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登場人物

サツキ(ボス)
ナルミ(ナル)
サトコ(サト)
ユウカ(ユウ)




○『△△町(自分の高校の名前を入れる)』バス停 2002年(昼

 停留所を示す物が置いてある。
 ユウが一人ぽつんと舞台中央に立っている。
 着ている服はレインコート。
 その上からさらに傘をさしている。
 雨に濡れ俯いている。

音響 FI→(雨の音
照明 FI→(薄暗い色


ユウ 上手、下手に視線を送る。
   溜息をついて俯く。

音響 CI→バス

ユウ バスが止まる音に顔をあげる。
   ドアが開くが首を振って一方後ろに下がる。
   ドアが閉まり、バスは行ってしまう。

サト 下手から登場
   傘を差している。レインコート着用
   冷静な足取り。
   ユウを見て一瞬眉を曇らせるが、
   わかっていたそぶり


サト「ユウカ」

ユウ「姉さん」

サト「やっぱり、ここにいたのね?」


ユウ 俯いてから思い出したように笑みを浮かべて


ユウ「今日、だったのよ。あの日。……遅れているのよね。きっと(サトの顔を見て)そんななわけ、ない、か」


サト ユウに対して優しい言葉をかけようとする。
   言葉が浮かばず首を振ってから。

サト「いいかげん、夢を見るのはやめなさい。待っていたって無駄よ」

ユウ「夢じゃない。約束よ」

サト「決してかなわないものを、約束なんて言わないわ。それはただの夢なのよ」


ユウ サトに向かってたしかめるように


ユウ「約束、だよね? 約束でしょ? ここで、会うって、約束。……約束だったじゃん」


ユウ その場に崩れる
サト 何も言葉がかけられない


音響 FI→(雨
   徐々にその音を大きくしていく

照明 FO
   暗転

ユウ 上手へ退場
    レインコートは脱いでおく

サト 下手へ移動
    レインコートを脱いでおく。

音響 FO

○サツキの部屋 2000年(昼
 2DKの部屋の中。玄関のすぐ隣に台所がある
 ほとんどの荷物は運ばれてしまい、部屋の中には何もなくなってしまっている。
 サトが、運搬行の人と、最後の話し合いをしているところ

照明 FI→(明るい色
音響 FI→(

サト 運搬行の人に荷物の運び場所について話している
   服装は動きやすい格好。肩にタオルをかけている
   ちっこいカバンをかけている

サト「はい。これで荷物はすべてです。……そうです。佐久間倉庫まで運んでください。
   はい。こちらからも一人、指示をしに行かせます。……お疲れ様です。よろしくお願いします。
   雨降りそうですから、気をつけてください」


サト 運搬行の人を見送ったあと


サト「さて、運ぶ荷物もないし、お先に休憩とさせてもらいましょうか」


サト 汗を拭いながら下手へ退場


ボス「オーライ。オーライ。あ、ナル。ドアに引っかかんないようにねぇ」


ボス 上手から登場
   動きやすい格好
   上手を向いたまま後ろ歩きで入ってくる


ナル「引っかかるわけ無いでしょ!」

ボス「あら、本当。ドアが広がった」

ナル「なんでそーなんのよ!」


ナル 上手から登場
   動きやすい格好
   側面に「劇団『○○会』(自分の高校の名前を入れる)」と書かれた段ボール箱を抱えている(上手側奥)


ユウ「あ、ナルさん危ないですよぉ。箱に集中しないと」

ナル「あ、ごめん」


ユウ 上手から登場
    動きやすい格好
    ボスと同じ段ボール箱を抱えている(下手側手前)


