プランプ スランプ フライング
      Plump  Slump  Flying

作 楽静




人物 

よくいそうな人々
ウエデラ ユウタ 24歳 公務員。それなりに人生を生きている。近くのパン屋の娘に惚れている。
マイ 20歳 大学生。兄の家に住ましてもらっている。
タイガ リリ 21歳 パン屋。ユウタの近所の「大河(タイガ)屋」というパン屋の娘。
ワニカワ トキオ 22歳 販売員。マイの恋人。最近までフリーターをしていたが心を入れ替える。
ネバーランドな人々
ピータ パン 少年風。チョット小太りな男の子。食べることとダイエットが最近の趣味。
ティンク 妖精に見えない妖精。 ピータ・パンのお世話係を自称している。
フック 海賊の船長。右手がカギ爪。礼儀を重んじるがかっときやすい。
スミィ 海賊の甲板長。フックの右腕。冷静沈着にフックのお守りをする。

※自分の劇団の公演用ということで照明についても言及している部分があるが、
  使っていただける際は無視してもらって構いません。



0 開演前

     とある休日の数時間の物語。
     季節は特に定めない。※公演時は秋という設定。
     舞台上には星空が広がっている。
     舞台下手側には抽象的な椅子がある。
     ベンチとしても、ソファーとしても使えるようなブロックタイプが望ましい。
     そして空には月が一つ。

     開演を知らせる合図と共にピアノが流れ出す。
     舞台が暗くなる


1 事件の一日前(おそらく土曜日)のPM5:00


     ピアノのいい雰囲気をぶち壊すように男の声が聞こえだす。
     ユウタである。
     それと同時に舞台は夕方に変わる。
     そこは公園。下手にぽつんとベンチがある。
     住宅地の間にある、いかにも少ないスペースでがんばって作りましたという正方形。
     遊具はほとんど無い。唯一の遊具は滑り台だが、今は使用禁止になっている
     (無くてかまわない)
     最近は夕方まで遊ぶ理由も無いのか、子供の姿も無い。

     およそ色気が無い空間である。
     が、人がいないせいで静けさは保たれている。
     本当は子供が数人いて何気なく話題がふれるようにしたかったのだが、
     何度も電話を掛け損なっているうちに、いつの間にか夕方になっていたのである。


ユウタ あの、まぁこんなところに呼び出したのはですね、なんていうかその。あ、いい天気ですね 本当。

リリ もう、今日も終わりですけどね。


     ユウタの後からやってくるのはリリ。
     お店を抜け出してやってきたという格好。
     別に迷惑と思っているわけではなく、ユウタの慌てぶりをむしろ楽しんでいるよう。


ユウタ そうですね。あの、だからなんだというか……すいません。仕事中に急に呼び出したりして。

リリ 本当困った人ですね。

ユウタ すいません。

リリ 冗談ですよ。どうせ仕事は毎日なんだし。

ユウタ そうですか。その大変ですよね。パン屋っていうのも。

リリ まぁ、実家ですから。

ユウタ それにしても毎日ってのは。だって、(何かすごい発見のように)週七日ですからね。

リリ そうですね(苦笑)

ユウタ え、なんか変なこといいましたか?
リリ いえ、だって上寺さん、当たり前のこというから。

ユウタ あ、すいません。

リリ そんないちいち謝らなくても。

ユウタ すいません。

リリ ほらまた。

ユウタ いやぁ、なんか癖で。

リリ 男の人はそんな簡単に謝るものじゃないんですよ。

ユウタ 気をつけます。

リリ それで?

ユウタ はい?

リリ 今日は?(何の用で呼んだんですか? と言いたい)

ユウタ キョウワ?(何か分かってない)

リリ いえ、だから。(自分の聞き方が悪かったのかと思って)今日は?

ユウタ キョウワ?(分からないまま相手の身振りを真似る)

リリ いえ、そうじゃなくて。

ユウタ キョウワ じゃなくて。

リリ いえ、「今日は」はあってるんですけど。

ユウタ 土曜日ですか?

リリ え?

ユウタ 今日は、土曜日ですよ。(ゆっくり、相手に理解できるように言っている)

リリ じゃなくて。

ユウタ いえ。だって土曜日じゃないと。僕休みじゃないですし。

リリ いえ、土曜なのは分かってるんですけど。

ユウタ 日にちですか。

リリ じゃなくて。ああ、まだるっこしぃ!

ユウタ すいま、(と、謝りすぎといわれたのに気づき)すまん。あぁ、結局謝ってる。

リリ 上寺さん。

ユウタ はい!

リリ 単刀直入に言います。

ユウタ はい。

リリ (ふと、気がそれて)そういえば「まだるっこしい」ってたまに「まだろっこしい」って言う人いますよね。

ユウタ え? あ、はい、いますね(真剣)

リリ あれってどっちが正しいのか分からなくなりますよね。まだるっこい? まだろっこい?って。

ユウタ ああ、それは「まだるっこしい」です。

リリ そうなんですか。

ユウタ はい。「間だるい」から来てますから。だるい〜っていう。

リリ なるほど。

ユウタ はい。まぁ「まだろっこしい」でも間違いではないんですが。でも僕は断然「まだるっこしい」派ですね。
    なんていうか、語の意味を考えてみるとどうしても引っかかってしまって。
    雰囲気を「ふいんき」って言っているのを聞いたときと似たような苛立ちを感じると言うか。
    いえ、べつにまだろっこしいを否定するわけじゃないんですけどね。

リリ ……って、そうじゃなくて!

ユウタ いえ、「間だるい」からきてるんですよ。うそじゃないです。

リリ じゃなくて。ああもう!……上寺さん、はっきり言います。

ユウタ はあ。

リリ こういうこと呼び出されたほうから言い出しちゃうとなんだか早く帰りたくて言っているように
  思われるんじゃないかと思って私から言い出さないほうがいいかなぁって思ってたんですけど、言います。

ユウタ あ、はい(真剣な顔で)

リリ あの、今日は、一体なんの用で呼んだんでしょうか?

ユウタ すいません。仕事の途中だったのに。いつまでも変な話しして。早く帰りたいですよね。

リリ ですから、そんなことは無いんですけど。それで?


     と、徐々にユウタの周りだけ浮き出される。
     リリは見えなくなる。


ユウタ どうやら引き伸ばすのもここまでのようだ。大丈夫。練習したし。言えるさ。
   (と、ポケットからチケットを二枚出す)
    リリサン、コ、コレ、映画ノチケット ナンデスケド 一緒 ニ イケマセンケ 
   (頬を叩き)なんだ「イケマセンケ」って。(と、一度咳き込み、少し渋く)
    なぁ、リリ。これ、映画のチケットなんだけど一緒に行かないか? 
    ……いいんじゃない? でも、ちょっと渋すぎだなぁ。(また咳払いし)
   これ、映画のチケットなんだけど、なぜか二枚あってさ。
   わざとらしい。なぜかはわざとらしいよ。(また咳払い)
   これ、映画のチケットなんだけど一緒にどう? コレくらいかな。うん。(と、リリを向き、)
   り、リリさん、その、これ!


     と、言っているうちに急速に風景は元に戻り、


リリ ごめんなさい!

ユウタ えっ?

リリ ごめんなさい。その、今日はちょっと。

ユウタ 今日のじゃないんですけど、

リリ また呼んで下さいね? それじゃあまた。


     と、リリは慌てて走っていく。
     その手には携帯電話。
     ユウタは呆然とする。


ユウタ そ、そんな……


     ユウタがひざをつく。


2 事件当日(おそらく日曜日)PM1:30


     照明は次の日の昼に。
     ボールを持ってマイがやってくる。
     同じ公園である。
     


マイ それで告れないまま終了したわけ? 我が兄貴ながら情けない。

ユウタ うるさい。もう少しのところまでいったんだよ。

マイ どこら辺がもう少しなんだよ?

ユウタ 距離だって近かったし。

マイ 距離の問題じゃないだろ。まぁ、でも、振られたのは分かった。

ユウタ 振られてない! 謝られただけだ。

マイ 振られたんじゃん。

ユウタ やっぱり? (ため息をつきながらボールを投げるよう合図)


     この後、投げながら台詞。


マイ (投げながら)でさ、

ユウタ なによ?

マイ 何であたしがキャッチボールに付き合わなきゃならんの?

ユウタ 暇だろ?

マイ 暇だけど。

ユウタ だから。

マイ いや、キャッチボールじゃなくても。

ユウタ 例えば?

マイ なんか食べに行くとかさ。

ユウタ 金無い。

マイ 無いのか。だからって。

ユウタ 大丈夫。意味は無い。

マイ 意味も無いのかよ!

ユウタ 強いてあげれば、看板かな。

マイ 看板?

ユウタ 公園の。昨日来たとき、目に入ったんだよ。ほら、

マイ ああ。あるね。結構前からじゃない?

ユウタ そうそう。でも、まともに読んでなくて。

マイ そうだね。それで?

ユウタ 読んだら、キャッチボール禁止って書いてあってさ。

マイ 禁止なの!?

