ねこになりたい
猫になりたい?
~猫の日の夜に いきたい少女の物語~
作 楽静
登場人物(女6人) | |
ミドリ | 高校一年生。真面目なのに要領が悪い。 |
サクラ | ミドリの姉。高校二年生。しっかり者で何でもそつなくこなす。 |
母親/タマ | サクラとミドリの母。/猫の女王。心配症でたまに暴走する。 |
クロ | 野良猫。しっかりしているようでどこか抜けている。 |
トラ | 野良猫。キャラ作りを語尾でするあざとさがある、お馬鹿。 |
アオ | 野良猫。淡々とその日を生きている。 |
※ 母親とタマは同じ人物が演じる想定でいますが、別人が演じても良い。
※ 初演時、舞台は前面と奥とで分けることによってなるべく暗転を造らないように上演された。
※ 猫の平均寿命や死因の統計は2018年段階。上演される年によっては変わっている可能性がある。
猫の力を高める「猫の日」の物語。
季節は三月。高校の終業式が行われた日の夕方から夜にかけて。
1 猫の日の夕暮れ。
音楽と共に夕焼けの街並みが現れる。どこか遠くにはアオとトラが話をしている。
カバンを持ち、制服姿のミドリがいる。ミドリは叫ぶ。
ミドリ あんた達なんて、こっちから願い下げだ! ……別に高校時代に友人なんて求めてないし。一人でも全然平気だし。
……無理。来月からどうしよ。あーあ。もう、人間やめたい。
と、どこからか猫の鳴き声が聞こえる。
ミドリ いいな猫は。自由で。あたしも猫になりたい。
と、ミドリの近くで弱々しい猫の鳴き声が聞こえる。
ミドリは幼い野良猫を見つける。
ミドリ お前も一人ぼっちなの? ……一緒に来る?
と、猫を抱いてミドリは去る。
何処かに座っていた、アオとトラの話が聞こえてくる。
トラ 相変わらずアオは淡白にゃ。今日がなんの日か、忘れたにゃ?
アオ 猫の日でしょう。今日は。
トラ そう、我々の力が最も高まる日にゃ。尻尾ビンビンにゃ。
アオ その感覚、よくわからないから。
トラ こう、叫びたくなったりするにゃ。
アオ なんて?
トラ そんなの、勢いにゃ。息を吸って、思いのままに叫ぶのにゃ、せえの、
クロ声 大変! 大変!
トラ なんでよりによってそんな言葉にゃ。
アオ 私じゃないから。
と、クロがやって来る。
クロ トラ、アオ、大変!
トラ クロ、どうしたにゃ。
アオ また女王にいたずらして怒られたの?
クロ いたずらなんてしてない! でも、これは絶対怒られる。
アオ なにをしたの?
クロ 仲間が、いなくなった。
アオ&トラ え?
クロ 女王に、お守りを頼まれていた仲間たちのうち、一匹が、見当たらない。
アオ&トラ えぇえええ~
トラ 大変にゃ。
アオ 女王に知られる前に見つけないと。
と、声が響く。同時に何処かに女王の姿が浮かび上がる。
タマ 誰に知られる前にですって。
アオ 女王。いや、違うから。
クロ トラが悪いんです。
トラ そう、我が悪いにゃ。って、いきなり罪を押し付けるにゃ!
と、三匹の猫たちは言い合いを始めようとする。
タマ 言い争っている場合ですか。幸い今日は猫の日。我らの力が高まる日です。急いで見つけ出しなさい。もし見つけられなかったその時は、わかっていますね!?
アオ&クロ&トラ イエス・マム(にゃ)
慌てて三人は走り出す。
※オープニングダンス。登場人物たちが走っては去っていく。
やがて町並みは姿を変える。
2 ミドリとサクラの家にて。
舞台は家の中に変わる。ミドリとサクラが家族とともに住むマンション。その玄関からリビングキッチン付近。
サクラがやってくる。制服に防寒具(マフラー等)姿。防寒具を脱いだサクラの左腕にはリストバンドが巻かれている。
サクラ ただいま~。お腹すいた。
と、夕食の支度をしていた様子の母親がやってくる。片手にオタマを持っているなど。
母親 おかえり。本は買えた?
サクラ なんか、参考書って皆同じに見えるね。明日塾の先生に相談してみる。
母親 そうね。その方がいいでしょうね。
サクラ ご飯は?
母親 もう少し待って。ミドリもまだ帰ってきてないし。
サクラ あれ。遅いね。終業式だけなのに。
母親 本当よ。来月からは二年生だって言うのにどこをほっつき歩いているんだか。帰ってきたらガツンと言ってやらないと。
と、母親は手に持っているオタマを苛立ちと共に乱暴に振る。
サクラ お手柔らかにね。……じゃあ、何か適当につまもうかなっと。
母親 だったら、みかん食べちゃってよ。箱で買ったのに、全然なくならないんだから。
サクラ え~みかんはいいよ。
母親 小さい頃は好きだったでしょ。
サクラ そうだっけ?
と、母親と姉が去る。
しばらくして、こそこそとミドリがやってくる。鞄の中に猫が入っている。
ミドリ ただいま。
と、その声を聞きつけて母親がやってくる。
母親 ミドリ! 遅かったじゃない。今日は終業式だけじゃなかったの?
ミドリ うん。なんか、色々あって。
母親 どうせ友達と遊んでたんでしょう。
ミドリ まあ、そんな感じ。
母親 あんたももう二年生になるんだから、遊んでばかりじゃダメよ。少しはお姉ちゃんを見習って、勉強の方にも力入れないと。
ミドリ 分かってる。
母親 って、あんたはまた靴を脱ぎ散らかして。
と、母親はミドリが脱ぎ捨てた靴に気づいて去る。
ミドリ (と、去った母に向かって)ねえ、母さん。
母親声 晩御飯なら今準備してるから。
ミドリ じゃなくて、
母親声 お腹すいたならみかんでも食べてて。
ミドリ 別に良い。
と、靴を並べ終えた母親が戻ってくる。
母親 沢山あるんだから。お姉ちゃんも全然食べないし。ちっとも減らない。
ミドリ 箱で買わなきゃ良いのに。
母親 好きだったでしょう? 昔は二人して毎日のように食べてたじゃない。
ミドリ そうだっけ。
と、猫の鳴き声。
ミドリ じゃあ、ご飯まで部屋で勉強するから。
母親 待ちなさい。
ミドリ なに? あ、みかん頂戴。2つくらい。
母親 それで誤魔化しているつもりなの?
ミドリ なにを?
母親 その鞄、何が入っているの?
ミドリ エ、ナニモハイッテナイヨ?
母親 あからさまに怪しいわね。
ミドリ えっと。
と、猫の鳴き声。一度目よりも大きい。
母親 猫?
と、母親はミドリの鞄の中身の正体に引き気味になる。
ミドリ 違う。今のは私のお腹の音だから。
母親 ちょっとその嘘はわざとらしすぎるんじゃない?
ミドリ 家で飼いたいなって思って。
母親 元の場所に返してきなさい。
ミドリ お願い!
