りれきにのこることばよりも
履歴に残る言葉よりも

作 楽静

登場人物(女6人 男1人 その他4人)
マトイ 主人公? 付き合って三か月目くらいの彼氏がいる。
イノリ マトイの友達。ユウタとは幼馴染。
ユウタ マトイの彼氏。イノリとは幼馴染。
チトセ 22歳にて1児の母。
エミ 大学2年 彼氏と付き合って三か月目。
コトリ 大学2年 エミの友人。交際期間一年の彼有。
マキガハラ 通称マッキー。もしくはマキマキ。
   
ス男 男のスマフォ。※初演はマキガハラと兼ねる。
ス女① 女のスマフォ。※初演はエミと兼ねる。
ス女② 女のスマフォ。※初演はコトリと兼ねる 
モモセ チトセの母。声のみ出演。※初演は照明と兼ねる 



    とある公園が舞台。
    待ち合わせの場所となる公園は東西に広がっており、
    東側と西側、中央に入り口がある。
    マトイが騒動に巻き込まれるのは中央付近で、
    ユウタが待っているのは西側となっている。


0 オープニング「履歴に残る言葉で」

    音楽の中開幕。SNSの通知音がいくつも聞こえてくる。
    世界中の通知を集めたような音の中、
    登場人物たちはスマートフォンで誰かとつながっている。
    バラバラに向いた格好のまま、登場人物たちは
    「好きだよ」「愛してる」「好き」「大好き」等と囁く。
    それはスマフォに向けて語っているような囁き。
    照れくさそうに告げるマトイ。ぶっきらぼうなイノリ。
    ぽつりと言うユウタ。幸せそうなエミ。淡々としたコトリ。
    甘く囁くマキガハラ。そして、どこか必死なチトセ。
    赤ちゃんの泣き声がどこかから聴こえる。
    チトセははっとして赤ちゃんをあやし、去る。
    無数の通知音が大きくなり、やがて唐突に止まる。時刻は夕方。

1 2017年だったら7月14日の話(夏休み前テスト明けの午前授業後)

    エミとコトリだけを舞台に残し、他は去る。

エミ (と、スマフォに向かって)てわけで、彼がさぁ。もう、優しくて困っちゃうんだ~。
今日も暑いよねって言ったら、これ、塩飴くれたしさぁ。マジ愛されてるよね。あたし。
コトリ (と、スマフォに向かって)あーそう良かったね。じゃこれからバイトだから。
エミ 待って待って。ゆっくり話たいし明日遊ばない? ね?
コトリ 別にいいけど。今日遅番だから。明日は昼まで寝てるよ。
エミ じゃ、いつものとこに4時くらい。
コトリ ん。了解。

    エミとコトリが去る。
    入れ替わるようにマトイとイノリがやってくる。
    午前授業終わっての帰り道。
    イノリは近道のために公園を突っ切って帰っている。
    マトイはイノリが歩くのに一緒について歩いてきた。

マトイ でさ、こないだのデートも遅れて来て。で、遅れてきた言い訳がなんだと思う?
イノリ 寝坊した、とか? ってかマトイ、家反対だよね。
マトイ もうすぐ夏休みで会えなくなるし、ゆっくり話したいと思って。
イノリ やだよ。暑い。
マトイ そんなこと言って、本当はイノリも淋しいでしょ?
イノリ 学校なくても、SNSでつぶやいてくれればトーク返すよ。

マトイ それはそうなんだけど。そうだ! 最近ユウタってばSNSもひどいんだから。ってか、まずは遅れて来た時の
言い訳を聞いてよ。
イノリ はいはい。ちょっと、座らせて。
マトイ どうぞどうぞ。
イノリ (と、座ってから)で?
マトイ こないだから、海賊の映画やってるじゃん。あ。
イノリ そうね。
マトイ で、テスト終わったし行こうよってなって。混むから早めに集合ねって言ったのに、待ち合わせに遅れて来て、
言ったことが、はい。

    と、ユウタがやってくる。その日に遅れてやってきたという風で、

ユウタ ごめん。大きな風呂敷包みを背負ったおばあさんが、横断歩道渡るのに困っててさ。手伝ってた。

    と、ユウタが去る。

イノリ 優しいね。
マトイ 絶対嘘じゃん。その後、「これくらいでかい風呂敷だったよ」とか言って両手広げて。ありえないじゃん。
イノリ あいつ、テンパると嘘がでかくなるんだよ。
マトイ 本当に?
イノリ 昔からだから。
マトイ イノリが言うなら信じるけどさぁ。でも、本当最近遅刻してばかりなんだよ。付き合い始めの時は私の方が
「遅れてごめん」って言って、ユウタが「今来たとこだよ」って言ってたのに。
イノリ 逆に、今も同じやり取りしてたらそれはそれで怖いよ。
マトイ それだけじゃないんだって。SNSのやり取りもひどいんだから。こんなんだよ。

    と、マトイがイノリにスマフォを見せる。
    それに合わせてスマフォ男と、スマフォ女①が現れる。(マトイが叫ぶとスマフォ二人は去る。)

ス女① ねーねー。
ス男 どした?
ス女① あたしのこと、好き?
ス男 好きだよ。
ス女① どれくらい好き?
ス男 とりあえず、日本で一番。
マトイ 「とりあえず」って何!? 「とりあえず」っていうのは、オジサンが居酒屋に入った時に言う、
「とりあえず、生を人数分」ってこれでしょう!?
イノリ いや、まず、やり取りがなんか怖いよ。なに、「どれくらい好き?」って。どう答えたら正しいのかわからないし。
マトイ なんか、聞きたくなる時があるじゃん。
イノリ ないし。
マトイ 彼氏がいないからだよ。
イノリ よし。帰る。
マトイ 待って待って。ごめんなさい。待ってください。あのね。前は違ったの。前は、もっとちゃんと返してくれてたの。
イノリ 前?

    と、マトイがイノリにスマフォを見せる。
    それに合わせてスマフォ男と、スマフォ女①が現れる。
    ちょっと二人の語りには甘い雰囲気が付きまとう。(イノリが叫ぶとスマフォは去る)

