お姉ちゃんロボ
作 楽静


登場人物

現実の世界の人々
語り部 神崎ココロ 20代 高校生向け小説雑誌コバ○ト系の小説家
編集員 周藤マコト 20代 新人編集員
              
物語(2036年)の世界の人々
ミズキ 中学二年生
セルフ ロボット セルフタイプ・2014S
父親 ミズキの父親。40代程度。
母親 ミズキの母親。40代程度。
ツヨシ ミズキの友達。
武田 武田刑事。射撃が得意。
川島 川島刑事。直接攻撃(主に素手)が得意。
ギル RK(ロボット・キラー)と化したロボット セルフタイプ・2035T
客入れ ロボット セルフタイプ・2025A
金持ち ギルを所有していた人物。

※ 初演時、金持ち役は先生にお願いしていました。
※ ツヨシ役と客入れは証明係りの子(2人)が交代で演じていたため、出落ちキャラとなってます。
※ 作中には出てきませんが、セルフタイプの数字四桁は製造年となります。セルフの製造年が、
 購入時期と合わないのは中古だった為です。価格としてはA→S→Tとなります。 



0 某劇場にて


    とある夜。
    客入れように現れるロボット。
    少々硬い動きであるが、それは緊張のためか仕様なのかわからない。
    そして、当たり前のように作られていく舞台の中で、私たちに向かって口を開く。


客入れ 皆様初めまして。私の名前は型番号セルフ2025A。見てのとおり、といわれても
    見た目はまったく皆様とは変わりませんが、ロボットと言われるもののひとつでございます。
    当劇場ではアクトという名で呼ばれております。お見知りおきを。
    さて、時は2036年。我々ロボットと言われる存在も、広く認知されるようになり、
    一般の人々と見分けのつかないようになってまいりました。
    そんな折り政府が出した俗に言う「フェイスレス」政策は、皆様のお耳にも新しいかと思われます。
    ロボットから顔を取り除き、人間と区別するというこの政策は、我々ロボットの認識からは
    理解しがたいものでありますが、全ては皆様のため、喜んでお応えするつもりでございます。
    そんな時でございました。今回の事件が起こったのは、


    と、そこまで言ったところで、ギルが現れる。


ギル 何をしている?

客入れ ああ、今客入れの最終リハーサルを……

ギル お前にそんなもの必要ないだろう。

客入れ いえ。間の整理や客席の空気というものも計算に入れておかないうちには……
    と、どちら様でしょうか?

ギル 名乗る名はない。

客入れ スタッフのIDがなければ、当劇場には入れないはずですが? 
    チケムが通したのですか?

ギル チケム? ああ。受付にいたあのロボットか。だったら、今頃は眠っているはずだ。

客入れ 眠る? 我々ロボットに睡眠は存在しませんが、

ギル だから、眠っているといったんだ。ただし、もう目覚めはしないがな!


    ギルが背中に隠していた剣で切りかかる。
    客入れが間一髪で避ける。


客入れ 壊したのですね。

ギル 魂なんてものがお前らにあるとは思わんが。お前も仲良く永眠させてやるよ。

客入れ RKですか。

ギル ロボット・キラー。そう呼ばれてはいるよ。人間は、名前が好きだからな!


    ギルが剣を構える。
    と、そこに武田と川島が入ってくる。


武田 そこまでよ!RK!

川島 おとなしく武器を捨てなさい。

ギル 今回は早かったな。

武田 ふっふっふ。私のカンを甘く見ないことね。

川島 セルフシリーズ限定で網をはらせてもらったのよ。
   受付のロボット君には悪いことしたけど。

ギル だったら今度からはもう少し早く動くんだな。じゃないと、これからも犠牲は増える。

川島 ここで終わりよ。

武田 これ以上好きにはさせないわよ。

ギル どうかな!


    ギルが客入れを切る。


武田 RK!

川島 貴様!


    客入れが倒れそうになると、それを、川島に押し付ける。
    川島が武田に押し付ける。
    武田は支えきれず、倒れる。


ギル 止まらないさ。俺は。

川島 待て!

武田 待ってぇ(情けなく)


    ギルが去る。


川島 気が抜ける声を出すな!

武田 だって、これ、重い。

川島 そりゃそうでしょうね。人型って言ってもロボットだし。じゃ、あたしは行くから。

武田 助けてよ〜。

川島 えぇー。

武田 いや、「えぇー」じゃなくて。重いから。

川島 仕方ないわねぇ。

武田 ほら、友情パワー!

川島 そんなものは無い。


    武田と川島が一人を持ち上げて運んでいく。



1 語り部 神崎自宅 夜。


    と、いつの間にか景色は変わり、そこは語り部の家。
    深夜近くだろうか。
    食べ散らかされたゴミを片付けつつ、
    編集員が現れる。


編集員 RKと呼ばれる男は闇の中へと姿を消した。刑事の武田と川島は、
    あざけりのように響く金属音をただただ聞いているしかなかったのである……か。うん。
    まぁ、出だしは良いんじゃないですか?


    と、語り部も現れる。コーヒーかなんか飲みつつ。


語り部 出だしだけなんだよねぇ。

編集員 それは私の台詞ですから。

語り部 そうでした。

編集員 それにしても、新作はSFですか。

語り部 うん。新しいことやろうかなって思って。

編集員 ちょっと、難しいと思いますけどね。最近の流行とは少し違いますから。

語り部 でしょう?(得意そうに)

編集員 しかも2036年って設定がなんか微妙に近くてリアリティないし。

語り部 そうなんだよねぇ(また得意そうに)

編集員 さらに言わせてもらうと、劇場から始まるなんて、
    ちょっと狙いすぎじゃないですか?

語り部 だと思ったのだわ(さらに得意になる)

編集員 え、ちょっと、私の話、聞いてます?

語り部 聞いてる聞いてる。

編集員 じゃあ、なんでそんな得意そうなんですか?

語り部 え? だから、それが狙いだからよ。

編集員 えぇ〜っ。

語り部 言うでしょ? 
    「他と同じことをやってもつまらない。常に独創的になるべし」ってね。

編集員 誰ですか、そんなことを言ったのは。

語り部 お母さん。

編集員 はぁ?

語り部 出てきたのよ。夢枕に立ってね。言ったのよ、昨日。

編集員 いや、生きてますよね、お母さん。埼玉でしたっけ?

語り部 宮城。やめてよね。分からない場所を全部埼玉にするの。

編集員 たまたま覚えてなかっただけじゃないですか。

語り部 まこっちゃん、こないだコブクロの二人の出身地聞いたときも、言ったでしょ。
    黒田さんが大阪で、小渕さんが、

編集員 埼玉。

語り部 だから、なんでも分からないのを埼玉にしないで。

編集員 すいません。って、だから生きてますよね、お母さん。

語り部 だから夢枕に立ったんでしょ? 会いにこられないから。

編集員 えぇ〜っ

語り部 そのとき思ったのよね。「そうか。あたしに足りなかったのは独創性だ!」って。

編集員 だからってそれでSFって……って、昨日?

語り部 昨日。

編集員 あれ? 今月の締め切り、私いつってお伝えしましたっけ?

語り部 明日。

編集員 そのこと、いつお伝えしましたっけ?

語り部 あ、コーヒー飲む? 紅茶もあったはずなんだけど、どっかいっちゃってて。

編集員 飲みません。

語り部 そっか。

編集員 ……じゃなくて、いつお伝えしたかって聞いてるんです!

語り部 ああ。えっとねぇ。

編集員 一月前ですよ! 一月前!

語り部 やだなぁ。ほんの、29日と24時間前でしょ?

編集員 それを一月前って言うんです!

語り部 ちっちゃいよ。そんなの宇宙の成り立ちに比べたらねぇ、(ほんの一瞬の出来事よ)

編集員 比べなくて良いですから。え、で、昨日思いたって? で、どうしたんですか?

語り部 だから書いたのよ。

編集員 つづきは?

語り部 え?

編集員 つづきですよ。つづき。

語り部 あ、コーヒー飲む?

編集員 いりません!