ボス「さぁ、もう少しよぉ。頑張って〜」

ナル「サツキぃ、そんなこと言うなら持つの手伝ってよぉ」

ボス「嫌よぉ。そんなの持ったら、ボス潰されちゃうもーん」

ナル「だからってぇ。ああ、もう重いぃ」

ボス「力無いわねぇ〜そんなんでバテルようじゃ、『○○会』は復活させられないわよ」

ナル「『○○会』復活させる前に、あたしの腰がダメになるわよぉ」

ユウ「ボスぅ、せめて運搬の人、呼んできてくださいぃ」

ボス「わかったわ♪ ユウちゃんが言うなら、ボス頑張ってあげる」

ナル「うわっ。あたしと対応ちがすぎ」


ボス 下手まで走っていく
    下手観客側を覗くまね


ボス「あれぇ?」

ナル「どうしたのぉ」

ボス「いないわよぉ? 運搬車も、人も」

ナル「うっそぉ!」


ナル 思わず手を離す

箱  下に落ちる


ユウ「あーーー」

ボス「ナルぅ。さりげなく手を離したわねぇ」

ナル「え、いや別にわざとじゃなくて」

ユウ「酷いです、ナルさん」

ボス「あーあ。ユウちゃん可哀想。(ユウに近づいて)大丈夫?」

ユウ「あ、大丈夫です。箱がちょっとへこんじゃったけど」


ユウ さりげなく箱のゆがみを直す


ナル「大体、箱を一個、部屋に残したままにしておくのがいけないのよね」

ボス「ナル、言い訳する気?」

ナル「あたしはただ」

ボス「ただ、なに? どんな理由があるか、ボス聞きたいななぁ」


ナル 少し考えて


ナル「ごめん〜サツキぃ」


ボス 偉そうに


ボス「謝るならユウちゃんに謝りなさい。それに、『○○会』で私を呼ぶときはサツキじゃなくて『ボス』でしょぉ」

ナル「はい、ボス」

ボス「よろしい」

ナル「ごめんねぇ、ユウちゃん」

ユウ「私はいいですよナルさん。全然気にしてないですから」

ボス「ユウちゃんは優しいわねぇ。(年強調)いい年して下手な言い訳するナルとは大違いだわぁ」

ナル「年は関係ないでしょ。サツキだって、同い年のくせにぃ」

ボス「うーーー。それは言わない約束でしょぉ」

ナル「いつ約束したのよっ。てか、『うーーー』なんて、年下がいる前で使ってよく恥ずかしくないわねぇ」

ボス「いいじゃない、ねぇ?」

ユウ「あ、はい。可愛いと思いますよ」

ボス「ほらぁ。ユウちゃんはいい子ねぇ」

ナル「ユウちゃん、ボスを調子に乗らせちゃダメよぉ」

ユウ「え、でもぉ」

ボス「ユウちゃんは正直なだけよ。いいの。私の武器はこの可愛さなんだから♪」

ナル「自分で言う? そういうことって」

ボス「言うわよぉ。そして、ナルの武器は怪力でしょう?」

ナル「誰が怪力よ!」

ボス「違うの? ボスびっくりぃ」

ナル「私の武器は、この(と言って立ち上がる)優雅さ。よ」

ボス「優雅ぁ? サトが聞いたら、なんていうなぁ。ボス楽しみ〜」

ユウ「あ、でも、ナルさんの踊りは素敵ですよね」

ナル「でしょ、でしょ、でしょ〜。この踊りの才能を生かして、二年間、みっちり鍛えるつもりなの。
   二年後の『○○会』復活の暁には、私の踊りで観客席は沸きまくりよ♪」

