サクラチル 下 まちぼうけ
作 楽静


登場人物

ウキタ カナエ 21歳 女。本編のおそらく主人公。ヤスオに惚れていたが引越しで離れ離れになる。
サトウ  ツカサ 21歳 男。カナエに片思いをしている大学生。中学・高校とカナエとは同じ学校だった。
サクライ ジュン 25歳 男。幼いころに幼馴染だった恋人と埋めたタイムカプセルを探しにやってくる。
オクムラ ラクノスケ 29歳 男。サクライの幼馴染の兄。妹想い。サクライを追い回す。
キノサキ アイ 年齢不詳。 女。方向音痴。占い師を職業にしている。のんびり屋。
      ユイ 年齢不詳  女。かの有名な名探偵の孫の従兄弟の友達の妹の子供の妹。
姉に負けぬ方向音痴。探偵を職業にしている。せっかち。
ハタ ヤスオ 21歳 男。カナエに惚れていたが引越しで離れ離れになる。
    ヨシコ 23歳 女。ヤスオの姉。弟思いのお姉さん。心配性。
脈略無く一言だけしゃべる。


※ 初演時声は録音で音響によるSE扱いでした。
※ 途中同性愛を揶揄するような表現がありますが悪意はありません。

0 オープニング(3年前 2003年 3月 某日)

    季節は春。もうじき4月になろうというくらいの穏やかな休日の一こま。
    公園のサクラの木下にはベンチがあり、剥げかけたペンキが年期を思わせる。
    あたりは緑。芝生が風に波たち、暮れかかった夕日の赤が、彩を添えている。
    鳥の鳴き声が聞こえる。せわしなく鳴く声は巣へと戻る合図だろうか?
    夕焼けの赤が一瞬強まり、あたりは溶けるように闇に包まれる。

    ピアノの伴奏が始まる。
    開演

    再び夕日の情景が浮かぶころには、舞台に二人の姿が見える。
    カナエと、ヤスオである。
    ベンチからは二人離れて、お互いの傍にある木を見上げている。
    カナエが見上げているのは一本の桜の木のようだ。


カナエ&ヤスオ 「桜の木の下には死体が埋まっている」と言ったのは誰だっただろう。ここまで出ていたのに、
        その時の私は思い出すことが出来なかった。でも、そんな不吉な言葉をつい信じたくなるほど、
        あの日の桜はあだめくように綺麗で、けれど私達は同じ時を刻みながら違う桜を胸に刻んでいた。


    ヤスオが何かを諦めるようにベンチに座る。
    その目がカナエを見る。カナエは桜の花びらに届かすよう手を伸ばす。
    掴もうとしたのは何だったのか分からないまま、つかめずにその手を離す。


カナエ&ヤスオ 別れの兆しが見えていた。キザに足を組んで、片思いばかり勇み足で。あなたの顔も見れず。
         桜を見ていた。


    ここからの会話はすべて同時に発せられる。
    同じ気持ちを抱き同じ時を生きてきた少年と少女の最後の会話は、
    偶然のいたずらに魔法がかかったかのように、同じ言葉をつむぎながら互いの気持ちをさらけ出す。


ヤスオ 綺麗だな
カナエ 綺麗よね

ヤスオ&カナエ え?

ヤスオ 桜?
カナエ 桜

ヤスオ&カナエ うん

ヤスオ&カナエ ……ねぇ

ヤスオ&カナエ なに?

カナエ 話があるの
ヤスオ 話があるんだ

ヤスオ 先にいいなよ
カナエ 先に言ってよ

ヤスオ&カナエ じゃあ


    そして、照れ笑いし、また同時に、


ヤスオ&カナエ どうぞ

ヤスオ ……うん。わかった。


    そうしてヤスオから言い出すはずが、カナエがこらえられなくなる。


ヤスオ 俺さ、

ヤスオ 俺引っ越すんだ。
カナエ 私引っ越すの。

ヤスオ&カナエ いつ?

ヤスオ&カナエ 明日

ヤスオ&カナエ 同じ日?

ヤスオ&カナエ そっか

ヤスオ&カナエ え、同じ日?

ヤスオ&カナエ そっか

ヤスオ&カナエ それで?

ヤスオ&カナエ いいよ、そっちからで

ヤスオ&カナエ じゃあ、言うよ。

ヤスオ 好きな人がいるんだ。
カナエ 好きな人がいるの

ヤスオ&カナエ え、好きな人いるの?
ヤスオ&カナエ そっか。


    カナエの心にヤスオの言葉はあまりにも残酷で。
    それが自分のこととはとても思えず、思わずうつむく。


ヤスオ 俺さ、
カナエ ヤスオ。


ヤスオ え?

カナエ ごめん。ちょっと。


    カナエは桜の木による。
    わざとしく目をこすり。


カナエ ちょっと、花びらが目に入ったのかも。

ヤスオ まだ桜が散るには早いよ。

カナエ ううん。もう、散り初めだよ。


    カナエが木を見上げる。
    つられるようにヤスオも見上げる。
    何かを掴むように伸ばしたカナエの手はやっぱり何もつかめなくて。
    空の手を寂しそうに見て、カナエはヤスオに無理やり微笑む。


カナエ なんてね。
ヤスオ カナエ?


    カナエはふと、遠くを見るように独り語る。


カナエ 「目は口ほどにものを言う」と言ったのは誰だっただろう。ここまで出ていたのに、
    その時の私はたった一言が言葉に出せず、出さないままに伝わるのが怖くてただ桜を見ていた。
    あの日の桜はあだめくように綺麗で、けれど同じ時を刻んでいた私達はこれから違う桜を胸に
    刻んでいくのだろうと一人思った。桜に魅せられ、見せかけの私を残して大切な何かが風に乗って
    流れていった。捕まえたくて手を伸ばしたのに……花びらさえこの手には掴めなかった。


    二人の間を切り裂くように闇が二人を包み込む。

    スクリーンに文字

       注意! 演劇をご覧になるときは適度な姿勢でリラックスしてお望みください。
       そんなに悩まれるほど世界は複雑に出来ておりません


       この作品はフィクションです(たぶん)

       
       ――一人のときあんなに口に出したのに
         たった一言が声になってくれなくて
         私はまた独りになる――

    スクリーンに情景が映る。
    公園。砂場。男女。子供達。
    ほほえましい光景が次々と映し出される。

    そして、結構な速さで文字が入り乱れる。
    その言葉と一緒にまるで台詞を言っているように役者の絵と人物名

       「コメディだって言ったじゃない!?」(カナエ)
       「校長の話が何で長いか知っている?」(ジュン)
       「おじーちゃーん」(ラクノスケ)
       「ここまであたしを苦しめたのはあんたで17人目よ」(アイ)
       「クリ○ンの事か〜!」(ヤスオ)
       「この電話番号は現在使われておりません」(ヨシコ)
       「すべては作戦のためか」(ツカサ)
       「そうよ。私こそがラスボス」(ユイ)
       
        注 なんて台詞は一言も出てきません

       『劇団TABASUKO 第四回公演』
        サ ク ラ チ ル 下 ま ち ぼ う け

       三年後


    スクリーンに最後の文字が出た後、ゆっくりと文字が溶けて消えていく。
    と、同時に照明に明りが入る。
    2006年の3月某日である。


1 2006年3月某日 昼


    のどかな公園。
    春の日差しが暖かく辺りを包んでいる。
    と、ツカサが車の鍵を回しながらやってくる。
    その後ろからカナエも。


ツカサ あ、ほら。ちょうどいい場所。ベンチもあるし。

カナエ ごめんねぇ。急に連れて来てもらっちゃって。

ツカサ いいんだよ。久しぶりにドライブもいいかなって思ってたし。

カナエ こんな日しか休み取れなくって。

ツカサ 俺は春休みですから。こき使っちゃってよ。

カナエ うん。今度なんか奢るね。

ツカサ 期待しないでおく。

カナエ もう。(と、席に着きながら)……変わってないなぁ。

ツカサ カナエこそ。変わってないよ。いやちょっとケバくなったか。

カナエ うるさい。そうじゃなくて、ここ。

ツカサ 最後に来たのは?

カナエ 三年前。

ツカサ そっか。それじゃあ、あれ、見たことないだろ。


    と、ツカサは観客席をさす。


カナエ なに? サル?

ツカサ オブジェってやつ。無駄な金使うよなぁ。

カナエ なんか、夜見たら怖いかもね。

ツカサ 昼間でも十分怖いって。あ、(客に)あなたのことではないですよ。一応。

カナエ でもよかった。三月のうちに来られて。

ツカサ 四月から何かあるの?

カナエ んー、また移動になるかもって。

ツカサ また遠くに行くのかよ。今でも十分だろ?

カナエ しょうがないよ。仕事だもん。

ツカサ 実家には帰ってんの?

カナエ 帰れてない。

ツカサ 俺は絶対そんな移動ばっかの会社には入らないね。

カナエ そういえば、今年だよね?

ツカサ しまった。やぶへびだったか。

カナエ どうするの?就職。考えてるの?

ツカサ さぁ。(小声で)それより、卒業のほうが危うかったりぃ。

カナエ ツーカーサーくーん?

ツカサ はーぁい?

カナエ あれほどまじめにやんなよって言ったでしょ。

ツカサ 仕方ないだろ。はまっちゃってさぁ。


    と、ツカサは親指でスロットを目押しする動き。
    カナエも同じ動きをし、


カナエ ……男?

ツカサ はまるか!

カナエ そんな趣味が!?

ツカサ 違うって。

カナエ だから彼女も出来ないで? 毎日男といちゃいちゃいちゃいちゃ。え、どこまで? ってああ、そんなとこまで。
    あ、駄目、無理無理! うわああああああ。


    カナエが発作のように自分の体を抱きしめる。


ツカサ カナエさーん。戻ってきて〜。これはスロットって意味なのよ〜。戻ってきて〜。

カナエ ……なんだスロットか。もう、いきなり変なことするから想像しちゃったじゃん。

ツカサ どんな想像をしたのかは聞かないことにする。

カナエ って、スロット!? おい! ツカサ!

ツカサ はい!

カナエ あれほど賭け事には手を出すなって言ったでしょ!?

ツカサ 出しました!

カナエ あんたは根が単純だから損しかしないって。

ツカサ 損しかしてません!

カナエ だったら辞めろ!

ツカサ はい!って、お前は俺の母親か。

カナエ お姉さんって言ってよ。

ツカサ 二ヶ月だけだろ。

カナエ 社会経験で言ったら三年よ。

ツカサ 社会人だっていばるなら、運転手にタクシー代くらい気前よく出すんじゃないですかね。

カナエ それとこれとは話が別。

ツカサ はいはい。

カナエ それで?

ツカサ 「それで?」?