と、ミドリが母親に迫ると母親は逃げる。
母親 無理よ。猫なんて飼えるわけ無いでしょう。
ミドリ 私が面倒見るから。
母親 学校が始まったら、昼間は家にいられないでしょう。
ミドリ それはそうだけど。
母親 どうせ塾に入ったら、夜遅くなるんだから。
ミドリ 塾なんて行かないから良いよ。
母親 行かなくて良いような成績じゃないでしょ。
ミドリ そうだけど、
母親 サクラだって、二年生からは塾に行ったんだから。あんたはお姉ちゃんより成績悪いんだから。なおさら頑張らないと。
ミドリ それとこれとは関係ないでしょう。
母親 勉強を頑張らなきゃいけないのに、猫を飼っている暇なんて無いって言っているの。
ミドリ お姉ちゃんだったら猫を飼っていいの?
母親 そうは言ってないでしょ。とにかく、元あったところに返してきなさい!
と、サクラが戻ってくる。
サクラ どうしたの、大きな声出して。あ、ミドリおかえり。
ミドリ ただいま。
母親 サクラ。あなたペット飼いたいって思う?
サクラ ペット? 犬とか猿? あ、雉?
母親 それはペットじゃなくてお供ね。なにあんた、鬼でも退治しに行くの?
サクラ 来月から受験生ってやつだし、ちょっと余裕ないかな。
母親 そうよねぇ。(と、ミドリに)だって。
サクラ なにが?
ミドリ お姉ちゃんは関係無い。
母親 ご飯までに元の場所に戻してきなさい。あと、ちゃんと手を洗いなさいよ。
と、母が去る。
サクラ なに? 何の話?
と、猫の鳴き声。
サクラ あー。そういうこと? ダメだったんだ。
ミドリ そう。
サクラ まあ、お母さん動物アレルギーだし、というか、その前にうちのマンションペット禁止だし。
ミドリ でも、上の階の佐々木さんはペット飼ってるから。
サクラ 鳴かないでしょ佐々木さんちのは。
ミドリ 鳴かないってことはないんじゃない?
サクラ カメがどうやって鳴くのよ。
ミドリ か、かめー。
サクラ ……。
ミドリ 哺乳類を差別しないでほしい。
サクラ ダメだから。元あったところに返してきなさい。
ミドリ お姉ちゃん、お母さんそっくり。
サクラ そう?
ミドリ なんで嬉しそうなのか意味わからない。
サクラ 今夜は冷えるって天気予報で言ってたから、マフラー持ってくる。一緒に行ってあげるから晩御飯までに戻ってこよう。
と、サクラは去ろうとする。
ミドリ 自分だって、やったことあるくせに。
サクラ あたしが?
ミドリ 中学生くらいに猫拾ってきて、飼っていいかって。
サクラ よく覚えてんね。
ミドリ お母さん、凄く怒ってたから。
サクラ だから諦めたでしょ。
ミドリ あの猫、どうしたの?
サクラ 元あったところに返したよ。
ミドリ 嘘。あの頃のお姉ちゃんが、そんな素直なわけない。
サクラ なにそれ。
ミドリ 「今宵は右手がうずく」とか平気で言っていたくせに。
サクラ あんた本当余計なことばかり覚えてんのね。
ミドリ 「夜の校舎窓ガラス壊して回ってやるぜ、ヒャッハー」とか言ってたくせに。
サクラ ヒャッハーは言ってない。
ミドリ そんなお姉ちゃんが、素直に拾った猫を捨ててくるわけがない!(と、ポージングして指をさす)
サクラ あんたのその言動も、絶対将来恥ずかしくなるんだからね。
ミドリ ごまかさないでよ。何処かで育てていたんでしょ。
サクラ ……そうだよ。
ミドリ どこで?
サクラ 古い神社あるでしょ。近所に。そこの軒下。
ミドリ そこか!
サクラ ちょ、あんたまさか今から行く気!?
ミドリ だって、そうでもしなきゃ可哀想でしょ! この子の寝床確保してくる。
と、ミドリは去る。
サクラ バカ。……生きるって、そんな簡単なことじゃないんだよ。とりあえず、毛布と新聞紙があればいいか。(と、ミドリとは反対に去りながら)お母さん、ちょっと出かけてくる。うん。暖かい格好していくから。あ、みかんもらっていくね。遅くなるかもしれないから。
と、サクラが去る。
3 古ぼけた境内にて。
ミドリとサクラの街にある古ぼけた神社の境内。石段の奥に建物があるのだろうが、観客には見えない。
と、トラがやってくる。反対からクロも。
クロ いた?
トラ 駄目にゃ。匂いの強い場所は見つけたけど、いないにゃ。
クロ 人間に拾われたってこと?
トラ 多分にゃ。
クロ 可哀想に。今頃一体どんな目に合わされているか。
トラ まずは全身を洗われるんじゃにゃい?
クロ なんて酷いことを。
トラ 「はーい。いい子だから、もうちょっとだけ我慢しようね」
クロ そんな身勝手に暴れている駄目な子供みたいな言い方をするな! 我々は水が苦手なの!
トラ さらに、やたら甘い匂いの石鹸を泡立てて、体に揉み込むように洗われるにゃ。
クロ 残酷すぎる!
トラ 「もう、汚れているんだから、ちゃんと洗わないと駄目でしょう」
クロ せめて洗う前にネットで情報を探せ! 我々は匂いに敏感なの!
トラ そして、弄ばれ、疲れきった体の前に出される、牛乳。
クロ 神は死んだ!
トラ 「ほら、お腹すいたでしょう? たくさん飲んでいいからね」
クロ 自分たちが飲んでいるものを、我々に気安く出すな! 人間に消化できても、我々に消化できない食べ物なんて、いくらでもあるんだから!
トラ 我々の大体五匹に一匹は、人間の食事に付き合うことで死期を早めているにゃ。
クロ し、人の気配がする。
トラ 誰にゃ。
クロ こっちへ。隠れるよ。
と、ミドリが猫の入った鞄を抱いてやって来る。
ミドリ 境内ってこんな暗いんだ。懐中電灯くらい持ってくればよかった。あ、スマフォ使えば良いのか。(と、取り出す)
と、猫の鳴き声。
トラ 仲間にゃ!
クロ 静かに。飼い猫かもしれない。
ミドリ ごめんね。こんなことになって。お腹すいたよね。あたしも、お腹すいたなぁ。……あ、そうだ。おやつに食べようと思っていたチョコがあったんだ。お前も、少し食べる?
と、ミドリは石段に腰を下ろす。そして、スマフォを近くに置き、板チョコを取り出し、半分に割る。
ミドリ ミルク多いから、食べやすいんじゃないかな?
クロ 待て待て待て待て!
トラ ちょっと待つにゃ!
と、クロとトラはミドリの前に姿を現す。
ミドリ え?
トラ 我々にチョコを与えようなんて、何を考えているにゃ!
ミドリ 猫、
クロ チョコレートに含まれる、カフェインやテオブロミンが、我々にどんな影響をあたえるのか知らないの!?
ミドリ 喋ってる?
クロ&トラ そんなことはどうでもいい!(にゃ)
ミドリ はい。カフェインはわかるけど、テオブ?
トラ テオブロミンは、カカオの苦味の成分にゃ。
ミドリ へー。
クロ 人間には問題ない量でも、我々の場合、消化できなくて中毒症状を起こす事があるの!
トラ 主な症状は、下痢・嘔吐。尿の障害、脱水症状、興奮状態にゃ。
ミドリ 知らなかった。
クロ そんなことも知らずに、我々の仲間を連れ回していたの!?