ユウタ らしいね。

マイ じゃあ、やるなよむしろ!

ユウタ いやぁ。なんか楽しいかなって。

マイ はあ。(投げてから)まぁ、いいけどね。たまには。

ユウタ そう何度も振られてたまるか!

マイ 今度の片思いは長かったからねぇ。

ユウタ だから終わってないから。

マイ はいはい。

ユウタ 軽く流すし。

マイ そのかわりさぁ。

ユウタ 何だよ。

マイ 後で話しあるから。

ユウタ 今言えよ。

マイ 今はいいよ。

ユウタ そうかぁ?

マイ うん。

ユウタ (自分の番になっていきなり)よし、そろそろ魔球いくぞ。

マイ はぁ?

ユウタ いくぞ、魔球、「いやこれ魔球って言うかまぶしくて取れないだけじゃん?」ボール三号!


     と、言って投げる。
     空を突き抜けるような大暴投。


マイ そのまんまかよ!


     まぶしさに顔をしかめながらマイが空を向く。
     と、何かぶつかる音。


ピータ(声) いってぇ!?

ユウタ&マイ はい?


     何かが落ちてくる音と共に一瞬暗転。
     次の瞬間、頭にボールをくっつけたピータが舞台中央に倒れている。


3 同日


ユウタ ……えーっと?

マイ 落ちて、きたよね? これ。

ユウタ だよな?

マイ (空を見て)何もないんだけど。

ユウタ とりあえず、生きてるよな?

マイ どうかな?

ユウタ やだよ、俺。振られた挙句殺人犯なんて!

マイ いや、兄貴が悪いのか決まったわけじゃないし。

ユウタ だって、頭見てみろよ!

マイ あっちゃぁあ。


     言いながらマイは少し距離をとる。


ユウタ なんで離れるんだ?

マイ やっちゃったね。

ユウタ いや、まだ分からないんだろ!?

マイ 元気でね。

ユウタ 勝手に話を進めるな!


     と、ピータが動く。


ピータ うーん。

ユウタ 生きてる!?

マイ ちっ

ユウタ 今舌打ちしたか?

ピータ ここは?

ユウタ 大丈夫か少年。その、具合は。

マイ 痛いところない?

ピータ ……お尻痛い。

ユウタ そうか。お尻か。

マイ お尻ね。

ユウタ うん。そりゃあ痛いよな。


     と、言いながらユウタはピータの頭についたボールを取り除く。
     そして、さりげなくマイに渡す。マイが隠す。


ピータ 俺、なんでここに?

ユウタ なんでだろうな? いつの間にかいたぞ。な?

マイ え? あ、うん。そう。いつの間にかいた。

ピータ 帰らないと。

ユウタ そうだな。大丈夫なら帰らないとな。うちはどこだ? 送って行ってやろうか?

マイ うんうん。

ピータ 大丈夫。俺は……俺は?


     ピータは初めて自分が大事なことを忘れていることに気づく。


ピータ ここは、どこ?

ユウタ ここは公園だな。

マイ ○○のね。

ピータ 俺は?

ユウタ え?

ピータ 俺は 誰?

マイ 兄貴、これって……

ユウタ 嘘だろぉ。


     一瞬、嫌な間が出来る。


ピータ ああ!(と、手を打つ)そうか。

ユウタ 脅かすなよ!

マイ びっくりした……。

ピータ パン。

ユウタ パン?

ピータ パン……が、食べたい?

ユウタ いや、俺に聞かれても。

ピータ お腹すいた……。


     と、ピータはへたり込む。
     マイはゆっくり逃げようとする。


ユウタ おい! 参ったなぁ。って、どこに行く?

マイ (と、携帯を出して)え? ペコちゃんが逃げ出した? 大変! 大丈夫! 
  ポコちゃんにだったらすぐに連絡がつくわ。(と、携帯を閉じ)というわけで、急用が入ったから。

ユウタ どんな用だ!

マイ バイト先の不二家でペコちゃんがいなくなったから、
  急遽ポコちゃんを代わりに使わなきゃいけなくなったのよ! 
  ポコちゃんもいなかったらあたしが変わりに入るから。大丈夫。夜には帰る。

ユウタ こら! 一人だけ逃げるな!

マイ だめ?

ユウタ だめ。

マイ だからキャッチボールなんてイヤだったのよ。

ユウタ キャッチボールは関係ないだろ! とりあえず、これ運ぶから。お前なんか食べ物買って来てやって。

マイ ん。


     と、出した手をユウタが叩く。


ユウタ 任せた。

マイ じゃなくて金は?

ユウタ 任せた。

マイ このバカ兄貴は〜 (ふと思いつき)じゃあ、せっかくだからパン買ってきて上げる。食べたいみたいだし。

ユウタ ああ、よろしく。

マイ リリさんのお店でね。

ユウタ え!?

マイ ついでに聞いてきてあげるよ。

ユウタ なにを?

マイ 兄貴をなんで振ったか。


     マイが走り出す。


ユウタ おい! ……はぁ。ついてないなぁ。(引きずりながら)……重いなぁ……


     照明が上手だけになる。


4 同日 パン屋「大河屋」PM2:00


     そこは商店街にあるパン屋「大河屋」
     小さいパン屋ではあるがそれなりに繁盛している模様。
     パン屋の向かって右側は商店街にいくつかあるわき道になっており、
     向かって左は昔ながらのタバコ屋がある。仲はあまり良くない。
     昼の販売がいったん終わり、店は夕方への準備中。品揃えは今あまりよくない。
     そのためか客はいない。
     と、同時にリリが歌いながら?出てくる。店の表を箒で掃きながら、


リリ (鼻歌)よし。(舞台後方、つまりは店の看板を見上げるように。)よし。(左右確認して)よーし。
  (自分の掃除の出来に満足するが、)あ、誰よこんなとこに吸殻捨てたの。
  うちの前じゃなくて隣で吸いなさいよねぇ。


     と、あたりを見渡し。
     そっと、そのゴミを自分の店のとなりに送っていく。
     そこへマイが現れる。


マイ こんにちは〜。

リリ あ、(慌ててタバコの吸殻を拾い)これはね、違うのよ。でも、ほらだってとなりタバコ屋でしょ。
  だから隣のゴミかなぁって。だって、ねぇ。普通そう思うじゃない? だからちょいちょいって。
  でも、冗談よぉ。本当にそんなことする分けないじゃない。ねぇ?

マイ え? なにがですか?

リリ え? 見てなかったの? なんだ見てなかったのぉ。ならなんでもないの。

マイ リリさんがお隣にゴミを送ろうとしたことを?

リリ 見てたんじゃない。

マイ 見てました。

リリ (辺りをうかがって)誰にも言わないでよ。

マイ はい。(言いながらタバコの吸殻を受け取ると隣に投げる)もちろん。サービスしてくれますよね?

リリ さすがはマイちゃん。しっかりしてるわ。

マイ 兄貴が兄貴ですから。こっちがしっかりしてないと。

リリ (思い出して)お兄さん、昨日のこと気にしてた?

マイ ええ。そりゃあもう。死にたいって叫んでました。

リリ そんなに!? どうしよう。どう謝ったらいいと思う?

マイ いや、別に謝ること無いんじゃないですか? 嫌なものは仕方ないし。

リリ 嫌って?

マイ だから兄貴が。

リリ え?(なんて言った?)

マイ え?(違うの?)

リリ なんでそんな話になるの?

マイ え?(はい?)

リリ え?(「はい?」?)

マイ え?(じゃあ、つまり?)

リリ え? (考えを整理させようと)ちょっとパン買ってく?

マイ はい。


     上手が暗くなる。
     と、同時に下手が明るくなる。


5 同日 上寺のマンション一室 PM2:30

 
     ウエデラのマンション。
     一人暮らしには珍しい2LDKのリビング。
     その広さにしたのは妹が東京の大学に通いたいと親にごね、
     親が一人暮らしを許さなかったからである。
     ソファーにピータが横になっている。
     ユウタは携帯を持って落ち着かない風。


ユウタ やっぱり病院か? いや、ここは警察。でも、なんて言えばいいんだ?
    「子供を一人預かっているんだが」……誘拐だよこれじゃ。え? これ誘拐? いや、違うよね。違うよなぁ。

ピータ うーん。

ユウタ あ? 起きたか?

ピータ ここは?

ユウタ ここは、その、俺の部屋だ。が、べつに怪しい目的で連れ込んだわけではないと言うことだけは
    先に言っておく。

ピータ おじさんは?

ユウタ おじ……せめて、お兄さんと呼べないか?

ピータ おじいさん?

ユウタ 誰がだ! あーっと、俺はユウタ。ウエデラユウタ。

ピータ ユウタ?

ユウタ そう。で、お前は?

ピータ 俺……あれ? 俺は?

ユウタ いや、俺に聞かれても困るんだ。

ピータ 俺? パン?

ユウタ パン?

ピータ おなかすいたなぁ。

ユウタ 大丈夫。それなら妹が買いにいってるから。

マイ(声) 偉大で優秀な妹がでしょ。

ユウタ マイ?


