まゆつばもの 楽静作

季節 冬休み
舞台 教室(1-5 化学担任)
時間 午後0:00〜ってところ。
服装 学生服

その他準備する物……机(×4) 椅子(×4) 占い用グッズ

登場人物

吉野(女)
可奈(女)
荒川(女)
夏目(女)
工藤(男)



音響→(始まりっぽい曲。)
暗転→CI(白。しかし少し薄暗い)

○学校 事務室(昼)
  人通りはまったく無い

可南 上手から登場
    きょろきょろと辺りを見ながら、
    下手側観客席側にむかって話し掛ける。


可南「すいません。栄中学校の、吉野可南ですけど……
   ……あの、誰かいませんか?」


可南 言った後で再び周りを見渡し、


可南「おかしいなぁ。今日見学しますって連絡しておいたはずなのに……
   ……でも、なんか入っちゃっても大丈夫そう……かな? 
   ……よし♪」


可南 鞄から、上履きを出して履き替える
    下手へ退場

照明CI→蛍光色(明るめ)事務室との違いが分かるように

音響FI

○教室(昼)
 ワックスがけまでしたために、教室は綺麗になっている。

吉野&荒川 一度教室に入ってくる。
        当然のように机も椅子もない教室に腹を立てながらも、
        お互いに元気を出しあって、机と椅子を取りに行く