ミドリ ごめんなさい。
トラ 以後気をつけるにゃ。
ミドリ はい。失礼します。
と、ミドリは去ろうとする。
クロ 待て待て待て待て!
トラ ちょっと待つにゃ!
ミドリ はい!
トラ その子をどうする気にゃ!
ミドリ えぇ!?
クロ どういうつもりで、その子をここに連れてきたか聞かせてもらいましょうか。
ミドリ ええ、ちょっと待って。というか、え? なんで猫が、喋ってるの?
クロ&トラ 悪いか!
ミドリ いやいや、嘘でしょう。これってさ、絶対夢オチだよね。起きたら全部夢でさ。もう、猫を拾ったことすら夢なの。
と、アオがやって来る。アオの語り口は普段のアオとは違う。クロとトラは呆気にとられる。
アオ 残念だけど現実だから。
ミドリ え?
アオ これは現実だから。諦めたほうがいいと思う。
ミドリ 誰?
アオ あなた達が猫と呼ぶ存在。今夜は猫の力が高まる日だから。
ミドリ 猫の力が高まる日?
アオ 猫の瞳に一番近い黄金が地上を照らす時、猫は力を宿すから。
ミドリ 力。
アオ 力が体を満たす時、猫は夜を支配するから。夜を支配する者の言葉が支配される者たちに聞こえるのは当たり前だから。
トラ (と、我に返り)アオ!
クロ あんた何処行ってたの!?
アオ あなた達と同じ。その子を探していたから。
ミドリ この子?
クロ じゃあ、やっぱりその子はあたしたちが探していた仲間なのね。
アオ そう。匂いを辿ったから間違いない。人間が連れてくるとは思わなかったけど。
クロ そうだった。人間、その子に何をしようとしていた。
ミドリ 飼おうと思って。
トラ じゃあなぜこんな場所に来たにゃ。
ミドリ 家じゃ飼えなくて。
トラ 捨てに来たにゃ!?
ミドリ 違います! ここで育てようと思って。
クロ 我々を馬鹿にするな!
トラ その様子だと、この子を飼い猫にしておいて、ワクチン接種も受けさせないつもりにゃ!
ミドリ ワクチン?
クロ 飼うと言いながら、この子を病気と蚤まみれにするつもり!?
トラ 餌だけ与えればいいと思っているにゃ!?
クロ 我々は奴隷か!
トラ いや、この扱いは奴隷以下にゃ!
クロ 畜生だ!
アオ もとから畜生だから。
クロ&トラ 畜生!!(と、地面に怒りをぶつける)
ミドリ すいません! これからちゃんと調べます!
アオ そんなのは、私達を飼おうとする前に調べるべきことだから。
ミドリ すいません。
クロ そんな人間に我々の仲間は任せられない。
トラ その子を返してもらうにゃ。
クロ 返さないと、とんでもないことになるよ。
ミドリ とんでもないこと?
トラ 猫の呪いは七代祟るにゃ。
クロ その祟をまとめて受ければどうなるか。
ミドリ どうなるの?
同時に
トラ 猫になるにゃー!!
クロ 猫になるのよ!!
クロ どう? 怖いでしょ。
ミドリ 猫に、なるの?
トラ そうにゃ。
クロ 猫になるの。
ミドリ 本当に、猫になれるの!?
クロ え、何その反応。
トラ 何で嬉しそうにゃ??
ミドリ 猫になれるなら、あたし猫になりたい! お願いします! 猫にしてください。
トラ&クロ えーーー。
トラ (と、クロに)どうするにゃ。
クロ こんな食いつくなんて思ってなかった。
トラ これだから人間は面白いにゃ。
アオ クロ、トラ。変なことを考えているんじゃないでしょうね? 私たちの役目はその子を連れ帰るだけのはず。
クロ そんなの、途中で誰かに任せればいい。とりあえず、(と、ミドリから猫を奪う)受け取って、これでお役目は終了と。
トラ あとは、この人間をどうするかにゃ。
ミドリ 私を、どうするの?
アオ どうする気?
クロ どうする?
トラ 決まってるにゃ。悩んだ時は、
クロ&トラ 面白い方へ動く(にゃ)
クロ じゃあ、行っちゃう?
ミドリ 行くってどこに?
トラ 我らの国。猫の女王のところにゃ。
手を差し出すクロ。ミドリの後ろに回り込むトラ。少し悩んでから、ミドリはクロの手をとる。
クロ 出発!
アオ クロ!
と、クロに手を引かれミドリは去る。
トラ まあまあ。アオもついてくれば面白いものが見られるにゃ。
アオ トラ! ……まったく。面白いと思ったら我慢できないなんて、なんて猫らしい。
と、人の気配を感じアオは身を隠す。
やって来るサクラ。
サクラ ミドリー。もう、暗いんだから返事してよ。ミドリー。
と、サクラはミドリのスマフォにかける。振動の音がする。
サクラ ミドリ、いるのなら返事くらいしなさい……え?
と、スマフォが落ちていることに気づく。
サクラ うそ。
アオ あの子なら、猫になりに行ったよ。
サクラ え?
アオ あなたはどうする?
サクラ え?
アオ 私と一緒に来る? それとも、逃げる?
アオが去る。
サクラはしばし呆然とした後、慌ててミドリのスマフォをしまいつつ、アオの後を追って去る。
4 猫の魔法陣がある道中にて
猫の国へ行く途中の道。そこは猫しか知らない通り道。不格好な陣が描かれている。
トラとミドリがやって来る。
トラ さて人間、そこに座るにゃ。
ミドリ これは?
トラ 猫の国へ向かう猫魔法陣(ねこまほうじん)にゃ。
ミドリ ねこまほうじん!?
トラ よく、近くにいたはずの我々がいつの間にかいなくなっている時があるにゃ? そんな時は、実は猫魔法陣を使っているにゃ。
ミドリ どうやって猫が描いているの?
トラ 念じて絵描くんにゃ。「描く(かく)」のは得意にゃ。猫だけに。
ミドリ 猫だけに?
トラ イッツ・ア・漢字ジョークにゃ。
ミドリ 漢字ジョーク?
トラ 猫という漢字を知らないにゃ? 獣偏に……それはとにかく乗るにゃ。
ミドリ はい。……それで、どうなるの?
トラ 暫く待つにゃ。魔法陣に力が溜まったら、ひとっ飛びにゃ。
ミドリ はい。
トラ でも、その前に人間を試す必要があるにゃ。
ミドリ 試す?
クロ声 お前がどれほど猫になりたいと思っているか、試すの。
と、ミドリの鞄を持ってクロが出てくる。
トラ あの子はどうなったにゃ?
クロ ちゃんと今の時間のお守りに預けてきた。(と、ミドリへ)はい。(と、鞄を返す)
トラ 肩の荷が下りたにゃ。
クロ ほんとね。ということで、愛されにゃんこになりたいかー!
トラ おー! ほら、あんたも。
ミドリ おー?
クロ 声が小さい! 愛されにゃんこになりたいかー!
トラ おー!
ミドリ お、おー! なにこれ。
トラ 見てわからにゃい?
ミドリ わからないから聞いているんだけど。
クロ 愛されにゃんこになるための青空道場、出張版よ。
ミドリ 愛されにゃんこ?
