リプレイ/クラッシュ



登場人物

寺野幸子   主人公
夜中真昼   死に神
生徒1     主人公の友人
生徒2     知り合い
母親      主人公の母親

医者     ヤブノ医者
先輩     学校の先輩。演劇部顧問


0   



    暗闇の中、
    一人の少女(真昼)が歩いている。
    薄暗い道を、不安そうに歩く。部活帰りなのか、大きめのカバンを持っている。
    背後から音が迫ってくる。
    急に迫ってきた音は、原付。
    小さなショック音とともに、カバンが飛ぶ。
    どうやら、手にミラーか、グリップかが当たったらしい。


真昼 「あ!!……手が……(思わず膝をつく)手が……痛い……
    痛いよ……(前を見て)バイク?……なんで……」


    ふと、闇の中でエンジン音。
    真昼への明かりが消え、代わりに幸子が浮かび上がる。

    その格好は、原付を動かしていたよう。


幸子 「……何かぶつかったかな? まぁ、気のせいか」


    再び、幸子はエンジンをかける。
    舞台が暗くなっていく。





    照明がつくと、そこには幸子が一人で立っている。
    幸子は本を読み始める。


幸子 「人生の中で、何が運が良くて、何が運が悪いって事なのかよくわからない。
    漢文で習った「塞翁が馬」ってことわざは、いかにもよくできていると思う。
    『怪我をした若者は、その怪我のおかげで戦争に行かなくて済んだ』
    確かに、それは運がいいのかも知れない。
    ……でも、このことわざは、一つ見落としている事がある。
    『戦争に行かなくて済んだのは、運がいい』というのは、結局他人から見た評価だ。
    本人にしてみれば、怪我のせいで戦争に出られないことは、
    悔しい限りだったのかも知れない。
    つまり、『塞翁が馬』ということわざは、私たちに客観性の怖さと、
    主観の悲しさを教えてくれるのだ。
    他人から見れば『運が良かった』で済む出来事でも、
    本人にしてみれば言葉で間に合わせられる問題ではないことは多い。
    ……特に、交通事故となると」