吉野&荒川 机を持ってくる

音響FO

吉野「机おもーーい」

吉野 机を置く

荒川「どう、かん!」


荒川 机を置く

吉野「しっかし、なんで教室当番って掃除の後に机と椅子戻さないんだろうねぇ」

荒川「ワックスがけあったからでしょ」

吉野「これってさ、見栄え良くなるかもしれないけど、すべるよね」

荒川「バカ! よしちゃん、今の時期、すべるって言っちゃいけません」

吉野「そうだった。あたしらも今回滑ったら……」

荒川「そのときはもう一回一年なんだよ」

吉野「やだやだ。すべるは禁句ね」


 机を真中に二個並べると、向かい合って、
 鞄からノートと鉛筆を取り出し、一心不乱に勉強を始める。
 音響→チャイム


吉野「うそ! もうチャイム鳴ったの?」

荒川「(ノートを閉じて)来年もまたこの教室で勉強するのかなぁ」

吉野「ちょっと、まだ諦めるのは早いわよ。まだ時間あるんだから」

荒川「いいの、ほっといて。もう無理だって」

吉野「なに言ってるのよ! 二年になったら
   いっしょに部活で一年をしごこうねっていったじゃない」

荒川「いいわよ、来年になったら、吉ちゃんにしごかれるから」

吉野「そんな簡単に諦めないでよ」

荒川「だって、無理なものは無理だもの。しかたないでしょぉ」

吉野「大丈夫。私も全然だめだから」

荒川「またまたぁ。私に自信つけさそうとしているんでしょ」

吉野「そんなこと無いって」

荒川「……ほんとに?」

吉野「うん。もう、全然だめ」

荒川「……酸化剤とは?」

吉野「え?……」

荒川「答え、相手物質を酸化し、自身は還元される物質。
   ……酸化還元反応により、
   化学エネルギーを電気エネルギーに変える装置の事をなんと言うか」

吉野「そ、装置? そんなのやったっけ?」

荒川「答え、化学電池。『貸そうかな、まああてにすな、酷すぎる借金』これは何の覚え方?」

吉野「分かる分けないって!」

荒川「答え、イオン化傾向」

吉野「あんた、なんでそんなに知ってるの? 期末、あたしと大して変わらなかったくせに」

荒川「私21点、吉ちゃん19点だったねぇ」

吉野「そうだったけど……だから、なんでそんな分かるの?」

荒川「トラァイよ。 Try! Try!」

吉野「Try?」

荒川「Mother Mを取ったら?」

吉野「Other 他人です。……あ!」

荒川「家に帰ったらいたのよ、奴が」

吉野「家庭教師か!!」

荒川「お父様と、お母様のイキな計らいで」

吉野「あらまぁ」

荒川「(父)『よーししのぶ。この辺で先生を見返してやるんだ』

   (自分「はいふぁざぁ」

   (母)『そうよ。しのぶちゃんはやれば出来るんですもの』

   (自分)「はい。まぁざぁ」

   (母)『目指すは学年トップよ。オーホッホッホ』」

吉野「あんたん家って、そんなんだったっけ?」

荒川「そう。そんなわけで、私、今日限り補習組みからは、おさらばさせていただきます」

吉野「うそぉ、じゃあさっきまでの台詞は何だったのよ」

荒川「そんなの、演技よ、え、ん、ぎ。なんせ演劇部だから」

吉野「まじでぇ? ちょっと、私一人にしないでよ」

荒川「そんな事言ってもねぇ、吉ちゃん全然分かってないみたいだしぃ」

吉野「そんな事ないって、変な問題ばっか出すからだよ。私ちゃんとやってるもん」

荒川「みして」

吉野「はい」



 吉野、荒川にノートを渡す。



 荒川、一瞬見てから鼻で笑って、ノートを投げる。



荒川「だめ。全然だめ」

吉野「ひどい」

荒川「だって、吉ちゃんやってるところ一学期の範囲なんだもん」

吉野「仕方ないじゃん。全然分からないんだから」

荒川「しょうがないなぁ……教えてあげるよ。ほら、座って」



 吉野、席に座ろうとする



荒川「そうじゃないでしょ吉ちゃん。ほら、ここ、こーこ」



 荒川、言いながら、自分の膝をさす。



吉野「なんでよ」

荒川「いいからほら、早く座りなさい」



 吉野を無理矢理膝に座らせる。と、荒川、吉野の肩を揉みはじめる。



荒川「お客さん、コってますね」

吉野「ちょっと、荒川、止めてって」



 二人、じゃれあってるところに、夏目下手から登場。机を重そうに

 教室のところまで持ってくるが、二人の姿を見て、思わず机を落とす。



夏目「ごめんなさい。お邪魔だったかしら?」

吉野「助けてよ夏目さん、荒川が襲ってくる」

荒川「肩もんであげただけじゃーん」

吉野「あれ、普通の肩もみじゃない」

荒川「少しは喜んでたくせに」

吉野「喜んでねーよバッカ!(マジキレ)」

夏目「……二人とも仲いいのね。さて。私、勉強しないと」



夏目 言いながら、机を二人とは少し離して座る。
    かばんから一組のトランプ(占い用)を取り出し、きり始める。



吉野「ほら、夏目さんに誤解されたじゃーん」

荒川「別に、なーさんなら気にしないって」

吉野「なんであんたそんなに夏目さんにしたしげなのよ」

荒川「だって、友達だから。ねー、なーさん」


夏目 荒川の言葉を無視して、トランプを机の上に並べる。


吉野「無視されてんじゃない」

荒川「んなことねーよ。ねー なーさん、なーさん」

夏目「……え! え、なに?」

荒川「あ、ごめん。ちょっと呼んでみただけ。……ほら」

吉野「ふーん。……でも、夏目さんって結構変わってない?」

荒川「そうっ? ねぇ、なーさん今何してるの?」

夏目「占い」

荒川「占いだってさ」

吉野「へぇ、夏目さんって占いできるんだ」

夏目「うん。かじった程度だけどね」

荒川「でも、なに占ってるの?」

夏目「(途端真剣な顔で)テストの結果」

吉野「テストの……」

荒川「結果……」

二人 顔を見合わせ、夏目に駆け寄る。


吉野「ねえ、夏目さん。」

荒川「私たちも占ってくんないかなぁ」

夏目「…………あ、なんか急に目眩が(わざとらしい)」

吉野「えぇ!?」

荒川「だ、大丈夫?」

夏目「(荒川の言葉に頷きながら) …………ごめんなさい。占いってパワー使うでしょ?
   ……だから、今すぐは無理」


吉野&荒川
    がっかりして席に戻る。



吉野「なんだ」

荒川「仕方ないよ。勉強しよ」

吉野「そだね」


 少し諦めるように言って勉強を始める二人。

夏目 笑って、また嬉しそうにカードをきり始める。

工藤 下手より登場。


吉野「あ、工藤だ」(嫌そう)

荒川「おはようございます工藤さん」(さらに嫌そう)

吉野「ウッス」

荒川「ウッス」


工藤 無言で二人を一瞥すると、入り口付近に机をおき、席につく。


吉野「あ、ひど、無視された」

荒川「別に、工藤になんか挨拶して欲しくもないけど」

吉野「だからってこっちが挨拶してるのにひどくないですか荒川さーん」

荒川「仕方ないよ吉野さーん工藤だから(妙に大声)」

吉野「そっかぁ。仕方ないかぁ。なんせ、工藤だからねぇ〜」


工藤 ノートと鉛筆を取り出し、勉強を始める。

吉野&荒川
    工藤が突っかかってこないので面白くない


吉野「そういえばさ、工藤ってば、補習始まってからずっと喋って無くない?」

荒川「なんだかんだ言って、一週間ぐらい喋ってないよね。
    ……まあ、誰も工藤となんか話したくないだろうけど」

吉野「まぁ工藤だもんねぇ」

荒川「ていうかさ、男子って結構化学いいほうなのにね」

吉野「ああ、最高点はいつも男子だしね」

荒川「てか、この補修組で男工藤だけじゃん」

吉野「男じゃないんじゃないの」

荒川「カマっぽいしね」

吉野「言いすぎだよ」

荒川&吉野 大きな声で笑っている


工藤 机を思い切り叩いて立ち上がる。
    一瞬、教室内の誰もが工藤を見る。
    と、工藤はかばんの中から『うるさい』と書かれた紙を出し、見せ付け、また座る。


荒川「……何、今の行動」

吉野「あれじゃない、よく、生徒がうるさい時に、黒板に『静かにしなさい』って書く先生みたいな」

荒川「だからって、うるさい人間がいるたびにあれ広げるわけ? 口で言えばいいのに」

吉野「しょうがないよ工藤だし」

荒川「しょうがないか、工藤だし」

吉野「どうせだから全部紙で書けばいいのにね」

荒川「おはようございますから、おやすみなさいまで?」

吉野「そうそう、呼ばれたら『はい』って書かれた紙見せたり」

吉野&荒川
    お互いにジョーク言い合って笑う


工藤「てめえら、いい加減にしろよ!」

吉野「(笑いから我に帰って)ああ、ごめん。何だ。喋れたんだ」

工藤「そんなの、当たり前だろ……しまったぁ!!」


工藤 床に頭を抱えてうずくまる


荒川「どうしちゃったの?」

吉野「さぁ?」

工藤「せっかく一週間願かけて、喋らないようにしてたのに……」

吉野「願かけ!」

荒川「喋らないようにしてたわけ」

吉野「バカじゃん工藤!」

工藤「うっせぇな、こっちは真剣なんだよ! 
   合格点とれるように必死で神様にお願いしてたんだ!」

荒川「神様って顔じゃないって〜」

吉野「てより、今時願掛けって所につっこもうよ〜」


吉野 荒川 笑う


荒川「腹痛いよ……なーさん、なーさんも、なんか言ってあげなよ」

夏目「……まあ、人は、馬鹿な事を考えて、大人になっていくものだから」

吉野「ああ、仕方ないよね。坊やだからさ(笑)」

荒川「ネタ古いってあんた(笑)」

工藤「ちくしょう、お前ら覚えてろよ!」


工藤 下手へ退場


荒川「なーさんもなかなか言うよねぇ」

夏目「そんなひどいこといった覚えないんだけど。本当の事だし」

吉野「(笑いこらえて)ま、工藤のことなんてどうでもいいからさ。
   勉強しよ。じゃないと、テストまで間に合わないよ」

荒川「そだね。勉強しよっと」

夏目「私、ちょっと出かけてこないと」

吉野「夏目さん、どこ行くの?」

夏目「ちょっと準備をしにね」


夏目 下手へ退場


荒川「準備?」

吉野「なんだろねぇ」

荒川「トイレじゃないの?」

吉野「トイレ? トイレでなんの準備するの?」

荒川「テスト中にトイレ行きたくなると困るから、いまのうちにいっておくんじゃない?」

吉野「あ、そっかぁ。なるほど。余裕だねぇ」

荒川「そんな事より、勉強勉強」

吉野「そういえばさぁ、夏目さんってなんで補習になったんだろうねぇ。
   工藤は見るからにテスト失敗したって感じだけどさ、夏目さんって頭よさそうじゃん」

荒川「(机から目を離さずに)ああ、それね。ほら、期末って、化学の前に英語があったじゃん」

吉野「うん、それが?」

荒川「なーさんが言うには、その英語のテストであまりにもパワー使ったせいで、
   化学ではやる気力がなかったみたい」

吉野「パワー使い果たしたって、なーさん、英語のテスト占いで解いたわけ?」

荒川「うんにゃ。周りのざわめきが耳障りだから、音がない空間を作ってたらしい」

吉野「マジで!?」

荒川「……マジだと思う?」

吉野「……嘘なの?」

荒川「なーさんは、そう言ってたよ」

吉野「うーん、まさか、とは思うけどなぁ」


吉野 いいながら、机に目を落とす。
二人 勉強始める

可南 下手より登場。恐る恐る周りを見ながら入ってくる。


可南「あの、すいません。職員室ってどこにあるか知りませんか」

荒川「(下を向いたままで)職員室だったら、廊下を左に言って、
    突き当りをまた左に曲がればすぐだけど」

可南「あ、そうなんですか。ありがとうございました」


 可南が下手を向き、行きかけたところで、荒川顔を上げて


荒川「あれ? もしかして、可南ちゃん?」

可南「え? ……って、荒川先輩! どうしたんですか? 今日は休みじゃないんですか?」

荒川「やっぱり、可南ちゃんじゃーん。ほら、吉ちゃん、可南ちゃんだよ」

可奈「お姉ちゃん?」

吉野「えっと、化学方程式がこうで……ここがこうなるから……ああだめだ。またやり直しっと」



吉野 真剣にノートに鉛筆を走らせ、気づかないふりをする。


荒川「ほら、吉ちゃん、勉強は後にして、可南ちゃんが来てるんだってば」


 言いながら、荒川、吉野の首を無理に回転させようとする。


吉野「いたい、痛いってば」

荒川「だったら、早く向く!」

吉野「はいはい」

可南「あ、やっぱりお姉ちゃんだったんだ」

荒川「音響!」


音響CI→再会っぽいしんみりした曲


吉野「……可南……どうして、こんな所にいるの?」(優しげなお姉さん風)