     上手が明るくなる。
     買い物袋を持ったマイが立っている。


マイ ただいま。

ユウタ 早かったなぁ。それで?

マイ それで? ああ、パンならほら。買ってきたよ。兄貴のつけで。

ユウタ つけ? そんなの出来たのかあの店。

マイ 普通は出来ないけど「兄貴が倍にして払います」って言ったらOKしてくれた。

ユウタ おい! まぁそれはいいけど、あの、その、なんだ妹よ。

マイ (無視してピータに)ほら、エサだぞぉ。(と、パンを投げる)


     ピータは受け取ると食べ始める。


ユウタ えーと、妹よ?

マイ すごい勢いで食べるねぇ。よっぽど腹減ってたんだな。

ピータ (食いながら)俺、燃費いいから。

マイ 燃費いいって体じゃないと思うけど。

ピータ 今、ダイエット中なんだ。

マイ なら食うなよ。

ピータ だからだよ。

マイ え?

ピータ 痩せるにはまず太らなきゃいけないだろ?

マイ 痩せてたらダイエットなんて必要ないって分かって言ってる?

ピータ またまたぁ。それじゃ面白くないじゃん。

マイ あ、面白さの問題なんだ。

ユウタ マイさーん。あの、話を聞いてほしいなぁ。なんて。

マイ なに?

ユウタ えっと、で、リリさんは?

マイ いたよ。

ユウタ そりゃいただろうけど。なんて?

マイ なにが?

ユウタ マイ様〜。

マイ 自分で確かめたほうがいいと思うけど。

ユウタ そんなこと出来るかよ。

マイ 大丈夫。言っておいたから。

ユウタ なんて?

マイ 夕方には兄貴がじきじき来ますって。

ユウタ おい!


     と、その声に驚いたのかピータが胸を叩く。


ピータ み、水。

マイ 兄貴!

ユウタ あ、ああ。


     と、ユウタは上手に去る。
     マイは背を叩いている。ユウタが去った方向を見て。


マイ まったく。手のかかる兄貴だ(と笑う)


     ユウタが水を持ってやってくる。



ユウタ ほら、水。


     ピータが飲む。
     と、飲んだピーターの顔色が変わる。


ピータ ウォーター!

ユウタ え?

マイ 水?

ピータ ウォーターとわかったって似てるよね。

ユウタ いや、どうだろう?

マイ 微妙だと思う。

ピータ 分かったよ。俺が誰か。

ユウタ 思い出したのか!?

ピータ (うなずいて)俺は、ピータ・パンだ!


     間


マイ 洗濯物、そろそろ入れても大丈夫かな。

ユウタ さて、水片付けないと(と、片してしまう)

ピータ 分かりやすい反応だなぁ。

マイ やっぱり、さっき変なとこ打っちゃったんじゃない?

ユウタ 変なところも何も、頭だったからなぁ。

ピータ 格好からして、ピータ・パンだろ。

ユウタ そんな格好で威張られてもなぁ。

マイ アンパンマンって言われたほうがまだ信じられると思う。

ピータ ピータ・パンとアンパンマンじゃ全然あってないじゃんか。

マイ (納得したように)ビーダマン?

ピータ ピータ・パン! だからどこら辺が似てるんだよ!

マイ 体系?

ピータ 俺はぽっちゃり系だ!

ユウタ そんなの堂々と威張られても。


     と、声が聞こえる。





ティンク(声) いいじゃないのダーリン。こんな分からんちん放っておいて、早く帰りましょうよ。

マイ え? なにこの声。
ユウタ 腹話術か? 気持ち悪いから辞めろな。

ティンク(声) 違うわよ! 

ピータ ティンク! どこ行ってたの?

ティンク(声) ダーリンが自分のこと忘れちゃってたから近づけなかったのよ。さ、早くネバーランドへ帰りましょ。

ユウタ ティンクぅ? って、あのティンカー・ベルか。

マイ なんか、想像と声が違う……

ティンク(声) うるさいわね! 別にあんた達のイメージと違ったってこちとら文句言われる筋合いはないのよ!

ピータ ティンク! こいつらが俺のこと信じないんだ。

ティンク(声) ええ、本当腹立つやつらよねぇ。別にいいじゃない信じられなくたって。
        さっさと出て行けばいいんだから。

ピータ でも、俺を信じないってことはティンクも信じられないってことだよ?

ティンク(声) 何この人間たちってば、この妖精であるティンカーベルがいるって信じられないわけ? 

ユウタ そんないきなり言われてもなぁ。

マイ 妖精って声じゃないと思う。

ティンク(声) 声にけちつけるなよ! まぁ、別にいいわよ。信じなくても。
       でも、あたし信じてくれないと死んじゃうから。

ユウタ&マイ はぁ!?
ティンク(声) 妖精はね信じてくれないと死んじゃうのよ。ああ、ほら、死んできた。
        信じてくれないから死んできちゃいました〜。

ピータ ティンク! 

ティンク(声)ごめんねピータ。私、もうアナタと一緒に生きられないみたい。

ピータ 別にそれはどうでもいいんだけど。

ティンク(声)このすっとこバカ! あたしが死んだらあんたどうやってネバーランドに帰るのよ。方向音痴の癖に。

ピータ そうか! 駄目だよティンク! 死んじゃ駄目だ。ねぇお願い! ティンクを信じて!

マイ 信じろって言われたって。

ユウタ マイク、どっかについているんじゃないの?

ティンク(声) はい。今半分死んだ〜。

ユウタ そんな死に方があるか!

ピータ ティンク! 死んじゃ駄目だよティンク〜!


     ユウタとマイは顔を見合わせ。


ユウタ わかったわかった。信じるよ。なぁ。

マイ うん。信じる信じる。今信じた。

ピータ&ティンク(声) うそ臭い。

ユウタ どうしろって言うんだよ!

マイ せめて、姿が見えたら簡単に信じられるのにね。

ティンク(声) えっ……

ユウタ そうか。妖精の姿が見えればなぁ。

ティンク(声) え。 いいじゃん。姿なんて見えなくたって。

ユウタ いや、だって。妖精だろう? なんかすっごい妖精って格好してるんじゃない?

ティンク(声) してないよ。普通だよ。

ピータ アレは普通じゃないよ。

ユウタ そうだろ?

マイ やっぱり妖精って感じの格好なんだ?

ピータ 趣味入ってるけどね。

ティンク(声) こらピータ。余計なこと言わないの!

ユウタ 見たいなぁ。妖精の姿。

マイ 見たら信じられるのになぁ。

ティンク(声) だから別に信じてもらうこと強制じゃないし。

ユウタ あんまり出てこないと余計に期待させることになるよ?

マイ もったいぶるのもどうかと思うけど。

ティンク(声) もったいぶってねえよ! じゃ、じゃあ、姿見せるから。

ユウタ よし。

マイ 妖精ってカメラに写るかな(と、携帯を出す)

ティンク(声) いくぞ、


     と、ティンクが姿を現す。
     黄色を基調とした姿。妖精?である。
     ただ姿が見えているときのティンクはかなりテンションが低い。




ティンク 出ました〜。

ユウタ&マイ えぇええ〜(不満げ)

ティンク そうですよね。はい。そういう反応すると思いましたよ。

ユウタ これ、妖精なの?

ピータ うん。

マイ それで納得してるわけ?

ピータ 諦め。

ユウタ&マイ 諦めか。なるほど。

ユウタ うん。信じたよ。なぁ。

マイ うん。仕方ないよね。妖精はいる。

ティンク いっそ消してくれ……。

ユウタ ってことは、お前は本当にピーターパンなのか。

ピータ そう言ってるだろ?

マイ じゃあ、妖精も来たわけだし、帰るんだね。

ティンク もちろん帰りますよ。ほら、帰るわよダーリン。

ピータ うん。帰りたいんだけど。

ティンク え?

ユウタ 帰りたいんだけど?

ピータ 俺、帰れないみたい。

マイ はぁ?

ティンク なんでよ?

ユウタ なんで?

ピータ 俺、飛び方、わからなくなっちゃった。

マイ&ティンク&ユウタ はあ!?


     舞台上が暗くなる。
     舞台前面が明るくなって、


8 同日 同時 路上


     望遠鏡を片手にフックがやってくる。
     いかにも現代にマッチしない格好。
     その横にいるのはスミィ。
     フックは空を見ている。


フック いたか?

スミィ いませんね。

フック ここら辺に落ちたんじゃなかったのか?

スミィ ええ。落ちましたよ。

フック じゃあ何でいないんだよ!?

スミィ (冷たく一瞥して)知るか。

フック ……あの、スミィさん?

スミィ 何か?

フック 怒っていらっしゃいますか? もしかして。

スミィ 「もしかして?」

フック いえ、間違いなく、怒っていらっしゃるようですが? 何があったのでしょう?

スミィ 別に。誰かさんのせいで船を降りなきゃならなくなったとか、こんな昼間にこんな目立つ格好で
   なんで街中を歩かなきゃならないんだとか。そんなことは怒ってませんよ?

