。
母 分かりました。では、戦争をする前に、戦争をしましょう。
助手 どちらも同じことです王妃。
母 どうすればいいのです!
助手 わたくしが。
母 お前が?
助手 救い出して見せます。王女を。
母 (疑うように)お前がぁ?
助手 わたくしにお任せください。
母 でも、ジョーシュってば、ハ・カセの助手でしょ? ようは。
助手 ええまあ。
母 助手が助けに行くってどうなの? 物語として。主役はどっちかって言うと博士のほうになるんじゃないの?
助手 ですが、博士は、その……。
母 その?
助手 なんと言いますか、その……。
母 分かります。その辺の言葉にしちゃったら終わりな感じはなんとなく分かります。
これでも? 王妃ですから? ぶっちゃけ頼りにならないと、こういうことでしょう?
なんかあの人、根拠の無い自信と、暴走気味な勢いと、から回ったやる気だけみたいな感じで。
助手 はぁ。
母 でもね、だからって助手でも娘を助けられるんだったらさ、その助ける役目を
わざわざ助手にする必要ないんじゃない? ドラマっぽくないというか。
むしろ突然巻き込まれた一般人とかにしておいたほうが、
打つ手が全くなさそうでいいじゃない。もしくは、今から集めるとか。
さらわれた姫を助ける勇者はいないかーって。
で、ヒノキの棒と20Gくらいお金渡して、やらせてみるの。
助手 事は一刻を争います。是非私に。
母 でも、助手でしょ? なんか響きがなぁ。
助手 お任せください。
母 分かりました。うん。任せます。任せた。正直、考えるのが面倒になりました。
助手 では、失礼します。
母 ただし。待つのは24時間です。それ以上娘からも、あなたからの連絡も無い場合、戦争にします。
助手 はは。
助手が去る。
母 ふふ、楽しみだこと。戦争。ふふふ。これで、あたしの出番は終わりだけど。
母が去る。
博士と僕と君がやって来る。
舞台は再び家の中へと移る。
S8 再び家。
博士 と、まぁこんな感じだ。わかったかね?
僕 あなたの頼られて無さは良く分かりました。
博士 ちがうよ! それは違う。日本語訳の性能が悪いだけだから。
僕 翻訳の問題?
博士 そう。どうせなら戸田奈津子ばりな日本語訳の権威に頼めればよかったんだけどね。無理だから。
ネットで見つけたフリーの翻訳ソフトなんか頼るんじゃなかったと、後悔しても時既に遅し。
僕 なるほど?
博士 まぁ、しかし、お前の状況も、映像を見ながら聞かせてもらった。
お前も被害者というわけだな。信じられるかどうかは別として。
僕 すいません。説明台詞で展開をスムーズにしてもらっちゃって。
博士 というわけで、私の考える限り、君に残された道は二つだ。
僕 二つ。
博士 二つだ。
僕 聞かせてください。
博士 一つは、このまま誘拐犯として王女を手元に置き、わが助手に倒されるか。
僕 なんでそうなるんですか!
博士 展開的には楽しそうじゃないか。
僕 一応お聞きしますが、もう一つは?
博士 誘拐したのにも関わらず白を切って、わが助手に倒される。
僕 どっちにしろ倒されるんじゃないですか僕は!
博士 どっちを選ぶ?
僕 どっちも嫌ですよ!
博士 ならば、最後の道だ。
僕 まだ、なにかあるんですか?
博士 誘拐していないにも関わらず、わが助手に倒されるだ。
僕 悪くなってる! しかも、誘拐してないのにも関わらずって。
博士 つまりこういうことだ。
博士は君を側に引き寄せる。
ついでに落ちていたお面も拾う。
博士 王女は、私がもらった。
僕 え?
君 ハ・カセ? ろっぷらぽら(私をどうする気?)
博士 ククク。私は博士ですよ王女。研究しているのは何かご存知ですかな?
君 ぷーら(まさか)
博士 そう。私の研究テーマは、いかに効率よく人を滅ぼせるか、です。
このままあなたがいなくなってくれれば、私の願いが叶うのですよ。
地球への戦争開始と共にね。
僕 その子をどうする(つもりだ)
博士が僕に向かってスプレーを噴出する。
催涙スプレー系
僕 あっ。目が〜 目が〜。
博士 (君から何かを取り、近くへ放る)さらばだ少年。
王女につけていた発信機はここへ置いていくよ。じきに私の助手が君を倒しに来るだろう。
正直に言うなり、しらを切るなりしてみたまえ。地球人の言うことなど、
どうせ信じられはしないだろうがな。はははははは。
博士が去る。君を連れて。
僕 待て! くっ……。名前が分からないから、名を叫ぶことも出来ない。僕は、無力だ。
S9 再び天使と悪魔。そして回想。
天使が現れる。
手にボール(紙風船)を持っている。
天使 諦めるの?