    幸子は大きな欠伸を一つする。
    本をカバンにしまう

    と、生徒1がやってくる。


生徒1「ごめん! 待った?」

幸子 「おっそい!」

生徒1「なかなか着替えられなくってさ」

幸子 「あんなの、脱ぐだけじゃん」

生徒1「さちは今回衣装、制服だもんねぇ。そりゃあ、時間かからないだろうけど」

幸子 「そんなこと言うんだったら、あんたがやればいいじゃん」

生徒1「やだよ。そんなに台詞覚えられないもん」

幸子 「我がまま(欠伸)なやつ」

生徒1「大丈夫? 疲れてるんじゃない?」

幸子 「うーん。最近流すのにこっちゃってさぁ」

生徒1「流す? そうめん?」

幸子 「そんなの流してどうするのよ!」

生徒1「食べるんでしょ?」

幸子 「そうじゃなくて」

生徒1「え!? じゃあ、戦うの? そうめんで?」

幸子 「どうやってよ!」

生徒1「だよねぇ。おかしなこと言わないでよ」

幸子 「あのねぇ。流すって言うのは、つまり、原付でね。夜走ってるの」

生徒1「なんだ。だったら、初めからそう言えばいいのに」

幸子 「……もういい、そうだね。その通りだね」

生徒1「何怒ってるの?」

幸子 「怒ってない! ……ただ、寝不足でさ」

生徒1「今日の練習でも、眠そうだったもんねぇ」

幸子 「うん。だから、早く帰ろう? なんで立ち止まってるわけ?」

生徒1「いや、さちが動かないからさ。誰か待っているのかと思って」

幸子 「あんたを待ってたの!」

生徒1「ありがとう」

幸子 「どういたしまして」


    二人、行こうとする。


3 


    と、先輩が現れる。


先輩 「お疲れさま」

生徒1「あ、先輩」

同時に
生徒1「お疲れさまです!」
幸子 「お疲れ(欠伸)……です」

先輩 「なんだ。寺野さん、眠そうだね」

生徒1「そうなんですよ。夜更かししているみたいで」

先輩 「大丈夫?」

幸子 「別に、平気(欠伸をかみ殺す)です」

先輩 「送って行ってやろうか?」


    瞬間、ストップモーションになる。
    幸子が観客席を向く。


幸子 「このような状況の場合、女の子は、自分の体と、利益を天秤に掛けることになります。
    その時の基準となるのは、主に相手の体格や、性格です……
    (先輩をしばし見て)よし。勝てる。……まぁ実際もしものことがあることなんて、
    ないんですが。先輩だって、このような疑いをかけられることは迷惑でしょう。
    高校を卒業してから一年。お金ももらえないのに高校に着て下さっているのですから。
    ……でも気のせいでしょうか。
    このOBが時たま助手席に乗せている後輩がいつも女子のような気がするのは」


    ストップモーション解ける。


生徒1「あ、じゃあ、お願いします〜」

幸子 「あんたがなの!?」

先輩 「え……お前は、ちょっと……」

生徒1「え? 何でですか!?」

先輩 「俺にだって、好みって物があるから……」

生徒1「酷い! 先輩なんて単位落とせば良いんだ!」


    生徒1退場。


先輩 「ふっ。もう諦めてるよ……」

幸子 「あの」

先輩 「ああ、じゃあ行こうか?」

幸子 「はい」


    照明が消える。
    車のエンジン音が聞こえる。





    音響 車のエンジン音 BGM
    照明 中央サス

    中央に先輩と幸子。
    椅子に乗って隣り合わせの二人。
    車の運転席と助手席らしい。


幸子 「それで、今回の劇は泣けるのにしようかって話しだったんですけど、
     みんな笑う方が好きだって」

先輩 「へぇ」

幸子 「でも先輩、高校の部活もいいですけど、大学もちゃんと行かないとダメですよ」

先輩 「はいはい」

幸子 「本当、うちらのせいで留年しちゃったりしたら(欠伸)
     すいません……私、疲れちゃって」


    幸子、眠る。


先輩 「寺野?」


    幸子、無反応。


先輩 「寺野?」


    幸子、無反応。


先輩 「寺野〜?」


    先輩の声の調子が変わる。
    どこ見ているんだか分からない様子で、寺野の肩に手を回す。


先輩 「仕方ない奴だなぁ。寝ちゃうなんて(嬉しそう)」

幸子 「(うっすら起きて)どうしたんですか? もう、ついたんですか?」

先輩 「いや、まだだよ。全然まだだ」


    と、舞台に生徒2が現れる。


生徒2「塾に遅れる〜」

幸子 「先輩? あ、前!」

先輩 「え?」

生徒2「って、うわあーあああああああ」

先輩 「わぁあああああ」

幸子 「きゃあああああああ」


    照明 暗転
    音響 SEショック音 CI
        救急車の音 FI





    音響 救急車の音 FO
        異世界 FI

    照明 異世界 FI


    幸子が一人、浮かび上がる。
    俯いて、どこか寝ているようにも見える。
    そこに真昼が現れる。
    真昼は片手を隠している。
    どこか、不思議な雰囲気。
    照明は薄暗い。


