Love&Banana's Reception
作 楽静


登場人物

ヤオモテ タツコ  結婚にやや憧れのあるアルバイター。バナナ好き。
イワイ タイゾウ  若きウエディング・プランナー
アメド ムチコ  イワイに惚れている警備員
ノロイ マスヨ  招かれざる客① ストーカー
コワシマ ショウジ  招かれざる客② ストーカー予備軍
オオタ クニオ  招かれざる客③ オタク


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   とある結婚式の披露宴が始まる一時間くらい前の物語。
   季節は秋。イチョウの葉が色づく頃。
   本日の天気は気象庁によれば曇りのち晴れ。雨の確率20%
   披露宴の舞台となるとあるホテル。
   一方の袖は階段もしくはエレベーターに通じ、
   反対の袖は会場内に通じている。
   中心よりやや会場側にある受付。簡素に作られている。
   テーブルには携帯電話とバナナが置いてある。
   やがてピアノ。



イワイ (袖で)はいストップ。OK。こんな感じで行きましょう。

   ピアノ止まる。
   携帯電話を片手にイワイがやってくる。

イワイ (袖で)ああ、それは、右。うん。あ、こっちから見てね。その、シダチャッカ像は左で。シダチャッカ。だから、シダチャッカ。意味? 俺だって知らないよ。ほら、時間無いんだから。あ、悪い。電話。(と、言いながら出てくる)はいはいはいはい(携帯電話に出て)はい。お待たせしました。プランナーのイワイです。ええ。大丈夫です。どうですか? スミレ様の方は。はい。もう、お化粧も? では、記念撮影のほうに入っても? はい。ああ、それでは新郎のご家族にはこちらから連絡をしておきますので。はい? ホテルの前の木ですか? (と、客席側に向かってイワイは背伸び)ああ、イチョウの? はい。ありますね。え? そこで、記念撮影ですか? (携帯電話を一瞬投げそうになるが、平常心で)はい。ええ。素敵な秋晴れですよね。わかりました。それではなんとか。はい。また連絡いたします。失礼します。

   携帯を切るとふと、ため息。気を取り直し。
   時計を確認する。

イワイ よし。(受付の準備を確認して)よし。

   そのまま反対方向にはけようとするが、立ち止まる。
   振り返り、バナナを凝視する。

イワイ (周りを見渡す。)

   バナナを見る。

イワイ (周りを見て、ため息)だれだ、ここにバナナ置いたの! って、俺は忘れ物係りか! 

   バナナを机に叩きつける。

イワイ (しばし見つめた後、携帯を鳴らす)……

   と、机に置いてあった携帯電話が鳴る。

イワイ (携帯を切る)

   携帯の音が止まる。

イワイ あのバカ……



   そこへ、ヤオモテがやってくる。
   ハンカチを口にくわえ、両手をぶらぶらしている。

ヤオモテ (ハンカチを口にくわえたまま)あ。
イワイ ヤオモテさん。
ヤオモテ (ハンカチを口にくわえたまま)はい。
イワイ とりあえず、ハンカチはずしてください。
ヤオモテ はい。

   と、そのままハンカチをポケットに入れると、服で手を拭いてしまう。

イワイ 使えよハンカチ!
ヤオモテ はい? あ、ああ。

   と、ヤオモテはハンカチを使う。

イワイ 携帯、置いてあったんですけど?
ヤオモテ はい。置いておきました。
イワイ なんでですか?
ヤオモテ だってトイレ行くから。
イワイ 連絡つかないでしょ。
ヤオモテ だって、トイレですよ?
イワイ だから?
ヤオモテ 出られないですよ、両手ふさがってるんだから。
イワイ 片手は常に電話に出られる状態にして置いてください。
ヤオモテ 片手? え? ちょっと待ってくださいよ。やったことないからな。

   と、ヤオモテはシュミレーションしだす。

イワイ 今やるな!
ヤオモテ 練習しておかないと出来ないですよ!
イワイ もういいですから。携帯持って。
ヤオモテ はい。

と、ヤオモテは携帯をもつ。
   そして、当たり前のようにバナナをポケットに入れる。

イワイ 待て。
ヤオモテ え?
イワイ やっぱり君か。
ヤオモテ なにがですか?
イワイ バナナ。
ヤオモテ バナナ? ああ、(ちょっと嬉しそうに)ジャイアント・キャベンディッシュです。
イワイ はい?
ヤオモテ 食用バナナの中でもっともポピュラーな奴ですね。安値で栄養価も高い。しかも、バナナに含まれているセロトニンは、神経を落ち着かせる役目を持っているんです。あなどれないですよね。バナナ。わたしはそんなバナナに敬意を払って、種類ごとにしっかりと呼ぶことにしているんです。モンキーバナナと言われるセニョリータ。赤茶のモラード。そしてラツンダン。バナナの名前はまるでバナナではないかのように美しい。そう思いませんか?
イワイ そんなことを聞いてるんじゃなくて、なんでここにバナナを置いておいたんですか?
ヤオモテ だって、トイレには持っていけないじゃないですか。
イワイ そういうことじゃなくて。
ヤオモテ いや、だってトイレですよ? 携帯はまだ分かりますけど。食べものなんだから。まぁ、そりゃあ皮むきますから? そのまま食べるわけじゃないですけど。でも、なんていうかな。これが梨や柿だったらまだ持っていっても大丈夫な気はするんです。でも、バナナは……ちょっとわたしには無理ですね。すいません。
イワイ もういい。早く食べちゃってください。
ヤオモテ でも、まだお昼じゃないから。
イワイ ヤオモテさん。
ヤオモテ はい。
イワイ 今日の披露宴は何時からですか?
ヤオモテ あと……あ、一時間ないですね。
イワイ 気の早いお客様はもうご来場されるかもしれません。
ヤオモテ せっかちな人たちですよね。
イワイ そんなとき、バナナを食べているあなたを見たらどう思われると思いますか?
ヤオモテ 「この人、バナナ好きなのかな?」
イワイ ヤオモテさん!
ヤオモテ はい。すいません。冗談が過ぎました。すぐ食べます。
イワイ 俺はちょっとホテルの人と話さなきゃいけないことできたからここ少しはずしますけど、くれぐれもまじめにお願いします。いくらアルバイトって言っても、お客様はそんなこと分からないんですから。
ヤオモテ OKボス。
イワイ (ため息)食べたら、それちゃんと捨ててください。

   イワイは去る。



ヤオモテ 作戦失敗か。

   バナナを取り出すともてあそびながら、

ヤオモテ さすがに式当日にはふざけたことやっても早く帰らせてくれないか。結構怒らせたらすぐキレそうだと思ったんだけどなぁ。ああ。どうしよ。

   と、ヤオモテの携帯が鳴る。
   しばし迷ってやっぱり出る。

ヤオモテ もしもし。うん。まだ仕事。仕方ないじゃん仕事なんだから。うん。分かってる。なるべく早く帰れるようにするから。うん。じゃあ、また後でね。

   電話を切る。時計を見て、

ヤオモテ はあ。早く帰りたいなぁ。今日シフト入れなきゃ良かった。

   と、気を取り直してバナナをむく、

ヤオモテ ベリベリベリ。ベリベリベリベリ。「ああ、お止めになって」「ふっはっはっは。泣いてもわめいても助けなど来ぬわ。どうれ、後一枚」「ああ」ベリベリベリ。

   と、ふざけてバナナを食べようとしていると、


   オオタがやってくる。
   いかにも秋○原からやってきましたと言う感じのオタクスタイル。
   紙袋を持っていて、ポスターがニ三本生えている。
   バナナを食べようとしていたヤオモテはオオタに気づき、動きを止める。
   やがて、ゆっくりと、皮を戻す。そして、受付のテーブルに置く。
   何事も無かったかのように