僕 え?
天使 諦めたら、そこで試合終了よ。
僕 あなたは、
天使 フォ、フォ、フォ。天使ね。
僕 でも、僕には、なにも、
悪魔が現れる。
天使から紙風船を奪う。
悪魔 そう、この子には何も出来ないんですよ。だったら、諦めるのも一つの手だと思いますけど。
天使 (ボールを奪って)やる前から出来ないと決めていては、出来るものもできないでしょ。
悪魔 (ボールを奪って)だから出来ないんですよ。女の子に声をかけることすら出来なかったんですし。
天使 (ボールを奪おうとする)だけど、このままじゃ地球は、
悪魔 パーン。(紙風船を潰す)それでも、この子には何も出来ない。……覚えていますか?
あの子にはじめて会った日を。
天使 忘れるわけ無いじゃんね?
悪魔 どうかしら。
僕 覚えてるよ。僕の入学式。桜が綺麗だった。空が青かった。
駅は空いていて、あの子が笑っていた。
天使と悪魔が離れる。
助手と母が現れる。
君が現れる。
座ろうとした助手は君に気付いて席を寄せる。
君は座る。本を読もうとする。
しおりが落ちる。母が拾う。
お礼を言う君。そして椅子に座る。
本を読む。少しおかしそうに笑う。
姉が現れる。
姉 なに見てるの。
僕 え?
姉 ほう。なるほど。
僕 何がだよ。
姉 春だねぇ。
僕 当たり前だろ。四月なんだから。
姉 そうねぇ。
僕 なんだよ。
姉 べっつにぃ。(にやりとして)べっつにぃ。
僕 あっち行ってろよ!
姉が去る。
僕 そうして、楽しそうに笑う君を見てた。
駅員 はい。2番線に電車が参ります。ご注意ください。
母と助手が去る。そして君も。
僕 ここからじゃ何の本を読んでいるか分からないし、君は僕にとって、
声も、名前も、分からない人だったけど。でも、君が楽しそうに笑う顔が見たいと思った。
だから、僕は、君を見ていた。君の笑う顔をただ見ていたくて、ずっと、見ていた。
天使 そんな、去年の春。
悪魔 それから一年近く話しからけれず。
僕 なんて話しかければいいのさ。学校だって違うし。小学校が一緒だったって訳でもないし。
悪魔 だから、ここはスパッとあきらめればいいんですよ。
僕 それが一番いいのかな。
天使 そんな事無い。何か方法はあるんだから。
僕 そうかな? まだ、何か出来るかな。
悪魔 一年ですよ? 今さらでしょう。
僕 そうだよね。
天使 今更なんかじゃない。これから始まるのよ。
僕 始まるのかな。
天使は悪魔から紙風船を取り返す。
そして、空気を入れる。
天使 諦めなければ、あなたには出来る。だから言うのよ。バスケがしたいって。
僕 いや、バスケはしたくないよ。
天使 なんでよ!
悪魔 もう無理ですよ。第一、あの子を見つけられますか? 今連れて行かれちゃったんですよ?
天使 どうにかするのよ。
悪魔 どうやってですか?
天使 それは、分からないけど。
悪魔 見つけた後はどうします? あの変な博士と戦いますか? 戦えますか? この子が?
無理でしょう? そんなバトルもののお話じゃないんですから。
どっかから剣が出てきて、敵を蹴散らすなんてならないんですから。
天使 やってみなくちゃわからないでしょ。
悪魔 へぇ。じゃあ、どうやるんですか? 教えてください。
天使 それは、分からないけど、
悪魔 え? すいません聞こえませんでした。ねぇ? どうやるんですか?
どうやります? どうやるんですか?
天使 分からないって言ってんじゃん
僕 あの、僕のことでケンカされても、
天使 あんたがさっさと決めないからでしょ!
僕 僕のせい!?
悪魔 あなたはどうするんですか? 諦めます?
天使 諦めないの?
天使・悪魔 どっち(です)!?
僕 そんな、どっちかなんて……
悪魔 スパッと決めません? スパッと。
天使 男でしょ。
僕 そんな事言われても……。
姉が現れる。
姉 どっちも選べないことって世の中にはあるものよね。
僕 姉さん!?