カナエ 就職。

ツカサ ああ。まぁ、ぼちぼちね。俺よりヤスオの方が(「やばいよ」と、言いかけて止まる)

カナエ ……ヤスオ、大変なの?

ツカサ いや、まぁ。……連絡取ってないの?

カナエ メールだけ。あんまり込み入ったこと聞かないから。

ツカサ そっか。まぁ、やっぱり難しいらしいよ。就職はこっちでしたいようなこと言ってたし。

カナエ 帰ってくるの?

ツカサ 帰ってるよ。

カナエ 帰ってるの!?

ツカサ そりゃこっちで就職するんならね。帰るだろ?

カナエ ふーん。

ツカサ なんだよ。

カナエ 仲いいじゃん。

ツカサ 腐れ縁。何年だと思ってるんだよ。

カナエ いいなぁ。男同士の友情って。入れないよね。女じゃさ。

ツカサ そんなことないよ。

カナエ ヤスオなんて、自分が受ける大学も教えてくれなかったし。

ツカサ お前だって俺らに就職先教えてくれなかったじゃんかよ。

カナエ まぁね。そりゃあ内定取れるか分からなかったし。

ツカサ 取った後もギリギリまで地方に移動するなんて言わなかった。

カナエ だって、どこ行くか分からなかったし。

ツカサ 引っ越すときも前日になってやっと教えてくるし。

カナエ なんか、実感わかなくて。

ツカサ 結構傷ついたんだからな。

カナエ ……泣いちゃった? 

ツカサ ああ、そりゃあ。大泣きしたよ。

カナエ 泣き虫だもんね、ヤスオは。

ツカサ え?

カナエ え? あれ? ごめん。ヤスオの話じゃなかったっけ?

ツカサ あ、うん。そう。あいつ、泣きながら引っ越してったから。

カナエ じゃあ、お互い様か。

ツカサ そうそう。

カナエ 私も、いっぱい泣いたよ。

ツカサ そっか。


    カナエが木を見上げる。


ツカサ なぁ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?

カナエ なにを?

ツカサ 何しに来たんだよ。ここに。

カナエ 何しに?

ツカサ せっかくの休日に、高速使って地元帰ってきたってのは、公園でボーっとするためじゃないだろ?

カナエ ボーっとか。それも、いいね。

ツカサ はぁ?

カナエ なんかね。のんびりしたかったんだ。きっと。

ツカサ なんだそりゃ。


2 同日 遭遇


    と、そんな話の途中にアイが現れる。
    何か紙を見ながらのんびりと、ぶつぶつと歩いてくる。


アイ あれが、木。うん。色は薄桃色。よし。大丈夫。あっと、危ないところだったわ。黒を踏むところだった。
  運気を下がる運気が下がる。(と、時計を見て)あら嫌だ。やっぱり時間を過ぎちゃった。ユイったら怒ってるわね。
  ……うん。今日は私怒られる日ね。大丈夫占いどおり占いどおり。あ、また一分過ぎた。
  ユイはもうカンカンねうん。大激怒。短気な相だもの。短期は損気。短期は損気。


    と、アイは去っていく。


ツカサ なんだあれ?

カナエ さぁ?

ツカサ まぁ、春だからなぁ。

カナエ 春だもんねぇ。


    と、意識せず同時に、


ツカサ 出会いの季節だな。
カナエ 別れの季節だよね。

ツカサ&カナエ え?

カナエ ……ううん、なんでもない。

ツカサ ……なぁ、

カナエ 喉渇かない?

ツカサ カナエ。


カナエ ちょっとしゃべりすぎたかな。喉渇くよね。

ツカサ カナエ。

カナエ そういえば、朝からあんまり水分とってないんだった。ツカサも何か飲んだら? 
    飲み物くらいだったら、奢ってあげるよ?

ツカサ お前、なんかあったの?

カナエ なんで?

ツカサ いや、別に、なんでもないんならいいんだ。なんでもないんなら。

カナエ うん。

ツカサ なぁ、カナエ。

カナエ だからなに?

ツカサ ……30秒待て。

カナエ はあ?

ツカサ いいから。30秒だ。よーいスタート!


    ツカサの勢いに乗せられてカナエが数え始める。


ツカサ (自分に言うように)何だよお前。何びびってるんだよ? びびってなんかいないよ。いないよな? 
    いないって。よーし。言うって決めたんだろ? 決めた。チャンスじゃんか? チャンスだよ。チャンスか?
    チャンスだって。こんないいシーンないって。でも落ち着け。台詞噛むなよ。さぁ、にっこり笑って。
    (にっと笑う)しまった。歯入れてきてないんだ。(※このときの役者が差し歯だったのです)笑顔は辞めよう。
    クールだ。クールに決めろ。いいな? よし。落ち着くぞ。さぁ、落ち着いた。いける。 今何秒だ!?

カナエ (数えてたら最後まで数えて)それで?

ツカサ ……あと、10秒。


    カナエが数え始める。


ツカサ (自分に言うように)何やってるんだよお前。だって初めてだもんよ。うるさい。言うしかないんだから言え。
    な。言える。お前は言えるよ。うん。

カナエ 数え終わったよ。

ツカサ もう!?

カナエ まだ数えるの?

ツカサ いや、いいです。じゃない! いいよ。カナエ。話がある。

カナエ だからなによ。

ツカサ えっと……(ちょっとクールに)ああ、見事な桜だよな。

カナエ そうね。

ツカサ 桜の下には死体が埋まっている、なんて言った人いたよなぁ。誰だったかわからないけど。

カナエ 梶井基次郎。

ツカサ え、そうなの?

カナエ そうよ。それで?


    と、このあたりでユイが入ってくる。


ツカサ それでって……ああ、それで俺、一度本当かなって思って掘ってみたことあるんだよ。
    でも、出て来たのはゴミばっかで拍子抜けしたっけ。あはは。って、何言ってるんだ俺。

カナエ 私の台詞よ。

ツカサ そっか。そうだよな。あのな、カナエ。

カナエ なに?

ツカサ 俺さ、ずっと……


    と、ツカサの目がユイに止まる。
    ユイはすべて分かっていると言うような温かい目でツカサを見ている。


カナエ ずっと?

ツカサ いや、その、ずっと、


    ユイは自分を気にせず続けるようにジェスチャ。
    しかし、ツカサは続けられない。


カナエ どうしたの?

ツカサ いやぁ。なんというか……誰ですか?


    ついにツカサは諦めてユイに語りかける。


カナエ え?

ユイ ごめんなさい。邪魔する気はぜんぜんなかったの。本当になかったのよ? いや、若いっていいなって。うん。
  若いっていいなって思ってた。青春よね。青い春。まさに、今日のように晴れ渡った青空にふさわしいわね。
  そう思わない? 思わない? 思うでしょ!?

ツカサ は、はい。

ユイ そう。そんなすばらしい日に若人が、桜の木下で語り合う。語り合いなさい。若人よ。うん。いいものを見たわ。
  お陰で怒りがどっかに飛んでいっちゃった。もうぱーっと。あ、落ちてきた。


    と、途端にユイは機嫌が悪くなる。


ユイ だめ。やっぱり駄目。腹が立っているときは何だって腹立たしいわ。てか、ああ、もういいわ。
  言いたいことはあったけど言わない。なに? 聞きたいの? 原稿用紙にしたら300枚くらいになるけど。

ツカサ いや、さすがにそんなのは。

ユイ でしょう。推測どおり。ところで青年。ここら辺で頭のねじが一本飛んだような女の人を見なかった? 
  とっても不満なことにあたしに良く似ている女なんだけど。

ツカサ ああ、それならさっき……


    と、ツカサが言う前に。


ユイ いい。言わなくていい。推理するから。青年が見たということはあの女が少なくとも
   一度は目撃されたということよね。ということは公園には来ている。来ているのにかかわらず電話に出ない
   ということはつまりは出られない状況。誘拐? もしくは殺人。に、見せかけて私を探しているってところね。
   ふっふっふ。腕が鳴るわ。

ツカサ え、でも、(と、アイが行った方を指そうとする)

ユイ いいのよ青年。素人が口を挟むものじゃないわ。しかし、姉さんもやってくれるわね。
  まさか待ち合わせ程度のシンプルなシチュエーションでこんな深い謎を用意するなんて。待ってなさいよ。
  真実はいつも人の心の数だけあるのよ。


    と、決め台詞っぽいことを言うと、来た道を戻っていく。
    アイが行った方向とは反対方向である。


カナエ ……なんだったの?

ツカサ さぁ。

カナエ あ!

ツカサ え!? なに?

カナエ さっきの人の知り合いなんじゃない?

ツカサ まぁ、そりゃあありえるな。

カナエ 大変。反対方向よ、あっち。大丈夫かなぁ。

ツカサ ……仕方ないなぁ。俺がちょっと行って教えてくるよ。

カナエ 本当?

ツカサ ああ。すぐ戻るから、ちょっと待っててね。

カナエ 私もいくよ?

ツカサ いや、いい。すぐだから。待ってろ。

カナエ う、うん。分かった。


    ツカサは敵でも見るようにユイが去った方向をにらむと、去っていく。


3 同日 サラリーマンとの騒動


カナエ ……変わったなぁ、ツカサは。ちょっと前までヤスオよりも、意気地なかったくせに。「待ってろ」だって。
    ……三年か。そりゃ変わるよ。うん。変わるさ。


    カナエが椅子を立ち、木に近寄り見上げる。
    そこへ、ジュンがやってくる。
    ジュンはカナエに声をかけられずにいる。
    カナエはジュンに気づいていない。


カナエ 変わらなきゃな。私も。変わらなきゃ。……いつまでもひきずっていたって仕方ないもんね。
    大切なもの、ちゃんと見つけないと。さて問題。私は何をなくしたのでしょう。
    なーんて、答える人はいないけどね。

ジュン ……あのぉ。すいません。

カナエ でも、ツカサもかっこつけすぎよね。話があるとか言って、結局しないし。どーせ単位が足りないとか
    だろうけど。よし。来たら脅かしてやろう。うん。後ろ向いて立ってて、ちょっと肩を落として。
    声かかるまで待って。

ジュン あのぉ。

カナエ ばぁああって……


    カナエはものすごい変な顔をしてジュンに向く。
    ジュンは固まる。
    カナエも固まる。


ジュン ……どうも。

カナエ おいっす。

ジュン ……驚いたほうがいいんですか? こういう場合。

カナエ (首を振る)

ジュン (ので、仕方なく)フっ(と、笑ってみる)

カナエ 生きててごめんなさいーーー!!


    カナエはいきなりベンチの角に頭をぶつけようとする。


ジュン ちょ、ちょっと待てください。辞めなさいって。早まるな!

カナエ いいの。私なんてベンチの角に頭ぶつけて死ぬのがお似合いの女なの〜。

ジュン 馬鹿やろう。


    ジュンはカナエを殴りつける。
    なんかスポ魂な音楽が流れる。


カナエ ああっ。

ジュン 諦めるのか? こんなところで諦めるのがお前の青春なのか!?

