さいかい!  作 楽静 登場人物 アリス この物語の主人公。漫才師が夢。ツッコミ属性。 のどか 中学時代のアリスの友人。成績は学年最下位。ポジティブ。 セレナ 魔法学校で優秀な成績を収める少女。他者に興味がない。 ひかり 高校でのアリスの友人 将来の夢は中学校の先生 学長  魔法学校の学長。魔法で若く見せている。 ソネミーナ/優秀生徒  悪の組織? の一人。本名ソネ。優雅。 ネタミーノ/最下位生徒 悪の組織? の一人。本名ミタ。やや乱暴。 ヒケメーン/中学生   悪の組織? の一人。本名ヒケ。坊や。 アリスの母親 アリスの母親 ひかりと兼ねる 司会     とある大会の司会。学長と兼ねる(声だけでもいい) ※舞台は公園、アリスの自宅、学園と転々するが、特にセットは必要としない。魔法使いはいかにも魔法使いと言う格好が望ましい。 ※魔法使いの「魔法具」は初演はそれぞれキャラクター別位置がうものを持たせたがある程度同じものをそろえても構わない。 ※兼ね役に関しては初演のものなのでそれぞれ別役を用意しても構わない。 1     舞台上にアリスが現れる。中学生っぽい格好。誰かに話しかけているように語りだす。 アリス 中学時代、のどかとの会話で一番覚えてるのは、中三の夏休み前、親を交えた三者面談のとき。    その日あたしは先生と親に初めて自分の進路の希望を話して……結果めちゃくちゃ怒られたんだ!     と、のどかが現れる。中学生っぽい格好。     三者面談が終わった日の帰り道。     お互いの家方向への分かれ道付近。 のどか 廊下まで怒鳴り声聞こえてたよ。 アリス ほんとありえないし。 のどか それ、アリスのママ言ってたよね。「ありえないでしょ! ありえない! ほんとありえない!  アリス (と、得意げに)と見せかけての?  のどか くだらないこと言うのはやめなさい!」って。 アリス 先生も味方になってくれないしさ。 のどか あの先生、三年受け持つの初めてらしいからね。気合い入ってたんでしょ。アタシの時も、なんか言葉になってなかったからね。「はぁ!? え? はぁ!? はぁあ!? いえ違います。これは気合をためてるんじゃないの。戸惑いと、怒りと、驚きが一緒になったの。というか、のどかさん。あなたもなの?」って。 アリス ってことはのどかも? のどか 怒られたよ、先生には。「そんな職業はありません!」って。 アリス あたしも言われた。って「先生には」? 親は平気だったんだ? のどか うちのママ、放任主義だから。「目指すのなら、挑戦はさせます。娘の人生ですから」って。 アリス 良いなぁ。うちも放っておいてくれればいいのに。「高校は行きなさい」の一点張り。あー。勉強したくないなぁ。 のどか ねぇ。アリスって何になりたいの? 高校行かなくてもなれるってことだよね? だいぶ特殊じゃない? アリス のどかは? そんな職業ないって言われたんでしょう? のどか ……誰にも言わない? アリス もちろん。 のどか 多分なるの自体は簡単なんだ。名乗ればすぐなれるっていうか。でも、それじゃ意味ないっていうか。 アリス あたしもそう。 のどか 努力はもちろん大事なんだけど、それよりも才能というかセンスが大事なんだとあたしは思ってる。あと、誰かの笑顔のために頑張るって決意。 アリス あたしもだ。 のどか 最初に「ま」がつくんだ。 アリス あたしも! のどか ……もしかして? アリス うん。もしかして。 のどか 一緒に言う? アリス 同時にね。 のどか うん。せえの、 同時に、 のどか 魔法使い! アリス 漫才師! のどか あれ? アリス はぁ!? え? はぁ!? はぁあ!? のどか 先生のものまね? アリス 違うから。てか、ありえないでしょ! ありえない! ほんとありえない!  のどか (と、得意げに)と見せかけての?  アリス くだらないこと言うのはやめなさい! のどか さすが親子。そっくり。 アリス じゃなくて、本気で言ってんの? のどか 本気だよ。魔法使いにアタシはなる! アリス そりゃ先生も否定するわ。あたしもする。誰だってする。 のどか なんでよ〜。 アリス だって、ないでしょ。魔法なんて。 のどか あるよ? アリス は? のどか 魔法はある。 アリス 本気で言ってんの? のどか アリスこそ、本気? アリス え? のどか 本気で漫才師になろうと思ってるの?     と、アリスだけに光が当たる。 アリス それが、のどかとまともに話した最後の日となった。だって、進路希望が「魔法使い」なんて普通じゃないし。    なのに、大真面目に「魔法はある」なんて。話しかけられなくなったのも無理はない、よね。あれから親とは何度か喧嘩して、    あたしは結局高校へ進学。のどかとはそれっきりとなったのだった。……なんてことを高2の春頃になって急に思い出したのは、    再び親とのバトルが始まろうとしていたから。あたしの夢。貫けるのか。また折れるのか。     と、どこかにのどかが現れる。 のどか 本気で漫才師になろうと思ってるの? アリス だからこうやってネタを考えてるんだよ。一緒にやってくれる友達だっているんだから。新作考えて、高3では大会本戦に出場して、認めてもらうんだ。……ってもうこんな時間!? のどか 本気で漫才師になろうと思ってるの? アリス 本気だからネタを考えなきゃいけなくて、でも、もうこんな時間だし。ネタよりも寝たいし。 のどか 本気で漫才師になろうと思ってるの? アリス 大丈夫。明日から本気出す。(と、再び誰かに話すように)そんな、毎日が眠たいあたしの、友との再会と、最下位を救うお話。と、ここで、唐突に開幕の合図!     アリスが指を鳴らす。※オープニング(登場人物が現れ、去っていく)     この間に、アリスは高校生バージョンに着替えを済ます。 2     午前中。とある漫才大会の予選会場にて。     鐘の音が一つ響く。司会が顔をのぞかせる(もしくは声だけ) 司会 おっと。観客の反応は今ひとつだったようです。「高校男子団」はここまでとなります。さぁ、ランダムに選ばれた観客達の反応から本戦に上がれるかどうかが決定する、高校生春の漫才甲子園予選。次の挑戦者は高校二年生。今度は女子の二人組です。彼女たちは今回が二回目の出場となります。一回目の出場の時は一つの鐘の音に沈みましたが、今回は予選突破なるでしょうか? チーム名は「アリスちゃんとひかりさん」です。どうぞ!     と、司会の言葉を合図にアリスとひかりが出てくる。 アリス はいはいはいはいはい。こんにちはー。アリスちゃんです。 ひかり ひかりさんです。 アリス&ひかり ありすちゃんとひかりさんです。