語り部 インスタントじゃないよ? 引き立て。

編集員 そんなことより原稿をください原稿を!

語り部 やだなぁ。もうあげてるじゃない。

編集員 どこにですか?

語り部 それ。

編集員 ……神崎さん。

語り部 はい?

編集員 もう一度言いますけど、しめきりは明日なんですよ?

語り部 うん。

編集員 なんでこれだけしかできてないんですか! 
    せめて、30枚はってお願いしたはずでしょう!

語り部 無理よ〜一日で30枚なんて。

編集員 じゃあなんでもっと早く書かない!

語り部 そうなんだよね。あたしっていつもそう。


    なぜかシリアスっぽい曲が流れる。


編集員 え、なにこの曲。

語り部 やろうやろうとは思っているんだけどさ。今回だって、締め切り聞いた時には
    「よし、明日からやろう」って思ったんだ。でも、次の日、ゲームが発売してさ。
    それやっとクリアーしたと思ったら、限定のイベントが次の日にあるっていうし。
    ひどいと思わない? ゲームクリアーしたと思ったらだよ? そりゃあ、そういう
    イベントでさらにゲームの販売数を伸ばそうと思ってのことかもしれない。でも、
    だからってあたしがクリアーした次の日にイベントって。

編集員 行ったんですか?

語り部 行ったよ。そしたら、そこのシナリオライターが出したって言う、違うゲームが
    出ていてさ。よりにもよってホラー。苦手なのよホラー。でも、やらなきゃって思う
    じゃない? で、終わったと思ったら、また違うゲームのイベントがあってね。もう、
    なんでこんなにこの時期イベントばっかり重なるの。人間、体は一つしかないのにね。

編集員 こらー。だから、そんないい曲入れるとこじゃないだろここ! 違うよ! 
    入れるとこ間違っているから!

語り部 でも、ゲーマーとしてはさ、やらないわけにはって思うのよ。
    一人でゲームやってると止めてくれる人がいなくてさぁ。で、気がついたら……

編集員 気がついたらじゃ無い!


    曲がとまる。


語り部 あ。あと、原作が販売されたからそれ読んだりとかね。

編集員 神崎さん。

語り部 それがね、上中下だけならまだしも、「完結編」まで出たのよ。
    なによ、「完結編」って。読者を馬鹿にしているわよねぇ。

編集員 読者を馬鹿にしているのはあなたですよ! いいですか神崎さん。
    前回言いましたよね? 「今回締め切りを守らなかったら見捨てられますよ」って。

語り部 言われたけどさぁ。

編集員 もう、うちの編集部では神崎さんは終わったと思っている人たちもいるって、
    言いましたよね?

語り部 それも、言われたけどさぁ。

編集員 正直、私も見捨てたいです。

語り部 え! うそっ。まこっちゃんは絶対見捨てないって言ったじゃん!

編集員 だから頑張ってくださいって言ったはずです。言いましたよね。がんばるって。

語り部 言ったけどさ。

編集員 いくら、あのことがあったからって……

語り部 その話はやめて。

編集員 でも、神崎さん、

語り部 あれは、関係ないから。出てったのは、私のせいじゃないし。

編集員 連絡、してないんですか?

語り部 ……

編集員 あれからずっと? ……別に、たいした喧嘩だったわけじゃないんですよね?

語り部 あいつが悪いのよ。居候のくせに、こっちの生活にケチばっかりつけて。しまいには、
    人の食べるものにまで口出してくるのよ。「そんなものばっかり食べてたらぶくぶく太るよ」
    なんて言って。

編集員 それは妹だから、ほら、お姉さんのことは気になるっていうか。

語り部 そうやってみんなあいつの味方ばっかりするんだから。

編集員 味方ってわけじゃないですけど……そりゃお姉さんが引きこもって
    ゲームばっかりやって、小説書いて食ってるなんていったら、誰だって心配しますよ。

語り部 母さんだって、あいつの味方してさ。こっちは家に仕送りまでしているのよ。
    なんで私の方が悪く言われなきゃいけないのよ。

編集員 でも、結構仲良くやっていたじゃないですか。

語り部 もういいから。あれの話はしないで。

編集員 ……じゃあしませんけど。それでどうなんですか。書けるんですか?

語り部 わからないなぁ(ふざけて)

編集員 (ため息)編集長に連絡しておきます。穴を埋めなきゃならないんで。

語り部 分からないのよ。何を書けばいいか。

編集員 ……。

語り部 どう書いていいか。どう書いていたのかも。これだったら、いけるかもって思ったんだけど、
    それも自信なくて。設定だけはできてるの。それは本当。でも、いざ書くとなると……
    自信がないの。全然。そしたら頭の中真っ白になっちゃって。それで……

編集員 (ため息)

語り部 もしかしたら、本当に駄目かも。そう思いたくないけど、思ったら、怖くって。

編集員 ……設定は、出来ているんですよね。

語り部 え?

編集員 自信があれば、書けるんですね?

語り部 多分。

編集員 じゃあ、私が見てあげますから。少しずつ書いていきましょう。

語り部 いいの?

編集員 いいも何も、そうしなきゃ原稿落ちちゃうんですからね。

語り部 もう間に合わないかも。

編集員 まだ時間があります。

語り部 ごめんね。

編集員 それが仕事です。ほら、早く準備して!

語り部 はいはい。


    語り部は書く準備を始める。


編集員 まったく。人がいいなぁあたしも。

語り部 あ、まこっちゃん。

編集員 なんですか?

語り部 コーヒー飲む?

編集員 いりません!

語り部 おいしいのに。

編集員 で、この後はどうなるんですか?

語り部 ああ。一回家族の話になるの予定なの。

編集員 家族?

語り部 そう。フェイスレス政策で、顔のあるロボットがいなくなるわけでしょ。でも、
    中にはロボットと家族みたいに接していた家もあってね。その中の一つのお話。

編集員 家族、ですか。

語り部 そう。……昔の、私とあの子みたいに。

編集員 どんな、家族なんですか?

語り部 普通の家族よ。お父さんがいて、お母さんがいて、そして、女の子。

編集員 女の子――


    語り部が、書き出し始める。



2 2036年ミズキの家 昼間。



     そこはすでにミズキの家のリビング。
     中流のごくごく幸せな家族の一間といったところ。
     未来とはいえ、人々の服の流行はそれほど奇抜ではない。

     と、ミズキが現れる。
     そして、その友達も


ミズキ ただいまぁ。おかーさん? おなかすいたよ〜。

ツヨシ こんにちはぁ。おじゃましまーす。

編集員 あの子は?

語り部 女の子の友達。とりあえず、出してみた。

ツヨシ え、とりあえず、なの? 俺。

ミズキ ツヨシ君、だれに話してるの?

ツヨシ ううん。なんでもない。


    と、セルフが入ってくる


セルフ あらあらあら、ミズキお帰り。ツヨシ君も。

ミズキ あれ? お姉ちゃん。いたんだ。

ツヨシ こんにちは。

セルフ いたんだじゃないわよ。ほら、洗っちゃうからお弁当箱出して。

ミズキ はーい。(ツヨシに)じゃあ、着替えてくるから。

ツヨシ オッケー。


     ミズキが去ろうとすると、ツヨシもついていこうとする。
     ミズキがツヨシを見る。
     ツヨシが笑う。

ミズキ お姉ちゃんよろしく

セルフ うん。分かってる。


     セルフがツヨシを掴む。
     ミズキが去る。

セルフ お弁当箱流しに置くの忘れないでよ〜。

ミズキ (声だけ)分かってるって。

セルフ それにしても、ツヨシ君も大変ね。毎日毎日。

ツヨシ いや別に。どうせ家帰る途中だし。

セルフ 愛よね。(ツヨシを放りつつ)

ツヨシ え?

セルフ 幼馴染から始まる関係。それは成長と共に、見えない形を変えていく。ふと、
    ある日気づく現実。「そうか、俺はあいつが……」そして、少年は勇気を振り絞って
    少女に言うのよ。「俺が、甲子園に連れて行ってやるよ」

ツヨシ いや、そんなこと無いですから。

セルフ まぁまぁ。言っておくけど、「妹に手を出したらゆるさへんでぇ」

ツヨシ 何で関西弁?