フック いや、船を下りることになったのは奴のせいであるし、この格好だってそんな悪いわけじゃないだろう。
   みんな避(よ)けて通るじゃないか。

スミィ 避けて通るんじゃなくて、避(さ)けられてるんでしょう?変だから。

フック この格好のどこが変だって言うんだ!?

スミィ そんなことにも気づかないほどおつむが弱いんですかあなたは?

フック すみません。

スミィ ほら、止まってるとますます怪しい人だから行きますよ。

フック はい。

スミィ ほら、胸を張って!

フック はい。

スミィ 船長なんだからもっとしっかりしてくださいよ。

フック はい。


     フックとスミィが去る。





     部屋の風景が戻る。
     なんか、パンを食べている面々。
     ティンクの姿は無い。


ユウタ なるほどねぇ。

マイ 忘れちゃったんだ。飛び方。

ピータ うん。楽しいことを考えて飛ぶっていうのは覚えてるんだけど。

マイ その楽しいことがなんだか分からないと。

ピータ うん。

ユウタ 単純なことなんじゃないか?

ピータ たぶん。

ユウタ 自信ないのか。

ピータ うん。おいしいこれ。

ユウタ だろ。なんせリリさんの作ったパンだからな。

マイ リリさんは作ってないでしょ。

ユウタ そうなの!?

マイ 実際作ってるのはリリさんのお父さんだと思うけど。

ユウタ リリさんの父上が作られているパンか。なんだか、感慨深いな。

ピータ うん。おいしい。

ティンク(声) 和んでる場合じゃないでしょダーリン!

ピータ ティンクも食べたい?

ティンク(声) じゃあ少し……じゃなくて、どうするのよ! ピータが飛べなかったら
       ネバーランドに帰れないじゃないの!

ユウタ どうするったって。

ティンク(声) あんたがボールなんか投げるのがいけないんでしょ!

ユウタ そんなまさか真昼間に空飛んでいる奴がいるなんて思わないし。

マイ なんで日本なんか来たのよ。

ピータ おいしいもの食べたかった。

ユウタ 自業自得って言葉聞いたことあるか?

ティンク(声) ピータは悪くないわよ! どーするのよ! 飛べなきゃ帰れないじゃない! 
       帰れなきゃ。帰れなきゃ……

ユウタ 帰れなきゃどうなるんだ?

ピータ 俺、年とる。

ユウタ ああ、そうか。

ティンク(声) 死んじゃうじゃない。ピータ。あたし置いて、死んじゃうのよ。

ユウタ あんたは、覚えてないのか? ピータが飛べる楽しいことって奴。

ティンク(声) 聞いたことないもん、知るわけないでしょ!

マイ 聞いておけよ。


     と、覚えていないのかという言葉でマイは思い当たる。


ティンク(声) だってピータが飛べなくなるなんて思わなかったし。仕方ないでしょ!

ユウタ まあじゃあ、思い出すまではここにいてもいいから。な。

ティンク(声)そうやってピータのことを見世物にするつもりじゃないでしょうね。

ユウタ するか! 人の親切を何だと思ってるんだ。

ピータ ティンクは恥ずかしがりやだからね。

ユウタ ……お前それわかってて使っているか?

ピータ パンっておいしいよね。

ユウタ 駄目だこいつ。(と、マイに)まぁ、そんなことでいいよな?


     と、マイは時計を気にしていた。


マイ え? ああ。うん。そうだね。

ユウタ どうしたんだ?

マイ えっと、それはそれでいいんだけどさ。


     と、マイはユウタたちから少し距離を置く。(つまり少し上手に位置する)


ユウタ どうした?

マイ 今日って日曜じゃん?

ユウタ だから?

マイ だから、ちょうどいいと思ったんだよね。何がちょうどいいって、ほら、兄貴いつも仕事だしさ。
  休みの日にこういう話はしたほうがいいんじゃないかなって。
  まぁ、別に兄貴に話さなくても良かったのかもしれないけど、その方が色々と後ほど都合がいいと思って。
  いや、都合がいいって言うとなんか誤解させるかもしれないけど、つまり、なんていうかさ。

ユウタ 何の話だよ?

マイ (決心し)兄貴に、会ってほしい人がいるの。

ユウタ え?

マイ つづく。

ユウタ え、続くって何?


     と、急速に暗転。


ユウタ うわっ暗っ。え、なに!? どういうこと?


     ピアノの音楽が入る。


10 


     照明がつくと、フックが中央に立っている。
     「まいどあり〜」とか、声が聞こえるとよい。
     満足げに、フックはパイプを持っている。
     どうやらタバコ屋でパイプを買ったらしい。
     タバコ屋とはつまりはパン屋の隣のタバコ屋である。
     ちなみに、その隣はなんかいかにも安くなさそうな「激安携帯販売店 三吉」がある。


フック やはりコレが無いとな。(と、パイプを深々と吸い)ふむ。大人な味わい。(と、少しむせる)肺に入った。
   さて、(と、何か嫌な予感がして)なんだ? 背筋に悪寒が……


     と、ワニカワがやってくる。
     ワニカワは片手に鞄、もう片手に地図を持っている。
     ワニカワとフックの目が合う。
     フックはやや気おされた雰囲気。


フック どうも。

ワニカワ どうも。……あの、ここに行きたいんですけど。


     と、ワニカワが地図を見せようとする。
     フックが避ける。


ワニカワ あの?

フック いや、べつに避けたくて避けているわけじゃないんだ。ただ、体が。


     ワニカワが寄る。
     フックが避ける。


ワニカワ 何か僕が、気に障ることでも?

フック いや、べつに。だが、俺はこの辺の人間じゃないんでね。他の人に聞いたほうがいいんじゃないかな。

ワニカワ ああ。そうだったんですか。すいません。じゃあ、そうします。


     ワニカワが去る。
     フックは額の汗をぬぐう。


フック なんだったんだ? (と、パイプを吸い)うん。うまい。よし。忘れよう。


     スミィがやってくる。
     フックの落ち着いた雰囲気を見て立ち止まる。


スミィ 人が聞き込みに忙しく立ち回ってやってる中、何やってるんでしょうか?

フック え? あ、コレはだなぁ。大人のエチケットというか。

スミィ こないだ禁煙するって言ったばかりでしょう?

フック すいません。ええ。もう、こんなのは吸いません。(と、パイプをほおる)なんちゃって。ははは。はは。

スミィ つまらない。

フック はい。それにしても、奴は一体どこへ隠れたんだ?

スミィ それについては面白い話を。

フック どんな?

スミィ (メモを出し)近所のおばさんの話ではここら辺に住む男が一人、それらしき少年を担いでいったと。

フック あれ、担げるのか?(言いながらパイプを拾おうとする)

スミィ まぁ、あれでも子供ですから。……何を拾おうと?

フック (拾いかけていたがぎくりとし)いや、もったいないかなぁって。せっかく買ったし。

スミィ ほほう?

フック ないね。もったいなくない。うん。もったいなくなくなくない。さあ、どっちでしょう?

スミィ (見つめる)

フック 正解は、もったいなくないってことでした。ははは。(と、再び放る)

リリ(声) ちょっと、店の前で何してるのよ!


     と、リリがやってくる。
     このあたりで照明は半分だけにしておきたい。


フック え?

リリ 「え」じゃなくて。捨てたでしょ? 今。パイプを。私の店の前に。

フック え?(と、スミィとリリの顔が似ていることに驚いている)

リリ だから、「え」じゃない! そういうのね、営業妨害って言うのよ!

     と、リリもスミィをまじまじと見る。
     ※劇団では姉妹がそれぞれスミィとリリを演じていた。 
     そのため、顔がそっくりということで以下の流れがあったのである。

      

リリ って……

スミィ 初めまして。

リリ 初めまして。

スミィ すいませんね。うちのボスがご迷惑をおかけして。

リリ いえいえ。いいんですけどね。こんなのこうやって拾って後で捨てれば。

スミィ ですよね。


     リリがパイプを憎憎しげに放る。


フック スミィ。

スミィ 何か?

フック 知り合いか?

スミィ まさか。

フック 本当だな。生き別れの兄弟とかじゃないな。

スミィ 他人です。

フック 何かの伏線じゃないな。

スミィ まったく本編とは関係ありません。

フック ならいい。(リリに)いやあ、お美しいお嬢さん。お会いできて光栄です(と、それっぽく礼をする)

リリ はあ。

フック すいません。まだこの辺に来たばかりでして。この辺のトラディッション(伝統)ってやつが
   分からなかったのです。

リリ 別にゴミを道端に捨てることは伝統も関係ないと思いますけど。

スミィ 同感。

フック (ごまかすように咳払いをし)ところでお嬢さん。一つお聞きしたいことが。

リリ なんですか?

フック この辺で緑色をした男の子を見ませんでしたか?

リリ はぁ?

フック この辺でですね。緑色をした、男の子を見ませんでしたか?

リリ 緑色、ですか?

フック ええ。そして、割と膨れている。

リリ 膨れて……それは人間なんですか?

フック だから男の子だって言ってるだろう!