姉 (物語風に)あの時言われた姉の言葉を、今になって僕は思い出すのだった。
僕 何の話!?
姉 「本当だね、姉さん。選べないことって世の中にあるよ」
僕 ……本当だ。どっちも選べないや。駄目だなぁ。僕。
音楽かかる。
姉は発信機を拾ってどっかへ投げつつ
姉 いいんじゃない? 選ばなくて。
天使・悪魔 え?
僕 でも、
姉 二つのうち選べないなら、違う道を選べばいいのよ。
僕 違う道?
姉 とりあえず、あの子を探してみる。とか。
僕 でも、
姉 で、見つからなかったら仕方ない。見つかっても、
なんか自分にはこれ以上無理だなぁと思ったら、やっぱり仕方ない。
僕 そんな中途半端でいいの?
姉 いいのよ。どっちかなんかで決まらないもの。人生なんて。
僕 でも、出来るかな。僕に。
姉 さぁ。
僕 さぁって、そんな無責任な。
姉 出来なかったら、その時やめればいいんじゃないの?
僕 ……。
姉 あの子の笑う顔が見たいんでしょ?
僕 ……うん。
姉 じゃあ、ちょっとだけ頑張らなくちゃ。
僕 ちょっとだけか。
姉 ちょっとだけ。大変になる、一歩手前まで。
僕は悪魔と天使を見る。
悪魔と天使は紙風船で遊びながら、
悪魔 そうね。ちょっとなら、動いてみてもいいんじゃないですか。
天使 そうそう。動かないと始まらないしね。
僕 うん。
僕と悪魔と天使、姉が去る。
暗くなっていく中、駅員の声が響き渡る。
駅員 次に二番線に参ります電車は、急行電車となります。当駅には止まりませんのでご注意ください。
電車が止まろうとする音。
S10 中継ぎ。
神様が現れる。
音楽がゆっくり消える。
神様 ただ今お聞きいただいたのは、○○の「△×」でした。お相手は変わらず、
最近「このラストは誰も予想できない」なんて映画を期待して見る度、ラストが予想できてがっかりな私、
こと神様がお送りしています。展開が読めないと言っておいて、
読める展開ほど切ないものは無いと思いませんか? だったらはじめから勧善懲悪でも歌っておいて、
カッコイイ主人公と可愛いヒロインがぶつかり合いながらも、最終的に結ばれるという
ハリウッド的映画のほうがマシという気がします。ああ、でも友達の神様は
「展開が読めないって言っていて、本当に最後まで読めない展開だと、なんだか腹が立つ」
と言っていました。我侭ですよね。
さて、神様チャンネルよりお送りしている「願ってゴー」。この番組もいよいよ後半戦。
王女を浚っていった博士を探すため、僕とその姉は、戦うための準備を整え、
いざ、パソコンへと向かいました。
僕と姉が現れる。
姉も僕も装備を整えている。
僕 パソコンなんかで分かるの?
姉 馬鹿ね。よく言うでしょ? 分からないことがあった時は、聞く前にまず、ググレって。
僕 なるほど?
姉 ほら、出てきた。
僕 そんな馬鹿な。
姉 印刷っと。
姉と僕は地図をにらむ。
神様 そこは横浜市からやや離れた海の近く。僕と姉は、次の日の朝早く博士の元へと急ぐのでした。
Next day, the elder sister and I go to the doctor`s base.
神様が去る。駅員の声が響く
駅員 The express train passes over the second line. Please note it.
(二番線を急行電車が通過します ご注意ください)
S11 敵の城。
舞台は敵の城前へ。
僕 ここが。
姉 どうやらそうみたいね。準備はいい?
僕 姉さん。
姉 なに?
僕 ここまで来て今更なんだけど。その、僕なんかに(出来るかな)
姉 出来なかったら止めればいいのよ。言ったでしょう?
僕 そうだね。でも、もしかしたら止めようと思ったときには逃げられないかもしれないから。だから、
姉 だから?
僕 ここからは僕一人で行くよ。
姉 え?