ス女① ねーねー。
ス男 なーんーだーよ?
ス女① あたしのこと、好き?
ス男 えー。そりゃあ。
ス女① はっきり言ってよ。
ス男 好き、だよ。
ス女① どれくらい、好き?
ス男 世界で一番好きだよ。
イノリ 恐いよ! なんで文字だけのはずなのに、甘ったるさが伝わってくるの!? 気持ち悪い! 
てか、何を似たようなこと聞いてんのよ!
マトイ だから、聞きたくなる時があるじゃん。
イノリ ないし!
マトイ 彼氏がいないからだよ。
イノリ よし。帰る。
マトイ 待って待って。ごめんなさい。待ってください。でも、伝わったでしょう? 前と今の違い。
イノリ 伝わったけど、その「前」って、どれくらい前なの?
マトイ 付き合ったばかりの時だから、二ヶ月前?
イノリ もしかして今の、スクショ?
マトイ 気に入ったやり取りって、残したくなるよね。
イノリ 恐いよ! そんなの残しておいてどうするの。
マトイ そりゃ、時々見てにやにやしたり。
イノリ 恐いよ!
マトイ もし、万が一、億が一ユウタと別れて、ユウタが別の誰かと付き合うことになったら、その子にこれまでの会話の記録を送りつけてやろうかと思って。
イノリ 恐いよ! そういうことしてるから、気持ちが離れていくんじゃない?
マトイ やっぱり、離れていってるのかな。
イノリ 分からないよ? 分からないけどね。
マトイ どうしていいかあたしも分かんないんだ。ユウタって、あたしにとって初恋だから。
イノリ そこまで惚れる要素あるかなぁ。
マトイ あるよ。デートのとき、何も言わずに車道側を歩いてくれたり。お弁当の箸忘れた時、代わりに職員室に行って割りばし貰ってきてくれたし。のどの調子が悪い時、こっそり飴くれたり。
イノリ なんだ。ちゃんと好かれてるじゃない。
マトイ だから怖いんじゃん。最近上手く話せないし、SNSのやりとりも、なんか義務化しているって言うか、決まりきった言葉ばかり交換してる感じで。そのうち、「おはよう」とか「おやすみ」の挨拶すら送るのが面倒くさくなって、それで「俺たち、付き合ってる意味あるのかな?」なんて唐突にメッセージが来て、本当は別れたくないけど、重い女だって思われたくないから、「これからは友達だね」なんて都合のいい女のふりして別れることになるんだよ! 恐いよね!
イノリ 今の所、怖いのはあんただけどね?
マトイ あたしは真剣なの! 真剣に愛してるんだから。
イノリ そもそも、高校生の付き合いで愛とか言っちゃうのはどうなの?
マトイ 恋だ愛だで付き合えるのは学生の間だけって母さん言ってたよ。社会人になると、恋愛っていう幻想は、年収や将来性っていう現実に浸食されていくんだって。
イノリ 深いね。
マトイ あたし、どうしたらいいと思う?
イノリ ユウタに自分が好きか聞いてみれば?
マトイ それは聞いてるんだって! メッセージ見せたでしょう!? ほら、

    と、マトイがイノリにスマフォを見せる。
    それに合わせてスマフォ男と、スマフォ女①が現れる。(イノリが叫ぶとスマフォ二人は去る。)

ス女① ねーねー。
ス男 なーんーだーよ?
イノリ じゃなくて! 面と向かって。直接!
マトイ それで「君のことはそんなに」とか言われたらどうするの!?
イノリ その時はあきらめなさいよ。
マトイ それに、直接自分のことが好きかどうか聞くって重くない? あたし、告る時も、好きって言ってないし。
イノリ あ~「付き合ってください」って言ったんだっけ?
マトイ うん。それでユウタが「いいよ」って。だから、直接好きって言ったことないんだよね。だからさ、
イノリ 本当に好かれてるか自信が持てない?
マトイ うん。
イノリ だったらなおのこと、はっきり言わなきゃダメでしょ!
マトイ でも、
イノリ そうやってうだうだしていても何も解決しないよ。ダメだった時は、グチに付き合ってやるから。
マトイ ……ありがとう。さすがイノリ! カッコいい!
イノリ 知ってる。丁度明日花火大会あるし。待ち合わせして行ってみたら? ムード的にも十分でしょう。
マトイ 花火大会デート! いいね!
イノリ ついでに、話す前にあいつのこと試してみたら?
マトイ 試す?
イノリ いつも遅れてくるのが嫌なんでしょう? 明日はわざと遅れて行くのよ。ちゃんと待っててくれたり、遅れたことを責めないでくれれば、気持ちがあるってわかるんじゃない? マトイが遅れたことでイライラしてたり、遅刻を責めるような人がいくら好きだって言っても信じられないでしょう。
マトイ 確かに。うん。ありがとう! 試してみる。

    と、マトイは走り去る。
    少し疲れた感じのイノリは、歩きながらスマフォをいじる。

2 その日の夜

    イノリのスマフォとして、スマフォ女②が舞台上に現れる。

ス女② ってことで、マトイはあんたのこと試す気だから。ちゃんと愛を証明してやりなさいよ。ワラ。

    と、ユウタとスマフォ男が現れる。ユウタの台詞は内面の台詞。
    指はせわしなく動いている。

ユウタ はあ!?
ス男 どゆこと?
イノリ だからぁ、あんたが変な態度とるからあんたのこと疑っちゃってるんだって。分かれよそれくらい。
ス女② お前が悪い。わかれ。
ス男 わからねえよ!
イノリ (とため息)
ス女② 別れろ。
ユウタ わかれねえよ!?
ス男 どうすればいい?
ス女② 自分で考えろ。(と、ポーズ)
ユウタ なんだこのスタンプ。ちょっと可愛いな。って、そういう問題じゃない。えっと、
ス男 つまり待ってればいいわけ?
ス女② そそ。
ス男 で、怒るなと。
ス女② YES!(と、ポーズ)
ユウタ 完全に楽しんでるなこいつ。
ス女② ついでに、「いつも遅れててごめん。待たされて日頃の過ち(あやまち)に気づいた」とでも言っておけ。
ユウタ なんだよそれ。
ス男 待ってて、謝ればいいんだな。
ス女② YES!(と、ポーズ)
ユウタ 気に入ったのか。
ス女② で、その後に聞かれるから、ちゃんと答えてやりなよ。
ユウタ どれくらい好きか、か。
ス女② あの子の事が好きなんじゃろう?
ユウタ なんだそのジジイ口調。

    うつむくイノリ。

イノリ 好きなんでしょう?
ス男 好きだよ。
ス女② なら、言ってあげなよ。
ス男 わかった。ありがとうな。
ス女② 友達だろ。
イノリ 友達、か。

    イノリとスマフォ女②、ユウタとスマフォ男がそれぞれ去る。
    子供の泣き声。チトセがどこかに浮かび上がる。

チトセ (と、スマフォに向かって)わかった。うん。大丈夫。気にしないで。仕事がんばってね。なんとかするよ。うん。……なんとか、しなくちゃ。私が。

    チトセが一度去ると、舞台上には公園が広がる。

3 花火大会当日2017年なら15日。16時少し過ぎ。

    ベンチのある広場。人通りはあまりない。
    エミが座ってスマフォをいじっている。
    ベビーカーを押してチトセがやってくる。思い悩んだ顔。
    エミがベンチ譲るようにずれる。チトセが座る。

エミ 可愛いですね。
チトセ どうも。
エミ こんにちは~。

    赤ちゃんの泣き声。

エミ すいません。
チトセ 多分ご飯だから。今出すね。(と、離乳食を食べさせる)

    と、エミはSNSを見て。

エミ は?遅れる? ありえない。

    と、電話を始める。

エミ 今どこ? 電車? 待ってるの? 降りたとこ? ああ、じゃあもうすぐだ。てかさ、時間決めた時、了解って言ったよね。遅刻ってありえなくない?