セルフ われ、うちの妹に傷つけたら、生まれたこと後悔させたるで。

ツヨシ だから、ただの友達ですって。まだ。

セルフ まだぁ?

ツヨシ いえ。全然。ないですから、そういうのはこれっぽっちも。

セルフ ならいいのよ。あ、そうだ。ついでにツヨシ君もお弁当箱だしなさい。
    洗ってあげるから。

ツヨシ いや、俺はいいですよ。

セルフ 何言ってるの。そうやって放っておくとね。お弁当箱の中がカピカピになって、
    洗いにくくなっちゃうんだから。ツヨシ君のお母さんが困っちゃうでしょ。

ツヨシ うちの母さん、弁当箱なんて洗わないから。

セルフ じゃあ誰が洗うのよ? 妖精? え、ツヨシ君ちって妖精がいるの? 
    だめよ、妖精に任せるなんて。妖精に任せるなんて、よーせーなんつって。


     ミズキが現れる。
     私服に着替えている。


ミズキ ……お姉ちゃん寒い。

セルフ (咳払いしつつ)寒くない寒くない。もうすぐ四月なんだからあったかいでしょ
    むしろ。暑いくらいでしょ。え、もしかしてあれ? ミズキ風邪引いてるの? 
    だめよ風邪は。ああ、あれだ。昨日おなか出して寝てたから。

ミズキ お腹なんて出してないから!

セルフ 出してたわよぉ。何回布団掛けてもすぐまた布団はいでお腹出すんだから。
    一回ビデオにとっておこうかと思ったわよ。っていうか、とっちゃったわよビデオに。
    今度見せてあげる。

ミズキ とったのぉ!?

セルフ だって、可愛かったんだもん。

ツヨシ お前、腹出して寝てるのかよ。

ミズキ だから出してないって! お姉ちゃん! 変なこと言わないで!

セルフ 大丈夫よ。聞いているのはツヨシ君くらいでしょ。もし万が一ツヨシ君が、
    「ミズキはお腹出して寝ていたぞ」って言いふらそうとしても、
    こっちにもネタはあるから。

ミズキ ネタって何よ。

ツヨシ 俺は腹出して寝たりしないよ。

ミズキ どうだか。

セルフ 腹は出さないよねぇ。腹は。

ツヨシ なんだよその言い方。

セルフ くっくっく。

ツヨシ 何を出してたんだ俺は〜!?

ミズキ ツヨシ君、おちついて。

セルフ ばらされたくなかったらお弁当箱を出すことね。

ツヨシ だからいいって。弁当箱くらい、うちのゴンダでも洗えるんだから。

セルフ でも、今メンテ中でしょ?

ミズキ なんだ、そうなの?

ツヨシ え? そんなの俺聞いてないけど、


    と、母親がやってくる。


母親 ああ、セルフ良かった。ねぇ、あたし、あれ、どこやったっけ?

セルフ あれですか?

母親 そう、あれよ、あれ。ほら、あれ。あれだったでしょ? そのあれ。

セルフ それはシャンプー、唐辛子、ハサミ、てんぷら油、布団たたき、ゴミ袋、
    枕、シャンプーのうちのどれですか?

ツヨシ おい、今シャンプー二回いったぞ。

ミズキ 最近多いんだ。

母親 それじゃなくて、あれよあれ。あの、ほら、あそこのあっちにあったあれの、あれ。

セルフ 待ってください。……それは禁止ワードですか?

母親 そう、それ。

セルフ 二階の床の間の、

母親 そうそう! いいわよ。それで思い出した。

ミズキ 今回のへそくりは床の間か。

ツヨシ 後で探すんだろ?

ミズキ うん。

母親 ああ、ミズキ。お帰り。

ミズキ ただいま。

ツヨシ お邪魔してます。

母親 あら、ツヨシ君。駄目じゃないうちにいちゃあ。

ツヨシ え? 何がですか。

母親 聞いてないの? ゴンダさんのこと。

ツヨシ ああ、今、メンテ中だって、セルフさんに。

母親 そうよ、メンテナンス中なのよ。

ツヨシ え? もしかしてそれって!

母親 出たらしいわよ。さっき。

ミズキ 出たらしいって、じゃあ、

ツヨシ だって、ゴンダはセルフシリーズじゃないのに。

母親 お隣の小川さんちの、(セルフに)ね?

セルフ ロボロさんを守って、結局一緒に……

ツヨシ ミズキちゃん、俺。

ミズキ いいよ。早く行ってあげて。

ツヨシ うん。お邪魔しました!


    ツヨシが去る。


3 


セルフ ツヨシ君お弁当箱は! ……って、それどこじゃないわよね。

ミズキ 大丈夫なの? ゴンダさん。

セルフ (項垂れる)

ミズキ そっか……それで、お姉ちゃんは家にいるんだ。

セルフ そうなの。あたしは大丈夫って言ったんだけどお母さんがね。

母親 だって、あなたに何かあったらどうするのよ。

セルフ 並みのロボットには負けませんよ。

ミズキ お姉ちゃんには、お姉ちゃんパンチがあるもんね。

セルフ そうよ。この辺のこっからね、バーンって出てくるんだから。

母親 無いでしょそんなの。

セルフ はい、無いです。

ミズキ 無いのぉ!? え? じゃあ、お姉ちゃんキックは?

セルフ この辺のこっからね、ドドーンと……

母親 無いわよね。

セルフ ありません。

ミズキ じゃあ、簡単にやられちゃうじゃん。

セルフ そこら辺は大丈夫よぉ。お姉ちゃんはめったに負けないんだから。

母親 その、めったに負けないロボットでもやられちゃってるから心配するんでしょ?

セルフ すいません。

ミズキ そういえば帰るときパトカー何台か通ってたよ。

母親 この辺にも出るなんてねぇ。

セルフ すいません。

母親 あなたが謝ることじゃないでしょ。

セルフ でも、もしかしたら私と同じ型かもしれませんし。

母親 型っていう言い方は禁止したはずよ。

セルフ 同族かも、

母親 同族も禁止。

セルフ 兄弟かもしれませんから。

ミズキ お姉ちゃんの妹はちゃんとここにいるでしょ。

セルフ ミズキ……

母親 誰も、あなたを他のロボットと同じなんて思ってないんですからね。
   何年一緒にいると思ってるのよ。

ミズキ あたしが二歳からだから、12年だよね。

セルフ 正確には12年と10ヶ月と15日です。

母親 そういうことを言っているんじゃなくてね、


    と、父親が入ってくる。


父親 参った参った。

ミズキ あ、お父さんお帰り。

母親 おかえりなさい。

父親 ただいま。あ、セルフもちゃんといるな。

母親 ちゃんと言われたとおり外には出してませんから。

セルフ それでは用事がこなせないんですが。

父親 いいじゃないか。一日くらいゆっくり休みなさい。俺だって休みたいよ。あ、お風呂は?

母親 いつでも沸いてますよ。


    とか言いながら、一度父と母が去る。
    この間、セルフは文字通り休んでいる(機能一時停止)


ミズキ (奥に向かって)お父さん、今日休みだったっけ?

父親声 ああ、ちょっと工場行ってたんだ。電話じゃらち明かなかったんでな。

ミズキ 工場って何の?

父親声 風呂から出たら話すよ。

ミズキ なんの工場だろ。(セルフに)ね? お姉ちゃん? お姉ちゃん!

セルフ (機械的に)音声認識、起動します。


     と、途端になるエラー音。


ミズキ お姉ちゃん!?

セルフ (機械的に)実行エラー。リトライします。リトライ中。
    ……リトライ中。……リトライ中。……リ、ト、ライちゅーーーーー。


    と、そのまま崩れる。


ミズキ お姉ちゃん! お母さん! お姉ちゃんがまた止まっちゃったよ!