ボス「ダンボール運びくらいで根を上げるくらいじゃあ、どんな習い事も続かないわよぉ」

ナル「そんなこと言ってぇ。大丈夫。年相応のものを選ぶつもりだから」

ボス「(溜息)まだ若いのに、おばさんみたい。おなじ年齢として、ボス恥ずかしい」

ナル「冗談よ、冗談。でもね、ダンボールくらいって言うけど、結構これ重いわよぉ。(ユウに)ねぇ」

ユウ「あ、はい。重かったです」

ボス「こんなの、『うりゃあ』って持ち上げられなきゃぁだめよぉ。

二年修行したって、『○○会』はまたすぐお休みってことになっちゃうわよ」

ナル「平気よぉ。このまま続いてたって大丈夫なくらいなんだから」

ボス「とかいってて、こないだの最終公演じゃぁ、見にきたお客はやっと10人いくかいかないかだったじゃない」

ナル「そ、それはそうだけど」


三人 思わず黙る


ユウ「(明るく)きっと、広告にあまりお金使わなかったのが悪かったんですよね」

ナル「(暗い)そうよね。きっと」


ユウ 何もいえなくなる
ナル 後の言葉が続かない
ボス 二人を見て安心させるように


ボス「大丈夫よ。これからじっくり力を蓄えて、また、蘇ればいいんだから。そうでしょ」

ユウ「はい」

ナル「そうよねぇ。なんか深刻ぶっちゃっても始まらないしね」

ボス「そうそう」

ナル「あたし、運搬車探してくるわ。もしかしたら、駐車場所を変えただけかもしれないし」

ボス「ああ、そうね。あそこらへん駐車禁止だしね」

ナル「そうそう」

ボス「まったくぅ。気がついたんだったらもっと早く行きなさいよ。気が利かないわねぇ」

ナル「そういうこと言う? 普通」

ボス「ほらほら、喋ってないですぐに行く」

ナル「へーいへい」

ボス「なにその返事。女の子らしくないぞぉ」

ナル「(オカマのように)行ってまいりますぅ」


ナル 下手へ退場
ボス 胸を軽く抑えながら
ユウ どこか考えているようにダンボールをいじっている


ボス「まったく(苦笑)……ユウちゃんも、疲れたでしょ?」

ユウ「え? あ、はい正直言うと結構」

ボス「仕方ないわよ。まだ高校生なんだから」

ユウ「もう卒業しましたけどね」

ボス「あ、そうだった。確か演劇の専門学校へ行くんだったわよね」

ユウ「そうです」

ボス「そっか。でも」


音響 CI→放送禁止用語ごまかし音「ピーとか」


ボス「(音)だけはやめておきなさいよ」

ユウ「え?」

ボス「だぁから」


音響 CI→同上


ボス「(音)だけはやめておきなさいって。教師はへぼいし、お金ぼったくられるだけだから」

ユウ「あの、なに言っているのかわからないんですけど」

ボス「え? (少し考えて)あ、そうか。ごめん。たぶん名誉毀損になるから放送禁止なんだ」

ユウ「はぁ」

ボス「良くあるの。まあ気にしないで」

ユウ「分かりました」


ボス 軽く胸を抑えて
ユウ ボスに寄る


ボス「そっかぁ。ユウちゃんも、とうとう巣立ちのときか。速かったわねぇ。
   サトの妹として○○会に入ってから、もう二年だ」

ユウ「ですね。……はじめは驚きましたよ。私いれて四人しかいない劇団なんて」

ボス「そりゃあめずらしいもんね。人数少ない上に、そのつながりが、友人に、後輩、さらにその妹なんて」

ユウ「もとはといえば、私がお姉ちゃんを演劇にはまらせたんですよ」

ボス「知ってるわよ。サトから聞いたわ。姉妹で演劇やっているなんて面白いわよね」

ユウ「ボスと、ムツミさんも、そうだったらもっと面白かったですよね」

ボス「うちは無理よ〜。双子でそっくりなのは外見だけ。中身はまるで正反対なんだから」

ユウ「車の運転とか、ですね(苦笑)」

ボス「そうそう。姉なんてまるでスポーツカーに乗ってるように乗り回すからね(苦笑)」

ユウ「一度乗って大変な目に会いました」

ボス「ああ、去年の大会のときでしょ? 会場に、間に合わないからって」


音響 車の音
照明 中央明るく

ボス(姉) 車のハンドルを握る
ユウ   横で必死に耐えている


ユウ「あの、ムツミさん、今、赤じゃなかったですか?」

姉 「赤ぁ? 気のせいじゃない?」

ユウ「そうですか?……あ、あの、今完全に赤だったですよ」

姉 「大丈夫。あんな車にぶつけられやしないから。それよりシートベルトした?」

ユウ「しましたから、しましたから前向いてください」

姉 「わかってるわよ」

ユウ「あ、赤! ……なんで止まらないんですか!!」

姉 「車は急には止まれないの」

ユウ「そんなスピード出さないでください!」

姉 「大丈夫。まだ、限界じゃないわ」

ユウ「そんな問題じゃ……ま、前おじいさんが渡って……ああっ!!」


ユウ 顔を伏せる


音響 FO


ユウ「おじいさんが、おじいさんが〜避けてぇ〜」

ボス「ユウちゃん! ユウちゃん! 大丈夫! ここは姉の車じゃないわ。私の部屋よ!」

ユウ「……あ、ボスぅぅ」

ボス「……大丈夫だった?」

ユウ「はい。恐かったです」

ボス「ごめんね。あの時は姉の車になんか乗せちゃって」

ユウ「いえ。今となっては、あれもいい思い出ですから」

ボス「いい思い出ではないと思うけど(苦笑)」

ユウ「あ、そうですね(苦笑)」

ボス「まぁ、何でもかんでも今となっては『思い出』よねぇ。結成してたった二年だったけど、
   いろんなことがあったわぁ。あ、ちょっとこれ年寄りくさい?」


ユウ 首を振ったきり黙る


ボス「どうしたの? 急に黙っちゃって」

ユウ「私は……ずっとここにいられると思ってました」

ボス「……そりゃあね。できたばかりの頃は、まさかお休みすることになるなんて思ってなかったからね」

ユウ「どうしても、避けられないことなんですか?」

ボス「仕方ないわよ。お客さんがいない以上、私たちになにか足りないのはわかっていることだし」

ユウ「でも、せっかく『○○会』としてここまで来たんだから」

ボス「確かに、劇団『○○会』としての二年間は長かったわね。長すぎて、違う方向へ行くのが恐いくらい」

ユウ「だったら、このままもずっと」

ボス「それは……できないわよ。このまま行っても『○○会』は成功しないもの。
   一度、私たちが自分を振り返って足りないところを見つけないと」

ユウ「……そんなことそんな大切なんですか? 楽しいんだから、いいじゃないですか」

ボス「ユウちゃん……」


ナル 下手から飛び込んで登場


ナル「ねぇってばよ。車なくなってるっていうか、車っていうか、まぁ、車なんだけど、
   あれ車って言っていいのかなってか」

ボス「なに言ってるのよ、ナル。ちゃんと喋ってよ」

ナル「え、だ、だから」

ユウ「ナルさん、大丈夫ですか?」

ナル「いや、大丈夫っていうか、大丈夫じゃないっていうか」

ボス「はいはい、まず落ち着いて。深呼吸。はい吸って−吐いて−吸って−吐いて−」

ナル「『歯ぁ痛ぇ』なんてねぇ、あはは」


ユウ 一歩下がる
ボス その場に固まる


ユウ「うわぁ」

ナル「あら? 面白くなかった?」


ナル ボスの前に手をかざす


ナル「ボスゥ?」

ボス「……あ、ごめん。思わず時が止まっちゃった」

ナル「そこまでいうぅ? ちょっと滑っただけじゃん」

ボス「ちょっとぉ?」

ユウ「今のは、かなりやばいです」

ナル「本当に? 結構笑えると思ったのになぁ……って、そんなことより」

ボス「無理矢理無かったことにする気ね」

ユウ「きっとナルさんも恥ずかしいんですよ」

ナル「いや、とにかく、その……(二人の視線に負けて)ねぇ。聞いてよぉ」

ボス「聞いてるって」

ナル「よかった。あのね、車がね、なくなってるのよ」

ボス「車? 運搬車やっぱりなくなってたんだ?」

ナル「まぁ、それは、そうなんだけど」

ボス「えー。どういうことよそれ。ボス疑問なんだけどぉ。ここにある荷物どうしろって言うのよ」

ナル「そんなのあたしに聞かれたってわからないわよ」

ユウ「また、下まで運んで、誰かの車で運ばなくちゃいけないってことですか?」

ボス「うっそぉ。私嫌よ」

ナル「嫌よって言ったって……て、そうじゃないのよ、問題は」

ボス「何が問題なのよ」

ナル「サトの車が無いの」

ボス「え!?」

ユウ「お姉ちゃんの車が?」



ボス&ユウ
   顔を見合わせる
   同時に



ボス「やばいわよそれ」

ユウ「やばいですよそれって」

ナル「でしょう? だから慌ててきたのよ」

ボス「そうよ。障害物にぶつけまくる時点で、姉より酷いくらいよ」


ボス&ユウ
   同時に

ボス「なんで運転させたのよ」

ユウ「なんで運転させたんですか」

ナル「いや、あたしがさせたんじゃなくて、出てみたらいなくなってたのよぉ」

ユウ「そんな……町の人に罪は無いのに」

ボス「いつもわざわざ朝早く来させて、夜遅く帰らせていたのにこんなことって」

ナル「ねぇ、やっぱり警察とかに連絡した方がいいのかなぁ」


音響 FI→救急車の音


ボス「……遅かったか」


ボス 胸を抑えてうずくまる


ナル「ボス!? 大丈夫?」

ボス「(苦痛を悟られないようにわざとらしく)心配で、胃がっ」

ナル「いや、そこ胃じゃないし」

ユウ「大丈夫ですよ、ボス。お姉ちゃんを信じましょう」


ボス 弱々しくユウを見る
ユウ 頷く

音響 FI→パトカー


ユウ「……すべては遅かったみたいですね」

ナル「(大声で)信じてねぇーー」


サト 下手から登場
   両手にジュースの缶を持っている。(残りはカバンの中)