    と、どこかにコトリが浮かび上がる。

コトリ ごめんて。思ってたより駅まで時間かかっちゃって。
エミ まあ、今日の私はすごく優しいから、許しちゃうけどね。それもこれも、彼のおかげだから。コトリ、彼に感謝だよ。
コトリ あーずいぶんお幸せそうですねぇ。
エミ 当たり前でしょう。結婚も間違いなし。
コトリ エミって、前もそんなこと言って半年持たなかったよね。いつも相手に不満持って別れちゃうし。
エミ 今度のは間違いないの。てか、あたし、今世界一幸せかもしれない。なんかさ、世界がキラキラ輝いて見えるんだよね。今ならなんだってできそうな気がするって言うか。やっぱり、女は恋してなんぼだよね。

    赤ちゃんを眠らせ、悩むチトセ。

チトセ いいなぁ。
エミ だってね。彼めちゃくちゃ優しいわけ。バイトで疲れてるんだってつぶやくとさ、すぐに休みなよって。無理するなよ。お前が辛いと俺も辛いからって。ね?ヤバくない? そんな風に返してくれるし。デートの時はいつも、私の行きたい場所を優先してくれて。こないだなんてね、誕生日プレゼントだからって、指輪買ってくれたのよ。すごくない? プラチナ!
コトリ 凄いねぇ。凄い凄い。えっと、何? 今日はずっとそんな話を聞かされる感じ? 帰っていい?
エミ まだついてもいないじゃん。と言うか、15分遅刻だからね。

    チトセが赤ちゃんを置いて去る。ふらっと。忘れ物をしたかのように。

コトリ うん、それは悪いと思ってるけど。ちょっとエレベーター混んでてさ。
エミ 階段使いなよ。
コトリ 高校生の頃とは違うんだよ。もうすぐだから。一回切るよ。(と、去る)
エミ はーい。確かに大学入った途端体力落ちた気がするわ。

    と、赤ちゃんの泣き声がする。

エミ すいません。うるさかったですよね……あれ? え、ありえなくない? お母さんどこ行っちゃったんだろうねぇ。
トイレかな? ほら、泣きやめ〜 泣き止みな〜 いないいないばあ〜

    と、赤ちゃんの笑い声。

エミ お〜笑ったね。可愛いなぁ。

    と、コトリがやってくる。声をかけようとして赤ちゃんに気づく。

コトリ そりゃあ、結婚間違いなしだわ。
エミ コトリ~お久。
コトリ 久しぶり。そりゃあこっちはサークルだなんだって連絡取らなかったけど、それは反省してるけど、でも知らせなきゃいけないことってあるんじゃ無い?
エミ え、なんの話?
コトリ いつ?
エミ 何が?
コトリ それ。
エミ (指輪だと思い)だから、誕生日だから先月?
コトリ 聞いてない!
エミ 言ったよ!?
コトリ 絶対聞いてない! まあそれはいいとして。よく無いけど。え、待って計算が合わない。
エミ なんの計算?
コトリ 前の彼か!
エミ 今の彼です! なんで前の彼のよ。意味わからない。前の彼にそんな甲斐性無いし。言ったでしょう? プラチナだって。
コトリ キラキラネーム!?

    と、赤ちゃんの泣き声。

エミ ああ〜。ほら、馬鹿なこと言うからまた泣き出しちゃった。泣きやめ〜。泣きやめ〜。
コトリ あんたそんな乱暴な。
エミ これで結構泣き止むのよ。ほら、怖くないよ〜。泣きやめ〜いないいないばあ。

    と、赤ちゃんが笑う。

エミ ね?
コトリ ごめんね。プラチナちゃん。
エミ 勝手に変な名前で呼ぶな。
コトリ あんたがつけたんでしょう。将来絶対苦労する名前だねぇ。
エミ 誰がつけるか。もしかして勘違いしてない?
コトリ あ、ごめん。プラチナ君?
エミ じゃなくて。この子、私の子じゃ無いから。
コトリ 連れ子!?
エミ 違うわ! ちゃんとこの子にはお母さんがいるから。いや、いたから。さっきまで、ここに。え、いや、嘘でしょう?ここにいて。いつの間にかいなくなって。
コトリ この子、捨てられたってこと?
エミ いや、まさか。こんないい子だよ? ちょっとトイレにでも行ってるんだって。
コトリ 赤ちゃんを置いて?
エミ ないか。
コトリ どんな親だったか覚えてないの?
エミ それがちらっと見ただけで。電話してたし。
コトリ どうすんの?
エミ どうしよう。

    途方に暮れる二人。

4 チトセの事情。

    公園の東側に近い道。
    デートっぽい恰好、出来れば浴衣姿をしたマトイが足早にやってくる。

マトイ まさかこんなに時間かかるなんて。完全に遅刻だ。……うそ。スマフォないし。忘れてきた!?

    と、反対から走ってくるチトセ。走り疲れてうずくまる。
    全力で走ってきたのか息も絶え絶えでいる。

マトイ あの、大丈夫ですか?
チトセ え?
マトイ いや、あの、具合悪そうだから。その。大丈夫ですか?
チトセ ああ、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。あたしったらなんてことを……。
マトイ 救急車呼びます? って、私スマフォ忘れてきちゃって。あの、誰か呼びますか?
チトセ もう無理で。どうしたらいいかわからなくて。
マトイ ゆっくり休んだほうがいいですよ。あの、ベンチに座ったりとかして。
チトセ 何も考えられなくて。
マトイ とりあえず、もうちょっと先に少し休めるところありますから。そこで休まれたらどうですか?
チトセ 休めるなんて事全然なくて。
マトイ 私、急いでて。それで、
チトセ ごめんなさい。本当にごめんなさい。 ごめんなさい。
マトイ えっと、ちょ、ちょっと待っててくださいね。

    マトイが去る。
    チトセの姿だけ浮かび上がる。
    どこかにスマフォ男が現れる。チトセの旦那のスマフォ。
    チトセの横にはスマフォ女②がやってくる。チトセのスマフォ。

ス男 ごめん。今日遅くなる。
チトセ 今日は早く帰って来られるって言ってたよね?
ス女② わかった。何時くらいになりそう?
ス男 打ち合わせ次第。もしかしたら日をまたぐかも。先寝ていていいよ。

    どこからか聞こえてくる赤ちゃんの泣き声。

チトセ 最近、夜泣きがひどくてね。ろくに寝れてないんだよ。
ス女② 大丈夫。多分起きてるから。
ス男 いいよ。先休んでて。
チトセ 休もうとしても、休めないんだって。
ス女② わかった。お仕事頑張ってね。
ス男 うん。頑張るよ(と、ポーズ)

    ス男の代わりに、スマフォ女①が現れる。女の友人のスマフォ。

ス女① 次の週末、専門の時のメンバーで飲むんだけど来られない?
チトセ そんな余裕ないよ。
ス女② ごめんね。多分無理。子供の世話あるから。
ス女① 休日くらい旦那に任せられないの?
チトセ 任せられるわけないでしょう。
ス女② うちの人、オムツの場所もよくわかってないから。
ス女① 教えればいいじゃん。それか、必要なもの全部目の前に置いていきなよ。子育ては夫婦で協力するものでしょう?
チトセ そんなことわかってるよ。
ス女② ちょっと聞いてみるね。
ス女① よろ~。

    スマフォ男が再び現れる。スマフォ男、女①②、
    チトセが舞台に立っている。

ス男 いいよ。休日くらい俺一人でもなんとかなるから。
チトセ 本当に?
ス女② じゃあ、任せちゃってもいいかな?
ス男 なんとかなるよ。久しぶりに羽伸ばして来なよ。
チトセ なんとかじゃダメなんだよ? 本当に信じてもいいの?
ス女② じゃあ、お願いね。
ス男 うん。頑張るよ(と、ポーズ)
ス女① 本当? 旦那いいって?
チトセ 多分。
ス女② うん。大丈夫、任せろって。
ス女① 旦那さん優しい~。じゃあ、久しぶりに会えるね。
チトセ 大丈夫。きっと大丈夫。
ス女② うん。楽しみにしてる。
ス女① やった! じゃあ、みんなにも声かけておくね。
チトセ 大丈夫。大丈夫。
ス女② うん。よろしくね。