カナエ コーチ! でも無理です。もう、私には出来ません。

ジュン 出来ないと思っているから出来ないんだ。立て! 歯を食いしばって立ち上がり、
   その両足にしっかりと大地を踏みしめろ!

カナエ 立てません!

ジュン 甘ったれるな。馬や鹿は生まれたときに自分で立てなきゃ死ぬしかないんだ。10年以上も親元で
    ぬくぬくと暮らしてきたお前が、いまさら甘ったれたこというんじゃない!

カナエ 立てないほどしごいたくせに!

ジュン ああ。しごいたさ。しかしすべてはお前を信じたからだ。

カナエ 私を?

ジュン お前の勝利への熱い想いを。そしてこの白球への魂の叫びを聞いたからこそ、俺はお前をしごいたんだ。
    ここでお前が立てなければ、それは俺を裏切るだけじゃない。この白球にこめたお前の思いさえも
    裏切ることになるんだぞ!

カナエ 私の、思い。

ジュン 勝ちたいんじゃなかったのか!? 魂が叫んでいたんじゃなかったのか!

カナエ そう、私は勝つために。それだけのために生きてきた。

ジュン ならば、立て! 立つんだジョー!

カナエ 私は、立つ!


    と、カナエはなぜかボクシングの構えをしている。
    ジュンはミットを両手にはめているらしい。


ジュン よし、打て。右だ。左だ! 次はワンツー!

カナエ はい!


    と、カナエのこぶしはミットに入らずすべてジュンに突き刺さる。
    ジュンは思わずひざをつく。


カナエ 親父!

ジュン 大丈夫さ。これしき。

カナエ ごめん。親父。

ジュン ばか、何で謝るんだ。出来たじゃないか。幻の左。

カナエ まさか、親父はそれを教えるために。

ジュン ばかやろう。偶然だよ。だが見てみろ。

カナエ え?

ジュン 今夜はあの星がやけに輝いてやがる。お前の星。巨人の星がな。

カナエ ああ! はっきりと見えるよ!

ジュン ……そろそろ、恥ずかしくなってきたのでやめていいですか?

カナエ あ、はい。


    ジュンはカナエから距離をおく。


カナエ すいません見ず知らずの人に命を助けてもらったばかりか幻の左まで授けていただいて。

ジュン いえ、状況に突っ込みを入れることも出来ず流されたのは俺ですから。俺が悪いんです。

カナエ はい。

ジュン フォローはなしか。

カナエ あ、すいません。

ジュン いや、いいんです。独りですか?

カナエ ナンパなら間に合ってます。

ジュン え?

カナエ あれ? ナンパなら受け付けません? ナンパなら間違ってます? ナンパなら海でしろ? すいません。
    こんなときなんていうか良く分からないんで。

ジュン いや、そうじゃなくて。

カナエ もしかして、人の目がないことをいいことに誘拐して臓器を闇ルートに流される!? 
    タバコも酒もやらない20代の女性の内臓なんて貴重だからきっと数億円の価値がつくに違いないものね! 
    あぁあ、でも、倉庫で闇取引の相手を待っているときに「どうせ二度と使わない体だ。少しくらい楽しんだって
    文句は言われまい」なんていわれて。いやぁあ。ヤクザいやぁぁあああ。


    カナエは両手で自分を抱いて苦しむ。


ジュン あのぉ。見知らぬ人。全然そういうのじゃないから戻って来てください。おーい。

カナエ 違う?

ジュン 違う違う。ヤクザじゃない。俺はこういうものです。


    と、ジュンは名刺を出す。


カナエ なんだ。びっくりした。サクライジュン?

ジュン ええ。まぁ、いわゆるただのサラリーマンです。

カナエ すいません。昔から考え出すと変な方向にどんどん突っ走っちゃって。

ジュン いやいや。落ち着いてくれたのならいいんです。(それで)

カナエ そうですよね。こんなところにヤクザがいるわけ……まって!

ジュン なに?

カナエ なぜ、いわゆるただのサラリーマン・サクライジュンが平日の昼間に公園に?

ジュン いや、それは

カナエ 普通ならば今頃欝になりながらデスクワークに追われているはず。まさか、
    いわゆるただのサラリーマン・サクライジュンというのは世をしのぶ仮の姿で、本当は、

ジュン だから違いますって!

ツカサ カナエ!


4 同日 誤解からの争い


    ツカサが戻ってくる。


ジュン いや、あの、これは違うんですよ。

ツカサ 問答無用だ!

ジュン 話を聞けよ!


    ツカサのこぶしをジュンは逃げて思わず構える。


ツカサ その構え、空手か。

ジュン こう見えて俺は段を持っているんです。戦ったら怪我をするから冷静になりましょう。

ツカサ 面白い。一度違うジャンルの人間と戦ってみたかったんだ。

ジュン え?


    と、ツカサはボクシングのポーズを取る。


ツカサ ライセンスは取ってないから。安心してぼこされてくれ。

ジュン ちょ、ちょっと待て。冷静になりましょうって。ね。

カナエ ツカサ、気をつけて。

ツカサ 分かってる。

ジュン おい!

カナエ 彼は殺しのライセンスを持っているわ。


    間


ツカサ&ジュン なにぃ!?

ツカサ (カナエに)それは、さすがに無いだろう?

カナエ あれ? だって、こんな昼間なのにただのサラリーマンだなんて言うから。

ジュン しっかり仕事はしてますよ。(と、鞄を見せる)俺の仕事は外回りなんです。
   営業の合間にサボっているだけです。

カナエ なんだ。ちょっと勘違いしちゃったわね。

ジュン ちょっとじゃない。

ツカサ まぁ、悪気は無いんです。許してやってください。

ジュン 別に。誤解が解けたんならいいですが。(それより君たち)

カナエ (台詞を食うように)ツカサ、さっきの人は?

ツカサ ああ。なんか、「青年の手は借りない」って怒られた。ほら(と、指を見せる。その指は赤いらしい)

カナエ どうしたの?

ツカサ 指で道さそうとしたらはたかれた。余計なお世話だってさ。

カナエ まぁ、そこまで広いわけじゃないし。いつか会えるかな?

ツカサ いつかな。


    と、ジュンが思い切り足踏みする。


ツカサ あれ?

ジュン 俺も結構我慢強い方だと思ってたんですけど、まだまだみたいだ。

ツカサ なんですか?

カナエ そういえば、何か用があるんでしたっけ?

ツカサ そうなの?

ジュン そういえばじゃなくて、用があるんですよ。そこに。(と、木の根元らしいところを指す)

ツカサ そこ?(と、指の先はちょうどカナエの靴下辺り)

カナエ 靴下?

ジュン え? いや、違う。

カナエ 私の靴下なんて何に使うの?

ジュン だから違う。

ツカサ カナエ。離れてろ(と、カナエを背に守り)こいつ、靴下フェチ男だ。

ジュン なんだそれは。

ツカサ 女性の靴下をこよなく愛する変態だろ。まさか、カナエの靴下にまで目をつけるとは。

ジュン お前らな、いい加減にしろよ? 大人な反応をしているのも、そろそろ限界だよ?

ツカサ ぺっぺ!(と、つばを吐く) よるな変態!

ジュン この、クソガキ……

ツカサ これでも食らえ!


    カナエはツカサの背に隠れている。
    と、ツカサは自分の靴下を投げつける。
    避けようとしながらもろに顔面にあたり、ジュンはひざをつく。


ジュン ……ふ、ふふふ、ふふふふ、ふふふふふふ。どうやら本気で俺を怒らせたようだな。

ツカサ やるか?(と、ボクシングの構え)


    ジュンは答えず靴を脱ぐと靴下を脱ぐ。


ジュン 中世では決闘の際に手袋を投げつけるのがしきたりだったという。
    ならば今俺に靴下を投げつけたお前への返答はこれだ!


    ジュンは靴下をツカサにぶつける。


ツカサ 決闘ってわけか。へぇ。やってやろうじゃん。


    ジュンとツカサはにらみ合う。
    カナエは二人の戦いをじっと見つめることしか出来ない。


カナエ こんなとき、私はいまさらながらに自分の弱さを悔やむのだ。もう分かっただろう。私がここで無くしたものは、
    きっと一言で表すならば勇気だ。ほんの一言言えればいいのに。「私のために争うのは辞めて!」
    そう、ほんの一言。……あれ? でも、私のために争ってるのか? あれ? 
    何でこんなことになったんだっけ? ねぇ、ツカサ。もしかしてさ。

ツカサ し。話しかけるな。今は、間合いを取ってるんだ。

カナエ 分かった。

ツカサ しかし、やるな。

ジュン あなたも。まさかこんなところで好敵手と出会うとは。

ツカサ 違う場所で出会っていれば。強敵(とも)と呼べたかもしれないな。

ジュン それはお互い言いっこ無しですよ。

ツカサ だったな。


    と、構えている二人をよそに、さっきと同じ方向からアイがやってくる。


アイ おや、喧嘩ですか。駄目ですよ喧嘩は。

ジュン あれ? あなたは。

アイ ああ、あなたは昨日占った方じゃないですか。どうです? 見つかりましたかタイムマシンは。

ジュン そんなファンタジックなものは探してません。タイムカプセルです。

アイ ですよ。見つかりましたか? あなたが小さいころ遊んだ公園の木の根元にあると教えてあげたでしょう?

ジュン ええ。まぁ、あの木の根元にあるはずなんですけどね。どうやら、その前に倒さなければならない
    敵がいるようなんです。

ツカサ タイムカプセル?

カナエ あ。やっぱり勘違いか。

ツカサ え? 嘘? そうなの?

ジュン だから、そういっているじゃんかよ!


    ジュンの叫びにあわすように暗転


5 同日 一方そのころ


    観客席から鳴り響く電話の音。


ラクノスケ声 もしもし。

ユイ声 はーい。わたし。

ラクノスケ声 私なんて名前の知り合いはいないが?

ユイ 相変わらずね。ユイよ。


    と、暗闇の中、ユイの姿が浮かび上がる。


ラクノスケ 知ってるよ。


    と、観客席に光が当たる。
    客席で電話をしているのがラクノスケだった。


ユイ どこにいるの?

ラクノスケ わりと近くだ。

ユイ へぇ。私見える?

ラクノスケ 案外はっきりとな。

ユイ 明りから外れていたりしない?

ラクノスケ (もう少し右だとか指示をして)大丈夫だ。しっかり入ってる。

ユイ ありがとう。見つけたわよ。

ラクノスケ なにをだ?