クロ 人間に飼われて好きな時に起き、好きな時に寝て、それでいて人間が喜んで奉仕してくれる猫のこと。
トラ 結局、我々が一番幸せなのは我々をダダ甘に甘えさせてくれる人間と一緒にいることにゃ。
ミドリ 飼われる生活が一番ってこと? 野良猫のほうが気楽だと思うけど。
クロ 野良を甘く見るな!
トラ 飼い猫の平均寿命は10年~15年にゃ。
クロ 一方、野良猫の平均寿命は、
トラ 3年から4年にゃ。
クロ 猫の15歳は人間に換算するとだいたい、
トラ 76歳程度にゃ。
クロ 猫の4歳は人間に換算すると!
トラ 32歳にゃ。
ミドリ 短いね。
クロ せっかく猫になるというのに、そんな短い猫生でいいのか!?
トラ よくにゃい!
ミドリ 確かに良くない!
クロ ならば、愛されにゃんこになりたいかー!
トラ&ミドリ おー!
クロ 美味しいご飯が食べたいかー!
トラ&ミドリ おー!
クロ 専用爪とぎが欲しいかー!
トラ&ミドリ おー!
クロ そのためには、どんな厳しい修行も平気だなぁー!
ミドリ え、それは嫌。
トラ うん。修行するくらいなら野良でいいにゃ。
クロ という、この苦労はしたくないけど美味しい思いはしたい。これが我々の基本姿勢。
トラ あんた、結構猫にゃ。
ミドリ そうかな。なら、猫になれる?
トラ そう簡単には行かないにゃ。
クロ これからが本番。では、愛されにゃんこに必要なものとはなに?
ミドリ え。えーっと。
クロ ヒントは「ケ」
ミドリ 「け」……経験?
クロ&トラ 経験~?
ミドリ だって、ほら、あたしは人間だし。猫がどうとかわからないし。つまり、それを知っているかどうかが大事なのかなって。
クロ 苦い。苦いなぁ。
ミドリ 甘いじゃなくて?
クロ 我々、甘さはよくわからないから。
ミドリ え、そうなんだ。
トラ そうにゃ。だから、我々に甘いものを与えて、「あ、うちの子は甘い食べ物が好きなんだなぁ」って思っている人は気をつけないといけないにゃ。
クロ 基本我々の好き嫌いは、においや歯ごたえ、あと舌触りで決まるの。
トラ 人間が食べるから、一緒に食べてやるかっていうのもあるにゃ。
クロ (と、観客に訴えるように)だから、我々が甘いものを好んでいると勘違いしてむやみに与えると、我々はすぐに体を壊す!
トラ (と、観客に訴えるように)特に生後4ヶ月くらいまでに与えると、我々は食べ物だって認識しちゃうから注意が必要にゃ!
ミドリ 誰に説明しているの?
クロ で、話を戻すとね。経験がいくらあってもねぇ?
トラ そうそう。大事なのは毛並みにゃ。
ミドリ 毛並みかぁ。
トラ 人間がうっとりする毛並みを持っているかどうか。経験なんて二の次にゃ。見てよこの我の毛並み。サラサラにゃ。もう、猫ライフは勝ったようなものにゃ。
クロ それはどうかな。
トラ なに。毛並み以上に重要なものがあるっていうにゃ?
クロ 血統。
ミドリ 血統かぁ。
トラ あー。もうそれ、生まれた時点で無理にゃ。それは酷いにゃ。
クロ でも、それが現実。
トラ 毛並みが良ければ血統なんて気にされないにゃ。
クロ 血統が良ければ毛並みなんて気にかけない。
トラ あんたは、どっちが大事だと思うにゃ?
クロ そうね。大事なのはどっち?
ミドリ え、えっと、性格?
クロ&トラ せい、かく!?
トラ なんてことにゃ。ここにきて、中身重視とは。
クロ 我々の中身を人間が気にするなんて。
ミドリ 大事でしょ。相性とか。性格の一致って。
クロ 我々と人間の性格が一致しているかなんて、どうしてわかるの!?
ミドリ 仕草とか、表情とかで。
トラ 人間同士ですら相手の性格なんて読めやしないのに、まして猫の性格なんて読めるわけ無いにゃ!!
クロ そうだそうだ!
トラ というより、中身を重要視しているなんて嘘にゃ。
クロ 嘘だ嘘だ!
ミドリ 嘘なんて、
トラ だったら、人間はなんで見た目を気にするにゃ?
ミドリ 気にしてないよ。あたしは全然気にしない。
クロ 同じような服を着ているはずなのに、ちょっとずつ違っているのはなんで?
ミドリ 別に、着方はそれぞれ自由だから。個性っていうか。
トラ そのくせ、どこかしら似たり寄ったりにゃ。
クロ それは個性といえるの?
ミドリ 似るのは友達同士だから。同じようにしないと、仲間はずれにされるから。
クロ 誰もが生まれた時から違うのに、なんで同じ姿を求めるの?
トラ もとから違うんだから、同じになるわけないにゃ。
ミドリ あたしだってわからないよ! でも、そういうものなの! 友達が「お揃いにしようね」って言ったら、自分には似合わないと思ってもつけなきゃいけないの! 友達が「似合わない」って言ったら、あたしが好きでも、その格好はしちゃいけないの! そういうものなのよ!
クロ 友達ね。
トラ なんで友達なのに、好きを我慢するにゃ?
ミドリ それは、でも、そういうものなの。
クロ じゃあ、人間は、なんで他人の生まれを羨むの?
ミドリ 羨んでなんていないよ。
クロ お金持ちの子供だから。有名人の子供だから。どっかの選手の子供だから。
トラ だからあの子はすごいにゃ。才能があるにゃ。
ミドリ だって、それは本当のことでしょう? 出来る人は皆最初から出来る人だし。出来ない人はいつまでたっても出来ないし。
クロ 悪い人の子供は悪い人?
トラ いい人の子供はいい人にゃ?
ミドリ そうは言わないけど。でも、お金があったり、才能があったりする人はスタート位置が違うから。
クロ なんのスタート位置なの?
ミドリ やりたいことの。
クロ それは一つなの?
ミドリ ちがうけど。
クロ 同じゴールを目指しているの?
ミドリ ちがうけど。やりたいことがあって、でもその先にはもう人がいて。違う方向を向いても、また人がいて。人がいない方向へ向かってみたら、本当に誰もいなくって。心細くて。
トラ だから誰かの後ろを歩くにゃ?
クロ 前を行く人の背中を羨みながら?
トラ その人は誰もいない道を歩いているのににゃ?
クロ その寂しさは、わかるはずなのに?
ミドリ わからない。あたしにはわからないから、あたしは猫になりたいのよ。
トラ 人間って不思議にゃ。
クロ まあ、そんな不思議な生き物じゃなきゃ、我々を世話しようなんて思わないだろうけど。
トラ 自分のことでいっぱいいっぱいのくせに、他種族のお世話までしたいなんてにゃー。
クロ 人間って本当ドMね。
トラ ドMってなんにゃー?
クロ ドMはねぇ。秘密ー。あ、そろそろ力が溜まったかな。じゃあ、行こうか。
トラ ここからは目を閉じるにゃ。猫の力に飲み込まれたら、酔いやすいから気を付けるにゃ。
ミドリ わかった。
ワープ音がするとミドリとトラ、クロの姿は消えている。
と、同じ場所にサクラとアオがやって来る。
アオ 良かったの? 止めなくて。
サクラ 止めるつもりだった。馬鹿なこと言ってるんじゃないって。だけど。
アオ だけど?