    赤ちゃんの泣き声。

ス男 ごめん。次の休み仕事入った。
チトセ そんな簡単に言うんだね。
ス女② わかった。
ス男 実家に頼めないかな? うちは無理だけど、チトセのお袋さんだったら預かってくれるんじゃないか?
チトセ 簡単に言わないでよ。

    スマフォ男が去る。と、声が聞こえる。
    スマフォたちが語る。それは何度となく繰り返された同じ言葉。

スマフォ達 チトセ、あんたはまだ21でしょう。結婚は好きにすればいいけど。子供が出来てから、面倒見れないから預けたいって言われても、母さん困るんだからね。
チトセ 分かってるよ。分かってる。
ス女① えー。無理? ほんとに?
チトセ 私だって行きたかったよ。
ス女② ごめんね。仕事が入っちゃったって。最近忙しいみたい。
ス女① チトセがくるって言うから、みんなに声かけたのに。
チトセ ごめんね。
ス女② ごめん。
ス女① いっそのこと子供連れて来ちゃいなよ。赤ちゃんでもOKなとこ探すからさ。
チトセ 簡単に言わないでよ。
ス女② みんなに迷惑になるから。
ス女① みんな気にしないって。
チトセ 私が気にするんだよ!
ス女② ごめん。また誘って。
ス女① たまには息抜きしないとダメだよ。
チトセ 息抜きってどうやればいいのかな?
ス女② うん。またね。

    スマフォ女①②が消える。
    赤ちゃんの泣き声。

チトセ うるさいよ。

    赤ちゃんの泣き声。

チトセ 静かにしてよ。

    と、エミの声が聞こえる。電話をしていた時の声。

エミ あたし、今世界一幸せかもしれない。なんかさ、世界がキラキラ輝いて見えるんだよね。今ならなんだってできそうな気がするって言うか。やっぱり、女は恋してなんぼだよね。
チトセ いいなぁ。私間違えたのかな。

    チトセが何かを置き去るようにして走る。走って、逃げ去る。

5 待ってるユウタ①

    どこかに男が浮かび上がる。そのころのユウタ。
    ユウタがスマフォを取り出す。
    周りを見渡す。スマフォの時間を確認する。

ユウタ 30分、か。

    ユウタの横にスマフォ男がやってくる。ユウタのスマフォ。
    スマフォの通知音。どこかにイノリが浮かび上がる。

ス男 来ないんだけど。
イノリ え? まだ会えてないの? 「まじか」っと。
ス男 会えてない。メッセージ送っても、既読つかないし。
イノリ 「振られたか」っと。
ユウタ 振られてねーし。
ス男 ちゃんと来るよな?
イノリ 知らんよ。あたしからあの子に連絡するのもおかしいし。単純に場所間違えたんじゃないの。(と、言いながらメッセージを送ってる風)
ユウタ 場所? いや、待ち合わせ場所は間違ってない。
ス男 近所の公園だし。すぐ来れるだろ?
イノリ え、なんでそこ? うちの近くかよ。
ユウタ そうだよ。
ス男 人来ないし。お互い近いから、待ち合わせに丁度いいんだ。
イノリ うちの近所か。ま、心配するくらい、いいか。いいよね。「大丈夫。きっとくるよ」っと。
ユウタ きっとかよ。……暑いな。

    イノリが何かを決めたように去る。
    ユウタが少しでも熱くない場所を探しス男と共に去る。

6 待っている女たち。17時を少し過ぎた頃

    ベンチのある広場。
    エミとコトリはあたりを見渡しながら途方に暮れている。

コトリ 来ないね。
エミ 来ないよ。
コトリ どうする?
エミ どうしようか。
コトリ あんた考えてる?
エミ 考えてるよ。とりあえず、彼氏に相談してみる。
コトリ こんな時に何言ってんのよ。
エミ こんな時だからだよ。うちの彼、頭いいし。
コトリ さすがに頭が良くてもこの状況は解決できないと思うけど。って、
エミ なに? 見ないでよ。
コトリ いや、そのアイコン。
エミ かわいいでしょ。彼、結構可愛いの好きなんだよね。
コトリ マッキー?
エミ そう。マキガハラだから、マッキー。
コトリ 珍しい名字だね?
エミ でしょ。
コトリ マキマキとも呼ばれてるんじゃない?
エミ え、よくわかるね。えっと、「赤ちゃんが、置き忘れられてるんだけど、どうしよう」っと。これで大丈夫。
コトリ ……彼、いくつだっけ?
エミ 今? 大学四年だから、えっと、
コトリ 22になったばかり?
エミ そうそう。
コトリ 7月が誕生日だったり。
エミ うん。近いんだよね。うちらの誕生日。
コトリ そうなんだ。ふーん。

    と、メッセージを知らせる着信音。

エミ あ、
コトリ 私だ。

    と、スマフォ男がやってくる。ちょっと気取った感じ。

ス男 なんか知り合いが、「赤ちゃんが置き去りにされた現場に出くわした」とか変な事言ってるんだけどww
コトリ 知り合い、ねぇ。
エミ どうしたの?
コトリ 私の彼がね、知り合いから変なメッセージが来たって。
エミ え、どんなメッセージ?
コトリ ……見たい?
エミ え、なにその聞き方。
コトリ 見たら後悔するかもよ?
エミ なにそれ。ホラー系?
コトリ ある意味、ね。
エミ パス。私怖いのダメなんだ。

    と、メッセージを知らせる着信音。

エミ あ、彼からだ。
コトリ 彼、ね。
ス男 今、知り合いにもどうしたらいいか聞いてみてるけど、まずは警察に連絡じゃないか?
エミ 知り合いにも聞いてくれてるって。やっぱり、優しいなぁ。
コトリ 知り合い、ねぇ。ちょっと、彼氏に返信していい?
エミ いいよ。私も返す。
コトリ その知り合いって誰か聞いてみたら?
エミ え、うん。わかった。
コトリ 私も聞いてみようっと。
ス男 え? 知り合い? まあ、大した知り合いじゃないんだけど、まあ、学校関係、かな。てか、なんでそんなこと聞くの?(と言いつつ去る)
エミ だって。
コトリ うわー。同じこと返って来た。
エミ え? なにが?
コトリ これ、私の彼。
エミ え? なにこれ。マッキー?
コトリ うん。彼氏。
エミ え。どういうこと?
コトリ どういうことだろうねぇ。