ヤオモテ いらっしゃいませ。申し訳ありませんが本日は結婚披露宴のため、当会場は貸切となっております。会場をお間違えではありませんか?
オオタ あの、僕。
ヤオモテ はい。申し訳ありませんが本日は結婚披露宴のため、当会場は貸切となっております。会場をお間違えではありませんか?
オオタ その、僕、
ヤオモテ ええ。申し訳ありませんが本日は結婚披露宴のため、当会場は貸切となっております。会場をお間違えではありませんか?
オオタ 僕、
ヤオモテ そうですね。申し訳ありませんが本日は結婚披露宴のため、当会場は貸切となっております。会場をお間違えではありませんか?
オオタ そうかも。
ヤオモテ はい。ではお帰りください。
オオタ でも
ヤオモテ でもじゃなくて。今日はここで披露宴があるんですよ。
オオタ うん。
ヤオモテ 「うん」じゃなくて。だから、それにふさわしい人が来るの。
オオタ 僕、だから来たんですけど?
ヤオモテ は?
オオタ ここは、ウタノ・ヒメコさんの披露宴会場ですよね?
ヤオモテ は? (と、手元の紙を見て)いえ。アキカゼ スミレさんですが。
オオタ ウタノヒメコは芸名ですよ。
ヤオモテ ああ。
オオタ これだから何も知らない人は困るよ。
ヤオモテ (むっとして)あなたも、どう見ても披露宴に来た格好には見えませんが。
オオタ 形から入るのって、僕嫌いなんです。でも中身を見てもらえれば、僕がこの場にふさわしい人間かどうか分かるはずです。
ヤオモテ あんたがふさわしかったら、ふさわしいって言葉が泣くわ。……一応お聞きしますが、招待状はお持ちですか?
オオタ ……(ポスターだして)これ、あげますから。
ヤオモテ そんなわけ分からんのいりません! 持ってないんですね?
オオタ これは、絶対今年を代表するアニメになるんだから。
ヤオモテ はいはい。
オオタ まぁ、配役はそれほど奇抜ってわけじゃないし、声で萌える人にはちょっとついていきにくいかもしれないけど、でも世界観がすごいから。
ヤオモテ いや、聞いてないから。
オオタ 世界の崩壊っていう今までに何度と無く材料にされてきた食材を、ロボットと言う媒体を使うことによって、よりリアルな未来感を形成したって言うか。確かに語りつくされてきた作品のオマージュと言う見方も出来るかもしれないけど、それはオリジナルを背負おうと思ったときに必ず出てくるジレンマに過ぎないんです。でも、この監督は真っ向から批判に立ち向かうと言う努力を忘れなかった。それは時にパロディと揶揄されるような部分もあるけど、実はそれすらも世界に観客をなじませようとする一種のトリックに過ぎないんです!
ヤオモテ ……気が済みました?
オオタ 入っていい?
ヤオモテ 帰れ! 帰れ帰れ!

     ヤオモテがいい加減切れて、オオタを追い返す。

ヤオモテ まったく。食べるのが遅くなっちゃったじゃない。しかーし。果物の中で効酸化作用が強いバナナはチョットやそっと置いておいたくらいでは少しも味に損傷は無いのだった。ちなみに、この効酸化作用には活性化酸素を消去する働きがあり、活性化酸素は多すぎるとしみ、そばかすの原因になる。つまり、しみ、そばかすにお悩みの奥様方にも是非お勧めな一品なのである(一口食べて)うんうまい。

     と、イワイが立っている。
     手には書類。



イワイ ヤオモテさん?
ヤオモテ はい?
イワイ なぜ、バナナを、食べてる?
ヤオモテ まじ、バナナは、うまいっす。
イワイ そんなことは聞いてません。
ヤオモテ いや、食べようと思ってたら変な男がやってきて。
イワイ 変な男? まさか中に、
ヤオモテ きっちり追い返しました。
イワイ それはよかった。だから、バナナを食わない!
ヤオモテ 食べなきゃなくならないんですよ。
イワイ そんなことは分かってます。まぁ、じゃあいいです。とりあえず、これ。
ヤオモテ なんですか?
イワイ ブラックリスト。
ヤオモテ はい?
イワイ 今回、来て欲しくないにもかかわらず来るかもしれないお客さまの数をまとめたリストです。
ヤオモテ どんな客ですかそれ。わざわざ披露宴なんて退屈な場所に来るなんて。
イワイ 今回の新郎は将来を望まれる外交官。そして、新婦は財閥のお嬢様で元アイドル声優。となれば、様々な知り合いがいるものです。
ヤオモテ モトカレ・モトカノってやつですか。……うわっ。多っ。
イワイ 大きな声で言わない!
ヤオモテ はい。(リストを見て)……やたら、男の名前が多いですね。
イワイ 言いませんでしたか? 新婦は元アイドル声優だって。
ヤオモテ それ、職業差別だと思うけど。
イワイ しっかり仕事してくださいね。少なくとも給料分は。
ヤオモテ はいはい。
イワイ あと、バナナは食べて。
ヤオモテ はい。

     イワイが式場に入っていく。
     ヤオモテはバナナを食べながらリストを見る。



ヤオモテ すごい。あいうえお順にきれいに並んでる。アベヒロシ。イケダサトシ。オダギリジョウ。……なんかどっかで聞いたことあるような……どうやったらこんなにたくさんのブラックリストが出来上がるような人生を送れるんだろう? そのうち刺されたりして。

     と、言っているうちにバナナを食べ終わる。

ヤオモテ 食べ終わっちゃった……。

     と、あたりを見渡すが捨てられる場所も無く。

ヤオモテ チョット捨ててきますよ~「いいですよ。」よし。OK。

     と、携帯が鳴る。着信を見て一瞬顔をしかめる。

ヤオモテ はい。……だから、急に抜けるとか無理だって。そりゃ悪いのは私だけど……

ヤオモテが去る。



     ピアノの音楽。
     何かのリハーサルらしい。
     コワシマがやってくる。
     一見普通の人にも見えなくも無いスーツスタイル。
     手には花束を持っている。
     のんびりとやってくると、受付を一瞥する。
     と、そこへ携帯で電話をしながらイワイがやってくる。

イワイ (袖に)OK。ありがとう。じゃあ入場曲はそんな感じで。

     ピアノが止む。

イワイ (電話に)お待たせしました。本当すいませんでした。急なお願いになっちゃって。ええ。頼んでいた警備の人が急に都合つかなくなっちゃって。今は? ああ。でしたらですね、駅で降りたら左手に行ってください。はい(と、外を見る)それで、ほら、なんでしたっけ。ほら、アレが見えますから。ほら、駅横に、