ユイ とぼけないで。探し物。

ラクノスケ なんだちゃんと仕事をしてくれていたのか。ついでにするとか言っていたくせに。

ユイ ついでよ。姉さんを探す途中でついでに見つけたの。

ラクノスケ なんで肉親よりも先に見つかるのかは分からんが、さすがは名探偵。仕事が速い。

ユイ おだてても安くはならないわよ。

ラクノスケ それでは、そちらに向かう。

ユイ 早くしてね。私も探し物があるんだから。

ラクノスケ 見つかるといいな。

ユイ 見つからないと困るわよ。今日こそは一緒に映画を見に行く約束になっているんだから。

ラクノスケ 待ち合わせしないで一緒に行けばよかったんじゃないか?

ユイ 二人とも探すのがすきなのよ。

ラクノスケ なるほどね。では、後ほど。

ユイ ええ。


    ユイが電話を切る。
    それから、あたりを見渡している。
    そして、電話をかけるそぶり。
    この間、すでにラクノスケは笑っている。


ラクノスケ とうとう手に入るのか。あれが。フ、フフフフ。


    と、手前からラクノスケに話しかけるものがいる。ヨシコである。
    ヨシコはスーツに腕章。腕章には『場内整理』の文字。


ヨシコ お客様。上演中は携帯のご使用は。

ラクノスケ あ、すいません。

ヨシコ それと、含み笑いのほうも。

ラクノスケ ああ。すいません。つい。

ヨシコ それと、お顔はもうちょっと明るい笑顔をされたほうが。

ラクノスケ すいません。生まれつきなんで。

ヨシコ というわけで、やんちゃカード三枚溜まったので退場していただきます。

ラクノスケ え。ちょっと。

ヨシコ お立ち下さい。ちょっと、こっちお願い。

ヤスオ はい。


    と、ヤスオも同じような格好で現れる。


ラクノスケ あの、でももうちょっと待てば俺、出番なんだけど。

ヨシコ 関係ありません。

ラクノスケ これひょいっとあがればもうね。それで楽しようって考えて。

ヨシコ せめてやんちゃカード二枚で止めていただければよかったんですけどね。顔が。

ラクノスケ 顔かぁ。気づかなかったなぁ。

ヨシコ またのご来場を心よりお待ちいたしません。

ラクノスケ あ、はい。じゃあ。


    と、ラクノスケはヤスオに引きづられるように連れて行かれる。


ヨシコ (観客に)大変お騒がせしました。

ヤスオ 置いて来たよ。

ヨシコ ヤスオ君?

ヤスオ はい?

ヨシコ 仕事場では敬語を使うようにっていったでしょう?

ヤスオ あ、わかりました。えっと、

ヨシコ ハタ。

ヤスオ ハタ主任。置いてきました。ちゃんと。

ヨシコ まぁ、いいでしょう。

ヤスオ なんか俺下っ端みたいじゃない?

ヨシコ 仕方ないでしょ。見習いなんだから。

ヤスオ うん。

ヨシコ 返事は「はい」 

ヤスオ はい

ヨシコ よろしい。そろそろ舞台の邪魔になるから行くわよ。

ヤスオ うん、あ、はい。


    ヨシコとヤスオが去る
    そのころ舞台にはユイの立っている反対方向に明りがつく。


アイ はい。

ユイ あ、姉さん?

アイ いいえ。

ユイ こら! 切るな! まて!

アイ なによ。ヒントは無しよ?

ユイ ヒントなんていらない。情報交換しましょ。

アイ それヒントじゃないの?

ユイ 違うって! いい? 私達がやっているのは何?

アイ 待ち合わせ。

ユイ そう。決してかくれんぼじゃないでしょう?

アイ そうね。

ユイ そこから何が見える?

アイ 木。

ユイ そんなことは分かってるんだよ!

アイ ユイちゃん怒鳴るのは体に良くないわよ。

ユイ (深呼吸をして)もう一度だけチャンスをあげる。今何が見える?

アイ 木。

ユイ この馬鹿姉!


    ユイは思わず携帯を地面に叩きつける。
    アイはしかめっ面をするが、携帯をしまい、


アイ これで携帯を壊してくれればますます探しにくくなるっと。さあて。私が先に見つけなくちゃ。


    アイはニコニコと去っていく。


ユイ くそ。絶対先に見つけてやる。


    ユイが肩を怒らせて去っていく。


6 同日 アイドルタイム


    照明がつく。
    そこはさっきよりも少し時間のたった公園のようだ。
    ベンチの上にタイムカプセル? なのかクッキーの缶がある。
    カナエとツカサとジュンが缶を覗き込んでいる。
    ツカサは少し挙動がおかしい。
    カナエは開けたそうに興味津々。
    そんな二人に、ジュンは早くどっかに行ってほしそうにしている。


ジュン いやぁ。すみませんね。手伝ってもらっちゃって。

ツカサ まぁ、元はといえば俺達の勘違いが原因だから。なぁ。

カナエ そうそう。開けません?


    カナエがいきなり開けようとする。


ジュン うわぁああ

ツカサ カナエ! いきなり何するんだよ!

カナエ だって。掘り出したのに開けないなんて変でしょ?

ツカサ これはこの人のだから。ねぇ。

ジュン あ、はい。すいませんけど……


    と、ジュンは明らかにどっかに行ってほしそうだが。


ツカサ ほら。な。

カナエ じゃあ、見てるだけ。私、タイムカプセルなんてお話の中だけだと思ってた。

ツカサ なんでだよ。普通にあるじゃんかよ。なんかの記念で埋めたりとか。

カナエ だって、埋めたまま忘れちゃったりするでしょう?

ツカサ 確かに。

ジュン 忘れてたんです。

カナエ え?

ジュン 場所も。ずっと忘れてて。当たり前なんですよ。だって、これを埋めたのはもう、
   15年以上前の話なんですから。

カナエ 一人で埋めたの?

ジュン あ、いえ。当時つきあっていた子と。

カナエ え? じゃあ、その人に届けに行くんだ?

ジュン いいえ。

カナエ なんで? だって、二人のでしょ?

ツカサ カナエ。

カナエ なによ?

ツカサ 察しろよ。

カナエ 何を?

ツカサ もしかして、もう、その人は?

ジュン ……はい。

カナエ ごめんなさい。

ジュン いいんです。もう。ずいぶんと、昔のことですから。

カナエ じゃあ、開けようか。

ジュン え?

ツカサ おい、ちょっと待て。

カナエ なに?

ツカサ つながらないだろ、「じゃあ」に。

カナエ そう?

ツカサ そう? じゃないよ。ねぇ?

ジュン え? いやあ、ねぇ?

カナエ 別にいいじゃない。あ、もしかして、そんな変なものが入ってるの? 
    まさか!(と、両手で体を抱こうとするが、)

ツカサ&ジュン 変なものなんて入ってない!

カナエ ……そんな二人して怒ること無いのに。

ジュン なんであなたまで怒るんです?

ツカサ え? だって、入ってないんでしょ? 変なの。

ジュン もちろん。

ツカサ だと思った。

カナエ 変ね。

ツカサ 何が!?

カナエ ツカサ、なんか変。

ツカサ どこが!? 何も変じゃないよ。ねぇ?

ジュン いや、俺は知りませんよ。

カナエ なんか変にあせっているし。

ツカサ アセッテナイヨー?

カナエ 片言だし。

ツカサ 焦ってないぞ。

カナエ 歯、ないし。

ツカサ 歯のことは言うな!

カナエ トイレ?

ツカサ は?

カナエ トイレ我慢してるの?

ツカサ え? あ、そうそう! 実は! よくわかったな。

カナエ もう、汚いなぁ。行ってきなよ。開けないで待っててあげるから。

ジュン いや、これ私の。

ツカサ 気にしなくていいですからね。帰っていただいても自由ですから。うん。
    そのほうがのんびり開けられるかもしれないし。

カナエ 余計なこと言ってないでさっさと行く!

ツカサ 早まっちゃ駄目ですよ。


    ツカサは急ぎ足で去る。


カナエ よっぽど我慢してたんだなぁ。

ジュン あの、じゃあ俺はこれで(と、去ろうとする。)

カナエ 待て。

ジュン これは俺のなんですよ!?

カナエ チラッとだけ!

ジュン どうせそんなたいしたものは入ってないですから。

カナエ 本当チラッと。もう、隙間から見れば満足するから。

ジュン ……本当ですか?

カナエ はい。

ジュン じゃあ、少しだけ。

カナエ やった。

    
    ジュンは缶を開けようと手を伸ばす。


ジュン あれ? セロテープついてる。

カナエ つけたんでしょ?

ジュン そんな細かいこと考えたかなぁ?


    ジュンがセロテープをつめではがしにかかっていると。


7 同日 さらなる混乱


ラクノスケ声 フフフフフ


    と、妙にエコーがかかった声が流れてくる。


カナエ え? なにこれ……

ジュン この声は。

ラクノスケ声 フフフフフ。フフ(と、咳き込む)フフ(咳き込む)フ(咳き込む)

カナエ&ジュン 笑うのか咳き込むのかどっちかにしろ!


    と、ラクノスケが現れる。


ラクノスケ すまんな。笑いなれていないのでね。

ジュン どうしてここが?

ラクノスケ 優秀な探偵が教えてくれたよ。お前が易者を頼ったとね。そして、この場所にあれがあると。

カナエ だれ?

ラクノスケ 新しい恋人か?

ジュン 違う。さっき知り合ったばかりの子ですよ。

ラクノスケ さっき知り合ったばかりの子にもう手を出したのか!

ジュン 誤解です。俺は義兄さんが思っているほど(軽くないんですよ)

ラクノスケ 義兄さんとは呼ぶなって言っただろう!?

ジュン すいません、つい。

ラクノスケ お前にその名前で呼ばれるとこう、背中の辺りがぐわーーーってして来るんだよ。分かるか!

ジュン すいません。

ラクノスケ お前と俺は他人だ。まったくの他人だ。そう言っただろう!

ジュン ごめん他人。

ラクノスケ 他人って呼ぶな!

カナエ わがままな人?

ジュン かなり。

ラクノスケ おい。こら、そうやって人の評価を落とすんじゃない。まったく。油断もすきも……
(と、タイムカプセルに目が向き)それか。

ジュン そうです。

ラクノスケ こっちに渡してもらおうか?

ジュン これは俺のです!

ラクノスケ お前が持っていていいものじゃないだろ!

ジュン あなたには関係ないでしょう!?

ラクノスケ 俺にこそ関係があるものだろう!?

カナエ あの、どういうこと? これはあなたのタイムカプセルじゃないの?

ジュン そうですよ。俺のです。

ラクノスケ お前にそんな資格は無い。

ジュン 資格って……

ラクノスケ 幸子を見捨てたお前にはな。

カナエ 幸子?