    見つめ合う二人。

7 マトイとチトセ。17時を少し過ぎた頃

    別の場所にうずくまるようにしているチトセが浮かび上がる。
    そこへ、マトイがやってくる。

マトイ これ。
チトセ ……え?
マトイ お水です。自販機売り切れてて、コンビニで。とりあえず、飲んでもらって大丈夫ですから。
チトセ ごめんなさい。
マトイ はい。えーと。じゃあ、私はこれで。
チトセ デート?
マトイ え?
チトセ デートなのかなって。そんな格好してるから。
マトイ あ、まあ。わかります?
チトセ うん。いくつ?
マトイ えっと、同い年で。あ、私の歳か。高2です。
チトセ 付き合って、どれくらいなの?
マトイ 三ヶ月です。
チトセ いいなぁ。好きとか嫌いとかだけで悩める時期。
マトイ 確かに、そんなことでばかり悩んでます。
チトセ 大事にしてね。心も体も。
マトイ え?
チトセ きっと宝物に感じられるようになるから。でも気を付けてね。大切な時期って割と短いから。
マトイ 気をつけます。
チトセ 特に避妊には気をつけてね。
マトイ え!? いや、あ、はい。大丈夫です。まだ高校生だし。
チトセ 気分が盛り上がっちゃったら年齢なんて関係ないわよ。
マトイ あ、はあ。そうですかね。
チトセ この人となら大丈夫とか思っていてもね、できちゃったら色々あるんだから。男なんてね、結婚と、出産でコロコロ態度変える生き物なのよ。だから、女の方がしっかりしないといけないの。いけないのに。私……。
マトイ えっと、じゃあ、私はこれで。
チトセ ごめんなさいね。変なこと言っちゃって。
マトイ ……あの、本当に大丈夫ですか?
チトセ 大丈夫。きっと。ううん。ダメ。全然ダメ。もう、どうしていいかわからないくらいダメなのよ。笑っちゃうくらい。でも、それって私の問題だから。だから、大丈夫。
マトイ いや、全然大丈夫じゃないですよね? やっぱり、救急車とか呼びますか? スマフォないけど、探せば電話あるだろうし。あたし、呼びましょうか?
チトセ じゃあ、見て来てもらってもいい?
マトイ 何をです?
チトセ 私の、娘を。
マトイ え? どういうことですか?

    説明させるようにマトイはチトセと共に去る。

8 争う女たち。18時に近い。

    ベンチの風景に戻る。エミとコトリが言い合っている。

エミ どういうこと! なんでうちの彼があんたと付き合ってんの!?
コトリ こっちのセリフだから! 私の彼なんだけど。
エミ 今はうちの彼でしょ!
コトリ 私、別れてないから。
エミ 別れてよ! 指輪だってもらってるんだからね!
コトリ それくらい、私だってもらってるよ!

    と、お互いの指輪をまじまじ見比べて。

エミ&コトリ 同じ指輪……。
エミ それ外して!
コトリ そっちが外せばいいでしょ!

    と、赤ちゃんが泣き出す。
    思わず顔見合わせる二人。お互い赤ちゃんの泣き声が気になる。

コトリ だから、あれよ。
エミ だいたい、あんたが、あれ、でしょう?
コトリ あんたこそ、あれでしょ。
エミ なんで今、ああ、もう(と、赤ちゃんに)うるさいよ!

    と、一瞬赤ちゃんの泣き声が止まり、再び泣き出す。

コトリ ちょっと、赤ちゃんに当たらないでよ。怖いねぇ。このお姉さんヒステリックだからねぇ。うるさかったよね。
エミ 最悪。 こんな時にいい人ぶらないでよ。
コトリ 泣いてる赤ちゃんに怒鳴る方が最悪でしょ。女の嫉妬は醜いよねぇ。
エミ はぁ!? 言っておくけど、今付き合ってるのは私だから。
コトリ 思うのは自由だよねぇ。はーい。いい子いい子。

    と、赤ちゃんの泣き声。

エミ 泣きやまないじゃん。
コトリ うるさい。今あやしてるとこだから。ほら、いないいないばあ。
エミ 性格の悪さが顔に出てるんじゃない?
コトリ うるさいって。いい子だからねぇ。泣き止もうねぇ。
エミ ちょっと、どいてよ。(と、凄まじく陽気に)んべぇばぁ。
コトリ なにそれ。
エミ これくらい無邪気にあやさないとダメなんだよ。んべぇべろべろばぁ。んばぁ。よーし、よーし。いい子でちゅねぇ。(と、オムツに顔を近づけ)んー。おしめは大丈夫そうでちゅねぇ。
コトリ よくそんなことできるわね。
エミ 慣れてるし子供の世話。うち、大家族だから。んー、お腹空いてるんでちゅか〜? ママがいないのが寂しいのかなぁ? あ、ほら、こちょこちょこちょー。

    赤ちゃんが泣き止む。笑い出す。

エミ ほら、こんなもんよ。
コトリ ちょっと感心した。
エミ 子供好きだから。できるだけ早く結婚して、作る気だったし。
コトリ 今の彼と?
エミ うち、兄弟多いから。あたしは結構放って置かれること多くって。親に構われた記憶ってないんだよね。子供の頃の写真も少なくてさ。だから、うちの子供にはそんな寂しい想いはさせたくないってずっと思って。彼も、子供好きだって言ってくれてたし。
コトリ なにそれ初めて聞いた。
エミ 初めて言ったし。
コトリ あたし、子供は苦手。一人っ子だったし。親戚もみんな年上だったから。赤ちゃんってどうしていいかわからない。結婚しても、子供はいいかなって。彼もそう言ってくれてたし。
エミ それは、今の彼が?
コトリ 今の彼が。
エミ まったく逆だ。
コトリ ね。
エミ 馬鹿みたい。
コトリ ね。
エミ ……ごめんね。
コトリ 知らなかったんでしょう?
エミ うん。
コトリ 私も知らなかったし。

    と、赤ちゃんの笑い声。

エミ 笑ってるよ。なにがおかしいんだか。
コトリ なにも知らないからね。
エミ 知らないでいたかったなぁ。

    と、メッセージの着信音。

エミ あ、
コトリ あいつ?
エミ うん。「どうなった?」だって。
コトリ さて、どうしてやろうかね。
エミ あいつ?
コトリ うん。
エミ どうしようかね。
コトリ どうしようか。

9 混乱する女たち

     と、マトイがやってくる。

マトイ あ、あのー。
エミ え。
マトイ あの、その、思いの外和やかな雰囲気な中失礼します。
コトリ なに?
マトイ その、赤ちゃんなんですけど。
コトリ 赤ちゃん?
エミ ここにいるけど。
マトイ よかった。いた! よかったぁ。(と、その場に膝をつける)よかった。赤ちゃん、本当よかった。
コトリ え、この子が?
エミ どうだったかな。え、あなたがお母さん、なの?(と、ちょっと前を思い出してる)
マトイ いや、私はその、
コトリ いくつ?
マトイ 17ですけど、だから、
エミ&コトリ 高校生!?
エミ え!? 彼氏はいくつなの?
マトイ 同い年ですけど、いや、そうじゃなくて、
エミ&コトリ 同い年!?
エミ ってことは相手も高校生ってこと!?
コトリ やるなぁ。
マトイ いや、違うんです。
エミ そっか。さすがに旦那は働いてるか。
マトイ そうじゃなくて。私たち、付き合ってまだ三か月なので、
エミ&コトリ 三ヶ月!?
エミ 計算が合わない!
コトリ ってことは、前の彼か!
エミ え、今の子ってそんなに進んでるの?
コトリ 知らない知らない。
マトイ いや、だから、違うんです! 私の子供じゃないんです!
エミ&コトリ 連れ子!?
マトイ えぇーーー!?
コトリ 苦労したのね。
エミ これ、少ないけど。
マトイ なんですかこれ。
エミ 塩飴。彼からもらったんだけど、いらないからあげる。
マトイ いりません! 違うんです! 私はこの子のお母さんじゃなくて、ちゃんとこの子には母親がいます!
エミ 連れ子だものね。
マトイ じゃなくて! この子の母親は、あたしより年上で、ちゃんとした大人の人です!