よろしくおねがいします!     と、観客席から拍手があればお礼を言ったりしつつ、 ひかり いやぁ、ようこそいらっしゃいました。 アリス 遠いところをはるばると。こんな朝早い時間に。このような人数が、ここ〇〇(上演する会場名)へこれだけ集まるとは。うん。みんな、暇なんですね? ひかり ありすちゃん、普通に失礼。 アリス ごめんなさい。でも本当、はるばるようこそいらっしゃいました。 どうぞ、短い時間ですが楽しんでいってください。 ひかり ありすちゃんありすちゃん。 アリス なんです。ひかりさん。 ひかり ちょっと気になったこと聞いていい? アリス 今? ひかり 気になったから。 アリス 後にしなさいよ。楽屋戻ってから話し聞いてあげるから。(と、観客に)すいません、自由な子なんで。それにしても、春ですね。春といえば桜。私好きなんですよ。ひかりさんは? ひかりさん? ひかり ごめん。聞いてなかった。 アリス そうだね。気になっちゃうと、人の話聞かないですものね。仕方ない。(と、ひかりに)さ、どうぞ。 ひかり 「はるばる」って何? アリス え?「遠路はるばるようこそ」なんて聞きません? ひかり 聞かない。あ、でも、遠路はわかるよ。ロング・アウェイ! アリス なんで英語にした? ひかり 英語が喋りたかった! アリス (観客へ)こういう自由な子なんです。 ひかり というかさ、なんで「はる」を重ねる必要があるの? おめでたい感じなの? アリス ん? ひかりさん、はるばるの「はる」をなんだと思ってます? ひかり 「春」でしょ? ロング・アウェイ、スプリング・スプリング! わかった! 一年かかったんだ! アリス ん? ん? なんです? ひかり 遠い道だから、春に出発して、スプリングについた! アリス うん。もうそれでいいです。えーでは、桜といえば花見ということで、花見にちなんだショートコントを、 ひかり ちょっと待って! アリス なんです? ひかり さすがのあたしもわかるよ。今の解釈が間違っていて、流そうとしていることくらいはね! アリス 気づきましたか。 ひかり 気づいた。そして、少し傷ついた。 アリス ごめん。馬鹿だから気づかないと思った。 ひかり 謝罪の言葉が酷い! それで、はるばるってどういう意味? アリス はるばるの「はる」の字は「悠か」って書くんですよ。悠久の悠ですね。 ひかり アリスちゃん。UQだったら、「U」と「Q」だよ? アリス もう面倒くさいんで、この話後でいいですか? というわけで、花見にちなんだショートコントを、     と、一つ鐘の音が響く。アリスとひかりは固まる。 司会 おっとぉ。残念ながら「アリスちゃんとひかりさん」はここまでとなります。さぁ、ランダムに選ばれた観客達の反応から   本戦に上がれるかどうかが決定する、高校生春の漫才甲子園予選。次の挑戦者――     声が遠くなり、昼の景色となる。     肩を落としたアリスとひかりがいる。 3 昼の公園。そこで二人は反省会をしている。 ひかり まただめだったね。 アリス うん。ごめん。あたしのネタのせいで。 ひかり そんなことないって。アリスのネタ面白かったよ。 アリス そうかな。 ひかり ちゃんと笑い声も聞こえたでしょ? アリス あの笑い声、何処かで聞いたことあるんだよね。 ひかり え? どこで? アリス 主にひかりの家で。 ひかり ……そういえば、あたしも聞いたことある気が。 アリス あれって、ひかりのお父―― ひかり 言わないで! あーあ。何も聞こえない。 アリス お父さんだよね。 ひかり 言わないでって言ったよね? 来ないでって言ったのに。 アリス ……ごめん。 ひかり なにが? アリス 上に行けなくて。 ひかり あたしこそだよ。もっと練習付き合えば良かった。 アリス そんなことない。 ひかり まだ次があるよ、頑張ろうね。 アリス うん。 ひかり 野球の甲子園だって夏が本番だし。 アリス だね! ひかり あたしたちにとって最後の大会だもんね。 アリス ……え? ひかり 受験で忙しくなる前に、一回くらいは本戦に出たいよね。ま、それは挑戦者みんなそうなんだろうけど。 アリス 最後? ひかり 来年の春は流石に無理だよ。あたし一般受けるつもりだし。 アリス 一般って、 ひかり 教育系の大学行こうと思ってるんだ。 アリス そう、なんだ。なんで……(言ってくれなかったの?) ひかり え? アリス ううん。なんでもない。 ひかり アリスは? アリス あたし? ひかり 進路。どうするの? アリス あたしは――     と、声が届く。 のどか(声) ごめんどいてどいてどいて! アリス&ひかり え? 4     決して格好良くはない箒をまたいだ少女(のどか)が走ってくる。     魔女っぽい恰好。必死に止まろうとしている感じ。 のどか 止まれ止まれ止まれー! 止まった! セーフ! アリス のどか? のどか あれ、アリス!? 久しぶり! アリス 久しぶりって、(と、全体的な格好が気になり)なにその格好。 のどか (と、箒を構え)これ? 格好良いでしょ。 アリス いや、格好良くはないよ? ひかり 知り合い? アリス 知り合いって言うか、 のどか これね、すごいんだよ。(と、柄の方をかざし)なんとかって国のなんとかって木を素材に使っていてね。燃えにくく折れにくいって言う一品なんだよ。格好いいよね。って、そんなことより、ごめん。人がいない所へ向かって逃げてきたつもりだったんだけど。多分巻き込んだ。 アリス 巻き込んだ? ひかり この人何言ってるの? ヒケメ 鬼ごっこはおしまいかな?     と、妙に格好つけた男(ヒケメーン)がやってくる。     ごつい魔法の杖を持っている。 アリス 今度は何!? ヒケメ この、ヒケメーンから逃げられると思ったのかな? お嬢さん。 のどか 結構飛ばしたつもりだったのに。 ヒケメ これでも僕は速さには自信があるんだ。さ、諦めてマジカルストーンを渡すんだ。 ひかり なにこれ。なんかの撮影? アリス のどか、あんた何やってんの? のどか 見てわからない? アリス わかんないから聞いてるんだけど。 のどか 魔法使いだよ! アリス&ひかり はぁ!? ヒケメ おやおや。一般人に助けを求めたのかい? だけど残念だね。僕にはこの魔法があるんだ。 のどか しまった。させないよ! ヒケメ 遅い! 「亜空間愚離夢(あくうかんぐりむ)」     ヒケメーンの言葉とともに魔法っぽいエフェクト音が鳴る。     ひかりはその動きを止める。 アリス 何今の。どっから鳴ってんの? ヒケメ なぜ動けているんだ!? アリス は? 何いってんのこの人。 のどか アリス。あたし、信じてたよ。アリスなら大丈夫だって。 