僕 僕一人だけのほうが、逃げたいって思ったときすぐ逃げられると思うし。
これは、僕の問題だと思うし。そもそも姉さんに頼ってばかりだから。だから。
……僕は、一人で行くよ。
姉 (だまってチョップする)
僕 あいたぁ。
姉 ばか。
僕 ばかって。今、ちょっとかっこつけた場面だったと思うよ? 僕としては。
姉 だから馬鹿だって言ってるの。
僕 そりゃ、僕には似合わないかもしれないけどさ。
姉 格好つけるんだったら、「姉さんは僕が守るから」くらい言うものでしょ。男なら。
僕 でも、姉さんのほうが強いと思うよ実際の話。
姉 だとしてもよ。
僕 あ、そこは認めるんだ。
姉 当たり前でしょ。あんた弱いんだから。
僕 だからさ、
姉 だからって守らなくていいってわけじゃないでしょ。だって、あたし、女の子なんだから。
僕 女の子って自分で言うかなぁ。 第一女の子って年齢には(見えないけど)
姉が僕にチョップ。
僕 あいたぁ。
姉 どこから見ても女の子でしょ。可憐で、か弱い乙女でしょ?
僕 可憐でか弱い乙女はいきなりチョップなんてしないと思う。
姉 なにか?(チョップする準備)
僕 うん。姉さんは女の子です。はい。
姉 分かったなら言い直しなさい。
僕 はい。姉さんは、僕が守るよ。
姉 よろしい。
と、助手が現れる。
鋭い剣を持っている。
助手 来たな。誘拐犯。
僕 あなたは、ジョーシュさん。
助手 なぜ、私の名前を。妖術か? 心を読んだか!
僕 え、そうか。映像で見たことは知らないんだ。
助手 見たままどおりに怪しい地球人め。博士の仰ったとおりだったな。
僕 博士の?
博士が現れる。
その傍には仮面をつけた君の姿。さりげなく博士の後ろに隠れている。
助手 博士。一体王女はどこに?
博士 おお、ジョーシュ。発信機の後は追わなかったのか? ん?
助手 それが、住宅地と思われる道路に捨ててありまして。
博士 なるほど、敵もなかなかやるものだ。
助手 敵?
博士 くぅっ。(突然ひざを付く)
助手 博士!? どうしました?
博士 どうやら、奴にやられた傷がまだ治っていないらしい。
助手 奴!? それはまさか、
博士 すまん。ジョーシュ。王女を浚った敵を捕まえようとしてこのざまだ。私には、ヒーローとしての素質が無かったらしい。
助手 敵と戦闘を!?
博士 いいか、ジョーシュ良く聞け。私はこれから地球に作っておいた基地へと向かう。お前も一緒に来るのだ。
助手 でも、王女を探さなければ、
博士 話は最後まで聞け。いいか? 王女を誘拐したのは、地球人の男だ。
助手 やはり。
博士 そして、王女を誘拐した男は、私の基地を狙っている。
助手 何故です?
博士 分からないか? 地球人にとって私の基地がどういう意味を持つか。
わが発明品と王女を手に入れた地球人に何が出来るか。
助手 まさか、地球人は本気で我々と戦争を?
博士 急ぐぞジョーシュ。私は基地の内部セキュリティを強化し、王女を浚った犯人の捜索に全力を尽くす。
お前は基地を狙ってやって来るだろう敵を食い止めるのだ。
助手 分かりました!
博士と君が去る。
助手 と、いうわけだ。
僕 分かりやすい説明的な回想シーンありがとうございます。というか、今の回想シーンに王女いましたよね?
助手 王女を誘拐したのはお前だろ!
僕 でも、それは博士が、
助手 博士の側にいたのはお面をつけた少女カッコハテナだけだ!
僕・姉 馬鹿だー!
助手 王女をどこへやった。素直に言わなければ、その体に聞くことになるぞ。
僕 どうしよう。ものすごく戦う気がなくなったよ。
姉 でも、素直に通してくれそうに無いわよ。
僕 僕が勝てると思う?
姉 勝てそうになかったら逃げればいいのよ。
僕 そんなのが効く相手に思えないけど。
助手 どうした? やはり言う気は無いか。
姉 やれるだけやってみましょう。せっかく武器だって持ってきたんだから。
僕 アレを使うの!?
姉 今使わないでどうするのよ。
僕 そうだけど。でも、
助手 ごちゃごちゃ相談してないで、言う気があるならある、無いならないではっきりしろ!
姉 ほら、向こうもああ言ってることだし。
僕 えっと、(ジョーシュに)とりあえずこの攻撃が効くようだったら、そこを通してもらいます。
助手 大した自信だな。もし効かなければどうする?
僕・姉 逃げる。
助手 逃がすか!
助手が剣を振ろうとする。
僕が隠していた武器を取り出す。
トイレのスッポン(あの、つまりを治す奴)ものすごく汚い。
僕と姉は臭いに顔をしかめる。
助手 なんだそれは!?