可南「お姉ちゃんこそ、どうしてこんなところにいるの?」

吉野「可南から言って」

可南「お姉ちゃんからどうぞ」

吉野「遠慮なんてしなくていいのよ?」

可南「お姉ちゃんこそ、いいんだよ、言って」


(ここまでやさしい雰囲気)

音響CO

きっかけは吉野


吉野「……可南、高校は○○にするんじゃなかったの?」

可南「だって先生が、
    私の学力じゃせいぜいこの高校が精一杯だって言ったから」

吉野「なに言ってるのよ、教師の「無理」を振り切ってこそ、
   充実した高校生活が送れるってもんでしょう!」

可南「だって、実力と合わない高校行って、失敗したら終りじゃん」

荒川「確かに、可南ちゃんの言うとおりだよねぇ」

可南「ですよねぇ。だからとりあえず見学だけはしておこうと思って」

吉野「見学って言ったって、先生はどうしたの? 普通一緒にいるもんじゃない?」

可南「なんか、見学の時間間違えたのかいなくてさ。
    だから、職員室探してたの」

荒川「なるほどね」

可南「それにしてもお姉ちゃんの高校って結構いいね。中は何だけど、外は綺麗だしさ」

吉野「そうね。だから、やめときなさい」

可南「何を?」

吉野「この学校受けるの」

可南「なんで?」

吉野「あなたのためを思っていってるの」

荒川「なんで吉ちゃん。可南ちゃんが入りたいならいいじゃん。
   学力的にはちょうどいいんでしょ?」

可南「うん。だって、ここ中ぐらいだし」

荒川「だよねぇ。だったら問題なしじゃん」

吉野「でも、うちの高校いいのはだけなのよ。変な奴多いしさ」

可南「何処の学校にも、変な人はいると思うけど」

吉野「それが、度が違うのよ、度が。願掛けよ願掛け。一週間喋らないでいる奴がいるの」

荒川「吉ちゃん、あれはちょっと特別なような気がするんだけど」

吉野「それだけじゃないわ。可南、あなた走るの苦手でしょ?」

可南「う、うん」

吉野「うちの学校はね、毎年三学期になると、マラソン大会があるのよ。
   寒い中を、あの広−い○○公園の中を女子は二週って言う過酷な物が。
   しかも、授業の一貫としてね」

可南「え、でも、マラソン大会自体はそんな珍しい事じゃないよ」

吉野「毎日7時間授業なのよ」

可南「それぐらいやらないと、大学進学は難しいんでしょ?」

吉野「先生はみんな怖い人ばっかりだし」

可南「別に、先生で学校選ぶわけじゃないじゃん」

吉野「じゃなんだ、えっと、その、ほら」

荒川「吉ちゃーん、なんでそんなにうちの学校に反抗的なわけ? なんか恨みあるの?」

吉野「べ、別にそんなわけじゃないわよ。ただ、私は事実を言っているだけ」

荒川「怪しげ」

可南「もしかして、お姉ちゃん、私に自分と同じ学校に入って欲しくないの?」

吉野「そ、そんなことないわよ。うん。全然ない。
   ……ただね、あなたには、後悔して欲しくないって、そう思っているだけ」


音響CI(しんみり希望)


可南「後悔?」

吉野「高校生活って言うのは、思春期の多感な年頃を過ごす、一番大事な時なのよ。
   だから、お姉ちゃん、少しでもあなたに、考えるチャンスをあげて、
   後悔しない学校選びをして欲しいなぁって、そう思ってるの」

可南「お姉ちゃん」

吉野「自分の実力では大体……なんて選び方じゃだめ。
   なんでそこを受けたいのかをしっかりと自分に問い掛けて、
   はっきりとした答えを出しておかないと。
   高校に入った後で、『やっぱりあの高校にしておけばよかったぁ』って、
   後悔する事になるわよ」

可南「でも、私別に高校生活そんな深刻に考えてないよ」

吉野「え゛」


音響CO


可南「どんなに、自分に合ってるかって考えて高校選んだって、
   結局その高校での生活の大半を決めるのは、どんな人たちと出会うかじゃん。
   だから、私なるべくいろいろな人間が集まってきそうな、そんな高校に入りたいんだ。
   ……だから、ここもいいかなって」

吉野「そ、そうなんだ……へぇえ」

荒川「可南ちゃん考えてないなんて言って、良く考えてるわぁ。
   それに比べて吉ちゃん、あなた可南ちゃんにいろいろ言えるほど考えてたっけ?」

可南「先輩とお姉ちゃんは、どうやって高校決めたんですか?」

荒川「あたし達は、行きたい高校じゃなくて、いけそうな高校で選んだから。後は、通学費。
    ね、吉ちゃん」

可南「お姉ちゃん、全然人の事いえないじゃん」


吉野「だから、私がそれで失敗したなぁって思ったから、
   可南にはもっと良く考えて欲しいんじゃない」

可南「良く考えたよ。良く考えた結果として、この高校にしようと思ってるんじゃん」

吉野「だめ、この高校だけは絶対だめ!」

可南「………お姉ちゃんって、いつもそうだよ」

吉野「なにがよ」

可南「いつもそうやって自分の考え押し付けようとして、私の考えなんて聞いてくれない。
   いくらお姉ちゃんの方が頭がいいからってさ。
   なんで、お姉ちゃんにあれこれ言われなきゃいけないの?
   私だってバカなりに考えてるんだよ。」

吉野「可南……」

荒川「可南ちゃん…って、ちょーっとまった!なんで吉ちゃんが頭いいの?」

可南「え?」


吉野 途端にそっぽを向く


荒川「ねぇ、吉ちゃん。なんで吉ちゃんが頭いいわけ? 聞けよ、おい」

可南「荒川先輩。どういうことですか?」

荒川「ねぇ、可南ちゃん。なんで、今日、
   うれしはずかしウインター・バケーション真っ只中だって言うのに、
   私と吉ちゃんが、こんな寒い教室の中にいたかわかる?」