     と、イワイは片手でコワシマに教えての合図。
     電話に集中しているため、コワシマを見ない。

コワシマ (私か? と自分を指して)マルイ?
イワイ そう! マルイあるから。その横を左ね。大きなイチョウが目印ですから。じゃあ、よろしくおねがいします(と、電話を切り)写真撮影はっと……(と、窓の外を見る。電話をかけながら)バナナ食べましたか?
コワシマ え?
イワイ バナナですよバナナ。食べてないんですか?
コワシマ いえ、バナナなんてここ最近は。
イワイ バカだな。食べないでどうするんですか!
コワシマ バカ!?
イワイ 披露宴までに食べてなきゃ追い出しますよ。本当みっともない。
コワシマ みっともない? バナナを食べなきゃ駄目なの?
イワイ 当たり前でしょう!
コワシマ 当たり前って(と、言いながらバナナを探し始める)
イワイ (と、電話に出て、外を見ながら)あ、たびたびすいません。写真の方はもう? ああ。よかった。ええ。即席でしたのでご満足いただけたか心配で。はい。銀杏(ぎんなん)を見て新郎の方が泡を吹かれたときにはもう終わりかと。ええ。アレルギーだとは。はい。具合が良くなっているようで安心しました。では、予定通りに。はい。(電話を切る)ふう。(また電話をかけ始める)
コワシマ あの。
イワイ なんですか? 忙しいんだから早く食べてください。
コワシマ ない場合は。(と、受付の裏に入る)
イワイ (振り返り)無い分けないだろ! あんまり怒らせないでください。忙しいんだから。っていないし。(と、相手が電話に出たのか)あ、部長。お疲れ様です。イワイです。はい。警備の人員、どうにか一名都合がつきました。ええ。ぎりぎりです。はい。

     と、言いながらイワイは式場に入っていく。

コワシマ (受付の裏から出てきて)バナナか。……(花束を見て)俺、バナナ苦手なんだけどな……



     と、バナナの皮をもってヤオモテが登場。

ヤオモテ どうしようかなぁ。これ。ゴミ箱無いんだもんなぁ。
コワシマ バナナだ。やっぱりバナナがいるのか。
ヤオモテ え? あ。申し訳ありません。お待たせしました。

     と、ヤオモテは席に座ろうとする。

コワシマ ちょっと、待って。
ヤオモテ え?
コワシマ それは、バナナだよね?
ヤオモテ (バナナを見て)はい。正確にはジャイアント・キャベンディッシュ。バナナの中でもっともポピュラーなバナナです。の、皮ですけど。
コワシマ それを譲ってくれないか?
ヤオモテ は?
コワシマ 分かるだろう? 本当は食べた方がいいんだろうけど、俺、バナナ苦手なんだ。
ヤオモテ いや、全然分かりませんけど。
コワシマ 金なら出す。
ヤオモテ バナナですよ?
コワシマ だから、バナナなんだろう?
ヤオモテ 皮ですけどね。
コワシマ 皮だっていいんだ。分からない人だなぁ。その皮を俺が持っていればどう見える?
ヤオモテ ……バナナの皮を持っている人。
コワシマ バカ! もう少し想像力を働かせてくれよ。まさか、リンゴを食べたようには見えないだろう。
ヤオモテ 見えるわけ無いじゃないですか!
コワシマ 例えだ!
ヤオモテ え? だって、バナナの皮ですよ。それでリンゴを食べたように見えるって、どんだけ目が悪い人ですか。
コワシマ だから、見えないだろうって話をしたかったの!
ヤオモテ 見えるわけ無いじゃないですか(冷たく)
コワシマ 見えないでしょ。
ヤオモテ 当たり前なこと言わないでください。忙しいんですわたしは。

     と、ヤオモテが席に着く。

コワシマ だから、つまり、その俺は君の持っているバナナの皮がほしいの。
ヤオモテ 皮ですよ?
コワシマ だからいいんだよ皮で!!
ヤオモテ (いじける)そんな怒鳴ること無いじゃん。
コワシマ あ、ごめん。つい。
ヤオモテ そうやって何かにつけてすぐ怒鳴って何とかしようとするんだもん。ずるいよね、男って。
コワシマ えっと、ごめんなさい。本当に。怒鳴るつもりは無かったんだ。
ヤオモテ 怒鳴る人間はいつだってそういうんだよね。
コワシマ 本当悪かった。謝ります。この通り。
ヤオモテ ……じゃあ、なんか一発芸して。
コワシマ はぁ?
ヤオモテ 謝るくらいなら誠意を見せて欲しいなぁ。
コワシマ ……わかった。

     ここで、コワシマがどんな芸を見せてくれるか。
     それはコワシマの役をやる人間にお任せする。

ヤオモテ それで、ご用件は?
コワシマ ……だから、そのバナナの皮を譲ってほしいんだ。
ヤオモテ 皮ですよ?
コワシマ (怒鳴りそうになるのを抑えて)分かってる。でも、それを俺が持っていたら、どう見える?
ヤオモテ どおって。
コワシマ いや、もうストレートに言おう。バナナを食べたように見えるだろう?
ヤオモテ はぁ。
コワシマ だから譲ってくれないか? 金なら出す。
ヤオモテ 金って……皮ですよ?
コワシマ 分かってるって言ってるだろう? そりゃあ、本当はちゃんとバナナを買うべきなのかもしれない。でも、だ。俺はバナナが苦手でね。いくら出せばいい?
ヤオモテ いくらって言われても……こんなのただでいいですよ。
コワシマ いや、それはそちらに悪い。そうだな。口止め料も含めて一万でどうだ。(と、あっさり出す)
ヤオモテ 一万!?(と、受け取りながら)いいんですか? 皮なんですよ?
コワシマ だから、皮であることの方が重要なんだ。(と、受け取ると)よし。
ヤオモテ ああ、ちょっと。待ってください。
コワシマ なにか?
ヤオモテ ここまでの展開で忘れそうになりましたけど、お客様、ですよね?
コワシマ もちろん。
ヤオモテ 失礼ですけど招待状はお持ちですか?
コワシマ え?
ヤオモテ 招待状が送られているはずなんですけど。今日の披露宴は身内だけの会ですので。
コワシマ それは……うん。家に忘れてきたのかもしれない。
ヤオモテ 入場の際に必要だと書かれていたはずですけど?
コワシマ そういえば書いてあった気がする。
ヤオモテ そこに、もし招待状を無くされた場合は当日ピースして入るようにと書いてあったと。
コワシマ 書いてあったな。そういえば。

     と、コワシマはピース。

ヤオモテ まぁ、今のはもちろん冗談なんですけどね。
コワシマ だろうと思った。
ヤオモテ ……失礼ですが、お名前は?
コワシマ ……コワシマ、ショウジ
ヤオモテ (その名前をブラックリストで読んで)あ、やっぱり。
コワシマ やっぱり?
ヤオモテ えっと、コワシマ様?
コワシマ なんだ。
ヤオモテ そのままどうかお帰りいただけますか?
コワシマ バナナ持ってるだろう!?
ヤオモテ いや、意味分からないですけど。コワシマ様は残念ながら入れない方のリストに書いてあるんですよ。
コワシマ なんで!?
ヤオモテ 作った人に聞いてください。
コワシマ スミレのやつ、最近電話番号もメアドも変えたせいで連絡取れなかったんだ。
ヤオモテ それ、完全に嫌われているんじゃないですか?
コワシマ 俺はあんなにあいつに金を使ったのに。
ヤオモテ まぁ、女なんてそんなもんですよ。
コワシマ だからスミレに直接聞こうと思い、あらゆる情報網を使って今日の式を知ったのに。
ヤオモテ それ、結婚式が開かれるって分かった時点で諦めればよかったと思いますよ。
コワシマ 俺という男がいながらなぜ!
ヤオモテ だから、そんなの私に聞かれても。
コワシマ だったな。スミレに直接聞く。