真昼 「起きなさい」

幸子 「う………ん」

真昼 「起きなさい」

幸子 「う〜ん。あと、五分……」

真昼 「起きれ!」

幸子 「すいません寝てました! ……え? ……あれ?」

真昼 「やっと、お目覚めね」

幸子 「ここは、どこ?」

真昼 「自分がどうなったか、覚えてないの?」

幸子 「自分が? ……どうなったって……」


    途端、音が蘇ってくる。


幸子 「私……事故に……会って……」

真昼 「そう。そして、ここに来た」

幸子 「じゃあ、ここって」

真昼 「あの世。ってことよ」

幸子 「嘘ぉ!? 私、死んだの!?」

真昼 「そう」

幸子 「そんな。だって、まさか……」

真昼 「信じられないのなら、映像として見せて上げる」

幸子 「映像?」

真昼 「それではお届けしましょう。寺野幸子が、救急車で運ばれてからの一部始終を!」





    照明が変わる。
    病院の風景。

    真昼と幸子は別次元から映像を見ているという感じ。
    救急車の音が鳴り響き、止まる。
    現れたのは、寺野幸子の母親。


母親 「幸子! 幸子!」

幸子 「お母さん……」


    忙しそうに医者が現れる。
    医者はスプーンを投げている。
    (その後ろで死に神か、看護婦に扮した誰かが回収)


母親 「あの、」

医者 「どうしました?」

母親 「寺野幸子って子が運ばれてきたと思うんですけど……」

医者 「ああ……寺野幸子さんの……ご家族の方ですか?」

母親 「……そうです。幸子です。その、母親です。あの(あなたは)」

医者 「幸子さんのオペを担当しました、ヤブノともうします」

母親 「それで、幸子は」 

医者 「それは……」

母親 「駄目なんですか!?」

医者 「駄目というか」

母親 「無理なんですか!?」

医者 「無理というか」


    医者は、スプーンを投げながら考え込んでいる。


母親 「……あの、さっきから、その、何をなさっているんですか?」

医者 「見て分かりませんか? 匙を投げて入るんです」

母親 「そんな……幸子……」


    母親が崩れる。
    医者は母親の方を抱くようにして連れていく。





    照明 異世界 CF


幸子 「……そんな……私……」

真昼 「仕方ないのよ。そう言う定めだったんだから」

幸子 「私、本当に死んじゃったの? やりたいこと、まだまだたくさんあったのに
    ……そんな……」


    間


真昼 「……一つだけ、方法がないわけじゃないわ」

幸子 「え?」

真昼 「あなたが、どうしてもチャンスが欲しいというのであれば」

幸子 「生き返れるの!?」

真昼 「不可能ではないわ」

幸子 「お願い! 何だってするから。生き返らせて!」

真昼 「……あの世の規定でね、本人にどうしても未練がある場合は、
    一度だけ、死ぬのを無かったことにできるっていう決まりがあるのよ」

幸子 「本当に、だったら」

真昼 「ただし!」

幸子 「ただし?」

真昼 「……あなたは、過去に戻ることになるの」

幸子 「過去に?」

真昼 「事故が始まる日の朝。そこから人生をやり直すことになる」

幸子 「それくらい、なんてことないわ」

真昼 「それに」

幸子 「……それに?」

真昼 「事故にあった記憶は、生きている間はなくなる」

幸子 「生きている間はって」

真昼 「また、同じように死んだら、思い出すのよ。『あ、私、死ぬの2回目だ』って」

幸子 「意味無いじゃない!」

真昼 「たぶんね」

幸子 「たぶんって」

真昼 「でも、もしかしたらぼんやりとした記憶だけあるかもしれない。
    事故に遭う前に、デジャブみたいな物を感じて、事故を回避できるかも知れない。
    もう一度死ぬ可能性は100%じゃないわ」

幸子 「だけど……」

真昼 「まぁ、生き返らないんだったら、このままあの世へ(行きましょう)」

幸子 「お願いします! 生き返らせて下さい!」

真昼 「(薄く笑って)ええ。わかった」


    真昼は舞台袖を指し


真昼 「あちらへ向かって、まっすぐ歩いて行きなさい。
    そうすれば、一度だけ蘇ることができるわ。あなたは、何事もなかったかのように、
    朝を迎えるのよ」

幸子 「うん」

真昼 「気をつけてね。後悔しないように」

幸子 「ありがとう」


    幸子が歩いていく。
    真昼は、意地悪く笑う。


真昼 「せいぜい気をつけて生きる事ね。……そして、後悔すればいい。
    思い切り。私が、そうしたように」


    真昼が片手で、もう片手をさする。
    照明 暗転





    音響 チャイム音 CI
    照明 全照

    その日の放課後。
    

幸子 「人生の中で、何が(欠伸)運が良くて、何が運が悪いって事……なのかよくわからない。
    (欠伸をかみ殺し)漢文で習った「塞翁が馬」ってことわざは……いかにも
    ……いかにも……よくできて……ああ、駄目だ……眠いわぁ……」