    と、チトセがやってくる。会話に入っていこうとするが出来ない。
    と、赤ちゃんの泣き声が聞こえる。

マトイ うるさい!
エミ 子供にあたっちゃダメだろ!
マトイ 私の子じゃないんですって!
コトリ 連れ子だからってひどいんじゃない?
マトイ だから、違うんです。私は違うのに……。
エミ え。泣いてる?
コトリ 赤ちゃんも泣いてるよ。
エミ あんた母親でしょ。しっかりしなきゃ。
マトイ 違うんです。違うのに。
エミ 赤ちゃんにはね、母親だけなんだよ? 世界中が敵に回っても、母親だけは味方でいなくちゃいけないんだから!
コトリ あんたも言う時は言うね。
エミ でしょ!? さ、母親としてこの子を泣き止ませてみなさい!

    と、チトセが三人のいる場所へやって来る。

チトセ 待ってください!
コトリ え、だれ?
チトセ その子の母親です!
エミ そういえば、この人だった気が。
コトリ え、じゃあこの子は?
チトセ ただの、親切な通りすがりです。
エミ え?
コトリ どういうこと。
チトセ 全然関係ない人です。
マトイ だから、違うって、言ったのに。違うって、言ったのに。
エミ (と、コトリに)どうしよう。
コトリ どうしようもないね。

    泣き声が徐々に小さくなっていく。


10 待ってるユウタ② 18時に近い

    ユウタとイノリがやってくる。

ユウタ わざわざ見に来るなんて悪趣味だぞ。
イノリ 近所だし。ちょっと買い物ついでだったからね。で?
ユウタ で?
イノリ 何か連絡は?
ユウタ なにも来てない。既読も相変わらずつかないし。
イノリ そう。
ユウタ これ、振られたってことかな。
イノリ マトイはこんな風に振る子じゃないよ。
ユウタ 最近、ちょっとぎくしゃくしてたし。
イノリ そうなの?
ユウタ SNSでは結構話すんだけどさ。いざ会うと、なに話していいかわかんなくて。お互い無言でいたりするし。
イノリ あんた、女の子が喜ぶような話できないもんね。むしろSNSでは話せるってのが不思議だわ。
ユウタ 楽なんだよ。こっちが考える時間あるだろ? なるべく既読つかないように見てさ、なんて返そうか考えてから既読にして、すぐに返したように見せかけたりして。
イノリ 結構考えてるんだ。
ユウタ 考えるよ。でも、早いんだあいつ。返したと思ったらすぐに返事が返ってくる。きっと、普通に会話している時だと、もっと早いんだろうなって思うと、言葉が出なくなる。

    どう声をかけていいかわからないイノリ。ふと周りを見渡す。

イノリ 懐かしいね。ここ。
ユウタ え? ああ。そうだな。
イノリ 覚えてる? 初めて会った時のこと。
ユウタ 小学生の時だっけ?
イノリ あたしは引っ越して来たばかりで。まだこの辺のこと全然知らなくてさ。歩いて近所を探検してたら、ここで、この公園で、あんた、ジャングルジムのてっぺんでわけわかんないポーズとってたでしょ。
ユウタ そうだっけ?
イノリ こんなの。(と、ポーズをとる)
ユウタ なんでそんなポーズとってたんだろう?
イノリ あたし、思わず話しかけちゃって。「何馬鹿なことやってんだよ」って。
ユウタ ああ、そうそう。お前、昔はもっとすかしてたもんな。両手ぽっけに入れてさ。「馬鹿じぇねーの」って。何回馬鹿って言われたかなぁ。
イノリ ユウタ、あたしのこと始め男だと思ってたでしょ。
ユウタ なんか格好つけてたから。
イノリ 誰が格好つけよ。
ユウタ 嘘だよ。格好良かったよ、お前は。
イノリ 過去形かい?
ユウタ 今も格好いいです。はい。
イノリ よろしい。あの鉄棒。よく遊んだよね。
ユウタ ああ、逆上がりの練習、さんざんしたなぁ。
イノリ あんた、手を離して頭ぶつけた時あったよね。
ユウタ そんなこと、あったかなぁ。

    と、話しながら二人去る。

11 割と落ち着くまでに時間がかかった同じ場所で。18時半くらい。

    ベンチの見える広場。
    ベンチに座るマトイの横にエミ。
    少し離れてベビーカーの横にチトセがいる。
    マトイはようやく泣き止んでハンカチをまぶたに当てている。
    コトリがやってくる。片手に飲み物を持っている。

コトリ 落ち着いた?
マトイ はい。すいません。
コトリ 私たちの方こそごめん。これ、冷たいからまぶた冷やすのに使って。
マトイ ありがとうございます(と、受けとる)
エミ 鏡ある?
マトイ え? いえ。
エミ 貸したげる。メイク崩れちゃってるから。
マトイ すいません。

    と、マトイはメイクを直し始める。
    それを横目で見つつ、コトリはチトセによる。

コトリ お子さん可愛いですね。
チトセ ありがとうございます。
コトリ おいくつなんです?
チトセ 22です。
コトリ いや、子供の年齢を聞いたつもりだったんだけど。
チトセ あ、すいません。8ヶ月です。
コトリ 大変な時期だろうけど、ダメですよ置いていったりしたら。
チトセ はい。
エミ そうそう!話を聞く限り、悪いのは手伝わない旦那の方じゃん。
チトセ そう、ですかね。
コトリ いわば、赤ちゃんも、奥さんも被害者な訳だから。それなのにその被害者に当たるなんて……
チトセ すいません。
エミ 言いたいことがあるなら直接男の方に言えばいいんだから……。

    と、エミとコトリはお互いに顔を見合わせると苦笑する。

チトセ あの、どうしました?
コトリ いや、とんでもないブーメランだなって思って。
チトセ ブーメラン?
エミ あたしたち、高校からのつきあいなんだけど。その、
コトリ 同じ男に二股されてたみたいなんです。
チトセ え?
コトリ それ、さっき知って。で、言い合いになって。
エミ 赤ちゃんが泣いてくれたおかげで、深刻にならずに済んだよね。
コトリ うん。
チトセ お二人は、相手の方には?
エミ なんかもうどうでもいいっていうか。ね?
コトリ なにを言っていいかわからないしね。
チトセ だ、ダメですよ! 二人の気持ちを相手は知らないわけじゃないですか! 仲良い二人が言い合いになったことも! 
お二人が苦しんだことも! 知らないままなんてそんなのずるい……ちゃんと、どう思っているか言うべき、です。

    と、自分の言葉にチトセは胸を押さえる。

コトリ あ、ブーメラン?
エミ 自分に返って来ちゃった感じ?
チトセ はい。自分ができてないことを、なに人に言ってるんだって思うと。
エミ だよね。
コトリ なんか、いざとなるとね。
エミ コトリはいいでしょ。もう振られてるようなもんなんだし。
コトリ は? 振られてないですけど。
エミ だって、あたしの彼じゃん。
コトリ いや、二股だから。同時進行だから。むしろ、エミと付き合ってる期間の方が短いから。
エミ 期間の長さは関係ないじゃん。
コトリ なら、本人に確認してみようか?
エミ え、本人に?
コトリ うん。聞いてみようよ。
エミ なんて聞くのよ。
コトリ 「あたしのこと好き?」とか。
エミ 無理。あんた聞けんの?
コトリ 聞ける。と思う。