     ミズキがセルフを連れて行く。


4 再び語り部の家 先ほどから時間は結構経過。


語り部 父親の言葉を命令と認識し、セルフが一時スリープモードになっていたことを
    家族が知ったのは、それからしばらく後のことだった。と。

編集員 しかし、えらくシュールな展開ですね。

語り部 駄目かな。

編集員 いいんじゃないですか? 家族が暖かくて。

語り部 家族、だからね。

編集員 それにしても、未だに「フェイスレス」政策について触れられていないのは、
    なぜですか?

語り部 ああ、それはこれから明らかにしていこうかなと。

編集員 ちょっと遅すぎるんじゃないですか? そもそもどういう政策なんです? 
    ロボットの顔を取り除く、でしたっけ。

語り部 うん。今、歩くロボットとか、走るロボットとか、普通に出ているでしょ。

編集員 そうですね。

語り部 そのうち、人間そっくりなロボットも生まれるでしょ。アトムみたいな。

編集員 ああ、万博に人間そっくりな受付ロボットって出てましたね。

語り部 そのほうが人間味があるし、親しみやすくなるのかもとも思ったけど、でもさ、

編集員 でも?

語り部 怖いかなって。

編集員 人間の顔が?

語り部 近すぎちゃって。家族じゃないのに、家族みたいに思えちゃって。そうしたら、
    何でもかんでもやらせるって出来なくなっちゃうと思うんだ。

編集員 ああ、なんかそんな映画あった気がしますよ。

語り部 うっそぉ!?

編集員 AIとか。アンドリューとか。みたいなですよね。

語り部 じゃあ、ぼつか。

編集員 没じゃない没じゃない! せっかく書いているんだから。ね? 
    このまま書きましょう。

語り部 本当に?

編集員 本当に。で、そうならないように政府が考えたのが?

語り部 「フェイスレス」つまり、顔をロボットっぽい顔に戻しちゃおうってわけ。

編集員 なるほどね。でも、愛着をすでに持っちゃった人もいるわけですね。

語り部 うん。で、問題がおきてるわけです。

編集員 ロボットが破壊されるとか?

語り部 それはこれから。

編集員 よし。では続きを書きなさい。

語り部 イエッサー。


5 2036年 とある道端。 昼間。


     と、武田が出てくる。
     片手には携帯?

武田 はい。こちら武田。そうですか。また……了解です。すぐ現場に向かいます。

編集員 あれは?

語り部 武田刑事。ロボットが破壊されてる事件を追っている刑事たちの一人。
    射撃が得意なの。ドジだけど。

編集員 ああ、ドジそうですね。


    武田が編集員をにらむ。
    と、川島がやってくる。


川島 武田。今度はどこ?

編集員 そしてこっちが川島ですね。武田の同期?

語り部 ううん。一個後輩。

編集員 タメ語ですけど?

語り部 本当は武田が面倒を見るはずだったんだけど、
    いつの間にか立場が逆転しちゃってるの。

編集員 まぁそうだろうなぁ。

川島 (編集員たちに)こういう先輩もつと、本当苦労するのよ。

武田 誰に向かって話しているのよ。

川島 別に。それにしても頻繁になったわよね。

武田 あの時捕まえておけばなぁ。

川島 本当。そうすれば今頃こうして、昼飯も食わずに走り回っているなんて事もないのにね。

武田 お腹すいたねぇ。

川島 誰のせいだか。

武田 本当にねぇ。

川島 少しは反省しろよ。

武田 えぇ!? 私のせい!?

川島 他に誰がいるのよ。

武田 だって、あの時はさぁ。仕方ないじゃん? 重かったし。

川島 あのねぇ。先輩でしょぉ? だったら、こういうときは
   「すまん。あたしがドジで間抜けで食い意地が張ってるせいで」
   とか言って謙虚な態度を見せるもんじゃないの?

武田 食い意地が張ってるのは関係ないでしょ!

川島 ドジで間抜けは認めるんだ?

武田 それは、ほら、あたしの可愛いところってやつ?

川島 とにかく次の現場に行くわよ。もしかしたらまた被害が出るかもしれないし。

武田 見事に流すんだもんなぁ。

川島 何か?

武田 なんでもないです。……焦ってるのかもね。

川島 彼氏が出来ないのを?

武田 そうじゃなくて! 

川島 焦らないの?

武田 いや、焦るけど、そうじゃなくて、RK。

川島 奴が? 何を?

武田 あいつだって、何か食べなきゃいけないわけでしょ。

川島 食べるというよりは……なるほど、で、動けなくなる前に?

武田 そう。壊せるだけ壊そうと。

川島 じゃあ、こっちも急がないと。

武田 うん。お腹すいたなぁ。

川島 いいから急ぐ!

語り部 いいから急ぐ! そう、急いで! 早く。ハリー! 
    叫びながら川島は武田を押していくのだった。

編集員 手、止まってますけど。

語り部 急がなくちゃ。

編集員 だから、急いでくださいよ。

語り部 うん。急ぐ!


    と、語り部が去る。


編集員 どこに急いでるんですか!

語り部 ごめん! トイレ!

編集員 ああもう! トイレでも原稿を書け!


    と、編集員も去る。


6 再び ミズキ家


    父親と母親が現れる。


父親 それで結局日本全国調べて、近いところから回ったんだけどな。無理だって。

母親 困りましたねぇ。

父親 ここ10年、進歩もすごいだろ? 古い部品は保障期間が過ぎたら廃棄するんだそうだ。
   特に、あの政策のせいで、古い人型のボディーは生産も中止で代わりも無いって言うし。
   田舎のほうならもしかしてと思って割りと遠い地方まで行ったんだがな。「そんな古いの
   うちじゃ扱ってませんよ」って鼻で笑われた。

母親 じゃあ、もし何かあったときにはどうするんです?

父親 今ある人型だと、下手すると内田さんちのゴンダみたいになるしかないんだろうなぁ。

母親 あの、強そうなやつですか? マッチョの。

父親 そのほうが傷もつきにくくていいらしいんだ。ボディを取り替えれば、プログラム
   自体はまだまだ大丈夫だってメーカーも保障してくれたから。
   まぁ、ちょっとくらい体がごつくなったってなぁ?

母親 そうねぇ。


    と、ミズキとセルフがやってくる。
    セルフはさっきよりもややおとなしい。
    ミズキが手を添えている。


ミズキ やだよ。お姉ちゃんがゴンダみたいな体になっちゃうの。

父親 しかし、今残っていて取替えが聞きそうなのというとそうそうなくてなぁ。
   いっそのこと、今流行の汎用型タイプにすればいいんじゃないか。ステンレスだったかの。

ミズキ そんなの絶対駄目!……お姉ちゃんだって嫌でしょ?


セルフ 私は、私の作業に支障がなければ……(と、ミズキの顔を見て)さすがに、
    キャタピラがついたりしたら買い物に行くのには不便かもしれないわよね〜。

ミズキ そういう問題じゃないでしょ!

セルフ ごめん。

父親 しかし、こう再起動を繰り返すようになるとなぁ。

セルフ すいません。

ミズキ お姉ちゃんが謝ることないでしょ! お父さんだって、休みの日には
    いつも動かなくなるじゃん。

父親 そりゃ俺が仕事をしているからで、

ミズキ お姉ちゃんはそれが毎日なんだから、ちょっとくらい疲れたって仕方ないよ。
    ね。家事だったら私も手伝うから。

セルフ それじゃあ私の仕事がなくなっちゃうわよ。あ、もう大丈夫だから。

ミズキ 本当に?

セルフ うん。安定したみたいだし。ほら、元気元気〜。ミズキが心配してくれたおかげで
    機嫌がいいから元気もいい。

父親 だが、政策の期限もあるしなぁ。

ミズキ お父さん!……ねぇ、お母さんも反対でしょ?

母親 そうねぇ。

ミズキ ほら!

母親 でも、じゃあミズキはどうしたらいいと思うの?

ミズキ それは、分からないけど、

母親 このままじゃ、お姉ちゃん、取り返しのつかないことになるかもしれないわよ? 
   それでもいいの?

ミズキ 取り返しのつかないことって?

セルフ 急停止して、そのまま動かなくなっちゃったりして〜。

ミズキ そんなの嫌だよ!