アリス のどか、思い切り焦ってたよね「しまった」とか言ってたし。 のどか (と、ごまかすように吹けない口笛を吹く) アリス あからさまにごまかすな。 ヒケメ 馬鹿な。一般人が魔法を信じるなんて。 アリス いや魔法とか、わけわかんないんだけど。(と、ひかりに)ゴメンね ひかり(この子、昔からワケ解んない子で)って、ひかり!? のどか この魔法は魔法を信じない一般人の時を止める魔法なんだ。ほら、周りを見て。 アリス あたしたちを遠巻きに見ていた人が固まってる!? ヒケメ 魔法自体は成功しているのになぜだ? なぜ、君は動けている? アリス そんなのあたしに言われても。 ヒケメ 仕方ない。一般人を手に掛けるのは少し気が引けるが、これも仕事。君には悪いが、犠牲になってもらおう。 アリス もう、展開が急すぎてついていけないんだけど。 のどか 大丈夫。一人だから逃げるしか無かったけど、アリスがいるならあたしは負けないよ。 ヒケメ 攻撃魔法の一つも使えない学年最下位が、何を言うかと思えば。一体どうやって、この僕に勝とうと言うのかな? のどか 攻撃だけが魔法じゃない! くらえ、「ミラー呪(じゅ)」     再び魔法っぽいエフェクト音がかかる。     強制的にヒケメーンはのどかと同じポーズを取らされる。     以後、のどかが動くのに合わせてヒケメーンは鏡合わせの動きを取る。 ヒケメ これは、相手に自分と同じポーズを取らせるだけのお遊び魔法じゃないか。 のどか だけど、これでアナタは動けない。 ヒケメ それは君だって同じこと。魔法が効いている間は相手と向き合っている必要があるだろう? 君の魔力では持続時間は三分といったところか。それで一体何ができると言うんだ? さあ、おとなしく魔法を解いて、マジカルストーンを渡すんだ。 のどか 言ったよね? あたしはひとりじゃないって。アリス! アリス え、いや、あたし魔法なんて使えないよ? のどか 魔法を使う必要はないんだ。今あいつはあたしと同じにしか動けないんだから。物理でいける! アリス 物理って。武器もないし。 のどか 武器ならあるよ。ほら!     と、ここまでの間にのどかはヒケメーンに武器から手を離させる     動作をしている。その動きに合わせて、ヒケメーンは杖を手放している。 アリス あれで殴るの!? のどか 魔法が切れるまで時間がない! 急いで! アリス わ、わかった。 ヒケメ ちょっと待て。魔法使いの戦いに物理攻撃は無いだろう! よりにもよって、僕の杖を使うな! 見るからに痛そうじゃないか! アリス えっと、よくわからないけどごめんなさい!     と、アリスはヒケメーンの杖でヒケメーンを殴る。     派手に殴る音が鳴る。 ヒケメ ぐっ、結構遠慮がない。     と、もう一度アリスはヒケメーンを殴る。ヒケメーンがよろめいて倒れる。 のどか しまった。魔法が解けた。 アリス えぇ、もう!?     と、アリスヒケメーンから離れつつ思わず杖を構える。 しかし、ヒケメーンはすでに涙目になっている。 ヒケメ 酷いじゃないか。痛いじゃないか。だから僕は嫌だったんだ。もう嫌だ。帰る!     と、ヒケメーンが去る。 のどか やった! さすがアリス! 敵をやっつけた! アリス え、これで倒したの?     と、ヒケメーンが戻ってくる。思わず身構える二人。ヒケメーンは手を出す。 ヒケメ 杖、返して。それ、ママからの誕生日プレゼントだから。 アリス あ、はい。(と、杖を返す) ヒケメ 言っておくけど、お前に負けたわけじゃないからな。そこの、ゴリラ女が強かったせいだからな。 アリス 誰がゴリラだ! ヒケメ ママ〜、野蛮人が僕をぶった〜     と、ヒケメーンは去る。 アリス えっと、これでよかったの? のどか うん。魔法使いは物理攻撃に弱いから。(と、膝をつく) アリス のどか!? のどか ごめん。ほっとしたら力抜けちゃった。 アリス もう! しっかりしてよ! とりあえずうちくる? のどか いいの? アリス 当たり前でしょ!     と、アリスはのどかに肩を貸す。歩きながら、ひかりを見て、 アリス で、あの状態っていつ終わるの? のどか もうしばらく、すれば、大丈夫、だと、思う。 アリス ちょっと、まずあんたが大丈夫なの!? のどか うん。魔力使ったせいで、眠いだけ。 アリス こんなところで寝るな! ごめん。ひかり! 後で連絡するから! のどか! 寝るな! 今の状況を説明するまでは寝かさないからね! のどか めんどいよー。 アリス 面倒臭がるな!     と、アリスはのどかを連れて去る。     ひかりが動き出す。 ひかり いや、いまどき魔法? とか痛すぎるんだけど。って、誰もいない!? え。いつの間に? ちょっとアリスどこ!?     これじゃあたしが痛い人みたいじゃん! ちょっと、アリス!?     と、アリスを探してひかりが去る。 5     いかにも悪役が密談していますという雰囲気の場所。     ソネミーナとネタミーノが現れる。     ソネミーナは片手に水晶のようなものを持っている。     二人共、手強い敵だぞという雰囲気を作っている。 ソネミ あらあら。ヒケメーンは負けちゃったみたいね? ネタミ まったくだらしない。 ソネミ まあ、あのお調子者にはいい薬になったんじゃない? ネタミ でも、相手は最下位だって話じゃなかったか? ソネミ 魔法学校の生徒たちが優秀だということはわかっていたはず。最下位だとしても、それなりの力はあるということでしょうね。 ネタミ 戦い方としては邪道すぎる感じはあるけどな。 ソネミ それは確かにねぇ。 ネタミ とはいえ、マジカルストーンが運ばれてしまったのは事実、か。 ソネミ (と、格好つけるように)ネタミーノ、次はアナタが? ネタミ (と、格好つけるように)ソネミーナ、あんたでもいいけど? ソネミ それとも二人? ネタミ そうだな。終わらせるのは早い方がいいだろうし。 ソネミ では、そういうことで。 ネタミ マジカルストーン、必ず手に入れるぞ。 ソネミ ええ。必ず。     ソネミーナとネタミーノは笑いながら去る。 6     学長室。     と、せわしなく行ったり来たりしながら学長がやってくる。     若いキャリアウーマンのようにも見える。 学長 ああ、忙しい忙しい。忙しいと口にするのも時間がもったいないくらいに忙しいのに、なぜ指定した時間に来ないのかな!?     その光景を見ている様子で、アリスとのどかがやってくる。 アリス あのさ? 説明しろと言ったけど、これは何? のどか 過去の光景を見せる魔法だよ。説明するより、見てもらったほうが早いから。 