サト「虎がベニヤ板噛み砕いたような声が外まで漏れてるわよ」

ナル「どんな声よそれ? ってサト!!」

ユウ「おねえちゃん!」

サト「あ、ナルだったのね。だったら納得」

ナル「あんた、帰ってきていきなり喧嘩売る気?」

サト「(ナルを無視して)ボス……大丈夫?」


ボス 胸を抑えたまま


ボス「サトぉ、ボス心配で、肺が痛くなっちゃったじゃない〜」

サト「なにいってんのよ。私がどうにかなるわけ無いでしょ?」

ユウ「お姉ちゃんが車運転したりするから、皆に迷惑かけるんだよぉ」

サト「あら。せっかく、疲れているだろうボスとあたしのために飲み物を買ってきたのに」

ボス「あー飲み物持ってるじゃない〜どうしたの、それ」

ユウ「その気まぐれで、一体どれほどの人が命を落としたか」

サト「誰も殺してないわよ。はい、ボス」


ボス ジュースを受け取る


ボス「あー、ウーロンだ〜やったぁ。ボス感激♪」

サト「運搬の人も帰らせたし、ここらで休憩でもしようかなと」

ボス「さっすが、サト。気が利くわぁ」

サト「サトコのサトは『聡い』のサトだから(胸を張る)」


ナル 一人不満げに


ナル「さり気に、ボスとサトだけってところが気が利いてないと思うんだけどぉ」

ボス「まぁまぁ。許してあげましょうよ♪」

サト「そうそう」

ナル「あんたが言わないでよ」

ユウ「……お姉ちゃんが、運搬の車帰らせちゃったの?」

ナル「あ、そういえば」

サト「そうだけど?」

ナル「あんたねぇ。あたし、わざわざ探しちゃったじゃないのよぉ」

サト「お疲れ様」

ナル「お疲れ様って……ここに、荷物がまだ一つ残ってるのよ」

サト「知ってる。わざと残したから」

ユウ「え?」

ナル「はい?」

ボス「(ジュースを開けながら)どういうこと?」

サト「さぁ、なぜでしょう」

ボス「降参」

サト「はやっ」

ナル「こんな重いものわざわざ残すなんて、よっぽどの理由があるんでしょうねぇ」

ユウ「そうだよ。ずいぶん重かったんだよ、これ」

サト「まぁ、この箱だけは家に置いときたいなと思ったのよ。
   衣装とか、小道具とかとはちがった思い出が残ってるし。
   最後に、皆で見てみるのも、面白いと思うから」

ナル「そんなこと言って、そのあと、誰が家まで持ってくのよ」

サト「大丈夫。私が運ぶ」

ユウ「姉さん、平気なの?」

サト「当前(胸を張る)」

ユウ「車で?」

サト「当然」

ユウ「だめ」

サト「へ?」

ユウ「お姉ちゃんは、運転するたびに、皆に迷惑かけるから運転禁止」

ナル「そうそう。」

ユウ「車に乗せるのはおねえちゃん。そして運転は私がするから」

ボス「あれ? ユウちゃん免許持ってたの?」

ユウ「大丈夫です(胸を張って) 仮免持ってます!」

ボス「すごーい」

ナル「いつの間に取ったのぉ?」

ユウ「ニ三日前です」

サト「仮免じゃ、不安よ、ねぇボス」

ボス「ううん。サトが運転するよりは不安じゃない」

サト「そんなぁ」

ナル「確かにいえてる」

ユウ「ですよね。そんなわけで、はい、おねえちゃん」


ユウ サトに手を出す


サト「なによこの手?」

ユウ「自動車のカギ。渡しておいて」

サト「私はまだ(納得してない)……(周りの視線に負けて)はい」


サト カギをポケットから出してユウに渡す
   カギにはゾンビ人形がついている


ボス「うわ、なにこの気持ち悪いの」

ナル「まるで、サトの車の犠牲者みたい」

サト「可愛いでしょ。パロピレ君」

ボス「はい?」

サト「パトピレ君。この子の名前」

ボス「へぇ……まぁ、人の好みはいろいろだからね」


ボス 薄気味悪そうに人形を離す
ユウ ポケットにしまう


ユウ「はい。じゃあ確かに受け取っておきます」

ナル「これで一安心よね」


サト 無言で怒っている


ボス「ふくれないでよサト。皆心配しているだけなんだから」

サト「面白がってるのも若干一名いるみたいだけどね」

ナル「えぇ? 誰のことぉ?」

ボス「まぁまぁ(苦笑)あ、てか、今更だけど皆さんお疲れさま♪ ね。
   無事、劇団『○○会』の今までの荷物をほぼ、運び出すことができたしここもずいぶん片付いたわ」

ナル「まだ、これが残ってるけどねぇ」

サト「私が運ぶって言ったの聞こえなかったのぉ、その大きな耳で」

ナル「ふん」

ユウ「結構、荷物ありましたねぇ」

ボス「なんせ、ダンボール10箱分だからねぇ。よくもまぁ、衣装だの、小道具だの二年間でこれだけ溜まったわ」

サト「ボスの私品もずいぶん多かったけど」

ボス「なんか言ったァ?サト」

サト「いえ、べつに」

ユウ「あの荷物全部、貸し倉庫に入るんですか?」

ボス「あったりまえよ。佐久間の貸し倉庫は、県で一番大きい会社なんだから。
   インド像だって十匹くらい一つの倉庫に入るわよ」

ユウ「へぇえ」

ナル「でも、結構高かったんじゃない? 二年間も借りてるなんて」

ボス「まぁね。ちょっとばかしね。でも、仕方ないじゃない。売り払ったりしたら、
   それこそ『○○会』がなくなっちゃうみたいだし」

サト「二年間の修行のための休止だからね」


サト チラリとボスを見る
ボス サトに視線を返して


ボス「そうよぉ。劇団『○○会』は、いったんお休み。だけど、それは決して潰れたわけじゃないの。
   ただ、二年間、パワーを充電させるだけ」


三人 頷く


ボス「これからの二年間は、私たちから演劇を取ることはできないってことを、改めて気づかせてくれるわよ。
   そして、その気持ちを大切にしつつ、皆にはみっちりと経験を積んでもらわなくっちゃ。
   (おまけのように)私も頑張るけどね」


ボス ガッツポーズを取る
   さりげなく胸元を抑える


サト「以上、劇団長からのお話でした」


ナル&ユウ 拍手


ボス「なんか、最後の挨拶って感じになっちゃったわね」

ユウ「かっこよかったです」

ボス「やっぱりぃ」

ナル「ほら、そうやってまた調子に乗る〜」

ボス「いいじゃないぃ別に〜。ナルも、踊りだっけ? 頑張りなさいよぉ」

ナル「任せておいてよ♪」

ボス「サトもね。なんかやるんでしょ?」

サト「まぁね。あとは、なるようになるわ」

ユウ「(無言で俯く)」

ボス「ユウちゃんは、何か考えてるの?」

ユウ「私は……まだ何も」

ボス「まぁ、まだ若いんだからゆっくり考えればいいって〜」

ナル「あ、そだ。ついでに、落ち合う場所も決めとかない?」

ボス「それはねぇ、もう決めてあるんだぁ」

サト「どこ?」


ボス もったいぶったように周りを見渡してから立ち上がる


ボス「バス停何かどうかって思うんだけど」

ナル「バス停?」

ユウ「バス停、ですか?」

ボス「そう。バス停の、『△△町』前。このアパートのすぐまん前にあるじゃない。あそこ。ドラマチックよぉ
    『来ないのかな』そう思っていると、目の前に止まったバスから『お久しぶり〜』って」