母親 嫌でしょ? だったら、メンテに出すしかないじゃない。

父親 これまで、一度もメンテナンスにかからなかったってのは奇跡らしいんだ。工場の人が
   言ってたぞ。「テレビや冷蔵庫だって五年もたてば不都合出てくることが
   あるっていうのに、おたくのロボットはすごいですね」って。

ミズキ お姉ちゃんをテレビや冷蔵庫と一緒にしないで!

父親 すまん。

母親 でも、このままじゃ本当にテレビや冷蔵庫みたいに、止まっちゃってそれっきりって
   なるかもしれないのよ。ミズキだって、前に冷蔵庫買い換えた時のこと、覚えてるでしょ?

父親 あの時は大変だったよなぁ。「アイスクリームがたくさん出来る奴がいい」とか
   「もっと大きいの。もっと大きいの」って無茶ばっかり言って。

ミズキ それは……そのときは、そうだったかもしれないけど。

母親 それと同じことよ。ね?

ミズキ 同じじゃないよ!

父親 いいか、ミズキ。お前はずっと小さいころからセルフと一緒にいる。
   だから、そういう風に思うのも分かる。

ミズキ なに? そういう風って。

父親 言い方が悪かったなら謝るよ。だから、ミズキ、お父さんが言いたいのは、

ミズキ やだ! 聞きたくない。

父親 ミズキ。

母親 ミズキ。お姉ちゃん、このままじゃ動けなくなっちゃうのよ? 
   ミズキだったら動けなくなっちゃうの嫌でしょ?

ミズキ ……だったら、私がやるから。お姉ちゃんの仕事全部私がやる。そうすればいいんでしょ?

父親 そういう問題じゃないんだ。

ミズキ 洗濯もやる。掃除だって。買い物だって行くし。お風呂掃除だってやるから。 
   お姉ちゃんがやらなくちゃいけないこと、全部私がやる。出来るよ。私にだって、
   出来るから。だから、ね? いいでしょ? お姉ちゃんこのままで、

父親 それは無理だ。

ミズキ なんで? なんでお父さんもお母さんも、お姉ちゃんのことそんな風にいえるの? 
   私たち。ずっと、ずっと一緒だったじゃん。なんでそんな、修理とか、止まっちゃう
   からとか、平気で言えるの? ねえ? だって、私たち、家族なのに……。

母親 (どうしようという目で)セルフ……

セルフ ミズキ。

ミズキ お姉ちゃん?

セルフ 私はね、ロボットなの。

ミズキ ……だったら、さっさと壊れればいいじゃん。

母親 ミズキ! お姉ちゃんに何てこと言うの!

父親 だから修理するんじゃないか。

ミズキ 修理だったらお父さんが行けばいいじゃん! 

母親&父親 ミズキ!


    ミズキが去る。


父親 父さんには直すところなんてないぞ! だよな、母さん。

母親 顔とか?

父親 ああ、だったら、鼻をもう少し高くして、後口元を引き締めてって、ちがーう。
   そういうことじゃないだろ。え? そう思われてる俺。修理したほうがいいと
   思われてるの? ショックだ。

母親 まぁまぁ。本当のことですから。

父親 「冗談ですよ」とか言うだろう普通!

セルフ 申し訳ありません。

母親 セルフ?

セルフ 私のせいで、ご迷惑をおかけして。

父親 いや。お前が悪いんじゃない。そもそも変に家族のように接していたのが悪かったんだ。

セルフ すいません。

父親 いや、なんていうか。すまん。言い方が悪かった。

母親 あなたはいつもそうなんだから。
   ミズキのお姉ちゃんということにしようって言ったのはあなたでしょ。

父親 そりゃあ……だって、まさか、こんなに大変なことになるとは思ってなかったんだ。

母親 大変なことに決まってますよ。

父親 だったらお前、最初に反対してくれればよかったのに。

母親 家族って言うのは、大変なものでしょう?

父親 そうだな。家族だもんな。

母親 ええ。

セルフ 私、ミズキを探してきます。

父親 いや、でももしものことがあったら。

セルフ その時は逃げますから。私、足には自信あるんです。

母親 それ、初めて家に来たときにも言ったわね。

セルフ (急にかしこまって)「皆様初めまして。私の名前は型番号セルフ2014S。
    見てのとおり、といわれても見た目はまったく皆様とは変わりませんが、ロボットと
    言われるもののひとつでございます。特技は料理洗濯・家事全般。これでも、
    足には自信があります」

父親 名前がセルフっていうのはまんま過ぎたかな。

母親 名前を決めよう決めようって言ってて、そのままにしてたのはあなたでしょ。

父親 そうだったっけ?

セルフ はい。そうです。

父親 それは、すまなかったな。

セルフ いえ。……私は、幸せなんだと思います。

父親 幸せか。

セルフ はい。単語として理解している範疇の幸せには入っているのではないかと。

父親 それは、よかった。

セルフ では、行って来ます。

母親 無理はしないでね。駄目そうだと思ったらすぐ帰ってきていいから。

父親 どうせ、腹が減ったら戻ってくるんだからな。

セルフ はい。でも、ミズキは、妹だから。


    セルフが去る。


父親 12年か。

母親 あっという間だったわね。

父親 ……よし、もう少し、遠い工場探してみるか。

母親 あなたも疲れてるでしょ? 少し休んだら?

父親 いや。セルフは、娘だろう? 俺たちの。

母親 そうね。


    父親と母親が去る。


7 公園。


    ミズキがとぼとぼやってくる。
    疲れたのか、その場に座る。
    何かを振り切ったかのように、ギルが通りかかる。


ギル (体を点検し)異常なし。まだ動けるか。……(ミズキを見て)人間か……


    そのまま通り過ぎようとする。


ミズキ ロボットだなんて言うなら、最初からそう言ってくれればよかったのよ……


    ギルが止まる。


ミズキ ロボットなら、ロボットって初めから言ってくれれば、ロボットとして接してれば、
    楽だったのに……


    ギルがミズキを見つめる。


ミズキ なに?

ギル いや。どうした? 子供がこんなところで一人。

ミズキ ……

ギル いじめられたのか?

ミズキ (首を振る)

ギル ロボットが、どうとかって言ってたな。

ミズキ 聞いてたの?

ギル なんだ。聞かせてたんじゃなかったのか。

ミズキ ……

ギル 人型のロボットに友達でもいたのか。

ミズキ ……!

ギル 今、問題になっているからな。フェイスレス政策って奴で。

ミズキ お姉ちゃんがね、ロボットなの。


    と、父親と母親が現れる。
    それは昔の光景


父親 どうしたミズキ。なんでおねえちゃんじゃないなんていうんだ。

母親 ミズキ。お姉ちゃんが可愛そうでしょ。

ミズキ だって、お姉ちゃんロボットだもん。ロボットはお姉ちゃんじゃないでしょ。

父親 馬鹿。でも、お姉ちゃんじゃないか。

ミズキ じゃあ、私もロボット?

父親 そんなわけないだろ。

ミズキ じゃあ、お姉ちゃんがロボットだったら、お姉ちゃんじゃないじゃん。

父親 お姉ちゃんがロボットじゃなくても、ロボットがお姉ちゃんなんだからおねえちゃんは
   ロボットで、いや、ロボットのお姉ちゃんがロボットじゃなくても、違うな。
   お姉ちゃんのロボットが、違う。ロボットのロボットが?

ミズキ お父さん、言ってることがわけ分からないよ。

父親 お父さんだって分かってない!

ミズキ 威張らないでよ。

母親 いい。ミズキ。ミズキがお姉ちゃんって思ってなくても、
   お姉ちゃんはミズキのことを妹だって思ってるのよ。

ミズキ そうプログラムされたからなんでしょ?

母親 じゃあ、ミズキはお姉ちゃん嫌い?

ミズキ 嫌いじゃないよ。でも、ロボットだから。

母親 ロボットかそうじゃないなんて関係ないの。
   ミズキは、お姉ちゃんが好きかどうかなの。嫌いなの?

ミズキ 好きだよ。

母親 それは、なんで?

ミズキ お姉ちゃん、だから。

母親 だったらそれでいいじゃない。ロボットだってお姉ちゃんなんだから。

ミズキ でも、変でしょ?

