『露美男と樹里絵と』




【設定】
キャピュレット社
創立40周年を迎える老舗。
ピュレットを売っている。「キャッとするほどかわいいピュレット」が、キャッチコピー。
財力を利用して、政界に乗り出そうと考えている。モンタギュー社と仲が悪い。
どこに店を立てるかの問題が原因か?
親父は娘には甘い。


モンタギュー社
牛肉の老舗。もうすでに四十年は美味しい牛肉を売り続けている。「モンタ君の美味しいお肉」は、奥様方に人気商品。今回、キャピュレットが政界に立候補するという話を聞き、乗り出す。
息子にはいつも厳しい厳格な父親が社長。


【人物】
露美男(ろみお)  モンタギュー社の一人息子。
             厳格な教育をされたために、上からの叱責に慣れている。
             M気あり

樹里絵(じゅりえ)  キャピュレット社の一人娘。甘やかされて育ったために、
             何でもかんでも自分で決めなきゃ気がすまない。
             何気に習い事を多くしたために強い。

従兄弟(いとこ)   露美男の従兄弟。
             名前すらない。

友人          露美男と、従兄弟共通の友人。名前がたくさんある。が、死ぬ運命

ティバルト       何気に名前をもっている男。気位高い。だけど、樹里絵には弱い。

ロリンス        修道士。男である。ロリコンだったりする。
             仮死状態になる薬を使って色々とやっちゃったりした。

露美男父       名前はロジオ。めちゃくちゃ厳しい親父。

樹里絵父       名前は貞幸。樹里絵に対してはめちゃくちゃ甘い。オカマ親父。

おばちゃん。     おばちゃんである。出落ちキャラ。

その他         その他。それ以上でも、それ以下でもない連中。




音響 FI
照明 全照


○某Y市広場(昼)
 人通りは少ない。騒がしいのは選挙が近いための選挙カー。候補者が歩きながら叫んでいるらしい


露美父 上手より登場
    タスキをかけて自信たっぷりに歩いてくる。
    その後ろからついてくるのは、露美男と従兄弟。


露美父「ご町内の皆様。お騒がせして大変申し訳ありません。
     明日の新鮮な牛肉を保障するモンタギュー社の、ロジオです。
     『モンタ君のおいしいお肉』で有名なモンタギュー社のロジオが、
     皆様の清き一票をお願いしに参りました・・・・
     ほら、お前たち。なにやってるんだ。早くこないか!」


露美男 嫌そうに上手から登場


露美男「はい、父さん」


従兄弟 最近運がなさそうな顔で上手より登場


従兄弟「あーあ。せっかくの休日だって言うのに、ついてないなぁ」

露美男「本当だよ。しかも、こう馬鹿陽気じゃ、やる気も出ない」

従兄弟「まだ、三月だっていうのにねぇ〜」

露美男「まぁ、どうせ何やるってわけでもないし、いいんだけどね」

従兄弟「暇だからなぁ」

露美男「まったく」


露美父「何だそのたるんだ顔は! 父さんが市長選のために、
     こんなに身を粉にして頑張っているというのに、お前は応援することもしないのか!」

露美男「そういわけじゃないけど」

露美父「ええい! 口答えをするな! ご町内の皆様! 
     ワタクシ、これから不徳の息子に愛の鞭を加える所存です! 
     これも、愛ある教育のため! どうかご容赦ください! 
     (口調低く)『歯ぁ食いしばれ!』」


露美男 ほおを叩かれる
    舞台奥まですっ飛ぶ

従兄弟 目を閉じて、見ないフリ


露美父「さて。ここにも、不真面目な人間が・・・」

従兄弟「さあ、ご町内の皆様。偉大にして、愛のある我らがモンタギュー社の社長、
     ロジオが、皆様に清き一票をお願いしにきました〜」


従兄弟 宣伝をしまくる

露美父 満足そうに頷きながら露美男に向く。


露美父「痛いか、露美男」

露美男「・・・・・・・」

露美父「いいか、露美男。その痛さが愛なんだ。そうやってお前の間違いを正すたびに、
     父さんはお前に愛を注いでいるんだぞ」

露美男「こんな、痛い愛ならいらない」

露美父「お前にも、分かる日が来るさ。いつかな」

露美男「分かるか!」


露美父&露美男 無声演技

露美父 自分の世界に入って納得

露美男 全然納得できない顔でぶつくさやりながら立ち上がる。
      キャピュレット社が来たことに気づいて通りを見る


下手より キャピュレット社の面々登場


従兄弟 下手に行こうとしたのだが、ティバルトにぶつかりそうになる

従兄弟&ティバルト 一瞬にらみ合う

ティバルト 従兄弟を無視して宣伝を始める

樹里父   ティバルトの後ろからついてくる。ぱっと見ホスト。

樹里父&ティバルト。

ティバルト「ご町内のみなさまぁ。大胆にして、繊細なる頭脳の持ち主であるキャピュレット社の、
       貞幸が、皆様にお願いがあり参上いたしました。
       理系部門のトップである『キャッとするほど素敵なピュレット』で有名な、
       キャピュレット社の貞幸です」

従兄弟「わけわからんて。『キャッとするほど素敵ピュレット』? なんだよ、ピュレットって」

ティバ「皆様。頭脳の中にまで牛肉が詰まっているような連中に、
    皆様の清い一票を捨てるなんて、そんな無駄なことはなさらないでください」

従兄弟「なっ」

ティバ「皆様の清い一票は、キャピュレット社の貞幸に。貞幸にお願いします」

樹里父「貞幸でっす」


従兄弟 慌てて露美父のほうへ戻る


従兄弟「ちょっと、おじさん! おじさん! キャピュレット社の奴らが」

露美父「(はっと自分の世界から戻ってきて)なぁにぃ。キャピュレットぉ?」


ティバ モンタギュー者の面々に気づく。
    特に露美男がいるのが気に食わない。


ティバ「おじさま。なんか、あそこに牛臭いのがいますよ」

樹里父「あらまぁ。このにおいってば、もしかしてモンタギュー社の馬鹿社長じゃなぁい?」

露美父「なんか、香水臭いと思ったら、やぁっぱり、キャピュレット社のオカマ社長かぁ」

樹里父「あらぁん。よく香水って分かったわね。脳みそまで牛肉が詰まっているのに」

露美父「ほぉう。頭でっかちのおカマが、一体この清潔な町に何のようかなぁ?」


露美男とティバルトもにらみ合う


ティバ「おやおや、腰抜け露美男はまた親父さんにべったりかい?」

露美男「そういう君は誰だったかねぇ? ごめんねぇ。印象弱い奴って覚えられなくって」

ティバ「だよなぁ。頭の容量少ないもんなぁ」

露美男「人に覚えられないほど影が弱い人っているよねぇ」


無声演技でののしりあい


従兄弟 ケンカに溜息ついて、上手でタバコを吸い始める


従兄弟「はぁ。ったく、やってられねぇ。毎回毎回会うたんびにケンカしやがって。
     従兄弟の俺には関係ないだろうに、毎度動員しやがるしよぉ。
     ・・・・しっかし、毎度飽きないねぇ。そのうち、佐藤が言ってたみたいに、
     血の雨でも降るんじゃねぇかなぁ。」


従兄弟 上手そうにタバコの煙を吐く演技

上手より おばちゃん登場

おばちゃん 両手にバケツを持っている
      従兄弟を見つけて思わず片方のバケツをぶっ掛ける

音響 水の掛かる音


従兄弟「・・・・・・・冷たいんだけど・・・」

おばち「ここは禁煙だよ! 吸いたいんだったらよそで吸うんだね!」


おばち もう一方のバケツも持ち上げる

従兄弟 慌ててタバコを捨てる


従兄弟「ま、待った待った。もう消したら。勘弁してよ」

おばち「馬鹿言ってるんじゃないよ。誰があんたにかけるって言ったね!?」


おばち 言い終わった途端に、言い合いをしている連中にバケツの中身をぶちまける

音響 水の掛かる音

四人 思わず黙ってお互いを見合わせる。
    四人全員が濡れていることに気づいてから、おばちゃんのほうを見る


露美父「な、なにを?」

樹里父「なにをするのよ!」

おばち「お黙り! 毎回毎回広場の真ん中で騒がれて近所迷惑なんだよ! 
     こっちには小さな子供だっているんだ! 恐くて泣き出したらどうするって言うんだい!?」