アリス そりゃそうだろうけど、あれは? のどか うちの学長。 アリス 若くない? のどか 若く見せてるだけ。多分そういう魔法があるんだよ。私はまだ知らないけど。     と、ノックの音。 学長 ああ、ようやく来たか。入りなさい。     と、セレナがやってくる。いかにも優等生ですといった格好。 セレナ 失礼します。二年A組、ナヅナ・セレナです。 学長 セレナくん。優秀な君にしては、ずいぶん遅い到着だね。 セレナ 申し訳ありません。 学長 あと、私はもう一人呼んでいたと思うのだけど? セレナ そのもう一人を待っていたのですが。 学長 一緒に来るつもりだったのだね? 確か、ホマレ・のどか君、だったか。 セレナ はい。すぐそこまでは一緒に来たんです。ですが急にお腹が痛いと言いだして。 学長 ああ、緊張に弱いタイプだったか。あれだね? 「学長に呼び出されたなんて、私何やったんだろう? 悪いことなんてやってないと思うけど。うう。お腹が痛い」と。 セレナ いいえ。違います。拾い食いです。 学長&アリス え? セレナ 道端に生えていたきのこを、「これは魔力が上がるキノコに違いない!」と言って食べたんです。 学長 のどかくんは、君と同い年じゃなかったかな? セレナ はい。残念ながら。     うなだれている学長と、フォローする気のないセレナ。     二人の光景を見ながら、話すアリスとのどか。 アリス 拾い食いって……。 のどか いや、すごいカラフルでね。なんか魔力がこもってますって色だったんだよ!? 実際、食べた瞬間は魔力上がったからね。全部、流れ落ちちゃったけど。 アリス カラフルな時点で怪しいから。あんた、じゃあこの回想シーン、出てこないんだ? なんの意味があったのこれ? のどか いやいや、このあと颯爽(さっそう)と現れたんだよ。こんな感じにね!     と、よろよろと学長に近づく のどか お、おまたせしましたぁ。ホマレ・のどか、ですっ。 アリス すでに力尽きかけてる!? 学長 えっと、大丈夫なのかい? のどか ハイ。大丈夫っす! 学長 まあいい。君たちを呼んだのは他でもない。ある仕事をお願いしたいからなんだ。 セレナ 仕事、ですか。 学長 現在、世界各地で毎日のように災害が起こっている。地震や津波、森林火災。ニュースで聞いているはずだ。 セレナ はい。 学長 そのいくつかは、人為的に起こされている! セレナ まさか!? のどか うっ叫び声がお腹に響く。 学長 この星を支配しようとする輩がいるのだよ。その者たちは、地球が自分たちのものであることの証とばかりに、災害を呼び起こしている。その地に住む者たちのことなどかけらも気遣わずにね。 セレナ なんて酷い。 のどか 本当辛い。 学長 当然、我々も奴らの好きにさせる気はない。そこで、これを作り出した。その名も、マジカルストーン!(とカラフルな石を2つ取り出す) のどか マジカルストーン? セレナ&アリス ダサい名前。 学長 (と、セレナに)なにか言ったかね? セレナ いいえ。なにも。 学長 この石を地球のいたるところに術式と共に埋め込めば、魔力によって石同士が繋がり合い、この魔法学園から地球各地の災害を軽減させることができる。 セレナ 抑え込むわけではないんですね。 学長 残念ながらまだ研究段階なのでね。この、石を術式と共に埋め込むという仕事を、君たちにお願いしたいんだ。 アリス なんで、学校の生徒にやらせんのよ。 のどか (と、アリスに説明しようとアリスを向く)それはね、 学長 なぜ、自分たちにと思うかね? のどか (慌てて学長を向き) あ、はい。 学長 人手不足だ。 のどか&アリス え? 学長 魔法使いの数は少ないからね。さらに魔法が使えない者にとっては、これはただの石にすぎない。当然「あなたの国に石埋めていいですか?」「いいっすよ!」とはならない。だから君たちだ。君たちくらいの年齢の子が、土を掘りなにかを埋めていたとしても、怪しげなものだとは思わないだろう。せいぜい、「こっそり買ったエッチな本を隠しているのかな?」と思われる程度だ。 のどか な、なるほど? 学長 やってくれるかね? セレナ お話はわかりました。私は引き受けたいと思います。 のどか え、セレナ本気? なんかすごい危険そうだけど。 学長 やってくれるなら危険手当として、授業単位をプラスしよう。 のどか やります! セレナ 一ついいですか? 学長 なんだね? セレナ 人手不足だからという理由で、学園の生徒を使う。そこまではわかります。私はAクラスのトップ。選ばれて当然でしょう。ですが、彼女は学年最下位。落ちこぼれの落第寸前です。選ばれる理由がわかりません。 のどか えぇ〜落第寸前ってことは多分無いよ。 学長 確かに彼女は落第寸前の学年最下位だ。 のどか え、本当に!? セレナ では、なぜ彼女を? 学長 それはね。     と、石を二人に渡し、笑顔で学長が去る。 アリス 話さないのかよ! のどか こうして、私は地球の未来のため、マジカルストーンを運ぶ任務についたんだ。頑張ろうね、セレナ! セレナ あたしの足は引っ張らないでよ。学年最下位さん。     セレナが去る。舞台は二人の部屋に戻る。 のどか と、仲良く日本に向かってきたんだけど、途中ではぐれちゃって。で、さらに敵に追われてピンチなところでアリスと会ったってわけ。 アリス 仲良い要素はまったくなかったけどね。 のどか セレナはツンデレだから。 アリス ポジティブ過ぎるでしょ。まあ、なんかよくわからないけど。やらなきゃいけないことがあるのはわかった。 のどか そうなの。地球の未来がかかってるからね。 アリス うん。頑張って! のどか 頑張る! って待って。それで終わり? 他に言うことは? アリス え。何を言うの? のどか 「あたしも一緒に手伝うよ」「悪いよそんなの」「いいって。友達だろう」「ありがとう!」的な流れを期待してます。 アリス 期待するな! のどか魔法使えるんでしょう? あたしは使えないんだよ!? のどか 大丈夫。なんとかなるよ! アリス なるか! ポジティブすぎんだよ!  のどか お願い! 手伝ってよ。あたし、この辺土地勘無いんだよ! アリス 昔住んでたろ! のどか 住んでた家の住所しか覚えてない! アリス ググれ! のどか 地図は見れても、自分の方向がわからんのです! アリス コンパスを買え! のどか お金ない! ねえ、一生のお願い! アリス 小学生か! のどか 今度なんか奢るから! アリス それ絶対おごらないやつ! のどか なんでもする! 命かける! アリス 小学生か! のどか 良いよもう小学生で! だからお願い! お願い! アリス ……危なくなったら逃げるから。 のどか 大丈夫。あたしは箒で逃げるし。 