可南「え? ……そう言えば、なんでなの、お姉ちゃん」

吉野「なんでだろうねぇ」

荒川「はい、そこで目をそらさない! 何と、吉ちゃんは、私と一緒の補習組みだったのでした!   今日行われるテスト次第で、その補習がこの冬休みずっとか、
   それとも今日で終りか決まるってわけ。ね、吉ちゃん!」

吉野「そういえば、そんな事になっていたような」

可南「え! お姉ちゃんが補習? 補習って、あの、テストで悪い点取った人が受ける?」

荒川「そのとおり! 今回私と吉ちゃん二人とも赤点とったせいでの補習なの。
   だから荒川ちょっぴり不思議だなぁ、なんで吉ちゃんが頭いいの?」


吉野 そっぽ向いたまま


可南「でも、お姉ちゃんはいつもクラスで上位の方に入ってるって」

荒川「吉ちゃんがクラスで上位!? ビリから数えてじゃなくて?」

可南「クラスの授業なんて、要点だけノートに書いて、
   後は寝ててもいい点は取れるっていつも言ってたのに」

荒川「そりゃあ吉ちゃんいつも寝てるけど」

吉野「いつもじゃない!」

荒川「ああ、保健以外ね」

吉野「だって、保健の先生怖いから」

可南「二学期の成績表にも、7以下の数字を見てないっていってたのに」

荒川「7以下の数字を見てない!?…………吉ちゃーん。どういうこと?」


 吉野、二人とは目をあわせぬよう、遠くを見たまま。


吉野「なにが?」

荒川「とぼけんじゃねーよ。なんで吉ちゃんが頭いいわけ? 私わかんない」

吉野「ほら、それはね」

可南「やっぱり、お姉ちゃん頭よくないの?」

吉野「あのね、可南、それは、その」


荒川 吉野がフォローしようとするその横からでて、可南の両肩を掴んで目に訴える。


荒川「いーい。可南ちゃん。良く考えて。吉ちゃんが、頭良かったら、なんでこんな所にいるの?」

可南「実は、お姉ちゃん、体が弱くて授業に出てなかったとか」

荒川「吉ちゃん、体弱かったっけ?」

吉野「ゲホッ ゴホッ ……血、血が!」

可南「そんなわけないですよねぇ
   ……じゃあ、答案用紙に、一個ずつ答えをずらして書いちゃったとか」

荒川「あるわけねーって。諦めて可南ちゃん。
   あなたのお姉ちゃんは、正真正銘筋金入りのバカ」

可南「……私、騙されてたの?」

吉野「あのね、可南、それは」

荒川「そーこが問題なんだよね。
   どーして吉ちゃんが頭いいなんて思ったのかな可南ちゃんは。ねーえ、吉ちゃん」

吉野「(荒川から目をそらして)なんでだろうねぇ」


荒川 吉野の肩に手を置く。


荒川「吐けよ」

吉野「………いや」

荒川「吐けよー言っちゃえよ。言えってば吉ちゃん、言いなさいよ」


荒川 言いながら吉野の肩を前後に揺らす


吉野「やめて、ちょっと、言う、言いますから」


荒川 揺らすのを止め、手を離す。吉野床に倒れる


荒川「それで?」

吉野「……痛い」

荒川「吉野さん?」←吉野に近づく

吉野「言う、言うわよ。…………あれは、私がまだ中学生だった時よ」


照明CI→淡い色


荒川「え? え?」(照明に驚く)

吉野「その時、私は花の中学生。こんな補習用机なんてなかった」


吉野 机を蹴飛ばす
    ちょっと痛そうに顔をしかめながらも小躍り。


吉野「春。新たな年の始まりと共に、夢と希望が膨れ上がる。そんな季節」


音響CI→軽いリズム

音が流れると共に、荒川は舞台の後ろの方へ移動。
照明→舞台後ろを暗くする


吉野「中学に入った私は、演劇部に入った。
   私には夢があったから……いつか女優になってやるって」


吉野 うっとりとした顔で、いつまでも遠くを見たまま動きを再開しない。


荒川「吉ちゃーん」

吉野「なあに、荒川さん」(なぜか優しげ)

荒川「可南ちゃんに嘘ついたのは、いつ出てくるの」

吉野「………なに、それ?」

可南「お姉ちゃん! ごまかさないでよ!」


音響CO
照明→元へ戻す


吉野「ああ、せっかくの回想シーンが」

荒川「ていうか意味ないでしょ今の。それで吉ちゃん。なんで嘘ついたわけ?」

可南「そうだよお姉ちゃん。なんで嘘ついてたのさ」

吉野「…………だって、やっぱり、いい女優になるには、
   いつでも演技力を磨いていなきゃだめだと思って、だから」


吉野 途端、メガネを押し上げるような動作をして。


吉野「可南。学校の宿題は終わったの」

可南「え、ま、まだ」

吉野「だめよ。学校のきちんとやるのは、勉強の初歩の初歩なんだから。
   やっていると、やっていないでは、大きな違いになるわよ」

可南「はい」

吉野「それから、入試だからって緊張しちゃだめ。みんな緊張しているのは同じなの。
   それに、テストって言うのは、日ごろの結果を出す物でしょ? 
   自分がやってきた事を信じていれば、それでいいのよ」

可南「はい、お姉ちゃん」

吉野「じゃ、勉強がんばってね、可南」

可南「うん。……あ、お姉ちゃん、分からない問題があるんだけど」

吉野「なあに? 数学? 英語? それとも、公民?」

可南「理科なんだけど、この電圧の求め方で分からないところがあって」


吉野 可南が近寄ってくるのを手で制して、メガネを持ち上げる動作。


吉野「いい、可南。理科なんてものはね、暗記すればいいの。難しく考えちゃだめ。
   用は自分の記憶力との戦いなの」

可南「……計算問題なんだけど」

星野「(ごまかすような咳払い)それだって、暗記問題よ。答えを丸暗記すればいいの」

可南「試験じゃ、同じ問題なんて出ないよ」

吉野「大丈夫。解き方さえ覚えてれば、後はそこに数字を当てはめるだけよ」

可南「だから、その解き方がわからないんだけど」

吉野「解説がついてるでしょ? それを見なさい」

可南「これ、意味不明なんだけど」

吉野「その意味を調べる事も、勉強の一つよ」

可南「だから教えてってば」

吉野「自分でやるから、学習って言うのは成果が出るの」

可南「はーい」

吉野「………って、感じにやってたわけ」

荒川「つまり頭のいい役を家でずっと演じてて、
   可南ちゃんはそれをすっかり信じちゃってたわけ?」

吉野「そういうことよ。だめねぇ」

可南「だめねえってお姉ちゃん、お姉ちゃんが騙してたんじゃない!」

吉野「敵を騙すには、まず味方からって言うでしょ」

可南「何処に敵がいるっていうのよ!?」

吉野「目の前にいるじゃない、ほら。あなたにはこの敵が見えないの?」


吉野 観客席をさす。
可南 観客席をちらりと見るが、すぐに吉野に視線を戻して


可南「そうやって、わけのわからない事言ってごまかさないでよ。
   結局のところ、お姉ちゃんは頭悪くて、
   それがばれるのが嫌だったから私をこの高校に入れたくなかったんでしょ」