サクラ あの子、悩んでいたんだ。きっと人間関係とか、将来とか。
アオ そうみたいだね。
サクラ なのに、気づけなかった。
アオ そうなんだ。
サクラ 家族なのに。
アオ そうだね。
落ち込んだ様子のサクラを少し励ますように肩をたたいてアオは去る。サクラはその後を追っていく。
5 猫の女王の間
猫の女王の間となる。女王が座る椅子があるものの、特に華美なものは置いてない。
椅子には女王の姿がある。言葉をはしているうちに、心配そうにウロウロしだす。
タマ 勢いで送り出したは良いものの、あの子達ったら一体どこまで行ったのかしら。いくら我らに力が満ちる夜だからって、油断して人間に捕まったら何をされるかわかったものじゃないのに。変なものを与えられても食べないようにとは教えているけど、例えば捕まって殴られたり、投げられたり、鞠をつきたいのに鞠がないからって、袋に押し込められて、ぽんとけりゃ、ニャンと鳴く、ニャンがニャンと鳴く、ヨーイヨイ、なんてことになっていたら! ああ! なんて悲惨な猫の末路!
と、クロとトラとミドリがやってくる。二匹と一人が話している間にも、猫の女王は猫の心配をしている。
ミドリ あれは?
トラ あれこそ、我々の愛すべき女王にゃ。
ミドリ あれが?
クロ 女王は力の強さで決まるの。
トラ 猫としての力が強ければ強いほど、本来の猫とは外れていくにゃ。
クロ つまり、テンションがおかしいのが女王。
ミドリ え、なにそれ怖い。
クロ 女王!
タマ は。
トラ タマ女王!
タマ そうです。私が猫の女王、タマです。お前たち。随分と帰るのが遅かったですね。
クロ 申し訳ありません。
トラ でも、いなくなっていた子は無事見つけたにゃ。
クロ 仲間に預けています。
タマ そうですか。良かった。よくやり遂げてくれました。
クロ もったいないお言葉。
トラ 恐縮にゃ。
タマ しかし! 今宵は我らの力が高まる日だったから良かったものの、普段であればどうなっていたか。少したるんでいますよ。
クロ 申し訳ありません。
トラ 気をつけるにゃ。
タマ あとトラ。
トラ はいにゃ?
タマ その、語尾に「にゃ」をつけるのは、あなたの中で流行っているんですか?
トラ にゃ?
タマ 正直キャラ付けがクド過ぎませんか。
トラ えー。今更すぎるにゃ。
タマ 第一、他の動物がもしも言葉を話したとして、犬が「わかったワン」猿が「了解だウッキー」までは良いとして、雉は、えっと確か「オッケーだケーン」って感じですか?
クロ すいません。雉の鳴き声がわかりません。
タマ 私もうろ覚えです。では問題。うさぎはなんて鳴くでしょう! はい、クロ!
クロ 知りません。
タマ トラ!
トラ わからないにゃ。
タマ では、アオ(と、ミドリを見て)……じゃない、人間!? 人間がいる!? いつからいた!
ミドリ すいません。結構前からいました。
タマ おのれ人間、何しに来た。まさか、我々を踏んづけて悦に浸るつもりか。猫ふんじゃった、猫ふんじゃった、猫踏んづけた~ら、ひっかくどころじゃないよ! 頭からまるかじりしてやるわ!
トラ 落ち着くにゃ女王。
クロ 実はカクカクシカジカでして。
タマ なるほど。って伝わるかー! それで分かったら何のために言葉があるかわからなくなるわ! ええい! 我の前に来る人間など、こうしてくれる!
ミドリ まさか、猫の祟り的な攻撃をされちゃう?
タマ (と、刃物を取り出す)叩き切る!
ミドリ まさかの物理攻撃!?
クロ トラ
トラ はいにゃ。
と、トラが女王を抑え、クロが女王に一撃入れて気を失わせる。
クロ よし。
トラ 相変わらずきれいな一撃だったにゃ。
ミドリ いいの? これ。
クロ 大丈夫。起きた時には少し冷静になっている、と思う。
トラ 冷静になっていなかったら、もう一発入れればいいにゃ。
ミドリ 一応、女王なんだよね?
クロ どんな相手にも遠慮しない。
トラ 欲望には忠実に。それが我々にゃ。
ミドリ 猫、ハンパないなぁ。
6 道の途中。
どこか違う場所に歩いているアオとサクラが現れる。
アオ この道を覚えておいて。きっと必要になるから。
サクラ 分かった。……ねえ。
アオ なに?
サクラ 猫の生活は、楽しい?
アオ どうしてそんなことを聞くの?
サクラ ミドリが、本気で猫になりたがっているのなら、その生活が人間の世界よりも楽しいなら、私は、
アオ あの子を猫にするの?
サクラ だって、人間の世界がミドリにとって苦痛なら、猫の世界の方がミドリにとって幸せなら、あの子が幸せに生きられるのなら、それを応援してあげるのが、姉である私の役目なんじゃないかって。
アオ そうして、見捨てるの?
サクラ 違う。そうじゃなくて、私は、
アオ 何も違わないから。応援するっていうのは、そういうことじゃないから。
サクラ 私はどうしたら良いのかな。
アオ それは私には答えられない。
サクラ そうだよね。……行こう。今はミドリのところに行かなくちゃ。
と、アオが足を止める。
サクラ どうしたの?
アオ 話を、すればいいと思う。
サクラ 何の話?
アオ 向き合って、あの子がどう思っているのか。あなたが、何を思っているのか。伝えてあげればいいと思う。それは、あなた達じゃないと出来ないから。
サクラ ……うん。わかった。行こう。
サクラとアオが去る。
7 女王の間
女王とクロ、トラ、ミドリがいる。
クロ というわけで、この子は猫になりたいって。
タマ 人間が我々の仲間にですか。
トラ 女王なら出来るにゃ?
タマ それはもちろん。でも、本気ですか?
ミドリ はい。
タマ 言っておきますが、我らとて、のんびりダラダラとしているだけの生き物ではありませんよ。
ミドリ わかってます。
タマ 人間とは食べられるものも違いますし。あなたが今どんなに好きでも、猫になってしまえば危険なものがたくさんありますよ。
ミドリ チョコとか駄目なんですよね。
タマ そうですね。甘いものは食べると危険なものが多いです。
トラ あと、ネギ類にゃ。
ミドリ それはもとから苦手なので。
クロ 体が受け付けないならともかく、食べられるのに食べないなんて、人間は贅沢ね。
ミドリ すいません。
タマ それと、我らには苦手なものが多いですよ。人間よりも匂いに敏感ですし。耳もいいので大きな音や、低い音に体が動かなくなることだってあります。
トラ 水も嫌いにゃ。
クロ 縄張り意識があるから、急に距離を詰められるのも苦手。
ミドリ 距離感は、あたしも結構苦手意識あるので。香がついているものもあまり好きじゃないし。
タマ それに、今宵のような日でなければ、人間とは話せなくなる。それでもいいのですか?
ミドリ ……はい。お願いします! あたしを猫にしてください!
タマ ……まあ、いいでしょう。猫になるのを認めます。
ミドリ 本当ですか!?