僕 えーと、僕の家のトイレ掃除の道具です。
助手 トイレ掃除!?
僕 手に持てる、丁度いい長さのものがこれくらいしかなくって。
姉 ありていに言って、すごく汚いから。気をつけてね。
僕 通してくれないようなら、これを使います。
助手 馬鹿な。そんな殴られても痛くないようなもので。
姉 でも、臭いわ。
助手 当たらなければいいだけだろう。
姉 そうかしらね。行け!
僕 うん。(と、すっぽんを振る)
助手 うわっ。なんか飛んできた。臭っ。
姉 ふっふっふっふ。少し当たっただけでもその臭い。さて、直接触れたらどうなるかしらね。
助手 まて、話せば分かる。
姉 問答無用! いけ、わが弟!
僕 はい!
戦闘音が流れる。
僕が助手を追いかける。
天使と悪魔が現れる。
音楽に合わせて天子と悪魔が実況。
天使 ジョーシュは逃げだした。
悪魔 が、回り込まれてしまった。僕の攻撃。
天使 ヒュラリン。
悪魔 ジョーシュは身をかわした。
天使 が、何か頬に当たった。
助手 臭いっ。
悪魔 姉は笑って追いかけている。
天使 ジョーシュは逃げ出した。
悪魔 が、回り込まれてしまった。僕の攻撃。
天使 ヒュラリン。
悪魔 ジョーシュは身をかわした。
天使 が、何か頬に当たった。
助手 ひわああ。
悪魔 姉は笑って追いかけている。
天使 ジョーシュは逃げ出した。
悪魔 ジョーシュは逃げ出した。
天使 ジョーシュは逃げ出した。
助手が逃げる。袖に引っ込んではまた反対に、
反対の袖に逃げてはまた反対に。
そのたびに照明は変わり、いつの間にか城の中奥深くへ。
疲れきっている助手が現れる。袖に逃げ込む。
姉 とどめ!
僕 えい!
僕はすっぽんを投げる。
助手 うわあぁああああ。
天使・悪魔 たらららーらーらーらったた〜(FFっぽい戦闘終了音楽)
音楽終わる。
天使と悪魔は去る。
S12 ボス。
僕 勝った。
姉 正義は勝つのよ。
僕 正義だったのかな? 僕たち。
と、博士が現れる。
博士 よく、ここまで追ってこれたな。
僕 ハ・カセ!
姉 王女を取り戻しに着たわよ。
博士 ただの地球人が良くぞここまでと誉めてやろう。だが、少し遅かったな。
僕 遅かった?
博士が指を鳴らす。
お面をつけた王女が現れる。
僕 王女!
僕が近寄る。
と、その体を君は突き飛ばす。
僕 王女?
博士 無駄だ。声は聞こえないよ。せっかく拾った仮面だったのでね。改造させてもらった。
姉 あたしのお面をっ。
博士 王女の意識はいまや眠ったも同然。そのコントロールは、
仮面に埋め込んだ戦闘チップによって統率される。そして、
その戦闘チップは私がプログラムしている。これがどういう意味か分かるかな?
僕 (姉に)どういうこと?
姉 あなたは、王女を自由に動かせるってことね。
博士 その通り。
僕 なんで、そんなことを!
博士 何故? 分からないか? 分からないのか地球人。それほど、君はおろかなのかな?
この王女がもし、地球人の誰かに手をかけたとしたら、どうなるか。
僕 まさか……。
博士 面白いことになると思わないか?
僕 そんなことは、させない!
博士 だが、お前には何も出来ないだろう? 私を相手にするということは、
つまり……こういうことだというのは理解できるか?
博士が合図を出す。
君は僕に向かって構え、武器を取り出す。
僕 そんな……
博士 お前は私に触れることさえ出来ないのだよ。
僕 どうしたら。
博士 どうしたら、か。お前にできることは二つある。一つは、私に歯向かおうとし、
そして王女に倒されること。そしてもう一つは、諦めて逃げ帰ることだ。
僕 僕には、僕は、
博士 どちらを選ぶ? 大人しく帰るというのなら何もするまい。
この場所を知られたことはそう大した痛手ではない。王女を手に入れることが出来たわけだしな。
逃がしてやるよ。だが、向かってくるというのなら。そこに待っているのは死だ。
僕 僕は、僕は……。
姉 忘れたの?
僕 え?