吉野「そのとおりよ」

可南「いばっていわないでよ」

吉野「じゃあ、どういえばいいって言うのよ」

可南「お姉ちゃんのそういうところが嫌いなんだよ」

吉野「別にすかれたくなんかありません」

可南「最悪、いきなり開き直るなんて」

吉野「別に、騙される方が悪いんじゃーん」

可南「ちょっとぉ……」


可南 吉野につかみかかろうとする

荒川 それを止めようとして、可南にすっ飛ばされる


荒川「……可南ちゃん痛い」

可南「…………あ、荒川先輩」

荒川「キヅクノガオセーヨ」

可南「すいません」

吉野「どーじ」

可南「くっ」

荒川「可南ちゃんおさえて。
   とりあえず、これから私たちテストだから。
   可南ちゃんと、吉ちゃんの問題は家で解決するという事で、ね」

吉野「そうそう、早く帰りなさい」

可南「このまま私がここにいたら、お姉ちゃん勉強どころじゃないよねぇ」

吉野「なに言ってんのあんた」

荒川「可南ちゃん、それって、私にも当てはまるんだけどなぁ」

可南「お姉ちゃんが謝ったら、帰ってあげてもいいけど」

荒川「はい、吉ちゃん謝って!」

吉野「なんで私が謝らなきゃいけないのよ」

可南「嘘ついてたでしょ!」

吉野「あれは、不可抗力よ」

荒川「吉ちゃーん、難しい言葉言って、意味わかってんの?」

吉野「とにかく私は……(荒川と可南が睨みつける)私は……ちょっと荒川」


吉野 舞台端まで、荒川を引っ張っていく。


荒川「なによ吉ちゃん」

吉野「ねぇ、可南の奴を何とかごまかして、外に追い出してよ」

荒川「なんで私が!?」

吉野「仕方ないじゃない。このままじゃ、テストに集中できないし。
   何よりほうって置いたら、何しだすかわからないから」

荒川「吉ちゃんが謝ればそれでいいじゃない」

吉野「そいつは出来ねぇ」

荒川「んな事言ったって、なんで私?」

吉野「帰りに何かおごるからさ。ほら、荒川、ごまかし上手じゃん」

荒川「そんな事……あるけどね」

吉野「じゃあ、任した!」


吉野 荒川を前に押し出す。


荒川「可南ちゃん」

可南「なんですか、荒川先輩」

荒川「あのさ、人には止むに止まれぬ事情って言うのがあると思うんだ、私」

可南「ハァ」

荒川「吉ちゃんもね、可南ちゃんを騙そうと思って、
   騙していたわけじゃないと思うよって言うか、騙してたわけじゃないのよ吉ちゃんは」

可南「私が、勝手に騙されただけって言うんですか?」

荒川「そういうことになっちゃうかなぁ、やっぱり」

可南「でも、結果的に騙していたんだから、一言謝るべきだと思いますけど
   (最後の方は吉野に向かって)」

荒川「やっぱ、そうだよねぇ(荒川も吉野を見る)」


吉野 荒川に、可南の方を指さす。


荒川「でーもね、可南ちゃん。とりあえず今は、私たち実際問題としてやばいからさ。
   後にして欲しいんだよね」

可南「お姉ちゃんが謝るまで私は」

荒川「分かる、分かるんだよ、可南ちゃんの気持ちは。
   でもね。私はテストなの私、テスト。わかる?
   私は、てーすーと。
   悪いけど、姉妹喧嘩に付き合っていられるほど暇はないわけ。わかる?」

可南「……ごめんなさい。分かりました。今は引きます」

荒川「おっけぇ」

可南「でも、(吉野に)お姉ちゃんのこと許したわけじゃないからね」

荒川「大丈夫大丈夫、そのことは吉ちゃんにもよーくいって聞かせるから」

吉野「ほら、用事済んだら早く帰りなさい」


可南 吉野を睨みつけるが、荒川に気づいて、外へ出ようとする。

工藤 下手より登場。慌てていたのか、可南にぶつかる
* 工藤は、リベンジと書かれた鉢巻をしている。
* 出来れば、なぜか学らんでも着ていれば効果的


工藤「すいません」

可南「ごめんなさい」


 可南謝るものの、工藤の格好に動きを止める。
→工藤はそんな可南に背を向けると、吉野と荒川に向かう。


工藤「吉野!&荒川!さっきはよくも俺の願掛けの邪魔しやがったな!!」

荒川「どうしたの、その格好?」

吉野「大丈夫? 良い病院教えてあげようか? 頭の」

工藤「うるさい! 願掛けを破られたからには、もう俺の願いは届かない!
   一週間黙ってた俺の努力はどうなんだよ!」

吉野「知らないわよ、そんな事」

工藤「お前のせいだ お前の」

吉野「なんであたしだけのせいなのよ」

可南「ひどい、お姉ちゃんって人の努力を踏みにじるような人だったんだ。最悪」


工藤 可南を見る


工藤「そう、こいつは人の努力や、苦労というのを平気な顔で踏みにじるんだ。
   しかも、それをまったく反省しない」

可南「人間として、許せないですよね」

工藤「まったくだ」(頷く)

吉野「だからなんであたしが悪いのよ」

荒川「そうそう、吉ちゃんが悪いって言うか、ただ工藤が自滅しただけ」

工藤「んだとぉ」

可南「荒川先輩、お姉ちゃんのことかばわくてもいいですよ。
   どうせお姉ちゃんの事だから、この人にぎゃあぎゃあ言って、
   嫌でもしゃべらずにはいられなくしたんでしょう」