アリス それ、あたし置いて行かれるやつじゃん! 守れよ! のどか あ、そうか。守る守る。すっごい守る。 アリス とてつもなく不安だけど。じゃあ、案内くらいは、するよ。 のどか ありがとう! やっぱり、アリスは心の友だね! アリス で、どこなの。石埋めるところは。 のどか えっとね。これ。     と、のどかが見せた紙をアリスは受け取り。 アリス うわぁ。 のどか え、遠い? 結構お金かかる? アリス 無茶苦茶近所じゃん! のどか あれ?     と、呆れつつもアリスはのどかと一緒に去る。  7     学長室と、セレナの地元。     電話? を片手に学長が現れる。     学長の台詞の途中に、セレナが電話?を片手に現れる。     それぞれ魔法具を持っている。※初演時は学長が懐中時計。セレナは本。 学長 そうか! 無事にマジカルストーンを埋めることができたか! さすがはAクラストップだ! セレナ 割と簡単でした。私にとっては、ですけど。 学長 君にとっては? おや? のどか君は一緒じゃないのかい? セレナ マジカルストーンは2つ。なら個別に動いたほうが効率的ですから。 学長 マジカルストーンを狙う者と出会ったら、どうするつもりだい? セレナ 大丈夫です。私は優秀ですから。 学長 君は良くても、彼女はどうなる? セレナ ……。 学長 自らを秀でていると言うのであれば、凡庸な者の面倒を見てくれない かな? セレナ ……余計な仕事を増やすために頑張ってるわけじゃない。 学長 セレナくん? セレナ わかりました。あの子を探して、困っているようなら力を貸せば良いんですね? 学長 よろしく頼むよ。いやぁ。生徒が優秀だと楽ができて良いね。では、吉報を待っているよ。     と、学長は去る。 セレナ 教師を楽させるために優秀になったわけじゃないんだけど。(と、杖を掲げる)……あの子は、向こうか。ったく。手間かけさせないでよね。     と、セレナが去る。 8      夕方。のどかの地元の公園。どこか雰囲気は暗い。     と、カバンを持ったアリスと、箒をもったのどかがやってくる。 のどか ここらへん? アリス のどかの持ってた地図だとね。でも、なんか、ふっつーの公園だけど。 のどか きっと、石を埋めても大丈夫そうなところを選んでくれているんだと思う。 アリス 都合のいいことに人通りも無いしね。 のどか よし。じゃあ、さっそく埋めよう。 アリス しかし、こんなに人気(ひとけ)のない公園も珍しいな。     と、ソネミーナ&ネタミーノがやってくる。 ソネミ 人がいないのは、人よけの魔法をしているからよねぇ。 ネタミ 使われている魔法に気が付かないなんて、やはり最下位は最下位だな。 アリス またなんか出てきた。 のどか 本当だ! 魔法が使われてる! アリス! あいつら多分敵だよ! アリス うん。なんか見るからにそんな感じする。 ソネミ 敵とは失礼ねぇ。ごきげんよう。ソネミーナよ。 ネタミ 私はネタミーノ。戦うにはいい天気だよな。 のどか あ、こんにちは。のどかです。 アリス のんきか! のどか のどかだって。 アリス そういうことじゃなくて。敵なんでしょ? 挨拶してどうする? ソネミ まだ敵ではないわよ。私達はただ、交渉に来ただけ。 アリス 交渉? ネタミ 商談とも言うかな。 ソネミ 敵になるかどうかはそれ次第。 のどか 商談って。 ソネミ マジカルストーンを譲ってくれない? ネタミ もちろんただでとは言わない。言い値をやるよ。 アリス 言い値って、まじか。 のどか あいにくだったね! あたしは、ツイッターもインスタもやってないんだ! ソネミ&ネタミ ??? アリス のどか。「いいね」ってそういう意味じゃない。 のどか え? アリス 欲しいだけお金を上げるって意味。 のどか え!? いくらでも? 100億万円でも!? アリス 小学生か! ソネミ さすがに、存在しない単位のお金は無理だけど。 のどか なんだやっぱり無理か。 ネタミ 100億くらいならキャッシュではらってやるよ。 のどか くれるの!? 100億万円! アリス 小学生か! ネタミ だから、存在しない単位のお金は無理だって。 のどか なんだ。やっぱり無理か。悪の人たちもたいしたことないね。 ネタミ こいつ。最下位のくせに。 ソネミ ネタミーノ、抑えて。腹を立てると相手の思うつぼよ。ああ見えて、これは作戦なのよ。 ネタミ 作戦? ソネミ 私達を油断させ、苛立たせるためのね。私達の心が揺れれば揺れるほど、魔法はうまく作動しなくなる。 ネタミ なるほど。小賢しい真似を。 アリス いや、絶対本気で言ってたよね? のどか あたしはふざけたこと無いよ? ネタミ どうやら、交渉はおふざけとしか思われなかったみたいだな。 ソネミ 残念だけど、マジカルストーンを譲る気はないってことかしら? のどか そんなの最初からない! アリス ちょっと、本気? のどか、あの2人に勝つ魔法あるの? のどか ない! アリス ならそんな石渡しちゃいなよ。お金もくれるって言うし。 のどか お金なんていらない。 アリス 100億万円って叫んでたのはどこの誰だ。 のどか 見てみたかっただけ。100億万円って見たこと無いし。 アリス そりゃないだろうけど。でも、 のどか これを渡しちゃったら、あたしはもう胸を張れないと思う。あたしは魔法使いだって。アリスに言えなくなる。そんなのいくらお金をもらったって代わりにならない。 アリス のどか。 のどか それに、言ったよね。魔法使いは物理攻撃に弱いって。用意した武器も あるし。あたしは、魔法じゃ最下位だけど、杖術(じょうじゅつ)では負け無しなんだ! ネタミ&ソネミ は? アリス じょうじゅつ? のどか 杖を使った武術だよ! できれば魔法使いとの戦いは魔法で戦いたかったけど。そうも言ってられないし。(と、杖を構える)あたしの杖は、当たると痛いよ!     と、のどかは杖をネタミーノとソネミーナへ向かって振り回す。     ネタミーノがソネミーナをかばい、魔法障壁で防ぐ音が何度か響く。 ネタミ 物理攻撃なんて、あたってやるはずないだろう? ソネミ あらあら。それが最下位の戦い方? じゃあ、魔法使いの戦い方を見せてあげる。(と、魔法具を振る)ナイトメア。     強い音が響く。 アリス なにこの魔法。 のどか しまった。ごめんアリス。心を強く持って! アリス 心を強く?     闇が広がる。その闇の中、声が響く。 ソネミ この魔法はその者にとっての、心の傷を蘇らせる。心を壊したくなければ、マジカルストーンを渡すことね。 9     闇の中、アリスだけが浮かび上がる。 アリス ここは? あたし、魔法をかけられて。