音響 CI 子供の泣き声


おばち「ほら、いわんこっちゃない」

露美男「いや、今のは絶対」

ティバ「あんたが泣かせたんじゃ」


露美男&ティバルト 言いながらお互いを見合わせて、慌ててそっぽを向く


おばち「とにかく! 騒ぐんだったらよそでやっておくれ」

露美父「いや、奥さん、私たちはただ」

おばち「これ以上騒ぐと、また水ぶっ掛けるよ! あたしゃ出番これだけなんだからね! 
    怒らすと怖いよ!」


おばちゃん おこった後上手に退場

従兄弟 おばちゃんが置いていったバケツを持っていてあげる
    上手へ退場


樹里父「せっかくの服が台無しだわ」

露美父「・・・・とりあえず、今日のところは帰るか。露美男」

露美男「はい。父さん」

樹里父「今回は見逃してあげるわよ。牛肉屋さん」

露美父「それはこっちの台詞だ・・・・・なに売ってるか分からない会社さんよ」


樹里父&露美父 二人にらみ合ってからそっぽを向いてそれぞれ上手と下手に退場していく


ティバ「命拾いしたな、露美男」

露美男「ふん。強がりはみっともないぞ」


ティバ その懐からナイフを取り出す


ティバ「もう少しで、こいつがお前の腹を切り裂いているところだったぜ」

露美男「・・・・・」


露美男 懐から美味い棒を取り出す


露美男「もう少しで、こいつがお前の顎を貫くとこだったぞ」

ティバ「・・・・・ああ、それは恐いな」


ティバ 半ばあきれながら下手へと退場

従兄弟 上手から戻ってくる
      二人の様子を見て、咄嗟に内ポケットに手を突っ込む。
      が、取り出したのはタバコ。

露美男 悠然と立ったままティバを見送る
      ティバが下手へ去った途端、その場に崩れる


従兄弟「露美男!?」

露美男「ああ、恐かったぁ」

従兄弟「お前、無茶するなよ。美味い棒なんかで、ナイフに勝てるわけ無いだろ?」

露美男「しょうがないじゃんかよ! ポケットにこれしか入ってなかったんだから」

従兄弟「しかも○○味って・・・マイナーすぎるぞ」

露美男「いいだろ。好きなんだから」

従兄弟「たく。ナイフぐらい持っていろよ。ほら、俺の貸してやるから」

露美男「まじで? サンキュ♪」


従兄弟 自分のナイフを露美男に渡す


従兄弟「腰に、つけるようにして見せるようにしておけよ。
     そうすりゃ、アイツもいきなり突っかかってきたりはしないから」

露美男「次こそは、殺傷事件になっちゃったりしてな」

従兄弟「冗談にならねぇって」


従兄弟 ティバが去った方を見ながら


従兄弟「あいつ、今日はかなりきてたな」

露美男「うん。このごろ、衝突してばかりだからね。相当苛立っているだろうね」

従兄弟「暗がりでブスーとか、やられないように注意しろよ」

露美男「大丈夫さ。それに、争いも選挙でうちが勝つまでだよ」

従兄弟「お、自信あるねぇ。あっちが勝つとは考えないのか?」

露美男「あったりまえだろ? 何売っているか分からないようなところに負けるかよ」

従兄弟「そりゃそうか」


無声演技
露美男&従兄弟 笑いながら色々とおしゃべり


照明 暗転
   下手サス

樹里父 サスに入る
ティバ その影になるよう待機。自分の台詞になったら後ろから出てくる


樹里父「なぜ? なぜなの? なぜ、世論調査を何度繰り返しても、
     モンタギュー社が勝っているの!?」

ティバ「やはり、牛肉の方が分かりやすいからじゃないですか?」

樹里父「・・・ティバルト、いたのね」

ティバ「はい」

樹里父「確かに、モンタギュー社は牛肉の老舗。うちみたいに、
     よく分からない商品を売っているところとは違って、知名度も、人気もあるわね」

ティバ「だいたいにして、うちは何を売っているんですか?」

樹里父「なにいっているのよ〜ピュレットに決まっているでしょ?」

ティバ「ピュレットってなんすか!?」

樹里父「それは〜だから〜、ほら、こういう、こう、ね♪」

ティバ「は、はあ」

樹里父「まぁ、それはおいといて。なにか、起死回生の方法は無いかしら」

ティバ「それについては、俺に案が無いことも無いです」

樹里父「なになに?」

ティバ「・・・パーティなんてどうですか?」

樹里父「パーティ?」

ティバ「モンタギュー社の関係者以外の町の人々を招待し、派手なパーティを行うのです。
    キャピュレット社の財力を示すとともに、モンタギュー社に圧力をかけることが出来ます」