ジュン 俺の、恋人だった人です。

ラクノスケ ちょうどいい。じゃあ、第三者に話を聞いてもらおうか? 俺と、お前、
      どちらにそのタイムカプセルの権利があるか。

ジュン これは俺が埋めたものです。

ラクノスケ 幸子が埋めたものでもある。

ジュン だからあなたには関係ないじゃないですか。これは俺と幸子の問題です。

ラクノスケ あの可愛かった幸子の最後の時にも会いに来なかったお前がそんなことを言う資格はない!

ジュン それは……

カナエ サイテー

ジュン いや、違うんです。それは。

ラクノスケ 何が違うんだ? あんなに可愛くて小さかった幸子を、お前は捨てたんだ。

ジュン 仕方なかったんですよ。仕事の移動で。


ラクノスケ どんなに幸子がさびしい想いをしたと思う?

ジュン 俺だって辛かったんだ。

ラクノスケ お前は仕事を選んだ、ただそれだけのことだろう。


    ジュンが言葉に詰まる。
    と、ユイがやってくる。


ユイ ああ。くそ。あの馬鹿姉。いったいどこにいやがる。……あ? ……どうも。


    思わずみんななんか挨拶する。
    なんか雰囲気の変なところに飛び込んだのがユイにも分かる。


ユイ えっと。うちの姉を見ませんでした? あ、見た。また? そう。なるほどね。ということは、
  先を占って動いているのか。うん。よし。じゃあ、裏をかけばいいわけだ。よし。あ、じゃあ、ごめんなさいね。
  どうぞ、先を続けてください。


    と、ユイが去る。


ラクノスケ あいつ、まだ探していたのか……。

カナエ いいなぁ。ああいう唯我独尊な性格って。

ジュン 俺は、幸子を幸せにしたかったんだ。

ラクノスケ ……ある意味幸せにしたよ。今は悩むことも無いんだから。

ジュン これが、幸子との最後の思い出なんですよ。

ラクノスケ 俺にとってもだ。

ジュン あなたにはたくさんあるじゃないですか!

ラクノスケ それがなんだ? だからそれぐらいはとでも言うつもりか?

ジュン 過去だけれど、未来なんです。一緒に夢見た未来が入っているんですよ。

ラクノスケ それでも忘れていたんだろう?

ジュン だけど、思い出したんです。これで、吹っ切れる気がするんです。幸子とのことも、思い出にも。

ラクノスケ そうやって自分だけ楽をしようと思っているのか! 返せ!


    ラクノスケはジュンに襲い掛かる。
    ジュンは避ける。
    ラクノスケが殴ろうとする。
    が、ジュンがその手をひねり上げる。
    カナエはおろおろしている。


ラクノスケ 痛い痛い痛いじゃんかよ。暴力ですべてを解決しようと言うのか!

ジュン あなたでしょう! それは!

ラクノスケ ちょっとくらい強いからっていい気になりやがって。これでも食らえ!


    と、ラクノスケの足がジュンの急所を狙う。
    思わずジュンが飛びのく隙に距離を置く。


ジュン なんて幼稚な攻撃だ。

ラクノスケ 暴力には慣れてないんでね。


    ジュンとラクノスケが構える。
    カナエがふと、観客席を向く。
    カナエの思っていることが声となって流れてくる。


カナエの声 うわーなんか始まっちゃったよ。どうしようこの展開。ついていけないなぁ。

ジュン 力づくじゃあ俺には勝てませんよ。

ラクノスケ それはどうかな?

カナエの声 なんかよく分からない設定で盛り上がっているし。こういう場合、止めたほうがいいのかなぁ。

ジュン なに!? その構えは!

ラクノスケ この構えに名など無い。その意味が分かるかな?

ジュン 見たものはすべて死ぬと言うあの幻の!?

ラクノスケ 貴様に特別に披露してやろう。あの世で誇るがいい!

カナエの声 なんだかどっちか死ぬような展開になってるし。ああ、もう。どうしよう。ってか、
       なんでこんなときにツカサはいないの? 早く戻って来いよ。ツカサー。早く戻ってきてー。ツカサ!

ジュン ならばその構えを打ち破る唯一の男になればいいだけのこと。

ラクノスケ 吼えたな! 来い!


8 同日 助けに来たヒーロー?


ツカサ ちょいと待ったぁ!

ジュン&ラクノスケ 何!?


    と、聞こえるギターサウンド。
    知っている誰かだけ知っている定番を背に、
    ツカサが深々と帽子を被って現れる。
    その手にはギターではなく竹箒。が、ギターサウンドに合わせて弾くふり。


ツカサ 見たものを確実に死に至らしめると言う名前の無い構えの使い手と、空手の有段者。
    しかーし、日本じゃそれぞれあくまで二番目の使い手だ。

ラクノスケ なんだと!?

ジュン じゃあ、一番は誰だって言うんです!


    「ひゅー」という単発の口笛。
    それを発したのはツカサである。


ツカサ チッチッチ(と、指を振る)


    ツカサはゆっくりと帽子を上に上げ、
    おもむろに自分を指した。


ラクノスケ ほぉ、ならば見せてもらおうか!

ジュン どれだけの腕前を持っているのかをね。


    なぜかラクノスケとジュンが構える。
    ツカサは笑いながら、構えると見せかけて腰から銃を取り出す。


ラクノスケ 卑怯な!

ジュン それは反則というもの

ツカサ なんどでも言えばいい。でも、へたに動くと撃つからね。


    ツカサは言いながらゆっくり歩いてカナエの元に。
    思わず、ジュンとラクノスケは道を譲る。


カナエ ツカサ。

ツカサ お待たせ。待った?

カナエ じらしすぎ。(銃を指し)なにそれ?

ツカサ これ? これは(と、銃の説明をひとしきり始める)

カナエ じゃなくて。何で持ってるの?

ツカサ こういうこともあるかと思って。

カナエ どういうことがあると思ってたのよ。

ツカサ それより、人、増えてない?

カナエ ああ。それはね?

ツカサ なるほど。そういうことか。

カナエ まだ言ってない。

ツカサ じゃあ、どっちにもそれは渡せないな。ゆっくりと、ベンチにおいてもらおうか。

ジュン ちょ、ちょっと待て、何でそんな話に。

ツカサ 撃つよ?

ジュン ……(ゆっくりと、缶をベンチに置く)

ラクノスケ 待て。金を出そう。な? だから俺がこれをもって帰る。それでどうだ。

ツカサ 興味ない。

カナエ それで、どうするの?

ツカサ 埋めなおす。そうすれば、こんな争いもしなくて済むだろう。俺もそのほうが都合いいし

カナエ え?

ツカサ ううん。なんでもない。

ジュン 待ってくれ。これは幸子の。俺の大事な人の思い出なんですよ。

ラクノスケ ちょっと待て。お前は、俺の大事な幸子を奪っていった挙句に捨てただけだろ! 
      お前のお陰で幸子は……

ジュン 今そんなこと言わなくても、


    ツカサが無言で二人の顔面に照準を合わせる。


ツカサ で、どうするの?

カナエ どうするって……


    と、鳴り響く携帯の音。
    皆、音の鳴った方向を見る。ラクノスケである。


ラクノスケ ……(出てもいいかと目で聞く)

ツカサ どうぞ。

ラクノスケ ……(電話に出て)俺だ。なんだ、幸子か。

ツカサ&カナエ はぁ!?

ラクノスケ 何してるって、仕事だよ。嘘じゃない。ああ。買い物だな。何を買ってくればいいんだ? ひき肉? 
      豚の? お前それは共食いだぞ。(と、電話から耳を離し)分かった分かった。買ってくるから。
      買ってくるって。うん。何グラム? 駅前のスーパーで? 1パック300グラムが安い? 
      ああ、そうか。分かった。じゃあ、買って帰るから。他にはいいのか? うん。アイス? ああ。うん。
      分かった。ああ。ありがとう。じゃあな。


    ラクノスケは電話を切る。
    カナエがおずおずと手を上げている。


ラクノスケ ? なにか?

カナエ 幸子さんって死んだんじゃないの?

ラクノスケ 人の妹を勝手に殺すな!

カナエ え、だってさっき!?(と、ツカサとジュンを交互に見る)

ジュン お元気ですよ。体脂肪率70パーセントの元気なお嬢さんをやっています。

カナエ それって……

ラクノスケ すべてお前が悪いんだろう!? お前が幸子に会わなくなったせいで、あいつは食べることにだけ
      興味を持つようになってしまった。あの小さくて可愛かった幸子の面影は、今はどこにも残っていない。
      すべてはお前のせいだ!

カナエ じゃあ、最後に会わなかったって言うのは……

ラクノスケ 可愛かった幸子の最後の日々にいなかったってことだ。今じゃでかでかとなってしまって……

ジュン 付き合っていたときは散々別れろ別れろ言っていたのはそっちじゃないですか!

ラクノスケ だからってデブになったとたんに別れること無いだろう!

ジュン 食べものにしか興味の無い人間と、どうやって付き合えって言うんですか!?

ラクノスケ 愛があれば乗り越えられる!

ジュン 無理! いくら義兄さんの頼みでもそれは無理です!

ラクノスケ だから義兄さんって言うな!

ジュン あなたの名前知らないんだから仕方ないでしょう!

ラクノスケ お前がそういうこと言うから、いまだに誰一人俺がなんて名前か分からないんだろう!?

ジュン 自分で紹介すればいいじゃないですか!

ラクノスケ そんな恥ずかしいこと出来るか!


    ジュンとラクノスケは喧嘩をし始める。


カナエ ……どうしようか。

ツカサ なんか、バカバカしくなっちゃったな。

カナエ うん。どっちも最低。

ツカサ このまま、二人が喧嘩しているうちに離れちゃうって言うのはどうだろう?

カナエ それはいいかもしれないけど……

ジュン&ラクノスケ ちょっと待て!


    ジュンとラクノスケが二人を見る。


ラクノスケ ここまで来て、他人のふりは無いだろ。

ジュン 俺達二人のうち、どっちがこれにこれを開けるにふさわしいか決めてもらわないと。

ツカサ いや、俺達には関係ないし。(カナエに)ねぇ?


    と、ここでカナエの独白が入る。
    そのうちに、アイがやってくる。


カナエ まただ。思わずため息をつきそうになる。関係ないと切り捨てることも出来ず、だからと言って
    答えも浮かばず、うるさいことを言う割りに、私は私の意見を言えないでいる。だめだこんなんじゃ。
    意思を持ってしかっりと、言わなくちゃ。そう。一言言えばいい。思っていることを。うん。たった一言。
    よし! 言うぞ! あのさぁ!

アイ 二人で開ければいいと思いますけど。

ジュン&ラクノスケ え?

カナエ 先に言われた……


    カナエががっくりひざをつく。


アイ あ、すいません。さっきから大きな声で話しているのが聞こえていたもので。

ジュン あなたは……

アイ 見つかってよかったですね。失せ物が。

ラクノスケ あなたが、易者ですか。

アイ 占いを生業にしています。キノサキアイと申します。

ラクノスケ これはご丁寧に。私の名前は、

アイ お二人の事情は分かっています。ですが占ってみたところ、二人で開けるのが良いと出ました。

ジュン 本当ですか?