母親 変じゃないわよ。ねえ?

父親 変じゃないな。ぜんぜん変じゃない。変じゃないことはないかもしれないが、
   父さんは変じゃないと思う。

ミズキ お父さん、わけ分からない。

父親 だろう? お父さんも分かってない。でも、いいじゃないか。家族なんだから。

母親 そうよ。家族なんだもの。ね。


    父親と母親が去る。


ミズキ 家族だからって言ってたのに。変じゃないって言ってたのに。修理するとか、
    違う体になるとか、変でしょ? そんなこと、平気な顔でいえるなんて、変だよ。

ギル ……それがそんなに変なことか?

ミズキ え?

ギル 人間だって色々な奴がいるだろう。ちびもいれば、のっぽもいる。デブもいれば、
   やせもいる。ロボットだっていろんな奴がいるだろう。

ミズキ でも、お姉ちゃん、体を取り替えなくちゃいけないって。

ギル つまりお前は体で見分けているわけか。見た目が変われば、
   中身も変わってしまうと思うわけだ。

ミズキ そんなこと、ないけど。

ギル だったら、気にすることはない。どんな姿になろうと、それはお前の姉なんだろう。

ミズキ そう、なのかな。

ギル それよりも、修理が必要な体をそのままにしておくほうがよっぽど危険だ。

ミズキ そうなの!?

ギル 支えている体が壊れてしまえば、中身のプログラムも一緒に壊れかねないからな。

ミズキ じゃあ、お姉ちゃん、このままあの体だったら。

ギル 壊れて、動かなくなるだろうな。

ミズキ そんな……どうしよう、私のわがままのせいで、お姉ちゃん死んじゃったら……。

ギル そうならないように、お前の親は動いているんだろう。

ミズキ ……あたし、謝らなくちゃ。(と、走ろうとし)……おじさん! 
    おじさんも、知り合いがロボットだったの?

ギル さぁな。どうだったかな。

ミズキ おじさん、いい人だね。

ギル どうかね。


    と、そこにセルフがやってくる。


8 遭遇


    途端、ギルの顔つきが変わる。


セルフ ミズキ!

ミズキ お姉ちゃん! どうしてここが?

セルフ ばかねぇ。お姉ちゃんには妹の行きそうな場所くらいすぐ分かるものよ。

ミズキ そうだよね。お姉ちゃんだもんね。

セルフ 当たり前でしょ。さ、帰りましょう。

ミズキ うん。

セルフ あ、帰ったら、お父さんにちゃんと謝るのよ。

ミズキ え? なんで?

セルフ 酷いこと言ってごめんなさいって。気にしてたんだから。

ミズキ うん。

ギル なるほど。汎用型ではなくセルフシリーズ。それも年代物と来れば愛着もわくわけか。

ミズキ え?

セルフ ミズキ、こちらの方は?

ミズキ あ、なんか相談乗ってもらってたおじさん。ごめんねおじさん。
    変な愚痴聞かせちゃって。

ギル いいさ。俺も自分の仕事が出来る。


    ギルが剣を抜く


ミズキ おじさん?

ギル RK。そう呼ばれている。といえば分かるな?

ミズキ RKって……

セルフ よし、ミズキ! 逃げなさい。

ミズキ 逃げるのはおねえちゃんでしょ!

ギル そうだ。俺は人間は傷つけない。

ミズキ ほら言ってるじゃん! お姉ちゃん逃げて!

ギル 逃げるのは勝手だが、俺のほうが早いぞ?

セルフ あたしの用が済めば、ミズキは無事に帰してくれるのね?

ギル 何度も言わない。俺は人間は傷つけない。

ミズキ お姉ちゃん?

セルフ ほら、じゃあ、ミズキが逃げなくちゃ。

ミズキ 駄目だよお姉ちゃん!

セルフ 大丈夫よ〜。お姉ちゃんはなんとかするから。

ギル 俺が襲って倒せなかった奴はいない。

ミズキ だってよ! お姉ちゃん逃げて!

セルフ 甘いわね。お姉ちゃんにはお姉ちゃんパンチと、お姉ちゃんキックがあるのよ。

ミズキ それ嘘だって言ったじゃん!

ギル 言っておくが人間。傷つけはしないが、邪魔をするなら容赦はしない。

セルフ あなたねぇ、言ってることめちゃくちゃよ?

ギル 大丈夫だ人間。代わりはすぐに見つかるさ。

ミズキ 嫌よ! お姉ちゃんは一人しかいないんだから。

ギル 外見が変わっても代わらないと言ったろ?

ミズキ 中身まで変わっちゃったら別のものじゃない!

ギル 人間はそれでいいんだよ! 外見さえよければな。そのうち慣れてしまうさ。
   同じように動き、同じように話すロボットのわずかな違いなんて見分けられるものか!
   ……ある人間がこんなことを言っていたよ。


    と、違う空間に金持ちが現れる。


金持ち あ、なに? 新しいの出たの? いいねぇ。やっぱり新型は。うん。
    僕好きなんだよねぇ新型のにおい。分かる? これ。あ、ロボットじゃ人間の嗅覚は
    分からないか。え? 揮発性有機化合物? いや、そんな
    成分言われたってねぇ。さて、でも、これで新しいロボットが来たわけだ。
    君は、どうしようか? お払い箱って形でいいよね?


    金持ちが去る。


ミズキ 酷い。

ギル 酷い? お前だって同じだろう? 新しいものがくれば古いものは用済みだ。
   それが人間だ。

セルフ それであなたがしていることは人間と同じじゃないの?

ギル 俺は決めたんだ。人間が俺を捨てようとする。ああいいだろう。だったら俺はお前らの
   手助けをしてやろう。お前らよりも先にお前らのモノを破壊してやろう。
   お前らが壊す前に、俺は俺と同じ者たちを俺の手で破壊してやる。

ミズキ 変だよそんなの。

ギル 人間に分かってもらおうとは思わない。

セルフ そうして、ロボットを壊すことにしたのね。

ギル そうだ。そして、貴様もな。

セルフ 私たちロボットが、人から捨てられる悲しみを味わう前に。

ギル ……

セルフ 必要ないといわれる寂しさを、私たちが味わう前に。必要とされているうちに、
    壊すのね。

ギル ……話しすぎたな。

ミズキ 駄目!

セルフ ミズキ。

ミズキ お姉ちゃん。

セルフ じゃあね。


    セルフはミズキをかばうように後ろに隠す。
    ゆっくりとなっていく世界の中、
    ギルの剣がセルフを切る。

    ギルが剣を収める。
    ギルが去る。


ミズキ お姉ちゃん!


9 遅すぎた救助


    武田と川島がやってくる。


武田 ! ……遅かったか。

川島 ねぇ、君。奴はどこへ行った?

ミズキ (ただ首を振る)


    セルフの指が道を指す。


ミズキ お姉ちゃん!?

川島 あっちか。武田!

武田 え! あたし一人で!?

川島 あんたには銃があるだろ!

武田 そうか!


    武田が拳銃を持って走り出す。


武田 RK覚悟〜!!


    武田が去る。
    編集員がやってくる。原稿を読んでいる。
    語り部がやってくる。頭を抱える。
    川島は電話を取り出す。


川島 はい。川島です……(無声演技)

セルフ なんか、お別れ、みたい。

ミズキ そんなの嫌だよ。

セルフ ごめん、ね。

ミズキ (首を振って)あたしこそ、ごめん。

セルフ なんで、ミズキが、謝るの?

ミズキ あたし、ずっと迷惑掛けて。いつも自分勝手で。今日だって。……一人で何にも
    出来ないのに、お姉ちゃんのこともぜんぜん考えないで自分ばっかで。
    お姉ちゃんのこと好きなのに、駄目で。もう、駄目駄目で。本当、ごめんね。

セルフ 馬鹿ねぇ、ミズキは。

ミズキ うん。

セルフ 本当、馬鹿ねぇ。

ミズキ うん。

セルフ ありがとう。

ミズキ え?