樹里父「でも、モンタギュー社も、同じことをやってきたら」

ティバ「大丈夫です。所詮向こうは食品会社。パーティなんて、やり方さえわからないでしょう」

樹里父「なるほど〜。ティバルト。あなた悪ねぇ」

ティバ「いえいえ。貞幸様には負けますよ」

樹里父「そうかもねぇ〜おーほっほっほっほ」

ティバ「ククク。露美男の余裕ぶった顔がどう変わるか、楽しみだ・・・くくく、はははははは」


樹里父 下手へ退場

ティバ 下手へ退場


二人はけた途端に全照

まだ露美男と従兄弟は話している


露美男「にしても、いきなり選挙に出るなんて、何考えてんだあの馬鹿親父は」

従兄弟「いいじゃないか、夢があって。店の宣伝にもなるし」

露美男「出ていく金考えてみろよ。しかも、キャピュレット社の人間とはいざこざが増えるいっぽうだし」

従兄弟「まったくねぇ。大体、何でお前ら仲悪いんだよ」

露美男「しょうがないさ。この町じゃ、一、二を争う成金なんだから。
     何かにつけても、張り合っちゃうんだろう」

従兄弟「成金同士仲良くすればいいのにねぇ」

露美男「本当だよ。・・・・ティバルトなんかと仲良くしたいとは思わないけどね」

従兄弟「言っていることめちゃくちゃだぞ、お前」

露美男「だって、あいつ頭イっちゃってるって。いきなりナイフ出すような奴だぞ」

従兄弟「頭はいいんだけどな」

露美男「ああ、切れているよな。切れっぱなしだけどな」


露美男 ため息


露美男「・・・・まぁ、でも親父も、やりたいことあるっていうのはいいよな」

従兄弟「なんだよ、急に」

露美男「なんかさ、あんな熱くなっている親父見ていると、
     こっちまで何かやらなきゃなぁ〜って気持ちになってくるわけよ。ならないか?」

従兄弟「いや、べつに。俺の親父じゃないし」

露美男「まぁ、そうかもしれないけど・・・・でも、なんか、こう・・・・
     上手く言えないんだけどさ。何かやりたいなって」

従兄弟「やればいいじゃん?」

露美男「簡単にいうなよ。・・・・やりたい事なんてそう簡単に見つかる分けないだろう?」

従兄弟「やりたいことねぇ・・・・」


友人 下手より登場
    ビラを片手にうきうきしている
    鼻歌歌いながら歩いてきて、露美男と従兄弟に気づく


友人 「お、そこにいるのは露美男に、従兄弟君じゃんか〜」

露美男「あ、伊藤。おひさ」

友人 「今日もいい天気だねぇ」

露美男「まったくだ。きっと明日もいい天気だな」

友人 「照明係りが楽でいいね♪」

従兄弟「・・・・ちょっとまて、田中。誰が従兄弟だって?」

友人 「どうしたんだよ、従兄弟君」

従兄弟「俺がいつお前の従兄弟になったんだ」

友人 「そんなこと言われたって・・・だって、君名前が無いじゃんか」

従兄弟「うぐっ・・・・」

露美男「そんなのお前も一緒だろうって(友人に突っ込む)」

友人 「ああ、だから僕だって、佐藤だろうが、伊藤だろうが、田中だろうが、
    マーキューシオだろうが、ベンヴァリオだろうが、まったく気にしないね」

従兄弟「まて、ベンヴァリオは俺の名前だ」

友人 「何を馬鹿なことを」


友人  従兄弟の顔を無理矢理観客に向ける


友人 「この顔の、どーこが、ベンヴァリオなんだよ」


従兄弟 素敵にスマイル


露美男「きしょ!」

友人 「ほらね」

従兄弟「あ、あんまりだ・・・・」


従兄弟 沈む


露美男「ごめん。つい本音が」

従兄弟「いいんだ、いいんだ俺なんて。どうせ、名前もないような役だし」

露美男「そんな気を落とすなよ〜」


露美男 従兄弟を慰めに掛かる


友人 「まったく。男がそんな簡単に落ち込んでどうするんだよ〜」

従兄弟「お前のせいだっつーの!」

友人 「簡単に復活するなーお前も」

従兄弟「余計なお世話だ。たく。今度からお前なんて、宅八郎って読んでやる」

友人 「うわっ。まだ生きているのか? その人」

露美男「だれ? それ」


友人&従兄弟
   互いに咳払い


友人 「あんまり、実年齢がばれちゃうような会話は止めようね」

従兄弟「そうだな」

露美男「だから、だれだよ、宅八郎って」

友人 「あ、そうだ。君らに面白いもの持って来たんだよ♪」

従兄弟「面白いもの?」

露美男「あ、無視された。俺、もしかしていじめられている?」

友人 「ついさっきもらったばかりなんだけどさ。なかなかいけている企画だぜ、これ」

従兄弟「どれどれ? (ビラを見て)うわっ・・・・まじかよ」

露美男「どうせ、俺なんて・・・・」

従兄弟「こりゃあ、面白そうだなぁ」

友人 「だろ?」

露美男「スルーかよ!」

従兄弟「いいから、露美男。お前も見てみろよ」

露美男「見るけどさ〜・・・・(ビラを見て)・・・って、パーティ? 
     主催・・・キャピュレット!? まじ!?」


照明 暗転


3人 上手へ退場
樹里父 中央にスタンバイ
    正装


○パーティー会場IN樹里絵の家(夜)
簡単なテーブルが置かれ、料理が並べられている(らしい)立食パーティではあるが、ところどころに椅子が置かれている。ちょっと見た目はしょぼいかもしれない。


音響 FI 派手な音楽
照明 CI 中央スポットorサス

樹里父「レディース&ジェーントルメン! 今宵は、当家のパーティにお越しいただき、
     誠に、誠にありがとうございます。なお、このパーティは選挙とは一切関係がありません。
     全て私の慈善パーティで御座いまぁす。さ、では、お楽しみくださいませ♪」


照明 全照


樹里父「って、全然客が入らないじゃない! どういうことよ〜」


ティバ 下手から登場


ティバ「おじさま。料理の方の手配は全て完了しました」

樹里父「ティバルト! な〜んか、お客さんが全然入らないんだけど」

ティバ「なに言っているんですか。こんなに入っているじゃないですか。
     ほら、そこにも、あそこにも」


ティバ 観客席を指す


樹里父「あら♪ 本当〜。私としたことが、気づかなかったわ」

ティバ「ちゃんと挨拶周りはしておいた方がいいですよ。中には名士もいらっしゃることですし」

樹里父「そうね〜」


樹里父 客席に降りる。
    客の何人かに笑顔を振り撒きながら接待接待。


ティバ「そうそう。そうやって、どんどん人の心を掴んで選挙に勝って下さいね、おじさん。
    この町を支配した暁には、あの邪魔な露美男の奴を俺が」


ティバ ナイフを取り出す
    軽くすぶり


ティバ「消してやりますから。(笑う)」


樹里父 舞台に戻る


樹里父「な〜にがおかしいの?」

ティバ「いえ。客入りが結構いいものですから。嬉しくて」

樹里父「そうね〜♪ とてもじゃないけど、
     一人じゃ全部のお客さんに挨拶なんて出来ないわ。・・・・そうだ。
     樹里絵ちゃんを、呼びましょうっと」

ティバ「え、樹里絵をですか?」

樹里父「そうよ。樹里絵ちゃんがお客様に挨拶すれば、
     みんな樹里絵ちゃんの魅力にまいっちゃって、選挙の票も増えるに違いないわ♪」

ティバ「いや、それはどうかなぁ」

樹里父「(無視)樹里絵ちゃーん。樹里絵ちゃん。降りてきて頂戴♪ 
     ちょっとパパンの、お願い聞いてくれない?」


照明 暗転
   スポットで舞台をぐるぐる

音響 FI派手な音楽

樹里絵 下手から登場
    中央待機
    特攻服を着込んでいる。

音響 CO
照明 全照


樹里絵「誰だよ、呼んだのは」

ティバ「お、俺じゃないよ・・・ないです」

樹里父「もう、樹里絵ちゃんったら、かわいすぎるぅ〜。今日の格好はなんていうの?」

樹里絵「パパか・・・これ? 特攻服」

樹里父「おしゃれね〜」

樹里絵「だろ? このデザインなんて、伝説の業師に頼んでやってもらったんだぜ」

ティバ「あほらしい」

樹里絵「なんかいったかよこのやろう」

ティバ「いえ、なにも言ってませんです」

樹里父「うーん。なるほどねぇ。でも、パパンはちょっと、この髪型のところが気に食わないかなぁ」

樹里絵「ああ、ここ? あたしもなんだよねぇ。もうちょっとびしっとしたんだけどさ」

樹里父「すればいいじゃない、びっしっと」

樹里絵「んじゃ、ん」


樹里絵 手を出す


樹里父「はいはい」


樹里父 お金を渡す


樹里絵「さんきゅ」

樹里父「その代わりと言っちゃなんだけど、樹里絵ちゃん頼まれてくれない?」

樹里絵「なにを? めんどいのはやだよ」

樹里父「あいさつ回り」

樹里絵「却下。めんどい」

樹里父「ちょっとだけでいいのよぉ」

樹里絵「だーから。めんどいのは出来ない。終わり」


無声演技


樹里絵&樹里父 どちらも引かずに話し合っている
ティバ  退屈そう


友人 上手から登場
   仮面を被っている(目だけ)



友人 「ほーらごらん。パーティの真っ最中だ♪」


露美男 上手から登場
    仮面を被っている(顔を全て覆うタイプ)