姉 どっちも選べないことって世の中にはあるものよね。
僕 姉さん……
姉 (物語風に)あの時言われた姉の言葉を、今になって僕は思い出すのだった。
僕 本当だ、姉さん。選べないことって世の中にある。
姉 だったら、どうする?
僕 やれるとこまで、やってみるしか、ないのかな。
姉 そう。大丈夫。
僕 え?
姉 あんたは、あたしが守ってあげるから。
僕 姉さんを守るのは、僕の役目だよ。
姉 あんたには他に守るものがあるでしょう。
僕 何を言って……姉さん!?
姉は君に向かって駆け出す。
博士 おろかな。
何故か、その動きは僕にはスローモーションに見えた。
姉の両手が君の刃物を持った腕を掴む。
その動きにかまわず、君は姉に刃物を突き立てた。
思わず姉の両手が君の手から離れる。
君は一度引き抜いた刃物を、もう一度姉に突き立てた。
姉は、その力を全て振り絞るように、
刃物をつきたてるその手をお腹に抱え込む。
姉 (力なく笑って)捕まえた。
僕 姉さん!
姉はひざを着く。
その力に引きづられるように、君は一緒にひざをついた。
姉 ほら、今のうちに、この子のお面を。
僕 姉さん、血が。血が出てる。
姉 面を取りなさい!
僕が姉の言葉に押されるように仮面をとる。
君の顔が見えた。
君 私は……。(刃物に気付いて)え? これは、あたしが?
姉 ほら、なんとかなった。
君 姉さん!
姉 やれば出来るんだから、あんた、は。
姉が動かなくなる。
君 嫌、私、こんなこと、どうして!
刃物を落とした君を、僕は抱きしめた。
僕 大丈夫。大丈夫だから。君は何も悪くない。悪くないんだ。
君 ……あなたは?
僕 僕は、僕は、君と、話がしたかった男です。君の声が聞きたかったんだ。
ただ、それだけだったんだ。君のことが知りたかった。君に知って欲しかった。
僕のことを。ただ、それだけだったんだ。願ったのはそれだけ、それだけなんだ。
君 なんで……私、なんで……。
博士 自分の姉を犠牲にして、願いを叶えたわけだ。
僕 違う。僕が望んでいたのはこんなことじゃない。僕が願ったのは、僕が祈ったのは、
君と、名前も知らないあの子と話をすることだ。こんなことは望んでいない! 考えてもいない!
S13 僕は神様に願いをかける。
神様が現れる。
神様 いいや。違う。考え、望んだんだよ。お前は
僕と神様以外はゆっくりと去っていく。
僕 僕が、望んだ?
神様 そう。自信の無いお前は、あの子と話す機会を得た時、考えた。この子は僕と話してくれるだろうか?
僕 だけど、それは、
神様 望んだことが上手くいくわけが無いと考えた。自分には何も出来ないと考えた。
でも、何かしたいと望んだ。それが、これだ。
僕 僕はこんなことまで望んでいない。願ってなんかいない。
神様 でも、思っただろう? こんな自分に、自分なんかが願ったことが、
思ったとおりになるわけが無いと。そして、はじめに私は言っておいたはず。試練があると。
僕 何だよ試練って。
神様 願いが叶ってしまうという試練。思った願いが。こうなるはず無いと思ったことまで全て。
ありきたりに願っていけばヒーローにもなれるが、当たり前を否定しすぎていけば、
あるのは悲劇だけ。誰もが予想できなかったラストシーンというのは、
まったく、嫌な話が多いものだね。
僕 どう、したら良かったって言うんだ。
神様 願わなければ良かったのさ。はじめから。
神になど、祈らず、天使も悪魔も夢見ず、自分の力だけで向き合う。それだけで良かったんだ。
僕 そんなこと、
神様 出来ないと思ったら出来ない。そう、何度も言われなかったかい?
僕 出来ると思えば出来た……の?
神様 お前にはこれから二つの道がある。
僕 え?
神様 一つは、この世界をこのまま生きること。姉という存在はいなくなることになるが。
あの子とは話すことが出来るだろう。それだけの強さをお前はもう手にしているはずだ。
僕 もう一つは?
神様 願ったこと自体をなかったことにする。全ては無かったこと。願いを叶える寸前にお前は戻る。
僕 寸前?