トラ やったにゃ!
クロ さすが女王。話がわかる。
タマ あなたが初めてというわけではないし、なんとでもなるでしょう。
ミドリ 猫になる人間って多いんですか?
タマ 昔はそれほどでもなかったのだけれど。
トラ 最近は多いにゃ。
クロ まあ、出来ないことが多いけど、その分力もつくから。
ミドリ 力?
トラ 元人間だった猫は物覚えが良いにゃ。
クロ 生命力もあがるし、体力も我々よりあるし。
トラ 人間風に言うと、チートキャラにゃ。
タマ まあ、全て我のおかげですけどねっ。
クロ ドヤ顔ムカつく。
トラ ほんとな。
タマ 素で怒らないで! 冗談です!
クロ いや本気だった。
トラ 絶対本気だった。
タマ さ、では猫にしましょう。さっさとしましょう。
クロ 誤魔化したな。
トラ 誤魔化した。
タマ いいから! 話を進めますよ! あと、トラ。やっぱり語尾に「にゃ」が付いていたほうが可愛い感じなので、ぜひつけてください。むしろ急につけるのをやめられると、とてもマジっぽくて怖いです。
トラ にゃ。
タマ では、人間。覚悟は出来てますね?
と、サクラが走ってくる。
サクラ 待って!
ミドリ お姉ちゃん!?
クロ 人間!
トラ 人間にゃ!
タマ どうしてここに人間が!
アオ 私が連れてきたから。
と、アオが現れる。
クロ アオ! なんでそんな真似を!?
アオ この子は、その人間の姉だから。
タマ 姉? そう。そういうこと。
クロ 女王?
トラ どういうことにゃ?
タマ 家族を心配する気持ちは、我らも人間も同じ。我らが仲間を探したように、その子は家族を探していた。だから、連れてきた。そう言いたいのですね?
アオ そう。
ミドリ あたしは、探してなんて頼んでない。
サクラ それでも探す。それが家族でしょう?
ミドリ こんな時ばかりそれっぽいこと言わないでよ。あたしのことなんて何もわかってないくせに。
サクラ わからないよ。だから話をしにきたの。
アオ 二人に話をさせて。
クロ アオ、あんた勝手なことを、
タマ いいでしょう。
クロ 女王?
タマ ただし、夜は短い。話は手短に。
トラ 女王はアオに甘いにゃ。
クロ 同感。
ミドリ 話って、別にお姉ちゃんと話すことなんて無いけど。何を話すの?
サクラ 何をって、その、だから、いいの? こんなところで終わりにして。
ミドリ いいよ。だって、これ以上面白いことなんてこの先起こる気がしないし。猫になれるんだよ? こんな機会、この先絶対やってこないよ。
サクラ 父さんや母さんはどうするの!?
ミドリ 二人共、どうせあたしよりお姉ちゃんがいたほうがいいでしょ。
サクラ 何バカなこと言ってんの!
ミドリ 馬鹿だからだよ! お姉ちゃんみたいに出来ない馬鹿だから言ってんだよ! お姉ちゃんにはわからないよ。あたしの気持ちなんて。
と、猫達が父と母を演じる。
タマ(母親) サクラったら凄いのよ。また学年一番ですって。
トラ(父親) 本当か。頑張ってるなぁ。
ミドリ お姉ちゃんは出来る人だから。仕方ないよ。
母親 でも、ミドリはねぇ。
父親 よくないのか。
母親 サクラが一年生だったときのことを考えるとね。
ミドリ 出来る人と比べられる、あたしの気持ちなんてわからないでしょ。
父親 なんでこんなに姉妹で差が出たのかなぁ。
ミドリ そんなの、あたしが知りたい。
母親 本当よねぇ。妹のほうが要領良かったりするらしいけど。
父親 うちはまるっきり逆だなぁ。ミドリはあれだ。猫型ロボットの青い方だ。
父親と母親の笑い声が響く。
ミドリ いつもいつも比べられる。あたしだって頑張ってるのに。何をやっても「お姉ちゃんはこうだった」「お姉ちゃんはああだった」もう、うんざり。
サクラ それは、でも、仕方ないでしょう。私はお姉ちゃんなんだから。
ミドリ お父さんもお母さんも、お姉ちゃんがいればいいんだよ。私はいてもいなくても変わらない。
サクラ そんなことない!
ミドリ お姉ちゃんにはわからないって言ってるでしょ!
サクラ じゃあ、友達は? 友達はどうするのよ。あんたがいなくなったら皆心配するでしょ?
ミドリ 友達なんていない!
と、猫達が友達を演じる。
クロ(友1) 楽しかったねぇ。
トラ(友2) カラオケ最高。
タマ(友3) だよね〜。
ミドリ 偶然だった。駅ビルをぶらついて、その帰りに、見たんだ。
友1 ね、今日ってミドリ誘わなくてよかったの?
友2 え。いいよいいよ。あの子、うちらと趣味合わないでしょ。
友3 確かに。
ミドリ こっちは頑張って合わせようとしているのに。
友3 そのくせ、無理に合わせようとするしね。
友2 そうそう。
友1 それね。
ミドリ 友達なんだから、おそろいにしようって言ったのはそっちなのに。
友1 最近愚痴ってばかりだしね。
友2 あ~あれね。親の話。
友3 なんか疲れるよね。
ミドリ 悩んでるなら話聞くよって言ってくれてたのはなんだったの?
友2 二年は違うクラスだといいなぁ。
友1 うわ。
友3 酷っ。
友2 でも、そう思わない?
友1 ごめん。実は思った。
友3 あたしも。
と、笑い声。
ミドリ あんた達なんて、こっちから願い下げだ! 別に高校時代に友人なんて求めてないし。一人でも全然平気だし。……無理。来月からどうしよ。あーあ。もう、人間やめたい。
と、猫の鳴き声がする。
ミドリ 何か違うことがしたくて。猫を拾った。でも反対されて。困らせてるってわかるから、うまいこと何も言えなくて。一人になりたくて外に出て。やっぱり一人は寒くて。そうしたら、猫達が声をかけてくれた。一人でいたくなかったその時に、猫だけが鳴いてくれた。だから、あたしは猫になる。
サクラ そんなの、全然知らなかった。
ミドリ だよね。でも、お姉ちゃんは悪くないんだよ。あたしが馬鹿で、要領が悪くて、友達付き合い下手なだけだから。
サクラ 言ってくれればよかったのに。
ミドリ 言ってどうなるの? 「馬鹿なんです」って?「友達いないんです」って? そんなの、惨めすぎるでしょ。
サクラ そんな、そんなこと……。
ミドリ ごめんね。こんなあたしが妹で。でも、もういなくなるから。(と、女王の方を向く)
タマ 話は終わり?
ミドリ はい。猫にしてください。
と、ミドリは女王に近づく。サクラは止められない。
タマ では、力を集めるとしましょうか。
と、アオがサクラに寄る。
8 姉と妹
アオ このままでいいの?
サクラ だって、ミドリがあんなに傷ついていたなんて。
アオ だから猫にさせるの?
サクラ あたし、ミドリのこと全然知らなかった。
アオ それはこれから知っていけば良いことでしょう?