サト「……なるほど。当日、バスで来る気ね」

ボス「だってぇ。車使うのかったるいじゃん」

ナル「まぁ、ボスがいいなら賛成だけど」

ユウ「私は別に」

サト「決定みたいね」

ボス「よかった。んじゃ、二年後の今日、バス停の『△△町』前集合ねぇ。なんか、ドラマっぽくない? 
    こういうの♪」

ナル「ボスの好きそうな展開よね」

ボス「あったり♪ 今から楽しみ〜……あ! てか、運搬車がもう出ちゃったんなら、
   私、佐久間の貸し倉庫まで行ってこないと。だめじゃん」

サト「確かに。あちらで、荷物入れの指示をしますからと、私も運送業の人に言っちゃったから。
   今ごろ、もうついているかもよ」

ボス「そりゃ大変。(飲み物を一気に飲んで)ごちそう様。」


ボス サトに缶を渡して
サト その缶と、自分の缶をボスに渡し返す


サト「外に出て、すぐにゴミ捨て場あるから。よろしく」

ボス「しっかりしてるわねぇ。わかったわ。んじゃ、行ってくるから」

三人「いってらっしゃい」

ボス「帰らないで待っててよぉ」

ナル「分かってるって」


ボス 下手へ退場


サト「さて、では思い出話にでもふけるとするか皆の衆」

ナル「あんた、もうちょっと若者らしい言葉使いしなさいよ。せっかくまだ20なんだから」

サト「年増の嫉妬?」

ナル「うるさい! てか、さっきから黙ってりゃ飲み物二つだけってちょっと酷いんじゃない?」

サト「いつ、私がそんな酷いことを?(言いながらカバンから飲み物を出す)はい、ユウカ」

ユウ「(お茶を受け取って)ありがとう」

ナル「なんだ、ちゃんとあったんじゃない」


ナル 嬉しそうに手を出す
サト カバンに手を突っ込んで


サト「ほらよ」

ナル「え? って、あっつぅ」

サト「あら熱かった?」

ナル「これ、ポタージュスープじゃない!」

サト「そうよ」

ナル「そして、ユウちゃんは冷えた緑茶?」

サト「だから?」

ナル「いや、だからって。(嬉しそうに)良く私の好み覚えてたわね」

サト「二年の付き合いだから」

ナル「そうね。二年。長いようで短かったけどね」

ユウ「で、でも、どうせ二年だけのお別れですよね」

ナル「あったりまえじゃない。二年後には、今よりはるかにグレードアップした私と、ボスと、
   そしてユウと……おまけのサトで、再び劇団『○○会』の復活よ♪」

サト「おまけという言葉には賛同しかねるけど……あんた、その身体でさらに、グレードアップする気?」

ナル「どー言う意味よ」

サト「着れる服なくなるわよ」

ナル「うっさいわねぇ。人の楽しい夢を壊さないでよ」

ユウ「また皆で『○○会』できますよね」

ナル「あったりまえじゃない。ねぇ?」

サト「……先のことなんて分からないわ」

ユウ「え?」

サト「これからの二年で、ナルが事故死するかもしれないでしょ?」

ナル「何であたしなのよ。あたし死なないわよ」

サト「あんた不死身だったの?」

ナル「そういうことじゃなくてねぇ」

サト「とにかく。二年なんてたって見なきゃ分からないでしょ」

ユウ「……(俯きつつお茶を飲む)」


三人 何か思案するように黙る
ナル いきなりスープをすする(ズズズズっと言う音あり)