神様 全ては無かったことになり、お前はここで手に入れた強さも無くす。
起こったことは全て忘れ、あの子とはいつか話が出来るかもしれない。だが、出来ないかもしれない。
僕 僕は――
神様 どちらか一つ。
僕 ……どっちも選べないことって世の中にはあるんだよね。
神様 選べないことはこの世にはある。だが、選ばなければいけないときも結局はある。
お前が、散々迷いながらも、結局前へ進んだように。
僕 僕は前になんて進んでない。いつだって、中途半端だった。前でも後ろでもない。
斜めみたいなものだった。
神様 また、斜めに進むというわけかい?
僕は頷く。
神様 そうか。……俺も、そうすればよかった。
僕 え?
神様 生か死は、コインの裏表のようなものだ。けど、ONとOFFのスイッチじゃない。
早く気付いていれば、もっと面白いことが出来たはずなんだけどな。
僕 何を言って?
神様 結局そういうことさ。全ては、あるかないかじゃない。
声をかけるか、かけないかじゃない。留まるか、飛び降りるかじゃない。
僕 神様?
神様 さて、願いを叶えよう。それが今の俺の仕事だからね。お前は、どうしたい?
僕 僕は――
溶暗。
S14 ホームで僕らは夢を見ていたフリをする。
電車の急ブレーキ音。どこか必死な駅員の声。
駅員 2番線、線路を係員が点検します。ホームのお客様は白線よりお下がりください。白線よりお下がりください。
少しずつ、人々がホームに集まってくる。
登場人物たちの格好は普通の人々。つまりはオープニングと同じ。
天使 夢を見た。不思議な夢。夢の中であたしは天使だった。なんて言ったら、笑われるだろうから
友達には言わないでおいたけど。ちなみに、この子は悪魔だった。意外と似合ってるって思ってた。そんな夢。
悪魔 多分、夢だったと思います。それくらい、変にリアルで、同じくらい馬鹿馬鹿しい夢。
隣を見たら、友人は欠伸をしているところでした。この子も夢を見ていたらしい。変な夢。悪魔になるなんて。夢。
母 夢の中で、子供を捜していた。結婚願望でもあるのかな。まだそんな年でもないのに。おかしな夢。
それにしても今日は電車が遅い。寝ているうちに通り過ぎちゃったのかしら。なんて夢。
助手 夢を見た。サイアクな夢。トイレの掃除道具に追いかけられる夢。なんだったんだ。あれは。夢?
博士 夢の中で、極悪人になっていた気がする。なんだか、やけにすっきりした。ストレスたまってるのかなぁ。
時計を見たら時間は少しもたっていない。……よね。きっと。……いつの間に寝ていたんだろう。夢。
姉 夢を見た。弟がいる夢。おかしな夢。私は一人っ子なのに。となりに、夢で見たのと同じような格好の
男の子がいた。この子のせいかなって思ったらちょっとおかしかった。そういえば、最後は哀しい夢だった気がする。
まぁ、夢なんてそんなものかもしれないけど。それにしても、電車来ないな。何かあったのかな。
僕 夢を見た。
君 夢を、見ていた気がする。
天使 夢。駅員さんが、何か騒いでいる。
悪魔 夢を見ていた。何かあったのか?
母 夢? 誰か、落ちたの?
助手 夢だったのか。そういえば、急行は通り過ぎたんだっけ?
博士 夢。あそこに止まっている電車は何だ?
君 夢。
僕 夢。
君と僕が見つめあう。
ホームから駅員のほうを見る人々。
神様だけがそこにいない。
君 (独り言で、)電車、どうしたのかな?
僕 え?