サクラ でも、何も知らないあたしに、ミドリを止めることなんて、
アオ それでも止めないと。
サクラ だけど、
アオ しっかりしろよ! あんたは、ミドリのお姉ちゃんなんだよ? 今ミドリを止められるのはあんただけなんだ。
……止めてよ。お願いだから。
サクラ ……そうだよね。私が知っていることだってあるんだ。
サクラがミドリに向く。
サクラ ミドリ!
ミドリ ……なに?
タマ 話は終わったのでは?
クロ 煩い人間ね。
トラ 往生際が悪いにゃ。
サクラ 確かに、あたしは知らなかった。わからなかったよ。ミドリが傷ついていたこと。悩んでたこと。でもね、あたしだって知ってることくらいある!
ミドリ 知ってること?
サクラ 知ってるよ。ミドリが……お姫様抱っこに憧れてるってこと!
ミドリ ……は?
タマ&クロ え?
トラ にゃ?
アオ お姫様だっこ?
サクラ 昔言ってたよね。彼氏に求めるのは優しさと腕力だって。猫に出来ると思う? お姫様抱っこが!
トラ 流石に無理にゃ。
クロ 出来たら怖いよ。
サクラ あと、壁ドンにもさり気なく憧れてるの知ってる! 廊下で、練習していた時あったでしょ。あたし、見たんだから!
ミドリ なんでそんなとこ見てるの! 見たのなら止めてよ!
サクラ だってトイレ行きたくてドア開けたら「俺のことどう思ってるんだよ」「え、何急に」なんて一人で言ってるの見たら止めるに止められないでしょ! うちの妹は色々と大丈夫かなって心配になるでしょ!
クロ うわー。
タマ それは心配になりますね。
トラ 心配するにゃ。
ミドリ 違うから! そんなことやってたのは中学までだから!
サクラ 去年くらいの話だけどね!
ミドリ どうせお姉ちゃんが知っているあたしなんて、そんな馬鹿なところばかりだよ!
サクラ それだけじゃない! 他に知ってることだってある!
ミドリ 何があるっていうのよ!
サクラ 私は知ってる! ミドリが一人ぼっちの猫を放っておけない優しい子だってこと。親が反対しても、子猫のために自分の信じる正しさを貫ける強い子だってこと。裏切られても、相手を悪く言うことなんて無い友達思いの子だってこと。ミドリの良いところは全部知ってる! ミドリこそ知らないでしょ。あたしが、どれだけミドリが好きで好きでしょうがないか。ミドリが傷ついているのに気づけなくって、どんなに悔しく思っているのか。
ミドリ そんなの、知らない。
サクラ そうだよね。言わなかったもんね。あたしも、聞かなかった。……ごめん。
ミドリ なんで謝るの。
サクラ 気づけなくてごめん。あたしは、あんたのお姉ちゃんなのに。ごめん。
ミドリ あたしは! 謝ってほしいわけじゃない!
サクラ だから……チャンスをちょうだい。
ミドリ チャンス?
サクラ ミドリのお姉ちゃんでいられるチャンスを。ミドリを知る機会を私に頂戴!
ミドリ あたしに、そこまでしてもらう価値ないよ。
サクラ じゃあ、ミドリに、ミドリの価値を教える機会も頂戴。ミドリがどんなに大事かあたしが教えるから。
ミドリ ……あたしに価値なんてあるのかな。
サクラ ある!
ミドリ ……あたし、生きてていいのかな。
サクラ 当然!
ミドリ ……お姉ちゃん。
サクラ なに!?
ミドリ あたし……生きていたい。人でいたいよ。
サクラ うん! うん! いいんだよ。それでいいの!
ミドリとサクラは抱き合う。全てが解決したような雰囲気になる。
タマ ……そんなうまい話があると思っているの?
ミドリ え。
タマ 猫になりたいと我らに力を求め、身内と話した途端に考えを変える。そんなことが許されると思っているの?
ミドリ それは、その、
サクラ ごめんなさい。妹が迷惑をかけました。許してください。
ミドリ すいません。
タマ 頭を下げて済む話ではないでしょう。
サクラ じゃあ、どうすればいいんですか?
タマ わびたいというのなら、二人揃って猫になればいい。ちょうど数も合う。
サクラ どういうこと?
タマ 人間が猫になるには何が必要だと思う?(と、アオを見る)
ミドリ 何が、必要か?
アオ 器となる猫の体。
タマ そう。そして、ここに二匹の猫がいる。
トラ ちょうど人間になってみたいと思っていたにゃ。もうちょっとでうまくいくとこだったにゃ。
クロ 今更逃がすわけ無いよね?
ミドリ それって、つまり?
タマ 我はタマ。御霊を操る、猫の女王。人間が猫になる方法とは、猫と人間の器を魂が交換することを言う。
クロ あんたたちの魂が、我々の体に入り、
トラ 我々の魂が、あんたたちの体に入る。
ミドリ 猫になるって、このまま猫の体になるとかそういうんじゃないの?
クロ そんなことしたら、人間が減って猫だけが異様に増えることになるでしょう?
トラ 言ったよね。最近、猫になる人間は多いって。
タマ そして、数は揃っていると。なぜ、そこにいるアオが、器として数に入ってないかわかりませんか?
ミドリ まさか。
アオ 私は以前、人だったから。人から猫に魂を移したものだから。人に戻ることは望まない。
ミドリ もとは、人間だった?
クロ あんたの知っている人だったりして。
ミドリ 人の体に猫が入って、周りが気づかないわけない!
タマ 本当に?
クロ あんたは「友達」の本音に気づけたの?
トラ 両親が本当はどう思っているか確信できる?
クロ 姉の気持ちを「知らない」と言ったあんたが?
ミドリ それは、でも、さすがに猫と人間だったら。
タマ 人間が思うほど、我々は愚かじゃない。
クロ それに、人間が猫になる時力を得るのと同じように、
トラ 我々もまた、人間の体に魂を移した時に力を得る。
タマ 生命力や体力も上がりますが、それはおまけ。大事なのは知恵と知識。
ミドリ 知恵と知識?
トラ 人間の脳にあったものは、猫がそのまま受け取るから。
クロ 魂だけが別で、知識も姿形も同じなら、元猫だとは気づかない。
タマ あなた達が話している間に力もたまりました。大丈夫。猫の中にも、元人間は大勢います。すぐに打ち解けられますよ。
ミドリ お姉ちゃん。
サクラ 最初からまともに帰すつもりはなかったってこと? 連れてきたら、必ず猫にするようになっていたの?
タマ それは誤解です。我はその人間に覚悟を問いました。そして、人間は頷いた。その時点で契約はなされたということです。
クロ まあ、大抵の人間はここに連れてきた時点で素直に猫になるけど。
トラ 逃げたところで帰り道がわからないしね。
ミドリ そうだ。猫の魔法陣を使ってきたんだった。
サクラ それなら大丈夫よ。
ミドリ え?
サクラ (と、猫達に)悪いけど、帰らせてもらう。
タマ 我は、そんなうまい話があると思っているのかと言いましたよ。トラ。クロ。アオ!
トラ にゃ。
クロ 大人しくしろ。
と、アオは動かない。自分の鼻をつまむ。
タマ アオ? 何をしているの?
アオ 鼻をつまんでいます。
クロ 何故鼻をつまむ?
アオ ちらりと見えたから。
トラ 何が?
と、サクラはみかんを取り出す。
サクラ これでもくらえ!(と、みかんを握る)
と、みかんが潰れ、果汁が飛び散る音がする。
トラ にゃ!