    生徒1が現れる。


生徒1「ごめん! 待った?」

幸子 「おっそい!」

生徒1「なかなか着替えられなくってさ」

幸子 「あんなの、脱ぐだけじゃん」

生徒1「さちは今回衣装、制服だもんねぇ。そりゃあ、時間かからないだろうけど」

幸子 「そんなこと言うんだったら、あんたがやればいいじゃん」

生徒1「やだよ。そんなに台詞覚えられないもん」


    幸子は小さく欠伸をして、ふと、気づく。


幸子 「ねぇ、こんな会話、前にもしなかったっけ?」

生徒1「なあに? デジャブ?」

幸子 「まぁ、そんな感じ」

生徒1「どうせ、毎日にたような会話しかしてませんよ」

幸子 「そういうことじゃ、(欠伸)なくってさ」

生徒1「大丈夫? 眠いんじゃない?」

幸子 「なんか、今日は朝からなんだよねぇ」

生徒1「なにが?」

幸子 「だから、デジャブみたいな」

生徒1「それで疲れたの?」

幸子 「うん。デジャブ疲れ」

生徒1「なにそれ」


    と、先輩が現れる。
    なぜが、先ほどと人が違う。(生徒が先輩をする場合は同じ)


先輩 「お疲れさま」

生徒1「あ、先輩」

同時に
生徒1「お疲れさまです!」
幸子 「お疲れ(欠伸)……です」

先輩 「なんだ。寺野さん、眠そうだね」

生徒1「そうなんですよ。夜更かししているみたいで」

先輩 「大丈夫?」

幸子 「別に、平気(欠伸をかみ殺す)です」

先輩 「送って行ってやろうか?」


    途端、ストップモーション


幸子 「なんだか、同じような場面を見たことがある。そんな予感がした。
    なんだろう? 心の中の何かが危険信号を上げている。もう、これは朝からだ。
    今日は朝から、どこかであったことばかりのような気がしていた。
    今にも何か起こるような、不安で精神が摩耗される一日。正直、もう、体が、ついて……」


    ストップモーション解けると共に、幸子崩れる。


生徒1「さち!?」

先輩 「こりゃ、駄目だな。よし、じゃあ俺が送っていって上げよう」

生徒1「よろしくお願いします!」

先輩 「いや、お前は歩いて帰れよ」

生徒1「酷い!? 先輩の○○○○!」


    生徒1去る。
    先輩が、幸子を引きずるように運ぶ。

    照明 暗転
    音響 エンジン音・ショック音。


先輩 「ぎゃあーー」
生徒2「うわああああ」


    音響 救急車の音FI





    音響 FO
    照明 異世界 FI


    幸子が、一人浮かび上がる。
    真昼が直ぐに現れる。


真昼 「起きなさい」

幸子 「う…………ん」

真昼 「起きれ!」

幸子 「はい!? ……あ……」

真昼 「お帰り」

幸子 「私……また……?」

真昼 「ええ。同じように、死んだわね」

幸子 「……そんな…………」

真昼 「可哀想だけど、仕方ないことだから」

幸子 「お願い!」

真昼 「え?」

幸子 「もう一度だけ、もう一度だけ生き返らせて!」

真昼 「……いいわよ」

幸子 「本当?」

真昼 「可哀想だもの。特別ね」

幸子 「ありがとう!」

真昼 「また、あっちへ迎えば生き返ることができるから。どうぞ」

幸子 「うん!」


    幸子が去る。
    真昼は笑う。


真昼 「無駄なのに。可哀想」


    照明 暗転。
    音響 チャイム音。
        車の音。
        クラッシュ音。
        救急車の音。

    照明 異世界 FI

    そして、幸子が浮かび上がる。
    泣いている。
    真昼が横にいる。


真昼 「お帰り」

幸子 「また……私……」

真昼 「ええ。同じように」

幸子 「なんで……なんで……私……」

真昼 「罰、なんじゃないかしら?」

幸子 「罰!?」

真昼 「これまで生きてきた中でしてきた悪い行いの罰が、
    今返ってきているんじゃない? 
    だから、記憶が曖昧すぎて何度も死ぬ羽目になるのかも知れないわね」