のどか? どこにいるの?     と、アリスの母親がどこかに現れる。姿は見えなくても構わない。     母親の言葉はアリスが最近言われている言葉の集合体。 母親 アリス、聞いているの? アリス ママ? なんでここに。 母親 あんた。また漫才の大会なんかに出るんだって? アリス なんでそれを。 母親 ひかりちゃんのお母さんから聞いたのよ。「今年もよろしくおねがいします」って。あたし全然聞いてなかったから、   ずいぶん遅い新年の挨拶だなって思っちゃったわ。なんで教えてくれなかったの? アリス それは、だって、 母親 大会に出るのは仕方ないけど。アリス、またバカなこと言うんじゃないでしょうね? アリス 馬鹿なことって何。 母親 中学の時、先生の前でふざけた進路話した時みたいに、あたしに恥かかせないでよね。 アリス 別にふざけてない。 母親 もう三年生になるんだから。いい加減現実を見なさいよ。 アリス 現実くらい見てるよ。 母親 だったら将来のこと早く決めなさい。周りはみんな塾行ったりしてるで しょう?  アリス これでも、ちゃんと考えているから。 母親 別にいい学校に行けって言ってるわけじゃないのよ? 良い大学出ても、結局家に引きこもる人もいるんだから。   でも、うちにはあんたをずっと食べさせていく余裕なんて無いんだからね。 アリス わかってる。わかってるよ。 母親 全然わかってないんだから! アリス わかってる! あたしは、あたしは……     と、母親の姿は消え、どこかにのどかの姿が現れる。 のどか アリス、心を強く持って。 アリス のどか。あたし、魔法は使えないし。勉強なんて人並みにしかできない。すごい才能が眠ってるわけじゃない。    だから、一度諦めた。諦めて、高校に通って、でもやっぱり夢なんだ。 のどか うん。 アリス 諦めなければ夢は叶うなんて、信じられるほど強くもないけど。 のどか うん。 アリス 多分なるの自体は簡単なんだ。名乗ればすぐなれるっていうか。でも、それじゃ意味ないっていうか。 のどか あたしもそうだったよ。 アリス 努力はもちろん大事なんだけど、それよりも才能というかセンスが大事なんだ。あと、誰かの笑顔のために頑張るって決意。 のどか それがわかっているなら、アリスは大丈夫だよ。 アリス でも、それだけなんだ。なんの力もないし。ママの言葉程度で揺らいじゃう。 のどか アリスはすごいよ。 アリス あたしのどこにすごい部分があるっていうのよ。 のどか 中学の時、あたしのそばに居てくれたよ。 アリス そんなのたまたまでしょ。 のどか アリスにしか出来なかったことだよ。変わり者だったあたしの隣りに、アリスはいてくれた。小学校の時は一人だったんだ。    あたし空気読むの苦手だったから。いつも魔法のことばかり考えてたし。だから、友達なんてできないと思ってた。アリスが初めてだった。アリスがいてくれたからあたしは何でもできる気がした。 アリス 結局、離れたよ。中3の時。 のどか だけど、アリスは信じていてくれたでしょう? アリス なにを? のどか 魔法を信じる者しか動けない魔法の中で、アリスは動けてた。魔法はあるって信じてくれてたからだよね? アリス のどかが言うのなら、あるのかなって思ってただけだよ。 のどか 信じてくれる人がいるって、あたしは知ってた。だから、決心することができた。なりたい自分になろうって思えた。アリスに胸を張れる魔法使いになってやろうって前を向けた。だからアリスは大丈夫。 アリス あたし、大丈夫かな。 のどか 大丈夫! あたしがついているんだから! アリス それ。全然大丈夫な理由になってないよ。 のどか 大丈夫。なんとかなるよ! アリス ポジティブ過ぎる! のどか さあ、胸を張って、前を向いて! アリスの夢を叫んで! アリス あたしは、……になる。 のどか もっと、もっと大きな声で! アリス あたしは、漫才師になる! 絶対に、諦めない!     魔法の闇が砕ける音がする。 10     闇が晴れると、そこは元いた公園。アリスの傍らにのどか。     ソネミーナと、ネタミーノが呆然としている。 ソネミ そんな。私の魔法がこんな簡単に解かれるなんて。 ネタミ 最下位はともかく、普通の人間が? 信じられないな。 のどか ふっふっふ。女の友情を甘く見ないことだね! アリス やめて。なんか恥ずかしいから。って、あんたは平気だったの? のどか なんか、「学年最下位が〜」って罵る言葉ばっかりだったから、「だから何!?」って叫んでたら解けた。 アリス どんだけポジティブなのよ。 のどか 下を見てる暇なんて無いからね。 アリス そうだね。 ネタミ とはいえ、こちらが有利なことには変わりはないけどな。 ソネミ そうね。強い言葉で跳ね返したところで、あなたが最下位なことに変わりはないわよね。 ネタミ 恨むのなら、魔法の才能の無さを恨むことだな。 のどか 言ったでしょう? 下を見てる暇なんて無いって。前を向いている限り、あたしは魔法使いなんだから! ネタミ 叫んだところでおまえに攻撃魔法は使えないだろ。 ソネミ あたし達二人を相手に何ができるのかしら? のどか あたしは一人じゃない! ミラー呪、二倍がけ!     と、魔法がかかる音。以後、ネタミ&ソネミはのどかの動きに合わせた動きをする。 ネタミ ちっ。またこの魔法か。 ソネミ 二人にかけるとは少しは考えたみたいだけど。結局、あなたも動けなくなるだけじゃない? のどか 言ったよね。あたしは一人じゃないって。アリス! アリス あれね。わかった。     と、アリスはカバンを漁る。 ネタミ なに? ソネミ 一体、何をする気。 アリス あった。(と、カバンからマジックペンを取り出す) ネタミ なんだそれ。 アリス 見ての通り、マジックペンです。 ソネミ そんなもので一体何をする気? のどか 降参しなければ、こいつで額に、「肉」と書く! ネタミ なに!? ソネミ な、なんて卑劣な。 ネタミ くっ。この程度の魔法、すぐにでも解いてやる! のどか 逃さないよ! 連続ミラー呪二倍がけ!     と、再び魔法の音。 ネタミ 馬鹿の一つ覚えかっ! のどか 魔法はね。使いようなんだよ!     と、のどかはポーズを取る。     そのたびに、鏡合わせのポーズを敵は取る。 ソネミ ネタミーノ落ち着いて。マジックで落書きされる程度、顔を隠してしまえば済む話よ。 ネタミ 確かにな。ちょうどまだ寒い。フードを深くかぶればどうとでもごまかせる。 のどか 言うと思ったよ。アリス! アリス はいはい。では、これだ!(と、カバンからトイレ掃除の道具を取り出す) ネタミ な、なんだそれは。 アリス 見ての通り、トイレ掃除の道具です。 