サト「うるさい」

ナル「コーンが取れないのよ。これなかなかしぶといのよねぇ。
   やっぱり始めにもうちょっと振っとくんだったなぁ」


ナル 言いながら立ち上がる


サト「頼むからジャンプしてコーンを取ろうとするのだけ早めてね」

ナル「わかってるわよ。みっともないものね」


ナル 腰をおろす


サト「床が抜けるからよ」

ナル「抜けるわけ無いでしょ!」

サト「この床木製だから、分からないわよ?」

ナル「あんたねぇ……」

ユウ「ナルさん落ち着いて。お姉ちゃんの言うことですから」

ナル「ユウちゃん! ……ユウちゃんは、こんな人を人とも思わないような大人になっちゃだめよ」

サト「人だったんだ」

ナル「だまらっしゃい」

ユウ「お姉ちゃんも、いいかげんにやめないよ。……最後の日なんだよ」

サト「そうね。……その箱、中身見てみない? 色々面白いのがつまってるわよ」

ナル「でしょうね。ずいぶん重かったから」

サト「ついつい、たくさん積めちゃって。てへ」

ナル「可愛くないから」

サト「ナルに言われたくないわ」

ナル「はいはい。言うと思った」


ナル 言いながら箱を開ける


サト「あ、せっかく閉じたのに開けられた」

ナル「開けろって言ったのあんたでしょ」

サト「私は事実を言っただけで責めたわけじゃないわよ」

ナル「一々一々あんたって人間は」

ユウ「(誤魔化すように)ナルさん! なにが入ってるんです?」

ナル「え? ええっと、じゃん!」


ナル 箱の中身を取り出す
    ビニール袋に入ったバナナの皮が出てくる


ナル「なにこれ?」

ユウ「バナナの皮?」

サト「そう。第一回公演でナルがこけたバナナの皮」

ナル「ああ、あの河川敷ですっころんだところを謎の転校生に見つけられるってやつね。懐かしいわぁ……
   って! それ2年も前じゃない!」


ナル バナナの皮を投げる
サト キャッチ
    ナルの前に突きつける


サト「だから完全密封」

ナル「ちょっと近づけないでよ。なんか、変なガス出てそうじゃない」

ユウ「お姉ちゃん、何でそんなの……」

サト「思い出よ。こんなのもあるわよ」


サト 箱の中身を取り出す。(軽そうに)
   漬物石(発泡スチロール灰色に塗っても可)が出てくる


ナル「石?」

サト「よくお昼ご馳走になった食堂のおばちゃんが使ってた漬物石よ。記念にって」

ナル「なんに使うのよ、こんなの」

ユウ「美味しい漬物ができるかもしれないですよ」

ナル「だからって、箱に詰めること無いでしょ。こんな石(サトから石を奪おうとする)おっもー」


ナル その場に石を落とす


サト「まったく余計なことしかしない」

ナル「こっちの台詞よ。この箱が重かったのはこの漬物石のせいだったんじゃない! 何でこんなもの詰めるのよ」

サト「思い出としてよ」

ナル「どんな思い出よ」

サト「私たちが、これまで活動してきたっていう証拠の、に決まっているでしょ?」


ナル はっとする

音響 FI→


ユウ「お姉ちゃん」

サト「この二年間、私の人生は劇団『○○会』のことだけだったから。
   どんな小さな思い出だって私にとっては大切なのよ」

ナル「そ、そりゃあたしだってそうよ。」

サト「(頷いて)だからその思い出を、ボスや、ナル、それにユウカと一緒に確かめ合って、
   しばしの別れを少しでも辛くないものにしようとしたんだけどな」

ナル「……(箱の中身とサトを交互に見ている)」

ユウ「……ありがとう。お姉ちゃん」


サト やけに大げさな演技


サト「いいのよユウカ。ただ、覚えておいて。私たちは終わったんじゃないってことを。
   この思い出達は過去を振り返るためではなくて、未来に進むためにあるのよ」

ユウ「……(黙ったまま頷く)」


サト&ユウ
   二人手を繋ぎあい、遠くを見るような目つき


ナル「(箱の中を見て)……んで、あんたの思い出って言うのは、この電池の束もそうなわけ?」


音響 CO


サト「あら?」

ユウ「え?」

ナル「あらじゃないわよ。よく見たら、この中身ゴミばかりじゃない! 使い古されたゴキブリほいほいに、
   小型扇風機の残骸……なんで、賞味期限切れた納豆の束まで入っているのよ」

サト「思い出よ」

ナル「ただ単に、段ボール箱が一個余ったからって、暇つぶしに皆を驚かそうとしただけでしょうが!」

サト「あら、大正解。すごいわナル。拍手」

ユウ「うそ、だったんだ」

ナル「あんたはそうやっていつもいつも〜」


ナル&サト
   取っ組み合う

ユウ サトと手を組んだままの姿勢でしばらく固まっている
    ナルとサトの喧嘩に哀しそうに自分の体を抱く
    感情を抑えている。


ナル「あたしは、あんたが始めから気に入らなかったのよ」

サト「私も始めからその顔には気が滅入ったわ」

ナル「なによ、いつも台詞とちってばかりだったくせに」

サト「あんたは存在がどじってるのよ」

ナル「あんたと劇やらないですむかと思うとせいせいするわ」

サト「私もあんたの演技見てゲイゲイ吐かなくて済むわ」

ナル「なによこの鉄仮面。表情無いのよ、顔面体操で鍛えなさいよ」

サト「なに、この天丼マン。脳みそエビなの? 頑張ったって脇のくせに」

ナル「なんですって〜」

サト「あらなにかしらぁ?」

ユウ「もうやめて!」


ナル&サト
   はっとしてユウを見る


ユウ「なんで? 何でこんな悪ふざけができるの? 何で、くだらない喧嘩ができるの?」


ユウ ゆっくり立ち上がる
   はじめ独白のように。徐々にテンションを上げていく


ユウ「最後なんだよ? 私たち、これで離れ離れになっちゃうのに。
   皆、皆終わっちゃったのに、何でそんなことができるの?」

サト「ユウカ、別に私たちは」

ユウ「触らないで! 二人とも、本当は『○○会』なんてどうでもいいんだ。そうでしょ? 
   ナルさんはこれからまた楽しい習い事の日々が待ってるんだもんね」

ナル「別に、楽しんでだわけじゃないのよ、あたしはただ」

ユウ「聞きたくないよ! 私はどうすればいいの? ねぇ、お姉ちゃんはこれからどうするの? 
   これから、一体どうやって生きていくの?」

サト「私は……ただ、いつもどおりよ」

ユウ「お姉ちゃんも、『○○会』がなくなっちゃっても、平気なんだ? 全然、何も変わらないんだ?」

サト「変わらないわね。私の中は」


ユウ サトのきっぱりとした言葉にショックを受ける


ユウ「私は『○○会』しかないもん。『○○会』が無くなったら、もう、何もできないよ。
   私は、私は、二人とは違う!」


ユウ 下手は走っていく
   下手へ退場


サト「……馬鹿な子」

ナル「サト! あんた、本気で言ってるの?」

サト「当然でしょ」

ナル「あたし、今まで何度となくあんたと口げんかしてたけど、あんたがそんなに
   『○○会』をなんでもないものだなんて思ってたなんて、知らなかったわ」

サト「……(無言で俯く)」

ナル「私は、あきらめたわけじゃないもの。二年間、たった二年間よ、『○○会』を休んでるのは」

サト「そして、また取り戻せると思ってるの? この二年で作り上げた『○○会』という存在を」

ナル「ボスがその気でいるもの。ボスが……サツキが本気になったらできないことは無いのよ。
   それは一番サトが分かっているはずでしょ? ボスの後輩であるあなたが」

サト「わかってるわよ」

ナル「だったら、だったらなんで」

サト「未来なんて、分からないでしょ。誰にも」

ナル「そうね」


ナル 立ち上がる


ナル「少なくても、あんたがあたしが会った人間の中で最悪だってことは分からなかったわ。ついさっきまではね!」


ナル 下手へ退場
サト 俯く
   段ボール箱を見る
   漬物石などを段ボール箱にしまっていく
   箱を閉じることができずにじっとしている

ボス 下手から登場


ボス「いやぁ、ビックリしちゃったわよぉ。佐久間の倉庫まで行ったら、
   姉さんが全部仕切っちゃってるの。信じられる?って、あら?」

サト「お帰り、ボス」

ボス「皆は?」

サト「ちょっと喧嘩して(苦笑)出てったわ」

ボス「そう」

サト「引越しのこと、お姉さんに言ってたの?」

ボス「まぁね。でも運搬場所とかはいわなかったはずなんだけどなぁ」

サト「双子の超能力?」

ボス「まっさかぁ。だったら私だって姉さんの思ってること分かるはずじゃない……あ、でもありえるかも」

サト「お姉さんは、元気?」

ボス「もちろん。相変わらずまじめぶった人だけど。車から降りたら、運搬行の人がビックリして言うのよ
   『あれ? さっきまで、倉庫の方に立っていませんでしたか』って。面白かったわよ」