幸子 「そんな……」


    間


10


    幸子は自分の不幸を呪う。


幸子 「私、これまでの人生で悪い事なんて一つもしてこなかったのに……」

真昼 「へぇ……一つも」

幸子 「ええ。」

真昼 「原付の免許を取ってからも、そうかしら?」

幸子 「だっていつも安全運転に気をつけていたし。……そりゃあ、
    夜に走らせるのは高校生としては悪いほうかも知れないけど。
    でも、騒音をたてたこともないし……誰にも迷惑なんてかけてない」

真昼 「誰にも? へぇ。誰にも!?」

幸子 「なに? 何が言いたいの?」

真昼 「これも? これも、迷惑をかけていないって、言えるの?」


    真昼は片手を見せる。
    それは今まで隠していた手。包帯でぐるぐるまきにされている。


幸子 「どういうこと?」

真昼 「一ヶ月前の夜。あなたが運転した原付のグリップが、
    私の手を、こんな風にしてくれたのよ!」

幸子 「そんなこと……」

真昼 「あいにく私はテニスの大会前。医者には、テニスはもう無理だって言われたわ。
    変に骨折しちゃって、負担がかかりやすいんだって。
    そして、生まれたときからテニスばかりやっていた私は、
    絶望して(と、首をつる真似)……死んで今は死に神をやっているってわけ」

幸子 「そんな……私そんなコトした覚え(無い)」

真昼 「あなたに覚えが無くてもねぇ。こっちにはえんま帳って言う、
    その人のすべてが書かれた本があるのよ。いやぁ、びっくりしたわよ。
    まさか、死に神に志願して、こんなに早く復讐の機会が巡ってくるとはね」

幸子 「復讐……だったの?」

真昼 「そう。知らないうちに、私の人生を壊してくれたあなたへの、復讐」

幸子 「そんな……私、だって、気づかなかったから」

真昼 「気づかないことすら罪なのよ。人殺しの道具に乗っているくせに気づきもしない。
    そのことが既に罪なのよ」

幸子 「……そんな……私……私……ごめんなさい……」


    間
    真昼は、すっきりしたように笑う。


真昼 「さぁ、そんなわけで、どうする?」

幸子 「どう……する?」

真昼 「生き返りたい? このまま死にたい?」

幸子 「生き返っても……また、死ぬんでしょう?」

真昼 「今度はそうはならないわよ」

幸子 「え?」

真昼 「実は、あなたはまだ死んでないの」

幸子 「え!?」

真昼 「あのねぇ。だって、いくら死に神だって成り立てよ? 私。
    そんな、何回も人生をやり直させる力とかある分けないでしょ」

幸子 「じゃ、じゃあ、今までのは?」

真昼 「夢よ」

幸子 「夢?」

真昼 「そう。同じような一日を、夢に見させていたの。それくらいなら私にもできるから。
    だから、どんなに記憶があろうと、結末は同じだったわけ」

幸子 「夢……なんだ……そうだったの……(気づいて)じゃあ、私は!?」

真昼 「今頃は、病院のベッドの上よ。すやすや眠っているわ。
    意識が戻らないことを心配されながら」

幸子 「病院……そうか……事故にあったことは夢じゃないんだ」

真昼 「そうよ。どうする?」

幸子 「どう……する?」

真昼 「生き返ったら、辛いリハビリが待っていることになるわ。
    もしかしたら、もう動かない部分はあるかも知れない。
    100%前と同じ生活に帰れる可能性はどこにもないわ」