吉野「んな分けないでしょ、工藤がかってに墓穴掘ったんじゃない」

工藤「そういや吉野のほうが、なんかうるさかったような」

可南「ほら!」

吉野「工藤! 何勝手な事言ってるのよ」

工藤「んなこと言ったって、誰に何言われたかなんて覚えてねーよ」

荒川「ほんの数十分前のこと覚えてられないの? 
   それじゃあ願掛けてようが、関係無いって」

工藤「うるせえな! こっちは必死だったんだよ」

吉野「ほら、荒川の方がひどい事言ってるじゃない! 私は悪くないからね」

可南「今は関係無いでしょう!?」

工藤「とにかく! お前ら覚悟しろ、道連れにしてやる!」


工藤 言いながら学らんの内ポケットに手を突っ込んで、吉野達に近づく。
可南 飛び出す


 スロー・モーション


可南「お姉ちゃん危ない!」←スローな台詞

吉野「え?」


(以下全部スローで)
可南 吉野を突き飛ばす。
荒川 それ(吉野の体)を上手くよけ、上手奥へ逃げる。
可南 工藤へ向いて、吉野を守るように手を広げる。

工藤 そんな三人には見向きもせず鉛筆を取り出し、
    吉野達が勉強していた机に何か書き始める。


スロー・モーション終り


工藤「こうして、こうして、こうしてっと」


可奈 薄目をあけて自分の体に何も起こってないことを確認。


荒川「なにやってんの? あんた………
   えっと、酸化とは、酸素を受け取るまたは水素を無くす……
   って、化学のポイント?」

工藤「先生がくるまでに、この机をカンニング机にしてやる。
    こんだけ目立つように書いておけば、いくら先生だって気づくだろ?」

荒川「まぁ、そうね」

工藤「それでお前らの冬休みはNothing!」

可南「へ?」

可奈 あきれ返ってから、自分がやったことに気づく

荒川「……ねぇ、工藤?」

工藤「なんだよ」

荒川「(黙ったまま消しゴムで字を消し始める)」

工藤「ああ、しまった。カンニングには鉛筆っていう習慣がぁ!」

荒川「はいはい、ご愁傷様。大変ねぇ、わざわざ復讐を演出して。でも、無駄だから」

工藤「なら油性ペンで」

荒川「机変えるって、そんなことされたら」

工藤「そっか……」(とか言いながら懲りずに書く

吉野「荒川――」


吉野 床にへばりついたまま。


荒川「何やってるの吉ちゃん」

吉野「痛い」

荒川「うん、そうだろーね」

吉野「起こして、本当に痛いから」

荒川「しょうがないよね」


荒川 吉野を起こす。


吉野「なんだって、いきなり突き飛ばすわけ?」

可南「だ、だってあの人がお姉ちゃん達に、襲いかかろうとしているのかと思って」

吉野「工藤にそんな度胸があるわけないでしょ」

工藤「お前らが相手じゃ襲い掛かる奴なんていねーよ」

荒川「だからって、カンニング机を作ろうとするんだから侮れないよね」

吉野「それは工藤だから仕方ないとして。だからわざわざ突き飛ばす必要なんてなかったのよ」

可南「でも、そんな事分かるわけないじゃん」

吉野「だからって突き飛ばす普通? 『あぶなーい』とか言ったら、
   両手で抱えて自分が下敷きになりつつ横や後ろへとぶってのが常識でしょ」

可南「私そんなアクション映画の配役じゃないし」

吉野「どーして周りの状況を見ることも出来ないわけ? 
   まったく、何の考えも無しに行動するんだから。
   だからあなたの考えている事にはいつも反対するのよ私は。
   いっつも何か見落としてるのよね」

可南「……」

吉野「自分が何か反対されたり騙されたりで怒ってるけど、
   それって可南が物事を深く考えないからじゃない。
   普通気づくでしょ私が頭いい姉を演技でやってるって。
   気づかなかったのは、可南が『まあいっか』で考えるのやめてるからよ。
   高校のランク下げたことにしても、
   自分にとって有利な点だけみて『まあいっか』ですましてるじゃない。
   ランクを下げた事で、一体自分にとって何が不利になったのかは見ようともしない。
   それで『ちゃんと考えてる』っていわれてもねぇ」

荒川「吉ちゃん、何もそこまで言う事」

可南「なんで、そんな風に言われなきゃいけないの? 
   私、別に悪いことしたわけじゃないのに。
   お姉ちゃんだって、自分が騙した事を正当化しているだけじゃん」

吉野「騙したんじゃなくてあんたが勝手に騙されたんだって言ってるのよ!」

可南「もういい、お姉ちゃんなんて、冬休み全部補修で埋めればいいんだ」


可南 一言言って吉野の筆箱を持ち去り、下手へ退場
工藤&荒川 可南を見るがとめる事は出来ない。



吉野「可南!……」


吉野 可南に声をかけるが追わずにいる。
荒川 消しゴムをかけるのをいい加減止め、
    工藤にチョップをを食らわし(特に意味はない)吉野に向く。



荒川「吉ちゃん、追わないの?」

吉野「いいわよべつに。シャーペンなら、荒川持ってるでしょ?」

荒川「持ってないよ、私。かさばるから一本だけしかかばんに入れてないし」

吉野「マジ?」

荒川「色ペンならいっぱいあるけどね」


吉野 工藤をちらりと見るが


工藤「あ、おっちゃった。折れた鉛筆は捨てないとなぁ」←嬉しそう


工藤、鉛筆をおって、下手へ投げる(舞台そでにいる人間が拾い、回収)
吉野 工藤を睨む


工藤「あれ? どうしたの吉野さん(わざとらしく)」

荒川「……追っかけたら?」

吉野「………もういいわよ。別に、冬休み中補習受けたって。
   かえって三学期の勉強に入りやすくなるかもしれないし」

荒川「ねぇ、吉ちゃん。今は補習の事より、可南ちゃんなんじゃないの?」

吉野「だからもうシャーペンなんてなくてもいいわよ。どうせわからないし」

荒川「そうじゃなくて! 可南ちゃん、なんか結構やばい雰囲気だったよ」

工藤「姉に比べれば、傷つきやすそうな顔しているしなぁ」

吉野「何がいいたいわけ?」

荒川「ただ、なんであそこまで言うことがあったのかって、それだけなんだけどね。
   私が言いたいのは」

工藤「なんか、壮絶だったよな」

荒川「くど―う」


工藤 荒川と吉野ににらまれ、そそくさと机から離れる。


工藤「さ―て、先生が戻ってくる前に、勉強用に着替えとかないとなぁ」


工藤 そのまま下手へ退場しかけ、


工藤「吉野の妹、探しておいてやろうか?」

吉野「別に」

荒川「吉ちゃん」

吉野「……とりあえず、まかしたわ」

工藤「おう。俺にも責任がないわけじゃないからな」


工藤 下手へ退場


荒川「珍しい。あの工藤が責任なんて……言ってみたかっただけか。
   それで吉ちゃん、なんであそこまでひどいこと言ったのよ?」

吉野「本当のこといっただけよ」

荒川「だからってさぁ、可南ちゃん、別に考えなく行動しているわけじゃないでしょ。
   吉ちゃんを突き飛ばしたのだって、悪気なんて全然なくて、
   ただ吉ちゃんを助けたかったって言うただそれだけでしょ? 勘違いだったけどさ」

吉野「それが問題なのよ」

荒川「え?」

吉野「勘違いだったから良かったけど、もし、工藤がとち狂ってて、
   本当にナイフでも持ってたりしたらどうなってたと思う? 
   私は怒らした人間でちっちゃいにしろ原因があるけど、
   可南は何も悪い事をしていないのに、被害にあっていたのよ」

荒川「だから、責めたわけ?」

吉野「少し考えれば分かるじゃない。工藤を突き飛ばしてもいいし、
   私と一緒に工藤に向かってもいいし。そのどちらもとらないで、
   自分が犠牲になればいいっていう、簡単に考えてるのよ、可南は」

荒川「それって、考え無しってわけじゃなくて、
   本人がとっさにどういう行動をとるかってことでしょ? 
   可南ちゃんが、吉ちゃんをどう思っているかにもよるわけだし。
   もし、吉ちゃんが、可南ちゃんの立場だったら、同じことしてたんじゃない?」