     と、コワシマは中に入っていこうとする。
     慌ててヤオモテは止める。

ヤオモテ ちょ、ちょっと待って。ね。一応入れちゃいけないことになっているから。
コワシマ 金なら出す。
ヤオモテ いえ、それで問題起こったら困りますから。
コワシマ 10でどうだ。
ヤオモテ 10?
コワシマ 10万。
ヤオモテ え、どうしようかなぁ。

     と、そこにアメドがやってくる。



     アメドのいでたちは黒。
     そして、サングラスをかけ、ガムを噛んでいる。

アメド フリーズ。止まれ。
ヤオモテ&コワシマ え?
アメド 動くな。
ヤオモテ 誰あんた。
アメド 黙れ。
ヤオモテ あのね、ここはそういうよく分からない格好の方が来るところじゃないんだけど。
アメド 黙れと言ったのが聞こえなかったか? 力ずくで黙らせてやろうか?
ヤオモテ だから私は、
コワシマ いや、ここは俺に。
ヤオモテ はい?
コワシマ うるさいのがいなくなってから、また取引をするとしよう。
ヤオモテ はあ。

     コワシマはバナナの皮を受付のテーブルに置き、

コワシマ さて、お嬢さん。俺たちは大事な商談の途中なんだ。いくらかお小遣いあげるから、どっか行ってくれないか?
アメド 黙れ。

     と、アメドの一撃がコワシマに刺さる。

コワシマ な、殴ったね!
アメド 一度だけ尋ねるから正確に答えろ。(ヤオモテに)ここはイワイくんが仕切る会場?
ヤオモテ イワイさんの知り合い?
アメド 返答はイエスorノーで。
ヤオモテ イ、イエス。
アメド あんたは受付?
ヤオモテ イエス。
アメド (コワシマを指し)これは?
ヤオモテ それは、その、招かれざる客って奴で。
アメド 了解。排除します。
ヤオモテ え?
コワシマ いや、俺は新婦に……スミレに用があるんだけど。
アメド 黙れ。

     アメドの蹴りを、コワシマは何とか避ける。

コワシマ いきなり何をする!
アメド 避けたか。
コワシマ こ、これでも、少しは武道の心得があるんだ。
ヤオモテ あの? なんか状況がおかしくない?
アメド OK。じゃあ、20%の力で相手してあげる。
コワシマ くだらない冗談を!

     コワシマの攻撃をアメドは避けざまにボディに一撃。

コワシマ く。まだまだ。

     コワシマの攻撃をアメドは避けざまにボディに一撃。

コワシマ ふん。やるな!

     コワシマの攻撃をアメドは避けざまにボディに一撃。

コワシマ (ヤオモテに)見てないで手伝えよ!
ヤオモテ え? うん。(と、受付の花を使い)勝つ、負ける。勝つ……
コワシマ 花占いかよ!
アメド どうしたの? 所詮口だけの甘ったれね。
コワシマ くっ。この技だけ使いたくなかったが、見せてやるよ!

     と、コワシマは構え、すばやく財布を出す。

コワシマ というわけで、やっぱりお金で解決しよう。いくらほしい?

     アメドは無言で顔に一撃入れる。
     コワシマは顔を抑えうずくまる。

コワシマ か、顔を殴ったな。親父にもぶたれたこと無いのに~!
アメド それが甘ったれだと言うのよ! 殴られもせずに一人前なんて奴がどこにいる!!
コワシマ もう二度とこんなところ来るもんか~

     コワシマが去る。

ヤオモテ ……えっと?
アメド (ヤオモテがしゃべろうとするのを手で制止、携帯をかける。急に可愛い声で)イワイくん? 今到着したよ。うん。受付にいます。はい。待ってます。
ヤオモテ えぇ~?
アメド 一つ忠告しておく。
ヤオモテ はい。
アメド 余計な告げ口は死につながると思え。
ヤオモテ はあ?

     アメドはサングラスを取るとしまい、ガムを包みに入れる。

10

     イワイが現れる。
     アメドの性格は激変する。

イワイ (袖で話しながら)じゃあ、まもなくですから。ヨロシクおねがいします。(と、出てきて)アメド先輩。
アメド (可愛らしく)イワイ君♪
ヤオモテ ぶっ。
アメド (ヤオモテをにらむ)
ヤオモテ きれいな花だなぁ。
イワイ どうしたの?
アメド なんでもないの。ごめんね遅くなって。
イワイ いえ。急な話でしたし。来てくれて嬉しいです。
アメド 後輩の頼みだもの。いつだって飛んでくるわよ。
イワイ ありがとうございます。ヤオモテさん。紹介します。こちら、アメドムチコさん。今日、披露宴が始まってからの警備をお願いしているんです。
ヤオモテ 警備? でもいつもは?
イワイ いつもの人が急にこられなくなっちゃって。で、アメドさん。こちらがヤオモテさん。受付をやってもらってます。
アメド はじめまして♪ 初めて来た会場だから、分からないことばかりだと思うんで、よろしくお願いします。
ヤオモテ コチラコソ ヨロシク。
イワイ (花を見て)あれから誰か来たんですか?
ヤオモテ ああ。ブラックリストに乗っている人が。
イワイ そう。(花を取り)追い返してくれました?
ヤオモテ ええ。それはもう、アメドさんが……

     と、アメドがにらむので、

ヤオモテ 来る前には何とか追い返せました。
イワイ そう。(バナナを)食べたんですね?
ヤオモテ あ、はい。
アメド え?(何を食べたのかと興味がわく)
イワイ じゃあ、ちゃんと片付けておいてください。
ヤオモテ いや、でもここら辺にですね(ゴミ箱が)
イワイ ヤオモテさん。
ヤオモテ はい。片付けておきます。
イワイ じゃないと、(お客様に)恥ずかしいですから。
アメド イワイ君、恥ずかしいってなに?
イワイ いや、いいんですよ。大したことじゃないんです。ですよね?
ヤオモテ 別に、私は恥ずかしくないですけどね。
イワイ 俺が恥ずかしいんです。
アメド 恥ずかしいって何!?
ヤオモテ 分かりました。きちんと片付けておきます。
イワイ じゃ、アメドさんの席はその受付の隣を使ってください。
アメド あの、イワイ君?
イワイ 分からないことあったら電話してくれていいですから。じゃあ、あとよろしくお願いします。