サト「(苦笑)」


ボス サトの隣まで着て


ボス「これでとうとう全部終わりよねぇ。長かったようで短かったかな」

サト「ナルも同じこと言ってた」

ボス「え? 本当? やだぁ。それはちょっとボス不満〜」


サト 俯いたまま


サト「元気ね」

ボス「元気元気。元気一杯よ。これから二年間頑張って演劇経験積まなきゃいけないんだから」

サト「そうね」

ボス「大変よ? まずはシナリオを一から学びなおさないと。どうも客のつかみが足りないのよね。
   それから多くの劇団の劇を見るようにして」

サト「楽しそうね」

ボス「楽しいわよ。やりたいことはたくさんあるもの。やりたいことが。二年間のうちでできるだけ」


ボス 胸元を軽く抑えて膝をつく


サト「耐えられるの?」

ボス「(痛みを無理矢理押し殺した笑みで)さぁ。やってみないと分からないでしょ?」

サト「残酷ね」

ボス「私が?」

サト「そう。こんなこと私が他人に話せる訳ないってわかってて頼ってる」

ボス「(苦笑)しょうも無い先輩を持ったと思ってあきらめなさい、サト」

サト「わかりましたよ。先輩」


ボス&サト
   しばらく見詰め合って


サト「どうしようもない子達のお迎えに行きます」


サト 立ち上がって下手へ


ボス「辛くない?」

サト「誰かが耐えなきゃ。それに、私にはそれができるわ」

ボス「ごめんね」

サト「ボスが謝るなんて、サト心外〜」

ボス「(苦笑)私も、可愛い子供たちを探しに行くわ」


ボス 立ち上がる

音響 FI→雨音


サト「止めといた方がいいわよ。雨、降ってきたわよ」

ボス「何とも無いわよこれくらい」

サト「身体に障らない?」

ボス「私を誰だと思ってるの?」

サト「分かりました」


ボス&サト
   下手へ

ナル 下手から登場


ナル「ひゃー濡れる濡れる」

ボス「探す必要なかったみたいねぇ」

サト「怒って出て行ったんじゃなかったの?」

ナル「雨に濡れたら怒ってたのが馬鹿みたいって思えてね。あんたが現実主義なのは前からだし。
   まぁ、あんたら姉妹のことは、あたしがどうこう言うことじゃないしねぇ」