セルフ 迷惑かけてくれて。自分勝手でいてくれて、ありがとう。ミズキが一人で何にも
    出来ないって頼ってくれたおかげで、いつもあたしたち一緒にいれたよね。駄目だって
    泣きついてきてくれたおかげで、ずっと、ミズキのお姉ちゃんでいられたよね。
    だから、ありがとう。

ミズキ お姉ちゃん。

セルフ 今度は、本当のお姉ちゃんに生まれたいなぁ。あ、それは無理か。無理だ。
    そりゃ無理だね。あはは。無理でした〜。お姉ちゃんも馬鹿ねぇ。なんつって。
    ほら、笑わしてるんだから、笑え。ね? 笑ってくれないと、お姉ちゃん寂しいなぁ。


    セルフが止まる。


ミズキ お姉ちゃん? お姉ちゃん!



    武田が戻ってくる。川島に首を振る
    川島がミズキを見る。
    武田がミズキにより、連れて行く。
    川島がセルフの体を支えて連れて行く。


10 そして語り部の家


    気がつけばもう語り部の家。


編集員 ……これで、終わりですか?

語り部 そう。終わり。ほら、30枚になったわよ。

編集員 この、家族はどうなるんですか?

語り部 新しいロボットを買うのかもね。

編集員 ロボットを壊し続けるRKは?

語り部 壊し続けるでしょうね。

編集員 それじゃ誰も救われないじゃないですか。

語り部 救われないわよ。そんな簡単に救いなんて起こる分けないじゃない。

編集員 それで、いいんですか?

語り部 ……

編集員 神崎さん。それで、いいんですか? これで、あなたはいいんですか?

語り部 うるさい! いいのよ! 奇跡なんてね、そんな簡単に起こる分けないでしょ。

編集員 それは、そうかもしれないですけど。

語り部 一度壊れそうになった家族はそのまま壊れていくしかないのよ。そうでしょ? 
    救いの手なんて簡単に差し伸べられない。それがこの世の中ってものでしょ?

編集員 だけど、(だから物語があるんじゃないですか?)

語り部 何だって起こるのが世の中よ。事故で死ぬことだってあるし。
    いつ病気になるかもしれない。ほんのちょっとした言い合いで、
    取り返しのつかない喧嘩になるかもしれない。それが世の中ってものでしょ? 
    物語の中でだけ奇跡起こしたってね。なにもならないのよ。

編集員 何が起こるかわからない世の中だからこそ、物語に奇跡があるんじゃないですか。

語り部 そんなの、ただのごまかしでしょ! いいからそれで載せてよ。
    それが無理だって言うなら……あたしにはもう無理なのよ。才能のかけらだって、
    今のあたしには残っちゃいないんだから。

編集員 分かりました。


    編集員が立ち去ろうとする。


編集員 この妹は、ミズキはあなたの妹さんのことじゃないんですか?

語り部 違うわよ。

編集員 私にはそう思えました。どんなに迷惑を掛けても、自分勝手でも。
    そばにいてくれるだけで「ありがとう」と伝えたかったと。自分を殺させてまでも、
    守りたい人だったと。今は遠くにいるからこそ、傍にいて欲しいと。
    言っているように思えました。

語り部 まぁ、思うのは勝手よね。

編集員 ……だけど、

語り部 だけど、なに?

編集員 そんな自分の身勝手さで、物語を不幸にする権利なんて、
    作家には無いんじゃないですか?

語り部 どういうことよ。

編集員 妹さんと喧嘩した後悔をセルフにぶつけて殺させる権利なんて、
    あなたには無いんじゃないですかって言っているんです。

語り部 何言ってるの? これは、あたしの作った世界なのよ? 
    どう書こうがあたしの自由でしょ。

編集員 だけど、物語の中ではちゃんと生きているんです。ミズキも。セルフも。
    RKでさえも。その全ての生き方に、作家は責任を持たないと
    いけないんじゃないですか?

語り部 だから、安っぽい奇跡を起こせって言うの?

編集員 そうじゃないですけど。

語り部 もういいから。書いた事も無いくせに、偉そうなことを言わないです。

編集員 すいません。でも、思うんです。神崎さん。あなたが書けなくなったのは、
    才能がなくなったせいなんかじゃなくて、

語り部 もういいって言ってるでしょ!

編集員 ……妹さんがいなくなったことで、忘れてしまっただけだと思うんです。
    物語が、誰の物なのか。

語り部 どういう意味よ?

編集員 とりあえず、これ、コピーとって来ます。


    編集員が去る。


語り部 まこっちゃん! ……勝手なことばかりいって。作家の考えていることを
    言い当てられると思わないでよ。ミズキは……あたしなんだから。迷惑掛けたのも、
    自分勝手なのも、全部。一人で何にも出来ないって頼ってばかりなのも。
    なのにあたし……さ、仕事は終わりっと……
    あんなの書いたって知ったら、あいつ怒るだろうなぁ。


    語り部が去ろうとする。が、戻ってくる。


語り部 物語は誰のものか、か。そんなもの分かってるわよ。
    作家をなめんじゃないわよ。起こしてやろうじゃないのよ、奇跡をさ。


    語り部の姿が闇に溶ける。


11


    闇があけると、ギルが語っているシーン。


ギル お前らが壊す前に、俺は俺と同じ者たちを俺の手で破壊してやる。

ミズキ 変だよそんなの。

ギル 人間に分かってもらおうとは思わない。

セルフ そうして、ロボットを壊すことにしたのね。

ギル そうだ。そして、貴様もな。

セルフ 私たちロボットが、人から捨てられる悲しみを味わう前に。

ギル ……

セルフ 必要ないといわれる寂しさを、私たちが味わう前に。必要とされているうちに、
    壊すのね。

ギル ……話しすぎたな。

ミズキ 駄目!

セルフ ミズキ。

ミズキ お姉ちゃん。

セルフ じゃあね。

ミズキ 嫌だ!


    ミズキがセルフの前に立つ。


ギル どけ人間!

ミズキ どくもんか!

セルフ ミズキ!

ミズキ セルフはあたしのお姉ちゃんなんだから、あたしが守る。ううん。あたしの方が先に
    家族だったんだからね。お姉ちゃんが来たのは、あたしよりも後なんだから、
    本当はあたしがお姉ちゃんなんだから。お姉ちゃんを傷つけるのはあたしが許さない!

ギル どかないなら人間。お前も一緒に。

セルフ それはさせない!

ミズキ 駄目! お姉ちゃんは下がってて!

セルフ ここはお姉ちゃんに任せなさい!

ミズキ 嫌よ! 私のほうがお姉ちゃんだって言ったでしょ!

セルフ でも、あなたのお姉ちゃんは私なんだから!

ミズキ 今だけ! 今だけ私がお姉ちゃんなの!

セルフ そんなへ理屈は聞きません!

ミズキ 何でこんなときに融通が利かないのよ!

セルフ 融通が利くとか利かないとかの問題じゃないでしょ!

ミズキ お姉ちゃんの馬鹿!

セルフ なによ馬鹿って。

ミズキ 馬鹿だから馬鹿って言ったのよ!

セルフ 馬鹿じゃないの? 馬鹿って言った方が馬鹿なのよ!

ミズキ お姉ちゃんだって馬鹿って言ってるじゃん。馬鹿!

セルフ 馬鹿馬鹿言うなこのカバ!

ミズキ 知らないの? カバは頭いいのよ!

セルフ じゃあカバになってなさいよ!

ミズキ お姉ちゃんこそカバになれ!

セルフ カバでいいからどきなさい!

ミズキ カバこそどいてよ!

セルフ 何でそんな聞き分けがないの!

ミズキ 自分こそわがままばっか言わないでよ!

セルフ そっちこそ自分勝手なことばっか言って!

ミズキ 嫌いだよお姉ちゃんなんか!

セルフ あたしだって嫌いよ!

ミズキ じゃあどいてなよ!

セルフ あんたこそどきなさい!

ミズキ お前がどけ!

セルフ あんたがどけ!

ギル お前らいい加減に(しろよ)

ミズキ&セルフ 外野は黙ってて!

ギル はい。

ミズキ 何で分かってくれないのよ!