露美男「たく。お前が持ってくる話って、いつも危険と背中あわせかよ」

友人 「なんだよ〜 楽しそうじゃんか。パーティなんてお前んちじゃやらないだろう? 
     せっかくビラもらったんだからさぁ〜行かなきゃ損じゃん♪」

露美男「こないだ、牛タン散々食わせてやったじゃんか」

友人 「それとこれは別。それより、そんな仮面で物食べられるのか?」

露美男「大丈夫。これ、おり曲がるから」


露美男 仮面を半分に折って見せて


露美男「それよりも、モンタギュー社関係は、来ちゃいけないことになっているんだからな! ここは。
     見つかったら、どんな目に会うか解らないだろう?」

友人 「大丈夫だって。んな仮面をつけているのが、露美男だなんてだれもわからな」

露美男「しーーー。うっかり名前をいうなよ。ここでは俺は、ロデオだから」

友人 「あんまり変わらないと思うけどなぁ」


従兄弟 上手から登場
      仮面というより、被り物。

友人&露美男 従兄弟を見てから


友人 「いくか」

露美男「ああ」

従兄弟「ノーリアクションかよ! お前らこれ見て、何の台詞もないのかよ!」

友人 「やっぱり突っ込み待ちだったのか・・・」

露美男「素なのかと」

従兄弟「目をそらしながら言うな! 突っ込まれなきゃ寒いだけだろ!」

友人 「残念ながら、僕は男に突っ込む趣味は無いんで」

露美男「さらりと爆弾発言だな」


3人 無声演技


樹里絵「とにかく、あたしはやだからね。そんなこと言うんだったら、もうぱぱとは口利かないよ」

樹里父「じゃ、挨拶はいいや」

ティバ「はやっ」

樹里絵「やったね。さっすがぱぱ」

ティバ「(溜息)・・・・遅く来たお客様がいるようです。対応してきます。
    ついでに、外にモンタギュー社関係がいないかもチェックしてまいりますので」

樹里父「ああ、頼んだよ」


樹里絵&樹里父 無声演技


ティバ「まったく、馬鹿親子が・・・・(笑顔を作りながら)ようこそおいでくださいました。
    今宵は・・・・皆様、なかなか個性的な格好ですね」

友人 「そうですか?」

露美男「別に、普通ですよ」

従兄弟「まったくだ」

ティバ「そ、そうですか。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください」


ティバ 三人を通した後、急に恐い顔になって


ティバ「さぁ、露美男。来るなら来てみろ。・・・真っ赤に染めてやる」


ティバ 上手へ退場


露美男「もう、いたりするんだけどね」


露美男 いいながらふと下手を見たまま固まる


友人 「ほら。全然心配することなんて無かったろ?」

従兄弟「もしかして、この俺の仮面って無駄か?」

友人 「・・・そんな辛い言葉、僕の口からはとても言えない」

従兄弟「ああ、よーくわかったよ!」

露美男「なあ、工藤」

友人 「なんだよ?」

露美男「あの人はだれだ?」

友人&従兄弟 「あの人?」


樹里絵「あ、やだ。なんか、視線感じると思ったら、こっち見てやがる」

樹里父「何だ樹里絵。いきなりストーカーでも発見したの?」

樹里絵「わかんないけど、なんか変な三人組が」

樹里父「変な三人組?」


樹里父&樹里絵 上手を見る


友人 「おい、こっち見てるぞ」

従兄弟「まさか、ばれたか!」

友人 「いや、お前の格好でそれは無いだろう。突っ立ったままなのがいけないんじゃないか?」

従兄弟「なるほど。よし、ロミ・・・じゃなかった。ロデオ。なんか食べようぜ。場所移動、場所移動」

露美男「・・・いい」

従兄弟「いいじゃなくてだなぁ」

露美男「・・・いい」

友人 「なんだあ? ぽーっとしちゃって・・・」


友人  露美男の視線の先(樹里絵)を確かめて


友人 「まさか!? お前」

樹里父「やっぱ樹里絵ちゃんは男の子の視線を集めずにはいられないのねぇ」

樹里絵「・・・・いいな。あいつの目」

樹里父「あら? 気に入った男の子がいたの?」

樹里絵「(照れて)そんなんじゃねぇよ・・・ちょっと向こう行ってくるわ。
     あたしにガンくれるなんて生意気だから、ちゃんと思い知らせてやらなきゃ。
     一度なめられたらお終いだからな」

樹里父「恥ずかしがると言葉が多くなるのは相変わらずねぇ」

樹里絵「うるさい! 行ってくるから」

樹里父「いってらっしゃい〜 じゃああたしは、料理運ぶお手伝いでもしましょうっと」


従兄弟「なぁ、こっち来るぞ」

友人 「まずい。露美男、アレが誰だか知っているのかよ!?」

露美男「知らない」

友人 「破壊の権化だよ、魔人だ、鬼だ。レディース『邪美羅(じゃみら)』の副総長だぞ」

従兄弟「きっと、睨んでいるとでも思われたんだなぁ。俺知らないっと」

友人 「俺も」

露美男「なぁ、あの子、名前は?」

友人 「まじで知らないのか!? とんだお坊ちゃんだなぁお前は。あいつはな」

樹里絵「お前、名前なんていうんだよ」

露美男「え?」

樹里絵「お前だよ、お前。あたしのこと、ずっと見てただろう? 名前、なんていうんだよ」

露美男「俺の、名前?」

樹里絵「早く言えよ。悪いようにはしないからさ」


友人&従兄弟 逃げ腰(徐々に逃げている)

露美男 言葉を喋りながら仮面を取ってしまう。


露美男「俺は・・・・・露美男」

樹里絵「なにぃ!?」


音響 FIざわめき
照明 FO


○樹里絵の部屋の前(夜中
 二階建ての家の一室に住んでいる樹里絵は、タバコを吸うためによくベランダに出てくる。
 庭には特に何も無い。日本によくある住宅と同じように、狭いためだ。
 ので、露美男がいる場所は庭ではなく、家の外のアスファルト。電柱の影だったりする。

音響 FO
照明 FI

樹里絵 空を見ながら物憂げにタバコを取り出す


従兄弟 上手から登場
露美男 上手から登場


従兄弟「まったく、お前のせいでとんでもない騒ぎになるところだったじゃんか」

露美男「(話を聞いてない風に)ごめん」

従兄弟「斉藤の奴がごまかしてくれなかったら、どうなっていたか、わからないぜ」

露美男「・・・・うん」

従兄弟「(ため息)とりあえず、今日の所は帰ろうぜ」


従兄弟 上手に去りかけて


従兄弟「帰らないのかよ」


露美男 あたりをきょろきょろと見て、
    樹里絵の部屋を探している


従兄弟「・・・・・勝手にしろ!」


従兄弟 上手へ退場


露美男 ゆっくりと樹里絵に見つからない場所に身を隠す


樹里絵「・・・・・・・まいった」


樹里絵 タバコに火をつける
    一息吸って、口に合わなかったのか早々に捨てる

露美男 捨てられたタバコをキャッチ
    関節キスに喜びながら吸う


樹里絵「まさか、いいなと思った奴がモンタギュー社の人間とはね。世界は狭いもんだ」


露美男 自分のことを言われていることに気づき、喜んでいる

音響 FI

樹里絵「ティバルトが言うことも当てにならないな。
     『モンタギュー社にはいい男がいない』なんて。
     ・・・まぁ、ブ男にいい男の見分けがつくわけ無いか・・・・・露美男・・・か。
     ・・・・あの、眼差し。声。ちょっと、手入れが悪い髪形・・・・・・いじめてぇ」


露美男 自分のことを言われるたびにポーズを作る。
    が、樹里絵の最後の言葉でずっこける


樹里絵「あの坊ちゃん坊ちゃんしたあいつを、いじめたたおしてぇ。
     あたしのものだけものだけにしてぇ。あたしだけの持ち物・・・・露美男・・・なんで、
     お前は露美男なんだ・・・・・」


樹里絵 遠くを見る

露美男 呟くように

露美男「それはね、樹里絵……僕の親父がロジオで、母さん多美恵だったからさ。
     二人を足して割った名前が、露美男なの・・・て、そういうことじゃないよな。当たり前に」

樹里絵 露美男に気づかないまま

樹里絵「露美男・・・お前がモンタギュー社の人間でさえなければ、
     パパに頼んで手に入れられたのに。モンタギュー社の人間で、
     しかも社長の息子でなんか無かったら。・・・畜生。肩書きなんてなんであるんだ! 
     もし、あいつがモンタギュー社の名前を捨ててくれるなら・・・・あたしは
     ・・・・・あたしは? ・・・・会社なんて・・・いらない?」