サト「それはそうよね」

ナル「んで、あたしなりに考えたわけよ。あんたが、ああいう態度を取ったのは、
    きっとあんたなりに考えてのことだろうって」

サト「足りない頭でよくそこまで思いつけたわね」

ボス「えらいわぁ。ボス感激」

ナル「なんか、褒められてるって気がしないんだけど」

サト「気のせいよ」

ボス「そうそう。気のせい。 ユウちゃん見なかった? あの子も、まだ外でしょ?」

ナル「え? 見なかったけど(下手へ歩いて行って)まだ、外にいるのかなぁ……あ、そうだ、サト」

サト「なによ?」

ナル「あんた、車いつの間に動かしといたの? 駐車禁止のとこに止めてあったから注意しようって
   思ってたのに、無くなってるんだもん。ビックリしたわよ」

サト「何の話?」

ナル「だから、車よ。あんたの、あのぶつけた場所ばかりのでこぼこしたセダン」

サト「私、車どけてなんか無いわよ」

ナル「え? だって、外に車無かったよ」

ボス「レッカー車に持ってかれちゃったんじゃない?」

ナル「でも、レッカー移動の車なんて走ってたら目立つじゃない。見えなかったけどなぁ」

サト「そんなこと言ったってカギだって……」


サト 自分のポケットを探る


サト「ない……」

ボス「ゾンビ人形の?」

サト「そうよ」

ナル「それだったらさっき見なかったっけ?」

サト「どこで?」

ナル「どこでって、ねぇ」

ボス「……ユウちゃんに渡してたじゃない?」


ボス 言ったあとで軽く胸を抑える

サト&ナル
 気がつかない


サト「ユウカが? ……ユウカ、あの馬鹿!」


サト 血相変えて外へ出ようとする
ナル 身体を抑えて


ナル「どこ行く気よ」

サト「ユウカを探すに決まってるでしょ?」

ナル「ちょっと落ち着きなさいよ」

サト「落ち着ける分けないでしょ。ユウカが、あの子まだ仮免なのよ」

ナル「大丈夫よ。あんたよりもきっと運転上手いから」

サト「そんなんで落ち着けるわけ無いでしょ」

ナル「落ち着きなさいって。車も無いのにどうするつもりなのよ」

サト「(はっとしてから)貸して」

ナル「え?」

サト「車のキー。貸して」

ナル「あんたが車に乗ったら自殺行為よ」

サト「ユウカが、事故にでもあったらどうするのよ」


ボス 胸を抑えたままで


ボス「私が車出すわ。サトは横に乗ればいいでしょ」

ナル「ボス! でもこの雨じゃ車で探そうったって」

ボス「何もしないよりはましでしょ。『○○会』最後の日がメンバーの事故死なんて、私そんなの嫌よ」

サト「ボス、でも身体が」

ボス「私の心配よりも、今はユウちゃんでしょ!」

サト「ボス」

ボス「私は大丈夫よ」


ボス 胸を強く掴む


ボス「行きましょう」


ボス 一歩二歩辛そうに前に進む


ナル「ボス?」

ボス「私は、大丈……夫」

ナル「ちょっと、ボス顔色悪いわよ?」

ボス「あらぁ? 不思議ね」

サト「ボスは休んでいた方がいいわ。私とナルで行くから」

ボス「私だけ、置いてこうったってそうは行かないわよぉ〜」


ボス ふざけているように見えて痛々しい


ナル「どうしたのボス。なんか、すごく苦しそう」

サト「ボス! その体調で無理しちゃダメよ」

ボス「無理、なんて、してないって、いってるでしょう?」


ボス その場に膝をつく


ボス「ユウちゃん、探さ、ないと」

サト「いいから、ボスはいいのよ、あの子、どうせすぐに戻ってくるから」

ボス「心配、なんでしょう? だったら行かなきゃ、ダメ」


ボス 倒れる


ナル「え? ボス? ちょっと、どうしたの? サツキ? ねぇ、サツキ!」

サト「救急車」

ナル「ちょっと、これって」

サト「いいから速く救急車呼んで」

ナル「え、でも電話はもう」

サト「携帯ででもかけれるでしょ! 速く電話してよ」

ナル「あ、うん」


音響 FI→雨の音


サト「ボス! ボス!」

ナル「あ、すいません。あの、友達がいきなり倒れて救急車を……住所? えっと、住所は」


音響 音を強くする
照明 FO
   暗転


○『△△町』バス停 2002年(昼
 停留所を示す物が置いてある。

ナル 上手へ退場
ボス 上手へ退場
   着替えておく

サト レインコート着て、
   傘持って舞台下手へ

ユウ レインコート着て
   傘持って舞台中央
   その場に崩れている

照明 FI
音響 台詞とともにFO


サト「分かっているでしょう? いくら待っても、ボスは……サツキ先輩はもう戻ってこないって」

ユウ「私が……私があの時、車なんかで」

サト「それは違う」


ユウ サトを見上げる


サト「ボスは、もうずっと前から心臓が弱かったのよ。もう、何度となく言ったでしょう?
   『○○会』の舞台がずっとあまり調子が悪かったのもそのせい。だからボスは」

ユウ「そんなの嘘よ」

サト「嘘じゃないわ。ボスは心臓の移植ができなければ、もうあと2年生きられるかどうかだった。
   だから、『○○会』を休止した。」

ユウ「だって、ボスはすごく元気で……元気で」

サト「フリをしていたのよ。元気な『○○会』のボス役の仮面をかぶって。でも、それは無理だったの」

ユウ「そんな」


ユウ 俯く
   独白のように

ユウ「ずっと、ずっと思ってた。夢ならいいのにって。あの『○○会』がずっと終わらないで
   続いていたのならいいのにって」

サト「ユウカ……」

ユウ「姉さんが、あの日最後まで残していた段ボール箱の中身みたいに、
   私たちのあの時を閉じ込めていられればいいのに。元気なボスがいて、ナルさんがいて、
   お姉ちゃん……姉さんがいて。楽しいことばかりで、苦しいことなんて何も無かったあの時が、
   ずっとあの茶色い箱の中に入ったままならいいのに」

サト「ユウカ……夢は覚めるのよ。いつか必ず。ボス……サツキ先輩も、夢を見ようとしてた。
   自分は元気なんだって。でも、そんな夢現実にはならなかった。ただ、
   余計に周りの人を苦しめるだけだったのに、あの人は最後にもう一度だけ輝こうとしてた。
   自分が大好きな場所で」

ユウ「だったら……だったら最後まで一緒にいて欲しかった。『○○会』のままでいて欲しかった。
   夢を見させてくれれば良かったのに」

サト「それじゃあ、ユウカは前に進めないでしょ?」


ユウ サトを見つめる
ナル 上手から登場。二人の会話を聞いている。

サト「ナルは前に進めないでしょう? 私も……前に進めない。だから、あの人は選んだのよ。
   いつなくなるかも分からない命で、私たちが進むのを見ていようと」

ユウ「だったら! だったら結局ボスの思いをかなわなくしたのは私だよ。私が、私さえいなければボスは、
   いなくならなかったし、ナルさんだっていなくならなかった。私が……私が……」

サト「ユウカ……」

ナル「それは違う」

ナル 上手から登場
   傘を差している
   片手に封筒(台本が入っている)を持っている。

サト「ナル」

ナル「ボスは、ユウちゃんがいたから頑張れたんだよ。私は、そう思う」

ユウ「ナルさん……」

ナル「この2年。ずっと考えてた。ボスが……もう、いないって分かるのに一年。あの日の事を、
   理解するのに同じくらいの時間使って。……そして気づいたの。あたし、やっぱり『○○会』だって」

ユウ「え?」

ナル「サト、あんたもなんでしょ? あの時、あの喧嘩のとき、あなたが『変わらない』って言ったのは、
   そういうことなんでしょ? ……ボスがいなくても」

サト「(頷く)」

ユウ「姉さん?」

サト「私たちはボスに集められてからもう、ずっと『○○会』なのよ。どんなことがあっても変わらない。
   そうでしょ? ユウカ。それだけは、変わらない」

ユウ「でも、私、ボスを……」


ナル ユウに近づく
    台本を渡す

ナル「あたし、ボスが頑張れたのがユウちゃんのおかげって言ったでしょ。その証拠よ、これ。
    今日、ボスのお姉さんから連絡があって、取りに行ってたの」


ユウ 恐る恐る封筒を受け取る
   両手で受け取るために、傘がその手から落ちる

照明 少し明るくする

ナル 傘の音が止んだことに気づいて空を見る
サト ナルの行動に気づいて自分も傘をどける

ユウ 封筒を開く
   ゆっくりと字を追っていく

音響 FI→


ユウ「See you again ……my friends」


ユウ 泣き出しそうになりながらページをめくる


ユウ「登場人物……三人」


ナル ユウの肩に手を置く
サト ユウの肩越しから台本を覗く


ナル「どうやら、『○○会』復活一作品目が決まったみたいね」

サト「まさか、逃げる気はないわよねえ、ナル」

ナル「当然でしょ。あたしこれでも、この二年でパワフルに成長しているのよ」

サト「横にパワフルになったようにしか思えないけどね」


ナル&サト
苦笑


ナル「主役をやるのは誰かしらねぇ」

サト「さぁ、ナルじゃないことは確実でしょ」

ナル「そういう、あんたでもないわよね」


ユウ 二人の視線の意味に気づいて


ユウ「はい。私、やります。
   私がやります」


音響 あげていく

ナル ユウに雨がやんだことを示す。
ユウ 傘をたたむ
三人 それぞれに無声演技をしながら下手へ歩いていく

照明 溶暗