アイ 私の占いに間違いはありません。

ラクノスケ もし、二人で開けなかったら?

アイ 災いが。それも、恐ろしいものが。

ラクノスケ どれほど?

アイ 細木和子もびっくり。

ラクノスケ それは怖い。


    ジュンとラクノスケは顔を見合わせる。


ジュン 分かりました。

ラクノスケ 助言、感謝します。

アイ いえいえ。二人がかりでもすぐに開けられるとは限りませんが。

ラクノスケ え?

アイ それでは。私は妹を探さなければならないので。

ツカサ まだ見つけられてなかったのか。

アイ はい。(と、ツカサに笑顔で)がんばってくださいね。

ツカサ え?


    アイがカナエによる


カナエ 何をがんばるの?

ツカサ さあ?

アイ (カナエに)あなたも。

カナエ え?

アイ 頭の中で色々考えるより、案外考えないほうがいい結果になったりするものだから。


    アイが来た方向と反対に去る。


9 同日 悪役への寝返り


カナエ うん。そうかもね。

ツカサ カナエ?

ラクノスケ よし。じゃあ、そう決まったら開けるか。

ジュン そうですね。とりあえず今は一度停戦ってことで。

ラクノスケ 平和協定を結ぼう。

ジュン はい。


    ラクノスケが差し出す手をジュンが握る。
    ラクノスケが思い切り力を入れる。
    ジュンが力を入れる。ラクノスケが負ける。
    ラクノスケはあわてて手をはずし、


ラクノスケ 争いは何も生まない。二人で争うのはやめよう。

ジュン はい。

ラクノスケ よし。では。

ジュン あ、セロテープついてますから。

ラクノスケ なんだよ。面倒くさいことしやがって。

ジュン すいません。


    ラクノスケとジュンがセロテープをはがしにかかる。
    ツカサはあわてる。


ツカサ ちょ、ちょっと待った。

ラクノスケ&ジュン え?

ツカサ なんだ。その。本日はお日柄もよく、

カナエ あ、ツカサも開けたいんだ?

ツカサ いや、そうじゃなくて

ラクノスケ 悪いがこれは俺達の仕事だ。

ジュン これ以上缶の周りにいても邪魔なだけだしね。(カナエの顔に気づいて)ああ、大丈夫。
    中身はちゃんと見せてあげるから。

ラクノスケ 何が入っているのかねぇ。

ジュン あまり期待しないでくださいよ。子供だったんだから。

ラクノスケ お前になんて期待してない。幸子に期待しているんだ。

ジュン 幸子だって子供でしたよ。

ラクノスケ 楽しかったころを思い出せるようなものであればいいんだ。

ジュン え?

ラクノスケ 小さいころが楽しかったって思い出せれば、元の幸子にもどれるかもしれないだろう?

ジュン (セロテープはがしながら)なんでそういうことを初めに言わないんですか。

ラクノスケ ふん。

ツカサ あー。本当悪いんですけど。いい場面になっているところ、本当に悪いんですけど。

ラクノスケ なんだ?

ツカサ なんだ。その、えーっと。

カナエ どうしたの?

ツカサ なんていうか。ほら。……そうそう。どうやって、二人で缶を開けたあと、どうするのかなぁって思って。

ジュン どうするって?

ツカサ どちらが持って帰るのかなぁ?

ラクノスケ そんなの決まってるじゃないか。


同時に
ラクノスケ 俺だ。
ジュン 俺です。


    と、お互い顔を見合し


同時に
ラクノスケ なんでだよ?
ジュン なんでですか?


ラクノスケ お前には必要ないだろ

ジュン 俺にも必要なんですよ。

ラクノスケ さっき俺の話を聞いてジーンとしていたじゃないか!

ジュン それとこれとは話が別です。

ラクノスケ 大体お前はさっきから俺を何だと思っているんだ。

ジュン そういう自分の権力で物事をどうにかしようっていうのは良くないと思いますよ。


    ラクノスケとジュンは再び言い合う。
    その隙に、ツカサは缶を奪う。


ツカサ というわけで、喧嘩の原因になるようなので、これは俺が預かる。

ラクノスケ&ジュン はぁ!?

ツカサ カナエ!


    と、ツカサはカナエに缶を投げ、


ツカサ 逃げろ!

カナエ え?

ツカサ いいから逃げろ! そんなもの、池にでも沈めちゃえ。

カナエ その前に中身見てもいいの?

ツカサ 一人でな。一人で見て、すぐさま捨てて。


    カナエは良く分からないまま走り去る。

ラクノスケ おい!

ジュン ちょっと、冗談じゃすみませんよ?

ツカサ 冗談のつもりは少しもない。喧嘩してばかりのあんたたちが持っているより、
    あんなのは見つからなかったことにしたほうがいいんだ。


    と、ツカサも駆けていく。


ラクノスケ おい! なんでこんなことに。

ジュン ぼやいても始まりませんよ。追いかけましょう。

ラクノスケ もちろんだ。ところで缶はどっちが持って帰る。

ジュン ……先に捕まえたほうで。

ラクノスケ なるほど。


    と、二人もかけていく。誰もいなくなる舞台。


10 一方そのころ 姉妹の作戦


    ユイが現れ電話をする。


ユイ あ、姉さん? 違うわよ。諦めてないわよ。でもね。もう今日の分の映画が終わるまで時間ないんだけど? 
   どうするの? 今日も会えないようなら私先に行っちゃうわよ? しょうがないなぁじゃ無くてさ。


    と、舞台前面に明りがつく。
    アイが携帯で電話をしながら現れる。


アイ じゃあ、こうしない?

ユイ どうするの?

アイ あたし、一番にぎやかなところにいるから。

ユイ にぎやかなところ?

アイ 公園で、にぎやかなところがあるでしょう?

ユイ ああ、あそこね。なんだ。姉さんも気になってたの?

アイ やっぱり、自分の占った人だから。

ユイ へぇ。いいところあるじゃん。

アイ いいところしかないのよ。私。

ユイ はいはい。じゃあ、にぎやかなところでね。私、降参したわけじゃないから。

アイ わかっているわよ〜。そこに着くまでに見つかったらあたしの負けよ?


    言いながら、アイはユイを見ている。
    手を振ったりしている。
    ユイは気づかない。


ユイ OK。じゃあ、後で。

アイ はいはい。気をつけてね。

ユイ ? わかってるわよ。必ず先に見つけてやるんだから。名探偵の名前にかけて!


    ユイは電話を切る。
    と、その足が何かに躓く。おそらく木の根だろう。
    思わずユイはあたりを見渡す。
    アイはしゃがんで見えないようにしている。
    ユイが首をかしげながら去る。


アイ やっぱりお姉さんはね。妹には優しくなくちゃね。さぁ、どうやったら見つけてくれるかなぁ。


    アイがニコニコと去る。
    あたりが闇に染められる。


11 同日 色気の無い追いかけっこ


    アクションシーンぽい音楽。

    出来れば映像で逃げているシーンを作りたいところだけれど、
    まぁ、それは出来ないだろうから、舞台上で逃げるシーンは繰り広げられる。


    カナエが逃げる。舞台から去る。
    それを追うように、ラクノスケとジュン。


ラクノスケ まて〜!

ジュン こら! 止まれ!


    カナエが逃げた先から、今度はツカサが缶を持って現れる。
    逃げるツカサ。追う、ラクノスケとジュン。


ラクノスケ (なんか言いながら)

ジュン (なんか言いながら)


    再び、ツカサが走ってくる。


ラクノスケ よし、追いつくぞ!

ジュン ちょっと待って。おかしい。

ラクノスケ え?

ツカサが 振り向く。しかしその手には何も持ってない。

ラクノスケ どこやった!

ジュン あっちだ!


    様子を伺っていたカナエが缶を持っていた。カナエが逃げる。
    ラクノスケとジュンが追いかける。
    と、カナエが走ってくる。


カナエ パス。

ツカサ おう。


    ラクノスケとジュンが追いかけてくる。
    ツカサが慌ててカナエにパス。


ツカサ パス。

カナエ はい。って、ええ!? 


    カナエとツカサが慌てて逃げる。
    ラクノスケとジュンが追いかける。
    が、途中で立ち止まり、ラクノスケがジュンに何か言う。
    ジュンがうなづき、反対方向に走る。

    カナエがやってくる。
    ちょっと肩で息をしている。
    と、ラクノスケがやってくる。
    慌てて、カナエは逃げようとする。
    が、回り込むようにジュンがやってくる。


12 同日 アイドルタイム終了まぎわ


ラクノスケ フフフフフ(咳き込む)

ジュン 無理はしないほうがいいですよ。

ラクノスケ うるさい! やっと追い詰めたぞ。

ジュン 気がつけば、同じところをぐるぐる回っていただけでしたからね。

カナエ くっ……って、ツカサは!?


    と、あからさまに適当に女装したツカサがやってくる。
    手には缶を持っているふり。


ツカサ フフフ。引っかかったわね。本物はここよ! 捕まえられるものなら捕まえて御覧なさい!


   と、去っていく。


カナエ 馬鹿……

ラクノスケ (ツカサを無視)さあ、それをこちらに渡してもらおうか。

ジュン (こちらも無視)すごい悪役っぽいけど、俺達は別に悪いことはしてないんですからね?

カナエ そんなことは分かってるけど……


    と、ツカサが現れる。カツラを地面に叩きつける。


ツカサ って、何で追ってこないんだよ!

ラクノスケ (ツカサを無視)掘り出すのを手伝ってくれたのなら御礼はしよう。

ジュン (やっぱり無視)別に中身を見るのもかまわないから。

ツカサ 無視か……って、カナエ!


    と、ツカサはカナエを守るように背にする。


カナエ 馬鹿やったせいで追い詰められたよ?

ツカサ ごめん。でも、カナエは俺が守るから。

カナエ ツカサ……

ラクノスケ だから、人を悪役みたいに言うな!

ジュン どっちかっていうと、悪役は君たちなんだからね。

ツカサ そんなことは知らない。

ジュン どうどうと言うな!

ラクノスケ (ツカサに)だいたい、何なんだお前はさっきから!

ジュン そうですよ。俺達の邪魔ばかりして!


ラクノスケ 恨みでもあるのか!

ツカサ いや、そういうわけじゃないけど、

ラクノスケ だいたいね、俺はいつになったら自分の名前が言えるわけ?

ジュン それは今関係ないでしょう。

ツカサ 第一、誰も気にしないって。

ラクノスケ なんでだよ!

ツカサ 脇役の名前なんて誰も覚えないし。

ラクノスケ 誰が脇役だ! なぁ?