露美男 たまらず飛び出す


露美男「捨てる。モンタギュー社の息子、今日で辞めます」


音響 CO


樹里絵「露美男・・・お前、聞いていたのか!?」

露美男「聞いちゃいました」

樹里絵「この・・・・・そこで待っていろ!」

露美男「はい!」


樹里絵 露美男に飛びつくようにのしかかって


樹里絵「このやろう、乙女のシークレット盗み聞くような真似しやがってこの! 生きてかえさねえぞ!」

露美男「もう、すでに生きた心地がしないんだけど・・・」

樹里絵「・・・なんだよ、そんなビビルなよ。これでも、あたし、お前のこと気にいってるんだ」

露美男「俺も・・・・君が・・・・」

樹里絵「あたしが?」

露美男「君が・・・・」


音響 FI(ムードソング


樹里絵「音、でしゃばるな!」


音響 CO


樹里絵「あたしの気持ちはわかっているんだろう? あたしにだけ喋らす気かよ?」


露美男 はっとして


露美男「樹里絵さん・・・・・俺は貴方のシモベになりたい」


露美男 土下座
樹里絵 満足そうに笑って


樹里絵「その気持ち、確かだろうな」

露美男「天に誓って」

樹里絵「ばか、カッコつけるな」

露美男「すいません。じゃあ、自分に誓います」

樹里絵「嘘だったら、コロス」

露美男「了解」

樹里絵「・・・・わかってたんだ。あたしとお前が出会うのは運命だって」

露美男「・・・俺も、そう感じてた」

樹里絵「今週の、星占いで『素敵な異性に出会います』って書いてあったしな」

露美男「俺は、『言動には注意しましょう』だった」


樹里絵 微妙に考える。


樹里絵「・・・じゃあ、露美男。さっそくなんだけどさ」

露美男「なに?」

樹里絵「ケータイのアドレス教えてくれない?」

露美男「ああ、俺も知りたかった」


二人 ケータイ取り出してアドレス交換


樹里父 舞台袖から


樹里父「樹里絵ちゃーん。樹里絵ちゃーん? あら? 部屋にいないの? どこにいるの〜?」

樹里絵「やばっ。ぱぱだ。っち。んじゃ、後でワンコいれっから」

露美男「わかった」


樹里絵 下手へ去る途中で立ち止まる


樹里絵「なぁ、露美男」

露美男「なに?」

樹里絵「いがみ合っている家の、子供たちが惹かれあうっていうのも、運命だったのかな?」

露美男「・・・・俺には、わからない。ただ言えるのは俺は」

樹里絵「軽々しく気持ちを吐くなよ。まだ会ったばかりなんだから」

露美男「でも」

樹里父「樹里絵ちゃーん? 樹里絵ちゃん、どこ〜?」

樹里絵「ここだよ、ぱぱ。今から行く」


樹里絵 下手へほとんど去りながら


樹里絵「もし、お前の気持ちが本当なら、あたしがいつも相談に乗ってもらっている人の住所、
     メールで送るから。そこに来い」

露美男「解った」

樹里絵「・・・・覚悟、決めろよ」


樹里絵 下手へ退場

露美男 頷く。
      照れまくって退場

音響 FI
照明 暗転



○ロリンス修道士の家(朝
 樹里絵の人生相談に乗る傍ら、怪しげな薬を集めているらしい。
 教会の掃除をしつつ昨日を思い出している

照明 上手のみ明るく
音響 FO

ロリンス 上手から登場


ロリン「まったく、昨日のキャピュレット家のばか騒ぎにはほとほと困ったもんだ。
    あんな金持ちどもには神の天罰がいつか落ちるだろうよ」


ロリン 家の片付けをしながら(舞台配置)
    ふと、天を見て

ロリン「ああ、神よ・・・なぜ、神は私を背が高くて二枚目で、
    二重のばっちり聞いた顔を持ち、目元涼しく見目麗しく、
    筋肉隆々でありながら一見華奢で、
    長髪の似合うクールガイにしてくれなかったのですか? ・・・・え? 
    今の状態でも結構いけてる? やっぱり♪」


露美男 上手から登場
    携帯片手に、住所を探している


ロリン「まぁ、いくら容姿が変だろうと、私には代々内に製造法の伝わるこのクスリがある」


ロリン 懐から怪しげな薬を取り出す。


ロリン「これさえあれば、懺悔に来た、いたいけな少女も私の思うまま。
    (涎を拭う)ぐふ、ぐふ、ぐふふふふ」

露美男「すいませーん」


露美男 中へ入ってくる。片手をポケットに入れたまま
      ロリンスと目が合う

ロリン 数秒固まる





ロリン 平気な顔でクスリをしまって


ロリン「どなたでしょうかな?」

露美男「えっと・・・・ロリンス修道士の教会を探しているんですけど」

ロリン「ああ、ここですな。私が、ロリンスです」

露美男「え? でも、どう見ても日本人じゃあ」

ロリン「もともと日系でして。その後帰化しました」

露美男「なるほど?」

ロリン「証拠を見ますかな。ほら」


ロリン 懐から紙を取り出す
     ロリンスとルビが書いてある横にデカイ漢字で炉林酢と書いてある。


露美男「じゃあ、貴方がろりんすさん!」

ロリン「いかにも」

露美男「樹里絵さんの、相談相手にもなっている」

ロリン「そのとおり。あの子はそろそろ食べご(咳き込む)いえ、だべりに来る頃だと思います」

露美男「ええ、実はそのことで相談が」

ロリン「なんでしょうかな?」

露美男「・・・・ところで、さっき懐に隠したビンはなんですか?」

ロリン「え゛っ・・・・」

露美男「いたいけな少女がどうのって言葉も聞こえたんですが?」

ロリン「な、何のことかなぁ」

露美男「交番、ここから近いですよね」

ロリン「いや、あのねぇ、兄さん。いや、坊ちゃま。人には、
    ねぇ、知られたくない秘密が一つや二つあってもいいじゃない?」

露美男「知られたく、無いんだ?」

ロリン「いかにも」

露美男「えばるなよ」

ロリン「はい・・・」

露美男「さて、じゃあ、どうしようかなぁ」

ロリン「お願いです。本部に知られるのだけは、勘弁してください!」

露美男「じゃあ、警察」

ロリン「いや、それはもっとやばいっす」


露美男&ロリン無声演技

照明 CI
上手 暗転
下手 明るく


○街角
 広場は久しぶりに平安が訪れている。今日は、選挙の宣伝は無いらしい。


従兄弟&友人 上手から登場


従兄弟「しかし、露美男の親父さんもばかだよな? 自棄酒飲んで二日酔いなんて」

友人 「まぁ、仕方ないんじゃない? 息子は敵の家のパーティに行っちゃうし。
     朝早くから出かけちゃうしじゃ。おじさんも、きついだろ」

従兄弟「優しいねぇ。仁藤は」

友人 「それよりも、俺はなんか胸騒ぎがしてしょうがないんだよ」

従兄弟「なんだよ、そりゃ?」

友人 「なんか、嫌なことが起こりそうな・・・・」


ティバルト 下手から登場
       不機嫌気まわりない顔で現れる


従兄弟「・・・・ティバルト・・・」

ティバ「おや、これは露美男の腰ぎんちゃくのお二方じゃないか。
    どうした? いつも優しく守ってくれる露美男は今日は不在かい?」

従兄弟「あらら? これは、いつも一人っきりで歩いているティバルトさんじゃないか。
     どうした? いつも見守ってくれる背後霊は、今日は不在かい?」

ティバ「減らず口が多いと、口を縫いつけることになるぞ」

従兄弟「はんっ。出来もしないことを」

ティバ「露美男がいないと、いつもの口にも威勢がないな」

従兄弟「やけにつっかかるじゃんかよ。さては誰かに振られたか?」

ティバ「なんせ町中が牛肉臭いんでね。鼻が曲がりそうで気分が悪くなるのさ」

従兄弟「おまえ自身の臭いは気にならないのかよ。おめでたいなぁ」

ティバ「なんだとぉ? 腰抜け」

従兄弟「なんだよ? イモが」

友人 「おいおい、やめろよお前ら」


ティバ&従兄弟
無声演技で喧嘩

友人 あきれている


照明 CI
   下手暗く
   上手明るく


露美男「じゃあ、こちらの要求をのむのなら、黙っていてもいいけど」

ロリン「本当に?」

露美男「うん。どう?」

ロリン「飲みます。何でも飲みます。針だろうが、西瓜だろうが、何でも飲み込みますよ」

露美男「そう・・・だって、樹里絵さん」


樹里絵 上手から登場


ロリン「はぁ!? 樹里絵様!!」

樹里絵「ロリンス。お前、面白いことしていたみたいだな」

ロリン「なんで? 何で知っているの!?」

露美男「メール送った。今」


露美男 片手をポケットから出す。
      携帯が握られている


ロリン「はやっ!」

露美男「若者だから」

樹里絵「ロリンス・・・あんたが変態だったとわね」

ロリン「お、お願いします。樹里絵様。千回殴りだけは勘弁してください」


ロリン 平謝り


露美男「だってさ。樹里絵さん。それに、この人、俺らの要求なんでも飲むらしいよ」

樹里絵「そうか。んじゃ、許してやってもいいな」

ロリン「あ、ありがとうございます!!」

樹里絵「感謝なら、こいつにしろよ」

ロリン「ありがとうございます坊ちゃん。・・・・で? 貴方は一体?」

樹里絵「こいつ、露美男だよ。モンタギューの。聞いたことくらいあるだろう?」

ロリン「露美男!? モンタギュー!? な、なんでそれが樹里絵様と一緒に?」

樹里絵「実はな・・・・・・・」


樹里絵 照れて露美男を殴る


樹里絵「お前、言えよ」

露美男「了解・・・・俺たち二人、つきあうことにしたんだ」

ロリン「はい!?」

樹里絵「だからな。ロリンス。お前、間立ってくれよ。いつも、
     パパの相談役引き受けたりしているんだから、それとなーく、
     パパに話してくれれば良いんだ。あたしらがつきあっているって」

露美男「できれば俺の親父にも」

ロリン「そんな、私、そんなことしたら殺されちゃいますよ! 
    お二人の両親がどんなに憎みあっているか、知っていらっしゃるんでしょう? 
    しかも、二人ともこの町の権力者だし・・・・」