リリ すいません。

フック いえ、失礼。少々短気なところがあってね。なおさなくてはと思ってはいるんだが。


     と、スミィはあたりを見ていたのだが、やってくる人物がわかったらしく。


スミィ 船長(ふと、気づいたという風に)

フック 今は話しかけるな。

スミィ 船長(こっち向けよ)

フック 話しかけるなといっただろう!? 俺は今聞き込みをやっているんだ! 
   お前がねちっこくいやみを言ったからな!

スミィ 船長(怒りを抑えた冷静さで)

フック はい。何でしょう?

スミィ あれ。

フック あれ?


     と、ティンクが走ってくる。


ティンク ああ、もう! ダーリンのバカ! すっとこどっこい! すっとこバカ! すっとこオオバカ!


     と、ティンクが走り去る。


フック ティンカーベルだ。

スミィ ええ。

フック どっから来た?

スミィ あちらから。

フック 家は? 見たか。

スミィ はい。

フック よし行くぞ!

スミィ フック。

フック なんだよ?

スミィ 礼は?

フック ありがとうございました。

スミィ よろしい。


     フックとスミィが去っていく。


リリ 何今の? あっちは……上寺さんち? まさかねぇ。


     照明が暗くなる。
     音楽。

     話は少し戻って


11


     照明がつくと、そこは上寺のリビング。
     「つづく」のまま固まっている。


ユウタ って、何がつづくだ! そんなんで続くわけ無いだろ!

マイ 続かないか。

ピータ 続かないよ。ちびまる子ちゃんじゃあるまいし。

ユウタ 「後半に続く」なんてならないから。で、なんだよ。会ってほしい人って。

マイ 言葉どおりよ。

ユウタ まさか? これ?(と、指で男を示す)

マイ 口で言えよ。

ユウタ 彼氏かよ! いつの間に?

マイ 成り行き、かな。

ユウタ いや、それはすごいなぁ。え? でも、なんで俺が会わなきゃいけないの?

マイ だって、お父さんにも紹介したいし。

ユウタ なんで?

マイ だって、やっぱり結婚するんだしさぁ。会わないとお父さんも納得しないでしょ。

ユウタ 結婚!?

ピータ 俺も好きだよ。穴がぼこぼこ空いてるんだよね。

ユウタ それはレンコンだ。

ピータ じゃあぁ……うーーん。

ユウタ いい。面白いこと言おうとしなくていいから。な。

ピータ 分かった。結婚ってうまい?

ユウタ 食えない。

ピータ じゃあ、俺いらない。

ユウタ しかし、何でそんな話に。相手は誰だよ? 俺が知っている奴、じゃないよな。

マイ 実は……

ユウタ 知っている奴かよ!

マイ ワニカワさん。

ユウタ ワニカワって高校ん時の先輩の?

マイ うん。

ユウタ あいつ、プーだったんじゃないのか?

マイ だったんだけど、


     と、チャイムの音が鳴る。


マイ 来た。ちょっと待ってて。



     マイが去る。


ユウタ マジか……あいつが結婚? 早すぎるだろ。

ティンク(声) いいじゃない! 結婚よ結婚。

ピータ あ、ティンクいたんだ?

ティンク(声) いただろさっきから!

ユウタ 頼むから黙っててくれ。まだ20だぞ? あいつは。相手はフリーターだし。生活できるわけ無いだろ。

ティンク(声) でも、やってみなきゃわからないじゃない。

ユウタ 現実世界から最も遠いような存在が適当なこと言うな。

ティンク(声) ひどい。……私も結婚したいなぁ。ねぇ、ピータ?

ピータ すれば?

ティンク(声) もちろんそのときは相手になってくれるわよね?

ピータ なんで?

ティンク(声) ピータのすっとこばかやろう!

ピータ ティンク!? ……行っちゃった。

ユウタ あーあ。


     マイが現れる。
     ワニカワもやってくる。


ワニカワ いや、何度も来たところだったっていうのに迷っちゃったよ。やっぱり緊張してたのかな。

マイ 兄貴、ワニカワさん。

ユウタ 見りゃ分かる。

ワニカワ こんにちはお兄さん。

ユウタ お兄さんなんてお前に呼ばれる筋合いは無いな。

ワニカワ いや、でも、いつもそう呼んでたじゃないですか。

ユウタ いつもはその言葉に隠された意味に気づいてなかったから呼ばせてたんだ!

ワニカワ えっと、(マイに)もしかしてもう話しちゃったの?

マイ うん。

ワニカワ なんだ。僕から話すって言ったのに。

マイ ごめん。

ワニカワ いや、いいんだ。責めるような言い方になっちゃってごめん。

マイ あなたが謝ることないわよ。私が余計なことしたから。

ワニカワ そんなことないよ。マイは悪くない。むしろ悪いのは僕の方だ。

マイ あなたは悪くないって。

ワニカワ いや、君こそ悪くないんだよ。

ユウタ なんだこの甘ったるい雰囲気。

ワニカワ あ、すいません。お兄さん。

ユウタ だから、お兄さんって言うな。

ワニカワ 話だけでも聞いてくれませんか。

ユウタ 俺を「お兄さん」と呼ぶ人間から聞く話は無い。


     マイがワニカワにぼそぼそ言う。
     ワニカワはうなずき、


ワニカワ ユウタさん。

ユウタ お前今俺の名前知ったのか。

ワニカワ とりあえず、これ、つまらないものですけど。


     と、ワニカワはお土産を出す。
     小さい箱。


ユウタ なんだこれ。

ワニカワ ビーバーの水夫です。

ユウタ シルバニアか!

ワニカワ はい。

ユウタ まさか。ビーバーはまだ日本では出回ってないはずだ。

ワニカワ とある筋から手に入れました。

ユウタ (ひったくるように箱を取ると)しかし、なぜ俺がシルバニアファミリー好きだと!? 
    妹にも言ったことがないのに。

ワニカワ でもユウタさん、シルバニアファミリーのCM中はチャンネルを変えないって、
     マイがよく話してくれたから。

ユウタ 気づかれていたってわけか。

ワニカワ ええ。その時思ったんです。きっとうまくやっていけるって。

ユウタ すると、まさか(お前も?)

ワニカワ (うなずいて)シルバニア好きに、悪い人はいないですよね。

ユウタ (箱を大事そうにピータに預けながら)話ぐらい聞いてやろう。

ワニカワ (喜び)ユウタさん。その、妹さんと俺はですね。なんていうか、男と女の関係というか。

ユウタ そうか。

ワニカワ プラトニックではない関係になってしまったというか。

ユウタ そ、そうか……

ワニカワ 淫靡さを乗り越えつつある大人の関係というか。

ユウタ やめろ。どんどん言い方がエロくなっている気がする。

ワニカワ (軽く)というわけで、結婚しようと思ってるんですよ。

ユウタ なんでそんな軽いんだ。何よりお前、プーだろ!

ワニカワ え? なに、(マイに)言ってなかったの?

マイ うん。

ワニカワ なんだ。それじゃあお兄さん怒るに決まってるじゃないか。言っておいてくれてると思ってた。

マイ ごめん。

ワニカワ 謝ることはないよ。でもなんで?

マイ やっぱり、そういうのって自分で言った方が嬉しいかなって思って。

ワニカワ そっか。僕のこと、考えてくれたんだ。

マイ 当たり前でしょ?

ワニカワ マイ。


     二人は抱き合う。そして、徐々にその顔が近づき……


ユウタ だーから、ここでそういうことやめろ!

ワニカワ (ごまかすように咳払いして)いやぁ。ごめんなさい。心配させちゃって。僕、就職したんですよ。

ユウタ 仕事は?

ワニカワ 販売員です。今は営業で外回り中心で(と、鞄を見せる)まぁ、今日は休みですけど。
     商売道具は肌身離さないように持っていようと思って。どうです一つ。お安くしておきますよ。

ユウタ 何の販売員だよ、なんの。

ワニカワ いや、それは見てからのお楽しみです。

ユウタ 反対だ。

ワニカワ へ?

マイ 兄貴!?

ユウタ どーせ販売員だってのもすぐやめるに決まってるし、第一早すぎる。駄目だね。絶対俺は反対。

マイ 兄貴!

ワニカワ そんな。困っちゃったな。確かに仕事はついたばかりです。でも、その仕事をやろうって思ったのは
     こいつがいたからで。だから辞めようなんて思わないんですよ。絶対。

マイ 兄貴。振られたばかりだからって人の幸せにまでいちゃもんつけるの止めてくれない?

ユウタ うっ。

ワニカワ え。振られたばかりなんですか? それは、ご愁傷様です。

マイ 別に度胸がないだけなんだからフォローの必要ないって。

ユウタ この……

マイ 「好きだ」の一つも言えないで勝手に玉砕したんだから。

ワニカワ ああ。それは駄目ですね。

ユウタ お前、だからまだ

マイ まだって思っているなら言っちゃえばいいのに動こうとしないじゃない。臆病者。

ワニカワ いわゆるチキンって奴ですよ。それは。

ユウタ この、言わせておけば。

マイ なに? 図星なんでしょ?

ワニカワ 図星なんですか?