     イワイはそう言うとまた会場に入っていく。
     ヤオモテはバナナの皮をもてあそぶ。

11

     アメドはイワイの後を見送ると、サングラスをかけ、ガムを噛み始める。

ヤオモテ (イワイの行く見て)がんばってるなぁ。……私も、がんばらなきゃ駄目か。(と、伸びをする)
アメド 何を食べた?
ヤオモテ え?
アメド 何をイワイ君からもらって食べたって聞いてるんだよ。
ヤオモテ 何ももらってませんよ。
アメド 嘘をつけ。
ヤオモテ 嘘って。
アメド あのイワイ君がアレほど恥ずかしがるんだからそれ相当のものに決まってる。
ヤオモテ それ相当って……いや、あれはね。
アメド あれは!? ほらやっぱりもらってるんじゃないの!
ヤオモテ いや、そうじゃなくて。
アメド 弁当!?
ヤオモテ はい!?
アメド まさか弁当をもらったのかこのやろう!
ヤオモテ もらってないもらってない。
アメド 高校時代からずっと可愛がり続けている私ですらもらったことの無い弁当を! キサマ!
ヤオモテ 誤解ですって。これ。コレの話なんです。
アメド バナナ?
ヤオモテ そう。正確にはジャイアント・キャベンディッシュ。バナナの中でもっともポピュラーなバナナです。
アメド これが?
ヤオモテ だから。これを片付けておけって。
アメド なるほど。そういうことか。
ヤオモテ そうそう。そういうことなの。
アメド よ~くわかった。
ヤオモテ 分かってくれて嬉しいです。
アメド お前が私の敵だと言うことがね。
ヤオモテ へ?
アメド そこまでしてとぼけるってことは、あれか? 優越感を持っているわけだ。この私に対して。
ヤオモテ え。なんでそうなるの?
アメド そうやって、大好きな後輩にお弁当をもらうことも無いかわいそうな先輩、を鼻で笑っているわけだ。
ヤオモテ いや、だから本当にバナナなんですって。これ。コレの話をしてたの。
アメド 嘘をつけ。
ヤオモテ 嘘じゃないって。
アメド だまそうとしても無駄。だって、これはさっきの男が持ってた物だろ。私はしっかり見てたんだよ!
ヤオモテ それはあいつがほしがったから。
アメド なんでバナナなんてほしがるんだよ!
ヤオモテ バナナじゃない。バナナの皮!
アメド 余計意味分からないだろ!
ヤオモテ 私が知るわけないでしょ! ちゃんと金だって払ったんだから。ほら。

     と、ポケットからヤオモテは金を見せる。

アメド たかがバナナの皮にそんなに金を払う奴がいてたまるか! 
ヤオモテ たかがバナナだと! バナナはね紀元前5000年頃にはもう栽培されていた歴史ある食べものなのよ!
アメド 私、バナナ苦手だし。

     と、ここら辺でノロイがやってくる。
     真っ白な格好。脇差を持っている。

ヤオモテ 何故だ。なぜバナナを嫌う。
アメド だって形が……。
ヤオモテ 形がなによ。
アメド 形がほら、
ヤオモテ だから形がなに。
アメド 似てるじゃん。
ヤオモテ なんに?
アメド アレに。
ヤオモテ アレって何ですか!? アレって。
アメド 言わすなバカ!(と、ヤオモテを殴る)
ヤオモテ (動じず)そんなわけ分からない理由でバナナ嫌う奴にはバナナ突っ込むぞ!

     思わずノロイは脇差を落とす。
     ヤオモテとアメドの視線がノロイに注がれる。

12

ノロイ いや、ごめんなさい。邪魔をする気はなかったの。うん。いや、だが、その、真昼間に、女同士でする話題ではないと思われるのだけど。いや、まぁ、一個人としての意見だけどね。
ヤオモテ (冷静に戻り)すいません。驚かせたようで。
ノロイ いやいや。ただちょっとばっかり衝撃だっただけなので。お気になさらず。
ヤオモテ 申し訳ありません。(気を取り直し、ノロイを見て)えっと、その格好は?
ノロイ あたしの今現在の魂を表現した格好だと思ってください。
ヤオモテ 魂?
ノロイ 魂です。
アメド 披露宴に、白い格好なんてご法度だけどね。
ヤオモテ え、そうなんですか?
アメド 当たり前でしょ。花嫁と色被るじゃん。常識よ。
ヤオモテ ってことは、この人は?
アメド (ブラックリストを見せ)こっちの人なんじゃない?
ヤオモテ (ノロイに)あの、失礼ですが、お名前は?
ノロイ ノロイ、マスヨといいます。
アメド (ブラックリストを見て)ビンゴ。
ヤオモテ あの、申し訳ありませんが、お客様は……
ノロイ 分かってます! 入れないことは分かっているんです!
アメド だったら早く(帰れ)
ノロイ ただ、少しだけ語らせてください。
アメド 断る。
ノロイ お願いします!
ヤオモテ 語るって何を?
アメド おい!
ノロイ 私、いつもは女のくせに武士の格好をして仕事をしているんです!
ヤオモテ はい?
アメド 武士?
ノロイ 外国の方用のツアーガイドなんです。
ヤオモテ ああ。なるほど。
アメド え、それで納得できるの?
ノロイ 彼と知り合ったのも、空港で外国のお客様を待っているときでした。スーツケースを片手に颯爽と現れた彼に思わず見とれたあたしは避けるまもなく、「ああ」と、倒れ。そこへ彼が手を伸ばしたのです。(顔だけは笑顔のままで)「どこに目をつけてるんだよ。バカ」そして、迷惑をかけた御礼にと食事に誘ったあたしに彼は言ってくれました。(まるで誘いを受けたかのように)「鏡で顔を見たことがありますか?」嬉しかった。
ヤオモテ ちょっと待って。
ノロイ はい?
アメド それ、断られてるじゃん。
ノロイ 大丈夫です。そのあと無理やり食事に誘いましたから。
ヤオモテ なるほど。じゃあ、お帰りいただけますか?
ノロイ 彼の愛は強く、そして熱かった。まるで風のようだった。出会ってすぐ私たちは恋に落ちた。私が、「別れたら刺すから」と言うと彼は、「それ以上近づいたら警察を呼ぶぞ」って。スリリングな恋だった。追いかけっこもしたわ。砂浜じゃないけど。追いかけるのは私。逃げるのは彼。彼ったらいつも全力疾走。絶対手を抜いたりしない。シャイだから。それに負けず嫌いで、つかまりそうになると決まってタクシーを呼ぶの。だから私は慌てて彼のマンションに先回りする。そして、忍び足で帰ってきた彼にこうやって、「だーれだ」彼の悲鳴ってすごくキュートだった。そんな、愛し合った関係だったのに……

     ノロイがひざから崩れる。

アメド よし。帰ってもらおう。
ヤオモテ はい。
ノロイ 待って! せめてここから、祝いの言葉を投げさせてもらえない?
ヤオモテ はぁ。(どうしようかとアメドを見る)
アメド (引ききっている)いいんじゃない? それくらいなら。
ヤオモテ たぶん、新郎の方には聞こえないと思いますが。
ノロイ それでもいいわ。じゃあ。

     と、ノロイは一度立ち、正座しなおす。

ノロイ カケル。……新婦の名はなんというの?
ヤオモテ えっと……(と、調べ)スミレ様です。
ノロイ (うなずき)カケル。スミレというあばずれと今日結ばれる男。あたしとのことはスッカリとその頭から消えているでしょうね。あなたは鳥のような人だったもの。自由に空を飛ぶのがお似合だった。だから、きっと他の女の元へ三歩も歩いたそのときから、あたしのことなぞすっかり忘れてしまったに違いないわね。だから、あたしは長々と恨みの言葉をかけるつもりも、二人のこれからを罵倒するつもりも無い。心から祝福するわ。

     と、言いながらナイフ(脇差)を取り出す。

ヤオモテ&アメド え?
ノロイ この私の血によってね!
アメド ちょっと! 何する気!(と、腕を止める)
ノロイ あたしの血で濡れた会場で、永遠の愛を誓えばいいさ! それがあたしの祝福よ!
アメド それ完全に復讐になってるから。
ノロイ 離して! あんたにあたしの気持ちが分かってたまるか!
アメド 分かるか!
ノロイ 邪魔をするならあんたも道連れにしてやる!
アメド 誰が! ほら、ぼけっとしてないで手伝え!
ヤオモテ あ、ああ。えっと。

     と、ヤオモテは思わずそばにあったバナナの皮を掴み、

ヤオモテ うりゃ!