樹里絵「お前、なんでも条件のむって言ったよな?・・・・・死ぬか?」

ロリン「喜んでやらせてもらいますよ!」


ロリン 泣きそうになりながら二人に背を向け


ロリン「神よ。なぜ、私にこんなに酷い試練を与えるのです? ああ、神は死んだ!!」

樹里絵「そんな気を落とすなよ。あたし達が一緒になれば、パパ達だって喧嘩止めるって」

露美男「俺達が、二つの家の橋渡しになるんだから、ね」

樹里絵「あんまクサイこと言うなよ」

露美男「ごめん」

ロリン「・・・・なるほど。もし、そうなればどんなにいいか・・・」

露美男「大丈夫。俺達が、やってみせるよ」


樹里絵&露美男 お互いに顔を見合わせてうなずく


照明 CI
   上手暗く
   下手明るく

友人 二人の間にはいっていく


友人 「まぁまぁまぁ。二人ともそう熱くなるなよ。
    なんで二人がけんかしなきゃいけない理由があるんだ? 
    無駄な血を流すようなことは辞めようぜ」

従兄弟「まぁ、俺にはモンタギューも、キャピュレットも関係ないしな」

友人 「そうだろうそうだろう。くだらない理由で熱くなったって、無駄無駄」

従兄弟「だな」


従兄弟 ティバから離れる
ティバ うつむいたまま


友人 「ほら、ティバルトも、あんまり肩に力入れているなよ。疲れるだろう?」

ティバ「・・・・・るさい」

友人 「え?」

ティバ「うるさいんだよ、お前は」


ティバ 友人に掴みかかる


ティバ「お前に何がわかる? 露美男みたいな軟弱男が、
    親父が有名ってだけでいい気になりやがって」

友人 「べつにいい気になっているわけじゃ」

ティバ「人が選挙で頑張っている姿を、余裕な顔で見下しやがる。
    せっかく票の獲得を狙ったパーティも、乱入して台無しにしやがる」

友人 「わざとじゃないだろう?」

ティバ「うるさい! あいつのわがままにはうんざりだ! 
    それなのにあいつの方が、友人だって、金だって、俺よりも多くもっている。
    理不尽だろう? なあ、俺のむかつきが、お前にも分かるはずだろうが!?」

友人 「どうしようもないことだろうが!」

ティバ「それで俺の気が収まるわけねえだろう!!」

従兄弟「おい、おまえらやめろよ・・・たく、なんでこんなわけわからねえ事になるんだ!?」


友人&ティバ 口喧嘩

従兄弟 携帯取り出して露美男に電話


照明 CI
   上手明るく
   下手明るく


音響CI→携帯の音


露美男「あれ? だれからだろう?」


露美男 携帯を手にとって耳へ


従兄弟「あ、露美男か?」

露美男「ああ、なんだ従兄弟か」

従兄弟「なんだじゃねえよ。ティバルトが大変なんだよ」

露美男「ティバルトが!?」

樹里絵「ティバルト?」

従兄弟「とにかく来てくれ。広場にいるから。加藤がやばいんだ。なるべく早くしてくれよ」

露美男「わかった・・・・・今いく」


露美男 携帯をきる

従兄弟 携帯をしまって、友人とティバの間にはいっていく


樹里絵「ティバルトが、どうかしたのか?」

露美男「うん・・・・・俺、行かなきゃ」

樹里絵「露美男!?」

露美男「ごめん。あとで、家に行くから」


露美男 上手へと退場


樹里絵「露美男!」

ロリン「そのとき、樹里絵の胸には不吉な影が浮かんだ。
    このまま愛しい人がいなくなってしまうような不安。
    いや、いなくなってしまったほうが、いっそよかったと思える悲劇が待っているような予感。
    けれど、樹里絵は愛する人の背中をただ見送ることしか出来なかった」

樹里絵「余計なナレーションを入れるんじゃない!」

ロリン「すいません」


樹里絵 ロリンをどつく


樹里絵「とりあえず、あたしも行くから。
     あんたは、あたしらが上手くつきあえるような段取り考えてな! わかったか!」 

ロリン「了解です」


樹里絵 上手へ退場


ロリン「神よ。何が始まっているのでしょうか・・・・何が起ころうとも、
    このまま私が変態修道士という汚名を背負ったまま、舞台を降りることだけはならぬよう、
    神のご加護があらんことを」


ロリン 祈りながら上手へ


照明 上手を暗転
   

ティバ「まずは貴様から殺してやるよ!」

友人 「だから、なんでそう熱くなっているんだよ」

ティバ「うるせえ!」

従兄弟「お前らいい加減にしろよ」

ティバ「うるさい! うるさい!」

友人 「だから、熱くなるなって」


ティバ 懐からナイフを取り出す


ティバ「うるさいんだよお前らは!!!」


ティバ ナイフを友人に突き刺す


照明 CI 真っ赤


友人 「な・・・・・・」


友人  ナイフを抑えたままティバから離れる。
    信じられないものを見るように腹のナイフを見る
    溢れてくる血。膝をつきながらうなだれる


友人 「冗談じゃねえぞ、おい」


ティバ 自分がやったことが信じられない
    首を振りながら数歩下がる


従兄弟「江藤!!」

ティバ「おれは、おれは」

露美男「内藤! 従兄弟!」


照明 全照


露美男「工藤・・・・」

ティバ「俺は、俺が悪いんじゃ」

露美男「どけ!」


露美男 友人に駆け寄る


露美男「大丈夫か!?」

友人 「あんま、大丈夫には、見えないわな」

従兄弟「血が、血がとまらない! 露美男、どうしよう!?」

露美男「・・・・・なんで、なんで・・・」

ティバ「俺が悪いんじゃない! 俺を怒らせるから悪いんだ」

露美男「なんで、なんで」

ティバ「俺じゃない。俺が悪いんじゃない!」

露美男「黙れ!!」


露美男 ティバに掴みかかる


露美男「なんでなんだよ。争う理由なんて、俺たちには何もないじゃねえか。
     俺たちは、何で、争わなきゃいけないんだよ」

ティバ「俺が、悪いんじゃない」

露美男「じゃあ、何が悪いっていうんだ!」

従兄弟「(友人に)おい、しっかりしろ。意識もて」

ティバ「悪いのは・・・・・悪いのは・・・・お前だ!」

露美男「な・・・に?」

ティバ「お前が悪い。お前が、お前が、お前さえいなければこんなことにはならなかったんだ。
    お前の行動が、お前の言動が、全てむかつくんだよ。
    俺の神経を一本一本いらつかせるんだよ! 
    お前さえ、いなければよかったんだ。お前がいなければ何も起きなかったんだよ! お前が」

露美男「だ、だまれ!!」


露美男 ティバの首をしめる


ティバ「お、おま」

露美男「だまれぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええ」


露美男 ティバの首を思い切りしめる

ティバ 苦しみもだえ、そのうち力を尽きて手をだらりとする

露美男 それでも、手を離さない


従兄弟 友人を見ながら呆然と


従兄弟「・・・・・死んだ・・・・・」


露美男 はっとして手を離す

ティバ その場に崩れ落ちる


従兄弟「なぁ、こいつ、死んじゃったよ・・・・・露美男?」

露美男「俺は・・・・俺は・・・・」

従兄弟「!・・・ティバルト・・・(露美男に)お前が?」

露美男「俺は、いちゃいけない存在だったのか? 俺は・・・・俺は!!!・・・・・・」


露美男 上手へ走っていく


従兄弟「露美男! おい、どこへ行くんだよ露美男! ・・・・露美男!」


音響 FI

暗転


○樹里絵の家(夜)

照明 全照

樹里絵 中央に。
そわそわとしている

樹里父 下手より登場


樹里父「樹里絵ちゃん」

樹里絵「パパ。・・・・・どうだった?」

樹里父「駄目。ティバルトも、あと、ティバルトに刺されたっていう男の子も。助からないって」

樹里絵「・・・・そう」

樹里父「顔色悪いわよ、樹里絵ちゃん。今日は早く休んだ方がいいんじゃない?」

樹里絵「うん。そうする」

樹里父「じゃあ、パパは色々とやらなきゃいけないことがあるから。何か会ったら呼んで頂戴ね」

樹里絵「・・・うん」

樹里父「・・・・モンタギュー社の露美男っていう男が来たら、すぐに警察に電話しないと駄目よ。
     まさか、この家まではいってくるとは思わないけど。でも、うちを恨んでいるのなら、
     わからないから」

樹里絵「うん・・・・・・ねぇ、ぱぱ」

樹里父「なに?」

樹里絵「露美男は・・・・・・ううん。なんでもない」

樹里父「そう」


樹里父 下手へ退場

露美男 上手から登場
     とぼとぼと歩きながら、でも樹里絵の家を見つける


樹里絵「・・・・露美男。何やっているんだよお前。人殺しなんて・・・全然、めちゃくちゃじゃんかよ。 
    切れる17才かよ・・・・バカが。バカ・・・・大馬鹿野郎・・・・・」