ジュン 否定は出来ないですよね。

ラクノスケ 否定しろよ!


    と、三人は勝手に言いあいをはじめる。
    カナエは止めたいが、出来ない。


カナエ あの……

男三人 なに!?

カナエ あ、なんでもありません。どうぞ。


    男三人の言い合い。


カナエ えっと……

男三人 はぁ!?

カナエ ううん。なにも。


    男三人の言い合い。
    カナエはため息。


男三人 なにか!?

カナエ なんでもないなんでもない。


    男三人の言い合い。
    カナエは困って思わず天を仰ぐ。

    風が吹く。土ぼこりが舞う。
    その風に、思わず誰もが風から顔を防ぐ。
    カナエだけが空を見たまま。
    ふと、その手が天に伸びた。
    散りおちる桜の一片。
    届くわけ無いと思いながら伸ばしたその手が、桜の花を掴む。
    信じられないものを見るように、花を見つめる。
    そして、カナエは無くしたものを取り戻す。
    吹っ切れた顔で、カナエは一つうなずく。
    カナエは大きく息を吸い込む、


カナエ お前らいい加減にしろ!

男三人 はい!?

カナエ ツカサ!

ツカサ はい!

カナエ サクライジュン

ジュン はい!

カナエ あと、知らない人!

ラクノスケ はい! って知らない人言うな。

カナエ 黙れ!

ラクノスケ はい!

カナエ そろいもそろって、20過ぎた大人が何やってるんだ。何がタイムカプセルだ。何が脇役だ。
    そんなことで喧嘩している年じゃないだろ! 年考えろ! いい加減大人になれ!

ラクノスケ 名前は大事だろ、

カナエ どうせ誰も覚えないんだからいいんだよ!

ラクノスケ ひどい……

ジュン でも、これを誰かが開けるってことがね、なんていうかこの物語の趣旨みたいなもので、

カナエ それはあんた達の趣旨であたしの趣旨じゃない!

ジュン 切り捨てられた……

カナエ 大体なんだ。あんたたちは。私はここでのんびりと自分の昔を、

こうのんびりと思い出して吹っ切れるつもりだったのに。なんで切れてるんだよ!

ツカサ いや、勝手に切れて怒られても、

カナエ とにかく! どうにかしなさい! 大人なんだから。

ラクノスケ どうにかって。

ジュン どうやって。

カナエ 私が知るか! 奇跡でも起こせ!

ツカサ なんだよそれ。


    と、声が聞こえる。


13 同日 チープな奇跡とその軌跡


声 そのとき〜。

カナエ え? 何この声。


    思わず、皆が天を見上げる。


声 そのとき、奇跡が、起こったぁ。

男三人&カナエ はぁ!?


    と、ユイが、やってくる。
    同時にアイがやってくる。


ユイ 姉さん!

アイ ユイ!


    二人は舞台の中心で手を取り合う。


ユイ 探したじゃないのよ〜。

アイ ごめんねぇ。待たせちゃって。

ユイ でも、見つけたのは私だからね。

アイ はいはい。分かってるわよ。ユイには負けるわ。

ユイ 当たり前じゃないの。私は名探偵なんだから。

ツカサ 奇跡って……これが?


    思わず皆が脱力する。
    が、アイとユイは、そんな面々に対して、


ユイ と言うわけで皆さん。すべての謎解きをしてあげましょう。

ラクノスケ 謎解き?

アイ 私達が出会えた記念に、今回の事件を解決するお手伝いを。

ジュン 出会えた記念って、待ち合わせしてたんだろう?

ユイ そう。三ヶ月前からね。

男三人&カナエ 三ヶ月!?

アイ お互い方向音痴の上に負けず嫌いだから。

ユイ 見つからないようにしながら見つけるようにしてたから。

ツカサ それは、待ち合わせじゃない。

アイ でも、会えた。

ユイ 会えたからには謎を解く。それは、使命!

アイ 謎はすべて解けています。

ユイ あえて言うわ。犯人は、この中にいる!


    アイとユイ以外が顔を見合わせる。


ラクノスケ 犯人って。

ジュン なんの?

アイ 今回の事件のそもそもの原因。

ユイ 混乱の理由。お天道様はごまかせても、この私、名探偵の孫の従兄弟の友達の妹の子供である
   私の目はごまかせなかったようね。

カナエ 遠っ。

ラクノスケ え、でもそれは(と、ジュンを指す)

ジュン 何で俺なんですか! あなたでしょう!?

ユイ シャラップ! 黙れ。

アイ 私の占いと、

ユイ この私の推理で犯人は分かっているの。いまさらじたばたしない。

ラクノスケ&ジュン はあ。

カナエ それで、犯人? は誰なんですか?

アイ ユイ。

ユイ ええ。犯人は、あなたです。


    と、ユイはツカサを指す。


カナエ はぁ!?

ラクノスケ&ジュン なんでだ〜!?


    しかし、ツカサは一歩、二歩下がる。


ツカサ な、なんでわかった。

カナエ&ラクノスケ&ジュン うそぉ!?

アイ 占いで、あなたに罪の意識ありと出ました。

ユイ そして、この中で一番犯人っぽい!

ツカサ そんな理由があるか!

ユイ 大体ね、15年以上も前に埋めたタイムカプセルのセロハンテープが、
   そんなに取るのに手間がかかるわけ無いじゃないの。劣化しているはずなんだから。

カナエ え? じゃあ、これは??

ユイ しかも、かなりしっかりとつけられている。そんなのは子供には無理。このことから、考えられることは一つ。

アイ 缶は一度開けられた。

ラクノスケ なに!?

ジュン でも、俺は!?

ユイ 埋めた人間に開けた覚えが無いのなら、違う人間が埋めたに違いない。

ツカサ だからって、

ユイ 掘ってみたことがあるんでしょう? 桜の根元を。

ツカサ あ。

アイ 占いによれば、埋められたのは強い思い。

ユイ 掘り出したものを見て、自分の想いを埋めた。

ラクノスケ じゃあ、その中には?

カナエ この中には、サクライジュンと幸子さんの思い出が入っているんじゃないの?

ツカサ ……中見たとき、ごみだと思ったから。

カナエ 思ったから?

ツカサ そこら辺にポイって。

ジュン 捨てたのか!?

ツカサ だって、変なお菓子の袋とか、知らない野球選手のカードとか、人形の服とか、よく分からないものばっかり 
    入ってたんだから仕方ないじゃんか! そんな大切なものだなんて分からなかったんだよ!

ジュン そんなものを入れてたんだっけ……


    ジュンはがっくりとひざをつく。


ラクノスケ じゃあ、幸子の思い出もないのか……


    ラクノスケも、がっくり。


ジュン 義兄さん。

ラクノスケ 義兄さんって呼ぶな。


    言いながらお互い慰めあう。


ユイ 埋め替えたのはいつ? そう昔のことじゃないでしょう?

ツカサ 5年位前かな。

カナエ ……高校生にもなって、何てことしてたのよあんた。

ツカサ 仕方ないだろう? その時読んだんだから。

カナエ 何を?

ツカサ だから、桜の話だよ。梶井何とかの。

カナエ それで……で、何を埋めたの?


14 同日 開けられたパンドラ・BOX


    と、カナエがふたを開けようとする。
    慌てて、ツカサが奪う。


ツカサ というわけで、これは俺のだから。俺が処分します。

カナエ 中見せてよ!

ツカサ 駄目だ。これは俺が墓までもっていく!


    と、ツカサが逃げようとするが、


ユイ させるか!


    と、ユイが天に手を伸ばし何かを引っ張る。
    ツカサがこける。


ツカサ えぇ!?

ユイ こんなこともあろうかと思ってトラップを仕掛けさせてもらっていたのよ。

ツカサ どこにだよ。

ユイ とりあえず、これは私がお預かりするわ。


    と、ユイは缶を奪う。


ツカサ あ、返せ。

ユイ 姉さん。

アイ はいはい。


    ユイの言葉にアイが手をツカサにかざす。
    ツカサが動けなくなる。


ツカサ なにぃ!?

アイ 残念だけど、私の金縛りの術から逃げられるものはいないわ。

ツカサ そんな技が人間に出来てたまるか!

アイ ふふふ。言ったもの勝ちよ。


    と、言っているうちに、ユイは缶を開けてしまう。


ツカサ あぁ!?

ユイ やっぱりね。あ、ほら。缶だけでも持ってたら?


    と、ユイが缶をラクノスケに放る。


ラクノスケ 缶だけあってもなぁ。

ジュン じゃあ、俺がもらっておきます。

ラクノスケ なんだよ。俺のだぞ!


    と、言いながら二人は缶を取り合いはける。


ユイ まったく。大事なのは中身よねぇ?

カナエ 何が入っていたんですか。

ユイ 手紙。

カナエ 誰へ?

ユイ 誰へ?


    と、ユイが手紙を読もうとする。


ツカサ そ、それだけは止めて〜!


    渾身の力を込めたのか、ツカサが金縛りからとける。


アイ そんな。私の力から逃れるなんて。

ツカサ それだけは読ませるわけにはいかないんだ!

ユイ そう。


    と、ここでいきなり良く手品ではありがちの音楽がかかってくる。


ツカサ え?


    ユイは手紙をくるくる回すと背中に回す(と、この時点で背中に隠しているのだが)
    再び手を出すと、その手には手紙は無い。


ユイ はい!

ツカサ はぁ!? どこにやった!


    と、そのうちにアイが背中から手紙を出す。ユイがアイを指す。

アイ はい!

ツカサ この、返せ!


    が、アイは再び背中に手を回す。そして、また手は空になる。


アイ&ユイ はい!


    と、二人が指したのはカナエ。


カナエ え? 私?

ツカサ はぁ!?


    と、カナエが背中に手を回す。と、手紙が現れる。


カナエ あった!

ツカサ 何でだよ!

カナエ 「5年後の僕へ。」

ツカサ 読んでるし!


    止めようとするツカサを、アイとユイが二人がかりで止める。


ユイ まあまあ青年。

ツカサ 離せ!

アイ 案外、いい結果になるかもよ。うん。

ツカサ あんたら単純に興味本位だろ!