ソネミ 一体、何をする気? アリス 降参しなければ、(と、トイレ掃除の道具を構える)これを顔になでつける! ネタミ まさか、 ソネミ それは…… アリス すでに使用済みだ! のどか しかも、この公園のトイレでわざわざ使ってきたよ! ソネミ&ネタミ ひいいいいい! アリス 正直、カバンに入れとくのも嫌だったけど。やっと役に立つ。 ネタミ 悪魔か! ソネミ やめて、近寄らないで! アリス ちょっと匂いかいでみる? ほれ。ほれ。(と、近寄っていく) ネタミ 降参する! ソネミ 降参します! お願い助けて! アリス のどか。どうする? のどか せっかくだし、あたしたちがトイレで味わった苦痛を味あわせてやりたいけど。 ネタミ 降参させろよ! ソネミ お願いします! 助けてください! アリス って言ってるから許してあげようよ。 のどか アリスが言うならそれでいいや。正直、魔法使ってるのしんどくなってきたし。     と、魔法が解ける。ネタミーノとソネミーナは抱き合うように距離を取る。 ネタミ 助かった。 ソネミ きょ、今日のところはこれくらいで勘弁してあげるわ。 アリス のどか。まだ魔法使える? のどか うん。 ソネミ やめて! あたしは別に好きでこんな仕事やってるわけじゃないんだから! ネタミ そうだ。頼まれでもしなきゃ誰がこんなこと! のどか 頼まれた? アリス あなたたちの裏にさらにボスが居るってこと? 11     と、セレナがやってくる。少し髪が乱れている。 セレナ ボスと言うより仕掛け人ね。 のどか セレナ! アリス あ、学年優秀の人。 セレナ どうやらあたしが来る必要はなかったみたいね。 のどか 助けに来てくれたの? セレナ 違う。学長に頼まれたから来てあげただけ。 のどか 相変わらずセレナはツンデレだね。 アリス あんた、どれだけポジティブなの? のどか 結構急いでくれたんだしょう? セレナ は? 意味がわからない。 のどか 髪型。少し乱れてるから。汗かいてるし。 セレナ かいてない。 のどか わかるよ。匂いで。 セレナ 嗅ぐな! アリス のどか。流石にその発言は気持ち悪い。ってか、仕掛け人ってどういうこと? セレナ とりあえず、それ(と、マジックペンとトイレ掃除の道具)どっか置いて。 アリス あ、はい。(と、そこら辺に置く) セレナ (と、二人から距離を取りつつ)多分これもどこかで見ているんだと思うけど。今回の私達の任務。襲ってきた敵。    すべてを裏で命じていた人がいたってこと。恐らく、学長。 のどか 学長!? セレナ そうでしょう? ソネさん。 ソネミ (と、ぎょっとして)なんで、あたしのことを。 セレナ 優秀ですから。あなたは、ミタさん、かな。うちの学校のOGですよね。 のどか え? アリス OGって、卒業生ってこと? のどか なんで、卒業生が? 就職先が悪の組織だったってこと!? セレナ そもそも、そんな石を埋めた程度で災害がどうにかなるって話がおかしい。 アリス いや、それはあたしも思ったけど。 セレナ いくら人手が足りないからって生徒にやらせる? 優秀な生徒と最下位の生徒の組み合わせってのも変。埋める場所は生徒の地元の公園? 埋めるまでに奪う必要なんて無い。生徒が埋めてから掘り返せば済む話。でしょう? のどか 確かに! アリス でも、魔法的な力でどうにかなるんでしょう? セレナ 魔法って言えばすべてが許されると思うな! アリス すいません。ってなんであたし謝ってんだ。 のどか ということはつまり? セレナ テストだったっていうのがあたしの結論。学校のOGを使っての特別授業と言ったほうが正しいか。目的は、最下位の救済処置ってとこかな。 のどか そんな……。     と、そこへ拍手をしながら学長が現れる。     苦々しい顔になるソネミとネタミ。 学長 素晴らしい。さすが学年優秀者だね。ほぼ満点の推理だよ。 のどか 学長! 学長 満点のために追加するとしたら、学年優秀者へ―― セレナ 学年優秀者へ協調性を学ばせるというところですか。 学長 それもわかっていたのかい? セレナ もっと早く気づくべきでした。そうしたら一人で行動させ無かったのに。 学長 君は何でも一人でできてしまうからね。でも、そのままでは卒業したらやがて行き詰まるだろう。 セレナ 私は優秀です。 学長 優秀だからといって、全てを一人で解決できると思うのは傲慢だよ。この世界は一人で足掻くには広すぎるのだから。 セレナ 他人に足を引っ張られるのは納得いきません。 学長 人より早く進める足があるんだ。歩みの遅い者に歩幅を合わせれば、その分余裕を持って周りが見えると思わないかい? セレナ そうして必要ないものを背負わされるわけですか。 学長 必要ないと切り捨てられるだけ、まだ生きてはいないだろう? セレナ ……テストが終わったのなら、帰らせていただきます。 学長 そうだね。結果は追って知らせるよ。気をつけて帰りなさい。 セレナ はい。 のどか セレナ。 セレナ ……(と、立ち止まる) のどか 助けに来てくれてありがとう。 セレナ 別に、いらなかったでしょ。 のどか それでも。見捨てないでくれてありがとう。 セレナ ……もう少し、魔法を覚えなさい。魔法使いが物理攻撃に頼るなんて、情けないにもほどがある。 のどか 随分前から見守ってくれてたんだね。 セレナ ……(と、去ろうとする) のどか セレナ! 三年になってもよろしくね!     と、セレナは何か言おうとするが言葉にできず、結局そのまま去る。 のどか ほらね、ツンデレでしょ? ちょっと最後デレかけたよね。 アリス いや、あれはそうなのか? 学長 さて、(と、ソネミーナたちに)二人とも今回はありがとう。少し予定とは違う戦いになったけれど。これもいい機会だと思ってくれると嬉しい。 ソネミ こんな機会二度とごめんです! ネタミ 「生徒から石を奪えば特別ボーナス」って言われて参加してみれば、この仕打ち。話と違いすぎる! 学長 仕事をしてみたら話と違うなんてことはね。世の中に溢れているってことだよ。うん。 ソネミ 魔法教育委員会はどう言うでしょうね! ネタミ それか、週刊誌に訴えても良いな。SNSにあげるとか。 ソネミ ハッシュタグは、「ありえない魔法教育」で。 学長 いや、ちょっとさすがにそれは。あの、お礼は弾むから。 ソネミ 当然です! 行きましょう。 ネタミ ああ。(と、のどかに)おまえ、覚えてろよ! ソネミ あたしたちは魔法使いに負けたわけじゃないんですからね!     と、二人が去る。 学長 ……このように。奇策というものは勝ちにはつながるが、敗者への説得力に欠けるということはわかったね。 