露美男「・・・・・ごめん」


露美男 樹里絵の近くに立っている
樹里絵 露美男を見ないまま


樹里絵「・・・・なんで、ティバルトを殺したんだよ」

露美男「分からない」

樹里絵「分からないで、人、死なせるのかよ」

露美男「・・・・分からない」

樹里絵「分からないじゃないだろう!」


舞台袖から 樹里父「樹里絵ちゃん? どうしたの大声出して」


樹里絵「な、なんでもない」

露美男「・・・自首するよ、俺」

樹里絵「・・・当分会えなくなるな」

露美男「でも、逃げ切れるわけないから」

樹里絵「親父さんも大変だ。選挙にはもう落ちたようなもんだろう」

露美男「・・・ああ」

樹里絵「・・・・これも、運命、なのかな?」

露美男「・・・・・わからない」

樹里絵「出会ったばっかでつきあうことになって、たった一日ですべてがおじゃん。
     こんなのが、あたしの運命だったって事なのか? そんなの、納得いかねえよ」

露美男「・・・ごめん」

樹里絵「あやまるなよ! お前のせいじゃないんだから」

露美男「でも、俺は、この手で・・・・」

樹里絵「露美男・・」


樹里絵 露美男を抱きしめる
露美男 人を殺した手では樹里絵を抱くことはできずにその場に固まる


樹里絵「・・・・逃げろ」

露美男「え?」

樹里絵「逃げろよ。そうだ、逃げるんだよ。この町から、警察からも、
     法律からも、運命からも、全部から逃れちゃえばいいんだ。
     逃げて、逃げて、逃げてしまえば」

露美男「そんなこと俺にはできないよ」

樹里絵「・・・・あたしのためでもか?」

露美男「樹里絵」

樹里絵「あたしの運命ってこんなもんだったのか? いいなって思った相手が、
     犯罪者で、しかも腰抜け。そんな奴に惹かれちまうような、くだらない、
     情けない運命なのか? なぁ。そういうことなのかよ!?」

露美男「俺は・・・・・」

樹里絵「言ったはずだろ? 覚悟決めろって。あたしを、
     つまらない運命に落とすつもりだったら、出会った瞬間に、死んでいればよかったんだ」

露美男「・・・逃げればいいのか? どこまでも。君と、離ればなれで」

樹里絵「あたしがお前を、見つけてやるよ。ロリンスに聞けば、きっと良い考えを分けてくれると思う」

露美男「・・・・わかった。俺、逃げるよ」

樹里絵「半端に逃げるくらいだったら、自首した方がましだからな」

露美男「分かっている」

樹里絵「どうせ逃げるんだったら、絶対に捕まるなよ。・・・・死ぬなよ」

露美男「分かった」


露美男 樹里絵から離れようとする
樹里絵 露美男を余計に捕まえる


露美男「樹里絵?」

樹里絵「抱きしめられているくせに、抱きしめることもしないで行くつもりなのかよ」

露美男「でも」

樹里絵「何度、女に恥をかかす気だお前は。殺すぞ」

露美男「・・・・ごめん」


露美男 樹里絵を抱きしめる


樹里絵「・・・・照明、ちょっとは気を利かせろよ!」


照明 暗転
音響 FIなんか、夜が開ける音楽
照明 FI薄暗く

樹里絵&露美男
    二人より沿うように寝ている

音響 CI ニワトリ


露美男「・・・露骨に朝が来たな」

樹里絵「大丈夫。あれは、夜に鳴くナイチンゲールだから」


露美男 思わず飛び起きる


露美男「そのフォローはおかしいだろう!?」

樹里絵「別に、マジで言ったわけじゃねえよ。・・・・そうだったらいいなって思っただけだって」

露美男「樹里絵・・・・わかった。あれはナイチンゲールだ。だからまだ夜は明けていない」

樹里絵「馬鹿なこと言ってないで、さっさと逃げる準備しろよ」

露美男「うわっ。酷っ」


樹里絵 さっさと立ち上がって、
     薬瓶を持ち出す


樹里絵「これ、持っていけ」

露美男「これは?」

樹里絵「毒薬」

露美男「ど、どくぅ!?」

樹里絵「保険だ。飲むんじゃないぞ」

露美男「保険って、何の?」

樹里絵「警察に囲まれたときだよ。振りまけば、少しは時間を稼げるだろう?」

露美男「・・・・・よく、こんなの持っているね」

樹里絵「パパにもらった。痴漢よけだって」

露美男「痴漢イコール殺してOKなんだ・・・」

樹里絵「細かいこと気にするなよ。とにかく、絶対捕まるなよ」

露美男「・・・・ああ。わかっている」

樹里絵「がんばれよ」

露美男「ああ」


露美男 上手へ退場


樹里絵「よし。あとは・・・・・あ、あいつ・・・・携帯忘れていきやがった。・・・・ばか」


樹里絵 露美男の携帯を見てあきれるが、愛しいもののようにポケットに忍ばせる。
     が、すぐに取り出して。


樹里絵「あたし以外の女、メモリーに登録してないだろうなぁ。・・・あ、だれだよ、須磨子って!」


舞台袖から 樹里父


樹里父「樹里絵ちゃーん」

樹里絵「あ、おう。なんだよ」

樹里父「ご飯よ」

樹里絵「わかった。今行く。・・・・・アイツがもし逃げられたって
     ・・・・一緒になんかなれないのかもな・・・・・・まてよ・・・・そうか!」


樹里絵 ぶつくさ言いながら 下手へ退場


照明 暗転
   同時に上手サス


露美男 サスの中を必死に走っている


露美男「走っているうちに、人の肩に何度もぶつかった。汗が後から後から流れてくる。
     俺は何をしているんだろう? どこへ行けるかも分からないで、
     ただ走り続けづけながら、浮かんだ疑問にも答えられない。
     額を拭った手を目の前にかざした。・・・これが、命を奪った手だ。
     樹里絵を抱きしめたとき、何で俺は、俺は、自分の首を絞めてしまわなかったんだろう。
     あの場所で死んでいれば。幸せなままで、一生を終えれたのに。
     俺は、俺は、どこまで走れば良いんだ!」


サス 消す

露美男 上手へ退場

音響 携帯音


ロリン「はい。こちら、ロリンス教会です♪ あ、樹里絵様ですか〜 どうしました♪ こんな朝から」


照明 全照


ロリン 電話を片手に上手から登場

樹里絵 下手側で電話をかけている


樹里絵「おまえさぁ。確か、怪しげな薬持っていたよな?」

ロリン「は、はあ」

樹里絵「なんか、飲んだ途端に、仮死状態になるような危ないのあるか?」

ロリン「な、なぜそのことを!?」

樹里絵「・・・・・あるんだな?」

ロリン「まさか」

樹里絵「今から、取りに行くから」

ロリン「え! そんな困りますって。ありませんから」

樹里絵「行くったら。行くからな! 用意しておけよ」


携帯切れる


ロリン「や、やばい。早く薬を隠さないと」


樹里絵 下手から
    明らかに壁だろう所から入ってくる


樹里絵「ばーん。待たせたな」

ロリン「うわっ。なんて所からはいって来るんですか!」

樹里絵「面倒くさかったから」

ロリン「面倒くさいって、そこは壁ですよ!」

樹里絵「覚えておけよ。愛に不可能はない」

ロリン「分かりました」

樹里絵「それで? 薬は?」

ロリン「まさか、電話で言っていた薬のことですか?」

樹里絵「あたりまえだろう? まさか、ほんの少し前のことを忘れたなんて言い出さないよな?」

ロリン「そりゃあ、言いませんよ・・・・拳振り上げないでくださいよ」


樹里絵 軽くロリンをける


樹里絵「早く出せよ」

ロリン「は、はい・・・・・」


ロリン 懐から取り出す


樹里絵「すぐに出せる場所にいつも持っているってわけね」

ロリン「別にそういうわけでは・・・」

樹里絵「変態」

ロリン「それでその薬をなんに使うんですか?」

樹里絵「飲む」

ロリン「どなたが?」

樹里絵「あたし」

ロリン「え? ど、どうしてです?」

樹里絵「死んだことにして、んで露美男に死体をさらわせるんだよ。
     そうしたら、あたしら二人とも一緒に逃げれるだろう?」

ロリン「そんな・・・・危険すぎますよ。下手したら葬式やられて、燃やされちゃいますよ」

樹里絵「お前はうちお抱えの修道士だろ? それぐらいなんとかフォローしろよ」

ロリン「むちゃくちゃですよ!」

樹里絵「・・・・戦ってないんだよ、あたしは」

ロリン「え?」

樹里絵「・・・・何とも戦ってないんだよ。パパのおかげで我がまましほうだいに生きて。
     欲しいものに反対されたことはないし。嫌なことを、無理矢理やらされたことだってない」