君 あ、ごめんなさい。なんでもありません。
僕 ううん。
君 ……なんか。寝ちゃっていたみたいで。
僕 僕も。……あれだよね。今日、暖かいからね。
君 暖かいですよね。
僕 だよね。もう、春なのかな。
君 春、なんですかね。
僕 あっという間だよね一年なんて。
君 あっという間ですね。
僕 ね。
君 ……いつも、同じ電車、ですよね。
僕 うん。
君 やっぱり。なんか、よく会うなって思ってた。
僕 僕も。
天使 夢を見ていた。
悪魔 夢。
母 夢だったのか。
助手 夢から覚めたのか。
博士 まだ夢の中なのか。
天使 夢。
悪魔 夢。
君 よかったら、(と、自分の隣を指す)
僕 ありがとう。
母 夢。
助手 夢。
博士 夢。
君と僕が一緒に座る。誰も、君と僕を見ない。
恐ろしいものを見るように線路を見ている。駅員の声が聞こえる
駅員 2番線、線路の点検のため、電車が本駅にて停車しております。お急ぎのお客様には大変ご迷惑を
おかけいたします。繰り返します。2番線、線路点検のため、電車が本駅にて停車しております。
S15 あなたと夢の中で話をしたよ。
登場人物たちが固まる。
神様が現れる。オープニングと同じ格好。
頭に白く光るわっかをつけている。死んでいるってことらしい。
神様 一応説明しておくと、(頭の)わっかね。これ。多分、想像したとおりだと思うんだ。つまり、まぁ、
落ちましたと。ははは。それがどうしてこんなことやってんのかは俺にも良く分からないんだけど。
……まったく、駄目なんだ。俺って。勉強も運動もからきし駄目。趣味が特殊ってわけでもないし、
もちろん自慢できる特技なんて無い。普通ってことかもしれないけど、それって、普通以下ってことだよな。
そんな事をふと考えた帰りのホーム。俺は、いつものように電車を待つ人たちを見つけてなんだか
やたら寂しくなりました。今日は研修の初日で、来月からは新社会人。
だから、頑張らなきゃいけないはずなのに、駅に立つ人々は、やっぱりいつもの人々で、
俺はいつもの俺で、そのいつもの俺を誇れるものなんて一つもなくて。
駅員 2番線に、急行電車が通過します。ご注意ください。
神様はふと線路を見る。
足を見つめる。
神様 勇気ってものが俺の中にあるんだとしたら、今ここで使わなくちゃ意味が無いって何故か思った。
大丈夫。一瞬のことなんだ。それでつまらない俺にさよならできる。よし、今だ。今ならいける。
足を踏み出す瞬間、思った。
神様。もし、あなたがいるのなら、せめてさよならする俺の代わりに、これから迷惑をかけるだろう皆さんに、
小さな奇跡を起こしてください。俺なんかがいなくなったところで、誰も何も思いはしないだろうけど、
でも、迷惑はかけてしまうから。何も出来ない俺の代わりに、小さなきっかけでもいいから、
与えてあげてください。ああ、馬鹿だな俺は。神様なんてそんなもの、いる分けないのに頼ったりして。
祈ったりして。願ったりして。起こらない奇跡を空に見て。空は馬鹿みたいに澄んでいた。
俺のちっぽけな想いなんて本当にちっぽけなんだと思って、目を閉じた。
明かりが暗くなる。
駅員の声が響き渡る。
駅員 という、夢。
神様 え?
S16 そして神様は俺に戻る。
明かりがつくと、神様(俺)の体を博士が引っ張っている。
博士の体を、助手と母が、悪魔が、天使が、姉が、君が僕が、引っ張っている。
俺 え?
博士 何やってるんだ君は!
母 命を何だと思ってるの!
悪魔 危なかった。
天使 本当危なかったよ。
僕 ギリギリだったよね。
君 なんか、まだ心臓ドキドキしてる。
俺 あれ?
助手 あれじゃないですよ。どういうつもりですか。
姉 あ、駅員さん。こっちです。
駅員 大丈夫ですか?
俺 え、あ、はい。え、あれ?
その駅員の頭には白いわっかがついている。ついでに立派な羽も。
駅員 (子供を叱るように)めっ。
俺 「めっ」て。あれ、でも、俺。
駅員 夢を、見ていたんじゃないですか?
俺 夢って、(と、駅員のわっかに気付き)あっ。
博士や助手に、説教をくらう俺。
それを見てホッとしている母や姉。
笑いあっている天使と悪魔。僕と君。
駅員がそんな人々を見て笑う。
駅員 まぁ、こういうのもね。たまにはいいものですよね。(ふと真面目に)
「2番線、電車参ります。白線の内側にお下がりになってお待ちください。はい。電車参ります」
誰もが電車を待つ。
きっと新しい場所へ運ばれると信じて。
完
なんというか……夢オチです。何度目だという感じですけど。 初めの構想としては、 「神様というのは死のうとした男が最後に願った願いの結晶」 というところからスタートしたのですが…… 最近本当多いですよね。人身事故。せめて物語の中では 救いたくなっているうちに、このようなお話になっていました。 今回はちょっと載せ方を変えてみて、台詞と台詞の行間をつめました。 読みにくいでしょうか? ちょっと今後、行間をあけるか詰めるかは考えていこうと思います。 今回のもう一つのテーマは淡い恋心。 話しかけたくて話しかけられないあのドキドキ感は、 きっと誰もが抱いたことがあると思います。 懐かしく、思い出していただければ幸いです。 最後まで読んでいただきありがとうございました。 |