    と、コトリはスマフォを取り出すが、出来ない。

エミ かけないの?
コトリ いや、別に今更あいつがなに言ってこようがもう気持ち的には冷めてるって言うか、むしろ怒りしかないって言うか、
なんだけど、だからって全くゼロだったらさぁ。なんかさぁ。
エミ 悔しいし。
コトリ そう。
チトセ 自分が望む答えが返ってこないかもっていうのは、怖いですよね。
エミ うん。

    と、マトイが立ち上がる。

マトイ それでも、聞かないとはじまらないじゃないですか!
コトリ なに、いきなり。
エミ メイク終わったんだ?
マトイ 相手の気持ちを聞かないとずっとモヤモヤしたままで。メールも信じられなくなって、信用できない自分も嫌になって。毎日、なんかつまらなくって。そんなの嫌じゃないですか! だったら言うしかないんです。ぶつかるしかないんです。当たって砕けろ。いや、むしろぶち壊します!

と、赤ちゃんが泣き出す。

マトイ あ、すいません。
チトセ 大丈夫。びっくりしちゃったんだよねぇ。(と、あやし始める)
マトイ すいません。
チトセ 大丈夫だから。それより、デートに行く途中だったのよね?
マトイ はい。
エミ そうなの?
コトリ 待ち合わせは何時?
マトイ 家を出た時が待ち合わせの時間でした。
エミ 遅刻してんじゃん!
コトリ それなのに、ここでのんびりメイク直してたの?
エミ 泣かせたのあたしたちだけどさ。
チトセ ごめんなさいね。巻き込んじゃって。
マトイ いいえ。おかげで、勇気が湧きました。
エミ え、なんで?
マトイ 自分ってダメなやつだなぁって思ってたけど、そんなんでもないかなぁって。あ、じゃあ失礼します!

    と、マトイは勢い良く去る。
    しばし、マトイの言葉を考える三人。

エミ あれってさ。
コトリ うん。
エミ いや、気のせいかもしれんけどさ。
コトリ うん。
チトセ あたしたちのこと、完全に下に見てましたね。
エミ だよね!
コトリ ですね。
チトセ 若いって恐ろしいですね。
エミ あれは若さのせいなの?
コトリ あの子の性格なんじゃない?

    3人、少し笑う。

チトセ 電話、かけられそうですか?
コトリ 奥さんは?
チトセ 私は、旦那にかけるのはまだ勇気が足りないので、まずは味方を増やしてみようかと。
エミ 味方?
チトセ 母に。話を聞いてもらおうと思います。
コトリ そっか。
エミ 頑張って。
チトセ ありがとうございます。お二人は?
エミ どうする?
コトリ とりあえず呼び出す? 2対1なら言いたいこと言えるんじゃない?
エミ どっちが呼ぶ?
コトリ ジャンケン。
エミ よし。

    エミとコトリがジャンケンを始める。
    チトセが少し二人から離れて電話をかける。
    コール音の後、声が聞こえる。母の声。

モモセ はい?
チトセ あたし。今子供と一緒に。あの、ね。ちょっと色々あって。それで、こんなこと言ってもあれなんだけど。
だから、その……。

    ふと、その視線が助けを求めるように周りを見る。
    エミとコトリがじゃんけんを止め、声を出さずに応援する。

チトセ 助けて欲しいんだけど。
モモセ 今どこにいるの。
チトセ 近所の公園。
モモセ そう。
チトセ 母さん、その。
モモセ 車で行くから、一時間くらいかかるわよ。夕方からは少し冷え込むみたいだから。外で待つならあったかい格好してなさい。
チトセ うん。あの、母さん、その、
モモセ なにがあったのかは会ってから聞くから。
チトセ うん。……ありがとう。

    電話を切るチトセ。うまくいったことを喜ぶエミとコトリ。
    三人が去る。

12 待ってるユウタ③

    夕方になってきている。
    ユウタとイノリがやってくる。

イノリ 結構話しているとあっという間だったね。
ユウタ だな。
イノリ こんな風にマトイとも話せればいいのにね。
ユウタ それを言うなよ。
イノリ 難しいんだ?
ユウタ なんか、格好つけちゃうんだよ。いいこと言わなくちゃとか、ダサいこと言いたくないなとか。なんでだろ。
イノリ 好きだからでしょ。
ユウタ そうなのかな。
イノリ 自信ないのかよ。
ユウタ 気持ちなんてわかんないだろ。
イノリ わかるよ。つい、目で追っちゃうのが好きってこと。
ユウタ そんなの割とあるだろ。
イノリ つい格好つけちゃうのも好きってこと。相手が困ってたら助けてあげたくなって。側にいたくって、いない時は「今なにしてるかな」なんて考えちゃって。会えたら嬉しくて。自分を見て欲しくなって。自分のことを考えて欲しくって。そうしたら、それは好きってことでしょ。
ユウタ なんとなく、わかる気がする。
イノリ 好きなんでしょ? あの子のこと。
ユウタ 多分。
イノリ はっきりしろよ。

    と、イノリは気持ちを確かめるようにユウタの胸に拳を当てる。
    マトイが走ってやってくる。マトイに背を向けているため、
    ユウタはマトイに気づけない。

ユウタ 好きだと思う。いや、好きだ! すげえ好きだ!

    マトイは驚いて立ち止まる。マトイとイノリの目が合う。

イノリ あ。
ユウタ うん?

    マトイは走り去る。

ユウタ どうした?
イノリ いや、ちょーっとばっかし、予想外の声の大きさで。思っても見なかった出来事に、心が大きく動揺しております。
ユウタ なに言ってるんだお前?
イノリ これはチャンスか? いや、でもこれをチャンスとしちゃうのはどうなの? 結局誰もが不幸になるだけじゃないのか?
ユウタ 大丈夫かお前?
イノリ 見ないで!
ユウタ は?
イノリ 打算にまみれた思考に陥っている私を見ないで! 見るな!
ユウタ 意味わかんないぞ。
イノリ わかんなくていい。あんたはそのままでいいの。うん。決めた!
ユウタ なにをだよ。
イノリ あたしに任せておけ! ちょっと行ってくる!
ユウタ どこに?
イノリ いいからあんたは待ってろ。いいね。
ユウタ あ、ああ。
イノリ (と、走りかけて)……あ、ユウタ。
ユウタ なんだよ。
イノリ 昔のこと話していて思い出したんだけどさ。あたしさ。あんたのこと結構好きだったよ。
ユウタ 俺も、お前のこと結構いいなって思ってた。
イノリ ……はっ! 知ってたけどね!
ユウタ お前本当に格好いいな。
イノリ マトイのこと泣かせるんじゃないよ!
ユウタ お、おう!