    間


幸子 「…………私、今主役当てられているんだ」

真昼 「そんな状態で演技なんて」

幸子 「分かってる。だけど……諦めたくないし、役者。
    もし、舞台に立てたら……今度やるのは事故の話しなんだけど、
    すごく説得力ある舞台になると思う。……だから」

真昼 「そう」

幸子 「本当に、ごめんなさい」

真昼 「いいのよ。私みたいな人を……お願いだから増やさないでね」

幸子 「はい」


    暗転

11


音響 放送「ヤブノ先輩。ヤブノ先輩。外線1番にお電話です」


    照明がつく。
    生徒1が生徒2を引っ張っている。
    生徒2はどこか怪我をしている。


生徒1「ほら、ここまで来たんだから」

生徒2「だって、私がお見舞いに行ったってさぁ」

生徒1「あんたのせいで事故ったようなものでしょう!?」

生徒2「私、被害者じゃんかよ」

生徒1「じゃあ、なんでそんな軽い怪我ですんでるのよ」

生徒2「ラッキーだったの! 放して」


    生徒1は急に手を離す。
    生徒2がこける。


生徒1「じゃあ、もういいよ! 私一人で行くから! そのかわり、
    もう、あんたなんて知らないから」

生徒2「……別に、行かないとは言ってないでしょ!」

生徒1「よっし! じゃあ、行こう」

生徒2「でも、今日じゃなくてもさぁ」


    と、松葉つえをついて幸子が現れる。
    どこか痛々しい。


幸子 「やっぱり。騒がしいと思ったらあんた達か」

生徒1「さち! 大丈夫なの? 病室でても」

幸子 「うーん。駄目」


    と言って崩れそうになる。
    思わず、生徒1と2が支える。


幸子 「なんか、二人の声が聞こえたからさ」

生徒1「もう! お見舞いに来たのに無理されちゃ元も子もないでしょう」

幸子 「うん。ありがとう」

生徒2「とりあえず、病室で果物でもむいてあげるから」

幸子 「ごめんね」

生徒2「気にするな。……先輩、退学だってさ」

幸子 「え!? そうなの!?」

生徒1「まぁ、仕方ないでしょう」

生徒2「生徒を横に乗せて、生徒跳ねちゃなぁ」

幸子 「可哀想……」

生徒1「本当。でも、みんなよく生きていたよね」

生徒2「まだ、体痛いけどね」

生徒1「生きていただけましでしょ」

幸子 「『塞翁が馬』」

生徒2「え?」

生徒1「ああ、劇の一人台詞であるのよ。『客観的にはよくても、
    主観じゃそうはいかない』みたいな文章が」

生徒2「へぇ。まったく、事故なんてその通りだよね」

幸子 「……気づかないことが、もう罪、か」

生徒1「え?」

幸子 「人殺しの道具に乗っているくせに気づきもしない。そのことが既に罪なのよ」

生徒2「なに? それも台詞」


    生徒2が生徒1を見る。
    生徒1は首を振る。


幸子 「覚えてるよ、私」

生徒1「そりゃ、そうでしょ。あれだけの事故」

幸子 「覚えてなきゃ。これからも……ずっと」


    音響 ENDING
    幸子は遠くを見る。
    つられるように、生徒達も遠くを見る。
    ふと、生徒1は視線を感じて舞台袖を見る。
    そこには、幸子のお母さんが立っている。


生徒1「あれ? さちのおばさん」


    幸子のお母さんが嬉しそうに走り寄ってくる。
    音楽の中、母親に抱かれて苦しそうな幸子。
    生徒達が微笑ましく見守っている。
    反対側から医者がやってくる。
    親子達の様子を見て、医者は嬉しそうにスプーンを投げてはキャッチしている。
    やがて、母親が出てきた方から、申し訳なさそうに先輩が現れる。
    先輩は母親達を見ると、途端に、土下座をし出す。
    笑顔が広がる場所。
    どこか遠くから見るように、真昼がじっとそんな人々の様子を見ていた。
    無表情めいたその顔に笑みが浮かぶ。

    溶暗