吉野「私は、可南を見捨てるかもしれない」

荒川「それってさ、見捨てて欲しかったってことでしょ? 
   可南ちゃんを危険な目に合わしたくないからって。
   だから、きっと吉ちゃんも、可南ちゃんみたいな行動とると思うよ。
   それで、今度は可南ちゃんに同じ様に責められるんだよ」

吉野「……たぶんね」

荒川「だったら、可南ちゃんの事、責めらんないじゃんか」

吉野「それは分かってたけど、もし可南が……って思ったら、急に頭に血が上っちゃってさ」

荒川「たく、なんだかんだ言ってシスコンなんだから。
   それで、あとの、高校選びがどうとかって言うのは?」

吉野「それはただ口から出ちゃっただけかな
   ……可南って、人が心配する前に、なんでも解決しちゃってるから。
   なんか意地でもあの子の悪い部分見つけようとしちゃって」

荒川「お姉ちゃんぶりたいわけだ」

吉野「そんなんじゃないわよ」

荒川「ハイハイ。とりあえずさぁ、可南ちゃん探してさ、見つけたら謝っちゃいなよ。
   結局、騙してたわけなんでしょ? 吉ちゃん」

吉野「……わかる?」


荒川「楽しかったんでしょ? 可南ちゃん騙すの。なんか、あっけなく騙されそうだからね」

吉野「そーいうわけじゃないんだけどさ。
   一度尊敬の眼差しを向けられちゃうと、癖になっちゃって」

荒川「早く謝んないと、今度から軽蔑に変わるよ、それって」

吉野「そうね……後、テストまで、何分?」


荒川 時計を見て


荒川「……正確には、−五分」

吉野「どういうこと?」

荒川「わかんない? もうテスト始まってるってこと」

吉野「うそぉ、先生来てないじゃん」

荒川「遅れているんじゃない」

吉野「そっか……って、そんな事言ってらんないわよ。
   早く可南見つけなきゃ、私冬休み中も補習じゃーん」

荒川「あれ? 補習でよかったんじゃないの?」

吉野「それはさっきまで! さっきと今は別次元」

荒川「なるほど」


工藤 下手から登場(服正常)


工藤「あぁあ、つかれた」

荒川「工藤、可南ちゃんは?」

工藤「だれだ、それ?」

吉野「工藤に頼った私がバカだったわ」

工藤「おい、ちょっと待てよ、吉野の妹の事だろ?
   ただ、名前で言われても分からなかっただけだって」

荒川「それで、いたわけ?」

工藤「あー、工芸室とかそういう教室系と、あと、トイレにはいなかったぜ」

吉野「とすると、教室かもう帰ったかね」

工藤「帰ったってのはないんじゃないか? 来る途中下駄箱の上に、生徒の靴見つけたし。
   今日、俺ら以外生徒いないから、たぶんそのこのだろ」

荒川「ナイス推理、工藤。でもさぁ、あんたトイレにはいなかったって、女子トイレも探したわけ?」

工藤「あ? そっか、女子トイレ調べなきゃ意味ないよなぁ」

吉野「たく、どこか抜けてるのよあんた」

工藤「うっせぇな、探してやったんだから文句言うなよ、もう手伝わねぇぞ」

荒川「二人とも言い合ってる暇ないって。ああ、それにしても、なんかいい方法ないかな」

工藤「神頼み」

荒川「何処がいい方法なのよ……って、そうか、それだ」

吉野「荒川?」

工藤「だろ、いい考えだと思ったんだ、天に召します我らが父よ……」

荒川「そうじゃなくて、なーさん」

吉野「ああ、なーさん」

工藤「願わくば……(ひざまずいて、天に祈っている)」

吉野「って、夏目さんは何処よ?」

荒川「サァ? もう来るんじゃない? こないとおかしいでしょ?」


音響FI(FIに意味がある)→怪しげな音楽。


吉野「……来た」

荒川「分かっちゃうところが不思議だよねぇ」

吉野「オーラよ、オーラ」


夏目 下手から登場
    奇妙な格好をしている。基本的には、黒ローブに、黒い帽子→魔女


夏目「皆さん。ご機嫌麗しゅう」


夏目 静かに席に座る

音響FO

夏目 占い道具の用意(何かは未定)
    吉野、荒川を舞台そでに連れて行く(工藤は祈ってる)


吉野「なんか、すごいんだけど」

荒川「なーさんパワー全開だね」

吉野「オーラが出てるよ。近づいたらやばいって」

荒川「大丈夫。中身はいつものなーさんだから」


荒川、夏目に向く


荒川「なーさん、お願いがあるんだけど」

夏目「なぁに?」

荒川「なーさん、占いで何かを探す事って出来る?」

夏目「できるけど?」

荒川「じゃあさ、可南ちゃん探してくれる?」

夏目「……それは、生き物ですか?」

荒川「吉ちゃん、生き物かって聞いてるけど?」

吉野「生きてるに決まってるでしょ!」

荒川「生き物です」

夏目「動きますか?」

吉野「動くわよ」

夏目「……もしかして、地球外生命体?」

吉野「地球内、日本国、○○県民!」

夏目「人?」

荒川「あのね、なーさん。可南ちゃんっていうのは『かなちゃん』って名前じゃなくて、
   可南が名前で、ちゃんは、呼びやすくてつけてるんだけど。念のため」

夏目「ああ、そうなの。……ちょっと待っててね」


夏目(占い道具)を使って、なにやら呟く。と、顔を上げて。


夏目「人間ですよね?」

吉野「当たり前よ。……この学校内にいるはずなんだけど」

夏目「早く言ってよ」


吉野「ご、ごめんなさい」


夏目 再び集中。と、工藤が立ち上がって。


工藤「神様知らないってさ」

荒川「何の話?」

吉野「今夏目さんが占ってるんだから、黙ってて」

夏目「二階小ホール!」

吉野「ホール? ホールにいるわけ?」

夏目「恐らく」

吉野「よし」


吉野 そのまま下手へ退場していく


荒川「あ、吉ちゃん!……なーさん、もし先生が来たら、何とか時間延ばしておいてくれない?」

夏目「えーでも私、疲れちゃったから」

荒川「後で、何かおごるよ」

夏目「任せておいて」(胸を叩く)

荒川「任した!」


荒川 下手へ退場する。


工藤「たく、あいつら占いなんかに頼りやがって」

夏目「占い、なんか?」

工藤「あ、いえ、その」

夏目「占い、なんか、なに?」(ドス入っている)