タマ これは、みかん!?
クロ 酸っぱい! 酸っぱいよ!
トラ 目に入ったにゃ! 目に入ったにゃ!
クロ 目をぱちぱちしないと。
タマ 目を閉じて、鼻をつまみなさい。匂いさえ感じなければどうとでもなります。って、この匂い、まさか。
サクラ そう。このみかんは、少しカビている。
タマ なんという毒物攻撃を!!
サクラ そして、これだ!
と、スマホを操作する。でかい音が鳴る。例えば太鼓。雷。大雨。
トラ にゃーーーー!?
クロ 何!? この音。怖い。
タマ うろたえる必要はありません。ただの音です。そうでしょう? そうだと言いなさい!
サクラ 今よ!
ミドリ う、うん。
アオ 逃げるならこっちへ。
と、サクラ、ミドリ、アオが逃げ去る。
タマ 待て、逃してはなりません! クロ! トラ!
クロ 大きな音怖い、大きな音怖い。
トラ 目が痛いにゃ、目が痛いにゃ。
タマ まったく。これだから人間というのは油断ならない。ふん。せいぜいしぶとく生き続けるが良い。
もう、猫にはしてあげませんからね!
タマとクロ、トラの姿が消える。
あたりは神社の境内へと姿を変える。
9 猫の日の夜に、生きたい少女
夜の境内に、ミドリとサクラは走ってくる。
二人共、走り疲れている。
サクラ よし、ここまでくれば、大丈夫。
ミドリ ここは、境内? どうやって?
サクラ 猫しかわからない道を通ったから。
ミドリ なんでそんな道を知っているの?
サクラ アオって呼ばれていた猫に教えてもらったの。
ミドリ その猫は?
サクラ え?……いないね。道もないし。
ミドリ じゃあ、もうあそこへ行くことは出来ないんだ。
サクラ まだ猫になりたいの?
ミドリ ううん。そうじゃなくて。あたしスマフォ落としたっぽいんだよね。
サクラ ああ、それなら拾っておいた。(と、スマフォを見せる)
ミドリ (と、受け取り)うわ、お母さんからの着信が凄い。
サクラ 私もだ。
ミドリ なんて言おう。
サクラ 歩きながら考えようか。
ミドリ だね。ねえ、お姉ちゃん。
サクラ うん?
ミドリ その、今日はありがとう。
サクラ いいのよ。ほら、私はミドリのお姉ちゃんだからね。
ミドリ 偉そうにしてるけど、一つしか年離れてないからね。
サクラ 一年の差はでかいと思うなぁ。
と、電話の音。
ミドリ やば。お母さんだ。
サクラ 今から帰るって言っておけばいいよ。
ミドリ 絶対怒られるよ。(と、電話に出て)はい。……ちょっと、怒鳴らなくても聞こえてるから。はい。ごめんなさい。今から帰ります。え? 買ってきてほしいもの? なに?
と、ミドリが去る。
と、アオが現れる。そのことをサクラはわかっている。
アオ ありがとう。あの子を救ってくれて。
サクラ 私はお姉ちゃんだから。まだ、見習いみたいなものだけど。
アオ 立派に姉をしていたよ。
サクラ だとしたら、きっと姉さんのおかげかな。
アオ 姉さん?
サクラ 私は、私が昔姉さんにしてもらったことをしたかっただけだから。
アオ あなたにお姉さんがいたの?
サクラ とても立派な姉さんだったよ。弱っていた私を、なんの見返りも求めずに助けてくれた。遠い猫の日。あの凍えそうな夜に、側にいてくれた。凍える私に新聞紙の布団をくれて。毛布をかけてくれた。
アオ そんな大層な存在じゃない。
サクラ なんでそんな事を言うの?
アオ だって、私は何もできなかったから。
サクラ 側にいてくれた。
アオ それだけよ。
サクラ それだけで良かった。それだけで救われる命もあるの。それだけで暖かくなる魂(たましい)があるの!きっと、あなたもそうだったはず。そばに誰かがいたら救われてた! それが、私じゃなかったのは寂しいけど。
アオ 寂しくて寂しくて仕方なかった。世界にたった一人みたいな気持ちで。自分をわかってくれる人なんていないって。だから、あんなことが簡単にできたんだと思う。
と、アオが自分の手首を見る。かつての傷に思いを馳せる。
サクラも自分の手首を見る。サクラの手首にはリストバンドが巻かれている。
何処かに猫の女王が現れる。それはかつての一人と一匹の記憶の風景。
タマ 小さき声が聞こえると思ったら。よくこの寒い中元気でいてくれました。さあ、帰りますよ。……その人間が冷たくなっていくのはお前のせいではありません。ほら、この傷。この者は自ら望んでその灯火を消そうとしているのです。……助ける方法ですか? 傷を癒やし生命力を高める方法はあります。でも、そのためには、あなた達の魂を交換する必要がありますよ?
肯定するような猫の鳴き声。頷くと猫の女王は去る。
アオ ……そうだね。誰かがそばにいるって思えたら良かった。ただそれだけで救われてた。私は気づけなかったよ。
サクラ だから、私があなたの意思を継ぐ。
アオ うん。ありがとう。
と、ミドリの声がする。アオは去ろうとする。
ミドリ声 お姉ちゃん、何やってるの? 置いていくよ!
サクラ (と、アオに)ねえ、いいの?
アオ いいんだ。もう。
サクラ (と、妹に応えるよう大声で)ごめん。すぐ行く! ……じゃあね。
アオ うん。さようなら。
と、ミドリがやって来る。
ミドリ お姉ちゃん? どうしたの?
と、サクラはアオに伸ばしていた手をミドリに差し出す。
サクラとミドリを遠くでアオは見ている。
サクラ はい。
ミドリ なに?
サクラ 寒いから手を繋いで帰ろう。
ミドリ ヤだよ恥ずかしい。
サクラ 今日くらい良いでしょ。ね?
ミドリ 仕方ないなぁ。(と、手をつなぐ)
サクラ ……ねえ、ミドリ。
ミドリ なに?
サクラ&アオ 私の妹でいてくれてありがとう。
ミドリ どうしたの、急に。
サクラ 別に。言いたくなっただけ。
音楽
仲良く帰る二人をアオは見守っている。やがてうずくまり、泣きそうになる。
トラとクロがやってくる。二匹はアオに寄り添う。
猫の女王がやってきて、三匹をまとめて抱きしめる。
アオはあったかさに笑ってしまう。
溶暗
参考資料
青沼陽子(2013)『猫の飼い方・しつけ方』成美堂出版
山寺の和尚さん 作詞:久保田宵二
猫ふんじゃった 作詞:阪田寛夫
あとがき 猫が好きです。 数年ぶりに6人劇を書いたら、前に書いた6人台本も猫が出てくる話だった―― というくらい猫が好きです。しかし、アレルギー体質なので猫は飼えない。そのため、 猫について書かれた本を読むことで猫を飼いたい気持ちを抑えています。 まあ、そんなことはともかく。 どうしようもなく寂しくなる時ってありますよね。 そんな時に猫が鳴いてくれたら、人間辞めたくなるかもしれない。 そして、どんな多くの言葉をかけられるよりも、 ただそこにいてくれることだけで救われることがある。 なんて思いながら書かれた作品です。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 |