     と、バナナの皮ではたく。
     ノロイの手からナイフが落ちる。

ノロイ あぁ!
アメド 捨てて!
ヤオモテ お、おう!

     と、ヤオモテはナイフを会場側の袖に投げる。

ノロイ しまった。
アメド さあ、観念しなさい!
ヤオモテ バナナのにおい嗅がすわよ。

     と、「グサ」って音がする。

ノロイ&アメド&ヤオモテ え?
アメド ……今、グサっていった?
ヤオモテ 刺さった?
アメド (首を振る)

     三人が恐る恐るナイフが飛んだ方向を見る。

13

     ナイフが頭に刺さったイワイがやってくる。

イワイ まさかねぇ。ナイフが刺さるとは思わなかった。
ヤオモテ あちゃあ。
アメド イワイくん! 大丈夫!?
イワイ ええ。大丈夫ですよ。ってそんなわけないでしょ! だれですか? これ投げたの?

     ノロイとアメドがヤオモテを見る。
     ヤオモテが手を上げる。

イワイ 小学校で習いませんでした? 刃を人に向けちゃいけませんって。
ヤオモテ 習いました。
イワイ なぜ投げる?
ヤオモテ 勢い?
イワイ フフフ。勢いかぁ。
アメド イワイ君!?

     と、イワイが倒れる。
     アメドより早くノロイが駆け寄る。

ノロイ ナイフ!

     と、言いながらナイフを抜こうとする。

イワイ 痛い痛い! なんで抜こうとするんですか!
ノロイ あたしはこれで腹を切る途中だったのよ。って、なんで生きてるの?
イワイ 男の子ですから。
ヤオモテ 関係ないと思う。
アメド さすがイワイくん。
イワイ それで? コレは一体どういう状況ですか?
ヤオモテ いや、イワイさん。頭にナイフ刺した状態でそんなこと言われても。
イワイ そうか。

     と、イワイはナイフを抜いて。

イワイ それで?
アメド イワイくん! 駄目よちゃんと止血しないと! 
イワイ 血なんか出てないからいいですよ。
アメド 出てないとかそういう問題じゃないでしょ。あ、そうだ。

     と、アメドはガムをぺってやって、それをイワイの頭に貼り付ける。
     (もちろん実際にはガムではやりませんが)

アメド よし。
ヤオモテ いや、よしじゃないでしょ。
イワイ うん? ちょうどいいかも。
ヤオモテ うっそぉ!?
アメド よかったぁコメディで。
ヤオモテ そういう問題か?
イワイ で?

     と、イワイの声色から、イワイが怒っていることがわかる。

ヤオモテ で?
イワイ なんですかこれ?
ヤオモテ えっと。(と、アメドを見る)
アメド それは……(と、ノロイを見る)
ノロイ ……あたし?
イワイ ほう? まぁ、とりあえず、(ナイフをノロイに見せ)コレは何ですか?
ノロイ ナイフです。
イワイ そんなことは分かってるんです。なんでこんなことしてるんだって聞いてるんですよ。
ノロイ えーっと、それはですね。
イワイ 刺すよ?
ノロイ カケルが他の女と結婚するのを邪魔しようとしました!
イワイ 邪魔するな。
ノロイ でも、あたしとカケルは。
イワイ 邪魔、するな。
ノロイ ハイ。
イワイ よし、行け。
ノロイ 入らしてはくれないよねぇ。なんて、はは。
イワイ 行け。
ノロイ はい!

     ノロイは羽織を引っつかむと逃げるように去っていく。

14

     途端、イワイは気が抜けたように元のキャラに戻る。

イワイ ああ。びっくりした。びっくりしましたねぇ。先輩。
アメド あ、はい!
イワイ いや。そんな硬くならなくても。
アメド はい。すいません。
イワイ ヤオモテさんも。
ヤオモテ すいません。お手数かけちゃって。
イワイ いいんですよ、初めからそれほど期待してないですから。
ヤオモテ はい。
イワイ ただ、もうあと少しで披露宴始まりますから。本来のお客様も訪れると思いますし、もう少し真剣にお願いしますね。
ヤオモテ はい。
イワイ (ナイフを見せ)これ、片付けておきますから。
ヤオモテ よろしくお願いします。
イワイ じゃあ、後はよろしく。
アメド あの!
イワイ え?
アメド このまま流した方がいいんだろうけど。いや、本当は今更って感じなのかもしれないけど。聞いてもいい?
イワイ ええ。なんですか?
アメド なんで、頭刺されても生きてるの?
ヤオモテ あんたさっきコメディだからって!
アメド 言ったけど。言ったけど! でも現実ってそんなうまい話ないでしょ。気が動転して痛み忘れてただけとか、イヤだもん私。
ヤオモテ 嫌だもんって。
イワイ いいんですよ。ヤオモテさん。(急にシリアスに)どうやら、話さなきゃならないときがきたようですね。
アメド イワイくん?
イワイ 正直、あなたにだけは知られたくなかった。だから、言おうと思いながら先延ばしにしていたんです。あなたは、僕の憧れの先輩だから。
アメド なに? やめてよ。「実は僕はこの世のものではないんです」とか。
イワイ いえ。実は、俺。……サイボーグなんです。
ヤオモテ&アメド はあ!?
イワイ 高校卒業した後、機械の体にあこがれまして。趣味で始めていたつもりがいつの間にか全身。
ヤオモテ いやいや、趣味でやらないから。
イワイ 足の親指を機械化することからはじめました。
アメド そんな……だから刺されても?
イワイ ええ。現在、頭脳にあたる部分は違う場所に保管していて、常にデータを更新しているんです。だから、実際のところ、ここの中身はほとんど空なんですよ。まぁ、頭なんて要らないって思ったんですけどね。足も、ホバーなんかにしてもらった方が早そうだし。いわゆる人らしくあるための、飾りです。
アメド そんな……
イワイ 嫌わないでくれとは言いません。分かってくれとも。ただ……いや、これ以上語るとなんでも陳腐に聞こえてしまうな。俺は仕事に戻ります。これ(ナイフ)持って行きますね。

15

ヤオモテ あ、ついでにこのバナナも……まぁ、いいか。

     と、ヤオモテは気にせず受付の椅子に座るとバナナをさりげなく飾りつける。

ヤオモテ よし。(と、アメドに)大丈夫ですか?
アメド ショック。
ヤオモテ まぁ、そりゃあ。ちょっと信じられない話ですよね。私もサイボーグの人なんて始めて見たし。
アメド イワイくんは最近には珍しい暖かくって人間味のある人だと思ってたのに。
ヤオモテ 人間から遠いところにいたわけですね。
アメド 理想の男の子だったのに。
ヤオモテ 後愁傷様です。

     アメドは椅子に座ってため息。
     と、電話が鳴る。アメドを気にしながら。
 
ヤオモテ もしもし? うん。まだ抜けられない。……ごめん。え? さすがに今抜けるのは無理。仮病なんて使えないって。わがままじゃなくて、仕事なんだよ? ……そりゃ、期待させたのは悪かったけど。うん。ごめん。ごめん。またかける。