アイ&ユイ もちろん。

ツカサ くっそぉ。

カナエ 「5年後の僕。元気ですか。いい加減「僕」という一人称は止めていますか? 夜中にはトイレにいけるように
    なりましたか? 差し歯を飲み込まないようにしていますか? そうそう。タバコは健康に良くないので吸わな
    いほうがいいです。僕は今の所20になったら禁煙しようと思っています」


    ツカサは諦めてひざをつく。


カナエ なんでこんな中途半端な時にタイムカプセルを埋めるのか。5年後の僕は覚えていないかもしれないから
    書いておきます。昨日、梶井なんとかの本を読みました。「桜の木下には」という本です。桜の木下には
    死体が埋まっているそうです。だったら面白いなと思って掘ってみたら、変な缶が出てきました。
    中には変なものが色々入っていました。たぶん誰かが捨てるに捨て切れなくて埋めたんだと思います。
    だから、僕も捨てずに捨てきれないものを埋めてみようと思いました。
    5年後には笑っていられるか確かめるため、埋めようと思いました。そして、「桜の木下には、
    本当は思い出が埋まってるんだ」って一人笑おうと思ったのです。僕は……


    カナエはツカサを思わず見る。


ツカサ 読めよ。……読んでくれ。

カナエ (恐る恐ると言う風にうなずく)僕は、ウキタカナエが好きです。たぶん、ずっと前から。
    でも、カナエは多分ヤスオのことが好きなんだと思います。口には出さないけど。ヤスオもカナエが好きです。
    だから僕は、二人が笑っていられるように、僕は二人の友達でいようと決めました。
    ヤスオとカナエは僕の友達だから。もし、もしも二人が付き合って、そして別れるようなことがあれば、
    そのときは僕が……いえ。なんでもないです。
    5年後の僕。僕はせめてカナエにいつか気持ちを打ち明けようと思っています。無難なときを選んで。
    冗談っぽくでもいいから。5年後の僕が、そうしてまだカナエとも、ヤスオとも友達でいてくれれば幸いです。
    それでは。この辺で終わりにします。自分に言うのも変だけど、体には気をつけて。五年前の僕より。

ツカサ ……ガキだったんだって。


    カナエは首を振る。
    手紙を胸に抱く。


15 同日 終わりよければな面々と終われない二人


ユイ さあ、謎はすべて解けたわよ姉さん。

アイ じゃあ、私達は失礼しましょうか。

ユイ そうよ。今日こそ映画を見に行かないと。


    ユイとアイは連れ立って去ろうとする。
    アイが途中で戻ってきて、カナエに、


アイ 気楽にね。

カナエ え?

アイ 大丈夫。あなた、今日の恋愛運はばっちりだから。

ユイ 姉さん。

アイ はいはい。


    アイとユイが去る。
    反対からラクノスケとジュンがやってくる。
    なんか二人ボロボロ。
    で、ラクノスケが蓋を。ジュンが入れ物を持っている。


ジュン いい戦いでしたね、義兄さん。

ラクノスケ ふん。だが、お前になら義兄さんと呼ばれるのも悪くないな。


    ジュンとラクノスケががっちり握手する。


ラクノスケ 一度、うちに来い。昔の恋人としてじゃなくて。強敵(とも)として。

ジュン わかりました。お邪魔します。

ラクノスケ じゃあ、行くか。

ジュン あ、仕事があるんで。

ラクノスケ 会社まで送っていく。それぐらい、やらせろ。

ジュン (入れ物を見せ)渡しませんよ。

ラクノスケ 分かってる。(カナエとツカサに)君たちも、まぁ、なんだ。色々とがんばれ。

ツカサ はぁ。

ジュン 迷惑かけたお詫びはしませんよ。かけられたのもあるから。

カナエ はい。

ジュン では。


    ジュンとラクノスケはカナエとツカサに軽く礼をすると去っていく。
    二人だけしかいなくなる。


ツカサ 結局、あの人名前なんだったんだろう?

カナエ ね。


    お互い顔を見合わせると、慌てて背を向ける。


カナエ ツカサ、さ。

ツカサ カナエ。

カナエ なに?

ツカサ 忘れてくれ。その手紙のこと。ガキだったんだよ。単純に。

カナエ うんわかった。

ツカサ え、即答!?

カナエ 忘れて欲しいんでしょ?

ツカサ いや、でもさぁ、そこは流れ的に「どうしようかな」とか言うものじゃないの? 普通。

カナエ そうなの?

ツカサ だって、それで終わっちゃったら、俺何もいえないじゃん。

カナエ わざとだよ。

ツカサ わざとか。

カナエ 無かったことにして欲しくないの?

ツカサ なんていうか、さ。

カナエ はっきり言えよ。

ツカサ はい。……なんか、よく分からなくなっちゃったけどさ。正直、それなんて俺も掘り出されるまで忘れてたし。
    でも、気持ちは変わっちゃいないっていうか、前よりも、ってよく分からないな俺。そうじゃなくて、つまりさ、


    ツカサがカナエを見る。


ツカサ もし、五年前の僕ってやつが、そのまま同じ気持ちを抱いていたらって仮定したとしてさ、どう思う?

カナエ 私、

ツカサ あ、ちょっと待て。10秒待って。

カナエ うん(と、数え始める)

ツカサ (その間深呼吸)よし、いいよ。言ってくれ。

カナエ 私もね……よく分からないんだ。

ツカサ え?

カナエ ツカサの気持ち嬉しいよ。本当。でも、私は立ち止まっちゃってるから。三年前、ここで。

ヤスオに、ちゃんと気持ち言えなかったっていう自分で。なのに、前に進めるのかなって、そう思う。

ツカサ そっか。

カナエ うん。

ツカサ そうだよな。だと思って呼んでおいた。

カナエ え!?


    と、舞台にヤスオと、ヨシコが現れる。
    二人とも普通の服を着ている。


ヤスオ ごめん。遅くなった。

ツカサ いや、ちょうど良かったよ。

カナエ ヤスオ……

ヨシコ あなたが、カナエさん?

カナエ え? あ、はい。

ヨシコ はじめまして。ヨシコです。

カナエ はじめまして。あの、(あなたは?)

ヤスオ 長くなるかもしれないから、先帰っててよ。

ヨシコ いいわよ。そこで待ってるから。なんか、飲み物でも買ってくるわ。

ヤスオ 分かった。


    ヨシコが去る。


カナエ (ツカサに)どういうこと?

ツカサ 分かるだろう? (ヤスオに)バイト?

ヤスオ ううん。就活。一緒のところで働けってうるさくてさ。で、連れて行かれた。

ツカサ あらら。大変だな。

ヤスオ ちゃんと働けるのかってうるさいんだ。

ツカサ 心配なんだろ。

ヤスオ 最近特にだよ。(カナエに)……久しぶり。

カナエ そういうことか。

ヤスオ え?

カナエ ううん。元気だった?

ヤスオ うん。カナエは?

カナエ うん。ごめんね。最近連絡できなくて。

ヤスオ 俺のほうこそ。大学が忙しくてさ。

カナエ そっか。ねぇ、ツカサ。

ツカサ なに?

カナエ ちょっと、二人きりにしてくれる。けじめ、つけたいんだ。

ツカサ 分かった。終わったら呼んで。


    ツカサは言うと、舞台を降りて観客席に座る。


カナエ こら。

ツカサ え?

カナエ 見てるな。恥ずかしいから。

ツカサ あ、ああ。ごめん。


    ツカサは謝ると袖に消える。


16 同日 夕暮れ 物語はあからさまにあいまいな結末を迎える


ヤスオ カナエ?

カナエ 私ね、どうしても、あんたに言いたいことがあったの。三年前に、言えなかったこと。
    今なら、言えると思うんだ。

ヤスオ 俺も、言えなかったことがあるよ。

カナエ 待って。私から言わせて。

ヤスオ うん。


    と、風が吹く。
    カナエはふと、上を見上げる。
    いきなりジャンプする。


ヤスオ え!? なに!?


    カナエはその手に再び桜の花びらを掴んだのだ。
    手に掴んだ花びらを見つめ、


カナエ よし。……ヤスオ。私ね、ずっと、あんたが好きだった。三年前、言いたかったの。
    なんか情けないし、ぽっちゃりだし、頭悪いけど。優しくて、なんかほっとけないあんたが。好き、だった。

    ※ これはヤスオ役の容姿によります。


ヤスオ カナエ。俺も、

カナエ いいんだ。ヤスオの気持ちは分かってるから。

ヤスオ え?

カナエ これは私のけじめだから。私は、この言葉を言わないと前に進めないと思ったから。だから、もういいの。
    ヤスオはしっかりと前進してたんだよね。それが分かっただけでいいの。

ヤスオ どういうこと?

カナエ ツカサ!

ツカサ 終わったの?


    ツカサが現れる。
    どこか嬉しそう。


カナエ うん。ありがとう。てか、聞いてたんでしょ?

ツカサ 聞いてない聞いてない。

カナエ ふーん。ま、いっか。車、乗せてくれる?

ツカサ いいよ、どこ行く?

カナエ 海。

ツカサ はぁ?

カナエ 海行こう。

ツカサ わかりましたよ。お姫様。

ヤスオ え、ちょっと。カナエ? ツカサ?

カナエ お幸せにね。ヤスオ。彼女泣かしたりしたら、許さないからね!


    カナエが去っていく。


ヤスオ え? 彼女って?? ツカサ?

ツカサ まぁ、あれだ。友情って言うのは恋が絡むと変化するわけだ。
    恋より友情なんていうのはガキのころだけなんだよな。

ヤスオ なんのことだよ!

ツカサ すべては、心配されやすいお前が悪い。いや、間の悪い登場の仕方をしたお前が悪い。

ヤスオ どっちにしろ、俺が悪いんじゃないか。てか、何の話なんだよだから。

カナエ (袖から)ツカサ〜、ドア開かないんだけど?

ツカサ ああ、今行く! じゃあな、ヤスオ。ヨシコさんによろしく。


    ツカサがヤスオの肩を叩いて嬉しそうに去っていく。


ヤスオ はぁ!? なんだよそれ!

    ヤスオは悩む。そして、へこむ。
    しばらくして、ツカサが去った方向からヨシコが現れる。


ヨシコ ヤスオ。


    と、言いながら缶ジュースを渡す。


ヤスオ 姉さん。

ヨシコ なんか、今カナエちゃん?に「お幸せにって言われたんだけど」

ヤスオ 俺も言われた。

ヨシコ どうしたのいったい?

ヤスオ 姉さん。そんなの、俺に聞かれてもさっぱりわからないよ。


    情けなく呟いた男。
    明るい音楽がかかる。
    ヨシコがヤスオの肩を叩く。
    誰もが偶然や思い込みで幸せになったり不幸になる。
    そんな公園の一コマがゆっくりと消えていく。
    溶暗




あとがき

劇団TABASUKOの第四回公演用の作品です。
一読して分かると思いますが、かなりくだらない話になっています。
この台本のオチである「彼女ではなく実は姉」っというのは、
舞台で表現するのが難しいと思います。
また、追いかけっことか手品と、やりにくいものばかり入れてみた台本。
……正直、役者には恨まれました><

そうそう。オクムラは、実はフルネームがあったのにもかかわらず、
舞台上最後まで本名が明かされません
したがって初演のパンフレットでは「???」となっていました。
ちゃんと名前の理由とかも考えていたんですけどね(苦笑)

最後まで読んでいただきありがとうございました。