ロリン「それは、幸せなんじゃないんですか?」

樹里絵「・・・・・好きになった奴は、あたしのことを好きでいて。
     結局、あたしの言うこと何でも聞いて。今は、どこに行く宛もなく逃げている。
     あたしに言われたからだけど。『運命から、逃げろ』なんて言って・・・バカみたいだろ? 
     本当は、『運命と闘え』って言いたかったのに。それじゃあ、アイツ、自首するだけだから」

ロリン「自首、させなかったんですか・・・・」

樹里絵「させたほうが、よかったんだろうけどな・・・・・・だって、それじゃまた、あたしは何もできない」

ロリン「何かできてしまった方が、余計不幸になるのかもしれませんよ」

樹里絵「それでも、あたしは戦いたいんだよ。この薬で」

ロリン「・・・・分かりました」

樹里絵「言っておくけど、止めても無駄だから。あと、あたしがこれ飲んで死んだ後のフォローよろしく」

ロリン「はい。」

樹里絵「じゃ、そういうことだから」

ロリン「樹里絵様」

樹里絵「なんだよ?」

ロリン「露美男さんに、お伝えしておくのは、誰がやるんです?」


樹里絵 ロリンスをにらむ
ロリン 微笑んでいる


樹里絵「・・・・あいつ、バカだから携帯忘れていったんだよ」

ロリン「善処しましょう」

樹里絵「ありがと」


樹里絵 下手へ去りながら


樹里絵「ロリンス」

ロリン「はい」

樹里絵「優しすぎるお前ってきもいぞ」


ロリン 苦笑
樹里絵 下手へ退場


ロリン「やれやれ。せっかくの、秘薬が・・・・・
    あんな目を見せられたんじゃ言うこと聞かないわけには行かないだろうなぁ・・・・
    さて、露美男に伝えなくちゃ・・・・・って、彼は今どこにいるんだ?」


照明 暗転
   同時に下手サス


樹里絵 無性演技
    毒薬を飲む


暗転


SE「樹里絵様が〜 樹里絵様がお倒れになった!」

SE「樹里絵様が死んでしまった!!」

樹里父「樹里絵? 樹里絵! 何で、なんでよ!」


照明 上手サス


露美男「歩いている途中、人々が不思議な話をしていた。
     『不幸が立て続けにキャピュレット社を襲う』たしかそんな内容だった。立て続け? 
     ティバルトの次に死んだのは誰だ? そして、町の人々が時折口にする名前は? 
     死んだ? 樹里絵が? ・・・・毒を飲んで? そんなまさか! 
     だって、毒はここに・・・・樹里絵!」


暗転 


樹里絵 舞台中央で寝ている
樹里父 その側に座っている

照明 薄暗い色
音響 FI


樹里父「・・・・樹里絵・・・・・まさか、貴方が死んでしまうなんて・・・・・
     わたし、これからどうしたらいいの・・・・」


露美男 上手から登場


露美男「死体安置室・・・・なんて嫌な響きだ。・・・ここに樹里絵が?」

樹里父「まるで、まだ生きているみたいなのに・・・死んでいるなんて」

露美男「あれは・・・・樹里絵!? ・・・・じゃあやっぱり樹里絵は・・・」

樹里父「(ため息)色々と貴方のことでやらなきゃいけないことがあるから、今日は私帰るわね。
     おやすみ」


樹里父 上手へ歩いてくる

露美男 必死舞台奥へと体を押しつける

樹里父 露美男に気づかない


樹里父 上手へ退場

露美男 ゆっくりと樹里絵に近づく


露美男「樹里絵・・・・樹里絵・・・・・本当だ・・・・本当に、生きているみたいだ。
     ねぇ、本当は生きているんだろう? なぁ・・・・なんで、息していないんだよ
     ・・・・俺、会いに来たよ。君に。・・・君と一緒に逝くために」


露美男 毒薬を取り出す


露美男「これを飲めば君と一緒にいける。これを飲めば・・・俺は完全に、すべてから逃げられる。
     ・・・・これを・・・・・・だけど、これは・・・・」


露美男 毒薬を飲もうとして悩む


露美男「これで、俺が死んだら、君との約束を破ることになってしまう。
     ・・・・・運命から逃げる前に、運命を捨てちゃったら、俺は・・・・・ただの負け犬だ・・・・」


露美男 毒を流し捨てる


露美男「最後に君の側で眠らせてよ。走りすぎたせいで、なんだかとっても疲れているんだ。
     君の体が無くなってしまうまで、もう俺は君から離れないから」


露美男 寝る


樹里絵 しばらくして起きる


樹里絵「・・・・ここは・・・・・・静かな場所だな・・・・墓場か? いや、ここは・・・」


樹里絵 露美男に気づく


樹里絵「露美男! ロリンスが伝えてくれたんだな。おい、露美男!・・・・ろみ、お?」


樹里絵 露美男の側に落ちている毒薬に目を向ける
     瓶を取る


樹里絵「・・・・飲んだのか? これ。ロリンスから話を聞いた訳じゃなくて・・・あたしが死んだと思って?
     そんな・・・だったら、あたしがやったことって・・・・結局、あたしは・・・・」


ロリン「ですから、私は中に入らなきゃいけないんです」

樹里父「だから、無理だって言っているでしょ。なかには、樹里絵ちゃんがいるのよ」

ロリン「その樹里絵様に用があるんです」

樹里父「お祈りなんて、明日で良いわよ」

ロリン「そうじゃなくて!・・・・」

樹里父「もしかして、あんた樹里絵ちゃんにいたずらする気?」

ロリン「ちがーうよ! そうじゃないよ!」


樹里絵「人が来る・・・・なぁ、露美男、人が来るよ。・・・・結局、あたし達って何だったんだろうな? 
     最後まで、一緒になれないで・・・・これも、運命って奴なのか? 
     運命に闘いを挑んでも、結局、負けるしかないって事なのか? ・・・・なぁ、露美男
     ・・・・・お前の、ナイフ、借りるよ」


樹里絵 ナイフで自分の胸を刺す


照明 瞬間赤


樹里絵 露美男に倒れ込む
露美男 瞬間目を覚ます


露美男「かはっ。重っ・・・・なま暖かい? 血? な、樹里絵!」

樹里絵「なんだよ、ばか。生きてたのかよ」

露美男「生きてたのかって・・・・それ、俺の?」

樹里絵「最後まで、バカやりっぱなしだなぁ。あたし」

露美男「喋るなよ、血が・・・・なんだよ、死んでたのかと思って、俺、俺」

樹里絵「いいから。もっと、強く抱きしめてくれよ」

露美男「樹里絵」

樹里絵「・・・・・あたしら・・・・・・結局、負けてばっかだよな」

露美男「・・・・・うん」

樹里絵「・・・・これも、運命・・・だったんだよ」

露美男「そんな、こんなのって・・・・」

樹里絵「なぁ、露美男・・・」

露美男「え?」

樹里絵「あたし――――」


樹里絵 死ぬ


露美男「樹里絵?」


露美男 樹里絵の体にこわごわ触れる
    ナイフに指が触れた途端、ふるえる


露美男「結局、俺は、何をしたんだ? なぁ、樹里絵。俺、何だったんだ? 俺、俺・・・・」


露美男 毒薬の瓶を手にする(当然中は空)


露美男「殺せ! 俺を殺してくれ。樹里絵の所に今すぐ連れていってくれ! 
     なぁ、俺を、殺してくれ・・・・」


露美男 樹里絵の胸に刺さっているナイフを抜こうとするが、できない


露美男「俺は、どうすれば良いんだ? 俺は何をすれば良いんだ? 
     俺に、一体何ができるんだ?・・・誰か、・・・誰か、答えてくれよ!」


露美男 俯く


暗転


露美男「死ねない・・・死ねない・・・・・俺は・・・何で、生きているんだ!?」


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