ユウタ この……(と、その目がピータを見る)しかし、マイ。結婚するとなると元彼の許しも
    得なきゃいけないんじゃないか?

マイ はぁ?

ワニカワ モトカレ?

ユウタ な? モトカレ君。(と、ピータの肩を叩く)

マイ 何言ってるの?

ピータ そんなの俺食べてないよ。


     ユウタはピータをはたくと、そっとその耳に語りかける。


ユウタ いいから調子を合わせろ。後でうまいもの食わせてやるから。

ピータ 本当?

ユウタ もちろん。

ピータ 分かった。


     と、ユウタは二人を向くと


ユウタ というわけで、元カレのピータ氏も大変憤慨しているぞ。な。

ピータ (うなずく)

ワニカワ チョット待ってください。元カレって?(と、マイに)

マイ そんなの今兄貴が作ったでたらめに決まってるでしょ。

ユウタ でたらめ!? でたらめ言いましたか今。悲しいですね。ミスターピータ。

ピータ (うなずく)

ユウタ (腹話術で)『一生そばにいるって約束したのに』 ほら、嘆いてる嘆いてる。

ワニカワ (混乱して)そんな人がいるなんてまったく聞いて無かったよ。

マイ だからいないんだって。

ユウタ そう。いないことにしてたんだよね。『パスタを食べながら愛を語る日々でした』
    ああ。うちの妹、パスタしか作れませんから。

ワニカワ なんで正直に話してくれなかったの?

マイ だからいないんだって。兄貴!

ユウタ (腹話術で)『結婚しようって約束までしたのに』 (わざとらしく)ええ! そんな関係まで行っていたの? 
    それはしらなかったぁ。

ワニカワ 結婚。そんな。でも、見るからにその子はまだ子供に見えるけど。

ユウタ (ぎくっとし)『結婚の約束は兄としてたんだ』 ピータ氏の兄、ペータ氏のことですね。

ワニカワ じゃあ、兄弟両方と付き合ってたの!?

マイ そんなわけ無いでしょ! 兄貴〜

ユウタ そんだけ怒ると、本当ですって認めているようなものだぞ。

マイ んなわけ無いだろ!

ワニカワ ショックだ。

マイ え?

ワニカワ ショックだ〜。


     と、ワニカワが走り去る。


マイ ワニカワさん! 

ユウタ うわぁ。本当に信じちゃったよ。人を信じすぎじゃないかあいつ。

マイ このバカ兄貴!

ユウタ いや、でも、信じるほうがおかしいだろ今のは。

マイ それだけ純粋なの!

ユウタ 純粋にもほどがあるだろ。

マイ とにかく追いかけないと。後で覚えてろよ!


     と、マイが去る。


12


ユウタ 怖い怖い。(と、笑う)

ピータ 良かったの? これで。

ユウタ え? 当たり前だろ。人が振られた矢先に結婚しようと思う奴らが悪い。

ピータ 振られたの?

ユウタ ああ。

ピータ いつ?

ユウタ 昨日。お前を見つけた公園でな。

ピータ ……大切なものはね。目には見えないんだ。

ユウタ それ、どっかで聞いたことある台詞だな。

ピータ キノセイダヨ。

ユウタ 気のせいか。それで?

ピータ だから、見えるものだけでも離しちゃいけないんだよ。何があるかわからないんだから。

ユウタ 大丈夫かお前急に真面目なこと言って。……離してすぐ無くなるものでもないさ。

ピータ 大切なものも分からないのに?

ユウタ 何だよ大切なものって。

ピータ 目に見えないものだよ。

ユウタ だからなんだそれ。

ピータ 目に見えないから覚えているしかないんだ。じゃないと忘れたことさえ忘れちゃう。

ユウタ いやいや、忘れたのはお前だろ?

ピータ ユウタも忘れてるよ。

ユウタ 何を?

ピータ 大切なこと。

ユウタ お前な、だから(なんだよそれ)

ピータ 俺、昨日も公園の上飛んでたんだ。

ユウタ 昨日?

ピータ うん。

ユウタ 公園?

ピータ うん。

ユウタ じゃあ、(見てたのか?)

ピータ 見せてやるよ。俺が何を見たか。

ユウタ 「なに」を?


     と、突如暗くなり、中央にサスだけ。そこにユウタが入っている。
     ピータも浮かび上がる。どこか別の場所にいるよう。


ユウタ なんだこれ!?

ピータ 昨日の公園

ユウタ 暗いぞ?

ピータ だってそのときユウタ、自分の世界に浸ってたじゃん。

ユウタ その時か……え、なんでお前こんなこと出来るの?

ピータ ピータ・パンだから。

ユウタ ピータ・パンだから?

ピータ ピータ・パンだから。

ユウタ そんな理由があってたまるか!

ピータ ほら、そんな事より隣を見てごらん?

ユウタ 隣?


     照明がつく。夕方の公園。
     そこには携帯電話で話しているリリの姿がある。


リリ どうしたのお父さん? 今ちょっと忙しいんだけど。え? また来たの? あいつら。
  またタバコ吸いながら店の中に?(独り言で)今度やったらぶっ飛ばすっていったのに。
  (電話に戻る)うん。分かったすぐに戻る。じゃあ。(と、ユウタに)ごめんなさい!

ユウタ え?

リリ ごめんなさい。その、今日はちょっと。

ユウタ そんな事情があったのか。

リリ また呼んで下さいね? それじゃあまた。


     リリが去る。


ユウタ リリさん!


     照明がゆっくりとリビングに戻る。
     ただし、戻るのは下手のみ。
     

ピータ これって振られたんじゃないよね?

ユウタ ああ。よく分かったな。鈍いくせに。

ピータ ティンクが教えてくれた。人の話聞かないでへこんでるって。一緒に空で笑ってた。

ユウタ ほっとけ。

ピータ これで分かったでしょ?

ユウタ なにが?

ピータ 大切なことは目に見えないんだよ

ユウタ だから見えるものを大切にか。

ピータ うん。

ユウタ 行かなきゃな。

ピータ うん! ちゃんと妹さんに謝るんだよ!

ユウタ は? なに言ってるんだ?

ピータ え?

ユウタ リリさんのとこに決まってるだろ?告白が失敗になってないならまだチャンスはある!

ピータ えぇ〜!?

ユウタ 俺は臆病者でもチキンでもないってことを証明してやる。

ピータ なんでそうなるかなぁ。

ユウタ だいたい、今のどこに「妹を大切に」っていう教訓が入ってたんだよ。

ピータ だから、大切なものは目に見えないから、見える妹さんを大切にって。

ユウタ 分からない。

ピータ わからない?

ユータ さっぱり分からん。

ピータ (しばし考え)ピータ・パンだから

ユウタ それですべて解決しようとするな。

ピータ ピータ・パンだから。


     ユウタ去る。


ピータ 人間って怖い。


 ユウタ戻る


ユウタ そうだ。思い出した。

ピータ え?

ユウタ 星の王子さまだ

ピータ (すっとぼけて)ナニガ?

ユウタ 大切なことは目に見えないんだよってやつ。星の王子さまのセリフだろ。

ピータ いいんだよ。俺たち友達だから。

ユウタ 友達なのか。

ピータ 「ホッシー」「ピータ」って呼び合う関係だから。

ユウタ そういうことにしとく。


     ユウタが去る。


ピータ (ボソリと)ちゃんと見つけなよ。俺も、早く思い出さないとな。どうやって飛んでたんだっけ〜


     言いながらもゴロゴロ。
     と、フックの声聞こえる。


フック(声) 見つけた。

ピータ そんな簡単に見つかったら苦労しないよ。

フック(声) 見つけたぞ、ピータ。


     フックが現れる。
     左手にもかぎ爪のようなものを持っている。
     腰には刀。


ピータ ここ三階なんだけど。飛べたっけ?

フック 俺様のこのカギ爪にかかれば雑作もない。生憎スミィは待たすはめになったけどな。

ピータ 大変だね。こんなとこまで。

フック 全ては貴様をきざむためだ! この手の恨み、今日こそ晴らしてやる。さあ、剣を取れ。
   決闘をしようじゃないか。優雅な殺し合いを。


     と、フックが一礼する。
     このときのピータは一瞬ネバーランドに戻ったような気がして、カッコいい。


ピータ 俺がそう簡単にやられると思う?


     が、その手が腰をまさぐって気づく。


ピータ あれ、剣がない?

フック 覚悟!

ピータ ま、待って待って!


     下手側が暗転。
     と、同時に上手がつく。
     パン屋である。


13 PM4:00?


     パン屋の前では、リリが忙しくなる前の掃除をしている。
     タバコの吸殻などを見つけては嫌な顔して箒で飛ばす。

     と、そこへユウタがやってくる。


ユウタ リリさん!

リリ あら? 上寺さん。こんにちは。

ユウタ こんにちは。

リリ ごめんなさい。今まだ夜用にパン焼いていて。そんなに品揃え良くないのよ。あ、それでもさっきのお金? 
  いいんですよ。ツケなんて冗談だったんだから。

ユウタ いや、今日はパンじゃなくて、リリさんに用があってきたんです。(ふと我に帰り)って、
   俺はいきなり何を暴走しているんだ! ちょっと強引で素敵じゃないか。

リリ 上寺さん?