     ヤオモテが電話を切る

アメド 彼氏?
ヤオモテ まぁ、そうですね。
アメド 年上? 年下?
ヤオモテ 同い年です。
アメド 人間?
ヤオモテ 人間ですよ! 当たり前でしょう! ……あ、まぁ、そうですね。人と言い切れない時もありますよね。
アメド いいよ。気を使わなくて。
ヤオモテ すいません。……今日、会う約束だったんですけど、バイト入れてたこと忘れてて。本当は適当に途中で抜けるつもりだったんです。首になってもいいかなぁって勢いで。でも、ずるずると。
アメド 大変ね。付き合っているのも。
ヤオモテ まぁ。そうですね。
アメド 私には彼氏なんていないけどね。
ヤオモテ イワイさん一筋だったわけですか?
アメド まぁね。
ヤオモテ いいなぁ。なんかそういうの。
アメド どうかしらね。

     アメドは立って外を見る。
     ヤオモテは受付の台にある結婚式のパンフ? を見ている。
     なんとなく手持ちぶさたな二人。
     ヤオモテはふと、リストを見ている。
     そして、アメドは窓から外を見ている。

ヤオモテ (独り言)結婚か。いいなぁ。
アメド 何か言った?
ヤオモテ 何でもありません。
アメド そう。(独り言)あ、ここからも銀杏の木、見えるのね。
ヤオモテ え?
アメド なんでもない。

     アメドは外を見たまま、
     ふと胸ポケットに入れていたイチョウの葉を取り出す。
     ヤオモテは結婚について考えている。

アメド (外を見て)本当素敵よね。
ヤオモテ (結婚式のことだと思って)ですよね。
アメド 若々しくて(と、イチョウの葉を見る)
ヤオモテ そうですね。まだ見てないですけど。
アメド え? 見てないの?
ヤオモテ はい。
アメド あんなに目立つのに。(と、窓の外を見る)
ヤオモテ そうなんですか?(と、式場を見る)
アメド 綺麗だったわよ。近くで見るとまた一段と。
ヤオモテ でしょうね。
アメド 黄金色(こがねいろ)に輝いていて。
ヤオモテ 黄金色か……黄金色!?
アメド ええ、まっ黄色。
ヤオモテ(独り言)どんな花嫁衣装だよ。
アメド (落ち葉が)蝶みたいにひらひらって。
ヤオモテ (踊っている姿を想像して)へえ。ずいぶん陽気なんですね。
アメド あんまり綺麗だったから一枚もいじゃった。(と、イチョウの葉をひらひら。アメドには見えない)
ヤオモテ 駄目ですよもいじゃ!
アメド え?だって綺麗だったから。
ヤオモテ せっかくの衣装なんだから。
アメド 衣装か。そうよね。あれも衣装よね。ある意味。
ヤオモテ ある意味もなにも。
アメド しかたないじゃない綺麗だったんだから。でもちょっと臭かったわよね。
ヤオモテ 臭いんですか?
アメド 臭いは気にならない方?
ヤオモテ いや、見てないですから。
アメド そう。ちゃんとかいでご覧なさい?
ヤオモテ あ、はい。
アメド イワイくんも、好きだけど、匂いが苦手ってよく言ってたなぁ。
ヤオモテ そうなんですか。

     と、また微妙な間。

アメド よし。元気出すか!
ヤオモテ なんですかいきなり。
アメド 関係ないよねサイボーグでもさ。悩んでいてもバカみたいだし。
ヤオモテ いや、関係ないことは無いと思いますけど。
アメド 関係ないの! 人が元気出そうとしているんだから茶化すな!
ヤオモテ ですよね。
アメド というわけで、トイレ。
ヤオモテ どういうわけですか。
アメド 嫌な気持ち全部流してくる。では。
ヤオモテ アメドさん!

     アメドが去る。

ヤオモテ 結婚か……(携帯を見て)どうするのかねぇ。(と、式場を見て)臭いのか……

16
イワイがやって来る。

イワイ あれ? アメドさんは?
ヤオモテ トイレです。
イワイ ああ。やっぱり、ショックだったか。
ヤオモテ イワイさん。その、本当にサイボーグなんですか?
イワイ そうだよ? 首はずす?
ヤオモテ しなくていいです! いや、あんまり見ないから。サイボーグの方って。
イワイ まぁねぇ。燃費悪いから。
ヤオモテ 悪いんですか?
イワイ 悪いよ。時々自分で充電しないと止まっちゃうんだから。メンテナンスしっかりしないと、すぐあちこちガタが来るし。
ヤオモテ へぇ。
イワイ まぁ、じゃあアメドさんには、なるべく優しくしてあげてくれる? 一応俺の先輩だから。
ヤオモテ それだけですか?
イワイ それだけって?
ヤオモテ ただの先輩、なのかなぁって。
イワイ サイボーグだよ俺は。
ヤオモテ 関係ないって言ってましたよ。アメドさん。
イワイ 本当に?
ヤオモテ ええ。
イワイ そ、そう。(嬉しそう)
ヤオモテ あ、そうだ、あの、イワイさん。
イワイ なに?
ヤオモテ 花嫁って匂うんですか?
イワイ え?なんで?
ヤオモテ アメドさんが。側でかいだら分かるって。
イワイ 俺最近、嗅覚機能不調だからな……ちょっとスタッフにも聞いてみる。ほんとうなら大変だからね。
ヤオモテ はい。

     イワイ去る

ヤオモテ なんか、いい感じじゃん二人とも。それに比べて私は……

     ヤオモテはがっくりする。

17

アメドが両手に飲み物を持ってやってくる。
一つはどうやらヤオモテへと思ったらしい。
飲み物は炭酸系とおしるこ。

アメド どしたの。落ち込んじゃって
ヤオモテ なんでもないです。早かったですね。
アメド うん。ついでに飲み物買って来た。飲む?
ヤオモテ いただきます。って炭酸か。
アメド 炭酸苦手?
ヤオモテ ちょっと。
アメド と思っておしるこも買っておいた。
ヤオモテ 余計いらないです。
アメド おいしいよ?
ヤオモテ そういう問題じゃない……。

     オオタとコワシマがやってくる。
     二人の視線がやって来た二人に留まる。
     普通の格好のオオタ。コワシマはバナナを束で持っている。

アメド まだ来るか。
ヤオモテ (二人に)えっと、また来たんですか?
オオタ 帰ろうと思ったらこの人に会って。
コワシマ 一人では駄目でも、二人なら大丈夫かなと。
ヤオモテ あんたらねぇ! それどこのバナナよ!
アメド 突っ込むとこそこかよ。
コワシマ 買った。
ヤオモテ 買ったって……それはまぎれまなく、アポ山スーパー800じゃないの。
アメド 分かるのか。てかなにその変な名前。
ヤオモテ 何が変よ! アポ山スーパー800は、フィリピン・ミンダナオ島にあるフィリピンの最高峰アポ山、標高3144mの中腹約800メートルの地点で栽培された高原バナナのことよ。
アメド あ、そのまんまのネーミングなのね。でも、所詮バナナでしょ?
ヤオモテ 一本700円位する。
アメド たかっ。バナナのくせに!
ヤオモテ だからバナナを差別するな!
オオタ 入るのにバナナがいるなら、せっかくだから高いのをと思って。
ヤオモテ でも、この辺では売ってないはずよ。
コワシマ ヘリで運んでもらったからな。
ヤオモテ ありえない買い方をするな! これだから無駄に金持ってるやつは……私にも食わせてくれないかな。
アメド おい。
オオタ どうする?
コワシマ 交換条件と行こうじゃないか。
ヤオモテ 交換条件?
コワシマ お前はバナナを食う。
オオタ 僕達は中に入る。
アメド アホか。
ヤオモテ 乗った!
アメド 乗るな!
オオタ 本当に?
ヤオモテ もちろん。
コワシマ 本当だな?
ヤオモテ ええ。ほら、バナナを置いて。

     コワシマが真剣な顔でバナナを置く。
     そして、ヤオモテはバナナの元へ。
     オオタとコワシマは式場の入り口へと。

アメド させるか!