    イノリが走り去る。ユウタが反対に去る。

13 互いの本音。

    待ち合わせ場所とベンチをつなぐあたりの道。日がゆっくりと落ちてきている。
    と、マトイが走ってくる。
    反対からベビーカーを押したチトセがやってくる。

チトセ あ。デートはどう、だった?
マトイ 待ちくたびれたみたいで。帰っちゃってました。
チトセ ごめんなさいね。私が巻き込んだせいで。
マトイ いえ。べつに。そういうのじゃないですから。
チトセ そう。じゃあ。

    と、去ろうとするチトセ。

マトイ あの!
チトセ なに?
マトイ 初恋っていつでした?
チトセ えぇっ?
マトイ いや、なんでも無いです。
チトセ えっと、中学生だったかな。同い年の人。
マトイ その人とは別れちゃったんですよね。
チトセ そりゃあね。あ、彼と喧嘩でもした?
マトイ 喧嘩じゃ無いです。ただ、ぐちゃぐちゃしてるだけで。
チトセ そう。
マトイ やっぱり、初恋って実らないんですかね。
チトセ ……あの時は今日と同じ明日がくると思ってた。
マトイ 同じ、明日?
チトセ 毎日同じように続くんだなって。だから甘えてた。彼もそうだったと思う。段々デートも会話も繰り返しみたいになってきて。なんだかそれがつまらなく感じて。で、終わっちゃった。
マトイ 凄い似てる。
チトセ 多分ね、もうちょっと相手にちゃんと向き合えばよかったんだと思う。言いたいこと言ったり。喧嘩したり。その時その時をちゃんと大事にして。……それは今も同じか。ごめん。忘れて。
マトイ いいえ。忘れません。ありがとうございます。
チトセ 私こそ。きょうはありがとう。じゃあね。
マトイ はい。

    チトセが去る。

マトイ 相手に向き合う。言いたいことを言う。その時その時を大事にして。か。

    と、イノリが走ってくる。互いに気づく。身構える二人。

イノリ なんでもないから。
マトイ なにが?
イノリ あたしとあいつ。なんでもないから。
マトイ そんな風には見えなかったけど。てか、なんでいるの?
イノリ マトイこそどうしたの? ずっと待ってたみたいだよ、あいつ。
マトイ 色々あって。
イノリ 連絡もしなかったよね?
マトイ スマフォ、家に忘れてきて。
イノリ 待たせたままにするつもりだったわけじゃなくて?
マトイ なんであたしが悪いみたいになってるの? 人が待ち合わせしていた場所で、変な雰囲気になってたのそっちだよね?
イノリ あれは、違くて。
マトイ なにが違うの。
イノリ 好きってのは私のことじゃなくてさ、
マトイ あいつのこと好きなの?
イノリ 私が? まさか。
マトイ 嘘つかないでよ!
イノリ 嘘じゃないし。
マトイ 気づいてたよ、ずっと。気づいてたけど、気づかないフリしてたんだよ!
イノリ 嘘。
マトイ わかるよ。でも、なにも言わないから甘えてた。今日と同じように明日も続くだろうって思ってた。でも、そうじゃないんだ。何かが起こる時はあっという間で。関係が変わるのなんて一瞬で。だからその時その時をちゃんと向き合わないといけないって。
イノリ なにそれ。わけわかんないんだけど。
マトイ 好きなんでしょう! あいつのこと!
イノリ 違うよ。
マトイ 認めてよ! 好きだって言ってよ! 友達でしょ!?
イノリ なにそれ。友達だからってそんなとこまで踏み込むわけ?
マトイ 踏み込むよ! だって、あいつとはいつか別れるかもしれない。でも、イノリとは一生友達でいたいじゃん! だから向き合っていたいんだよ! 分かれよ!
イノリ 好きだよ! ……好きだった。これでいい?
マトイ うん。ごめん。
イノリ なに謝ってんの。
マトイ だって、私が先にあいつのこと好きだって言い出したから、それで言えなくなったんでしょう?
イノリ 馬鹿。私は単純に選んだの。あいつの彼女って立場より、マトイの友達の方がいいって。あたしさ、あんたのこと、結構好きなんだよ。
マトイ あたし、イノリのこと凄い好き。
イノリ あいつ嫉妬しちゃうな。
マトイ イノリ、格好いいもんね。
イノリ よく言われる。

    2人笑う。

イノリ ほら、行ってやんなよ。わかってんだろ。誤解だって。待ってるよ。あいつ。
マトイ なんて言えばいいのかな。
イノリ マトイが言って欲しかったことを言えばいいんだよ。
マトイ ……うん。わかった。行ってくるね。
イノリ 行ってらっしゃい。

    と、マトイが走り去る。

イノリ あーあ。どこかにいい男いないかなぁ。

    と、エミとコトリに連れられマキガハラがやってくる。

マキガハラ だから、悪かったって、本当。2人が知り合いなんて全然知らなかったんだから。
エミ 重要なのは知り合いってことじゃないんだけど。
コトリ まず二股ってことがありえないって理解できてる?
マキガハラ わかる。わかるよ。二人が怒ってるのはわかる。まずはさ。何か食べよう? 3人で美味しいもの食べてさ。それで笑って仲直り。どう?
エミ いいから黙って歩け。

    と、エミはマキガハラを蹴り飛ばす。

マキガハラ 俺をどうする気だよ。
コトリ 奥歯の2本や3本なくなっても、生きていけるよね。
エミ 舌も抜こう。2枚くらいあるだろうし。
マキガハラ ないから。舌はみんな一枚だからね。
エミ 黙れ嘘つき野郎!
コトリ どうせもうすぐ喋れなくなるけど。
マキガハラ 勘弁してよ〜。

    と、マキガハラとエミ、コトリが去る。

イノリ いないんだなぁ。いい男って。

    と、がっかりした様子でイノリが去る。

14 エピローグ「履歴に残る言葉よりも」

    夕方の公園が広がっている。
    ユウタが待っている。もう何度目かスマフォを見る。
    と、背を向けている間に、マトイが走ってくる。息を整える。

マトイ ごめん。ごめんね。本当ごめん! すごい待ったよね?
ユウタ (と、いかにも嘘っぽく)いや、今来たとこだけど。
マトイ ……え?
ユウタ 絶対遅刻できないって思ったら、よく眠れなくてさ。で、二度寝。良かったよ。お前も遅れて。
マトイ こんな時間まで寝てたの?
ユウタ 起きたら日が暮れててびっくりした。だから、ごめん。今日は遅れないって言っておいて。
マトイ 馬鹿。……待っててくれて、ありがとう。
ユウタ (と、真面目に)そりゃ、待つよ。
マトイ なんで?
ユウタ ……俺、マトイのことちゃんと好きだから。
マトイ うん。あたしも、ユウタのこと、ちゃんと好き。

    照れたように笑う二人。花火の揚がる音が遠くで聞こえる。

マトイ あ、花火始まっちゃったね。
ユウタ 音しか聞こえないな。
マトイ 全然見えないし。
ユウタ 待ち合わせ場所として、完全に失敗だったな。
マトイ ううん。ここで良かった。おかげで色々あったから。
ユウタ 色々って?
マトイ 知りたい?
ユウタ うん。

    二人が笑う。今日の話をする二人。ゆっくりと幕が降りてくる。


あとがき

公園で起こる物語、その……いくつめくらいでしょうね。
最近は、という言い方がすでにおっさん臭くはありますが、
L○NEで結構重要なやり取りをする子が普通にいるそうで。
まあ、メールで告白したりとか、昔からありましたけど。
それってやっぱり危ないよなぁと思いながらこんな作品が出来ていました。
文章は残りますからね。こうやって書いている人間が何言ってるんだって話ですが。
言葉が思っている通りに通じないかもしれない怖さは、いつか物語にしたいなと思っています。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。