ユウタ その、昨日いえなかったことを、言いに来ました。

リリ ああ。昨日はごめんなさい。お話の途中で

ユウタ いいんですもう。

リリ それで?

ユウタ えっと。実はですね!

リリ はい。

ユウタ ……ちょっと待ってください?

リリ はい。

ユウタ (自分に)なんだもう度胸切れか? ……そうみたい。どうせ断られるに決まってるんだ。
    いや、分からないぞ。(と、リリを見て)いや、断られるだろうなぁ。でも、言わなきゃ分からない。
    可能性はゼロじゃないんだ。よし。リリさん!

リリ はい!

ユウタ 俺は、ですね。

リリ はい。

ユウタ えっと、……残っているパンの中でお勧めってあります?

リリ ああ、それだったら。


     リリが引っ込みパンを持ってくる。
     その間にティンクの声


ティンク(声) あ こんなところにいたのね。

ユウタ え? 気のせいか。

ティンク(声) こら。無視するなよ。

ユウタ ちっ。ばれたか。

ティンク(声) やっぱりわざとかよ!

ユウタ お前な、姿現さないで話されてたら、俺何もないところを見ながら話している怪しい人じゃねえかよ。

ティンク(声)可愛いじゃないのよ猫みたいで。

ユウタ 猫と一緒にするな!

ティンク(声) 仕方ないわね。


     ティンクが現れる。


ティンク はい。出ました〜。

ユウタ うわぁ。

ティンク うわぁあって言うな。

ユウタ 悪い。急に出てきたから。それで、どうしたんだよ。

ティンク だから、大変なのよ。

ユウタ いや、だからって言われても。

ティンク だから、部屋に戻ってみたらピータが大変だったのよ! え?言ってなかったあたし。

ユウタ 言ってない言ってない。


     戻ってきたリリは不思議そうに。
     片手に箒。そして、パンを持っている。


リリ 上寺さん、そちらの方は。

ユウタ ああ、なんですかね。地球外生命体?

ティンク 妖精だって言ってるだろ! とにかく来て! ああ、じゃあついでにあんたも!


     と、ティンクはユウタとリリの手を引っ張って連れて行く。
     同時に下手にも明りが入る。
     フックがピータの上に座っている。


14


フック どうだピータ。参ったか。

ピータ ちょうど腰に座ってほしかったんだよね。ああ。気持ちいい。

フック 気持ち悪い強がりを言うな。


     フック座ったままジャンプ。


ピータ ギャン。

ティンク(声) ピータ!


     声と共に、ティンクとユウタとリリ。


フック おや。早かったようだな。ティンカーベルとは呼びたくない女。

ティンク 呼べよ!

ユウタ やっぱり、認めたくない人間はいるんだな。

フック ピータならまだ生きているぞ。簡単に殺しても俺様の恨みは晴れないからな。

ピータ じゃあ、一回さよならして今度また戦わない?

フック 黙れ!
ティンク 人間! ピータを助けてあげて。

ユウタ 助けてっていってもなぁ。

フック 人間を加勢に連れてきたのか。どれ。退屈しのぎに相手をしてやろう。


     フックが構える。


ティンク ピータ!


     ティンクがピータに駆け寄る。
     フックは通してやる。
     ユウタはリリを見る。そして、ティンクも。
     二人は期待する目でユウタを見ている。


ユウタ あ、やっぱり俺なんだ。

フック さあ、どっからでもかかって来い。

ユウタ こうなりゃ自棄だ!


     と、ユウタが飛び掛る。
     フックに一瞬でやられる。


ティンク&ピータ 弱い。

リリ 上寺さん!

ユウタ 無理無理。勝てないですってあんなの。

フック どうした? もう終わりかな?


     と、フックと目が合ったティンクは去る。


ピータ ティンク!

フック とうとう妖精とは呼びたくないものにも捨てられたか。いやはや。強すぎるじゃないか俺様は。


     と、フックは近くの椅子に座ると、ふと小さな箱を見つける。


フック なんだこれ?

ユウタ あ! それは。

フック なんだ? 人間の大事なものか(興味なさそう)

ユウタ シルバニア・ファミリーシリーズのビーバーの水夫ってやつなんですよ。

フック ふーん。(上に投げて遊んでいる)

ユウタ もう、なんていうかいわゆるレアってやつで、日本ではまだ売ってない代物なんですって
    ああ! ああ! あああ!


     ユウタの台詞の途中にフックは箱を袖に投げ捨てた。


フック ああ。すまん。手が滑った。

ユウタ ビーバーさんが……

フック なんだ? 怒ったのか?

ユウタ さすがにこれはもう、なんていうか、怒りますよ。マジでゆる(せないと、言おうとした)

リリ 許せない。

ユウタ え?


     リリがパンをそばに置くと、箒を構える。


リリ シルバニアを捨てたわね。

フック それがどうした。

リリ この世で許せないものベストスリーをあげるのなら、あんたがやったことは第二位に上がるわよ!

ユウタ 第一位が気になる。

フック 許せなかったらどうする。

リリ 天誅を下す。

フック ほう? やれるものならやってみろ!


     リリの攻撃。
     フックはギリギリで避ける。
     リリの攻撃。
     フックはギリギリで避ける。


フック いきなり攻撃するな! 戦いにも礼儀ってものがあるだろう!

リリ 極悪人には必要ない!

フック まて! それ以上攻撃しようとするならこいつの命がどうなっても知らんぞ。


     と、フックが人質に取ったのはピータ。


ユウタ しまった!

ピータ あれ? ご飯の時間?

フック 寝てたのか! しかし、これで形勢逆転だな。

リリ フッフッフッフ。

フック 何がおかしい!

リリ そんなやつ知らん!

フック そんな!


     リリの攻撃をフックは何とか避けると、今度はユウタに剣を向ける。


フック ならばこいつならどうだ。

リリ 上寺さん!

ユウタ リリさん。ごめん!

リリ 大丈夫!

ユウタ え? 

リリ 立派なお墓を立ててあげる!

ユウタ そんな!?


     リリが飛び掛る。
     フックが避ける。
     ユウタも逃げる。


フック くそ。遠慮って物を知らないのか。

リリ そんなものとっくに捨てたわ。


     今度フックが手にしたのはパン。


フック なら、このパンならどうだ!

ユウタ いや、それ人質ですらないだろ。

リリ くっ。しまった。

ユウタ 俺はパン以下!?

フック さぁ、おとなしく箒を捨てろ。


     リリはにらむが諦めたように箒を捨てる。


フック 今度こそ俺様の勝ちだな。


     と、ティンクの声が響く。


ティンク(声) それはどうかしら。

フック なに!?


15 PM4:30


     やってきたのはマイとワニカワ。
     ワニカワの姿を見ると、思わずフックは避ける。
     その方向にいた人間は、そのうちにワニカワたちのほうへ。


ユウタ ワニカワ!? それに、マイ!

マイ あらそこにいるのはうそつきお兄様ではありませんか。どうしたの? 助けてほしいわけ?

ユウタ ごめんなさい。
ワニカワ 妖怪のお嬢さんから話は全て聞きました。

ティンク(声)だから妖精だって。

ワニカワ 僕に、任せてくれませんか?

ユウタ お前に?

ワニカワ ええ。ちょうど、いい物を持っているんです。僕の予想が正しければですけど。


     ワニカワが一歩前に出る。手には鞄。


フック なんだお前。

ワニカワ あなたがフック船長ですか。

フック そうだが。

ワニカワ フック船長って言うと、あのワニが苦手なフック船長でしょうか?

フック ワニが苦手で何が悪い!

ワニカワ いえいえ。そんな。で、もう一つ苦手なものがあるとか。


     ニコニコ近づくワニカワ。
     鞄をフックに見せ付けるように。


フック まさか、お前その中に。

ワニカワ 僕は販売員なんですけどね。ちょうど今いっぱい持っているんですよ。ト、

フック ひぃ。

ワニカワ ああ、やっぱり苦手なんだ。あの、トケ、

フック に、苦手じゃないぞ。

ワニカワ え、苦手じゃないんですか。時計。

フック その名前を言うな!!

ワニカワ はっはっは。さっき露骨に避けてくれちゃったりしたから不思議だなぁとは思っていたんですよ。
     僕の鞄の中身を恐れていたんですね。そこまで嫌いですか時計。

フック その名前を言うなと言ったろ!

ユウタ (マイに)お前、あんな性格悪い人間と付き合ってて大丈夫なの?

マイ いい性格してるでしょ?

ユウタ それは性格がいいことにはならないんだぞ?

フック やめろ! ちかづくな! いいか、この線から近づくな!

ワニカワ じゃあ、ここから投げてあげますよ。(と、鞄を開ける)どれがいいかな。あ、この時計なんてどうですか? 
     これは? これは?