     と、アメドの言葉と共にスローモーション。
     アメドが走りよってオオタに足を引っ掛ける。
     オオタはコワシマを巻き込んでこける。
     ヤオモテはすばやく皮をむく。

オオタ&コワシマ ギャン。
ヤオモテ うん。うまい。
コワシマ くそぉ。だましたなぁ~。
ヤオモテ だましたつもりはないわよ。止められたのは私のせいじゃないし。
アメド (オオタとコワシマに)もう何度来たところで入れないのは分かっただろう? 帰りなさい。
コワシマ おぼえてろ! 俺の愛はこんなことには負けないからな!
オオタ 僕らの愛は不滅なんだよ!

     と、オオタとコワシマが去る。

アメド 愛は不滅か。
ヤオモテ 一方的な愛ですけどね。
アメド おい。
ヤオモテ はい?
アメド なぜ通した?
ヤオモテ え? だって、バナナが。
アメド バナナがじゃないでしょ!
ヤオモテ だって!
アメド だってじゃない! だいたいね、あんたイワイくんのお弁当食べといて、またさらにバナナってふざけすぎでしょ!
ヤオモテ だからそれは違うって言ったじゃないですか!
アメド 嘘つくな!
ヤオモテ 嘘じゃないんです!
アメド 嘘だ!
ヤオモテ 嘘じゃない!
アメド 証拠は!?
ヤオモテ 証拠? ほら!(と、バナナの皮。今は2本)
アメド だから、いい加減にバナナでふざけるのは辞めろ!

     と、女同士の対決が始まる。
     そこへ、イワイがやってくる。

18

イワイ ちょっと……何やってるんですか? 二人とも。
アメド イワイくん!?
イワイ 仲いいのは分かりますけど。
ヤオモテ 良くないよ。全然良くない。
アメド これはね。なんていうか。その。
イワイ まじめにやってくださいよ。頼んだじゃないですか。
アメド そうなんだけどさ。なんていうか。
イワイ アメドさんを信用して頼んだんですから。
アメド わかってるのよ。だけどね。
イワイ だけど?
アメド だけど仕方ないじゃないのよ! 気になるようなことばっかりしてさ! それで気にしないでくださいって。そんなの無理でしょ。無理よ。私には無理だもん! そんなさ、はいはいって大人な女演じてられないわよ。だってそこまで大人じゃないもん!
ヤオモテ うわぁ。逆切れだ。
イワイ アメドさん?
アメド イワイくん!
イワイ はい!
アメド あたしのこと、どう思ってるの?
イワイ どうって。
アメド 可愛いとか、きれいとか、そういうんじゃないからね。抱いている感情を聞いてるの。
ヤオモテ 可愛いとかきれいって思われている自信はあるんだ。
アメド 黙ってなさい!
ヤオモテ はい。
イワイ あの、でも、俺はサイボーグですよ?
アメド 関係ないわよそんなの。
イワイ 人間じゃないんですよ?
アメド 外側が作られたってだけでしょ。そんなの禿が被っているカツラみたいなもんじゃない。
イワイ カツラと同じにされてもなぁ。
アメド どうなの? 答えなさい!
イワイ えっと。……俺は、その……(と、電話が鳴る)
アメド ……出れば?
イワイ はい。はい。イワイです。え? 新婦が? はい。はい。はい。……わかりました。(電話を切って)大変だ。
アメド どうしたの?
イワイ スタッフが匂いについて話しているのを新婦が聞いちゃったらしいんです。デリケートな問題だから気をつけてっていったのに。
アメド 匂いって?
イワイ だから、新婦の匂いですよ。俺はわからなかったけど。本当だったら困ると思ってスタッフに聞いたんですよ。そこから、きっと広まったんですね。
アメド なんのこと?
イワイ なんのことって。ヤオモテさんに話したんじゃないんですか?
ヤオモテ 言っていたじゃないですか。綺麗だけど匂うって。さっき。
アメド 銀杏(いちょう)がでしょ?
ヤオモテ え?
アメド だから、イチョウ。ほら、銀杏(ぎんなん)落ちててさ。臭ってたじゃない。それのことでしょ?
ヤオモテ え?
イワイ え? じゃあ?
アメド してないわよ。花嫁の話なんて。ほら、だって、イチョウでしょ? 黄金色で綺麗だったって。そう話したじゃない。
ヤオモテ だから、衣装がですよね?
アメド イチョウのね。木にとっては衣装ともいえるなぁって言ったでしょ?
ヤオモテ ……おっとぉ。
イワイ すると、どういうことなんですか?
ヤオモテ えっとですね。
アメド え? もしかして、花嫁さんに言っちゃったの? 臭いって? それは傷つくよ。
イワイ 大変だ。

     イワイ走り出す。

アメド イワイくん! 話がまだ途中!
イワイ じゃあ、一緒に来てください。新婦の方をフォローしないと。
アメド そのかわり、ちゃんと聞かせてよ。
イワイ ……本当に、サイボーグでも良いんですね?
アメド うちのお父さんカツラだったけど、あたし大好きだったから。
イワイ わかりました。事が終わったら必ず。

     アメドと、イワイが去る。

ヤオモテ ちょっと! 勝手に盛り上がっちゃわないでよ! 何だ今日は。めちゃくちゃじゃんか。

     と、携帯が鳴る。
     ヤオモテは電話に出る。

ヤオモテ もしもし? あたし。うん。仕事? 終わりそうに無いわ。知らないよ。なに? 文句あるの? あんた、あたしに惚れてるんでしょ? 我慢しなさいよ。……え? なに? 何でそこで笑うかなぁ。うん。ありがと。じゃあ、また終わったら電話する。じゃあね。……ばか。分かってるよ。うん。私も。じゃあね。

     携帯を切り。ちょっと照れて。

ヤオモテ まぁ、恋愛てやつはいいもんだよねってことで。

     と、オオタとノロイコワシマがやってくる。

ヤオモテ 一概にいいとは言えなかった。(三人に)よくまた来られたね!?
コワシマ 一人の愛は壊れても、
オオタ&コワシマ&ノロイ 三人いればなかなか壊れない!
ヤオモテ いい加減懲りろ!

     ヤオモテと三人の掛け合いが次第に無声演技に。
     やがてやってくるイワイとアメド。
     物語は、騒がしいままの雰囲気のまま溶暗。


あとがき
誰かが誰かを好きだって気持ちはとても素敵な感情だけれど、
その好きだって気持ちが人に迷惑をかけることもありますよねってお話。
……なぜ、それとバナナを組み合わせたのか。
そこは、もう作者の性格のゆがみ具合だと思います。

子供の頃から、果物と言えばバナナかリンゴでした。
理由はよくわかりません。多分親が好きな果物がそれだったのでしょう。
そのため、今でもほぼ毎日バナナを食べています。
それでついつい物語にも組み込んでしまったのかもしれません。


最後まで読んでいただきありがとうございました。