のどか え、あ、はい。 学長 今回の勝ちを、自分の純粋な強さだと驕れば、来年度は卒業も危ぶまれるだろう。 のどか それは、つまり、 学長 そう。これからはより純粋な魔法の力を―― のどか あたしは落第しないってことですね!? 学長 え? のどか やった! アリス! あたし、三年になれるよ! アリス え、あ、うん。そうだね。 のどか ほらね。学年最下位でも大丈夫なんだよ。魔法使いでいられるんだ! だからアリスも大丈夫! アリス あんたがポジティブなのはよくわかったけど、話くらい真面目に聞きなさいよ。結構大事なこと言ってたでしょ。 のどか わかってる。学長。大丈夫です。明日から頑張ります! アリス それ絶対頑張らないやつ。 学長 うん。もうそれでいいや。では、私は今回のテストの後片付けがあるから。このへんで。あ、マジカルストーンは返してくれるかな。   本当は埋めるまでがテストなんだけど、もうテストだってバレちゃったし。敵役もいないし。 のどか わかりました。 アリス あの、それって結局ただの石なんですか? なんの力もない? 学長 大変だったんだよ! これだけ魔法の力がありそうな何かを作るのは。一応埋められたものは我々で回収するんだけどね。   自然にやさしい素材だから、埋めたまま見つからなくても、土の中で分解されて環境に影響を与えないんだ! アリス なんて無駄に高性能。 学長 アリスくん、だったね。 アリス はい。そうですけど。 学長 今回は我々のテストに巻き込んでしまい本当に申し訳なかった。心から謝罪をしたい。(と、頭を下げる) アリス そんな! 別にいいですよ。あたしも色々学ばせてもらったっていうか。なんか、決心できたっていうか。だ(から頭を上げてください) 学長 (と、頭を上げて)そう言ってくれると助かる。くれぐれも、このことは―― アリス はい、言いません。 学長 SNSにあげたりはしないでくれ。ツイッターとか。インスタとか。LINEのタイムラインなんかもだめだ。 アリス そっちか。はい。大丈夫です。 学長 では、のどかくん。また学校で。 のどか はい!     と、学長は去る。 12 エピローグ アリス 終わったの? のどか うん。なんかあっという間だったなぁ。(と、膝から崩れる) アリス ちょっと、大丈夫? のどか 緊張がとけて、なんか、疲れが一気にきた。ちょっと眠い。 アリス 緊張感あったようには思えないけど。でも、良かったね。魔法使い続けられそうで。 のどか うん。アリスは大丈夫? アリス あたしは……うん。あたしは大丈夫。 のどか そっか。良かった。 アリス ねえ、のどか。 のどか なに? アリス 頑張ろうね。あたしらさ。お互い、多分なるの自体は簡単なんだ。名乗ればすぐなれるっていうか。でも、それじゃ意味ないっていうか。 のどか あたしもそうだよ。資格があるわけじゃないし。名乗るのは自由だからね。 アリス 努力はもちろん大事なんだけど、それよりも才能というかセンスが大事なんだとアタシは思う。あと、誰かの笑顔のために頑張るって決意。 のどか あたしも。才能ないけど、でも、誰かを笑顔にできるような力が欲しいなって。 アリス いちばん大事なのは、諦めないこと。叶わないかもって思う暇があったら前を向いて、努力して。自分にできることを探して。    そうやって、進んでいるうちに、ある日なっていたらいいなって思う。 のどか 最初に「ま」がつく職業だね。 アリス うん。お互いにね。 のどか 一緒に言う? いつかみたいに。 アリス いいよ。同時にね。 のどか うん。絶対なるぞ! せえの! 同時に のどか 魔法使い! アリス 漫才師!     二人は笑う。ふと、アリスは前を向く。アリスだけに光が集る。 アリス ここからは、少し未来の話。忙しい日々にため息を付きそうになるのをこらえて。丸まりそうになる背中を必死に伸ばして生きているある時、昔の友人から電話がかかって来たわけ。     と、近くに電話を持ったひかりが現れる。ひかりだけが舞台上にいる     状況になる。中学校の教員風。アリスの着替え時間分、ひかりは語っている。 ひかり アリス? あたしあたし。そう、ひかり。元気だった? あ、テレビ見たよ。なんか若手特集みたいなの。すごいね。    テレビに出られるようになったんだね。あたし? 聞いてよ、最近の中学生って何考えてるか本気でわからない。将来の夢は?     って聞くとさ「別に」って。好きなものとか、興味あることはないのって聞いてもさ、「別に」って。そりゃ中学から    進路を決めろって迫られるのもしんどいとは思うよ? 思うけどさ。好きなものくらいあれよって思わない? 別にいいじゃん。    パンが好きだからパン屋になりたいでも。そりゃ「パンになりたい!」って言われたら止めるけど。    でも、アニメが好きだから声優の勉強をしたいでもいいじゃん。色んな仕事があるんだからさ。まずは興味を持つことから始めないと   ……って、ごめん忙しいのに愚痴っちゃって。でさ、あたしの生徒に一人アリスみたいな方向目指したいって子がいて。    少し経験者として話をしてやってくれないかな? どんな決心したとか。苦労した話とかでも良いから。     と、その間に休憩中の若手芸人風に着替えたアリスと、     少し態度の悪い中学生がいる。中学校の教室の一角。 アリス って話で頼まれたんだけどさ。って言ってもね。あたしの経験って特殊だから。うーん。何から話せば良いのかな。……そうだ。友達っている? 中学生 友達ですか? それ、将来の夢と関係ありますか? アリス あたしは関係あったんだ。これ本当は秘密な話だけど。ま、いいか。あたしの友達にね。すごい馬鹿な夢を……って、    あたしとそう大差ないかもしれないけど叶えた子がいるの。ほまれのどか。中学時代、のどかとの会話で一番覚えてるのは、    中三の夏休み前、親を交えた三者面談のとき。その日あたしは先生と親に初めて自分の進路の希望を話して……    結果めちゃくちゃ怒られたんだ!     魔法使いの姿をしたのどかが現れる。     自慢気に胸を張るが、セレナに頭を叩かれる。     セレナとのどかはチームを組んでいる。セレナは依頼の話をし、     のどかは嬉しそうに話を聞いている。今回の依頼はかつての学園から。在校生からマジカルストーンを奪うというもの。     どこかに学長が二人の生徒を呼び出している。     片方は優秀な生徒、もう片方は最下位な生徒。     学長は二人にマジカルストーンを与えている。          話すアリスに、中学生の姿勢は徐々に前のめりになっていく。     舞台がゆっくり暗くなっていく。 完