     と、ワニカワはどんどん時計を投げる。


フック や、やめてくれ〜


     フックがひざをつく。
     と、声が響く


スミィ(声) はい、そこまで。


     スミィがやってくる。


フック スミィ!? どうしてここに。

スミィ 船を横付けしたんです。上陸用のボートですけど。人間に見つかるとうるさいですから帰りますよ。

フック まて、俺は負けたわけじゃない。負けたわけじゃないんだ。

スミィ 大丈夫。全部見てましたから。

フック 見てたの?

スミィ ええ。おやさしい船長は、本当の決着はネバーランドでと思って、わざと手を抜いてたんですよね?

フック そ、そう! そうなんだ。まぁ、決着はホームでつけるのが一番だからな。

スミィ じゃあそのための準備をしませんと。さ、帰りましょう。

フック うむ。帰るぞスミィ。ピータよ。では、ネバーランドで会おう。


     フックは威厳を取り戻し、去っていく。


ユウタ えっと……

スミィ そういうことですから。フックは負けておりません。いいですね。

ユウタ あ、はい。

スミィ(時計を拾い)いい時計ですね。

ワニカワ はぁ。

スミィ 一つ、もらっていいですか。船に時計を持ち込むとすぐに船長に壊されちゃって。

ワニカワ あ、はい。どうぞ。

スミィ じゃあ、これはお礼代わりと言ってはなんですけど。


     と、スミィは箱をなげる。
     ユウタが受け取る


スミィ 拾っておきました。それでは。

ユウタ シルバニアか!?

リリ ビーバーちゃん?


     スミィが去る。
     リリとユウタは一緒に箱が戻ってきたことを喜ぶ。
     が、すぐにお互い恥ずかしくなって離れる。


ユウタ リリさんもシルバニア好きとは知りませんでした。

リリ おかしいですよね。大人が。

ユウタ いえ。僕も好きですから。

リリ えー(引く)

ユウタ そこで引くんですか。

リリ 冗談ですよ。弱いんですね。ユウタさん。

ユウタ すいません。でも、リリさんがアレほど強いとは。

リリ いつも、態度悪い客を力任せにねじ伏せてますから。

ユウタ 昨日みたいに、ですか?

リリ え? やだぁ。上寺さん見てたんですか?

ユウタ いやぁ。なんというか。

リリ 恥ずかしいわ。あのバックドロップは本気じゃないですからね。

ユウタ バックドロップ!?

リリ 近所の高校生なんですけどね。いっつもタバコふかしながら店に入ってくる奴らがいるんですよ。
  もう、何回言っても聞かなくて。ついって、あれ? 見てたんですよね?

ユウタ え? ええ。いやぁ。美しかったですよ。

リリ そんな。本当はもっと綺麗に出来るんですよ。

ユウタ はは。(ボソリと)怒らせないように気をつけよう。

ワニカワ 仲いいですね。


     恥ずかしくなって慌ててユウタは離れる。
     そしてワニカワたちを見る。


16


ユウタ まぁ、なんだ。助けられたわけだな。結局。

マイ 素直にありがとうって言えばいいのに。

ピータ 本当だよ。

ユウタ (ピータに)元はといえばお前のせいだろ!

ピータ 飛べればフックなんかに負けなかったよ。

マイ まだ思い出せないの。

ピータ うん。よっぽど強いショックだったんだろうね。

ユウタ それでこっちを見るな!

ワニカワ まぁまぁ。いいじゃないですか。無事終わったんですから。

マイ そうね。

ピータ 腹減った。

リリ あ、私店ほっぽったままだった。

ユウタ すいません。なんだか成り行きで巻き込んじゃって。

リリ いえいえ。今度ちゃんと話してくださいね。何があったのか。

ユウタ はい。でも、信じてもらえるかどうか。

リリ 信じますよ。だって、船が空飛んでったんですよ?(と、リリは空を見る)

ユウタ ああ。ですね。

ピータ 腹減った。

ユウタ うるさい。

マイ でも、時間的にもいいし晩御飯の準備しよっか。(ワニカワに)食べていくでしょ?

ワニカワ お兄さんがよければ。

マイ 兄貴?

ユウタ ……兄さんといわなければな。

ワニカワ じゃあ。ご馳走になります。

ピータ ご馳走!?

マイ そんなたいしたもの作れないけどね。

ユウタ たいしたものって言うより、パスタしか作れないからな。

マイ ちゃんと考えてあるの。(と、メモを出す。)まず、マカロニサラダに、マカロニグラタン。
  和風スパゲッティに、カルボナーラ。お好きなものをチョイス&イートというすばらしい計画よ。

ユウタ 全部パスタ系じゃねえか。

マイ 文句言わないの。はい。じゃあ、これ。


     と、マイはユウタにメモを渡す。


ユウタ 俺が買いに行くのか!?

マイ いいでしょ。その間に準備するから。

ユウタ 麺をゆでるお湯ぐらいだろ。買い物くらい自分でやれよ。

マイ 助けてもらったくせに何か文句があるの? 

ユウタ ありません。じゃあ、リリさんを送りながら行って来るよ。それでいいですか?

リリ あ、はい。大丈夫です。

ワニカワ 準備は任せてください。

ピータ 腹減った。

ユウタ お前も手伝っておくんだぞ。

ピータ うん。

マイ あ、パスタの種類間違えないでね。

ユウタ どうせ、マ・マーだろ?

マイ そう。パスタはマ・マーが一番。

ユウタ それ以外の銘柄知らないけどな。


     と、ひらめきのような音が流れる。
     ピータの顔が嬉しそうに微笑む。


ピータ ママだ。

ユウタ え? ああ。マ・マーな。正確には、マとマの間に点が入るから。

ピータ ママだよ。

ユウタ だから、マ・マーだって。

ピータ ママ!

ユウタ だから、マ・マーな。

ピータ ママだって!

ユウタ マ・マーだろ!

ピータ 違う。ママだ! 俺の楽しいこと。ママとの思い出!

ユウタ&マイ はぁ!?

ピータ (もう話を聞いてない)思い出した! 思い出した! ティンク! 思い出したよ! 飛べる。俺飛べる。ほら!


     ピータが下手袖へ走っていく。
     慌てて、他の人間も下手側による。
     そして、視線が上へと。
     ピータとティンクの喜び合う声が響く。


マイ 飛んでる。

リリ 本当。

ワニカワ ピーター・パンだったんですねぇ。本当に。

ユウタ なんだそれ。そんなんでいいのか?

リリ これ、普通の人が見たらびっくりするでしょうね。

ユウタ まったくです。ああ。危ない。おい! 電線に気をつけろ!

リリ なんか、溺れてるみたい。

ユウタ 本当ですね。


     マイが合図をするとワニカワはそっと離れる。
     二人してユウタとリリから距離を置く。


ワニカワ 家族は大事ってことだったんですねぇつまり。

ユウタ いきなりテーマっぽいことを言うな。ここまで一言もそんなのに触れてなかったろ。

ワニカワ そうですか? 大事ですよ。家族。


     ワニカワがさりげなくマイの肩に手を寄せる。


ユウタ 勝手に家族になるな! もう付き合ってられん。リリさん。行きましょう。
    もう、すいませんコイツラ本当バカばっかりで。

リリ あ、はい。

マイ 兄貴はいいの?

ユウタ なにがだよ。

マイ それでいいの?


     マイの言葉にユウタは立ち止まる。


ユウタ それでって……

リリ 上寺さん?

マイ (リリを見る)

ユウタ いや、物事には順番とタイミングって言うのがあってな。

ワニカワ ユウタさん。

ユウタ なんだよ。

ワニカワ ここで男見せないと、イイ所なしですよ?

ユウタ それを言うな。

マイ だって本当じゃん。

リリ えっと?


     ワニカワにも笑顔で見られ、ユウタは覚悟を決める。
     リリに背を向けたまま、ポケットからチケットを出す。


ユウタ ……別に言われたから言うわけじゃないからな。

マイ はいはい。(ワニカワに)料理手伝ってくれるでしょ?

ワニカワ もちろん。


     さりげなくワニカワとマイが去る。


リリ あの? 上寺さん?

ユウタ リリさん。帰る前に、すこしお時間もらっていいですか?

リリ はい。

ユウタ 俺――


     ユウタが振り返る。
     差し出すようにチケットをリリへ。
     その声は聞こえない。
     リリが笑顔でチケットを一枚取る。
     ユウタの顔がリリを見る。
     ほっとしたように笑う。
     そんな二人を、マイとワニカワが覗いて笑っている。

     リリが空を見て、ふと、指を指す。
     二人が空を見上げる。
     星空が広がる。
     ピータが楽しそうに空をかける。
     小さなことで幸せは誰のところにもやってくる。

あとがき

え〜実際の話、本来のフックはそこまで時計を怖がりません(笑)
でも、その方が面白いかなぁと思ったので、怖がるようにしてます。
なんだか、出オチキャラが総出でがんばっているような劇ですが、
それなりに面白さが伝われば幸いです。
著作権的にすさまじくグレーゾーンですので、大会用には使えない
代物だと思います(苦笑)文化祭とか、もしくは読みの練習にでも
お使いください。


最後まで読んでいただきありがとうございました。