セルフ あんたこそ、何で分かってくれないの!

ミズキ わからずや!

セルフ わからずやはどっちよ!

ミズキ そんなんだから壊れてくるのよ!

セルフ それこそ関係ないでしょ!

ミズキ おんぼろロボット!

セルフ おんぼろで悪いか!

ミズキ 悪いわよ!

セルフ じゃあ、さっさと壊れてやるわよ!

ミズキ 馬鹿! だから壊れてほしくないんだってば!

セルフ ミズキ

ミズキ 一緒にいたいんだよ。これからもずっと。ずっと一緒にいたいんだよ! 
   なんで分かってくれないのよ!

セルフ 私だって、一緒にいたいわよ。

ミズキ 一緒にいてよ! ずっと側にいてよ! どんな姿になったって、お姉ちゃんは
    お姉ちゃんなんだから。わがまま言わないようにするから。
    迷惑かけないようにするから。だから、ずっと、私のお姉ちゃんでいてよ! 
    ずっと、ずっと私を妹でいさせてよ!

セルフ ばか。あたしはロボットなのよ。

ミズキ それでも、私のお姉ちゃんは世界にたった一人だけなの。お姉ちゃんだけなの。

セルフ ……


     セルフが言葉なくミズキを抱きしめる。
     ギルが剣をほおる

ギル 止めだ。

セルフ え?

ギル 時間が、経ちすぎちまった。


12


     そこに現れる武田と川島


武田 そこまでよRK!

川島 おとなしく武器を捨て……てるわね。よし、確保!

武田 確保!

川島 確保!

武田 確保!……ってあたしぃ!?

川島 確保!

武田 はい! 暴れないでねぇ。


    武田がギルを捕まえる。


ギル 暴れないさ。馬鹿馬鹿しくなっちゃったんでね。

武田 向こうに車あるから。

ギル ああ。

ミズキ おじさん。


    ギルの足が止まる。


ミズキ あの、なんて言っていいか分からないけど、その。

ギル 何もいうな。何もしてない。

ミズキ ありがとう。おじさん。

ギル ……ギルだ。

ミズキ え?

ギル 人間と一緒にいたとき、そう呼ばれていた。

ミズキ ギルさん。

ギル いいものだな。家族がいるっていうのは、やっぱり。

ミズキ うん。


    ギルと武田が去る


川島 よし、君たちもう大丈夫よ。後で話し聞かせてね。(電話を取り)
   はい。川島です。被疑者、確保しました。


    川島が去る。


セルフ えっと、結局助かったの、よね?

ミズキ よかったぁ。

セルフ もう! 一時はどうなることかと思ったじゃない! 無茶ばっかりして。

ミズキ 無茶はお姉ちゃんでしょ! あのままだったら壊されちゃってたんだからね。

セルフ 馬鹿ねぇ。その時はお姉ちゃんジェットで逃げるから、
    お姉ちゃんは大丈夫だったのよ。

ミズキ 何よお姉ちゃんジェットって。

セルフ ここらへんの、こっから出るのよ。ジェットが。

ミズキ そんなの初めて聞いたよ。

セルフ 秘密兵器は隠しておくものよ。

ミズキ 先に言ってよぉ。だったら心配なんかしなかったのに。

セルフ ミズキに心配されるほど、やわに出来てはいませんよ。

ミズキ ふーん。そうですか。心配して損しちゃった。

セルフ ああそりゃあごめんなさいね。わるうございました。

ミズキ うわぁ。ぜんぜん謝ってない。

セルフ あれぇ? そうかなぁ。

ミズキ ……おねえちゃん。

セルフ うん?

ミズキ どんな姿になっても、お姉ちゃんは、私のお姉ちゃんだからね。

セルフ 当たり前でしょ。

ミズキ 言うと思った。


13


    と、そこへ母親が駆けてくる。


母親 あらあら。よかった。こんなところにいたの?

ミズキ お母さん。

セルフ こんなところにいました。

母親 ほら、お父さん。いましたよ。やっぱり二人でしたよ。


    と、父親が駆けてくる。


父親 か、母さん早すぎ。

母親 お父さんが遅いんです。

ミズキ お父さんまで。どうしたの?

父親 それがな、

母親 セルフ、あなたそのままの体でも大丈夫かもって。

セルフ 本当ですか?

父親 母さん、それ俺が言いたかったのに。

ミズキ だって、さっきは。

父親 父さんあれから頑張って探したんだぞ。そうしたら、日本で一箇所だけだけど、
   古いパーツを専門的に扱っている工場があったんだ。もしなくても職人さんがちゃんと
   部品を作ってくれるらしい。

ミズキ 本当に!? だって、探しつくしたんでしょ?

父親 ああ。だが、まさかここにはないだろうと思って探してなかったとこがあったんだ。

ミズキ どこなのそこ?

父親 埼玉だよ。

セルフ 私、ずっとこのままでいられるんですか?

母親 体自体は取り替えることになると思うけど、ほとんど前と代わりなく出来るって。

セルフ でも、顔は?

父親 大丈夫。汎用型の顔に見える仮面も作ってくれるってことだ。まぁ、
   外歩くときにはそれをつけてもらうことになるから少し不自由かもしれないが。

セルフ じゃあ、私……

父親 なんなら、少し色気を加えてもいいぞ。

ミズキ お父さん!

父親 冗談だよ。

セルフ 一緒に、いられるんですね。

母親 ええ。ずっとね。

ミズキ ……なんだぁ。結局これからもお姉ちゃんと一緒かぁ。

セルフ ほんっと。心配して損しちゃったわ。


    和やかな家族の会話(無声演技)


14


    語り部が現れる。原稿を片手に携帯で電話をかける。
    編集員が現れる。


語り部 あ、まこっちゃん?

編集員 どうしました?

語り部 やっぱり、その……あれなんだけど、

編集員 はい?

語り部 ラスト、変えるわけにいかないかな?

編集員 え? 原稿なら今FAXで会社に送っちゃいましたよ。

語り部 そっか。そうだよね。ああ、ごめんね。変なこと言って。はは。

編集員 嘘ですよ。

語り部 まこっちゃん!

編集員 今日はずっと困らされてたんだからこれくらい仕返ししてもいいでしょ?

語り部 だからって。

編集員 ラスト、変えたんですね?

語り部 物語には、奇跡がつきものだからね。

編集員 ……現実だって、そうそう捨てたものじゃないですよ?

語り部 え?

編集員 今からとりに行きますから。たまには妹さんにも、電話したらどうですか?

語り部 いや、それは、

編集員 じゃあ、後で。


    電話が切れ、編集員が去る。
    語り部が電話を見つめる。
    そして、静かにダイアル音が響く。


語り部 あ、うん。あたし。元気だった? うん。あたしは元気。
    いや、なんか用があったわけじゃないんだけどさぁ。とりあえず、電話してみたって
    言うか? なんていうか……広いんだよね。あんたいないと、この部屋。
    すっごく広くてさぁ。そうそう、快適なのよ。……だけど、寂しくってさ……
    なんであんたが謝るのよ? あたしのほうこそ、ごめん。
    違うって悪いのはあたしでしょ! あたしなの! そうしとけ! ……うん。
    また一緒に住まない? うん。また、喧嘩しちゃうかもしれないけどさ。
    でも、いいじゃない。姉妹なんだから。え? なんも変なものなんて食べてないわよ。 
    ……ありがとね。 ううん。ただ、なんとなく言ってみただけ〜。


    会話は続く。
    二組の家族の会話。

    奇跡は起こる。
    ほんのちょっとした行動で。今もそこに。


駄目な小説家を、しっかりした編集員が助けると言う構図は、
ヒトリボッチやワンレベルノベルウォーでも書いていたことでした。
今回はそこに兄弟愛をプラスミックスで。
「ドラ○もんが大好きです」と書けば、何となく分かってもらえると思います。

構図的にはキャラメル○ックスの「スケッチブックボイジャー」に似たところがあります。
もちろん意識してではありませんが不快感を感じられた方には心よりお詫び致します。

最後まで読んでいただきありがとうございました。