工藤「あ、俺も吉野の妹心配だなぁ、探しにいってやろうっと」

夏目「気をつけてね、死相が出てるから」

工藤「え?」

夏目「なんでもない。また会えるといいわね」

工藤「ど、どういうことだよ」

夏目「冗談だから」

工藤「なんだ、おどかすなよな」

夏目「なんてね」

工藤「ま、マジなのかよ」


工藤 夏目に近寄る

二人 ストップモーションへ

照明CI→後ろ暗く、前明るく。

○廊下

可南 つまらなそうな顔で、下手から出てくる。


吉野「可南!」

可南「お姉ちゃん!?」

荒川「さすがなーさんの占いだねぇ」

可南「荒川先輩も……一体なんですか?」

荒川「ほら、吉ちゃん」


吉野 頷き、


吉野「シャーペン返しな」

荒川「そうじゃないでしょ吉ちゃん! さっきまでの、あの優しげな態度はどこいった」

吉野「そうだった(優しげな口調→)シャーペン返してくれないかしら?」

可南「やだ」

吉野「なんで?」

可南「お姉ちゃん、私になに言ったか覚えてないの?」

吉野「あれは口が滑ったの」

可南「口が滑ったで、私が許すと思う?」

吉野「ごめんなさい」

可南「それも演技なんでしょ?」

吉野「ううん。ちがうわ。これが本当の私。ね、荒川さん」

荒川「もう、何も言う気ないわ、私」(あきれている)

可南「なんか、先輩、目そらしてない?」

吉野「そんなことないわよ。ねぇ、荒川さん」


吉野 言いながら荒川に近づく。


荒川「う、うん、そう、そうそう。これがいつもの吉ちゃん」

可南「はあ……それで?」

吉野「だからね。ごめんなさい、可南。
   あなたがせっかく私の事を思っていってくれてたのに、私、ひどいこといった」


吉野 その場に崩れる。

可奈「お姉ちゃん……」

吉野「本当なら、可奈にお礼を言わなきゃいけないのに。ううん。今までのことも全部、
    本当は、ずっと、謝りたいって思ってた」

可南「それ、本気で言ってるの?」

吉野「ええ、もちろん本当よ。本心から謝るわ。
    ……だから、許してほしいの。」

可南「……お姉ちゃん、別に私そんな気にしてないよ。だから顔を上げて」

吉野「許してくれるの? こんな、こんな意地悪なお姉ちゃんを。許して、くれるの?」


※荒川、この間ずっと二人の会話に苦しんでいる。


可南「もちろんだよ。私だって、ちょっとやりすぎたから」

吉野「可南……」

可南「はい、シャーペン」

吉野「ありがとう、可奈」

可南「ううん、いいの」


二人 見つめあう。荒川こらえられなくなり、


荒川「はい、カット! お疲れ様でした」

吉野「(素に戻って)お疲れさんでした。ふぅぅ、やっぱりつらいっすねぇ」

荒川「いやいや、上出来だよ、見ているほうも辛かった」

吉野「そう? いやぁ、私の演技もまだまだ捨てたもんじゃないね」

可南「演技?」

吉野「しまった!」

可南「やっぱり演技だったわけお姉ちゃん!」

吉野「荒川!」

荒川「私知らないよ」


荒川 走って下手へ退場。


吉野「あらかわずっけぇ」

可南「お姉ちゃん!」

吉野「えっと、あ! 先生がこっちに来る」

可南「うそ!」

吉野「ううん、確かに聞こえる、ほら、コツコツコツって少し高いヒールの音、間違いない。
   今、一階にいるわね」

可南「え、どうしよ。見つかったら、怒られるかな」

吉野「当たり前じゃない。でも安心して、そっちの階段(上手)から下に下りれば、
   見つかる事はないわ。ほら、急いで」

可南「分かった」


可南 上手へ退場。
吉野 ほっと息をつく。


吉野「あーぶなかったぁ。……あ、そうだテストテスト」


吉野 下手へ退場


 照明→元に戻す。

 音響FI→明るめ


夏目「だから今日は黄色のサングラスをつければ、死を逃れる事が出来るわ」

工藤「黄色のサングラスなんて持ってねえよ! 紫、とかじゃだめか?」


工藤 紫のサングラスをかける


夏目「どうかなあ」


荒川 下手より登場


荒川「セーフ? セーフ?」

夏目「ええ。まだ先生来てないわよ」

荒川「あぶねぇ、あぶねえ」


荒川 言いながら、夏目の近くの席(つまりは、元工藤の席)に座る。

工藤 吉野の席へ。


荒川「あ、そうだ。サンキューなーさん」

夏目「(とたんぐだっとなって)なんか、パワー使いすぎちゃった」

荒川「ごめんね、あとでなんかおごるわ」

夏目「(元気になって)期待しているわ」

荒川「う、うん。まかせて」


吉野 下手から登場


吉野「荒川! あんたのせいでまたこじれちゃったじゃない」

荒川「吉ちゃん、そんな事言ってるひまないよ、もういつ先生着てもいいころなんだから」

吉野「え、うそ、ほんと? やっばい。結局私、全然勉強してないよぉ」


吉野 言いながら荒川の席へ。


音響→小走りに走ってくる靴音

皆  一瞬ビクリと音に反応し、それぞれ落ち着きなくなる。

可南 下手から登場


可南「お姉ちゃん!」


皆  途端皆緊張とける。吉野立ち上がって


吉野「可南! あんたねぇ、タイミングってもんがあるでしょ! 先生かと思ったじゃない」

可南「騙したでしょ、先生が来る、なんて言ってさ」

荒川「まったく、この姉妹はほんとしょうもないんだから」


荒川 苦笑するが、ふとその表情が緊張する。


荒川「来た」

吉野「え?」

荒川「来たよ、先生」

可南「まったく、先輩もお姉ちゃんみたいな事言って私を騙すつもりですか」

荒川「そうじゃないって。ほら、耳澄ましてごらん」


音響FI→靴音

四人 一様に耳を澄まし、その顔が真顔になっていく


吉野「来た、来たよ」

可南「嘘、本当だ」

工藤「とうとうテストが始めるのか……って、あーーー! この机」

夏目「工藤君、ちょっと静かにしててくれない。私、精神集中しなくちゃ」

工藤「……でも、この机、お、俺のカンニングの……すいません」

 
工藤 夏目の視線の前に頭を下げる。しかし、ふと頭を上げて。


工藤「なぁ、夏目さん、その服やばくないか?」

夏目「服?」

工藤「テスト受けるのに、私服はまずいんじゃない?」

夏目「あ!」


夏目と工藤は互いに何かを言い合うような演技を続ける


可南「ていうか、私どうしよう」

吉野「掃除道具入れよ、あの中に隠れるの!」

可南「そっかって、ないよ、道具入れ」

荒川「教室ワックスかけるため、中身出したからねぇ、そりゃ」

可南「ええ! ど、どうすりゃいいのさ」

吉野「今ならまだ間に合う、ほら」

可南「出た途端あったら終りじゃんか!」


 可南と吉野、荒川の声もなくなって、言い合いを続けるうちに、足音は大きくなっていく。

 そして、足音が一番大きくなった瞬間


音響CO

皆一斉に、下手を見る。


All「来た!」


照明:暗転

音響FI→軽いENDING曲        Fin